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1964-04-16 第46回国会 衆議院 法務委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年四月十六日(木曜日)    午前十一時三十二分開議  出席委員    委員長 濱野 清吾君    理事 鍛冶 良作君 理事 唐澤 俊樹君    理事 小島 徹三君 理事 三田村武夫君    理事 坂本 泰良君 理事 細迫 兼光君    理事 横山 利秋君       上村千一郎君    大竹 太郎君       岡崎 英城君    坂村 吉正君       四宮 久吉君    渡海元三郎君       中川 一郎君    橋本龍太郎君       長谷川四郎君    服部 安司君       古川 丈吉君    松澤 雄藏君       森下 元晴君    井伊 誠一君       神近 市子君    田中織之進君       畑   和君    松井 政吉君       松井  誠君    竹谷源太郎君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 賀屋 興宣君  出席政府委員         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      日原 正雄君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君         法務事務官         (人権擁護局         長)      鈴木信次郎君         公安調査庁長官 齋藤 三郎君  委員外出席者         検     事         (刑事局刑事課         長)      羽山 忠弘君         専  門  員 高橋 勝好君     ————————————— 四月十五日  委員長谷川四郎君及び松澤雄藏辞任につき、  その補欠として森下國雄君及び濱地文平君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員濱地文平君及び森下國雄辞任につき、そ  の補欠として松澤雄藏君及び長谷川四郎君が議  長の指名委員に選任された。 同月十六日  委員亀山孝一君及び田村良平辞任につき、そ  の補欠として渡海元三郎君及び橋本龍太郎君が  議長の指名委員に選任された。 同日  委員渡海元三郎君及び橋本龍太郎辞任につき、  その補欠として亀山孝一君及び田村良平君が議  長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正す  る法律案内閣提出第九号)      ————◇—————
  2. 濱野清吾

    濱野委員長 これより会議を開きます。  暴力行為等処罰に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。  前会に引き続き質疑を行ないます。坂本泰良君。
  3. 坂本泰良

    坂本委員 前会政府治安立法治安政策等について大臣の所見を承ったわけですが、まだいろいろございますが、それはまた次に譲りまして、本日は現暴力法、いわゆる改正法案で強化されようとしておりまする現行暴力法大正十五年に法律としてできまして、その後戦前、戦後、現在まで労働運動、あるいは大衆運動に使われておりまするから、その点についてただしたいと思います。と申しますのは、今度の法律改正は、もちろん現行法一条に対して二項を独立の項とし、さらに銃砲刀剣等の加わったものでありまするが、その改正によって現行法一体となりまして、なお今後労働運動、あるいは大衆運動弾圧に使われる危険性があるわけであります。したがって、大正十五年当時は——法律労働運動大衆運動には使わないという政府の言明に対して、われわれは非常に心配をするわけであります。この点についてまず明らかにいたしまして、そうして現行法の問題について質疑をいたしたいのであります。  御承知のごとく、現暴力法大正昭和の二代にわたり、戦前、戦時中、戦後にかけ、三十八年間農民運動労働運動等大衆弾圧をする上に重要な役割りを果たしてきたわけであります。この点については、現在最高検に行っておられまする関検事労働刑法概論という著書を出しておられまして、その中に述べておられるわけであります。それは……
  4. 濱野清吾

    濱野委員長 坂本君に御注意申し上げておきますが、非常に重複する点がいまでもあるのです。時間は制限しませんから、要領よくやってください。
  5. 坂本泰良

    坂本委員 この冊の一番重要なところを……(「全部読むのじゃないか」と呼ぶ者あり)そういう頭の悪い人間じゃありませんから、一ページくらいで終わります。「大正十五年四月、法律第六十號として公布された暴力行偽等處罰に関する法律は、特に説明を要する。時の政府は、一方に於て治安警察法等七條廢止法案議會に提出すると共に、他方に於ては、右暴力行爲等處罰に關する法律案も同時に提出した。本法案の審議に當り、最も問題になったのは、右の治安警察法第十七條廢止法案との関係上、暴力行爲等處罰に關する法律は、勞働運動小作争議等適用せらるるや否やの點であった。議員は、治安警察法第十七條廢止法案が提出され、同時に暴力行爲等處罰に關する法律案も提出されたから、後者を以て前者代替法とすることは出來ない。若し、代替の法なりとすれば、治安警察法第十七條廢止は、全く無意味となるからである。從って前者廢止の精神を徹底せしむる爲には、後者は合法的なる勞働争議小作争議には適用がないとすべきであると主張し、政府も亦この主張に屈し、本法は、合法的なる勞働運動小作争議を取締るものに非ざる旨を言明した。然るに、その後の本法の運用の実情は、廣く勞働運動小作争議の一切に亙りこれを行ってみる。本法は、一般勞働刑法として特に重要なる地位にある。勞働運動に伴ふ暴力的犯罪にして、本法適用なきものは殆んどない。」これは現在最高検に行っておられます関氏が、労働刑法概論という本に書いてあるところなんです。こういう面で、同時に国会審議にあたりましては、労働運動大衆運動には適用しないと言ったのも、いみじくも検事の関氏が、この著書によって発表せられておりますように、「本法適用なきものは殆んどない。」こういうふうに言っておられるのです。こういう点についての政府の御見解を承りたい。
  6. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 今回御審議を願っております法律案が成立しましたら、現在より強化されるというお話ですが、私にはわからないのです。強化されないということをるる申し上げておるのでございます。どう強化されるのか、強化されっこないじゃございませんか。一条法律適用範囲を広げるという規定もなければ、その刑罰を加重するという規定もない。ちっとも強化されていない。強化されるという前提でお考えになりますが、私は、この点をもう一度お考えになったら、強化されることは、どこをさがしてもないだろうと思います。これが申し上げる一点でございます。  それから、いま、ある検事著書をお読みになったようでございますが、私は読んでおりません。いま一度だけ御朗読を伺っても、意味ははっきりつかめませんし、それから、その著書の前後を読みませんから、何とも批評できませんが、かりに検事にしても何にしましても、あの法律労働運動小作運動適用すると言ったら、それは間違いでございます。この間もある例を申し上げましたが、合法的の集会がありましたときに、この集会の中で殺人が行なわれた。殺人罪は、いまの刑法適用しまして、検挙され、起訴され、これは十分にやります。それがゆえに刑法がその集会適用された、私は、だれもそうは思わないと思う。そういう際に起こったものに、何も一切の刑罰法令適用されぬのだ、こういう解釈でおることは、これはたいへんなことでございまして、俗に小作争議適用されたなんて言いますが、ことば意味を厳重にしませんと、たいへんな間違いが起こると思うのであります。いま申しましたように、合法的な行為といえども、その際に起こった違法行為処罰されるのはあたりまえでございまして、免責規定が及ばないということも、判例その他でも明瞭な点でございますから、私は、小作争議労働運動に過去に適用されたと思いませんし、今後もそういう場合は絶対にありません。のみならず、それに伴って、それに際して起こる場合もほとんどないだろうということは、幸いに、過去の労働運動銃砲刀剣類等を持ってやって、そのゆえに処罰されたということはないわけでございます。また、そういうこともないと思います。そういう点におきましては、合法的に行なわれておるわけでございます。ですから、労働争議の起こった際にある犯罪が犯されたということと、それで刑罰法令労働争議適用されたということ、これは私はたいへんな違いだと思うのでございます。
  7. 坂本泰良

    坂本委員 やはり当時も第一線の検察官であり、現在は最高検にいっておられると思うのですが、この検事の方がこの著書にはっきり言っておられるわけです。「本法は、」というのは現暴力法のことですが、「一般労働刑法として特に重要なる地位にある。労働運動に伴ふ暴力的犯罪にして、本法適用なきものは殆んどない。」こう言われているのです。今度の改正法案も、政府委員の御説明によりますと、これは暴力団を制圧する法律であるから、労働運動大衆運動には絶対適用がない。こうおっしゃるけれども、しかし、これをまた乱用されて、労働組合運動大衆運動を制圧される危険性があるものですから、いかに——三十八年前には、やはり法律案国会審議になりますときは、絶対適用しないと言いながら、労働刑法の中にこれを入れてしまって、そして労働組合大衆運動にこれを適用した。こうその検察官はこの本で言っておられるわけですからね。(「それは戦争前の頭だ」と呼ぶ者あり)いまの発言のように、戦争前の頭をまたいま持ってきて言われる危険がある。信用ができないものですから、まずまっ先にこれをただしておるわけですから、その点について、政府委員の御答弁を願います。
  8. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 関検事のお書きになった著書を引用なさって御質問でございますが、治安警察法は、御承知のように、条文を読んでいただくとわかりますけれども、スト的な行為、こういう大衆運動を直接処罰対象にしておるものでございます。したがいまして、これはストを弾正する法律というふうに見られても私はいたし方ないと思うのでございますが、いま、それを廃止いたしまして、その身がわりにこの暴力行為を出したのだ、こうおっしゃるのでございますけれども、これはとる人は、同じ議会にその二つの、廃止法案暴力行為処罰法とが両方出ましたので、あるいはそういうふうな見方もできるかもしれませんが、この暴力行為処罰法は、大衆行動そのものを罰する規定一つもないわけであります。関君も検事ならば私も検事でございます。検事意見ということで申し上げるならば、私は、これはストそのものを罰する規定一つもないと思う。ストの際に、逸脱して暴力行為に及んだときに——その暴力行為も限定されております。この逸脱して暴力行為に及んだ場合だけを罰するというのがこの暴力行為処罰法律であります。このことは、検事がそう育ったからそうだというものじゃございません。法律解釈というものは客観的にきまることなんでありまして、いままで適用を見ましたものは、これは年間三百人程度の適用を見ておりますが、いずれもストそのもの処罰したものは一つもありません。ストの際に起こった暴力行為が問題となっておるわけであります。そのことを先ほど大臣も繰り返しお答えを申し上げておるのでございまして、私も同じように考えております。政府考え方というものは、もう終始、これは四十年来変わっておりません。その点をひとつ御了承賜わりたいと思います。
  9. 坂本泰良

    坂本委員 いや、そこで竹内局長はそうはっきりおっしゃるけれども、次の次官に昇進されて、この法律ができますと、いろいろとその適用の任に当たられるわけですが、三十八年前の帝国議会議事録があるのです。私は、会館にあるのですが、それを持ってきておりません。こんな厚いものですから、ここに持ってきませんでしたけれども、それを読んでみましても、多少ことばは違いますけれども、いま局長のおっしゃったような答弁をしているわけですね。絶対にそういうのには適用ない、これは説教強盗その他のいわゆる暴力を取り締まるものであって、労働運動大衆運動にはいかないのだ。こういうことが、この三十八年の歩みを見ますと、いみじくも関検事が言われるように、いつの間にか労働刑法になってしまった。そうして労働運動大衆運動にもこれを適用して、いわゆる猛威をふるうというのですか、この法律によって逮捕状が出るし、あるいは裁判になる。そしてまた暴力行為等のこの法律で有罪の判決も受けておるわけです。そこで、今度の改正がいかに全然別個だというように言われても、やはり刑期の最下限を上げるし、それから常習を入れてやる以上は、現行法一条一項、これと一体となってこの法律適用を受ける。こういうことになりますから、いまおっしゃったように、絶対そういうことはないとおっしゃっても、できてしまうと、その法律がまた労働刑法の中にさらに強化して、猛威をふるうということになっては、これはたいへんだから、そうおっしゃっても、三十八年前の現暴力法審議の際を顧みますると、どうも心配だ、安心できない、こういうわけなんです。労働運動とか大衆運動にはこれを適用しないという一カ条でも入れば、これは別ですけれども、そういうのが入らない以上は、暴力は何のためにも適用になるのだといって——もちろん、現行刑法に該当するようなのがあったら、これは法律がなくても適用になってくるでしょう。なってくるけれども、この法律をもって、労働運動についてはストライキの場合を仮定いたしますと、ストライキ団体交渉をする、そうすると大きい声をすると、すぐ威力業務妨害罪ということでこれを引っぱる。それから今度の改正法では重くなって権利保釈もできないというと、ストライキというのは憲法上認められた労働者権利であり、その憲法上許された労働組合のその代表者が代表して交渉する場合において、そうして大きい声をしたら、これは業務妨害だ、だから今度の改正案一条ノ三をもってこれを検挙するというようにして保釈もしないということになると、実際上の労働運動はそれによって労働者側がもう負けになってしまう。せっかくの要求というものはできないことになるわけなんです。この法律労働運動に対する弾圧だというのはそこにあるわけです。個々違反行為に対して処罰をするというのは、これは第二段階でありまして、そこまでいかない前にこの法律を持ってきて、そうしてその労働運動幹部などを検挙するということになれば、実際上労働者負けになるから、対等の地位団体交渉が許されたのが、やはりこの法律の結果、労働者側が不利な立場になって、いわゆる代表していろいろの経験その他に基づいてやる組合幹部が検挙されるということになったならば、事実上ストライキがだめになる。それをわれわれは労働運動弾圧であると言う。だから、そういうふうにこの法律を持っていくのじゃないかという危険がある。それはないとおっしゃるけれども、三十八年前にそういうことがあってやってきたのじゃないかというので、心配だからお聞きしておるわけなんです。
  10. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 この法律は一切の労働運動適用せずと書けばよいのだ。しかし、それだけ書いたのじゃ、私らが申し上げるのと同じことであります、もしも労働運動の際に起こった行為は、どんな行為であろうと刑罰法令適用されない、こう書けとおっしゃるのですが、これはたいへんなことです。労働争議の際に銃砲刀剣類をもって傷害をやってもどれは罰せられない、はなはだしきに至っては殺人をしても罰せられない、これはたいへんなことで、そういう意味で、労働運動に対して適用せず、これは書くも書かぬも問題外です。ほんとうの労働運動適用しないというのは、いまはそうでございますが、お書きになってもならぬでも、一つも違いません。それで、第一条であるから今度は強化される強化されると先ほどから繰り返してお話しになりますが、今度の銃砲刀剣類は、罰せられるのは集団の威力でも何でもない、一人でやってもやられるのでありまして、多数を代表しているということが要件でも何でもないのでございます。一条とどう結んで強化されるのか、むしろ、それをよく御説明願わぬと私のほうにはわからないのです。一条は強化されようがないのです。それですから、一条が不当な適用心配だからと仰せになりますが、これはどうも非常なお考え違いではないか。いわんや、たびたび申し上げますように一条労働運動そのものには適用されてない。いま刑事局長から御説明申し上げましたように、そういう際に起こった違法にして刑罰法令に触れる行為適用されるのでありますから、筋は全く別で、こうしたら安心だと仰せになるとおりにできておるのでございます。
  11. 坂本泰良

    坂本委員 こればかりにこだわっておりますと先に進みませんから、いろいろ並行して出てきますから……。  次に御質問申し上げたいのは、単に検事だけでなく、判事裁判するにあたって、やはり暴力団だけではない、小作争議適用されたという事例がありますから、それを申し上げますと、これは「司法研究第二輯」の秋田地方裁判所検事飯沢高——御存じのように、当時はいまのように検察庁裁判所が別ではなくて、裁判所の中に裁判所検察庁がございましたから、秋田地方裁判所検事ということになっておるわけですが、この方はこう育っておられます。「全国で本法により起訴し判決したるもの目下審理中のもの併せて五十一件あり」、これは現行暴力法の成立した直後の話です。「五十一件あり細別すれば、(一)団体的威力によらずして暴行投棄を為したるもの一七件、(二)団体的威力によらずして強談威迫を為したるもの九件、(三)兇器を示して暴行脅迫を為したるもの一四件、(四)団体威力を示して暴行脅迫を為したるもの一一件、特に注目すべきは末項に挙げた十一件中一般暴力団と看做されて居る団体を背景として行動した為め本法に抵触したのは二件に過ぎない」、暴力団適用したものは二件にすぎない。しかしながら、いま申しましたように十七件、九件、十四件、十一件というふうに、本法によって起訴されておるものがある。この報告のようにこの暴力法ができて五十一件逆用を受けておる。そして暴力団に対する適用がたった二件である。こういうふうに「司法研究」に飯沢検事報告しておられるわけです。だから、暴力団適用すると言いながら、そうでなくて労働運動大衆運動は何十倍という適用を受けておる。こういう事実があるわけです。さらにまた新発田区裁判所加藤朔太郎判事報告によりますと、こういうことを言っておるわけです。「従来小作争議に関して発生したる犯罪の多くは小作人がその要求を貫徹すべく焦慮の余り直接行動に出たるが故に生じたるものにして共の動機単純なる感情の激発に起因せるものなり然るに最近には永続的小作組合発生したるため之に伴ふ犯罪もその態様を異にするに至れり。」さらに「犯罪内容に就きては」、この小作争議の場合ですよ。「犯罪内容に就きては器物毀棄暴行傷害脅迫等最も多く犯罪総数の約半数を占む毀棄罪中には土地引上問題を中心として地生小作人双方共植付を遂行せんとし時に相手方の植付けたる種苗を抜取る等の行動に出て毀棄罪の告訴を受けたるもの多数なり暴行傷害及脅迫罪は概ね小作人地主に対し其要求を容認せしむるがため又は小作人相互間に於て裏切的行為ありたるが如き場合に敢てせらるるものにして小作争議関係犯罪に於ては最も一般のものなり。」こういうふうで、小作争議の場合は、地主が植えておると、小作人がそれを引っこ抜いて植え、小作人が先に植えておりますと、今度は地主側がその植えておるのを引っこ抜いて植える、そこでもんちゃくが起きて、そうして器物毀棄罪、それから暴行、こういう犯罪が発生して、結局現行暴力法適用を受けておる、そうして処分を受けておる。こういう結果を見ますると、やはり小作争議等にこの法律適用しないと言いながら、直ちにこれを適用しておる。こういう事実があるわけなんです。ですから政府のおっしゃるとおりに、看板どおりにこれを受け入れることはできないという証拠がここに出ておるわけなんです。現行法は、こういうような経歴をたどっておりますが、今度の改正法になったならば、改正された現行暴力法は、はたして労働運動大衆運動に使用されないかどうか、非常に心配であるわけです。こういう過去の例を考えまするとき、されないという断言は政府としてはできないと思うわけですが、その点いかがでございますか。
  12. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 詳しくは政府委員より申し上げますが、断然通用しません。断言申し上げます。
  13. 坂本泰良

    坂本委員 大臣が全責任者だけれども、政府委員どうですか。はっきり言っておられるのですが、はたしてこれがいつの日かできたならば、直ちにこれを労働運動大衆運動適用されるようになるのじゃないかと私は思うのですが、その点どうですか。
  14. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 労働運動大衆運動そのものにこれが適用されるということは、私は大臣と同じ意見で、起こり得ないというふうに思っております。それはなぜかと申しますれば、なるほど暴力行為等処罰に関する法律は、労働運動適用せずとは書いてございませんけれども、労働運動という一つ社会現象をとらえて構成要件としておりませんで、暴力行為だけを取り上げて処罰対象としておるわけでございます。現に労働運動大衆運動といえども、特に労働運動につきましては、これは労働組合法一条二項の規定もございまして、幾ら合法的な労働運動でありましても、暴力をもってその刑の免責を受けるということにはならぬということははっきり書いてございます。したがって、私どもの理解しております労働運動というものは暴力を使わない。これは育成強化するというのは政府基本方針でございます。でございますから、これを刑事罰の面から見ました場合に、暴行脅迫をするというその越軌行為というものはどういう場合にも起こり得ると思いますけれども、これはあくまで越軌行為として、社会生活の中で越軌行為をした者が刑罰に触れる場合と同じでございます。それだけの意味でございますから、労働運動大衆運動にまっ正面からこの法律適用を見るというようなことは将来あり得ない。そういう意味で、大臣のおっしゃったとおりだと私は思っております。
  15. 坂本泰良

    坂本委員 いや、はっきり申されて、またあとでいろいろ証拠をつきつけられて困るようなことがないようにお願いしたいと思うわけですが、ただ、もちろん具体的に検事が起訴して、そうして裁判になるのは百件のうちの数件でございましょう。そこで私たちが一番問題にするのは、もちろん検察官が起訴して裁判になったのは、あるいはそういうような、いまおっしゃったような暴力の点もあるでしょう。しかしながら、そうならないものがたくさんあるわけなんです。それが十ぱ一からげに検挙される。こういうことになると、そこに初めて小作争議あるいは労働運動ストライキに影響してくる。それが労働者側小作人側一方に不利に影響してきて、その反動として片一方のほうは非常な有利な地位に立つ。だからせっかく憲法二十七条、二十八条によって労働者権利団結権ストライキ権は認められておっても、この法律ができて、この法律を乱用されると、それによって労働運動ストライキ自身がだめになってしまう。労働者に非常に不利になってくる。これを私たち労働組合運動に対する弾圧だ、こう言うわけなんです。そういう点について、いわゆる法律があれば、この法律を広く解して乱用する、そこに大衆運動弾圧がある。こういうふうに考えられますから、個々のあがった問題とは別に、いわゆる労働組合運動あるいはストライキあるいは小作争議ということを前提として、この法律の乱用によって弾圧になる、こういうことを私申しておるわけですが、その点いかがでございますか。
  16. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 端的に申し上げれば、労働争議等の際、銃砲刀剣類を用いて傷害等の行為をなさらなければ、絶対にお気づかいのことはない。そういうことをやれば、それは心配でしょう。またやるというふうな考え方があれば御心配でしょうが、銃砲刀剣類をもって相手を傷害するというようなことは、当然おやりにならぬ、やらないとお考えになることでございます。そうお考えならば、何も心配はないのです。ですから、そんなことをやるだろうというようなことを考える人は心配かもしれませんけれども、それはごうも心配ない。それで、どんな場合にも適用しないとなったらたいへんでございまして、何かのお祝いの場合に殺人を行なった。お祝いの場合だから殺人でもそれは一切適用しないなんという法律は想像されません。それと同じことだと思うのです。  それで、いま労働者ストの場合についての質問がございまして、私も御同感です。しかし率直に申し上げまして、ずいぶんストの行き過ぎもございます。そういうストの行き過ぎがあるからといって、労働者スト権利を認めないなんという、こういう法制は私はいけないと思う。行き過ぎがあっても、正当なものは認めなければいかぬ。それはお話しのように、検挙します場合に、間違って検挙する。これは殺人罪だってあり得る。それはいいわけはございませんが、ないとは言えない。正直に言って、そういうような場合が絶無とは申し上げませんが、それがゆえにこういう立法はみな悪い、間違って殺人罪を検挙する場合があるから、殺人罪を罰する立法が悪いとは言えない。ストの場合でもそうでございます。要するに、すべての人がまじめに合法的に権利を主張する、スト法律で認められておる場合、認められた方法によってやるということならば、何の心配も私はないと思うのでございまして、そういう際に起こった違法行為を罰するということを、それに適用した、適用したと簡単に言ってのけますが、そこにたいへんな間違いが起こるので、そういう際に起こった刑罰法令適用することは決してそのスト、その争議に適用されたのではないとはっきりわれわれは申し上げたいのであります。
  17. 坂本泰良

    坂本委員 洗練されたことばで言えばそうなるでしょうが、実際争議の場面に参りますと、そう簡単なものじゃないようなんです。飯沢検事も加藤判事も、報告書に書く以上は、小作争議に対してこういう事件があると書く以上は、やはりすれすれあるいはすれすれを越したところでもこの法律適用してやって、そうして裁判に起訴されたのは、その百のうちのわずか数件だ、こういうことになるわけですから、そうりっぱに絶対ありませんというようなことでなくて、やはりいまのような複雑な経済組織のもとにおける労働争議において、労使双方が対決をいたしまして、ストライキをやる場合、いろいろの問題がありますし、ことにこのごろはスキャッブの問題もございまして、そう簡単なものではないわけです。一例をあげますと、三池の争議に際しましても、炭鉱の労働者並びにその奥さんたち、いわゆる主婦たちが約四十名起訴されたわけです。そして熊本地方裁判所の三名支部で裁判が行なわれたわけですが、そのうちの半分以上、そのデータをここに持っておりませんが、半分の十八名が裁判になって無罪になっておるわけなんですね。しかしながら労働運動というのは、一年、二年先の裁判によって無罪になりましても、その人個人の青天白日はそこで証明されますけれども、その無罪になるような人もくるめて四十名も検挙している。四十名も起訴する場合は三、四百名は検挙しておるのです。そういうようなのであって、それがストライキの現場で行なわれるから、あとでわずかな一部分が裁判になって無罪になっても、それはもう間に合わないわけなんです。いかに公平な警察官といえども見そこないがある。見そこなうどころじゃない。先般私が質問しましたように、この治安政策という点から、現在の警察は、遺憾ながら現在の支配階級維持のために警察権力を拡充してやる以上は、この法律がない場合は、刑法暴行罪とかあるいは不法逮捕とかいろいろな問題が起きましょうが、この犯罪によりますと、また今度の改正法によりますと、傷害暴行器物毀棄脅迫というのがここに入ってくるわけなのです。そうすると、少し大きい声をしても、これはもう脅迫だ、威力業務妨害だということになれば、すぐ法律を持ってまいりまして、やはり警察権力によってこれを一なめにしてしまおう、そうすると、そこでストライキ自身労働者負けで敗北におさまるのです。そうして検察官が、これは器物毀棄あるいは暴行をやっているというよほどの確信を持って起訴されて、大部分は釈放して、確信を持って起訴された中で半分も無罪の判決が出る。こういうような点を考えますと、これはいかに不法な警察権力をもって労働者側を逮捕して、いわゆる警察権力の介入によってやったかということが立証されると思います。出てきたところはわずか無罪が十七名と申しますけれども、十七名も無罪にするようなのを検挙して起訴するその最初の際には数百名、数千名があったのではないか、こういうふうにも思えるわけです。ですから、表面にあらわれたのはわずかであるから、絶対しません、これは実際悪いことをしたのだからやったのだ、こうおっしゃるけれども、この法の適用を、いわゆる法を乱用、拡張した、また警察権力によってこれを乱用したという点が労働争議弾圧をした、こういうふうに私たち考えるものですから、そういうことがあってはならない。しかし、そういう実例があるから、今度さらに現行法を重くして権利保釈もできないようになれば、なお一そうストライキ等に対しては労働者側に不利になり、弾圧のほうに警察権力の行使によってやるのではないか、こういう心配をしますから、断じてありませんという簡単なお返事ではどうも承服できないのですが、そういう点はいかがでございましょう。
  18. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 お話しのように乱用はいけないのでございます。乱用はいけませんが、どこの裁判でも、有罪になる者と起訴された者とはだいぶ違いがございます。また、起訴される者と警察の捜査で一応逮捕される者、この差があることもやむを得ない。それだからこそ警察あり、検察当局あり、さらに裁判があり、裁判も覆審制度をとり、さらにものによれば再審制度もとっておるわけでございます。これは法の適用の世界的の常でありまして、それに際しまして常に乱用のないように注意しているわけでございます。これもそうでございます。  それで、いまいろいろ労働争議のお話がございましたが、これは坂本さんは御承知ですが、適法、違法すれすれでいろいろなことがずいぶん行なわれるのでございますから、これはやってみまして、ほんとうに無罪といってもすれすれのところで、判定で違う場合もあるわけでございます。しかし、それはそれといたしまして、前から申し上げるように、今度の改正条文のどこに集団ということばがございますか。集団とかなんとか関係ないほかの殺人罪暴行罪と同じように、こういう行為があったらやるというだけの規定でございまして、今度の一条につきましても御心配ないと思います。それと全く違うので、何らかそれを強化して重く罰するかのごとき御質問の趣旨におりおり拝承するのでございますが、その点だけはひとつ明瞭に区別をしてお考え願いたいのでございます。
  19. 坂本泰良

    坂本委員 いや、今度の改正によりまして傷害暴行器物毀棄脅迫、これが入っておる。この点については、また各条の際に私ただしたいと思いますけれども、現行法よりもなおまた、いわゆる乱用すればできるようになっておるわけです。  一例をあげましたけれども、さらにもう一つ申し上げたいのは、三池炭鉱の争議の際に、私なんかなるたけこの問題が起こらないように、トラブルが起こらないように、延べ四十日間くらいは行っておったわけですけれども、御存じのように組合が一万数千名、また動員された警察官がそれと同じ数の一万数千名でございました。熊本県警からは約四千名の警官が動員された。それで私なんか熊本で、熊本の県民で大牟田の炭鉱の労働者をやっておるのが約四千名おります。私は、この労働組合のすわり込んだ大衆と、それから警察官のやはりそれと並行して並んでいた大牟田の警察の前、両方がすわり込んで待機した点は全く涙が流れるようなところでしたが、私はそのときこう言ったんです。地下数千尺におりて働く炭鉱の鉱夫が熊本県の出身者で約四千名おられる、この中に入っておる。また熊本県の県警から動員されて、次男、三男が警察官となってここに動員されているのが約四千名おるんだ。百姓の次男、三男の青年と、やはり熊本県の百姓では食っていけないから大牟田の炭鉱に働きに出ている人が四千名おる。この双方がここにすでに血を見ようとする、そういう情景にある。お互いにけんかをしてけがしてどうしますか、お互いに働く労働者です、お互いに働く農家の次男、三男が二万円足らずの月給を取って巡査になっておるでしょう、この二人が戦って、けがするのはお互い双方である、そうしてもうけるのはだれかといえば三井独占資本じゃないか。警察官の諸君は一触即発といわれているこの状態においても自重しなければならない、労働者の方々も自重してください——中労委の数回のあっせんで結局は労働者の敗北に終わった三井の争議であった。その演説を私がニュースカーの上からした。居並ぶ数千名の警官、若い警官は、その話をしたとき、こう見ますと、頭を下げて上も見きらない警察官が数百名おったでしょう。それが労働争議の実態であります。大きい労働争議も、あるいは小さいストライキも、やはり同じような実態が行なわれるのが、残念ながら現在の労働運動であり、ストライキであるわけであります。この警官の中には自殺した人があります。巡査を志望しても、われわれは何のためにここの炭鉱の労働者を逮捕しなければならぬか。吉村隊長なんかは、かかれと言って数百名の傷害者を出しましたから、私を筆頭に告訴しましたけれども、かかれと言ったのを私なんか目の前に見ておるから、熊本地方検察庁にそれを告訴いたしましたが、二年後においては、何ら確定した証拠がないというのでみんな不起訴であります。これが現在のこの警察権力の労働運動に対する悲惨な情景であるわけです。だから、さらに今度この法律改正になって、そうしてこの暴力法猛威をふるうということになったならば、せっかく憲法上許されました二十七条、二十八条のこの労働者権利労働者ストライキ権もこれは絵にかいたもちであって、労働者のために何にもならないということになるわけなんです。私は、この法律をどうして政府が早くつくらなければならないと急がれるのか、暴力団を排除するためにはもっと警察権力を発揮して個々的にやったらいいじゃありませんか。暴力団の親分が死んだならば花輪を贈るような政府大臣がおるような状態で、その暴力団の根絶をせずに、ただこの法律をつくっただけで暴力団をなくするというようなことは、これは言うべくして実際行なわれぬことである。そういうのをなぜ急ぐかというのは、やはりこれから何と申しましても、この日本の独占資本は、労使双方の対立は遺憾ながらやめられません。よほど使用者側、資本家側が譲歩する段階でなければできない。あしたのストでも、やはり一つのあらわれでありましょう。こういう場合にこの法律を使うからわれわれは心配なんです。だからこの法律はこしらえたくないというのが問題でありまして、三十八年前に、いま皆さん方が、大臣並びに政府委員がはっきりおっしゃることがそのとおりいっていない実例の一つを私はあげておるにすぎないわけなんです。ですから、この法律に対しては、労働運動大衆運動に使わないという一条でも設けない限り、私はこの弾圧に使われないという保証は、いかにお二人のりっぱなおことばを聞きましても安心できないわけですが、その点はいかがでございますか。
  20. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 坂本さんの労働運動に対しましての御説示、御熱心で、警察官にまことに痛烈であったと思いますが、とかく警察官ばかりが悪いようにおっしゃるのだと、私どもは一般論として非常にこれまた誤解を招くことが多いと思います。警察官は何を好んで動くか、職務で動いております。不法な、労働争議に際しまして不法な、刑罰法令に触れるようなことが起こる場合の取り締まりに動いておることでございますから、警察官に対する御説示もけっこうですが、同時に、労働運動をする側に対しましても適法な範囲で適法なストをやられるように、これが私は大事で、双方に対してお話があるのはけっこうと思いますが、警察官が行き過ぎたらいろいろそういう御説もけっこうでしょうが、警察官として正当な職務を行なう場合は、これはやむを得ぬことでございまして、全面的に警察官だけが悪い、何事だ、ということは、私は警察官のためにもにわかに同意できないことであります。それで、この法律がと仰せられましたが、この法律によって多数の国民が心配をしておる町の暴力を除こうという趣旨でございまして、たびたび私も政府委員も申し上げておりますように、この法律の条項をごらんになりましても、ほかの犯罪に対すると同じように、集団のにおいもないのであります。個々行為も数人の行為も罰せられる。どこをお読みになっても、しいて色めがねで読まぬ以上、私は出ないと確信をしておるので、それで、むろんこの目的以外に乱用しないということは、これはもう当然われわれも同意見でございまして、書いても私は一向に差しつかえない、書くのもよろしいと思いますが、それがそういう際に起こった行為はどんなことでも罰しないんだ、暴力傷害はやっても、凶器をもちまして——この法律は凶器といっても広くなく、銃砲刀剣類に限っております。そういうものをもって傷害行為をやっても罰しないんだ、こういうことになりましたら、これはとてもたいへんなことで、そういう意味にお考えになるというのなら、私どもはどうもこれは賛成できないところでございます。
  21. 坂本泰良

    坂本委員 先ほども申しましたように、古村隊長が警察官にかかれと言って、多数の労働者傷害あるいは暴行、この場合は県会議員も負傷しております。ですから、これを告訴しても、それは不起訴になる。労働者がすわり込みなんかしていると、どんどんそれをゴボウ抜きして、そして検挙して、そうして活動家と申します労働者の指導者階級を逮捕してぶち込んでしまう。それは現行法でやっていることなんです。これを改正すると、なおそういうことがたやすくできる。これはもう法律的見解で、この条文を見ればすぐわかることです。そういうふうに、なおそれが乱用される。ただ暴力団だとおっしゃっても、私は、暴力団を現在の警察が真剣に検挙しこれを取り締まるという方策に出たら、現行法でできると思うのです。それは道路交通法違反で警察がこれを取り締まりに出て、国民もまた、その違反者はどんどん処罰しなければならない、そういう世論が反映しますと、判決もだんだん重くなってきております。だから交通違反が少なくなってきた。暴力団は、チンピラを一人二人あげても、そのチンピラの背景はどこにあるかというと、やはに暴力団の大親分でございましょう。それに対して花輪を贈るようなことを政府当局者がやっていながら、その小づかいを幾らかもらって生活だけしておる青少年その他のいわゆる小暴力を取り締まろうとしても、これは幾らか取り締まりはできましょうけれども、これを根絶することは不可能だと思うのです。この暴力団を狩るためには、やはり官民一体となり、警察が先頭に立って暴力団の親分、またその資金源を——いろいろパチンコその他の関係で金をためておるから、選挙のときは金をもらっている人もあるやに聞いております。そういうような現在の状態では、いかにこの法律を重くしたところで、私は町の暴力の根絶なんかはとうてい不可能だと思います。だから、現在でもやればやれることをやらずにおいて、法律だけ改正して、暴力団のための法律だ、名前が暴力行為等処罰に関すを法律だから暴力だと言って、社会党の中でも、暴力行為という名前に幻惑されて、暴力団だからどうだろうというような、そういうのもおるのです。その暴力に幻惑されてこの法律改正して、いざ法律ができたら、これから展開されるであろう労使双方の労働争議、あるいは日韓その他の政治問題に対する反対の大衆運動に対して、それを制圧するためにこれを使うから急いで強行突破してでもこれをやろうじゃないか、私はこの法律心配でならないわけです。だからこういう法律はつくってもらいたくないのでありまするが、どうです。この法律をつくらなくても、私が申し上げましたように、法務大臣が陣頭に立たれぬでも、あるいは警視庁あるいは各県警本部を督励して一斉暴力団狩りに乗り出して、こういう悪いやつは抹消しなければならないと言ったら、全国の裁判所は必ず厳罰にするのでありましょう。絶対保釈はしないでありましょう。そこで初めて私は暴力団の絶滅ができると思うのですが、その点の御所見はいかがです。
  22. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 率直に言って窃盗、暴行、すり、たくさんございますが、みんな大体小親分、大親分がおるのであります。だからこれは親分をつかまえればいい、あとどろぼうやなんかは一々罰しなくてもいい、こういう議論は成り立たないと思います。これは巨魁も罰しますが、そういう行為をした者はみんな罰する、これ以外にはないと思います。また中には大親分がなく、単に個人で三人、五人で暴力行為をやる少年もおるわけであります。  それから、政府委員もたびたび申し上げましたが、そういう者が罰せられて、しかも今度は相当長期にやられます。たとえば東京の者も北海道に送られるというようなことで、そういう親分、子分の因縁も断たれる。親分がやられる場合もずいぶんございますが、そういうものは事実上だんだん子分が離散し、またもとの土地で新しくやることは困難だ、新しい土地には因縁がないということで、事実上断ち切られる場合が多いのであります。また、子分が大ぜいやられれば、子分はそこで非常に減ってくる、その団体も減ってくるということでございまして、これさえねらえばいいというわけにはいかないのであります。全面的にこれはやる。親分はもとより、その刑罰法令に触れればそれこそ公明な裁判で与えられた量刑の範囲で重く罰するでありましょう。それでありますから、これがなくてもいいのだ、からださえじょうぶにしておけばばい菌があってもだいじょうぶだということでなく、もちろんからだもじょうぶにしなければならないが、ばい菌に対しては予防接種をしなければならないと同じように、私どもの政府の政策は、総合的に考えまして、しかも一番重要な常習暴力銃砲刀剣類をもってやりますものを罰しようというのでありまして、坂本さんもずいぶん強いことばでお話しになりましたが、とんでもないところにとんでもないことのみを適用されるがごときお話がありましたが、それは要らない御心配であります。その心配のあまり必要な法規ができなければ、これはますます町の暴力が逆に是認されたような形になり、ますますこれが横行するようなことになり、国民の不安が除かれないということになるのでございますから、われわれはすなおにやっておる次第でございます。どうぞそのように御解釈をいただきまして、この条件に触れない場合にほかの意図で適用するなどということは決してない次第でございます。どうぞ御安心ください。
  23. 坂本泰良

    坂本委員 現行法でも三十八年かかったのですから、かりにこの法律ができまして暴威をふるうときには大臣はおられるかどうかわかりませんが、これができなかったなら幸いだが、かりにこれができましたならば、これは必ず労働運動大衆運動に暴威をふるうということを、私は予言者ではないけれども申し上げて、なお、まだいろいろ申し上げたいことがありますけれども、先に進まないと切りがありませんから先に進みます。  次は、先般最高裁判所裁判官をやめられた池田克氏が「現代法学全集」の中で暴力行為等処罰法について響いておられます。それによりますと、現行法の背景としてこういうことを言っておられます。「兎に角、思想上経済上其の他の社会的原因及法制上の欠缺に基き大正十年頃以降団体を背景として威力を用ひ又は暴力を用ひて暴行脅迫、投棄其の他之に類する犯罪を敢行する者続出し市民の迫害を受くるもの漸く多きを加へ、引いて世の中の治安を紊すは勿論、此等犯罪の被害者中或は後難を恐れて告訴を提起し得ざるものあるに至り、其の犯罪者を処罰するの必要ある場合に於ても訴追条件具備せざる為、訴追することを得ず空しく暴力行為者の跋属を看過せざるべからざる情勢となりたると共に刑法に定むる刑罰制裁夫れ自身軽きに過ぐるの感ありたる結果、立法者に於ては上叙の如く新に本条の如き」本条というのは暴力行為ですが、「本条の如き規定を設けて以て法律の不備を補ふに至つたものと考へるのである。」こういうふうに述べておりますが、この池田氏の言われる大正十年ごろ以降団体威力を用いて犯罪を敢行する者とは、これは明らかに主として労働組合、農民組合等を意味すると思われる。なぜならば大正十年は労働争議関係の検挙件数が飛躍的に増大したときでありまして、これは法律時報の去年の七月号、三十五巻七号ですが、ここにあげてある表によると、「大正三年から十三年までの労働争議に伴う犯罪検挙件数及び被検挙人員数を示せば、次のとおり」というので、大正十年は犯罪検挙数が百一件、その前年は二十八件が百一件にふえておる。被検挙人員数も六百三十四名というふうに前年の三百七十八名のおよそ倍になっておる。こういうふうに検挙件数において大正十年、被検挙人員数において大正七年が非常に多いのですが、結局、これはわが国の最高記録になっているわけであります。そういうようにふえたときでありますから、池田氏の本を見ると、いま私が申しましたように、大正十年ごろ以降団体威力を用いて犯罪を敢行する者というのは労働組合、農民組合をさすものだ、こういうふうに考えられるわけでございます。したがって、今回のこの改正にあたりまして、もちろん暴力団の被害というのはふえているでしょう。しかしながら、また労働組合運動ストライキその他によって検挙件数も被検挙人員もふえておるわけです。そういう点から考えますと、三十八年前の状態と現在の状態はやはり同じような状態であり、しかもまた池田克氏、この人は検事上がりですが、この人が言っておられるように、やはり大正十年ごろ以降非常に労働争議小作争議がふえてきた。三十八年後の現在は、小作争議は土地解放その他で少なくなりましたが、労働争議ストライキがふえてきた、さらにまた、食えない農民はこれから変わった小作争議と申しますか、固定資産税の改革その他によって、反税運動というのが今後ほうはいとして起こるのじゃないかということを非常に心配をいたしておるわけであります。  こういうようなことで、いかに大臣政府委員暴力団だけだとおっしゃっても、この法律改正の背景は、やはり労働運動の組織的の強化を弾圧するために、さらにまた、だんだん生活が苦しくなった農民が、固定資産税その他の税金のいわゆる反税運動等が起きた場合にこれを使うのであって、あくまでも労働組合あるいは農民のそういう団結による反税闘争等を背景としてこの法律がつくられるのである。こういうふうに考えられるのですが、その点はいかがですか。
  24. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいまのお話を承っておりましても、この法律改正の趣旨とはだいぶ離れておる御所見でございまして、とうてい私どもは、そのように先の先まで想定して御質問を受けましてもお答えのしようもないわけでございますが、繰り返し申しますように、統計の上から見ましても、組合運動あるいは大衆運動等にこの法律適用を受けておりますのは、現行法のもとにおきましても非常に少ないのでございまして、暴力団関係のもののほうがその十倍も適用を受けておる。今後、改正になりますと労働運動等にもさらにふえてくるのじゃないかという御疑念が根底にあるように思うのでございますが、私は、ふえてくるのはすでにこの十倍もあるそのものがふえてくるというふうに見ておるのでございまして、その点考え方が違うのでございますが、私どもは過去の実績等もしさいに統計的に分析いたしましてかように考えておる次第でございます。
  25. 濱野清吾

    濱野委員長 午前の議事はこの程度にとどめます。  さきの理事会決定のとおり、本会議散会後約三十分程度理事会を、引き続き委員会を開会することとし、これにて休憩いたします。    午後零時五十分休憩      ————◇—————    午後五時三十八分開議
  26. 濱野清吾

    濱野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案について質疑を続行いたします。竹谷源太郎君。  関係のない方は出てください。——傍聴人の方も良識を持って出てください。
  27. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 暴力団あるいはばく徒団、不良少年団、その他の常習的集団的な暴力行為、そうしたものが続発する情勢に対処して、政府は政治的に、社会的に、教育的に、あるいは法的にこういう暴力行為を制圧をして、社会不安を一掃するために諸般の方策を講じなければならないはずでありますが、これに対する方策の一つとして、これら暴力犯罪に対する刑の引き上げ、厳罰をもって臨むという趣旨で暴力行為所罰法の改正法案を出してきましたが、これは暴力行為制圧の一方策にすぎないはずであります。この方策のほかに政府は諸般の対策を持っていることと考えるのでありますが、この政府の対策について概要を法務大臣から御説明を願いたい。それに対して警察庁から補足をしてもらいたいと考えます。
  28. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 すべての犯罪がそうでありますように、犯罪の起こります原因は社会のいろいろの面の総合的結果である場合が多いのでございます。その意味におきまして、ただいまの御質問のように、いろいろな角度からこの問題も取り上げねばならぬと思うのであります。お示しのように、その中には宵少年対策ということが重要なる一環となる次第でございます。暴力行為につきまして相当少年の犯す場合が多いのでございます。なお、その年齢も漸次低下する勢いがあるのでございます。こういう意味におきまして、青少年対策が、学校教育、家庭教育、またいろいろマスコミの影響の問題、これら全面にわたりまして力を入れてまいりつつあることは、ほかの機会におきましても申し述べたとおりでございます。なお、同じく他の場合にも申し上げましたが、少年対策等につきましては、単純な、いわゆる古いことばで言えば教化改俊のほかに、少年の心理等につきまして科学的なメスを加えなければならぬ。精神病、あるいは変質者、また精神の障害者、こういう面からもメスを加えなければならぬ次第でありまして、その意味におきまして、法務省の管下におきましては、少年の鑑別所でありますとか、あるいは少年院内の施設につきましても、相当にこれらの設備について力を入れております。しかし、まだまだ不足でございまして、そういう方面がさらに充実しなければならぬということは申し上げるまでもないところでございます。そういう意味の、普通の教化的方面以外に科学的にもいろいろメスを加える。特に今後は保護観察に付されております少年等に対しまして、一そう力を注ぎまして、再犯の予防に力を入れたいと思っておるところでございます。  それから一般に人づくり等の問題に関しまして、家庭教育、社会教育、いろいろの影響に対しまして力を入れることももちろんでございます。  お話のように全体の政治の姿勢を正し、国民に思慮深きムードをつくり上げるためには、政治の方面におきましても十分に努力する必要があると存じます。そのほか直接に警察の取り締まりの面におきまして、特にこの暴力行為に対しましての取り締まりを厳重にいたすことはもちろんでございます。それとともにこの法律案を重要なる対策の一環といたしまして実行し、したがって銃砲刀剣類をもっていたします傷害その他の行為、あるいは常習者に対する行為につきましては、従来より長い刑期の間に十分にその改過遷善につとめ、また町の暴力時代のそういう因縁を断ち切る方面にも力を尽くしたい、大体かような考え方をいたしております。
  29. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 暴力犯罪を予防根絶するために非行青少年をなくなす、そのための学校教育あるいは社会教育、そして宵少年対策、これはきわめて重要なことであり、これについては総理府に青少年対策審議会等もつくるという方向に進んでおるようでありまするが、これは根本的に重大な問題であり、万全の施策を講じてもらいたいと思う。なお、現在の暴力行為、ことに集団的、常習的暴力はきわめて悪質でございまして、しかも暴力行為の非常に多くの部分を占めるのでありまするが、暴力行為を少なからしめるためには、暴力団を解散させ、そしてその団員をそれぞれの正業につかせる、そうすれば暴力行為を非常に減少させることができると思うのでありますが、五千以上にのぼる暴力団の数が数えられる、なおまたこれに所属する構成人員は十七万以上といわれておるのでありまするが、これらの人々が暴力行為で食っておるというこの現状は、世界に向かっても日本はきわめて恥ずかしいことではないかと思う。この暴力団を解散させ、暴力団員にりっぱな仕事を与え、正業につかせて幸福な生活を営ませるように、政府はどういう対策を持っておるのか、この点を明らかにしていただきたい。単に厳罰だけではとうてい根絶ができないと思う。この暴力団に対処する適切な政府の施策についてお考えを聞きたいのであります。
  30. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 暴力団につきましては、結局、いわゆる団員というような者が正業につくことがおもな条件でございます。それにはそういうよりどころをなくさなければならぬということで、先日来もいろいろ御質問がございましたように、暴力団そのものを直接目当てにして、いろいろの処分をいたしたいという考え方を持っておる次第でございます。しかし、以前にも申し上げましたように、しからば暴力団というのはどういうものか、これを法制的に定義してまいりますことが非常に困難でございます。前回にも政府委員より御説明申し上げましたが、各国の立法例でも、なかなかその把握が困難でございまして、また日本の現状におきましても、それこそピンからキリまであると申しますか、相当団体らしいものもございますが、団体と称していいのか、どういう構成員が確定しているのか確定していないのか、その組織が明白でないというものも相当多いのでございまして、結局、団体そのものをつかまえるということが法制的には非常に困難でございますので、それらも理由になりまして、それに属する者、及びその属するかいなかは不明でありましても傷害行為その他をいたした者をつかまえて、それによって結局団の構成が困難になる、漸次解消してきている、こういう方向をたどっておる次第でございます。なお、前に申し上げました保護観察につきましても力を尽くし、それから民間におきましても、いろいろの団体がこういう者を更生、職業指導その他に力を尽くしておりまして、刑務所においても、もちろんいろいろ技術を授け、仕事を与えるための施設は、従来もいたしておりますが、今後もそれに力を尽くし、ことに少年院等におきましては、その方面に非常に力を尽くしたいという考え方をいたしておる次第でございます。なお、政府委員より補足をいたしたいと思います。
  31. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 問題は、暴力団がそういう団体を組織して、そのような行為によって食っていけるというその背景が悪い。あるいは会社の総会のときに、会社の擁護の立場に立って、総会で質問を封じるような行動を行なうことによって会社から金をもらう。あるいは政治家を背景に持つかのごとく装うのか、事実背景に持っているのかわからないが、その威力のもとにあるいは警案署長に圧迫を加える。そうした行為によって生計を立てていくというような、この背景が悪い。暴力団そのものはいろんな形態を持っているだろうと思う。ばく徒団もあろうし、あるいは土建屋のようなことをやっているものもあろうし、テキヤの集団もありましょうし、あるいは一つの会社、法人を組織し、社員のようなかっこうをして一緒に暴力行為をやって、実質的に暴力団行動をやっておるものというようなものや、種々雑多であろうと思いまするが、これは例外なく傷害なり、暴行なり、恐喝なり、その他の暴力手段を背景として収入を得て、まじめに働くよりもかえって割りがいい、こういう生活ができる。しかもこれが検挙に当たる警察やなんかに対しては、ある背景に力を持っておって、思う存分検挙ができないというようなことがないのかどうか。そうした政治の姿勢や、あるいは実業界の人々のものの考え方の反省や、そういうような総合的な施策によって、暴力団というものはそれでは食っていけない、生業にはならないという正しい社会、政府みずからが率先してそういう正しい政治の姿勢をつくらなければ、幾ら厳重な罰則を設けても、こまかい者だけつかまえて、大きな魚は逃げて、そうして世間ではやはり暴力団というものはえらいもんだということで、どうも手がつけられぬ。それにおどかされればやむを得ず金を出さなければならぬ。こういうふうなことになるのでございまして、いままで十年以下の懲役というのを十年以下一年以上の懲役というようなことにしただけでは、とうていこの暴力団の征伐ができません。これは政府は確固たる信念と方策、手段をもって、政治家みずからが自重時戒をしてこの問題に対処しなければ、この法律をつくっただけでは何ら意味をなさないと思う。これに対して法務大臣は、暴力団の根絶、駆逐、解散のためにどういう手段、方法をとろうとするか、これをもっと具体的にお聞きをいたしたい。  なお、警察庁のほうから来ておるようでありますが、警察庁としては取り締まりの立場から、この暴力団に対しましてどのような有効な施策を講じようとしておるのか、また、この暴力行為の検挙のために、ことに法定刑を引き上げるということだけではとうてい取り締まりはできないと思う。何らかの新しい施策、方法あるいは機械設備、これに対する人員の配置なり、そういう人的、物的、直接、間接の取り締まり、暴力団根絶の、暴力団を解散さして、そうして団員をりっぱな正業につかせるような方策を講じなければならぬし、それは若干やっておることとは思うのでありますが、従来まで警察庁としてとってきた手段並びに今後これら法律改正と並行して、どういう有効な手段をもってこの組織的暴力、常習的暴力を駆逐しようとするのか、その方策並びに信念を伺いたいのであります。
  32. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 現在の世相におきましては、暴力行為を犯し、犯罪人になりました者の再就職の道は私は十分にあると思うのでございます。ただ問題は、そういう行為を犯しましたために、社会的信用がない、むしろ雇うことに不安があるという点に原因が多いと思うのでございます。その点を今回のような立法で十分な刑罰を科し、その岡に処置をいたしますれば、その点は従来よりよほど変わってまいると思う次第でございます。  一番大事な点は、お話のようにいわゆる小さい魚がかかって大ものは逃げる、これは世間から見まして最も弊害の多い、政治の不信を招きます非常に重要な眼目でございまして、従来とても正しくやってまいりましたつもりでございますが、今後その点は一そう厳重にいたしまして、いやしくも犯行があれば、それはどんな有力者であろうとも、ちっとも遠慮も容赦もなく適正に検察の発動をするという考えでございまして、この点におきましては従来も徹底しておるつもりでございますが、今後一そう検察の方面にその考え方、方針の徹底を期する所存でございます。それ以外には、政治の局に当たる者が身を正しくし、心がまえを正しくしまして、そういう世間から誤解を受けることのないように正しい行動を常にする。これは一般の政治としてお互いすべて心がけてまいらなければならぬと思います。検察の発動としては、何らそういうことによって不公平、遅疑逡巡することなく、断固としてやるつもりでございます。
  33. 日原正雄

    ○日原政府委員 警察の立場についての御質問でありますから、私からお答えいたします。  警察といたしましては、この際社会におけるあらゆる暴力を一掃して、法秩序の維持、それから平和な国民生活の保持をはかるために、本年度は、従来からも強力な取り締まりを実施しておりまするけれども、特に力を入れて、暴力犯罪と対決していくという意味で、先般も国家公安委員会で暴力取り締まり対策要綱を制定していただきまして、この要綱に基づいて、警察の総合的な機能を発揮して強力な取り締まりを全国的に現在推進しておるわけでございます。ただ、お話にありましたように、いままで考えられなかったような非常に特殊な対策というものはございません。いずれも従来からいろいろ言われてきた対策を強力に推し進めていく以外に、特殊な方法というものは考えておりませんけれども、従来以上にそれぞれの対策について強力に進めていきたい。と同時に、これも一朝一夕にして取り締まりの効果をあげられるものでもございませんので、粘り強くこれらの対策を進めていく以外に手はないというふうに考えておるわけでございます。お話の中にもありましたように、まずわれわれ自身が強力な対策を進めていくためには、暴力組織の実態解明をまず十分にやりまして、強力な取り締まりができるような態勢をつくっていくということが必要であります。また、現在警視庁あるいは警察庁それぞれの各都道府県におきまして特別な取り締まり体制というものをつくりまして、刑事、警備、保安、各部門がそれぞれ連絡を緊密化して、特別な取り締まり体制の確立をはかるということをやっております。また同時に、われわれの内偵作業におきましても、従来不十分のそしりを免れなかったわけでございまして、こういう面につきましても特に強化をいたしまして、反社会的な活動の実態の把握につとめていく。また初動捜査体制につきましても不十分のそしりを免れませんので、これの充実強化をはかっていく。その他、これは警察の直接の取り締まり態勢の問題でございますが、これらの取り締まりと並行いたしまして、暴力組織の存立基盤と申しますか、その資金源あるいは組織維持のための不法行為、こういうものに対しての取り締まりを強化していきたい。それから暴力犯罪の温床に対する取り締まりという面にも、売春とか、あるいは麻薬とか賭博とか、風俗営業とかいうような暴力犯罪の温床に対する取り締まり、これらも並行して進めていかなければならないということで、さらにまた対立抗争事犯に対しまして取り締まりを強化していく、あるいは銃砲刀剣類の取り締まりを強化していく、さらにまた暴力犯罪の被害届けの促進をはかると同時に、そういう被害者や参考人等の保護措置の徹底を期していこう、また保釈等の適正化をはかっていきたい、そういうようないろいろな面から暴力組織を追い詰めていかなければならないということで、そういう要綱を立てまして、これに基づきましてそれぞれの項目、項目について従来より真剣に取り組んでいきたいという態勢で臨んでおるわけでございます。
  34. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 暴力団取り締まりの方策はいろいろありますが、その根本的なものは、すなわち警察の第一線の警察署長等が、あらゆるものに屈しないで、断固としてこれを取り締まるという根本的な信念がなければならぬ。地方などでは、あれは非常に強力な暴力団の子分であるから警察が手をつけられないのだというようなことで、そういう人間からおどかされると、やむを得ず善良な国民は言うことを聞かなければならぬ、こういうようなことになる。そこで政府が、この第一線の正しい執行をやろうとする警察官に、その信念を十分に発揮できるような裏づけを与えなければならぬ、あまりやり過ぎるとおこられやしないかというような心配がある、政派家が背景にいるのじゃないかというようなことが、暴力団を徹底的に検挙する一番障害になっている。警察当局はこういう問題についてどのように考え、そして下部に対してどのように指令をしているか、それを承りたい。
  35. 日原正雄

    ○日原政府委員 私どもは、先ほども申しましたような態勢で臨んでおりますので、これを下部に十分徹底させて、暴力取り締まりに関する限りは、強過ぎるということはあり得ないという信念でもって臨んでいくように指導してまいっておるつもりでございます。ただ、もちろん、この暴力犯罪ということで、犯罪にならないような面について、あるいは犯罪であるかどうか疑わしい面について、多少手ぬるいというようなお話があるいはあったかも存じませんが、私どもとしては、犯罪で検挙できる限り、暴力団に対しては徹底的にやっていく、またその気持ちで下部に十分伝えていきたいというつもりでおります。
  36. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 いかなる威圧にも属しないで、第一線の警察官が断固としてやるように、警察庁は信念を持って暴力団の取り締まりにぜひ当たっていただきたいと思う。  しこうして、この暴力団が食っていけるというのは、いろいろなことをやって収入を得ているわけでありますが、その中で恐喝が非常に大きな部分を占めるであろうと思うのです。昭和三十一年から三十六年における昭和三十八年版の犯罪自得の統計を見ますると、暴力行為のうち、暴力団所属者によって行なわれた殺人が、全体の多いときには三七・五%、少ないときでも二七・七%の殺人暴力団所属者によって犯されている。それから傷害は、多いときには四一・九%、少ないときでも二〇%以上、強盗は、多いときには二九・七%、少ないときでも二三・八%というふうに、暴力行為の非常に多くの部分が暴力団によって犯罪が犯されているのでありますが、中でも恐喝が一番ひどい。三十一年から三十六年に至る六カ年間におきまして、多いときには全体の恐喝事犯のうち六六・七%を暴力団の所属団員がこれを犯している、少ないときでも四〇%ぐらい。こういうふうに恐喝の半分前後が暴力団所属者によって行なわれているということは——恐喝というのはおどして金を取るのです。これが非常に資金源といいますか、収入源になっていると考える。  ところで、今度の改正法案の中には、この恐喝の問題は全然触れておらないのですね。第一条ノ三として、常習として傷害暴行脅迫、器物損壊等を行なった者が罪の加重が行なわれておる。しかし恐喝はこれに含まれない。もっとも、この恐喝はそれ自体十年以下の懲役でございますから重いのであります。暴行脅迫、器物損壊などは二年以下とか三年以下とかいう懲役でありますが、恐喝は十年以下となっている。しかし、今度は常習として暴行脅迫、器物損壊等をなせば三カ月以上という下限がついたのですね、長期は五年ですけれども。一体暴力団征伐を主たる目的とした今回の暴力行為処罰法改正にあたりまして、この暴力団を食わせる非常に重要な資金源である、しかも場合によっては恐喝犯の六、七側も暴力団員によって犯されているこの恐喝というものを、なぜ従来と変わりなく放任したのであるかどうか、この点刑下局長からひとつ御説明を願いたいと思う。
  37. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 御指摘のように、暴力団の構成員によって恐喝罪が非常に多数犯されております。仰せのとおりこれが暴力団のよってもって立つ資金源になっておるとも見られる状況でございまして、この点、全く私どももお説のように暴力団対策を考えます場合に恐喝罪を軽視するわけにはいかないというふうに思うのでございますが、これは立法技術の問題でございますけれども、恐喝罪は財産犯ということになっております。したがいまして、恐喝罪について常習恐喝というような考え方を持ってまいりますと、それでは強盗についても考えなければならない。これは強盗については、強盗累犯というような盗犯防止法の規定がございます。しかし、それによく似たもので、常習的な強要行為脅迫——脅迫については別でございますが、強要、それから業務妨害あるいは公務執行妨害、建造物損壊といったようなこれに付随した犯罪がやはりこの暴力団の構成員によって行なわれておるのでございまして、もしこれを手直しをしてまいりますと、それらのいろいろな規定に手を触れてまいりませんと、刑のバランスと申しますか、体系的には、作業としましてはそれら全部について検討しなければならぬ。こういうことになるのでございまして、立案の過程におきましてその点についても検討を加えたのでございますが、応急的な法律考える場合に、財産犯にまで手を伸ばしますことはこの際適当でない、最小限度の改正にとどめたいということも一つ理由として考えました。それからもう一つの理由といたしましては、この法律は、なるほど先ほど来御質問もありました労働運動等には適用しないんだという趣旨が条文の上にあらわれるようにいたしたいという私どもの気持ちが強く働いておりまして、こういうものを広く取り入れてまいりますと、労働運動等においてそういう問題が起こってくる場合に、これにもひっかかるということが非常に憂えられたところでございまして、そういう点も考慮いたしまして、今回は暴力行為の中の暴力行為、世間でもわかっておるこの財産犯にわたらない暴力行為だけを取り上げまして刑を引き上げる。それによって、その他の罪についてはこの立法の趣旨をくんで運用の面で重い処断が構成員についてはなされていくように、パイロットの役割りを果たしてもらおう、こういうような立法の経過になっております。この点は軽視したのではなくて、これは立法技術上の考慮から特に割愛をしたというふうに御理解を賜わりたいと思うのでございます。
  38. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 恐喝は純粋の暴力だけじゃなくて、財産犯ではございますが、やはり今度の法改正の中に含まれておる脅迫によって財物をとるのでございまして、暴力的なものを含んでいるわけであり、しかもことに暴力団の征伐を主たる目的とする今回の法改正において、およそ暴力団征伐のために一番効果のあろうと思う恐喝という問題を十分に征伐するのでなければ、今回の法改正の目的は達せられないと思う。そこで私はその質問をしたのでありますが、一体権利保釈のような問題は恐喝のような場合にどうなるのか、従来どおりになるのかどうか、この点伺っておきたいと思います。
  39. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 恐喝罪につきましても、暴力団の構成員が常習的にやっておるというふうに認められます場合には、現行法の刑事訴訟法八十九条の規定によりましても、権利保釈から除外されるのでございます。したがいまして、権利保釈の点については、常習的な恐喝と認められるような暴力団構成員の恐喝罪につきましては権利保釈から除外されまして、裁量保釈ということになろうかと思うのでございます。
  40. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 次に、私は今度の改正法案の各本条について御質問をいたしたいと思います。  まず第一条ノ二、銃砲または刀剣類を用いて暴力行為を働いた場合の規定でございますが、銃砲刀剣類というものの定義については、たびたび当委員会において政府のほうから答弁がありました。しかし、これは幾ら議論をしてもし過ぎることのない、今回の法改正の重要な論議のポイントでありますから、私は重ねてお尋ねしておきたい。これは現行の銃砲刀剣数等所持取締法の銃砲刀剣をさすのであるか、それとも、きのうの新聞でございましたか、この銃砲刀剣類等所持取締法を改正しなければならぬという改正意見も出ているということでありますが、改正になったら一体どうなるのか。むろん、これを準用しているのではございませんから、暴力行為処罰法独自の解釈によって銃砲刀剣類の定義はきまるわけでありますが、これは労働運動の取り締まり等とも関連して非常に重要な関係があるので、ここで明確にしておかなければなりません。この銃砲刀剣類というのはいかなるものであるか、これを明確にしていただきたい。これにはプラカードや旗ざおなどは入らぬということであるが、これらの旗ざお等の先がとがっているような場合には一体凶器にならないのかどうか。そしてまた銃砲刀剣類等所持取締法が改正になった場合には、この暴力行為処罰法解釈について異同ができてきやしないかどうか、こういう点を明確にして、そしていろいろと起こり得る疑念をひとつここで一掃してもらいたいと思う。
  41. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 銃砲刀剣類とこの条文に書いてございますその意味は、前にも御説明申し上げましたように、銃砲刀剣類等所持取締法二条所定の銃砲刀剣類内容において同じであるということを申し上げておるわけでございますが、この二条の意味においての銃砲とはどういうものかというと、これはもうくどくど申し上げるまでもないのでございますが、金属性の弾丸を発射する機能を有する拳銃、猟銃その他の火薬を装てんしてやる装薬銃砲及び空気銃をいうということになっておるのでございます。それから刀剣類と申しますのは、これは刀剣その他刀剣等という意味の「類」ではございませんで、刀剣に熱するものという意味でございますが、これにはやはり刃渡り十五センチメートル以上ということで長さに限定がございます。十五センチメートル以上の刀、剣、やり、それからなぎなた、これが十五センチメートル以上のものでなければならぬ。それからもう一つはあいくちでございます。これには長さに限定はございません。それから四十五度以上に自動的に刃が開くような装置になっておる飛び出しナイフ、こういうことでございます。これがここにいう銃砲刀剣類でございまして、これ以外のものは銃砲刀剣類に入らないのでございます。  そこでお話のございました竹やり、プラカードの旗ざおのようなものはどうか。これは、旗ざをというのは、刑法には凶器という概念がございますが、この凶器にも入りません。先をとがらしておいてやりに代用できるようなものはどうか、こういうようなことも前に凶器の際に御質問もあったのでございますが、このようなものは凶器の中には、時によって、使用方法によりましては入ることもあるかもしれませんが、ここにいわゆる銃砲刀剣類に当たらないことはいま申しましたことによって明らかでございまして、この点については学説も判例も何ら異論はないところでございます。  ところで、これは銃砲刀剣類等所持取締法二条の定義規定内容が同じであるということを申しましたことによりまして、それでは銃砲刀剣類等所持取締法が改正になったならばどうかということでございますが、私は、改正になりましても、それが改正になったことによってスライドといいますか、それに準じてこの暴力行為一条ノ二の銃砲刀剣願の範囲が広まったり縮まったりするということはないものと考えております。この時点においてこの法律規定しております銃砲刀剣類、これは現行の銃砲刀剣数等所持取締法の二条の銃砲刀剣類内容において一致しておる。もし将来、所持取締法の取り締まりという観点から、飛び出しナイフのほかに、さらに何らかの武器が所持禁止の対象に入れられてまいったといたしましても、この暴力行為の第一条ノ二の関係におきましては、それによって変化を受けることはない、かように考えておるのでございます。そういうように変わらないものであるならば、規定一つ一つ書いたらどうかという御議論もあろうと思うのです。この点も私ども検討いたしましたが、一つ一つ書き上げて定義規定を置くといたしますると、定義とは何だということは、これはやはり社会通念によってきめていかなければならないことでございまして、定義を掲げても定義にならないという法律上の欠点と申しますか、概念の不明確さを内包しておるのでございまして、やはり銃砲刀剣類と書いておいて、そうしてその内容は、所持取締法二条の銃砲刀剣類と同じだ。これは刑罰の取り締まり法規の中に二つの概念があれば、理由のない限り同じように解釈するというのが従来の考え方でございます。この点は法制審議会におきましても慎重に討議をいたしましたが、やはり定義規定を置かないほうが理論に合うということで、この政府の原案のように法制審議会でも決議されたいきさつもございまして、これが一番適切な規定のしかたであるということになっておるのでございます。
  42. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 それでははがねその他、たとえば竹ざおくらいの太さの鋼管、それを先をとがらして、といだようにした武器は、この銃砲刀剣類に入らないかどうか。あるいは鋼管でなくとも、丸棒のはがねの棒をそいで、先をとんがらして、先のほうに刃がついておるというようなものは、一体どうなりますか。
  43. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 いずれもこの銃砲刀剣類に当たらないと考えております。
  44. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 爆発物取締罰則あるいは火薬類取締法等の火薬に関する法律がございますが、爆発物取締罰則等は非常に厳罰でありまして、七年以上の懲役ぐらいになる。だから、これらの危険物はこれで十分取り締まれるわけでございますが、むろんこの第一条ノ二の「銃砲又は刀剣類」の「類」にははっきり入らないと解釈していいかどうか。
  45. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 これはきわめて明瞭に入りません。
  46. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 次に、第一条ノ三の問題をお聞きしたいと思います。  常習という問題でありますが、これは委員会においてたびたび質疑応答がありまして、了解に近くなっておりますが、この常習という場合に一つお尋ねをしておきたいのは、労働組合がスケジュール闘争あるいは日程に従って春、年末その他の時期に常習的に計画的にある行為をやるというのは、一種の常習だというようなことで、この常習ということは労働運動のそうした行動適用される心配が起こってくる。この常習ということは、そういうものが含まれるのかどうか、この点はっきりしてもらいたいと思います。
  47. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 スケジュール闘争などで繰り返し同じようなことをやるという活動家があるといたしましても、それは繰り返すのはスケジュールに基づくものでございまして、ここにいう常習というのはそういうものは含まないわけであります。これは犯罪を繰り返す習癖をいうのでございまして、いまのようなスケジュールによって繰り返すというのは苦痛による繰り返しではございませんので、これには該当いたさないと申し上げて差しつかえないと思います。
  48. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 この銃砲刀剣数傷害罪、常習事件等につきましては、なかなか重大犯罪であります。これは単独裁判官で、合議事件でやらなくともよい、こういうことになるようでありますが、むしろ、これは合議事件で慎重に、正しい判断を——三人寄れば文殊の知恵といいます。一人ではなしに、やはり三人でもってしっかりした審理をすることが、人権擁護の上からも、また正しい裁判をする上からも必要であると考えるのでありまするが、この点、単独判事裁判でそういう心配はないかどうか。暴力事件だから軽率に敏速に問題を処理すればいい、早く裁判をすればいいというようなことは、人権上重大な問題でありますが、この点に対する法務省の見解はどうか。どういうつもりでこれを合議事件に付さなくともよい、こういうことにしたのか、もっと納得のいく説明がほしいのであります。
  49. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 単独裁判官の審理、それから複数の合議裁判官の審理、これは人権尊重という観点からいたしますると、三人でやるほうがなお慎重だという意味において、人権が間接的により一そう尊重されるというような御意見もあろうかと思いますが、単独であるか合議であるかということは、事件の複雑性、難易性といったようなものが主として問題になるのでございまして、それと、もう一つは、事柄を慎重に判断をしなければならぬというような事案につきまして合議制の裁判が相当だとされておるように法律上なっておると思うのでございます。ところで重い刑につきましては、いわゆる重罪と認められます刑につきましては、一つの定型的にこういうのは複雑でありかつ慎重を要する事件というふうにみなしまして、これを合歳裁判に付するべきものと裁判所法は規定しております。ひるがえって、この暴力犯罪の中で傷害罪、特に銃砲刀剣類を用いてする傷害罪、それから常習傷害罪、これにつきましては、いわゆる刑の点から申しますと、これは重罪に入るわけでございまして、これは合議裁判所に付すべき定型、類型に当たる罪でございますけれども、傷害罪につきましては、ただ手段がいま申しました銃砲刀剣類というきわめて危険な武器を使うという点で非常に正大な犯罪になるのでございますけれども、これを犯罪学的に熱型的に見ますると、これは単なる傷害罪でございます。それからまた常習傷害につきましても、傷害についてはいま申したとおりでございますが、常習という点を認めるということであるならは、これは常習というのはその行為者の習癖を認めるかどうかということでございまして、すでにその他のものについては単独の裁判官でやることになっておりまして、そういう点を見ますると、常習という点に特に慎重を要するとか、複雑であるとかということはないように思うのでございます。そういたしますると、間接的ではありますが、権利保釈からはずされるというような案件も出てくる。この二つの罪につきまして、裁判だけはすみやかにやってもらいたいという私どもの気持ちもここに働きまして、特に単独の裁判官でやれるような道を附いたのでございますが、すでに強盗罪並びに準強盗等の強盗罪は短期が五年以上というので非常に重いのでございますけれども、事柄が単純であるというので単独裁判官でなし得る道を開いております。これに比較してみますると、この二つの罪について単独裁判官の裁判に付しましても、いささかも人権侵害という問題は起こらぬであろうというふうに考えまして、むしろ迅速な裁判をしていただくということの利益のほうがより重大であろう。かように考えまして、裁判所法の特例の中に強盗などと同じようにこの二つの罪を入れまして、単独裁判官でやることができるということにしたのでございますが、裁判官が現実に事件を扱ってみて、これは合議裁判でやるのが相当だということになりますれば、これは裁定合議と申しまして、三人の裁判官でやることもできるのでございます。ただ、たてまえとして単独でできるということにいたしただけにすぎないのでございます。
  50. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 さて、この尽力行為処罰に関する法律は、大正十五年に制定されましてから、労働運動小作争議にきわめてしばしばたくさんの事例において適用になっておる。それを今度は強化をする、そして大衆運動弾圧を加えるための方途としてこれを使うのではないかと、こういう疑念が労働組合の一部その他に行なわれておるのでございます。確かにこの第一条第一項は非常にたくさん適用されている。第二項常習のほうはあまり通用がなかった。一件もなかったというような当局の答弁があるようでございまするが、これは過去における事例であって、この常習というものは労働運動などにはあり得ないという先ほどの御答弁ではございましたが、このような疑念が非常に多いのでございます。当局は、この法律暴力団答を対象にしたものであって、健全な正常なる労働運動大衆運動適用するのではないということを口をすっぱくして答弁されておりまするが、なかなかそういう危惧の念が去らないのである。  ところで、私は法務大臣に伺いたいのでありますが、そのような懸念がある。むろん、検察庁あるいは警察の人々も非常に民主化されて、だいぶん昔とは変わってまいりました。しかし、その民主化の程度が十分に徹底的に行なわれたとはまだ断じ得ないのでありまして、このような法律規定が乱用せられるおそれなしとは言えないのであります。したがいまして、政府は、暴力団その他の悪質なるちまたの暴力を駆逐しようとするものであって、正常なる労働運動大衆運動には一指も染めるものではないということを、質問ごとにはっきりと答弁をしておるのであるが、いざとなったらどうなるかわからぬという心配がある。もしそういう心配のないものであるならば、その点をひとつ明確にしたらどうか。委員会で答弁の中で言っただけでは不十分だ。この条文の中にそういう意味のことを入れるほうが、むしろ、この法律の目的とする暴力団その他の集団的悪質な暴力追放のための純粋の規定だ、何ら他意はないということが明確になるのではないか、こう考えるのです。  そこで、いろいろな法律を調べてみますると、警察官職務執行法という法律がある。これは昭和二十三年にできたものであり、二十九年に改正になっておりまするが、この警察官職務執行法という法律の第一条に、「この法律は、警察官が警察法に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。」第一項にこう書いて、第二項には、「この法律規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであって、いやしくもその適用にわたるようなことがあってはならない。」ということをきびしく訓示してあります。また破壊活動防止法、これは昭和二十七年に制定せられたのでありますが、これの第二条、第三条にも同様の趣旨の乱用防止の規定がある。第二条には、「この法律は、国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから、公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであって、いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあってはならない。」   〔委員長退席、鍛冶委員長代理着席〕 第三条に、「この法律による規制及び規制のための調査は、第一条規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであって、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない。」第三条の第二項には、「この法律による規制及び規制のための調査については、いやしくもこれを適用し、労働組合その他の団体の正当な活動を制限し、又はこれに介入するようなことがあってはならない。」と、このように破防法には二カ条にわたって規定があります。また、これは成立をいたしませんでしたが、政治的暴力行為防止法案の第三条にも、「この法律による規制及び規制のための調査は、第一条の目的を達成するためにのみ行なうべきであって、日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことがあってはならない。」第二項には、「この法律による規制及び規制のための調査については、いやしくもこれを濫用し、正当な集団示威運動、集団行進、集会その他の団体活動及び適法な請願、陳情を制限するようなことがあってはならない。」こう規定してある。  ところで、この三つの法律は、いずれも刑罰法というよりも取り締まり法、犯罪防止法のような規定であるから、まあ訓示規定もよかろう。しかし、この暴力行為処罰法刑法の特別法であるから、その中にこのような規定を置くのは適当でないという法律制定の技術上の問題があろうかと思うのでありますが、しかし、軽犯罪法にも書いてある。軽犯罪法は申すまでもなく刑法の特別法であります。この軽犯罪法第四条には、「この法律適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを適用するようなことがあってはならない。」このように軽犯罪法にも規定がある。このようにして、人民の自由と権利あるいは大衆行動に対して乱用を防止する規定を諸般の法律に含んでおるのでございまして、政府の言うがごとく、この暴力行為等処罰に関する法律等改正法案が、真に暴力団やあるいは不良少年団や町の暴力、そして社会生活の不安を来たすような、そういう憎むべき暴力の予防、根絶にあるとするならば、世間の疑惑などを一掃するように、このような正常なる労働組合の運動あるいは大衆行動等に対しては乱用しない、また国民の自由と権利は十分守る性質のものであるということを、この暴力行為処罰法の中に規定することが、国民に対してほんとうに純粋の暴力処罰であるということの確信をはっきりここに打ち出すためにも、また、この法の施行が円滑に行なわれ、そしてこの法の目的が十分達成できるようにするためにはるかに賢明ではないか、こう私は考えるのでありますが、政府はこれに対してどういう御所見を持っておられるのか、ひとつ十分考慮してもらいたいと思うが、法務大臣の御見解を承りたいと思うのであります。
  51. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 法が乱用されまして不当に刑罰を科するとか、また摘発するとか、そういう乱用がないようにという御趣旨には私ども全く同感でございます。ことに正常なる労働運動、そういうものに対して乱用されてはいかぬ、こういう御趣旨もわれわれ全く御同感であるのでございます。そういう乱用が決してないようにという趣旨に何ら異存はないのでございますが、ただ、ただいまお示しのように一つの条文を設けて規定するかどうかという問題になりますと、相当考慮の余地があると思うのです。というのは、その必要がないではないかと思う次第でございます。ただいまも常習のほうは、そういう労働争議その他の場合についてちっとも適用はない、まず乱用の事実が過去になかったという仰せでございます。全くそうでございますが、今回の規定は、一条ノ二の銃砲刀剣類をもってする傷害その他につきましては、これも過去の労働運動において、銃砲刀剣類をもってそういう傷害等の行為をしたというのは、私はほとんど例がないのだと思うのでございます。それですから問題は、銃砲刀剣類をもってする傷害その他の行為が過去の労働運動にあって、適用されたかどうかというと、それがないのですから、常習尽力の場合と同じく適用されることはないのだから、私は御心配はないと思うのでございます。これは私は非常に幸いなことであって、過去の労働運動が、違法性がその限界においてはなかったということを示すもので、非常にいいことでございます。同時にそれは今度の改正について心配が起こらないという事実を示しておると思うのでございます。今回の改正案として提議いたしておりません現行法一条には、「団体者ハ多衆ノ威力ヲ示シ、団体若ハ多衆ヲ仮装シテ威力ヲ示シ」というふうに、集団的の場合を規定してありますので、この文句から見ますと、労働連動その他の多数の運動にあるいは適用されるのじゃないかという御心配がございますが、それも前々申し上げましたように、そのものには適用されてないので、その際に起こった違法行為適用されておるという次第であるので、これについても必要はございませんが、今回はさような多数とか集団とかいうことは一つ要件になっていないわけでございます。そういう意味におきましても、私は乱用、誤解を生ずる余地はほとんどない、御趣旨は全く同感でございますが、規定を置く必要はないのではないか、かように考えている次第でございます。
  52. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 私が現行法の第一条第二項は適用がなかったと言うのは、これは刑事局長答弁をそのまま言っただけで、そのことばじりをとらえてもらっては困る。  そこで、この現行法の第一条第二項というものが、今度は第一条ノ三という規定になりまして、常習として傷害暴行脅迫、器物損壊等をなした場合に厳罰になるのでございまして、この常習ということでございますが、この常習ということの解釈については、スケジュール闘争等は、労働運動の場合常習というようなことには解し得ない、こういう答弁はあったのでございます。しかし、この解釈というものもどう変わるかわからない。しかも、暴行脅迫というようなものは、大衆運動の場合にそれにまぎらわしいようなこともあり得るのでございまして、これはどうも今度は適用になるのじゃないかという心配がここに起こってくるということを、これはすらっと見ても心配される。だから、現行の第一条第二項が大衆運動適用がなかったからといって、今度政正になる第一条ノ三が適用にならないとは断言はできない。そういう心配もあるのでございますので、もし政府が、これは正常なる労働運動等には適用しないのだ、乱用はしないのだという、ほんとうにそのとおりの信念であり、またそういう今後の取り扱いであるならば、そういう心配を一掃して、この法律が円滑に施行せられまして、暴力行為が日本の社会から一掃されるように、この法律の円満なる施行運営、そして暴力の根絶の上からも、そのような乱用防止規定を挿入することが、この法律の目的を一そうよく達成し得る基礎になるのじゃないかと私は思うのでございまして、この点はひとつ十分御考究を願いたいと考えます。重ねて大臣のこれに対する考えを承りたいと思います。
  53. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 健全なる適法なる労働運動に対していやしくも乱用をされてはならぬ、この御趣旨は全く同感でございます。ただ、その立法技術の問題といたしまして、そういう規定を置くがいいか悪いかという問題につきまして申し上げているところでございまして、過去においても、銃砲刀剣類をもって傷害その他をして、労働運動の際に行なったものに適用されたことがないということでございまして、将来も、労働運動等をする人が、その際にさような銃砲刀剣類をもってするということ、その上に傷害行為をするということは予想されないことでございますから、ことに条文の規定におきましても、あるいは集団とか多数とかいうことは全然かからない。現行の一条一項、今度の一条には残りましても、今度の問題の第一条ノ二や三には全然かからない問題でございますから、私どもとしましては、現行の規定のままで御心配のようなことはない。立法技術のテクニックの問題としまして必要はないかと思うのでございます。御趣旨の点はよく伺っておきます。
  54. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 立法技術上の問題としては、これは刑法の特別規定であるからそのような訓示規定を置くのは適当ではないという議論はむろんあります。しかし、私いま四つの法律を指摘しまして、ことに最後の軽犯罪法は刑法の特別法でありまして、しかも今回のこの法律改正は、刑法の全面改正を前にして、現在の暴力行為の現状にかんがみて特に全面改正からはずしていま改正しなければならぬ、こういうことで提案になっておるのでございまして、別個の法律になっておる。だから軽犯罪法と同じように、立法技術の面からもこのような訓示規定を入れることはあえて差しつかえないのじゃないか、こう考えます。それとともに、このような法案審議にあたって、本会議なり委員会において質疑応答がなされた、この記録は裁判官が暴力行為裁判にあたりまして、重要な解釈のしんとなることは間違いないと考えます。したがって、裁判官はこれを乱用するような形で裁判をするようなことはないと存じます。しかし問題は、警察なり検事なりがこれを取り締まる、検挙する場合にあるのでございまして、この検事、警察が必ずしも十二分に徹底的に民主化されたとはまだ申し得ない状態であり、それに対して国民がまだ危惧を持っている人たちも少なくない。そういう際でありますので、さっき指摘しました四つの法律はそのような四つの訓示規定を置いているのであります。そうした面から、取り締まりの第一線の人たちに対する親切、そして人権じゅうりんなどのないようにわれわれ立法者としてはこの際親切な立法をしていくことが妥当ではないか。そういう二つの面、立法技術の面並びにこの法の円満完全なる施行、そして国民の自由と権利を十分に尊重するという立場から、この点はひとつ十分に御考慮願いたい、こう考える次第でございます。
  55. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 だんだんの御意見でございまして、よく拝聴いたしました。これは少し打ち明け話でございますが、先刻いわゆる恐喝の問題が出ました。私は実は法律はしろうとでありまして、これは前々からこういう案で前二回も出ておるのでありますが、内輪の話をしますと、なぜ恐喝は入ってないんだと私は事務当局に質問したのであります、一番大事じゃないかと思いまして……。ところが、それに対して先ほど刑事局長がお答えいたしましたように、一つの例外的の単行法を出す場合に、なるべく適用範囲は小さくする、財物犯は入れないんだというような説明を聞きまして、立法技術としては一応必要だ、と同時に私の感じましたことは、できるだけ適用が少ないように、非常に思慮深いと言えばまた少しほめるようになりますが、遠慮したような立法をしているのではないか。もう財物犯であろうと、恐喝などは入れたほうがいいんだと私はしろうと考えで思っているくらいでございまして、立法のほうにおきましても、できるだけ範囲も限定しまして、乱用がないようにというか、不当に広がらないように、少しいまことばが憶病になり過ぎているのではないかというふうに感ずるような次第でございます。それと全く同じことではございませんが、ただいまの仰せのような点は、立法技術として、法文化するかどうかということはしばらく別といたしまして、十分に御趣旨のようなことが徹底するように、この法の乱用がないように、これはあらゆる方法をもって検察は検察なりに徹底をしまして、間違いのないように努力する考えでございます。
  56. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 終わります。
  57. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員長代理 ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕   〔鍛冶委員長代理退席、委員長着席〕
  58. 濱野清吾

    濱野委員長 速記を始めて。  八時まで休憩いたしまして、それからこの質疑を続けることにいたします。  暫時休憩いたします。    午後六時五十九分休憩      ————◇—————    午後八時十二分開議
  59. 濱野清吾

    濱野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案について質疑を続行いたします。坂本泰良君。
  60. 坂本泰良

    坂本委員 戦後の問題について御質問申し上げたいと思いますが、その前に、この前の残りがちょっと残っておりますから、お伺いしたいと思います。  それは昭和十年、当時東京区裁判所の次席検事でありました長谷川劉氏は、暴力法のわずか三個の条文がいかに広範な行為適用し得るかにつき、次のように述べております。本法は、というのはこの現暴力法ですが、本法は約二百四十個の処罰対象となるべき犯罪態様がわずか三カ条の法文のうちに規定せられておる。現行暴力法は三カ条でございますが、その中には二百四十個の処罰対象となるべき犯罪態様が含まれておる。この面からも一個の行為に二個以上の犯罪態様が競合し得る。たとえば第一条の第一項のうちの威力脅迫と同時に威力器物投棄となる行為もあり得るゆえ、右の二百四十個の数倍に及ぶ犯罪様相がこの三カ条の法文のうちに包蔵されているわけである。法文の用句が直解に困難なるかの感があるが、立法技術としては巧妙である。こう言われております。わずか三カ条であるけれども、二百四十個の処罰対象になる。ですから、わずか三カ条であるけれども、立法技術としては非常に巧妙である。これは東京区裁判所の次席検事でありました長谷川氏のことばであります。このような性格が暴力法をして、労働刑法中特に重要な地位を得るに至らしめたものであろう。こう言っておられる。ですから、大臣並びに政府委員は、この現暴力法をさらに二カ条追加いたしまして、そうしていずれもこれは労働運動、社会運動には適用するものではない。こうおっしゃいましても、二百四十個の犯罪処罰する、こういうような広範な法律規定である、こういうふうに考えられるわけです。でありますから、絶対暴力団だけの法律であり、労働運動、社会運動には適用されるものではない、こうおっしゃられますけれども、心配があるわけでありますからお聞きするわけですが、この点についての御所見を、これは政府委員からでもけっこうですからお聞きしたいと思います。
  61. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 二百四十個の犯罪態様があるということでありますが、それがほんとうか間違いかわかりませんが、犯罪態様が多いということは、犯罪件数が多いということとは別であろうと思います。態様があっても、実際に起こったものは一つもない場合もあれば、態様は簡単でも非常に適用の多いものもございます。それは現行法一条でございますが、いわんや二条、三条が二百何十個の態様があるかどうか、またあったとして、どれだけの件数に適用するか、これは全く別問題だと私は思います。
  62. 坂本泰良

    坂本委員 政府委員の見解を……。
  63. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ふえんして御説明申し上げます。  この法律の第一条を見ましても、一定の状態で暴行脅迫、器物損壊の罪を犯したという書き方をしておりますが、その状態の一つ一つの罪を組み合わせてまいりますと、私は二百四十になるかどうか勘定をしたことがありませんのでわかりませんが、数としては相当多くなると思うのでございますが、特に一条の二項をどういうふうに計算されたかわかりませんが、この二項の常習というのは、先生もすでに御承知のとおり、これは包括一罪になるという判例でございますし、自来運用におきましても、すべて包括一罪として処理している。何十重なりましても一つの罪でありまして、二百四十という計算はどこから出てきたのか知りませんが、いま大臣が申されましたように、いろいろな類型があるからといって、巧妙にできているという御意見でございましたが、私はそう巧妙な法律だとは思わないので、むしろ刑法の中に形を整えて挿入さるべき規定だ、本来そういう趣旨の規定だというふうに思っておるのでございます。いま仰せになりましたような、こういうことだから労働運動にも適用されるという御心配でございますが、これはもう前にるる申し上げたとおりでございます。また、労働刑法というようなことばが戦後使われておりますが、行政刑法とか労働刑法とか、本の名前にそういう名前をつけるのが戦後ございまして、何か労働刑法という確立した刑法があるかのごとくにいまおっしゃるのでございますけれども、私は労働刑法という特別な刑法があるとは思いませんし、また、そのような法学上の概念をもって法律の性格をきめるというような理屈のつけ方は適当でないように私は考えておるのでございます。
  64. 坂本泰良

    坂本委員 労働刑法という名前は私がつけたのではなくて、長谷川検事が言っておられることなんです。やはり政府委員と同じような立場におられる検事の方が、東京区裁判所検事時代にあらわされた「暴力行為処罰法令義解」という——これは当然皆さん方にも読んでいただきたいのですが、この本に書いておられるのです。取り締まりの立場におられる検事の方がこういうような本をあらわして、そこに言っておられるものですから、それを引用いたしまして、わずか三カ条であるけれども二百四十個の処罰対象となるというのでありますから、表面に出たのは三カ条でございますけれども、その条文から引き出される処罰対象というものは二百四十個もある。ですから、それが暴力団だけでなく、暴力団適用するのはわずかであって、労働運動、社会運動に適用されるのだから、この現行法に対してさらに法定刑の下限を引き上げ、さらに未遂罪をつくり、さらに常習をつくるというこの法改正は、現行法一体となって、社会的の現象としてあらわれますところの労働運動大衆運動に、これが大前提として具体的事実に対する適用をやってまいるものですから、いかに労働運動、社会運動に適用しないと言っても適用されるのじゃないか。法律ができますと、法律はひとり歩きをいたしますから、その法律解釈でやはり適用になってまいります。だから今度の改正案労働運動大衆運動に対する弾圧になる、こういうふうに心配なものですから、この法案審議にあたって所見をただしておるわけなんです。ですから、長谷川検事現行法ができた当時にこういうことを言っておられますから、現在もやはりそういうことでこの改正された法律適用されはしないか、こういう心配がありますから、先ほどの竹谷氏のように別に一カ条を設けて、これは労働運動大衆運動適用しない、こういう条文をここに新たに一カ条を加えたならば、それで抹消されるけれども、それがない以上は適用されるおそれがあると思うからお聞きするわけです。大臣、入れてはっきりいたされますか、その点をひとつ……。
  65. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 坂本さんにお伺いしたいのですが、労働運動適用しないということはどういう意味ですか。これがわからないのです。労働運動の最中に起こったいかなる行為でも適用しないというのでは、たいへんなことでございます。労働運動そのもの適用しないというのはわかり切ったことです。労働運動適用しないという意味が、労働運動の際に関連したどんな行為でも適用しない、これはたいへんなことで、私はとても問題にならないと思います。  それから、今度は処罰規定を重科したとおっしゃいますが、この一条一つも変わっていないのです。先ほども竹谷委員が御質問になりましたときに申し上げたように、銃砲刀剣類を持っておる者と常習の場合は刑罰が重くなりますが、集団の威力とか集団を頼むとか、そういうようなケースは全然ないのですから、第一条が今度合体して力が強くなるというお話の意味が、繰り返し申しますように私には了解いたしかねるわけであります。
  66. 坂本泰良

    坂本委員 そこで次に、この現行法が制定される当時は、労働争議小作争議には適用されない、こういうことが当時の帝国議会で論議になりまして、そうしてこの法律ができたわけです。そこで、この法律がはたして労働争議小作争議、それから労働組合、農民組合適用されるやいなやについては、これは裁判史上最大の論争点になったわけであります。そこで最初は、いまの最高裁判研、当時の大審院は、暴力法労働争議小作争議等との関係について比較的控え目の判示をいたしたのであります。一例をあげますと「暴力行為等処罰に関する法律一条には小作争議の場合を除外したる趣旨の見るべきものなく又小作印議は常に必ずしも違法性なきものと謂ふを得ざるを以て同条の処罰を免れず」だから、現行法一条労働争議小作争議適用しましたけれども、その理由については最初は非常に控え目であったわけなんです。ところが、次第に断定的になってまいりまして、暴力法暴力団、不良青年団等と同様、常に必ず労働争議、小作争儀にも適用される、こういうことに発展をいたしてまいったわけであります。その一例をあげますと、「暴力行為等処罰に関する法律一条暴力団不良宵年団等不法の団体のみを目標と為したるものに非ずして労働争議又は小作争議の場合にも其の適用あるものとす」、こういうふうに発展してまいったわけでございます。こうなってまいりますと、この法律審議の際に、帝国議会で問題になりまして、そうして当時の司法大臣並びに政府委員答弁で、これは労働争議小作争議には絶対適用になるものではないと言われたことが、法律ができますと、その法律がひとり歩きをいたしまして、そうして最初は控え目にこの法律適用しましたけれども、だんだん断定的になりまして、「労働争議又は小作争議の場合にも其の適用あるものとす」、こういうふうに断定的になってまいりました。これら判例に激励されまして、暴力法の主要適用方向はいよいよ暴力団でなくて明らかに労働争議農民運動への方向に向けられてまいったわけであります。でありまするから、最初は控え目でありましたけれども、だんだん法のひとり歩きと申しまして、その法の解釈につい断定的になってまいったから、それによって勢いを得て、労働運動小作争議にはこの法律適用していいのだというので、この法律適用することになって現在まで適用されておるわけです。でありまするから、この現行法をさらに今度改正しまして強化したら、これが一体となって、法を前提といたしまして、そうして具体的労働争議に対する客観的事実に対して、これが三段論法的に適用になってまいりまして、その結論を出す。だからその法律適用するから、先ほど申しましたように起訴され、裁判になるのはある一部でありますけれども、国家の権力機関である警察が、この法律適用するのだといって逮捕する、そうして釈放もする、しかしながら、裁判になるのはこれは二年先でありまして、逮捕されると、労働運動労働者側に非常に不利になってくるから……(「暴力があればあたりまえだ」と呼び、その他発言する者あり)暴力があるとして起訴されまして、半分は無罪になっているのですよ。   〔発言する者多し〕
  67. 濱野清吾

    濱野委員長 静粛に。
  68. 坂本泰良

    坂本委員 暴力ありとして多数の者に適用して、そうして労働争議が使用者の側の勝利に帰して、その結果ある一部について裁判になる。その裁判も半分は無罪になる。こういう結果から推しまして、われわれはこれを労働運動に対する弾圧法律である、こういうわけなんです。そういうわけで、いかにこの法をつくる当時は、そうではない——隠れみのと申しますが、そうでないと弁明しましても、適用法律のいわゆる乱用、広範に発展をいたしますから、だからこの法律については、暴力団については現行法を官民一体となって強力にやればできることであるから、何もこの法律改正する必要はない。暴力団の取り締まりは現行法をフルに動かして、警察が先頭に立って、国民一体となってやったならば、その取り締まりができる。つまり何もこの法を改正する必要はない。こういう考えに立って、過去の事実がそうであるから、いまおっしゃることも、法律ができるとそういうような経過をたどる、こういうふうにわれわれは過去の実績を見て今後のことを考えるわけでありますから、ここに所感をお聞きいたしておるわけであります。
  69. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 過去の実績をたどって考えるからというお話でございますが、戦前政府といまの政府は、これはたいへんに違う。民主主義政府であります。すべての政治の基礎が違っております。ほんとうに自由と人権を尊重する政府に相なっておる次第でございます。それから、どうもことばのあやでございましょうが、小作争議適用される、労働争議適用される——わかったのですが、そこにたいへんな誤解をはさむ余地があるのじゃないか。適法なる労働争議、適法なる小作争議適用されることはない。小作争議労働争議の際に起こった不法の行為、それを小作争議労働争議とおっしゃるならば、それは私はどうもことばがどうかしていると思うのでございまして、小作争議労働争議の際における違法、不当な行為まで入れて小作争議ということになりますと、私は、これは非常にえたいが違って一口には言えないので、まずその点を区分してからいろいろ私にお尋ねいただいたほうがいいのじゃないか、かように思う次第であります。
  70. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 判例、学説、立法等の進歩ということもお考えをいただきたいと思うのであります。この法律ができました大正十五年当時は、いわゆる争議権とか団体交渉権とかいうようなものは私は確立していなかったと思うのです。それが新しい憲法のもとで、憲法的に基本的人権といいますか、基本的な権利一つとしてはっきりと明定されてまいりますと、この関係というものは、大正十五年当時の暴力行為処罰に関する法律の持っておる意味と、今日そういう権利が確立してから後の持つ意味とはおのずから違ってくるのでありまして、その間に労働組合法一条二項のような規定も出てまいりまして、この間の権利関係というものは明確になってきておると思うのであります。でありますから、私は、戦前はこうだ、戦後はこうだというような区別をつけての説明はいたしておりませんけれども、判例とかあるいは昔の著書、お引きになりました立法当時の著書などには、そういう点の権利関係が明確でないことを前提として、争議の際に発生した、派生的に出てきた不法行為を罰するのをもって、あたかも農民運動弾圧するためは適用したというふうな言い方をしておりますけれども、これはいまの学説、判例と申しますか、あるいは立法のまだ未開拓な時代にあらわされた言論であり学説であり、とうていそのような議論では今日の法律関係規定する解釈としては適当でないように思うのでございまして、先ほど来大臣も繰り返し申しておりますし、私も申しておりますけれども、これは労働争議とか団体行動とか、そのものが適法であるものについてこれを適用する余地はないのでございます。適用されるというのは越軌行為の場合であって、それを処罰するというだけであって、それをもって労働争議処罰するとか、そういうような言い方をすることは今日の法律解釈としてはとうていとることのできない立場である、かように考えておるのでございます。
  71. 坂本泰良

    坂本委員 私も、古きをたずねて新しきを知る、こういうことがございますので、そういうことを言うわけなんです。   〔発言する者多し〕
  72. 濱野清吾

    濱野委員長 静粛に願います。
  73. 坂本泰良

    坂本委員 時世が違っているとおっしゃっても、現行法の制定直後において、やはりその取り締まりの衝に当たられた検事の長谷川さんがそう本で言っているものだから……(「時代が違う、時代が」と呼ぶ者あり)いや、時代が違いましても、実際適用を受けておるのですから……。  そこで、なおお聞きしたいのは、この長谷川検事は、昭和十年に警察官等のためにあらわされました文献の中でこういうことを言っておられる。暴力法の運用にあたり、ふだんから団体の内偵を密にしておくことを強調しておるわけなんです。(「いまは違うよ」と呼ぶ者あり)現在でも同じだよ。この長谷川検事はこういうことを言っておられます。「威力暴行の端緒を得るには特に団体または多衆に注目すべきことである。団体の存在は平素より内偵を厳にし、その団体の主義、綱領及びその実際的行動等に注意しその団体の実際的行動が不法なる行為を以て行動綱領とするなればその団体員の日常の行動は必ずや暴力行為の連続であろう。それ故特高警察事務に従うものと連絡をとり既存団体内容及びその団体員の性行等に不断の注意を払うことが肝要である。さすれば必ずこれより検挙の端緒をつかみ出すことができる。」主義綱領に注意せよだとか、あるいは特高警察と連絡をとれだとかいうことは、すでに昭和十年当時のこの現行の暴力法が何のために発動されているかということを想像することができるわけなんです。(「暴力のためだよ。」と呼ぶ者あり)暴力じゃないわけです。労働争議あるいは小作争議に対しての気がまえとして、検事は内偵を進めておかなければならない。内偵を進めておけばこの暴力法適用ができるのだ。できるのだということは、小作争議労働争議の場合にこの暴力法を発動いたしまして、これを直ちに制圧することができる、こういうふうに考えられるわけであります。さらにまた、この長谷川検事は思想検事で、この人は常習暴行の検挙のための資料収集について注意を与えておられるわけです。「本罪の如き常習者の検挙には常習者名簿又は常習犯罪表を調製整備して置く事が必要である。之等の名簿又は犯罪表に記入して置くべき事項は次の各項目である。」というので、八項目をあげておられるわけです。ですから、この常習暴行についてはふだんからこれを調査をしておけ、調査をしておけというのは、現在にこれを持ってまいりますと、いわゆる労働組合の指導者、そういう者の調査をしておいて、そうしていつでもストライキが始まったならば、その組合に対するふだんの調査を持ってきて、そうしてこの改正された暴力法をいつでも適用できるのだ、こういう準備は三十八年前も三十八年後の今日においても同じである。行政警察のやり方には一応もう整備ができておる。しかしながら、この民主社会の現在において、この行政警察の執行を裏づけするためにはやはり法的の措置が必要である。この法的措置をするためにこの暴力法改正がここに行なわれる、こう推察をできるわけであります。そういう点からいたしまして、大臣並びに政府委員の御答弁に対してますます不安が出てくるわけであります。ですから、この法案審議にあたりまして、過去の実績、また取り締まりの地位にある検事のあらわした著書、その著書に掲示されておる事項を見まして、やはり今度の法律ができたならばそういうような情勢になるのであろう、それを私たち心配をするわけなんです。その点に対する御所見を承りたいと思います。
  74. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 先ほど刑事局長も御答弁申し上げましたように、戦前と戦後は違いまして、昭和十年と三十九年では、えらくそこで違ったことだと思います。しかし、いまのお話の点は、さもおかしいようにお話しになりますが、私は少しもふしぎはない。現に日本国民みな良民でございましょう。しかし中には窃盗をやる人もあります。そういう常習をやるような者を平生警案が気をつけておる、あたりまえの話で、そういう者をうかつにちっとも知らないでおったら、私は警察の職務はつとまらぬと思う。それで率直に申します。労働運動をなさる方は大体適法におやりになるのですが、その中でもおりおり違法な行為をやるとか、計画しておるとかいうことが、どこの国でもまんざらないわけではないと思うのであります。そういう者について——適法な労働行為、適法な小作争議をするばかりではないというのが遺憾ながら世の中の実情でございますから、そういうことについて平生注意をして、いろいろ調べておくということはあたりまえの話じゃないかと思うのです。それをしなければ世の中の治安も何も保てません。正当な行為について干渉するのは悪いのですけれども、遺憾ながら世の中にはいろいろな犯罪を犯す人がありますから、こういう者について調査しておく、調べておくのはあたりまえの話だと思うのです。その意味においては一つもふしぎはないと思います。
  75. 坂本泰良

    坂本委員 群盲象のしりをなでて象を知るということがありまするが、やはり物事を知らない人は象のしりをなでて象は大きいものだ、めくらはしりっぽをなでて象は大きなものだと言う。私はまだいろいろ法律的の点はまことに若輩でありますけれども、やはり法律を論ずるときには、古きをたずねて新しいどういう国民のための法律かを論議するという点に私は重点を置いておるわけなんです。いろいろな話を聞きますと、ちょうどめくらが象のしりをなでて、ああ象は大きいものだというふうに言われるように考えられてならないから一言申し上げた次第でございます。  立場が違いますし、時間もだんだん参りましたから戦後の問題に入りたいと思います。  戦後はこの暴力法は、法の本質からいたしまして、これは廃止さるべきであったと思うのであります。それは日本が受諾いたしましたポツダム宣言並びに一九四五年十月四日の連合国寅最高司令官の覚え書きによりまして、このような法律は廃止になった、こういうふうに了解するわけなんですが、形式上この暴力法の廃止手続はとられなかったから現在これは生きておるわけであります。また、時の政府は、日本を敗戦に導いたいろいろの労働組合小作争議その他一般の国民の権利を制圧したところの国家総動員法その他の法律は廃止になったわけです。ですから先日も申しましたが、警察犯処罰令とか、爆発物取り締まり法とか、この暴力法とかは、全部法の解釈上からいけば当然廃止するべきものでありましたけれども、形式上廃止にならなかったわけです。だからこの暴力法というのは現在も生きておる、こういうことになっておるわけであります。そこで、いろいろ問題はございまするが、労働運動弾圧にこの法律が使われておる。そういう関係がございますから、労働組合運動の点について申し上げますると、労働運動には、ただいま申し上げましたように暴力法はもう適用されない、こういうふうに考えていたのでありまするが、労働組合にこれを適用するかどうかという点につきまして、当時の末弘嚴太郎博士、この方は御存じの方もたくさんあると思いまするが、この方が終戦後の昭和二十年十一月二十四日に労務法制審議会の答申に、こういうことがあったというのであげられておるのであります。それはこの答申の第二条に「左ノ法令ノ関係条項ハ労働組合ノ為ニスル組合員ノ前条規定ノ精神ニ基ク行為ニツイテハ、之ヲ適用セズ」前条というのは第一条がございまして、労働運動に対してはこれを適用しない、こういう意味であります。その一として刑法があげられ、二に暴力行為等処罰に関する法律、三に警察犯処罰令、四に行政執行法、五が出版法、こういう点があげられておるわけであります。ところが、いよいよ労働組合法ができてまいりますると、この点が抹殺されておるわけです。この現行法である暴力法とか、あるいは警察犯処罰令とか、行政執行法とか、出版法とかは、これは労働組合運動弾圧になるから労働組合運動に対しては一切適用しないというのが、労務法制審議会の昭和二十年十一月二十四日の答申であったわけなんです。ですから、この答申からいたしますと、すでにポツダム宣言並びに連合国軍最高司令官の覚え書きによって現行法は廃止になっておるものだ。それが形式上廃止の手続がとられていないから、さらに労働三法ができるときに特に、労働組合法ができますときに、この審議会の答申を入れなければならなかったのを入れていないというところに、現在この暴力法労働運動適用される、こういうことになっているわけであります。ですから、法の本質からすれば、もうすでに暴力法は廃止になっている。それを形式上廃止されていないから戦後ずっと労働運動に対する弾圧法としてこれが適用されておる。それが間違っておる、こういうふうに考えられるわけです。それが今度この法律改正いたしましてやる、こういうことになるものですから、さらに今度の改正について労働組合運動大衆運動適用すべきものじゃない、されないといかに弁明されても、やはり戦後の当初のこの考えからいたしまして、これを改正してさらに強化する、こういうふうに考えられるものですから、ここにお尋ねをするわけなんです。その点についての御所見を承りたい。
  76. 賀屋興宣

    賀屋国務大臣 ポツダム宣言を受諾し、いまの暴力法というものは死んでいるものである、形だけ生きている、これには私たちは反対なんです。生きている。お話しのように、戦後の改革によりましてできました最高裁の判例は、これは戦前の大審院じゃないので、これは明らかにその法律が生きていることを認めて、幾多の判例を認めておる。それもあなたのお話しのように、労働争議適用したんじゃない。労働争議小作争議の際に起こった不法の行為について適用したことをりっぱに最高裁は認めております。りっぱに法律は生きております。あなたのお話の新しい民主主義でできたこの裁判制度、その最高裁がこれを認めておるところでございまして、それをいま末弘君御関係でありました委員会の答申等のことになりますと、私もさようなことが出ていることは承知しておりまするが、それは現行法にそのままなっていない。詳しくは政府委員より御説明申し上げますが、御説明申し上げぬでも坂本さん御存じかと思うのですが、暴力行為についてはその阻却性は認められていないのであります。それは明文がある。その後の立法で明白になっておりまして、それも最高裁はこの判例において明白に認めておる。ちゃんとそういうふうにできております。これは大体御承知だと思いますが、私は、そういう筋で、決して死んでいる法律ではないし、また、いまのような末弘委員会のそういう答申においてそんなものはなくなった、決してなくなったんじゃない。むしろ明白に生きていることが、その後の立法及びその最高裁の判決によって明らかになっておる、かように思う次第でございます。
  77. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいま暴力行為等処罰に関する法律はポツ勅の規定によりまして形式的に廃止されていないから生きているのであるが、実質はポツダム宣言の受諾によって失効しておるのだというお話を前提として御議論がございましたが、これは私どもはさように考えておらないのみならず、判例、通説もさようには見ておらないのでございます。現に実体的に申しますと、最高司令官の一九四五年十月四日付の指令によりますと、政治的、公民的及び宗教的自由制限の除去に関する総司令部覚書というのがございまして、これに基づいてたくさんの既存の法律が整理をされたのでございます。この法律改革はすこぶるきびしいものでございまして、もちろんこの暴力行為等処罰に関する法律もそのスクリーンにかかっておると思うのでございますが、その際これがなぜ生き延びたか塩ということにつきましては、この暴力行為等処罰に関する法律の中身は、単なる行政行為とかあるいは治安警察的な規定ではなくして、これは刑法の本来規定なんです。現に昭和二年に——昭和十五年に最終的には出ましたけれども、刑法仮案の中にも、大部分の規定が取り入れられておるようなものでございまして、本来これは刑法規定なんです。そういう刑法規定でございますから、言うなければ司法刑法とでもいう刑法なんでありまして、行政刑法労働刑法じゃなくて司法刑法、こういう司法刑法としての特別刑法規定なんです。そういう意味におきまして、これはいまの指令にも該当しないのみならず、当然廃止の運命にあるものが間違って残っておったかのごとくにおっしゃっても、それは実体がそうでないということを私どもは信じておるし、通説もまたそれを認めておりますし、ただいま大臣仰せになりましたように、昭和二十九年には最高裁の判例によりまして、これがいまの指令にも違反しないし、ポツダム宣言受諾によって廃止になったものでもないということを言明しておるのは、その判決は御承知のように、憲法二十八条に関連する団結権団体行動権といったようなものについての裁判で示された判例でございまして、これは通説、判例ともにこの線を今日も維持されておると私は確信をいたしております。そういうふうに見てまいりますと、ただいま坂本委員仰せになりました、これは形式的に生き残っている、たまたま廃止になっていなかったから生き残っている、いわば死ぬべくして死なないでいる法律だというような御見解に対しましては、とうてい私どもは賛意を表することはできないのみならず、いま申しましたように、判例も通説もそのような見解には立っていないということを申し上げざるを得ないと思うのでございます。
  78. 坂本泰良

    坂本委員 しかし、現暴力法刑法の一部であるということになれば、さっき申し上げましたように、一、刑法、二、暴力行為等処罰に関する法律、三、警察犯処罰令、四、行政執行法、五、出版法、こう区別するわけはないと思うのです。それはやはり広義に解釈いたしまして、これは刑法だということになれば、やっぱり処罰する。処罰の面からすればこれは刑法とも言えるでしょう。しかしながら、現行刑法暴力法とは明らかに区別いたしております。だから、私が再々申し上げますように、実質上は刑法であってもいわゆる刑法ではない、刑法の特別法である。だからこれは廃止さるべきものであるというふうに私は了解して、質問を申し上げたわけであります。そこで本質上廃止さるべきようなものが形式上残っていたから、今度労働運動にこれが適用される、こういうことになっておるわけなんです。  そこで、これは私が言うのではなくて、末弘博士が言われることですから、私はなるほどそのとおりだと思うわけです。何も私が独断で文章を書いたわけではないわけなんです。この末弘博士の「労働法のはなし」という本の中に、これは話だから、なかなか簡単に書いてございますが、われわれとしては、法律的にも実質的にも非常に権威あるものだというのでこれを読んでおるようなわけであります。「労働組合法内容」ということで、労働者団結権の保障に、憲法上の保障と法律上の保障と二つに分けまして書いてあるわけですが、その中にこういうことがあるわけです。「労務法制審議会の原案は最初、団結権保障上有害と思われる一切の法規を列挙して、労働運動には一切これを適用しないと云う規定になっていた。ところが、その後政府の手に移ってから簡潔な文句の条文で瞬くことになって、結局、素人には何のことか判らない今の規定になってしまった。これによると何が正当かは、結局裁判所で判断することになる。若し裁判所が保守的なら労働者に不利な判断が与えられ、問題となる恐れがある。」こう言っておられるのです。だから保守的になれば労働者に不利になる、進歩的になれば労働者に有利になる、そういうふうにできてきておる。この労務法制審議会の答申のようにやれば何も異論がなかったはずです。それを簡潔にして、何が正当かわからぬように、しろうとではどっちに考えるかわからぬようになってきておる。だから何が労働運動に対して正当か、不正当であるから暴力法適用するか、正当であるから適用できないかという判断は裁判所に移った。その裁判所が現在のように保守的に強くなれば労働者の不利になるような判例が出てくる。これを末弘博士がすでに二十年前から予期しておられるわけです。いま、こういうふうになってきているわけです。ですから労務法制審議会の答申のように、ちゃんと刑法暴力行為等処罰法、行政執行法、出版法、警察犯処罰令というふうに列挙してあれば、労働運動には適用にならないのだということがはっきりするわけですけれども、それがはっきりしなかったから、何が正当かわからなくなった。だから結局裁判所の判断にまかされた。したがって裁判所といえども、いかに司法権の独立があると申しましても、やはり人間でありますから、ここに書いてありますように、裁判所が保守的ならば労働者に不利な判断が与えられる、現在の判例は労働者に不利な判断が与えられる、こういう現状にあるわけなんです。ですから今度の改正案につきましても、やはり、いかに適用しないと申しましても、またいかに裁判所と申しましても、この法律適用するにあたって、政権が保守政権であり、独占資本の方向に基づいて支配階級のこの政権が維持されるならば、これは被支配階級である労働者階級のために不利な判断が与えられる、こういうことになる。ですから、法をつくる場合は、これは右に行ってもいかぬ、左に行ってもいかぬ、やはり中席を行かなければならない。その前提に立ちましたならば、この法律は、いかに現在労働運動大衆運動には適用しないと言っても、やはりこれは適用されるようになる、こういうおそれがここに出てくるわけなんです。だからその点を明瞭にするためには、竹谷君も言われましたように、あの政防法と同じように一項を設けて、これを適用しないということになれば、そうなるだろう。私は、そういう条文をあげても保守政権が続けば、やはり労働者に不利なことになると思いますけれども、それを規定すればそこに大きな制約になりますから、この乱用を防止することができる、こういうふうに思うわけですが、重ねてその点はいかがでありましょう。
  79. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいま末弘博士の労務法制審議会の答申の件に関連しての御意見でございましたが、この憲法二十八条が規定されましたことに伴って、末弘博士の述べておられますように、憲法で保障されたことに関連して法律的にも保障するという具体策として、いまの答申が条文の形でなされており、その条文の中に刑法並びに暴力行為等処罰に関する法律が掲げられておりますことは、私も承知いたしておりますが、この点は末弘博士は御承知のように当時労働法の権威であられたわけでありまして、非常に労働権の担保という点に力を入れられてその案をおつくりになったと思うのでございますが、やはり憲法には十二条、十三条、十四条というような公共の福祉、あるいはこれを乱用してはならぬというような規定等々の規定との関係において、労働権を保障する場合に、刑法暴力行為までも書き入れて、免責規定にするということは適当でないということから、慎重審議の結果、ただいまの労組法一条のように刑法免責は受ける。受けるけれども、ただし書きがついておりまして、暴力行為は別だということが規定されて、そこに憲法十二条と十三条の関係及び二十八条との関係が鼎立していると私は考えておるのでございます。でありますから、戦前暴力行為の取り扱いにおいて、そういう団結権のようなものが権利として認められなかった時代の運用解釈と今日とでは、質的にも違っておりますし、したがって権利として認められた労働権に対して、それをそのままずばりそのものを取り締まるような規定を置くことは憲法違反でございます。しかしながら、その労働行為に派生して起こった暴力行為を取り締まるということは、これは憲法十二条、十三条の規定に照らしましても当然である、合憲であるというのが判例の一貫してとってきた解釈でありまして、その点は少しも争いのないところであると考えます。
  80. 坂本泰良

    坂本委員 いろいろありまするが、立場の違う関係で、私の質問と答弁は並行線をたどるのはやむを得ないと思うわけです。それを突き詰めてやることは、大学の法律討論会でもございませんから、まだやりたいのですが、その程度にしまして、暴力法改正案について労働運動に対する危機が、私は四つにわけまして問題がありますけれども、これは他の委員からもいろいろ質問があると思いますから割愛をいたしまして、最後に一、二お聞きいたしたいのは、かつて自由人権協会からこの現暴力法改正につきまして質問をいたしておるわけであります。それに対しては詳しい法務省刑事局からの御返答があったわけでありまするが、その中で一、二私、ここにただしておきたいことがあるわけであります。  その一つは、この現行法改正になりましたならば、この改正案によりますと、常習傷害銃砲刀剣類等による傷害の刑は、現行刑法の第百六条の騒擾罪の首魁、それから第百十条一項の建造物以外の放火、それから同じく第百二十条の溢水罪、同じく第百二十一条の水防妨害罪、こういうのと刑が同じになるわけなんですね。そこでお尋ねしたいのは、このような刑の引き上げは、刑法典の全体から見まして均衡を失するのではないか。これは身のしろ金目的の誘拐罪のときにも、やはり刑法の一部であるから、こういう特別刑法をつくるのは刑法の均衡と刑法の体系をこわすのじゃないか。また、先般の不動産侵奪罪のときにも、私はこれを問題にしたわけでありますが、こういうふうな特別法で刑の引き上げをいたしますのは、刑法典全体から見て均衡を失するのじゃないか、こういうふうに考えますが、この点についての御所見を承っておきたいと思います。
  81. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 ただいまお話のございました新設の、銃砲刀剣類を用いて傷害を犯した罪と常習傷害の罪とが、刑法の他の条文との関係で均衡を失するがという点でございますが、この点につきましては、私は権衡を失しないと思うのでございます。結論的に申し上げますとそういうことになります。  その理由といたしまして申し上げたいのは、まず傷害のほうから申し上げますと、傷害罪は、現行法は十年以下の懲役と罰金、科料までついておりますがこれはあらゆる種類の傷害罪を含めて包括して規定しておるわけです。この傷害罪の中で、特に特殊な武器を用いてやる傷害というのは、手段の危険性に着目をいたしまして、いわゆる加重類型と考えられる類型の特殊な犯罪でございます。そういたしますと、あらゆるものを含むとして考えられておる現行刑法の十年以下、罰金、科料がございますこの法定刑の中で、加重類型を持っておるものの上のほうはとにかくとしまして、下のほうが罰金、科料というようなことは問題にならない。これは常識的におわかりいただけると思います。それでは下のほうの一年という刑を考えてみました場合に、当然このような加重類型を考えた場合には、一年から十年までという範囲をきめますことは、私は学問的に見ましても実際的に見ましても合理的であるというように思います。現に準備草案なども、この同種の罪につきましてそのような法定刑を考えておるわけでございます。  それからまた常習傷害の点につきましても、傷害罪を繰り返す習癖を持って傷害罪が行なわれるといったような犯人に対しましては、本来ならばこれは保安処分に付するとか、あるいは不定期刑を科するとかいったことで、もっぱらその性癖を持った犯人についての改善策ということが刑法上考慮されるべき事柄であります。そういう点を考えますと、かようなものが罪としても重い罪と評価されるばかりでなく、そういう犯人を改過遷善せしめるためには短期の自由形は無意味であるということが刑事学上の一つの定説でございまして、そういう点を考えてまいりますと、やはりこれに対して一年以上十年以下という刑を設けますことは決して不当ではない。むしろこれは不定期形に持っていくとか、あるいは保安処分の対象にするというような性質の犯罪であるというように私どもは考えておるのでございまして、そういう点から見まして現行刑法の中にはめ込みましても決して不当、ふつり合いなものではないというふうに思っておるのでございます。
  82. 坂本泰良

    坂本委員 ひとつ学のあるところで質問し、学のある御答弁を承わりたいと思いましたが、大体この辺で打ち切ります。
  83. 濱野清吾

    濱野委員長 本日の議事はこの程度にとどめます。  明十七日は委員会の定例日でありますが、都合により開会しないことにいたします。次会は公報をもってお知らせいたします。  これにて散会いたします。   午後九時二十二分散会