○西尾末廣君 私は一民主社会党を代表いたしまして、
昭和三十五年、安保騒動の中で
池田内閣が成立してからの三年間を振り返りながら、衆議院の解散、
所得倍増計画を
中心とする
経済政策、外交
政策、並びに
国会正常化、福祉国家などの諸点について、
池田総理のお考えを伺い、あわせて、民主社会党の立場を明らかにしたいと存ずる次第であります。(
拍手)
去る十五日、第四十四回臨時
国会が召集されましたが、本臨時
国会は、第一に、
所得倍増計画の
失敗による最近の
物価高について
政府にその
対策を要求し、第二に、さきの第四十三回
通常国会の失対法をめぐる混乱の結果、
国民生活に甚大な影響を与える多くの法律案が流産したことについてそのあと始末を行ない、その後公務員に対する人事院勧告も行なわれましたので、これらを
中心とする補正予算を成立せしめること、第三に、おくれているILO八十七号条約の批准を一日も早く行なうために開かれた
国会であります。(
拍手)このような臨時
国会の意義にもかかわらず、早期に
国会の解散を行なうであろうことが伝えられておりますが、私は、まず、解散の
理由について
池田総理にその
所信をお伺いいたしたいのであります。
旧憲法の時代は、天皇に主権があり、衆議院の解散は、いとも簡単に、天皇の名において行なわれたのであります。しかし、現行憲法では、主権者は
国民であります。その主権者から選ばれた衆議院を、憲法第七条によって解散するについては、
内閣総理大臣はきわめて慎重、かつ、謙虚でなければなりません。したがって、国家の方向を定める重大な
政治問題が惹起し、
国民の意思を直接聞かんとする場合、また
国会が混乱の極点に達して解散するよりほか道のない場合以外は、軽々に解散してはならないのであります。今日、このような解散を行なうべき大義名分もなく、ありとすれば、自民党の党利党略、池田三選のための解散としか受け取れないのであります。(
拍手)
池田総理は、いかなる大義名分に基づいて
国会を解散しようとするのか、この点を御明示願いたいのであります。
わが民社党は、少なくとも、
国民生活に必要な補正予算を成立せしめ、ILO八十七号条約の批准だけは済ませて解散すべきであると
主張してきたのであるが、
総理の所見はいかがでありましょうか。もちろん、わが民社党といたしましても、解散あればこれを受けて立ち、総
選挙においてわが党の
主張、
政策を
国民に訴え、
政治の革新に進む積極的な気がまえを持っておることは、いまさら言うまでもないのであります。しかしながら、解散の問題は、憲政の運用上きわめて重大であり、憲法第七条による解散権の乱用は、累を後世に残すものでありますから、ここに、あえて
総理に対し、あくまで正々堂々、大義名分をもって解散に処すべきことを要請する次第であります。
次に、
池田内閣の施策の重点は、何と申しましても
所得倍増政策であります。
所得倍増政策三カ年の結果、今日残されたものは、
国際収支の恒常的な不安定、
消費者物価の
高騰、
農業、
中小企業の近代化のおくれと、
産業間、企業間の
格差拡大であります。これは
所得倍増計画が
失敗であったことを現実に立証しておるものであります。
以下、
所得倍増政策の
失敗を
順序を追うて明らかにし、同時に、わが党の立場をも明らかにしたいと存ずる次第であります。
所得倍増政策は、本来、去る総
選挙において
池田総理が
選挙政策のキャッチフレーズとして打ち出したものであり、これを合理化するために、あとから
高度成長政策の理論をつけただけにすぎません。つまり、
政策が先にあってキャッチフレーズができたのではなくて、キャッチフレーズが先に出て、
政策があとから追いかけているということであろうと思うのであります。ここに一句の無理の根源があると思うのであります。したがって、
池田総理の
所得倍増政策、すなわち、
高度成長政策の理論には
根本的な誤りがあります。
総理は、過日の
所信表明演説の中で、過去三年の
高度成長によってゆとりができた、このゆとりを活用して、今後は
農業、
中小企業に強力な施策を行なうと述べております。
総理のお考えは、
所得を倍増するためにはわが国
産業経済の発展が必要である、そのためには
生産性効率の高い大企業に
財政投融資を行ない、大企業の
所得を高めるべきである、そうすれば自然にその恩恵が
農業、
中小企業、
労働者に浸透するものであるという点にあります。この
考え方は、かつて、
日本の
産業の発展のためには
中小企業の倒産や
犠牲が続出してもやむを得ないと放言した
考え方と軌を一にするものであります。われわれの考えは、大企業と同時に、
農業、
中小企業の近代化のためにも十分の
財政投融資を行なうべきであるという点にあるのであります。今日
池田総理は、
所得倍増計画のアフターケアとして、
農業、
中小企業の近代化に努力すると述べておられますが、いまごろになってこういうことを言われるのは、
政治家としても、
経済の専門家としても、まことに不見識なことであります。(
拍手)アフターケアを必要とするようになることは、初めから予見し得ることであったのであります。
所得倍増政策が今日
失敗し、大きな手直しを迫られている
最大の
原因は、このような
池田総理の
根本的なものの
考え方の誤りにあった点を私は第一に指摘したいのであります。(
拍手)
所得倍増政策第二の
失敗は、
国際収支の恒常的な不安定であります。現在、経常収支は毎月五千万ドル
程度の
赤字で、これを海外からの
金利かせぎの短期
資本の流入によってまかない、かろうじて収支のバランスを保っておる不安定な状態であります。しかしながら、このびほう策は、来年の二月ごろには、
物価高に加え、ドル防衛
措置による利子平衡税の新設、IMF八条国移行、OECD加盟などに伴う
経済悪化の条件が集中し、大きな危機に見舞われるであろうことをおそれるのであります。
所得倍増政策第三の
失敗は、
消費者物価の
高騰であります。私は、三十五年秋、この壇上で、
所得倍増政策に
物価政策がなく、必ずやこの
計画が
物価倍増を招来するであろうことを警告しておきました。この警告はすでに事実となってあらわれております。すなわち
昭和三十五年は三・八%、三十六年は六・二%、三十七年は六・八%、本年は八%
物価が上昇するものと予想されます。いや、それ以上になるものと思われます。しかるに
池田総理は、
昭和三十八年度は消費
物価は二・八%上昇に押えると述べられたが、現実はその見通しの誤りを立証しておるではありませんか。さらに
総理は、幾多の公一共
料金値上げを認可し、
物価上昇による世論の批判が激しくなってまいりますと、公共
料金値上げ抑制
措置とか、
物価安定総合
対策などを打ち出したが、これらはいずれも立ち消えとなり、
物価対策について一度も真剣に取り組んだことはありません。
物価問題は、
経済的なものであるとともに、心理的な側面を重視せねばなりません。この点、
池田総理の考慮が欠除しておる点を私は遺憾とするものであります。(
拍手)
わが党は、
物価抑制の
具体策として、近代化のおくれている
中小企業、
農業、
サービス業の近代化促進のため、大幅な融資を行なう、大企業製品の
価格を
引き下げる、
流通機構を整備して中間経費を削減する、公共
料金は絶対上げない、消費者保護のための消費者基本法を制定するなどの
対策が必要であると信ずるのであります。
以上あげたところによって
所得倍増政策の
失敗は明らかであります。先日宮澤経企長官が、
経済政策担当の
責任者として、今日の
政策を続ければ、大企業と
農業、
中小企業の格差はますます大きくなるので、この格差是正のため、いまこそ
所得倍増政策を手直しして
安定成長に切りかえるべきであると
池田総理に進言されました。この考えは、すでに三十七年一月、当時の藤山経企長官が
経済演説で明らかにしたところであり、宮澤長官も本年六月にすでに明らかにしたところであります。しかるに
池田総理は、これに耳をかさず、強引にいままで
高度成長政策を推し進めてきたが、いまや情勢上やむを得ずようやくこれを取り入れようとしておるのであります。あやまちを改むるに、はばかることなかれということばがあります。
高度成長政策を
安定成長政策に転換するのであれば、
池田総理は、いままでの
高度成長政策の
失敗を率直に認め、これを
国民に謝し、
高度成長政策を
安定成長政策に切りかえることを明らかにして、
国民の協力を求めるべきではないでしょうか。(
拍手)
以上、私の申し上げた意見に対する
池田総理の御
見解をお伺いいたしたいのであります。
次には、外交問題であります。
本年に入りまして、米英ソの
部分的核停条約の調印が行なわれ、今
国会にも、同条約の批准案件が提案されております。この
部分的核停条約の成功は、世界の平和に一条の光明を与えたものであり、われわれは心からこれを高く評価し、歓迎するものであります。しかし、一方では、中ソ会談が決裂し、アジアの情勢は緊迫した空気に包まれております。
部分的核停条約の成功と中ソ会談の決裂の二つは、世界情勢が新しい段階に到達したことを示すものであり、今後のわが国外交の基調を定める上で、きわめて重要な要素であります。この新しい国際情勢に対処して、世界の平和とわが国の安全を守るためには、
日本独自の強力な外交の展開と、国論の統一が必要であります。
私は、かねてから、外交論争は水ぎわで打ち切り、超党派外交を行なうべきこと、国論を統一して、強力な世論を背景とした自主独立の外交を進めるべきことをしばしば訴えてまいりました。しかるに、わが国の現状を見ますると、
池田内閣、自民党は、向米一辺倒の外交によって、わが国の
利益を軽視し、対米追随主義におちいっております。また、野党第一党でありまする社会党は、全く正反対で、積極中立を旗じるしとしながら、その実、共産勢力のお先棒をかつぐような、自主性のない外交路線を
主張しておるのであります。(
拍手)
池田内閣は、成立以後、国連
中心主義の外交を唱え、最近は
経済力が充実したとして、大国の仲間入りをしたようなことを言っておられまするが、池田・大平の外交
政策の路線の現実は、いわば自主性のない追随外交以外の何ものでもありません。自由陣営内にあって、アメリカを対等の協力者とする外交路線を進めることは、誤りではありません。しかし、日米綿製品の交渉、利子平衡税、原子力潜水艦の寄港問題、沖繩問題、中共問題等について、もっと積極的に
日本の立場と
利益を
主張することが必要であると信ずるのであります。(
拍手)
特に、アジアの安定と世界の平和に決定的な影響を持つものが中共問題であります。しかるに、
総理は、
演説の中で、アジアの繁栄と世界の平和に寄与するため、自主的な外交
政策を積極的に展開し云々と述べておられますが、現実には、この中共問題に対して何ら積極的な
対策を示さず、ひたすら政経分離の原則をたてにして、アメリカの中共封じ込め、中共孤立化
政策を従順に実行しているにすぎません。一方、社会党は、米帝国主義は日中両
国民共同の敵であるとの立場から、中共の立場をそのまま容認しております。このいずれの
考え方も、現在のアジア情勢に即応する現実的なものではなく、また、中共問題を世界の平和に沿う方向で解決し得るものではありません。われわれは、中共の誤れる革命的なイデオロギーと、好戦的な膨張
政策やその核武装に反対します。しかし、また半面、中共を孤立に追いやるのではなく、むしろ国連に加盟せしめることによって、国際協力の場に引き入れ、かつ、日中間の
経済、技術の交流を通じて中国の
農業、人口問題の解決に道を開き、ひいてアジアと世界の平和と安定に寄与せんとするものであります。
また、日韓会談については、基本的に日韓国交の正常化に賛成しつつも、韓国の総
選挙の事態と民主化の方向を見きわめながら、実質的な交渉に入ることを
政府に強く要望するものであります。
池田総理は、同じく対米協力のたてまえに立ちながら、完全な自主性を貫くドゴールにならい、そして社会党はフルシチョフの現実性に学べ、と言いたいのであります。こうなってこそ、初めてわが国の超党派外交が成り立ち、国家と民族の
利益を守る外交が展開できるものと信ずるものであります。
以上の諸点につきまして、
池田総理の御
見解をお尋ねいたしたいと存ずるのであります。
次に、
国会の正常化と議会制民主主義の堅持についてお伺いいたします。
池田総理は、内政問題についても、また外交問題についても、その他困難な問題は、すべてこれを避けて通るという
態度をとってこられました。
国会の運営についてもまたしかりであります。いままで、
総理は、自民党の総裁として、何らき然たる
態度を示すことなく、あるときは高圧的に、あるときはもみ手でやみ取引するような与党の
態度を是認してきておるのであります。
かつて、安保騒動によって解散された三十五年秋の総
選挙中、テレビの三党首会談の際、われわれは、今後いかなる事情があろうとも単独審議はしない、いかなる事情があろうとも審議拒否、実力行使をしないということを
国民の前で誓約したのであります。しかるに、その後毎回の
国会において、相も変わらず自社両党の激突により議会は混乱し、醜態を暴露し、
国民のきびしい糾弾を受けているありさまであります。(
拍手)民主憲法のもとにおいては、
国会は国権の最高の機関であります。にもかかわらず、このような醜態が改まらないならば、ついに議会
政治は
国民の信頼を失うに至り、やがては右翼のファッショ、左翼の共産革命の気風が台頭するおそれがあります。民主
政治の機能を守るためには、何よりもまず
国会の正常化が必要であります。
国会の正常化は、
政策以前の問題であり、民主
政治の大前提であります。それゆえに、各党とも従来の行きがかりや党利党略を離れて、
国民に信頼される
国会の正常化をこの際
国民に約束すべきであると存ずるのであります。(
拍手)それには、与党であり、第一党であるところの自民党がまず謙虚な気持ちになって、そのイニシアをとるべきであると思うが、
総理は、この点についてどうお考えになられますか。この際、全
国民に誓約する意味において、
所信を明らかにしていただきたいのであります。
最後に、福祉国家の問題について
池田総理にお伺いいたします。
総理は、先日の
所信表明の結びにおいて、内政においては、
農業と
中小企業の近代化を完成して、
生産性と
所得を高め、ひいては
消費者物価の
根本的解決をはかり、
国民の不安を一掃し、かつてない高度の福祉国家を築く決意であると強調しておられます。しかし、かつてない高度の福祉国家を築くということは、いかなる内容を持っておられるのでありますか、はなはだしく抽象的かつオーバーな表現でありまして、理解しがたいのであります。もとより、
政治の究極の目的は、全
国民に平和で豊かな
生活を保障することにあります。その意味において、わが民社党は、立党以来、勤労者の福祉国家建設を
政策の基本目標としておるのでありまして、
池田総理が、わが党にならって福祉国家建設を云々されることは、まことにけっこうであります。しかしながら、重要なことは、どのような手段方法によって福祉国家を建設するのか、その
具体策であります。現在、世界で福祉国家の標本と目されておる国はスウェーデンであります。この国は貧富の格差はきわめて狭く、
国民生活は
日本の四倍の豊かさであります。かつてない高度のという意味は、スウェーデン以上ということになりますが、
総理はこのことを御承知の上での御発言でありましょうか。スウェーデンでは、強力な民主的
労働組合運動を背景とした民主社会主義の政党が、三十余年の長きにわたって継続的に政権を担当し、ようやく今日の福祉国家を完成したのであります。また、その他の国々においても、民主社会主義政党のイニシアによって福祉国家へと成長しつつあるのであります。しかるに、いまや解散、総
選挙を前にして、
池田総理が唐突に福祉国家建設のスローガンを強調されるのは、自民党が、はなはだおそまきながらようやく近代的な政党に脱皮しようとする
計画がその緒についたばかりであることを思うとき、失礼ながら
総理の御発言はすなおには受け取りがたいのであります。
さきに述べましたように、
総理は、
所得倍増政策において、まず大企業に惜しみなく
財政投融資を施し、その結果、ゆとりができたから、これからは
農業や
中小企業の近代化に力を入れるというような
考え方をとっておられますが、そのような
考え方は、真の福祉国家建設への思想とは一致しないのであります。われわれは、百六十万人の要
生活保護者や、千百万人にものぼると推定されるボーダーラインにある低額
所得者の
生活保障をはかることはもちろん、少なくとも年収六十万円までは
所得税を免税する一方、
租税特別措置法等による高額
所得者に対する手厚い恩典を改廃すること、そして零細企業や耕作農民の苦しい
生活を打開することのために
財政投融資を活用すること、すなわち、憲法第二十五条が要請しているところの、すべての
国民に健康で文化的な
生活を保障するということを優先的にすることが、福祉国家建設への道であると信ずるのであります。(
拍手)
池田総理は、元来ムードづくりがじょうずであります。
総理は、三十五年の総
選挙には
所得倍増政策で
一つのムードづくりに成功し、昨年の参議院
選挙には、国づくり、人つくりのキャッチフレーズで、まあまあの成績をおさめた。本臨時
国会の解散問題も、大義名分のない解散ムードづくりに成功しつつあるのであります。との
総理のムードづくりのじょうずな手ぎわを思うとき、この
農業と
中小企業の近代化をはかり、
消費者物価の
根本的解一決をはかるということも、また、かつ七ない高度の福祉国家を築くということばも、結局は、解散、総
選挙を前にした単なるムードづくりにすぎないのではないかと疑わざるを得ないのであります。この疑いは決して私ひとりではありません。解散、しょせんは総
選挙によって主権者たる
国民が真偽を決定してくれることと思うが、この際、
一般
国民の納得のいく福祉国家建設の構想を、もっと親切に、具体的に御説明を要求いたします。
以上をもちまして、私の代表
質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君登壇〕