○村山(喜)
委員 そこで野田総務長官にお尋ねをいたします点は、国に補償義務ありやいなやという問題でございます。これは長官も御承知のように、いままで歴代の
内閣は、この在外資産の問題については、外交的な保護権だけを放棄したのである、こういう解釈をとった
説明を国会でいたしております。しかしながら、最近の当該
関係国の意向等、たとえばアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアあたりの見解を非公式に尋ねたものの中には、当然これは個人の請求権も日本政府は放棄したものと解釈をするという解釈が、新たに出てまいりました。さらにまた、東京地裁の原爆裁判に見られる判決文の中にも出ておりまするように、政府の今日までとってきた外交保護権だけを放棄するという
考え方は誤りだ、講和条約の規定によって個人の請求権も明らかに放棄しているという判決の文章が見当たるわけであります。なお、これは古くからいわれておるわけでございますが、ハーグ陸戦法規の第四十六条「私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス。」という規定の存在。さらにまた憲法の第二十九条から見た場合に、これらの行為というものが公共収用に該当をしておるという解釈、さらにまたイタリアなりあるいはドイツの場合等におきましては、これはその後において国家が補償をした。しかも平和条約の中において、国が補償しなければならないという条項がつけられておったわけでございますが、日本の平和条約には、そういうような責任を国際的には負うていない。しかしながら、国際法上の違反行為にはならないけれ
ども、しかし、そのことは、日本政府として善処しなければならない道義的な
立場に立っているということを、
昭和二十六年ころ、西村
条約局長あたり議会で答弁をいたしておるようでございますが、その後におきましても、この問題は、国内法の問題として当然
考えていかなければならないという
立場から、いろいろ論議が取りかわされてまいりました。しかしながら、これが裁判によりまして、確定づけられたものがまだないわけであります。そういうような
立場から、いろいろ国に補償義務ありとする意見、あるいはこの補償義務はないとする意見、こういうようなものが入り乱れておるわけでございます。なお、憲法第二十九条の三項から、直接
予算的な措置を講ずることによって、これらの補償措置ができるのではないかという意見等もございますが、これは三十五年の十月十日に毛最高裁の大法廷におきまして判決が下っておりますけれ
ども、直接憲法に基づくところの補償の請求は生じない。これはやはり手続法が要るという、いわゆる連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律百六十五号によるところの争いに対しましては、そういう判決を下しているようでございますが、その中において入江、奥野両裁判官は、憲法第二十九条三項から、直接補償することも可能であるという意見を述べられておるようであります。このように、これは全体的な問題を律するその材料に使うわけではありませんけれ
ども、そういう
考え方が入り乱れて今日に至っておる。しかしながら、最近におけるところの問題のとらえ方といたしましては、単なる外交保護権だけの放棄だけではなくて、実質的に個人の請求権を国家が放棄したということが、この平和条約の解釈の中に明確になってきたということが、相手の国からも、あるいは最近の判例の中からも、指摘がされるようになってまいりました。ということは、それだけ国に補償の義務があるということを主張をする存在がふえてきたということであります。これらの問題について、総務長官はどういうふうにお
考えになっておるのか。この問題を、審議会で義務の有無について検討をするお
考えをお持ちになっているのか。それとも、国に補償義務ありという
考え方のもとに、調査審議を依頼するという
考え方に立たれるものであるか。やはりここは
基本的な問題でございますので、政府の
立場を明確にお答えを願っておきたいのであります。