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1963-02-19 第43回国会 衆議院 予算委員会第二分科会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年二月十九日(火曜日)     午前十時十一分開議  出席分科員    主査 今松 治郎君       安藤  覺君    小澤 太郎君       倉成  正君    小坂善太郎君       田中伊三次君    松本 俊一君       河野  正君    木原津與志君       田中織之進君    辻原 弘市君       堂森 芳夫君  出席国務大臣         外 務 大 臣 大平 正芳君  出席政府委員         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (大臣官房会計         課長)     佐藤 正二君         外務事務官         (アジア局長) 後宮 虎郎君         外務事務官         (欧亜局長)  法眼 晋作君         外務事務官         (経済協力局         長)      甲斐文比古君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (国際連合局         長)      高橋  覺君         外務事務官         (情報文化局         長)      曾野  明君         外務事務官         (移住局長)  高木 廣一君         厚生事務官         (援護局長)  山本淺太郎君  分科員外出席者         大蔵事務官         (主計官)   田代 一正君     ————————————— 二月十九日  分科員江崎真澄君及び淡谷悠藏委員辞任につ  き、その補欠として小澤太郎君及び田中織之進  君が委員長指名分科員に選任された。 同日  分科員小澤太郎君及び田中織之進君委員辞任に  つき、その補欠として江崎真澄君及び河野正君  が委員長指名分科員に選任された。 同日  分科員河野正委員辞任につき、その補欠とし  て淡谷悠藏君が委員長指名分科員に選任さ  れた。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十八年度一般会計予算外務省所管      ————◇—————
  2. 今松治郎

    ○今松主査 これより会議を開きます。  昭和三十八年度一般会計予算中、外務省所管を議題といたします。  外務省所管に対する質疑は本日一日となっておりますが、質疑者がきわめて多数でありまして、また午後は本会議も開かれますので、質疑をされまする方は、大体一人三十分以内といたし、重複を避けて簡潔に行なわれますよう、質疑者各位に御協力をお願い申し上げます。  これより質疑に入ります。安藤覺君。
  3. 安藤覺

    安藤分科員 私は、与野党同僚各位の御寛容によりまして、質問順位を繰り上げていただきまして、質問に立たしていただきましたが、御約束いたしましたことは極力守りまして、御迷惑をおかけしないようにいたします。どうぞ御了承願いたいと思います。  昨十八日正午、韓国朴議長が突如として九項目にわたる声明を発表いたして、これを同国の与野党ことに野党諸君に訴える態度に出たようであります。この九項目にわたる声明は、昨十八日付夕刊に各新聞紙一斉に報道いたしておりまするけれども、その報道内容はほぼ一致いたしたものでありまするが、社によってはその翻訳文字が違いあるいはニュアンスの違った報道のいたし方をいたしております。この九項目内容を一応見まするときに、隣国としての韓国日本との間をいつまでも過去のような姿において国際関係があるということは、両国国民のためにまことに不幸なことであり、ひいてはアジア全体、世界全体のためにも不幸なことであるといたしまして、大平外務大臣は御就任以来、この日韓国交調整に対し、情熱を傾けて御努力なさってこられたのでありまして、たとい韓国政権がどうあろうとも、この日韓両国国民のために、アジアのために、全人類のために、よりよき平和の基礎を築いていく上からは、この日韓国交調整というものは、われわれどもなおざりにいたすわけには参りません。そこで、今後も日韓国交調整交渉を続けていかれるでありましょうけれども、それにつきましても、なおこうした韓国内の政権の波というものは、われわれこまかく注意をしていかなければならぬことであろうかと存じます。つきましては、まずもって昨日の新聞紙報道いたしておるところではございまするけれども、先ほど申し上げましたように、多少ずつ各紙によって文字等も違っておりまするので、この場合、外務省におかれまして統一した権威ある翻訳をなされ、責任をもって御発表できるその翻訳文アジア局長から一つ御提示を願いたい、このことをまずお願いします。
  4. 後宮虎郎

    後宮政府委員 御質問のございました朴議長の昨日の声明につきましては、御承知通りのような在外公館もない実情でございますので、いわゆる役所の公電というものがございませんので、外務省といたしましても、結局新聞電報を通読いたしました結果をまとめることに目下のところなっておるわけでございますが、それによりますと、朴議長は腐敗を一掃して正しい政治を確立するという革命精神民政移管後も継承されていくということを期待して、民政移管のことをきめたのであるけれども、目下のところ、なかなか政治はこんとんとして、その期待が裏切られそうなのは失望を禁じ得ない。そういう情勢を正すための措置といたしまして、いわゆる革命精神民政移管後も継承されるということを確保するための手段といたしまして、こういう提案をしたのでございます。  それは、いわゆる九項目というその提案野党側が同意するならば、これこれのことを与党として朴議長として約束するということを申しましたので、まず朴議長約束をいたしますことは、この九項目の受諾の引きかえといたしまして、朴議長としては、今後民政に参与しない、すなわち大統領選挙に立候補しない。それから第二番目といたしましては、特殊のものを除きまして、政治浄化法、これはパージでありますが、これによって禁止されているものの政治活動を全面的に解除する。三番目といたしまして、選挙の時期を五月以降に延期する。四月に予定されておりました大統領選挙期日を五月以降に延期する。こういうことを明らかにいたしまして、この三条件に対する九項目野党側が承諾することを要請いたしました。  九項目といたしましては、第一番目は、軍は政治的中立を守り、民意によって選出された合法的な政府を支持する。二は、次に樹立される政府——これは民政移管後の政府のことを言っておりますが、四・一九精神と五・一六精神——これは軍事革命とその前の革命、これをさしております。その四・一九精神と五・一六精神を受け継ぎ、革命課業を継承することを国民の前に確約する。三番目といたしまして、革命主体勢力は個人の意思によって軍に復帰または民政に参与できる。  四、五・一六革命正当性を認め、今後は政治的な報復を一切しない。五番、革命政府が合法的に起用した公務員に対しては、その身分を引き続き保障する。六番、予備役に編入された軍人は、彼らの国家に対する功労を認め、能力に応じて優先的に起用せよ。七番、すべての政党は中傷、謀略など旧態いぜんとした政争を取りやめ、国民のため何をなすべきかについて、はっきりとした政見を発表して、政策をもって国民の信を問うべきである。八番、国民投票によって確定した新憲法の権威を保障し、今後憲法改正国民の世論によって合法的に行なう。九番、日韓問題について超党派的な立場から政府の方針に協力する。  この九項目野党がのむことを条件としまして、さっきの最初の三条件朴議長はもう民政に参与しない。それから政治的に追放されているものを全面的に解除する。大統領選挙を五月以降に延期する。この三つのことを約束したわけでございます。  現在のところ、まだこれ以上に詳しい報道が入っておりませんので、特にこの九項目のおのおのが、どういう背景的の事情をもとにしまして、具体的にどういうことを目途としているのかということまでまだ述べる段階に至っていない現状でございます。
  5. 安藤覺

    安藤分科員 ただいまアジア局長から朗読されました朴議長の九項目声明なるものは、昨日の夕刊報道せられていることと大体同一のようでございます。この九項目声明の中で、特にわれわれとして重大な関心を持ちますことは、第九番目に取り上げられました、日韓交渉の結果については韓国政界国民こぞって支持することを要求するということが書かれておることでありまして、この点についてはわれわれども大いに意を強うするのでございます。しかし、新聞情報では、昨日のこの朴議長声明に対して、韓国政党は多くがこれを歓迎する態度に出ておるということでございますが、まだ今朝の新聞にも、すべての政党がこれを受け入れたとは報道いたしておりませんし、また、その他の情報においてもわれわれ知るところがございません。そこで、もしもこの朴議長の要求が韓国のすべての政党によって受け入れられたとしますれば、その場合、朴議長大統領に立候補することを取りやめることに相なります。また、新聞によりましては、金鍾泌情報部長もあるいは引退するかもしれないという推察をいたしている向きもございます。いずれにいたしましても、韓国政権において動きがあるということだけは、われわれどもこれを認めざるを得ません。しこうして朴議長が、国民政党に対して革命政権の考えたところのものを継承するよう要求する態度に出ねばならなかった、こういった韓国の今日までの政情をわれわれども究明しておいて、今後の日韓交渉の上においても考えるところがなければならぬとも存ぜられますので、この機会に、これは大臣をわずらわすまでもないと存じますが、アジア局長なりどなたなりから、今日に至るまでの韓国国内政情あり方について忌憚ない解明をしていただきたい、かように存じますので、お願いいたします。
  6. 後宮虎郎

    後宮政府委員 韓国政情は、各委員承知通り、非常に変転としておりまして捕捉しがたい面もございますし、隣国国内政情を、あまり突っ込んだ悲観的がましいことをするのもいかがかと思われる節もございますが、大体の流れを申し上げますと、本年一月から政党活動が自由になりましたために、今まで押えられておりました政治運動が、せきを切ったように、従来の反動として現われた、これが基本的なあれでございまして、大きく動き出しましたその発端になりましたのは、金東河氏が最高会議から辞職する、そうしてそれが軍事政権当局に対する批判のきっかけとなりまして、軍事政権に対する自由率直な批判の声が高まってきた。これは軍事政権内部からの批判でございますが、もう一つは、さっきの政治活動を許可されるに至りました旧政治家グループから起こって参りました。そうして、朴議長グループ民政移管後も軍服を脱いで政治に参与するということは、前の革命のときの公約違反であるという趣旨から攻撃を始めたわけでございます。また、政治活動の期間が十分にないうちに選挙が行なわれると与党が有利になるから選挙期日を延ばせということも要求いたしました。一方、さらに人的な関係もからんで参りまして、与党工作の中心に当たっております金鍾泌中央情報部長が独走とかなんとかいうことで、反対派からの批判の声も高まって参ったのであります。こういうふうな情勢下におきまして、二月十三日ごろから朴議長大統領立候補を断念するのではないかというような説が伝えられるに至ったわけでございます。その結果といたしまして、朴議長としては何らか態度をはっきりいたしまして、国民一般の迷いを解かなくてはいけないという情勢になり、昨十八日の声明となりまして、要するに、革命精神民政移管後も継承されることを見届けることができるならば自分民政に参与しないで大統領選挙に出馬しないということを表明することによって批判勢力革命勢力に対する批判勢力及び旧政治家批判に対して答えたというのが今までの発展の荒筋でございます。
  7. 安藤覺

    安藤分科員 ただいま局長から過去の経緯を承ったのでありますが、承っただけの内容では、われわれどもこの朴議長声明を出さねばならなかったその精神並びにいきさつというようなものについて、じゃあ正確にここにあっただろうという判断をするには至りません。なお今後われわれはこの推移を十分見きわめていかねばならぬと存じますが、それにつきましても、昨日の新聞、今朝の新聞報道いたしますように、朴議長声明政党並びに国民によってかなり高く評価されておるやに現状の限りは見受けられます。しかりとしますれば、朴議長は、その九項目のすべてが受け入れられるということが条件にはなっておりますけれども、これが今新聞紙報道しているような経過で今後も進むものとするならば、大統領の出馬を断念するに至るであろうとも考えられるのでございます。かような状況下において日韓交渉がはたして素直に進むであろうか、あるいはこの辺で日韓交渉を打ち切ってしばらく韓国政権の安定するのを待ってはどうだ、あるいはまた、もうこうした不安定な国柄を相手交渉することは即時中絶した方がよろしいというような意見もちらほら聞かないではございません。しかしながら、冒頭に私が申し上げましたように、日韓間の今日までに至った国際関係は、日本のためのみではありません。韓国のためにも、アジアのためにも、世界人類のためにもほんとうに不幸なことであると存じます。古かりし時代の外交言葉に、善隣友好ということがございましたが、これこそほんとうに、ことに日本の新憲法のもとにおいて、一切の国際紛争を戦争という手段に訴えないということを、国を建てる上においての大黒柱としておるわれわれといたしましては、池田総理言葉じゃありませんが、あくまでも寛容と忍耐、そして根強い態度とによって、相手方の政権の朝に晩に動きがあったにしても、われわれのこの日韓間の善隣友好をあくまでも仕上げていかなければならぬとする信念は通していかなければならぬと考えるのでございますが、大平外務大臣におかれましては、私においてかような考え方を持ちます、いわんやその外交責任の衝にあられる大臣として、必ずや確固たる御信念をお持ちになっておられることと存じますが、今後におけるこの日韓交渉に対していかに善処しておいでになるお考えであるか、その信念のほどを一つここに明確にしていただきたい、かように御質問申し上げます。
  8. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘がございましたように、私どもとしてはあらゆる国と正常な国交関係を持ちまして、相互の繁栄をはかって参らなければならぬということは当然の責任でございますし、また多くの国民がそのように期待されておると思うのでございます。日韓の間が今日のような不自然な状態にあることは、日韓交渉についての評価いかんにかかわらず、でき得るならば正常化いたしたいという願望をすべての方が持たれておると思うのでございます。私どもも今与えられた条件のもとでどうすれば正常化に持っていくことが可能かということにつきまして、鋭意ただいままで検討をし、交渉をして参っておるわけでございます。この態度相手国政情によってこちら側の態度をネコの目のように変えるということであってはならないと思うのでございます。多くの新興国家がそうでありますように、韓国もまた今独立後の苦悶を経験されておるようでございますし、今日非常に政治的に安定度の高い先進国にいたしましても、建国の当初にはいろいろな歴史的な試練に遭遇されて、その試練に耐えてみずからの政治の安定の基礎をつくって参ったと思うのでございます。私は韓国のみならず、他のアジアの隣邦並びに世界新興国家が、今いかにして自分らの祖国の建設を希求して努力せねばならぬかということで試練に遭遇いたしておりますことに、十分な理解と同情を持って臨まなければならぬと考えておるのでございます。  今アジア局長から一応の御説明がございました韓国政情でございますが、私はこの問題は軍事政権がその成立後、自分たち暫定政権であって、やがてこれは民政移管するのだということを内外に宣明されたわけでございます。その後の推移を見ておりますと、韓国政情はこの民政移管への方向に動いておると思うのでございます。民政移管ということは、韓国にとりましてこれは大へん大きな問題でございまして、政党活動も許容されて参りますならば、どういう時期に、どういう方法において民政移管に持っていくかということにつきまして議論が沸いて参ることは、これは当然の道行きだと思うのでございまして、私は、現在の事態推移は、方向として民政へ移行する方向に大きく動いておると見ておるわけでございます。これをもって直ちに政局は不安であると断案することは、いささか即断に過ぎるのではないかと考えております。(「外務大臣、これを不安と言わないで、何を不安と言うの」と呼ぶ者あり)私ども日韓交渉当局者といたしましては、冒頭に申しましたように、すべての国との間に誠実をもちましてあらゆる案件交渉に当たらなければならぬ立場におるわけでございまして、私は、そういう韓国政情をそのように評価し、そして私どもが今日まで続けておりますることは、いかにすれば与えられた条件のもとにおいて正常化が可能であるかということについて、その内容について鋭意検討いたしておりますので、今日御指摘がございましたように、この交渉を打ち切ってしまえとかというような御批判に対しましては、応諾することができないわけでございまして、従来の姿勢でこの問題に取っ組んで参るつもりでございます。仰せのごとく、忍耐をもって当たって参らなければならぬと考えております。
  9. 安藤覺

    安藤分科員 外務大臣の御所信を承りまして意を強ういたしておるわけでございますが、ただいま外務大臣の、これをもって政権動揺と見るのは早計だろうという御発言に対し、同僚議員の問から、これをもって動揺と見ずして何をもって動揺と見るかという不規則発言も出たようでございます。事実政権組織者現状において朴氏であり、そして金鍾泌氏であって、この方たちがこの九項目の要望がいれられるならば政界に活躍することを中断する、こういうことを申しておるわけであり、かつまた政界においては、この朴議長声明を歓迎しておるという情勢でありとしますならば、あるいは朴議長金鍾泌氏が引退するに至るかもしれません。しかしそれはあくまで予測であります。とこでその朴あるいは金鍾泌の両氏らが現政権から引退するということは、かねてこの朴議長あるいは金鍾泌氏らが国民約束をし、また念願しておりました軍政から民政への移管をするのだ、こういうことにおいて安心した国内情勢民主化ということの状況が、ここに全韓国のみならず、全世界に向かって約束づけられたというところの安心感から引退するものであり、また日本におきましても、大平外務大臣におかれましても、やがて韓国軍事政権は本年の三月か四月かを期して民政移管することを一つの大きなめどとし、心の中に描かれて、その御用意のもとにこの交渉が行なわれた。しかも第九項目におけるところの日韓交渉あり方については、仮定でありますけれども、もしかりに後継政権ができたとしてもこれを継承するという約束ができておるとすれば、ただ人の更迭によって韓国日本国との交渉にそう大きい変動、もしくはわれわれの信念動揺を来たすことはない、私はかように考えます。外務大臣のこの信念を承るまでは慎んでおりましたが、私の感想を申し上げれば、今度の朴議長のこの声明をいたしました信念態度はまことにりっぱなものであったとさえ私は一面考えるのでございます。かようなふうな見方はいたしておりますものの、往々にして同調せず、あるいはしっかりした事態の分析、政権と国とのあり方というようなものに区切りをつけてこれを見ることのできない人々の間においては、朴あるいは金等諸君政界からの引退が直ちに韓国日本との間に大きな開きをつくってしまうかのごとく考えがちのものでございますから、今後におきましても、この韓国事態推移に対して外務大臣におかれては深甚なる注意を払われると同時に、この客観情勢動きについて見落とされることなく、かつまた個々の現象に対して一喜一憂せられることなく、かたい、きつい信念を持って日韓のこの善隣友好精神を貫いて日韓間の平和なる国交のできますようにお計らいを願いたいと存じます。  なお二、三にわたってお尋ねいたしたいことがございますけれども与野党同僚諸君の御寛大なるお気持によってこの時間を与えていただいたのでありますから、お約束通り時間を守りまして、他のお尋ねしたいことは他日の機会に譲りまして、これをもって私の質問を終わらせていただきます。まことにありがとうございました。
  10. 今松治郎

    ○今松主査 田中織之進君。
  11. 田中織之進

    田中(織)分科員 ただいまの与党安藤分科員からの質問に関連してまず伺いたい。  昨日の朴韓国最高会議議長声明については、日本側の受け取り方も私はいろいろあるように思います。ある新聞では韓国政界あげてあれを好感しているというものもございますが、九つ条件が満たされるならば自分民政に参加しないということを表明されたように私は受け取ったのであります。従って、この九つ条件が満たされない場合、朴議長がそれが満たされないと見た場合には、一体あの声明は何を目ざしているかということが私問題ではないかと思う。従いまして、私けさ日本の多くの新聞を見てはおりませんけれども一、二見ました新聞の中には、この九つ前提条件が満たされない場合にはあるいは現在の軍政が継続するのではないか、こういう観測を行なった新聞もあるわけでございます。私どもはその点を最も警戒しなければならないと思うのであります。私どもは、現内閣が日韓会談妥結を急ぐ、しかも何といっても朴政権というものはクーデター政権で変則的な政権には違いないのであります、そういうものを相手として日韓会談妥結を急ぐということ自体が悔いを将来に残すのではないか、こういう立場から、現在もなお日韓会談妥結に、しかもその内容の問題については後ほど伺いますけれども、全く理不尽な韓国の主張に巻き込まれたような形で屈辱的な会談妥結しようということに反対なのであります。万一、一部の日本新聞等もすでに報道しているように、九つ条件が満たされない場合に引き続き軍政が継続されるというような事態があっても、外務大臣韓国政情の不安ではないという立場に立って会談妥結方向へ向いて継続していく意思であるかどうか、まずこの点を伺いたいと思います。
  12. 大平正芳

    大平国務大臣 朴議長の昨日の声明をどう読み取るかという問題につきましては、田中委員の御指摘通りいろいろの見方がありまするし、またあり得ると思うのでございまするが、自分大統領選に出馬するかしないかという意味の条件として九条件が提示されておるように考えます。あなたの言われる、軍政を継続するのだ、民政移管はこの条件いかんによってはもう断念するのだというようには読めないのじゃないかと考えております。
  13. 田中織之進

    田中(織)分科員 私どもは単純に今外務大臣がお述べになったようには昨日の声明を見るわけには参らないと思います。これは前の金情報部長政党活動のための最高会議議員辞任の問題から二転三転してきているのです。そういう経過をたどって参りまするならば、私どもが見ているような裏の解釈からいきまするならば、そういう場合も起こるのである。現実に軍政が継続されなければならないということも、韓国政情民政移管という約束との間で不安があるから、一つはそういう形でその不安を押えていこうという行き方ともとれるのであります。私はその点から見て、あるいは仮定のことについては、外務大臣が私どもと同じ見方の上に立たないということになれば、仮定議論になるからといってお答えされないかもしれませんけれども、万が一軍政が継続するというような事態民政移管がさらに先へ延びるというような事態になっても、この会談は継続をされる意思なのでありますかどうか。当然、軍事政権というような変態的なものではないが、民政移管ということが約束されて、そういう方向をたどることが決定的であるから、この政権相手妥結をしても、それは韓国民政移管後にできる政府によって十分継承されていくという見通しがあればこそ、あなた方が会談を続行しておるのだと私は思うのであります。万一私どもが見るような形で軍政がさらに継続されるというような事態になっても、これを継続していく考えでありますかどうか、重ねてお伺いをいたしたいと思います。
  14. 大平正芳

    大平国務大臣 ただいままで私ども承知しておるところでは、そもそも軍事政権がスタートいたしましてからいち早く、これは暫定政権であって民政移管するんだ、そのスケジュールも発表いたしたことは御承知通りでございます。内外にそのように約束をいたした以上、現軍事政権としていつまでも軍事政権を続けるという意図はないものと思います。同時に、韓国におきまして民政移管のスケジュールの一環として政党活動も自由にされ、旧政治家政治活動を自由に行ない得るというような立場になられて以後の世論の動きを見ておりますと、軍は政治的に中立でなければならぬというほうはいたる世論が出てきておりまするし、軍部内にもそういう意向が強くなってきておるように読み取れるわけでございまして、田中委員が御心配されるように、民政移管の基本的な方針を欠いちゃって軍政に戻るんだというようなことは、私は考えられないことであろうと思います。
  15. 田中織之進

    田中(織)分科員 その点については、韓国には日本外務省の出先機関もない。これ自体も、韓国側の態度もそうでありますけれども日本外務省の従来とってきた軟弱外交というか、韓国側には占領中から代表部というものを認めながら、双務的に設けられるべき在外公館日本が現在においても持っておらない。こういうところから外務省自体も、目まぐるしく変転するところの韓国政情について情報もキャッチできないから、いわば一喜一憂しているというような状況の中で外務大臣が今お述べになったことについては確信を持てるものであるかどうかということについて、私どもも実は信用するわけには参らないのであります。しかしこの問題は、私どもの見るところでは、根底はやはりきわめて不安な状態である。情報部長をやめた金鍾泌氏の共和党でありますか、結党委員長への就任の問題は、一たん辞意を表明されたものが撤回され、確かに形は満場一致だということですけれども、拳銃の脅威のもとに開かれたその創立発起人会といいますか、そこでだれが生命の危険を冒して反対するかという韓国の内部情勢が、私どもの聞いているような状況であるといたしまするならば、現実にはきわめてこんとんとした、それに経済問題がからんだ形で深刻なものがあるという情勢の中に、私どもが懸念するような民政移管がさらに先へ追いやられるというような事態が起こらないとも私は断定できないと思うのです。しかしこの点は見解の相違ということに現段階においてはなるかもしれません。また私ども見方の上に立って会談を継続するかどうかということについてのことは、仮定議論ということになりまするから、私はこれ以上この点については追及いたしません。  そこで、現在の日韓交渉内容について、時間が制限されておりまするので、十分私の問いただしたいことを尽くせるかどうかと思いまするけれども、伺いたいと思う。  私は一昨年の予算総会におきまして、野党の予算委員会における代表質問の第一陣を承りまして、この問題には当時の外務大臣でありました小坂善太郎君、池田総理との間に相当時間をかけて実は質問をいたしておるのであります。その後昨年の臨時国会における黒田委員質問、あるいは過般の横路節雄委員質問、また昨日の外務委員会における質問等を伺いまして、実は政府の非常に大きな変わり方に私はきわめて驚きを持つと同時に不満を持っておるものでございます。そこで端的にお伺いをいたしまするけれども、現在の日韓交渉というものは、平和条約第四条における請求権の問題を中心にして行なわれておると思うのでありますけれども、今申し上げたような昨年の臨時国会あるいは今国会の予算委員会、外務委員会におきましての外務大臣の答弁等を通じて伺いますと、もう平和条約第四条の問題を離れた形で交渉が継続されているように受け取れるのであります。念のために伺うのですが、現在の日韓交渉というものは、平和条約第四条に基づいて行なわれているのかどうかという点を、まずお伺いをいたしたい。
  16. 大平正芳

    大平国務大臣 現在の日韓交渉でございますが、これは日韓の間にたくさんの懸案がございます。そのうちの請求権の問題につきましては、御指摘通り、平和条約第四条にいわゆる両国間の取りきめがうたわれてございまするので、両国間におきましてこの問題を解決すべく交渉いたしておる次第でございまして、全懸案が四条に関係があるわけじゃございません。そのうちの請求権はあくまでも四条にいうところの請求権の処理であるという観点に立ってやっておるわけでございます。
  17. 田中織之進

    田中(織)分科員 請求権の問題は、第四条に基づいている。それ以外の日韓間の懸案という問題は、平和条約とは関係があるのですかないのですか。
  18. 大平正芳

    大平国務大臣 直接には平和条約と関係はございません。平和条約は朝鮮の独立を認めたわけでございまするから、それでこの独立国と日本との間の交渉という意味で、平和条約と関係があるといえばございますけれども、漁業の問題にいたしましても、その他の問題にいたしましても、直接平和条約でこういう取りきめが行なわれるのだというふうに書いてあるわけではございません。
  19. 田中織之進

    田中(織)分科員 それでは漁業問題であるとかその他の請求権以外の問題は、直接的には平和条約には基づかないというか、関係なく日韓間の会談を行なっておるのだ、こういうふうに理解してよろしゅうございますね。  それではまず請求権の問題でございますが、今外務大臣がお答えになったように、これは平和条約の第四条というものに基づいて行なわれておるといたしますならば、現在伝えられる、また伝えられるだけではなくて、あなた方は経済協力については無償三億ドル、有償二億ドルで合意に達しておるということを国会で明らかにされておるわでありますが、その問題はあくまで四条の項に基づく請求権として韓国側の請求権を認めたのですか、どうですか。
  20. 大平正芳

    大平国務大臣 たびたび申し上げますように、経済協力と請求権とは全然別個の問題でございます。御案内のように、平和条約四条には、韓国日本との間の請求権の処理について取りきめをするということになっておるわけでございまして、この処理をいかなる方法においてやるかということはうたってないわけでございます。私どもの構想は、今考えております経済協力韓国側にいたしますということで、その結果平和条約四条にいう請求権というものはなくなるのだということを日韓両国で確認するということによって、平和条約にいうところの請求権の処理はつくのだという建前に立っておるわけでございまして、あくまでも経済協力というものは請求権との関連はないわけでございますけれども、これを供与することによって四条にいう請求権の始末はつくのだ、こういうつけ方をいたしましても、平和条約上何ら支障はないと考えております。
  21. 田中織之進

    田中(織)分科員 そこは非常な問題だと思いますが、念を押すようですけれども、経済協力と請求権とは関連はないと外務大臣はお述べになった、その通り理解していいのですか。
  22. 大平正芳

    大平国務大臣 さようでございます。
  23. 田中織之進

    田中(織)分科員 そういたしますと、今外務大臣がお述べになったように、平和条約の第四条のa項には、請求権の問題に対する処理のために日韓両国間の取りきめというものを私は規定しておると思うのです。従って、請求権とは別個な形のものであると今明言をされた経済協力の問題でかりに日韓両国間の交渉妥結したものを、それを平和条約第四条のa項のいわゆる取りきめというものに置きかえる——用語は適切ではないかもしれませんけれども、そういうことは明らかに論理上矛盾するではないですか。この点については、後ほど、日韓両国間の取りきめと平和条約の条章とはいずれが優先するかという問題に関連してさらに伺いますけれども、まず伺っておきますが、今私が申し上げたように、別個なものである、経済協力妥結をしたからといって、その問題が平和条約第四旬条項の決定する取りきめにかわるものだという根拠は、平和条約の解釈上からどうして出てくるのですか。
  24. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほども申し上げました通り、平和条約四条では、請求権の処理はどういう方法においてやれとは書いてございません。私の申し上げておりますのは、日韓両国が、請求権は消滅したのだということを確認した取りきめをかわしまして、一切の悶着が起こらないようにいたしますれば、平和条約四条にいうところの取りきめがりっぱにできたということになると思います。
  25. 田中織之進

    田中(織)分科員 それは外務大臣も条約の専門家ではありませんから、うしろに条約局長が控えておられますけれども、私はそれは、これから具体的に御質問申し上げますように、そういうことにはならないと思う。そこに問題があると思うのですが、そういたしますと——しかし当初の日韓交渉の振り出しというものは、長い過程をたどってきておるのですけれども、請求権の問題に直接取り組んできておると私は思うのです。一昨年になりますが、朴議長池田総理との会談において合意した問題の場合においても、池田総理から、韓国の対日請求権の解決は法的根拠のあるものに限られているということを提案されて、朴議長もこれは同意したということが、当時国会の答弁においても明らかにされておるのです。いつからその請求権の問題と別個の経済協力の問題に変わったのですか。
  26. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘のように問題の処理は請求権を通じてやるということで、しかもそれは法律的根拠のあるものに限ってやろうじゃないかという建前で出発いたしましたことは御指摘通りでございます。私どもといたしましても、両国の交渉過程におきまして、その了解に基づきまして作業をし、討議を続けて参ったことも事実でございます。ところが、同じく法律的根拠という、言葉一つでございますが、日韓両国で、これは法律的根拠があるものだという合意に実は達しなかったわけでございます。私がたびたび申し上げておりますように、法律論自体について、日韓両国において非常な考え方の懸隔があるわけでございます。早い話が日韓併合という事実、これをどう評価するかについても根本的に違うわけでございます。いわんや日韓併合後日本政府が成規の手続でつくりました法律、実定法というものの効力、そのことにつきましても両者の見解が違うわけでございます。従まして、両方が一致した法律的見解に立って、両方が一致した事実関係を踏まえた上でなければ、いうところの請求権というものを正確に、両方合意の上ではじき出すということは不可能でございます。私の判断では、これはこういうことをやっておったのでは百年河清を待つようなものである、何か分別がないものかと考えたわけでございます。そう考えたのは私でございまして、私になりましてからそういう考え方に切りかえたわけでございます。しかしながら、私はそれはベストの方法と思いません。請求権は、今御指摘のように法律的根拠があるものについて地道に計算してはじき出すことができれば、それがベストだと思うのです。また、そうやりたいわけでございますが、今申しましたような事情で、それは幾らやってみても、この請求権というものの実態を双方合意の上でこれだということは、私は不可能だと判断いたしておるわけでございます。だとすれば、これはできないから国交正常化はやめにするかというと、それができないから国交正常化を断念するというのは、これはいささか行き過ぎじゃないかと思います。国交正常化を与えられた条件のもとで何とかやり遂げようということでわれわれはかかっておるわけでございますから、ここの道が行き詰まってしまえばそこでもう断念するというわけにも参りませんので、何か新しい工夫をこらしていく道がないかということでございまして、経済協力方式というものを別途考えて、その反射的な結果として、請求権は双方の間でこれはもう消滅したのであるということを合意し合うという以外に分別がなかったわけでございます。いろいろな御批判がございましょうけれども正常化の前提にある請求権問題というものは解決する意図で進みますならば、こういう以外に方法がないのじゃないかと私は判断いたしたわけです。
  27. 田中織之進

    田中(織)分科員 大平さんが外務大臣になられてから、日韓併合条約その他いろいろ法律的な根拠、いわゆる法律そのものの範囲あるいは取り扱い、解釈というような問題からも非常に困難な問題が出て切りかえたということなんですけれども、しかし、池田総理朴議長との合意に達したという、法律に基づいたものにしよう、こういうときには、その法律というものは大体限られていたから、それに基づくいわゆる韓国側の請求権として日本側が認められるものは七千数百万ドルである、こういうことで話が進められた段階があったのではないですか。特にこの点については大蔵省筋とも政府部内で意思の統一をした結果、法律にはっきりとした——法律に基づくものとしては七千万ドル程度のものしか認められない。しかし、韓国側に当初八億ドルというような大きなものを吹っかけてきたものですから、そういう金額の問題の調整の問題もあって、請求権の問題を離れて経済協力という形に交渉が切りかえられたのとは違いますか。七千何百万ドルというものが法律に基づいて韓国側の請求権として日本側として認められるものはこうだという数字は、政府部内はお持ちになったことはなかったのですか。
  28. 大平正芳

    大平国務大臣 これは私は予算委員会でも申し上げておいたのでございますが、どういう法律的根拠に立つか、どういう事実関係を踏まえて計算するかということによりましていろいろな答案が出るわけでございまして、事実、御指摘のように、政府でも、こういう立場に立てばこうなる、こういう立場に立てばこうなると幾つかの答案を書いてみたことはございます。しかしこれが政府の統一した案でございますなんということを発表した覚えはございませんし、そのことはたびたび予算委員会でも申し上げました。請求権問題は御指摘のようになかなか国民の御関心もございますし、私どももこういう問題をぞんざいに片づけてはいかぬと思いますので、いずれそういったわれわれが検討した経緯につきましては、国会に資料を提出して御参考にしていただきたいと思っております。しかしながら、政府で幾らどういう答案を書いてみましても、これは日韓双方で合意しなければ何にもならぬわけでございます。ところが、韓国側では、そもそものスタートから、法律的見解につきましても私どもと違ったお立場をとられているわけでございます。御承知のように、韓国銀行から搬出した金地金の問題にいたしましても、搬出自体が違法だという立場を向こうはとっておられるのです。こちらといたしましては、朝鮮銀行法によって金地金の売買は認められておりまするし、それに正当な対価を払っておるのだからこの問題を請求権の対象にするということはいけないという立場をとっておる。ところが先方は搬出自体が違法だというお立場をとられるわけでございまして、従って双方で合意した法律的根拠は何ぞやということ、それからさらには、双方で合意したこの事実は間違いないと合意し合うということが不可能なんでございまして、従って、今申しましたように、これは一つ分別を新たにして考えなければならぬじゃないかというように判断いたしたのです。
  29. 田中織之進

    田中(織)分科員 今外務大臣も答弁の中で申されたように、政府は幾つかの答案を書いた、そういう数字、ことに七千何百万ドルであったと思うのですが、踏まえた数字は、これはぜひ国会の方へ出して、いただきたいと私は思うわけです。その点はもちろん予算との関連で、予算審議の過程で、これこれの法律に基づくものだ——現在はそういうような法律に基づいての請求権問題というものは一応たな上げになっている形でありますけれども、最終的にはやはり請求権の処理方法の形で、外務大臣の言われるように経済協力というものでこれは講和条約四条の請求権の処理がなされたのだということに落ちつけるにいたしましても、やはり国民が納得するためにはそういうものは必要だと思うのだが、出していただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  30. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せの通りでございまして、交渉の過程を見ながらなるべく早く私は資料として御提出いたしたいと思います。
  31. 田中織之進

    田中(織)分科員 そこで、先へ進めたいのでございますが、その問題に関連してもう一つお伺いいたします。  これも私、一昨年の予算委員会で取り上げたわけでありますが、一九五七年の十月二十一日に、日韓交渉の促進のためにアメリカが協力する立場で、四条の解釈についてアメリカ側の見解というものが日韓双方に示されましたね。そのときには、小坂外務大臣が、当時の外務大臣でありまするけれども、これは外交上の約束で公表するわけにはいかないということでありましたけれども、私が内容を申し上げた点で、事実上そういうアメリカ側の見解が明らかになったわけでありますが、この場合には今たな上げになっておるのでありますが、請求金額の問題について、b項による日本の対韓請求権の放棄という事実は、率直にいって当然やはり韓国側の請求権との相殺的な意味を持つのだ、こういう解釈がこの十二月三十一日のアメリカ政府の見解から——この点は、当時の小坂外務大臣もその点を答弁されておるのですが、その点は、今日のように請求権の問題がいわばたな上げされた形で、経済協力という問題について、しかもこれについては原則的に合意が成立しているという段階では、このアメリカの見解には日本側は拘束されることはないのですかどうですか。
  32. 大平正芳

    大平国務大臣 アメリカ解釈が出まして、それは日本ばかりじゃなく、韓国もアメリカ解釈には従うという了解があったことでございますし、今田中委員が御指摘されたように相殺的な気持があの中に出ておると思います。しかしどれだけが相殺的な意味を持つかということにつきましては、両国の間で交渉しなければいかぬことになっておるわけでございますが、先ほど私が申し上げましたように、請求権というものの実体につきまして双方で数字的に合意し合うという手順が不可能であるという状況におきまして、アメリカ解釈というものは交渉の資料として使うという機会がなくなったわけでございます。
  33. 田中織之進

    田中(織)分科員 そこにも私まだ問題があります。日本の対韓請求権の放棄ということについては、このときの林法制局長官の憲法二十九条との関連で私質問している点がある。外務大臣は当然処理しなければならぬ。いわゆる外地からの引揚者の在外資産の補償問題がまた再燃してきておる。これは旧地主の補償であるとか、金鵄勲章の復活であるとか、そういういわゆる戦後処理を新しい立場に立ってやるということになれば、引揚者の諸君の在外資産の補償が新たな問題として出てくることは当然です。国民が納得しない韓国の請求権を経済協力という形で三億もの金を無償で出すということになれば、戦争のときには国民をかり出しておいて、時利あらずして敗戦になったという場合に、引揚者が着のみ着のままで引き揚げてきて、わずか五万円の交付公債でそれの補償がなされたということは、これは政府だって言えないわけでありますから、この四七年十二月三十一日のアメリカの見解というものは、現在どうなっておるかという私の質問がその問題に関連してくるのでありますが、これはまた別の機会に伺うとして、それでは、きのうの外務委員会でも問題になったのでありますが、請求権との関連を一応別として、経済協力について合意をした場合に、請求権問題の処理として、これは日韓条約の中に入れるということについては、日韓双方ですでに合意には達しておるのですか、いかがですか。いわゆる経済協力五億というもので、かりに他の案件もございますが、それらの問題と同時解決でありますから、それらの問題をひっくるめて妥結したというときには、先ほども私が伺ったように、講和条約第四条の(a)項にある請求権問題の処理がこれで終わったのだということの合意は、当然明文の上に明らかにされなければ、請求権問題が再燃してくるというおそれがあるので、野党側、特にわが党からしつこくその点を追及しているのです。この点は現在原則的に合意に達しているという経済協力に関する日韓双方の交渉の段階で、そこまでの、今私が申し上げたような第四条との関係における合意までには突き進んでいるのかどうかという点を念のために伺っておきたいと思います。
  34. 大平正芳

    大平国務大臣 一方において経済協力をする、そうして日韓の間の請求権の問題はこれで最終的に片づいたということにしようじゃないかという意味の合意はございます。しかし今御指摘のようにほかに懸案がたくさんございます。そういう懸案と同時に一括して解決しようという政府の基本方針でございます。従いまして、今達している合意は経過的な合意でございまして、すべての案件が満足がいく解決ができまして、それが協定になり、批准を得るまでは、ただいまの経過における合意は法的拘束力を持たないということになります。
  35. 今松治郎

    ○今松主査 田中君に申しげます。申し合わせの時間がだいぶ超過しておりますので、結論をお急ぎ願いたいと思います。
  36. 田中織之進

    田中(織)分科員 従来の分科会の運営とだいぶ違うので、私も勝手が違っているわけですが、できるだけ結論を急ぎます。  今の外務大臣の答弁、ちょっと明確でないのですが、日本側からこれで請求権問題は解決したのだということにしようということを韓国側に話を持っていったことまではわかりますけれども、それに韓国側は同意したのですか。それからもちろん他の案件関係が、大臣の答弁のように思いますが、その場合にはやはり日韓条約の成文の中にこれは入れるということまでの合意が、経過的にしろ現在あるのかどうか。
  37. 大平正芳

    大平国務大臣 さようでございます。御指摘通りになっております。
  38. 田中織之進

    田中(織)分科員 それでは、日韓条約が成立したときには成文の中にその点が入って、そこで問題が起こってくるのではないかと思うのですが、それは平和条約の第四条の規定を日韓両国の二国間の条約によって変更するということの意味にはなりませんか。私はどうもそういうような感じがいたすのですが……。
  39. 大平正芳

    大平国務大臣 そういうことにはならないと思います。
  40. 田中織之進

    田中(織)分科員 どうしてならないのですか。
  41. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど申しましたように、四条にいう請求権は一切片づいたということを両国で合意することは、平和条約四条にいう請求権の処理の取りきめということに明らかにいたしますれば、平和条約にうたわれている問題はそれで片づくということになると思います。
  42. 田中織之進

    田中(織)分科員 それは平和条約の規定が優先するのか、あるいは日韓両国の二国間の取りきめ、条約というものが優先するのかという問題に関連するのですが、その点は平和条約の第四条(a)項の取りきめにかわるものだということを日韓条約の中に入れるということはもちろん明らかにされたのですが、そのことは法律の効果の点から見ますならば、平和条約よりも日韓条約の方が優先するという結果になってくるのではないでしょうか。
  43. 大平正芳

    大平国務大臣 私はそのように理解していないのでございまして、平和条約に基づいて請求権の処理の取りきめをしなければならぬ、その取りきめ自体でございますから、何らの矛盾はないと思います。
  44. 田中織之進

    田中(織)分科員 それでは、その問題に関連してもう一つ伺いますが、平和条約第四条の請求権の処理の問題でございますが、請求権というものは、これは韓国及び韓国国民と、両方を分けてそれぞれ権利を認めていますね。かりに韓国との関係は経済協力の問題で処理がされるといたしましても、韓国国民が持っておるこの請求権というものは一体どうなるのですか。
  45. 大平正芳

    大平国務大臣 日韓の問の政府政府、あるいは国民政府、そういった請求権一切を片づけるということでございまして、仰せのように残るというような始末の仕方をすれば、これは私どもの任務も全うできないわけでございまして、私どもはそういったもんちゃくが将来一切起こらないということで処理をいたしたいと考えております。
  46. 田中織之進

    田中(織)分科員 外務大臣、今の答弁では、私、問題が起こると思うのです。平和条約、これは国際法なんですね。国際法で認められた個人の権利、韓国国民の私的な権利、それをこの規定でひっくるめて、消滅したのだ、解決したのだという取りきめが、一体できるかどうか、こういう問題が私残ると思うのですが、もちろんそれは韓国側が、韓国国民が持っておる権利というものをこの際放棄するということを韓国国内的な手続で済ますという前提に立つならば、あるいは可能かもしれません。しかし問題は、平和条約という国際法、多数の国を当事者としておるそれと、二国間の条約との間の、いわゆる法律効果の優先順位という問題がそこにひっかかってくるから、外務大臣のお答えになるようなことでは済まされないのではないか、このように私は申し上げておるのですが、その点はいかがですか。外務大臣がお述べになるように、平和条約第四条が確かに認めているように、韓国民の私的な請求権というものは、これは国がどうしようと、韓国民が国際法上に認められた権利として請求権の提訴をすることは可能なのですから、それまでを、この日韓会談で封ずることができるかどうか。いかがですか。
  47. 大平正芳

    大平国務大臣 微妙な法律構成の問題でございますから、専門家にお答えいたさせます。
  48. 中川融

    ○中川政府委員 ただいま問題になっております四条に基づく協定を日韓間で結んだ場合に、韓国国民の権利もそれで最終的に処理できるかどうか。この問題は、実は今度の日韓交渉の形によった解決の場合でなくて、たとえば田中委員の御指摘のような、ほんとうの法律的根拠に基づく請求権の処理がもしかりに行なわれたと仮定いたしまして、そして日韓間でその協定がもし平和条約四条に基づいてできたとしても、やはり同じ問題はあるわけでございまして、平和条約四条で規定しておりますのは、韓国の場合は韓国政府及びその国民の請求権の最終的処理を日韓両国政府の間でやれということが、平和条約第四条で書いてあるわけでございます。これは国家間の交渉でありますから、やはり政府間の協定合意以外にはやりようがないわけでございます。どうしてもそれは政府国民にかわって請求権の処理をするという格好になるわけでございます。その場合に、はたして国民の一人々の権利、たとえば日本国内法に基づく韓国国民一人々々の権利が最終的に全部なくなってしまうとか、あるいは最終的に処理されてしまうものであるかどうかという法律上の問題は、いかなる場合にもこれはあるわけでございます。つまり、そういう個人の人が日本の裁判所に自分の権利を主張して訴えるということがあった場合に、日本の裁判所が国内法の判断に基づいてどういう裁判を下すかという問題は、これは平和条約全体を通じて全部あるわけでございまして、国家間の協定におきましては、はたして個人の権利を最終的に国家がかわって処理できるかどうかという基本的問題はあるわけでございます。しかし国家問の約束というものは、そういうものも全部国家レベルで片づけるというのが建前でございまして、政府同士といたしましてこれで最終的に解決するという約束をするわけでございます。また常識的の問題といたしましては、政府が解決したものを裁判所が取り上げてまたもとへ戻すということはまず考えられないのでございます。しかしいかなる国におきましても三権分立という建前があります以上、裁判所というものまで最終的に拘束するような取りきめは、国際条約という形では、問題としては理論的には残り得る、これはいたし方がないところだと考えます。
  49. 田中織之進

    田中(織)分科員 従来の日韓交渉経過から見ても、この問題はぜひやはり明確にしなければならぬ問題です。私は今の条約局長の答弁も初めと終わりとは矛盾していると思う。この点ははっきりと、やはり韓国国民の私的ないわゆる請求権については国が責任を負って処理するのだということを、韓国側で国内的な手続として処理しない限りは、条約の解釈上あるいは条約の当然の効果として分でくるわけですから、この問題は、平和条約が国と国民個人とを区別してはっきり権利を設定している以上、その点まで明確にしなければ悔いを後日に残すということを警告しておくことにして、時間がありませんので次へ進みます。  そこで、私どもは経済協力という形の妥結には反対の立場でありますけれども、現在合意に達しておるのは全額だけで、その経済協力内容については触れておられぬのかどうか。当然役務または資材ということになろうかと思うのでありますければも、その場合にたとえば、兵器製造用のプラントというような軍事的な関係のものは、私は平和条約の建前からいっても、日本の平和外交の建前からいっても、入れてはならないと思うのであります。これはベトナム賠償のときにも問題になって、その点は入れないということを政府は明確にしたのです。ところがカン詰工場がいつの間にか兵器製造工場になっているというようなことも現在現われているようでありますけれども、この点は現在の合意の範囲内ですでに合意に達しているのかどうか。それからまた、軍事関係のものが経済協力という形で韓国側に与えられるというようなことには絶対してはならないと思うし、当然政府の従来の方針から見るならば、ベトナム賠償のときの方針が貫かれなければならないと思うのですが、それは貫かれておりますか、どうですか。
  50. 大平正芳

    大平国務大臣 経過的に合意を見ておりますのは、今御指摘のように、実体は日本の生産物ないし役務だ、それから金額と条件、期間、利率等につきまして一応の合意を見ておるわけでございまして、生産物はどういう内容のものかというところまでは実はまだ討議いたしておりません。しかし交渉の過程で、先方は経済の再建をやらなければいけないので、資本財を希望されております。しかし今田中分科員が御指摘のように、事兵器、軍需品にわたるというようなことにつきましては、私の方としても十分考慮しなければならぬ問題だと思います。
  51. 今松治郎

    ○今松主査 田中君、まことになんでありますが、申し合わせが三十分になっておりまして、約二倍くらい許しておるわけでございます。あとの質問の方が八人もありますから、なるべく結論をお急ぎ願いたいと思います。
  52. 田中織之進

    田中(織)分科員 特に兵器関係などの軍需的な関係のものは考慮しなければならぬ、考慮するというように言われましたけれども、これは私は絶対に入れてはならぬと思うのだ。考慮したけれども結果的には入ったのだということになりますと、それこそこれは重大問題になると思うのです。日韓会談そのものがそれをむしろ目的として急いだのじゃないか、こういうことになりますから、この点は絶対に私は入れてはならない問題だと思うのでありますが、現在まではその点については合意は達していないわけですね。
  53. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど申しましたように、生産物はどういう生産物かというところまで掘り下げていませんけれども、先方も兵器類などを希望されておりませんし、当方もそういう考えはございません。
  54. 田中織之進

    田中(織)分科員 それではあともう一つ、漁業問題に関連して李ラインの問題について伺います。  それは、先ほど請求権問題以外の懸案という問題は、平和条約には直接関連はないという意味、これはもちろん二十一条ですか、朝鮮の独立そのものが平和条約によって位置づけられておるのでありますから、その点は私も直接的には認めるわけでありますけれども、そこで李ライン問題が当然漁業問題という形で解決しなければ——他の案件もそうでありますけれども日韓会談妥結しないということは、政府がたびたび繰り返されておりますのでそれはなにしますが、本来ならばこの李ラインの問題は、朝鮮の独立に関係なく起こった問題なのです。ことに平和条約の署名は一九五一年の九月八日に行なわれているのですね。それから李承晩が李ラインの設定を発表いたしたのが一九五二年の一月十八日です。だから本来ならば李ライン問題、それをめぐる漁業問題ということになりますと、あるいは正常化問題ということになりますけれども、漁業問題の前提はやはり李ライン問題という——公海に不都合な自分勝手な線を引いておる。そこで漁業関係だとか、そういうようなものまで不法に拿捕するという問題が出てきて、日韓間の正常化の問題をきわめて困難にしておるのです。従って、この問題を日韓会談にからませたということは、私はむしろ韓国のペースに乗せられたことだ。またアメリカは今日でも、日韓会談妥結のために協力するとかいろいろいわれますけれども、この李ラインの問題をアメリカが放任しておきながら、日韓会談正常化日韓国交正常化のためにアメリカが努力しているなんというようなことは、言えた義理ではないと私は思う。問題はそういう性質の問題だと思いますが、その点はいかがですか。
  55. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せの通り私も考えております。
  56. 田中織之進

    田中(織)分科員 そこで、この点はあとで楢崎委員からも質問をされるようでありますけれども、昨日の委員会で、李ラインが設定されてから拿捕された——最近も拿捕されたけれども、不法拿捕されている船舶あるいは船員、あるいはこれに死亡した者に対する韓国に対する損害賠償問題というようなものは、正常化のあとになるのではないだろうかというような答弁を外務大臣はされたように聞いておるのです。私はこれは、まだ李ラインの基本的な問題あるいは外交問題が合意にも達しない段階において、この質問もどうかと思うくらいでありますけれども、かりにその問題について妥結をするといたしますならば、李ラインの設定によって起こったこれらの日本側の損害請求権というものを、国交正常化の後に持ち越すというようなことは、私は本来転倒もはなはだしいと思うのですが、その点は外務大臣、いかがですか。
  57. 大平正芳

    大平国務大臣 そういうことを答弁した覚えはございません。そういう悶着をあとに残すようなことはいたさないつもりであります。
  58. 田中織之進

    田中(織)分科員 今伺いますと、その点は池田総理が答弁をされておるということでございまして、なおさら私は問題だと思うのであります。この点は後ほど楢崎委員から質問をされる予定になっておりますので、その点には触れないでおくのでございますが、最後に、李ラインの問題に関連して、現に交渉が進んでおるわけでございますけれども韓国の領海というのは一体何海里なんですか。どういうように踏まえておられるか。日本は三海里説をとっておる。アメリカは六海里ということで、付近を航行した船のなにでは、六海里までの領海に入ればもちろん向こうに撃たれるということを言っておりますけれども、その点は一体どういうように踏まえておるか。それからいわゆる漁業専管区というもの、これは六海里。従って領海と漁業専管区の六海里を含めて十二海里説というようなものが、会談の過程でも日本側から出たとか出ないとかいうようなことがいわれておるわけであります。そこでこの際伺っておきたいのですが、韓国の領海を何海里と韓国側が主張しておると踏まえておられるのか。それから領海から漁業専管区の問の裁判の管轄権というものは一体どこにあるのか。これは李ライン問題の解決にきわめて重大な関係があるので、この際伺っておきたいと思うのです。なぜこれを私が伺うかといいますと、妥結したのでありますから、現在の日米加の漁業条約あるいは日ソ漁業協定の関係から見ますと、漁業専管区、いわゆる領海外の漁業専管区あるいは禁止区域、制限区域、こういうような地域における裁判の管轄権の問題は、これはやはり二国あるいは三国の双方にあると私は思うのです。従って、不法侵入、侵犯したという疑いがある場合には、それぞれ関係条約当事国がそれを拿捕し、抑留することができますけれども、裁判の管轄権はその船の——ここで具体的にいえば漁船の所属国にあるというのは、日米加漁業条約あるいは日ソ漁業協定の建前になっておると思うのです。そういう点から見て、韓国のいわゆる漁業専管区の問題、ひいては現在の李ラインの問題に関連をしてくる問題でありますが、会談では、漁業専管区の設定というような問題を一つの具体的な解決方法として考えられているが、その場合の裁判管轄権の問題はどういうようにお考えになって話を進められておるか、伺っておきたい。
  59. 中川融

    ○中川政府委員 韓国は、理論的には領海は日本と同じ三海里説をとっておると承知しております。しかし現実にはいわゆる李ラインというものを設定しておりますから、広範な公海の部分に自分の専轄管轄区域を主張しておりますから、領海は実効的には李ラインと同じものになっているわけであります。  なお目下の漁業交渉におきまして、日本が十二海里案を出しました段階におきまして、その範囲内における、つまり領海を引きましたあとの、いわゆる十二海里の中の裁判管轄権のどちらになるのかというお尋ねでございますが、これは例の海洋法の思想によりまして、十二海里の間は、沿岸国の専轄漁業管轄権ということになりますので、そこの中の漁船についての管轄権は沿岸国にある、こういう考え方でございます。しかしそれ以外の管轄権漁、業に関係しない部分におきましては、これはもちろん公海でございますから、おのおのの船舶の属しておる国が管轄権を持つ、かようなことになると思います。
  60. 田中織之進

    田中(織)分科員 その点は日米加三国の漁業協定あるいは日ソ漁業協定の場合には、いわゆる漁業専管区にあたる部分についても、漁船の所属国にあるというのが私の理解なんですが、その点が明確でないのです。もし答弁を訂正されるならしていただきたい。  最後に、これは私の意見でありますから一言だけ申し上げておきますけれども、最近特に西日本の漁民関係には、自民党の方で日韓会談妥結のPRの観点から、もし野党の言っているように、社会党の言っているような日韓会談がかりにこわれたということになると、漁業の問題についてのなにができないじゃないか、こういう形をやられておると思うのです。与党立場でPRを政治的な立場でやられることは当然でありましょうけれども、先ほど私がお伺いしたように、これは根本的に間違っていると思うのです。本来ならば平和条約に一応関係のない問題なんです。従って、李ラインが設定されたときからこの問題を国連憲章に基づいて国連総会なり安保理事会に持ち出す、こういうことのできる道が当然残されているのです。ことに国連憲章の第六章の紛争の平和的解決という各条項に従ってこれは行なうことができるのです。それを今日までやらないでいて、それでかりにこの問題が解決しなければ、日韓会談妥結しないということは、本日も外務大臣は言われておる。万一韓国政権が崩壊するというようなことになれば、幾ら韓国という国は変わらないのだと言われても、こんこんとした中にクーデター政権が倒れる、あるいはクーデター政権が継続的に行なわれるというような段階になりますると、日韓会談の前途も私は考えなければならぬことになると思う。万一日韓会談が不成功に終わった場合においても、李ラインの問題は今からでもおそくないので、国連憲章第六章による紛争の平和的処理の問題として、日本は国連に提訴するという道が残されている。国際司法裁判所に竹島問題を出すのとは違って、向こうが同意するといなとにかかわらず出せる性質のものなのです。そういうことを当然とにかくやらなければならない。私どもはそういう問題をもむしろその問題の解決というものが前提に、正常化問題が進められなければならない、こういう考え方に立って物を言うているわけですから、この点について万が一さらに長期化するとか、あるいは不幸にして韓国側の事情で会談が成立しないというような事情になった場合にも、李ライン問題が解決すれば漁業問題もおのずから解決してくることになるわけです。そういう処置をとられる考えがおありかどうかということを外務大臣にできればお答えをいただきたいと思います。
  61. 大平正芳

    大平国務大臣 私ども態度といたしまして、二国間の紛争というものはあくまで二国間交渉で相互の理解に根ざして解決をはかるのが正道だと思うのでございます。日韓の問はわれわれの永遠の隣邦でございまして、将来いろんな問題が起こると思います。しかしこれはあくまでも二国間の了解互譲によって解決していくべきが本筋だと思うのでございます。しかし御指摘のように国連に提訴の道があるわけでございます。現在韓国は国連に加盟いたしておりませんが、御指摘のような道は開かれておるわけでございまして、それは決して忘れておるわけじゃございませんけれども、本体は二国間の交渉によって解決すべきものだと心得ます。
  62. 今松治郎

    ○今松主査 河野正君。
  63. 河野正

    河野(正)分科員 御承知のように戦後十八年の歳月を経て参りましたし、さらにまた講和が発効いたしましても十年以上の歳月を経過をいたしたわけでございます。そこで私どもは、そういったもろもろの戦争の爪あとを払拭するために努力しなければなりませんし、その努力というものが私ども日本国民に与えられましたきわめて重要な責任ではなかろうかというふうに考えるわけでございます。  そこでそういう終戦処理につきましては、今いろいろと御論議願いましたような日韓会談の問題もございましょうし、その他中国あるいはソ連等に関しまする国交回復また幾多その他の問題もございましょう。私はきょうは角度を変えまして、人道的な立場からいかに今後終戦処理をはかっていくべきか、そういう問題にしぼって一つお伺いを申し上げてみたいと考えております。  御承知のように政府で発表されて参りました資料を拝見いたしましても、昭和三十一年の末にソ連地域よりの集団引き揚げが完了いたしました当時、その当時の未帰還者の総数が大体五万一千四百八十九名、こういうふうに発表をされて参ったのでございます。ところが、その後の調書によりまして、あるいはまたいろいろと事情等の究明によりまして、結果的には、今申し上げましたように、五万一千四百八十九名それぞれ外地に残っておるだろうというふうにいわれておりましたのが、実は一万三千五百十九名程度に減少してきた。こういう事情が政府の資料で明らかにされておるわけでございます。ところがまた、その中から、いろいろと外地からの来信あるいは帰還者よりの情報、さらには在外公館等によりまする調査、そういう調査によって、実は外地に残って生存されておりまする方々というものは大体五千名程度ではなかろうか、こういうふうに、だんだんと、五万一千四百八十九名残っておるだろうと算定されましたのが、五千人程度しか残っておらぬ。そういたしますと、さっきの一万三千五百十九名から差し引きましても、八千五百名から八千六百名の方々が全く消息も所在もわからぬというような実態にあるような計算になっております。ところが、これは、もう所在も状況も全く八千名以上の方々がわからぬということは、残されました遺族にとりましてもまことに不幸なことでございましょうし、また遺族の方々あるいはまた関係者の方々も、そういう八千五百名から八千六百名の方々につきましては重大な御関心を持っていただいておるのだろう、こういうことを私は実は心ひそかに政府の発表を見て感じて参ったわけです。このことは、消息がわからぬのでございますから、人道上きわめて重大な問題と思いますので、この際一つ終戦処理の一環としてそういう点がどのように把握されておるのか、外務省よりの御所見を承っておきたい。
  64. 後宮虎郎

    後宮政府委員 本問題につきましては、従来から河野先生より非常に人道的御見地より御関心をいただいておるのでございますが、生存者の数につきましては、今御指摘通り政府の発表でございまして、この残っておられるのは、もう今中国に抑留されておられます十二名——今度一人古海先生が帰られますので十一名になりますが、これ以外は大体強制的な意味の抑留というのはなくなっているのではないかというふうに存じております。ですから、それ以外の方は結局死亡されたという結論にならざるを得ないのでございまして、すでに引き揚げてこられた遺骨以外に、こういう現地で死亡された遺骨が東南アジア、中国大陸等を含めて八十万体くらいはまだ残っているのじゃないかという推定でございます。
  65. 河野正

    河野(正)分科員 今若干の御説明がございましたが、いずれにいたしましても、政府が発表されました統計によっても実は八千五、六百名の実情というものが、生きておるか死んでおるか、生死が全くわからぬというような実情でございます。ところが、この法律によりましても、国は未帰還者の状況については調査究明に努めていかなければならぬ、こういうふうな法の規定もあるわけです。そこで、そういうふうな一万近い方々の生死ないし消息というものが全く不明でございますが、今後そういう方々の実情把握は、今申し上げましたように、法律上、政府責任を持って調査究明していかなければならぬというような規定があるわけでございますが、今後どういうふうにそういう方々の調査なり究明をなさっていかれようとしておりますか。この問題はもうすでにだいぶ長い歳月もかかっておりますので、この際一つ積極的な御意見等を承らしていただきまして、そうして遺族あるいは関係者の方々が納得されるようなお答えを一つあわせてお願いを申し上げておきたいと思います。
  66. 山本淺太郎

    ○山本(淺)政府委員 御指摘のように、未帰還者の調査ということにつきましては、政府といたしましても、非常に大きな関心と努力を費しておるところでございます。しかしながら基本的には、この未帰還者の状況を真に知り得るものは当該国だと思うのです。しかも中国におきましては、政権の変動がありまして、現在の政権のもとにおきましては、それ以前の状態がつまびらかにし得ない、また責任も持てないというようなことを言われておるわけでございます。従いまして、厚生省といたしましては、在外公館を持っておるところにおきましては、努めて在外公館の御活動を期待しておるわけでございますが、やはり個々の個人の生死を明らかにすることでございますので、そうした在外公館の努力にもどうしても限度があるわけでございます。従いまして、厚生省といたしましては、すでに同方面から帰りました、もう相当年数たった方も多いのでございますけれども、それらの当該地区から引き揚げてこられました人々の巨細な証言を求める各種の方途を講じまして、主としては、国内調査の面で調査究明をいたしておるのでございます。具体的な方法についてはこまかくなりますので省略いたしますが、非常に広範多岐な方法を用いまして、一人でも多くそのような状況を明らかにするような方途をとっておるわけでございます。  なお、中国につきましては、現地からの通信も一部きておりますので、そういう通信の直接または間接の探り方によりまして、同じ地域にどういう人がどのような状態で残っておるかというようなこともある程度は知り得ますので、中国本土からのそういう通信等も貴重な材料といたしまして調査究明に当たっておる次第でございます。
  67. 河野正

    河野(正)分科員 ややもいたしますると、この終戦処理というものを非常に安易に処理していこうというふうな印象を実は受けるわけです。と申しますのは、たとえばこの未帰還者に関する特別措置法、こういう法律の制定も行なわれましたが、これは実は申し入れをして認められればすでに死亡者と認定されるというだけの話であって、そういう死亡宣告の審判が確定した、かといってその死亡者の時期とか場所等について明白になったということではないわけです。ただ長い間消息がわからぬから、それをこの法律によって認めてもらうという便宜的な処理の仕方であって、これで死亡宣告が行なわれたからといって別に御本人の消息がはっきりしたというわけではない。そこで今後そういうふうな措置法でこの責任を回避されますと、残された遺族はたまったものではないというように私どもは強く考えるわけです。そこで私は、今までいろいろと御説明をいただきましたが、今までのような形で進行して参りますると、実際の消息を把握する意味におきましても、いろいろな悪条件が重なってくると思う。後ほど私は遺骨の問題を取り上げてみたいと思いますけれども、そういう遺骨の問題でも、長く片づかぬと結局その遺骨もはっきりしないというようなことになりましょうし、また消息等につきましても、だんだんといろいろなものが薄らいでいくというようなこともございますので、もう終戦後かれこれ二十年近くなるわけでございますし、講和が発効いたしましてからすでに十数年を経過するわけでございますから、何か一つ抜本的な対策を立てていただいて、そうして一挙というわけにはいかぬでしょうけれども、少なくとも今までよりも、より積極的に解決するという方策をやはり確立していかなければならぬ。残された遺族は年とって、御両親方もどんどん年とって、だんだんとみずからが死亡していかなければならぬという運命でもございますので、残された遺家族にとりましては、非常に深刻な問題だろうと思う。でございますので、そういう今までとってこられました方策だけでは私どもも満足できませんし、また残されました遺族あるいは関係者等も満足されるわけには参らぬと考えます。そこで、もうぼちぼちこの辺でもう少し積極的な方策を立てていただきたい、こういうふうに思うわけでございますが、その点大臣いかがでございましょう。
  68. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘通りでございまして、政府といたしましても、可能な限り関係政府の御協力を得、かつ国内においても資料の収集に努力いたしているわけでございますが、ただいまの状況ではまだ至らないという御判断でございますし、私どももそのように考えますので、政府側におきまして、本問題についてもっと突っ込んだ対策を立てるように努力してみたいと思います。
  69. 河野正

    河野(正)分科員 先ほど私が数をあげていろいろ御所見を承って参りましたように、当初算定されました未帰還者の数が情報、調査等によってだんだん減少してくるということは、言葉をかえて申し上げますると、死亡者の数がだんだん増加してきたのだろうというような想像がつくわけです。そうしますと、そういう死亡者の遺骨は一体どうなっておるのかというような結果になって参ろうかと考えます。そこで私は、今日まで長いことこの遺家族にかわりまして、遺骨の収集につきましていろいろ側面的に政府に対しましてもお願いをして参りました。ところがなかなか思うように解決をいたしません。その問いろいろと政府にも御努力いただきました点につきましては多とするわけでございますけれども、なかなか思うように解決をいたしません。御承知のようにアメリカ、イギリスあるいはオーストラリア、フィリピン、こういう諸国におきまする遺骨はだんだんと送り返されて参りまして、留守家族の手元に届けられた、こういう経緯になっております。ところが一部におきましては、治安が十分回復してない、あるいは住民感情が必ずしも好転しておらない、中には予算関係もあると思いますけれども、そういう予算関係の問題等、大別いたしますと、大体三つの条件で、今申し上げますような遺骨収集が十分達成されぬというような隘路になっておろうかと思います。ところが実は中国とは国交の回復が行なわれておらぬわけでございますけれども、対中国におきましては、実は治安の問題、友好関係も、政府に対しては別でございますけれども国民同士の友好関係は非常に増進されてきた。こういう状況であるわけでございます。この中国あるいは旧満州地区でございますが、こういう地域におきましてもまだ遺骨の残っておりまするケースがかなりある。遺骨収集をはばみました三つの条件を先ほど申し上げましたが、そういう条件は、中国の場合には問題ないわけでございます。ところが結果的には中国におきまする遺骨がかなり残っておる。こういう状態で、今日までいろいろと私どもも要望いたして参りましたが、なかなかはかばかしく展開して参りません。こういう今回の第二次世界大戦をめぐりまする遺骨問題が、今日どういう状態に置かれておるのかという点につきまして、一つ概況の御説明を願います。
  70. 山本淺太郎

    ○山本(淺)政府委員 御案内の通り、過般の大戦は、その規模におきましてまた地域の広大なことにおきまして、世界でも例のないようなものであり、従って、非常に多くの戦没者を出しておることでございます。しかも日本が、いわゆる玉砕をしたというような地域が非常に多いために、普通の戦争の際に考えられるような戦没者の遺骨を収容するということは、全体といたしましては非常に物理的にも不可能な状態に大観するとなっておるわけでございます。しかしながら、各地域をそれぞれ見ますと、南方諸地域と、中国と、ソ連、それぞれ態様を異にしておるわけでございます。  まず、ソ連について考えますと、戦後ソビエトが日本人を連れていったわけでございます。従いまして、どういう収容所に入れて、どういう作業をやらしておったか、しかも日本人が非常に多かったわけでございますので、どういう場所になくなった人は埋葬されておるのかということが、同僚によって大体資料が持ち帰られておるわけでございます。樺太、千島を入れますと、約七万の死没者があるわけでございますが、ソビエトから公式に死亡者の名前が通報されておるのは、ごくわずかでありまするし、特に埋葬の地点を示してきておるのは、わずかに十八カ所、三千数百人でございます。わが方の資料によりますと、大小合わせますと、大体三百三十数カ所くらいの埋葬地点があるようになっておりますけれども、遺憾ながらソ連政府からは十八カ所の墓地しか知らされてきてないという状況でございます。  次に、満州でありますが、満州におきましては、約二十万死没しておりますが、ああいう怒濤のごとくソ連軍が南下してきた情勢でありますので、軍民の二十万の人々がどこでどのようになくなったか、従って、どこに埋葬されておるかというようなことはほとんど知るによしない状況でございますけれども、そのようなことにつきましてお話しいたしましても、中国政府から満足すべき回答は全然得られないという状況でございます。  それから、次に、中国本土につきましては、大体が勝ちいくさのときに多くの戦没者を出しておるわけでございますので、これらの遺骨は全部戦友が持って帰った。従いまして、今日中国本土にある遺骨は、いわゆる戦犯と称せられる者の六十九の遺骨が未送還になっておるということでございます。あとは、ただいま御指摘のございましたように、戦後なくなったと思われる人々の遺骨でございまして、これはいわゆる戦没者の遺骨と同列に扱うべき問題ではなく、別個の問題ではないかと考えております。  次に、南方につきましては、ほとんど玉砕地でございますので、今日遺骨を収集いたそうといたしましても、収集に方法のないような状況でありますので、政府としては、御案内の通り南方八島以下各主要な戦域につきまして、特に遺族をも乗せまして、特別な遺骨収集船及び現地追悼団を出したわけでありますが、これによりまして象徴的に当該地域の遺骨を日本に持って帰ってもらったということで、一応遺骨の収集を終わったものと考えざるを得ない状況でございます。  なお、南方につきましては、インドネシア地区に若干戦犯の遺骨がございまして、このうち収容可能なものにつきましては、現在外務省の力をかりまして発掘を進めておるような状況でございます。総じまして、中国本土を含めまして、戦犯者の遺骨につきましては、御遺族の格別な心情もありますし、また現地における住民感情等もありまして、そこに置くことが適切でないと思いますので、これらのものは可能な限り、その所在地が判明し、現地官憲がこれを許すように努力いたしまして、日本に持ち帰りたいという考えでございます。
  71. 河野正

    河野(正)分科員 時間がございませんから端折ってお尋ねをいたしたいと思いますが、特に今の中国に関しまする問題につきましては、実は御案内のように一九五五年のジュネーブ駐在の田付総領事より中国の陳総領事に対します書簡がございますが、その書簡に対して外交部の声明が出された、その中で個々の問題は人道上の立場より日本赤十字社が具体的な資料を提供すれば、中国紅十字会はできるだけ調査する用意があるというふうに示されております。それから昭和三十二年に有田八郎氏が訪中いたします際の覚書がございます。その覚書の中でも、遺骨がわかったような場合は民間平和三団体に返還する用意がある、こういうふうに実は有田さんと周総理との間の覚書の中でも示されております。それからこれもあわせて申し上げておきたいと思いますが、あと先になりますけれども昭和二十九年に李徳全女史が来日されまして、その際会談が行なわれた。その覚書の中でも、昭和二十四年以後死没した日本人の遺骨に関しできるだけ調査し送還するよう中国紅十字会は努力する、こういうように中国側はきわめて好意的にこの遺骨問題に対処する旨表明をされて参りました。ところが先ほど御説明いただきました戦犯者の遺骨等については実は資料が提供されておる。今申し上げますような中国の外交部の声明あるいは有田八郎氏の訪中覚書、それから李徳全女史が来日されました当時の覚書、そういう中でもこの問題については人道的立場から善処するのだ、こういうようにしばしば言明をされて出る。そこでそういう言明に即して資料提供しておるわけでございますけれども、この問題も今未解決のまま推移をいたしておる。こういう点についてどういうふうにお考えになっておりまするのか、この際一つ明らかにしてお示しをいただきたい。
  72. 山本淺太郎

    ○山本(淺)政府委員 河野先生の御指摘通り経過をたどっておるわけでございます。私どもといたしましてはせっかく今御指摘のように日赤以下三団体と中国の紅十字会との間、あるいは有田先生と周総理との基本的な話し合い等があるわけでございますので、日本側として今日最も詳細と思われるような、たとえばだれという人はどこのどういう部落のどういう、今日としてはなくなっておるかもわからぬが、当時としてはこういう建造物とか橋のそば何メートルくらいの位置という工合に、その図面を見ていただけますれば当然発掘が可能ではないかと思われるような相当詳細な資料をつけまして、六十九名につきましては昨年三月二十七日だと思いますが、日赤から三団体の名前で紅十字会に調査をお願いしたわけでございます。その返事がただいま参っておらないのでございます。昨年の五月と思いましたが、日中友好協会の宮崎理事が訪中いたしました際に、こうした問題についてお願いをしてもらったわけでございますが、その際に先方は、この話は知っている、なお日本における各個人からもいろいろ要請がきているので——これはあるいは戦犯ではないかもわかりませんが、中には戦犯の者もあると思います、中国における遺骨の問題について各方面からいろいろ調査を依頼されておるので、今努力しておる、こういうふうなお話があったそうでございます。それから昨年の九月に松村謙三先生が訪中せられた際にも同様のお願いをしていただいたわけでございますが、よく検討するというお返事だったように伺っております。従いまして、日本側としては唯一の資料を出したのでございますので、こういう基本的な取りきめがあります以上、中国側が時期は多少おくれましても何らかの返答は必ず下さるものと確信いたしておる次第でございます。
  73. 河野正

    河野(正)分科員 ただ私どもが心配いたしておりますのは、先ほど私が申し上げたように、二、三の覚書等の内容について非常に中国側はこの遺骨問題については人道的立場から好意的である。そういう好意に対して私どもは期待をいたしておるけれどもなかなか思うように進展しない。ところが今申し上げましたようにやや気になりますことは、一九五五年の陳書簡の中に、今の日本政府に対します批判もややございますけれども、そういう批判とあわせて、いかなる状況不明の日本人も現在中国にいない、こういうふうに述べられておるわけです。そこで私が気になりますのは、状況不明の日本人というものは全然現在の中国にいないのなら、それではその中に遺骨が含まれておるというように判断していいのかどうか。もしいかなる状況不明の日本人もおらぬ、その状況不明の中に遺骨も含まれるということになると、これは遺骨がないということにも通じていくと思うのです。そうしますと中国の方でいろいろ好意を持っていただいておっても、向こうはないというふうに判断されておれば、これはいつまでたっても遺骨が送還されることはないわけです。それですから、この田付総領事に渡されました陳書簡の中のいかなる状況不明の日本人もいないという中に、大体遺骨が含まれておるというようにお考えになっておるのかどうか、この辺の事情を一つお聞かせいただきたい。
  74. 山本淺太郎

    ○山本(淺)政府委員 私どもとしてはそのように理解していないのでございます。と言いますのは三十二年の八月に有田先生が参られました際の中共側の回答要点といたしまして三つございます。一番目には中共政権成立以前の日本人の消息については責任を負わない、いわゆる消息不明。これと別にいたしまして三番目に中共にある遺骨は紅十字会から三団体に送還するということでございますし、また先ほど述べましたように日赤以下三団体があのようなお願いをしましたことにつきましても特段それをすぐ反駁するというような態度には出てこられないで、いろいろ三団体の名で調査要請もしておるが、同時に日本国民あるいは日本の諸団体からもきておるということでございますので、遺骨の問題は人道上の問題として別個の問題として考えてもらっておるというふうに判断をいたしたいのでございます。
  75. 河野正

    河野(正)分科員 実はこれは外務大臣一つお答えをいただきたいと思いますが、およそ陳書簡の中でも、いろいろ日本の方から問い合わせなり要望が出ておる、しかしその要望はいささか見当違いの要望だというような前段があって、実は今の状況不明の日本人は全然おらぬのだ、こういう内容になっているわけでございます。そこであの書簡を伺いますと、日本国民に対しては非常に友好的であるけれども、今の政府は中共に対して敵視政策をとっておる、そういう立場から、どうもこの外交上の問題がスムーズに進展せぬのではなかろうかという印象を受ける面もあるわけです。そういたしますと、せっかく遺家族あるいは関係者の方々は遺骨に対して非常に大きな関心を持っておられるが、政府が敵視政策をとるためにそういう問題が思うように解決せぬということになりますと、政府といたしましても政治上きわめて責任が大きいと思うのです。でございますから、そういう反省に基づいて御努力を願わぬと、私どもはこの問題はなかなかうまく解決せぬのではなかろうかというふうな気もする。そこで、政府はそういう点についてはどういうふうにお考え願っておるのか、この際、外務大臣から御所見を承っておきたいと思います。
  76. 大平正芳

    大平国務大臣 御案内のように、外交関係を持っておりませんので、中国大陸において死亡された邦人の問題につきまして政府間で交渉するということは容易でございません。従って、外務省といたしましては、このような純粋に人道的な問題であるということは先方も御了解いただいておるわけでございますので、厚生省初め関係当局と十分協議いたしますと同時に、日赤、宗教団体、民間団体を通しまして、中共側の御協力を得て今後とも進めて参りたいと思います。
  77. 河野正

    河野(正)分科員 そこで、そういう問題を別な角度から解決すると申しますか、そういう意味で一つお尋ねをして御所見を承って参りたいと思います。  それは、もうすでに先ほども御説明がございましたように、ソ連に対しましては、これは現地の大使館も大へん御協力いただいたそうでございますけれども、第二回の墓参が無事行なわれた。それから三十七年十一月に、沖繩では、二十万近い戦没者の方々がおられるわけでありますが、そういう方々の慰霊祭も、各界代表が参列して行なわれた。しかし、先ほどのお話もございましたように、なおソ連には三百三十数カ所の日本人墓地が散在しておるというふうにいわれております。そこで、そういう墓地の遺骨を内地に持ち帰ることがなかなか困難だといたしますならば、墓参の規模を拡大していただいて、そうして遺家族あるいは関係者の感情がすっきりするようにお取り計らい願えぬものかどうか。さきの墓参については外務省も大へん御努力願ったということを聞いておりますので、さらにそういう点についてどういう御所信でおられますのか、この際お伺いをいたしておきたいと思います。
  78. 大平正芳

    大平国務大臣 ただいままでの墓参につきましては、あとう限り御便宜をおはかり申し上げたわけでございます。今後これをどう進めて参るかということでございますが、ソ連側から新しい墓地の許可があるということがあれば、あらためて考えてみたいと思うのでございますけれども、今までの墓地に対しまして再度お参りをお願いするということは今考えておりません。
  79. 河野正

    河野(正)分科員 さっきも御説明いただきましたように、また政府から発表されました資料によりましても、ソ連地域で三百三十数カ所の日本人墓地があるのですね。そのうち第一回、第二回で完了いたしましたのは、これは第一回が八カ所でございますか、第二回が四カ所でございますか、非常にわずかなものです。ですから、それだけでは、今申し上げますように、なかなか遺家族として十分納得のできる問題ではなかろうと思う。と同時に、実は巷間ではこういうことが伝えられておるわけです。墓参を許可したのは、いろいろ手続その他で、もう遺骨は日本には返さぬのだ、遺骨は返さぬのだから、せめてこの際墓参でもということで、今度の第一回墓参が許可されたのじゃなかろうか、墓参を許したことは、もう遺骨を返さぬという前提だというような風説も遺家族内ではあるわけです。これは真疑のほどはわかりませんが、そういう風説もございます。そうすると、どうせ遺骨が返ってこぬなら、この際、一つ新しい墓地——今申し上げますように、墓参が行なわれたのは一部ですから、あと新しいところが三百以上もあるわけですから、墓参について拡大してもらえぬだろうかというような強い熱望があるわけです。そういうことでございますから、同じところにだれもかれも行くということではないわけです。まだ残っておるところは三百数十あるわけですから、三百数十全部というわけにはいかぬでしょうけれども、遺家族としてはもう少し拡大してもらえぬかというような強い熱望があるということでございますが、その点について、いかがですか。
  80. 山本淺太郎

    ○山本(淺)政府委員 先ほど私言葉が足りなかったかもわかりませんが、日本側の調査によりますと三百三十数カ所の埋葬地点があると申したのでございます。先ほど申し上げましたように、ソビエトから日本人の俘虜の墓地として通報のありましたのは十八カ所しかない、こういうふうに言ってきておるのでございます。その十八カ所のうち旅行禁止区域等がございまして、先方から許されました墓地につきましては、一回、二回を通じまして墓参は全部終わったのでございます。従って、十八カ所のうちの残りは、ソビエト政府の説明によりますと、旅行禁止区域その他で日本人の墓参を許さないということでございますから、現在としては行きようがないわけでございますし、自余の墓地については、そういう墓地があるということを自体ソビエトが発表していないし、また、日本側に通報しておらないわけでございます。従いまして、私どもといたしましては、外務省とも打ち合わせまして、一回の墓参、二回の墓参ともこれはごく少数の遺族が自分の肉身に対面するという気持ちではなくして、ソビエトで亡くなられた七万の全死歿者の霊を現地に弔うという気持ちで行っていただきたいとお願いしたわけでございますし、また、行きました際にも、肉身の墓地に対面する前に、行かれない遺族の方のお墓をまず掃除する、お花を供えるという態度でやっていただいたわけでございまして、ソビエト方面での死歿者の現地追悼をそういう形で行なったというふうに御了解いただきたいのでございます。  また、遺骨の問題につきましては、この墓参とは全然関係なく、将来これをどのようにすべきかということは、先ほど言いました七万の人々の運命をもあわせ考えまして、国民感情のおもむくところに従いまして、将来適当な時期にこの処理方針は考えるべきものだ、こういうふうに考えているところでございます。
  81. 河野正

    河野(正)分科員 日本国民としては、資料が示しますように三百三十数カ所、ソ連の方では十八カ所というようなことで大きな食い違いがある。と同時に、今回までに許された第一回、第二回の墓参では、いわゆる十八カ所の中で許される範囲の代表というような意味であったのでございますけれども、しかし私ども承知いたしておりますのは、三百数十カ所ということであって、これは相互に非常に大きな食い違いがございます。できればそういう新しい地域がお許し願えるならば、一つ今後御検討いただきたいということにとどめておきたいと思います。  同時に、それと関連をいたしますが、昭和二十九年中国の李徳全女史が第一回来日されました際に、やはり同じ会談の覚書の中に、中国で死亡した者の遺族の代表が中国を訪問することについて、中国紅十字会はその実現方を考慮するということを示されておるわけです。そこで中国における遺骨問題がどうしても進展せぬという事情でございますならば、こういう李徳全女史の好意的な発言があるわけでございますから、この際一つ中国におきまする墓参というものが願えぬものかどうか、これは李徳全女史の好意に甘えるわけでございますけれども、こういう点についてどういうふうにお考え願えまするか。これはいずれそういう段取りになるにいたしましても、日本赤十字社あるいは民間三団体等に外務省からもお願いをいただかなければならぬわけでございますので、この辺のお気持は一つ外務大臣から承らしていただきたいと思います。
  82. 大平正芳

    大平国務大臣 私どもの判断といたしましては、中国大陸の場合はソ連の場合と違いまして、終戦前後にソ連軍の満州侵入とか、あるいは国共内戦等がありまして、わが方におきまして、邦人の死亡状況、その墓地の現状等が正確に把握されておらないのでございます。また中共当局におきましても、その実情を把握することは非常に困難でないかと考えられるのであります。実際問題としてソ連の場合のごとく、個々の墓にお参りするということは、きわめて困難じゃないかという判断をいたしております。
  83. 河野正

    河野(正)分科員 話がちょっと食い違っているのですが、ソ連の場合はいろいろ私ども希望がありますけれども、非常に大きな食い違いが日本とソ連の間にある。ですからそれは私どもの希望として、今後御善処をお願いするということで、一応御善処方をお願い申し上げたのです。と同時に中国については、昭和二十六年に季徳全女史が第一回目の来日された当時、会談覚書の中で中国で死亡した者の遺族の代表が中国を訪問することについては、中国紅十字会はその実現方を大いに考慮いたします、こういうふうな好意的な発言が二十九年の覚書の中で示されておるわけです。  そこでソ連の場合はいろいろ希望はありますけれども、一部が達成されたことは事実です。そこで中国の場合にもそういう好意的な発言がある。従って、中国の遺骨がなかなか帰ってこれぬ、送還はなかなかむずかしいというふうな事情であるならば、一つ中国についてもそういう措置がとられるように、外務大臣からも日赤あるいは民間三団体等にお働きかけをいただきまする御用意があるかどうか、こういうことをお尋ねしているわけです。
  84. 大平正芳

    大平国務大臣 そのこと自体人道的な問題でございますし、河野先生も指摘されておる通り、そういうことが実現すればいいことだと思います。ただ私が申し上げたのは、中国大陸の状況はさような状況でございましたので、個々の墓の確認ということはなかなかむずかしいのじゃないかという判断をしておるということを申し上げたわけでございますが、仰せでもございますので、関係団体とお話をしてみたいと思います。
  85. 河野正

    河野(正)分科員 示された時間も参りましたので、まだ何点かありますけれども、一応これを最後に締めくくりたいと思います。いずれにいたしましても終戦後十八年の歳月を経ましたし、それからさらには講和が、一部でございますけれども発効いたしまして、十年以上の歳月をけみしたということで、終戦処理については、日本国民の責務として大いに積極的な努力をいたしていかなければならぬことは当然のことだと考えます。   〔主査退席倉成主査代理着席〕 それにつきましては先ほどから、いろいろ日韓会談その他の問題もございましたけれども一つあわせてこの人道的な問題につきましても、この際外務大臣の格段の御努力をお願い申し上げたい。特に私は先ほど一、二の例をあげて示しましたように、この人道的な問題の処理は、歳月が長引きますと、できるものもできなくなっていく、わかるものもわからなくなっていくというふうな実情にあるわけです。この点はほかの場合とちょっと違うと思うのです。たとえばさっき示しました中国におきまする戦犯の方の六十九体の遺骨は埋められたところがわかっておるのです。ところがこれも長いこと時間がかかるとわからないようになってしまうと思うのです。都市計画もございましょうし、あるいはまたいろいろな計画もあって、今はわかっておってもこれが時間がかりますとわからないようになってしまうというような事情もございまして、私は人道的な問題については迅速をとうとぶと思うのです。それでございますから一つ中国等に関しましては、国交が回復しておらぬという事情もございますけれども、それはそれとして、日赤あるいは民間団体等の御協力を得ていただいて、一日も早くそういう問題が処理されますように、格段の御努力をお願いいたしたい。同時に今までのような対策だけでは、さっき申しましたように、悪条件が片づかないばかりで解決はむずかしくなると思うのです。この際もう少し積極的な対策を立てていただきたいと思うのです。むしろ今までの状況を見ておりますると、援護の特別措置法でございませんけれども、安易に処理するという方向に行きつつある。私どもはそういう点を非常に残念に思うわけです。遺家族、関係者の方々はそういう点については非常に強い関心を持っていただいておるわけでございますので、どうかこの際、今までより以上の具体的、積極的な対策を立てていただくと同時に、一方におきましてはもう少し積極的に御尽力願って、この問題が一日も早く解決するように御努力願いますことを、最後に御希望を申し上げておきたいと思います。
  86. 大平正芳

    大平国務大臣 事人道上の問題でございまするし、関係者のお気持も十分体しまして、関係団体との間に積極的に話し合いを進めて参りたいと思います。
  87. 倉成正

    ○倉成主査代理 暫時休憩いたします。  午後は一時十分に再開することといたします。    午後零時五十一分休憩      ————◇—————    午後一時十五分開議
  88. 倉成正

    ○倉成主査代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  主査が所用のため出席がおくれますので、その指名により私が主査の職務を行ないます。  外務省所管に対する質疑を続行いたします小澤太郎君。
  89. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 韓国の現在の政情につきましては、いろいろの見方があると思いますが、要するに、民主国家への成長の過程、いわば生みの悩みであろうかと思います。政府としては現在の政情を通してよく将来を達観されまして、既定方針に基づいて日韓交渉を推進されましてできるだけ早く全面的な妥結ができ、両国の国交正常化ができまするように、私は期待いたしておるのでございます。この韓国との交渉の問題に関連いたしまして、多少趣を変えまして政府の御所見を伺いたいと思います。  それは、昭和三十二年の十二月三十一日の日韓会談再開に関する共同発表によりますと、日本はさきに行なった在韓財産に対する請求権の主張を撤回するということを約束いたしておるのであります。また昭和三十六年十一月の池田総理朴議長との会談におきましても、韓国の対日請求権は十分に法的根拠のあるものに限るという意見の交換があったようでありますが、その際に日本側の対韓請求権については全然問題にされなかったように聞いておりますが、その点はいかがでございましょうか。
  90. 大平正芳

    大平国務大臣 御案内のように、平和条約に基づきまして日本政府はあらゆる対韓請求権を放棄せざるを得ない立場にあったわけでございます。平和条約全体としては、当時の状況から見まして、日本が国際社会に復帰する条件としてこの条約に盛られました内容は、全体の評価としては、当時の世論が示しましたように、一応この条件で国際社会に復帰するということに大多数の国民は賛意を表したわけであります。しかしながらこの全一体としての平和条約に含まれておる個々の内容につきましては、一々検討いたしますれば非常に遺憾な点が多いわけでありまして、今御指摘の在韓財産の問題につきましても、小澤さんのおっしゃる通り、この請求権を放棄せざるを得なかったということは非常に遺憾なことでございます。しかし御案内のような状況で平和条約を全一体として受諾するという決意をいたしたわけでございまして、その結果として対韓請求権を主張のできない立場政府が立ったということは遺憾ながら事実でございます。  昭和三十二年の御指摘の文書は、この事実の新しいことを言うたのではなくて、それまでの日韓交渉の途上におきまして、わが国が交渉技術上対韓請求権なるものを援用いたしまして交渉途上いろいろ応酬があったのでございますが、あの文書でもってそういう交渉技術上の主張はやめますということを申したわけでございます。もともとこの対韓請求権がないということは平和条約それ自体において明らかになっておることでございまして、そのことの事実を認めない立場にあったものが、あらためて認めることになったということでなくて、交渉技術上の応酬態度としてそういうことに言及いたしておりました主張はやめます、こういう趣旨のように私どもは了解いたしておるわけでございます。従って池田、朴会談におきましても、この問題は既定の事実として取り上げられなかったと了解をいたしております。
  91. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 そういたしますと、ただいままでの韓国との交渉におきまして、わが方といたしましては日本国民が韓国に持っております私有財産の請求権は放棄したということ、それを前提として進めておられるということでございますか。
  92. 大平正芳

    大平国務大臣 さようでございます。
  93. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 その放棄ということを、つまり国家国民の権利を放棄するということは国際法上どういう意味を持つのか、その点について御説明をいただきたいと思います。
  94. 中川融

    ○中川政府委員 在韓日本財産に対する請求権は、平和条約四条(b)で軍令三十三号を認めた結果として、日本は放棄を認めたということになっておるわけでございます。この放棄の国際法上の効果と申しますか、これは日本国日本の当該相手国に対しまして、日本政府及び日本国民のいわゆる請求権を主張しないということがその効果であります。
  95. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 そういたしますと、国民相手国に対して自分の私有財産についての請求権を主張するというようなこともあり得ると思いますが、そういう場合に、国としてはこれが国民に対する保護の権利を行使しないということを義務とするというような約束相手方にするということに相なるわけでございましょうか。国としては請求しない、国民として私有財産を請求する場合において、韓国日本政府との問の取りきめがどのような効果があるのかという点について伺いたいと思います。
  96. 中川融

    ○中川政府委員 御指摘通り国民の請求権につきましても、国家がその権利を外交保護権と申しますが、国際法上認められておるいわゆる外交保護権によりまして相手国に対してかわって主張する、こういうことは国家としてはもうできないわけでございます。その場合に、それでは国民自体の権利が残っておるのではないか。国民国家を通じて請求するのがもちろん原則でございますが、国民が直接に相手国の裁判所なり政府なりに訴えるということはできるのじゃないかという問題があるわけでございますが、これは法律学説的にはやはりそういう権利があるという考え方もあるのでございまして、結局これは当裁判所で判断する問題になるのじゃないかと考えております。
  97. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 かりにそういう権利があるとして、当該裁判所で判断するといたしましても、この裁判所はどちらの裁判所なんですか。
  98. 中川融

    ○中川政府委員 日本国民相手国のとった措置に対していわば抗議するわけでございますから、結局当該相手国の裁判所ということになるわけでございます。
  99. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 法律論としてそのようなことがかりに成り立つといたしましても、実際上国家国民の権利を放棄し、相手方に主張することを放棄し、また条約によってそれが国民を拘束する法律的な効力を持つわけでございますから、実際上の問題としては、日本国民の韓国にある私有財産に対する請求ということは事実上できなくなる、こういうことになるのではないかと思いますが、いかがでございましょうか。
  100. 中川融

    ○中川政府委員 実際問題としてはお説の通りであると考えます。
  101. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 先ほど外務大臣の御答弁で、全面的に日韓交渉妥結しました場合に、条約の成文の中に請求権の問題はもう済んだんだということを書き入れたい、こういうお話でございます。その場合に韓国から日本に対する請求権だけのことでございましょうか。日本から韓国に対する請求権、これも同様にもうやらないんだということを明確に書かれるのでしょうか。と申しますのは、サンフランシスコ条約の第四条また朝鮮内にある日本財産帰属令、軍政令の第三十三号とアメリカ合衆国政府と大韓民国政府との間の財政及び財産に関する取りきめ、この三つについて三十二年十二月三十一日の両国の共同発表以前におきましては、日本側におきましても日本側の請求権については必ずしも全然ないという意見ではなくて、理論としてはあり得るというような考え方があったように聞いております。こういう問題をこういう条約の上で解決するつもりであるのか、あるいはただこちらが共同発表によるところの請求権の主張を撤回するということで、そのことがはっきりされるのか、その点はいかがでございましょうか。
  102. 中川融

    ○中川政府委員 日韓間の話し合いが最終的に全部片づきまして、これを条約の形に直します際に、請求権の問題が解決した、四条(a)項の問題が解決したという書き方をどういう書き方にするかという形式の問題は、実はまだそこまで論議が進んでおりませんので、その際に韓国側だけのことを書くかあるいは日韓双方のことを書くかということは、まだ実はきめておりません。  それから日本がこの四条(b)項によって日本の請求権がすでにないのだという解釈をどう表現するか、その際あらためて表現する必要があるかというお尋ねでございますが、これは必ずしもその必要はないように内々は思っております。と申しますのは、平和条約四条の(b)の解釈からくることでございます。交渉技術上それを日本は一応日本に請求権がまだ残っておるというような主張をいたしたことも事実でありますが、その主張はすでに三十二年十二月の覚書でその主張自体を撤回しております。従ってそういう主張はしなかったことに実はなっておるわけでございます。あらためてそういう問題についてまた解釈を条約ではっきりさせるということは、われわれの立場からいえば必ずしも必要じゃない、かように考えております。いずれにせよ、これは今後実際に起草する場合の問題として考えてみたいと思います。
  103. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 日韓国交が一日も早く正常化するということは、おそらく国民の大部分の期待であろうかと思います。しかし一面におきまして、韓国または日本の領土でありましたところで合法かつ正当に取得し、これを所有しておりました日本人の財産が、両国の取りきめによりましてその請求ができなくなる、実質上はそれが消滅したと同じような状態に置かれるということになりますと、その当事者にとっは、まことにこれは割り切れない問題だと思います。こういう面からいたしましても、この問題をはっきりいたしておかなければならない。また、そのことをはっきりすることによって、日韓国正常化の推進についての国民の大多数の協力も得られると私は思うのでございます。先ほど申しましたように、韓国においてありました日本人の財産は正当に合法的に取得所有されておったものでございます。これはこの財産権を保障しておりますところの憲法二十九条の問題とどういうふうな関連があるか、この点について国内法上の問題として政府の御見解を承っておきたいと思うのであります。
  104. 大平正芳

    大平国務大臣 この第二次世界大戦は、小澤委員も御案内の通り、広範な領域にわたった戦争でございまして、この戦争がもたらしたつめ跡というものはほとんどわが国民一人残らず例外なく自分の周辺につめ跡を残しておると思うのでございます。これを財産権の立場から取り上げてみましても、同じようなことが言得いると思うのでございまして、私はこの問題は日本の戦後処理の問題といたしまして、非常に深刻な課題であると思うのでございます。かりに法律的な解明が可能であるとしても、実際の問題といたしまして、政治の問題としてこれをどこまでどうすることが妥当であり、可能であるかということをきめてかかるということは非常に困難な問題じゃないかと思います。従いまして、こういう問題はわが国の戦後処理の問題として言う性格において、高度の政治立場から接近して可能な解決をはかって参るべき性質のものではないかと考えるのでございます。私ども外交立場から申しますと、相手国に対して請求権がないという状況、そういう立場でございますので、問題は内政上の問題としてそういう問題があるということ、それが非常に困難な問題であるということ、しかしこういう状況において政府としては可能な限りの処置をとって参るということは政治の問題としてあるということはいわざるを得ないと思うのでございます。戦後いろいろな角度からこの問題への接近が試みられて、人命、財産等につきましていろいろな措置が講じられたことは御案内の通りでございます。しかしそれは不十分なものであるということもまた認めざるを得ませんけれども冒頭に申しましたように、第二次世界大戦というものはわれわれの把握を越えた大きな問題でありまして、その影響というものは非常に広範なものであるということを頭に置いて、そして現在のわが国の能力をはかりながら考えていくべき性質の問題であると思います。
  105. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 そういう性質の問題であるということは私も理解できるのでございます。私が申し上げておりますのは、そういう今度の第二次世界大戦の大きなつめ跡、その中で朝鮮の問題、台湾の問題は、その他の連合国にありますいわゆる在外資産の問題とはやや性格を異にしている問題ではないかということであります。この連合国にありまする財産につきましても、これの国家が保障する問題につきましては、これまた憲法その他でいろいろ問題があろうと思います。   〔倉成主査代理退席、主査着席〕 イタリアの連合国との講和条約におきましては、そういうものについて国が補償するという条項さえあるように聞いております。そういう連合国との問題、これは講和条約の十四条、十九条の問題としていろいろあろうかと思います。時間がありませんからその論議は別の機会にするといたしまして、少なくとも朝鮮の問題につきましては、憲法二十九条の国が財産権を保障する。しかも今回の場合におきましては、相手国に対して請求することを、主張することを放棄する、その結果実質的には財産がなくなってしまうという形になるわけでございます。その場合に、国民の財産を憲法が保障しておる、しかもこの経過から見ますと、財産権を放棄するということが、そのことを主張しない、主張を撤回するということが、基礎となって話が進んでおるということでございます。先ほどちょっとお話が出ましたアメリカの第四条に対する見解として、この日本の財産権を放棄したことを考慮に入れて請求権の問題は折衝すべきである、こういう見解が述べられたようでございます。もちろん今回の韓国との折衝におきましては財産権の問題はたな上げして経済協力によってこれを行なう、しかし財産権の問題はその結果消滅するということを明確にするということになっております。いずれにいたしましても、韓国にありますところの日本人の私有財産を放棄するということそのことが、日韓両国国交正常化に役立ち、日本国家に大きな寄与をするということになるわけでございまして、まわりくどい議論かも存じませんが、憲法第二十九条第三項によるところの「正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」こういう条項に当たると思うのであります。もとより大臣の言われた通り正当なる補償をきめる段階におきましては、日本の国の財政の能力とかあるいは財政維持の必要とかいうようなことも大きな要素にはなると思います。ただそれだけのことで、ただ日本の財政上の問題ということだけでこの問題をはっきりさせないというわけにはいかないのじゃないか、こういう点についてどのようにお考えになりますか、この点を伺っておきたいと思うのであります。
  106. 中川融

    ○中川政府委員 法律的な見解につきまして私から御説明させていただきたいと思います。  憲法といわゆる平和条約によります請求権の放棄との関係でございますが、政府といたしましては、従来から一貫いたしまして、平和条約によりまして私的請求権の放棄をいたしましたことは、連合国側のとりました措置を平和条約によりまして日本が受け身の立場で認めざるを得なかった、認めたのだということであって、憲法にいっておりますような私有財産を公共の用に供するために使用した、収用した、こういうことには当たらないという考え方でございます。もちろん、事実問題、政治問題としましては、非常にお気の毒なことでございますから、いろいろな措置を考えなければならないことでございますが、憲法解釈としては今の私有財産を公共の用に供したという事態には当てはまらないという解釈できておるわけでございます。
  107. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 時間が大へん少ないのでまことに残念でございますが、ただいまの御見解は私としては必ずしも納得できない。憲法上の問題はいろいろまだ残っておると思います。ただいまのように断定的なことをおっしゃるのはいかがかと思います。これは高度の政治的な判断によらなければなりませんけれども、その根拠としては、やはり国民の財産権を保障しておる憲法上の問題としてこれを国民に対してよく考えていかなければならぬ、こういうふうにあるべきだ、政府態度としてもそうあるべきだと私は思います。従ってただいまのような断定した、憲法の解釈上そうじゃないんだということをおっしゃることはいかがかと思います。時間がございませんから、この点につきましてはさらに別の機会に譲りたいと思います。  次にお伺いしたいのは、台湾との関係でございます。日華平和条約第三条におきまして、日本国日本国民及び中華民国、台湾、澎湖島の住民との間の財産の請求権の処理については、両国政府間の特別の取り扱いの主題とする、特別の取り扱いによってこれをきめるということがはっきりきめられておるのでございます。昭和二十七年からすでに十年余りを経過いたしておりますが、その間にこの特別の取り扱いというものは少しも行なわれていない。昭和三十六年に衆議院議員の楢橋渡氏から出しました質問に対して、内閣総理大臣から衆議院議長あてに答弁書が参っておりますが、それによりましても、政府としては昭和二十八年六月以来非常な努力をしておられるようでございますが、相手方の中華民国政府におきましては、これに応じてこない。そこで日本政府としては、合同委員会のようなものを設けてこれを進めたいという答弁でございますが、その後どのような状況になっておりますか、その点をお聞かせいただきたいと思います。
  108. 大平正芳

    大平国務大臣 今御指摘のように、中華民国との財産請求権問題につきましては、日華条約第三条によりまして、「特別取極の主題とする。」ということになっております。それでわが国としても、平和条約発効後いち早く在華大使をして中国側の本件交渉開始方に関する意向を強く打診させたのでありますが、先方は準備不足を理由に正式に交渉に応じません。自来公式文書あるいは口頭をもちまして中国側を累次督促いたしておりますが、いまだ何らの正式の回答に接していませんので、実質的な交渉の開始には至っておりません。引揚者団体台湾同盟の幹部は、今御指摘のように楢橋渡議員に対しまして陳情をされ、三十六年五月に楢橋議員から質問趣意書が提出されまして、答弁書は今御指摘通りでございます。昭和三十七年の十二月に同じく台湾同盟幹部は、今度信任されました木村在華大使に対しまして本件処理の促進方を御陳情をされております。それで木村大使は本件解決のために努力を惜しまない旨答えられておるというのが今日までの経過でございまして、私どもは従来も台湾政府に対しまして再三御督促申し上げておるわけでございます。しかし今後も引き続き本件の交渉に応じていただくように努力して参るつもりでございます。
  109. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 外務大臣としては、そういうふうな訓令を出しておられるわけでありますか。——実は昨年私台北に参りましたときに、時の井口大使に会いまして、これは私的な話でございますが、井口大使の個人的な意見として、なかなか先方の状況ではこれに応じ得ない状態である、むしろそれよりも、とりあえず日本政府として、この財産に対しまして、何らかの処置をしたらよいのじゃないか、これは個人的な意見でございます。そういうふうなことを漏らすほど、事ほどさように先方としてはきわめて消極的である。これはただいまお話のような形で、これからも繰り返していくということで一体見通しがあるのかどうか、台湾から引き揚げた者は、財産につきましては清冊というものを持って帰っております。はっきりした中華民国政府の証明書を持って帰っております。長く移民として出かけておった者を初めといたしまして、粒々辛苦した財産がそのままになっておって、引き揚げてきて困苦欠乏の中にだんだん死んでいく人も多い。一日も早く条約上きめられたこの事柄の徹底されることを望んでおる次第でございますが、じんぜんと政府としてただ交渉を重ねているというようなことだけで済まされるものかどうか、この点について今後どのような御構想がありますか、一つお聞かせをいただきたいと存じます。
  110. 大平正芳

    大平国務大臣 日華条約でそのようにきめられておりますので、私どもとしてはこの本筋を歩んで正式な交渉をもって解決するのが当然の仕事だと思うのでございます。しかしただいままでの経過は、小澤委員指摘通り一向に先方が動いて参りませんので、正式交渉に至っていないということは非常に遺憾でございます。しかしきめられました以上は私どもといたしましてはその線に沿って引き続き努力するよりほかに分別がないわけでございます。  それで見通しいかんという御質問でございますが、正直なところ先方がその気になっていただかないとなかなか問題の処理の糸口につくことさえむずかしいと思うわけでございます。引き続き先方に御督促するということは精力的にやって参らなければならぬものと思います。
  111. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 もっといろいろ伺いたいのですが、時間の関係もございますので、どうぞこの上とも積極的な意欲的な御努力をお願いいたしたいと思います。  さらにもう一つ、これに関連いたしますが、実は日本政府の発行いたしました国籍です。これをやはり引き揚げに際しまして先方に預けて帰っております。その預かり証を持って帰っておりますが、これは日本政府の債務でございますから、その預かり証によって日本において支払いをすることができるかどうか。先方に現物を預けておりますが、その現物を向こうから取り寄せるということもできるのでございますが、そういう点についてどういうふうな御所見であるか伺いたい。
  112. 大平正芳

    大平国務大臣 その点につきまして実は私は大蔵省との従来の打ち合わせの経緯等をつまびらかにいたしておりませんので、あらためて大蔵省と打ち合わせして、先方の意見も確認いたしました上御返事申し上げたいと思います。
  113. 小澤太郎

    小澤(太)分科員 時間もございませんので、もう一つ伺いたいのでございますが、実は台湾銀行の問題でございます。これは先般いわゆる整理機関としてとられました措置は、預金者の保護が非常に薄い。日本銀行と台湾銀行、朝鮮銀行との換算比率を三分の二に切り下げてやっております。実際はその預金者に対する支払いが少なくて、株主だとかあるいは政府の納付金として吸い上げた金が多い、こういうような状態でございます。預金者保護に非常に欠けるところがある。これは法律で当時つくったのでございまして、今さらいろいろ論議をしてもいたし方ありませんけれども、今後においてやはり台湾銀行、朝鮮銀行に、それぞれまだ債権が回収されて財産が入って参ります。こういう場合にどのような考えで預金者を保護されるか。これは大蔵省当局でないとちょっと無理かもしれませんが、こういう問題もございますので、大蔵省当局ともよく御相談になっていただいて善処をしていただきたいと思います。時間もありませんので、予鈴も鳴りましたので、これで私の質問を終わりますが、私の質問いたしました気持をよくおくみとりいただきまして、積極的に前向きの姿勢でこの問題の御処理をお願いいたします。
  114. 今松治郎

    ○今松主査 これにて外務省所管に対する質疑は終了いたしました。  明二十日は午前十時より開会することとし、文部省所管に対する質疑を行ないます。  本日はこれにて散会いたします。    午後一時五十一分散会