○稲葉誠一君 第二班を代表して
委員派遣の報告をいたします。
去る一月十六日から十九日までの四日間、私、
鈴木委員、岩間
委員の三名が、松矢参事、久保
調査員を伴い、福島、山形、宮城の三県における青
少年非行に関する
事項並びに営繕に関する
事項等を
調査してまいりました。
なお、今回の
調査にあたって、現地において詳細な資料を作成していただき、かつ種々御便宜をおはかりいただきましたこと、特に最高
裁判所から石川主計課長、衣斐事務官、
法務省から藤島参事官が終始同行され、いろいろ御協力くださいましたことを、報告に先立ち、厚く感謝申し上げる次第であります。
以下、
調査項目に従って順次述べたいと存じます。
まず、東北三県における青
少年非行の一般的傾向について申し上げます。この地方の共通的傾向として考えられるものは、第一は、
交通事犯の
激増であります。例を山形県にとってみますと、
家庭裁判所の新受件数は、
昭和三十一年のそれに比して
昭和三十七年は約九倍、正確には八・六九倍にもなっており、全国的傾向としての
少年の
交通事犯
激増の傾向は東北地方についても当てはまると言えるのであります。
第二は、犯罪年齢の低下であります。犯罪年齢低下の傾向は全国的なものであり、十四、五歳ごろの犯罪のみが現在
増加傾向にあることが指摘されます。この点、年長
少年、中間
少年の非行率が横ばいであるのと対照的であります。この犯罪年齢低下の傾向は、罪種別に見て、
刑法犯中窃盗事犯が
増加していることと関係づけて考えることができるのであります。すなわち、低年齢者層の犯行として窃盗が行ないやすいものであるということが考えられるからであります。たとえば仙台
家庭裁判所から提供された資料によると、
昭和三十七年には窃盗——臓物罪を含みますが——の占める割合は年少
少年非行
総数の約八一%にのぼっております。
第三は在学
少年非行の
増加であります。在学
少年の非行についても、先ほど申し上げました低年齢者の非行の
増加と関連して考えることができます。すなわち、在学
少年の非行中、中学生の非行が特に目立ち、仙台家裁管内でも
昭和三十六年には五百二十件、三十七年には六百五十九件と、二六%もの
増加が見られるのであります。
第四に、非行
少年の家庭環境を見てみますと、中流家庭の子弟が多く、
昭和三十七年の
刑法犯検挙数について仙台管内に例をとると、中流家庭が四八・〇九%とその比重が大きいことを知ることができるのであります。
第五に、
少年犯罪の特色の
一つであるといわれる集団化傾向は、東北方面においても同様で、集団化の傾向を共犯という形態でとらえてみますと、宮城県警管内で
昭和三十七年には総検挙件数の三一・二%を占めており、このことは
少年は単独で犯行をなすほど大胆ではなく、仲間と一緒にやるという傾向がうかがわれ、特に年少
少年の非行の
増加との関係で注目すべき現象であると思われます。
次に、関係三県における
少年犯罪の特徴と思われるものを拾ってみますと、まず福島県は、東北六県のうち最も関東諸県に近く、東京を中心にした
少年非行現象の影響を受けやすいところであり、取り締まりの
強化等に伴い、東京方面から流れ込んでくる右翼、暴力団などの影響が大きく、年長
少年はもちろん年少
少年までその勢力範囲に入りつつあることが指摘されます。
また、福島
保護観察所の調べによると、当庁の年間
取り扱い事件数は、
昭和三十五年を境に漸次
減少の傾向を示しており、その原因としては、保護観察開始後、東京方面への転居、出かせぎ等の青
少年対象者の移動による
事件移送が重要な原因であることが考えられます。このような
経済の高度成長、オリンピック・ブームによる京浜地方への激しい移動は、表面の
事件減少にもかかわらず、保護観察実施の面で困難な問題を投げかけていることが指摘されるのであります。
次に、山形県における特徴としては、第一に性犯罪の
増加があげられます。粗暴犯、財産犯は横ばい状態であるのに対し、性犯罪は、山形
少年鑑別所の資料によると、
昭和三十七年全入所者の一三・二%、三十八年は一六・五%で、三十年、三十一年ごろの約六倍強になっており、また、単独の強姦よりも輪姦が多くなり、共犯としての人員構成も次第にふえていることが見られます。
第二に、自動車、バイクを使っての非行が多くなっており、その原因として、農村では長男の農家への引きとめ策としてバイクを買い与えることが多いといわれ、
少年達が夜遊びにバイクを使用するという傾向が見られるのであります。しかも、多くが無免許であるということなど深刻な社会問題に触れるものを感じさせられるのであります。
第三に、高校生の非行の
増加が目立ち、特に定時制高校の生徒の非行が多いようであります。その原因として、最近高校への進学熱が盛んになり、このことは農村の
少年にも共通するものでありますが、進学は親のすすめによる場合も多く、農業をきうら
少年たちがその逃避策として高校へ進学し、働く時間を少なくして友人と遊ぶ機会を多くつくっているという事実が、特に定時制高校生の非行
増加の原因であるといわれているのであります。
以上、東北三県における青
少年非行の傾向について申し上げましたが、これら非行の防止策に思いをいたしますとき、非行発生後の対策のみで青
少年の非行を防止できるものではなく、総合的施策の必要、ひいては国家的政策にまで立ち入って
検討する必要があることを再認識いたしました。
次に、
少年法、
少年院法並びに保護観察制度の運用に関して、関係諸機関から提出されました
意見要望を要約して申し上げます。
まず、現地における
裁判所側の
意見としては、第一に、最近の非行年齢低下の傾向にかんがみて、
少年法の
適用年齢の範囲を拡大し、十二、三歳に下限を引き下げるべきであるとするもの、また、他の方法として、初等
少年院の収容年齢の下限をおおむね十四歳として、弾力性を持たせるべきであるとするもの、低年齢者非行
増加の折から、現行の保護
処分中教護院送致は施設不足のため一般に活用されていない向きがあるので、教護院の増設が望まれるなどの
意見がありました。
第二に、国選付添人制度を設け
少年の
権利保護をはかる必要があるとするもの、
少年審判について民間人の審判関与の制度を採用し、一般市民の関心を得ることが必要であるとするもの、現行
法制が
少年の保護について審判と
執行を分離しているため各種機関の連絡
調整が特に必要であるとするもの、
少年の刑事
事件については特に判決前
調査が必要であるとするものなどがあげられます。
次に、
検察庁の
意見としては、
検察官にいわゆる
先議権を与える必要ありとするもの、
検察官に不服申立権及び審判立会権を与えるべきであるとするものなどがありました。
また、道交法事犯については種々
意見がありましたが、おもなものとしては、
少年法五十四条の換刑
処分禁止の
規定を削除し、
少年についても
労役場留置ができる道を開くことが
少年の道交法事犯の
増加に伴い適当な措置であると思われるとするもの、また、一般的に道交法事犯については
少年法の
適用を除外すべきであるとするもの、この種事犯については
少年についても一部
交通切符制を実施しているが、手続が繁雑で、成人のそれに比して
検察庁から家裁を経由するという過程を経ているので、
検察庁、家裁の両方から呼び出され能率が阻害され、他の非行性ある者との接触の機会を多くし、一般的にいって
少年に対する
交通切符制は適当でないとするもの、道交事犯の
増加については他の犯罪と同様な前科の
取り扱いは適当でないとするものなどであります。
次に、鑑別所からの
意見としておもなものを申し上げますと、鑑別所内での規律違反者に対する
取り扱いについては、現在何ら
規定がなく、その判断が恣意に流れるおそれもあり、必要最小限度の
規定を置くことがかえって
少年の人権を守るために必要であるとするもの、また、
少年院及び鑑別所での通信及び面会の
制限については矯正教育に害があるかいなかの判断が所長にゆだねられているので、憲法二十一条との関係からも何らかの
規定を置く必要があるとするもの、収容対象者の年齢、性別、非行性が区々であるのに引きかえ、現在の施設では
少年院の種別がその要求を満たすためにはほど遠いものであるとするもの、
少年院送致につきその種別の決定は鑑別所長権限とすることことが適当であるとするものなどであります。
次に、
保護観察所からは、特に保護観察のための旅費の不足が強く訴えられ、また、観察活動
充実のため
関係機関との連絡
調整、協力が必要であるが、現実は保護司の任意な活動に一任している状態であって、旅費を含めて
予算不足が強調されました。
次に、
少年院においては、物的施設の不足、最近の物価高の折から
予算上収容者の食事面の改良の必要があるとするもの、
保護観察官の
少年院常駐制度の実施が望ましいなどの要望がありました。
ただいままでに述べてまいりました法の運用立法上の現地の
意見につきましては、立場によって種々見解を異にするものも多く、それぞれもっともな要素を含んでおり、これらを解決するにはなお慎重な
検討を要するものと考えるのであります。
次に、
関係機関の営繕の
実情について申し上げます。
一般に
裁判所関係の
建物は老朽化したものが多く、たとえば福島
地方裁判所庁舎は明治二十七年の建築であり、その老朽度もひどく、他の隣接する近代建築物に比して時代おくれの感を禁じ得ません。特に福島地域の宿舎の中には明治十七年、正確には明治十六年十二月ですが、に建てられたものがあり、以来八十年を経過しており、宿舎として不適当な状態のものがありました。また、戦後建てられたものについても戦争直後の資材不足の折の
建物であるため、老朽度が早く、すでに改築すべきものが多く見受けられます。この点については
法務省関係の
建物も同様であります。
このような状態では司法の権威維持のためにも憂慮すべき状態であるとの感を深くするとともに、最近
訴訟の遅延、
裁判官の不足が呼ばれている折から、特に寒冬地である東北地方については、宿舎の
整備、
充実が急務であるとの感を深くいたしました。
また、
少年院、
少年鑑別所については、
少年の保護を十分ならしめるにはあまりにも物的、人的両面において不十分であることが指摘できると思います。
以上概略を申し上げましたが、詳細は
調査室に保管してあります資料をごらんいただければ幸いと存じます。
簡単ではありますが、これをもって報告を終わります。