○岡本
委員 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となっておりまする
河川法並びに
河川法施行法案に対し、修正の動議を提出するものであります。
現行
河川法改正の必要が叫ばれるゆえんのものは、第一に、明治二十九年制定以来著しく発達したわが国経済の発展に即応し、第二には、戦後に確立した地方自治とともに、わが国政治の実態に即応して、
河川を適切に
管理して、国民生活を守るとともに、経済成長とともに増大した
水利用を満たさんとするところにあったのであります。したがって、
改正の目標は、何をおいても高い次元に立って
治水、
利水両面にわたって
河川を
水系ごとに一元的に
管理するというところにあったのであります。ところが、一たび
河川法改正が発表されますと、各省間に猛然としてなわ張り争いが起こり、知事会の
権限争いがこれに加わりまして、
改正の
方向は右に左に大きくゆれて、
改正の
内容も全く当初の
方向を見失なってしまったのであります。これがわれわれが本
法律案に修正の動議を提出する理由であります。
次に、その
内容と趣旨の概要を、重要なる数点にしぼって御説明申し上げます。
まず第一に、修正案におきまして、われわれは
流水に対する私権の排除を明確にせんとしたのであります。現行
河川法は、第三条におきまして、「
河川並其ノ敷地若ハ
流水ハ私権ノ
目的トナルコトヲ得ス」と規定されております。ところで、
昭和三十二年成立いたしました多
目的ダム法には、ダム使用権は物権とみなすと規定されまして、ダムにたくわえられた水に対する私権の排除が不明確になっておるのであります。また事実ダムの水はおれのもの、こういった考え方に立ったダムの操作の誤りによりまして、洪水時にしばしば重大なるダム災害が発生しているのであります。しかるに本
改正案におきましては、現行法における私権の排除の規定がなくなり、ダム設置者の持つこうした誤った考え方を助長するおそれが出てまいりましたので、われわれは
流水に対する私権の排除を明確にせんとしたのであります。
修正の第二の要点は、
河川の認定と
管理並びに
管理に要する費用の負担に関する問題であります。当初、本法
改正の
方向が発表されました当時の
河川管理に関する方針は、人口、産業等、その流域の経済の発展の
状況に応じて
河川を一級、二紙に分類し、国民生活と重大なる
関連のある一級
河川については国が、中小
河川については府県が
管理して、費用もそれぞれにおいて負担するということをたてまえとしようとしたのであります。すなわち、一級
河川の
管理費用は全額国が、二級
河川については二分の一国が負担することにより、財政面においては国の責任体制を明らかにせんとしたのであります。ところが、一たびこの
方向が発表されますと、自治省並びに知事会の反対によって、水源より河口に至る
河川の一元的
管理という大目標がくずされ、知事
管理区間の設定による従来のこま切れ
管理が復活したのであります。また大蔵省の抵抗によりまして、財政面における国の責任体制がくずれ去ったのであります。かくて本
改正案は、当初の
河川管理の一元化による
治水、
利水の合理化という背骨を失ったタコのようなものになってしまっておるのであります。したがいまして、われわれは、本修正案によりまして
河川の
管理体系を当初の計画に戻し、その一元化をはかるとともに、国の財政的責任体制を強化して、まさに仮死状態に陥っておる
河川法改正の本来の
目的に土性骨を入れ、その生命を取り戻さんといたしておるのであります。修正の第三の要点は、遊水
地域の
指定に関する事項であります。今回の
改正案には、遊水
地域の
保全という考え方をどこにも見出すことはできません。従来の
河川管理の方針は、水を堤防で囲い、洪水の疎通をよくして、できるだけ早く無害にこれを海に注ごうとしておったのであります。いわゆる高水路工法といわれる方法がとられておったのであります。ところで、洪水をこうして堤防で攻め立てますと、一たん破堤した場合には、その破壊力は強大なものとなり、膨大なる災害を発生するのであります。さらにまた、洪水を海に無効放流して、
水利用を全く不可能にしてしまうのであります。かくて
治水工法の近代的
方向は、高水路方式より流量調節に向かい、本修正案におきましても、ダムに関する多くの規定が織り込まれまして、流量の調節によって
治水効果をあげるとともに、
利水の効率を高めんといたしておるのであります。戦時中、食糧増産の
目的から、多くの遊水
地域が耕地化されました。いままた住宅、
工場等の用地需要が高まるとともに、公共用地の拡大と相まって、さらにその傾向に拍車がかけられております。このことは、戦中、戦後の山地の荒廃とともに、今日の日本の洪水を非常に大きくしておるのであります。利根川には渡良瀬や田中の遊水
地域が設けられておりますが、全国的に見て、
河川管理の方式の中に遊水
地域の
保全ということが非常に軽視されておるやに見受けられるのであります。川を攻め立て、
河川の領域を経済が蚕食するところに災害の大きくなる
原因があるのであります。
河川の領域を侵し、土地の有効
利用をはかるには、遊水
地域の持つ調節機能を
保全しながら、計画的に行なわなければなりません。こうした考え方に立って、われわれは、本修正案の中におきまして、
治水上必要ある場合には、洪水調節のための遊水
地域を
指定し、この遊水
地域は、これにかわるべき洪水調節機能を有する
施設をつくるまでは、これを取りこぼつことができないよう規定せんとしたものであります。
修正の要点の第四は、洪水常襲地帯の
指定であります。川は生きているということばのとおり、われわれが川に手を加えますと、必ず敏感に反応してまいります。たとえば、
利水の
目的をもってダムをつくりますと、ダムの上流では、洪水の停滞のために、著しい土砂の堆積が起こります。下流では、河道の掘さくのために干害が生じます。また、
河川の改修によって洪水の疎通をよくいたしますと、下流の狭窄部には洪水をもたらします。こうしてわれわれが、
治水、
利水の
目的で川に手を加えますと、一部に第二次的な洪水常襲地帯をつくり出すのであります。このように人工的につくられた洪水常襲
地域に生活する住民は、毎年のように大雨ごとにどっぶり浸って、非常な犠牲をしいられているのであります。作物はとれず、住む家は荒廃して、生活は次第に困窮しつつあるのであります。しかも政府は、財政的理由をもって、これらの災害を防除するための
措置を一向にとろうとせず、その
地域の住民の嘆きは、いまや政府の無策に対する怒りとなって燃え上がりつつあるのであります。したがいまして、これらの人工的な洪水常襲
地域を水禍から解放するための
治水施設は、他の
施設に優先すべきであるにかかわらず、他の
利水を
目的とする
施設がしばしばこれに優先しているのであります。それゆえに、私
どもは、かかる
地域を洪水常襲地帯として
指定いたしまして、この
地域に対する
治水施設を、他の
施設に優先して行なうことを政府に義務づけようといたしたのであります。
この修正は、連年の水禍に悩む住民の声であります。また、政治の当然のあるべき姿であります。昨年の通常国会におきまして、われわれは、罹災住民の
立場に立つ本修正案を提案いたしまして、与党の諸君によって否決されたのでありました。まことに涙なきしわざというのほかありません。水害地住民は、この事実を悲憤の涙をもって見ております。しかるに、政府並びに与党の諸君は、悲痛なるこの願いを無視して、われわれの修正
意見を取り入れることなく、本
改正案を提案しているのであります。まことに冷酷無情、無神経きわまるというのほかありません。これでは、
利水権は国の手に、水はおれたちに自由に使わせろ、ただし、そのためにどこにどんな水害が起こるようになっても、それはおれたちの知ったことではないということになりまして、今度の
河川法改正は、
利水第一主義の
改正であると言われてもしかたがないのであります。
地域住民の犠牲において、水を求める産業に奉仕せんとする
改正であるとのそしりを免れることはできません。これが本案に修正を要求する理由の第四であります。
第五は、ダム操作に対する
河川管理者の指揮権の問題であります。本
改正案におきましては、災害防止のためのダムの緊急
措置に対し、はなはだ憶病であるということであります。従来、発電ダムは、洪水に際しまして、しばしば予備放流を怠り、あるいは急激な放流を行なって、下流住民に重大なる危害を与えるような事故を起こしてまいりました。かかる経緯にこりまして、今回の
改正法案では、ダム操作に関する詳しい規定を設け、ダムの安全性のために特段の
配慮を払っております。ところが、ダム使用権を物権とみなすという考え方の中に、ダム操作に関する統一的
管理にきわめて憶病なるものがあります。昨年の国会において、緊急の場合に、
河川管理者は、ダムの設置者に対し、災害を防止するために必要な
措置をとることを勧告することができるとありましたのを、指示することができると修正されました。しかしわれわれは、この
程度の修正をもってダム操作の安全性を確保することはできないと思うのであります。
流水は公共のものであります。ダム設置者は
施設を設けることによってダム使用権を持ちますが、それは、
権利として
流水を事業の
目的に使用することができるのではなく、資格として使用を許されているのであるとわれわれは理解しております。それゆえに、公共の安全に重大なる
影響ありと懸念される場合には、進んで災害の防止に協力する義務があるものと考えております。そして、
河川管理者は、各
水系ごとに洪水
管理本部を設けて、これら幾つかのダム群を科学的に統一的に
管理し、指揮して、災害防止の実をあげるべきであります。そのためには、
河川管理者は、緊急の際に、ダム設置者に対して命令権を持たなければなりません。指示することができるといった
改正案の
程度の消極的な態度をもってしては、十分な成果を期待することはできないのであります。レーダーや電子計算機の発達した今日では、ダム群の科学的
管理によって、完全な洪水
管理ができるはずであります。命令権のない
管理者にこれを求めんとすることは、武器なくして戦えと言うにひとしいのであります。命令権なきダム
管理は、魂なき
管理というほかありません。これが修正を求める第五の理由であります。
さらに、
河川法施行法案に対する修正案は、以上の
河川法案に対する修正に伴い必要となる経過
措置、並びに
関係法律についての整理を行なったものであります。
明治二十九年に制定された
河川法は、いま、時代の進運に伴って、画期的な
改正が行なわれようといたしております。それだけに、われわれは、その
改正にあたっては、その本来の
目的を見失ってはなりません。政府部内のなわ張り争いにゆがめられたり、資本の圧力に屈服するようなことがあってはなりません。国民生活の安定のために、経済の伸展のために、正すべきところは正さなければなりません。そして、国民の生命と財産を守るための
治水は、何よりも重要なものとしなくてはなりません。しかるに、政府原案は、この重大なる
河川法の使命を忘れているのであります。いわば魂を置き忘れた
河川法改正というべきであります。これに魂を吹き込まんとするのがわれわれの修正案であります。
皆さん方の御賛同をお願いいたしまして、提案の趣旨説明を終わります。(拍手)