○井野碩哉君 私は、参議院自由民主党を代表いたしまして、
総理大臣に、
外交、
経済、治安の諸問題について、御
所見を承りたいと思います。しかし、これらの問題に先立ち、まず、総論として、政治の姿勢について二つの方面に分けて
お尋ねいたします。
一つは、
国会に対する姿勢でありまして、政治の
中心たる
国会がいかに民主政治にふさわしく運営せられるかは、政治の要諦であり、これがためには
国会の
正常化こそもっとも望ましいことであります。しかるに、現状におきましては、
池田内閣誕生以来、
総理は低姿勢過ぎるとの一部世評に甘んじてさえ
国会正常化に
努力せられたるにかかわらず、依然、
国会は
正常化されず、ついに寛容と忍耐にも限度ありと
決意せらるるに至ったのでありますが、今の二大政党の姿では
正常化も容易ではなく、さりとて、国政運営上
国会の審議は必須でありますから、今後一そう
努力をもって
正常化に尽くさるるとともに、
予算案、
法律案の審議については十分に他党と話し合い、その理解に努められたいのでありますが、それにもかかわらず、
反対せんがための
反対を看取された場合には、き然たる
決意をもって民主政治の貫徹に尽くされたいのでありまするが、御
所見はいかがでありましょうか。
また、政治の姿勢の他の面は、
国民に対する姿勢であります。政治施策の重要部面が
国民生活の物質的諸条件の向上にあることは申すまでもありませんが、健全なる
精神的基礎を欠くに至っては、いかに物質的
繁栄を誇っても、結局、砂上の楼閣にすぎないことは、古今東西の歴史が示すところであり、戦後、めざましい
経済成長を続けている西ドイツにも、
経済成長の陰に道義を伴わざる物質万能主義の波に押し流されておる若人がふえつつあるとの嘆声を聞くに至りましては、
わが国政治家も深く憂いをここにいたし、政治の運営にあたって、この点を重視することが肝要であり、
総理の
人づくりもここに着眼されてのことと思うのでありますが、いかがでありましょうか。
また、
総理は、施政
演説において、法を無視し、暴力を行使するものには、警察力の強化と法の厳正な適用により対処する
方針であると述べられましたが、そのためには、単に警察官の量の増加と質の改善にとどまらず、力の充実が必要であると思いますが、
総理は、現下の情勢に即応する警職法の改正をなさる御
決意がありますかどうか、御
所見を承りたいのであります。
次に、各論に入り、第一に、
外交についてお伺いいたします。
総理は、常に、
わが国外交の基調を
国連憲章のもとにおける自主
外交に置き、
アジアにおける民主主義
国家との共存共栄を念願せられておりますが、いま、
世界の大勢を通観しまするに、過去久しきにわたって続いた冷戦の雰囲気が著しく緩和せられ、部分的核実験禁止条約の締結にまで発展し、フルシチョフの平和共存の提唱は、西欧における
米ソ関係を好転し、ベルリン問題も情勢の一変を示すに至りましたが、このために、ソ連の
外交攻勢が最近、近東及び東洋方面に向けられつつあるの感を深くするものであります。したがって、この方面における国際
関係は従来より一そう複雑化するものと
考えられ、現に先般のベトナム問題や最近のマレーシア問題のごときは、その一端を示すものと見るべきであります。
そこで、私は
総理に御
所見を伺いたいのでありますが、
総理は、東亜の平和と発展を希望せらるる以上、東南
アジアの低開発国の援助と
アジアにおける国際間の平和について、いままでより一そう積極的に
問題解決に邁進せらるる勇気と
決意をお持ちになられるでしょうか。
総理は、もちろんと
お答えになると思います。しかし、昨年、海外における新聞の論調や
わが国民の間には、
総理の
外交方針には主体性がなく、ひより見
外交が多いと批評するものがあります。私は、
総理が低開発国援助をわが
外交の使命とせられ、平和保持のために国際紛争にも積極的に行動せられ、現にマレーシア問題についても、昨年東南
アジア訪問の際、また今回スカルノ・インドネシア大統領訪日に際しても、三国間の調停に熱意を示し、主体性ある
外交に
努力せられておるものと信じております。しかし、仄聞するところによりますと、外務省内部にはいろいろの
理由から消極論が多く、党内にも失敗を憂えての慎重論があるそうでありますが、マレーシアの成立が、もともと共産主義の浸透の防止を目的とし、北ボルネオ諸地域の
経済開発を促進するにその動機があり、
わが国としてもその成立を歓迎する以上、失敗を考慮して逡巡することなく、一日も早く三国間の
国交の
正常化が実現するようあっせんの労をとらるることを熱望するものであり、この際、
国会を通じて、
総理の主
体制ある
外交方針を明確に
国民に示され、疑惑を一掃していただきたいのであります。
次に、私は
日韓交渉に関し
お尋ねいたします。
日韓交渉は、しばしば断絶しながら長きにわたって行なわれ、本年こそは
交渉妥結を見、
国交の
正常化がはかられるものと期待しておりまするが、最近、漁業専門家の話し合いが停とんし、また
韓国側の超党派代表団の派遣が渋滞したため、
早期妥結は困難になってきたと報ぜられておりまするが、日韓
国交の
正常化は近隣
外交として最も重要な問題であり、その
妥結については、ただ成り行きを静観するがごとき感を
国民に与うることなく、情勢の変化に即応し、格段の
努力を要望するものであり、また重要なる
李ライン問題の
解決にあたっては、漁業専管水域に関する十二海里の主張と共同規制水域の規制いかんは、わが水産業に影響するところ甚大でありまするから、確固たる
方針のもとに
交渉せしめられたいのでありますが、これらに関し
総理の御
所信を承りたいのであります。
次に、
国民政府の問題でありますが、国府は、
中共に対する
わが国のビニロンのプラント
輸出に端を発し、最近の周氏の
中国本土帰還問題に及んで、著しく感情の悪化を来たした模様でありますが、蒋介石総統が終戦直後
わが国に示された絶大なる好意は、
わが国民としても決して忘却しては相すまぬものであり、この際、最善の手段を尽くして感情融和につとめられたいと思いまするが、
総理は今後いかなる
方針をもって臨まれるや、その誠意について御
所見を伺いたいのであります。
これと同時に、
中共関係も、最近、
フランスの
承認問題とからみ、
中共の
国連加入問題にまで発展する可能性あるにかんがみ、
わが国としては、他国に追随することなく、国府との
関係を十分に考慮し、主体性ある
外交方針のもとに善処せられたいのでありまするが、御
所見いかがでありましょうか。
次に、
外交問題の
最後として、
外交の一元化について御
所見を伺いたいのであります。
一国の
外交が国際場裏において強力に発揮せられるには、民主主義政党政治
国家にあっては、超党派
外交こそ最も緊要であると思います。
米国や英国が、
国内において両政党間で種々の議論をたたかわしましても、一たび対外に臨むに及んでは、常に超党派にその
意見を
統一しつつある姿は、うらやましいと思います。
わが国においては、
社会党が戦争の脅威を
理由とし、中立主義を提唱し、ここに二大政党の
外交政策は極端な対立を示し、
外交の一元化は河清の会を待つの様相を呈するに至ったのであります。しかるに、
世界の権威ある戦争学者は、原水爆が今日のように発達した時代にあっては、
米ソの戦争はもちろん、原水爆保有国間の戦争は起こり得ないと断言し、フルシチョフもこの情勢を達観して、平和共存を提唱し始めたのではないでしょうか。
イギリスの
首相は、テレビ放送において、「ソ連は力の
政策を放棄したと思えるふしがあるから、一両年中にわれわれは冷戦の終結を見るかもしれない。」と述べられたともいわれております。大戦争すでになしとなれば、
社会党は、中立主義に固執する必要のない時代が来たのではないでしょうか。もし、
社会党がこの時代を洞察され、中立主義を修正し、
外交一元化に協調し得るような
外交政策を新たに樹立せられるならば、おそらく
国民も、
社会党への政権交代にも不安を抱かないでしょうし、ここに二大政党の本来の姿に立ち返り、
国会は
正常化され、一石三鳥の効果を見るに至ると信じます。
社会党の諸君いかがでしょうか。この提案を真剣に御研究願えないでしょうか。
そこで、私は
総理に御
所見を伺いたいのでありますが、
総理は
外交一元化についてどう
考えておられますか。もし
外交一元化に御熱意があるならば、
政府は、政党及び学識経験者中より
外交の権威者を選ばれ、
外交についての国論を
統一するため、
最高外交審議機関を設置され、これらの諸問題その他重要問題を協議され、
外交一元化に
努力せられる御
決意はないでしょうか、明確なる御
答弁をお願いいたします。
第二に、私は、
経済政策中、本年の主要課題となるべき
国際収支問題と
物価問題について
お尋ねいたします。
まず初めに、
国際収支問題についてでありますが、
政府は三十八
年度の
国際収支の
予想において、
貿易は二億ドルの黒字になるとせられましたが、最近はこれを二億五千万ドルの赤字に修正せられ、これと
貿易外収支の赤字四億一千万ドルを加うるときは、六億六千万ドルの赤字となり、
国際収支悪化の情勢は、
経済界に著しい不安を醸成するに至ったのでありまするが、その
原因を調べてみますと、昨年の麦の不作による小麦輸入の増加や、砂糖のごとき国際原材料の騰貴が一因となったことは確かでありますが、昨年当初
政府が立てられた
経済見通しが、鉱工業生産増大%であったものが最近一四%となり、生産の拡大が輸入の激増を誘致したおもなる
原因であったと思います。過去数年、
政府の
経済見通しは、遺憾ながら例外なくはずれましたが、それは実際の成長が上回ったためであり、
総理は、生産の高水準は
経済の上昇であるとまで言っておられまするが、そのために
国際収支の危機を生ずる懸念を誘致し、急速引き締め措置を講じなければならない
事態をしばしば経験したことにかんがみ、
経済見通しは、単なる願望や期待に基づくものでなく、客観的な現実性を持つものでなければなりません。本年の
経済見通しを誤らないためには、
政府は各般にわたり、最善の
努力が必要でありますが、なかんずく、
国際収支については、金融面、財政面より思い切った措置を、時期を誤らず先手を打つことが必要と思います。
政府は、財政規模、
一般会計三兆二千億円、
財政投融資計画一兆三千億円は健全均衡財政なりと言っておられまするが、世間では、これが景気刺激の
原因となりはしないかと懸念しておりまするし、
金融引き締めのために、預金準備率引き上げや新たなる窓口規制を実施せられましたが、はたしてこれで
金融引き締めの実効が期せられるかどうか、懸念なしとしないのであります。
そこで、私は、
総理にお願いしたいのは、
予算及び
財政投融資の奥行にあたって、各省をしていままでのように総花的に施行せしめず、地域的、時期的に、また、事業の緊要度を十分に検討して実行するよう指導していただきたいのであります。また、
金融引き締めについても、準備率の引き上げや窓口規制が
中小企業にしわ寄せになっていることは事実であり、せっかくの
中小企業対策が減殺されるおそれがありますから、むしろ貸方の規制を強化するよりは、借方の引き締めとなる公定歩合の引き上げをすみやかに実行されたほうが適切ではないかと思いますが、
総理の御
所見はいかがでありましょうか。
また、
貿易外収支赤字の
原因が、海運収支の赤字、外貨導入の利払い、特許権使用料の支払い、特需の減少、観光収支の赤字に存するのでありますが、現状のままで高成長を続ければ、ここ三、四年のうちに、
貿易外収支の赤字は十億ドルにも達しますので、
貿易外収支の悪化が構造的
原因による面も大なるにかんがみ、海運力の強化、港湾使用料、荷役料の引き上げ、観光収入の増加、技術
輸出の促進などの
対策を強化する必要がありますが、当面は、当分
国内消費を抑制することが最も緊要であると思いますが、御
所見を承りたいのであります。
次に、
物価問題についてであります。
政府は、
物価の上昇に対し、当初
卸売り物価が横ばいであるから、
経済の高度成長も
物価にはあまり影響がないように説明しておられましたが、最近は
卸売り物価も上昇し、ことに消費
物価の上昇が八%をこえる
状態にかんがみ、
物価対策を重視するに至り、安定成長によりこれを緩和せんとし、先週の
経済閣僚懇談会において、十四項目の
対策を決定され、なかんずく公共料金の一年据え置き、流通機構の合理化等を取り上げ、各省が協力して
物価問題に真剣に取り組まれたことは、まことにけっこうなことと存じます。しかし、
国民の間にはいろいろの疑問があり、私自身もまた
総理に伺っておきたいことがあるのであります。
総理は、総
選挙において、
物価は一両年後には安定すると公約されました。この目標は何を根拠として立てられたのでしょうか。詳しい数字の説明はいまは要求いたしません。
予算委員会等において
国民に明示していただきたいのであります。ただ、公共料金を一年ストップせられましたが、一年後はどうなるのでしょうか。本年の末あたりから赤字に苦しむ
企業体が経営困難となり、その値上げ要求は殺到しくるものと思います。すると明年は値上げもやむを得ないということになれば、一両年後には
物価を安定させるという公約と矛盾することはないでしょうか。私はむしろ、採算上真にやむを得ざる交通機関等の料金値上げは最小限度にこれを認め、むしろ今後一年半なり二年なり、
政府の
物価安定策とにらみ合わせ、これをストップしたほうが適切ではないかと
考えますが、いかがでございましょう。
また、牛豚等の大量緊急輸入を計画せられましたが、農村が今日野菜その他の農産物の暴落に苦しみ、わずかに牛豚から
所得増加により息づいておるときに、これが大量輸入は農村に大きな影響を与えるだろうと思います。また、消費者米価を公共料金に準じ、その値上げを一年停止することは、この秋の生産者米価に影響せずには済まないと思いますし、
政府は農業の近代化を一大
政策として
予算上も大なる考慮を払われ、農村を重視せられましたが、これらの
対策は、農村労力の減少、米作偏重の是正等の根本
対策であり、これらが実効を見るまでには相当の年月を要し、いまの農民は、今日の生活を憂え、米麦にしろ、その他農産物にしろ、生産費を償い得ざる価格で生産せしめられることは、生産意欲の減退となり、農民の不満の声にもなるのでありますから、
物価問題も大切でありますが、これが農民に及ぼす影響についても深甚の注意を払われ、適切なる施策を立てられたいのであります。これに対する
総理の御
所見はいかがでございましょうか。
第三に、治安
対策についてお伺いいたします。最近、犯罪の悪質化、暴力犯罪、青
少年犯罪の増加が著しく、憂慮にたえないものがございます。
政府はこれに対し、警察、検察、裁判機能の強化、裁判独立性の保持、警察官、検察官の資質向上と増員等に適当な措置をとっておられますが、まだ不十分なうらみがございます。また、犯罪は、単に刑罰、取り締まり
対策にとどまらず、道徳教育の振興と不良環境の一掃をはかるとともに、出版物、映画、テレビ、ラジオ等の協力を求め、総合的な犯罪防止
対策が必要であり、これらの問題や治安非常
対策につき接しても、いろいろお飼いいたしたいのでありますが、与えられたる時間の
関係もあり、これを省略して、次の一点につきお伺いいたします。
それは、治安問題として重大な関心を要する共産圏よりの平和攻勢であります。東西緊張の緩和が最近
アジアに対する平和攻勢となり、
わが国に対しても、思想上共産主義の浸透をはかり、その党員の拡大に
努力するとともに、一部
国民に対し反
社会的思想の普及につとめ、すでに共産党員は、
昭和三十四年には三万人であったのが、今日では十万人を数え、数年後には二十万人になんなんとする趨勢であり、過般の衆議院
選挙におきましても、共産党への投票数は百六十万を突破した情勢にかんがみ、右翼活動と相まち、左翼活動の
調査と、その反
社会的行動の取り締まりに万全を期せられたいのでありますが、
総理の御
所見を伺いたいのであります。
以上、
外交、
経済、治安の三
政策につきまして、
総理に御
質問を申し上げたいのでありますが、これを要するに、本年は、
わが国外交、
経済にとって、まことに重大な時機であり、八条国への移行問題、OECDへの加盟、
貿易自由化の全面実施により、
わが国は完全な
開放経済に立たなければならず、また、東西の冷戦緩和により、東洋の国際
関係は、ますます緊張を加うる年であり、他面、
国際収支及び
物価問題の
解決いかんによっては、
国民経済に重大な影響を与うる年でありますので、
総理の御苦心と御
努力はなみなみならぬものがあると思います。
総理理想の高度福祉
国家建設のためにも、私の
質問した諸点に対し、明確なる御
答弁をいただき、
国民の疑念を一掃し、
国民の協力を期待いたしたいと念願する次第であります。
これをもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕