○只松祐治君 私は、
日本社会党を代表し、全国の働く人々の願いを込めて
所得税法の一部改正案に反対の討論を行ないます。(
拍手)
自由民主党、
池田政府は、口を開けば、
国民経済の
成長に見合って減税を行なってきたといい、本年はさらに国税、地方税を合わせて平年度二千億に及ぶ画期的な大減税を行なったと、鳴りもの入りで宣伝を行なっています。はたしてそうでしょうか。私がノーと答える前に、
国民がこぞってノーと答えるでございましょう。税金は重くこそなれ、決して軽くなどなってはいません。複雑で難解な税法、去る十九
日本会議に再提案になった
所得税法の別表修正に見られますように、わが国最高の専門家をもってしても算定困難な課税体系とその方式を利用して、善良な
国民を欺くにこれ以上のものはありません。すなわち、
政府は、本年度の
経済成長率を実質七%と低く見積もりながら、三兆二千五百五十億円と、前年比実質一五%をこす大規模な予算をつくり、その財源として六千八百億円という、戦後最大の自然増収といえば何だか聞こえはよいようですが、実は
国民から大増税を強行しようとしているのであります。当然のことですが、租税負担率ははね上がり、敗戦
経済から脱し切れなかった
昭和二十八年度を除けば、最高の二二・三%という高い負担率となっています。これは、御存じのように、
政府の任命した税制調査会ですら、わが国の租税負担率は二〇%
程度が適当であると述べたことを無視しているばかりでなく、わが党代表の
質問に、戦前の一二、三%
程度に引き戻すことに努力すると言明したことと全く相反するものであります。このように、租税負担率が増大の一途をたどり、ついに二二%をこしたことは、アメリカの極東戦略に奉仕する防衛費の
増加、独占資本のための産業基盤強化の公共投資や、まさに倒れようとしておる朴かいらい政権のてこ入れのための対韓賠償など、平和と生活の向上を希求する
国民に関係のない不急不用な費用が増大してきているためであり、われわれ
国民の断じて容認することのできないものであります。(
拍手)
次に反対いたします理由は、
所得の減税があまりにも過小であり、実質上の減税ではないということであります。
すなわち、三十九年度の予算編成に際して
政府が見込んだ租税の自然増収は六千八百億円をこえており、そのうち、
所得税における自然増収は二千億円に達しております。それに対し、三十九年度税制改正による
所得税の減税は、たった六百五十五億円にしかすぎません。これは
大蔵省事務当局、税制調査会でも論議されていることでございますが、最近の物価上昇はまことに急速かつ大幅なものであります。給与
所得者は、今春の賃金闘争にも見られるように、必死になって物価上昇のあとを追いかけていますが、その給与や賃金の名目的
水準が物価上昇に追いついていくのはなかなか困難なことです。農家や中小商工業者のような事業
所得者の場合も同じでありまして、物価上昇によってその経営は苦しくなり、名目
所得水準を物価上昇に追いつかせるのに四苦八苦いたしております。したがいまして、物価上昇を追いかける形で
国民の名目
所得が上がり、それに対して租税負担も上がるという悪循環が繰り返されているわけです。
そこで、
政府は、物価の上昇を押えるということが第一の責務となってまいりますが、もしその上昇を完全に押えることができないならば、物価上昇に見合っただけ課税最低限を
引き上げて、租税負担を調整することが緊要なこととなってまいります。したがいまして、今回のような
政府のいう減税、実は税の調整は当然の
措置でありまして、ことさらに減税と呼ぶ必要はありません。減税とは、文字どおり
国民の租税の負担を軽減することでありますから、物価上昇に見合った税制の調整にとどまらず、さらに進んで真の減税
措置を講じなければなりません。
政府の今回の税制の改正は、減税減税と口先で唱えながら、実際は
所得税を中心に税負担を重くしていく最も悪質なやり方であり、われわれは、かかるごまかしの
政策を
国民とともにきびしく弾劾しなければなりません。
第三に反対をいたします理由は、今回の改正は、
所得税課税の原則に反しているからでございます。
申し上げるまでもなく、
所得税課税の大原則は、生計費には課税しないということであります。この見地から
昭和三十九年度
所得税の改正を見るならば、夫婦二人に子供三人の標準世帯の課税最低限は、四十二万八千四百七十二円から、四十七万一千三百七十七円に
引き上げられ、青色申告で四十二万、白色で三十六万円となっておりますが、これでは、生計費に課税しないという原則が完全に見失われています。
総理府統計局の全国都市世帯の消費支出調査によりますと、
昭和三十七年度において、調査世帯人員数は四・二九人であって、しかも年間を通ずる消費支出額が四十六万三千円に達しております。この世帯人員四・二九人を五人に引き直し、また、
昭和三十七年度から三十八年度への物価上昇率約一四%を織り込んで修正すれば、実に標準世帯の年間生計費は約六十一万二千円になります。これは
政府統計局の家計調査の数字から導き出されておるのであります。
政府は少なくとも六十万円まで課税最低限の
引き上げに努力すべきであり、
日本社会党が
所得税課税最低限を六十万円に
引き上げることを主張いたしているのも、この理由からであります。改正案はこの当然の主張を全然無視いたしております。
さらにわが党が反対する理由は、
所得税がますます大衆課税の性格を強めてきていることにあります。
最近、
池田内閣の
所得倍増政策の結果、
所得の格差はいよいよ
拡大してまいりました。したがいまして、それは当然に本来累進課税である
所得税の課税対象から低
所得層がだんだんに除外され、
所得税納税人口が次第に減少してくるのが自然の成り行きでございます。ところが、前に申し述べましたように、課税最低限が不当に低いために、年々
所得税納税人口が激増してきています。三十九年度は税制改正によってもなお二千万人をこし、
昭和三十五年度の一千三百八十万人より約六百万人、
昭和三十年度の一千九十七万人の約二倍にも増大してきております。試験地獄をようやく終えて、やれやれと一息ついた学生の六一・四九%は、今度はまた税金地獄にとりつかれることになるのでございます。税額も当然にふえて、三十五年度の三千四百六十二億円から、三十九年度は七千七百二十億円と、わずか五年間で倍以上にもなってまいります。納税者数も税額もふえてなおかつ減税ということは、いかなる学説に基づくものでありましょうか。
さらに重要なことは、
所得税納税人口の激増ということは、地方税、すなわち住民税の
所得割りへはね返ってくることであります。三十九年度の地方
財政計画を見ましても、
政府は住民税の自然増収を二千三百億円という過大な額を見込んでおりますが、これこそ、国税における
所得税の増収と見合いになっていることは明白であります。したがいまして、
政府は、国税及び地方税を通じて、まず
所得税の課税最低限を大幅に
引き上げて、
所得税納税人口を大きく減少させるという
措置をとることこそが最も大切なことであります。
最後に反対する理由は、昨年度、税制調査会の答申から、配偶者控除、扶養者控除、また専従者控除を行なわず、本年もまた答申を無視して、給与
所得控除を行なわず、九十四億円を削り取り、現在でも多きに失する
証券配当などの租税特別
措置に回したことは、遺憾きわまりないことであります。税制調査会でさえ、幾たびか、現在の
所得税は、戦前や諸外国に比較して重く、特に中小
所得者の負担が重いと、その軽減を勧告してまいっておりますが、このように税調の答申さえ
実施されない結果、
所得税は、重いだけではなく、きわめて不公平になってきております。租税負担の原則が激しく侵され、事実上崩壊し去ろうとしていることは憂慮にたえません。特に、労働者、農民、
中小企業者などのいわゆる勤労
所得者に対する課税とその徴収は、まことに峻厳苛烈なものがありますが、株式の配当や預
金利子、有価
証券や不動産の投機的売買など、不労性
所得に対してはたいへんにおおらかなものであります。たとえば、夫婦、子供三人で年間五十万円の給与
所得者は、
所得税、住民税を合わせて五千七百三十二円、事業
所得の青色申告者は九千四百四十円でありますが、配当
所得者は、
所得税は一銭もかからず、わずかに住民税が三百円課せられるだけであります。同じく百万円の
所得のとき、給与
所得者は、
所得税、住民税を合わせて八万七千二百二十一円、青色申告者は十万五百五十七円でありますが、配当
所得者はわずかに二千三百十八円、利子
所得者は四万八千七百五十円にすぎません。しかもこれらはすべて分離課税でもあります。全く、腹立たしさよりも、嘆かわしさを覚えるのは私一人だけではございますまい。ほとんどの
国民は、この課税の実態に目をふさがれて知りませんが、働かざる者や資産家にこれほど都合よく、額に汗して働く善良な
国民に限りなく重いこの課税の実情を全
国民がほんとうに知ったときに、いかなる事態が生起するか、予測しがたいものがあります。
あやまちを改めるにはばかることはございません。
政府は、すみやかにこの誤った税制を改め、近代税制の大原則である負担の公平と、
所得の多い者、不労の者に累進的に課税する本来の税制に一日も早く立ち返ることを強く要望いたします。
なお、
所得税法の改正にあたっては、当然に、生活困窮者や、
所得税を納めることさえできない二千万人をこす低
所得者のために、間接税の大幅引き下げをあわせて考慮すべきであることを付言し、
国民のだれもが求めてやまない真の税制の確立にまた各位もひとしく御賛同を賜わらんことをお願いして、私の反対討論を終わります。(
拍手)