○渡辺
勘吉君 私は、日本社会党を代表して、
肥料価格安定等臨時措置法案に対する反対討論をいたさんとするものであります。
現行肥料二法が制定されて以来、生産農民に対し、豊富にして低廉な肥料の供給がなされてきたことは、高く評価されていいと思います。事実、農業生産上、重要基礎資材である肥料業界が、現行二法による合理化でコストダウンが実現される段階にようやく立ち至らんとしております。かかる時点において本新法が制定されることは、明らかに合理化によるコストダウンをストップし、それによる超過利潤を製造業者が独占する、そのためのカルテル行為を容認し独禁法に風穴をあける、業界の合理化に対する従来の
政府の財政投融資の責任からみずからが逃避する、はなはだ無責任な意図を持つ法案であると言わざるを得ません。反対の第一点は、
政府がみずから制定した農業基本法を、みずから否定する矛盾をあえてするその内容を
指摘せざるを得ません。農業基本法第二条の国の
施策の第一項第六号では、「農業資材の生産及び流通の合理化並びに価格の安定を図ること。」をうたっております。農業の社会的、自然的、経済的制約による不利を補正する農業基本法の前文を達成する手段は、もとより農業
施策そのものに焦点が置かれておることは申すまでもないことであります。しかしながら、これら万般の農業
施策以外の
施策をこれと合わせ取り上げなければ、農業の不利益は十分に補正の機能が発揮できません。とりわけ農業が危機的様相を帯びておる昨今、農政の一大転換が必至の現段階において、その生産される農産物の価格は変動激しく、
政府管掌の管理価格もその生産費を補わず、投下された労働を正当に評価される保障はもとよりありません。この生産者農民の生きる権利の主張は、単にその農産物の価格を
政府に保障を要求することにとどまらず、むしろ投下された農業資材、その大宗である肥料の独占価格からの擁護が徹すればするほど、出産費は相対的に低下することが、生産者農民の切なる願いでもあります。これが農業基本法第二条第一項第六号のねらいでもあるはずであります。諸物価すべて値上がりの高度経済成長下において、肥料以外の生産資材は、あるいはえさにしても、あるいは農機具にしても、価格安定のめどがなく上昇の一途をたどるだけであり、農民は不安な農業生産に従事している現状であります。しかるに肥料のみは、現行二法によって、かろうじてその価格不安から守られてきたただ
一つの生産資材であります。これすら
政府はみずから制定した農業基本法をじゅうりんしてかえりみず、従来の出産規制と最高販売価格を廃止し、価格の自主取りきめと輸出の一元化を骨子とする新法に切りかえようとしております。この農業基本法からの自己否定の性格を持つ新法に反対せざるを得ないのであります。
反対の第二は、
政府の肥料需給
計画の
確立と、これに
基づく肥料の生産並びに需要、あるいは輸出の一元化に対応する従来の行政責任からの逃避についてであります。新法には、わずかに「需給見通し」云々でお茶を濁しておりますけれども、
質疑を通じて明らかになったように、単なる見通し
程度では、今後重要な農業出産資材である肥料の国内需要量の優先確保、あるいはこれを満たすための出産の保障が確保されないのであります。内需優先確保が新法に
規定されないことは、断じて容認できないところであります。現行肥料二法が内需優先確保の
規定あるがゆえに、これを尊重する立場にあるけれども、だからといって、私は、現行二法と従来のこの運用を無条件で肯定するわけにもまいりません。むしろ肥料二法の運用が、メーカー側の圧力によって近年とみに政治的に歪曲され、二法本来の精神から逸脱するような
措置を
政府がとってきたことを
指摘せざるを得ません。たとえば、肥料
審議会におけるメーカー側の
審議拒否や、巨額の財政投融資を与えたにもかかわらず、合理化
計画が未達成に終わったことに対する責任からの逃避がありました。肥料の需給事情は、十年以前も今日も、その需給構造の本質には何らの変化がないのに、新法に内需優先確保を
規定しないのは遺憾であると言わざるを得ません。
反対の第三は、輸出赤字の、国内需要者、農家に対する非転嫁の保障が新法案には欠如していることであります。現行法においては、この輸出赤字を国内価格に転嫁させない保障としてて、いわゆる内需を満たす数量につては、バルク・ライン・システムをととって、このバルク・ラインの範囲内において、コストの低いメーカーの出産数量を積み上げて、この加重平均による国内価格を算定をし、肥料
審議会の議を経て、国がこれを最高販売価格として告示する
制度によって、国内農家の購入肥料価格を保護してまいりました。
質疑を通じて明らかなごとく、過去から現在を通じ、将来においても輸出赤字の発生は必然であります。しかるに新法案には、輸出赤字が国内価格に転嫁されない、こういう保障はどこにもないのであります。反対せざるを得ない理由であります。
周知のごとく、これまで、硫安メーカーには日本開発銀行や北海道・東北開発公庫を通じて低利の巨額な財政融資が与えられたばかりではなく、税制面においても輸出所得免税、法人税法の特例による重要物資免税、輸入原料である原油の関税免除、特別償却指定など、現行の法制で可能な限りの減免税が与えられてきており、これらの援助は現行法の統制の代償でありました。新法案は現行法に義務づけられたこれらの責任からの
政府みずからの逃避であり、このことは、国内生産農民に対する負担の重圧につながるのであります。
反対の第四は、肥料価格決定の方式についてであります。今回の新法案では、従来国が最高販売価格を告示する
規定がはずされて、これにかわるに、価格決定については、メーカー側と、需要者である農協を中心とした団体との間で、団体交渉を通じて取引価格をきめるという
規定になっております。これによって農民の利益が確保される保障はいささかもありません。もとより農協の本来あるべき姿から申しますならば、新法案に見られるごとく、自主的団体交渉による価格の取りきめは、これは
協同組合の当然あるべき真の姿であります。しかし、
資本主義経済下にあっては劣弱な農民を独占
資本の収奪から守るためには、経過的には、
政府で保護する従来の最高販売価格の限度の中での自主的団体交渉による取引価格の決定という配慮が必要であります。また、団体交渉やるにしても、メーカー側にのみ独禁法を排除したいわゆるカルテル行為を認めるという不当な
規定を明記して、従来以上にメーカー側に大幅な利益を与えるのは、メーカー偏重法案であると言わざるを得ません。この種カルテルは金属鉱業等安定臨時
措置法に認められて二番目のものであります。カルテルは全工業製品の三分の一を支配し、価格つり上げの大きな
原因となっております。特に肥料の国内価格は、輸出価格よりもかなり割り高であり、メーカーの国内農民に価格のしわ寄せをすることは必定であると言わなければなりません。
反対の第五は、
政府は、もし不当な価格の取りきめがなされ、または協議がととのわない場合は、価格調停を行なうことになっておりますけれども、これも
質疑を通じてあきらかなごとく、何らその意図が明確でないのであります。どこにでも逃げる道をつくっている。自由裁量にゆだねられた非常に広範囲な場合が
規定されていて、つかみようがないのであります。このことは価格の調停は事実上絵にかいたもちにすぎないと言わざるを得ません。したがって、事実上はメーカー側と全購連で不承不承に話し合った価格がそのまま強行され、現実に生かされるのは、業者間の取りきめによるカルテルが優先的に確保されてそれが実需者に押しつけられることを
意味するのであります。
なお、数多くの問題がありますけれども、これらの矛盾に満ちた新法案に対し、特に以上五点にしぼって反対の討論を終わります。