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1963-10-22 第44回国会 参議院 本会議 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年十月二十二日(火曜日)    午前十時十九分開議   ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第四号   昭和三十八年十月二十二日    午前十時開議  第一 国務大臣演説に関する件   (第二日)   ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  一、日程第一 国務大臣演説に関   する件(第二日)   ━━━━━━━━━━━━━
  2. 重宗雄三

    ○議長(重宗雄三君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。    ————・————
  3. 重宗雄三

    ○議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。  日程第一、国務大臣演説に関する件(第二日)、  去る十八日の国務大臣演説に対し、これより順次質疑を許します。木村禧八郎君。   〔木村禧八郎君登壇、拍手
  4. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 私は、日本社会党を代表いたしまして、池田首相所信表明に対しまして、主として経済政策を中心といたしまして若干の質疑をこれから行ないたいと思います。  経済政策質問に入る前に、池田首相に一つただしておきたいことがございます。それは、昨日衆議院におきまして、わが党の河上委員長が、今国会召集の趣旨、目的から見まして、また、池田首相所信表明演説におきまして、「今国会は短期間であるが、民主主義の基盤に立ってすみやかに予算法律案審議を尽くし、正々堂々と事を決し、国民の信頼と期待にこたえられることを切望いたします」と述べているところからいたしましても、当然、首相は、予算、法案の審議を尽くしてから解散すべきであると思うがどうかという質問に対しまして、首相は、自分は予算を通してくれと言った覚えはないと答弁されまして、予算、法案の審議を尽くさず解散するような態度を示されたことでございます。社会党その他各派が協力するというのに、もし国民生活重大関係のある予算法律案審議を尽くさずに解散をすることになりますれば、池田首相の両院に対する食言であります。うそをついたことになります。首相は、はっきりと審議を尽くすということを言われておるのであります。法律案及び予算案審議を尽くして、「正々堂々と事を決して国民の信頼と期待にこたえられることを切望する」と、切望しておられるのです。それであるのに、もし審議を尽くさずして解散されますならば、今後国会運営上重大な問題でございます。国会正常化首相みずから破ることになるばかりでなく、国民に対する責任を果たさないことになる点からいいましても、これは重大な問題でございます。はたして予算案及び法律案審議を尽くしてから解散するのであるかどうか、この点をまずはっきりと伺っておきたいのであります。  さて、池田首相は、わが党並びに国民多数識者の正しい批判、政策転換要求を無視いたしまして、経済のことは池田にまかせろという、きわめて高い姿勢で、大資本中心所得倍増高度経済成長政策を強行してまいりましたが、最近の世論の動向から見ましても、もうこれ以上経済池田首相にまかせておくことは断じて許せない情勢になっております。すなわち、毎日新聞で九月二十三、四の両日行ないました全国世論調査によりましても、「池田内閣を支持しますか」という質問に対しまして「支持する」と答えたものが三三%、「支持しない」と答えたものが三六%でありました。支持しないほうが支持するほうを三%も上回っておるのであります。支持しない理由の五三%は、「経済政策が悪いから」というのにあります。このことは、高度成長の反面、物価高、その他大資本本位政策によって国民生活が圧迫されていることを雄弁に物語るものであります。(拍手)このように、世論、人心はすでに池田内閣を去っているのであります。  そこで、私は、まず第一に、三年間にわたり、池田内閣が一枚看板として強行してまいりました対米借金政策日本銀行信用膨張インフレ政策租税特別措置による大企業大幅減免税、さらに、独占価格の擁護を「てこ」とする独占資本偏向所得倍増高度経済成長政策によりましてもたらされた国民経済の広範にわたるはかり知れぬ不均衡と混乱の拡大、及び国民生活の圧迫と不安の増大とに対する重大責任を追及いたしますとともに、この失政に対していかなる償いをいたし、いかに対処するのであるか、池田首相に問いただしたいのであります。  去る十八日の首相所信表明演説におきまして、人つくりを強調する池田首相は、当然、民主政治責任政治の道義といたしまして、宮澤企画庁長官の指摘によってすでに明らかになっております大企業設備高度成長のみに偏向し、農業中小企業国民生活安定成長犠牲に供し、消費者物価の異常な騰貴所得国民生活水準格差拡大国民経済アンバランス激化等をもたらしたことに対する、謙虚にしてまじめな自己反省を行ない、責任を痛感するという、意思の表明を行なうであろうと、おそらく国民は期待したと思うのであります。しかるに、いかに選挙目当て演説とはいえ、一片の反省も責任感も示さず、むしろ逆に、所得倍増政策の矛盾、誤謬を強弁さえしているのでありまして、首相の良識を疑わしめるものがございます。これでは、政治的道義政治責任は、地をはらってむなしと言わざるを得ません。  第二に、池田内閣所得倍増高度経済成長政策目的条件と、その実績について、池田首相質問いたします。これまで私は、長い間、池田首相経済問題について論議を戦わしてまいりました。その間、池田首相は、貧乏人は麦を食えという、きわめて率直な御答弁をなさったこともありましたが、自由競争自由企業原則のもとで所得倍増政策を行なえば、必ず矛盾が起こる、あるいは物価騰貴が起こる、そういう問題、あるいは税制とか所得格差の問題、設備過剰の問題、ドル防衛協力影響、あるいは国際収支問題等について質問いたしますと、長い目で見てくれと言って逃げを打ってまいったのであります。すでに倍増政策を実施してから三年間経過いたしました。もう長い時日がたちまして、したがって、事実に基づいてこれまでの論争に黒白をつけ、その総決算をするときがまいったと思います。  そこで、この際、倍増政策について、あらためて次の四点を総理質問いたしたいのであります。  第一に、池田内閣国民公約いたしました所得倍増計画目的条件についてお聞きしたいのであります。ここに持ってまいりましたこの書類は、その国民所得倍増計画報告書でございます。これによりますと、その目的のところに、「特に農業と非農業間、大企業中小企業間、地域相互間並びに所得階層間に存在する生活上及び所得上の格差の是正につとめ、もって国民経済国民生活均衡ある発展を期さなければならない」と書いてあるのであります。さらにまた、この倍増計画書には、物価との関連につきまして、「物価の安定を維持することはこの計画達成のために不可欠の要件であることは言うまでもないので、絶えずその動きに留意し、適時適切なる物価対策をとる必要がある。たとえば、独占的な行為によって不当に価格をつり上げられるような場合には、消費者の利益を守る立場から行政手段による対策必要性も考えられる。なお、短期の景気変動に伴う物価変化については、主として適切な財政金融対策によって、なるべく変動の期間と振幅を小さくする必要があろう」と書いてあるのであります。池田内閣が実施いたします所得倍増計画目的条件はこのとおりなのでございますか。これは国民公約したものなのです。この公約に変わりがないのかどうか、これは再確認しておきたいのであります。  第二に、この公約うそでないといたしまするならば、農業と非農業間、地域相互間、所得階層間生活上及び所得上の格差拡大し、国民経済国民生活の不均衡発展させ、消費者物価の三年間二〇%以上にのぼる著しい騰貴、これを放任して、何ら適切な措置を講じなかったことは、公約違反ではございませんか。うそを言ったことにはなりませんでしょうか。総理大臣企画庁長官質問いたしたいのであります。  第三に、池田首相は本院での所信表明におきまして、「政治の目標は、すべての面で国民生活が向上する社会の実現」であると言われ、さらに国民総生産の増大、特に国民一人当たりの実質所得実質消費の向上につきましては、語気を強めて自賛いたしましたが、これはあくまでも平均数字でございまして、すべての面で国民生活が向上し、国民すべてのしあわせが増進したことを示すものではございません。たとえば昭和三十七年度の、個人にわたって恐縮でございますが、松下幸之助氏の所得は、国税庁調べで四億三千九百万円でございます。三十五年に比べて一億三千三百五十二万円増加しております。四三%の増加でございます。この大所得者増加に対して、昨日河上委員長質問に対して、池田総理は、大所得者所得は横ばいで、ふえてないと言っておられる。一億三千三百五十二万円、四三%も昭和三十五年以後昭和三十七年までふえているのでありますよ。その間に全産業賃金指数は九・六%しか上がっておりません。ものすごい格差拡大ではございませんか。その証拠には、また毎日新聞の前に述べました世論調査によっても、皮肉なことに、池田内閣ができましてから生活が苦しくなったという国民が激増しまして、五八%を占めておる。五八%、半分以上でございますよ。この事実を総理は何とごらんになりますか。欧米先進国よりはるかに高度の成長率を示しながら、欧米諸国よりも国民生活水準が著しく低く、苦しくなった人が激増していることは、国民生活犠牲にして、大資本高度成長をはかったことを意味するものではございませんか。(拍手)山高きをもってたっとしとせず、大企業設備成長率の大きいことのみがよいのではございません。国民のしあわせの成長こそが大切なのであります。  第四に、池田首相演説によりますれば、「過去三年間に見られる高度成長により、十年を予定していた所得倍増は、一両年早く達成が可能となって、計画遂行上かなりゆとりを生じたので、このゆとりを活用して、立ちおくれている農業中小企業近代化するための強力な措置を講じ、産業間に調和のとれた健全な経済発展をはかることといたしました」と述べておられます。こうした言い方が、宮澤企画庁長官の「所得倍増計画は大企業中心の第一ラウンドから、農業中小企業近代化を重点的に進める第二ラウンドに入るべし」という進言に基づいて行なわれたものと思われますが、これは第一ラウンドの失敗を隠し、国民を欺くものでございます。なぜならば、第一ラウンドが成功し過ぎてゆとりができ、そのゆとりを活用するという言い方でございますけれども、実際は、第一ラウンドが行き過ぎて、成功ではなく失敗して、不経済な施設過剰をもたらし、農業中小企業を立ちおくらせ、物価を著騰せしめ、今になって急にそのあと始末をしなければならなくなったという、政策の失敗と不手際を暴露したものにほかならないからであります。首相は、ことばの上で調和のとれた健全な経済発展をはかると言われますが、その大資本に偏向した誤った超高度成長政策によりもたらされました広範深大な経済アンバランスによりまして、もし政策が適切であったならばもっと早く訪れるべき調和のとれた健全な経済発展の時期が、取り返しのつかないほど著しく立ちおくらされてしまったのでありまして、その日本経済にとってのマイナス、青少年不良化、犯罪の激増、交通事故増加などの社会上の損失、これら日本国民にとっての損害は甚大なものがございます。その重大責任をどう考えられるか、どう責任をおとりになるつもりか、池田首相に伺いたいのであります。  次に、物価問題について五点質問をいたします。  第一点は、池田首相物価に対する基本的な考え方態度についてでございます。池田首相は、これまで、卸売り物価さえ安定しておれば消費者物価が上がっても日本経済発展には心配ないということをたびたび言ってこられました。きのうも言いました。この考え方は間違ってはいないでしょうか。この点につきまして、山際日銀総裁が九月十九日の新聞記者会見で、「消費者物価が上がっても卸売り物価が安定していればよいといろ一部の考えは同意できない。消費者物価卸売り物価は切り離して考えられない問題であって、消費者物価上昇しても、一方で卸売り物価が傾向的に下がっているなら、物価全体のつり合いがとれるが、しかし、最近は消費者物価が落ちついていて下がる気配はなく、正常な状態とは言えない。この際、消費者物価卸売り物価を総合した物価対策をあらためて検討すべき時期に来ていると思う」と、池田首相考え方と全く正反対で、総理卸売り物価さえ安定していれば消費者物価は上がってもいいという考え方を否定している。間違いだと言っておられる。これは当然のことなんです。物価の問題、物価考え方としては当然であります。したがって、総理は今までのこういう考え方を改められる必要があると思いますが、どうですか。  さらに、池田首相は、消費者物価が上がっても、それ以上所得がふえているから家計を圧迫していないと、こう言っておられるわけです。これは数字の魔術です。たとえば「昭和三十六年において勤労所得は一割上がった。消費者物価は六・二%しか上がっていない。だから家計を圧迫していない」と言っております。しかし、これは数字の魔術です。みんなの所得が一割上がっているのではないのであります。総理府の統計局で出しました調査によりましても、ことしの一月から六月にかけての平均勤労者所得の伸びは一〇%ちょっと超えておりますが、一番最低の一万九千円くらいの人は一割以下、九%ぐらい、七、八万円の人は一二、三%上がっておるのです。さらにまた、物価につきましてもその内容が問題です。六・二%平均といいましても、低所得層に一番大きく影響する食料品、特に生鮮食料品野菜類、これは六%どころの値上がりじゃないのです。総理もよく御存じであります。一割も二割も三割も、倍にも上がっている。エンゲル係数の高い、こういう低所得層には、その影響は非常に大きいのであります。こういう点を全然無視して、平均総理は述べておりますが、これは数字ごまかしです。したがって、内閣広報室及び新聞社世論調査によりましても、物価値上がりによって生活が苦しくなっている国民が激増しているのです。池田さんが幾ら、物価が上がっても生活は苦しくなっていないと、どんなに強弁しても、国民はぴんと来ない。事実認識が間違っているのです。この点を改める必要があると思います。  また、「物価騰貴は、低所得層所得引き上げ所得格差を縮め、所得の再配分効果があるからよいことだ」と申しております。この点について十月二十一日の経済企画庁物価懇談会では、「消費者物価上昇は結局卸売り物価に響き、わが国国際収支に悪い影響を及ぼす上、減税によって救われない低所得層生活を大きく圧迫し、社会的な問題にもなるので、悪であるとする空気が強かった」と、新聞は報じているのであります。また首相は、所得格差が縮まった証拠といたしまして、中学卒初任給が、三、四年で、四千五百円から一万円になったといっている。こういう倍になったということは子供だましであります。さっき申しましたように、大所得者所得は、松下幸之助氏の所得は四三%、一億三千万円もふえているわけですよ。まるで子供だましです。なるほど増加率はふえております。しかし、増加額はどうでありますか。十万円と五千円の差は九万五千円であります。五千円の人が倍になったら一万円です。十万円の人は一割上がったら十一万円。その差はどうですか、十万円になります。逆に格差拡大しているじゃないですか。このように物価騰貴によってむしろ格差が著しく拡大しているのでございます。(「もう少しこまかく言わないとわからないよ」と呼ぶ者あり)それですから、あなた方わからないと言われますから、全国町村会臨時総会におきまして、十月六日にこういう決議をしている。皆さんに関係のある町村会総会です。「経済高度成長の過程において、国民所得格差はかえって増大を見、都市町村の間に不均衡拡大し来たっていることは、実に遺憾にたえない。町村の財源はいよいよ枯渇し、増大する住民の行政需要に応ずることを得ない」という決議を行なっているのであります。全国町村会臨時総会決議でございます。  なお、首相高度成長に伴って物価が上がるのは当然であるとも言われております。これも間違いではございませんか。前に引用しました十月二十一日の企画庁物価懇談会でも、「現状でも中小企業農業生産性引き上げながら物価値上がりを押えることはできるはずだ」との意見が出ていると伝えられております。  要するに、これまで池田首相は一貫して消費者物価騰貴を是認しておられる。毎年六%以上の著しい騰貴を三年間も放任したというより、むしろこれの騰貴を促進せしめてきた。したがって、首相物価に対する基本認識態度が根本的に改められない限り、幾ら選挙目当ての口先や作文で物価安定策を説きましても、実施面で消極的となり、これまでと同様に物価は上がらざるを得ないのであります。そこで池田首相は、この際、物価に対するこれまでの明らかに間違いである基本的な考え方態度を、はっきり改める必要があると思いますが、その意思があるかどうか、お伺いいたします。  第二点、昭和三十六年以来の消費者物価の著しい上昇をもたらした基本的原因について、総理にお伺いいたしたい。首相は、今度の所信表明演説におきまして、「最近における消費者物価上昇は、高度成長に伴う経済構造変化によるものである」と、消費者物価著騰の原因経済構造変化に帰せしめておりますけれども、これは物価上昇の現象を説明したにすぎないのであります。物価騰貴基本的原因の説明ではありません。池田内閣責任をのがれようとするごまかしの説明でございます。なぜならば、わが国高度成長は大体昭和三十年ごろから始まってきているのであります。それから三十五年ごろまでは、高度成長のもとでも、消費者物価はほとんど上がらなかったのです。むしろ、三十年、三十三年は下がっております。このことは、高度成長必ずしも物価騰貴を伴うものではないことを物語っております。消費者物価は、池田内閣所得倍増政策を打ち出しました昭和三十六年から、断層的に騰貴を示しているのであります。したがって、この原因は、高度成長そのものではなく、高度成長政策のあり方、つまり、池田内閣対外借金政策と、日本銀行信用インフレを通じての意識的な、積極的な成長金融、及び、独占価格管理価格容認という方法による高度経済成長政策に基づくものでありまして、その責任は全く池田内閣にあると言わざるを得ないのであります。(拍手)ケインズは、インフレーションは理論ではなく政策であるといっております。そのとおりであると思う。物価変動自然現象ではございません。社会現象であり、政策のいかんによって調整し得るものでございます。高度成長は、やり方によって、必ずしも物価騰貴を不可避的に伴うものではございません。池田内閣が、インフレ政策独占価格政策を通じ国民生活を低下せしめて、大資本に奉仕するという方法によって、超高度成長を達成せしめるという政策を意識的にとったことが、平時としては異常な物価の著騰をもたらしたのではございませんか。さらに、シェアの拡大競争によって、著しい負債過剰となりました独占資本債務負担を、インフレを通じて軽減救済しようという意図からも、意識的にインフレ政策がとられたと思うのであります。このことこそが物価騰貴根本的原因であります。こういう点につきまして、池田首相渡辺公正取引委員長見解を伺いたいのであります。  それから第三点、物価騰貴影響について、総理大蔵大臣企画庁長官公取委員長見解をただしたいのであります。三年間に二割以上消費者物価騰貴をいたしましたということは、三年間に二割以上のお金の値打ちが下がった、通貨が減価したということを物語っております。昭和三十五年末の千円札が八百円にしか通用しないということを意味しております。千円札の二割二百円分は、にせ札と同様になったということを意味しているのであります。といたしますと、その影響は、単に実質所得がそれだけ減価するということだけではなく、実に広範であり、甚大であります。たとえば公社債、恩給、各種年金退職共済積立金生命保険、その他長期の預貯金、債権、みな減価しているのであります。長期的貯蓄を十兆円と推定いたしますれば、実に二兆円の財産が、国民に何らの責任がないのに、国民のふところから収奪され、盗まれていることを意味するのであります。これはアービング・フィッシャーが「貨幣錯覚論」という本の中で書いておりますとおり、銀行ギャングと比較にならぬほど大規模な道徳的犯罪であり、不正義でございます。(拍手)こうした点に対する認識が、政府日銀当局公取委員会に欠如しているのではございませんか。そうでなければ、もっと物価抑制対策に真剣に取り組んでいたはずであります。閣議でラーメン問答とかサンマ問答が起こるはずがないのであります。  第四点。宮沢企画庁長官は、企画庁物価問題懇談会において、今後の物価対策の一環として、欧米で行なっている所得政策を検討されたいということを要望したとのことであります。あるいは他の委員会所得政策を主張しております。これはOECDの経済政策委員会報告にあらわれておりますいわゆるガイドライン政策、すなわち生産性向上以内に賃金を押えるという、そういう政策を意味すると思いますが、どうでございますか。そうだといたしますと、政府は今後の物価対策として賃金を規制するということを示唆しているのではございませんか。このガイドライン政策の根拠は、コストインフレ論賃金インフレ論に基づいておるのであります。欧米と全く事情の異なるわが国にこれを適用することは間違いであると思いませんですか、この点、伺っておきたい。  さらに、ガイドライン及びわが国コストインフレ賃金インフレ論に対しましては、労働大臣はどうお考えか、労働大臣見解をこの際伺っておきたいのであります。  第五点。物価問題に対する以上の見解に基づきまして、日本社会党最小限度次の六点の物価対策政府に強く要求いたしますが、首相企画庁長官大蔵大臣公取委員長見解を伺いたいのであります。  その第一は、今日まで国民生活を圧迫してまいりました大幅な物価騰貴に対しまして、その犠牲を償うために、所得税地方税間接税などの減免税最低賃金制の確立、生活保護基準引き上げ国民年金厚生年金等社会保険退職金生命保険などの価値が実質的に低下することを防ぐため、すみやかに物価スライド制を採用すること。  第二、独占的商品価格の引き下げのために、独禁法の完全な運用と、公正取引委員会の機能の強化、独占的大企業による管理価格に対し、民主的な監視機関を設けること。  第三、公共料金国民大衆本位に改変するとともに、公共料金審議会の設置、公共企業体経営委員会刷新強化をはかるとともに、料金引き上げを押えるために、必要ある場合は、公共料金に対しまして、税制財政上の考慮を払うこと。  第四、農産物、中小零細企業製品、対個人サービス業価格などの安定のため、かかる分野の経営基盤の安定と発展を前提といたしまして、供給力増大を主眼とする財政税制金融措置をとり、流通機構の改善につきましては、公営諸設備の拡充をはかること。  第五、財政金融面で大資本の圧力に屈したインフレ的な成長政策を改めまして、これまで要求いたしました物価安定策の有効な裏づけとしての財政税制金融政策の確立と、その実行を期すること。  第六、政府はすみやかに安定すべき物価水準を明らかにすべきであること。池田総理所信表明で、一、二年のうちに物価を安定させるといいますけれども、それまではどの程度の水準に物価を押えるのでございますか。この物価水準を明らかにしないでは物価対策のめどが立たないからであります。  以上の要求の中には、すでに政府がこれまで作文として発表し、また今度の選挙を控えて公約したものも含まれております。しかし、今日の物価対策は、その方向なり目標はすでに明白になっているのでございますから、論議の段階ではなく、それを実行するかどうかということが問題なのであります。したがって、私は、以上要求しました対策政府がすみやかに実行する意思があるのかどうか、意思があるならばどういう段取りで実施するかを、具体的に答えていただきたいのであります。  次に、税金問題について質問いたします。  池田首相は、平年度、中央、地方を通じ二千億近い減税を公約いたしました。大幅減税は賛成であり、けっこうであります。しかし、それには条件があるわけでございまして、この条件が満たされなくては、名目は減税でありましても、実質は増税になってしまうのであります。したがって、その条件について伺いたい。  第一の条件は、物価が上がらないということなのです。物価が上がれば減税しても実質的には増税になることは、三十八年度の減税の例によって明白であります。三十八年度の所得税の減税につきましては、税制調査会が、物価騰貴を五・三%と見て、四控除につき一万円ずつ四万円引き上げて三百九十二億円減税せよと答申しました。しかし、それでも物価騰貴による実質増税は全部これを調整できないという答申なのであります。その後、物価は五・三%以上上がっているのでございますから、税制調査会が当時予想したよりも、実質増税は、はるかに大きいわけであります。にもかかわらず、政府は、基礎控除について一万円、その他三控除については五千円ずつしか上げない。それで、税制調査会の三百九十二億の減税に対して、二百七十五億しか減税しないのであります。その差額は実質増税であります。しかも、物価税制調査会の予想したよりもはるかに上がっているのでございますから、実質増税は一そう大きくなってしまうはずでございます。このため、大蔵省が税制調査会に提出しました資料によりますれば、昭和三十八年度に減税をしたにもかかわらず、国民栄養研究所の栄養調査を基礎にして行なった五人世帯の最低生活費は約四十六万円です。これに対して、減税した結果としての最低課税限四十二万円じゃありませんか。最低生活費に税金がかかっているのです。これは物価騰貴に対する税金調整が不足しているからそういうことになるのであります。その結果、所得税の納税者は当初見込みの千七百六十二万人が千八百七十万人に三十八年度はふえる。約百万人も激増するということになる。これまでの池田内閣の減税は、インフレによって名目所得をふやし、それによって自然増収をふやし、その一部を減税に向けるという、これは巧みな増税、大衆収奪政策なのであります。(拍手物価が上がれば、二千億減税いたしましても、実質的には増税になり得るのでございます。それであるからこそ、毎年自然増収がふえるのであります。それを大企業、大資本企業減税や利子、配当の減税や、大企業高度成長のための歳出に充てているのでございまして、まさに大資本本位税制財政政策と言わざるを得ないのであります。  こうして見ますと、来年の物価をどう見るかを明らかにしないで減税額だけを発表いたしましても意味がないのであります。また、だまされるわけであります。したがって、池田首相は二千億円の減税を公約した以上、その場合の物価がどうなるかということを明らかにする責任があると思いますが、いかがでございましょうか。  第二の条件は、徴税強化が行なわれないということであります。大幅減税を公約しまして、あとで財源が足らなくなったというときに徴税強化をいたしましたならば、全くこれは意味をなさない。この点についてはどうでしょう。  第三の条件は、固定資産税が上がらないということであります。来年一月一日実施しようという固定資産の評価がえは目下どうなっておりますか。自治大臣に伺いたい。地方の住民は、固定資産の評価がえによって、大企業の償却資産に対する固定資産税は減税になるけれども、農民とか中小業者、一般住民の土地家屋の固定資産税は著しく増税をされると心配をしているのであります。国民は重大な関心を持っております。したがって、この固定資産評価がえの準備の進行状況、修正率、固定資産税率はどうなるか等について、早川自治大臣にお伺いいたしたいのであります。  以上、三年間にわたる池田内閣経済政策に対する総決算的質問といたしましては、時間が足りませんので、はなはだ不十分で意を尽くしませんでしたが、衆議院の解散を控えまして、池田内閣経済政策によりまして甚大な被害を受けました労働者、農民、中小業者、インテリ、サラリーマン等は……
  5. 重宗雄三

    ○議長(重宗雄三君) 時間が参りました。簡単に願います。
  6. 木村禧八郎

    木村禧八郎君(続) 総理大臣の、あるいは関係閣僚の答弁に対しまして、重大な関心を持っておりますので、これまでの私の質問に対しまして、責任と誠意のある御答弁を要求いたしまして、一応私の質問を終わる次第でございます。(拍手)   〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手
  7. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) お答えをいたします。  御質問の第一点の国会解散問題でございますが、昨日衆議院でお答え申し上げたとおり、国会審議の状況によりまして、内閣の責任において、適当な時期に解散いたしたいと思います。  次に、私の内閣に対する国民の支持の問題でございます。いろいろ統計はございましょうが、いずれはわかることでございましょう。それが答えになると思います。  また経済政策で、長い目で見てくれと言ったが、三年間は相当長いから、これで結論を出そうとおっしゃるが、木村さん御存じのとおりに、私は十数年前、十四年前から、財政経済の衝に、国会議員として、あるいは内閣の一員としてやっております。長い目で見て下さい。昭和二十四年以来の日本の財政経済物価政策は誤りであったかどうか、あなたと十数年議論してまいりましたが、結果はどうなっておりますか。私がこの十年間の倍増計画で申し上げておりますごとく、七%程度の上昇で十年間に倍になるのであります。しかし、当初の三年間は九%程度でいこうと国会でも言っております。その九%というのが、昭和三十五、三十六と、一四、五%上がったことは、これは自由主義経済の結果でございます。これを、九%の見込みよりも違ったから、うそつきだと言うことは、自由主義経済のもとにおいての実情をお考えにならぬからであります。かの直接統制をやっておりまするソ連、中共におきまして、ああいう経済体制、共産主義の経済体制におきまして、予定どおりいった例がございますか。それを、毛沢東、フルシチョフは、うそつきだと、あなたおっしゃるでしょうか。そういうものではございません、経済というものは。(拍手)どうぞ長い目でごらん下さい。そうして、倍増計画は十年間の計画でございます。一応の見取り図でございます。それは早くいく場合もありましょう。あるいは初めのスタートが非常に急ピッチで、途中はゆるいピッチになり、おしまいが適当なピッチになる、いろいろな行き方がありましょうが、十年の倍増計画につきましては、私が先ほど申し上げましたごとく非常な急ピッチで進んだために、ある程度、四十五年までを待たずに、今までの状況を考えると、いきそうだというのであります。  したがって、第二ランウドということをおっしゃいますが、これはものの言い方でございましよう。ものの言い方でございましょうが、私が、十年たった後には農民は半分以下になりますぞと言ったときには、あなた方どうおっしゃいました。農民の首切りだと。今はそれはないでしょう。私はそうなることは当然——だから、中小企業にいたしましても、農業基本法と同時に、所得倍増計画におきましては、これを早く制定して、そうして実行に移さなければならぬということは、初めからの私の計画でございます。私が先ほど申し上げましたごとく、大企業のほうはどんどん進んでおりましたが、中小企業農業には、その生産性向上のために、近代化、革新をやらなければいかぬ。これは前からの考え方であります。(拍手)これはずっとあなた御存じのとおりだと思う。ただそこで、ほっておきますと、また主として大企業のほうにいくから、私は、政府としては特に農業中小企業のほうにいきたいと言っておるのであります。いまお話に、大所得者は横ばいだと、そんなことは衆議院では言っておりません。どうぞもう一ぺん見てもらいたいと思います。  また、物価に対する基本問題。はっきり申し上げます。物価卸売り物価消費者物価がございます。しかも、消費者物価というものは十年くらい前まではほとんど問題にしていなかった。五、六年前から消費者物価というものが問題になった。だから、卸売り物価と小売り物価というものがあったのであります。そこで、卸売り物価は世界の各国は相当上がっておりまするが、幸いに日本の卸売り物価は上がっておりません。それは、最近一%程度上がっておりまするが、取りようによっては、昭和二十七年を基準にいたしますと、企画庁調査では、昭和二十七年を一〇〇にいたしまして、九三、四といっておるじゃありませんか。日本銀行は、前のデータで、前の調査資料をもとにして、古い時代、十四、五年前の分を基準にしても、一〇一、二%で横ばい。企画庁調査となぜ違うかといったら、日本銀行調査には自動車は輸入品だけです。ニッサンとかトヨタというようなものはありません。そうして、スフとか綿布のようなものでございます。ナイロンとかテトロンのようなものはなかった。そういうものを入れますと、十四・五年前に比べまして、相当下がっております、卸売り物価は。しこうして、小売り物価の上がり方は、今の消費者物価のように上がっておりません。それは、小売り物価消費者物価がなぜ上がるかといったならば、消費者物価には、雑費、すなわち、教育費とか、いろんなものが入っております。サービス料が入っております。したがって、昔は小売り物価だけを言ったのでございますが、消費者物価ではサービスの部門が非常に重大になってきております、文化生活には。それがどんどん上がってくるから消費者物価が上がり、卸売り物価よりも上がってくる状況になってくるのであります。そこで、問題は、卸売り物価は上がりませんから、国際収支から申しますると、日本の一般の基本的経済につきましては、外国の信用を確保しております。それは、卸売り物価が上がらずに、そうして為替相場が安定しておりまするから、国際的には非常に有利な地位になっております。日本の輸出がほかの国の伸び方よりも倍以上伸びるということは、卸売り物価が安定しているからでございます。しこうして、近代化国家になりますると、消費者物価というものにサービス料がどんどん重い部分を占めてきます。すなわち、人間の労働力の上昇でございます。労働力の価値の上昇でございます。しかも、また、組織労働者の方々は、スケジュール闘争によって、どんどん月給を上げておられるでしょう。スケジュール闘争によって、どんどん月給を上げておられるでしょう。農民や中小企業に携わっておる労務者の方々、また、自由職業の方は、ストもできません。中には、ふろ屋もストをやるという計画もございましたが……。こういう人の所得を、われわれ池田内閣としては考えなきゃならぬ。しかも、片一方において、どんどん所得が上がってきまして、需要構造が変化してきております。その需要構造の変化に対して、農産物、ことに野菜の供給が足りません。そのときに、増産のために、野菜がある程度上がってくることは、経済の勢いじゃありますまいか。また、中小企業所得が上がり、そこに従事しておられる労務者の賃金が上がることは、これも自然の勢いじゃございますまいか。植木屋さん、左官屋さん、石屋さん、床屋さん等々も、やはり考えなきゃなりますまい。理髪賃が非常に上がったということは好ましいことではございませんが、しかし、理髪業者の生活の安全のためにはある程度認めていくということは、自由主義経済の原則ではございますまいか。そこで問題は——私はこれを言っておるのであります。しかし、経済学者に限らず、だれでも、ことに政治家は激変は好みません。卸売り物価のごとく安定することを極力望みまするが、今のような事情から、日本の国が近代化国家にいく場合において、だんだんおくれた方々の生活をよくするために、ある程度の値上がりはやむを得ないという考え方は、私は捨てておりません。ただ問題は、上がり方が急激であると国民生活影響を及ぼしますので、昨年、一昨年来、これに対しまして十分の努力を尽くしておりまするが、なかなか思うようにいかないことは事実でございます。そこで私は、こういう問題に対しましての、いわゆる上昇原因がいずれにありや、それは、いわゆる農業近代化、生産拡大、生産増強、これが必要である。また中小企業近代化、革新が必要であり、サービス料につきましても、流通機構の改善等、あらゆる措置を画期的な方法でとっていこうというのが、私の物価対策でございまして、物価が上がることはあたりまえだとは決して考えてはいない、当然な物価の上がり方は、近代国家に向かう段階として、極力押えつつ安定をはかるということが、私の経済政策であるのであります。(拍手)  なお、物価騰貴影響等につきましては、所管大臣から申し上げますが、貨幣価値の問題につきまして変な議論をしておられましたが、まず貨幣価値というもので一番考えなければならぬものは為替相場でございまして、そうして、また、適正な、適当な物価の上がりによる分は、これはネグレクトする。ただインフレになるということは絶対に避けなければならぬ。そこで指標は、為替相場の変動に一番目をつけることが必要であるのであります。  なお、今後の物価対策につきまして六点を申し述べられました。このうちお話のとおりに、政府として大体やっておるものも多うございます。第一の賃金のスライド制、これは私は考えなくても、やはり今の賃金の状況は適正な方法でいっておると思います。ただスケジュール闘争を是認するわけではございません。労使話し合いでいくということは適正なことだと思います。  なお、最後の点の物価の見通しについて、卸売り物価につきましては、最近相当生産が伸びております。私の予想以上に、上期から下期にかけて鉱工業生産が伸びておりますから、ある程度の卸売り物価は、一%そこらは上がるかもわかりません。しこうして、消費者物価の点につきますと、今年の三月からの消費者物価の上がりようは、昨年のそれよりも上がり方の程度が落ちております。そして幸いに台風もございませんし、一番の問題の生鮮食料品、ことに野菜は今後下がってくると見ております。したがって、去年は六。何%、おととしも六%くらい上がりましたが、三十八年度の上昇は去年よりも落ちると確信しております。そして、三十九年度におきましては、それがまた落ちてきまして、大体、生産性上昇国民総生産の上昇の二%か三%程度に消費者物価を押えたい、そういう施策を、あらゆる財政経済措置を動員いたしましてやっていく考えでございます。したがいまして、所信表明で申し上げましたごとく、消費者物価は大体一年々々、一両年くらいで落ちつくことをお約束いたします。しこうして、落ちつくということは、絶対に消費者物価が上がらぬというのではございません。やはり国民所得の伸び方によりまして、その伸びの四分の一とか三分の一程度に、所得が伸びる三分の一か四分の一程度の消費者物価の上がり方は、近代国家に向かっていく、そうして所得格差を地域的にも業種別にもなくするために、必然通らなければならぬ関門でございます。その関門をできるだけ通りやすくしようというのが私の物価政策でございます。(拍手)   〔国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手
  8. 宮澤喜一

    国務大臣(宮澤喜一君) 所得倍増計画と実績との関係についてまず申し上げます。  一人当たりの実質の消費支出、これは名目ではございません、実質の消費支出について申し上げますと、昭和三十六年度に八%、三十七年度に八%でございますから、おのおの計画の六・七%を上回っております。これは実質について申し上げました。また、可処分所得につきましても、昭和三十六年度は九・六%、三十七年度は六・六%の増でございます。それらは平均数字であろうというお尋ねでございましたが、まさしくさようでございます。そこで、念のために生活保護基準についてみますと、五年間に保護基準は五七・五%上がっております。その間に消費者物価は二六・六%上がっております。なお社会投資につきましては、環境衛生については、三十六年度から三十八年度まで大体計画を名目で四〇%ぐらい、実質で二割ぐらい上回っております。それから厚生福祉施設についても、計画を名目で三割、実質で一割五分ぐらい上回っております。したがって、これらのことについては、所得倍増計画の実績は、いずれも計画を上回りつつあると申し上げてよろしいと思います。  次に格差の問題についてお話がございましたので、これを幾つかの角度から検討をいたしてお答えを申し上げたいと思いますが、まず企業の規模によるところの賃金格差が広がったか縮まったかということでございます。かりに五百人以上雇用しております企業を一〇〇といたしますと、昭和三十四年には三十人未満の企業の雇用者の賃金は四四・三でありました。それが三十七年には、大きいほうを一〇〇といたしまして、一番小さいところで五七になっております。四四・三から五七%へ格差が縮まっておるわけであります。それから本年の上半期におきましては、さらにそれが六〇・七まで縮まっておる、こういう実情でございます。ちなみに、所得倍増計画ではどう考えておったかと申しますと、昭和四十五年度にこの格差が五五%になると考えておったわけでございますから、すでに昨年でその目標を突破しておるということであります。このことは格差の縮小が非常に早いということを意味しておりますが、同時に、ここからやはり雇用が非常に苦しくなっておる、あるいは物価に毛影響がある。中小企業設備近代化が、倍増計画で考えておったよりは、より早く必要であるということを意味しておるように思うわけでございます。  次にもう一つ、次の観点から五分位階層の所得指数がどうなっておるかということでありますが、現在一番低いところの第一階層は、昭和三十四年を一〇〇といたしまして、現在一四一・五になっておるわけでありますが、一番高いところは一三六・七であります。で、階層が高いほど伸びが少ない。第一階層のごときは、昨年度一八%も伸びておるわけでございますが、一番上の階層は九%でございます。したがって、そこから見ましても、勤労者世帯の現金収入、これはやはり年ごとに格差が縮まりつつあるということを申し上げてよろしいと思います。なお、五分位階層について、階層ごとに消費者物価の指数が、下のほうが上がりの大きいものが多いのではないかとおっしゃったように思いますが、これはともに、三十四年を一〇〇といたしまして、三十七年に一一七でありますから、そういう事実はないように思います。  それから農家所得勤労者世帯、この収入についても、同じく格差の問題を検討いたしますと、農家所得は、三十四年度を一〇〇といたしまして、三十七年度に一四〇・九でございます。勤労者世帯は二二八・四でございますから、格差は八三から八四・六に縮まりつつある、こう申し上げてよろしいと思います。  それから、金融につきまして、消費者物価値上がり金融面の要因はないかということで、フィッシャーの方式をおあげになったわけでございますが、それはやはり、貨幣の流通速度と貨幣の量との相乗積が、物価水準と取引量の相乗積に等しいということは、これは成長経済では取引量が毎年非常にふえていくわけでありますから、そういう方式からあまり学ぶことがないのではなかろうか。金融面には、簡潔に申せば、たいした消費者物価引き上げの誘因がないというふうに、本来的には考えておるわけであります。  それから、倍増計画はどういう達成のされ方をするかというお話でございましたが、ただいまの実績から考えますと、昭和四十五年度に倍増計画を達成いたしますためには、年率で大体五・八%程度の成長があれば可能であります。なお、倍増計画で考えております七・二%の成長があると仮定をいたしますと、目標は昭和四十四年度に入りましたほとんどすぐのところで達成をいたすはずであります。  所得政策につきましては、私どもが申しますことは、生産性向上の配分を、賃金なり、あるいは企業の留保、配当なり、及び消費者に対する価格の引き下げの形で、国民経済全体が均てんをしたいということを考えておるのでありますが、それだけの思想がまだ国内に十分熟しておりませんし、労使間にそれだけの信頼関係もございません。したがって、すぐにそういうことが行なわれるとは考えておりませんし、もとよりペイ・ポーズを考えておるわけではございませんが、長期的にはそういう考え方国民に持っていただくことが望ましい、こう考えておるわけであります。(拍手)   〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手
  9. 田中角榮

    国務大臣(田中角榮君) まず、二千億減税につきまして、一般と企業減税とのどちらに重点を置くかというような御趣旨の御質問がございました。御承知のとおり、総理の所信に関する演説でも申し上げましたが、平年度二千億に近い減税を今考えておるのでございます。一般と企業のいずれに重点を置くかという問題につきましては、税負担の軽減ということが問題でありますので、両税のバランスを十分考え調査会の答申を待ちながらやって参りたい、このように考えておるわけでございます。来年度における減税の特に主点といたしましては、国民負担の軽減及び地域間における負担の不均衡の是正ということに重点を置いておりますので、所得税、住民税、電気ガス税等の減税を行なう、こういうことを考えておるわけであります。なお、企業減税につきましては、開放経済への移行を前にいたしているのでありまして、わが国企業の国際競争力培養のために、企業減税を実施いたしたいという観点に立っておるわけでございます。  第二点の減税と物価の問題でありますが、御承知のとおり、物価の増によりまして、減税が相殺されて、むしろ増税になっておるというようなお考えは、事実と違うと存じます。政府は過去におきまして、御承知のとおり一兆千五百億にわたる大幅減税を行なったわけでございますが、その九〇%は所得税減税を行なっておるのでありまして、どう考えましても、物価よりも減税幅が非常に大きいということは認識いただけると存じます。  それからなお、来年度におきましての所得税課税最低限度の引き上げ、また、所得税の負担の軽減を行なうということを今検討をいたしておるわけであります。  それから減税と徴税強化の問題についてお触れになったわけでありますが、政府は従来とも徴税に対しては適正厳正の態度を持しておりまして、徴税強化を行なうというような考えは毛頭ありません。ただ、御承知のとおり一部に反税闘争というようなものを目的にした団体等がつくられておりますが、それらのものについては断固たる処置をとってまいるという考え方でございます。  それから固定資産税の減免について具体的なことを示せということでございますが、自治省関係の問題に対しては自治大臣からお答えすると存じますので、私が財政演説の中で述べました住宅に関する問題について簡単に申し上げます。  御承知のとおり、住宅は、政府及び地方公共団体が努力をいたしておりますが、しかし、民間の住宅建設に対する熱意をより促進することも重要でありますので、来年度につきましては、土地価格を抑制し、特に都市の改造をはかり、高層不燃化を進めるというような見地に立ちまして、不動産取得税及び固定資産税の減免を検討いたしておるわけでありまして、調査会の答申を待って画期的な税制を作ってまいりたい、このように考えておるわけでございます。これは、戦後西ドイツが、また戦後イタリーが労務者住宅を大量に作った場合、このような減税の措置を勇敢に行なったために、民間資金が大きく導入せられたという例に徴しましても、これらの措置考えておるわけであります。  それから、国際収支の見通しについての御質問でございましたが、本年度は、御承知のとおり、輸出は五十四億五千万ドル、それから輸入は、砂糖の価格が高騰いたしましたことや、小麦の不作、凶作によりまして緊急な輸入等がございまして、一時的な要因ではございますが、輸入総額五十五億五千万ドルと見込んでおるわけであります。その意味で、貿易収支におきましては、おおむね一億ドルの赤字が出ておるわけでございますが、これらの問題につきましても、政府発表のとおり、おおむね均衡をとってまいれると考えております。  それから、物価等の問題でございますが、物価に対しましては、総理大臣がお答えを申し上げたとおりでありまして、物価の抑制という問題に対しては、財政上また税制上十分な配慮をいたしてまいりたい、このように考えます。  最後に一点申し上げておきたいことは、企業減税と所得税減税につきましてのお話がございましたが、私たちが考えておりますのは、日本の産業資本蓄積及び貯蓄に対して税制上優遇することは、一般の所得税の減税と相反しないという考えを持っておるのであります。それは、所得税減税はもちろん重要でありますので、過去も現在も将来も、政府は重点的に考えてまいりますが、しかし、企業減税や資本蓄積その他につきまして政府考えておりますことは、開放経済に向かって自己資本が非常に少なく、これからの日本の産業に国際競争力をつけなければ、われわれの収入源である産業自体が国際競争に勝てないということがあっては困りますので、所得税減税にあわせて、企業の体質改善、近代化、国際競争力培養のために、各般の措置をとることは、これは当然のことだと考えておるのであります。(拍手
  10. 重宗雄三

    ○議長(重宗雄三君) 内閣総理大臣から答弁の補足があります。   〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手
  11. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 一応私がお答え申し上げましたあとは、所管大臣から、ことに税金は非常に大切な問題で、大蔵大臣が取り組んでおりますから、大蔵大臣がお答えしたほうがいいと思っておったのでございますが、たっての御要求でございますから申し上げます。  ただいま大蔵大臣が申しましたごとく、過去十三年ばかり、昭和二十四年の暮れから一兆一千五百億円の減税を平年度にいたしております。しこうしてその内訳は所得税中心でございます。税金を軽くする——減税ということは、財政経済全般を見て考えるべきものでございます。お話のように、物価、ことに消費者物価がこれだけ上がったから、減税をこれだけしようというような、狭い考え方で減税はすべきものではございません。やはり社会保障とか、あるいは社会資本とか、あるいは文教とか、いろいろ財政支出面もございますから、物価高ということは、ある程度の要素になるかもしれませんけれども、それによって減税の額をどうこうという施策は、池田内閣はとらないということを、はっきり申し上げておきます。(拍手)   〔国務大臣大橋武夫君登壇、拍手
  12. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 最近におきまする賃金上昇の内容を分析いたしてみますると、従来わりあいに賃金が低かった中小企業、サービス業などにおきまする賃金が目立って上昇を示しておるのであります。これは、経済成長に伴う需要に見合う労働力の確保のためには、避けることのできない結果でございまして、また、賃金格差の縮小という観点から見ましても、望ましい方向に進んでいるものと考えておるのでございます。これに伴いまして、この種の生産部門の製品価格またはサービス料金がある程度上昇し、価格体系にして若干の変動を生ずることがありましても、ある程度やむを得ないのでありますが、しかし、政府といたしましては、財政金融政策の健全なる運用に意を用いまするとともに、中高年齢層を中心といたしまして、労働力の流動化を極力推進いたしまするほか、特に農業中小企業、サービス業におきまする近代化を積極的に進めることによりまして、経済成長力を維持しつつ、消費者物価の安定を実現してまいりたい、かような所存でございます。したがいまして、現在の賃金水準上昇から直ちにコストインフレのごとき事態を生ずるおそれは絶対にあり得ないと考えております。(拍手)   〔国務大臣早川崇君登壇、拍手
  13. 早川崇

    国務大臣(早川崇君) お答えいたします。  固定資産の再評価と税の問題でございますが、私は、固定資産の再評価ということと、どれだけ固定資産税を取るかということは、別個の問題に考えております。したがって、私といたしましては、再評価の結果、全体として固定資産税を増税いたさないつもりであります。特に農地につきましては、現在より増税する意思はありません。償却資産、また住宅、宅地等の問題のアンバランスを若干調整することはありまするが、いずれにいたしましても、固定資産税全体としては増税をいたさない考えでおります。御安心を願います。(拍手)   〔政府委員渡辺喜久造君登壇、拍   手〕
  14. 渡辺喜久造

    政府委員(渡辺喜久造君) お答えいたします。  公正取引委員会といたしましては、物価問題がきわめて重要な問題であるという認識に立ちまして、その使命の重大であることを痛感しております。一部の物資に見られます独占価格管理価格卸売り物価の引き下げを阻止しているということは考えられますが、具体的にどれがどうなっているか、その原因がどこにあるかについては、目下検討中であります。今後この方面について大いに力を入れてまいりたいと思っております。この場合に問題として考えられますのは、政府の勧告操短でありますが、勧告操短は、非常事態に対処してやむを得ざる措置であると思っております。したがって、非常事態が解消しますれば、当然廃止さるべきものであると考えております。今後ともその方向で検討してまいりたいと思っております。  また、流通機構の合理化、農業中小企業近代化と並行して、自由競争による合理化、コスト引き下げを促進してメーカー価格を引き下げることが、今後の物価安定の大きな支柱だと思っています。公正取引委員会は、その使命の重大さにかんがみまして、法の強化をはかるとともに、その機能を遺憾なく発揮するよう、今後も大いに努力していきたいと思っております。(拍手)   —————————————
  15. 重宗雄三

    ○議長(重宗雄三君) 杉原荒太君。   〔杉原荒太君登壇、拍手
  16. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 自由民主党を代表して、主として外交問題に関し、池田内閣総理大臣の御所信をただしたいと思います。  去る八月、米英ソ三国間に核実験停止協定の成立を見ました。まず第一に、この核停条約成立後の国際情勢の判断についてお尋ねいたします。私のお尋ねしたい質問の焦点を明らかにするため、米ソの持っておる核兵器の破壊力とその将来の予想に関し、あらかじめ簡単に触れておきたいと思います。  ケネディ氏は、約四年前、一九五九年十二月十一日付の手記の中で、当時すでに「、アメリカの持っている破壊力の総計は、敵を二十五回以上も全滅させるに十分なほどである。敵はわれわれを十回も全滅させる破壊力を持っている。双方合わせると全人類を七回壊滅させ得る破壊力である。現在飛んでいるB52一機に搭載され得る核兵器は、人類の歴史上起こった、今まで全部の戦争に使われた爆発力よりも、もっと大きな破壊力を持っている」と言っております。また、ケネディ大統領は、本年八月二十日の記者会見で、「これから新たな実験を行なわなくとも、現在すでにわれわれは、一時間に三億の人々を殺す破壊力を持っている」と述べております。一方、軍事専門家として有名なハーマン・カーン氏は、米ソ両国の軍事技術の発展を分析した結果、一九五一年以来、約五年おきに、軍事技術の革命的変化を経験しつつあるとして、一九五一年、五六年、六一年の、各軍事技術水準を示す新兵器体系の変化を明らかにし、一九六〇年代の中期の技術水準から予測される新兵器体系の驚くべき発展を予見し、さらに、一九六〇年代の後期と、一九七〇年代の初期の可能性を予想しております。   〔議長退席、副議長着席〕  米ソの核兵器の威力を中心とする戦略関係は、両国の政略面に直接大きな関係を持つに違いありません。このことは、あの深刻なキューバ事件のてんまつに端的に表現されております。また、核停条約の成立それ自体がこれを証明しております。米ソ関係中心とする、きびしい国際現象の観察にあたりまして、われわれは、米ソの保有する核兵器の威力を中心として、それが両国の政略の面にどのようなあらわれ方をしてくるか、また、それが一般国際情勢にどのような波紋を起こしてくるかの点を注視せざるを得ません。いずれにいたしましても、米ソ関係中心とする今後の国際情勢を判断するにあたっては、その根拠となるべき幾多の政治的、軍事的、経済的要因のうち、米ソの現有する核兵器の威力と、今後の予測とを除外しては、考えるわけに参りません。以上のことを念頭に置いて質問を進めてまいります。  総理大臣は、今後の国際情勢の判断に関し、所信表明の中で、「今後の国際関係は、依然、東西間の力の均衡を背景としつつ、経済力の発展拡充と経済援助の競争に、より大きな重点が置かれていくものと予想される」と申しておられます。総理の言わんとしておられる御趣旨は、ほぼ推察し得るのでありますけれども、その趣旨を、さらに、はっきりさしていただきたい点があるのであります。その趣旨の中には、核停条約の成立にかかわらず、米ソのすでに保有する驚くべき核兵器の破壊力と、その将来の発展の予測と、これが政略面に及ぼす影響だけの角度から見ても、世界の平和と安全の問題が、国際政治上、今後ますます重視されるに至る情勢にあるとの判断が含まれておるかどうか。また、米ソ関係の直接の影響を離れて見ましても、核停条約の拘束を受けない中共の今後の動向や、朝鮮半島の形勢、ベトナム情勢等の中にはらんでいる幾多の矛盾、危険性と不安定の要素から判断すると、平和と安全の問題が、今後極東方面において特に重視さるべき情勢にあると見ておられるかどうか、まず、この二点を確かめておきたいのであります。  以上の情勢判断の見方いかんは、それと見合って、今後とるべき方策の課題を示すものであります。そこに平和と繁栄を目標とするわが国外交にとって、各種の政策問題が出てくるわけであります。しかし私は、ここには問題の範囲を、安保体制の問題一つだけにしぼって質問いたします。  総理は、所信表明の中で、今日まで米国との安全保障条約によって、わが国の安全と繁栄を確保することを、外交政策の基本としてきたこと、及び安全保障条約が今日まで果してきた役割りを述べておられます。今日までの実情、実績は、まさしく総理の指摘しておられるとおりであります。しかるに、国内には、安保体制の打破の主張を、最近もまた確認して、国民に呼びかけている向きがあります。世界の情勢、極東の情勢から見まして、安保体制の存否いかんは、日本の国運を左右すると申しても差しつかえない重大問題だと信じます。かくのごとき重大問題に対する公党の態度は、存否いずれの方針をとるにしても、国民に対し大きな責任を伴うものであります。安保条約はあと約七年で第一次の期限が到来することになっております。その間における安保体制に対する国民世論の動向いかんは、今後わが国政治外交の方向を定める決定要因としてきわめて大事であります。かるがゆえに、私は、特にこの際、安保体制の問題について総理の御所信をはっきりとお伺いいたしたいのであります。  第一に、総理は、今後の世界情勢及び極東情勢の長期判断の上から見て、将来も相当長期にわたって安保体制を存続していくことを必要とする情勢にあると見ておられるかどうか。  第二に、安保体制打破論者の主張どおりの政策をとったとすれば、その結果はどうなるか、わが国の将来にいかなる不利を覚悟しなければならないと見ておられるか。  第三に、安保体制の存続によって期待し得る大局上の利益をどう見ておられるか。要するに、安保体制の存続と打破の両論につき、国民がいずれかの選択をするにあたって、判断の根拠となるべき要点について、一般国民が容易に理解し得られるよう、政府の所見を親切かつ明確に示していただきたいのであります。  また国内には、安保体制打破とともに、自衛隊を漸次解体して国土建設隊なるものに改編していくことを主張している向きがあります。国土建設隊なるものは、国営の土建事業団でも作るというのか、私には理解しにくいのでありますが、いずれにいたしましても、このような主張に対し、政府はどのような見方をしておられるか。また、安保条約を合法的に廃棄するかわりに、相当の自主的防衛力を作るという論に対する政府見解はどうか。さらにまた、この際、自衛隊に対する総理大臣としての確固たる御所信を明確にしていただきたいのであります。  次に、今回の政府演説の中には、北方領土問題については言及しておられません。従来のソ連との交渉の経緯から見まして、今日の段階において特に言及しておられない理由はわれわれの理解し得るところであります。しかるに、国内には安保体制の解消と見合って北方領土問題の解決をはかることを主張する向きがあります、鳩山内閣当時、私は、鳩山首相の命によって日ソ交渉の方針案を草案いたしました際、わがほうの要求事項を三種類に区分し、その中の絶対条項、すなわち、もしその主張をソ連側がいれない場合には、交渉全体の決裂もやむなしと腹をきめてかかる条項の中に、第一の項目として、日ソ交渉と日米安保条約とは絶対にからませないという条項を入れました。すなわち、日米安保条約については、ソ連側にくちばしを入れることを許さないという建前をとりました。この建前は、当時政府の方針として正式に採用され、また事実、貫徹されました。北方領土問題の処理と安保条約との関係の取り扱い方は、外交政策の立て方の基本に触れる問題であります。この点に関し政府はいかなる基本方針をとられるか、お尋ねいたします。  最近、私は、ソ連通と言われている人から、北方領土問題に関し、日本国民が署名運動を大々的にやれば、ソ連は耳を傾けるかもしれぬという意見を聞かされました。私は、甘いとの感想を持ちました。本来きびしい現実の国際関係の中でも、今日までの歴史が証明しているように、最もきびしい領土問題について、そのようなあさはかな国際感覚でのふらふら外交は、かえって危険だとの感想を持ちました。しかるに、国内にはそのような考え方を持つ向きが相当にあるやに聞きますので、この点についての政府見解をお尋ねしておきます。  総理の、西太平洋四カ国訪問については、所信表明の中に述べておられますが、遠慮されたのか、機密に属するものがあるためか、お言葉が少ないようであります。  第一に、われわれは、総理御自身が、じかに目で見、はだで感ぜられたこれら諸国の指導者及び民衆の、総理に対し、また総理を通じて示した対日感情のあらわれを、なまのまま生き写しにしたような姿を、率直に、若干の具体的事例で示していただきたいのであります。この点は、今後ますます重視しなければならない、これらの国々に対するわが国の外交政策考えていくにあたって、きわめて重要な事柄だからであります。  第二に、マレーシア問題でありますが、マレーシア紛争問題が勃発した当初の激越なあらわれ方から見て、このまま放置しておけば、どんなに悪化していくかと一般に憂慮されておりました。具体的にどう解決するかという問題は第二段として、まず早急に、これ以上悪化の方向に落ち込んでいかないよう何らかの措置が講ぜられることが、東南アジアの平和維持上第一に緊要なことでありました。しかるに、より以上悪化の方向に流れていかんとする潮流が、総理の訪問と時を同じゅうして、ぴたっと、とまったようであります。何とか話し合いによって平和的に解決をはからなければならぬという方向に潮流が変わったようであります。総理は、所信表明の中で、マレーシア紛争問題については一言も触れておられません。しかし、私は、コミュニケの中に、抽象的表現ながら、外交的にきわめて含蓄のある一節を見て、総理の訪問が、この潮流の急転と関係あるものと読んでおるのであります。外交上機微な問題を含んでおりましょうから、あまり立ち入ってはお尋ねいたしませんが、事は東南アジアの平和に関する大きな問題でありますから、私のコミュニケの読み方に誤りがあらば正していただきたいのであります。  最後に、わが国の外交政策の基本に触れる問題について、多少私見を交えつつお尋ねいたします。  明治以来わが国は、大陸発展政策をとってきました。この大陸発展政策は、当時においては国民多数の支持を得た国策ともいうべきものでありました。わが国の外交は、この大陸発展の国策を中軸として動いてまいりました。しかるに、敗戦によって、わが国は、大陸における政治経済的拠点をすっかり失ってしまいました。ここに、わが国は、対外国策の方向転換を余儀なくさるるに至りました。しかし、敗戦後の日本は、自主的に新しい対外国策の基本線を打ち出す力もなく、その余裕もありませんでした。さりながら、今日では、今後わが国の進むべき外交国策の基本線が打ち立てらるべき時期が到来してきていると言えましょう。新しい時代における世界政治、世界経済の構造や、動向を見るとき、わが国としては、一局部に偏することなく、広く世界全体をにらんで外交を展開していかなければならぬことは申すまでもありません。それと矛盾する意味ではなく、いな、むしろそれがための基盤をかたくする意味において、平和と繁栄をはかることを基本目標とするわが国外交の健全な基盤となるものをつくり上げていかなければなりません。わが国は、いわば摂理とでも言うべきでしょうか、正真正銘の太平洋国であります。太平洋は戦前と違い、その名の示すとおり、太平洋各地域を結ぶ平和の紐帯とならんとしております。わが国とアメリカ、カナダとの関係においては、太平洋はすでに平和のハイウエーと化してきております。このたび総理が訪問された国々を含め、西太平洋の国々との関係も、戦前のとげとげしい関係を解消してきております。わが国は今後これら太平洋諸地域の国々との提携を特に密にして、お互いに平和と繁栄をはかり、世界の進運に寄与することこそ使命とも申すべきではないでしょうか。かつて地政学者として有名なハウスホーファーは、太平洋地域の地政学的諸条件を研究した結果、将来いつの日かパン・パシフィック・ユニオンの形成を見るに至るであろうと予言しました。また最近では、太平洋共同体あるいは太平洋経済協力機構とかいうような呼び声も聞かれるようになりました。しかし、今日の段階においてそのようなことはまだ現実的基礎を欠いておると認めざるを得ません。そうではなくして、もっと現実的に、しかも将来に希望を持って、わが国が太平洋地域の各国とそれぞれ親密な隣組としての関係を結ぶように特に努力していくことは、健全な政策だと信ずるのであります。そうすることによって日米協力の基本線もかえって一そう健全な基礎を持つに至ると思うのであります。この意味において、新日本のとるべき外交政策の柱として、太平洋政策とも言うべきものを打ち出していくことはいかがなものでしょうか。これがためには、日米提携の親密化、健全化をはかる一方、わが国とその他の太平洋地域各国との間に、まず信頼と協力の期待を込めた友好的雰囲気をかもし出すことが基本的に大事でありますから、そうした観点からして、われわれは総理の西太平洋諸国訪問を注視しておったのであります。しこうしてその成果の評価の基準をそこに置いて見るとき、国内においてよりも、むしろ訪問先の各国において、予想以上に高く評価しておる事実を、私は承知しておるのであります。またアメリカ国務省極東担当国務次官補ヒルズマン氏は、去る八月二十日ホノルルにおいて、「太平洋地域における米国の政策」と題する大講演を行なっておりますが、その中において、米国は大西洋国であると同じ程度に太平洋国であるという、アメリカ外交史上注目すべき宣言を発表し、日本の政策樹立の上から見ましても示唆に富む講演をしておるのであります  世界の大勢を見ますと、われわれの注目すべき各種の指標は、一九七〇年の目標を差し示しております。わが国も一九七〇年を目標として大躍進をしなければなりません。一国の政治を背負って立つ総理としては、深く期しておられるに違いありません。総理としては、対外政策の面におきましても、今後わが国が自主的、積極的にとるべき外交国策の構想を抱いておられることと思います。この機会に総理の構想の一端をお漏らしいただくことをお願いいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)   〔国務大臣池田勇人登壇、拍手
  17. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) お答えいたします。  世界の情勢、ことに平和と繁栄を中心とした点で世界の情勢についての意見を求められました。私は所信表明で申し上げましたごとく、核実験停止の協定ができたことは平和への第一歩でございまするが、これはあくまで軍事力の均衡からもたらされたものでございます。したがって、私はこの平和への第一歩を今後ますます進めていく上におきまして、世界の今の現状、自由国家群の結束をこの上とも固めていかなければならぬ。私はソ連が平和共存の空気を持ち出したことも、一に自由国家群の団結と力によるものと確信いたしております。こういう意味におきまして今までの外交政策を強力に進めてまいります。しこうして、従来はベルリン問題その他ヨーロッパに相当の関心が払われましたが、今やヨーロッパよりもアジアの地に相当の世界の関心が向けられつつあるのであります。これに位する日本といたしましては、そう一そう近隣との協調をはかって、アジアの繁栄と平和に協力しなければなりません。私は、ソ連と中共との関係、また、ことに、中共が核実験停止に反対し、自分で核武装を意図していること等、またラオス、ベトナムの問題、また中印国境等々いろいろわれわれとして考えなければならぬ問題があるのでございまするが、幸いにお話のとおり、私は組閣早々外交方針として、あくまで自由国家群からの信頼を受け、共産主義の国々から畏敬せられる、ばかにせられないこの外交政策を堅持してまいりました。幸いに、日本に対しまする自由国家群の信頼は、私の予想以上なものがございます。昨年のヨーロッパ旅行におきまして、進んでイギリス、フランス、ベネルックス三国が、今までの懸案であるガット三十五条を撤回しまして、日本との友好関係を増進しよう、お互いにやっていこう、そうして、いまだかつてない、ヒューム外務大臣の来訪、クーブドミュルビル外相の来訪、また近くはドイツ大統領、ドイツ外務大臣の訪日等は、日本に対する自由国家群の信頼を意味し、また東南アジア四カ国の私に対する好意と歓迎はこれをあらわすものでございます。また共産圏におきましても、ソ連と日本との関係については、十九日に、政府機関紙であるイズヴェスチアは社説に掲げまして、日本とソ連との国交は青信号が出ていると社説を掲げました。ほんとうに今ソ連と日本との関係は、従前にも増して、経済交流、またソ連の日本に対する気持ちは従前とは変わって、貝殻島あるいは抑留者の帰還等々、非常な、何と申しますか、日本に対しましての相当の関心と、何と申しますか、いわく言いがたいような気持ちが出ているのであります。しかし安心はいたしません。安心はいたしませんが、あくまでもやはりまあ青信号でだんだん仲よくしていくのだということが出るような状況になってきている。同時に中共におきましても、政経不可分と言っておりますが、進んで、政経不可分というものをいつおろしたかわかりませんが、貿易していこうということは、いわゆる共産圏から畏敬せられるようになった証拠ではございますまいか。ソ連、中共のみならず、ヨーロッパの衛星国、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、ポーランド等々、日本に対したいへんな関心を向けつつあることは、私は国民がわれわれの外交政策を支持して下さったたまものだと思います。(拍手)したがいまして、安保条約はこれをあくまで維持していきます。そうしてこれを維持し、この建前で日本の外交を進めていきたい。そうして私は、防衛力につきましても、日本の国力の許す範囲内におきましてこれを漸増していく、これには変わりないのであります。従来の方針を強力に進めて参ります。  また、四カ国訪問の経過についての報告でございますが、所信表明の冒頭に述べたとおりでございます。私は、もともと、西太平洋の諸国は、とにかく他の地域よりも、もっと緊密でなければならぬという考え方を持っております。西太平洋の日本、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そうして豪州及びニュージーランド、この考え方は私は各国ともそう考えておられると思います。ことに、フィリピンのマカパガル大統領は、これを神の恵みだ、日本からニュージーランドまでの七、八カ国のこのつながりは神の恵みのつながりだと、公開の席で言っているのであります。私も全く同感でございます。私は、こういう意味におきましても、いまのマレーシア問題につきましても、フィリピン大統領の考えも聞き、また、非常に強硬であったというスカルノ大統領の考えも聞きました。私は、ジャカルタにおけるイギリス大使館が焼かれて、イギリス国旗がおろされて、かわりにインドネシアの国旗が立っているのを見まして、これを直ちにおろすようスカルノ大統領に申し込みましたら、快諾いたしまして、その日におろした。そうして、トンクー、またそのうしろにおられるマクミラン、いまはヒューム首相になりまして、こういう方々とスカルノあるいはマカパガル両大統領との間の信頼がだんだん深まり、話し合いができる、いわゆるムシャワラの精神——話し合いの精神で進められるよう、陰に陽に努力して、そうして申し上げました。西太平洋の繁栄と平和、ひいてアジアの平和に尽くしたい、こういう気持ちは持っておるのでございます。杉原君のお気持ちと全く同感で、私は、日米関係、アジア関係、ヨーロッパ関係をこの上とも進めていきまして、いわゆる自由国家群の信頼と共産圏諸国の畏敬を、この上とも確保したい考えでおるのであります。(拍手
  18. 重政庸徳

    ○副議長(重政庸徳君) 質疑はなおございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  19. 重政庸徳

    ○副議長(重政庸徳君) 御異議ないと認めます。  次会は、明日午前十時より開会いたします。  議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。   午後零時十三分散会    ————・————