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1963-03-28 第43回国会 参議院 社会労働委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年三月二十八日(木曜日)    午前十時二十四分開会     —————————————   委員異動 三月二十七日  辞任       補欠選任   丸茂 重貞君   小林 英三君   佐藤 芳男君   大谷藤之助君 三月二十八日  辞任       補欠選任   小林 英三君   丸茂 重貞君     —————————————  出席者は左の通り。    委員長     加瀬  完君    理事            鹿島 俊雄君            高野 一夫君            阿具根 登君            藤田藤太郎君    委員            大谷藤之助君            紅露 みつ君            竹中 恒夫君            徳永 正利君            丸茂 重貞君            山下 春江君            山本  杉君            横山 フク君            杉山善太郎君            柳岡 秋夫君            林   塩君    発議者     高野 一夫君   国務大臣    法 務 大 臣 中垣 國男君    厚 生 大 臣 西村 英一君    労 働 大 臣 大橋 武夫君   政府委員    法務省刑事局長 竹内 寿平君    厚生政務次官  渡海元三郎君    厚生省薬務局長 牛丸 義留君    厚生省援護局長 山本太郎君    労働省労政局長 堀  秀夫君    労働省労働基準    局長      大島  靖君   事務局側    常任委員会専門    員       増本 甲吉君   説明員    総理府恩給局審    議課長     中嶋 忠次君    厚生省薬務局薬    事課長     横田 陽吉君    通商産業省企業    局企業第二課長 青木 慎三君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一  部を改正する法律案内閣提出、衆  議院送付) ○戦没者等の妻に対する特別給付金支  給法案内閣提出衆議院送付) ○薬事法の一部を改正する法律案(高  野一夫君外十九名発議) ○労働情勢に関する調査  (ILO問題に関する件)  (日米賃金共同調査問題に関する  件)     —————————————
  2. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ただいまより社会労働委員会を開会いたします。  委員異動についてお知らせいたします。  三月二十七日、丸茂重貞君及び佐藤芳男君が委員辞任せられ、その補欠として、小林英三君及び大谷藤之助君が選任せられました。     —————————————
  3. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法案を議題といたします。  質疑の通告がございますので、これを許します。柳岡秋夫君。
  4. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 私は、まず、戦争というものが社会において最も大きな罪悪のものであるといわれておるわけでございますが、特に太平洋戦争の中におけるわが国の人的あるいは物的な被害というものは、はかり知れないほどの膨大なものであろうと思います。そういう点について、政府調査あるいは統計等資料が非常に不完全なものになっているというように私は思うわけでございます。そういう太平洋戦争によるところの物的あるいは人的損害、あるいは被害というものがどれくらいになっておるかということについて、もしおわかりでしたら、まずお伺いをいたしたいと、こういうふうに思います。
  5. 渡海元三郎

    政府委員渡海元三郎君) 戦争人類最大罪悪であるというふうな言葉を私も聞いたことがございます。ごもっともであると思います。特に大東亜戦争における被害は、わが国にとりまして、人的、物的に膨大なものであったことは御承知のとおりでございます。ただいまこれらの損害に対する調査がわかっておったら報告しろということでございますが、ただいまここに資料の持ち合せもございません。あるいはそういったものを詳細に調べておるかどうかということも私も存じ上げませんので、後刻よく調査の上、なお、私らに与えられております法律その他に基づいて事務実施の上において、調査を実施しております上に限定しての損害調査等、ここでお答えすることができるようでございましたら、事務当局からお答えいたします。
  6. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) たしか昭和二十四年に、当時の経済安定本部におきまして、いわゆる「戦争被害者の一覧」という資料が出ております。しかし、これは二十四年に出したものでありますので、いわば戦後の非常に混乱の時期に応急的に作成された資料でございまして、これによりますと、たとえば内地だけの戦災死亡者は三十万であるというふうに記録されているのでございます。ところが、長崎広島原爆関係数字につきまして、広島及び長崎の両市の当局から推定して出しました数字は、それだけでも三十三万というような推定数字を公表されているような次第でございます。したがいまして、この一事から見ましても、私は、広島長崎原爆数字が三十三万であるというのは、非常に過大な数字ではないかと思いますが、同時に、当時経済安定本部で出しております内地戦災一般死亡、これは軍人軍属等を除きました、また、外地及び旧日本の領土でありました外地を除きました数字でございますけれども、それにしても、三十万というのはいささか少なきに失するのではないかというようなことでございまして、その後各方面の資料を当たっているのでございますが、そうした一般戦災死亡等につきまして、つまり国との身分的なつながりのないような方についての戦争被害といったようなものについて、今日直ちにもってとり得ると思われるような正確な資料は、遺憾ながら、ないというふうに存じております。
  7. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 遺憾ながら資料がない、こういう御答弁でございますが、今、局長から申されました経済安定本部昭和二十四年の調査によりますと、これははっきりしたものだけの資料のようでございますが、人的損害におきましては死亡者あるいは負傷、行方不明者を含めまして二百五十三万三千人以上の損害を受けている、あるいは物的資産被害等におきましては、当時の昭和二十三年当時の価格の評価に直しますと、実に四兆二千億にも上る膨大な損害を受けている。これは明らかに政府調査したものだけのものでございまして、おそらくこれ以上の膨大な数の損害なり被害なりというもがのあるというふうに私どもは思うわけでございます。したがいまして、私は、こういう戦争がもたらすところの国家的損失というものを考えました場合に、この質問をするにあたりまして、まずもって私は、この戦争の恐怖、あるいは無益というものを深く私どもは認識をして、そうして戦争を防止するということに努めるということがわれわれ政治家の任務であるということを私はここではっきり申し上げ、そうして皆さん方にも、その努力のために一そうこれからの政治の上において努力をするということを確認をしていただきたいと、こういうふうに思うわけでございます。  そこで、そういう不完全な調査のまま、いろいろな戦争犠牲者に対する補償、あるいはその他の援護措置をするということは、やはり一部の組織なり団体の意向に左右をされて、そういう団体なり組織に入っておらない、いわゆる政府がいまだ把握のできない人たちを見落としする、とり残こす、こういう結果にも私は相なろうかと思います。したがいまして、戦争犠牲者というものに対する考え方、あるいは範囲というものを政府はどのようにとらえているか。単に法律上の、たとえば援護法戦争犠牲者はこういうものだ、あるいは恩給法上こういうものだ、こういう形でなくて、そういうものは法文を見ればちゃんとわかるものです。しかし、戦争犠牲者というものは、私はそういうものだけではなくて、やはり広く解釈をすれば、国民全体が戦争犠牲者と言えると私は思うのです。そういうことで、政府としては、この戦争犠牲者というものに対してどういうふうな見方と概念を持っておられるか、それをお伺いしたいと思います。     —————————————
  8. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 委員異動についてお知らせいたします。  本日、小林英三君が委員辞任され、その補欠として、丸茂重貞君が選任されました。     —————————————
  9. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) ただいまのお尋ねにお答えする前に、先ほど申すべきところを落としておりましたので、先につけ加えますが、軍人軍属で海外で死没されました方々は百七十一万二千でございます。また、内地あるいは台湾、朝鮮等、いわゆる旧植民地におきまして亡くなられた軍人軍属が五万八千百でございます。それから、狭い意味内地で亡くなられた準軍属が三万九千でございます。これはややラフな数字でございますけれども、大よその見当をつけていただくには間違いのない数字だと存じております。  次に、ただいまのお尋ねでございますが、確かに先生のおっしゃるとおり、過般の戦争は、いわゆる国民総力戦というふうに当時の政府から言われ、国民それぞれが、それぞれの活動の分野におきまして、非常に国家に忠実であった働きをしておられ、その間、いろいろな職場において亡くなられた方々は非常に多いわけでございます。したがいまして、いろいろ戦争犠牲者というものに対する考えをいたします場合に、そのような広範な全国民対象として物事を考えるということも、当然そうあるべきお考え一つであることは申すまでもないことと存じます。ただ、そうした多くの戦争犠牲者の中で、ただいまも御指摘のありましたように、恩給法なり援護法で特定のものだけについて援護をしておるということでございますが、これはあくまで国家が、犠牲になられた方々のいわば一つ雇用主としての立場から、完全な国家補償をする、あるいは身分的なつながりがやや薄い、たとえば援護法対象についていいまするならば、そういう方々についていいますれば、国家補償精神に基づいて援護するというようなことで、第一次的あるいは第二次的にしかるべきグループの人を拾い上げて法律対象にしておるというのが現行法律の姿であると思います。しかしながら、ただいまもお述べになりましたような、なるべく広く国家処遇をすべきであるという点はもっともなことでございますので、そういう国民の声に応じまして、御案内のように、援護法では準軍属という概念を取り上げ、また、その準軍属概念をだんだん年々広めていく。それから、今回お願いしておりまするように、援護法の改正で、そうした準軍属処遇政府としては大幅に今回改正したつもりでございますが、なお十分でない点ももちろんあると思われますので、今後そうした準軍属範囲及び準軍属処遇の充実につきましては、国会の諸先生方の御便撻を得まして、漸次広めていく必要があろうと存じます。しかしながら、なおそういうふうな策を用いましても手の届かない、たとえば一般戦災犠牲者をとりますというと、これはそのような必要がないとは決して申さないのでございますけれども、現在の援護法は、あくまで国家補償精神に基づいて援護するということで、国が雇用主立場にあったとか、あるいは国がその個人に対して法令的な強制力を用いてそういう部署につかせたというようなグループ、どうしてもそういう範囲を逸脱するわけには、この法律の建前としてはいかないと思うのでございます。したがいまして、一般戦争犠牲者についての何らかの処遇をするということになりますと、現行恩給法なり、あるいは援護法以外の別途の法体系というものを用意する必要があるのではないか、こういうふうに考えられる次第でございます。いずれにいたしましても、現状で決して十分であると考えないということだけを率直にお答えいたしたいと存じます。
  10. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 そこで、政府は、もう二、三年前から、池田さん特有の数字なり、あるいは自信をもって、もはや日本は戦後ではない、戦争の処理は終わったんだ、こういうようなことまで今まで何回か私たちは聞いておるわけでございます。したがいまして、私は、そういう立場から立つならば、戦争による被害、あるいは犠牲者措置、あるいは補償というものは、今、局長が言われたような形ではなくして、全体的な、いわゆる社会保障的な立場に立って、この援護措置、あるいは国民全体の生活の安定、こういうことを考えていくのが私は至当ではないかというふうに思うわけでございます。いわゆる終戦処理的なこういう援護、あるいは措置というものは、戦後十数年、もう十八年になるわけでございますから、当然終戦処理的な措置ではなくして、全体の国民生活を安定せしめる、特に低所得階層生活を、国として責任を持って解消するという、社会保障的な立場でこういう問題を取り上げるべきではないか、こういうふうに思うわけでございますが、幸い厚生大臣も来られましたので、厚生大臣の御所見を伺いたいと思います。
  11. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 私が途中でごさいましたから、ひょっとすると御質問の要点がはずれるかしれませんが、まあこの戦争によりましては、御承知のように、もう物心ともに、多かれ少なかれ、どなたでも犠性者であるわけでございます。しかし、やはり国家経済が成長しまして、だんだん国家に力がつきますれば、その犠性者の中で、やはり国との関係、国の命令によってそれぞれ国家のために働らいたというものにつきまして、これは順を追うてやはり援護国家保障の手を差し伸べるのが至当ではなかろうか。今までの経過を見ましても、やはり戦没者遺族、その他順を追うてきているのでございます。今、先生の御指摘のような、非常に低所得者のある今日において、やはり全般的にはそういうものを取り上げてやるべきではないかというお説でございまするが、もっとも、それらの方々につきましては、社会保障観点から進むべきものもありまするけれども、また別な国家のために殉じたという意味で、国家保障をやはりやっていくものもあっていいわけだと思うわけでございます。したがいまして、これはやはり事柄によって判断をいたさなければしょうがない、そのように思っておりまするし、低所得者方々については、これはまたほんとう社会保障の面から十分な施策を講じていきたい、かように考えている次第でございます。
  12. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 私も、たとえば戦争未亡人に対するこの特別給付金の問題について、戦没者の妻に対して、国家保障精神からこういう施策を行なう、こういうことについて私は理解はするわけで、できないということではございません。しかし、今申し上げましたように、池田内閣は、常に社会保障というものを三つの公約の一つと、いわゆる重点施策として、あらゆる機会に国民に向かって約束をしているわけです。したがって、こういう全体の社会保障制度の中に占めるこれらの特別な措置が、どういう関連を持って今後社会保障制度全般の中に体系をつけていくのか、こういう点をやはりこの際私は明確にしていただきたいと思うわけです。まあ厚生大臣も、当初の所信表明の中で、今後の社会保障制度の構想なりについては、一応述べられております。しかし、これらの新しい、今度できるようなこういう法律、これを今後全体の社会保障制度の中に、どういうふうにして体系をつけていくのか、全体との関連ですね、どういうふうにお考えになっているのか、こういう点をお伺いしたい。
  13. 西村英一

    国務大臣西村英一君) ちょっと御質問の点ではっきりしないところがありますが、この今回の未亡人給付金の問題は、スタートが全然違うのでございまして、これはほんとう未亡人方々に対する過去の労苦に対する慰謝をやろうということでございます。しかし、御承知のように、未亡人でございまするから、寡婦、あるいは母子家庭ということになっているのでございまして、これらの方に給付金をやることは、これは決して社会保障と逆行するものではございませんが、もともと考え方は、食えないからというような、そういう意味のことは第二義的なものでありまして、あくまでも今回の法律は、第一義的に、戦争に対する特別な事情に置かれた慰謝、それは社会保障観点から考えましても、決して逆らうものではないわけであります。しこうして、柳岡先生の言われる、池田内閣社会保障政策を推進しておるから、もっとそれをやるべきではないか、この問題を社会保障の中に、どういうふうに体系づけるかというふうな御質問であろうと思われますが、そういう御質問でございますれば、社会保障の中にこの問題を体系づけるというようなことは、ちょっと今のところ非常に考えにくいのでございます。社会保障は、あくまでも社会保障といたしまして進めていきたい。御質問趣旨がわかればいま一度お答えしたいと思いますが、今の御質問については、さように一応お答えをいたしておきます。
  14. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 私は、前提として、先ほど申し上げましたように、もはや戦後ではないのだ、したがって、こういう問題については、全体の国民生活の安定、特に低所得階層生活の向上、こういう面からの取り上げ方というものが、私は妥当な今後の行き方ではないか、そういう意味から、社会保障制度一環として、こういう問題も取り上げていくべきではないかと、こういうふうに思っているわけです。これに対して、大臣のほうは、社会保障制度とは別なんだ、別な立場でこの問題を取り上げたのだと、こういうふうにおっしゃるわけですね。そうしますと、その考え方が私どもと若干相入れない。したがって、別な形で出したということであれば、たとえばその提案の説明だけでは、私どもはまだ納得できない面があるわけです。たとえば昭和三十八年四月一日以降の者だけしか出さないとか、あるいは昭和十二年の七月七日以降のということで制限をされているとか、あるいは、また、この法案の適用になる以前に死亡した戦没者の妻に対しては何らの措置考えておらない、こういう点が私は矛盾をしている。少なくとも、一身同体であった夫を亡くして、そうして戦後非常に苦しい生活をしてきた未亡人方々に対して、その慰謝料としてこの二十万円というものを出すのだということであれば、私は、四月一日以降というようなことではなくして、あるいは昭和十二年七月七日以降ということではなくして、あるいはまた四月一日以前に死亡した人に対しても、これは万全の調査をして、そして同じように出すべきではないか。もし期限を切るとなれば、私は、この際、全体的社会保障制度の中の一環として、いわゆる低所得階層生活の安定という面に力を入れて、私は、全体的な社会保障制度とともにこういう問題を取り上げていくべきじゃないか、こういうふうに思っておるわけです。
  15. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) ただいまの大臣のお言葉をちょっと補足さしていただきます。柳岡先生の御指摘の基本的は問題は、一般社会保障の諸制度の上に、こうした戦争犠牲者のうち、まあ全部ではございませんが、国家的なつながりのある直接的なものを拾い上げて特段の処遇をすること、この二つの問題をどうかみ合わせるかという基本理念の解明がまず第一に要請されておると思いますが、御案内のように、社会保障制度の非常に進みました西ドイツにおきましても、あるいはイギリスにおきましても、一般国民に対する最低生活保障を基礎とする各般の制度のほかに、今次の大戦によりまして、傷つきあるいは亡くなられた人に対する処遇は、純粋に国家補償の問題として、別の制度として現存するのでございます。したがいまして、現在わが国におきましても、恩給法なり、あるいは遺族援護法なり、あるいは旧令共済特別措置法といったような、特別の法域を設けまして独特の処遇をしておりますゆえんのものは、そうした一般社会保障制度理念とは別個の理念に立ちまして、国が雇用主立場として、あるいは国が公権力を発動してその人を傷つかせ、あるいはその人を死に追いやったという直接的な責任にかんがみまして、これに対して国家補償ないしは国家保障精神に基づいた援護をしようという趣旨でございます。したがいまして、幾ら社会保障制度が進みましても、こうした特別の原因に基づく特別の処遇をするという法域があることはやはり必要なことではないか、こういうふうにまず基本的に考えます。  それから、次に、具体的な問題として、今次の戦没者の妻に対する給付金取り上げ方がすっきりしないのではないかという御指摘がございましたが、この点につきましては、いろいろ御指摘のような点を入れた考え方が全然成り立たないというふうには考えませんけれども、御承知のように、戦没者の妻につきましては、公務扶助料なり、あるいは遺族年金なり、あるいは殉職年金といったそれぞれ元の身分によりまして異なりますけれども、いずれにしても、その生活保障的な分野に関する年金というものは支給されておるわけでございます。したがいまして、単に非常にそうして犠牲者の中で困っておる人があるということだけでありますれば、ただに妻だけではなくして、老父母といったようなものも当然対象にしなければならないわけでございますが、今回は妻だけにしておる。しかも、妻のうちでも、今次の敗戦につながる戦争によって亡くなられた戦没者の妻だけを取り上げておる、これはおかしいではないかという考え方もあろうと思いますが、今回この給付金法が必要だと考えましたゆえんのものは、やはり今次の敗戦につながる戦争によって亡くなられた戦没者の妻を考えまするというと、昔のいわゆる勝ちいくさと称された時代の遺族援護状況と比べまして、非常に、お気の毒な事情におかれたと思うのであります。国にしても、あるいは都道府県にしても市町村にいたしましても、あるいは近隣の人々の心の持ち方自体が、かつての戦争と今次の戦争とは非常に違いまして、いわば昔は名誉の家としてのあたたかい社会的な手に包まれておった。ところが、今次の敗戦におきましては、戦争を否定する一般的な風潮のもとに、そうした罪なき戦争犠牲者それ自体が世にうとまれるというふうな状況に置かれてきた。したがいまして、戦没者の妻は、一面、いわゆる靖国の妻といわれたような心理的な拘束を受けながらも、客観的にはあたたかい手で援護をされなかったというのが一般的な実情でございます。したがいまして、今次の戦争下において一心同体という夫を失ったという、先ほど大臣の言われました特別の精神的な苦痛に長年沈淪させたことに対する償いとして、国がこの際慰謝をしようということで、先ほど申されたような線で戦没者の妻の範囲をきめたわけでございます。そういう次第でございますので、一時金である慰謝を今出そうとすると、どうしても現存する妻だけをとらえなければいけないということで、一つの線の引き方としては、この法律施行を予定いたしました四月一日に生きている戦没者の妻、これだけを取り上げざるを得ない、こういうことにした次第でございます。
  16. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 関連して。私は、さっき厚生大臣が発言なさったときに関連をして発言をしようと思ったのですが、その柳岡委員の御質問に対して、社会保障的なものではない、戦争犠牲者未亡人に対する慰謝である、こういう工合に大臣はおっしゃった。社会保障に対する将来のあり方というものは、私はここで議論をいたしませんけれども、しかし、戦争犠牲者、特に未亡人に対する慰謝ということであれば、私は、この法律はもっと端的に摘出しなければいかぬのじゃないかという気がいたします。一つの面では、四月一日以降は、本人がたとえば亡くなったときには、相続受継の問題は、権利として民法の相続権につながっていくということになると、慰謝という考え方からまるではずれるような場合も出てくる、それでも金は支給するということになっております。そういうことになると、たとえば極端な例をとって、これが戦争が終わってから一、二年というときに切られるならそういう問題は出てこないと思いますけれども、三十八年三月三十一日に——これは極端な話ですが、三十七年の暮れでもよろしゅうございます。それまで未亡人として非常に苦労されお亡くなりになった場合もあります。それから、また、それに耐えて再婚か内縁関係を結ばれた方もあり得る、そういう場合には何らこの法律援護処置がないですね。そうなると、何を目的として——戦争による未亡人犠牲に対する慰謝としてお出しになるその論理と立論をおつけになるならば、民法上の相続受継ということになっていいのかどうかということを、私は大臣の御発言を聞いておると、疑問に思うわけです。ここらあたりは、この立案をされたときにどういうおつもりでされたのか、これはある時点を切ってやらなければならぬということになったんだと思いますけれども、それには少し今のようなことを法律との関係において理解がしにくいのではないか、私はそう思う。
  17. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 実は慰謝でございまして、でき得れば一時金で本人にやるべきところなんであります。しかし、それを十年に分けてやるということは、やはりこれは一時金の性格でやるので、したがいまして、その方が亡くなったときには、それを継承するという考え方がすなおな考え方じゃなかろうかと思われるわけでございます。純粋な公平論からいきますと、死んだ方はどうするかとか、いろいろあると思いまするが、やはり法律でございまするから、やはりある時点をつかまえてやらなければなりません。できれば一時金でやるところを、もうそれを国債で十年でもって支払うんだということでありますので、別に今、柳岡さんの言ったことであまり疑問が起こらないと私は思うのですが、さように私は考えておる次第でございます。一時金でございまするから、それは継承するのだと、個人にやり切りのものだと、こういうふうに考えたのでございます。
  18. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 一時金だからいいのだとおっしゃるけれども、十年の間に分割で政府は支給するわけでしょう。ですから、民法上の相続受継という問題が出てくるわけです。実際問題として。そういうことになると、場合によったら、十年の期限の中で、一度出したんだから返らないという式でいけば、犠牲に対する慰謝という考え方からはずれた給付という問題がたくさん出てくるのではないか。そんなことなら、その以前十七年間ですか、苦労された方は、戦争犠牲に対する慰謝という問題であれば、それは長いとはいいませんけれども、相当な期間、その人に対する慰謝措置はどうするかということになったら、厚生大臣どう答えますか。
  19. 西村英一

    国務大臣西村英一君) そうい議論が全然ないわけではございませんし、たとえば死んだら、それは本人それ自身の慰謝であるから、打ち切るべきである、あるいは再婚したら、それは打ち切るべきではないかという意見が全然ないわけではございません。しかし、まあ慰謝としてあげたからには、やはり本人の過去の労苦に対する慰謝でございますから、本人が幸福になるには、本人のそれぞれのつながりにおいても幸福になることが本人の幸福にもなりましょうから、そういう意味で、やはり一時金的性格において、もう本人にこれはあげたんだということのほうがよりいいんじゃないかと、こう考えるわけでございまして、今、藤田さんのおっしゃいますような議論も、全然ないわけじゃございませんので、死んだら打ち切るべきじゃないか、あるいは再婚したらあげなくていいんじゃないかというような議論もないわけじゃございませんが、まあ私はそういう方法をとらないで、それは本人の幸福のために、やはりあげ切りにしたほうがよかろう、こう考えた次第でございます。
  20. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は、戦争犠牲になられた方々に、慰謝を含めて、給付をしようというということについて反対しているわけじゃないんです。あまり極端な議論をしたくないから遠慮しておったのですが、今の大臣のお答えを聞いていると、たとえば同じ再婚でも、三月三十一日の再婚はゼロ、四月一日、二日の再婚は二十万円、そういう極端な議論までせざるを得ぬことになるわけですね。一時金だからといって、一時に全部払うわけじゃなしに、十年間の年賦で給付していくわけですから、私は後段の今の法律上の問題を今ここでとやかく言わない。だから、前段の問題の考慮があってしかるべきじゃないかという議論をしているわけです。今法律上、せっかく厚生省や皆さん方努力をされてここに持ってこられたんだから、これについて私は今とやかく言いたくない。しかし、四月一日以前の方々に対する援護措置というものを私はお考えにならないと、これはもう世論が沸騰するのじゃないですか。単に一時金だからということだけでは説明がしきれないのじゃないですか。私はそう思う。だから、そういう点は、厚生省は、以前の戦争犠牲者に対する慰謝を含めて、援護措置をこれからやる。この法律法律として通すが、何らかの形で考えていこうということであれば、私は、今この法律に付け加えてどうせいこうせいという議論はあまりしたくない、あなたも努力をされてきたのであるから。しかし、以前のことは触れないで、一時金だからということだけでおっしゃるならいろいろ問題がある。今後以前のことについては、それじゃ援護の問題は調査の上考えましょうということなら私は話はわかる、あまり議論をしたくないということです。
  21. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) そういう考え方も十分あり得ると思うわけでございます。今回政府考えましたのは、大臣も先ほど申されましたように、一時金としての本質は、一時金としての慰謝を今日の時点においてする必要があると考えたのでございます。したがいまして、一つ法律の施行日でありますときに、いわば国が頭を下げるという行為をとるわけでございます。したがいまして、そういう時期にその対象である戦没者の妻を取り上げようとしたわけでございます。先生指摘のように、この法律施行前に亡くなられた方、極端にいえば一日前にお亡くなりになった方もございます。しかし、これはたとえば援護法処遇におきましても、やはり昭和二十七年の四月という時点をとらえまして遺族援護処遇がとられております。たとえば有給軍属処遇等を見ましても、やはり一つの時点がございます。それで、制度として一つの線を引きます以上、それに近接する時期における同類の人と比較いたしますと、すべて諸制度は非常にお気の毒なケースが起こり得るのでございますけれども、国の意思として、この時点において慰謝をしようということになりますと、どうしてもある時点における生存の対象者をとらざるを得ない。藤田先生の御指摘のような考慮は非常に大事なことであると存じますが、まあそういうふうな過去において亡くなられた戦没者の妻にも着目いたしますというと、結局具体的に戦没者の子あるいは親といった人を給付の対象にするということになりますので、やはり一心同体の夫を失った精神的苦痛をなめてきたその人を直接の対象にするという今回の法律の基本的な立場から見れば、そうした親や子もあわせて対象にするという、また変わった法律の立て方を基本的に予定せざるを得ないのじゃないか。それじゃ後段のほうとの矛盾があるのじゃないかという先ほどの御質問につきましては、大臣が申し述べましたように、これから亡くなっていった人はもうやらないというふうに、過去とあわせてそういう考えも出ると思いますけれども、やはり一時金であるという理屈を抜きにいたしましても、戦没者の妻が亡くなったときにはもらえなくなるのだという建前にいたしますと、結局個々人はいつ死ぬるかということはだれも予知できない。そうすると、大げさな言い方をいたしますと、戦没者の妻の全体が、総体において具体的にどれだけ慰謝を国からせられるのかということが感覚的につかみ得ない、非常に不安定な、不確定な給付内容の慰謝を受けるというようなことで、やはり理屈を抜きにしても、妥当でないということで、法律施行後の妻ははっきりとした二十万円をもらい得る権利を確保するものとして安心させたいということで、死亡失権とか、あるいは再婚による失権ということを認めないことにした次第でございます。
  22. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 どうも大臣あるいは局長説明では、そういう特別な法案を作ったということに非常に納得ができにくいのですよ、いろいろな面で。たとえば一心同体の夫を失ったそういう未亡人方々精神的苦痛に対して慰謝をするんだということですよね。そうすれば、一心同体未亡人と同じように、私は、一心同体、しかも、血のつながった親になぜそれじゃあ慰謝をしないのかという問題も出てくると思う。今回こういう問題について、援護法の中の改正によらずして、単独立法をなぜ作らなければならなかったかというような問題もあると思うのです。したがって、こういう問題からして、今盛んにこの戦争犠牲者援護措置について、あらゆる団体が、御承知のように、政府に対して陳情なり要求をしております。たとえば農地補償の問題もその一つだと思う。私は、農地補償については絶対反対をしたいと思うのですけれども、たかが八十八万戸の被買収農家に対して、一町歩当たり四十万円の補償をしよう。また、補償でなくて報償だと、こう言っておりますけれども、これは総額にしますと二千八百五十億円ですよ。ところが、戦争未亡人に対する慰謝料は幾らですか、約四十四万人、二十万にしても八百八十億円、倍にしたところで農地補償に対する総額よりも下回わるのです。これはいずれば未亡人の方からも、こういう面では不満が出てくるでしょう。あるいは引揚者の問題、あるいはまた在外資産の問題、いろいろあると思います。特に在外資産問題については、もうすでに一万二千円ですか、そういうものを補償して、交付公債というものを支給しておるようでございますけれども、これについても、その当時の法律のできたときには、いわゆる在外財産の問題調査会の答申の中では、在外資産のある多くの国とは国交未調整であるから、在外財産の金額と関係のない社会保障的なもの、こういうふうな答申の内容になっているわけですが、それを受けて一万二千円という、総額約五百億の交付公債を出しておるわけです。したがって、当然これらの団体は、今新聞にも報道されておりますように、一人当たり相当な額です。たとえば補償要求として三十万円、総額一兆二千億円というような補償をしろ、こういうことも出てきているわけでございます。こうやって、私は、非常に不明確な、国民全体が納得のできないような中においてこういう問題を処理するということになりますれば、次々と戦争犠牲者補償要求が出て参りまして、おそらくそういう洪水の中に日本というものは沈没してしまう、私はこういうふうに思うわけでございます。したがいまして、今後の処理としては、あくまでも戦争犠牲者の実態というものを十分に政府調査をして、そうして国民の納得する、いわゆる社会保障制度一環として、こういう援護措置、あるいは戦争犠牲者に対する対策を立てなくちゃならぬ、こういうふうに私は考えるわけでございます。  そこで、具体的な問題に若干入って参りたいと思います。まず、この特別給付金の支給に際して所得制限を考慮されなかった理由、これはまあ先ほどの説明慰謝料だ、こういうことでわかるのでございますけれども、そういう理由、あるいは今申し上げましたような、戦没者の妻以外の遺族との不均衡についてどう考えるか。それと、もつ一つは、先ほど申し上げましたけれども、この法案の適用になる以前に死亡した戦没者の妻に対して今後どうしようとするのか、この三点についてお答えを願いたいと思います。
  23. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 所得の制限をつけるかどうかということは、新聞で御案内のとおり、政府で非常に長く時間をかけまして、十分検討議論をしたところでございます。しかしながら、大臣が申されましたように、困っておるということに着目するならば、ただに妻だけでなく、御指摘のように、親や子の中に、なかんずく老父母なんかにつきましては、十分考慮すべき気の毒な方々があるわけでございます。したがいまして、今回の給付金は、あくまで長年靖国の妻としての誇りも与えられず、客観的には非常に冷たい社会の底に沈淪しておった、しかも、その気の毒な遺族の中で、とりわけ一心同体ともいうべき夫を失った妻、その中には非常に若い方々が多いわけでございますが、そういう特別な不幸な事態にあった妻に対する特別の慰謝というふうに考えたいということに徹したわけでございます。したがいまして、こういうふうな考えをとりますというと、所得制限をつけることは必ずしも妥当でないということでございます。その他、先ほど藤田先生からと柳岡先生から、今後の問題として考慮すべき諸点についての御意見がござ  いましたが、この点については大臣からお答えがあると存じます。
  24. 西村英一

    国務大臣西村英一君) たとえばその一人むすこを死なした親たち、そういうような者から見ますると、今度の未亡人に対する交付金の問題には、感情上、いろいろな感情があることも私は十分わかりますし、御質問のある趣旨もよくわかりまするが、そういうことにつきましては、これからも国民感情等も、大いにその推移等を考えまして、慎重にやはり取り扱っていきたいと、かように思っておる次第でございます。
  25. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 さらに、運営上の問題について二、三点お聞きしたいのですが、まず、一つは、生活保護法の適用を受ける場合、この特別給付金との調整はどうういふうに考えておられるのかということが第一点。  それから、第二点は、特に低所得階層戦没者の妻の方が、政令で定める国民金融公庫、こういうところの指定機関で特別給付金を担保として資金を借り受けることができるのかどうか、あるいはその際、もしできるとすれば、現在どのくらいの対象者数を予定し、また、貸付金額等についても、政府としてはどのくらいの予算的な措置考えておられるのか。  それから、第三点としては、この国債を無利子とした理由ですね、いわゆる全然利子のつかない国債ですね、こういうものは過去には私はないと思うのですが、無利子とする国債が過去にあるのかどうか、その三点をお聞きしたいと思います。
  26. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 第一点だけは私からお答えいたしまするが、生活保護につきましては、原則として、一切の収入は収入認定をいたしているのが原則でございます。しかしながら、この交付金の性格は非常に特殊なものでございまして、この交付金は生活保護費の収入認定にはいたさない、こういうことで大体きめている次第でございます。しこうして、生活保護者もこの中には何人かございまするが、生活保護者につきましては、これは国債の買い取りということにつきまして、ただいま私どもは大蔵省と交渉いたしております。そういう場合でありましたときに、国債を一時買い取る。しかし、その買い取って使う金は、本人の自立更生、あるいはこの金の目的に沿うような戦没者慰謝というようなときに使われる場合に限ってこれを収入認定をいたさない、こういうことが妥当ではなかろうかと、かように考えている次第でございます。あとの二点は政府委員から御説明申し上げます。
  27. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 第二点の、国債の買い上げ、あるいは担保貸付の点でございますが、御指摘のように、政令で定めることにいたしてございます。このうち、買い上げにつきましては、ただいままで財政当局と話し合っておりますのは、引揚者給付金なり、あるいは遺族に対しまする弔慰金、国債の場合等を参考といたしまして、まず生活保護世帯、あるいはそれに準ずるような困窮者、それから、非常に大きな災害を受けた場合、こういう場合が買い上げの場合として大蔵省の省令に基づく告示が出ているわけでございますが、大体そういう場合をこの場合についても考える必要があるんではないかということで、目下準備をいたしているところでございます。  それから、次の担保貸付でございますが、これは生業の計画を持つ、いわゆる生業資金として貸すという場合だけが国民金融公庫の担保貸付の例でございますので、今回も、もちろん国民金融公庫の性格から見まして、この受給者がこの金で具体的な生業計画をお立てになるという場合にお貸しするというような制度を講ずる必要があると存じます。ただし、本年度は、十一月ごろになりまして一番早い月の第一回目の給付金が出るようなことがございまして、予算の終りごろにこの給付金についての政府、与党の見解が固まりましたような関係もありますし、しまして、三十八年度については、担保貸付は国民金融公庫の手当をいたしておりませんので、三十八年度については考えない、三十九年度から考えるということにいたしたいと考えております。といいますのは、この給付金をもらう方々は、すでに公務扶助料なり、あるいは遺族年金等をもらっている人でございます。そういう基本たるべき年金について、すでに買い上げなり、あるいは担保貸付の制度が現在出ているわけでございますので、本年度の終期に直ちに担保貸付を始めなくても、何といいますか、直ちにもって困るというようなことはないと思いますので、担保貸付は三十九年度から考えたい。買い上げの場合は、準備の整い次第考慮したいということで、現在財政当局と話を詰めているところでございます。  それから、どのくらいの対象を予定しておるかということでございますが、実は率直に申しまして、こうした戦没者の妻についての家庭調査のごときものはございません。したがいまして、生活保護世帯がどのくらいあるということはよくわからないのでございますが、たとえば三重県の例をとりますというと、大体八百人くらい対象が見込まれるのでございます。その場合に、現在生活保護法を受けておりまする者は、生活扶助者が四人ございます。それから、医療扶助を受けておる者がたしか四十四人だったと思います。三重県が全国の例になるかどうかわかりませんが、こういう数字から見ましても、そう多い数ではないのじゃないかというように一応推定いたしております。  それから、第三点の、無利子にした理由でございますが、御指摘のように、現在の国債で、個人に交付しない国債については、二、三利子をつけない例はあるそうでございますが、個人に交付する国債といたしまして無利子とするのは今回が初めてでございます。そういう初めての例である無利子としたのはなぜかということでございますが、結局これは一応常例に従いまして、一定の元本をつけまして、それに利子をつけて交付するという形も十分考えられたわけでございます。たとえば、かりに元金を十五万円にいたしまして、遺族国庫債券のごとき、六分の利子をつけまして計算いたしますると、ほぼ今回のような額に匹敵するわけでございます。したがいまして、そういう元本のつけ方をして利子をつけるという常例でいくことも、一つの案としてはあったわけでございますけれども遺族の感情からみますというと、やはり額面二十万円というような考え方のほうが望ましいという、多くの遺族感情に沿うような意味で、非常に異例ではございますが、額面を二十万円にして利子は付さないということにした次第でございます。
  28. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 関連。先ほどの援護局長の私に対するお答えは、私は納得がしにくいわけです。まあ関連ですから今お尋ねをするわけでありますけれども、私が先ほど言いましたように、この問題は、今の法律ができて、いろいろな配慮をされておるわけでありますから、この問題に触れない。しかし、その一つ一つを洗っていきますと、四月一日を基準として、非常に問題がたくさんある。私は一つ一つあげません。そういういろいろな問題がありますから、四月一日以前の問題についても、私は、今後厚生省としては援護措置を十分研究し、実情調査の上考慮する、こういうおつもりがあるかどうかだけお聞きしておきたい。
  29. 西村英一

    国務大臣西村英一君) もうすでに対象がないのでございますが、十分御趣旨の点、私もわかりますので、厚生省といたしましては検討をして参りたい、かように考えております。
  30. 阿具根登

    ○阿具根登君 一、二点ひとつ。この法律対象になる方々は約四十四万人ということですが、対象にならない、いわゆる今日まで不幸にして死亡された方々未亡人、その数はどのくらいありますか。
  31. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) これは推定するにも非常にむずかしいのでございまして、過去の恩給なり、あるいは遺族年金遺族給付金等を受けておりまする人で、すでに亡くなった人を調べて、一々拾い上げないとわかりませんので、的確にはお答えできませんが、おそらく数万という程度と思います。十万をこえるといったような数字ではないと存じます。
  32. 阿具根登

    ○阿具根登君 私も数字をつかんでおらないから、これで論争はできないけれども、私はそういう人数ではないと思う。対象にならない者については非常に研究が不足しておる、こういうように私は考える。  それから、大臣お尋ねいたしますが、これは未亡人に対する慰謝だ、慰謝料だ、その気持は私はわかります。それは階級のいかんにあろうと、一心同体である夫の死亡で妻に与えた打撃というものについては、私は甲乙をつけるべきじゃない、そのことはわかります。ただし、国がやる場合、一方は、職業軍人として、それで一家をささえておった方、一方は、軍人を絶対志望しておらなかった、戦争に行きたくない、たとえば農民なら農民の主人を引き出して、そうしてその人は死んでおる。与えられるショックというのはどちらが大きいか。また、職業軍人で指導的な立場にある方は、相当な恩給の差というものがある。恩給をもらっておる。ところが、軍人を志望しなかった者はほとんど恩給をもらっていない、それはわずかなものである、そういう差を国家自体が認めておるわけです。それは一体どうお考えになるか。  それから、もう一つ、たとえば空襲等で軍人でない方が東京なり他の都市で亡くなって未亡人ができておる。こういう人たちはもっとショックが大きかったかもしれない。精神的に申し上げるなら、軍人勅語は御承知のとおりです。職業軍人という者は死ぬことなり、ここまで教えられてきたわけだ。それを覚悟しておるわけだ。一方、はいやいやながら引っぱられておる、一方は、全然戦地に行っておらない、そこで死んだその人に対する慰謝はどうお考えになっておるか、その点について大臣の御答弁をお聞きしておきたい。
  33. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 現在の恩給法その他の建前からいきますれば、やはり階級に差をつけてやっておる、その点を君はどう思うか、こういうお尋ねでございまするが、これにつきましては、今までの制度を私はこれは認めざるを得ないと思います。しかし、今回の交付金は、そういうあなたのおっしゃるような感情もありまするし、また、人によって差をつけるべきじゃない、また、多少社会保障とは違った意味もあるからといって、全部の人を調べて公平に交付するということになり、しかも、そのうちで生活保護を受けておる方々は公債をも特別に買い取ってやろう、こういうことにいたしたわけでございまして、従来の制度の批判は別といたしまして、今回の交付金につきましては、さような点も十分考慮して参ったつもりでございます。
  34. 阿具根登

    ○阿具根登君 大臣が後段でお述べになりましたように、私は、今階級差の問題を云々しておるわけじゃないのです。国がそれだけ階級の差を設けて処遇をしておる現実です。それを私は申し上げておるわけなんだ。そうすると、結局所得差というのが一番公平になってこないか、こうなるのです。同じ戦争犠性者だって、一方は、自分の指揮によって人を殺すことのできる人なんだ。一方は、自分の意思を一切言うことができずして死んでいく人なんだ。大臣戦争に行かれたかどうか知りませんけれども、私は十年間行ってきましたので、よく知っております。だから、そういう点を考えてもらいたい、こう思うのです。  それから、先ほど申し上げました軍人軍属以外の戦争犠牲者未亡人慰謝はどう考えているか、この問題が一つ。  それから、これは政府がどうお考えになっているか知りませんが、この法律が施行されますと、その後結婚される方は、これはいただけるわけなんですね。ところが、戦争後十八年もたっている。結婚される方というのはわずかなものと思うのです、年齢から考えて。これは常識だから、あるいは違うかもしれませんが、そうしますと、今日までそれじゃ非常に苦しさに耐えかねて結婚された方、こういう方々は何も対象にされない。先ほど藤田君のほうから話がありましたから重複と避けますが、死なれた方、それも一番苦しい時期、あの終戦直後、それから四、五年の間一番苦しい時期に、あるいはそのショックがもとで短命な生命を終わられた方もあるかもしれない。こういう方々等のことも考えれば、これで結婚されてもあげますよというのは、何かごまかしのような気がする。この四十四万人の方は、もう相当な年配の方が多いと思うのです。そうすると、結婚されるという方はわずかなんです。今日までに結婚された方が大多数であると思うのです。だからそういう点で、慰謝料である、慰謝である、一心同体の夫に死なれた妻のショックというのは一律であるべきであるというきれいなことを言っておりながら、なるべく金のかからないように、ただ現存しておられる方を喜ばせるだけの、私は非常に卑怯な処置だと思うのです。慰謝であって所得差もつけない、人間個々の赤裸々の精神的な面から見れば皆同じじゃないかという考え方ならば、私はそれに賛成いたします。それならば、今日まで亡くなった人、今日まで結婚した人、それも余儀なく結婚された方がたくさんおありです。その方々慰謝はだれが持つか。そういう方々は該当しない。こういう問題はどうお考えになりますか。
  35. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 一般戦災者の方々に対しましても、まことに気の毒ではございますが、しかしながら、これは現在の援護というのはそういう点まで及び得ないのでございます。この点については議論もいろいろあろうかと思うのでありまするが、なかなかそこまでの援護の手は差し伸べ得ないのであります。一体、過去において、あまりの苦しさに結婚している人もあるじゃないか、そんな人には全然これはあげぬことになるじゃないかというような御意見もあります。また、そういう方も確かにあるだろうと思いますが、現在でも、結婚している方々は恩給の対象にはなっておらないのでございまして、したがいまして、これは今回の対象からはずしたのでございますし、死亡者につきましては、これはやはり現在している人を対象にしなければ、これを死亡者にまで及ぼすということは、ほかの観点からまたいろいろ考えなければならん。検討はいたしますが、今回はそこまでの考えは及ばなかったのでございます。
  36. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ちょっと私も質問いたしますが、今のお答えと、先ほど藤田委員に対するお答えと、若干違っているように思うわけですが、先ほど藤田委員に対しては、こういう言葉ではございませんが、私は次のように了解したのですが、いかがですか。本法施行前の戦争未亡人について、その死亡、再婚の者についても、本法の趣旨に照らし、はなはだしく不均衡にならないように、慎重に考慮を今後していくのだ。大臣のお述べになられた意味は、今私が申し上げた内容ではないかと私は拝聴しておったのですが、それでよろしいでしょうか。
  37. 西村英一

    国務大臣西村英一君) この現在の交付金法案対象以外の人でありましてもいろいろな問題がありまするから、十分検討はしていきますと、こういうことを申し上げたのでございます。その均衡をどうとか何とかいうことは、十分問題になるところを検討していきたい、かように申し上げた次第でございます。
  38. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 私に与えられた時間がもうあまりありませんので、次に援護法の問題に入りたいと思います。  今度の援護法の提案理由の説明によりますと、今日なおこれらの援護施策に不均衡、不十分な点もあるやに考えられましたので、種々検討を重ねた結果、これらの援護措置の改善をはかることとした、こういうふうになっておるわけでございますが、今回の改正案で、漏れなくこうした不均衡、不十分な点が考えられているのかどうか、こういう点がまず一つです。で、この点をひとつ先にお伺いしておきます。
  39. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 準軍属軍人軍属との間の処遇の幅を縮めるということにつきましては、多年国会におきましても非常に鋭い御批判があり、特に昨年の当委員会の附帯決議にも、是正すべきであるという全会一致の決議がございました。そういう次第を勘案いたしまして、私どもといたしましては、実は問題によりましては、非常に長い間の懸案を相当思い切って片づけたつもりでおります。したがいまして、今日この法律を通していただきますと、軍人軍属と準軍属との間におきましては、いわゆる遺族年金遺族給与金の額が違っております。遺族給与金は遺族年金の半額である。この点を除きましては、たとえば父母についての遺族要件の統一とか、あるいは戦時災害の撤廃といったような、今までなかなかやれなかったこと、あるいはもっと大きい問題といたしましては、遺族給与金は五年間だけしかやらぬといったのを年金にいたしましたこと等によりまして、その額が半額であるということ以外につきましては、全部落着したといってもいいと考えております。
  40. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 私は、全部落着をしたといっておりますけれども、まだまだ数多くの不均衡、不十分な点があるというふうに考えております。以下五点について、こういう点についての考え方をお聞きしたいと思いますが、まず、第一点として、遺族給与金の額の引き上げですね、今申されましたけれども、これは半額ということになっておりますけれども、これはやはり軍人あるいは準軍人が平常死した場合の遺族年金の額の十分の六、こういう額と同額とすべきじゃないか、こういう点が第一点です。  それから、第二点は、第一順位者の遺族年金の問題でございますけれども、これは制度が発足して以来、ずっと兵の階級の公務扶助料と同額という原則であったろうと思うんです。ところが、第四十国会におきまして、この扶助料が七万二千四百円、こういうふうに改正されておりますけれども、やはりこの法律遺族年金も、少なくとも七万一千円というような額ではなくして、この際、この公務扶助料と同額にすべきじゃないか、こういうふうに考えております。  さらに、また、援護法の第四条の二には、「昭和二十年九月二日以後海外から帰還し復員後遅滞なく帰郷する場合に、その帰郷のための旅行中において、自己の責に帰することができない事由により負傷し、又は疾病にかかったときは、」公務上の負傷または疾病とみなしておるわけでございますけれども、入営とか、あるいは応召、そういう途中、また、そうでない以外の帰還途上者についても私は同様の取り扱いをすべきではないか、こういうふうに思います。  さらに、第四点としては、準軍属範囲の拡大でございますけれども、たとえば防空法に基づく防空監視所に従事しておった者は、これは除外されておりますけれども、やはり援護法上の準軍属とみなして、その遺族に対して遺族給与金というものを支給すべきではないか、こういうふうに思います。  さらに、第五点としては、特別弔慰金の支給範囲の拡大でございますが、  いわゆる三十四条第二項の規定により  まして支給されております特別弔慰金、これは少なくとも昭和二十年の九月二日以降、内地において未復員中に疾病にかかったとか、あるいは死亡した、そういう場合も私はこの特別弔慰金等は支給すべきではないか、こういうふうに考えておりますけれども、こういうやはり不均衡、不十分な点もあるわけでございますから、こういう点についての考え方をひとつお伺いしたいと思います。
  41. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 私から、こまかい点がございますので、お答えいたしまして、あとで大臣から総括的に述べさしていただきます。
  42. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 端的にお答え下さい。
  43. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) まず、第一に、遺族給与金を、せめて平常死の、あるいは特例扶助料等の十分の六程度に上げるべきではないかという御意見は、私ども非常に傾聴させられるところがございます。今回の改正では、まず、年金化をやるとか、あるいはその他の先ほど申し上げましたようなもろもろの不平等な条件を撤回することに大わらわでございまして、額の引き上げには及ばなかったのでございますが、御指摘のありましたことは、よく記憶にとどめたいと存じます。  それから、第二に、公務扶助料遺族年金の額が今日まだ差があるのは不適当ではないかという御意見でございますが、これは御案内のように、昭和三十七年の恩給法及び援護法改正の際にそういう点を顧慮いたしまして、従前ごさいました公務扶助料遺族年金の額の半分だけは縮めたわけでございます。一歩前進したわけでございますが、この点についても、なお問題があるところと考えて、今後の課題にいたしたいと存じます。  次に、入営、応召の問題につきましは、十分実情を個々に判断いたしまして、今後やはり善処すべき問題の一つ考え、課題とさせていただきたいと存じます。  それから、四番目の、準軍属につきましてその範囲を拡大する必要があるのではないか、特に防空関係については顧慮する必要があるのではないかという点もごもっともな点があると存じますので、十分研究さしていただきたいと思います。  それから、第五番目の、特別弔慰金の支給範囲の拡大でございますが、制度的にいろいろ考えさしていただかなければならない問題があろうと存じますが、法の運用にあたりましても、十分実情を加味いたしまして現在やっておるつもりでございますが、制度的な改善があるかどうかにつきましては、御指摘の点もあわせまして、よく勉強さしていただきたいと考えております。
  44. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 今回のこの援護法等の一部改正の法律案は、従来の懸案をもうなるべく解決しようじゃないかといって、実は相当に努力をいたしたつもりでございまするが、提案になっておる程度にしかこぎつけ得なかったのでございます。しかし、今後も引き続いて、国民の納得するような線に、公平を期しつつ、十分検討し、向上していきたい、かように考えておる次第でございます。
  45. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 あと二点ほどお伺いしたいと思います。  まず、第一点は、非常に遺族年金等の請求の裁定、あるいは、また、不服申し立ての裁決、こういうことが現在事務的に非常におくれておる、こういうようなことがあるわけでございますが、私は、やはり法の解釈というものを、政府のやっておることを見ますと、非常にきびしく、いわゆる官僚的に法の解釈をするということがあると思うのです。そういうことではなくして、もっと寛大に、また、裁定の事務の処理等について迅速にやっていくべきではないか、こういうふうに思うわけでございますが、そういう点、現在どういうふうな状況になっておるか、また、処理対策というものはどういうふうになっておるのか、簡単でいいですから、お答え願いたいと思います。
  46. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 非常に大事なところでございまして、ところが、もう九九%は解決しておるのですが、あとの一%がこれは紙一重のもので、なかなかむずかしいのです。実際の行政のやり方を、これは局長等も、この問題には温情を持ってやるということが第一番の建前でやっておるわけでございます。しかしながら、法律がある以上は、やはり法律を犯してこういうところまではなかなかいきがたいのである。一方、事務を進捗することにつきましては、各都道府県の世話課につきましても、先般から、こちらから書面をもって、いろいろ温情をもってひとつ早くやれということはいっておりますが、なお残っておる問題は相当むずかしい問題ばかりです。しかし、これは解決を早くしたい、かように思っております。法律的にこれを考えなければならないか、あるいは行政でどれだけいけるかというところは、最とも私たちの関心を持っておるところでございまして、十分留意しつつやっておるのが現状でございますが、残っておる問題は非常にむずかしい問題ばかりだ、紙一重だ。しかし、本人にとりましては、もらえるかもらえぬかのせとぎわでございますので、十分勘案していきたい。なお、こまかい御質問がありましたら、政府委員からお答えさせます。
  47. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 とにかく、法は援護法ですから、助ける法律なんですから、ですから、やはりそういう精神を十分わきまえて、寛大な事務処理、そういうものをやっていただきたい、こういうように私は要望しておたます。  それから、第二点としては、旧令による共済組合等からの年金受給者のための特別措置法がございますけれども、これによる年金を受けられない陸海軍の有給軍属ですね、これは今回の改正案で本法の対象にするということになったわけでございますが、私は、こういうものは本法の中の改正ではなくして、旧令共済組合等からの年金受給者のための特別措置法の改正か、あるいは共済組合の別個の特例法か、何かそういうものでやるべきじゃないか、こういうふうに思うのですが、なぜ援護法の中でやられたのか、その点をお聞きしたい。
  48. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 確かにそういう御疑問を持たれるのは当然でございます。ところで、この問題は、実は大げさにいいますと、戦後十七年懸案になっておったものでございます。率直にいいますと、これは厚生省の所管ではないのではないかというような見解が一方にあり、一方、また、この旧令共済を担当しております大蔵省では、これは新たな処遇の改善だから、古い法律を守っておる大蔵省の所管ではないのじゃないかというような消極的な気持が働きまして、今日まで取り残された非常に気の毒なケースであったわけでございます。したがいまして、私どものほうとしては、同じ制度でございますから、どちらでやってもよろしい。しかし、考えてみると、やはり旧令共済というのは、戦時中の陸海軍共済をそのまま継承して、いわば整理法的なものとして現在の旧令共済特別措置法ができておる。一つの掛金といった思想もありましょうし、旧令共済のワク内で処遇の改善をするということは、今日の時点としてはむずかしいという事情もわかりますので、大蔵省と打ち合わせた結果、援護法を改正する機会に、援護法で拾うことにしたわけでございます。このような考え方をとりましたのは、すでに国会のほうでずっと前に御議論がございまして、徴用軍属というものを援護法で拾い上げて、旧令共済の本来組合員であるべき人を援護法で拾った一つの経緯もございますので、このような拾い方をしても、法体系としておかしくないということで取り上げた次第でございます。
  49. 柳岡秋夫

    柳岡秋夫君 最後にお聞きしますが、未帰還者の留守家族の援護の問題でございますが、御承知のように、第四十国会におきまして、家族手当の支給期間の延長の廃止、あるいは特例措置の第二条を削除する、こういうこともなされましたし、今回の法律におきましても、当該未帰還者については、戦時死亡宣告の申し立てを行なうことができる、こういうような改正になっておるわけです。これはやはり考えてみますと、留守家族対策の援護というものが非常に不十分じゃないかということと、さらに、未帰還者の調査の究明をしていく、こういう点が非常におろそかになっておるのではないか、こういうふうにも考えられるわけでございますが、この未帰還者の調査究明の業務が一体どのような形でなされておるのか。まだ相当の未帰還者が各地域におられると思います。特に中国等におきましては、ここに資料として出されておりますけれども、これ以上の相当な未帰還者がおられるのじゃないかというふうに思うわけでございますけれども、この未帰還者の留守家族の援護対策の万全、あるいは未帰還者の調査の万全の対策、こういうものをひとつ十分やってもらいたいと思うのですけれども、現在どういうふうになっておるか、それだけお聞きしたいのです。
  50. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 未帰還者の調査ということは、人間の生死のことでございますから、援護局といたしましても、非常に重点を置いて、あまり目立たない仕事ではございますが、最も優秀なスタッフを置きまして非常に多くの人が現在担当しておりますし、都道府県でもそのような体制にいたして、決して軽視いたしておりません。  それから、留守宅の援護でございますが、これは留守家族手当を昨年打ち切った方が相当多いのでございますが、これは要するに、わが方の調査によりまするというと、今日生存の公算がないという方でございます。したがいまして、そういう方々につきましては、戦時死亡宣告の手続を厚生省がとるようにいたします場合に、留守家族の同意が要りますので、こういう事情でございますから、同意して下さいということで、十分御説明をして、同意していただいて戦時死亡宣告の申し立てをしております。これは留守家族の非常な共鳴もいただきまして、お手元の資料にございますが、現在非常に進んでおります。残されました留守家族、それ以外の未帰還者の留守家族につきましては、従前どおり留守家族手当を継続支給することにしてございまして、十分援護の全きを期していきたいと考えております。
  51. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は、一言お尋ねしておきたいと思うのですが、戦争のときに召集令がきて満州へ出征される。ところが、援護の段階になりますと、山海関から向こうと満州は、戦争状態でなかったということで差がついておる。場合によってはゼロの人もあり得るということなんです。私は、軍人軍属を含めて、あの当時がんがん議論を進めていったら、内地も後年には戦争状態になりまして、非常な問題が起きて、この議論まで進めたくはありませんが、少なくとも、召集令状を受けて行った人でお亡くなりになった人に対しては、不公平な取り扱いを今の段階ではしてはならないのじゃないか、私はそう思う。だから、これはそういう一般的な問題ですから、今後どういう方針でこのような問題と厚生省の援護局は取り組んでいかれるか、これが  一つでございます。  もう一つは、この間も、地方へ行っておりましたらこういう陳情がありました。それはどういうことかといいますというと、今戦争犠牲になられた方々遺族——父母、子弟または妻という工合に、関係遺族に対しては、遺族年金その他があるわけでありますけれども、たとえば結婚をしていない青年が亡くなった、一時遺族弔慰金はもらったけれども、そのままだ、その段階はそれといたしまして、困るというのはこれから先なんです。それはどういうことかというと、仏教徒としての伝統があると、これはやはりその霊を守っているというか、やはり青年の人間一人としてのお祭りやおつき合いをしなければならぬ。しかし、何もないのだが、何とか考える余地がないのだろうかというお話がありました。こういう非常に深刻な陳情がありましたので、私も、一度そういう問題について、いろいろ例もあることだから、考えてみましょう、また、政府がどういう考え方でそれに対処していくかどうかということは、一ぺんお聞きして、何らかいい方法があったらということをそこで話して帰ったわけでありますけれども、この点についてどういう工合に考えておられるか。これは普通の今の援護措置の中には出てこないわけですけれども、宗教的な、それから一般的な生活上の伝統といいましょうか、そういうことで非常に困っておるというお話がございましたので、一言触れておきます。
  52. 山本浅太郎

    政府委員山本太郎君) 第二の点から申し上げますが、先生指摘のように、恩給法では二十才以上、援護法では十八才以上になりますと、それぞれの法律対象から失権するわけでございます。こういう人につきましても、御承知のように、かつて弔慰金を出したのでございますが、弔慰金の国債の支払いは十年で、昨年あたりからことしにかけて、大体その十年が満了したわけでございまして、今まで弔慰金が年々分割された形で、一種の祭資料的な形で出されておりまして、いろいろ供養等の形で充てられておったのが全然なくなるということは事実でございます。いろいろ考えるべき点はあろうと思いますが、弔慰金が、そうした年々分割はいたしましたけれども、やはり一時金として弔慰を表するために出したというわけでございますので、十年たって、それが全部もう支払い済みになってしまったので、あらためてまた弔慰金なり、あるいは祭資料を出すということが適当かどうか、確かに問題のあるところだと思いますので、よく検討さしていただきたいと思います。  それから、第一の問題でございますが、軍人でございますれば、戦地でありましても非戦地でございましても、その本務の認定につきましては、本来は差がないところでございます。ところが、援護法では四条二項というのがございまして、戦地におきましては、本人の故意または重過失によらなければ公務死亡とみなすという規定がございますので、四条二項が働くか働かないかという問題だと思いますが、具体的なケースを伺って判断してみたいと思います。
  53. 横山フク

    ○横山フク君 柳岡委員関連して伺いたいのですが、未帰還者の人々を調査されて、その調査された結果、死亡されていた。そうすると、留守家族手当というのが打ち切られるだけでなくて、その前に恩給をもらっておる人もあるわけですね、そうすると、もうすでに死亡しておったのに、わからなくて恩給が支給されておったので受領しておった。そうすると、さかのぼって返還をしなければならないわけですね。そのさかのぼって返還する場合に、それは家族扶助料が出るわけですから、その扶助料と相殺されるべきであると思うのですが、返還と別個になるのか相殺するのか、そこを伺いたいと思います。
  54. 中嶋忠次

    説明員(中嶋忠次君) お答えいたします。結論といたしまして、現実の支払いに対しましては、郵便局の窓口で相殺することに変わりはございません。ただ、法律の規定によって内払いとみなされておる場合と、それから内払いとみなされていない場合がございます。大部分の場合は内払いとみなされておりまして、機械的に法制上当然そうなるわけでございますが、たとえば前の恩給が、死亡の判明した事実が、誤った事実に基づいて出されておった恩給であるというふうなことが判明いたしました場合には、これは取り消しまして、窓口では相殺いたしますけれども、やはり返還と支給と別個の形式でやるわけでございます。
  55. 横山フク

    ○横山フク君 外地で死亡した場合は、おそらく未帰還者であって、そうして死亡を認定した場合、もうすでに恩給はもらっているのですから、ほとんど全部が誤って支給されたという形になるのには変わりがないと思うのです。そうだったらば、当然それは相殺するのがほんとうじゃないですか。
  56. 中嶋忠次

    説明員(中嶋忠次君) このいわゆる未帰還者というのは、恩給法で未帰還公務員と称しまして、これに対しましては、死亡が判明するまでは生きておったものとみなして、普通恩給を留守家族に代理受領をさせるという法制の建前になっております。ところが、実は先生の御質問で私のほうで調査してみたのでございますが、その方の一例を——ほとんどございませんけれども、例にとりますというと、前の普通恩給の請求の際には、昭和十五年に軍人を退職して恩給をもらって、そのまま外地に行っておられて、軍人としての身分を保有されておらないという書類で恩給の請求をされたのでございます。したがいまして、いわゆる恩給法にいう、法律上当然相殺になる未帰還者の留守家族に給する普通恩給としての給与じゃなくて、すでに内地等におりまして、また外地へ行って生活されておった人の代理の恩給の性格と同じ格好で出しております。この点が事実と相違しておったので、取り消しという形になったのでございます。
  57. 横山フク

    ○横山フク君 未帰還者じゃなくて、その死亡の事実、月日——具体的な答弁になったので、私も具体的な聞き方にならざるを得ないのですけれども、八月十六日に死亡ということが、九月の二日以後になったら未帰還者になったけれども、九月二日以前だったからこれは相殺という形になる。しかし、実際問題からいきますと、遺族方々は、生活はそうゆるやかではない、しかし、もらった恩給は、もうそれは使ってしまっている。それを返還させられてしまう。当然扶助料はもらえるのです。いずれは、その扶助料をもらったらそのとき相殺して、不足金としてごく僅少の額を返還すればよかったかもしれない。その扶助料はまだもらえない。そうして、すでにもらった恩給は返せ、これは返せない人は一体どういうふうになるのですか。それはあなたがおっしゃるように、窓口でもってそれは整理してやるべきだとおっしゃった。窓口で整理ができてないで、しかも、返還は請求されている、返還せざるを得ない状況で、この人は借金して納めている。そうして、また、そのあとのほうの扶助料はもらえないのですね。そうして具体的に私のほうで、きのう、請求はどういうふうになったのですかと伺ったら、きのうすぐ電話でもって、それは支払って差しつかえないということをおっしゃったのですね。きのうおっしゃるならば、むしろ私はおっしゃらないほうがよかった。議員が行って調べたら、すぐ電話をかけるなんていうのはよろしくない、私はそう思う。支払いして差しつかえないのだったらば、もう前にその通知はなさるべきでしょう。私が行っても、それは支払っていいかいけないか調査中なら調査をすべきであって、議員が行ったから、電話でもって、あれは差しつかえないという返事をするのは、私はいけないと思います。それは権力のある人が行くと行かないとにかかわらず、私は、もっと親切に、先ほどのお話じゃないけれども援護法なんだから、困った人たちの味方として、もう少しそこら辺に情味ある処理をしていただきたいと思う。この人の場合には。返還したのはもう一月の末です。そうしてお金は返してしまった。あとの当然さかのぼってもらえるべきお金は今日になってもまだもらえない、二カ月過ぎているのです。二カ月の間、私は、この人はそうした何年間の多額のお金を借金して返していて、そうして、そのあといつもらえるかわからない。しかも、葬式は出した、そうしてはっきり死んだという形になった家族の悲嘆というものを考えたらば、もう少しそこら辺に情味あるやり方をしていただきたいと思うんです。で、この問題はもっと私は事務的に処理が早くあってしかるべきだと思う。五月に死亡の公報がきたのです。ところが、十月、半年近くたってから初めて厚生省のほうへそういう書類がきたのです。もうこれは半年近くなんです。そうして厚生省のほうは早くしてくれたから、恩給局のほうに二十日間でもってもう通達ができている。それで恩給局のほうでは二カ月間かかってこれは裁定がされているんです。しかも、裁定がされていながら、そのお金は十二月からですからね、今日、三月ですからね。十二月、一月、二月、三月と四カ月というものがありながら、まだそのお金は本人にいっていないのです。しかも、取り上げられたそのお金は、もう一月には取り上げられているのです。これは普通の場合でも、役所の事務は、私は長過ぎると思います。こうした人たちの場合を考えたら、しかも、取り上げるのだったら、それは未帰還者とか、誤りだったとかいうことじゃなくて、その窓口で当然もらえる恩給と扶助料というものは同じ系統のものですよ。恩給をもらっていた人が死んだから扶助料になるのですから、同じ役所から出るのですから。未帰還者というのが誤りだったら、差っ引きでもって返すものは返すという形をとるのではなくて、それは窓口で相殺するという形で、たとえばそれが東京からの書類と熊本からの書類で、そこに違いがあったとしても、最終窓口ではそれは調整してやるという形に私は恩給局ではなさるべきであると思うんです。そういうものがつまり援護法なんだし、ことに、これは貧しい人たちのことなんです。せっかくやるのに仏作って魂入れずじゃなくて、仏作って鬼いじめをするということになりかねないと思う。私は、そういう意味で、もう少し恩給局も——これからもこういう問題はまれなケースといっても、未帰還者の方々にはこういうケースはまま出てくると思います。絶対ないとは言えない、相当あると思うのです。こういうのを、もっと援護法の本旨に照らして、援護法に該当しないといえばそれまでですけれども、こういうふうにして、大体戦後の処理は、いろいろ遺族の妻に対しての問題や何かまで、非常に幅ある形でとられた現在において、こういう問題についても、恩給局ではもう少しやっていただきたいと思うのでございます。  もう一つ伺いたいのは、恩給局でもって恩給等を支払う場合、郵便局の窓口を通すということになっておりますけれども、この郵便局を通す場合に、郵便局に対して、当然手数料というものが支払われているんですか、いかかなんですか。
  58. 中嶋忠次

    説明員(中嶋忠次君) 先生の御指摘のとおり、本件についてやや手違いがございまして、おそくなったことについては深くおわびをいたします。冒頭に申し上げましたとおり、法律の規定による相殺ではございませんが、支払い上、当然やはり相殺することになっておりまして、恩給局では、実際は取り消し通知と支給する通知とを、わざわざそのために同時に東京の郵政局を通じて出したわけでございますけれども、窓口にいったときに行き違いがございまして、ばらばらになってしまった結果こういった結果になったわけでございまして、今後郵政省とも、こういうことが絶対にないよう、とくと考慮してやっていきたいと思います。  それから、第二の点につきまして、手数料と申しますと、実は、この支給事務費というものを恩給局の予算に組みまして、そうして総括的に郵政の特別会計へ相当な金額を支払っております。そのうちからまかなって郵政特別会計でやっていただくという形になっております。
  59. 横山フク

    ○横山フク君 今、東京郵政局というお話でしたけれども、熊本郵政局と東京郵政局とのそごだということでございます。恩給は熊本郵政局であって、扶助料のほうが東京郵政局で、その間のそごだということを聞いておりますけれども、もう少しそういったことを関連していただきたい。相当の事務手数料を払われているというお話ですけれども、上のほうではもらっているのを御承知かもしれない。しかし、末端にはそういう手数料はいってないんじゃないですか。というのは、郵便局のほうではこれを問い合わせて、こういうお金を出すのは私のほうではつらいのであるが、しかし、出さなければならないのだということを聞いておるわけです。通知がきておるのだから出してくれというわけです。あとのお金がいつくるかわからない。問い合わせてくれないかと言ったところ、通知がきたのを、それを返せというのは私のほうの仕事で、それに関連して扶助料がいつくるか、そういうことは知ったことではない。私のほうでは通知のきたものをやるだけであって、われわれのほうではそういうことをするのが仕事の責任範囲でもなければ、そういうものは義務づけられておらないし、第一こういうものはサービス的な仕事であって、余分な仕事だというようなことをそこではっきり言ったんですね。それであるので、これは実は東京のほうに問い合わせたという形で、私の名前が出たときに、急に態度が変わって、それではちょっとお待ち下さいということで調べを始めたということです。私はそんなばかなことはないと思うのです。だれが行ったって、その方に対してもっと親切にやるべきだと思うのです。そういうことに対して、しかも、費用なんかも一切こないのだし、こんな仕事は余分仕事であるという形だったら、今後未帰還者の方々の切りかえ等もあるでしょうし、いろいろの問題のときに、そういう人たちは知的な感じを持たないで行くような人たち、いわゆる弱い人たち、そういう人たちほど高飛車に出られるのが多いと思うのです。もっとこういう点に対して、恩給局から郵政局に対して、扱い方の親切な——いばってきた人とか、あるいは知性のあるような人たちに対してはいばってやってもいいと思うのです。しかし、こういった何もわからなそうな、あるいはわけのわからないような困ったような人たち、そういう人たちには、逆にもっと丁寧にやるべきだと思う。ところが、役所の窓口というのは逆であって、そういう人たちには横柄にしておって、そうして偉そうな顔をしてくる人たちには下手に出るという形をとり過ぎていると思う。もっとこういう点について、恩給局が、国のそうした末端までそういう精神に沿った扱いをするように指導していただきたいと私は思うわけでございます。
  60. 中嶋忠次

    説明員(中嶋忠次君) お答えいたします。郵政省のほうに対しましては、ただいま先生指摘のようなことのないように、郵便局の末端にまで到達するということを要望しておきます。その末端の郵便局で手数料がこないというのは、個人々々に手数料はいってないと思いますけれども、御承知のように、本年度の予算におきましては、十三億余の手数料が郵政特別会計へ繰り入れられてございます。それが末端のほうへいって諸般の費用になっておるということでございますので、その郵便局の当局の事務員の言ったことは、おそらくそれを知らなかったのではないかと思いますので、そういうことのないよう、私も重ねて注意して、比較的わかりにくい人たちに対して親切に行き渡るよう、重ねて強く要望いたすことにいたしますので、御了承願いたいと思います。  それから、扶助料を詳しく解明いたせということでございますからつけ加えますが、公務扶助料が、本件の場合には熊本貯金局であって、普通恩給が東京貯金局になっておるというのは、これは実はこの本件に関しましては、親心が、かえってあだになったわけでございますけれども、これは何百万という受給者のことを考えた場合に、分業でやったほうが能率が上がるということで、大所から見ますと、早くやるということでこういう分業にしたことが、連絡が不十分でこういう結果になったのでございまして、この点も、連絡さえ十分であればこういうことはないわけでございますので、この点も、重ねて郵政局によく要望いたすことにいたします。
  61. 徳永正利

    ○徳永正利君 私、いろいろ質問したいのですが、いろいろな関係でいたしませんが、いずれ厚生行政に対する調査の時間もあるだろうと思いますので、そのときに委員長にお願いいたします。
  62. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ほかに御発言もなければ、質疑は尽きたものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  63. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めます。  それではこれより討論に入ります。まず、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案を議題といたします。御意見のある方は、賛否を明らかにしてお述べを願います。  別に御意見もないようでございますので、討論は尽きたものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  64. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めます。  それではこれより採決に入ります。  戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案を原案どおり可決することに賛成の方の御挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  65. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 総員であります。全会一致でございます。よって、本案は、全会一致をもって、原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、議長に提出すべき報告書の作成等につきましては、これを委員長に御一任願うことにいたしまして御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  66. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     —————————————
  67. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 次に、戦没者等の妻に対する特別給付金支給法案を議題といたします。御意見のある方は、賛否を明らかにしてお述べ願います。  別に御意見もないようでございますので、討論は尽きたものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  68. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めます。それではこれより採決に入ります。  戦没者等の妻に対する特別給付金支給法案を原案どおり可決することに御賛成の方の御挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  69. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 総員挙手、全会一致でございます。よって、本案は、全会一致をもって、原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、議長に提出すべき報告書の作成等につきましては、これを委員長に御一任願うことにいたしまして御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  70. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めさよう決定いたします。
  71. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 ただいま決定いたしました戦没者等の妻に対する特別給付金支給法案に対する附帯決議案を提案をいたします。  本文をまず読みます。  一、戦争による犠牲は、戦地、内地を問わず、国民のその苦痛は堪えざるものがある。政府はこれ等の実情にかんがみ援護措置を考慮すべきである。  これは各派共同の附帯決議提案でございます。本案の審議にあたりまして、たとえばこの法施行後の問題、またはこの四月一日に切った場合の事前の問題その他について議論がありました。この問題については、厚生大臣から、今後のお約束がありました。ただ、そればかりでなしに戦争犠牲というのは、今、附帯決議の案を読み上げましたように、広いところに戦争犠牲はあると思います。ですから、厚生省としては、あらゆる角度から実情を調査していただいて、積極的に前向きの姿勢で援護措置その他を考えていただきたい、これが提案の趣旨でございます。終わります。
  72. 鹿島俊雄

    ○鹿島俊雄君 ただいま藤田委員御提案の附帯決議に対しまして、自由民主党を代表して、これに賛意を表します。
  73. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ただいま提案されました藤田委員提出の附帯決議案を議題といたします。右附帯決議案を本委員会の決議とすることに賛成の方の御挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  74. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 全会一致でございます。よって、藤田委員提出の附帯決議案は、全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。  なお、議長に提出すべき報告書の作成等につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  75. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  附帯決議が決定いたしましたので、厚生大臣の御所見を伺います。
  76. 西村英一

    国務大臣西村英一君) 政府といたしましては、附帯決議もございましたことでございますが、十分その趣旨を尊重いたしまして、問題点を慎重に検討いたして参りたい、かように存じておる次第でございます。     —————————————
  77. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 次に、薬事法の一部を改正する法律案を議題といたします。本案に対し、御質疑のある方は、順次御発言を願います。
  78. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 その薬事法というのは、この前のこの本委員会で薬事法の改正、薬剤師法の審議、こういうことでいろいろ議論をしてきた問題であります。今度薬剤師並びに薬種商の方々が協力をして国民保健を守る立場からこのような考え方をまとめられたということに敬意を表するわけでございます。ただ、私は、このように国民の健康保持のために努力されているのでありますけれども、この際、政府に聞いておきたいことがございます。それは、何といっても薬剤師、薬種商、こういう国民の健康に直接つながって流通機構と販売機構を受け持っておいでになっていただくわけでありますけれども、しかし、問題は、やはりその薬の製造の問題が私はいつも問題を起こしておる。たとえば安売り、投げ売りでこの流通機構を乱しておるというようなことが今日までたまたまあるわけでございます。私は、この委員会でありましたが、こういう発言をしたことがありますが、それはどうかというと、非常に今のマスコミのテレビ、ラジオ、新聞、また、町に出れば広告、汽車や電車に乗っても、広告の主たるものは薬品製造、要するに製造業者の薬の広告というのが一番目につくわけでございます。先日も議論をしておりましたところが、どうもその広告の主になっておるものは、ビタミン剤その他平生の健康保健剤というのが中心に行なわれておるということでございましたけれども、たとえば肝心の人間の身体に新しい化学的研究の結果よい薬ができた、そういうものに対しては、地域において薬の不足というような問題が起きてくる、そういうのが問題になる。片方は膨大な宣伝費用をかけて宣伝をやっておる。そうして、それが今度は薬局や店の流通機構になると、裏口から投げ売りがされる。私は、ここらあたりはなかなかどうも理解ができないところなんです。ですから、その点は、薬事審議会があるわけでございますから、国民保健衛生にまず第一に必要な薬というのは日々進歩をしているわけでありますけれども、そういうものをやはり国民の要求に応じて十分に配給をする、そしてこれを第一にして、マスコミに乗っている行き過ぎな面は、少し私はセーブしてビタミン剤を中心として保健衛生保健衛生といわれておりますけれども、この過度の宣伝というようなものは少しセーブする必要があるのではないか、私はそう思う。  それから、もう一つは、それに関連して、その競争の激しいあまりに、結局正式なルートと、そしてやみルートによって薬が販売ルートに乗ってくる、これによってまた各店の購買力を乱すと同時に、小店舗でございますから、生活まで脅かすようなところにまで問題が進んでいく、こういうことも考えられるわけでございますから、まず、その三つの問題について厚生省の考え方を聞きたいし、提案者の御意見も、今の三つの問題について御所見があればお聞きしたい。
  79. 横田陽吉

    説明員(横田陽吉君) 薬の問題につきましては、ただいま先生が御指摘なさいましたように、生産から最終消費者に手渡るまでの間、あらゆる段階におきまして適正なる指導が必要だと存じております。したがいまして、生産の面におきましては、御指摘のように、必要な医薬品をどしどし開発し、そして、また、その必要な数量の生産をしていただくように十分な指導が必要だと思って、そのようにいたしております。  それから、それが流通機構を通りまして最終消費者に渡ります間には、いわゆる問屋を通り、それから一般販売業、薬局、薬種商というふうな、そういった販売機構を通して消費者に渡るわけでありますが、その間におきまして、御指摘のような、非常な過度な競争と思われるような現象もないではございません。これらに対しましても、私どもといたしましては、十分薬事監視の面、その他の面で配意いたしているのでございますが、必ずしも十分その成果が上がっておらない関係上、ただいま御指摘のような問題がまま見受けられます。その面につきましても、私どもは、法律上どうこうするという問題もさることながら、業者に対する十分な自粛を促すとか、その他の方法によって、極力行政的な努力はいたしておるつもりでございます。  それから、最終消費者に渡る段階におきます販売業体の問題につきましては、これこそ、まさしく今回御提案いただいております薬事法の改正の根本に触れる問題でございますけれども、全国的に見ました場合には、必ずしも全国民数に対しまして、薬局その他の販売業体というものが非常に多いというふうには私ども考えておりませんけれども、たとえば東京、大阪、名古屋というふうな大都市の一部の地域におきましては、非常にたくさんの薬局その他の販売業体が乱立いたしておりまして、乱立いたしております結果、非常に過度な競争をする、その結果、一部の業者は、相当な無理をいたしませんと、良質な医薬品を供給するという社会的な使命を果たし得ないような実態になっておるというふうな問題が、実は最近非常に多いのでございます。そういった関係から、私どもといたしましては、昨年四月以降、薬局その他の販売業の開設許可にあたりましては、十分その地域における需要というものと供給というものとのつり合いを考えて、十分な行政指導をした上で、開設すべきであるかどうかというふうな決定をすべきであると、さような行政指導をいたしておるわけでございます。ただ、問題は、最終消費者に渡る段階での販売業体の乱立の規制につきましては、実は法律的に申し上げますと片や開設をしてもらいたいというふうに言っておられる方は、法律的に申しますと、開設をしてもらう権利がある、そういう格好になっております。したがいまして、どうしてもその地域においては薬局等が非常に多過ぎるので、開設を多少規制しなければならないという問題が出て参りましても、法律的な手だてがございませんと、新しく開設許可を申請されてこられた向きに対しては、十分なきめ手になる行政指導はいたしかねる、こういうふうな格好になっております。したがいまして、これらの点につきまして、より行政指導を徹底すべく私ども努力いたしておるわけでございますけれども、さらにこの処置につきまして法律的な根拠が与えられて、行政指導が、いわゆる行政指導から、法律に基づいた強制力を持った行政措置というふうに変わり得ることがもし可能であるとするならば、それは現在の目に余る乱売合戦というものを多少でも防止することが可能ではないか、かように考えておるわけでございます。したがいまして、この最終消費者に渡たる販売段階でだけの乱立を規制をするのが今回の法律の内容でございますけれども、これだけで必ずしも十分なる解決をいたし得るわけではなくて、最初申し上げましたように、メーカーに対する指導、それからメーカー以外の各段階の販売機構に対する行政指導というものもあわせ講じませんと、完全な医薬品の生産から流通に至る各段階の適正な規制は不可能でございますので、ただいまお話のようなそういった点については、今後とも配意をいたしまして、御指摘のような問題が今後起こることができるだけ少なくなるようにいたして参りたい、かように考えております。
  80. 高野一夫

    高野一夫君 今、藤田先生の、この医薬品の生産状況の混乱といいますか、過当生産といいますか、類似品がたくさん出て、非常な宣伝合戦をやっているという点は、嘆かわしいとおっしゃる気持に対しては、私ども全幅同感するものでございます。ただ、長い間非常に多額の、何千万、何億の研究費を使い、学者を養成して、ある会社が新製品を研究します。それが薬事審議会の議にかなって発売されますというと、ほかの会社がこれをまねいたしまして、長い間の研究の労苦なくしてまねて、あとはマスコミの宣伝合戦で競争するというのが日本の製薬業界の実態でございます。これはつぶさに私どもよく承知して批判をしておるわけであります。ただ、これには一つ特許法の問題がからんで参るのでありまして、アメリカ、フランスのように、化学製品では、そのものが特許になればいいわけですが、日本は、御承知のとおり、化学製品そのものについては特許いたしません。製造方法でございますから、それを製造する方法が違ったまた方法をとりますれば、幾らでも同じものが、合成ができる、こういうところに違いがある。でありますから、フランスあたりでは、新発売品が出ますというと、半年ないし一年間特権を与える制度もございます。また、アメリカ等におきましても、そのものの特許でありますから、類似品が出っこない、これが日本のいわゆる特許法の欠陥でございまして、これは四、五年前の特許法改正のときにも大きな問題になったのでございますが、どうも日本においては、化学製品のそのものを特許する、機械みたいなふうにやるということが大方の賛同を得られないで、現在のままで製造法の特許方式になっている。これがこの狭いところに数多くのメーカーがあって競争するというような場合に、悪い意味において、これが悪用されることになろう、あるいは、また、いい意味においてこれを善用いたしますれば、さらにりっぱな製造方法を持った品質の優良な品物を合成していくことに役立つプラスの面もございます。しかし、結果的に見て、非常に同じ種類の製品があっちこっから出るということが一つ。そうして消費量といいますか、医科、歯科の医療関係、あるいは一般の消費者の需要量、それを無視して生産をやって、そうしてその生産の数量のものが売れるように、裏づけ宣伝をして売るという傾向が多分に強かったのであります。これはどうしても私はやめてもらわなければならぬ。でありますから、必要なだけの生産量に限定をして、そして市場の安定性を保つことにやはりメーカー自身協力してもらいたいというのが私ども考え方であります。  それから、混乱については、いろいろな理由があると思うのでございますが、現在、御承知のとおり、薬事法では、却、小売の区別がございません。医薬品の卸につきましてこっけいなことは、政府の統計と卸の同業組合の統計が全く違っておるということ、どっちがどっちだか忘れましたが、一方の調査では、全国に医薬品の卸業者が二千数十軒、一方の調査では千七百何十軒ある。この組合で調査した数字政府調査した数字とは、一軒の相違なくぴたっと合わなければならない。それが全国において二百五、六十軒の相違があるということは、いかに日本の医療品と流通機構の、特に問屋、卸のあり方が混雑をきわめておるかということ、これは法律で、小売、卸を区別しておらないところに一つの大きな原因がある。卸をやってみたり小売をやってみたり、自由自在であります。こういう点に大きな流通の混乱を来たす原因がある。なお、末端については、今、課長からお話がありましたが、たとえば薬局にいたしますれば、これは少し古い昭和三十五年末の政府調査でございますけれども、二万一千幾ら薬局がある、そのうちの実に一万七千数百軒というものは市部に集まっておる。郡部はわずかに四千足らず、この広い郡部がわずか四千足らず、その二万一千数百軒の薬局のうち、一万七千軒余りというものが市部に集まっておるということは、乱設、偏在の明瞭なる証拠であります。この辺にメスを入れなければ、ほんとう経済安定はやはりできません。もっとも、今度改正でお願いしております適正配置だけで万全だとは毛頭考えておりません。しかし、有力なる解決の手段であると考えてこの改正案を提出いたしたわけであります。
  81. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 薬事課長は、どうも乱売の関係が、薬局が市部に固まっているという理由にどうも持っていかれたようでありますけれども、それもあるでしょう。しかし、主たる原因は、私はそういうところにあるんではないと思う。これは間違いなら指摘していただきたい。それは私は、やはり正式なルートで薬品を薬局や薬種商に流すメーカーが、裏でやみルートでものすごい安い値段でそこへ流していくところに、薬の値引き、乱売の問題がそこからくる。これが薬局、薬種商の生活問題その他にかかってきている。適正配置の問題は、今提案者も申されたように、市部に薬局や薬種商が固まっておる。で、皆保険の時代でございますから、皆保険をなし遂げようということは、政府ばかりでなく、国民の願いでありますから、無医地区や無薬局がないように、これは適正な配置という問題をお考えになっていこうというのでありますから、私はけっこうなことだと思う。しかし、乱売や値引きや、薬種商や薬局も混乱しておるという原因は、私はメーカーにあると思う。メーカーが正式ルートとやみルートに使い分けて、今提案者が申されたように、薬の競争につぐ競争、宣伝につぐ宣伝、それによって今日現実には、NHKはありませんけれども、どのテレビも、スイッチを入れてみれば、ほとんど薬品の宣伝なんですね。これが朝から晩まで、寝るまで国民の目に映るということでいいのかどうか。たとえば私は、これは疑っちゃいかぬわけでありますけれども、AならAという薬ができたら、この薬の宣伝については万能薬のような宣伝がされる。実際に化学的に分析して、その薬はどこにきくのか、何に的確にきくのだというようなこと、そこに私は行き過ぎがあるようにどうも思えてしょうがない。これは専門家じゃありませんから、これ以上追及いたしませんが、こういう点は、私は、厚生省はきびしくやっぱり監督をせなければいかぬのじゃないか、こう思っておるわけです。今の前段の、乱売や流通機構を乱しているのは、単に市部に薬局や薬店が集中しておるということじゃなしに、むしろその混乱の原因は、メーカーの正式ルートとやみルートによる過剰生産といいますか、競争に次ぐ競争、宣伝に次ぐ宣伝の結果が出てきたのじゃないかと私は思うのですが、どうですか。
  82. 横田陽吉

    説明員(横田陽吉君) いささか舌足らずでございましたので、多少誤解を招いたようでございますが、お話のように、私どもも、現在の乱売というものが、薬局、薬種商の販売業体が過剰に乱設されておる、そのことが一番の原因であるというふうに考えておりません。お話のように、確かに一部のマスコミ品つきましては、相当の過剰生産だというふうに私ども考えております。それが一番の原因でありまして、ただいま御指摘のように、おかしげなやみルートというものが事実上発生してきて、そこから非常に古くなった薬が安い値段で一般の販売店に流されたりというようなことが相当多いことも承知しております。そういった点につきましては、私どものほうでもいろいろ薬事監視員を動員したり、その他の業者の自粛に待ったり、いろいろな方法によって対処いたしておるわけでございますが、何しろ薬自体の生産額が、年額にいたしまして二千数百億というふうな、非常に多い生産額でございますし、それから、また、薬の種類にいたしましても、製造許可をいたしております薬が、たしか十万近くございます。それが現実に医薬品として出回っておりますのがやはり四、五万というような、非常に多い品目、非常に多い数量、そうして、また、それを扱っておられる業体の数が非常に多いというような事情等もございまして、思うにまかせないわけでございますが、この点につきましては、今後とも十分業者の自粛を促すと同時に、私どものほうといたしましても、徹底した取り締まりをいたす所存でございます。  それから、もう一つの広告の問題でございますが、これまたお話しのように、一部のテレビその他では、明らかに誇大な広告、あるいは虚偽な広告というふうなものに該当するような事例も絶無ではございませんので、これらに対しましては、十分の指導をいたしております。それで、大体現在のところは、そういった指導等によってそういった広告を改めるというふうなやり方になっているようでございますけれども、一部には、やはり相当きつい処分等もしなければ、なかなかこれを改めないというふうな事態もないではごございませんので、こういった点につきましても、今後この点は十分に配慮いたして参りたいと考えております。ただ、問題は、最初の藤田先生のお話にもござましたように、ほんとうに必要な医薬品のほんとうの効能、効果というもののPRというものと、こういった売らんがための宣伝というものとの区別が非常にむずかしい、そういった点もございますので、本来的な解決の方法といたしましては、たとえばどうしても疾病の治療に必要な医薬品についての広告というものは、一般的なラジオ、テレビ、そういったものを通ずることなしに、それを使う医師向けの雑誌とか、あるいは新聞、そういったところに徹底した広告をさせる、しらかざる一般のマスコミ品については、そういったものは、あまり売らんがために虚偽ないし誇大に類するような広告をしないようにするというふうな法律の規制等も、あるいは必要でないかと存じております。現在の薬事法の規定から参りますと、ガン、白血病、そういった病気に使う薬につきましては、その広告は、医家向けの広告以外は許しておらないというような規定をいたしておりますが、その他の薬につきましては、実は虚偽もしくは誇大にわたる広告でない限り、その広告についての規制はないわけでございます。しかし、今お話しのような事態が現実に発生いたしておりますので、私どもは、必ずしも虚偽もしくは誇大というものに直接該当する事態になりませんでも、そのおそれあるようなものに対しては、十分な措置等はいたして参りたいと思っております。
  83. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は、宣伝の問題については、新しい薬をお作りになったのですから、宣伝も必要でしょう。しかし、限度があると思うのです。私はそれを言っているのです。限度があるのではないか。新聞にしてもそうだし、ラジオにしてもそうだし、交通機関の付近におけるところの膨大な広告というものは、実際国民が薬に対する疑念を私は持つのじゃないか。私は、先日もこういう話をしておったら、同じことをたとえば八回、九回、十回と聞けば、うそのことでもほんまかと思う。それじゃあ飲んでみよう、買ってみようという気に追い込んでいく。これが薬を売りつける宣伝戦術かわかりませんけれども、やはり保健衛生上、人体保護の立場から、薬品というものはなくてはならぬと私は思うのですよ。それを同じような種類のものをどんどんやる。そういうことでは、少し私は厚生省の監督行政が足らないのではないかという気がするから、この問題をまず指摘をしているわけであります。私は、これは本来大臣に約束していただきたいわけですけれども、そういう、誇大な広告、それから、あまりにも度が過ぎているようなものについては、厚生省は大胆にほんとうに規制をするということをしてもらいたいということです。それが一つあります。  それから、第二番目は乱売で、片方は百円で売っているものを、片一方で五十円で売っているというような、そんなことが流通機構の中でいいのかということなんです。そんなのなら定価を下げて、正式なルートに乗せて、そして国民保健に貢献をする薬局、薬種商のルートの中で、国民がその最もよい薬を、完全な薬剤師の指導によって、経験者の指導によって保健衛生のためにそれをルートに乗せる、こういうやはり指導が私はなくてはならぬと思う。この点は明確にひとつ厚生省はしておいていただきたい、こう思うのです。まあ実際に担当されているのは薬事課長ですから、あなたの御見解もまず聞いておきたい。
  84. 横田陽吉

    説明員(横田陽吉君) ただいま御指摘の点は、私どもも全く同感でございますので、そのような方向で今後とも行政をやって参りたいと考えます。
  85. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 それから今度は、もう一つ私は提案者に聞いておきたいのですが、この第一項と二項、一項の問題については、開設者に対するむしろ内容を高め、それから監督という意味で私はいいことだ。それで二項のほうも、私の考えからすれば、こういうことをやらざるを得ないというところへきていると思うのです。ただ、憲法の、職業選択の自由その他との関係についてどういう工合に判断をされておるか、それをひとつ聞いておきたい。
  86. 高野一夫

    高野一夫君 実は、憲法二十二条との関連において、一番私ども提案者として苦心した点でございますが、一応提案者としての責任において、概略私の見解を申し上げてみて、なお、専門的の点は法制局の部長からお聞き願いたいと思います。  この薬事法の改正によりまして、薬局等の適正配置をやることが憲法二十二条違反でないという見解を私どもがとりましたことについては、一応三本立ての柱を立てたわけであります。その一つは、取り扱われる医薬品というものが国民の生命、健康に重大な影響を持っている特殊なるもので、一般商品と変わったものである、この点がいわゆる憲法二十二条に「公共の福祉に反しない限り、」ということをいっておりますとおり、公共の福祉との関連性が一番強く出されていいものではないか、こういう考え方一つ。それから、もう一つは、医薬品に対して需要者側が価値判断をする資格がない。たとえば魚屋に参りましても八百屋に参りましても新鮮なる魚、新鮮なるうまそうな野菜ということは一目見てもわかる。一目見てもわからなければ、手に取って見ればわかる。たとえば私がいつも例にあげることでありますが、同じ店でサンマに上中下の値段の相違がある、イワシでもそうである。目に見て鮮度はわからなければ、手に取って見ると、一番高いサンマはぴんとはねている、中ぐらいの値段のサンマはまっすぐ、投げ売りされるような値段のサンマはだらっと下がる。そういうふうにいたしまして、目で見、手に取って買う者が価値判断ができる品物とは、医薬品は全然本質を異にいたしております。使う人、買う人がその価値判断ができない。これは一にその売る人、取り扱う業者自身の責任にまかせるよりほかない。この業体の特殊性が一つ。もう一つは、現在すでに各都道府県で内規などを作りまして、適正配置の行政指導をやっております。この既成事実が一つ。これはそういう適正配置をする必要性というものがいかに緊迫し、いかに高まっているかということを物語るものでございます。私どもは、まずこの三つをたてにとっていろいろ考えてみたのでございます。そこで、このまず一番大事な取り扱い品に対して需要者が価値判断をする能力がない、あげて業者にまかさなければならぬ、こういうわけでございますから、業者は責任を持って取り扱わなければならぬようにあらゆる規制を加えられておる。その規制を加えられたる規制の中で、業者として国民に間違いのないサービスをしなければならないような義務遂行をしなければならぬわけでございます。そういたしますると、もしも過当競争、乱売等が行なわれまして、自分の薬種商なり薬局なりの経営上に不安が生ずる、あるいはすでに赤字になってきたということになりますというと、やはりすべては人間のやる仕事でございますから、適正な調剤をしたり、間違いのない適正な医薬品を販売したりすることに支障を生ずるおそれがなしとしないと思うわけであります。でありますから、安心してりっぱな調剤をさせ、安心してりっぱな優良なる医薬品を取り扱わせるためには、やはり経営もでき、また、勉強も十分できるような経営の安定をはかってやる。その上で法律、省令等によってがんじがらめに押えられている規制を守って、その範囲において国民に適正なサービスをするというふうに考えてやらなければいかぬのじゃないかと思うわけであります。現在、薬事監視員がございまして、いろいろ不良の場合、あるいは適正でない場合は取り締まることになっておるのでございますが、これはここに薬事課長がおられて、材料があると思いますけれども、私も調べまして、全国で千人の監視員が、わずか五百七十名しかおりません。県を入れましても千九百九十八名しかおりません。そうすると、薬局と、薬種商と一般販売業、この三つの小売業、そのほかの品目を数種限定して駅などで売っておる特例販売業というのがございますが、それを入れますと十一万軒になる。これをこの薬事監視員と当たらせるということは、一人当たり実に二百軒を担当しなければならぬ。多少の予算をふやして増員をいたしましても、とうてい全国のすみからすみまでの薬店、薬局の監視をさせる、十分目的を達するということは、とうてい不可能ではないけれども、非常に困難を伴う。それよりは、むしろ業者みずからの良識をもって、適正な考え方、適正な行動をとるということにしむけることが一番いいんじゃないか。もう一つは、最近の現象といたしまして、しろうとが、薬剤師でない者が薬局を開く、これは現行法律では許されます。薬剤師さんを置くことによって許されます。ことにスーパー・マーケットのごときは、どんどん薬局なり一般販売業をやる。薬剤師さんを雇って薬局をやる。これは売らんかな主義、営利主義、全く医薬品取り扱いの特殊性ということに深い理解、責任感を持ったやり方でなくして、いわゆる営利的にやる、あるいはおとり戦術としてやる、乱売の根源になる、こういうようなこと自体も事実全国にわたって起こっているのでございまして、こういうことも一つ押えなければならない。それが要綱の第一にありまする、そういう大企業が営利的にばかりやることはけしからぬから、ひとつ、管理薬剤師等の人数をふやして、十分の適正なる仕事をやるのでなければ許可しないということに持っていくべきじゃないかというのが、要綱の第一項に戻っての考え方でございます。  そこで、私どもは、また公衆浴場法について考えたのでございます。今度の改正案は公衆浴場法と非常に似ているのでございまするが、先年福岡で、条例の許可を受けないで公衆浴場の営業をやって処罰を食った。それが裁判をやりまして、これはもう皆さん御承知のとおりで、詳しく申し上げませんが、福岡の高等裁判所から最高裁判所に参りまして、この福岡県の条例でもって、市部二百五十メートル、郡部三百メートルの距離制限をやったその条例が憲法違反だ、その条例のもとになる公衆浴場法が憲法違反だと、こういう訴えでございましたが、昭和三十年の一月の最高裁の判例では、憲法違反ではないというりっぱな判例が下されているわけです。浩瀚なる理由書でございまするから、これを要約しますると、私は二つの点に尽きると思う。それはどういうことをいっておるかといいますと、公衆浴場というのは一体何だということ、それは国民の健康管理に必要な厚生施設である、こう判定しております。国民の健康管理に必要な厚生施設だから、家庭の延長であるべきだ。それが、ある地域には偏在して、ある地域にはないというと、ない所の住民がこれを利用することにきわめて不便である、だから、これは一口に申し上げまして、やはりある所、ない所の地域がむらがないように、まんべんなく普及開設さるべき性質のものである、こういうふうにいっております。その判決の理由の第二点は、公衆浴場が一カ所に偏在、乱設されると、料金の過当競争が起こる。そうすると経営に不安な状態が当然起こってくる、そうすれば浴場の公衆衛生的施設に欠陥を生ずる、また、生ずるおそれが多分にある、それは避けなければならない。したがって、公衆浴場の配置の適正を期するためにいろいろ制限をするということをきめた法律並びにそれに基づいた条例は、憲法二十二条違反とは認めないという判例でございます。これを今度のこの薬事法改正の場合に準用いたしますれば、それじゃ薬局等は一体何だということになる。公衆浴場が国民の健康管理に必要なる施設であるならば、薬局、薬種舗等は国民の生命保持に必要な医療的施設でなければならぬ。それが一地域には偏在して、一地域にはないというと、これはない地域がこれを利用することができない、非常に住民に不便を与える、公衆の福祉に反する結果が出て参る。一方において、薬局等が、今もお話がございましたとおりに、ある地域、特に都会あるいは繁華街に集中いたしますと、当然販売政策上、過当競争が起こる。そうすると、経営不安な状態が出て参りますから、設備、器具等にも欠陥が生ずるだろうし、あるいはいろいろな医薬品の適正を期することができなくなるおそれが多分にある。それは避けなければならぬ。こういうふうに考えます。しかも、ふろ場は自分の家に置くことができる。ふろ場を持たない人だけが公衆浴場を利用する。薬局等は自分の家に置くことを許されません。すべて足を運んでその店まで行かなければならない。それなら、なおさらこれは当然適正に配置をされて、全国民がひとしく平等に利用されるような便宜を与えられる、そういう状態に配置さるべきではないか。これはそのこと自体が公衆の福祉に沿うゆえんである、決してわれわれは憲法二十二条違反の規定とは考えられない、こう思います。  以上簡単に。
  87. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 わかりました。まあ問題は、一項、二項について私たちも何とかしなければいけない。一項については、メーカー、大資本を中心にしたところに対する規制、二項は、適正要するに無医地区に対する適正配置、この法律案を作って国民保健上大きに貢献をしていただくわけでありますけれども、私は、何としてもこれをより実効を上げていくのには、製造業者との関係にはきびしい規制を行なわないと、私はこの実効が上がらないのではないかという心配をしておりますから、先ほど厚生省に申し上げたわけでございます。ですから、これがやはり国民が願っている皆保険に対する皆医療というものが全国津々浦々にいくのには、やはりこの法律によって努力をしていただかなければならない。そういう立場から私たちも賛成なんです。ただ、少し法案をこしらえた方の憲法の二十二条との関係を少し聞いておいたわけであります。実際、実態生活というものの中で、憲法との関係が今説明されまして、私は今ので大体了解はいたします。  そこで、もう一つだけお聞きしておきますけれども、この都道府県の薬事審議会というのに意見を聞いて都道府県知事が結論を出すわけですが、この都道府県知事の薬事行政と厚生省との−関係はどういう関連性、また、指導という立場になるかわかりませんけれども、どういう工合に運営上はおやりになっているか、そういうことを聞いておきたい。
  88. 横田陽吉

    説明員(横田陽吉君) 都道府県に置かれます地方薬事審議会と厚生省との関係でございますが、法律的なつながりといたしましては、厚生省と都道府県に置かれる地方薬事審議会との間には、指揮監督の関係はございません。で、問題は、この法律を運用いたします際の一番の問題は、まず、第一に、この法律の運用の中身を決定するものは都道府県の条例になるわけでございます。したがって、この都道府県の条例の中にどのような内容を盛り込むか、これまた法律的に申しますと、都道府県が、随意に自由に決定し得る、議会の意見によって随意に決定し得る内容でありますが、現実問題といたしましては、大体現在まで各県でおやりになっておられる行政指導の内容等を勘案いたしまして、一応の都道府県条例の準則的なものを私どもが作成いたしまして、それで都道府県を事実上指導する、こういう格好になります。そこで、その都道府県条例が指導によってできました際に、その条例で定めておるものさしに、個々の薬局、薬種舗の開設許可の申請があった際に、当てはまるかどうか、その事実認定をする際に、初めてこの地方薬事審議会というものが登場いたしてくるわけでございます。したがいまして、一番重要な中身の都道府県条例に対して、事実上の指導をすると同時に、それから、また、そのものさしに当てはまるかどうかの事実認定をなさる際の認定の仕方等につきましても、大事な基本的な問題等については事実上指導いたしますが、ただ、法律的に申しますと、繰り返しになりますが、条例の内容自体、それから地方薬事審議会、そのいろいろな審議の仕方、そういったものについての厚生省の指揮監督は及ばない、こういうことになるわけでございます。
  89. 阿具根登

    ○阿具根登君 一、二点御質問申し上げます。  先ほど憲法論議の中でふろ屋のことが出ましたが、しかし、ふろ屋にも距離と住民数によって規制をされておることは承知いたしております。その他たばこの小売商なんかもそれぞれ規制があるのでございます。その点は肯定いたしますが、そうすれば、薬局あるいは薬販売ですか、こういうものはどういう規格で考えておられるか、どういう構想をお持ちであるか、その点を一点お聞きしたい。  それから、もう一点は、たとえばスーパー・マーケット、まあ外国の例も御存じなら教えていただきたいのですが、端的に一般の需要者から見れば、スーパー・マーケットのようないわゆるきれいな所で、人手が少なくて、自分が自由に選択できて値段が安いというならば、需要家から見ればこれにこしたことはない。ところが、先ほどマスコミ論争がありましたように、古い薬を生産者がそこに卸して安く売っておる、こういうことになってくると問題がございます。となりますと、メーカーが良心に従って新しい薬をそこで売るということならば差しつかえない。たとえば同じ値段は書いてあっても、あらゆる販売品を一堂に集めてやっておって、人件費が非常に浮いてくる。その人件費の浮いたもので薬の販売価格を低下さしたらこれも悪いのか、そういう点が一点。  三点目は、いわゆる薬を調剤、製剤される方は、これは薬剤師でなければできない。しかし、その他一般の薬は、マスコミ等で宣伝しておりますように、もうすでに丸薬になっておる。そしてこれは何粒飲めばいいのだというようなことが、まあマスコミだけ聞いておれば、あれを飲んでおれば病気になるものはおらないはずですけれども、ところが、これが病気ばかりしている。そこで先ほどの藤田君の意見にもなってくるわけです。一体厚生省は何をしているのだ、研究するよりもマスコミにやったほうがいいのです。何ぼ金かかってもいいのです。薬は昔から九層倍といわれているように、薬製造業者はもうけているのです。だから、何十万かかろうと何百万かかろうと、薬の値段にかけてとればいいのだから、生産者は一銭も損せぬわけです。損しているのは皆需要者なんです。しかも、弱みにつけ込んでもうけているということになります。この点は重複しますから申し上げませんが、そうした場合に、薬剤師じゃなくても、それだったら売れるはずです。たとえば一つの栄養剤でも、ちゃんとこれは定価も何もきまっておる。ゴホンといったらそれ何々、くしゃみ三回何々と、こうなっているわけです。何も知らなくても、テレビを見ておったら売れるわけです。定価はちゃんとついておる。それなら、これは何年何月製造だということをきちっと書かしておいて、それが半年なら半年たったらこの薬を売ってはならぬということをやっておけばだれだって売れるわけです。そうすると変なことになりはしないか。もちろん調剤はしろうとがやるわけにはいかぬけれども、調剤という問題よりも、もう製造された薬販売という、こういうことになってくると、憲法論議は、私はいささかあやぶまれてくるのではないか、こういう考え方をするのですが、いかがでしょうか。この三点についてお伺いします。
  90. 高野一夫

    高野一夫君 まず、配置の基準についてでございますが、この法律にもありますとおり、交通事情、人口関係、あるいは諸般のいろいろな需給に影響を及ぼすような事態を勘定してきめるわけでございますが、今、薬事課長説明のとおりに、全国のモデル基準を作っておる、そして各都道府県の条例で、条例としてきめてもらうようにしたいわけなんでありますが、その方法といたしまして、端的に、それではふろ屋みたいに、距離制限でいくのか人口割制限でいくのかという点については、いろいろやり方によって議論の分かれる点でございますが、ヨーロッパあたりでは、御承知のとおり、イタリアは大体人口五千人に一軒、三千人に一軒、フランスは三万以上の都会においては三万以下五千人までの都会では二千五百人に一軒、五千人以下二千人に一軒、ドイツは大体人口六千人に一軒、こういうふうになっているようであります。日本における場合は、全国通算しまして、大体二千人ないし二千五百人に一軒の薬局みたいになっているようでありますけれども、人口割制限でいく各国の例をつぶさに調べてみましても、人口割だけでいけない場合が出て参ります。たとえばイタリアが住民五千人に一薬局と、こうしておりますが、五千人いない部落がある。しかも、どうしても必要であるというような所は、今度は距離制限をとりまして、五百米以上の基準で一薬局を許す。こういうふうに、フランスでもそういういなかの特殊事情を勘案いたしまして距離制限をやるのでありますが、日本の場合は、先ほど申し上げました各都道府県の適正配置基準の内規が全部距離制限をやっております。東京、大阪その他によって違いますけれども、二百メートルあるいは三百メートル、あるいは百五十メートル、百メートルと、まちまちでございます。これはまちまちであるところは、まだ十分そういう基礎調査が完全にされなかったためと考えますけれども、これは大体厚生省においても、十分に相当の調査もできているやに聞き及びますので、距離制限でいく場合は何メートルに一薬局、人口割でいくならば何千人に一薬局というのが適当である、ことに皆保険医療という建前でいきましても、そろばんははじけると思いますので、その辺を加味して適正な条例を制定したい、こう考えます。  それから、スーパー・マケットの問題でございますが、なるほどスーパー・マーケットは実際重宝だと思います。重宝だと思いますが、私はアメリカのスーパー・マーケットを見て参りましたが、日本はほとんどまねしながら、全く性格が違っている。アメリカのスーパー・マーケットは商店街にはほとんどございません。パン屋もなければ牛乳屋もない、肉屋もないというようなことが住宅街か団地でございます。そうして日常雑貨を売っている。ところが、日本のスーパ・マーケットはそういうような住宅街とか、あるいは団地とかいう所にもありましょうけれども、多くは小売商店が蟄居しているそのどまん中にスーパー・マーケットというものを作って、そうして小売商店の営業を圧迫しているのが日本のスーパー・マーケットのほんとうの実情だと思う。これは小売営業者の育成保護という立場からも考慮しなければならないのですけれども、金網のかごを持って自分の好きなものを買う、スリッパを買う、あるいはこっちへ行って化粧品を買う、医薬品を買う、こういうようなことは、医薬品以外のものについては差しつかえございませんが、先ほど申し上げました、しろうとの価値判断でできる問題でございますから、差しつかえないが、医薬品につきましては、後段の阿具根先生の御質問にも該当するわけでございますが、医薬品を、一々薬のことを知らないお客がそこの薬だなから金網のかごに入れて、そうして勘定場にそれを持って行きまして幾らだと、ほかの肉や缶詰と一緒に金を払うやり方は、これは現在の制度では違法になります。やはりいわゆる待命制度といいますか、その場におっていろいろなことを聞いて、あるいは教えて販売する建前をとらない限りは、非常に危険です。ところが、これは私どもは、かつて阿具根先生も一緒だったと思いますが、各地のスーパー・マーケットを見て回ったことがありますが、ある県庁に行きましたら、待命販売をやらせるということで許可したという話でした。それで、その薬務課長案内役に立てて見に行って、私はバッチを隠して、この薬はどうするかと言ったら、女の子がおって、そこにかごがありますから、欲しい薬は何でもかごに入れて勘定場に持って行って払うのですと、こう言っておった。薬務課長は非常に赤面いたしましたが、こういうようなことは非常に多い。そこへ薬剤師を置かなければいけないというのです。大阪等を見て回っても、やはりそうです。しかも、薬剤師の女の子をスーパー・マーケットの勘定場に置いて勘定をやらせている。そうして詭弁を弄して薬剤師の方にこういう勘定場の仕事をやらせている。そうして製品を見て勘定するのですから、待命販売と同じことになるんじゃないかと詭弁を弄している、こういうやり方が実態であります。スーパー・マーケットのこういうやり方は危険性を持っている。  そこで、第三番目のお話に、もう製品になっている、ここにも書いてある、テレビ、ラジオでも報道する、新聞にも広告してある、そういうことでやればいいじゃないかということでありますけれども、だれにも書いてあるとおり使えるものもあれば、非常に危険を伴うものもあるのが化学的製品の——昨日も中性洗剤のときに私申し上げたとおり、化学的製品の非常に危険なところであります。したがって、いつ危険が起こるかわからないということを常に念頭に置いてやはり扱わなければならない。でありますから、薬局、一般販売業には薬剤師を置かなければならない。薬種商は、薬種商のそういう試験を受けて薬種商の仕事をやはりやっているわけでございます。そこで、例をあげますれば、総合ビタミン剤を盛んに売っている。どこのビタミンも同じじゃないか、買おうか、こうは言っても、甲の会社で出している総合ビタミン剤と乙の会社で出している乙なる総合ビタミン剤とはやはり違う、同じ総合ビタミン剤でも。これはビタミンBに重点がある、これはビタミンAに重点がある、あるいはビタミンKに重点がある、みんな違っている。そういった点は、やはり専門家の業者に意見を聞いて、私はこうこうこういう考えで総合ビタミン剤がほしいのですが、どれがいいかということを聞けば、良識ある業者は、良識に基づいて、いろいろありますが、あなたにはこの総合ビタミン剤のほうが向くでしょう、こういうことを言う。そこまで大事をとらなくてもいいものもありましょうが、本質的にはそこまで大事をとって、価値判断のできないお客に対して価値判断を与えてやる、これが私は医薬品取り扱いの本質だろうと思う。でありますから、これは薬剤師でなくても勝手にやっていいというわけには参りませんので、やはり化学的製品は、いついかなるときに危険を伴うかもしれない。しかも、良識ある経営安定ができた薬局等でビタミン剤を売ります場合には、これは番号で、どこの会社で何年何月ごろ製造されたということがすぐわかる。ビタミン剤は、御承知のとおり、非常に破壊される、分解される。ですから、決して害毒じゃないけれども、効力が非常に減退される。ある年月たちますと、そうすると良識ある薬局等でありますれば、これは古い総合ビタミン剤で効力半減している、だめじゃないが、まだ五〇%の効力があるけれども、それよりも先月仕入れた総合ビタミン剤、これは効力が九十何。パーセントぐらいあるはずだと判断して、古い品物はどんどん送り返してやる。そういう分解作用を起こさずに、効力をそのまま持っている新しい製品であるということを判定いたしまして売る、こういうことをしなければならないと思う。そういうことが、スーパー・マーケットの販売の仕方、つまり勝手に自分の好きなものをかごに入れて勘定だけ済ませばいいという場合には、とうていそれは期待できない。ことに専門家でない者が勝手に取り扱うという場合には、なおさら危険を伴う、こういうように考えますので、これが第二段目のスーパー・マーケットに対する考え方と、それから、しろうとでもそのまま見ればわかるじゃないかとおっしゃる御質問に対する一応の私の答弁でございます。
  91. 阿具根登

    ○阿具根登君 ただいまの答弁によって、薬事課長お聞きのとおりですが、たとえばそういう錠剤なら錠剤を売る場合に、これは日にちがたつにつれてその効用は薄くなってくる、こういうことになってくると、これは厚生省の責任だと思う。許可する場合に、何年何月製造、何年何月まで有効なら有効というふうにぴたっと張らせないからそういうことになる。そういうことできないのですか。そうしないと、マスコミに踊らされて、それは病人はそういうものを買うでしょう。いい人ばかりならいいけれども、悪い人がおって古いやつを安く売ってくれる、こういうことになる。名前はいやというほどラジオやテレビなどで吹き込まれておる。そういうことになるならば、一応そういうものは有効期間は何カ月間である、何月何日以降は飲んではいけません。これは最近デパートなんかでも、高級くだものなんかは、何月の何日ごろ食べて下さいとちゃんと書いてある。  それから、もう一つお伺いいたします。提案者のお話を聞きますと、まことにごもっともだと思うんですが、たとえばAならA会社の製品を、そのA会社が全国に自分の製品の販売網を持つ。酒もありますし、ウイスキーもありましょう、サントリー・バーとか何とか、ちゃんと自分の製品が一番いいんだと言って売っているわけです。そうすると、それも全国的にやる。この薬局はどこの系統のものだ、何々系統のものだとそればかり売る。そうすると、これが一番いいんだ、これが一番いいんだとしかいわないわけです。今度は某メーカーの製品のところは、これがいいんだ、これがいいんだと、今やっておるかやっていないかわかりませんけれども、私は、将来そういうことをメーカーは考えてくると思う。また考えていなかったならばおかしいと思うんです。全国に自分の支店を全部出すんです。自転車屋でも酒屋でも、全部全国に自分の支店を持っている。だから、同じ栄養剤であっても、こちらがあなたに合うでしょうとか、そちらがあなたに合うでしょうということでなくて、これは自分の会社のもの、自分の親会社のものだからということになってくるのだと私は思うんですがね、そういうことは考えられませんか。
  92. 高野一夫

    高野一夫君 今の、話は前後いたしますが、その会社のいわゆる系統、二、三の会社は、いわゆるチェーン式にやっていらっしゃるところもあります。これはおっしゃるとおりに、純粋な立場からいきますれば、どの会社の系統、どの会社のものは売らぬとかいうような、私はそういうはっきりした区別をつけて取り扱うべきじゃないと思う。それは薬局であり、薬種商である限りは、一般販売業である限りは、すべての製品は、いつ人が買いに来るかわからぬのでありますから、用意して、そうしてそれぞれの特徴に応じて売ってあげるということでなければならないと思う。ただ、問題は、なぜそういうような系列化みたようなことが起こるかといいますと、結局利益を追求しなければならなくなる、そういうはめに追いやられるから、甲の会社の製品ばかり売っておれば利益は幾ら、乙の会社の製品を売っておれば利益はないということになる。ことに外国と違って、医薬分業の法律ができて実体が伴わない日本の状態でございます。まあ最近一、二年の間に非常に薬局の調剤がふえて参りました。非常にいい傾向だと思っておりますが、しかし、調剤で飯が食えるような状態にはまだ道はほど遠い。そうすると、販売で利益を上げて販売で維持して、将来調剤専門の薬局になるために、そこまで待機し、保持していかなければならない。それには販売にたよらなければならない。その販売にたよるとなれば、過当競争が偏在して起これば、やはり多少なりともマージンの多いものに飛びつく、こういう事態になる。そういうことも防ぎたいと考えまして、こういう適正配置もその有力な一助となる、これで全部解決しないけれども、有力な一助となる。そういう面から考えて、できるだけ過当競争を避け、そうして各会社の製品を並べて、いろいろ説明して買うほうの判断にまかせる、こういうふうな純粋な立場にいってもらいたいわけです。それがやはりこの法律の改正の一つ精神でございます。  それから、もう一つ、期限の問題が出ましたが、私の説明がちょっと足りなかったのかもしれませんけれども、現在医薬品を許可する場合には、ここに薬事課長がおられますけれども、効力がある程度ありますとそれは許可する。ところが、同じような製品で五の効力があるのは当然許可しますが、さらに優秀な会社が優秀な製品を作って、十の効力のある同じ製品を出す、これも許可する。そういたしますと、五の効力のあるものも当然発売が許される、十の効力のあるものも発売が許される、こういうわけでございますから、その製品の鑑別ということは、やはり専門的知識を必要とするわけでございますけれども、すべての医薬品が全部年月を経過するごとに分解、破壊されるのではないのでございまして、そういうものも相当ございますから、警戒して、やはり古いものはなるべく取りかえて、新しい分解作用なんかの起こっていない安心のできるものを出したい。それから、有効期間を定めたものは、これはございます。たとえばいろいろな抗生物質なんかそうでございまするが、何年何月まで有効というのももちろんございます。これはその期間が切れれば、当然売っちゃいけない、こういう制度ももちろんでございます。
  93. 阿具根登

    ○阿具根登君 これでやめますが、私が心配していますのは、精神的な面はわかりますけれども、今の場合はメーカーがもうけ過ぎているから、宣伝ばかりやっておればそれでもうかるんです。薬はきこうがきくまいが知ったことじゃない、毒じゃないんだから。十きくのか六きくのか七きくのか五きくのか三きくのか知ならないが、今おっしゃったように、厚生省が許可する、許可すれば作ったものは一つでもうんと売らねばならぬ、もうけるためには。だからいろいろな名文句を並べてやっているわけなんですよ。ところが、今度はいよいよ競争力が激しくなってきますと、今度は一般大衆もいつまでもだまされぬと思う。そうすると、やっぱり油のように、自分の系列会社を作らねばならぬ。自分のうちの薬を売ってくれるところには店舗をどれだけ援助しましょうとか、あるいは薬はどのくらい安くするとかという特約店を全部急速に作っていくと思います。私は作ると思う。そうした場合に、それが実行できないようなことがこれで考えられるかどうか、あるいはそういうことは業者としては精神上決してやらないかもしれないけれども、じゃあ薬屋が自分でやろうと思う場合に、なかなか資本も要る、この場合に、資本も一切親会社が貸してやろう、そして売り上げの何%くれればいいというようなことは当然なされると思う。まだなされておらなかったら、そういうことがなされると思う。そうした場合の混乱は一体どうするか。それから、もう一つは、薬局開設者が薬剤師でないときには、これは薬剤師の中から管理者をきめるということは、現在そういうところがあるんだ、薬剤師でない人が薬を販売しておる、現在。そういう人の経過措置はどうなっているか、そこは直ちに薬剤師を入れなければならないのか。その点です。
  94. 高野一夫

    高野一夫君 現在薬剤師でない者が開設する場合は、必ず一名の管理薬剤師を置かねばならぬことになっております。したがって、現在しろうとが開設した薬局でも、必ず薬剤師がおることになっておりますから、これはこのまま通りますが、今後改正案が公布された後における新規開設希望に対しましては、この制度を適用するわけでございまして、薬剤師の中から管理者を選ぶということが要綱の第一から出てくるわけでございます。たとえばスーパー・マーケットのごとき、非常にお客の多い大規模の事業量を持つところに一人の管理薬剤師だけでは不十分である。そういうところは二名ないし三名を置く。かりに三名を置かなければならぬということになりますと、三名のうちの一名が責任者としてのいわゆる管理者になる、こういう意味に今度変えたわけです。一人あればよかったのを、今度二名以上あり得る場合があるわけですから、その中の一人だけが管理者としての責任を負う、こういうことです。
  95. 横田陽吉

    説明員(横田陽吉君) 高野先生がお答えなさいましたことを補足いたします。第一番目は、医薬品の有効期間の問題でございますが、先ほど高野先生の言われましたように、ペニシリン等の生物学的製剤、こういったものは何年間有効期間ということがきわめてはっきりわかるわけでございます。ところが、そのほかの一般の化学的な薬品につきましては、その有効期間がどれぐらいであるかということは、必ずしも画一的にはわからない。と申しますのは、保存方法にもよりますし、それから、最近非常に製薬技術が進んでおりますので、安定剤等もだいぶ発達して参っておりますので、従来であるならば一年ぐらいしか持たなかったはずの薬も、二年も三年もその有効性については全然変化がないという場合も非常に多いわけでございます。したがって、大体常識的に考えますと、普通の化学的医薬品については、普通の保存方法をとれば、二、三年は、さほどその有効性に変化がないということは言えると思います。ただ、問題は、輸送の途中のいろいろな条件、それから、その後の薬局その他販売店における陳列時の保存方法、そういったもの等によって、必ずしも一律に云々するわけには参りませんので、できるだけ古い薬は売らないようにということが必要になって参るわけでございます。それが第一の問題でございます。  それから、しろうと開設の薬局云々のお話でございますが、現時の薬事法におきましても、開設者はもちろん薬剤師である場合もありますし、それから、薬剤師以外のしろうとである場合もあるわけでございますが、前者の場合は、みずから開設しておる方が管理薬剤師になりますし、それから、後者の場合には、必ず専門の薬剤師を管理薬剤師として雇っておかなければ、その薬局の開設は許可されないわけでございます。この法律が、御提案のような内容に改正されますと、どう変わってくるかという点は、薬剤師がみずから開設いたしております場合でも、しろうとが開設いたしまして管理薬剤師を雇用いたしております場合でも、両方の場合につきまして売り上げの量とか、あるいは調剤の件数とか、そういったものをものさしといたします。その薬局の規模によりまして、必要な薬剤師の数が何人であるか、現在の法律では、いかに大規模な薬局でございましても、実は法的には、薬剤師が一人おれば必ずしも違法な状態とはいえない格好になっておりますが、それが何百人もお客さんが来るようなそういった薬局になりますと、一人の薬剤師が、実際問題として売ったり調剤したりということを全面的に実地に管理する能力は実際はないわけでございます。そういった点について、現実のその規模と薬剤師の管理能力というものを勘案しました適正数が定まってくる。したがって、この改正法が通りましたならば、現在一人で間に合っているところが、三人あるいは四人というような薬剤師を要求されてくることが出て参る、これだけのことでございます。  それから、第三番目には、先ほどお話のように、一部の業者がチェーン組織を作って云々ということに対して、この改正法はどのような効果を持つかという点でございますが、実は、この法律自体を拝見いたしまして、そういったものに対してきめ手になる解決手段になるとは考えておりません。ただ、問題は、こういった法律趣旨に従って、薬局あるいは薬種商、一般販売業が適正に配置されるということになって参りますと、おのずからそれぞれの経営が安定して参りますので、一部の業者が裏増しその他によってみずからの系列下に置くというような販売政策をとりました場合でも、そういった販売政策に身をゆだねずとも、みずからの経営が安定されますから、したがって、そういった無理な裏増し等による系列化云々の政策に対しては、間接的にそれを阻止する力はあるいは持つかもしれません。そういった考え方をいたしております。したがってあらゆる医薬品の販売、生産両面にわたる混乱というものが、この法律によって百パーセント解決するとは私ども考えておりません。したがって、この法律でうたっている以外に、たとえば業者の商業組合というものの結成を助長するとか、そのほかメーカーその他各段階の業者に不当な競争を巻き起こすことのないように指導するとか、そういった行政指導というものは十分にやっていかなければならない、そのように考えております。
  96. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ほかに御発言もなければ、質疑は尽きたものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  97. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めます。  それではこれより討論に入ります。御意見のある方は、賛否を明らかにしてお述べを願います。  別に御意見もないようでございますので討論は尽きたものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  98. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認めます。  それではこれより採決に入ります。  薬事法の一部を改正する法律案を原案どおり可決することに賛成の方の御挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  99. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 総員挙手であります。全会一致でございます。よって、本案は、全会一致をもって、原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、議長に提出すべき報告書の作成等につきましては、これを委員長に御一任願うことといたしまして御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  100. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 御異議ないと認め、さよう決定いたしました。  午前中の審査はこの程度にとどめておき午後は二時十分より再開することにいたし、暫時休憩いたします。   午後一時四十一分休憩      —————・—————   午後二時二十二分開会
  101. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ただいまより社会労働委員会を再開いたします。  労働情勢に関する調査を議題といたします。ILO八十七号条約批准問題に関する件及び日米間の賃金共同調査問題について調査を進めます。質疑の通告がございますので、これを許します。  その前に、政府側の御出席者は大橋労働大臣、中垣法務大臣、竹内法務省刑事局長、高瀬法務省刑事局公安課長、堀労働省労政局長、大島労働基準局長、並びに通産省企業局青木企業第二課長であります。杉山委員
  102. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 ILO八十七号条約の批准問題にからんで若干お伺いしたい思いまして、六本の質問の柱を立てておるわけでございますが、うち五本は労働大臣からお伺いをし、一本は法務大臣からお伺いをしたいと、かように考えております。しかし、大臣の都合があって、時間に制限がおのずから出てくると思いますので、簡単に質問の要旨をかいつまんでお尋ねいたしますが、簡明直截にひとつ意のあるところをお答えいただきたいということを前段としてお願いいたします。  まず労相にお伺いしておきたい点は、労働大臣就任のときにも社労にお見えになりまして、就任のあいさつの中にもありましたが、いうならば、自由にして民主的な労働組合というこれは政府関係機関の方々、労働大臣もよく使われる用語でありますが、いわゆる、自由にして民主的な労働組合のあり方、存在意義、そしていわれるところのいわゆる自由にして民主的な組合活動というものを、陰に陽に拘束したり抑圧しておる国内法規は数あっても、たとえば公務員法であるとか公労法というものは、その発想の次元をとらえてみても、発想の歴史的経緯にかんがみましても、少なくとも、国際労働憲章はいわずもがな、憲法二十八条の規定ないしはその思想を流れる精神には、少なくとも反するんじゃないか、こういうふうに考えておりますので、この点は、私が今後お伺いをしようとする発想の起点でございますので、一応労働大臣からお伺いをしたい、こういうふうに思います。
  103. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 労働省といたしましては、労働組合は、憲法に基づく労働権によりまして労働者の組織する組合でございまするので、この組合の発展育成を念願いたしておるのであります。その労働組合のあり方といたしましては、自由にして民主的な組合ということが、一つの目標に相なっておるのでございます。自由なる組合というのは、結社の自由の原則に従いまして、労働者が自主的に、自由に組織する組合であるということ、そしてその運営においては、民主主義の原則に基づいて運営される、こういうことが労働組合の目的達成の必須の要件と考えられますので、労働組合の発達のために、自由にして民主的な組合ということを目標といたしておる次第であります。  しこうして、公務員法、公労法につきましは、これが憲法といかなる関係に立つかという点で、いろいろな議論のあるところでございますが、政府といたしましては憲法の所定の労働権というものも、公共の福祉によって制限をされることは一般の基本的権利と同様であるという観点に立ちまして、国の行政の構成、また公共の福祉という観点で、公務員法あるいは公労法が、この結社の自由につきまして必要なる制限を加えておることは、これはやむを得ざることと考えておるのであります。
  104. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 ILO八十七号条約の批准は、すでにこれは時間の問題だと思います。私どもは、そういう起点を一月二十三日の池田首相の施政方針演説の重要な柱としてILOの批准の問題が位置されておるというところに、これは批准の前夜的な情勢に位置づけられておる。したがって、ILO八十七号条約の批准は、単に国際的な法規をみえや体裁で尊重することを明らかにするという、そういう立場だけではなくて、その関連においては、どうしても日本国憲法二十八条の精神を尊重して、そういう立場に立つものでなければならない、こういうふうに考えます。  たとえば公共の福祉に反してはならないというような憲法上の規定を故意にひん曲げて解釈し、労働基本権に基づくところの正当な労働争議行為を抑圧したり弾圧することは、国際労働憲章ないしは国際労働慣行の常識に反すると思うが、労相の見解はどうか。  今、もちろん公務員あるいは公労協の重要な基幹産業なり、国の行政を担当するところの人々が、野放しでノー・ズロースで、自由だから民主的だからといって行動するということについては、それなりの自律的行動というものと理性というものと、やはり法律的な規制というものはあってしかるべきだと思います。前段、私は、質問の中で、少なくともこの公労法にしてもあるいは公務員法にしても、その発想と制定の歴史的経緯、たとえば一九四七年の二・一ストの当時、マッカーサーがわが国を占領の立場において支配をしておった当時に、マッカーサー書簡というものと、その前夜的な情勢では、御承知のように、米英ソというものが、大体ポツダム宣言に基づいて、占領の根幹をなしておったのでありますが、ソ連軍が去りまして、マッカーサーのやはり日本を支配する一つの力というものが強まってきた。そういう方向の中でやはり公務員に対するストが禁止をされておる、具体的には、やはりマッカーサーの書簡によって政令二〇一号によって禁止をされておる。その関連において公務員の中からスト権が禁止をされたり、あるいは公労法というものについて手が加えられておる。  したがいまして、それにしても法は法であるという建前において、私どもは法治国の国民として法治国における労働者として、その点については、やはり抵抗を作りながら合法の手段によって、これを変えるという立場を取るのでありまするけれども、今労相の言われるところの、こういう法律があるからというだけでは受けとめがたいと、こういう立場を取るわけでありまするが、後段に質問いたしました、この公共の福祉という問題の受けとめ方と八十七号の条約を批准するということは、単に勧告があったり——十三回も勧告があったから、やはり国際的なレベルの中で日本も大国として……、こういう面もやはり一つの水準の中に到達をするんだ、そして国際憲章の尊重を確約するのではなくて、それよりももっと前の、一歩前の姿勢として憲法二十八条の労働基本権の保障というものは、国の責任においてなされなければならぬのでありますから、そういう点について今日の時限をとらえてみるならば、十分姿勢を正して重視していかなければならぬ、こういうふうに考えるわけでありますが、そういうことに関連してお答えいただきたい。
  105. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 公共の福祉のために労働基本権を制限する場合は、憲法の解釈上当然あり得ることでございます。しかしながら、その公共の福祉のために、いかなる労働権のいかなる部分をいかなる形で制限するかということは、そのときどきの社会情勢によりまして、おのずから変遷はあるべきものであろうと考えるのでございます。  最近になりまして、御承知のごとくわが国もILO条約八十七号の批准の時期が近づいて参ったのでございますが、ILO条約は御承知のごとく結社の自由を規定いたしており、したがいまして、日本現行法の中で明らかに抵触する項目もございます。たとえば公労法四条三項、また地公労法五条三項、いずれもILOの八十七号条約の趣旨に反するのではないかと思われるのであります。また、公務員法にいたしましても、明文をもって規定はいたしてございませんが、従来公労法、地公労法の規定と照らし合わせまして、政府並びに人事院におきましては、現公務員法は、当然解釈上公労法四条三項、あるいは地公労法五条三項の明文があると同様の解釈をすべきものであるというふうになってきておるのでございまして、ILO条約を批准いたしました以上は、この解釈も当然変わってこなければなりません。したがいまして、この解釈を引き出してきておりまする現在の公務員法というものを、当然その点を明瞭にするという意味におきまして改正を必要といたすわけなのであります。  したがいまして政府は、ILO批准案件の国会提出にあたりましては、公労法、地公労法、公務員法、地方公務員法同じように改正をしようというので提案をいたしておる点は御承知のとおりでございます。なお公務員のスト権の問題でございまするが、この公務員のスト権につきましては、その公務員の担当いたしまする業務、すなわち行政事務の性質上、これが労働権の行使によりまして停廃させられることが公益上認めがたいというような事柄につきましては、これはやはり公共の福祉を尊重する見地からスト権を禁止されるということもやむを得ないことではないかと思います。
  106. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 先ほど申し上げましたような形に質問の柱を分けておりますけれども、三時に、どうしても労働大臣は、ということでありますので、一応質問はそれなりに進めて参りますが、ただいまの大臣の所信といいますか、解明というものについては、どうも私どもは、はだに受け入れて納得できません。しかし、これは他日に譲ることといたしまして、次に質問を進めますが、ILO理事会の本会議が採択した日本問題に関する結社の自由委員会のことは新聞にも出ておりますので、あえてここでは申し上げるまでもないと思いますが、そこで私はこれに関連をして、労相にお伺いをいたしますが、新聞の報道面をとらえただけでも、結社の自由委員会が理事会に報告書を提出して、それは採択される前の段階で同じ場所で、これはベルギーのデボック氏——労働者側の代表の理事と思いますが、それと日本政府代表である青木代理大使でありますか、発言を求めておるようでありますが、デボッグ理事の発言は、いうならば、委員会審議の結論を出版するか、事実の調査、調停委員日本に派遣せざるを得ないであろうと述べるとともに、日本政府が五月末までに約束を果たさなかった場合には、断固たる処置をとらざるを得ないと発言をしているのでありますが、これに対して青木政府代表は、事実調査委員会の日本派遣は、政府は反対をしないだろうと述べている、新聞はそう報道しているのでありますが、この青木政府代表の発言というものは、政府の訓令に基づくものであるか、それとも青木代表の私見であるか、この点は今後の問題について、私どもは十分重視していくべき必要なものと思いますので、一応、お答えいただきたいと思います。
  107. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府といたしましては、たびたび池田総理からも言明いたしておられますとおり、今国会において必ず批准を成就いたしたいという決意をもって、この問題に対処いたしておるのでございます。しかしながら、何分にも国会の御審議を待たざるを得ない事柄でございますので、今、国会中にこの案件の処理の終わらないような場合におきましては、ジュネーヴにおきまして、さらにいろいろなこれに対処する動きがあるであろうということは十分に想像をいたしております。  しかしながら、今これに対しまして、日本政府として、かくかくの場合にはいかなる態度をとるかということをまだ明確にする時期ではございません。日本政府といたしましては、その未確定の場合についての対策を講ずる前に、与えられておりまするこの段階におきまして、今国会批准達成に全力を尽くしたいと考えておる次第でございます。
  108. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 去る八日のILO理事会本会議が、日本問題に関する報告書を採択した際に、大橋労相はさっそく談話を発表しておられるわけでありますが、その中で、八十七号条約批准承認の案件と国内関係法改正案は、政府としてはできる限りすみやかに成立することを希望し、すでに国会に提出した、今後一そう努力をするつもりである、こういうふうに言っておられますが、本来ILOと結社の自由委員会を通して国際世論が問題にしておるのは、結社の自由に違反する公労法第四条三項、地公労法第五条三項の規定であります。したがって、これをそれぞれ削除すればよいはずでありまして、また、それが事柄の本質であるのにもかかわらず、政府提案の国内関係法案をこの機会に便乗して国家権力や独占資本のための都合のよい法律改正をやろうとしておるのが真実のねらいではないかと、そう判断せざるを得ないのでありまするが、労働相のこれに対する見解なり所信というものを、この時点で伺っておきたいと思います。
  109. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 公労法、地公労法が、ILO八十七号条約に抵触することは申すまでもございません。しかしながら、現在国家公務員法並びに地方公務員法の解釈といたしまして、これらの法律に明文はございませんが、事柄の性質上、同じような解釈をしなければならぬものである、こういう解釈をもちまして、人事院は人事院規則によりまして、国家公務員の職員団体につきましても、公労法四条三項と同じような趣旨の取り扱いをいたしておるのでございます。で、公労法の四条三項、地公労法の五条三項を削除いたしまする以上は、同じ解釈をいたしておりまする国家公務員法の解釈を、この際変更するという趣旨を明らかにする必要があるのでございまして、この意味におきましても、国家公務員法の改正は、これは法律上当然の要請であると考えられるのでございます。ただ、問題となりまするのは、おそらく国家公務員法の政府提出案によりますると、この中に、内閣人事局の設置という趣旨がうたってあるわけでございまして、これが便乗規定ではないかというような批判も承っておるのでございます。  しかし、政府といたしましては、現在までの国家公務員の職員団体というものと政府との関係、これは御承知のとおり、国家公務員に対しましては、労働基本権のうち、組合の結社の権利並びに団体交渉につきましては、政府当局と交渉する権利を認めておるのであります。ただ、協約締結をするということは認めてございませんが、しかし、事実上当局と交渉するという権利は、明らかに国家公務員のために、国家公務員法では保障をいたしておるのであります。この交渉の衝に当たるべき政府機関は、各省ばらばらでございまして、私も給与担当国務大臣といたしまして、この交渉の衝に当たって参ったのでございます。その経験から申しましても、内閣人事局のごとき権限ある正式の機関を設け、これが国家公務員の各種職員団体と統一交渉の窓口となって、交渉事項を処理していくということが、国家公務員の交渉の権利を擁護し、実効あらしめるゆえんではないか、こういうふうに考えるのでございまして、この国家公務員法の規定は、これは結局において、労働者の基本的権利を擁護し、確保し、これを実効あらしめるという趣旨から申しまして、いずれも欠くべからざるものである、かように考えて進めておる次第でございます。
  110. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 おそらく大臣は、そう言われると思ったわけでありますが、意に沿うわけには参りません。ILO八十七号条約の批准と国内法改正は、全然違った次元と違った目標のものであるにもかかわらず、それが、あたかも一つのものであるかのように、悪い言葉でありまするけれども、見せかけで、二者択一の審議ルールに追い込んで、国民世論を、これは一つのものだというふうにかって、今の議会の分野からいくならば、これを批准するということも、一つの運営技術からいって、多数にものをいわせて押し切るというようなことでありまするならば、私どもは、労働者が一つの基本権を守るということ、それを乗り越えて、力で無権利状態へ押し込まれるという法律であるならば、好むと好まざるとにかかわらず、主権在民の立場から、国民運動的な規模においても、これに抵抗を尽くさなければならない、そういうような立場に置かれておる。これは私なりの——私は戦前派の労働運動者でありまして、転機を政治活動の場に求めて、今回初めて、政治の場に参ったのでありますが、大正の末期から今日まで、労働運動の道一筋に生きて、歴史を語り、今日まできているわけでありまして、今申し上げた点につきましては、法は法であるということは否定はしませんけれども、ILO八十七号条約の批准の問題と国内法の改正という問題は、言葉のあやはどうであっても、内容的に、私どもは改正と、はだで受けとめることがいろいろな面からとらまえまして、できませんので、そういうふうに私どもは感じておるということを、一応この時点において、申し上げておきます。  さらにお伺いいたしますが、しからば、たとえばこれは倉石労働大臣の当時であったのでありますが、昭和三十四年の二月十八日付で、ILO労働条約批准に関する答申か、当時——今でもあるかどうか知りませんが、労働問題懇談会、会長は中山伊知郎さんでありましたが、今申し上げた日付で、答申をされております。それは、明らかに批准をするということと、やはり公労法の四条なり、地公労法の五条三項なりを削除するということと、それからもう一つの柱を立てて、やはり自由にして民主的な、公正な労使慣行を確立するのだと、そういう答申がなされいることは既定の事実でありまして、記録にも明らかなところであります。  そういうものをとらえて考えてみた場合、今のような大臣の言われる受けとめ方では、これをどう消化していくかという問題についても、やはり私どもは、すべては相互信頼の上に立って、たとえ考えは違っても、痛くもない腹を探るというような、そういう意地の悪い立場に立とうとは毛頭考えておりませんけれども、筋を通して、やはり是は是、非は非という立場をとっていくべきではないかと、かように考えておるのでありますが、その辺の事情についてお考えを承りたいと思います。
  111. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 確かに、労働問題懇談会の三十四年の意見発表では、ILO条約八十七号の批准には、公労法四条三項、地公労法五条三項の削除のみにて事足りるという考えが表明されておりました。しかし政府といたしましては、この御意見を根本といたしまして、この御意見を実施する場合において、いかなる関連事項を生ずるか、詳細に検討を続けました結果、先に申し上げましたるごとく、国家公務員法の解釈として、明文の規定はないけれども、公労法四条三項と同じような解釈が行なわれているので、これを改正しなければならないということになりまして、国家公務員法の改正も必至である。同様の趣旨で、地方公務員法も改正すべきではないか。また、改正するといたしましたならば、職員団体の交渉のことについて規定をいたしておりますが、政府側の統一的な窓口がございませんために、実効ある交渉が行ないがたい実情でございましたので、労働権を有効にするという見地から、内閣人事局を作るのではなかろうか、こういう提案がはっきりいたして参ったのでございます。ことに労働問題懇談会の三十四年の答申におきましても、公労法四条三項、地公労法五条三項の廃止は当然であるけれども、この廃止を行なうとすれば、関係諸法規等について、当然必要な措置を考慮しなければならなくなるであろうということで、これらの点については、政府のさらに、それ以上の検討を期待しておられたわけでございます。これらの政府の検討に基づく結果というものは、必ずしも労働問題懇談会の答申の趣旨と相反するというものではないと思っておるのであります。  なお、一言付け加えておきますが、政府はILO八十七号条約並びにこれに伴いまする国内法の改廃につきましては、あくまでも国会の御審議をお願いしたい、その国会の御審議におきましても、いわゆる政府が力をもって押し切るというような、そういう行き方でなく、十分国会において隔意ない御討議をいただき、その結果によって批准を促進いたしたい、こういう考えでおりますことを付け加えさしていただきます。
  112. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 ILOにおける八十七号条約批准に関する日本問題は、三月八日開催の理事会本会議が採択した報告書の内容及び会議の雰囲気からいたしましても、もうぎりぎりの限界点に達しているのではないか。これ以上引き延ばすことは許されない、こういうふうに私どもは受けとめておるわけであります。  さらに視角を変えて申し上げまするならば、ILO八十七号条約の批准問題は、単なる法律問題だけではなく、実はわが国経済外交と密接な関連があると思うのであります。たとえばガットの関税交渉や、アメリカとの綿製品交渉を有利に展開するためにも、そして日本の低賃金国であり、そしてソシアル・ダンピングの常習国であるといったような誤解を解くためにも、この時点で八十七号条約の早期批准が先決ではないか。本問題の解決こそがひいては貿易の自由化に対処し、輸出増進への近道であると思う。したがってILO八十七号条約の批准に直接関連性のあるところのこの公労法の第四条の三項、地公労法の第五条三項は、これを一日も早くとるべき手段と改定すべき過程を通しながら廃止をし、他の関係国内諸法規は、別途これを慎重審議をし、言うなれば、労使対等の原則の上に立つ公正にして民主的な労使関係を確立すべきであろうと思う。それがやはりILO担当大臣としての大橋労相の置かれておる位置づけであり、それを筋を通しながら敢然として勇気をもって取り組んでいかれるのが大臣立場ではないか、こういうふうに考えます。この点については、もう時間もありませんが、労相の所信と、それから通産関係のどなたかお見えになりますれば、これは法律論としての受けとめ方でなくして、そういう点についても関連として、お答えをいただければけっこうだと思います。
  113. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) ILO八十七号の早期批准を必要とするゆえんにつきましては、ただいま杉山先生のお述べになりましたことに全く同感でごございます。ただ、これに対して国内関係法現をいかなる程度に整備するかという点になりますと、政府といたしましてはすでに国会に対しまして政府案の形で提案をいたしておるのでございまして、この提案されました法案につきましては、国会の御審議によりまして適切な御処理をお願いいたしたい、かように存ずるのであります。提出者として、かようなことを申すことはいかがかとは存じまするが、政府は国会のお話し合いによりまして処理される分には、必ずしも原案を固執しなければならぬと考えておるものではございません。
  114. 青木慎三

    説明員(青木慎三君) ILO条約の批准が早期になされることが望ましいということは、ただいま労働大臣がお答えになりましたとおりでございまして、一般の通商問題につきましての好ましい影響を与えるであろうということは言えると思いますので、通産省としてもなるべく早くこういうことが実施されることを望みたいと思います。
  115. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 三月十五日の時点で、組織労働者の総意を代表するに足り得るいわゆる四団体が声明を出しております。その声明の趣旨を基調として、去る二十五日四団体池田首相に申し入れをしておるわけでありますが、その時点に大橋労相も黒金官房長官も立ち合っておられるわけでありまして、そのあと味についても、申し入れをした当事者から伺っておりますが、しかし、この点と、それからILO条約批准という問題を中心として、これに関連する諸問題の派生する方向の中でやはり対象となるのは、日本の労働者階級であり、これが批准されるかされないかという問題、そうしてそれは労働者だけでなく、国全体の問題としてでもありますが、この中で、すでにこれは蛇足であっても、一応は申し上げておくべき筋合いと思いますから申し上げますが、ILOのモース事務局長は、昨年日本政府代表に対し、八十七号条約批准は、日本の国内問題としてではなく、アジア、さらに国際的な視野に立って考うべきであると同時に、再三強調したことを政府は思い出してもらいたい。そういうところに力点を置きながら、やはりうたっておる力点は、われわれ労働四団体日本政府に対して、次の点を強く要望するものである。労働問題懇談会は一九五九年八十七号条約批准に必要な措置として公労法四条三項、地公労法五条三項の削除を答申しておる。また、ILO第四十五回総会の条約勧告適用委員会は、一九五三年に批准したILO九十八号条約第二項にも違反している事実を指摘しておる。現在批准遅延の原因は、国内法整備問題にあるのにかんがみ、国内法の改正は前項の点だけにとどめ、八十七号条約を直ちに批准すべきであるというふうに強く申し入れておるわけでありますが、もちろん議会における、しかも本日の重要な柱としての批准問題の池田首相のその次元と、それからその言い分というものが、言うならば三月八日のILO結社の自由委員会の報告というものが理事会本会議で採択されておる、そういう一つの国際信義の事項からいきましても、そうしてさらに、先ほど申し上げました過般の批准に関する労働問題懇談会の答申というものをからめ合わせて考えてみても、やはり批准という問題と国内法の改正という問題については別な問題として、これを拙速的に消化する、そういうことを強く要望しておるわけでありますが、この点について、これは池田首相にまつわる重要な問題であるといたしましても、私どもの受けとめ方は、かりそめにもILO問題の担当大臣は大橋労働大臣である。そういう立場から、最も慎重を期しつつ、いろいろな主張が今後も起きると思いますが、私はこれ以上、この問題は、また時間もありませんし、もちろん基本的な党の立場としても非常に重要な問題でありますから、将来の展望と見通しの中で、私の質問が、やはり障害を与えるということは問題があろうと思いますので、これ以上突っ込んだ問題は差し控えますけれども、十分ひとつ、その辺の、総評を含めた四団体の最大公約数でこの申し入れをしているということを重視していただきたいということを特に御要望申し上げておきます。これは三時ということで、信義を重んじますので、実は六本の柱の中の一本もっとも、これは法務大臣に一本残してありますので、労働大臣は、これでいいです。  今やはり、これは六本の柱の中で、どうしてもこれは、法務委員会でなくても、この場でひとつ、労働者に関係がある問題でありますので、ひとつお聞きしたい、こう思いましてお伺いをするわけであります。  三月八日のILO理事会の本会議が日本問題に関する結社の自由委員会の報告書を採択した過程の中で、労働者側の代表理事であるベルギー国のデボックさんが発言をしておるわけでありますが、その内容は、御承知と思いますが、こういっておるわけであります。すなわち、日本政府が理事会によい約束をするたびに、反組合的な処置がとられる、最近でもそのような事態が起こっておると、こういっておるのであります。この発言が、三月八日でありますが、この発言が、いみじくも現実に立証されたかのごとき現象が三月十五日最高裁小法廷の判決である。いみじくもという、私は言葉のあやを使いますけれども、しかも、この判決は、実に労働運動の何であるかということをわきまえない、つまり理解しないところの、言葉は悪いのでありますけれども、無知、しかも不法、不当なものであるというように、私どもは、そういうふうに受けとめざるを得ないのであります。今日、国際労働憲章はもとより、憲法二十八条の規定と精神を冒涜することもはなはだしい。全く私ども労働者の立場、今日労働者の立場という立場ではありませんが、やはり全く怒りを禁じ得ないものがあるのであります。この際、特に、やはり法相に伺っておきたいのでありますが、一体、この判決が及ぼす影響というものは、国際的にも国内的にも、そうして労働界はもとよりでありますけれども、政党、学界、言論界、法曹会においても、大きな波紋を引き起こすと思うのであります。特にILO八十七号条約批准問題が大きくクローズ・アップされているときでもあるので、この際、右ように関する法務大臣一つのこの問題に対する法理論としてでなくて、考え方の基調というものを、一応お尋ねしておきたい、さように考えるわけであります。
  116. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) お答えいたします。去る十五日の最高裁第二小法廷におきまして、公労法十七条一項の規定に違反して行なわれました公共企業体等の職員の行なう争議行為につきましては、労働組合法一条二項のいわゆる刑事免責の規定の適用がない、このような判決がありましたことは、すでに御存じのとおりでございます。政府といたしましては、かねてから公共企業体等の企業の有する国家経済国民の福祉に対する重要性にかんがみまして、公労法十七条一項の規定は、憲法二十八条に違反するものではない。また、公共企業体等の職員が同条に違反して争議行為を行なった場合には、その争議行為について正当性の限界いかんというようなことは論ずる余地がないのである。そうして労働組合法一条二項の適用がなくて、したがって、刑事免責を受けないとの行政解釈を終始一貫とってきたことも御承知のとおりであります。今回、こういう政府のとって参りました行政解釈に、そういう明確な判断がなされたということでございまして、法務省といたしましては、法律解釈としては、かような新判例は、これが相当である、かように実は考えているのでございます。  ILO条約とこの問題のことにつきましは、杉山先生のいろいろ御指摘の点があったと思うのでありますが、この問題は御承知のとおりに、そういうことに関係なく、最高裁の第二小法廷の新判決として決せられたわけでありまして、政府といたしましては、この判決を支持して、これから参りたい、かように考えているのでございます。
  117. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 ILO結社の自由委員会は、十二回にわたってILO八十七号条約の批准に関して日本政府に勧告をしていることは御了承のとおりでありますが、同時に、争議行為並びに政治活動その他の制裁として解雇等の行政罰はもちろんのこと、刑事罰の適用もしてはならないというような趣旨の、これはF頂等の勧告というものがあるのでありますが、これはILOの百五号の条約、つまり強制労働禁止の統一見解を示しているわけでありまして、職場放棄であるとか、そういうものに対して行政罰はともあれ、刑事罰を加えることは許すべきではない、あるいはストが緊急事態を発生をして、基幹産業というようなものに対して混乱を生ずるといったような、そういう一つの事象以外は、少なくとも過般の最高裁判所の小法廷の下した判決のようなものは、非常に——前段申し上げましたけれども、ILO条約を批准するということは、国際労働慣行や国際条約を尊重するということにとどまらず、日本のやはり国内法の基幹である憲法、特に労働問題にまつわる二十八条の条項は尊重され重視されなければならない。今日、主権在民の立場で、裁判官も最高裁の判事の皆さんも、国民審査によって決定されている。その人たちが位置づけられている。そういう建前からいっても、やはりILOの批准の、いろいろな各種国際労働憲章の中に関連条項がありますけれども、それらのものを尊重するという、そういう次元の中で、ああいう問題がとらえられるということは、はなはだ遺憾だと思いますが、そこでこの場では、この問題にあくまで食い下がる問題ではないと思いますが、こういう点について、ひとつ伺っておきたいと思います。私も法律には全くしろうとでありますけれども、このことをお伺いするのは、しろうとのほうがいいと思いますから、歯にきぬを着せず、ざっくばらんにお伺いいたしますが、あの判決のやり方、少なくとも口頭弁論というものを開かずに、それから関係弁護人にも、知らせるには知らせても、ほんとう一つの通念や常識からはずれたような通告の仕方をして、しかも、出されたところのつまり判決というものは、高等裁判所や地方裁判所が下級裁判所であるかどうかということは私はわかりませんが、それらの判事諸公が、広範なやはり判例と、十分うんちくを傾けて出された判決というものを、一片の最高裁の権威というものと、そうして下級裁判所すべての対象になる広範な国際的な、おそらく国内的な労働階級の納得をせしめることのできないような簡単な一つの条文によってやっているということ、この問題は、前段も申し上げたとおり、確かに労働界でも学界でも言論界でも、非常にこの問題については、今後大きく問題が発展をするのだというふうに考えております。  そういうような点について、これは私は、新聞の切り抜きでありますけれども、一応これは、こういうふうにもっともだというふうに私どものむしゃくしゃとして胸につかえておることを、これが書いておりまするので、簡単でありまするけれども一応言っておきますが、「最高裁の判決が当事者だけでなく、広く大きな影響をもつことはいうまでもない。それだけに、最高裁判決には手続、内容の両面にわたって説得力がなければならない。訴訟当事者は下級審の段階で、正しい事実の認定、法律の適用を求めるために、多大の努力を払う。下級審の裁判所は二分している学説、判例のいずれをとるにしろ、その理由を判決に示す。その理由を最高裁が変更するのに当事者のいい分も聞かないでは、当事者のみならず下級裁判所に対しても到底説得力あるものといえないではないか。これでは一審強化を主導する最高裁みずからこれに水をさすとの非難を免れない。  こんどの判決は学説、判例が二分する大問題であるのに、わずかにその結論を示すだけのものである。これはもはや「裁判」ではなく、最高裁という立場からの結論のおしつけではなかろうか。最高裁は単なる司法行政府なのであろうか。  最高裁がつねに「裁判の権威」をいうのであれば、判決にはそれにふさわしい手続、内容がなければならないと考える。それがないところに、どうして国民に信頼される裁判、裁判の権威があるだろうか。こんどの判決は大変遺憾である。」これは東京中野区の弁護士で、名前も明確にしてあるわけでありまするが、私どもは通念として、こういうふうにこの判決というもののあり方、それから形式上の問題を非常に不審に思うわけでありまするが、ひとつお答えをいただきたいと思心います。
  118. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) お答えいたします。法務大臣といたしまして、裁判所のそういう判決の仕方あるいは内容等につきまして、とかく批判がましい意見を申し上げるのは差し控えたいのでございますが、これは私が聞きましたところによりますと、検察側並びに弁護士側の弁論の資料は、いずれも二万語に及ぶと言われるほどの膨大なものであったそうであります。しかもこの種の裁判は、実証であるとか、証拠裁判であるとかというような性質のものではなくて、どこまでも双方の主張を、両方の書類によって提出されております弁論の資料によりまして判決をされたというふうに聞いておるのでありまして、そういうことがいいか悪いかということは、私といたしましては、それを肯定する立場に立っておるのでございまして、批判を申し上げるということは差し控えさしていただきたいと思います。  それから、先ほど杉山先生が前段に申されました、先ほどの最高裁第二小法廷の判決というものは、ILO八十七号条約の精神に相反するのではないかといったようなお話があったと思うのでありますが、私ども立場といたしましては、決して憲法二十八条に違反しないという理由は、たとえば争議権に対する否定と申しますか、制限はするのであるけれども、別に労働組合の組合権を何ら侵害するものでない、それには、いろいろ調停機関等も、それがために制度によって設けられておるのであるからと、そういう立場に実は立っておるのでございます。どうもこれは非常に専門的な知識が必要でございますので、私では十分お答えができないかと思うのでありますが、もし先生が御必要ならば、刑事局長を連れて参っておりますので、刑事局長から答弁をさせたいと思います。
  119. 竹内寿平

    政府委員(竹内寿平君) ただいま大臣がお述べになりましたようにこの最高裁の判決は、私どもの見ておりますところ、きわめて常識的な結論だと思っておるのでございます。争議行為が禁止をされておりますので、禁止をされている以上は、争議行為を前提とした労組法一条二項の適用をまた受けるものでないということを申しておるのでございます。その結果といたしまして、労組法一条二項の適用を受けない結果といたしまして、もし争議行為の過程において起こった刑法に触れるような行為その他がありますならば、その罪は罰せられなければならぬということになるわけでございまして、これはきわめて常識的な私は結論であると思います。  この常識的な結論は、大臣が申されましたように、政府といたしましては終始このような態度をとってきたのでございまして、ところが、この考え方に対しましては、杉山先生もすでに御承知のとおり、学者の中には、いろいろ異論を唱える方もあります。また、それに伴いまして、下級審の判決におきましては、政府側の見解を支持する判決もありましたと同時に、また異論を唱える学者の意見を支持する、つまり反対の判決、結論もあったわけでございまして、法務当局といたしましては、このように一つ法律の解釈がまちまちになっておることが、何としても、はっきりさせるということに意義を感じておるわけでございまして、終始変わらない行政解釈を、はたして最高裁がどう理解するかということにつきまして、たまたま出て参りました二つの事件につきまして、先ほど大臣申しましたように、検察側としましては二万字に及ぶ膨大な理論構成をいたして弁論に立ち会ったわけでございます。一方、もちろん弁護士側も、さらに検察に劣らない程度の理論構成を展開いたしまして、最高裁の判断に供したわけでございます。裁判手続は、御承知のように最高裁の手続でございますので、一審、二審の裁判とは違いまして、すこぶる静かに弁論が行なわれるわけでございまするけれども、そしてまた、結論といたしましては、言い渡されました判決は非常に膨大なものではございません。それは法律論についての結論でございますから、さような膨大なものではございません。したがって、この判決に不満を感じられる方々の目から見ますると、納得がいかないというような御議論もあろうかと思いますけれども、私ども法律の専門家の立場から見ますると、きわめて常識的な結論であるというふうに理解をいたしておる次第でございます。  なお、このような解釈態度が、はたしてILOの基本的な考え方に相反するか反しないかというような問題もあろうかとは存じますけれども、当面この判決は、ILO八十七号条約に直ちに抵触するものではないという理解をいたしておりますし、もちろん将来の問題として、いろいろ論じられておりますILO百五号条約との関係につきましても、差しあたり抵触する問題はない。もちろんこのILO百五号の問題につきましては、制裁として強制労働を禁止しておるのでございまするが、それが刑罰に課せられることによって刑に処せられる、刑の執行を受けるということが、はたしてそれにあたるかどうかということは、これまた、いろいろ議論の存するところでございますし、条約勧告適用専門家委員会等の報告によりますると、そういうものも入るかのごとく、われわれは承っておるのでございますが、なおよく、この実態を見きわめませんと、文字の上に表われたことをもって、直ちにそれであるというふうに論ずることはむずかしいかと思うのでございまして、さしあたり私は、最高裁の判決がILOの精神にも背離するのだというような考え方はいたしておらないのでございます。
  120. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 私は、あまり時間をこのために費やすということは不本意でございますので、これで質問なり、多少主観めいた意見もまじりますけれども、打ち切りますが、しかし、今の御説に私どもは納得できかねます。もちろんこのごろの法律解釈に対して、学説、それから行政機関の解釈、同一省の同一事案に対しても、それぞれ食い違ってきております。そういうような中で、たとえばすでに批准されておるILO九十八号の二条の問題にいたしましても、今、批准の前夜的な情勢にあるところのILO八十七号の問題にいたしましても、当然国際水準に、そして諸外国の批准の国家、今日的に二十四カ国あるわけでありまするが、日本が、言うところの百九カ国のうちの、所得の面からいっても、そしてその他の生産点の問題からいっても、工業水準の問題からいっても、やはり大国であると、そういう点になるならば、こういうILO関係の条項を批准するという、そういう方向の中で、さしあたってやはり、二十四カ国は、これはいずれも先進国でありまするが、それらの国が批准している中でILOの百五号の条約も当然批准をされ、その関連である強制労働の禁止といったような問題についても脚光を浴びなければならぬ問題だと、そういう展望を持てばこそ、過般のやはり小法廷における判決は、私ども立場で受けとめますれば、確かにこれは不当である。不当とは何かというならば、やはりILO八十七号あるいは百五号、憲法二十八条の規定、その底を流れる立法の精神、また成立の経緯、歴史的経過からいっても、どうしても納得できないと同時に、それをはずれるものである、こういうふうに解明せざるを得ないのであります。  同時に、国民は、今日、主権者でありまするので、かくのごとき不当な判決に対して、私どもは、言葉のあやでは実に憤激にたえないものを持っておるわけでありまするけれども、それは私どもの感情であります。それは理性で克服するといたしましても、やはり私どもは、このことによって労働者が無権利の状態に追い込まれるというふうに、私どもは、法理論や解釈ではなくて、労働運動の流れの中から、はだでひしひしと、そのことを受けとめざるを得ない、こういう立場で言うのでありますから、とるべき重大な段階を仮定をしながら、やがてこれをその無権利の状態に追い込むということについては、どうしても抵抗を作らざるを得ませんので、やがて大法廷に持ち込んでも、これを変更させる国民運動を展開せざるを得ないのだ、そういうことによって、合法の手段によって、一つの、底をあげていく。解明だけでは、私どもは、さようでございますかと、わかりましたと、了解しましたと言うわけには参らぬのでありまするが、この辺で一応、今、法務大臣の、やはり大臣としての何かお考え方をお聞かせいただいて、質問を打ち切ることにいたします。
  121. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) 今回の最高裁第二小法廷の判決は、先ほど申し上げましたように、政府側が、かねて終始一貫とって参りました見解と申しますか、そういうことをはっきりと示されたというのでございますから、その判決を機会といたしまして、組合運動に対しましての今日までの態度を、政府が急に変更するというような考え方は、実は持っていないのでありまして、公共企業体職員の不法事案につきましては、今までもやはり御承知のとおりに公正に処置して参っておるのでありますから、この判決がありましても、やはり従来どおりの処置をして参る、こういうことでございまして、このこと自体が、決して刑事弾圧と申しますか、組合運動の弾圧に通ずるとか、そういうことでは私はないと考えておりますし、また、そうすべきものでもないと考えておるのでございます。
  122. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私も一言お尋ねしておきたいと思うのです。この問題は最高裁の第二小法廷で弁論なしに判決が出たということなんであります。  それで、私はこのような重大な法律問題を弁論なしに、しかも小法廷でやるということに、私は疑問を持っております。ですから、当然弁論を含めて、今日の時点で大法廷で、全員がそろった中でやるというような性格のものだと私は思います。何といっても国の経済社会生活、そういうものの進歩の中で法律というものがきめられて、三権分立でありますから、だから、今法務大臣も司法の関係の問題については触れたくないとおっしゃいました。しかし法務省そのものは、社会の進歩に沿って、そして法の不備なところは補っていくという役割りは、法務省自身が大臣以下私は持っておられると思う。そういうことになって参りますと、私は、日本には憲法がございます、二十八条で三権が確立されております。しかし、その憲法に明確になっているということとあわせて、私は世界の平和、人類の幸福という立場から、今のILOが一九一九年に世界の恒久平和を掲げてできたことも法務省御存じのとおりかと思うのであります。その一番肝心なものは何かというと、民主主義という、民主主義の基礎になるものは何かというと、私は、結社の自由、だと思います。そして今八十七号に明らかにしているように、結社の自由と団結権の擁護という問題は、ILO条約としては八十七号でありますけれども、あらゆるものに先がけて、民主主義の基礎である結社の自由というものは憲章初め、宣言に出てきている国際的な私は流れだと思います。こういう中から、何がそれじゃILOのこのような——たとえば貧困に対する解消の問題や、ILOそのものには、いろいろな問題をあげております、しかしこのあげている基礎条件というものは、これは結社の自由と団結権の擁護という形で、それが労働者に認められることによって、初めて対等な立場社会の進化というものを私は目ざしていく基準法の二条に書いているのもそこでしょう、人類の幸福に対して進んでいくのも、これが基礎になって国際的な流れの中から日本の憲法もでき、その中で、労組法の刑事免責の問題も出てき、基準法の対等の立場で、ようやくここに対等の立場というものを見出して、平和と進歩と経済的発展、社会的進化、そういうものの基礎というものが、私はここから流れてきていると思います。こういうものに沿って時宜に適した処置が講じられなければならぬと私は思います。  今法務省の皆さんの意見を聞いていると、最も常識的、だというお話であります。最も常識的だという……法文上に出てきている問題の扱い方ではなしに、いかにして人間社会が進歩をしていくか、今慣習的な憲法方式の米英方式が日本にとり入れられてきた、特にそういう中で、民主主義を守っていこうという日本政治的かまえからくると、私は今の世界の国を見てみても、この結社の自由というものは民主主義の基礎である。そういう保護的な、また、国の社会経済の進化的な要素というものが、あらゆるところに取り上げられてきている。でありますから、外国においても労働者の自由な団結というものの上に、双方の社会経済の進化というものは、どんどん今日進んできている。そういう社会政策的には、日本は非常におくれております。しかし、流れとしては、そういう保護なしに、日本は外国並みの進化というものは、なかなかあり得ないんではないか。その唯一の労働者の結社の自由ですね、今憲法で労働三権というものが明確にされているような形に対して、私は法の不備というものが日本にあるというなら、それは、法務省が判決は常識的でございますという前に、国際的な流れに入って、日本が近代国家として生きていくというなら、そこのところに、むしろ問題を置いて、国際的な進化の中に入っていこうという、法の不備の問題を直していくという議論が、ともにされなければならないんではないかと私は思うんです。そこのところの根本の問題には無批判であって、今の法律がこうですから、最も常識的でありますという御答弁だけでは、国会、立法府できめた法律を、司法の裁判所なら、そういうことかもわかりませんけれども、法務省としては、私は肝心なところを欠いて答弁されているんではないかという気がいたします。裁判所においても一審、二審の関係においては、その裁判官、その法律を具体的に問題として扱う一審、二審の裁判所においても、このような人間基本的な問題として、私は多くの判例を、この基本的な刑事免責の問題を含めて、むしろ基本的な憲法からくる、このような法律自身に不備があるんだという私の考え方、この刑事責任という問題については免れるんだという判例まで私はあるということを記憶するわけです。一審、二審が、そういういろいろな角度から、社会進化の中で、こういう判断をし、判決をしている中で、最高裁が、弁論なしに小法廷で判決を下した。これは一般的常識的でございますよということでは済まされない問題だ。むしろ法務省としては法の不備を、もっと追求して、われわれが近代国家、または世界に伍して、新しい国民主権の憲法のもとに、日本の国を発展させていこう、経済社会を発展させていこうというなら、そこの問題に大きく触れて、今の次元において、この問題はこうだと、こういうことです、しかし、問題はそればかりじゃありません、こういうところにも問題があって、こういうところには、こういう努力をするという工合に法務省の見解が出てきて当然だ。  こういう工合に今杉山委員の質疑を聞いていてもそう感じるわけです。私も、こういう基本的な問題について不満を持つものであります。いずれ立法の面から考えていかなきゃなりませんが、むしろ法務省自身が、その先頭に立って、国際的な流れの中の不備な点は改正していくという役割は、法務省がなされて何も不思議ではないと私は思う。それなしに、私は日本経済的な発展も国際的な交易もなし得ないことだと思う。こういうことだけでやっておれば、日本の発展も国際的な交易もあり得ない。私は、そう総合的に判断をしています。そういう点の大臣の御所見を承りたい。
  123. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) 社会の進歩に伴いまして、法律制度が、もし不備な点があったり、あるいは時代に合わないような、そういう点がもしありとしますならば、法務省といたしましては、御指摘どおりに一歩前進の形で改正をして、よりよい制度を作るということは、これは全く藤田さんと同じ考えを持つものでございますが、このたびの最高裁の第二小法廷の判決は、これはいささか、私藤田さんと考えが違うのでございまして、つまり公共企業体等の労働組合の争議権に、なぜある種の制限、争議権の制限と申しますかをしたかと申しますと、これは前から政府考えておったのでありますけれども、あの第十七条の規定だったかと思いますが、あれで争議を禁止しましたのは、公共の福祉を擁護するという合理的な立論によりまして、あの法律はできておると承っておるのでありますが、しかし、決して団結権であるとか、労働組合の組合権を侵害するような措置には私はなっていないと思うのです。  と言いますのは、言葉は違うかもしれませんが、たしか強制仲裁制度のようなものが設けられておるのでありまして、そういうことが一つの代償保障といいますか、そういう措置が講ぜられてもおるのでありますから、決して労働組合のほんとうの権利というものをば根こそぎ取ってしまっておるのではない。問題はやはり前段に申し上げましたように、公共の福祉ということをいかにして擁護するかという点に、私は基礎が置かれておったかと思うのであります。  それから、ILO条約のそういう精神に基づきまして、先進国が進んで加入しておるこれらの制度のよき点を、日本としても法務省自体が取り入れるべきではないかという御説につきましては、これは十分によく検討いたしまして、もちろん取り入れるべきところがあれば、取り入れることに努力をしていかなければならないと考えております。
  124. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 今基準法の二条でいっておる対等の立場で賃金及び労働条件をきめるということですね。労組法の一条の刑事免責、それから憲法二十八条というのは、私はうらはらの問題だと思うのです。あなたも労働行政に経験をお持ちだったと私は思うんです。どこの国の労働組合の歴史、労働者対使用者の歴史を見ても、そうでございますけれども日本もそのとおりでございます。労働者が賃金の要求をいたします、待遇の改善をいたします、はいよろしいと言って改善する使用者があり得るかどうか。ここが問題なんです。そのために憲法で労働三権というものが明確になっている。三権を確立して、初めて労組法の問題であり、基準法の問題であるわけです。そうして初めて対等という、具体的な賃金や労働条件のところに基準が入ってきて問題が処理されるというのが、これが労働問題の一般常識ではございませんか。私は日本法律をもって議論をしておるんじゃないが、これが労使間の常識なんです。  公労法という法律があるから、そこには十七条があるから、調停や仲裁があるから、事が円満にいき、労働者の願いが私は一〇〇%とは言いません。これは、労使間の最終的には妥協でございます。労働条件をきめるのは妥協でございます。それには、一番大きな労働者の力というものを取っておいて、仲裁がありますぞという話だけで、問題を処理するところに無理があると、私はそう思う。だから、今日ILO八十七号の問題が、これだけ議論されておっても、ILOの理事会では、四十人の理事の中で三十九対一、何べん投票しても、そういうことにならざるを得ないという、この国際的な流れ、常識というものを私はよくお考えになって、この事態をみなければ問題が起きやせぬかということを言いたいわけです。  そういう点から言えば、結社の自由、団結権の擁護なんというのは、これはもう民主主義の基礎なんです。基本的な問題なんです。国際的にも日本においても、そうです。日本ほど、また明確に労働三権を憲法できめているところはない。これは私は、最も進んだ憲法だと思います。その憲法があるなしはともかくとして、八十七号のこの内容が批准されようとされまいと、ともかくとして、このようなことは国際常識だと私は思う。それが一つの国内法によってしばっているからといって、そして私は、そこに問題がありはせぬか。司法権の裁判所が問題を議論されるときには、いろいろあるけれども、裁判所の中でも、基本権に返って、一審、二審の中では、これは人類進歩の中におけるこの問題というものは、重要な問題であるといって、いろいろの判決が出ている。そういうところを法務省としては、がっちりととらえて、日本もいつまでも、たとえば後進国のままでおってはならぬ。主権在民の憲法を持って新しい出発をして、日本は先進国の先頭に立って進まなければならぬというときに、設備拡大ができた、生産力がふえただけでは、社会の進歩とは言えないのです。供給面と需要の面とのバランスがとれて、初めて社会の進歩、それに応じた人間生活の進化というものがなくてはならぬと、経済社会の面から裏づけたら、そうだと思いますけれども、そのように私はやはり法律の問題も、法務省が担当されて、いろいろ研究されて社会の進歩、そして今ILOの常任理事国である日本が、そのような立場にありながら、こういう問題がどうも私は、今の御答弁だけでは、その点が忘れられているのじゃないかという気がするから一言言うわけです。
  125. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) お答えいたします。藤田さんが今おっしゃったとおりに、私も基本的には、そういうことがよくわかるのでありますが、問題は私どもが心からこいねがっているのは、やはり公共企業体の関係労働組合の争議が、つまり最も民主的に、特に公共の福祉を阻害されないような形で行なわれる、そういう慣行がここに確立できるということでありましたならば、これが一番望ましいのでありまして、法律はいつの場合でもそうでありますが、いろいろな場合を予想いたします。あるいはまた、そのときの現実の社会現象等も考慮に入れましてできるのでありますから、今のところ、私どもがまじめに考えて参りまして、藤田さんのようなお考え方を、全部制度化してしまうということは、私は日本の労働争議の、特に公共企業体等における争議慣行というものは、そこまでまだ真の成長や民主化をしていないと私は思うのです。したがって、このような法律もやはり必要なのではないかということであります。  ただ、そういうことを抜きにいたしまして、ごく常識的に、いわゆる人間性の解放をいたしまして、人間の権利を、人権を中心とした、そういう主張をいたしますならば、全くあなたと同じようなことを私も申し上げたいのであります。しかし、法務省といたしましては、やはり既成法の、これは法秩序を維持するためには、現実の処理ということを無視するわけにも参りませんので、できるだけ今後、公共企業体の労働組合の関係者といいますか指導者といいますか、そういう方々が進んでよき慣行をひとつ作っていただきたい。そういたしましたならば、こういう法律にある、あなたの指摘なさったような欠陥と申しますか弱点と申しますか、そういうことを取り除いていくということは私は非常にできやすい、そういう情勢になるであろう、かように実は考える次第でございます。
  126. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 公共の福祉という議論を、今されたわけです。公共の福祉はおのずからバランスの中で守られていかなければならぬ思います。公共の福祉は何でもかんでも無視していいという議論まで、——公共の福祉とはどこで、それでは判断するかというのが大事だと私は思うのです。公共の福祉を害しているというのはどこまでだ、どこまでが公共の福祉を害しているか害していないかという判断が大事だと思う、私はそう思う。  たとえば公共企業体だとおっしゃる。しかしアメリカは鉄道といわず、あらゆるものは民営でございます。アメリカが鉄道のたとえば争議のときに、ストをやるときは、一日や三日ではございません。あなたも経験されているとおりだと思う。鉄道ばかりでございません。通信もそうです。イギリスもフランスも国営でございます。国営によって運営されておりますけれども、しかし労働条件は、その三権確立というのが常識でございますから、むだなストを外国がやっているとは私は言いません。言いませんけれども、やはりそのバランスがくずれたときには、三権の争議行為に入っているという事実は、それではイギリスの、アメリカの、フランスの鉄道や、その他は公共事業でないのかというと、そうでないと思う。交通機関は、日本もアメリカもイギリスも、フランスも同じだと私は思う。それが事実問題として、あなたの願わくば、できるだけそういうことのないように労使関係がありたいという願いは私も同じでございます。ストライキを好む者は私はないと思う。だけれども、基本的に労働三権を頭から、公共企業体だということで公共福祉を害するというだけで争議権、行動権というものを憲法に認めておきながら、憲法というものに書いてない国でも、それは常識であるのが外国であるのに、憲法で認めておりながら、この争議権というものをとってしまうというところに、私は間違いがあるという議論がしたい。私はそう思う。そういうところに、社会の進歩がおくれているという、これはあらゆるところに障害を来たしているという問題の議論をしなければなりません。  だから、そういう点をお考えにならなければいけないのじゃないかということを申し上げているわけです。公共の福祉を害するというのは、おのずから国民や行政の中で、だれがどこで判断するかということできまるものです。私はそう思う。
  127. 中垣國男

    国務大臣(中垣國男君) 公共の福祉という点につきましての、バランスによる公共の福祉の擁護ということを言われたわけでありますが、そういうことも、確かにそうだろうと思います。しかし、私は率直に申し上げますと、こういう規定があっても、その規定が用いられないような、そういう慣行というものを労使双方によって築くべきものだと思うのです。こういうことがあるからということだけで、社会の進歩を阻害するとか、憲法上認められた、そういう団結権等の侵害になるとかということでは私はないと思うのでありまして、しかしここで、そういう議論を申し上げてもどうかと思うのでありますから、御主張のような点も、十分私ども勉強いたしまして、できるだけ社会情勢の変化に伴って、それにマッチしていけるような、そういう制度を築き上げていきたい、このように考えております。
  128. 加瀬完

    委員長加瀬完君) ちょっと速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  129. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 速記を起こして。
  130. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 日米賃金共同調査の問題について、さあっと一ぺん、この時点でほんとう質問をして、勉強の資料にしたいと思うんですが、大臣に聞きたかったのですがおられませんので、基準局長でも労政局長でもけっこうでありますが、聞くところによりますと、日本政府に対してアメリカ政府から第一回の日米経済合同委員会以来の懸案となっておった賃金共同調査に関する専門家会議というものを四月までに開きたいという正式な提案があったと聞いておるわけでありますが、具体的な問題として、たとえば会議の持ち方だとか、性格、運営、議題、開催場所、そういったようなものは、その提案に関連をして出てきておるんですか。その点について、一点お伺いしたいと思う。
  131. 大島靖

    政府委員(大島靖君) 日米両国の賃金問題の検討のための専門家の会議につきましての御質問でございますが、これは杉山先生も御承知のとおり、昨年十二月第二回の日米貿易経済合同委員会の際、大橋労働大臣とアメリカのワーツ労働長官との個別会談におきまして、この問題については、ひとつ専門家を会合せしめて検討せしめようと、こういう話によりましてきまったことであります。その際、近い将来において開催しようという話し合いであったわけなんでございますが、その後のワシントンの日本の大使館とアメリカ政府側との話し合いが、まだ終局的についていないわけなんでありますが、大体四月中旬前後にしてはどうかという見当で、ただいま交渉中でありまして、まだ最終的に決定は見ておりません。で、その専門家会議の議題と申しますか、どういうことを協議し、検討するかという点につきましては、これは専門家が向こうへ参りまして、向こうの専門家と会同いたしまして、それによってきまるべきものであろうと考えております。
  132. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 政府は、アメリカ側の提案と前向きで取り組むという、そういう方向の中で、たとえば外務、通産、大蔵、労働、経済企画庁の関係各省間で、早急に日本側の態度の基本的な面を煮詰めようということで協議をしておられるというふうに聞いているわけですが、まだ、そこまで速度は出ておらぬわけでありますか。  それからついでに聞きますが、労働大臣は、池田内閣のもとにおける経済閣僚懇談会の正式な構成メンバーですか。その点も関連して、ひとつお聞きしておきたいと思います。
  133. 大島靖

    政府委員(大島靖君) 昨年十二月ワシントンにおきまして、大橋労働大臣とワーツ労働長官とが、個別会談でこの問題についての話し合いをいたしました際にも、私、労働省の首席随員として参っておったわけでありますが、同じく各省も、それぞれ大臣に首席随員がついて参っております。ワシントンで私も各省と打ち合わせをいたしたわけでありますが、さらに引き続き、近く四月ごろに開くということでありますので、各省の間で、そういう相談会は持っておりますが、まだ最終的に、どうしていこうとか、こうしていこうということがきまったわけではございません。  なお、労働大臣経済閣僚懇談会のメンバーでございます。
  134. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 今回アメリカ側から、四月なら四月を目途として、賃金共同調査に関する専門家会議を開こうと、そういう提案の中身であるか、それとも付随事項であるか——まあ中身であろうと思いますけれども、日米間における特定産業の労務費の問題を、日本とアメリカの両国のつまり専門家会議で検討したいというふうに聞いておるわけでありますが、大体この前、あなたも首席随員として労働大臣と一諾に行かれたわけでありますが、ワーツ労働長官との話し合いの中で、この前私が質問したときには、日本で、資料の交換、情報の交換、しかも、そのことが貿易に障害のないような、そういうニュアンスの受けとめ方をしておりましたが、今度はもっと具体的に、たとえば特定産業の労務費の問題を浮き彫りにして、両国の専門家会議でというようなふうに進んでおるように側面から聞いておりますが、その辺の事情はどうでしょうか。
  135. 大島靖

    政府委員(大島靖君) 大橋労働大臣とワーツ長官との会談の際におけるこの問題についての話し合いは、第一回の日米合同会議における共同コミュニケの中に、こういった問題が出ておりますが、とにかく両国が賃金等につきまして、相互に情報を交換し、相互に検討するということは、これは望ましいことである、こういう線を受けての考え方に基づくものでありまして、そういう大まかな線におきまして、詳細なことは、両国の専門家で十分検討させたらどうか、こういうふうな話であったわけであります。その後も私ども、今度四月ごろに、この専門家会議を開くにつきましても、やはり基本的に、今先生お話がございましたように、こういった相互の検討をやろうということは、あくまでも日米両国の貿易の拡大のために、いろいろな誤解もありますから、そういうものは解いていこう、貿易の促進、両国の相互理解、こういった点で、どういった問題を、どういうふうに研究して検討していったらいいか、こういうことを具体的に、今度専門家がワシントンへ参って、そういうことを、そこで検討してきめていこう、こういう趣旨でございます。
  136. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 まあ四月と言っても、もうすでに三月も暮れて、すぐ四月になって参りますがね。そういうタイミングの点から言って、賃金の共同調査のための専門家会議に臨む日本側の専門委員の人選であるとか、あるいはまた人数だとか、そういったような問題については、政府機関では、どこで一体、それをどういうふうに——大体そういうような点についても、やはり話し合っておられるわけですか。もう三月は暮れますよ。もう四月と言ったってすぐですからね。話は進行中ですか、それは。
  137. 大島靖

    政府委員(大島靖君) 本件につきましては、労働省が実質的に主管省でありますので、労働省を中心にいたしまして、各省と相談をいたしております。人選につきましては、まだ具体的な人選は終局決定いたしてはおりませんが、だんだん選考を進めております。人数は、これも両国相談しての上のことでありますが、専門家の会議でございますから、そうたくさんでもどうかと思うのでありまして、大体四、五人の見当じゃなかろうかと思っておりますが、これまた、ただいまワシントンにおきまして、向こう側と協議中でございます。
  138. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 これは、たとえばの、たとえばという、そういう前提でお伺いするわけでありますが、アメリカとの綿製品交渉が難航しておる。最近は多少好転しておるようにニュアンスとして受けとめておりますが、そういうおりから、またこの綿製品、賃金共同調査とか、アメリカ提案と、これは、もともと第一回の箱根会談以来、アメリカのほうからひとつ賃金共同調査をやろうと、おそらくこれは、やはり低賃金構造というものやら二重構造というものを、その底辺というものについて、賃金の実態把握から出発しなければならぬという発想から、アメリカ側から提案なされたと思いますが、常にこの問題については、日本は受け身だと、今なお受け身の姿勢だと思いますが、そのことはともかくといたしまして、たとえば最近、日本製の圧延の鋼板のダンピングの問題なども浮き彫りになって、いろいろと安売り攻勢が、やはり西ドイツ、イタリア、フランス、それからアメリカなどでもいろいろと出てきておるようでありますけれども、こういったような問題については、たとえば具体的に賃金共同調査の問題等、それから、いろいろなダンピング問題とかからみ合って、アメリカ側が気負い込んで、早くやろうというようにいってきておるという、そういう点については、何も関連性、は全然そういうことはないのだ、そういうふうに判断をしていいのですか。その辺について、通産省関係か何か、そういうような点については、どちらでもいいですが、その辺のところをひとつ。
  139. 大島靖

    政府委員(大島靖君) ただいまお話の、たとえば日米の綿製品交渉と本件は、別に関連はございません。この専門家会議は、一昨年の箱根会談以来引き続き両国で話し合っておる問題でございますので、直接、今先生指摘のような現在の問題とは関連ございません。  なお受け身云々というお話がございましたが、この点は、箱根会談におきまして第一回の共同コミュニケが出て、両国その線において合意しておるわけなんであります。その後、大橋労働大臣とワーツ長官との会談のときにおきましても、別にどちらからということなく、おのずから両方からきまったような問題でありまして、別に受け身という考えは全然ないのでございます。
  140. 杉山善太郎

    杉山善太郎君 もうこの一点で質問を終わりますが、実はこの一点だけは、ひとつ労働大臣に直接お伺いしたかったわけでありますが、まあ労政局長も基準局長もおられますので、ひとつ労働大臣に、そうお伝えいただきたいと思いますが、たとえば三月四日ですね、日本の民間四団体が、内容を申し上げなくてもおわかりだと思いますが、アメリカのAFLやCIO代表のルーサー氏等によって、民間ベースの賃金共同調査センターの設立準備懇談会というものを具体的に三月四日に発足しておりまして、今日の時点では、センターの目的であるとか性格、調査範囲、運営、機構等の問題で、目下検討中なんです。で、私その当事者から聞いてきた話でありますが、漸次準備が進められておるわけでありますが、しかしながら聞くところによると、日経連を中核とした一つグループが、このいわゆる日米賃金共同、民間ベースの共同調査を白眼視をして、ともすれば、これに水をぶっかけようというような一つのムードを作ろうとしておる。まあそれはそれとしても、少なくともこういう賃金共同調査センターについて民間ベースの発足は、これは好ましいことだと思いますが、これと並行して、多少時限は——タイミングはおくれておるようでありますけれども政府間ベースの賃金共同、その調査機関も発足するわけでありますが、それはそれといたしまして、実は大臣に聞きたかったのは、日経連等が幾らそれを白眼視したり水をぶっかけようとしたって、賃金基本共同調査は、やはり数字になって、いろいろ経費等も出てくるわけですから、真実は一つ、掘り下げられてくるわけですから、これは日経連で、どういうわけでその賃金共同調査を好ましくないと思うか知りませんけれども、しかし、それはそれでも、別にどうこう言いませんけれども政府は、いわゆる行政所管庁である労働省は、こういう問題について、日経連のような立場をとってもらってはまずいと、こう思いますので、その辺のところを私は、これはきわめてその大所高所からいいものはいいという高い評価の中で、これは四団体——権威ある四団体、しかもアメリカの総同盟、産別会議の権威ある代表団体が呼吸をそろえてやっていく。相当な方向にいくと思いますから、日経連の、その側面から白眼視したり水をぶっかけるということは意に介せないとしても、労働行政の担当者である労働省が、それと同調して邪魔してもらったり、茶々入れてもらうということになると非常に困ると思いますので、何かその辺の事情について日経連が、この問題は好ましくないとか云々というような、そういったような点について、きょうは大臣がおられませんけれども、そういう点も実は聞きたかったのでありますが。
  141. 大島靖

    政府委員(大島靖君) ただいま杉山先生指摘の、労働組合による日米賃金調査センターの件につきましては、私どもも新聞等によりまして承知いたしておりますが、その組織なり運営なり、あるいはその計画、詳細については、まだ十分承知いたしておりません。  なお、日経連云々の、ただいまのお話については、私ども全然承知いたしておりません。私の現在まで承知いたしております限りでは、おそらくそういうことはなかろうかと存じております。  政府といたしましては、いずれにいたしましても、この専門家会議につきましては、淡々と臨むつもりでございます。
  142. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 大島基準局長に私尋ねたいのですけれども、賃金部ができたというのは、どういう目的でできたんでしょうかね。どうも私は賃金部ができたとき、われわれが説明聞いたのと今日と、少しズレがあるような気がしてならないのですがね。どうなんですかね。
  143. 大島靖

    政府委員(大島靖君) 昨年の六月に労働省に賃金部ができましたが、その目的は、だんだんやはり賃金問題というのが労働問題の中でも特に大きな問題。そういった頃合いでありますので、労働省としても、従来に増して、賃金問題をもっと積極的に、もっと詳細に掘り下げて研究もいたし、労使各方面に対して、できるだけの御援助ができる分野があれば御援助を申し上げたい。基本的に賃金問題というものは、労使関係においても定まるべきものでございますが、私どもとしては、賃金問題の現在のますます増大する重要性にかんがみまして、研究をさらに進めて参りたい。また御援助できる分野については、できるだけの御援助を申し上げたい、こういうことが当時の目的でございました。
  144. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 その賃金部ができるについて大島局長から、そういうお話があった。私もそういう工合に進めてもらうものだと、こう思っておった。たとえば何か日本の賃金ばかりでなしに、外国の賃金は、どういう体系で給付されて、賃金や給与というものが、どういうように動いているか。そういうものを機構を大きくして、的確に知らせるのだと、それでみんなで研究し合うのだと、そのための材料を、賃金部というものを機構を拡大してやるのだという工合に、私は聞いておったものだから、私もそれならけっこうなことだと、いろいろな意見ありましたが、むしろ私はおかしいぐらいだけれども、賛成して、作ったほうがよろしいと、こう言っていたのですが、ところが見ていると、そういうところには、まあ、これからおやりになるのかしりませんけれども、もう一年たったわけですがね、何かそういうところは、まだ手をつけられていないようですね。私は、はなはだ残念だと思うのです。最近は何か業者間協定最低賃金の問題も、どうやとかこうやとかおやりになっておるようですけれども、まあ急に変わらなくても、賃金部というものは拡大したのですから、所期の目的の、外国の賃金がどういうふうになっているか、労働条件はどうなっているかというようなことを、もっと的確に知らすような仕事に、入ってもらわなければ、せっかく賛成したって、これは何か私はつまらないじゃないかという気が最近しているので、それであらためて聞いたわけですが、一段と努力していただいて、そういうものはぴしゃっと、やはりあらゆる努力をして、公正な立場ですね、労働省は。そういう立場から賃金調査をして、やはり国民の前に提供するという努力をひとつしていただきたいとお願いしておきます。
  145. 加瀬完

    委員長加瀬完君) 本件に対する質疑は、この程度にとどめます。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時十一分散会      —————・—————