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参考人(寺門克君) 寺門であります。
このたび、国会の
参考人としてお招きを受けまして、
旅行あっせん業に働く者の
立場を表明させていただく機会をいただきましたこと、さらにこの機会に諸
先生方を通してこの業種への理解を深め、そして広めていただけるものと、心から喜んでおります。私
どもは、昨年のこの
観光基本法の成立をもろ手をあげて喜び、これによって
観光立国への道筋が引かれたものではないかと、大いに期待をしている次第でございます。今日この機会を得まして、
旅行あっせん業という業種に働く者の
立場で、自分たちの仕事について日ごろ感じているところ、また世間にはよく知られていない実態の一端をお話して、これが
旅行あっ旋業法改正というような審議の上に少しでも
参考になりますならば、非常に幸いと存じております。
まず、
日本で一体何人ぐらい
旅行あっせん業というものに従事しているかということ、この点を申し上げたいと思います。実は、これは推定はされましても、実数はつかめないという
実情です。そして、その組織形態もさまざまで、
全国的な組織を持つものは、ただいまの交
通公社を筆頭に、私
ども東急
観光など、六ないし十社
程度である。その他は家族ぐるみでやるような形態のものが多く、先ほどおっしゃいましたように、机に電話一本、一人でやっているという
業者まであるといった複雑な事情なんでございます。また、ここでの勤労者数も、推定約三万人ということでございますが、このうち約半数の一万五千人が先ほど申し上げました
全国的な販売組織を持ったところで働いていると推定される一これも推定される
状況なんでございます。そのような次第ですから、労働条件は全くあいまいで、つかめない。その上、御承知のとおり、サービス業というものは人が中心で展開されておりますだけに、企業の合理化というものにも限度があり、合理化も通信
施設や事務処理
程度にとどまりまして、直接利益を生み出すのは人が中心にならざるを得ないということでございます。一例をあげますれば、カウンターで
お客様と応対しているだけでなく、外にセールスに出かけ、
旅行の契約をとり、その間に、
旅行の日程はもちろん、
旅館、バス、輸送などの手配を行ない、
旅行実施とともに団体などの場合には添乗というものをいたし、
旅行後は確実な
旅行費精算事務というものを行わなければならないのであります。これが一人の人間の手によって処理されております。このような業種は、あまりほかの企業にはないのではないかと
考えられるのでございます。さて、このように人が中心の企業でありますために、いくら規模を広げましても、分業による合理化、機械化によるオートメ化といったものになじまない。つまり、事業を拡大するには、人をふやすか、一人の人間の働く量をふやすしかない、こういうのが
実情であります。利用客と交通機関、
旅館などとの中間に立って両者を取り持ち、
旅行を安全に、快的にさせていくのが、私
どもの
あっせん業でありますが、中間的な
立場というものは、とかくその両者からあたたかい目で見られていない面が少なからずあるようでございます。
あっせん業者の得る
収入というものは、
あっせん業者としての
登録をいたします際に届けられた手数料でまかなわれます。それによれば、利用者側からも
——お客様ですね、
関係業者−
旅館、バスその他交通運輸機関というところからも、取り扱い手数料というものを取ることになっております。ところが、
日本の国民性から、手数料を払うという習慣はほとんどなく、手数料はサービスだという通念が利用者側にもあるだけに、そしてサービスというものは無料奉仕のことだといった
考え方も一般化しておりまして、健全な経営をとり、よりよい
あっせん体制を敷くには非常な努力を必要とされておる、この
あっせん業というものであるにもかかわらず、
あっせん業というものの企業基盤は非常に弱い
立場となっておる。一例をあげますと、最近になってやっと、
旅館の予約の変更、取り消しに要する電話代を
お客さまからもらうという、ことが−先ほど公社の方からお話がありましたが、
日本旅行業者協会というところで決議されるに至った
実情です。このような
状態でありますだけに、マスコミなどに取り上げられますと、手数料をリベートというふうに表現され、そのことばの持つイメージが贈収賄であるかのごとき悪い印象を与えまして、手数料として理解していただくのに時間がかかるということが言い得るのであります。またそれだけに、
あっせん業者の社会的地位というものは寄生虫のようなものとして受け取られたり、また根なし草のように見られがちであります。受け入れ
業者側にも、その点理解されないこともございます。ここにも
旅館の方がいらっしゃるので言いにくいのでございますが、
旅館などでも、宿泊
クーポンを持っていった
お客に、「今度いらっしゃるときには
あっせん業者を通さず直接いらっしてください、サービスいたしますから」と言われたということを
お客さま自身から聞くのでありますから、非常に残念なのであります。これではいつまでたっても
あっせん業者は、先ほど申し上げましたとおり根なし草ということでございます。たばこ屋がたばこを売って得る手数料と、私
どもが
旅館の宿泊券を売って得る手数料とは、全く同じ性質のものだというわけにはほんのちょっといかない面がある。たばこ屋は仕入れ値と売り値の差額を取っておりますのに、私
どもは掛け値なしの仕入れ値を売り値とし、売価の一定料率のものを両方のものから収受するという形式をとっております。実質的には何ら変わりないというふうに
考えるのでございます。
それはさておきまして、
全国的な組織を持つ企業の労働者約一万五千人と申し上げましたが、その中で、労働
基準法に基づく時間外労働の協定を
組合と正式に結んでいるのは交
通公社のみである。自分たちの労働条件を明確にしようといたしまして
組合というものを組織しているのは、それも交
通公社と私
ども東急
観光労働
組合、この二つだけでございます。私のところでも、まだ労働協約締結ということすら行なわれていない
状態でございます。時間外労働の協定がないということは現実にはほほ野放しで時間外労働が行なわれているということで、悩みの
一つとなっております。
さて、この三月から
旅行シーズンに入るわけですが、ことしは秋に
オリンピックを控えまして、とりわけ春のシーズンに
旅行が集中しております。そこで忙しいのが、先ほど申しました添乗業務であります。添乗員というのは、昔はよほど大きな団体
旅行にしかつかなかったのですが、最近は、
お客のほうから注文が殺到いたしまして、団体
旅行の幹事役、進行係みたいなものを要望されております。これが昼夜兼行の重労働のわけなんですが、シーズン中は、月のうち二十日も、あるいはまるまる一月家に帰れない。
旅行から帰ると、すぐその日に出発する、添乗するという繰り返しが続くわけでございます。シーズンに過重労働になる。こういうのは、企業自身の収益性の低さ、それからシーズンとシーズン・オフとの格差があるためであると
考えられるのでございます。それだからといいまして、シーズン・オフには寝ているのかといいますと、そうでなく、一年から二年先の
旅行を獲得するためにセールス活動というものに励んでいる。そのようなわけで、やはり各
業者ともシーズン中の労働力不足を人員増でカバーすることができず、したがって、稼動する期間はフルに回転させなければならない。そのしわ寄せは労働時間延長という姿になるわけです。これが、人が中心であって、利益の薄い企業であるということから生まれる労働の実態ということになっております。
これに加えまするに、同
業者間の
競争があります。たとえば修学
旅行のような、すでに
旅行資源の固定した一定量のものを、各
業者がそれぞれ取りつ取られつやっておるわけであります。労働時間の何のといっている間によその
業者に取られてはたいへんだということで、現場では殺気立って仕事に励んでいるということでございます。
このような実態の中から、
悪徳業者、不良
業者というものが生まれまして、その所業が、行なったことが、一たん表ざたに取り上げられますと、
あっせん業者のすべてを評価させるものとなってしまい、
あっせん業に働く者の誇りというものを奪っていくのでございます。よく友人などに、「何といってもただで
旅行ができるんだろう」というようなことを言われますが、いくら添乗員だといいましても、
旅館にただで泊ったのでは、
お客さまを連れていって、
お客さまの利益を代表して
旅館にかけ合うというようなことができなくなるじゃないかということでございまして、ちゃんときちんと支払うという制度が 各
業者ともできておるといいますが、ほとんどの
業者ができているということでございます。で、添乗いたしますと、日当というものが出ます。この日当も
業者によりまちまちでして、一日につき九百円のところもあれば、四百円のところもある。この日当の性格というものもはっきりしておりません。しかしながら、これが添乗という労働をした者に与えられる唯一のものでございます。
旅行あっせん業に働く者の特殊な労働の一端として添乗というものを取り上げてみましたが、まだあいまいな労働条件の問題は、
あっせん業自体の性格があいまいであるということとともに残されているように思えるのであります。
時間も少なくなりましたので、結論づけるのがほんとうだと思い、いろいろ
考えてみたのでございますが、はっきりこうであると結論づけることが私自身にできない壁があるというふうに感づいたわけなんですが、と申しますのは、他の産業ならば、企業そのものはもちろん、国家的な機関がその規模の大小はあれ、いろいろな角度から長期的な
調査、研究、検討というものがなされ、政策が樹立され、それと結びつく経営がなされていくというふうに思うのでございます。ここにお見えの
ホテル業界にいたしましても、
一つの指向するものは政策づけられ、その線に沿って経営活動が自由になされていると思います。おくれているといわれている
ホテル業界それよりもまだ、それ以上の後進性を持つのが
旅行あっせん業界であると言えるのじゃないかと思います。この点については、
政府機関はもちろん、
業界も、企業単位で見ても、目先の収支バランスを維持するのにきゅうきゅうとしておりまして、長期的なものは何も持たずに、 春、夏、秋、冬とそれぞれのシーズンに追い回され、現在に至ったというのが
実情ではないかと思われます。
旅行ブームにささえられまして、目先の収支だけで商売ができ、玉石混淆の多くの
業者の乱立となって問題を投げかけているのがいまの時点の問題ではないかと思います。検討されずにこの
旅行あっせん業というものが放置されてあったということは、私
どもとしては非常に残念でありまして、まあしかし、そうはいいながら、現実には、
旅行者の便利な機関として、また国際的にはドル獲得の大きな役割を果たしている事実というものがあります。私としましては、
旅行あっせん業が国民大衆のものとして、公共的、社会的に大きな役割を果たし、その
立場を維持して社会に貢献しているというふうに自覚して毎日仕事をしているのでございます。しかしながら、悪環境の職場、長時間労働、行き過ぎた過当
競争、そういった私
どもを取り巻く問題を見ますと、
考え込んでしまうことがあります。私、まあ個人のことに触れて申しわけございませんが、
昭和三十六年に大学を出まして、
旅行あっせん業を志した。これは、旅を愛し、それを通じてまあ社会に貢献しよう、余暇利用のあり方をよりよい方向に結びつけるべきだ、こう
考えて職場を選んだわけです。これは、私だけでなく、ほかの
あっせん業に働らく者の共通した理念である、こう
考えるのでございますが、理念だけでは生活は満たしてくれない。先ほどの問題といったようなものにぶつかり、皆とそれぞれ話し合って解決の道を探っているのでございます。いら立ったこういった感情を相殺してくれるのは、旅を終えてたいへんよかったという感謝の気持で接してくれる
お客さま、それなんです。
お客さまとの結びつきが心の平常というものを保ってくれ、連日の疲れを吹っ飛ばしてくれるのでございます。しかし、このような感情だけでは、若いときはともかく、将来まで持続するということは不可能であると
考えられるのでございます。まは最低の
基準だといわれております労働
基準法、これすらなかなか守れないこの
あっせん業界に対し、どうかこの機会に絶大なる関心を社会的な位置ずけができますよう特段の御配慮を
お願いいたしたいと思います。
ここで五つばかり要望を申し上げまして終わりにしたいと思います。
第一に
政府機関で
あっせん業PRというものを社会に向かい実施していたできたいということでございます。それは、
一つの悪い事例が先ほど言いましたようにマスコミなどに取り上げられますと、すべてが悪いような印象を受けます。受け過ぎるのでございます。手数料というものが当然の対価であるということに対してやや社会的認識に欠けている面、こういった面などを、正しい企業
育成のPRを御配慮していただきたい、こう思うのでございます。
第二は、
あっせん業に働く者の質的向上と共通の理念というものを
育成していただくために教育機関というものを設置していただきたい、こういうことでございます。方法は委託して教育するというようなものでもけっこうでございますが、とにかくこういった点で御配慮を願いたい、こう思うわけでございます。その研修の
内容を言いますと、語学とか、案内的な知識とか、一定期間職場を離れて研修できれば非常にありがたいと、こう
考えるのであります。これにあわせまして、
あっせん業界自体のそういった共通のものをつくるということに加えまして、
旅館、バス
業界、交通
業界ですね、そういったものに対しても、
あっせん業という
立場の理解と
あっせん業界との協調発展ムードというものをはかる集会を
政府が主催してやっていただければ幸いと思うのでございます。同時にこのような機会に、不正
あっせん業者、先ほど問題になりましたが、こういったものに対する情報交換も行なって、
業界の秩序をつくっていくことが、
観光基本法とそれから
旅行あっせん業法というものの趣旨に沿っていくものじゃないかと
考えるのでございます。
第三に、
国際観光に関することでございますが、
国際観光ホテル整備法、
国際観光協会など
政府の
施設は強められているということはたいへん喜こばしいことと思いますが、直接
外国人または
外国のエージェントに働きかけて
お客さんを呼んでおりますのは私
どもあっせん業者なのでございます。私
どもが獲得した
観光客が、
ホテル、みやげもの店その他のところへドルを落としていくわけでございます。ですから、輸出玩具
業者−おもちゃ
業者などとはその方法こそ異なりますけれ
ども、国際収支をよくしていくということに寄与する面は同種類のものではないかと見ております。このような業種その
業者などには
政府の補助もあるやに聞いておりますし、
旅行あっせん業者に対しても国家的な配慮もあってしかるべきだと、こう
考えるのでございます。
第四に、国内の
旅行、先ほどあがりました修学
旅行でございますが、これに対する取り扱いも、列車輸送、それから
あっせん、宿泊などに一貫したあたたかい施策があってもいいのではないかと思います。
政府の人づくりと申しますのも、具体的にこのような面で実らせていただけばいいのではないかと思うのでございます。
第五に、社会の消費構造というものの変化が
旅行の大衆化となってあらわれたことは、御承知のとおりでございますが、消費者金融などの流行のきざしは
旅行あっせん業界にもあらわれ、また
お客の中には旅費を一時立てかえてほしいというような問題とか、最近の金融引き締めなどの
関係から旅費の未払い
——旅行を行なっても旅費を払わないという現象が少なからず起こっております。そして、そのため資金繰りもむずかしいというふうに
考えられるのでございます。労働者側からこのような発言をするのはいかがかと思いますが、健全な
旅行あっせん業界の確立のためには、よい
業者には低利資金の融資の特別の措置などを御考慮いただければありがたいことだと思っております。
最後に、
観光といえば非常にはでに見える企業であり、クローズアップされがちでありますが、その中には前近代的な労働条件と環境で多くの者が働いているということをいま一度申し上げまして、皆さんの御認識と指導を心から
お願いして、私の
参考意見といたします。