○野上元君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました
電波法の一部を
改正する
法律案について反対の討論を行ないたいと思います。以下、若干、反対の理由を述べたいと思います。
この法案は、すでに御承知のように、長年懸案になっていました法案であります。しかし、長い期間にわたって慎重に検討して参りました結果、前国会におきましても、なお、これを成立せしめることは必ずしも当を得たものではない、こういうことで、この国会に持ち越されたわけでございます。
まず第一に、反対の大きな理由は、この
改正案の
説明の中にもありますように、この
改正は、電波行政上の必要に基づいて行なうというよりも、むしろ、
海運業界の企業建て直し、あるいはまた、
船舶通信士の
需給状況が逼迫しておるという理由に基づいて
電波法の
改正が行なわれたという点でございます。これは明らかに本末を転倒しておるのではないか、かようにわれわれとしては考えておるところでございます。
御承知のように、企業合理化を行なう場合、あるいはまた、自動化を行なうという場合において、製造業界においては、明らかに生産性の上昇を来たすということでなければならぬと思いますし、サービス部門においては、サービスの向上ということが常にその目的でなければならないというように考えるわけであります。その場合においてのみ人員が減ることについても認めざるを得ないという場合が出てくるわけであります。しかし、今回の
改正による合理化は、明らかにその逆の現象が出るわけであります。すなわち、この
法律を
改正することによって、四年後には、三名の
通信士を乗せておる
船舶はわずか九隻であります。それ以外の
船舶は全部一名になることになるわけであります。この面からも、明らかに
通信能力の低下ということは問題なく認められなければならないと思います。かつまた、この法案がもたらす結果として、
運用義務時間の短縮ということが出て参ります。これまた、
通信を行なう時間を軽減するわけでありますから、この面からも
通信の能力は落ちてくるということが明らかだと考えるわけであります。したがいまして、そういう考え方から見ても、この法案について私どもは賛成ができないわけであります。
さらにまた、具体的に申し上げますならば、今日、
船舶上において無線電信局が開設され、そうして
船舶無線通信士が配置されている目的は、言うまでもなく、
海上航行の安全、あるいは海難救助であろうと思います。第二は、公衆
通信の疎通、第三には気象観測通報、さらにあげますならば、長い間
航行を続けている
船舶職員の諸君が家族に打つ電報、これ等についても、私はこれを看過することができないのでございます。このあげました目的の一つ一つをとって、この法
改正後の
状況を分析しまするならば、
航行安全の問題についても明らかに低下することは間違いないと思います。今日三名の
通信士が二十四時間
勤務を行ない、常時聴守を行なっていることに比べれば、一人にして、オート・アラームをつけてこれを埋め合わすということは、とうてい不可能なことだと考えるのであります。この点については、本
委員会の
質疑応答の中からも明らかにされたと考えるのでございます。
御承知のように、
海運業界の
状況はきわめて困難な
状況にあります。かつまた、その
海運業界の困難さが
日本の貿易収支にも重大な影響をもたらしているということについても、われわれは十分に承知いたしているのであります。しかしながら、これはきわめて大きな問題でありまして、政府が本腰を入れて抜本的な対策を講じなければ、とうてい再建は困難であろうというふうにわれわれとしては見ているのであります。今日、
電波法の一部を手直しすることによって再建の一助にするというようなことを考えること自体が、非常に危険を冒しているのではないかというふうに考えます。いわば、小の虫を生かして大の虫を殺してしまうというようなことにもなりかねないのであります。とりわけ、
海上航行におきましては、人命の問題がございまして、最もわれわれが関心を持たなければならぬものでありますが、これに少しでも危険を増すような
状態になる法案について、われわれは賛成するわけにはいかないのであります。
第二の点は、公衆
通信の疎通でありますが、これまた先ほど明らかになりましたように、
現行法においてもなおかつ非常に輻湊して困難な
状態にある地域が
相当多数ある。かつまた、その
船舶は
相当の数に上っているにもかかわらず、この
改正をされますと、一名になってしまう。これまた公衆
通信の疎通上悪影響を及ぼすことはいなめない事実であると考えるのでございます。
第三は、気象観測通報の問題でありますが、これは今日最もはっきりした問題でございます。御承知のごとく、
日本は四面海に囲まれました海洋国でありまして、気象の変化は特に著しいとされております。したがって、気象観測の的確な、かつ迅速な把握は、きわめて重要な国策でなければならぬというふうに考えておりまするが、この法
改正によりまして、この面においても非常な障害が出て参ることが明らかになったわけであります。第四十国会におきまして、和達前気象庁長官は、気象庁長官としても、あるいはまた技術者の立場から見ても、この法案には賛成しがたい、今日気象観測の万全を期することは絶対性を持つものである、ころ彼ははっきりと明言をいたした事実をもってしても明らかだと考えるのでございます。
第四の点は、
船舶に乗り組んでいる
職員が、長い航海のために、家族との
連絡をするというようなことが当然行なわれると思います。そのことが、
船員の士気高揚の上にとって重大な役目を果たしていると思うのでありますが、それは必然的に抑制されざるを得ない。公衆
通信でさえ、法
改正が行なわれた後においては、非常に困難を伴うことが予見できる以上、
船員の電報は明らかに抑制の方向に向けられるであろうということが十分に察知できるのでございます。したがって、今日、
船員の士気を鼓舞する上からも、この法
改正は悪影響を及ぼすということが考えられるのでございます。
以上、私がただいま申し上げましたような点をつぶさに検討いたしまするならば、この際この
電波法を成立せしめることによって大きな障害をもたらすものであり、しかも、この
電波法改正の目的が
海運企業の再建にあるということを考えますると、あまりにも犠牲が大きいのでございます。今日、この
改正法案が提出されたということによって、
船員には著しい動揺を与えておるということを見ても、その点は明らかに証明ができるのでございます。こういう点を考えまして、わが党としては、あくまでもこの法案には反対の
意思を表明いたしたいと存じます。
最後に申し上げておきたいと思いますが、この法案が多数をもって可決されるということになりまするならば、今後四年の
経過期間がございます。その間にあらゆる方途を講じ、私がただいま申し上げましたような欠陥についての除去に万全を期していただきたいということを一言付言しておきたいと思います。
以上終わります。