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和田博雄君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、本日行なわれました
首相の
所信表明に対して、
外交上の基本的な問題に関して若干の
質問をいたしたいと思います。(
拍手)
第一に、私の
質問したいのは、
ケネディ大統領死後の当面の
国際情勢を
政府はどう見るかということであります。
先般、
ケネディ大統領の
不慮の死につきましては、
日本社会党もまた、
国民とともに心からなる
哀悼の意を表明するものであります。(
拍手)と同時に、かつて
浅沼委員長を失った経験を持つ
日本社会党としては、
暴力に対しては、最大の憤りと憎しみとを表明いたします。(
拍手)故
ケネディ大統領の暗殺は、
アメリカ社会の恥部をさらけ出したものであり、その
民主主義の発達がまだ完全でなかったことを示したものでありましょうが、また、
国際政治の面におきましては、この
大統領の死によって空白に似たものができたことは、否定できません。私
たちは、
自由陣営内部のあわただしい
動きに目を奪われて、
世界全体の
政治の
動向を見失ってはならないと思います。(
拍手)
ケネディ外交の中で、われわれが特に注目した一面、好ましい面と見たのは、
ソ連の
フルシチョフ首相との直接接触によりまして、
相互の
信頼を回復し、
東西の
歩み寄りを実現しようと
努力をいたし、
平和共存を一歩進めた点でありまして、それが少しずつではありましたが、
成果をあげたことでありました。この
努力を
米国の
大統領の交代によって中断させてはなりませんし、また、
世界の国々は、中断させない
圧力としての
協力が強く
要請されているところであります。
故
ケネディ大統領がその
外交を進めるにあたって、特に
東西歩み寄りに関しましては、
国内に
反対派のあったことは周知のとおりであり、彼がその
政治力と
指導力とによってそれを押えてきたのが
実情でありましょう。また、
米国の
国内政治においては、
大統領選挙の前には、
政府は思い切った
政策には消極的となり、また、
政策の重点が
外交より
国内問題に移るのが常でございます。したがって、
大統領が
ジョンソン氏にかわったことは、彼が
保守派の影響を受けやすい
立場にあるだけに、
東西の
歩み寄りという観点からは一まつの不安がなきにしもあらずでございます。
言うまでもなく、
歩み寄りである以上、
東西陣営の
双方にその
意思と力とがなければ不可能でございます。西側の
動きに応じて
歩み寄りの
努力を続ける
ソ連フルシチョフ首相の側にも、この
路線に必ずしも
賛成しない勢力のあることもまた事実でございます。それだけに
東西の
歩み寄りがどう進むかについて、私
たちは大きな関心を持たざるを得ないのであります。
ケネディ路線を続けると言った
ジョンソン大統領の約束が、はたして
東西歩み寄りの
努力を続けるものかどうか。
池田首相は、この微妙な段階にある
国際情勢をどう見るか、また、どういう展望を持っているかを明らかにしていただきたいと思います。(
拍手)
次に問題になるのは、この微妙な
国際情勢に処して
日本は一体何をなすべきかであります。この点につきまして、私は、主として
米国、
中国及び
アジア並びに
国連に対する
日本の
外交上の
態度ないし
方針について、
首相の
所信をただしたいと思います。
第一には、
米国との
関係についてであります。
本日の
所信表明において、
首相は、対
米関係は変わりはないと言いましたが、私の
質問は、この点については、
池田首相は
米国に対して堂々と
日本の
自主的立場を主張するだけの見識と
勇気とがあるかどうかということに要約していいと思うのであります。(
拍手)
首相はおそらく、
米国に対しても言うべきことは言ってきたし、今後も言うつもりだと答えるでありましょう。しかし、残念ながら、これまでの
実績は、
自由民主党政府の
外交は、特に
米国に関連しては、
自主性のない典型的なものでありました。(
拍手)今日の
世界において、それぞれの国が
外交を進めるにあたって
自主性を求めることは、その程度の差こそあれ、すでに常識となっているところであります。
世界の
大勢を口にする
首相が、この
大勢にだけは気がつかないということは非常に残念に思います。
米国は、
ジョンソン新
大統領が、故
ケネディ大統領の
政策を継続すると言明している以上、
日本に対しましては、その
国内政治の
要請からも、
大統領選挙を明年に控えている
関係からしても、
安保体制の
強化の線に沿った
一連の
政策を求めてくることは、おそらく間違いないところだろうと思われます。たとえば、
防衛につきましても、
米国はその
戦略の必要から、また、
ドル防衛の
政策から、対
日軍事援助を削減し、
駐留米軍を大幅に撤退させる方向を、すでに
マクナマラ米国国防長官は過旦言明いたしました。これと表裏して、
日本自身の
防衛費を増大することが望まれているのであります。米、英、ソの三国の間に、部分的な
核実験禁止条約が調印されまして、
世界の多数の国がこれに同調し、この
条約は不十分な点はあるが、
完全軍縮への一歩として、その積極的な意味は高く評価され、
世界が
完全軍縮への胎動を示し始めた現在、
首相は、
アメリカの
圧力を拒否して、自主的に
防衛費の増額を行なわないことを決定し、
完全軍縮への
世界のとうとい
努力に対して
協力すべきであろうと思います。
首相にその
意思があるかどうかをお尋ねしたいところであります。(
拍手)
また、やがて開かれるであろう
日米経済合同委員会において、いまや
国際収支の
赤字である
日本としまして、
アメリカの
ドル防衛のための
経済的協力要請に対してどう対応するつもりであるかも明らかにされたいと思います。この見地に立つならば、
沖縄、小笠原諸島について、
米国との間に何ら
交渉らしい
交渉をせず、
沖縄の民生安定をはかるために設置すると約束した
日米協議会、
日米琉球技術委員会さえ発足させていない怠慢は、
国民を裏切るものと言うべきであります。(
拍手)
米国の
原子力潜水艦の
日本寄港のごときは、
アメリカ自身でさえ、
寄港は絶対に必要なものではないと言っている現在、また、
安全性についてその疑惑がある以上、明確にこれを拒否する回答を出すべきだと私は考えます。
米国に対して
自主性を欠いている結果は、
経済にまた憂慮すべき結果をもたらしております。二カ月前の四十四
臨時国会における
所信表明で、
首相は、
国際収支は、
年度間を通じて
均衡を維持し得ると、
楽観的見通しを述べましたが、今日、
貿易外収支の
赤字が増加し、
輸入激増に伴う
貿易収支の悪化によりまして、
総合収支で
年度末に
一億ドル以上の
赤字が予想されております。また、
経常収支の
赤字をカバーしてきた
資本収支も不安定になってきておるのが
実情であります。
これに関連して、私は、特に
日本の
自主的貿易が阻害されているという点について、
政府の反省を促したいと思います。(
拍手)それは、対
共産圏貿易が、依然として
アメリカの
政治的思惑を気にしながら、おっかなびっくりで行なわれているということであります。イギリス、
フランス等、
西欧諸国がどんどんと
中国、
ソ連市場に進出しているときに、隣国の
日本がそのような屈辱的な
態度をとる必要はないと思います。ココムの
戦略物資輸出制限その他対
共産圏貿易の
政治的制限のワクは、き然として打破すべきであります。対
米依存度のきわめて高い現在の
貿易構造をそのままにしておいて、IMF八条国に移行し、激化する国際競争の中に
日本を投げ込むことは、たとえば吹きつのる風雨の中で雨戸をあけるにひとしいものであります。(
拍手)まず、現在のひずみ、対米依存、狭隘な
東西貿易を是正し、
経常収支の
赤字を借金でまかなうような不健全な
国際収支の形を変えねば、
日本経済の正常な
発展はあり得ないと思います。(
拍手)
米国に対して、対米
輸出、また対
中国貿易についてどれだけ
自主性を発揮する
決意があるかを、
首相はこの際明らかにしていただきたいと思います。(
拍手)
次に、私は、
中国に対する
政府の
外交上の
方針をお尋ねしたいと思います。
日本が
世界の平和と
繁栄に貢献する第一の地域は
アジアであると思います。
アジアには国際緊張がかなり現在見られています。ベルリン、アルジェリア、キューバなどの
情勢が落ちつきを見せているだけに、
アジアの緊張は解決をあたかも忘れられたとさえ言えるのであります。北鮮と南鮮、台湾海峡、南ベトナム、ラオス、マレーシアとインドシナなど、問題は複雑であり、一挙にすべてを解決するようにはいかないでありましょう。しかし、これらを成り行きにまかせておいたならば、特に
ケネディ外交の危険なほうの側面であった
中国に対する封じ込め
政策、すなわち、力の
政策を放任しておいたならば、どれかの緊張が火をふかないとはたれにも保証できません。
アメリカの
中国封じ込め
政策は各所で破綻を示し始め、
アメリカ自身、故
ケネディ大統領は、
中国の
態度いかんによっては、
アメリカの
中国政策を再検討する意味の
発言をしたこともありました。
アジアの緊張激化を防ぎ、
アジアを安定させるために、当面第一の
政策は、
日本が
アメリカの
中国封じ込め
政策に同調することではなく、
中国が国際社会から孤立化していかないようにするためにも、
中国との国交を打開することに全力を尽くすべきことにあると考えます。
日本は、自主的に
中国との
国交正常化に向かって進むべきであり、また、
国連においては、中華人民共和国の正当なる代表権の承認のために
努力すべきであります。
この点に関連して、フランスの最近における
動きは注目すべきであることを
首相に警告せざるを得ないのであります。
中国に対しては西欧並みを公言する
首相は、これを無視することは許されません。フランスは最近
中国との接触を活発にし、通商を具体的に増大しており、何らかの形で、半ば公的な
関係が設定されるのではないかと予想されています。この背景にはEECの
発展、マレーシア連邦の成立、
中国の対西欧
政策もあり、また、
米国内の新しい
情勢を考慮に入れた上での
政策であるに間違いはございません。フランスのこのような新しい
中国政策は、また
国連における
中国問題に微妙な影響を及ぼすことでありましょう。
アジアの
指導国をもって任ずる
日本が、西ヨーロッパの国に、貿易面において、また
政治面においておくれをとることは、悔いを千載に残すであろうことを私はおそれます。(
拍手)
中国の周恩来
首相が、かつて、両国の正常化の促進に役立たせるために、日中両国、まず両国人民が漸進的に積み重ね方式をとり、両国の
政治、
経済の
関係を
発展させることに同意する旨を言明したことは、
日本の対
中国政策の前進に手がかりを与えたものと言うべきであります。最近の
国際情勢の中で、
池田首相は、
中国との
関係の正常化を目途とする何らかの具体策を持っておるかどうかを示していただきたいのであります。(
拍手)
なお、フランスは、対
中国関係の打開に先立って、通商使節交換を急速に活発化したと同時に、フォール元
首相を非公式に
中国に派遣していますが、
日本としても同様の構想に立って、見本市の開催や
民間の往来のほかに、たとえば各党の
国会議員よりなる使節団を派遣し、以上の新しい
情勢の中における
相互の理解を深め、
国交正常化の地固めに資するような考えは
首相にありやなしやをお伺いしたいと思います。(
拍手)
次に、私は、
日本の国際活動の場である国際連合について青述べ、池田
内閣の反省を求めたいと思います。
国際連合が平和のための重要な機関であること、しかし、その力には限界があることは一般に認められております。しかし
国連は、キューバ事件などにおいて、平和のためにきわめて重要な場所を提供しておることは否定できない事実であります。平和を念願するわれわれは、
日本が
国連において平和のために特に積極的に自主的に行動し、それによって各国から尊敬されることを心から望んでいます。なかんずく、核兵器を禁止する目的のためにはそうであります。しかし、池田
内閣のこの分野における
外交行動が、次第に消極的になっているのは一体どういう理由によるものですか。
首相は、
国民の前にその理由を明らかにしてもらいたいと思います。ラテン
アメリカ非核武装の決議に際しては、
日本はこの決議を
アジアなどの他地域に対する先例としないとする側に同調しました。また、
政府は、口では核実験に反対すると常に述べております。しかしながら、核兵器の使用禁止の決議には棄権をしております。
日本人のみならず、
世界の平和を求める
人々を失望させた行動というべきであります。(
拍手)
世界の国々が
国連の決議を尊重して、その決議をもととして
国際政治を行なわんとする傾向にあるときに、
国連において
米国追随を事としている
日本の
外交の
態度は、
国連の正しい
発展に決して貢献するものではないと思いますが、池田総理の
所信をお伺いしたいと思います。(
拍手)
なお、この際関連して伺っておきたいことは、去る七日、東京地方裁判所は、広島、長崎に対する原爆投下は、無防備都市に対する無差別爆撃であり、不必要なる苦痛を与える武器の使用として、国際法に違反することを明らかにしました。このことは、唯一の原爆被爆国である
日本の正しい主張として、国際的にも大きな意義を有するものと私は考えますが、
池田首相のこれに対する見解を明らかにしていただきたいと同時に、現行の被爆者医療法を抜本的に改正して、原爆被爆者とその遺族に対する援護法を制定する用意があるかどうかを承っておきたいと思います。(
拍手)
最後に、私は、
国際政治における
日本の役割りと責任について、
首相の
所信をただしたいと思います。
日本の
外交は、自分の果たすべき歴史的役割りに対する自覚と責任を欠き、したがって、ビジョンに乏しく夢がないのではないかと思われてなりません。
池田首相は、しばしば、
日本は
アメリカ、ヨーロッパと並んで自由陣営をささえる三本の柱であるとか、日米パートナーシップの原則を強調したり、また、高度の
経済成長をみずから誇っていられますが、
国際政治における
世界の
日本に対する評価は、平和や
民族の独立という人類や
民族の運命に関する基本問題に関しては、
池田首相の自負するところとは異なって、
日本の
経済的実力とはおよそつり合いのとれない、きわめて低いものであることを、私は常々遺憾に考えておるものであります。(
拍手)
その原因はどこにあるでしょうか。私
たちは、お互いに反省してみる必要があると思います。私は、その原因の主たるものは、
日本の
国際政治における
外交活動が、ビジョンと責任感を欠き、自分の体臭を持たず、他人の体臭を感じさす力の
外交にたよっているところにあると思わずにはいられません。(
拍手)先般、
池田首相が故
ケネディ大統領の葬儀参列に際してとった
態度のごときは、
自主性のない
態度の典型的なものであり、
政治家としての国際感覚を疑わしむるものであり、日米パートナーシップに対してすら
国民の疑惑を招いたものでありました。(
拍手)また、東南
アジアを歴訪した際、マレーシア問題で調停の労をとろうとして、
関係諸国にていよく拒絶された事実や、訪欧の際、ドゴール氏と会談した
あとで、ドゴール
大統領が、その側近に、
政治家ではなくて、どこかの会社のセールスマンに会っているような気持ちだったと語ったとうわさされていることは、背伸びをして大国思想に陶酔する前に、反省してみなければならないことではないでしょうか。(
拍手)高度の
経済成長率ではなるほど
世界に誇り得ても、一人当たりの
国民所得は
世界では二十三番目とあっては、決して大国とは言えないでしょう。(
拍手)
私は、
政府に、力の
外交を今日直ちに改めて、積極中立
外交をとれというようなことを言うつもりはございません。言ってみても
政府はとるはずはないし、できないからであります。(
拍手)しかし、
日本の将来に対する何の識見も持たずに行なっている韓国との
交渉をこの際打ち切って、
アジア全体とどう取り組むかという観点、広い視野から朝鮮に対する
対策として検討することはできますし、
外交上ビジョンと責任感を明らかに持って、人の顔色を見ながら右往左往するのではない自分の
外交を持つことは、保守党といえども私はできると思います。(
拍手)
ケネディ大統領の死後、
世界の
政治はようやく活発な
動きを見せてきました。その
動きのいずれもが
アジアと
中国に志向している、この新しい
情勢の中にあって、われわれも、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてみる国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という憲法前文にある
日本民族の念願はぜひ達成したいと思います。(
拍手)
私は、この
外交上のビジョンと責任感について、
首相の明快な、そうして率直な答弁を求めまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕