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1964-02-01 第46回国会 衆議院 予算委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年二月一日(土曜日)    午前十時六分開議  出席委員    委員長 荒舩清十郎君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 櫻内 義雄君 理事 野田 卯一君    理事 松澤 雄藏君 理事 井手 以誠君    理事 川俣 清音君 理事 辻原 弘市君       相川 勝六君    荒木萬壽夫君       安藤  覺君    井出一太郎君       井村 重雄君    稻葉  修君       今松 治郎君    植木庚子郎君       臼井 莊一君    小川 半次君       仮谷 忠男君    川崎 秀二君       重政 誠之君    周東 英雄君       田澤 吉郎君    登坂重次郎君       中曽根康弘君    古井 喜實君       古川 丈吉君    保科善四郎君       山本 勝市君    有馬 輝武君       淡谷 悠藏君    石田 宥全君       石野 久男君    加藤 清二君       五島 虎雄君    多賀谷真稔君       堂森 芳夫君    山花 秀雄君       横路 節雄君    今澄  勇君       志賀 義雄君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 賀屋 興宣君         外 務 大 臣 大平 正芳君         大 蔵 大 臣 田中 角榮君         文 部 大 臣 灘尾 弘吉君         厚 生 大 臣 小林 武治君         農 林 大 臣 赤城 宗徳君         通商産業大 臣 福田  一君         運 輸 大 臣 綾部健太郎君         郵 政 大 臣 古池 信三君         労 働 大 臣 大橋 武夫君         建 設 大 臣 河野 一郎君         自 治 大 臣 早川  崇君         国 務 大 臣 佐藤 榮作君         国 務 大 臣 福田 篤泰君         国 務 大 臣 宮澤 喜一君         国 務 大 臣 山村新治郎君  出席政府委員         内閣官房長官  黒金 泰美君         内閣法制局長官 林  修三君         総理府総務長官 野田 武夫君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    高島 節男君         外務事務官         (アジア局長) 後宮 虎郎君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (国際連合局         長)      齋藤 鎭男君         大蔵事務官         (主計局長)  佐藤 一郎君         大蔵事務官         (主税局長)  泉 美之松君         大蔵事務官         (理財局長)  吉岡 英一君         文部事務官         (大臣官房長) 蒲生 芳郎君         文部事務官         (初等中等教育         局長)     福田  繁君         厚生事務官         (年金局長)  山本 正淑君         労働事務官         (労政局長)  三治 重信君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      村上 茂利君  委員外出席者         専  門  員 大沢  実君     ————————————— 二月一日  委員砂田重民君、松浦周太郎君及び岡田春夫君  辞任につき、その補欠として田澤吉郎君、臼井  莊一君及び有馬輝武君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員臼井莊一君登坂重次郎君及び有馬輝武君  辞任につき、その補欠として松浦周太郎君、羽  田武嗣郎君及び岡田春夫君が議長指名委員  に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十九年度一般会計予算  昭和三十九年度特別会計予算  昭和三十九年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 これより会議を開きます。  昭和三十九年度一般会計予算昭和三十九年度特別会計予算昭和三十九年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、質疑を行ないます。  石野久男君。
  3. 石野久男

    石野委員 予算質問をする前に、きょうはもう朝から国電のあららでもこちらでも事故が起きておるようであります。運輸行政上のことで、あまりにも混乱が多いのですが、オリンピックを前にして、都内のあちらこちらで交通が麻痺している状態です。きょうの交通事故は非常に大きいようでございますけれども、その事情をひとつ運輸大臣から説明していただきたい。
  4. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 運輸大臣は、けさほどの事故調査をしておって多少おくれたようです。——運輸大臣に申し上げます。ただいま石野君から質疑がございました。もう一ぺん石野君、はなはだ何ですが……。
  5. 石野久男

    石野委員 運輸大臣にお尋ねします。きょう朝から国電事故があって大混乱をしているようです。最近交通事故が頻繁に各方面に起きておりますが、きょうの事故状況はどういうふうであるか、説明していただきたい。
  6. 綾部健太郎

    綾部国務大臣 お答えいたします。いま実はその事故状況につきまして調査いたしておりまして、本席へ出るのもおくれたような次第でございます。目下調査中でございますから、わかり次第後刻でも……。もうわかったことだけならば、信号に何か故障があったということだけはわかっておるのですが、どういう理由で、どういうところで起こって、いかなる程度の被害があって、善後措置をどうするかというようなことについて、いま国鉄当局に命じて調査をさしております。後刻御報告申し上げます。
  7. 石野久男

    石野委員 交通事故でも見られるように、池田内閣高度成長政策は至るところでふん詰まりがきておるようです。交通事故一つあらわれですが、あとでひとつその事情説明を受けたいと思います。  総理にお聞きいたしますが、憲法の第二十六条二項にいうところの義務教育について私はお尋ねいたしたい。「義務教育は、これを無償とする。」というこの無償意味でございますが、無償教育というのは非常に重要な国民に対しての問題になると思いますので、総理義務教育無償教育にするという、この無償をどのように御理解なさっておられるか。また政治をどういう形でこの無償教育を完全にやろうとしておられるか、御所信を承りたい。
  8. 池田勇人

    池田国務大臣 これは裁判所の判決にもありますとおり、義務教育に対しまして対価をとらない、そしてまた教育基本法につきましては、授業料を取らないということが無償意味だと書いてございますが、私は単にそれにとどまらず、経済の進歩につれまして、できるだけこれを広く進めていきたい。今回の教科書無償ということも、この憲法考えをもっと拡大していこうという考え方に基づくものでございます。ただいまのところ、基本法では授業料を取らないということを無償のことと考えておるようでございますが、しかし、もっと広くしていきたいという気持ちがございます。
  9. 石野久男

    石野委員 総理の、その広くしていきたいということについて、私はやはりもう少し御所信を聞いておきたいと思うのです。私ども考えでは、義務教育というものは、完全に無償国民子弟教育をし得るようになることを義務教育無償意味だ、こういうように理解しておるのですが、総理はどういうふうにお考えですか。いま一度お答えを願いたい。
  10. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいまお答えしたとおりでございまして、対価をとらない、そして基本法には、授業料を取らないということに一応規定しております。しかし、いわゆる高度福祉国家を建設するためにおきましては、義務教育に直接関係するものにつきましては、できるだけ対価を取らないような方向に進んでいこうとしておるのであります。
  11. 石野久男

    石野委員 総理は、いまの教育で行なわれておりまする無償範囲で大体いいものだというふうに理解されておるのですか。それともやはり義務教育というのは、子供教育については親が経費を持たなくとも完全にそれをまかない得るというふうにすることが本旨であるという御理解なのか、その点についてはっきりひとつ……。
  12. 池田勇人

    池田国務大臣 その点をいま申し上げておるのでございます。憲法規定からいけば、またいまの法制からいけば、授業料を取らないということでございます。だが私は、高度福祉国家建設のために、そういう規定以外におきましても、範囲を広げていきたいと努力しておるのであります。それがいまの教科書無償ということであらわれておるのであります。
  13. 石野久男

    石野委員 いま親御さんたち子供教育について一番やはり苦労しているのが、子供教育についての経費が非常にかさむということです。そういう問題のために、いろいろと父兄の方々は苦労しております。私どもは、この義務教育無償という憲法趣旨は、あくまでもすべての経費は国が負担するというふうに考えるべきだ、こういうふうに憲法を理解するのですが、この考え方については総理はどういうふうにお考えですか。
  14. 池田勇人

    池田国務大臣 憲法規定から直接にそういうことは出てこないと思います。
  15. 石野久男

    石野委員 直接に出てこないというのは、現在憲法については授業料を免除するというようなことだけの法律的規定があるからだということでしょうが、やはりわれわれが議会においてその憲法をふえんするところの法律をきめるということによって、いろいろ教育の形が出てくると思うのです。憲法がひとしく教育を受ける権利を有するということについて「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。」というのは、ずばりそのまま無償とすると理解してよろしいし、またそういうふうな政治が行なわれてよろしい、こういうふうに考えるのでありますが、総理はどういうふうにお考えでしょうか。
  16. 池田勇人

    池田国務大臣 憲法規定並びにただいまの法律から申しますると、法律上はそこまではいきません。しかし、政治の上から言えば、先ほど来申し上げておるように、これを広くして、そして教育機会均等義務教育の制度を拡充していく、こういうことが政治論としては成り立つと思います。
  17. 石野久男

    石野委員 総理はしばしば人づくりということを施政演説の中でも言われたし、あるいはまた地方を歩いても言われておりますが、人づくり学校教育との関係はどういうふうにお考えになっておられますか。
  18. 池田勇人

    池田国務大臣 りっぱな人づくり学校教育が必要であることはもちろんでございます。また、人づくりには学校教育のみならず、やはり家庭教育社会教育等方面からいろいろな施策を講じていかなければならぬと思います。
  19. 石野久男

    石野委員 各方面から施策を講じなければならないというのですが、私はここで、人づくり学校教育特に義務教育との関係、それから高等学校教育との関係について総理はどのようにこれをお考えになっておるかお伺いしたい。
  20. 池田勇人

    池田国務大臣 御質問の点がはっきりいたしませんが、人づくりは、何も義務教育の問題、あるいは高等学校教育の問題、大学の問題、あるいは幼稚園の問題と区別すべき問題ではない。全部がその過程において必要でございます。
  21. 石野久男

    石野委員 学校教育の中で特に高等学校教育という問題について私が申し上げるのは、いま高等学校教育というのは、世界的に見ましてもほとんどこれは義務教育段階にあるのではないかというふうに思われるほど民度は上がっておると思います。そういう点で高等学校教育という問題をどういうふうにお考えになっておられるか。特に最近、全国的にも高等学校の門が非常に狭いために全入問題が出ております。高等学校の全入の問題等は、いま子供教育をする上について非常に大きい問題になっておりますけれども、これについて総理はどういうふうに考えておられますか。
  22. 池田勇人

    池田国務大臣 高等学校教育義務教育と同じように考えられておるということは、私は、アメリカソ連においてはそうかもわかりませんが、ヨーロッパ諸国はそこまでいっていないと思います。私の見るところでは、ヨーロッパ諸国よりも日本のほうが高等学校就学率は五割あるいは六割程度上ではないか、義務教育を受けた人が高等学校教育を受けるのは、日本では六五、六%から七〇%、東京では九〇%くらいいっておりましょうが、イギリスドイツフランスではそこまでいっておりません。これは日本教育の進んだこと、また教育をたっとぶ親心あらわれでございまして、非常にいいことだと思います。ただ、御承知のとおり、戦後の昭和二十一年、二年、三年の特異の出生率から申しまして、いま非常に校舎の不足ということが考えられますが、われわれといたしましては、この教育をできるだけ進めていこうという考え方に沿って極力高等学校の増設をはかっておる次第でございます。一部に言われる、義務教育を受けた人は全部高等学校へ入るということは、これはなかなか困難なことではないか。また国の実情からいっても、また世界の大勢からいっても、それは無理ではないかと思います。
  23. 石野久男

    石野委員 人づくりの問題について私が先ほど学校教育との関係をお聞きしたのは、国の子弟教育にあたって、その子弟ほんとう民度の高いものになっていくのには、どうしてもやはり一般的な普通教育というものを高くそれぞれの子弟に入れなければいけないというように考える。そういうたてまえからしますると、今日では、六・三制のもとでの中学校というのは元の高等小学校と同じようなものでございますから、高等学校が戦前の中学校程度のものになるだろうと思います。そういう意味で、高校全入という問題は、もういまや世界文化国家の中では、普通教育としてだれにも受けさせなければならない、そういう教育の課程だろう、こういうように考えるわけです。そういう意味で、高校全入というものは、ほとんどいまの父兄にとりましてはこれを願っていることでありまするし、また国が義務教育としてそういうものを見てやるべきものだろうというように考えておるわけです。そういう意味で、むしろ政府はもっともっと予算的措置を多くして高等学校の全入を可能にするようなところにまでいかなければ、いわゆる人づくり教育という池田さんの趣旨予算的には生きてこないのじゃないか、こういうように私は考え池田首相の御意向を承るわけですが、そういう点では首相はどういうようにお考えになりますか。
  24. 池田勇人

    池田国務大臣 人づくりのためには全部高等学校に入らなければならぬという考え方は私はとりません。また、世界実情から申しましても、また日本経済力から申しましても、私はそれはいまの時勢に合わない考え方だと思っております。だといって、高等学校教育を軽視するわけではございません。ものには程度がございます。しかも、わが国の状況を見ますと、先ほど来申し上げておるように、ヨーロッパ先進国よりはよほど教育が進んでおります。もちろん全員高等学校に入学するということは一つ考え方でございますが、これはやはり義務教育だけを終えた人でもりっぱな人づくりができることを私は確信しておるのであります。
  25. 石野久男

    石野委員 早川国務大臣に承りますが、いま高校全入の問題が、高校子弟をみんな入れたいというたてまえからして非常に各地で問題を起こしております。この全入を問題にするのは、やはり地方自治体におけるところのこれに対する処置が十二分に行き届いていないからということにもなろうかと思います。私が早川国務大臣に承りたいのは、この高校全入あるいは高等学校子弟を全部入れるということについて、地方自治体がどういう点でいまお苦しみになっておるのか、そういう点で予算的な側面から自治体の実情あるいは早川国務相の所見をひとつ承りたい。
  26. 早川崇

    早川国務大臣 お答えいたします。各県によって財政力が違いますので、県立の高校につきましては、財政の許す範囲で処置することにいたしておる次第であります。
  27. 石野久男

    石野委員 文部大臣にお聞きしますが、子弟教育のために義務教育段階父兄負担をさせておる税外負担と申しますか、そういうものはいまどういうようなふうになっておるか、御説明いただきたい。
  28. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 お答えいたします。義務教育関係における父兄負担の問題でございますが、先ほど来お話もございましたように、なかなか父兄負担も重いのであります。政府としましては、この父兄負担の軽減については年来努力してまいっておるところでございますが、PTA等の寄付を通じまして、本来公費でまかなうべき学校経費につきまして父兄負担いたしております額は、最近の数字はまだわかりませんですけれども昭和三十六年度の決算が約百五十六億ぐらいになっておるのであります。それも三十五年度に比べますと十一億円ばかりの減少になってきております。だんだん公費でまかなうべき経費父兄負担減少の傾向を示しておるように思うのでありますが、なおこの点につきましては今後ともに努力いたしたいと思っております。
  29. 石野久男

    石野委員 私はいまここで、父兄負担が実際中学生一人、小学生一人について大体どのくらい出ておるか、この百五十六億というものが一人当たりにしてどのくらいについているか、ひとつこまかく聞かせていただきたい。
  30. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 父兄負担の児童、生徒一人当たり経費でございますが、小学校で、三十六年度が父兄負担教育費総額が一万四千四百円ばかりになっております。そのうち学校教育費が九千三百六十円ばかりでありまして、その他は家庭における教育費でございます。それから中学校関係におきましては、総額が一万八千円ばかりでありまして、学校関係教育費が一万三千五百円ばかり、その他が家庭における教育費であります。こういうことになっております。
  31. 石野久男

    石野委員 文部大臣にお聞きしますが、生徒一人当たりに対する公教育費というものは、大体どのくらい日本の場合使っておりますか、そして世界状態はどんなふうになっておるでしょうか。
  32. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 政府委員からお答えいたさせます。
  33. 蒲生芳郎

    蒲生政府委員 お答えいたします。  全学校平均いたしまして二万九百八十円ばかりになっておりまして、そのうち小学校について見ますと一万七千円、中学校につきましては二万四千七百円になっております。
  34. 石野久男

    石野委員 それは何年くらいですか。
  35. 蒲生芳郎

    蒲生政府委員 これは三十四年度でございます。
  36. 石野久男

    石野委員 世界各国ではどんなふうになっておりますか。
  37. 蒲生芳郎

    蒲生政府委員 ちょっといまその資料を持ち合わせておりません。
  38. 石野久男

    石野委員 いま、三十四年の文部省のその調査で、世界のものを見ますると、アメリカでは十一万八千三百円、それからイギリスは七万二千三百円、西ドイツは五万一千二百円、フランスは四万八千六百円、ソ連は二万八千九百円、日本を一〇〇として見ますると、アメリカは六・八倍、イギリスは四・二倍、西ドイツが三倍、フランスが二・八倍、ソ連が一・七倍です。  池田総理に承りたい。池田総理は、先ほど、日本教育費世界よりも非常にすぐれておると言われた。公的な教育費は決してすぐれていません。総理は盛んに日本教育というものは行き届いておると言うけれども、この統計の上では、日本がこれらの六つのうちで一番低いんですよ。これでは教育に対する着意というものは予算上には決して示されていない。そしてただ人づくりだけを言っておる。これはどういうふうになにするのですか。
  39. 池田勇人

    池田国務大臣 日本の全体の予算に対しまする教育費の割合、そしてまた人口に対しまする、いわゆる適正年齢に対します教育普及率、そしてまた高等学校あるいは大学に入学する率を比較して、各国の人がそう言っております。ただ、生活費その他からくる比較によって教育普及率考えるという前に、アメリカ日本の五、六倍の所得があり、イギリスが四倍、ドイツフランスも三倍半から四倍近い所得があるということをお考えになったならば、その数字教育普及を示す数字でなくて、生活程度所得程度を示す数字であって、教育普及率の問題、あるいは教育に力を入れている熱意の問題とは違う統計だと私は考えます。
  40. 石野久男

    石野委員 総理は非常に巧みに説明されるけれども普及率予算に対する熱意とはこれは違うのです。そういうようなことで国民をごまかすというやり方は間違いです。私は、やはりその国はその国なりの予算規模、あるいは経済状況等があることはよく承知しております。しかし、政府がその国の子弟教育に対する熱意の問題は、その国の予算規模の中において、あるいはまた、その国の生活状態の中において、やはりどの程度親心のある予算的措置をしているか、公的教育費というものを入れているかということにかかってくると思うのです。これは比率です。比率ではありまするけれども、ほとんどの国が日本よりも数倍にわたるところの個人的なものに対する公的教育経費を持っているということを示しておるわけです。私はやはり池田さんの人づくりの問題の一つの本質がそこに出ているような気がいたします。池田さんの言う人づくりというのは、金をかけないで、そしてほんとう政府の思っておるような方向子供さんたちをどんどん入れていこうという考え方である。私が先ほど高等教育というものを普通教育段階考えるべきだと言ったことの意味は、子供教育へんぱな教育にしてはいけないというふうに考えるからです。私はやっぱり教育というものは一般的に人が人をつくって、その中からやはり技術的なり専門的な教育を施していかなければいけない。最初から専門教育に入れていくということは人をかたわにしてしまう。いまの池田内閣文部政策にはそういうものが多分に入っておるから私は言うわけなんです。  私は時間の関係があるから先へ進みますが、ここで高等学校やあるいは中学校に対する政府親心のない結果として、親御さんは子供さんの教育を一生懸命につけたいと思うから、自然やはり競争率の激しい学校子供を入れようといたします。その結果として、子供さんはみんな中学浪人になったり、あるいは高等学校浪人になってしまいます。そういうことを親御さんのほうでは何とか解決をしようとして、結局予備校通いをさせる、あるいは塾へ通わせる、こういうことになってきております。先ほど父兄負担の額について文部大臣からの説明がありました。非常に大きいものです。小学校一人に対しまして一万四千円、学校教育に対しては九千円以上のものをやはり親御さんは税外負担をしておる。中学校においても一万数千円のものを負担しておるわけです。これは結局政府が、憲法に保障されておるところの義務教育無償であるということに対する考え方の面で非常にずるい考え方をしておるからこういう結果になると私は思うのです。私は、いま塾の教育とか予備校教育について池田総理はどういうふうに考えておられるか、ひとつ池田さんのお考えを聞かしていただきたい。
  41. 池田勇人

    池田国務大臣 入学試験競争率が非常に高いために予備校、塾の教育が行なわれておるということは、私は普通の状態ではないと考えます。これが収容人員が非常に少ないということからくるか、あるいは特定の学校にぜひとも入りたいという執念からくるかという問題を検討いたしますと、私は二番目の執念のほうの問題が多いのではないかと思います。もちろん高等学校あるいは大学施設拡充は必要でございますが、片一方で施設拡充をすると同時に、もっともっとどの学校でも自分の能力に応じたところで早く卒業して社会のために尽くそうという気持ちになってもらうことがこの際特に必要だと思います。
  42. 石野久男

    石野委員 いま入学率が非常にきびしかったり、あるいは中学浪人やなんか出るのは、これは親御さんが子供に一般的な教育をつけようということよりも、特殊の学校をねらって名門のところへ入れようとしておるからそうなるんだというようなお話ですが、一時はそういう傾向があった。いまは決してそうじゃありません。それは決して父兄の実態を総理はつかんでいないのです。むしろ親御さんはどういうところでもいいから学校へ入れたい、いま高等学校へ入れようとしたって、先ほど総理が言ったように、門が狭過ぎるのです。狭過ぎるということは、教育に対する国の処置が足りないからなんです。これはやはり反省すべきだと思います。私は、実際に教育施設が足りないということの面から、私学の問題が非常に重要な位置を占めてきておると思います。私学については、予算の上でも若干の処置をし、いろいろな手心を加えておることも私はよく知っております。けれども、いまこれだけでは足りないと思う。総理は私学に対してどういうふうにこれを公立のものとの関係の上で見ていこうとしておるか、これは灘尾文部大臣よりも総理にひとつ教育に対する考え方の点で承りたい。
  43. 池田勇人

    池田国務大臣 いま高等学校、ことに大学におきまして、その収容力が私学のほうがうんと多いのでございます。したがいまして、私は私学振興につきましては、昨日も川崎委員から御質問並びに御意見がございました。しごくもっともでございます。今後そういう方向で進んでいきたいと思います。
  44. 石野久男

    石野委員 幼稚園、保育園に対する親御さんの熱意というものは非常なものです。これはやはりだんだんと中学から高等学校にかけて子供をなるべく浪人させないでやりたいということからくるんだと思います。しかし、これは人づくりの上ではたいへんな弊害を生んできているのではないかと私は思うのです。いま幼稚園に対しては金もずいぶんかかります。親御さんはやはりずいぶんと時間をかけております。しかも、その上でここへはなかなか普通の一般の労働者や、あるいは中小の方々は入れることができないほど経費がかかっておるわけです。幼稚園、保育所等に対する金のかかり方、そうして、そこからくる子供さんの拝金主義ですか——だから、いま小学校子供さんたちに、大きくなったら何になるんだと言うと、みんな金もうけをするんだということだけを言っております。こういう考え方小学校から中学校にかけての教育ほんとうの姿として出てきておるのですが、これは池田さんの人づくりと合致するのですか。
  45. 池田勇人

    池田国務大臣 幼稚園も最近は非常に進んでまいりまして、義務教育を受ける人で、ほとんど半数前後の人が幼稚園に通っておると聞いております。私は、やはりいろいろの事情で幼稚園へおいでになることもけっこうであると思いますが、時世が違いますか、われわれは別に幼稚園へ行ったわけでもございませんし、また有名校に入ったわけでもございませんが、自分としては、あまり教育教育、そうして名門名門という親心が少し変わってくることがいいんじゃないかということを考えております。だからといって、幼稚園を否定するわけではございません。金もうけのためだとか、あるいは出世のためにとかいうことが少し親自体にも強過ぎるのではないかという私は気がしておるのであります。これは人づくりの全体の問題としてみんなで考えなければならぬことだと思います。昔の考え方よりも、いまあまりに名門校ということにとらわれ過ぎておるきらいが、これが義務教育あるいはその前の幼稚園のほうから出てくるんではないかということを感じておるのでございます。この点は、やはり相当考うべき問題だと私は思っております。
  46. 石野久男

    石野委員 最近池田総理人づくりの問題は、人間づくり——人づくりというのは人間づくりのことですけれども、むしろ、ずっと教育行政の全般を見てみますると、特殊技術教育方向に重点が向いていっているようなふうに見受けられますけれども総理はそういうような着想で、学校を卒業したらすぐ仕事に間に合うようにということを一番人づくりの中心に考えておられるのかどうか、この点を承りたい。
  47. 池田勇人

    池田国務大臣 人づくりというのは、技術を身に持つというわけではございません。やはり知性、技術、いわゆる情、徳育、こういうものが全部そういうことが必要でございます。ただ、いまの経済の発展から申しまして、各国ともやはり技術者の養成に力を入れておるということは事実でございます。また、わが国におきましても、昔は文科系統が非常に多かったのでございますが、その傾向はだんだん改められつつあることは、やはり時勢の変化でございまして、技術ばかりを教育するという意味ではもちろんないのであります。   〔委員長退席、松澤委員長代理着席〕
  48. 石野久男

    石野委員 私は、教育の問題について、いま一番問題になるのは、何といっても学校が少ないというところにいろんな問題が出てきておるのだと思うのです。政府は、やはりすべての教育行政が順調にいくようにするためには、もう少し学校をふやすということを考えなければいけない。学校をふやすということになれば、どうしても予算的にもっともっと幅の広い形で、そうして地方自治体に大きな負担をかけないで学校の増設をするようにしなければならないのではないか、こういうふうに私は考えるのですが、総理はどういうふうにお考えですか。
  49. 池田勇人

    池田国務大臣 学校をふやすことも必要でございましょう。しかし、私は、学校をふやすことが必要であると同時に、教育課程の向上ということが非常に必要だと考えます。そこで、きのうもちょっと触れたのでございますが、イギリスにおきましては、いま労働党と保守党の両党とも力を入れておるのは、いわゆる大学教育、技術者教育ということをやっておるようであります。そうして保守党の義務教育を終えた者に対しての大学教育というのは、いままでの五%ではいかぬ、ウィルソン労働党党首は一〇%にしなければいかぬ、こう言っておられるようでありますが、日本はもうすでにそれ以上の一四、五%までいっておるということは、ひとつお考えおき願いたいと思います。
  50. 石野久男

    石野委員 私は、文教の問題では、まだいろいろお聞きしたい点がありますが、時間がありませんから外交のほうの問題について質問を進めたいと思います。外交問題、特に私は朝鮮の問題について質問するのですが、その前に中国問題について一、二の点をお聞きしておきたいと思います。  一昨日横路委員質問に対して、池田総理は、中華人民共和国が平和愛好国であるということが認められるようになった場合、あるいはまた国連に代表権が認められるようになれば中華人民共和国を認めるという御答弁をなさいました。そういうふうに理解してよろしいか。  また大平外務大臣は、中国が国連に代表権を持つ場合は、拒否権の行使はできない、このように言われております。横路委員にそういうように答えておりますが、そのように理解してよろしいですね。
  51. 池田勇人

    池田国務大臣 中共をなぜ認めないかという問題につきましては、世界の大多数の人が、中共はほんとうに平和を愛好する政権でない、また、いろいろ紛議を起こしておるというふうなこと、あるいは過去の問題等々もございましょうが、そういうところで、国連におきましても加盟代表権の問題に反対があるのであります。したがいまして、われわれは国連中心で外交を行なっていくのでございます。中共がもうりっぱな国である、そして国連に加盟せられるという場合におきましては、何も日本がこれを認めないということはあり得ないと考えておるのであります。
  52. 大平正芳

    ○大平国務大臣 新規加入の場合は、御承知のように安保理にまず付託されまして、安保理の勧告に基づいて総会が審議するという手順になっておりますけれども、代表権問題というのは、総会で決議するということに相なるという趣旨のことを申し上げたわけでございます。
  53. 石野久男

    石野委員 大平外務大臣に私はもう一度お聞きをしますが、横路委員には、中国が国連に代表権を持つようになれば、それに対する拒否権は行使できないとはっきりおっしゃっておられるのですよ。それを私は聞いておるわけです。
  54. 大平正芳

    ○大平国務大臣 これは安保理と総会の問題になると思うのでございます。私の申し上げたのは、総会の管轄事項になるのだ、安保理から要請されなくとも総会が代表権問題を取り上げる権限を持っておるということでございまして、国連の内部で総会がそのような決議をかりにしたといたしまするならば、それはそれ自体として効力を持つわけでございまして、安保理と総会との関係は国連のきめることだと思います。
  55. 石野久男

    石野委員 横路委員に答弁したように、やはり拒否権の行使ができないということを外務大臣は回りくどく言っておるというふうに理解します。これは、池田総理が、一つの中国、一つの台湾はいずれも違っておる、二つの中国も認めないということで、ただいまの確認の中にもあるように、中国は一つ、そして国連で中華人民共和国が代表権を持つようになれば、大平外相もお認めのように、拒否権は行使できないのだから、台湾、澎湖島は中国に帰属することになる。これはきわめて論理的なことでありまして、日華平和条約を締結した当時の吉田自民党政府の誤まり、それから来る日本の対アジア政策の混迷から抜け出ることができるようになる。これは非常に大きい前進です。政府、特に総理は、この際決断をもって、このアジアの政策の軸を、最も近隣にある中国、あるいはまた朝鮮に置くようになさるべきだと私は思います。いかがですか。
  56. 池田勇人

    池田国務大臣 あなたの御意見は承っておきますが、私の所信は先般来たびたび申し上げてあるとおりであります。
  57. 石野久男

    石野委員 私はやはりそういうことを総理にひとつ考えてもらいたいと思うのです。  それから、いま一つお聞きしますが、昨日今澄委員質問に答えて、中国への賠償問題は何一つ残っていないということを総理はおっしゃられた。この際私は外務大臣にお聞きしたいのですが、シンガポールの賠償交渉はその後どういうふうになっておりましょう。
  58. 大平正芳

    ○大平国務大臣 お答え申し上げておきますが、シンガポールとの間に賠償交渉はないわけでございます。これは、講和条約によりまして、一切の対日賠償請求権はイギリスが行使しないことになったわけでございまして、私どもはシンガポールとの間に賠償交渉をやっている覚えはございません。ただ、シンガポールないしマレーシアとわが国との将来の親善関係考えまして、私どもといたしましては、可能な限りおなぐさめを申し上げる措置を講じなければならないという趣旨で交渉をやっておりますことは事実でございます。これは、ただいま先方の都合で一時交渉が停とんいたしておりますけれども、やがて再開することになると思います。
  59. 石野久男

    石野委員 おなぐさめ申し上げなければならないので交渉しておるというのは、これはどういうことなんですか。
  60. 大平正芳

    ○大平国務大臣 賠償としての権利とかあるいは義務とか、そういう関係において交渉しておるのではなくて、私が先ほど申しましたように、将来の日本との友好関係考えまして、よく申しますように、英語で申し上げて恐縮ですが、ゼスチュア・オブ・アトーンメントという形において、何らかのなぐさめを申し上げなければなるまいということで御相談しておるという趣旨でございます。権利義務関係ではないという趣旨でございます。
  61. 石野久男

    石野委員 おかしなことを聞きます。そういうようなゼスチュアを使わなければならぬような外交関係というものは、そうすると、どういう国に対しても友好関係を結ぶときにはそういうようなゼスチュアを示していくというようなことを意味するのですか。特にシンガポールに対してそういうことをしなければならない理由はどこから来ているのですか。
  62. 大平正芳

    ○大平国務大臣 将来のあの地域と日本との友好関係上、ある種のゼスチュアが必要であるという判断で御相談申し上げておるところでございます。
  63. 石野久男

    石野委員 それは道義的な意味で言うのですか。
  64. 大平正芳

    ○大平国務大臣 そういうようにおとりいただいてよかろうと思います。
  65. 石野久男

    石野委員 私は総理にお聞きしますが、総理は、きのう、中華人民共和国に対しては賠償の問題は全然ないとおっしゃった。いま、シンガポールにそういうような話が、これは戦争に関連して出てきておると私は思う。中国に対しても、やはり、そういうような意味では、同じような形で、今後善意と誠意をもっての関係が出てくるのじゃないかと私は思いますが、その点についてはどうですか。
  66. 池田勇人

    池田国務大臣 日本は中華民国と戦い、中華民国はこの前の戦争による賠償請求権を放棄したとはっきり言っておりますから、賠償の義務はないと思っております。問題のなには、中共に対してどうこう——まだ国交も回復しておりませんし、いまそんなことは考えておりません。
  67. 石野久男

    石野委員 きのうは、今澄委員に対して、全然そういうことは一切ないのだとおっしゃったが、いまは考えていないということですから、私は朝鮮の問題についての質問をしたいから他日またそのことを聞くことにいたします。  総理は、本国会におけるところの施政演説の締めくくりとして、「日韓会談を解決して自主的な国民外交を展開し、わが国の進路を確定することが第一であります。」と言っております。本委員会でも、日韓会談の問題につきましてはきわめて積極的な御発言をなさっておりますし、大平外務大臣も漁業問題が煮つまればあとはオーケーだというふうに話しております。情報によると、池田さんは、ラスク会談のあと、ともかく調印だけは早くして、成文化は少しくらい遅れてもいいのだからというようなことで会談を急がせておるように承っておりますが、そういうようなことはほんとうでございましょうか。
  68. 池田勇人

    池田国務大臣 ラスク長官と私は日韓問題に全然触れておりませんから、そういう情報はうそです、とお考えください。うそである。触れていないのですから、触れていないところに情報があるはずがない。  それから、韓国との国交正常化は、この前の総選挙の国民に対する公約でございます。そして、国民はそれを支持してくれております。したがって、これを急いでやるということは、国民に対するわれわれの責務と考えております。
  69. 石野久男

    石野委員 自民党が選挙のときにそういうことを国民に約束したから、国民に対する責務だとおっしゃるのだが、日韓会談の問題について、特に朝鮮との問題でございますが、ちょうど南ベトナムはつい二日ほど前にクーデターが行なわれました。朝鮮も、御承知のように、私たちの聞いているところでは、朴政権は必ずしも安定しておりません。私は、そういうような韓国の実情というようなものにおかまいなく、ただ妥結だけを急がせるということは、これは非常に不見識のような気がいたします。総理はそういう点はどういうように考えますか。
  70. 池田勇人

    池田国務大臣 大統領選挙も、また議会の選挙も公正に行なわれて、そして民主政治が樹立しておるのであります。私は、それを不安定だとかなんとか考えておりません。また、そういうことをここで私が言うべきではない。われわれは、りっぱな政権ができて安定しておると考えてやっておるのであります。
  71. 石野久男

    石野委員 私は、外交交渉は、国の利益のために、国内においてはできるだけ意見を与野党ともに合わせていくようにすることはいいように思います。しかし、そのことは、相手の国がどうあってもいいんだということじゃないと思うんです。われわれは、やはり国の利益のために外交を行なうのだと思いますから、相手の国がほんとうにそれに値するような国内事情であるかどうかということは、確かめなくちゃいかぬと思うのです。政治的にも、経済的にも、社会的にも、いま韓国はほんとうに安定しているとお考えになっておられるのでしょうか。私は、その点について、これは池田総理なり大平外務大臣なりにひとつしっかりと韓国の実情についてお聞きしたいと思います。
  72. 大平正芳

    ○大平国務大臣 私は、外交を預かる身といたしまして、他の国に対して最大限の尊敬をもちまして外交に当たっておるわけでございます。他の国の政権の安定度というようなものについてとやかく申し上げることは非礼だと思うのでございます。誠心誠意、敬意を持って外交交渉に当たっておるわけでございまして、その国々の国民が選んだ政府というものに対しましては、最大の敬意を持って臨むべきものと思います。
  73. 石野久男

    石野委員 私は他の国の権威というものは十分認めにゃならぬと思います。しかし、そういうふうに言っておる足元から、その国の国内事情のために目当てが違ったような方向が出てきては困るのです。たとえば、ちょうどいま内閣では、そこにそれぞれ閣僚としておいでになります総務長官の福田さんや、あるいは田中さんもそうでございますけれども、それぞれ韓国をごらんになってきておる。そのあとで、たとえば朴正熈の軍事クーデターが、韓国へ訪問なさってきて国会では韓国の政情は安定しておると言って、二日か三日のうちにクーデターが起きるというような事情も、ついこの間本院で見ておるわけです。そういうような事情というものは、われわれは、国の利益を守り、そしてこの国の平和的な外交というものを進めていくためには、相手の国がどうなっておるかということを知って、もし不安であれば、それは遠ざからなければいけないし、待たなければいけないと思うのです。私は、友好関係を進めることは大事なことだと思いますけれども、何でもがむしゃらに、友好関係、友好関係といって、相手の国の実情も何もわからないで話を進めるということはよろしくないと思います。  韓国の現在の事情は、政治的に端的に申しますと、おそらく朴政権は夏までもたないのじゃないかといわれておる。また、経済的な側面から言いましても、これは実にきびしいものがあります。もし政府の側で言えないとするならば、私どもが入れておる——これは別に秘密でも何でもありません。韓国銀行が発表している経済事情だけを一つ見ましても、こういうことになっているのです。たとえば、外貨保有高は、昨年の十二月十四日の現状で、一億二千四百五十万ドル、対外債務は一億八千百万ドル、マイナス五千七百万ドルです。しかも、手続中の支払い保証額を入れると、マイナスは一億三千八百三十万ドルになります。まさに破産の状態です。通貨量を見ましても、十一月十五日現在で四百一億ウォンあります。これはもう朴政権がクーデター当時の二百二十億ウォンの約一七八%にふくれ上がっている。これはもうすごいものがあります。また、国際収支の面からいたしましても、六〇年、六一年、六二年と、それぞれ非常に悪い面が出ておりまして、われ一われの手元に出ておる一つだけでも、六〇年の現在で収支三億三千六百九十六万九千ドルの赤字が出ておるという実態。物価指数一つ見ても、六一年の五月を一〇〇として、昨年の十一月の現在で二九五、約三倍近い物価の上昇をしておる。経済成長率のごときは、昨年、一昨年は二・三%で、人口の増加率二・八八%よりもはるかに低い。六三年ようやくにして五・二%になっておりますけれども、これは目標の六・四%よりはるかに下回っておる。韓国に対するアメリカの援助の問題は、今度ラスク氏が朴氏との間に共同声明をして、減らさないとは言っておるけれども、それにしても、ニューヨークの新聞や何かの報ずるところでは、おそらく来年の経済援助は六千五百万ドルくらいだろう、それも一千万ドルはもう先食いしておるということで、こういう実情の中で、決して経済的には安定しておるとは言えないと思うのです。私がいま韓国銀行の発表しておる数字を申し上げたのは、これは間違っておるでしょうかどうか、外務大臣にひとつお聞きしたい。
  74. 大平正芳

    ○大平国務大臣 いま、国際収支事情、通貨事情経済事情についての石野さんのお話がございましたが、そういう問題は韓国政府が心配する問題でございまして、私がとやかく申し上げる性質のものではございません。私といたしましては、隣邦の韓国が、二千数百万の人口を擁し、高い教育水準を持ち、すぐれた労働力に恵まれておりますので、建国のもろもろの困難がございますが、これをみごと克服いたしまして、建国の実をあげて、われわれが長くお互いに交流いたしまして、相互の利益のためになることこそ祈念いたしております。
  75. 石野久男

    石野委員 こういう事情は韓国の政府が心配すべきことで大平外務大臣が心配することじゃない、それはそうでしょう。それでいいと思います。ただ、われわれがいろんな話し相手とするにあたって、そういうような実情であるということは知っていなければいけない。これは知っているべきです。また、政治的な問題を見ましても、確かに朴大統領は当選しております。けれども、当選はしているけれども、尹フ善氏との間の得票数は約一千万のうちで十六万五千票の差しかございません。しかも、国会議員の選挙におきましても圧倒的な多数は占めております。占めておりますけれども、得票率から言いまするならば野党のほうがはるかに多い。与党である朴政権はわずかに三二%そこそこしか取っていないのであります。しかも、一月十四日には、尹フ善氏が国会で懲罰にかけられていることを知っているはずであります。なぜ懲罰にかけられておるか。それは、こういうことを言ったからです。朴大統領に対して、腐敗を一掃するために、民生苦の解決のために、不正選挙根絶のために、朴政権を打倒する行為が正当化するかどうか、朴政権の明快な返答を求むということを言ったために、これで懲罰動議が百一対四で可決されております。この、腐敗を一掃するために、民生苦の解決のために、不正選挙根絶のためにというのは、いみじくもこれは朴大統領がクーデターを行なったときに布告をしたことばですよ。この布告したことばをもって、朴政権を打倒することを正当化するかどうかということを詰め寄っておる。これは決して政治的に安定しておることではございません。最近また、国会の中では、統一の問題とか、あるいはまたその他のいろいろな問題で詰め寄っております。だから、私は、政治的にも決して安定しておるというふうに見るべきでないと思うのです。  私は、こういうような事情の中で、たとえば社会的な生活の問題を一つ見ましても、とにかく絶糧農民はもう一月現在で二百万に達しております。七十万戸に及んでおる。食糧の危機はこの三月だといわれておる。約千四百万石の不足だといわれております。こういう事情の中で、嶺南日報は、目だけつむればしかばねと間違えられるほど、生きておることが奇跡だということで、生活は苦しい状態にあるのであります。これはとても正常な状態だとは思いません。こういうような韓国の実情というものを正しくつかんだ上で、しかも急いで日韓会談というものをやらなければならないのか、これは大平外務大臣にひとつお聞きしたいのですが、そういう点について、大平外務大臣は、確かにそういう韓国の内部の事情というものはあなたには責任がないでしょう。だけれども、日韓会談というのは、大平・金合意書というものを中心としていろいろな問題が出てまいります。そういうことから来る国内的な責務というものは非常に大きく出てくるのでございますので、私は、やはり、こういう韓国の政治的、経済的あるいは社会的な事情の逼迫している実情というものをよく承知の上で、なおかつあえて日韓会談を進めるのかどうか、ひとつ大平外務大臣にお聞きしたい。
  76. 大平正芳

    ○大平国務大臣 日韓の間の交渉は、御承知のように、もう十二年にわたった交渉でございます。たいへんむずかしい問題でございます。決して急いでおるわけじゃございませんで、たびたび政府が申し上げておりますように、国民の皆様が御納得がいくような合理的な解決をいたしたいということで、この永年の懸案をでき得るならば解決いたしたいということで鋭意努力しておるということでございます。韓国の実情につきましては、これは韓国ばかりでございませんで、世界のあらゆる国々の実情につきまして正確な情報をできるだけわれわれが掌握しておらなければならぬということは、御指摘のとおりでございまして、そのように私どもは努力いたしているつもりです。
  77. 石野久男

    石野委員 韓国のほんとうに混迷しておる実情というものは、いま皆さんが国民にアピールしているようなそういう朴政権の安定している度合いのものではございません。特に、きのうきょうあたりから全国の労働組合はストライキに入っております。約二十二万の組織労働者のうち十三万四千人というものがストライキに入ってきつつあるのです。これは百四十六の企業体ですが、これはほとんど政府関係する公企業体を中心とする労働組合でございます。朴政権ができましてから、労働組合に対する一つの権利剥奪の法案を通しました。労働者は生活の苦痛のために五〇%の賃上げを要求をする。同時に、権利闘争のための立ち上がりとして、冷却期間約一カ月間を過ぎて、この二十五日以来、次々にこの労働組合争議が始まっておるのございます。決して安定したものじゃないのです。私は、そういう中で、政府はその相手方の事情がどうあろうかということを全然考慮しないで、ただ妥結だけを急ぐというようなことはよくないと思うのです。池田総理大臣は、ラスク国務長官とは日韓会談の問題は一言も触れなかったと言われる。おそらく私はうそだろうと思います。うそをつかない池田さんではありましょうけれども、この問題に関する限り、私はそうは思いません。しかも、わずか六時間しかソウルにいなかったラスク氏は、朴氏との間に共同声明を出して言っております。何を言っておるか。援助は積極的にやるから、ひとつしっかりやりたまえ、そうして日韓会談を急ぎなさいということを言っておるじゃありませんか。日韓会談を急ぐのは、私は、日本実情というよりも、アメリカさんの要求のほうが強いように思う。そういうことで日韓会談を進めてはいけないと私は思うのですよ。私は、そういうようなことについて、池田さんはしばしば、決してラスクさんやアメリカの要請に基づいているものではない、こうおっしゃっている。もしそうであるとするならば、私がただいま申しましたように、韓国の内情はきわめて混乱して不安であります。こういう実情の中で、将来にわたるところの平和の基礎になるであろう問題、しかもその中にはいろいろと北朝鮮との関係で疑義がある、そういう問題を進める必要はないように思う。しばし待っておってもよいと思う。どうでしょう。総理大臣の御所見を聞きたい。
  78. 池田勇人

    池田国務大臣 あなたはラスクと私との会談で日韓会談に触れたとおっしゃいますが、何の根拠でそういうことをおっしゃいますか。こういうところで、あなたの想像で、私が否定したことが間違いだというようなことをおっしゃることはいけない。私は、この前も申し上げましたごとく、中共に対するフランスの態度、あるいは日韓交渉につきましては、長い時間外務大臣とお話しして、そうしてその報告を聞いておりますから触れなかったのでございます。これは申し上げております。それを触れた、うそを言っておるのだと言うことは、私は、これはよくないことだと思います、国民に対して。そうして、日韓会談につきましては、私は、先ほど来申し上げておりますごとく、韓国のためにも日本のためにも、早く正常化したほうが両国のため、アジアのために私はいいと考えてやっておるのであります。それは、国でございますから、建国早々いろんな事情もございましょう。事情もございましょうが、日韓両方の繁栄、幸福のために、そうしてアジアの平和のためにやろうというのでございまして、アメリカの指図とかなんとかいうようなことをお考えになることが、日本国のいわゆる独立性をみずからこわすような言辞ではございますまいか。私は、もっと日本は、あなたの口で言われるような自主性を持って日本考え方でいくんだということをはっきりあらわすべきであるのを、自主性を否定するような言動はよくないと思います、日本国民のために。
  79. 石野久男

    石野委員 総理日本の自主性を外交の上に亜かすということを言われる。それは私たちも望むのです。それを望むから、むしろ私はそういうようなことのないようにという気持ちを持って申し上げております。少なくとも、そういうようなことを積極的に、やはり日本外交の将来のために、総理としては矜持を持ってやってもらいたいと私は思います。  こういうような状態の中で、いま、この前の大平・金合意書以後でございますが、非常に日本の商売人が韓国に出向いて商売をなさっておるようであります。日本の商社が約五十数社韓国に出向いておる。この商社は、どういうふうにして手続上韓国に行っておられるのか、また、どのような商売をしておるのか、政府はどのようにこれを監督し指導しておるかということを、この際ひとつ、外務大臣なり、あるいは通産大臣なりでもよろしゅうございますから、お聞きしたい。特に保税加工貿易方式によるところの作業も相当多くなされておるようでございますが、そういう事情をこの際御説明いただきたい。
  80. 福田一

    福田(一)国務大臣 日本の商社の方が韓国へ行っていろいろそういう仕事をされておるということは聞いておりますが、これは旅行者の関係で旅行のたてまえでいま行っておるわけでありまして、これを禁止するとか、あるいはまたやめさせるという理由もないわけでございますので、一応われわれとしてはそういう立場で認めておるわけであります。それから、どういう弊害を起こしておるかということについては、まだつまびらかにいたしておりません。
  81. 石野久男

    石野委員 これはもう韓国のほうでも新聞もずいぶん書いておるのですが、日本の新聞にも、各新聞がそれぞれみな報道しておりますけれども、これは朝日の二十四日の新聞ですが、日本の商社の脱税容疑について韓国の強権発動準備、こういう見出しで、日本の商社が向こうでずいぶんと脱税の疑義があるのだというような報道が行なわれております。同筋の非公式推定によると、これらの日本商社は、昨年総計六十万ドル以上の売り上げを韓国で得ておるが云々と書いて、この脱税の事実を摘発するのだというふうに報じられておるのですが、こういうような報道は、通産省としても得ておるのでございますか。また、外務省あたりは、こういう問題についてどういうふうに今後商社あたりを指導しようとしておりますか。
  82. 福田一

    福田(一)国務大臣 向こうでそういうような貿易をされて利益があがっておる、利益があがっておるについて税金をかける、あるいは取引税、——私は韓国の税制を知りませんが、そういう取引があれば、それに税金をかけるというようなことの問題は、これは韓国の問題でございますから、韓国政府がどういう措置をされるか、私は韓国内の問題として処理をされることと考えておるわけであります。
  83. 石野久男

    石野委員 外務大臣にお聞きしますが、いま通産大臣は、こういう問題は韓国で処理することだから、向こうの問題だ、こういうお話でございます。しかし、皆さんはいませっかく日韓会談を進めることに熱意を持って交渉なさっておる。こういうようなことを韓国の内部で日本の商社が問題を起こしました場合には、非常に日韓会談推進のために不利益になるのじゃございませんか。こういうことに対して政府はどういうふうに御指導なさいますか。
  84. 大平正芳

    ○大平国務大臣 御承知のように、現在、輸出輸入合わせて一億数千万ドルの貿易が韓国と日本との間にございます。それから、朝鮮海域で漁業の操業が行なわれておるとか、御指摘のように、事実関係がいろいろあるわけでございます。こういう関係が、石野さんが御指摘のように、問題なくありますことは、日韓交渉を進める場合におきましていいことでございます。去年の九月二十七日以来朝鮮海域におきまして漁船の拿捕がなかったということを、私は内心非常にうれしく思っておったのでございまするが、御指摘のように、そういうトラブルがないほうが交渉の進捗にとりましていいことは申すまでもないことで、そのように希望するものでございます。ただ、現にトラブルが起こった場合に、いま御指摘の税金の問題等は、福田通産大臣がおっしゃったとおり、先方の国内法に基づいての処置でございますので、私どもとしてはそういうことがないことを希望いたしますけれども、起こりましたならば、先方が所定の法規に従って処理をされるのが当然だと思います。
  85. 石野久男

    石野委員 私は、日本と韓国といいますか、朝鮮との関係におきましては、これは平和的に友好関係をとにかく朝鮮と日本とはやらなければならぬ問題ですから、お互いに真剣に考えなければならぬものがたくさんあると思うのです。いま政府は日韓会談を私たち考えとは別な形で進めようとしてるときに、韓国の中で日本の商社が脱税があるとかなんとかいうことで大騒ぎをされて、政府が強権を発動されるというところまで来ているときに、日本政府が、それを、相手国のことだから知らないのだ、どうにもならぬのだというような慈愛では、これは朝鮮の方々は納得しないのではないかと思うのですよ。私はこれは別に日本の不利を言ったりするのではないですよ。日本ほんとうに朝鮮の方々とうまくやっていこうとするならば、政府はこういう問題について適切な処置をしなくちゃいけないのと違いますか。あるいは日本の商社を守る立場にするか、あるいは向こうの不満を解消する立場にするか、何かの方策を考えてやらなければいけないのと違いますか。
  86. 大平正芳

    ○大平国務大臣 法治国といたしまして、在日朝鮮人が日本の国法を犯した場合には、日本の国法に照らして日本政府が処断する、これは当然のことだと思うのでございます。ただ、御指摘のように、そういうことがないことが望ましいのでございます。私どもはそれのないように希望はいたします。しかし、事実そういうことがあったとしたら、それをどうしてくれこうしてくれというのは、いかがなことかと私は思います。
  87. 石野久男

    石野委員 朝鮮において日本に対する警戒心が非常に強いということは、やはり、われわれは、特に政治を預かる者にとっては注意しなければならぬことだと思います。私は、そういう点は、池田総理にしましても、大平外務大臣にしましても、とくと心にしていることと思います。そういうような意味で、たとえば商社が他国におきましていろいろトラブルを起こすというようなことについての責任は非常にきつく感じなくちゃならない立場にあるように思いますが、特に私は朝鮮についてはそのことを痛感するわけなんです。そういう点で私はお尋ねしているわけです。この点はひとつ政府としてもよく考えなければいけないのじゃないかと思います。私は、朝鮮においていま日本に対する警戒心がどういうふうに強く出てきているかということは、ここでは一々申し上げませんけれども、しかし、少なくとも池田さんは昨年の十二月朴大統領の就任式に大野伴睦氏を特使として派遣なさいました。この際大野氏は向こうでいろいろと問題を起こしておるというか、向こうのほうで問題にしたかどっちか、大野さんのために私は言えませんけれども、とにかく問題が起きております。韓国の新聞などによりますると、大野さんは首相の特使として出向いていたにかかわらず、いろいろな意味で朴大統領に陳謝をして問題の解決をするというふうな報道が行なわれております。これは、池田総理が国際的に自分の特使として、この国の代表として送ったことについて、あまりにもこれはみっともないことだと私は思うのです。総理はこの点についてどういうふうにお考えになっておられるか、ひとつ総理の御意見も承りたいし、私はこれはほんとう国民の恥だと思うのですよ。そういうふうな意味で、総理考え方をお聞きしたい。また、できることなら、大野さんにここへ来ていただいて、当時の事情をひとつお聞かせ願いたいと思う。総理の御所見を承りたい。
  88. 池田勇人

    池田国務大臣 大野副総裁が特使として行かれて、私はその使命を十分果たされたと考えております。いま、どんな事実があったか、私は報告を受けておりません。新聞である程度ゴシップ的なものが出ましたが、これは氷解したようなふうで、私は問題はなかったと考えております。
  89. 石野久男

    石野委員 私は、個人のことですから、あまりあれこれはいたしませんけれども、少なくとも向こうでは相当いろいろときつい批判が出ております。これはやはり注意しなければならぬことだと思うのです。十分ひとつこれは考えてもらいたいように私は思う。特に、大野さんの発言が、日本がこれから朝鮮との間に平和友好の関係を結んでいこうとするにあたって非常に誤解を生むようなところがあったように承っております。こういうことは、お互いに、個人というよりも政府自身で注意しなければいけないのじゃないか。特に特使という立場で出向いていく以上は、身は大野個人でありましても、その公的な立場は政府であります。池田さんの代理ということになっておるんですから、そういう点は特に総理が注意すべきことだと私は思います。  日韓会談の進捗の内容について私はこの際お伺いしたいのですが、金・大平合意書でいろいろなことが話し合われておられまして、大平外務大臣は、合意書の中で話し合いになりました三億ドル、二億ドル、一億ドル以上ですか、この経済協力で請求権はゼロになるんだ、こういうふうに昨年の二月二十八日本委員会で岡田委員に答えております。その際、大平外務大臣が岡田委員に対して、金・大平合意書の資料を本委員会に提出するということを約束しておりますが、それはその後出ておりません。これをひとつ出していただきたい。出せるかどうかということを先にまずお聞かせ願いたい。
  90. 大平正芳

    ○大平国務大臣 言うところの合意書というものはございませんから、出しようがございません。
  91. 石野久男

    石野委員 岡田委員がこの問題について資料を出せということで、——これは横路委員からの質問に答えて、資料は出しておると言った。しかし、その資料が出ていないんだから、その資料を出しなさい、こういうことを言って、それに対して大平外務大臣は、「なるべく早く提出することにいたしまするが、しばらく時間を御猶予いただいておるわけでございます。」、こういうふうに言っているわけですよ。その資料をお願いしたい。その資料の題目はどういうふうになっているかわかりませんが、とにかくこれは大平・金合意書に関連する問題ですよ。
  92. 大平正芳

    ○大平国務大臣 合意書はございませんが、私どもが話し合った内容につきましては、この委員会を通じましてもたびたび申し上げてあるとおりでございます。何らほかに秘密の約束はございません。
  93. 石野久男

    石野委員 秘密があるかないかじゃなしに、資料を出してくれという要求があり、それに答えているんだから、これは資料は出してほしい。この際、大平外務大臣が「私ども考えている方式から申しますと、請求権はゼロになるわけでございまして、」と、こういうふうに言っております。「経済協力は全然別個の経済協力であって、」これと請求権とは別にしてもらわないようにと言いながら、「請求権はゼロになる」と言っておるのですが、平和条約第四条の(a)項の請求権がゼロになるというその法律的な根拠が示されていないのですが、どういうところに根拠を置いているのですか。
  94. 大平正芳

    ○大平国務大臣 平和条約四条によりまして、日韓の間で取りきめをするということになっておるわけでございます。請求権問題は、本委員会を通じましてもるる御説明申し上げましたように、事柄に即して積み上げて計算してまいるのが最善の方法でございまするけれども、たびたび私が申し上げますように、終戦後ずいぶん時間もたっておりまするし、その中間におきまして朝鮮事変も経験いたしておりまして、物理的に資料が整わない面もございます。したがって、純法律的に事実に即して計算をしてまいるということができないと判断いたしましたので、そういう過去のせんさくはやめて、将来にわたって日本のほうから経済協力を提供するということ、そしてそれを先方が受諾するということになりますれば、第四条にいう請求権は両国において片づいたものと認めるという合意をすれば、第四条の特別の取りきめがそれでできるようになると私どもは解釈いたしておる次第でございます。
  95. 石野久男

    石野委員 それは合意ができてということの意味は、金氏との間に話し合いしたことは、南朝鮮の韓国人民のすべてにそのことを韓国の政権、朴政権のほうでやはり納得させるような言い方をしておるのでしょうか。新聞や何かで韓国の実情を見まするというと、そういうことは全然触れられていないし、むしろ逆なふうに報道されておるように見受けられるのですが、十分韓国の国民諸君もわかるように話し合いは進んでおるのでございますか。
  96. 大平正芳

    ○大平国務大臣 それは韓国政府のPRの問題でございますが、私どもとしては、一切の請求権かあとに残らぬようにいたしたい、最終的にそのようにいたすべく努力いたしております。
  97. 石野久男

    石野委員 経済協力が、この講和条約四条(a)項に相当する請求権を抹消するというような、そういう事態は、法律的にはたして出るのかどうか、これはなかなか問題があるだろうと思うのです。特に私は、この条項になっているところを見ますと、住民の利益を守るということがそれでできるかどうか、これは非常にむずかしい問題があるのではないか。たとえばこういうような場合には、それじゃ話し合いはどういうふうになっておるのでしょうか。当時、日本の軍隊の軍人としていた朝鮮人がたくさんおります。しかも、そういう方々がいま日本にもいるわけです。こういう方々は、政府なりあるいは韓国の側の宣伝なんかがあって、国内でも、日韓会談が妥結すれば、そういう人々は——傷痍軍人なとは、それで請求権が出てくる、賠償を受けることができるんだというふうな理解のしかたを多くの人々はしておるようです。この経済協力というのは、そういう問題に対してどのようにその請求権を充足させるような法的な関係を持っていくのか、そういう話し合いはどういうふうになさっておりますか。
  98. 大平正芳

    ○大平国務大臣 先ほど申し上げましたように、そういう経済協力を一方において供与するということによりまして、一切の請求権が消滅したということをお互いが確認し合うということによって解決しようといたしておるわけでございます。したがいまして、韓国の国内におきましてどういう立法手続が要るのかという問題はあるだろうと思いますけれども、われわれのねらいとするところは、一切の請求権、一切の悶着がないようにいたすべく努力をしているところです。
  99. 石野久男

    石野委員 私は、請求権を経済協力で抹消するということは非常に困難な場面に直面するだろうと思うし、また法的にもそれを排除する根拠は出てこないだろう、むしろ法的には依然として請求権が残っていくという形があるのではないかというような疑問を持っておりますけれども、きょうは話を先に進めます。  それで合意書によると、三億、二億、一億以上という形で経済協力が実施されるわけです。無償三億ドルは、とにかく無償ということなんだから、差し上げるのですが、一億ドルの有償というやつは、十年間で延べ払いするわけですね。そうしますと、それはほとんど役務と資材でございましょう、そういうことになってまいりまする場合、この期間中、日本の側ではそれに対する権利の擁護なり、保護というものは、どういうふうになさいますか。役務とか資材を提供しまして、それが完全にできてしまうまでは、こちらがやはり役務——これは金をやるのではないのだから、役務でやるようになれば、日本から役務がいくわけですから、そういうものの保護とか権利とかは、どういうふうになさるのですか。
  100. 大平正芳

    ○大平国務大臣 いまの話し合いは、つまり三億ドルの無償協力、その三億ドル相当額の役務とあなたが御指摘のわが国の生産物、それから二億ドル相当額の有償のわが国の役務と生産物の協力、そういうことで、そういう大筋の話をいたしておるところでございます。それをどのように実行してまいるかというようなことは、われわれの交渉の場面では、まだ細目にわたっての交渉をいたしておりません。
  101. 石野久男

    石野委員 私は、この有償、無償経済協力、あるいは民間の経済協力が請求権を抹消するかどうかという問題について、非常に大きな疑義を持っておるのですけれども、それは一応ここでは聞かないで先に話を進めておるわけですよ。大臣は、この有償、無償の実際の実務を行なうにあたって——金をやってしまうなら、それは金だけですからいいのですが、役務がいくということになれば、これは人が行くことなんでしょう。韓国に対して、その二億ドルに相当する何がしかのものは役務として韓国にいくということなんでございましょう。違うのですか。どういうことなんです。
  102. 大平正芳

    ○大平国務大臣 これは戦後のわが国の、事柄は違いますけれども、賠償の実施も、日本の役務とそれから日本の生産物でやっておるわけでございます。この経験もございまして、あなたが御心配のようなことが事実あるのかないのか、細目を私はわかりませんけれども、いま問題なくそれが取り運ばれておるわけでございまして、そういう経験もございますので、私はこれを実行に移す場合に、そんなに支障があるものとは考えません。
  103. 石野久男

    石野委員 私は、政府がいま急いで日韓会談を進め、たとえば大平・金合意書というような形におけるところの経済協力が、かりに請求権の代がわりという形で進められていくという場合、先ほども申しましたように、韓国の政情は私はきわめて不安に思っておるわけです。かつて朴政権ができる前の軍事クーデターのときもそうですし、それから三年前の四月十九日にあの学生のクーデターが起こるときもそうでございました。日本政府は、非常に韓国の内情は安定しているというふうに見ており、しかも国会では、それに対してだいじょうぶだという太鼓判を自民党の方々が押して、わずか三日か四日でクーデターが起きたり、あるいはまた学生の革命が起きたりしておるわけですよ。そういう場合に、いままではそういうことの関係はなかったが、こういう形で役務がいき、資材でいくということになれば、これはやはり政府はそれに対する責任をとらなければいけない。責任というか、それを守ってやるということをしなければならないと思うのですよ。そんなことはもうほうりっぱなしにするのですか。
  104. 大平正芳

    ○大平国務大臣 経済協力を受けた生産物なり役務というものをどのように具体化して経済の再建に使うかという主役は、韓国政府でございます。私どもといたしましては、きまった協定に従いまして、日本の役務と日本の生産物を正確に供与してまいるというのが、日本政府の責任だと思います。
  105. 石野久男

    石野委員 私が聞いておるのは、ここから出ていくところのものが、かりに経済協力とはいえ、やはり政府が有償で出すのです。国民の血税に相当するものを出していくわけです。そういうものに対して、政府はそれを守る、保護する、そういう権利を守ってやるということの責任を感じつつ、やはり韓国との間の外交交渉を完結していかなければいけないのじゃないかと思うのですよ。私は、韓国における政情なり社会的な語事情がきわめて安定しておるというようなときならば、百歩下がってそういうことはあまり考えないで済ませますけれども、いま非常に困難な事情にあり、非常に危機、危険が迫っているような時期にこういう問題を進めていきますと、あたらどろ沼の中へ投げ込んでしまうのと同じことですよ。政権がかわってしまえば、われわれはそういうものに対しての責任を持たないと言われれば、それまでになってしまう。私は、そういうような不安定な場に外交の話し合いを進めていき、しかもまたそこに出てくる危険に対して政府は何らの手当もしないで処置をするというようなことは、非常に無責任だと思うのですが、外務大臣は、そういう問題については全然考慮なさらないのですか。   〔松津委員長代理退席、委員長差席〕
  106. 大平正芳

    ○大平国務大臣 日本の役務あるいは日本の生産物の調達というのは、日本の供与する経済協力基金でやるわけでございまして、日本のその役務の提供者、生産物の提供者は、それだけの代償を受けるわけでございます。それが提供されて向こうで事業がうまくいくかいかぬか、その問題は韓国政府の問題だと思います。
  107. 石野久男

    石野委員 事業がうまくいかないかいかなくないかということは、韓国の政府の問題でありましても、たとえば役務を提供するという問題は——役務を提供するというのは、どういう形なんですか。
  108. 大平正芳

    ○大平国務大臣 専門家を送ったり技術者を送ったりすることを意味するものと思いまするが、そういう方がその経済協力基金の中から正当な報酬を受けるわけでございまして、それでございますから、国民に御迷惑をかけるということはないと思います。
  109. 石野久男

    石野委員 役務によるところの経済協力をし——それは政府が請求権の代がわりとしてやることなんですが、その役務としていくところの専門家なりあるいは技術屋なり労務者というものが——私の言うのは、韓国の政情が非常に不安定であり、社会事情が不安だから、もしも事態が非常に急変をして、その身辺にいろいろな問題が出てきたりしたときなどに、どういうふうに政府はその役務を提供した人々を守ってやるのかということを私は聞いておるのですよ。
  110. 大平正芳

    ○大平国務大臣 それはもう日本の外務省といたしましては、韓国ばかりでなく、全世界に在留しておりまする在留邦人の生命財産を保護していくのは、当然の第一の任務でございます。これは全外交機能をあげてやらなければならぬ責任でございます。
  111. 石野久男

    石野委員 私は、その全力をあげて守ってやらなければならないということについて、それでは、この日韓交渉の中ではどういうふうにそれを具体的にするような取りきめが行なわれるのかということを聞きたい。
  112. 大平正芳

    ○大平国務大臣 日韓交渉より何より、それ以前の問題でございまして、外交の第一の任務は、そういうことでございます。在留邦人を保護してまいるのが当然の任務でございまして、そのために外務省はあるわけでございますから……。
  113. 石野久男

    石野委員 私は、平常な場合のことはあまり言っておりません。問題は、たとえば工事中に何かの事故があってということならば、問題にはしないのですよ。しかし、韓国の実情は、おそらく幾変転かするかもしれない。そういうような実情の中で——きわめて不安定ですよ。そういう不安定の中へこういうような役務の提供をするというようなことは、非常に危惧を残すから、だから、それをどういうふうに守るのかということを私は聞いておるわけなんです。外交交渉では、それではそれをどういうふうにして守ろうとするのですか。
  114. 大平正芳

    ○大平国務大臣 まず外国にクーデターが起こるとか、政変が起こる、あるいは応変が起こるという場合、私どもとしてまず第一に気づかうのは、在留邦人の安否でございまして、それに対しましては、われわれの出先の官憲はもとより全力をあげますが、先方の政府に万全の警戒、注意を求めるのも当然でございます。その他あらゆる努力をいたしましてその安全を保護してまいるということ、これはいままでもやってきておることでございます。今後もやってまいることでございます。
  115. 石野久男

    石野委員 時間がありませんから先へ進みますが、一億ドル以上の経済協力というのは、輸銀がそれを世話するということになっておりますが、これは政府にとって非常に大事なことだと私は思うのです。大平外務大臣は、たびたび政府とは関係ないんだ、民間のことだからこれは別なものだ、こう言いますけれども、請求権を肩がわりするこの経済協力の中へ出てくる民間経済協力というものは一億ドル以上で、しかもそれは一億ドルか、あるいは三億ドルになるか、五億ドルになるか、それは皆さんの——大平外務大臣はこう言っておるのです。「それを一億ドル以上あると見るか、五億ドル以上あると見るか、それは判断する人の主観でございまして、」、こういうふうに言っておる。きわめてずさんな内容を持った一億ドル以上なんですよ。しかも、これを輸銀が世話するのです。そういうことになりますと、これは政府としては非常に責任が出てくると私は思いまするが、この一億ドル以上輸銀が世話する内容について、政府はどのようなタッチのしかたをするのでございますか、基礎の考え方をひとつ聞かしていただきたい。
  116. 大平正芳

    ○大平国務大臣 われわれが対韓経済協力と申し上げておりますのは、期限、条件、財源等、政府が責任を持って提供する責任、義務を持つものでございまして、三億ドルの無償協力、二億ドルの有償協力につきましては、政府が責任を持ってやるわけでございます。一億ドル以上の民間借款ということが云々されておりますけれども、日韓の間には、貿易が先ほど申しましたように現にすでにございまするし、将来もますますあるわけでございまして、したがって、輸銀ベースで、民間ベースでいろいろ輸出金融が行なわれるでございましょうということは想像にかたからぬことでございます。そして、先方は一億以上期待できるだろうということを言っているようでございます。しかし、それは先方の主観であると私は申し上げたわけで、それは必ず政府が責任を持って民間にやらせるから——それは、政府はそういう責任を持っていません。また、そういう責任を持つ権限もないのでございます。問題は、政府ほんとうにコミットして国会に対して責任を持ち、国民に対して責任を持ち、条件と期限をちゃんときめておるのは、その三億、二億ドルでございます。その他の問題は、民間で、民間の決意で、民間の契約でやられることでございまして、したがって、それは期限も何も言っておられないようでございます。それが十年で言っているのか、五十年で言っているのか、それは私にはわからないのでございまして、おそらく日韓の間には貿易関係があるから、一億ドル以上くらいは期待できるだろう、そういうことを言われたと思うのでございます。政府はそれに対して責任を持っておるわけではございません。
  117. 石野久男

    石野委員 大平外務大臣は、民間のことだからまあ自由におやりなさい、貿易関係も進んでいくことだから、それは自由に判断でやるでしょう、こういうような全然関係のないようなお話でございますけれども、しかし、かつてインドネシアの賠償の問題は、やはりそういう形の中でとうとう政府は責任をとりました。一億七千数百万ドルというものを、とうとうとらなければならなくなったのです。現在の韓国の経済事情や国内の外貨事情などから考えますれば、これは一億ドルとか二億ドルとかというような、そういう額をいうどころの騒ぎじゃない、ほとんど輸入すべき外貨資源というものを全然持っていないのですよ。そういうことですから、これはそんなに、大平外務大臣が言うような、簡単に放任しておくべき性質のものじゃないと思うのですけれども、大平外務大臣は、その点については全然御配慮なさいませんか。
  118. 大平正芳

    ○大平国務大臣 民間の方々がお取引をされて、信用に自信を持たれて、またその代金の回収について自信を持たれておやりになることを、私はとやかく申し上げたくないと思います。民間で活発な貿易がグローバルに行なわれている今日、政府がとやかく干渉いたしたくはございません。ただ、石野さんがおっしゃるように、国際収支が特別国との間に非常に悪くなっている、焦げつきができるという場合には、政府の関心にならざるを得ないじゃないか、それは仰せのとおりでございます。インドネシアの例がございましたが、これは、インドネシアとの間に焦げつき債権ができたということでございまして、しかし、それは賠償交渉のときに片づけたわけでございます。韓国の場合も、四千数百万ドルの焦げつき債権があることは御承知のとおりでございますが、それを、私どもはこの機会に片づけるということで原則的に合意を見ておりまして、それをどのような片づけ方をするかという細目は、まだ交渉中でございますけれども、これは早晩片づけることでございまして、そのことと民間ベースでお取引されるということとは、別な問題だと思います。
  119. 石野久男

    石野委員 いま大平外務大臣がおっしゃったその四千五百七十万ドルの焦げつきの債権は、今度の大平・金合意書の中のその金でそれじゃ片づけるわけですね。
  120. 大平正芳

    ○大平国務大臣 先ほど申しましたように、合意書というのはございませんので、正確に用語をお願いいたしたいと思いますが、私どもの話し合いでは、この際、長くたまっておる焦げつき債権も片づけようじゃないか、先方も片づけたいということで、原則的に片づけるということに一応の合意を見ております。ただ、それを何年間で返還を求めるかという点が、一点いまなお煮詰まっていない点であると申し上げておる次第です。
  121. 石野久男

    石野委員 一億ドル以上の民間経済協力というのは、これは輸銀が扱いますから、商社の側、取引をする側からしますと、輸銀というのは、これは政府関係する機関です。輸銀は、そういう形で政府がうしろだてになり、しかもこれは賠償の請求権の肩がわりだということが見合っておりますから、財界なり商社の側からすれば、非常に心強いものがあります。だから、韓国の国際収支の事情、外貨事情がどうあろうとも、話し合いが進めば幾らでもこれは契約をなさるだろうと思うのです。ここに非常に問題が出てくる。私は、やはりこの問題については、外貨群情を見合いながら政府は相当程度の干渉でもしませんと、これは容易ならぬ責任が政府にかぶさってくるのではないかという危険を感じますので、これは大蔵省あたりは相当考えるだろうと思うのですが、田中大蔵大臣は、その点についてはどういうようにお考えになりますか。
  122. 田中角榮

    ○田中国務大臣 民間ベースの問題でありますので、個々のケースをよく審査をして、輸銀で取り上げるものは取り上げ、適格でないものはこれを取り上げないというふうにやっておるわけであります。これは韓国だけではなく、各低開発国との間にもいろいろな問題がありますが、この問題は、具体的な事項がきまってから輸銀で審査をしてきめるわけでありますから、外貨事情等が非常に悪いとか、回収が、不能であるとかというような場合、また延べ払いの条件が非常に悪いというような場合には、輸銀でめんどうを見ないということもあり得るわけであります。
  123. 石野久男

    石野委員 私は、この輸銀を通ずるところの経済協力は、おそらく相当程度政府の責任をとらなければならない事情が出てくるだろうと思う。特に韓国の現在の経済事情なり外貨事情というのは、当分先行きの見通しはよくありません。ことにアメリカ経済援助の形にしましても、ラスク・朴共同声明がありますけれども、それでもドル防衛の立場からすれば、そうワクは広がらない。おそらく六千五百万ドルくらいでおさまるだろう。そのくらいのものだと思うのです。そうすると、とても外貨事情はよくなるはずはないのですから、これは相当程度抑えていかなければいけない。しかし、それにもかかわらず、おそらく貿易は、累年、通関統計なんか見ましても上がっていっております。通関の実績の中でアメリカの援助で取引をしているものはどのくらいあるのか私はわかりませんけれども、オープン・アカウントの面でのスイングの額を、早晩、やはり貿易自由化というものが出てまいりますので、追い越してしまうだろうと私は思うのですよ。そういうようなことをいま政府は巧みに隠しておると思います。つい最近、大蔵省のほうでこの輸銀法を改正するということを打ち出されております。そして低開発国に対する輸出振興の一環として、民間債権の肩がわりということが出ておるわけです。おそらく日韓会談の中で出てくる、こういうような経済協力や何かから出てまいりますいわゆる輸出オーバー、債権の焦げつきという問題に対処する輸銀の責務を、こういう輸銀法の改正の中で改正しようとする非常に巧みな工作がここへ入っておると、私は見ておる。これは笑っておるけれども、実はそこがねらいだと私は思う。これはあなた方、そんなことを言ってなにしているが、結局そういうことになってしまいますよ。大体日韓会談というのは、もともと相手方に非常に不安定なものがあるにもかかわらず、積極的にこれを進めようとする意図は、やはり政府と、日本の独占なりあるいはアメリカの姿勢というものから、そういう形が出てくると私は思うのです。  大蔵大臣に聞きますけれども、この輸銀の機能を拡大して、民間債権の肩がわりをする、この民間債権の肩がわりを早晩せねばならぬ部署というのは、どういう地点でございますか。
  124. 田中角榮

    ○田中国務大臣 輸銀法の改正は、つとに在野及び皆さんからも御意見が出ておるのであります。東南アジア等低開発国に対しての貿易拡大の方向としては、当然輸銀法の改正をやらなければいかぬ。しかも日ソ貿易や日中貿易に対しましても、そういういろいろな皆さんの御意見があったわけでありまして、政府としては、開放経済に対処して輸銀がより大きな機能を弾力的に発揮できるために、これらの要請にこたえての改正を行なおうとしておるのでありまして、日韓交渉に付随をして起こるであろう民間プロジェクトの問題に対して、それを初めからもう焦げつきを承知して肩がわりをするのだということは、思い半ばに過ぐる——というよりも、どうも少し立場を変えての御質問でないか、このように考えるわけであります。
  125. 石野久男

    石野委員 とにかく日韓会談でもしこのように進んでいくというと、私の心配するような事情が出てくるだろうと思いますから、そういうことにならないようにひとつしてもらわぬと困ると思うのです。  李ラインの問題について聞きますが、政府は、韓国側の要求している専管水域あるいは共同規制水域というものに対して、どういうふうに日本の利益を守るために対処していこうとしておりますか、この際、外務大臣からお開かせ願いたいと思います。
  126. 大平正芳

    ○大平国務大臣 いわゆる専管水域の問題につきましては、これは国際的な基準というものを尊重しようじゃないかということで、両国ともいっておるわけでございます。それから専管水域外の問題は、きのうもここで御説明申し上げましたとおり、資源の保護、資源の賦存の状況から見ますと、むやみやたらにとっていい海域でないという資源認識は、両国とも一致いたしておりますので、適正な規制を両国とも加えていく必要がある、両国の漁業者の利益のためにそうする必要があるということにおいても、両国の見解は一致いたしておりまして、問題はいかなる規制方法をとるかという問題でございまして、私どもといたしましては、ある程度の規制の方法は必要だという認識が一致しておる以上、これは両国とも共通の規制を受ける、はんぱな規制じゃ困る、平等の規制でなければならぬということと、規制の方法は、明確で実際的でなければならぬということで、せっかくいま交渉しているということでございます。そうすることによって、長きにわたって両国の漁業者が安全操業を保障されて、利益を享受し得るような状況を形成いたしたい、そのように努力しているつもりです。
  127. 石野久男

    石野委員 専管水域を認めた上で共同規制をするということについては、日本の漁民の利益を守る立場からして、これは私ども賛成できないのです。そういう点で、もっと政府考えるべきだと思います。  なお、この李ラインの問題については、韓国のほうでは、この交渉の中で、共同規制水域とかあるいは専管水域というものが出てまいりましても、なおやはり防衛ラインだけを残せという声が非常に強いし、政府もそういうように考えているようだが、日本政府は、この防衛ラインというものを残すということに対して賛成しますか。
  128. 大平正芳

    ○大平国務大臣 そういうことは私ども関知いたしておりません。
  129. 石野久男

    石野委員 これは今度の問題ので、韓国では、どんなことがあっても防衛ラインというものを残さなければいけないということの意見が強いのです。私は関知していないということじゃなしに、早晩これは日本に対して非常に関係の多くなるものです。もし関知していないといって、防衛ラインが新たにできてくれば、これは幾ら李ラインの中の解決が共同規制だとかあるいは専管水域だとかいうことで解決しても、同じことになってしまいますよ。いま現に交渉しているさなかでも、韓国のほうは、この李ライン問題の警備を堅固にしておる。飛行機まで配置しておるといわれておる。そういう問題について政府が関知していないというふうなことでは、日本の漁民を守ることができないのではないか。私は、こういう点でこれはもう一ぺん外務大臣にしっかり考えてもらいたいと思います。  それから同時に、私は、この李ライン問題の解決で、規制水域あるいは専管水域の問題を通じて、日本の漁民の漁獲高がどのようにあるのかというようなことも聞きたいのですが、これはきょうはもう時間がございませんから、私はこれをおきます。  そして竹島の問題については、これは国際司法裁判所に提訴するという考え方は譲らないで、最後までそれを通す所存でありますかどうか、その点だけひとつ聞かしていただきたい。
  130. 大平正芳

    ○大平国務大臣 そのように私どもも先方に申し入れてございます。先方の反応は、この間この委員会で私がお答えしたとおりでございます。しかし、いずれにいたしましても、一括懸案の解決ということを目ざしております私どもといたしましては、竹島問題につきまして、少なくともどうして解決するかの方法におきましては、一致させておく必要があると考えております。
  131. 石野久男

    石野委員 あと一つだけ……。
  132. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 お約束の時間がきておりますが、それでは一つだけ許すことにいたします。
  133. 石野久男

    石野委員 総理に私は最後に申し上げたいのですが、中国問題に関して、総理は、歴史を考えて、中国の人民がいることを頭に置いて、自主的な態度で国民の利益を守るためにどういう態度をとったら世界的に認められるか、当座の利益ではなく、長きにわたってわが国の利益のために広い、高い、強い態度で臨むと、こういうふうにきのう御答弁なさいました。これはまことにけっこうなことです。私は、総理がいつも言う自由主義諸国間の二本の柱であるという日本の国の総理大臣として、池田総理は、日本と朝鮮との平和的な友好関係、外交関係を確立するために、謙虚にこの三十六年間のわが国が朝鮮に与えた植民地的支配の帯痛を反省し、それを清算する考え方を基礎にして、朝鮮問題の外交施策に当たらなければいけないのじゃないか、こういうふうに私は思っております。長いきょうだい的な友好関係を持っておる日本と朝鮮との関係を、今日の事態から一日も早く平和的、友好的に改め直さなければならぬ責任が、多分に日本の側にあるというふうに私は考えております。総理は、こういう考え方に対してどういうふうにお考えにたっておるか。ポツダム宣言、全面降伏、そして平和条約——この平和条約というのは全面講和ではないので、いろいろと国際間の問題を未解決のままに残しておりますけれども、とにかくその条約の第二条は、朝鮮の独立を日本国が承認することを規定しております。朝鮮と日本との外交関係は、独立した朝鮮との間に互恵平等、善隣友好のもとに行なわなければならない。ところが、朝鮮は日本に従属したという事実のために、この戦争の終末期におきまして、連合国によって二分された形になった。そういう形で解放されたのです。五年以内に南北が統一するという手はずになったところのものが、不幸なまま現状に立ち至っておるのであります。戦後二十年に及ぶ今日までそれが続いておる。朝鮮人民は、自分たちの意思でこれを二つに分けたのではないのです。日本の長きにわたるところの支配の結果として、そのように二つに分けられるような事態になっておると見なければいけないと思います。日本は、朝鮮の独立に協力するという外交をとらなければいけない、その道義的責任があると私は思う。これは謙虚に考えるべきだと思うのです。そのためには、この南と北とに分けておる三十八度線というものを一日も早くなくすように、積極的に協力する、妨害をしないようにする義務が、私は日本にあると思うのです。私は、池田総理や、あなたの党の皆さんとは意見、考え方を異にするところがございます。しかし、朝鮮民族が二つに分かれている現実を悲しみ、これを一日も早く一つにしようとすることに対しては、きっとあなた方の同感を得られるだろうと思うのです。日本の外交は、アジアを軸にして世界の平和に寄与せねばならぬと思います。そして中国と交わり、朝鮮と結ばねばなりません。そのためには、外交の上で朝鮮の統一を妨げることのないように、むしろ協力すべきであると私は思うのです。日韓会談は、こうした重大な日本の外交の道を誤らせます。南と北とはいま二つに分かれておる。サンフランシスコ講和条約でいう朝鮮の独立というものは、そういうことを予想していないのです。私は、まず、日本政府は、この統一に協力するようにしなければいけない。日韓会談が少なくとも朝鮮の統一というものに対して妨げになるということになるならば、これはやめるべきだと私は思います。総理は、そういう立場で全朝鮮との平和条約を結ぶようにすべきです。いまの南朝鮮は非常に政治的にも、経済的にも、社会的にも混乱をしております。そういうところに日本人の膏血をしぼった税金を持ち込むということをしないで、朝鮮が統一した後にやっても決しておそくない。むしろそのことのほうが、日本と朝鮮との友好関係、アジアにおけるところの平和を確立する上において、非常によいことだと私は思います。池田さんは、資本主義諸国における三本の柱の国の総理大臣だそうです。大宰相としての自負心を持っておられると思う。あなたが行なうところの今日の外交は、千歳に残るものだ。あなたがほんとう日本国民と朝鮮の国民との間に長きにわたるところの歴史的な関係、将来にわたるところの歴史的な関係の平和的友好関係を結ぶについては、朝鮮の人々は、何といったって一つかまのめしを食いたい、三十八度線を何とかなくしたいという念願を持っておるということ考えるべきです。これはどんなにあなたがそんたくしても、朝鮮人の本心です。だから、朝鮮の平和的統一を阻害するという日韓会談というものについては、これは慎重な配慮をなさるべきだと思います。そしてほんとうにこの朝鮮が平和的統一をしたあとで日本と朝鮮との友好関係を結んでも、決しておそくない、こういうふうに思いますが、総理はそれに対してどういうふうにお考えになりますか、ひとつ御意見を承りたい。
  134. 池田勇人

    池田国務大臣 南北の朝鮮が統一されることは、われわれも願うところでございます。その点につきましては、あなたと同じ意見であります。しかし、統一されるまで韓国との国交正常化を待つわけにはいきません。しこうして、私はあなたと考えの違うもとは、朝鮮が南北に分かれたのは、日本が三十六年間統治しておる、その結果から分かれたということは、全然違うことであります。ドイツの分裂はなぜできたか、これと同じことです。東西の確執から起こったということをお考えにならなければいけません。したがって、韓国との国交についての正常化についての意見の分かれるところは、あなたの根本的考え方が、私は、大戦後におけるこの世界の情勢に対して認識が違うところから起こると思います。
  135. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 この際、運輸大臣より、先ほどの石野君の国鉄事故質疑に関して答弁をいたしたいと申し出があります。これを許します。  綾部運輸大臣
  136. 綾部健太郎

    綾部国務大臣 けさほどの国鉄の事故につきまして、八時四十七分に復旧いたしました。十時、本議場に私は報告しようと思ったのでありますが、石野さんの質問中であったから控えて、いま時を得まして報告を申します。  発生の日時、昭和三十九年二月一日、午前七時五十七分。  場所、東海道本線品川駅構内。  概況、品川駅構内で東海道新幹線工事中、クレーンの鉄製のバケットが信号高圧線に接触してこれを切断したため、都内各線の信号が停電したために、各駅間一列車運転方式を施行し、これにより各線の運行状態混乱しました。  信号停電区間一、中央線、お茶の水−東京。二、京浜東北線、東京−秋葉原。これは回送線であります。それから神田−大井町。  それから三番目が東海道本線、東京−大森。  それから品鶴線、品川−蛇窪間。  それから山手線、これは貨物線でありますが、目黒川−大崎。山手線、神田−品川。  復旧は、ただいま申しましたように八時四十七分に復旧いたしました。  信号高圧線は、予備線を含めて二回線ありますが、二回線とも切断されたのであります。これがために乗客約百五十万人が影響を受けまして交通、通勤の混乱を起こしましたことは、まことに遺憾でございます。つつしんで国民諸君に対しおわびを申します。
  137. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 これにて石野君の質疑は終了いたしました。  午後は一時十分から再開することといたします。  なお、午後の質疑者は多賀谷真稔君であります。なお、同君の要求大臣は、総理大臣、外務大臣、法務大臣、大蔵大臣、厚生大臣、農林大臣、通産大臣、労働大臣、自治大臣、経済企画庁長官であります。  暫時休憩いたします。    午後零時十九分休憩      ————◇—————    午後一時十五分開議
  138. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  昭和三十九年度総予算に対する質疑を続行いたします。  多賀谷真稔君。
  139. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、いま国の内外で非常に問題になっておりますILO八十七号条約を中心として、さらにILO一号条約、二十六号条約、百二号条約、百五号条約等について、国内の問題と関連をして質問いたしたいと思います。  まず第一に、日本は八十七号条約は批准をしておりませんけれども、ILOの機関においてとやかく勧告を受けております。一体国際条約で批准をしていない、効力が発生をしていない条約について、国際機関がとやかく干渉をすることは、これは国内干渉になりやしませんか、こういう意見を、言う一部の有力な層が日本にあります。でありますから、これについて総理大臣はどういうようにお考えであるか、お聞かせ願いたい。
  140. 池田勇人

    池田国務大臣 ILO八十七号条約につきましては、その基本精神はわれわれの賛成するところでございます。しこうして政府におきましては、昭和三十四年か五年に一応の批准する方針をきめまして、これを理事会にも言っております。また国内におきましてもたびたび法案を出した関係上、ILOのほうで早く批准してほしい、こういう希望を述べておるのでございます。私は、これが直ちに内政干渉というふうなことには受け取っておりません。
  141. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういたしますと、日本がILOの場で、八十七号についてはたびたび批准をするということを言明しておるから問題になっておるわけですか。日本は今後八十七号条約については批准しない、こういう、態度を変えたら問題になりませんか。
  142. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、そういう態度を変えようと思っておりませんから、そういうことについてのお答えはできません。
  143. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも質問にはっきりお答えになりませんけれども、要するに、いまあなたの党の中で、批准をしない条約についてとやかく言うのはおかしいじゃないか、条約というのは、批准をして初めて効力を発する、そこに順守義務ができる、しかるに、なぜそういうことを言っておるのだ、こういう意見があるから、総理の見解を聞いておるのです。
  144. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど答えたとおりでございまして、ILOのほうでは希望しておるということを言っておるのであります。それは、法律的にはまだ批准していないのですから、ILOがこれを実行しろとかなんとかいうわけではないのであります。日本がそういう考え方を持っているから早くやってもらいたいということを言っておるのでございます。
  145. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 外務大臣、どうですか。
  146. 大平正芳

    ○大平国務大臣 アメリカやスイスなんかは批准いたしておりませんけれども、あれは連邦制をとっておる関係でございまして、先進工業国は大体ILOを批准いたしておりますし、日本も十大先進工業国の一つでございますので、政府のほうもそういう決意で当たっておりますし、世界もそれを期待いたしておると思うのでございます。ただ、いま問題の、まだ批准していない条約についてとやかくいわれるということでございますが、それは、批准していない条約についてでなくて、政府がすでにILOに表附した意向のとおりになっていないことに対するILOの不満が表明されておるものと心得ます。
  147. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも、総理大臣並びに外務大臣も認識が違うようです。これはかってNHKのテレビでILOの世話人会の自民党の会長であります倉石氏もそういう話をした。私は先般のILO特別委員会でそれをたしなめました。彼からは弁明があった。外務大臣、そういう認識ですから八十七号条約の批准が一向進捗しないのですよ。政府が表明をしたから問題になっているんじゃないのですよ。これは表明をしなくても問題になるのです。どうなんです。
  148. 大平正芳

    ○大平国務大臣 それは実態的に申しますと、先進工業国として結社の自由を認めるということが各国の慣行になっておりますし、わが国もそうあってしかるべき段階にきておると思うのでございます。ただ、いま問題になっておるのは、すでに三十四年にそういう表明がなされておるということが問題を非常に激化させておるというように私は理解をしております。
  149. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 もう少し正確に答えてもらいたい。激化させておるというんじゃなくて、一体、日本政府が声明をしたから問題になったのかと、こう聞いておるのです。批准をしない条約についてなぜ問題になるか、批准をしてから効力を発生するというのが国際条約の常識ではないか。また慣行ではないか。しかるに八十七号条約だけなぜ問題になるんだ。ほかの条約は問題になっていないでしょう。この点についての認識がないと、幾らILOで問題にしても批准も進展しない。総理どういうようにお考えですか。  続いて私は質問しますが、一体ILOの加盟国でなければこれは問題になりませんか。ILOを脱退すれば、結社の自由の問題は、国際的機関において問題にされませんか。この二つの答弁を願いたい。
  150. 大平正芳

    ○大平国務大臣 わが国は貿易圏といたしまして、外国との経済交流の中に生きておるわけでございまして、わが国は国際的信用を持ってまいらなければならぬということは、わが国の非常に大事な点であると思うのでございます。したがいまして、ILO条約を批准しておろうがおるまいが、わが国の労使の関係がどうあるべきか、労働関係はどういう状態においてやるか、近代的な状態にあるかどうかということは、わが国の国際信用の上から、経済外交上非常に重大な点であることは申すまでもございません。したがいまして、ILOを批准しておろうがおるまいが、この問題からの圏外に日本がいつまでも立てるという性質のものではないと私は思います。
  151. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 わけのわからない、大平さん独特の答弁をされておりますけれども、私は実に簡単なことを聞いているのですよ。批准をしてないのになぜ問題になりますか、こう聞いておる。しかも私は、いま百十九もある採択をされた条約の中で、なぜ八十七号が問題になるか、これを聞いているのです。ひとつ総理でも外務大臣でもけっこうですから御答弁を願いたい。
  152. 池田勇人

    池田国務大臣 ILO八十七号が批准をしないのになぜ問題になるか、こういう御質問でございますが、そのなぜ問題になる、その問題ということはどういうことなんでございますか、それがはっきりしない。問題がどういうようになっておるということについての質問でございますか。御質問がはっきりしません。
  153. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 まず第一に批准をしていない、しかも国内においては組合権が侵害をされておる、こういう事実を何度もあげて、日本に過去十五回勧告をしておる。しかも二月十四日から開かれるILOの理事会においては、事務総長が結社の自由事実調査調停委員会に付議すべき具体案をつくって提案をすることになっておる。批准をしていないのになぜこれだけの大きな問題になるか、こう言っているのですよ。ほかの条約ではそういう問題は起こっていないでしょう。それをお聞かせ願いたい、こう言っている。
  154. 池田勇人

    池田国務大臣 御質問の点がわかりました。これは、すでに多賀谷君御存じのとおりに、ILO八十七号というものはILOの関係で一番重要な規定でございます。それは、結社の自由と団体交渉権でございます。基本的なものです。これは、そのこと自体がやはり各国とも守られるものという前提がある程度あるでしょう。しかし、これを批准していない国もございます。その国の事情によって。要はその結社の自由と団体交渉権が実際認められているような状態ならば、たいした問題はございますまい。しかし、それが実際にその実があがっていない場合におきまして問題のあることは、これは基本的な問題なんです。これは、もうだれもわかっていることです。ことに日本は、国連におきましての経済社会理事会の理事国であります。そうして先進工業国、非常に労働者も多いし、労働関係の非常に進んだ、また進むべき国柄である。にもかかわらず日本がこれを批准していないのは、どうも先進国としていかがなものかということは前からあることなんです。しかし、今度問題が起こったということは、そういう雰囲気のところで、たびたび批准しますと言いながら、しかもまた国会にたびたび出しながら、これが日の目を見ないということがいま問題を大きくしているわけでございます。この点は、私は前の外務大臣が答えたことと私のお答えでおわかりになっておると思うのですが、問題になっている、問題になっていると言われるから、それがはっきりしないものですから……。
  155. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理大臣が後半の問題として激化しておるという面だけは外務大臣と同じである、その点は私も認めます。ところが総理がおっしゃいましたように、この条約はILOの中で最も基本的な条約である、であるから、当然順守をされるものとILOは考えておった、またそれが前提である、こうおっしゃる。これがあなたの党に、残念ながらわかっていないのです。総理大臣がいまおっしゃって、みな閣僚はそういうものかなと、こういう顔をされておる。これが一番基本的な問題ですよ。ですから、私はさらにお尋ねしたいのですが、ILOの加盟国から脱退をすればこれは起こりませんか。
  156. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう質問に私は答えることはいたさないつもりでおります。前に申し上げておるとおりであります。そういう極端なことを私はすべきじゃない、それはもうお問いになるまでもなく、先ほどの答えでおわかりと思います。
  157. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では少し法律的な問題ですから外務大臣にお尋ねしたい。これはILO加盟国だけが問題になるのですか、加盟国でなければ問題にならない性格のものであるか、それをお尋ねしたい。
  158. 大平正芳

    ○大平国務大臣 仰せのとおり加盟国だけの問題でございます。
  159. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ほんとうですか。調査調停委員会というのは加盟国でなくても当然付託されるでしょう。それは教え方が間違っておるぞ。
  160. 大平正芳

    ○大平国務大臣 先ほどお答えしたとおりです。
  161. 中川融

    ○中川政府委員 いまの外務大臣のお答えを補足さしていただきますが、ILO条約は、もとより世界全体にわたりまして労働条件の保護をはかるということが大目的でございます。なお、結社の自由委員会というものができました趣旨は、世界全体にわたってそういうことが現実に行なわれるということを促進しようという趣旨でできたわけでございます。したがって、たとえば八十七号条約を批准していない国につきましても、何かそういう一番原則的な結社の自由、これが侵されておるというような事実がある、疑いがあれば、これは何人でもそれを訴えることができるわけでございます。その訴えに基づいて結社の自由委員会が調査をするということも、これはILOとしてはやれるわけでございます。しかし訴えられた国ないし政府、これはこの八十七号条約を批准していなければ八十七号条約それ自体には拘束されませんし、なお八十七号条約をたとえ批准しておる国でありましても、たとえば調査委員会が来ることはお断わりすることもできる。要するに最後の御質問の、ILO加盟国でないものに及ぶか及ばないか、これはILO加盟国でない国の、たとえば労働者の団体が結社の自由委員会に訴えるということはあり得ることだと思います。しかしながら、その結社の自由委員会がそれを審査し、あるいは調査団を出すということを、これはILO加盟国でなければ断われる、それに服する義務は全然ないわけでございまして、それは当然できるわけでございます。ILOというのはちょっとほかの国際機関とは変わった性格のものでございますので、仕組みはちょっと変わっておりますが、基本的には条約に入ってないものを拘束し得るわけはないことは、外務大臣のお答えになったとおりでございます。
  162. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 やや正確になりましたけれども、一点だけやはり違う。それは、その条約はほんとうに特殊な条約です。また結社の自由の原則というのは、特別の取り扱いをなしておる。そもそも結社の自由の原則の承認は、総理がお話しになりましたように、ILOの旧憲章の前文にあって、加盟国であれば当然順守をするものとILOは考えておった。ところがその後全体主義の国が興りました。御存じのように日本もその一つですが、その条約が——かつてのファシズム、ナチズムの話をしておるわけです。戦前の話です。ですから、旧憲章と私は申したわけです。そこでこのときに組合の団結権が非常に侵害をされた。そこでやはり条約をつくらなければならぬという機運があって、条約をつくろうとしたけれども、当時かなりいま申しましたように全体主義の国が力が強くなったのでできなかった。そこで戦後、これはそもそもILOから起こった問題じゃないのですよ、労働団体が国連に問題を提起をしたのですよ。そうして国連が組合の団結権を認むべきであるという議論をした。そうしてILOに結社の自由事実調査調停委員会をつくるように、国連がいったのですよ。ですから、ILOの機関でありますけれども、結社の自由事実訓育調停委員会というのは国連からも問題を持ち込めるような仕組みになっておる。これが普通と違うのですよ。ですから、国連加盟であればILOに加盟しなくても当然問題になる。その事実調査調停委員会がいま発動をしようとしておる。こういう重大な時期ですから、もう少し基本的に考えてもらわなければ困るのですよ。これが党内に何か利用されるような話になったり、派閥問題にからんだり、毎日の新聞を見てごらんなさい。私は窓口折衝の責任者の一人ですが実に情ないと思う。  こういった前提に立って、私は続いて過去日本がILOに対してどういう態度で臨んだかということをお聞きいたしたい。一体条約は幾ら批准をされたか。いま総理もお話しになりましたように、日本が一番問題になっておるのは、とにかく選挙なしに日本政府は常任理事国になったわけですよ。選挙も何もしないで常任理事国にしてもらった。しかもアジアの工業国である。そうして総理から言うならば、西欧並みになろうとしておる。その日本が、一体どれだけの条約を結びましたか。基本的な条約を幾つ結びましたか。批准をいたしましたか。まずそれをお聞かせ願いたい。
  163. 大平正芳

    ○大平国務大臣 わが国は、現在までに二十四件のILO条約、このうち戦前に十四件、戦後に十件批准いたしております。
  164. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ILO条約の一号といえば、一九一九年、私の止まれる前ですけれども、その条約がまだ批准されていないですね。しかもこれは四十八時間制の条約ですよ。工業企業における四十八時間制の条約すら批准をされていない。なぜ批准できないのですか、労働大臣にお尋ねいたしたい。
  165. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 第一号条約の内容は、工業的企業に使用される労働者の労働時間は、原則として一日八時間、一週四十八時間、ただし、例外として一週四十八時間のワク内で一日九時間まで許され、また一定の条件のもとに時間外労働が認められる、こういうことに相なっておるのでございまするが、ただいま国内法におきましては、一日八時間、一週四十八時間の原則につきましては、労働基準法はこの条約と一致いたしておりまするが、上記の例外が認められる点が異なっております。このために批准するに至っておりません。
  166. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 こういうきわめて重大な条約、しかも半世紀を過ぎんとしておる。いま問題になっておるのは四十時間でしょう。一週四十時間が問題になっておるときに、四十八時間の条約すら批准できないというのはどういうわけですか。それは形式的には労働基準法に違反しておる、こういうことです。一体この条約こそ批准すべきじゃないですか。
  167. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 現在批准されていない理由は、先ほど申し上げましたごとく、基準法の規定と条約の内容とがそごいたしておりますので、これが調整をまだ終えておりません。したがって、その調整を待って批准すべしという考えでございます。
  168. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 なぜ法律を改正にならないのですか。それは基準法と変わっているから批准できないことはわかっているんですよ。
  169. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 基準法につきましては、この条約一号ばかりでなく、国際条約、すなわちILOの条約でなお未批准のものが他にも相当ございます。したがって、これらにつきましては、適当なる機会に一括いたしまして、国内事情等を十分検討の上調整をいたしたい。その上でできるだけ国際条約の批准に進みたいと、かように考えております。
  170. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 日本の基準法は、例は必ずしも的確ではないですけれども、ある日六食食事をすれば、翌日は一食もしなくてもいいという基準法になっているんですよ。毎日三食をしなければならぬというのが、ILO条約の一号の規定です。ところが日本のは、いや、六食食べさしたから、翌日は一食もしなくてもよろしいのだ、平均したら三食になる、これが日本の基準法の例外規定ですよね。ですから、いま西欧並みと言っているんですから、少なくともかっこうからいっても、ILO条約の一号でしょう、一号くらい批准されたらどうですか。
  171. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 多賀谷君の御意見は、私も確かに首肯すべき点がございますので、今後すみやかに検討いたしたいと思います。
  172. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理、どうですか。賃金の問題はやがて聞きますけれども、いま労働時間ですね、少なくとも四十八時間の、一号の基準は——いまや四十時間が問題になっておるときですからね。アメリカの公正基準法は四十時間。ですからひとつ踏み切られたらどうですか。
  173. 池田勇人

    池田国務大臣 働く時間が短くて、そうして食べものもよくて、住宅もいいことは、私の言う高度福祉国家の理想の姿でございます。それに近寄りたいというので、みんなが心を合わしてやっておるのでございます。したがいまして、その国の国情、経済力、国際競争力ということを考えますと、しかもまた、少ない資源でたくさんの人がみんなうまくやっていこうという場合におきまして、何もよそがやっておるからすぐ、それをやらなければならぬ、——ただ原則として大体四十八時間ということでいっておるのであります。だから、だんだんこれが進んでいくようになれば、よその国のように週四十時間ということも考えられましょうし、またいまの四十八時間も短くしょうという個々の会社も出つつあるのであります。私は、私の念願する高度福祉国家が実現すれば、これはあなたのおっしゃるようになると思うし、またそうするための経済成長であるのであります。
  174. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理、四十八時間の条約を批准されたらどうですか、こう言っておるんですよ。四十八時間です。四十時間じゃないですよ。高度福祉国家だったら四十時間が問題になるでしょう。そこまでいかないけれども、四十八時間ではどうですか。しかも例外規定だけですよ。例外規定、これは私は、踏み切ればできると思うんですよね。しかも人が多いと言うんですから、なおそうですよ。
  175. 池田勇人

    池田国務大臣 人が多いの前に、資源が少なくと、こう言っておる。そこが問題なんです。  そこで、いまの四十八時間というものは、労働基準法できまっております。しかし、例外規定その他はわが国の国情によって設けられておるのであります。したがいまして、原則の四十八時間はきまっておりますが、その例外的の問題につきましては、労働大臣が、言っておるように、できるだけ早くそういうことをなくしていきたいと思います。それにはやはり国全体がよくなることをまず考えていくべきだと思います。
  176. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働大臣の志向する方向は認められましたから、続いて質問いたします。  いままで批准をすると何度も言いながら、批准してない条約がある。それは二十六号条約、すなわち最低賃金決定に関する条約ですね。これは、岸総理大臣、倉石当時の労働大臣、こもごも立って、現在国会にかけております最低賃金法が成立をいたしますならば、すみやかに批准をいたしますと、こう言っておる。その後数年を経るわけですが、一体何ゆえ批准をなさいませんか。
  177. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 二十六号条約につきましては、お話の通り現行最低賃金法成立の際に、二十六号条約を批准するために国内においてこの法律を制定する必要がある、かような趣旨で最低賃金法が制定されたわけでございます。しかしながら、御承知のごとく、現行最低賃金法は、最低賃金の決定につきましていわゆる業者間協定の方式をとっておるのでございまして、これにつきましては、二十六号条約に照らして適当なりやいなや、多少法律上疑問の点があるのでございます。したがいまして、この点についてILOの帯務当局に対しまして判断を求めておるわけでございまして、それがためにまだ批准の手続をとることができずにおる次第でございます。
  178. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理、国会で総理大臣が言明されたことを、しかも同じ政党が続いておる場合に、前の総理大臣の言明は、次の総理大臣は一応継承されますか。
  179. 池田勇人

    池田国務大臣 継承される情勢ならば継承いたします。しかし、情勢の変化がある場合には、それは継承しない場合もあります。ただ、いまの問題につきましては、労働大臣がお答えしたとおり、最低賃金制の日本での法律と、ILOの二十六号との関係がどうなっておるか、そうしてどういうところに日本法律との違いがあるか、どういう解釈でいくべきかということを打ち合わしておるのでございます。だから、前の総理の言われたできるだけ早くこれを批准しようという方針にかわりはございません。
  180. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、国会軽視もはなはだしいと思うんですよ。われわれがついたのは、二十六号条約に合致をしていないだろう、業者間協定であるから、こういうことを何度にもわたって、各委員から質問をしておるんです。これは、二十六号条約並びに三十号の勧告、これから見ても、どうもいかがわしいが、どうか、だいじょうぶか。これについてだいじょうぶです、批准できます、批准いたします、こう答弁しておるんですよ。それがいま労働大臣のように、はっきりしない点があるとか、日本の最低賃金は業者間協定である、だから批准できないような情勢にある、これは何たることですか。私は、岸総理大臣、倉石労働大臣を呼んでもらいたい。こんな重要なことが、しかも国会で、われわれはこの法律では批准できないだろう、こういうことを言っておるのに、批准ができます、間違いありません、成立をいたしましたら、すぐ批准手続をやりますと、こう言っておる。そういう答弁は私は許されないと思う。いかに内閣がかわろうと、同じ政党が政権をとっておいて、しかも、これは一回ぐらいの言明ではありませんよ。各委員ことごとく立って、野党議員は質問をしておる。与党の齋藤君も質問しておる。元労働次官の齋藤君が立って、批准できるかと、こう言っておる。こういう問題がいまごろ研究してみたところが批准できない、そういうことは許さない。私は、その当時の実情並びにILOとの折衝の課程を聞くために、ここに岸さんと倉石さんに来てもらいたい。こんなばかにしたことはありますか。   〔発言する者あり〕
  181. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 続いて質疑を願います。(「岸を呼べ」と呼ぶ者あり)呼びません。続いて質疑を願います。総理大臣がおりますから、どうぞ御質疑を願います。(多賀谷委員「あまりひどいよ。これは何度も聞いておる、あぶないからというので聞いておる。」と呼ぶ)時間がたちますから質疑を願います。(「理事会にかけろ」と呼ぶ者あり)相談はいたしません。——約束がありますから、質問を願います。   〔「言いがかりだ」と呼び、その他発言する者あり〕
  182. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 言いがかりでも何でもないのです。われわれは非常に心配をしたのですよ。業者間協定というものを出したら、いまの国際通念として合わない。しかも大体二十六号条約というのは非常に楽な条約でして、いわゆる未開発地域でも、とにかく批准ができるような非常に楽な条約にしてある。ですから、この条約は当時の基準からいっても非常に程度の低い条約、その程度の低い条約ですら批准できないじゃないか、われわれはこう言った。ところが、いや批准は絶対できますといって何度も答弁している。ところが、いまになって批准できないと言う。それは日本の国内法に問題がある、こういうことが許されますか。われわれ何のために質問しているかわからないじゃないですか。
  183. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 先ほど来申し上げましたるごとく、現在の日本の国内法が二十六号条約の条件を満たしておるかどうかということにつきましては、決定的な結論は出しておりません。しかし、いささか疑問がございまするので、ILOの事務当局に対しましてその判断を求めておる最中でございます。これでもよろしいということならば、もちろん直らに批准に進みたいと思います。
  184. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 いまごろ何ですか。決定をしているというのでしょう。決定をしたという答弁をしているのでしょう。この法律さえ通過をすれば打ちに批准の手続をとります、こう言っている。われわれは、これは抵触するではないか、こう聞いている。いや、抵触をいたしません、こう言っている。それがいまごろになって照会するとは何ですか。批准の手続をすることを決定しておるから総理大臣は答弁したのでしょう。これはあんまりひどいじゃないか。条約も法律も変わらない、情勢が一つも変わってない。変わったのは内閣だけだ。
  185. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 当時打ち合わせをされたかどうか、私は当時の事情は存じませんが、現在の状況は、先ほど来申し上げましたるごとく、ILOの事務当局に対しまして、こちらの疑問としておる点を打ち合わせ中でございまして、回答を待っておる状況でございます。
  186. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは一体何年打ち合わせですか。法律が通過したのは昭和三十四年ですよ。そうして、本法案が成立いたしました暁にはなるべく早く批准の手続をとりたいと思います、何です、これは。一体こういうことは、われわれ国会審議の中でこれほど明らかになっておることはないのですよ。これは履行されない。しかもこれは国際信用の問題でしょう、総理。あなた方がILOをなめておるからでしょう。私は非常に問題だと思うのです。総理からもう一度御答弁願いたい。
  187. 池田勇人

    池田国務大臣 昭和三十何年最低賃金法の制定のときに、前の総理がそういうようにお答えになっておると、いま速記録に載っておるようでございますが、当時の状況におきましては、あの国内法とILOの関係条文とに支障はないというお見込みのもとにそういうように答えられたかと思うのであります。先ほど申し上げましたごとく、解釈その他につきまして、いま交渉中でございますので、その話がつきましてから、私は前の総理の方針を踏襲いたしたいと思います。
  188. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働大臣が、最低賃金法を出したのは条約を批准したいためだと、最初こうおっしゃった。速記録を見てごらんなさい。条約を批准したいために出した法律が、われわれから、これは条約批准はむずかしいだろうと、こう指摘した。ところが、できます、必ずやります、こう言っておる。それがいまごろになって照会をしておるというのは一体何ですか。私は、いまからILOの各号について質問をしたいのですが、内閣がかわるたびに自民党という政党はそういう不見識なことをして、前の内閣の責任を負わぬというなら、質問をしても意味がないですよ。総裁公選は近いと、こういうじゃありませんか。私は、一体これははっきりしてもらいたい。
  189. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 この問題につきましては、なるべくすみやかに批准をしたいという岸総理、倉石労働大臣の御方針は、われわれも同感でございます。しかしながら、この批准をいたしまするには、やはり国内法が厳格に条約の要求する条件に適合することが日本としては必要だ、またそれが条約実施上責任ある態度である、こう思っておりまするので、いささか国内法に疑問の点がございますので、ただいまILO当局の解釈をただしておるのでありまして、ILO当局の返事を待ってすみやかに批准に進むようにいたしたい、こういう考えでございます。
  190. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、政府の態度に非常に遺憾で断ります。この質問は与党からもなされ、そうして大臣が、いま私が申しましたように答弁をされておる。それがいまだできてない、こういう状態ですが、これは、私はこの質問は留保しておきたい。この予算委員会全体を通じて最後まで留保しておきたいと思う。  続いて次に質問をいたします。総理昭和三十七年の十一月に欧州を歴訪されて、そのときに、新聞によると、「日本の賃金事情」というパンフレットを八千部持って旅行をされて、日本は低賃金でない、こういうように宣伝をされた、こういわれるわけです。そこで総理はさらに、日本の賃金はイタリアに近づきつつある。これも今度の国会で答弁をされたようですが、一体何を根拠にそういうことをお話しになったのか。第一、この「賃金事情」というパンフレットは、きわめて不作為によるごまかしを相当やっておる。それから作為によるごまかしも相当ある。一体総理は——よくわれわれも耳にするのですが、また日本の経営者も好んで使うのですが、実質に、現金給与をした賃金はかなり差があっても、いわゆる現金給与以外のものについては日本は相当出しておるから、賃金に比較的差がないのだ、こういうことを盛んに言っておる。このパンフレットの中にも書いてある。そういうふうにお感じですか。総理経済の専門家ですから、勘だけでけっこうですが、総理はそういうふうにお考えであるかどうか。
  191. 池田勇人

    池田国務大臣 私の調べでは、国連の調査ございましたか、イタリアと日本との一時間当たりの賃金は、イタリアが三十九セントで日本が三十七、八セントという数字が出ておったやに記憶しております。これは前の記憶でございますからはっきりしておりません。大体非常に近づきつつある、このことは外国でも認めておるようでございます。そうしてまた、いまお話しの現金給与以外にいわゆる福利厚生施設につきまして、これは業種によって違っておりますが、日本では非常に進んだ業種もあるということは、内外ともに認めております。しこうしてまた、全般として福利厚生施設がかなり進んでいるということは認めております。また、あなたがそこでお触れにならなかった問題で、消費者物価の問題も、やはり低賃金その他を考える場合において外国人も頭に入れておりましょうし、私も入れております。こういう点を脅えますと、だんだんイタリアに近づきつつあるということは私は言えると思うのであります。
  192. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働大臣、そうですか。大体定期的に支払われる賃金にはかなり差があっても、いわゆる付加給付を含めれば差が縮まる、こういうふうにお考えですか。
  193. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 「賃金事情」に説明いたしてありまする日本の一時間当たりの製造業の賃金三十八・一セント、それからイタリアの三十九・七セント、これは現金支出そのものの比較だと私は心得ております。
  194. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そのあたり、付加給付を加えるとかなり実質賃金は差が縮まるように書いてあるが、そのとおりですか。
  195. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 付加給付につきましては、福利厚生施設費等、日本に独特な給与があるのでございまするが、「賃金事情」におきまする賃金の比較は、それらを別にいたしまして、現金支出そのもので比較をいたしておるわけでございます。
  196. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この「賃金事情」の中で、非常に大きな——故意かあるいは過失か知りませんけれども、いわゆる付加給付の問題を考慮する必要がある、こう書かれておる。ところが、そのことは正しいのですが、付加給付の問題を入れると、いま総理がお話しになったような状態ではなくて、賃金の格差が拡大するのですよ。たとえばイタリアについて言ってみますと、日本のいわゆる付加給付と称せられるものは、大体これ以上新しい統計がございませんから、この統計を使いますけれども、これは労働省でお出しになったものですが、現金給与総額を一〇〇として、日本は一三・三%、ところがイタリアは四〇・三%です。これは福利厚生費を含めて、付加給付が日本とイタリアでは非常に差がある。それはドイツに比べても差があるし、フランスに比べても、フランスは二六・六%ですから、差がある。私たちが俗説的に考えておった、付加給付があるから日本の賃金はむしろ名目の給与総額よりも実質賃金のほうは差が縮少するのだという考え方はあやまちである。しかもこのことを堂々と付加給付については考慮する必要がある、何か差が縮まるような印象を与えて、福利厚生費に及んで日本は高いのだと、こう書いてある。ところが事実は違うでしょう。付加給付を加えると差が拡大をするのですよ。なぜこのことを言及をされなかったのか。総理大臣ですら、労働省がインチキな資料を出すものですから間違うじゃありませんか。ましてや外国も間違えておる。ですから、それをひとつお示し願いたい。
  197. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 この資料は決してインチキというわけではございませんので、先ほど申し上げましたごとく、付加給付といたしまして特に日本で発達いたしておりまする福利厚生施設というようなものを比較いたしますると、これは欧州に比べまして日本のほうがはるかに多額の支出をいたしております。ただ先生の御指摘になりました付加給付として欧州のほうが多いじゃないかと言われますのは、御承知のごとく、欧州諸国におきましては、社会保険制度が日本に比べてはるかに発達をいたしておりますので、したがって、その社会保険の保険料の支払いというものを付加給付と考えますると、これは日本社会保険料よりはるかに高額なんでございます。そこらの点を計算されれば、多賀谷さんの言われるような統計が明らかに出るだろうと思います。
  198. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 社会保障が非常に進んでおりましても、イギリスのように政府の支出が多い場合には、付加給付はふえないですよ。経営者の持ち分の多いのが付加給付がふえるわけでしょう。ですから、イタリアの場合は経営者の持ち分が多くて四〇%になっておると、こういうのです。ですから付加給付が多い。ですから、実質賃金という場合はそういうことでしょう。あなたのほうは、わざわざ付加給付のことを書いておるのですからね。書いておるのになぜその点をお触れにならなかったかと、こういうのです。ですから総理大臣ですら間違っておる。ただ実質給付のことを書いて、しかも福利厚生施設費を入れれば何か縮まったような印象をパンフレットで与えておる。これは大きいですよ。四〇%というのと一三%というのは非常な差がありますよ。しかもベースが違うのですからね。
  199. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 これはことばの定義というものに関係いたすと思うのでございまするが、普通に賃金と申しますると、労務の対価として使用主から労働者に対して支払われるものをさしておると思うのでございます。したがいまして、そういう賃金を比較いたしてみますると、先ほど来申し上げましたるごとく、イタリアの工業の一時間当たりの賃金は三十九セント、日本は三十八セント、そうして同じく雇い主から直接労働者に利益として与えられる付加給付、これはたとえば福利厚生施設というようなものでございまして、これは賃金の一部と考えられると思いまするが、そういうものを比べまするならば、その部分は日本のほうが多いと、こういうわけでございます。社会保険の保険料は、これは一応使用者から社会保険の経営者、すなわち政府に対して支払われまするので、これは形式的には賃金といううちに入れなければならぬかどうか、その点は定義のしかたによっていろいろ考え方があろうと思います。なお特にこれを——社会保険の保険料が付加給付ということに相なりますると、大陸においては、社会保険の制度が発達いたしておりまするが、イギリスにおきましては、これは主として政府社会保障費に相なっております。したがって、付加給付といういわゆる保険料という形でなく、税金の形で取られておりまするので、それまで入れまするというと、各国社会保険でいくか、あるいは社会保障でいっておるか、それらによりまして賃金と呼ぶものの範囲が非常に広くなったり、狭くなったりいたしまするので、むしろ比較対照といたしましては、労働省でやっておるほうが非常に実際的ではなかろうか、かように考える次第でございます。
  200. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働省でやっておるのは現今給与だけですね。ですから、現金給与だけのことを書いておるならば、私はあえて言わないけれども、付加給付のことに言及しておる。付加給付のうちで一番日本に有利な福利厚生施設だけを入れておる、これだから問題じゃないか、こう言っておるのですよ。これが結局、総理大臣はイタリアに近づきつつあると言うけれども、経営者の出し前としては、労働者が受ける分としては、必ずしもその時間当たり賃金の状態にはないのだ、これをひとつよく考えていただきたい。だからイギリスに行った同行の記者は、どうも総理はイタリア並みイタリア並みと言うけれども、どうも内心じくじたるものがある、私たちは抵抗を感ずるという新聞——総理訪欧の総決算というのを読売新聞が出しておるでしょう。特派員の酒井さんがそういうことを書いて出しておるのですね。「総理が「日本はイタリア並みの賃金水準」と言明するたびに、われわれ同行記者は内心つねに抵抗を感じて聞いていた。」とずっと書いておるのですよ。読みませんけれども、とにかく感じが違うのですよ。それは、日本の賃金からは、もらった賃金で将来の設計をみずからしなければならぬ、貯金をしなければならぬ、社宅におれば住宅の問題だってある。そうしてエアハルトにお会いになって、これは先般エアハルトが見えたときに、日本は低賃金だと指摘したけれども、もう日本も低いというのは誤りであるとエアハルトがおっしゃった、こういうこともいわれておるが、実際はそうでないのですよ。ですから、ひとつその認識を変えてもらいたい。とにかく付加給付を含めればかなり差が出てくるのだということ、これは事務出局けしからぬですよ。いやしくも八千部も英文にして外国に持っていくのに、総理があやまったような資料を出すなんということは私はけしからぬと思うのですよ。総理が間違える、だれでも誤解を生むのです。ですから、これは何も総理だけでなくて外国の総理まで誤解しておるのですからね。ですから、私はほんとうにそういうことはけしからぬと思うのですよ。それについて総理の言明を願いたい。
  201. 池田勇人

    池田国務大臣 言明いたします。私は、私の持っていったパンフレットは非常にヨーロッパ人に興味を持たれ、認識が変わってきたと思います。またそれを出すまでもなく、私の参ります半年あるいは一年ぐらい前に、イギリスのロンドンの商工会議所の幹部は、いまや日本はそう低賃金ではないと言っております。(多賀谷委員「どういう統計だ」と呼ぶ)それは日本のいろんな統計です。また、日本経済同友会とアメリカのそういうほうの実業家からなる調査会は、やはり同じようなことを言っております。私は、それでいままで日本が低賃金だったという非難は非常に少なくなって、そうしていまの私の記憶が間違いなかったようでございますが、国連の調査では、一時間三十九セントのイタリアに対して、日本が三十八セント何ぼということは、名目賃金はもう非常に近寄っておるということが言えましょう。そうして、あなたのように社会保険あるいは社会保障を取り除いて、いわゆる日本人のいう賃金、福利厚生施設と現金で渡すものと合わせた分はイタリアに近づきつつある、あるいは越えておると私は考えておるのである。そうして、いま新聞記者がヨーロッパを回ってお考えになったことは、それは私も感じます。たとえば日本はよくなったといっても、過去の蓄積がございません。過去の蓄積がないから、日本はまだまだやらなければいかぬ、この高度成長をもっともっと続けていかなければならぬということはわかります。そうしてまた、名目賃金でなしに、物価の違いがあるということは、物価の違いで賃金の分が、錯覚と言ってはあれでございますけれども数字と違った勘定が出てきやすいものであります、物価の違いというもの、生活程度の違いということで。しかし、それは経済全体からくるべきことであって、いま日本の労働賃金はどうだといったら、国連のこの調査のイタリアの三十九セント、日本の三十八セント何ぼ、これは隠れもない世界数字であるということをつけ加えて、私はそれが誤りでないということを申し上げたい。
  202. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この問題であまり時間をとっておるわけにはいきませんけれども、私はこのパンフレットを指摘しておきたい。たとえば、いま総理のおっしゃった時間当たり賃金の比較をするにしても、日本は職員全部を入れておる。日本統計は常用労働者、ところが外国のは労務者——ホワイトカラーを入れておらない。こういう統計の出し方をしておる。さらに企画庁の消費者動向予測調査によっても、家計調査というのがある。しかし、これは奥さんがとにかく家計簿をつくれるような状態調査ですから、かなり高い。こういうデーターを出しておる。さらにまた、たとえば最低賃金法を施行したから給与が上がったといわれるが、いま申しましたように、条約の批准すらできないような最低賃金法がなぜ賃金を上げるのに役立ったですか。私はこれは寄与していないと思うのですよ。企業家の側からいえば、最低賃金法はむしろ企業防衛になっておる。一体いまの最低賃金は、法律によってどのくらい上がっておりますか。法律による業者間協定よりも実際初任給のほうがどんどん上にいっておるでしょう。要するに、いまの賃金が上がっているのは、若い労働者が足らない、払底している、その需給関係からである。最低賃金はそのあとあとをいっている。しかも法律ができて、改定を全然していないのがあるのですからね。昭和三十五年前の貧血をそのまま据え置いているという最低賃金法ですよ。一体どういう認識で言われるのですか。条約の批准もできないような法律です。なぜそれによって行なわれた最低賃金が、業者間協定が寄与しておりますか。このパンフレットはでたらめですよ。最後の一点だけお尋ねしたい。
  203. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 最低賃金法の実施に際しましては、なるほど業者間協定でやってはおりまするものの、各地の実績から申しますると、この協定ができましたために、現実にはその関係労働者の二〇%内外が大体一五%ないし二〇%程度賃金の引き上げという結果が出ておる、こういうような統計になっておるのでございまして、最低賃金制度が賛金の水準を引き上げているというのは、その限りにおいてそういう事実であるわけでございます。この点はお認めいただきたいと存じます。
  204. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 その一時的な状態だけ、しかも実際はほとんど動いていないのですよ。確かに適用者は多くなりましたよ。適用者は多くなりましても、事実はどんどん先行しているのですからね。ですから、あまり最低賃金法があるから賃金が上がったなんて書かないで——一体最低賃金をいつまでこのままにしておくのですか、いつ批准をできるようにするのですか、法律を直すのでしょう、いつ直されるかお聞かせを願いたい。
  205. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 最低賃金法の実施につきましては、昨年来いろいろ労働省におきまして検討いたしました結果、相当運用上改善すべき必要があると存じたのであります。というのは、御承知のごとく、現行法におきましては、業者間協定のほかに行政官庁の職権による最低賃金の決定の方式が採用されておりまするが、制定以来の方針といたしまして、主として業者間協定によっていくというたてまえになっております。しかしながら、低賃金の解消ということのためには、この業者間協定の方式だけでなく、むしろ職権による方式を活用する必要があるのではないか、かように考えたのでございます。特に、一部におきましては、全国一律月一万円というような最低賃金についての実際的な要望もございまするし、また、これに対しましては有力なる批判もございまして、全国一律ではなく、やはり地域別、産業別の最低賃金の決定が実際的ではないかというような議論もあるわけでございます。これらの議論はなかなか重大な問題でございまして、容易に結論には達し得ないのでございまするが、私どもといたしましては、現実に低賃金を各方面で解消していくということが必要でございまするので、それにはやはり現行法の運用によって一日でも早く、できるだけ広範囲に最低賃金を決定することがむしろ必要ではないか、こういう意味で、業者間協定に並行いたしまして、職権による最低賃金の決定の原則並びにその際の金額の目安等につきまして、最低賃金審議会の意見を求めたわけでございますが、幸いに、最低賃金審議会におきましては、とにかく職権方式をできるだけ活用して、実際的に広範囲に最低賃金をきめていこうではないか、そしてこの現行法の活用によって大体三年間にできるだけ広く最低賃金をきめていく、三年後においてでき上がった各方面の最低賃金というものを基礎にして、その後の最低賃金の制度をいかにするかという問題をも含めて結論を出そう、こういうような答申が出ております。私どもは、この方針に従いまして、今年から三年間に、できるだけ各種の方式によりまして、できるだけ広範囲に最低賃金の決定を進めてまいりたい、かように存じておる次第でございます。
  206. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 早く条約の批准のできるような、かっこうの悪くないような法律に改正してもらいたいと思うのです。かっこう悪いですよ。二十六号というと、いま百十九号ですからね。ですから、ヨーロッパ並み、こう言っておるなら、もう少しヨーロッパ並みにおやりになることを希望します。  次に、問題の百二号条約、厚生大臣にお尋ねしたいと思います。  一体、この条約は非常に弾力性のある条約で、全部各項目とも該当しなくとも、グループに分けた三部のうち各一項が適応すればいい、こういう条約ですが、政府は、福祉国家の建設を言っておるのに、なぜまだ日本は条約批准の運びにならないのか、これをひとつお聞かせ願いたいと思う。条文も長いのですし、項目も多いのですが、ひとつ簡単に答弁願いたい。
  207. 小林武治

    ○小林国務大臣 百二号条約は、お話のように、社会保障の最低基準をきめた、こういう条約でありまして、この条約は九つの事項を並べて、そのうちの三つが条件を満たせばこの条約に加入できる、こういうことになっておりまして、わが国の社会保障を見ますれば、医療給付あるいは失業保険、こういうようなものは大体この条件を満たしておる。しかして、まだ厚生年金がありますが、これは、私ども、この条約に適合するようにこの国会で厚生年金を改正して、そしてこの条約が大体の目標とする従前の所得の四〇%の給付ができるように、こういうふうな考え方をいたしておりますので、厚生年金法がもしできますれば、大体において一応この条約の条件を満たし得る、こういうことに考えております。
  208. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 大臣、お間違えにならないようにしていただきたいのですが、医療給付は批准できないのでしょう。疾病給付は批准できるのですね。大臣、違うでしょう。
  209. 小林武治

    ○小林国務大臣 お話のとおり、多少の疑問はむろんありまするが、まあ大体いいことになろうか、こういうふうに考えております。
  210. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 大臣が医療給付と失業給付は批准ができるところに達したと、こうおっしゃっているから、私は、それはあやまちでしょうと言っておる。速記録に載りますからね。それは、医療給付でなくて、要するに疾病給付の方は批准できるけれども、医療給付はできないでしょう、こう言っているのですよ。そうですか。
  211. 小林武治

    ○小林国務大臣 これは多少の疑問があるが、この条件が、いまのように、失業給付ですか、これは大体よろしい。傷病給付についても……。
  212. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 あなた、医療給付と言われたから。
  213. 小林武治

    ○小林国務大臣 傷病給付についても、まあ多少の疑問があるが、大体近づいておる。
  214. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、時間がありませんから、一番ポイントの厚生年金の改正について聞きたいと思う。一体、厚生年金の問題で一番問題は額の問題、それから、いま言われておる企業年金調整の問題、これが一番大きな問題だと思う。そこで、額の問題としては、一体、法律を改正してから国際的な基準に達するまでどのくらいかかるのでしょう。
  215. 小林武治

    ○小林国務大臣 厚生年金は、御承知のように、昭和十六年にできて、その後十九年に改定をした。その後は昭和二十九年に多少の改定をしましたが、たいした改善はない。それで、この昭和三十九年が厚生年金の計算をし直す時期に来ておりまするので、この機会において厚生年金を変えたい、国際条約の関係もあり、いわゆる一万円年金をこの際実現したい、こういうことで考えておるのでございます。お話のような企業年金との調整ということが一番問題でありまするが、私ども考え方としては、この際企業年金の考え方も取り入れたい、こういうことを考えておりますが、この問題は、社会保険審議会の年金部会でいままだ検討してもらっておりますので、いろいろの議論はありまするが、私どもとしては、さような考え方で、まだ詳細なことはこれからきめてまいりたい、こういうふうに思っております。
  216. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 退職時に大体二万五千円程度の賃金の人はいつごろから一万円の給付を受けられるようになるのですか、改正案では。
  217. 小林武治

    ○小林国務大臣 いま考えておるのは、二十年の際に大体一万円。
  218. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 法律が施行になりましてから大体二十年たつわけです。そうして、いま二万五千円で二十年勤続の人がやめる、それから給付が停止をする期間もありますが、法改正後幾年経過したら一万円になるのですか、こう聞いておるのです。
  219. 小林武治

    ○小林国務大臣 ただいまは、御承知のように、大体二十年になった際の給付額が三千四百円程度。私ども、標準の報酬は二万五、六千円くらいで二十年たったら一万円になれる、こういうふうな考え方をしております。
  220. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 平均の給与の人が、厚生年金の定める標準報酬月額が二万五、六千円になるのはどのくらいかかるのですか。もう時間がありませんから、私はもう少し詳しく説明をしながらお聞きしたいと思うのですが、それは、いま二万五千円といいましても、標準報酬月額というのは昔の賃金を積み重ねてきておるのです。ですから、昭和二十九年に改正になったときに、低かった人は三千五百円とみなした。過去の分については、三千五百円以下の者は三千五百円とみなした。それから賃金がずっと上がってくるわけです。ですから、いま二万五千円の人が一万円もらえるという錯覚を起こしたら大間違いです。標準報酬月額の平均が二万五千円。しからば、いま二万五千円くらいで退職する労働者は一体どのくらいもらえるのか。逆に言えば、いま二万五、六千円の人がやがてだんだん給与ベースが上がってきて、もちろん人間構成が違いますが、給付額一万円を受けるまでに一体どのくらい期間がかかるのか、これを聞いておるわけです。みんな錯覚を持っているんだな。
  221. 小林武治

    ○小林国務大臣 いまのお話は、二十年で八千円、三十年で一万円、こういうふうなことだそうであります。
  222. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そうすると、改正法律が施行をされたら、大体八千円、退職時の給与二万五千円の人が八千円くらいですね。そうして、それから十年くらいたって一万円ですか。二十年で八千円という。その二十年はいつから換算して二十年ですか。いまから換算して二十年たった後に、一九八四年に八千円になるのですか。
  223. 小林武治

    ○小林国務大臣 ただいまのことは、政府委員にひとつお答えをいたさせます。
  224. 山本正淑

    山本(正)政府委員 ただいまのお話の、現在二十年たって、しかも現在の賃金が二万五千円くらいであるという人たちが、過去の低い標準報酬の期間がございますので、今回の改正を実施いたしますれば大体八千円くらいになるわけでございまして、ただし、最終賃金が二万五千円くらいで定年退職される方でありましても、三十年勤続という時期がまいりますれば、その一万円をこした年金がもらえるようになる、こういうことでございます。
  225. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ですから、結局八千円くらいだということですね。とにかく、いま退職時二万五、六千円の人が月額の報酬賃金の平均はどのくらいになるかというと、私がある会社を調べてみた。実数で言うと一万一千二百三十四円。このくらいにしかならないのですよ。それは過去はずっと低い賃金で来るのですから。ですから、自民党が二万五千円の人は一万円やる、こう言っておるけれども、実際はそうでないのです。ほんとうに賃金二万五千円の人が給付一万円がもらえるのは、法改正後二十年後ですね。そういう計算になるのです。ですから、ひとつ総理、この問題は、大蔵省が値切って厚生省の案を削ったというけれども、大体認識が不足しているのじゃないですか。  次にお尋ねいたしますが、これは大きな問題ですから総理にお尋ねいたします。  今度、御存じのように、国民健康保険は家族給付が上がりました。そこで、いま、健康保険と、さらに健康保険の中でも政府管掌の健康保険、さらに組合の健康保険、これらをプールするという話もあります。こういう問題について総理はどういうようにお考えであるか、お聞かせ願いたい。
  226. 池田勇人

    池田国務大臣 理想論から言えば、社会保険というものは一体となるべきものだと思います。しかし、日本では、この社会保険の発生が時間的に非常に違っております。また、構成員の経済状況もよほど違っております。そこにひずみが出てきておるのです。ことに、最近聞くところによりますと、非常にいい健康保険組合で、過去においてうんと蓄積に貢献した人が年をとってやめて病気が多くなる、こういうことはまことにお気の毒な点がある。私は不平もさることだと思います。こういうのをひとつ抜本的にやったらどうかという気持ちは、私は四、五年前から持っておるのでございますが、しかし、この問題はなかなかやっかいである。多賀谷君の意見を聞きたいくらいでございます。この点だけは、大会社の資本家も、そして労働者も、非常に違う。私は、いまの国民健康保険の実情から言い、そうして、まあ政府管掌はその中間でございますが、一般の大会社、大工場の組合健康保険からいって何とかしなければたいへんだと思う。今回の医療給付を七割に上げたゆえんのものも、私は聞いてはおりませんが、ひそかに一つの手だなということは考えておるのでございます。まだ意見を言ったことはございませんけれども、たいへんむずかしいことで、こういうことはあなた方の意見も十分ここで論議していただいて、何とかしなければならぬ一番大きい問題だと考えております。
  227. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 自治大臣は、先般の新聞によると、国民健康保険は赤字で困る、地方財政に及ぼす影響が非常に大きい、だから厚生大臣にプール制を再検討してもらいたい、こういうことを閣議後に述べた、こういう記事が載っておる。厚生省の方向としてはどうですか。
  228. 小林武治

    ○小林国務大臣 これは、総理大臣がお話しになったように、理想としては一つのビジョンがある、しかし、非常にむずかしい問題であるので、私どもも十分にひとつ検討をしなければならぬ、かように思っております。
  229. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからば、ビジョンとしては、あるいは方向としてはそういう方向でいきたい、こういうことですね。ところが、その方向と逆行するような方向をとっておるじゃありませんか。厚生年金がそうでしょう。一体なぜ企業年金を認めたのですか。しかも、別に企業年金として別制度であればともかくとして、厚生年金の比例報酬分は企業年金でいってもいいという態度を表明しておるじゃありませんか。これは、一方においては、健康保険の場合は国民健康保険と統合の方向でいきたい、これは理想だと言う。ところが、そういう問題が起こっておるのに、いま、企業年金、大企業の労働者並びに職員、経営者を含めての年金は別ワクでいく、厚生省みずからそういう案を出すとはけしからぬ。一体社会保障の原理を知っておるかと聞きたい。なぜそういう方向にいっておるのか、これをお答え願いたい。
  230. 小林武治

    ○小林国務大臣 いまの厚生年金の問題は、私ども企業年金を導入するということは、やはり使用者によっていわゆる国の厚生年金の報酬比例部分よりかよい給付が得られる、こういうふうな考え方をもって出ております。したがいまして、いわゆる報酬比例部分よりかよりよき給付が前提となってこの際としては考えておる、そういうことでございます。
  231. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それは、厚生年金の政府の制度よりもよりよきものは別ワクでおやりになればいいじゃないですか。何も、定額分は全労働者一緒、そうして比例報酬分だけは企業年金と調整をするという、私的の年金を公的年金として認めるということはおかしいでしょう。これはたいへんな問題ですよ。なぜか。それは、いまの財源を見てごらんなさい、大蔵大臣。厚生年金が資金運用部資金に寄与する率というものは非常に大きいでしょう。本年度の予算でも、財投において二千百八十億ある。これは、現在の低い制度でも、昭和九十五年、ピーク時になると三兆八千四百億になる。そうして、いま積み立て金も保険料も大体倍額ぐらいにするというのですから、これはもう六兆円になるですね。賃金も上がるということになると十兆ぐらいいくんですよ。こういうような状態の中で、企業年金だけ別ワクにするならば別として、それを含めて考えるということになれば、大企業家というのは、道路もつくってもらう、産業基盤の強化もしてもらうと、こう言いながら、義務だけはお断わりだということでしょう。資金運用部資金というのは、いままでいろいろな変遷をたどりましたけれども、財投として産業家にずいぶん行っておるわけですよ。産業基盤強化にずいぶん行っておる。この資金のほうは自分たちはお断わりをする、こういうことが許されますか。日本財政全体として、国民感情としても、これは私は許されないと思うのですが、総理、これはどうですか。
  232. 田中角榮

    ○田中国務大臣 いまお述べになりましたように、年金資金は財政投融資の重要な原資として使っておりますけれども、これは、産業資金として流さないで、御承知のとおり、国民生活に密着をしておる部分に運用をしております。その二五%は特に還元をいたしておるわけであります。
  233. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 国民生活の基盤といいましても、やはり、いろいろな社宅の問題とかあるいは水の問題とか入っておるでしょう。ですから、いまの健康保険の制度の方向と全く逆行する。しかも、いま発足しようとするときにおいて逆行する態度をとるとはどういうことですかと聞いておる。しからば、大企業家及び大企業の労働者は、生活基盤強化に国民としての平均の負担をしなくてもいいという理論ですか。
  234. 小林武治

    ○小林国務大臣 これは、基金、たとえば企業年金の基金の管理、こういう方面につきましては、まだこれから検討するので、いま、どうこう、こういうことになっておりません。しかも、この企業年金そのものにしましても、どの範囲に認めるかもまだきめておりませんので、これらのきめ方によって大きくもなり小さくもなる、こういうことになっております。いずれにしましても、これは非常に議論のあるところで、あなたの御意見も十分私どもは拝聴しておきたいと思います。
  235. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは、この企業年金の場合は資金運用部資金に入れないのですか、標準報酬分については。どうなんです。厚生年金の一環としての企業年金ですよ。
  236. 小林武治

    ○小林国務大臣 そういうこともまだはっきりきめておりません。
  237. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは私はきわめて大きな問題だと思うですよ。こういうことが許されるならば、社会の連帯性なんということはあり得ない。いま歴史的な過去の法制上のいろんな変遷で現実に困っておるでしょう。健康保険あるいは国民健康保険、政府管掌、さらに共済組合等、現実に困っておるですよ。みな組合は財産を持っておる。この財産の処分だって、給付だって、違うから困っておるでしょう。しかし、いま発足をするというのに、別建てにして、しかもそれを政府が保証してやるということが一体許されますか。これは私は非常に大きな問題だと思うのです。総理、どうなんですか。これは、私は、総理が将来の社会保障の方向をあやまつかどうかの問題だと思う。これをお聞かせ願いたい。
  238. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいま厚生大臣がお答えしたように、非常に重要な問題でございますので、まだ結論を出しておりません。十分検討の上善処いたしたいと思います。
  239. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 最近振替所得がさっぱり横ばいですね。たいていこの所得倍増計画は上回っておる上回っておるとおっしゃるけれども、計画どおりいっていない。これは一番おくれた点だと思うのですよ。総理、どういうようにお考えですか。
  240. 池田勇人

    池田国務大臣 意味がわからないが……。
  241. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 振替所得の、社会保険であるとか、社会福祉とか、住宅環境衛生、要するに、個人の所得ではどうにもならないから公的な機関を通じてやってもらうということの消費、その所得ですよ。これを振替所得と言っている。経済の専門家ですから、私は敬意を表して説明をしなかったわけですけれども、それで、この振替所得国民所得に対する比率が五%程度ですが、これが、計画では六・一%になっておる。これは、ずっと横ばい、あるいはダウンをしておる。この点について一体どういうようにお考えかと、こう聞いておるのです。
  242. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 多賀谷委員の御指摘のような傾向が見えることは確かだと思います。それは、やはり一般的な生産その他いわゆる経済の成長というものが計画よりもかなり早いということとの関連におきまして、確かに社会保障のほうもずいぶん伸びておりますけれども経済成長のほうがもう一つ大きい。GNPの伸びが大きい。そういうことから、振替所得が、より低い成長を考えておりました倍増計画等と比較いたしますと、伸びが少し落ちておるということは、見られるところであります。
  243. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 社会保障制度総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度推進に関する勧告ですが、生活保護もずいぶん上げたとおっしゃるけれども、これは昭和四十五年三倍ということになっておる。これは実質三倍。それに対して、当時の厚生大臣西村さんは、このように努力しますと、何度も言っておられる。これが物価の問題とからんで実質的にそういう情勢になっていない。これはひとつ警告をしておきます。  次に、条約が多いものですから、一〇五号条約を最後に聞きたいと思います。  一〇五号条約につきましては、条約が採択されますと、国会のボックスに、必ず関係省から、この条約はこういうように採択されました、それに対する政府の意見はかくかくしかじかです、こういうように出されることになっておる。これはILO憲章が要求をしておる。そこで、そのILO条約に基づいて一〇五号条約が採択をされたときに、政府の意見としては、この条約の趣旨は妥当であるので、政府としては批准の方向において検討を加える考えでありますと言っておる。さらに、これに対して当時の労働大臣倉石氏は、三十三年十月の会議におきまして、強制労働廃止に関する一〇五号条約については、われわれとしては趣旨は同感でありますが、国内法との調整のためただいま研究しておりまして、なるべく早い機会にこういうものは批准を進めてまいりたいと思います、こう言っておる。ところが、これもきわめて大きな権利関係の問題であるにもかかわらず、批准の運びになっていない。国内法の調整が行なわれていない。これは一体どういうことであるか、お聞かせ願いたい。
  244. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 この百五号条約の趣旨は、政府といたしましてもおおむね妥当であると考えておるのでございますが、御承知のとおり、強制労働を廃止する、この強制労働という考えの中に、たとえば各種の事業法、郵便法でありますとか、鉄道営業法でありますとか、こういった各種の事業法上の罰則中に懲役が規定されている場合もありまするし、また国家公務員法に罰則として懲役が規定されておるようなこともあるのでございますが、これらの事業法上の罰則あるいは国家公務員法上の罰則に規定されておる懲役というのは、この強制労働廃止条約にいわれる強制労働の中に含まれるかどうかという法律上の問題がございます。これにつきましては、一部明らかになった点もございまするが、ILOの事務局におきましてはなお検討を続けておられるような状況でございまして、いずれILOとしての具体的な解釈が明らかにされる予定でございます。したがいまして、その解釈の明らかになるのを待ちまして、国内法との関係を調整いたしまして本条約の批准に進みたいというのが政府考えでございます。
  245. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 三十六年の二月、社労委員会において、石田労働大臣は次のように答えておる。「百五号条約の強制労働という字句の内容その他について今照会中でありまして、それがおそらく本年の六月ごろから、それを批准した国々のいろいろな報告が入ってきて結論が出るだろうと思うので、その結論を待って百五号条約についての政府の態度を決定したい」と思います。御存じのように結論は出たわけです。石田さんの言う結論が出た。すなわち、強制労働について、いろいろな例を引用して、そうして一応の結論は出たわけです。ですから、政府の答弁からいくなら、これは当然批准をするかどうかをはっきりしなきゃならぬ。しかも昭和三十七年の七月に出ておるわけですから。この問題をはっきりしないから、いまたいへんな騒動が起こっておるわけですね。法務大臣御存じのように、公労法のストライキ、これは刑事罰を科すべきかどうかという大議論が行なわれておるでしょう。このことがいまずいぶん多くの裁判所に係争中である。百五号条約を批准すれば、当然この問題は解消する。ですから、政府としては早く態度を決することが必要であると思うが、郵政大臣にお尋ねしますが、あなたのほうの郵便法は、百五号条約が批准をされれば、抵触するところがありますか。
  246. 古池信三

    ○古池国務大臣 お答えいたします。  現行の郵便法におきましては、御承知のように懲役等の規定が罰則としてございます。
  247. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そうすると、その個所は百五号条約に抵触するわけですね。
  248. 古池信三

    ○古池国務大臣 お答えいたします。  郵便法の規定はただいまお答え申し上げたとおりでありますが、これがILOのただいま御指摘の百五号と抵触するかいなかということにつきましては、目下ILOにおいて検討中でございます。
  249. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 条約と勧告の適用専門家会議の結論では、どうなっておるのですか。
  250. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 具体的に日本の法規につきましては、その点不明確な点がございまするので、日本政府といたしましては、重ねてILOに照会中でございまして、これは近く総会において結論が出されるのだろうと思っております。
  251. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 大臣、照会照会として逃げるつもりですか。百五号条約が採択されるときは、日本政府はどういう態度をとりました。ちゃんと知っておって、ある態度をとったじゃありませんか。どういう態度をとりましたか。
  252. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 ちょっと御質問趣旨がよくわからないのでございますが、ちょうどその時分、私も在職いたしておりませんでしたので……。
  253. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 日本政府は、百五号条約のときに、よその国がとらない特殊な態度を二つとっておる。じっとして、ああ条約が通過したのだ、こういうことじゃないのですよ。あとから知ってびっくりしたなんという問題じゃないですよ。第一、修正提案をしておるでしょう。
  254. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 まことに申しわけございませんが、当時の日本側の態度について、私、よく取り調べをいたしておりませんので、お答えいたしかねます。
  255. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これはきわめて重要な条約ですから、あらかじめ条約をお聞きしますという話を通告しておるのですから、条約の成立過程ぐらいは調べておいてもらいたい。すなわち日本は(d)項について——(d)項と申しますのは、ストライキに参加したことに対する制裁としての強制労働という項目について、日本とインドはこの修正を共同提案しておる。削除してもらいたいという共同提案をしておる。それは否決をされました。それから続いて、日本政府は、二百四十対零——二百四十賛成、反対零、棄権一というのに対して、日本政府は欠席をして会議場に行かなかったのです。そこで日本の労使は賛成に回った。棄権をしたのはアメリカです。これは実は、アメリカの場合は非常に事情がありまして、百五号条約はソビエト並びに東欧の国が反対するだろと期待をしておったところが、自分の国ではかなり違反事件があるにかかわらず、知らぬ顔をして賛成をした。そこでアメリカが、そんなばかな話があるかといって棄権をしたいきさつがある。それは別として、とにかくいまごろ照会するとは何ごとですか。すでに修正案を出して、当時、日本ではこれは困るということを言っておるではありませんか。しかも二年ほど前には、条約勧告適用専門家会議で結論が出ておるのですよ。結論を待って態度をきめるというのに、その結論が出たのにかかわらず、まだ態度をきめぬとはどういうわけですか。
  256. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 ILOでいま出しておりまする結論では、まだ日本の国内法が抵触するかどうかということが明確になっておらないのであります。そこで日本といたしましては、その結論に対して重ねて照会をいたしておるのでありまして、これにつきましては、ILOからいずれ回答があるはずでございますから、それによって善処するつもりでございまして、特に作為をもって批准を遷延するというような考えは、この点については政府としては毛頭ございません。
  257. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この問題は、国内では、人が刑罰に科せられるかどうかという重大な問題ですよ。現在法廷に立っているのですよ。刑事罰を科せられておる。一体、二十世紀後半の文化国家を称する国が、付随事項があれば別ですよ、争議をしたこと自体が刑事罰になるということがありますか。それは民事上の責任は問われるかもしれない。解雇にはなるかもしれない。しかし、争議をしたこと自体が刑事罰を科せられる、こういうばかなことはないんですよ。これが一番問題になっておる。しかもこれは遷延を許さない。これについてもう一度答弁願いたい。
  258. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 これは非常に重要な問題でございますので、現在の国内法そのままではたして批准していいものかどうか、そういう結論が出れば、直ちに批准の手続をとれるわけです。しかし、現在の国内法が改正を要するということでございましたならば、すみやかに改正をしなければ批准ができない。その辺のところを早く確かめたいと存じまして照会をいたしておるのでございまして、この回答をできるだけ早くしてもらいたいということは、あらゆる機会にILOに対してもお願いをいたしておるわけでございます。  なお、ただいま争議行為に対して刑罰を科するということがはたしてどうかという御質問でございましたが、御承知のとおり、憲法二十八条によりまして労働者の団体行動権が保障されておりまするが、これは、やはり一般の国民の基本的権利と同じように、公共の福祉によって制限をされることは、合理的な理由のある限り許されることでございます。したがって、そうした場合において、違反者に対する刑事罰というものは、決してこれは不合理なものとは言えないと思うのでございまして、この趣旨は最高裁の判例においても認められておるところでございます。ちょうどお話が……(多賀谷委員「罰則の法律がある」と呼ぶ)そういう法律が出ておりますので、そういう法律自体が本質的に不合理だというようなものではないんで、やはり必要があって出た法律ならば、これはやむを得ないじゃないか、こういうふうに考えるわけでございます。
  259. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 要するに、これは世界の労働慣行の基準に達していないということですよ。百五号条約に違反しているということですよ、その法律が。それが百五号条約なんですね。ですから、国内法の問題よりも、国際的基準に達してない、これが問題です。ですから、百五号条約を批准すれば、そこが抵触するという問題になるでしょう。ですから、改正をしなければならぬということは明らかなんですよ。  そこで総理、いま私がお聞きした一号、重要であるという二十六号、百二号——百二号というのは、今度OECDに加盟されますが、この百二号という社会保障の条約はもう古いんですよ。そこでいまEECでは、社会保障の基準について新しいものをつくろうというので、いろいろ基準をつくっておるのですよ。EECの直接の加盟国ではありませんけれども、OECDで行けばまた問題になる。その一番初歩の段階、百二号がまだ批准されてない。百五号条約は、条約が採択されたのは一九五七年ですけれども、もう六十五カ国において批准されておる。六十五といえば、八十七号条約と同じ批准の数ですよ。これほど重要な条約として扱っておる。こういう状態の中で、一体工業国であるとか、文化国家であるとか、あるいは総理の今度の国会の所信表明の一番最初に、私は非常に特色あるお話であったと思いますけれども、要するに国民生活の向上、福祉国家の建設ということを非常にうたって進められた。それならば、外国が誤解をしないように、どんどん条約を批准されたらどうですか。総理にお尋ねいたしたい。
  260. 池田勇人

    池田国務大臣 百二号の社会保障関係の分も、国内の力の進むにつれて社会保障制度全般の拡充をし、そして批准のできるよう努力を続けておるのであります。また、百五号の問題にいたしましても、要は懲役の問題でございます。強制労働の問題、これは刑事政策上、禁錮にすれば、何も百五号条約と……(多賀谷委員「違うのです。そんなことをおっしゃって……」と呼ぶ。)いや、私はそう思っておる。強制労働の問題でございまして、刑事政策上の問題が相当加味されるのでございます。したがいまして、やっぱりこれは国内の状況国民の一般の気持ちからいかないと、急に経済がよくなったからといって、全部が先進国並みになるというわけのものではございません。また、社会保障制度にいたしましても、戦後に起こった問題でございます。そうして、これは順次、度をあまり越えないように、できるだけ早く、やはりそのスピードにも程度があるものでございます。そういうことを考えながら、全般のILO関係の条約につきまして、できるだけ早くこれを批准する方向に向かっていっておることは、先ほど申したとおりでございます。個々の問題については、いろいろなその国の事情がございます。ILO条約をたくさん批准することが、これでいいというわけのものではございません。(多賀谷委員「重要な問題だ」と呼ぶ)重要な問題でも、やはり国内の事情考えながらいくのが、私は自立的なやり方だと思います。
  261. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ILOの条約勧告適用専門家会議は、収監、まあ禁錮でしょうね、収監の場合も強制労働に含むということを言っておりますが、これはこまかい問題ですから、総理と議論しようとは思いませんが、念のために申し上げておきます。  そこで問題の八十七号ですね。われわれの気持らから言えば、一体総理どうしてくれるのだ、こう聞きたい。これは倉石、河野会談というのは、私的な会談ではありません。すなわち、昭和三十七年に、われわれは自民党に対して、正式なILO八十七号条約並びにそれに関連をする法律の取り扱いについて話をしたいから、自民党としては正式な窓口をきめてもらいたい、われわれはこういう申し入れをいたしました。これに対して、その窓口は倉石並びに齋藤両氏にいたしましょう。そこで私たちは、当時の国会対策委員長河野、山本で話し合いましょう、こういうことになったのです。これは一体党としての正式の会談と考えられるかどうか。われわれの正式な窓口をひとつきめてもらいたい、こういう申し出に対して、その返事が来たわけですが、総理、どういうようにお考えですか。
  262. 池田勇人

    池田国務大臣 両者の間で話があったということは聞いております。しこうして、その倉石あるいは齋藤、また社会党さんのほうの人が、そこできまったものは絶対に各党を拘束するのだという点につきましては、私は聞いておりません。
  263. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 さらに、われわれはILO特別委員会をつくるについて、これは幹事長と書記長との間で共同会談をして、さらに共同記者発表をしておる。それは要するに自社両党の窓口で話し合ったものを尊重して、それに基づいてやるのだということ、さらに両者間では、すなわち窓口では、これをすみやかに実施するんだということを言っておる。でありますから、国会正常化をお話しになっておる総理、しかも国際的な問題、そうして総理の国会における言明というものを非常にILOでは重視をして、それを十分留意をして記録にとどめるといっておる。でありますから、この問題については、一体総理、どういうようにお考えになるのか。われわれの公党で約束したことを早く果たしてもらいたい。新聞によると、総理の腹一つだといっておるのですよ。でありますから、私は、この際はっきりした言明を願いたいと思う。
  264. 池田勇人

    池田国務大臣 私の腹は、施政方針演説で申し上げたとおりでございます。ILO八十七号は、今国会において批准できるよう通過をはかりたい。並びに、それの関係国内法につきましても、同様にあわせて通過をはかりたい、こういうことを言っておるのであります。両党のことにつきましての約束の程度、内容等につきましては、まだつまびらかにしておりません。いまのように、それが自民党の党議を決定するものなりやいなやということにつきましては、はっきりしたことはまだ聞いておりません。話し合いがあったということは聞いております。
  265. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ILOが初めて派遣をするかもしれない事実調査調停委員会の発動を見る情勢になっているのですよ。二月の十四日には、ILO理事会で事務総長から具体的な提案がなされるわけですよ。こういう時期に一体総理はじんぜん日を送っていいわけですか。一体ILO理事会にはどういう報告をするわけですか。
  266. 池田勇人

    池田国務大臣 じんぜん日を送っているわけではございません。私は、国会にもすでに提案をいたしまして、先ほど申し上げましたように早く審議をしていただきたいと、こう言っておるわけであります。
  267. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 聞くところによると、原案の強行でもいこう、あるいはそれを流していこう、ILOの特別委員にかってなり、また予定されておる人のある部分は、絶対反対、こういうことで、われわれがILO委員会に臨まれますか。私たちは、きちっとした約束をしているんですよ。公党間の約束が行なわれて、初めて国会正常化でしょう。公党間の約束ができないで、一体幹事長というのは何ですか。幹事長と書記長が会談をして、その線でやろうということができないということは、どういうわけですか。
  268. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、先ほど申し上げましたように、その約束というのがどういう約束か、あるいは効力をするとか、いろいろな約束もありましょう。それがどれだけの拘束力を持つかということにつきましては、まだ十分聞いておりません。したがいまして、特別委員会あるいは個々の委員会になるか、いずれにしても、私の申し上げておるとおりに、早く国会で十分論議をしていただいて、そうしてその結果によりまして、私は多数決の原則はやる。これが審議という事態をあれせずに、その前にどうだこうだということは、これは正常化ではない。まず早く審議していただきたい、こういうことです。
  269. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、形式の問題を言っているのではないんですよ、実質の問題を言っているんですよ。一体総理は、事実調査調停委員会が調査をするということをきめたら、どうしますか。
  270. 池田勇人

    池田国務大臣 いつきまるかはわかりません。したがいまして、そんなことについては、私の意見を言う段階じゃないと思います。
  271. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 多賀谷君、時間が参っておりますから、どうぞ急いでお願いいたします。
  272. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 調査団を派遣すること、これはこの前の秋のILO理事会できまっているんですよ。しかし、その具体的な問題の提案は、事務総長がこの二月にやるということになっておるのですよ。ですから、その既定の事実に立って、当然政府としては答弁できるわけでしょう。仮定の事実じゃないのですよ。派遣することはきまっておる。ただ具体的なその提案を事務総長がするということになっておるのでしょう。一体どういうつもりですか。
  273. 池田勇人

    池田国務大臣 二月の十四日に事務総長がどういうことを提案するか、まだきまっておりません。そうしていつこっちに来るかもきまっておりません。そうしてILO条約があなた方と一緒に早く通ってしまえば、来ないことははっきりしております。そこを私は言うので、早く論議をしてもらいたいと言っている。
  274. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 とにかく、「本件全体を結社の自由に関する事実調査及び調停委員会に付託することに同意するよう、日本政府に要請することを決定し、」ここまで決定しておるんですよ。その次の(b)項で、「前記(a)項に勧告された決定に従って政府の同意を求める基礎になるところの、調停調査委員会に対する参考資料のための一そう詳細なる提案を理事会に提出するよう、事務総長に要請する。」こうきまっておるんでんよ。ですから、事実調査調停委員会に付託をするということについてはきまっておる。その具体的な提案を事務総長が出すということになっておるんですからね。ですから、それに対する政府の態度というのは、もうはっきりしていいでしょう。
  275. 池田勇人

    池田国務大臣 答申がきまっておりましても、具体的にいかなる措置をとるかはまだきまっておりません。その時期がまだきまっていないのであります。したがいまして、その間にILO八十七号の案が通れば、問題は全部解消してしまうのであります。だから、二月の十四日に一応の理事会が開かれますが、そのときに事務総長がどういう案を出すかということも、まだきまっておりますまい。だから、それが調査を向けるというような決定……。(多賀谷委員「いや向けるということは決定しておる」と呼ぶ)いつ向けるということはきまっていない。だから、それがきまらないから、その前にILOが通ってしまえば雲散霧消してしまう、こういうことなんでございます。
  276. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私たちも、特別委員会を開いて早く批准したい。しかし、長い間かかって両党で話し合った問題が、再修正をされるとか、御破算になるとかいうことでは、われわれはこの国会において政党を構成して、しかも正式代表ですよ、非公式なやみ取引じゃないんですよ、これは。こちらから正式な代表を出してもらいたい、窓口がいろいろあっても困ります、こういうことを言って、その正式代表が自民党として出された、それが話し合ったことがさらに修正になるというようなことでは、われわれは何のための話し合い政治かわからぬでしょう。あなたは話し合い政治と言われるでしょう。(「審議をしなければわからぬでしょう」と呼ぶ者あり)審議はかなりしてあるんですよ。特別委員会でわれわれがかなり審議をして、そうしてこのいま出されている政府原案すら、八十七号条約に違反しておるということははっきりした。   〔発言する者あり〕
  277. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 静粛に願います。
  278. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 でありますから、この問題について、総理としてははっきりした態度を示される必要があるのです。とにかくもう二月の十四日ですからね。
  279. 池田勇人

    池田国務大臣 私の考え方ははっきりしております。こういう重要な問題は、本国会におきまして、委員会で十分討議をしてください。そうして、あなたの党とわが党ばかりではございません、ほかの党も二つございます。そうして国民が監視している。そうして国民によくわかってもらいながら結論を出そうじゃありませんか。しかし、その前提といたしまして、話し合いがあったということは認めますが、その話し合いがあったものがどれだけの拘束力を持つか、ある程度の拘束力を持つと万一したにいたしましても、こういう重要な案件は国会で十分討議することが、民主的の、あるいは正常な議会運営であると私は思っておるのであります。
  280. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 もう一問に限って発言を許します。
  281. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういうことをおっしゃるのは、おかしいと思うのですよ。この前の国会の終わったあとに、労働大臣はどういう談話を発表されましたか。この前の特別委員会で審議の内容は明らかになった、そうしてこの条約については手直しをしなきゃならぬ問題も相当あることが明瞭になった、だから政府みずから今度は手直しをして出すのだ、こう言っておる。とにかく現在出されておる原案が八十七号条約に違反しているのですよ、残念ながら。そのことをILOが指摘している。そのことをこの前の特別委員会で私が詳細に質問して、政府はそうだと言った。であるから、政府みずから直さなければならぬと、こう決心をされた。しかし、その後がたがたがたがたして、とにかく条約の解釈権を持っている政府みずからが条約違反のこの法律を出しておる。私は不見識きわまると思うのです。とにかく結社の自由委員会では、新しく提案されているこの改正案の詳細について、問題になっておる。この点おかしいじゃないか、日本政府は何を考えているんだ、回答をしろ、何回も回答を求められているのですよ。そのうち日本政府の解釈がずっと変わってきた。こういうような情勢の中で、政府みずからその非を認めて、この手直しをして出します、こう言っておる。しかも解釈権は政府にある。これは外交ですからね。その条約の解釈権を持っている政府が出さぬ。全く怠慢じゃないですか、この点。しかもその内容については、この前の通常国会の特別委員会で詳細に判明をしたと労働大臣みずから言っておるのですよ。ですから、そんな逃げ口上で許されませんよ。ですから、内容もはっきりした、政府の問題の点もわかった、だから一体どうするか、こう言っている。国会の審議、なるほど不継続でありますけれども、問題の焦点ははっきりしているのですよ。
  282. 池田勇人

    池田国務大臣 いろいろな問題がございましょうから、一日も早く御審議を願って、そうして国権の最高機関でございますから、どうぞ御自由に御訂正なり、是正せられまして、全会一致で早く通していただくことを私は念願いたしておるのであります。
  283. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 私の前々国会における答弁に関連してのお話でございましたので、一言弁明をお許しいただきたいと存じまするが、なるほど特別委員会におきまして多賀谷委員からいろいろ重要なる質問がございました。その結果、政府の原案の中で、文章の書き方があまり上等でない、したがって誤解を生じやすいというような点のあったことは、私も認めたのでございまするが、しかし、政府の原案が条約に違反しておるというようなことを認めた事実はございませんので、この点だけ釈明させていただきます。
  284. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 多賀谷君に申し上げます。もう一点ですか。——前例とせざることにしまして発言を特に許します。簡単に願います。
  285. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理、OECDに加盟される場合に、御存じのように労働団体の諮問委員会がOECDにできるわけですね。これでまた非常に問題になるですよ。あなた方はOECDというのは労働者は関係ないと思うかもしれないけれども、労働者団体ができるですよ。これが私は非常に大きな問題になると思うですよ。ILOだけではなくて、結社の自由の問題は国連でも問題になる可能性がある。さらにまた、OECDの労働者団体ができるのですから、労働者だけの委員会ができるわけですから、そこでも問題になるでしょう。ですから、この問題は少なくともOECDに加盟をする前に片づけておかなければ、論議の場をもう一つつくることになりますよ。総理の決意を聞きたい。
  286. 池田勇人

    池田国務大臣 OECD関係も、OECD加入の関係に直接絶対的なあれはございませんが、それよりも前に、先ほど申し上げたように、日本といたしましては、ILO八十七号条約を批准するという基本方針は前から変わっておりません。しかも私は、非常に熱意を持っておるのであります。そしてあなたがおっしゃるとおり、八十七号条約は非常に必要なものでございます。それを国内法でああでもないこうでもないという、末梢とは言いませんけれども、ILO八十七号条約を早く批准するためには、あなたのほうでよほど妥協的に出て、やはり国会の論議を尽くして、多数決に従うという基本的立場になってもらえば、あなたが非常に熱望せられ、非常に御研究になっているこのILO八十七号もスムーズにいくことを私はここに申し上げまして、御協力を願いたいと思います。
  287. 荒舩清十郎

    荒舩委員長 これにて多賀谷真稔君の質疑は終了いたしました。  次会は、明後三日月曜日午前十時より開会いたします。  三日の質疑者は、午前は石田宥全君、午後は加藤清二君であります。  なお、石田君の要求大臣は総理大臣、外務大臣、大蔵大臣、文部大臣、農林大臣、通商産業大臣、労働大臣、建設大臣、自治大臣、また加藤君の要求大臣は総理大臣、外務大臣、大蔵大臣、厚生大臣、農林大臣、通商産業大臣、運輸大臣、労働大臣、建設大臣、経済企画庁長官であります。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時二十七分散会