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国務大臣(
石田博英君)
失業保険会計が非常に悪化しつつあることは事実でございます。これが、
失業者が激増して労働力が過剰なときに
失業保険が赤字を来たすというのはやむを得ないのでありますが、人不足が叫ばれておりまするときに
失業保険会計が悪化するということはいかにも不自然でございます。したがって、
失業保険会計について、その会計の健全化、
運営の適正をはかるような
指導をいまいたされておることは事実でございます。
その悪化をなしておりまする原因は、ただいま御
指摘のように、一つには季節労働の問題であります。それから第二には結婚退職に対する給付であります。おおよその概況を申し上げますと、北海道では、
保険金の納付額が大体三十七、八億円に対しまして、支払い額が百四十二、三億円にのぼっております。それから青森県では、納付額が四億円未満に対しまして、
支給額が三十九億ぐらいになっております。それから秋田県におきましては、納付額が五億円程度に対しまして、給付額が二十二億円という非常に著しい不均衡を示しておるのであります。そうして、現在
失業保険に加入しておる総数は千六百万人くらいであろうかと思うのでありますが、その千六百万人を対象として支払われる
保険金額が六百数十億に対しまして、五十数万人の季節労働に対して支払われる
支給額が二百四十億円近くにのぼっておるという、しかもその対象業種が、
建設業、それから食品加工業、農業、これに偏在をいたしておるのであります。対象業種の偏在、それからただいま申しましたような不均衡な状態、これはもとより、東北、北海道のような積雪寒冷地の悪い条件を補う作用をいたしておることは、これは明らかな事実であります。しかし、原理的に
考えますると、たとえば
雇用は通年
雇用に大体切りかえするべきがほんとうでありまして、それがその土地の条件やあるいはその業種の都合によって通年
雇用ができない場合は、休業手当なり休業補償なりという方法が行なわれるのがほんとうじゃないか。その休業補償や休業手当で行なわれるかわりに、
失業保険がそれを補うというのは、これはどうも筋違いのように思います。
それからもう一つは、農村の生産性の低さというものをこれは
改善していかなければならぬことは言うまでもないのでありますが、その農村の生産性の低さを補う役目を
失業保険がするということは、
失業保険にとっては荷が重過ぎるのでございます。そういう点を勘案をいたしました上に、さらにこの
制度を悪用とでも申しましょうか、する傾向が非常にふえてまいりました。一、二極端な例を申しますと、冬場になりますと、社長と専務だけ残って、あとはみんな一応失業して、失業手当を取るというような極端な事例も見てまいりました。あるいはまた、
失業保険を求人の条件にいたしまして、水増し求人をしている事件が、先般山形県で発見をされました。そういうようなことがございます。と申しまして、不合理である、
失業保険に荷が重過ぎると申しましても、現実それが東北、北海道というような不利な条件の、不利を
相当補っておるということも事実でございます。したがって、他の条件、すなわち、それらの業種、業態の
内容の
改善、生産性の向上というようなものについての所要の施策が行なわれ、その効果があらわれ、あるいは農業の生産性を増進させるための施策が行なわれ、その効果があらわれないのに、にわかに、いままですでにそれによってたよっている生活者が
相当多いのに、
制度上理論的に合わないからと申しまして、にわかにこれを改廃するというようなことは、これは国民生活、その地域の生活に与える状態も非常に大きいのであります。
そこで、私
どもといたしましては、まずもって、現在の運用の状態が
失業保険にしわ寄せされている状態は不合理である、間違っていることであるという認識をみんなに持ってもらいますとともに、同時に、諸施策の均衡をこれによって促していく。一方、その
雇用の安定と申しますか、やはり働く人にとって一番大切なことは、
失業保険をもらうことではなくして、適切な仕事をあてがわれることが一番大切なんでありますから、できるだけ適職をお世話をするというようなことで運用の適正化をはかってまいりたい。したがって、現在の六ヵ月を一年に延ばすというような種類のことを今次通常国会ににわかに行なおうという意思は全然ございません。それは明確に申し上げておきたいと思うのでありますが、その不合理を是正し、姿勢を正していくということはやってまいらなければならないことであると思っておるのであります。そうして、そういう点についての現行法の諸欠点について、これを取り上げまして、いかにすべきかということを
検討はいたしております。まだその結論には達しておりません。
それからもう一つ、結婚による退職でありますか、結婚によって退職した場合、
失業保険法でいり就労の意思、能力があって適職がないということには、これはどうも該当はいたしません。該当はいたしませんけれ
ども、これは強制
適用でありまして、若い婦人が数年で結婚をするということは、大体みんなそれを予想している。予想をしている人に対しても強制
適用しておるわけでございますから、該当しないからといって、強制
適用さしたものをそのままほうりっぱなしにするというのも、これもどうかと思われますので、これについては何か別途の処置がないものか、これも
検討中でございます。それから、特に申し上げておきたいと思いますことは、三ヵ月の期間
失業保険の給付を受けるために、本人及びその本人の使用者が何年問積み立てればその
金額に達するかと申しますと、実に十二年間かかるのでございます。十二年間かからないと三ヵ月の給付
総額には達しないのであります。そういう実情を勘案しますと、片一方に不合理な給付が行なわれ、片一方には多くの
労働者が非常に損をしておる。言いかえると、そちらのほうで集中して支払われるために、それがこなければこちらのほうの状態を
改善できる余地があるのに、その
改善をしんぼうしてもらわなければならないということも言えます。それから、農村の生産性の低さを補うというためでありますなら、農民全体に分けられるべき性質のものでなければなりませんが、特別の条件のあるものだけが特権を受けるということも、どうも不合理でございます。これはやはり
検討を加えなければならない。
それからもう一つは、スエーデンとかノルウェーとかソビエトとかというような日本よりも気候条件のさらに悪いところにおきましても、
建設業等においては通年して作業をいたしておるのであります。わが国で冬はもう仕事ができないものだときめてしまうのも、これも早計であろう。したがって、これらの先進国のように冬でも作業かできるように技術能力を
改善向上させるための所要の措置も伴っていかなければならないのじゃなかろうか、そういうようなことをあわせながら
検討をいたしておることは事実でございますが、繰り返して申しますとおり、たとえ不合理なものといいましても、現にそれは決して高くない生活水準の人々の生活をささえていることも、これはまごうことなき事実であります。それを急速に激変を与えるような措置をとる意思はないことを、最後にもう一度申し上げておきたいと存じます。