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1963-02-02 第43回国会 衆議院 予算委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年二月二日(土曜日)     午前十時十一分開議  出席委員    委員長 塚原 俊郎君    理事 愛知 揆一君 理事 赤澤 正道君    理事 野田 卯一君 理事 川俣 清音君    理事 楯 兼次郎君 理事 辻原 弘市君       相川 勝六君    安藤  覺君       井出一太郎君    伊藤  幟君       井村 重雄君    池田 清志君       今松 治郎君    植木庚子郎君       北澤 直吉君    小坂善太郎君       櫻内 義雄君    正示啓次郎君       周東 英雄君    田澤 吉郎君       中村三之丞君    灘尾 弘吉君       古川 丈吉君    船田  中君       松浦周太郎君    松本 俊一君       山口 好一君    石田 宥全君       加藤 清二君    川村 継義君       木原津與志君    高田 富之君       野原  覺君    山口丈太郎君       横路 節雄君    春日 一幸君       佐々木良作君    田中幾三郎君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 中垣 國男君         外 務 大 臣 大平 正芳君         大 蔵 大 臣 田中 角榮君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 西村 英一君         農 林 大 臣 重政 誠之君         通商産業大臣  福田  一君         運 輸 大 臣 綾部健太郎君         郵 政 大 臣 小沢久太郎君         労 働 大 臣 大橋 武夫君         自 治 大 臣 篠田 弘作君         国 務 大 臣 川島正次郎君         国 務 大 臣 近藤 鶴代君         国 務 大 臣 宮澤 喜一君  出席政府委員         内閣官房長官  黒金 泰美君         内閣法制局長官 林  修三君         人事院総裁   佐藤 達夫君         総理府総務長官 徳安 實藏君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    山本 重信君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         大蔵事務官         (主計局長)  石野 信一君         大蔵事務官         (主税局長)  村山 達雄君         大蔵事務官         (理財局長)  稲益  繁君         中小企業庁長官 樋詰 誠明君         建設政務次官  松澤 雄藏君  委員外出席者         専  門  員 大沢  実君     ————————————— 二月一日  委員安藤覺君、池田清志君、古川丈吉君、勝間  田清一君、武藤山治君及び春日一幸辞任につ  き、その補欠として稻葉修君、江崎真澄君、羽  田武嗣郎君、横路節雄君、堂森芳夫君及び西村  榮一君が議長指名委員に選任された。 同月二日  委員稻葉修君、江崎真澄君、仮谷忠男君、西村  直己君、羽田武嗣郎君、松野頼三君及び西村榮  一君辞任につき、その補欠として安藤覺君、池  田清志君、田澤吉郎君、伊藤幟君、古川丈吉君、  井村重雄君及び春日一幸君が議長指名委員  に選任された。 同日  委員伊藤幟君、井村重雄君及び春日一幸辞任  につき、その補欠として、西村直己君、松野頼  三君及び田中幾三郎君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員田中幾三郎辞任につき、その補欠として  西村榮一君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十八年度一般会計予算  昭和三十八年度特別会計予算  昭和三十八年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 塚原俊郎

    塚原委員長 これより会議を開きます。  昭和三十八年度一般会計予算昭和三十八年度特別会計予算昭和三十八年度政府関係機関予算、以上三案を一括議題とし、質疑を行ないます。  春日一幸君。
  3. 春日一幸

    春日委員 私は、民社党を代表いたしまして、内政、外交全般にわたりまして、特にわが国が当面いたしまする重要とおぼしき諸問題について、その疑義をただしたいと存じます。  まず第一番は日韓交渉に関する問題でありまするが、本日の新聞の報道しておりまするところによりましても、また、先般来総理外務大臣答弁によって示されたところによりましても、日韓交渉現状は、請求権の一部に合意点ができたとはいいながら、しかしながら、領土の問題でありますとか、あるいは李ラインの問題、また韓国人法的地位の問題、こういうようないろいろな問題については、ほとんど未解決である。なおその交渉の前途は非常に困難が予想されておるという、このような状況にかんがみまして、これを全体として案ずるならば、これはなお星雲状態の域を脱してはいない、こういうふうに見受けられるのでありますが、総理認識はいかがでありますか。まずこの点からお伺いいたします。
  4. 池田勇人

    池田国務大臣 交渉経過等につきましては所管大臣からお答えする方が正確であろうと思います。外務大臣より答えさせます。
  5. 春日一幸

    春日委員 交渉経過そのものについては、これからぼつぼつ伺おうと思うのでありまするが、ただ、現時点におきまする交渉実態というものは、今形成されておりまするこの現段階においてこれを案ずるならば、たとえば、これは固まったものがない、全体として固まってはいない、だから星雲状態である。あるいはこれが後日凝結して一個の形に固まるかもしれないし、あるいは、ととのわずして雲散霧消する場合もあり得る。だから、言うならば、なお日本としてはフリー・ハンドといいましょうか、そういうような立場にあるのではないかと見受けられるのでありますが、総理大臣としての御認識はいかがであるか、まずこの点からお伺いをいたしたいのでございます。
  6. 池田勇人

    池田国務大臣 外交交渉でございますから、いつどうこうということはございませんが、われわれは、ぜひとも正常化のための妥結を見るべく努力を重ねております。私は、妥結するものという強い希望を持っております。
  7. 春日一幸

    春日委員 もとより、政府交渉を開始されましたからには、妥結を期して交渉をなされておることは当然のことでございます。ただ、私は、いろいろと、これに随伴するといっては語弊がありますが、交渉の核心ともなるべき諸問題がきわめて困難な状態にある、特に請求権をめぐる一部分的な妥結がなされたにとどまっておる現状から判断をいたしまして、ここに交渉というものは、なお全体として一個の流動性と申しましょうか、非常に星雲的な、固まりを見せていない姿であると思うのであります。  しかし、それはそれといたしまして、ここでお伺いをいたしておきたいことは、物事にはすべて経過があって結果がある。従いまして、日韓交渉がこのような形で取り運ばれておるという、このことの淵源、これをこの際ただしておく必要があると思うのでございます。それは、すなわち、まず第一番に韓国独立総理の言葉で言いますと分裂国家というのでありますが、この韓国独立は、ポツダム宣言第八項、そうして、韓国の主権と国土、これはサンフランシスコ講和条約四条、これを基礎としてすべてが展開されておると思うのでございます。従いまして、現在の日韓交渉というものは、直接的には、平和条約四条、これに基礎を置いておるものと考えますが、外務大臣、いかがでございますか。
  8. 大平正芳

    大平国務大臣 平和条約基礎としてやっておりますことは、お話の通りです。
  9. 春日一幸

    春日委員 平和条約四条基礎として交渉を進められておることに間違いございませんか。この間、勝間田君の御質問に対して、条約四条足場にはしていないという御答弁でございましたので、特に私がこの質問を行なうのでありますが、この点、あらためて御答弁を願います。
  10. 大平正芳

    大平国務大臣 平和条約四条請求権処理をすることにいたしておりますので、請求権処理は、この四条にうたわれた処理始末をつけるということを目標にいたしまして続けておるわけです。
  11. 春日一幸

    春日委員 そういたしますると、外務大臣が今予備交渉を行なわれておりまするそれらの交渉は、その基礎が第四条にある、四条に基づいての交渉、こういう工合いに理解してよろしいか。
  12. 大平正芳

    大平国務大臣 さようです。
  13. 春日一幸

    春日委員 そういたしますと、先般、勝間田質問に対する御答弁で、四条足場にしていない、こういう見解意思表明がございましたが、それとこれとは全然違った御答弁でありますが、何か補足の御説明をいただくことはありませんか。
  14. 大平正芳

    大平国務大臣 四条にいう請求権処理は、いかにしてなし遂げなければならぬ仕事でございます。私が申し上げましたのは、請求権の問題を請求権を通して解決するということは、法律的にも事実の立証の上からも困難であるということでございますので、経済協力方法によって、経済協力をすることによりまして、その結果、四条処理請求権処理始末がつくという方法を選んだのである、こういうことを申し上げたのです。
  15. 春日一幸

    春日委員 私が特にこの問題をただしておりますのは、将来、韓国との交渉妥結を見ました後において、あるいは北鮮との間においてこの種の交渉を行ない、妥結をはからなければならない場合があり得ると思うのでございます。従いまして、この交渉が何を根拠に置くものであるかということ、これを明確にしておくことは、今後のわが国外交折衝の展開の上においてきわめて重要なポイントであると考えますので、あえてこの問題をただしておるのでございます。従いまして、大臣答弁によって明確にされましたことは、平和条約四条(a)項、(b)項に基づいてこの日韓交渉が行なわれておるものである、いわゆる大所高所論なるものは、その交渉を展開する、すなわちその目的を達成するための一個の手段にしか過ぎないものである、こういう工合理解をいたしておきたいと思うのでございます。当然このことは将来北鮮オーソリティとの間に持たれるであろう交渉に重大なる影響を与えますので、この一点だけは一つ明確にしておく必要があると思うのでございます。  そこで、私は、だといたしまするならば、この際明らかにいたしておきたいことは、今までなされて参りましたところの交渉、本日まで二十五回にわたって予備交渉がなされておるとのことでございまするから、従いまして、各個の交渉段階において、すべての事柄法律に基づき、法律に従って適法になされておるかどうか、これがきわめて重大な問題になると思うのでございます。従いまして、私は、この際、今まで二十五回にわたりましてさまざまな予備折衝がなされて参ったのでございまするが、その一つ一つ交渉の成果というものが次の交渉のやはり足場になって参っておると思いますので、その一つ一つというものが間違ってなされたようなことはないかどうか、その個々の疑義をこの際ただしておきたいと存じますので、責任ある見解の開陳を願いたいのでございます。  まず第一番に、請求権問題でありまするが、その発端となりまするものは、韓国にありました日本国並び日本国民財産アメリカ当局が接収したことに問題の端を発すると思うのでございます。従って、ここでお伺いをいたしたいのは、アメリカ軍令第三十三号をもって国有・私有の一切の在韓日本財産アメリカ没収いたしました。この行為は、「陸戦法規慣例二関スル条約」第四十六条、ヘーグ戦争条約第四十六条の「私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ス。」、戦勝国といえども私有財産についてはこれを没収することを得ず、このヘーグ戦争条約違反するの行為であると思うが、総理の御見解はいかがでありますか。
  16. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、アメリカ軍令三十三号によりまして私有財産没収した措置は適当ではないと考えておったのでございまするが、しかし、あの戦後の状況から申しまして、われわれはやむを得ずサンフランシスコ講和条約でこれを放棄したのであります。この例は陸戦法規に抵触するといういろいろな議論もございますが、第二次世界大戦の結末といたしまして、韓国ばかりでなしに、オーストリアにおけるドイツの財産権も同じようなことに相なったと聞いておるのであります。
  17. 春日一幸

    春日委員 私は、他国にいかなる例がありましょうとも、違法の例をもってこれを是認するという態度は許されるべきではないと思うのであります。私有財産の尊重並びにこれを没収し得ないといたしまするところのこの戦争条約における明確かつ断定的な国際法規、これは本日も効力を持っておる。こういうものが否定されたり、あるいはまた改正されたという前例は、そういうことはないと思うが、この点、事務当局から御答弁を願います。
  18. 中川融

    中川政府委員 お答え申し上げます。  ヘーグ陸戦法規は、現在においてもなお有効な国際条約でございます。しかしながら、ヘーグ陸戦法規はずいぶん前にできた条約でございまして、あの当時の戦争と最近の戦争とはずいぶん態様を異にしておりますので、必ずしもヘーグ陸戦法規規定そのものが、戦後十年以上にわたって占領が続くというような現状占領というものにはたしてそのまま適用できるかどうかという点については、いろいろ疑問を出す者もあるわけでございます。国際法としてあの条約が依然有効であるということは、これは疑いのないところでございます。
  19. 春日一幸

    春日委員 およそ、秩序根源となるものは法律・規則でございます。世界秩序根源をなすものは国際法規でございます。従いまして、その国際法規が廃止されるとか修正されるとかいうことがありません限りは、その法律は現存するものであり、その秩序のもとにおいてすべての行為が律せられるものである、こういう工合解釈するのが当然でございまして、古くなったから、あるいはその後における戦争の形態が変わったから、これがその変わったことを容認されてもやむを得ぬという説をなすがごときは、許すべからざることである。今日、太政官官制であろうと何であろうと、それが廃止されたり、あるいは改正されるにあらざれば、それが有権的な拘束力を持っておることは、論ずるまでもないことである。従いまして、このヘーグ国際条約戦争条約というものは今日でも国際的に有権的な効力を持っておる、こういう工合理解してもよろしいか。これは事務的に御答弁願えばよろしい。改正されたら改正された事実を明らかに、廃止されたら廃止された事実を明らかにされたい。ただそれだけでございます。
  20. 中川融

    中川政府委員 ヘーグ陸戦法規は今日においても有効な国際条約でございます。
  21. 春日一幸

    春日委員 そういたしますると、アメリカ軍令第三十三号は国際法違反であることは明らかであると思うが、総理見解はいかがでありますか。
  22. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど申し上げましたように、適当な措置ではなかったと思います。しかし、それがサンフランシスコ条約によって有効となったと私は心得ております。
  23. 春日一幸

    春日委員 適切でないということは、一体どういうことでございましょうか。宥恕されるべきであるというのでございましょうか。それは法律違反であるから断じて許すべからざるものであるとするのでございましょうか。いかがでありますか。この点一つ御明確に願いたい。  なお、私はあわせて総理見解伺いたいのでありますが、敗戦国として違法行為を承認せざるを得ないのだと解釈をされておるのでありましょうか。ただいまの御答弁のニュアンスはそこにございます。敗戦国としては違法行為を承認せざるを得ないのだ、もしそれ、かくのごとく解釈をするというのであるならば、こういうことが考え得ると思います。敗戦国戦勝国違法行為を容認することが不可避事項でありとするならば、この陸戦に関する国際条約は何ら効力を有しないものになってしまう。すなわち、戦勝国といえども、なし得ることと、なし得べからざる限界がこの国際条約によって律せられておる。従いまして、戦勝国権利義務はおのずからこの条約の中に厳然として定められておるところでございます。従いまして、敗戦国戦勝国の横暴、法律じゅうりん、こういうようなことを容認せざるを得ないとするような態度をとるならば、この国際条約は全面的にその効力を失うに至るものでございます。これは重要な問題でございます。戦勝国敗戦国に対して法律を無視したり、そういう禁止事項を犯したり、そういうような場合は、当然、後日民事上の請求権を発生いたしますとか、あるいは国際的な制裁を受けるとか、これでなければ秩序を保つことはできないと私は思うのでありまするが、いかがでありますか。
  24. 池田勇人

    池田国務大臣 この平和条約性質というものが、それ以前に行なわれたいかなる行為も、正当、不当の行為も、これをクリアーする、もうなくしてしまうという性質のものでございますので、平和条約以前において行なわれた行為に対しましてとやこう言うことは、私はできないと考えております。
  25. 春日一幸

    春日委員 条約四条(b)項によってこれを了承いたしました。承認をいたしました。だから、その法律関係、すなわち債権債務に関する問題はそういう処理がなされてはおります。けれども、あの当時米軍韓国において没収したものは、すなわち日本国民私有財産没収したことは、明らかにヘーグ戦争条約違反をして、これをじゅうりんしてアメリカがやったのだというこの事実関係は、厳然としてここに残ると思うのでございます。しかも、それを承認したりとはいえ、私は後ほど論じたいのでありますが、一九五二年十二月三十一日、アメリカ大使日本国政府にもたらしたこの平和条約四条(a)項、(b)項の解釈に対する口上書、この中において、没収されたとはいいながら、その問題の事後処理というものについて含蓄深き言及が行なわれておるのでございます。いわば一個の救済アメリカ自発的意思においてなされておるのでございます。そういうような実態からかんがみまして、私は、アメリカが行なったところのその没収行為国際法違反行為であった、こういう認識はあってしかるべきであると思うのでありますが、いかがでございますか。
  26. 池田勇人

    池田国務大臣 それは、先ほど来お答えしている通りに、不法な行為であったということはわれわれも考えております。しかし、平和条約によってこれを正当化したものとせざるを得なかったのでございます。
  27. 春日一幸

    春日委員 それでは、日本国総理大臣見解表明は、あの米軍令第三十三号なるものはすなわちヘーグ戦争条約違反をした行為であったけれども、あのような国際情勢の背景の中においてこれを受諾せざるを得なかったものと、かくのごとくに表明されたものと理解をいたしまして、質問を進めます。  この条約四条(b)項についてお伺いをいたしたいと思います。私どもがこの問題をいろいろと探究するにあたりまして、特にこの四条の(a)項、(b)項を対照して判断をいたしますると、少なくともその趣旨は両立しがたいものでございます。というのは、(a)項は、日本請求権あるいは韓国の対日請求権、こういうようなものがありとするならば、それは当事国の取りきめとしょう、話し合いをして解決しろ、要求するものは要求して取れ、こういうことがきめられておる。しかるに、その(b)項においては、日本はこの対韓請求権を放棄することを承認せしめられておる。片方では、請求して取れといって、片方では、これはもう放棄したのだ、こういうことですから、少なくとも、この(a)項、(b)項の趣意は両立しないものである。これは非常に妙な条文構成になっておるのでございます。  私はこの際特に池田さんにお伺いをいたしたいのでございまするが、あなたはその当時吉田代表全権とともに全権としてサンフランシスコへいらっしゃつたと思うのでありまするが、この条約四条の(b)項なるものは、当時日本政府に事前に提示されたるところの条約案の中にはその条文がなかったもので、あなた方がサンフランシスコ調印におもむかれたその後に付加された条項であると伝えられております。しかも、このことはすでに公知の事柄に属しておるのでありまするが、願わくばこの際その真相を明らかにされたいと思うのでございます。それは、日本国の利益のために、日本国民権利を確保するために、この間のいきさつをつまびらかにされたいと思うのであります。
  28. 池田勇人

    池田国務大臣 サンフランシスコへ行きます前にやはりこの(b)項はあったのでございます。いつごろから入ってきたかということは、私は記憶いたししておりません。
  29. 春日一幸

    春日委員 そういたしますると、この(a)項は、両国における請求権両国の取りきめとみなすということでございますから、請求権は厳存いたしておるのでございます。ところが、(b)項は、その厳存しておるとおぼしき請求権を放棄したことを承認せしめておるのでございます。少なくとも、(a)項、(b)項、一条の中の法の構成が両立しない。これは変だとはお思いになりませんか。いかがでありますか。
  30. 池田勇人

    池田国務大臣 平和条約四条の(a)項は、韓国ばかりではないと記憶しております。(春日委員韓国も含んでおる」と呼ぶ)韓国も含んでおりますが、台湾その他も入っておる。(b)項は韓国のことだけを規定しておるのでございます。条約の詳しいことは事務当局からお答えさせます。
  31. 春日一幸

    春日委員 事務当局答弁は必要ではございません。今御答弁がございましたが、とにかく韓国を含めて(a)項は請求権の厳存をここに保障いたしておる。ところが、(b)項は、韓国に対してはその請求権の放棄を余儀なくいたしております。これは両立しない。相反するところの取りきめがここに行なわれておることから判断をいたしまして、こういうようなばかげた法律構成というものはあり得ないのでございまして、あり得ないことがここに現に行なわれておるということは、これは当初構想に基づくものではなくして、一個の構想は当然(a)項であった、ところが、(b)項がここに介入したということの経緯は、すなわち、韓国からそういう要求があったとか、あるいは軍令第三十三号なるものが国際法違反によって行なわれておることからするアメリカ政府保障権ですね。日本国財産没収した、それはヘーグ条約違反をして没収をした、このことから発生してくるところのいろいろな責任、これをその条約四条の中で消化せんとしてその後こういう形になって現われたものと思わざるを得ないのであるが、この間のいきさつ見解はいかがでありますか。
  32. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど答えたように、第四条の(a)項は、韓国のみならず、台湾その他にも適用するものでございます。しこうして、(b)項は韓国に対して規定されたのでございます。それで、条約構成上別にどうこうということは私はないと思います。こういう規定の仕方がありましょう。韓国との特別の関係を(b)項で規定したのでありますから、当然のことだと思います。
  33. 春日一幸

    春日委員 調印責任者の一人といたされまして、そんな理屈の通らない、筋の通らない条約調印してきたのだとあっては、その責任を感ぜられて、そういう御答弁はなし得ないと私もこれはしんしゃくいたします。けれども、事実関係は、だれが見たって、片方では請求によって解決をなさるべしと言っておいて、片一方の条項で、請求してはならない、そんなばかなことは、常識的に考えてもこれは成り立たない議論でございます。こういうような問題は、戦勝国戦敗国力関係において余儀なくせしめられたものである。しかし、その後においてこの問題の救済が随所になされておるのです。  でございますから、私は、今外務大臣に申し上げたいことは、わが国は(a)項において権利が保障されており、(b)項において権利の制限がなされておるが、いずれの立場をとるかということでございます。(a)の立場をとることもよし、(b)の立場をとることもいいが、しかし、日本国外務大臣日本国政府が、日本国日本国民の利益のために立ち働くものであるとするならば、不利益な(b)の立場をとるにあらずして、(a)の立場を選択すべきことは当然のことであると思う。いかがでありますか。
  34. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せのように、常に国民の利益を考えてやるべきものと心得ます。
  35. 春日一幸

    春日委員 ならば、(a)項の立場をまずもって選ぶべしということになると思います。(a)項の立場や(b)項の立場を含蓄しながら、当然(a)項の立場に立って、請求権ありという立場交渉というものは進められてしかるべきである。  ところが、ここに問題となることは、藤山外務大臣とそれから金裕沢大使、これは昭和三十二年十二月三十一日の共同声明、この中でこういうことが述べられております。すなわち、「日本国政府は、大韓民国に対し、日本国政府が、昭和二十八年十月十五日に久保田貫一郎日本側首席代表が行った発言」、——その発言とは、日本に対韓請求権ありとの発言、この「発言を撤回し、かつ、昭和三十二年十二月三十一日付の合衆国政府見解の表明を基礎として、昭和二十七年三月六日に日本国と大韓民国との間の会談」、——これは第一回の会談ですね。サンフランシスコ講和条約が発効いたしましたのはたしか翌年の四月八日か何か、そんなことでした。だから、その発効する前に第一回の会談が持たれたときにも日本国は(a)項に基づいて対韓請求権ありとの立場から対韓請求権に基づいて要求いたしました。この請求権を「撤回することを通告した。」と書いてあるのですね。この藤山外務大臣とそれから当時の在日本大韓民国代表部代表金裕沢氏との間で、久保田発言すなわち対韓請求権、これも撤回いたします、それから、第一回当初会談に持たれた請求権、この請求を行なうことも撤回することを通告をいたされました。それは共同の利害が形成されてそのような通告が発せられたものと思うのでございます。  私はここでお伺いいたしたいのだが、請求すべき請求権を撤回したということはどういうことを意味するのでありますか。これは請求権の消滅を意味するのか、あるいは一時的な撤回を意味するのか、永久的に撤回して、もはや請求を行なわないということを意味するのか、その当時外務大臣が行なった請求権撤回の文言とその内容、考慮、これを一つ答弁願います。
  36. 大平正芳

    大平国務大臣 平和条約の(a)項、(b)項につきましての御論議がございましたが、平和条約というのは全一体をなしておるものでございまして、日本が国際社会に復帰する場合に、この条約全体を評価いたしましてこれを承認することによって国際社会に復帰できたわけでございまして、個々の条章につきましては、春日委員が御指摘のように、もろもろの瑕瑾・瑕疵があることは私どもも十分承知いたしております。しかし、この条約調印することによって、各条章に掲げられた条約条項なるものを日本が承認いたしたわけでございます。今も御指摘の第四条(b)項も、日本がおごそかに承認いたしたものでございまして、従いまして、韓国に対する公私の財産に対する請求権は、平和条約調印によりまして、これを没収した事実を日本が承認いたしたわけでございまして、その段階において確定いたしておるわけでございます。今御指摘の日本政府韓国政府との間の昭和三十二年十二月三十一日付の覚書は、従来の日韓交渉におきまして日本側が請求権ありという交渉技術上の主張をしておったが、その主張は撤回するという趣旨でございまして、平和条約効力そのものの本質に触れた覚書の交換ではないと私は承知いたしております。
  37. 春日一幸

    春日委員 問題は、そういうことを伺っておるのではございません。ここで藤山国務大臣日本国政府を代表して、金大使との間に、いわゆる久保田氏が要求した請求権ありとの説、すなわち請求を行なうの行為、それから、その前に行なわれましたところの第一回会談、このときに日本国代表が韓国に対して行なった請求権なるもの、こういうものを撤回すると言ったのだが、それは一時的にそのときとりあえず撤回しておくわと言ったのか、もうあと請求せぬわ、全然これはやめるわ、こういうことは言わぬわと言ったのか、政府は一体どういうふうに理解しておるかということでございます。すなわち、永久撤回であるならば請求権の消滅を意味するし、一時的に、とりあえず、こういうことを言わないで一ぺん交渉をやってみよう、交渉の推移に基づいてもう一ぺんこのことを言うわと言ったのか、どういうふうにこれを理解すべきであるか、政府の統一見解、伝統ある、ずっと引き継がれております統一見解伺いたい。
  38. 大平正芳

    大平国務大臣 私が先ほど御答弁申し上げた通りでございまして、対韓財産請求権は、平和条約において日本がその没収を承認いたしておるわけでございます。従って、これを主張するという根拠は、平和条約からは出てこないわけでございます。しかしながら、その後交渉の過程におきまして日本側の代表が請求権があるんだというようなことを主張されておりましたことは、これは交渉技術上の問題でございまして、平和条約効力の本質に触れたものでないということは、私が先ほど申しましたことでございまして、そういう交渉過程上の技術上の主張は撤回するんだということをはっきりさせたというにすぎないものでございます。
  39. 春日一幸

    春日委員 この前にも触れましたように、(a)項、(b)項はいずれも有権的なものである。日本権利平和条約(a)項によって保障されておる。(b)項によってそれが制限を受けておる。しか・し、日本国政府日本国の利益と国民の利益のためにいずれの道をとるかというのであるならば、当然(a)項の道からスタートをするのであって、その(a)項というものはやはり平和条約によって保障されておるところの日本国権利なんですね。だから、(b)項だけに従って(a)項の権利というものを全然行使しないということは、これは明らかに間違いでございます。よろしいか。私はこういう理論が出てくると思うのです。私は、ここにその解釈に対するアメリカ政府口上書がありまするから、これによって御理解を願えると思うのでありますが、全的に消滅してはおりません。  ただ、その前に私は明らかにいたしておきたいことは、藤山外務大臣がどういう考えであったかということです。今大平外務大臣が述べられたがごとくに、この(b)項によってすでに権利というものが喪失されておるがゆえに、(b)項に基づいてこれを請求しないのだ、また、請求しようにも、その根源、要するにその権利がないんだといたしまするならば、(a)項というものは一体何のために存在するのか、こういうことになって参るのでありますね。だから、この際、私は、(a)項と(b)項との関連においてその解釈が成り立ちませんときには、総理大臣、やはりその条約の起草者の意思というものを確かめてみる必要があると思うのです。勝手に日本国だけで有利に判断をしても独善的であるし、不利に解釈するということは、これまた屈辱的である。だから、平和条約の起草者の真意、第四条は何であるか、これを確かめることは、問題の本質を明らかにする上において必要なことである。利益とか不利益とかいうものではない。公正に問題を処理するためにも必要である。これはただ単に韓国ばかりじゃございません。北鮮オーソリティとの将来問題が起きて参りましたときに、やはりわれわれは正当なる立場に立って主張せなければならぬものは主張せなければならぬのであります。従って、その法律上の根拠というものは厳粛に理解されておかなければならぬと思います。  そこで私は、このアメリカ大使口上書、これは長いものでありまするから、特別に要点だけ言いますると、こういうことが書いてございます。「アメリカ合衆国国務省は、一九五二年四月二十九日付の韓国大使あての書簡において、日本国との平和条約四条をつぎのとおり解釈した。」韓国に対してアメリカ解釈が通告されております。それは、「合衆国は、日本国との平和条約四条bならびに在韓国合衆国軍政府の関連指令および措置により、大韓民国の管轄権内の財産についての日本国および日本国民のすべての権利、権原および利益が取り去られたという見解である。」、こういうふうに日本の不利益なことを述べてはおります。「したがって、合衆国の見解によれば、日本国はこれらの資産またはこれらの資産に関する利益に対する有効な請求権を主張することができない。」としておる。ところが、「もっとも、日本国平和条約四条bにおいて効力を承認したこれらの資産の処理は、合衆国の見解によれば、平和条約四条aに定められている取り決めを考慮するに当たって関連があるものである。」、しかし、この関連がこんなに小さく述べられておりますけれども、その次にはこれが大きく膨張しております。こういうのが韓国へ通告されたところの、平和条約起草者たる合衆国政府見解であると韓国に述べて、以降が日本国への通告でありまするが、合衆国政府は前に韓国に言った通りそういう考え方を持っておるが、「この見解および平和条約の該当条項の背後にある理由を説明することは有益であろう。」として、その理由を説明しておる。それで、「朝鮮における独立国家の設立のためには日本国とのきずなをきれいに、かつ、完全に断ち切ることが必要と思われたので、」こういうことをやった、こう言っておるのです。そうして、その次にこういうことを言っておる。「権原の所属の変更と補償の問題とを区別することは法的見地から可能であると認められるが、」これは、権限の所属の変更ということは変更である、けれども、この変更については、補償を必要とするのだから補償はせなければならぬが、この補償の問題と同様に区別して処理することは「法的見地から可能であると認められるが、合衆国政府は、日本国の補償に対する請求権は、当該事情の下において、」なかなかむずかしいと思われたので、これをやめた、こう書いておりますね。そういうふうにいたしまして、ここにこういうことが書いてありますよ。「この請求権韓国内の日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたことが明らかであったにもかかわらず、」と書いてあります。起草者の意見というものがこういうふうに書いてあります。この請求権、すなわち、韓国請求権が問題となりましたときに、韓国の対日請求権なるものが、韓国内の日本財産の所属が変更されたことによって「すでにある程度満たされたこと」、——いいですね。請求権に見合うものはすでにこの三十三号で支払われてしまっておるのだぞ、言うならば、双方おおむねとんとんになっておることが明らかである、明確であったにもかかわらず、平和条約の中に解決を定める明文を置かなかったその理由は何であるかというと、これは十分な事実関係と法理論が明確でなかったと言っておる。十分な事実とは何ぞや。それは、日本に合邦されていた間に向こうで損傷したものがあるであろう、同時に、日本国の努力によってそこに付加増大されたものがあるであろうが、そのプラス・マイナスという事実関係を明確に立証することができない。アメリカでもできない。日本でもできない。韓国でもできない。そういう事実関係、十分な事実も、また適用される法理論の十分な分析も有していない。ということは、適用される法理論とは、分離国家に対して母体国家、これが一体どういう権利を持ち、どういう義務を持つものであるか、国際慣例というものが明確にない。だから、ここで問題となりますのは、この平和条約の(a)項、(b)項の関係において、前に関連があるもの、韓国日本請求するときには、あの三十三号によって没収の事実、また(b)項によって承認の事実、これが有権的に完全的に効力を発生するためには、(a)項というものが大いなる関連を持つものである。その(a)項というものは、ここに書いてありますように、この請求権が、韓国内の日本財産の所属変更によりすでにある程度満たされたものである。このことは明らかであった。明らかであったから、論証し明文化すべきであったけれども、しかし、日本国が、合併されておった間に向こうでいろいろ損耗したものがあるであろうが、日本国の努力によって、貢献によってそこに付加されたもの、増大されたもの、プラス・マイナスの明記がない。事実関係が粗雑だから、立証しようがない。それからまた、国際法規の上においても、分離国家と母体国家との間の権利義務に対する法律論の展開が十分にまだ行ない得ない、こういう関係だから、こういう工合に一まず書いているのだ。書いているけれども、その請求権というものは、(a)項、(b)項の関係においておおむねとんとんだぞ、これは起草者の意思として、ここにきちっと両国にこれが通達されているのですよ。いかがでありますか。そういう工合に、たとえば今大平大臣の言われるように、(b)項によって放棄しちゃったもんだから、藤山さんが請求権を撤回するということは、(b)項に基づいて行なった有権的行為だ、こう言うことは間違っている。これはわが国の利益を放棄するの言動である。私は、韓国との問題ばかりでなしに、将来これは北鮮との間においてこういう問題と取り組まなければならないので、平和条約の起草者の意思というものは、正当に、公正にわが方がこれを受けて判断し、その厳粛なる理解の上に立ってやはり応対していかなければならぬ。だから、藤山さんの放棄、請求権を撤回したということは、これは何ら日本を拘束するものではないと思う。また、実際放棄しているというならば、それはわが国の憲法違反である。憲法二十九条は私有財産不可侵の原則ですね。それから財政法においては、国の財産が変更するとき、減るとき、ふえるときこれは国会の承認事項である。財政法の、これは八条でありますか、国の債権の全部もしくは一部を免除し、またはその効力を変更するには、法律に基づいて行なわなければならぬといっている。内閣法によれば、内閣は法律に基づいてのみその行政を執行することができるのであって、このような国会の承認を求めることなくして日本財産権に大いなる変更を与えるがごとき意思表示をなすことはできないはずである。やったとすれば違法行為である。法律の手続を踏んでいないから、これは全然効力を持たないものである。日本は今もなおフリー・ハンドの立場にあると思うが、いかがでありますか。
  40. 大平正芳

    大平国務大臣 今、(a)項、(b)項の関連におきましての解釈をめぐって御論議がございました。それで、これは立法者の意向はどうであるかということを究明することが大切ではないかという御指摘でございまして、今米国解釈に触れられたわけでございます。この米国解釈は、日本は在鮮財産に対して平和条約に基づきまして請求権はないのだ、しかし、現に没収された財産を、その没収の事実を承認したということによりまして、ある程度(a)項に言う請求権は満たされたと思う、従いまして、(a)項の請求権処理におきましては、その事実は考慮されるべきである、こういう米国の解釈でございまして、日韓両国とも、今春日委員が御指摘された米国の解釈につきましては、意見の相違はないわけでございまして、そういう解釈に立脚いたしまして交渉を進めておるわけでございます。
  41. 春日一幸

    春日委員 おおむね私はそれでよろしいと思う。ということは、すなわち、藤山さんの請求権撤回の、日韓両当局のこの声明文というものは、決定的なものではないですね。決定的なものであらしめようとすれば、当然韓国にありますところの請求権日本国が放棄してしまうことになりますから、当然財政法第八条に基づいて国会の承認を取りつけなければならない。取りつけられていないから、これは無効である。だから、日本はどんどんとこれから請求したらよろしい。韓国に向かっても、北鮮に向かっても、請求すべきものは堂々と請求したらよろしい。数がふえたり減ったりすることはあるでございましょうけれども、やはりその根拠とするところの法律というものは尊重されなければなりませんぞ、大平外務大臣。あなたは高い次元に立って大所高所から政治的に話をまとめると言っておるけれども、そういうことは非常に危険な結果をもたらすおそれなしとはしない。いいですか。たとえばオタマジャクシがカエルになる場合もあるし、あるいはサナギがチョウチョウになる場合もある。相当変貌することがある。変貌はするけれども、そのカエルなりチョウチョウの生命というものは、オタマジャクシであり、サナギである。だから、あなたは今高度の政治的立場において大所高所からこれを妥結せしめようとしておるけれども、しかし、それは一個の手段でしかないのである。すなわち、その根源となるものは第四条の(a)項と(b)項であり、(a)項についてはアメリカが、すなわち、この平和条約の起草者が、厳然として、第三十三号によって韓国の対日請求権はすでに相当の部分にわたって満たされた——満たされたということは、幾らか部分的に返されたということではないですよ。満たされたというのだから、一つの器の中に満たされたということは、水が大体九分九厘ぐらい入ったときが満たされたのであって、底の方にちょぼっと水がつがれたのは、コップに水が満たされた状態ではないのだから、この点は一つ明確にして今後の交渉に当たってもらわなければいかぬ。この点を、総理大臣政府の腹がまえとして腹に入れてもらいたいと思うが、よろしゅうございますね。僕と大平外務大臣との質問応答において妥結したものは、(a)項の請求権は現存しておるぞ、アメリカ解釈によっても現存することが保証されておる、今そのことを言う言わぬという問題は、交渉妥結するためにいろいろな手段、方法として考慮されるにすぎないものであって、藤山外相によるところのその撤回は、何ら効力を奏しないものである、日本国政府の今後の交渉、それは大韓民国に対して、また北鮮人民共和国に対して、何ら日本政府のその意思というものを拘束することのできないものである、こういう工合理解しておいてよろしゅうございますね。
  42. 池田勇人

    池田国務大臣 どうも春日君、あまり雄弁だもんで、ちょっと誤解があってはいけませんが、四条(a)項というものは、韓国のみならず、他の台湾等につきましても、お互いに請求権はあるということを認めておるのであります。しこうして、(b)項によって、韓国に対しては、今の軍令三十三号による没収に対してわれわれは請求しない、こういって請求権を放棄しておる、これだけのことでございまして、私は平和条約四条をこういうふうに解釈しておるのであります。
  43. 春日一幸

    春日委員 池田総理責任を持って日本国政万事に当たっておられる、これには私は大いに日ごろ敬意を払っておる。政策においては間違っておる点が多いけれども、心がまえとしては、あなたは愛国者として真実に問題と取り組んでおられることは、私は認めておる。けれども、今のお言葉は適当ではございませんぞ。(a)項は台湾その他の国を含んでおるということにアクセントのウエートを置いておられるが、それは間違いなんだ。いいですか。台湾というのは、蒋介石総統がそのヒューマニズムの立場から対日請求権は放棄しておる。賠償分も放棄しておられる。みずから宣言されておる。残るところは、結局は主たるものは朝鮮なんですね。韓国なんですよ。(a)項と(b)項とが四条の中に同時併記されておるということも、その関連においてなされておる。だからその(a)項の中にも、対韓請求権日本にあるのだ、あるから、後日交渉して取りきめなさい、そのことは韓国を、あるいは北鮮を意識してこれが書かれておるのですよ。それは台湾を意識して書いたのじゃないのです。そういうものは、やはり同時的にそういうことも処理されるべきことであろう、あろうけれども、四条関係においては、対韓請求権あるいは対北鮮請求権というものは日本に現存するから、交渉のときにおいてやりなさい、(b)項というものがあるので、日本は心配だろうけれども、(b)項に対する解釈はこうです、その解釈を国務省がわざわざ書いておる。さすがに良心の片鱗を見せておるのです。それは相当の部分にまたがって満たされたものである——満たされたと書くべきであるけれども、事実関係が明細に実証できないし、また法理論としての展開ができ得ないから、この際これは後日の取りきめにゆだねたと言っておるのですからね。だから、対韓請求権、対朝鮮請求権、これは日本国に現存するものである、藤山さんと金さんとの共同声明は有権的なものではない、日本はこれによって拘束を受けることはない、この立場を、愛国者池田勇人の名において、この際明確に国の内外に向かって宣言される必要があると思う。勇気を持ってやりなさい。
  44. 林修三

    ○林(修)政府委員 私からちょっと、今春日先生の……。
  45. 春日一幸

    春日委員 林君、僕は許しません。君は三百代言的なことをときどき言うからだめだ。僕は政治家としての、日本国総理大臣の言明を求めておる。
  46. 塚原俊郎

    塚原委員長 委員長が法制局長官に発言を許しております。
  47. 林修三

    ○林(修)政府委員 法律見解について、春日先生の御理解が、先ほどから総理大臣あるいは外務大臣から申しましたことに対する御理解がちょっと違っておるように思いますので、その点だけをちょっと御説明いたします。  四条の(a)項と(b)項は、もちろん、包括的に解釈すべきものであることは当然でございます。同じ平和条約の中に二つ並列してあるわけでございますから、(a)項と(b)項とを包括的に一緒にして解釈すべきものでございます。(a)項は、先ほどからお答えがありましたように、すなわち、対朝鮮問題のみならず、台湾、南洋群島その他旧領土関係請求権問題も包括して書いてあるわけでございます。その中に、もちろん対韓請求権もありとすれば(a)項が含まれておりますけれども、しかし、これに(b)項がございまして、いわゆる韓国において、連合軍、主として米軍でございますが、米軍がとった措置については、この(b)項で常に日本は承認しなければならない立場になっております。その場合において、いわゆる軍令三十三号の財産没収に対して、没収行為は承認するけれども、それに対してさらに補償請求権があるかないかという問題があったわけでございまして、それは、日韓交渉の当初においては、日本側は交渉技術として一つそういう問題を持ち出したことは御承知の通りでございます。しかし、それについていろいろ議論がございましたので、四条(b)項については、立案者であるアメリカ解釈を求めたわけで、その四条(b)項についての立案者のアメリカ解釈が、先ほどお読み上げになりましたいわゆるアメリカ側の覚書でございます。日韓両国ともこれによってその後の請求権交渉をやることになっておるわけでございますから、その点については、これは一致しておるわけでございます。そのアメリカ当局解釈でございますが、これは、四条(b)項に関する限りは日本請求権なしという解釈でございまして、その点がちょっと先生、誤解がおありじゃないかと思う点でございまして、要するに、(b)項に関する限り、三十三号に関する限り、日本側にはもう財産そのものの請求権もないし、財産に変形した金銭的請求権もない、そういうことでございまして、そういう事実は、しかし日韓両国請求権交渉においては考慮せらるべきである、ある程度韓国側の請求もそれによって満たされているであろうから、そういうことがあった事実は考慮すべきであるというのが、アメリカ側の解釈でございまして、その解釈に基づいて交渉しておるわけであります。  それで、昭和三十二年十二月三十一日のいわゆる覚書でございますが、これは先ほど条約局長からもお答えいたしたと思いますが、日本側が主張を放棄してありましたことは、請求権を放棄したわけではないのでありまして、請求権ありとした主張、いわゆる四条(b)項の解釈に関する主張をもう言わないということでありまして、四条(b)項の解釈について議論のあった点、それをいわゆる立案者であるアメリカ側の解釈に従って、四条(b)項は、すでに平和条約のときにおいて日本側に請求権なしという解釈でございますから、その解釈に従う、従って、日韓の交渉において久保田全権等が発言した請求権ありという主張は撤回する、そういう意味でございまして、請求権を放棄したわけではございません。その点、一つ誤解のないようにお願いしたいと思います。
  48. 春日一幸

    春日委員 これは、まあ申し上げておきますが、求めもしないところの答弁で僕の貴重な時間を蚕食した、この事実関係は認めてもらわねばならぬ。(笑声)だから、私は、私の質問時間を大体三十分延長願います。(笑声)  そこで、今の(b)項について請求権のないということは、(b)項において請求権のあらざることは、私もこれは認めておる。ところが(a)項においては、請求権基礎とするところの諸問題は、これは(a)項において、当事国の取りきめとして認められておる以上は、やはり日本請求権がありとみなすのが、これは事実関係として——事実関係としてということは、この末尾の方に、口上書の中に書いてありますが、要約して言うならば、韓国請求するものに相当するものは、すでに取得していることをあわせ考えてとりきめるべきだ、こういうことが(a)項に書いてあるんですね。あわせ考えて処理すべきだ、要するに、韓国日本請求するに相当するものは、すでに三十三号軍令によって韓国が取得しておるのだ、そのことを有権的に、最終的に処理がされてしまうまでは、それは生きておるのですよ。要するに、所属がえがされたものに対する潜在主権といいますか、潜在財産権というものが含まれておる。だから、そのことについて言及するならば、それは請求権の形になって表明せられる以外にないのだ。それは君は法律家であって、こういう人情の機微はわからぬかもしれね。(笑声)わずかこれは二時間ですから、この問題は重要な問題でありますから、日本国立場において政府も十分研究願いたい。それから国会も、他の委員会その他において、これはやはり厳粛に深耕細打した形で問題の帰趨を確かめていただく必要がある。アメリカとの間にも、なおこの不明確な文言についてはいろいろと応酬があってしかるべきだと思う。どうかそういう意味で、この請求権ありという立場交渉していく。そこから発展して、いろいろな論理の飛躍があったって、条件の飛躍があったって、譲歩があったって、それは差しつかえない。問題を妥結せしむることが目的であるから、その最終目的に到達するために、手段方法がどのような変化を見せようとも、これは問うところではありません。けれども、それは国民が納得し得る形態のものであるということが前提になるが、しかし、そういう立場に立って、日本請求権はないのだと、われわれは(a)項だけで拘束する、不利な条件だけわれわれはとって、有利な条件は放棄するのだ、そんなばかげた日本国政府というものはあり得るものではない。池田総理はそのような見解をお持ちになると思わぬが、あとから妙な悪知恵を買うから、はからずもその判断をあやまたれておることをまことに遺憾とする。御同情申し上げる。話を先に進めます。  そこで問題は、南北朝鮮が統一をいたしました場合、あるいは南北朝鮮が決定的に分裂をいたしまして二つの国家となった場合、北朝鮮に対する日本側の請求権はどうなりますか。具体的にこの点を伺いましょう。
  49. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう問題は、初めから起こればはっきりすると思うのでございますが、(a)項、(b)項とは関連して考えるべきものであるという点につきましては同じでございます。しこうして、この(b)項は、軍令第三十三号による処置に対するものでございますから、軍令は三十八度以南にしか適用になりません。従いまして、三十八度以北につきましては軍令がありませんから、今、日本と朝鮮との間におきましては、請求権厳然として残っておると解釈しております。
  50. 春日一幸

    春日委員 まず、部分的に明確にはなりました。けれども、今の答弁の中で、なおかつ未練たらしく韓国に対してその権利放棄の言辞を弄しておられますが、これは遺憾なんですよ。三十三号と(a)項、(b)項の関係で、アメリカさんは、日本よがんばれ、あなたの方の請求権はあるんですよと、ここに言っておるのに、ああだ、こうだと詭弁を弄されておるということは、これは適当ではない。けれども、それは後日論ずることといたしまして、とにかく北鮮に対しては明確に請求権ありと、こういう工合立場をとられるのでありますね。——よろしい。  そこで、今度は逆に、後日北鮮政府より、今回韓国政府が自発的に日本に発したような請求権問題を内容とするところの支払い請求、これが提起されました場合、政府北鮮当局との間においてどういうような方針で解決をするのであるか、これを一つ、その方針を述べておいていただきたい。
  51. 池田勇人

    池田国務大臣 日本国北鮮を承認いたしておりません。従いまして、今後北鮮がどうなるか、国家形態がどうなるかということが前提でございまして、今その国家形態をなしていない、承認していないときに、どういう交渉をするということは、少し早過ぎると思います。
  52. 春日一幸

    春日委員 その答弁は適切ではございません。ということは、今この世界に共通する外交の基本的理念というものは平和共存である。従いまして、われわれは政治体制の相異なる国々とも、これは外交関係を樹立しているんですね。たとえば、ソ連との間に戦争状態終結宣言、国交は回復いたしております。それから中共を承認するということも、これはもはや時間の問題であるとされております。従いまして、こういうような国際的政治背景の中においては、当面中共承認の問題は国際政治の日程に上っていないといたしましても、これはしょせんは日程に上らざるを得ない問題である。そういうような立場と、もう一つは、世界の平和と、それから違った政治体制の国々とも友好親善を深めていくというこのことは、各国政治家に課せられておるところの至上命令である。従いまして、北鮮との間にも、現段階においては経済、文化の交流にとどまっておって、何ら外交的な問題が今政治的に論じられてはいないといたしましても、このような、いわゆる大平君の言をもってすれば、大所高所論からいたしますれば、しょせんは問題は解決をせなければならない問題であり、そのことは、次第に僕は日程が迫っておると思うのですね。従いまして、この際、韓国との間にこの問題を解決するときに、北鮮がこういう要求をしてきた場合においては日本はこうするのだ、これは厳然たる態度で、法律に基づいて、また国際法規に基づいて、また日本国の自主的な判断の上に立ってかくかくするのだ、こういうことも日本国民に向かって、また北鮮に向かって、関係諸国に向かって宣言しておくということは、有益なことであり、必要欠くべからざることであると思うが、どうか。
  53. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいまそういうことをすることは有益でない、有害であると思います。私は朝鮮の統一を最も望むものであります。  韓国は国際的に認められた国でございます。しこうして、その韓国民の悲願である統一ということに賛成しておる私が、いかにも二つの朝鮮があるがごとく取り扱うということは、私は、今のところは有益でなしに、有害と考えておりますから、申し上げないのであります。
  54. 春日一幸

    春日委員 それはヒットのごとくであって、実はヒットではない。問題というものは、抽象的、観念的であってはならぬ。あなたがいつも言っておられるように、具体的事実、現状に即して物事の処理が進められて参らなければ相なりません。  そこで、北鮮政府がこの間声明を発表いたしております。北鮮民主主義人民共和国声明、日韓会談に対する声明がなされ、日本政府に対する意思表示がなされております。これによりますると、北朝鮮政府は、対日賠償権についてこういうことを言っております。それは、日本の朝鮮合邦、これによる損害に対する賠償要求がずっとうたわれておる。だから私は、この際、政府見解、私が伺いたいのは、そういう抽象的な問題ではないのです。北鮮が今、日本に発しておるところの賠償請求というものに対して、日本はこれを何と理解しておるのか、賠償請求権というようなものが一体あると思うのか、ないと思うのか、それともまた、北朝鮮の請求権は、いわゆる法律的根拠、たとえば徴用でありまするとか、貯金でありまするとか云々という、そういうものに限られておると思うのか、あるいはまたここにうたわれておるような、いろいろの賠償というような意味合いを加味したところの多くの請求権が、北鮮に存在しておると思っておるのかどうか、そのことを伺って偽るのです。この機会に政府見解を明らかにしておかれることが必要であろうと思います。
  55. 池田勇人

    池田国務大臣 それは平和条約四条の(a)項によりまして、双方請求権があると私は考えております。
  56. 春日一幸

    春日委員 賠償責任はどうでありますか、ここに言っておる賠償責任
  57. 池田勇人

    池田国務大臣 いわゆる賠償、レパレーションの責任は、韓国、朝鮮に向かってはないと私は確信しております。
  58. 春日一幸

    春日委員 そこで、政府が今回韓国に対して、無償供与三億ドル、有償供与二億ドル、この借款によって、いわゆる広義の請求権、要するに朝鮮としての請求権、これが解決したと考えるのか。しこうして、その解決の効力の及ぶ範囲、これはどこどこまでとされておるのか。日韓両国政府が共通の理解を持っておると思うが、その理解されておるところをこの際明らかに示されたい。
  59. 池田勇人

    池田国務大臣 韓国日本との交渉で、それが妥結すれば、平和条約四条請求権はこれで解決するのであります。日本韓国とはそれですっきりしたことになると私は考えております。
  60. 春日一幸

    春日委員 そういたしますと、ここでただしておきたいことは、外務省当局の法律根拠に基づく対日請求権六千万ドル、最高の場合といえども六千万ドルといわれておる。それが無償供与によって三億ドルに飛躍いたしております。だから、今、総理答弁をされましたが、請求権問題は解決を見たと理解すると言われておりますが、その三億ドルと二億ドルの解決の効力の及ぶ範囲というものは、南北朝鮮に及ぶものであるか、韓国だけに限るものであるのか、このことを明らかにしておいていただきたい。
  61. 池田勇人

    池田国務大臣 六千万ドルとか七千万ドルということは、有権的なものでもなんでもございませんことは、たびたび申し上げておる通りであります。しこうして、今度の正常化交渉は、韓国日本との間に限っております。ほかには及びません。
  62. 春日一幸

    春日委員 ちょっと問題がややこしくなると思うのでありますが、有権的効力がないとはいいながら、とにもかくにも伝えられておる外務省の一応の資料に基づく六千万ドル、これが三億ドルに飛躍しておるということは、これを一、個の賠償的性格をも含めたところの請求権問題の解決、こういう工合韓国理解しておると思うのですね。そこで、北鮮との間は、法律的根拠に基づくものということになるわけでありますから、そうすると、北鮮に残存するところの請求権というものは、たとえばこれに見合うものは、韓国の場合の六千万ドルに該当するもの——六千万ドルか、五千万ドルか、二千万ドルか、それは後日数字が有権的に固められるといたしまして、その六千万ドルのものが三億ドルによって解決をされるということは、韓国理解は、これは請求権を含む、要するに、賠償を含むところの請求権問題というような工合理解されておる。大卒外務大臣は、いわゆるお祝い金を含むところの請求権問題、こういう工合理解しておると思う。あとでその点は明らかにします。そういうわけでありますから、従って、後日北鮮との間に問題が処理されるような場合、北鮮にあるところの法律的根拠に基づくところの請求権なるものは、今回韓国においてなされたがごとく、すなわち、六千万ドルが相当に膨張飛躍したがごとくに、北鮮においても膨張飛躍するというようなことがあり得るのかどうか、それともまた、韓国に今回渡すところの三億ドルによって、韓国政府責任において、すなわち、賠償を含むというような理解の上において、あるいは理解されていないが、暗にそういうような考え方の中において処理されておるとするならば、その三億ドルの中で北鮮問題も向こうで話し合ってくれということになるのか。韓国において法律根拠に基づくものが、相当法律根拠に基づかぬ膨張をしたから、北鮮の場合も法律根拠に基づくものがここに現存しておる、それが交渉のときには、やはり機会均等の原則によって相当に膨張することがあり得るのかどうか、このことをちょっと外務大臣から……。
  63. 大平正芳

    大平国務大臣 先日、木原委員の御質疑に対しましてお答え申し上げました通り請求権という問題は、法律的な前提、事実関係基礎、この前提のとりょうによって、いかようにも無限の答えが出し得るものであるということでございまして、木原さんが七千万ドルと言われ、春日さんが六千万ドルと言われた数字は、先ほど総理が申し上げました通り政府見解としてそういうことをきめたものではないのです。その点、誤解のないようにお願いいたしたいと思います。  それから、春日さんの根本の観念について私は申し上げたいのでございますが、請求権の問題と経済協力の問題は、全然別個の問題であるということでございまして、これは関連がないわけでございます。無償協力の中にどれだけの請求権が含まれておるかというようなことではなくて、無償協力はあくまでも経済協力でございまして、請求権とは関係がないわけでございます。そのうちに幾分請求権を含んでおるという性質のものではございません。私が申し上げておりますのは、経済協力をやりますということをきめますと、その結果として、請求権は主張しない、なくなるのだという、随伴的な結果が生ずるんだということを申し上げておるわけでございまして、これは全然別個の観念であるという点に立脚されて御検討をいただきたいと思います。
  64. 春日一幸

    春日委員 今の問題は重大だと思うのですよ。条約解釈を締約国において一致しておくということは必要なことである。まちまちの希望的な解釈を許しておくということは、この間のタイ特別円処理の協定において、総理がどんぶり勘定で九十六億円つまみ金で出してしまったというような結果になってくるおそれなしとはしない。だからこの問題は、大平外務大臣がこの無償供与なる文言の意義について今述べられた、それはあくまで経済協力だと言っておられるが、先方もそういうふうに受け取っておるのでありますか。問題はそこなんですね。われわれが研究いたしております範囲内でありますと、たとえば大平外務大臣の言う無償供与の文言の意味はお祝い金ということで、請求権をもすべて包含するという、そういう中身を含んだ無償供与である。ところが韓国側の理解は賠償を加味した請求権、賠償プラス法律根拠に基づく請求、そういうものを加味して、そうしてその名前を、ここに無償供与という共通の名称を用いておる、こういう工合に伝えられておる。従いまして、私は、今外相が述べられたように、この無償供与という文言の意味というもの、その中身の理解というものは、今言われたように、もう何もかも請求権なしにしちゃおう、純粋の経済協力だ、向こうも全然何も言わないと、そのことは将来北鮮との関係、いろいろと波及する問題、根になって残る問題があると思うので、この点は解釈の意義を有確にしておく必要があると思う。日本はこういうふうに思っておるが、君の方はそういうふうに思っておれというようなことでは、北鮮がその有利な思い方を思うに至るであろうことが予測される。それは統一解釈は明確になっておりますか。
  65. 大平正芳

    大平国務大臣 有償、無償の経済協力を供与するということの結果といたしまして、請求権の問題は一切解決するということにしようということにつきましては、先方も大体了承いたしております。
  66. 春日一幸

    春日委員 請求権の中には——無償供与というような言葉は、これはあなたがっくり出した言葉であって、ほかにベトナムでありますか、ラオスでありますか、そういうものは、無償経済協力というのはありますけれども、無償供与というようなものは今までありますか。いかがです。
  67. 大平正芳

    大平国務大臣 経済協力でございまして、それに応じて信用を供与するとかいう用語はございますけれども、用語上の問題でございまして、私が申し上げておりますのは、純然たる経済協力をいたすのである、その結果としてやっかいな請求権の問題は片づくということに双方確認し合おうじゃないかということでございます。
  68. 春日一幸

    春日委員 それならばどうして無償経済協力としないのですか。外交上いろいろな文言が使用されておるけれども、無償経済協力なら無償経済協力、無償供与というような新しい言葉をここにつくり出さなければならないについては、それだけの理由がなければならぬ。そうでしょう。理由がなければ今までの慣例を踏襲されて無償経済協力とされたらどうです。
  69. 大平正芳

    大平国務大臣 無償経済協力といたしております。
  70. 春日一幸

    春日委員 無償供与という文言は今後訂正されますか。
  71. 大平正芳

    大平国務大臣 それは俗語でありまして、私どもが責任を負う言葉じゃございません。
  72. 春日一幸

    春日委員 俗語と言われるが、金鍾泌との間の交換文書の中に無償経済協力になっておるか、無償供与になっておるか、事実関係はいかに。
  73. 大平正芳

    大平国務大臣 私と金氏との間に合意文書はございません。
  74. 春日一幸

    春日委員 メモランダムを交換しておる事実があると思うが、そのときに無償供与になっておるか、無償経済協力になっておるか。その記述はいかなる文言が使用されておるか、これを伺っておきます。
  75. 大平正芳

    大平国務大臣 メモランダムを交換した覚えもございません。
  76. 春日一幸

    春日委員 じゃ書きつけ。
  77. 大平正芳

    大平国務大臣 私どもの話し合いを先方がどのようにメモをとりましたか、私は存じません。
  78. 春日一幸

    春日委員 そのメモの中にいかにメモられておるか、そのメモの中にどういう文字でメモられておるか。
  79. 大平正芳

    大平国務大臣 それは私は存じておりません。先方がどのようにメモをとられたか存じません。
  80. 春日一幸

    春日委員 善良な大平君がそういう老獪な答弁をされてはまことに遺憾ですね。とにかく無償経済協力という文言は一ぺんも新聞に載っておりませんよ。無償供与なんですね、ただでやるということなんだ。経済協力ならばいろいろな方法論とか、またポリシー、いろんなものがあると思うのです。無償供与ということはただでやるということなんだ。無償経済協力というものはそれぞれ協力協定というものがいろいろあるのですよ。ビルマの場合だってあるし、ラオス、カンボジア、そういうところでもみんなその条約を執行するに伴うところの合議やいろんなものがあると思うのだ。変わってくるのですね。あなたは同じものだと言うけれども、それは違ってくるのだな。
  81. 大平正芳

    大平国務大臣 予備折衝におきまして請求権の大筋の話し合いをいたしまして確認し合った文書には、経済協力となっております。御心配のないようになっております。
  82. 春日一幸

    春日委員 それでは無償供与というのは新聞の報道の間違いか。
  83. 大平正芳

    大平国務大臣 新聞に一々どのように用語が使われておりましたか、私はつまびらかにいたしませんけれども、今春日委員が御心配になるようなことはございません。経済協力というふうにいたしております。
  84. 春日一幸

    春日委員 それは無償経済協力であって、無償供与ではない。これは明確になりました。よろしい。  次は、この問題を明らかにしておく必要があると思います。そこで、四条(a)項では、「日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権処理」こうありますね。従いまして韓国民の請求権に対する処理はどうなるか。韓国国民の対日請求権処理はどうなるか。韓国国民に対して、韓国政府はこれらの請求権責任を持って全的に解決すべき義務があると思う。この点について韓国側の態度は打診してあるか。そうでないと、韓国の債権者は納得しないと思うのですね。韓国国民にして対日請求権を有する者のその対日請求権は、韓国日本政府から取得をしたところの、今まで無償供与といっておりましたが、今度は無償経済協力ですね、その三億ドルを原資として、これによって韓国国民の財産、これを日本国政府にかわって代位弁済することになるのであるかどうか。その辺は日本は、一応国際法上債務者である。すなわち、国際法においても、あらゆる場合に私有財産不可侵の原則、没収することはできない。債権債務は外国人でも払わなければならぬですね。だから韓国国民が日本国人に対して、あるいは日本国政府に対して、請求権があると思うのだ。そういうものは今度三億ドルの無償経済協力なるものを財源として、原資として韓国政府日本国政府にかわって代位弁済するものであるのかどうか。日本は債務者として重大な責任があるので、日韓両国において話し合いされておる、すなわち取りきめられているその内容を、われわれは債務者として、この際、この点を明らかにしておく必要があると思う、どうです。
  85. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど申しましたように、有償無償の経済協力をいたします随伴的な結果として、幸いに平和条約四条上の一切の問題が解決する。問題を残した解決はあり得ないので、すべての問題、一切の請求権の問題が最終的に解決するというようにいたしたいと考えているわけでございまして、そうなりましたら、日本政府として、国際法上今言われたような請求に応ずる義務がありません。韓国韓国民の問題は韓国政府の問題でございまして、私どもが関知するところじゃございません。
  86. 春日一幸

    春日委員 とにかく国際司法裁判所なりなんなり、請求権というものは、その国内ばかりでなしに世界じゅうに及ぶものですよ。地球の上あまねく及ぶものである。だから韓国国民が対日請求権を持っておるとすれば、それは韓国内で処理すると言ってはおれない。それは免責の事項にならない。向こうが裁判を提起してくれば、裁判所が支払いの義務ありと判決すれば、払わなければならぬ。それだから、今回の日韓交渉において韓国国民の対日請求権、こういうものは無償経済協力というものがそういう一切のものを含んでおると仮定いたしましても、またそういう工合理解いたしましても、やはりそれは韓国政府日本国もしくは日本人にかわって代位弁済をするものであって、そういうことの取りきめというものを明確になされておかないと、日本国は債務者であるという立場において、すなわち四条(b)項においてそれが放棄されておるのですね。そういう意味において、ここに残るものが債務である。そうすると債務者の責任を果たす上において、やはり今度これだけのものを払うから、この中で君の方でうまく処理をせよ、こういう保障が取りつけられておく必要があると思いますが、この点いかがでありますか。
  87. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど私が御答弁申し上げた通りでございますが、問題がそのようにあとに残ることは解決にならぬわけでありますから、今春日さんがおっしゃったような御心配のないように処理するつもりです。
  88. 春日一幸

    春日委員 伺います。政府は、この政府責任において、その米軍政庁命令三十三号を受諾をいたしました。総理国際法違反である、これは許しがたきことであると言われましたけれども、四条の(b)項において余儀なくこれを受諾し承認をいたしました。これは政府の意思によって受諾をしたのでございます。従いまして、政府はこれに対する補償を行なわなければならぬと思います。少なくとも在韓財産は、ここに(b)項によって最終的に放棄されたものである。これについて、やっぱり政府に対策がなければならぬと思います。申し上げるまでもございませんけれども、イタリアにおいて、この在外資産の補償については立法例がございます。十分御調査にはなっておると思いますが、イタリアは一九四七年二月十日、パリにおいて調印された連合国との平和条約第七十四条の中で「イタリア国政府は、この条に基づいて賠償目的のために財産が取り上げられる一切の自然人または法人に対し補償を与えることを約束する。」ということになって、そして七十九条の中の「イタリア国政府は、イタリア国民であって、この条に基づいて財産が取り上げられ、しかも返還を受けない者に対し補償することを約束する。」この約束に基づいて、イタリア政府は一九五四年十月、在外財産補償法を公布いたしまして、在外資産に対する補償を定めておる。こういうような略奪徴発関係のものばかりでなしに、これとの均衡においてイタリアは平和条約規定にないそういうものに対してもやはり一カ条法律をつくって、この補償の責任を果たしております。平和条約規定関係のない一般の戦争損害に対する補償については、一九五三年の戦争損害法、この戦時損害法によりまして、イタリア国民に対し、戦争に関連した財産の損害に対して補償金を支給することを規定しておる。外国においてこうむった損害に対してもまた同然である、こういう国際慣例がございます。日本国政府は、私は、おとといの外相答弁を伺っておりますと、日本政府の意思に基づいて放棄したものではない、だから補償責任はないと言われておる。けれども、サンフランシスコ講和条約というものは、日本国政府の意思に基づいて吉田茂全権大使が調印し、日本国の意思に基づいてこれを批准したものである。だから、イタリアで補償したように日本も補償しなければならぬと思うが、この点に対する政府の方針はいかがでありますか。
  89. 大平正芳

    大平国務大臣 米軍没収という事実がございまして、これは日本政府の意思に基づいてやったものではない。従って、日本政府としては補償する立場にはないのだということをこの間申し上げたわけでございます。しかし、朝鮮等におきまして粒々辛苦の末財産を持たれ、営業権を持たれた方々がこれを失われたということは、政府として無関心であり得ないわけでございまして、そういう方々の立場も考えまして、先年、御案内のように、引揚者給付金等支給法なるものをつくりまして、可能な限りの措置をいたしたわけでございます。問題は、この大戦争によりましての戦後補償ということを考えることは観念上できるわけでございますけれども、国民の一人々々が何らかの形におきまして政府に対して求償的な立場にあると思うのでございまして、こういう問題をどう処理するかは非常に高度の政治の問題でございまして、ただいままで引揚者に対しましてはそのような措置が講ぜられておるということでございます。
  90. 春日一幸

    春日委員 困難であろうとも、実情がどうであろうとも、そういう判断は、これはやはり憲法二十九条三項でございますか、とにかくその観点において評価、判断、決定されるべき問題であって、何もそれを議題に供しないで、補償すべきものではないと答弁することは適当ではないと思う。イタリアにおいてもこういう事実がある。それから今おっしゃった引揚者給付金等支給法でございますか、こういうような法の立て方と、その在韓財産を補償するかどうか、第四条(b)項に基づいて、日本国政府自発的意思に基づいてこれを調印をし、国会がこの条約を批准したのであるから、日本国の意思としてこれを放棄したのであるから、また、日本国自体としてこれを放棄したのであるから、憲法は、補償を受けることなくして財産没収されることはないというこの保障に基づいて、基本的人権の立場において、これは当然措置されてしかるべき問題である。措置する過程において日本の財源問題です。たとえばこれは地主さんに二千億もやらなければならぬから一つ君の方は泣いてくれというようなことに対する善悪の判断、政策の選択、それは国会みずからが民主的な手続で行なうべきものであって、そういうような選択の機会を与えることなくして、かくのごときものは補償するにあらずと断定的に問題を殺してしまうことは、適当ではないと思うのですが、総理の所見はどうでありますか。
  91. 池田勇人

    池田国務大臣 イタリアの例をお出しになったようでございますが、イタリアは平和条約でその補償の義務を規定しておるのであります。日本はそういう規定をしておりません。そうして憲法の解釈といたしましては、日本政府没収したのではない、アメリカ政府没収したのでございまして、政府には一応責任がないという考え方でおります。なお、これは在韓の財産ばかりではなしに、連合国における財産はみなそういうふうに今までなっておるのであります。私は今までの政府解釈で進んでいきたいと考えております。
  92. 春日一幸

    春日委員 これは明らかに今お説のように、アメリカがやったんだからアメリカ責任がある。だとすれば、責任者アメリカに対して要求すべきであるが、四条(b)項によってこれを承認したから、従って、日本国政府においてこの責任を持たざるを得ない、これは論理が明確でございます。現に明確であるがゆえに、イタリアにおいてその処理がなされておる。だから、それを日本がしないということは適当ではないと思うが、この問題は他の委員会においてさらに検討を進めていただくことにいたしたいと思います。  時間がだんだんと迫って参りましたので、次に二、三の重要な問題だけを伺いますが、これはどうなっておりますか。李承晩ラインを侵したということで不当に抑留されております日本の漁船、それから漁船員、それから起こるところの損害、ここに算出されておるものを見ますと、総計九十億円余に上っておると思います。日韓交渉においてこれが補償についてはどういう扱いがされておりますか、伺います。
  93. 大平正芳

    大平国務大臣 これはこの間も明らかにいたしましたように、請求権の問題と別個でございまして、終戦後起こった事態でございます。この問題は日韓の漁業交渉の一環として処理したいという心組みでおるわけでございます。
  94. 春日一幸

    春日委員 日韓漁業交渉のときにその不当に拿捕された船舶、船員、そういう生命、財産に与えられた損害について日本が賠償請求を行なうことができる、その機会は留保されておるのでございますね。
  95. 大平正芳

    大平国務大臣 今申し上げました通り、漁業交渉の一環として処理したいと思っています。
  96. 春日一幸

    春日委員 総理伺います。この日韓交渉は、請求権問題は交渉内容の一部分であって、そうして竹島の領土問題、それから李ラインの問題、韓国人日本国における法的地位の問題、こういうような問題を同時に解決をするという大方針が、本会議において明らかにされております。そこで心配なことは、この領土問題と李ラインの問題、あるいは国防ラインの問題でございますが、これはほんとうにその同時解決ができるという確たる見通しを政府は持ち得るのでございますか。たとえば竹島の領土問題にいたしましても、これは第三国の調停にゆだねるにしろ、あるいは国際司法裁判所の判決に待つにいたしましても、これは問題を後日にたな上げする形に事実上なってしまうのではないでございましょうか。漁業問題にしても、こういうような方針で後日交渉するのだというのだけれども、さて実際問題といたしまして、本日の新聞報道によっても、相手方に譲歩するところがない、きわめて難航が予想されておる。こういう問題は、いわゆる未解決の解決であってはならぬと思うのです。こういう仕方で解決しようという方法だけ妥決して、これをもって一括解決とみなすというようなことであってはならぬと思うのです。だから実質的、本質的解決、領土問題はこれこれ、国防ラインについてはこれこれ、もう明確にこれを具体的に実質的に解決をして、これを全的解決とみなすのであるか。この点は重大な内容を含んでおると思いますので、明らかにしておいていただきたい。
  97. 大平正芳

    大平国務大臣 一切の懸案につきまして問題を残すことがないようにいたさなければならぬと思います。そうしないと、せっかく正常化の実をあげ得ないわけでございますので、非常に困難な問題ではございますけれども、鋭意努力いたしておるところでございます。
  98. 春日一幸

    春日委員 私は、この領土問題なんかについて、特に総理に注意を喚起いたしたいことは、たとえば国際司法裁判所に提訴する、向こうも応訴した、判決がおりた。その場合、かりに日本の領有であると決定された場合でも、あるいは韓国の領有であると、その最終的帰属が明確になった場合、やはり不利な判決を受けたものに対しては、その国民に相当のショックがあると思うのです。ばかなことはないといってわあわあ騒ぐ場合がないとは言えない。だから、そういうような場合、やはり一括解決ということで三億ドル出した、二億ドルも出した。出しておいて、問題がその時点において発火して、そうして日韓両国の間において国民感情を刺激し合って、そこに両国の友好親善を阻害するようなことがあってはならぬと思うのです。もしそんなことがあったら、やらずのぶったくりにあったようなものです。そういう意味で、私は、そういう問題の推移を相当見通しを立てて、冒頭に、そういうような場合においての取りきめをきちっとしておいて、禍恨を将来に植えることのないように解決をはかっておかなけなればならぬと思うが、それに対する心がまえはどういうものでありますか。
  99. 池田勇人

    池田国務大臣 竹島が日本のものであるとわれわれは主張し、そういうふうにすぐ解決すればよろしゅうございますが、しかし、国際司法裁判所に提訴しようと両者が合意すれば、これは私はそれで解決と見て差しつかえないのじゃないかと思います。ただ問題が、国際司法裁判所の決定が日本に不利であった、あるいは韓国に不利であったということでとやこういう問題は起こらないようにしなければならぬ。それは心がまえの問題で、お話しの通り、最近のカンボジアとタイの間の寺院の帰属の問題等がありますが、それは、両国民がやはりそういうように決定したら、それに従うという良識を持たなければいかぬと考えます。
  100. 春日一幸

    春日委員 次はビルマ賠償の増額問題について疑義をただしたいと思います。このビルマ賠償の再検討条項、これに基づいて今回日緬当局の間に合意されたと理解してよろしいか。この点伺います。
  101. 大平正芳

    大平国務大臣 さようでございます。
  102. 春日一幸

    春日委員 そういたしますると、本日までにおきまするこの再検討条項に対する国会審議の経過をたどってみますると、フィリピン賠償の審議における質疑応答、これは穂積委員と一萬田蔵相との間にかわされております。再検討条項を誘発するおそれはないかと、こういう質問に対して一萬田蔵相、すでにきまったビルマ賠償に影響はないか、この点につきましても十分考慮いたしまして、あの条件では私の考えでは、ビルマの方が特にまた新しく要求してくることはないと考えておる、こういう答弁。穂積委員が、フィリピン協定をやる前後に、ビルマがこの五条(a)三号を援用して増額を要求してこないという見通しを立てられるなら、あなたはそういうことを立証するだけの根拠がなければならぬ、どういう具体的な根拠に基づいてその答弁をなすか。一萬田蔵相の答弁は、これは今それを答弁したわけであって、フィリピンに対して五億五千万ドル、ビルマに対して二億ドルということは、それぞれの国に対する日本の賠償額として最も適当である、言いかえれば、また同時に両国関係においてもバランスがとれておる、均衡がとれておる、だからそういうような五条(a)の三号誘発のおそれなしと断定的に答弁をここでいたしておる。そういうような同様のあれがございまして、次はインドネシア賠償の審議における質疑応答、これは須磨委員と藤山外相との間のあれでございます。須磨委員は、たとえばビルマにいわゆるエスカレーター条項と称せられるものがあるが、そういうものにかんがみて何かまた問題を起こしてくるということになるならば、これはひとりわれわれビルマとの関係のみならず、一般の友好関係を広めるための協定の目的が阻害される、見通しはどうか。藤山外相の答弁は、ただいまお話がありましたビルマとの賠償協定につきましては、再検討条項がついておることは事実であるが、この問題の進展にあたりまして、今日までビルマ側からその問題について何らの意思表示も、あるいは日本政府の意図を尋ねたこともなかった。われわれとしては二億二千三百八万ドルという金額は、ビルマ及びフィリピンとの賠償金額の関連においても適当なものであると確信する、後日問題を起こす心配はない。松本七郎君も同じようなことを尋ねておりまして、藤山外相、その心配はない、再検討条項を誘発するおそれはない。こういう工合に断定的な答弁がなされております。それと今回のビルマに対して一億四千万ドルの供与、これをなされたことは一体どういう関係になりますか、御答弁願います。
  103. 大平正芳

    大平国務大臣 ビルマとの間に現行協定によりまして再検討条項があることは御案内の通りでございまして、その条項によりましてビルマ政府側から要請がございまして、日緬関係の将来を考えまして、わが国の財政が耐え得る限度内におきまして有償・無償の経済協力に応ずるということにいたしたのでございます。その結果、ビルマ側は、将来にわたって再検討条項は持ち出さない、こういう約束をすることになったわけです。
  104. 春日一幸

    春日委員 私は国会における答弁というものはこれは重大だと思う。民主政治は言動政治であり、その言動の責任というものは、これは最高度に責任をとっていただかなければ何にもならぬと思うのです。政治家の言動、わけて国務大臣、国会議員の言動というものは、これは問題の事柄を形成していく根源になるのです。ああは言っておいたけれどもこう違ったんだというように、でたらめになれば、これは漫才や落語とちっとも変わらない、実際の話が。だから私は、ここで特に総理の注意を喚起したいことは、鳩山内閣あるいは岸内閣、これは何といっても同一の政党の内閣なんですね。だから池田総理大臣は、自民党の総裁として、やはり自民党というものに対して最高の責任をになわれておる。岸内閣において、鳩山内閣において、それぞれの外務大臣が見通しを誤ったのです。そのときの便宜的な答弁を行なうことによって国会審議を誤らしめた。その結果、今日日本国民に対して、一億四千万ドルといえばかれこれ五百億円でありますが、こんな大きな新しい負債を支払う義務を発生せしめたことについて私は責任が重いと思う。この際国民に向かって、かつは国会審議を誤らしめたその責任について、この際ほんとうにすなおに陳謝なさいませんか。
  105. 池田勇人

    池田国務大臣 当時の日本政府といたしましては、再検討条項がございましても、ビルマはそれを要求してこないだろうという見通しで答えたと思います。従いまして、その後においてこういうことになったということは、見通しを誤ったということを言わざるを得ません。私はここに国民に対して、見通しを当時誤ったということをおわびいたしたいと思います。
  106. 春日一幸

    春日委員 すなおにあやまられてしまっては二の句が継げない。まことに傲岸不屈なところとまことにすなおなところと、善悪二要素から成り立っておって、捕捉するところまことに困難。(笑声)  そこで外務大臣伺いまするが、この二十五日の覚書では、一億四千万ドルは無償の経済協力となっておりますね。賠償の増額分としないで、なぜ無償の経済協力とやったのですか。あなたはときどき新しいやり方を編み出すので、われわれとしてはずっと経過的に審議しておって、波長が乱されてきて困るのです。五条(a)三号に基づいて誘発したところのこれが賠償の増額であるならば、賠償の増額となぜ書かないのです。無償の経済協力なんという新造語を使われてはちょっと困るのですが、しかし、何かしかるべき事由があるなら述べていただきたい。
  107. 大平正芳

    大平国務大臣 五条(a)三号の再検討条項の問題が、無償・有償の経済協力をやることによりまして将来に向かって主張しないということになるわけでございまして、この問題を片づける方法としては、春日さんのおっしゃるように、端的に賠償増額という方法もございましょうし、また経済協力によって、その結果としてこれがなくなるという方法もあり得ると思うのでございまして、日緬関係悠久の将来の経済協力という観点に立ちまして、私どもは後者である方が適当であると考えて、そういう方法によったわけであります。
  108. 春日一幸

    春日委員 無償の経済協力ということは、今までのこういう賠償協定の中には、ラオスとカンボジアの場合にはその前例がありますけれども、それは相手国が日本に対する賠償請求を放棄したことに対する報いとして、そういう無償経済協力、こういう文言が使われた。このエスカレーター条項に基づくところのビルマの要求は、これは明らかに賠償分の増額であるから、これは賠償分の増額であるとしないと、私は後日やはり禍根を植えていくことになると思うのです。やはり協定はあなたが調印なすったようだけれども、正式な条約の作成というものは今後にあると思うが、これはすべからく賠償分の増額という文言に立ちかえるべきであると思うがいかがでありますか。
  109. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう方法で悪いわけじゃございませんが、私どもがとりました方法によって問題が将来に残らないということでございまして、同一の効果を生ずるわけでございますので、御心配のようなことはないと思います。
  110. 春日一幸

    春日委員 心配がないと言われるが、心配は絶無ではないのです。ということは、私は、こういう問題を派生して判断をしておく必要があると思うのです。エスカレーター条項の五条(a)三号でございまするが、これはやはり最後の時に問題を処理する、こういうことになっております。すなわちビルマとの平和条約五条一の(a)の三号でございまするが、「日本国は、また、他のすべての賠償請求国に対する賠償の最終的解決の時に、その最終的解決の結果と賠償総額の負担に向けることができる日本国の経済力とに照らして、公正なかつ衡平な待遇に対するビルマ連邦の要求を再検討することに同意する。」とあるのです。この条項によって一億四千万ドルというものの増額が決定されたとするならば、この文言を行使しなければならぬと思うのです。文言を行使しないとどういうことになるかというと、私はこういうことが言い得ると思うのです。ビルマと日本国との間において、これが最終的解決の時であるかどうか、それを有権的に規定することになると思うのです。いいですか。第五条の(a)三号に基づいて賠償分を増額した。なぜか、もうどこもかも全部払ってしまって、払うところがない最終的段階であるがゆえに、条項に基づいてこれだけの増額要求に応じたということになれば、もうああいうふうに再検討条項において示されたごとく、賠償の支払いはこれでことごとく終了したのだという意思表示が、間接ではあるけれども、ここになされると思う。ところが、これが賠償の増額分でなくして無償の経済協力であるということであるならば、この条項はなお将来に生きていくのですよ。まだ請求することができるのです。それからまた第三国に対してもまた支払いの義務が絶無とは断じがたい。けれども、ここに条項の第五条に基づいて、もう最終的に払ってしまったのだ、もうあとには払わないのだ、だから日本国の経済力にかんがみてそれぞれの均衡上ここに一億四千万ドル支払うというのであるならば、これは将来に対していろいろ影響するところがある。たとえば台湾政府あるいは中共政府が後日要求してきたことがあるかないかわからないけれども、あったような場合、もうその話は済んでしまっておるのだ、現にビルマとの五条一の(a)の三号の中でこういうふうにやっちゃっておるのだ、もうこれでおしまいになっておるのだということも言い得ると思いますし、またビルマ政府がかわって、また難題をふっかけるようなことはないと思うけれども、法律の文言上その主張はなし得ることになっておる。その点大蔵大臣、あなたが財布の責任をしょせん背負わなければならないが、これはやはり賠償の増額分という文言を使うべきであると思うが、あなたの考えはどうか。あなたはなかなか良心的だから……。(笑声)
  111. 田中角榮

    田中国務大臣 お答えいたします。私の方は、日緬の間の問題が全部片づけばいいのでありまして、それ以上払おうなどという気は毛頭ありません。その意味で、外務大臣答弁をしましたように、当然これが条文整理の段階においては、五条の条件は満たしたことであって、以後日緬間においては、これらの問題は起こらないということが確約せられると思いますので、表現は、外務大臣が今答弁した通りでよろしいという見解をとっております。
  112. 春日一幸

    春日委員 私は、物事は、やはりきちっと法律に基づいて、法律に従って適法に処理されなければいかぬ、後日はからざる問題をこれは常に起こしてくるのですよ。私は、この間のタイ特別円処理協定なんかもそうだと思うのですね。ややこしい文字を使ったがためにああいう問題が起きてきて、九十六億円支払いの義務を新しく発生したような前例もある。他山の石としなければならぬ。前轍を踏まざるの心がまえがなければならぬ。私は、こういう意味合いにおいて、ここに賠償の増額分であることに間違いない。五条の規定によって明確に文言で表示されておる。明示されておる事柄を、ことさらに無償の経済協力というややこしい文章を使うということは、日本のために不利である。すなわちとの条項に基づいて、その賠償をなされたこの時点において最終的処理をなしたんだ。だから、そのエスカレーター条項に基づいて増額したんだ、これでいいじゃありませんか。こうすべきじゃありませんか。総理大臣どうですね。
  113. 池田勇人

    池田国務大臣 御意見の点はわからぬことはございませんが、外務大臣が答えた方がよりいいやり方だと私は万般の事情をしんしゃくしまして結論にしたわけでございます。
  114. 春日一幸

    春日委員 それじゃ、また再来年くらい自民党の総裁から陳謝を取りつけることにいたしましょう。そういうことでございます。時間がございませんから外交問題その他いろいろありまするが、分科会に譲るといたしまして、今度は重要な問題だけ伺っておきたいと思います。  経済問題。主として中小企業問題になると思いまするが、私はここで総理大臣に伺っておきたいのでありまするが、私どもが自民党政府の大企業偏向政策をいろいろと批判いたしまする場合、そのとき総理大臣並びに関係経済閣僚の答弁は、野党の諸君がそういうことを言うけれども、しかしこの自民党政府の歴年の施策の成果として日本の経済は成長したではないか、日本国民の生活水準はかくのごとくに高まっておるではないかと答弁されるのが、また反論されるのが通例でございます。私はこの際その国際的の事実関係を照らし合わせて、総理判断を求めたいと思うのであります。  これは経済企画庁の調査、一九六二年五月現在のものでありまするが、それによりますると、日本、米国、英国、フランス、西独、イタリー、ソ連、中共とありまするが、そこの中で各国の経済力の比較表、これは日本がそのとき十五億八千六百万ドル、今はずっとふえておるでありましょうが、そうである。このときに西独は六十億である、人口は九千四百万であるのに対して、西独は四千八百万、輸出能力は日本が四十二億ドルであったに対して、西独は百二十六億ドル、国民生活の水準は日本を一とするならば、西独は二・九、イギリスは三・四、アメリカは七・五、西独は約三で日本の三倍。それで国民一人当たりの所得は日本の十万七千五百十五円に対して、西独は三十三万二千六百四十円。これを一体総理は何と判断されておるかという問題でございます。  御承知の通り日本も西独も同じように第二次世界大戦における敗戦国、しかし違いまするところは、西独は戦場になりました。そして国土が二分割されました。そしてその敗戦のとき、占領しておったソ連軍が、西独にあったところの機械、設備を全部略奪して、ソ連国内に持ち去ったことは御承知の通り。これは満州における満州重工業関係のものを持ち去ったことと同様であります。その当時二百億ドル、満州関係八十億ドルと評価されたほどであります。それでありまするから、西独は丸裸になっちゃった、同じ敗戦国でも。そうして人口は二分されて四千八百万、国土は日本の五分の一。この西独が戦後十数年間西独国民の勤労の成果、それから西独政府のその施策のよろしきを得た結果といたしましてか、とにかく日本の半分の人口、五分の一の国土でもって日本の三倍の経済力、国民生活は三倍に高められ、保有外貨はかれこれ四倍近い、輸出能力は、やはりこれも三倍以上ということになりましょう。だといたしますると、その国民性も類似しておる、工業国として、勤勉国として非常に似通っておる西独において、こういうような大いなる繁栄がある。私は自民党内閣の歴年にわたるところの経済施策は、やはり功績は功績としてこれを認めるにやぶさかではない。けれども、西独のそれに比べてなおかつ劣るものが多くある。山谷のドヤ街に、釜ケ崎のドヤ街に、全国のそのような特殊スラム街に絶望者たちが数十万人おります。生活保護者が百四十何万人、そうしてボーダー・ラインにおって、今にも生活保護に転落しようという低所得階級が一千一百万人。このことは西独の勤労者の所得がうんと高まって、今や西独国における国民の中堅階層がその生活も地位も安定しておることとあわせ判断して、日本におきまするこれらの実態は非常なおくれがあると思う。だとすれば、このことは日本におけるあなた方の施策が何か足らないものがありはしないか。何か間違っておるものがありはしないか。西独、イタリー、こういうような敗戦国のその再建と経済成長、国民生活水準の向上とあわせ判断して、大まかな一つの反省というものがあってしかるべきであると思うが、いかがでありますか。
  115. 池田勇人

    池田国務大臣 外貨保有高につきましては、お話しのごとく各国いろいろな事情がございます。ただ、私が申し上げておることは、日本国民の努力によりまして非常に高度の成長を続けておるということであるのであります。もちろん過去の蓄積等は、これはもう西ヨーロッパに対しまして比較になりません。しかしただ、日本が非常な早い速度で伸びつつ行っている、またインフレその他の懸念もない、こういうことをわれわれは誇りとし、それを続けていこうとしておるのであります。もちろんイギリスのような国が、あれだけ過去の蓄積を持ちながら、成長力が非常に弱まっておるというふうなことから比べると、日本はこれから先進国に伍していける素質を持っておるということで、その素質を伸ばしていこうといたしておるのであります。
  116. 春日一幸

    春日委員 私がお伺いいたしました要旨は、まあ自民党さんも一生懸命やっていらっしゃる。しかしわれわれの観点からすれば、それは大企業偏向である。中小企業並びにそのもとに働く関係労働者あるいは農民その他の者に対する施策は非常に薄い。だからわが国の経済は二重構造になっておる。二重構造のひずみの中からいろいろなおくれや貧困を発生しておる、こういうふうに申し上げておるのでございまするが、それは他の機会に深く論ずることといたします。  そこで私は総理にお伺いいたしたいことは、何といってもわが国の産業経済を分析いたしまするならば、それは経済学者も経済評論家も、相当の経済人も、これは二重構造であると言っている、ある者は多重構造だと言っている。これは要するに企業間、地域間、産業間に相当の断層があるといわれておる。このことは、労働大臣がお見えでございましょうけれども、昭和三十六年の企業別賃金格差対比率によりますると、大企業の賃金を一〇〇として、三十人未満の事業場における中小企業関係労働者の賃金は四九・三、これは三十六年度の通算でありまするから、三十七年度にこれは多少変わっておるといたしましても、実態にそんなに変化はない。同じ政府のもとにおいて、憲法のもと、法律施策の上において、国民は平等の原則が保障されておるが、同じ施策のもとにおいて生きる国民が、同じ国民が、ある者は一〇〇の賃金所得が保障せられ、ある者はその半分にも満たないような賃金しか得れないというこの経済の実態を何と見るか。これは何とか是正しなければならぬ。所得格差を是正すること、それから所得の均衡をはかること。高度成長政策とか何とかというものも総理からずいぶん伺いました。それはいろいろと分配するもとをまずつくるんだというその説、もう聞き飽きております。ただ問題は、日本の経済というものの所得格差、この断層を圧縮することのためには、まず今までのやり方と変わったやり方が必要ではないか。安定成長、均衡ある発展、こういうことでなければならぬ和そのためには、現在の日本の経済構造を、これを政策的に大きく改善、改革せなければならぬとはお思いになりませんか。この点についてお考えを……。
  117. 池田勇人

    池田国務大臣 所得格差はどこの国にでもあるのでございます。今、労働者の点から申しましても、イギリス、ドイツ等におきましても、大企業としからざるものの間におきましては、大企業を一〇〇とすると七五、六、八〇以下でございます。ただ日本状態は、三十五年の終わりぐらいまでは、お話の通り四八、九であったと思います。しかし今は五四、五になっていっておると思います。しかしそれでもなお足りません。そこで私は、どういうふうにしてこの所得格差をなくするかということにつきまして、従来から考え、まず第一の問題は農業でございましょう。それからまた業種別、規模別格差、これが今のお話の点だと思います。これをどうやっていくかという場合におきましては、私はやはり高度の経済成長によって薄い方を厚くすることが第一だと考えておるのであります。従いまして、高度成長内におきましての所得格差はかなり縮まってきつつあります。そこで、いろいろな消費物価の上昇等を言われますが、これは、物価は上昇しないに越したことはございませんが、しかし、所得格差をなくしなければならぬという強い命題から申しますと、ある程度はがまんしていただかなければならぬと私は考えておるのであります。従いまして、中小企業、ことに自由職業の方の賃金も相当上がってきております。徐々に格差をなくする方向に進んでいっておる。しかもその進み方は、外国のそれよりも非常に早くいっておる、格差をなくする上におきましても早くいっておる、こう私は考えております。
  118. 塚原俊郎

    塚原委員長 春日君に申し上げます。申し合わせの時間が経過いたしましたので、結論をお急ぎ願いたいと思います。
  119. 春日一幸

    春日委員 法制局長官が妨害した時間だけは僕は……。
  120. 塚原俊郎

    塚原委員長 その分は十分に加味しております。
  121. 春日一幸

    春日委員 問題は、総理、あなたは今まで高度成長、所得倍増政策をその経済政策の基本方針とされておりました。まあ、そういうことも必要でございましょう。とにかく分配を豊かにするためには、そのもとを大きくすることは必要でありますけれども、今やこの段階においては、パイを大きくつくることは必要ではあるけれども、しかしそれを分配するそのメスの入れ方ですね。それを、ある者だけがうんとたくさん食って、他の者がほんの薄っぺらなものも食えないということでは、これは何も国民に福祉をもたらす形にはならぬ。経済政策の要諦は国民福祉の増大にある。そういう点から考えますと、何といっても、これはすなわち、あなたの政策の具体的な方向というものを、この際は、高度成長から、やはり二重構造の解消、それから国民所得の均衡をはかる方向、ここへ重点を置きかえなければならぬと思うが、宮澤経企長官、それから大蔵大臣、通産大臣、この三大臣一つ答弁してみてくれ。
  122. 宮澤喜一

    ○宮澤国務大臣 過去のことをおきまして、今の時点で考えますと、まさしくそういう問題が私どもにとって一番大切な問題だと思います。農業については、今総理がちょっと触れられましたが、先日申し上げましたように、技術革新に伴うところの設備の更新等が大企業については一巡したやに思われますが、これから中小企業にも、おそらくそういうことが起こるであろうということを先日申し上げかけたわけでありますが、それはそうなければならぬことだと思います。中小企業基本法等、いろいろな法体系の用意、あるいは金融措置なども用意されておりますが、経済の大きな動きとしては、まさにそういうことがこれから中小企業を中心に起こっていくであろうと思います。それとともに、おそらく五年くらい先には、かなりの中高年令層を別にいたしまして、一般的な労働事情の逼迫と申しますか、生産性を高める必要が起こって参りますから、趨勢としてはまさしくそうであると思います。
  123. 福田一

    ○福田国務大臣 日本の中小企業には特殊の事情が起こったことは、地理的、歴史的、いろいろな事情があったことは、あなたもおわかり願えると思うのでありますが、しかしこの段階において二重構造を是正をしなければならないというお考え、その方針には私は賛成でございます。
  124. 田中角榮

    田中国務大臣 地域間や業種間の格差是正に対して諸般の立法処置を行ない、予算措置も行なっておることは御承知の通りであります。中小企業に対しては、春日さん中小企業の専門家であり、私も御質問を受けながら随時検討いたしておるわけでありますが、これは政治の面、行政の面で一つ思い切って取り組まなければならない問題であるということだけは事実であります。また、三十八年度の予算でも、あなたがいつでも言っておられましたように、中小企業投資育成会社等にも踏み切りましたし、今度の税制等の改正につきましても、圧縮記帳の問題、その他中小企業育成等の各種の手段を行なっておるわけでありますが、中小企業そのものをただ現実的な目で見て、このままの姿でもって中小企業と大企業との格差が必ずしも直ちに是正できるかということは、問題があると思うのです。  時間がありませんから簡単に申し上げますと、日本の中小企業はいかにも多種多様である、こういうところに大きな問題がありまして、お互いこの問題に対しては、一つ積極的に取り組みながらこの問題を解決しないと、日本のほんとうの経済革新というものもできないという考えに立って、政府も鋭意これが目的達成に努力を払っているわけであります。
  125. 春日一幸

    春日委員 結局、明らかになりましたように、今後の具体的経済政策の方向というものは、高度成長にあらずして、二重構造の解消、国民所得の均衡をはかるという方向にこれは組み直さなければならぬと思う。かくのごとき要請にこたえるものが、私は中小企業基本法であろうと思うのですね。だから問題は、私は総理以下関係閣僚に申し上げたいのでございますが、この中小企業基本法というものは、中小という名前がついておるものだから、何だか政治問題としてその価値の評価が中ぐらいのもの、あるいはちっぽけな政治問題のごとくに印象づけられておるというきらいなしとはしないのですね。だから、私はそういうような大目的、国民の福祉の増大、富の所得の格差、これをなくする、均衡をはかるという大きな問題、これは政治問題の全的なあらゆる要素を包含しておると思うのですね。従って、この中小企業基本法こそは、わが国の経済改造法案みたいなものだと思うのですね。社会改造法案、日本国改造法案、私はこのような大きな使命をになうものであると思うので、従って各条文の作成、これは基本法であるからおのずから国家宣言になるであろうと思うが、その宣言は、私は、てきぱきとした明確な、篠田弘作氏のような人柄で、ばりっと言いたいことを言ってもらうような、そんな発言、表現が必要だと思うのですよ。私は、中小企業基本法を読んでみると、一体どちらを向いてものを言っておるのか、実際わけがわからぬ。私は、通産大臣に対してきわめて遺憾の意を表せざるを得ないのだが、これは一体どちらを向いてものを言っておるのか。大企業に気がねして、あるいは農民団体や消費者団体にも気がねをして、そしてぶつぶつとひとり言をつぶやいておるようなものですね、実際の話が。厳然として国家の意思を宣言するの鮮明さを欠いておるのですね。だから、私はこれが日本国経済改造法案である、日本国改造法案であるという見識の上に立って、この文言あるいはその宣言内容というものをもう少し高めていただくのでなければならぬ。昨日も新聞報道によると、いろいろな団体がいろいろな圧力をかけて、その弱いつぶやきをさらにサイレントにしようとしておるのですね。まことに悲しむべき事態と申さなければならぬ。  そこで総理伺いますが、中小企業基本法はいつ提出されますか。
  126. 池田勇人

    池田国務大臣 なるべく早く出すように督励いたしております。
  127. 春日一幸

    春日委員 そういうことは三年も前から言っておりました。だからこの国会においては、今度の国会は中小企業国会といわれるほど、全国四百万の中小企業者、千七百万の店員、工員の諸君は、これは非常に期待している。だから私は、やはり予算審議と相並行して、この重要問題はこの地方統一選挙を前に国民のその関心の中で十分深く論じられなければならぬと思うが、これは早期提出を要望いたします。  通産大臣、この中小企業法の国家宣言に基づく関連法規としていろいろな法案が準備されておると思うが、今政府が予定しておる関連特殊立法、これは何々であるか、これを述べられたい。
  128. 福田一

    ○福田国務大臣 まず大いに中小企業問題の重要性を説いていただいておるお気持はよくわかるのでありますが、その方針について、もう少しばりっとしたものでなければいかぬというお話であります。私は、政治というもののやり方は、一挙に革命的なやり方をするのも一つのやり方であり、一つの調和をとりながら政治をやっていくということもまた一つの成長のやり方であると考えておるわけであります。そういう意味からいえば、春日さんが言われるような、いわゆる非常に急激な形においてこの法案ができておるかどうかということについては、これは議論が出てくるところではあると思いますが、私たちは、現段階において中小企業を育成していくという姿においては、現在提出する法案が、まあまあ妥当な線であるという見識のもとに立って、実はこの法案を出しておるということをまず御了解を願いたいのであります。  なおこの法案をいつ出すかということでありますが、大体われわれの今予定しておるところは、来週中にも基本法の方は出したいと考えております。それからその他の関連法案につきましては、相当、九つ程度、八つになりますかありますが、これは今つくっておるものもあります。名前を言えとおっしゃれば、今長官から述べさせますが、これもすみやかに提出するようにして御期待に沿いたいと考えております。
  129. 春日一幸

    春日委員 時間もだいぶ過ぎておりますし、同僚諸君の土曜日の御迷惑もありましょうから、この辺で結論にいたします。  ただ私は、総理に申し上げたいことは、とにかく四百万の経営者というものは、今中小企業基本法の制定を強く政府、国会に向かって要請いたしておりまするが、それは自分の所得を増大したいというその欲望から要求しておると受け取るべきではないのでございます。というのは、統計に示されておりまする通り、そのもとに働く店員、工員の総数は千七百万である。これだけの諸君がいろいろと中小企業の置かれておりまするその立場からして、その企業利潤が少ない、少ないから、ないが意見の総じまいということで、低賃金、重労働を余儀なくいたしておる。縁あって自分のところにきた店員、工員が憎かろうはずがないから、所得はふやしたい。官公吏、大企業並みにふやしたい。ふやしたいけれども、ふやすことができない。それは企業利潤が少ないからである。それは施策が乏しいからである。施策とは、すなわち税制において重い。金融においてそれは窮迫しておる。組織の面においては、大企業の圧迫、その他の圧迫がここに跳梁しておる。こういうものを排除することは、排除してくれといっておることは、労働省の賃金統計対比率に示されておりまするように、それは四九・三、今五四であるといたしましても、それをできるだけ所得の均衡をはかっていこうという、すなわち、経営者にゆだねられておるその関係労働者に対する賃金と、生活の責任を果たすための要求なんですね。だからその要求というものは、なすわち国的家な責任であり、社会的な責任を満たすための要求なんだから、国がそのような使命を彼らに果たさしめることのために必要な協力を行なうということは必要なことである、それは不可欠の要件である、当然事項である。こういう意味におきまして、ここに中小企業基本法の制定というものが必要になってきておるのでありますから、どうかそのような意味合いにおいてこの文言、中小企業基本法を読んでみますと、中小企業の事業活動の機会の適正化なんというようなこと、これはわかりますか。まるで奥歯にものがはさまって、もぐもぐしておって、何のことかわからぬです。中小企業の事業活動の機会の適正化なんていうもんじゃない。これはやはり要請せんとするところは、大企業というものは中小企業を圧迫するので、中小企業の産業分野の確保、これは社会党も民社党も、歯に衣を着せないで明確に言っておる。何でも初めに言葉ありという。初めに明確な言葉で言わなければだめなんですよ。だから、そういうような意味合いにおいて、今度の中小企業基本法というものは、そういう民族的要請、そうして国際的な各国の繁栄と経済力、また国民生活の対照から判断するならば、日本国として一日もこれをゆるがせにすることのできない緊急のことに属しておる。どうかそういうような意味合いにおいて、総理を先頭にして関係閣僚が、少なくともこの池田内閣の責任において抜本塞源的な二重構造の解消と国民所得の均衡化をはかり、長年にわたる大懸案が根本的に解決をはかり得るように、そのような有効な、有益な中小企業基本法案を提出され、それに必要とする関連立法も同時に提出されんことを強く要望いたしまして、自後の質問は他の委員会に譲ることにいたします。
  130. 塚原俊郎

    塚原委員長 午後一時三十分から再開することとし、暫時休憩いたします。    午後零時三十七分休憩      ————◇—————    午後一時四十分開議
  131. 塚原俊郎

    塚原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  昭和三十八年度総予算に対する質疑を続行いたします。  野原覺君。
  132. 野原覺

    ○野原(覺)委員 私は、日韓問題と文教、労働の問題を中心に政府にお尋ねをいたしたいと思うのでございますが、日韓の問題につきましては、本委員会におきましても、勝間田、木原、午前中に春日君が質疑をいたしておるのであります。その質疑を承りましても、政府答弁は、どうも私が聞きまして明確を欠いておる。そこで、私は若干重複する点はございますけれども、この問題について、今少しく掘り下げてお伺いをいたしたいと思うのでございます。  第一にお尋ねいたしたいことは、日韓の間の諸懸案の一括解決がなければ日韓の国交正常化はできないんだ、やらないんだということを総理は再三言明されておるのであります。そこで、この諸懸案の一括解決がなければ、日韓間の国交正常化はあり得ないという基本的な態度は、韓国側も了解をしておるのかどうか、この点について総理にお伺いいたします。
  133. 池田勇人

    池田国務大臣 私は直接交渉に当たっておりませんが、日本政府の基本方針はそうでございます。
  134. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それは了解いたしておるという意味でございますか、はっきりおっしゃって下さい。
  135. 池田勇人

    池田国務大臣 日本政府の基本方針ははっきりしております。それを外務大臣並びに代表に言っております。
  136. 野原覺

    ○野原(覺)委員 外務大臣にお伺いいたしますが、あなたが交渉責任者でございますが、韓国の方は、この基本的態度をもとより了解して請求権のあのような解決を見たものだと思うのでございますが、いかがですか。
  137. 大平正芳

    大平国務大臣 私どもの一貫した方針は、常に先方に申し上げてあるわけでございまして、先方もそういう前提の上に立っておるものと考えております。
  138. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それならば総理にお伺いいたしますが、これは総理でなくて外務大臣でもけっこうですが、いつどういう形で了解を取りつけたのかということです。あなたは、先方が了解しておるだろうというあなたの推測でございますか。この基本的態度については、韓国の方も一括解決しなければ国交正常化はしないんだ、こういう了解を明確におとりになっていらっしゃるかどうか、これをお聞きしたいと思うのであります。
  139. 大平正芳

    大平国務大臣 明確に文書で了解を取りつけるまでもなく、当然のことでございまして、私はそのように先方も了解の上に立ってやっておるものと考えています。
  140. 野原覺

    ○野原(覺)委員 昨年の暮れでございましたか、大野さんが韓国を御訪問なさったのでありますが、この大野さんに同行された記者団が、朴議長に竹島の問題について質問をしておるのであります。そういたしますと、朴さんがこういうような答弁をいたしておる。竹島問題は日韓会談とは別個の問題だ、従ってこの問題は日韓会談が成立して、国交が正常化した後に外交的に解決すべき問題だ。これが朴議長の昨年暮れの見解なんです。ところが日本政府の方は諸懸案の一括解決がなければ、つまり竹島について申し上げますと、竹島問題が解決しなければ国交の正常化はあり得ないというのが日本政府態度。ところが朴さんに言わせますと、竹島の問題はあと回し、国交の正常化が済んでから外交的に解決すべき問題だと言っておる。これは基本的態度について了解をとっていないじゃないですか。この違いはどうなんですか、外務大臣
  141. 大平正芳

    大平国務大臣 先方の御意向が新聞に出たことは承知いたしておりますけれども、ただいま総理が言明されました通り、わが方といたしましては一括解決という不動の方針で進んでおります。
  142. 野原覺

    ○野原(覺)委員 答弁をそらしてはいけないと思うのです。大平さん、わが方の方針を聞いておるのではない。わが方の方針を韓国もまた了解しておるかと聞いておる。だから竹島問題の解決がなければ国交の正常化はあり得ないというのがわが方の方針、ところが朴議長並びに韓国最高会議の広報室長、この方もまた最近、いや竹島問題はあと回しだ、国交の正常化が済んでからやるんだ、こう言っておる。了解がとれていないじゃないかということを聞いておる。あなたの先ほどの答弁とそれから今の答弁が若干違いますよ。これはとれてないのかとれておるのか、この基本的態度についていかがですか。
  143. 大平正芳

    大平国務大臣 これは、両方が意見が合わなければ妥結がないわけでございまして、わが方といたしましては、そういう方針でやっておるということでございます。問題は、今竹島に言及されたのでございますが、竹島問題の解決ということにつきまして、先般来日本側の見解といたしましては、こういう領土紛争がございますから、これは国際司法裁判所のような、それを解決する実績と能力と信用を持ったところに提訴し、先方も応訴するということにしたらどうかという提案を申し上げておりますことは、本委員会を通じましても申し上げておるわけです。問題は、それではそれを解決と見るのか、それとも領土紛争でございますから、どちらに帰属するかがはっきりするのを解決と見るのかということになりますと、私どもは、帰属がはっきりするということでありたいわけでございますけれども、こういう領土のめんどうな問題でございますので、国際司法裁判所のような機関に提訴し、応訴するというようなことになれば、これを一つの国交正常化の前提としての解決というように受け取らざるを得ないのじゃないかという考えでございますので、今野原委員がおっしゃられる解決、そうして先方が申しておる解決がどのような段階における点をさしておるのか、そのあたりは私は究明いたしていないわけでございますが、ともかく私どもの既往の方針は、今問題になっておる諸懸案というものが解決するか、あるいはこの解決に至る手順が双方においてはっきり確認されるというようにしないと、国交正常化はあり得ないと考えております。
  144. 野原覺

    ○野原(覺)委員 日本政府の考えは、あなたがおっしゃったことで私も了解いたします。しかし私がお聞きしておりますのは、請求権については無償経済援助とかあるいは有償経済援助という形で一応ああいうすりかえの解決をしたのです。これは最終の解決でなくても一応の話し合いをおつけになられたのです。私がここで問題にしたいのは、諸懸案の一括解決だと総理は何回となく言明しておられるのでございますから、まずこの基本的な態度について韓国も了解した上で一つ一つの問題を取り上げていくべきではないかと思うのです。どうも私は、竹島の問題にしても、李ライン、漁業協定の問題にいたしましても、今日新聞で報道せられておるところから私が判断いたしまする限り、どうも諸懸案の一括解決ということは日本が勝手にひとりで言っておるだけなんです。韓国は一括解決しなければ国交の正常化はあり得ないという、池田さんが何回となく私どもに言明した基本的態度については、了解をしていないのじゃないかという疑いがあるからお尋ねをしておるのです。この点、外務大臣、もう一度明確にして下さい。長い御答弁は、要りません。了解しておるのか、いないのか。
  145. 大平正芳

    大平国務大臣 冒頭に私が申し上げましたように、当然の前提として何回も先方に日本側の趣旨は述べてあるわけでございまして、そういうことは先方もよく承知の上でおられることと思います。
  146. 野原覺

    ○野原(覺)委員 先方も承知しておるのに、竹島の問題でこういうそごを来たすのはなぜかと申しますと、これまた私の考えでございますが、解決とは何かということが明確でないのであります。諸懸案の一括解決と総理は申されますけれども、総理にお尋ねいたしますが、解決とは具体的に言って一体どういうことでしょうか。もっと分けて申し上げますと、日韓双方が合意に達することを解決というのか、それとも、日本政府の要求しておることが実現することをもって解決というのか。先ほど春日君に外務大臣から御答弁されたのによりますと、後日問題が残らないようにすることが解決だと、こう言っておるのでございますが、後日問題が残らないようにするというのも、これはきわめてあいまいである。後日問題が残らないようにしよう、こういう合意で、一応竹島の問題はたな上げにしようじゃないか、漁業協定については後日問題が残らないようにしよう、あとで相談しようじゃない、とにかく暫定措置として君のところの四十海里のこのラインを認めようじゃないか、こういうことも解決に入るのでございますか。総理、どうなんですか、これは。
  147. 大平正芳

    大平国務大臣 たびたび申し上げておるように、日韓の間の懸案の解決は、両国の国民が納得するようなことでなければなりませんし、両国政府が合意し得るものでなければならぬと思うわけでございまして、あらゆる懸案につきまして、そういう角度から私どもは鋭意検討を重ねておるわけでございます。
  148. 野原覺

    ○野原(覺)委員 では、外務大臣に具体的にお尋ねしますが、竹島問題のたな上げもあり得るわけですか。それから、李ラインや漁業問題はあと回しにするという日韓双方の合意ができれば、これも諸懸案一括解決の解決に入る、こう受け取ってよろしゅうございますか。
  149. 大平正芳

    大平国務大臣 今申しましたように、そういうことでは国民の御納得がいかぬと思うので、私どもは、そういうことは毛頭考えていません。
  150. 野原覺

    ○野原(覺)委員 では、外務大臣、竹島問題についての解決とは何ですか。竹島問題について後日問題が残らないようにする、その解決という具体的な内容は何でございますか。
  151. 大平正芳

    大平国務大臣 竹島の帰属がはっきりするというところまで参らなくても、その帰属をはっきりせしめる手段方法について双方が確実に合意し合うものがないと、解決と言えないと考えております。
  152. 野原覺

    ○野原(覺)委員 その手段方法につきまして、朴議長は、日韓会談が成立して国交が正常化したあとに外交的に解決すべきだと言っておるのです。この朴議長の言は、これは竹島問題の解決の中に入りますか。いかがですか。
  153. 大平正芳

    大平国務大臣 帰属をはっきりさすことができるような手段方法というものを、双方において国交正常化前に合意しておかなければならぬと思っております。
  154. 野原覺

    ○野原(覺)委員 朴議長のこの発言は、それでは解決の中に入るのですか。朴議長は諸懸案一括解決のこれにそごをした発言をしておるのではない、こういう御理解ですね。
  155. 大平正芳

    大平国務大臣 少なくとも私どもの方としては今申し上げましたような考え方でおるわけでございまして、そのラインに沿って先方が国交正常化後すでに確認した方法において帰属を決定する手順を進めるのだという意味においては、了解し得ると思います。
  156. 野原覺

    ○野原(覺)委員 国交正常化の後に竹島問題が外交的に解決されなければならぬという朴議長のこの見解は、日本政府見解とは違う、こう受け取ってよろしゅうございますか。
  157. 大平正芳

    大平国務大臣 私の今申し上げた考え方で日本はおるわけでございますので、そのように御了承願います。
  158. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それでよろしいかと言っている。
  159. 大平正芳

    大平国務大臣 先方の方がどのようにおっしゃろうと、私どもはそういう考え方でおるということを申し上げておるわけです。
  160. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、朴議長の新聞記者団に御答弁になったことは日本政府の考えとは違うということがここではっきりしたのであります。  そこで、私は総理にお尋ねいたしますが、諸懸案の一括解決という諸懸案とはたくさんある。これは総理が御承知の通りであります。日本として最も重大な関心を持たねばならぬ懸案は何でございましょうか。請求権の問題、李ラインの問題、漁業の問題、竹島の問題等々ございますが、日本国民が今日日韓会談の解決でこの問題だけはどうしても解決してもらいたいという関心を持っているものは、総理は何だとお考えでございますか。
  161. 池田勇人

    池田国務大臣 今お話しの四つの問題が重要な問題だと考えております。
  162. 野原覺

    ○野原(覺)委員 四つの問題が重要問題。そこで、あなた方は財産請求権の問題から手をつけていかれたのです。日本国民が最も関心を持っているものは、これは漁業問題です。李ラインの問題です。国際法違反の問題です。もとより、財産請求権の問題は、平和条約四条わが国が受諾しておるのでございますから、これは解決しなければなりません。しかし、国民として一番関心を深めておるのは、李ラインをなぜ早く撤廃してもらえないかという問題じゃございませんか。どうも、池田内閣のこの日韓交渉のやり方を見ておりますというと、そういう問題があと回しになっておるのです。請求権の問題から先に手がけていっておる。  そこで、私が総理にお尋ねいたしたいことは、請求権の問題が解決すれば、李ラインの問題や、漁業協定の問題や、竹島の問題等は、いずれ日本の主張が通せるだろうから、韓国が一番深い関心を寄せている請求権の問題から手がけよろ、これで韓国を納得させるならば、竹島、李ライン、漁業問題は、これは幾らかでも日本の主張が通るだろうという期待があって、請求権の問題解決に乗り出されたのではなかろうかと思うのでございますが、いかがですか。
  163. 池田勇人

    池田国務大臣 全部を一体として考えていっておるのであります。それは、問題によりまして先に話が進むものもありましょうし、あとまで残るものもありましょう。これは交渉経過によることで、全体として一括決定することに変わりはないのでございます。
  164. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それでは、次にお尋ねをいたしますが、昨年の十二月の暮れに、大野さんが韓国をおたずねなさったのであります。おたずねなさった大野さんが日本にお帰りになられて、総理にどういう御報告がございましたか。できれば詳細に承りたいのであります。
  165. 池田勇人

    池田国務大臣 朴議長と会われ、そして、いろいろ両方の国交正常化を急いでやろうという話、また、韓国の事情等をお話しになったのであります。
  166. 野原覺

    ○野原(覺)委員 外務大臣大平さんと、それから金鍾泌氏との間に会談が持たれまして、そして大平・金会談のメモというものも問題になるのでございますが、あの大平・金会談のすみやかな実現方を池田首相に要請してくれという、朴議長の伝達があなたにございましたか。
  167. 池田勇人

    池田国務大臣 特定の問題についてどうこうという話はございません。全体の問題でございます。
  168. 野原覺

    ○野原(覺)委員 その際、大野さんは、竹島問題については共有論でいくべきではなかろうかという御意見の開陳が総理にございませんでしたか。
  169. 池田勇人

    池田国務大臣 ございません。
  170. 野原覺

    ○野原(覺)委員 一体、大野さんの御報告というのは、ただいまの総理の御答弁によりますと、これは朴議長との会談の結果の御報告だということでございますが、この御報告というものは、大野さん個人の意見としての報告でございますか、それとも、あなたが大野さんを韓国に使節として派遣をされて、朴議長との間に外交的な交渉を持った、その外交交渉の結果の御報告でございますか。どちらですか。
  171. 池田勇人

    池田国務大臣 大野伴睦君には外交交渉権はございません。
  172. 野原覺

    ○野原(覺)委員 外務大臣にお尋ねいたします。大野さんはどういう旅券で韓国に行っておられますか、お伺いします。
  173. 大平正芳

    大平国務大臣 外交旅券を交付いたしております。
  174. 野原覺

    ○野原(覺)委員 外交旅券というのは、旅券法によりますと、公用旅券、一般旅券、——公用旅券の中に外交旅券があるようでございますが、外交旅券を出す場合はどういう場合ですか。
  175. 大平正芳

    大平国務大臣 外交旅券をどういう基準において出すかということは、国内法上も国際法上も特別の規定はございません。従いまして、外務大臣が各国の慣例等を勘案いたしましてきめることになっております。
  176. 野原覺

    ○野原(覺)委員 外務大臣判断でできるわけですね。そうしますと、外務大臣はどう判断をして外交旅券をお出しになったのですか、大野さんに。
  177. 大平正芳

    大平国務大臣 現段階における日韓の友好関係機運を醸成するということは大切なことと判断いたしまして、大野伴睦氏の立場、経歴等を考えまして、外交旅券を交付すべきものと判断いたしました。
  178. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、日韓交渉を進めることは重要なことだ、こうあなたは判断をされたのですね。つまり、これは日韓会談という外交交渉をするから外交旅券を与えられたのじゃございませんか。日韓交渉という外交交渉じゃございませんか。  あなたの党から過日周恩来の招請によって松村謙三さんが中国にいらっしゃった。これは何という旅券を出していますか。
  179. 大平正芳

    大平国務大臣 松村先生の場合は今確認しておりませんから、あとで確認してお答えいたしますが、大野副総裁の訪韓は外交交渉ではございません。外交権は、乏しきながら私が専管いたしておるわけでございます。
  180. 野原覺

    ○野原(覺)委員 松村さんは日中貿易の問題で周恩来に招請をされていらっしゃったのだ。そのときの旅券は、私の聞くところによれば一般旅券です。これは公用旅券でもないのです。大野さんは、総理のただいまの御答弁によりますと、個人の資格で行ったのだという。ところが、外務大臣は、外交交渉じゃありませんが、日韓会談は重要だから出したのだと言われる。日韓会談が重要だということは、日韓の外交交渉を早く実現させなければならぬという意図があるとあなたは判断して出したのじゃございませんか。私は、外交旅券というものは外交の折衝をする者に与える旅券だと思うのです。外交の折衝とは、政府を代表して外交するものです。そうでしょう。勝手に私が韓国に行く、北鮮に行く、中国に行くというときに、私に旅券を与えますか、国会議員だからといって。松村謙三さんにも与えていない。高碕さんにも与えていないのです。ともに、中国の総理から招請されておるのに、一般旅券なんです。公用旅券でもない。ところが、大野さんの場合には外交旅券でございますから、これは、どう考えても、外交交渉の任に当たる者に与える旅券でございますから、単なる個人の資格とは私どもは判断できないのであります。  そこで、外務大臣にお尋ねいたします。まことに失礼なことをお尋ねいたしますけれども、国政審議の場でございますから、私はつつ込んでお伺いいたすのでございますが、外交旅券でいらっしゃったとすれば——しかも、日韓交渉を促進してもらうためにと、あなたはそういうお言葉がございました。外交旅券でいらっしゃったとするならば、訪韓の費用というものは当然国が負担をしなければならぬのであります。大野訪韓の費用は。外交旅券を出しているのですから。これはどうなっておりますか。
  181. 大平正芳

    大平国務大臣 私は、外交交渉を促進するために訪韓をお願いしたとは申し上げていないわけでございます。日韓の間の友好の機運が醸成されることは政治的に大事だということで大野先生の訪韓を評価いたしておるわけでございます。外交旅券をどのような場合に出すかということは、先ほど私が御答弁申し上げた通りでございまして、大野訪韓は、大野副総裁個人の資格であると承知いたしております。
  182. 野原覺

    ○野原(覺)委員 国から経費はお出しになりませんでしたか、外務省から訪韓の経費は。
  183. 大平正芳

    大平国務大臣 訪韓の経費は負担いたしておりません。
  184. 野原覺

    ○野原(覺)委員 この点は、私ども国政審査の権利があるのであります。巷間いろいろなことが実はうわさをされておるのであります。うわさでございますからあえて私は申し上げたくないのでございますけれども、たとえば、外務大臣に対しておみやげ代を請求したとかしないとか、そうして、大平外務大臣は、それは韓国にいらっしゃるならばおみやげ代も要るだろうといって承諾したとかしないとか、こういうことがうわさされておるのでございますから、こういったうわさというものは、私どもは国会においてはっきり解明しなければならぬと思うのであります。そこで、あなたが外務省からはびた一文金を出していないとおっしゃるならば、これは私どもは絶えず適当な機会にこの問題は国政審査の権利がございますから調査をいたしたいと思うのであります。  そこで、総理にお伺いいたしますが、日韓共有論については何の話もなかった、こういうことでございますが、大野さんが日韓共有論者であるということはあなたは御承知ですか。
  185. 池田勇人

    池田国務大臣 大野さんの意見は直接聞いておりませんので、私は、大野さんの考え方をどの論者だということを断定するわけにはいきません。
  186. 野原覺

    ○野原(覺)委員 一月十日の朝日新聞でございますが、大野さんが九日岐阜に参られまして談話を出しておるのであります。それによりますと、日朝交渉妥結は三月末か四月になるだろう、これは韓国に行って朴議長と会われた大野さんの談話であります。そこで、請求権問題が大筋の妥結を見たので、残された漁業交渉の問題等では韓国はあまり無理を言わぬだろう、竹島の帰属についてはアメリカの調停で日韓両国の共有にしたらという話が出ておる、共有にして解決した例は外交史上にも先例がある、こういう考え方で、自民党におきましては、船田さんが会長をしておるあの調査会でございますか、そこではこの問題を研究課題にしておるという新聞報道も出ておるのであります。総理は何か問題を提起されるかと思って警戒をするのかどうか知りませんが、私は、日韓共有論がこうして新聞に書かれ、あなたの党で今日研究課題になっておるものを、何らそういう話も聞いていないということはいかがなものかと思うのであります。  そこで、こういうようにして、とにかく大野さんの訪韓問題につきましては、外交旅券で行っておる。私どもの鈴木茂三郎が中国に参りますときに、かつて委員長であったときに周恩来の招請で参りましたが、これは一般旅券であります。松村さん、高碕さんも一般旅券であります。外交旅券という特典を与えて、しかも総理の親書を持って、朴議長との間に、単に請求権の問題だけではない、竹島の問題、李ライン、漁業の問題、懸案事項の核心について大野さんは朴議長と話し合いをされておる。そうして、それを総理に報告をして、そこで、総理が、大平・金会談のメモ等もあるのならばやむを得ぬじゃないか、あるいは請求権問題が解決するならば李ライン、漁業等もうまくいくかもわからないといったような期待等も手伝って、あの請求権問題が無償・有償の経済援助というすりかえの形でああいう一応の妥結を見たものではなかろうかと私どもは思うのであります。  そこで、これは委員長に要望いたしますが、この問題は実は社会党としては重大に考えておるのであります。そこで、私どもとしては、この際本委員会において、すみやかな機会に大野先生にここに出ていただきまして、いろいろ朴議長との会談の模様等についての詳細なお話も承りたいし、私どもの考えておる点も実はお尋ねをしたいと思うのでございます。このことは、衆議院規則の八十五条かに参考人の喚問に関する件というのがございますから、この八十五条の二項によりまして、大野さんに本委員会にすみやかにお越しいただくようなお取りはからいを委員長に御要望いたしますが、委員長、いかがでございますか。
  187. 塚原俊郎

    塚原委員長 野原君の申し出の件につきましては、いずれ理事会において御相談いたしたいと存じます。
  188. 野原覺

    ○野原(覺)委員 請求権問題でございますが、実は、十年間の交渉経過を私どもいろいろ調べてみたのであります。調べてみますと、日本政府は、最初、韓国の対日請求権請求の根拠はないのだ、こういう見解を一番最初の時点においてはとっておる。その次には、日本の在韓財産と相殺するのだという見解に変わってきたんです。そうして、その次には、法的根拠に基づく支払いだ、こういうことに発展をいたしまして、最後に、有償・無償の経済援助、随伴的な効果として請求権は消えてなくなる、こういうことに、十年の交渉経過を見てみると、実にネコの目の変わり方よりももっとひどい変わり方をしておるのであります。一体、こういうことで国民が納得できるか。今日まで日本政府のとってきた財産請求権のこういった変わり方を知った国民がどうして納得するでございましょうか。  そこで、これは外務大臣にお尋ねいたしますが、この点は、勝間田氏なりあるいは先ほどの春日君に対する御答弁にあったかと思いますけれども、私はもう一度確認の意味で明確にしたいので、お答え願いたいのでございますが、あなたがおとりになられた有償・無償の経済援助によって、その随伴的な効果として財産請求権をなくするというあのやり方は、サンフランシスコ平和条約四条の本質的な解決ではない、随伴的な効果としてなくなるだけのものだ、平和条約四条の本質的な解決ではない、このことをあなたはお認めになられたような御答弁だと思ったのでありますけれども、一応、事態を明確にする意味で、再確認の意味でお伺いいたします。いかがですか。
  189. 大平正芳

    大平国務大臣 本質的な解決になると思っております。
  190. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、これは速記を調べないといけません。本質的な解決であるとあなたはお認めになるのですか。もう一度お伺いいたします。
  191. 大平正芳

    大平国務大臣 本質的な解決でなければ、そういう解決の方法をとることは私にはできません。
  192. 野原覺

    ○野原(覺)委員 随伴的な効果としてなくなるのだということはどうなるのですか。本質的な解決というのと、随伴的な効果として消えてなくなるというのとは違うじゃありませんか。あなたのこの予備交渉における申し合わせを私は資料要求して取りましたが、そう書いてある。随伴的な効果としてなくなるという。本質的な解決ならばああいう文言は要らないじゃありませんか。いかがですか。
  193. 大平正芳

    大平国務大臣 解決する手段の問題でございまして、解決の効果は本質的な解決でございます。
  194. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それでは、平和条約四条の本質は何ですか。平和条約四条財産請求権の本質とは何ですか。もっと具体的にお尋ねいたしますと、賠償でしょうか、それとも法的根拠に基づく支払いでございましょうか、それとも経済援助でございましょうか。平和条約四条をようく分析して読んでいただきたい。賠償でしょうか、法的根拠に基づく支払いでしょうか、それとも無償・有償の経済援助で消えてなくなるものでしょうか。あの平和条約四条の本質は何でございますか。
  195. 大平正芳

    大平国務大臣 あの請求権は賠償でないことは、韓国日本と交戦国でなかったわけでございますから、それは野原委員も御承知の通りでございます。平和条約四条の(a)項に、こういう請求権処理取りきめを日韓の間でやるという建前になっておるわけでございまして、これを処理するということで私どもは努力をいたしておるわけでございます。従いまして、(a)項にいうところの請求権処理しなければならぬ。処理する方法といたしまして、私どもは、有償・無償の経済協力をやる、その随伴的な結果として請求権は主張しない、なくなるということを双方で確認して最終的な処理をするということになるわけでございます。
  196. 野原覺

    ○野原(覺)委員 答弁は私の質問にお答え願いたいのです。あまり長たらしい答弁は要求いたしません。本質は何かと聞いておる。私は中身を三つ言った。法的根拠に基づく支払いでしょう、あの本質は。賠償ではない。経済援助でもないでしょう。とすれば、法的根拠に基づく支払い。この本質は、池田・朴会談で、一昨年でございましたか、確認されたでしょう。本質は法的根拠に基づく支払いでしょう。いかがですか。
  197. 大平正芳

    大平国務大臣 請求権処理を取りきめることを、平和条約四条(a)項は申しておるわけでございます。それで、私どもが考えておる経済協力をやることの効果として、先方がその請求権を放棄するとかあるいは主張しないとか、これはなくなったと認めますというようなことを判断処理する自由は、韓国にあると思います。
  198. 野原覺

    ○野原(覺)委員 それは大平・金会談の了解点なんです。そんなことは聞いておりません。平和条約四条の本質を聞いておるのです。もう一度御答弁願います。
  199. 大平正芳

    大平国務大臣 旧日本の領土にある総領土を足場といたしまして、日韓双方にあるところの請求権処理の取りきめをやれというのが第四条(a)項でございまして、それを処理することを私どもの任務としてやっておるわけでございまして、それは今言ったような方法においてやるんだ、こういうことでございます。
  200. 野原覺

    ○野原(覺)委員 あの四条に書かれておる中身、本質は経済援助ですか。日本韓国に経済援助をやるとは書いてないでしょう。法的根拠に基づく請求権でしょう。あなたの御答弁を聞きますと時間をとりますから、これはまた、外務委員会等の機会もございますから、私どもはそこで究明いたします。そういったすりかえたごまかしの答弁をされちゃ困る。  それなら、外務大臣にもう一度お尋ねいたしますが、昨年の三月十二日でございましたか、小坂さんが崔氏と政治会談をやって決裂をいたしましたね。あの決裂した理由は、外務大臣、何でございましたか。お尋ねします。
  201. 大平正芳

    大平国務大臣 小坂・崔会談は、日韓双方の請求権に関する双方の主張に大きな隔絶があるということを認めざるを得なかったというように、私は承知いたしております。
  202. 野原覺

    ○野原(覺)委員 これは条約局長に聞いてもよいのでございますが、私は記録によって調べましたから申し上げますと、小坂さんは、韓国請求権は、日本の持っておる韓国にある財産を放棄した、日本が在韓財産を放棄した事実を頭に入れて韓国請求権を出してもらわなければ困るという第一の原則をあの会談に持ち出されておる。それから、第二の原則は、北鮮の問題も考慮に入れて出してもらわなければ困ると、こういう二つの原則を出しておる。これに対して、崔の方では、いや、そういう原則はあと回しだ、一体日本は金を幾らやるんだ、こういうことで正面衝突をして、一応ああいった形になって打ち切られたのであります。そうして中断をしておるのであります。  そこで、この二点の主張、北鮮の問題も考慮に入れたもの、それから、在韓財産日本が放棄した事実を考慮に入れて韓国請求権をきめなければならぬという、この二つの主張というのは間違ってはいない。これが正しい主張であったんだと私どもは思うのでございますが、大平さん、あなたはどう考えていますか。
  203. 大平正芳

    大平国務大臣 三月の小坂・崔会談におきまして小坂大臣が主張されたことは、正しいことだと思っております。
  204. 野原覺

    ○野原(覺)委員 これが正しかったとすれば、あなたはこの正しかった主張を直ちに放棄されたんです。あなたは、外務大臣に就任するやいなや、高い次元で解決するのだ、こう言って、小坂さんがあれほどがんばって、国民のためにがんばってきた正しい主張を、あなたは弊履のごとく放棄したじゃありませんか。私は、これは、池田総理のもとで外務大臣がかわったからといって、こういった基本的なことが簡単に放棄されてよいのかどうか、まずこれを疑っておるのであります。国民はこれに非常な疑問を持っておるのです。あれほど小坂さんががんばって決裂したものを、外務大臣大平さんにかわると、簡単に放棄されてしまっておる。どう考えても、これは国民の常識上から言って納得できないのであります。  そこで、私はお尋ねいたしますが、小坂さんが三月十二日の時点であの請求権交渉に臨まれた。これは、予備交渉議論が尽きないので——三月十二日といえば最後の政治会談でございました。当時予算委員会をやっておった。小坂さんは予算委員会の忙しい中で持たれた会談であったと私は記憶いたすのでありますが、請求権交渉日本外務大臣が出るのに、金額の腹づもりがなしに出やしないと私は思うのであります。交渉のやり方としては、まず原則からいこうじゃないか、こう言ったでございましょうけれども、やはり、政治会談でございますから、妥結をしなければならぬ。その三月十二日の小坂・崔会談のこの時点における当時の日本政府の腹づもりというものが、金額はどれだけでございましたか。これは率直にお答え願いたいのです、いいかげんなことではなしに。新聞は書いておりますよ。あなた方は、六千万ドル、七千万ドルというのは勝手に新聞が書いたのだとおっしゃるかもしれませんけれども、池田内閣がその新聞報道に一度も抗議を申し込んだことを私は聞いていないのです。この時点における腹づもりの金額は幾らでございましたか、お伺いいたします。
  205. 大平正芳

    大平国務大臣 私どもは、たびたび申し上げますように、金額を算出いたしますには、そのよって立つ前提をはっきりさせなければならぬわけでございまして、どういう法律解釈論に立脚するかということ、どういう事実が正しいものと認めるかということがはっきりしないと、金額は出ないわけでございまして、金額交渉に入る前に、そういったことについて双方の意見が討議されるというのが順序だと考えるわけでございます。三月の小坂・崔会談におきましては、そういう前提になる事実につきまして双方に大きな懸絶があるということを、私どもは伺っておるわけでございます。
  206. 野原覺

    ○野原(覺)委員 これは本予算委員会における速記を調べた上であらためて問題にしたいのでございますが、私どもの党の木原君が、七千万ドルではないか、こう質問したのに対して、外務大臣は、今は言えない、言うべき時が来たらその金額も申し上げます、こう言ったんです。あなたは自分が御答弁したのですから御記憶にあろうと思うんですが、一体、との金額についてはいつ明らかにいたしますか。今国民がこれも不可解にたえないのは、三億ドルの無償経済援助でどれだけの財産請求権の実体がなくなるかということを知りたいのです。率直に言って、国民はそれを知りたいのです。一体日本の計算ではどれだけであったのか。幾ら困難であっても、——およそ賠償請求とかこの種の問題は困難です。日本がフィリピンに賠償するといったって、簡単にだれにもわかりはしない。およそ日本見解というものは幾らであったのかということを知りたい。ところが、これを言っては大へんだ、一億五千万ドルの差があるじゃないかというようなことになっては大へんだからというので、ひた隠しに隠しておるのでしょう。そのひた隠しに隠しておる外交を秘密外交と言う。国民をめくらにする外交と言う。外交というものはある程度秘密を要することは私どもも知っておる。しかし、新聞が六千万ドル、七千万ドルを書いておる。それを言わない。それで、新聞に君らはそういうことを書いちゃ困るという抗議をしたこともない。新聞は書きっぱなし。一体いつあなたは御発表になるのですか。木原君には他日答えると言いましたが、その他日とはいつでございますか。私どもは国会議員として国政で日韓会談を審議するのに、こんなものは日韓会談の妥結調印が終わってから聞いたのでは話にならぬ。これは国会議員をばかにしています。国政審議はできません。いつ言うかといえば、私は今言ってもらいたい。そうでしょう。いっあなたはおっしゃるつもりですか。調印のあとですか。
  207. 大平正芳

    大平国務大臣 今野原委員が御指摘された通り、国民が関心を持たれておることをよく承知いたしております。従いまして、私どもは、交渉の過程を見まして、交渉に微妙な影響を与えない段階におきまして、資料を提出いたしまして御審議を願いたいと思っています。
  208. 野原覺

    ○野原(覺)委員 この問題はあらためて追及いたしましょう。  時間の関係もございますから急ぎたいと思いますが、この植民地が独立するにあたって、たとえば韓国、あるいは大きな事例としてはインドがそうですが、独立するにあたって旧本国から無償経済援助を受けた先例が外交史上ございますかどうか、お伺いいたします。
  209. 大平正芳

    大平国務大臣 いろいろの事例がございますので、きのう本委員会からの御請求がございましたので、資料を手元に差し上げてございます。
  210. 野原覺

    ○野原(覺)委員 その資料に基づいて御答弁願いたい。
  211. 大平正芳

    大平国務大臣 まず、アメリカがフィリピンに対して、戦後の復興、経済建設のために、戦後復興援助というタイトルで、無償六億七千万ドル、有償一億一千万ドルいたしております。それから、フランスが、旧アフリカ十四カ国並びにアルジェリアに対しまして、独立の準備段階において種々の援助を与えておりますが、独立後も継続いたしまして援助を行なっております。その援助は大部分無償でございまして、一九六〇年の支出実績を見ますと、同年中に無償六億二千万ドル、有償五千万ドルを与えております。英国は、長期的な観点に立たれたのか、やがて独立後もその国が円滑に独立を達成し得るように、独立前から各種の援助を与えておりますが、独立後も福祉増進のために継続的に無償・有償の援助を与えております。インド、パキスタン、セイロン、それからシェラレオネ等に与えております。イタリアは、リビアとソマリアに対しまして、同様に無償・有償の援助を与えておるわけでございます。詳しくは、ただいまお手元にあります資料によって御検討いただきたいと思います。
  212. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういう場合に、つまり、そういう植民地が独立をする際に、旧本国から無償経済援助を受けておるそれは、事例によって今御説明をいただきましたが、その際植民地は旧本国の私有財産没収した事例がございますか。あるとすれば、それはどこですか。
  213. 大平正芳

    大平国務大臣 私がお答えいたしました事例の領域におきましては、今御指摘の公私の財産没収したという事例は私は聞いておりません。
  214. 野原覺

    ○野原(覺)委員 日本韓国に無償経済援助をする、その上に私有財産没収されるのであります。これは外交史上初めてであります。私は、この事実をまずここで明らかにできたと思うのであります。これはいまだかってないことであります。そうして財産請求権の金額は六千万ドル、七千万ドル、無償経済援助は三億ドル、有償が最高の優遇条件で海外経済開発の協力基金から年三分五厘、英国がインドに対して有償の経済援助をやっておりまするけれども、英国はその他と差別をしていないのです。日本韓国に対するやり方というものは、私はどう考えてもあまりにもひどい。外交史上先例のないやり方ではなかろうかと考えておったのでございますが、今その事態が明白になったのであります。  そこで、もう一点お伺いいたしますが、北鮮との関係です。これは本予算委員会なり外務委員会等でたびたび論議をされたのでございますが、政府は、韓国は三十八度線以南を支配するのだということを念頭に置いて交渉しております、こう言っておる。ところが、これは何回も私どもが申し上げておりまするように、韓国の方は、全朝鮮をおれは支配しておるのだと、こう言っておる。そこで、問題が請求権の問題だけではなしに、諸懸案が一括解決をして妥決調印する場合ができたときに、この領域については明白に文書をもって規定される意思があるのかないのか。今はただ念頭に置いてやっておるでございましょうが、はっきり文書で——それは条約の中なり付属文書なり何でもよろしい。はっきり書きものに残して、三十八度線以南の解決であるということを明白に規定しなければならぬという決意がおありであるかどうか、承っておきます。
  215. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう観念に立ってやっておるわけでございまして、協定案文ができておるわけじゃございませんで、いろいろな懸案を煮詰めました上で、協定案文をつくるわけでございまして、今の御注意はよく私どもは承って善処しなければならぬことだと思っております。
  216. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そこで、外務大臣に続いてお尋ねいたしますが、これは先ほど春日君が午前中に尋ねたことであります。それは李ライン日本漁船が拿捕されて、日本の漁夫が何千人と抑留された、このことに対する損害賠償をどうするのかという質問が、本委員会でも何回となく行なわれましたが、これに対するあなたの御答弁は、漁業交渉の場で交渉するというこの一語に尽きておるのであります。賠償を請求するのでございますか、いかがですか。ただ交渉をするとは、賠償をはっきり請求するという意味の交渉でございますか、いかがですか。
  217. 大平正芳

    大平国務大臣 これから本格的に漁業の討議に入るわけでございますが、私が申し上げられる限度は、漁業交渉の一環として処理するつもりでございますということでございまして、どのように主張をしていくかということは、今の段階におきましては申し上げられないわけでございます。
  218. 野原覺

    ○野原(覺)委員 賠償請求をするという基本的な態度政府はきまっていないのですね。ただ交渉する、向こうの出方を見て交渉するというのであって、あの国際法違反李ラインで何千人もつかまって、そのうち何人かはあの監獄の中で死んで、そうしていまだにものすごいたくさんの船が返されていない。このことを漁業交渉の場で交渉をする、交渉するとは賠償請求ではない、そういうことはまだきまっていない、こう受け取ってよろしゅうございますか。
  219. 大平正芳

    大平国務大臣 私が申し上げておるのは、漁業交渉を通じましてその問題を処理いたしたいということでございます。
  220. 野原覺

    ○野原(覺)委員 処理いたしたいということは、賠償の要求が入りますか。賠償要求するという基本態度はきまっておるのであるか。いかがですか。
  221. 大平正芳

    大平国務大臣 今御指摘の事実を踏まえた上で、この問題の処理を漁業交渉を通じてやりたい、こういうことでございます。
  222. 野原覺

    ○野原(覺)委員 どうもはっきりいたしませんね。大事な点になるとあなたはぼかされる。どうもはっきりしない。私は賠償の要求をするのかと聞いておる。  それじゃお尋ねいたしますが、一体損害の金額は幾らですか。あなたは交渉するのだと言いますが、もう漁業交渉は始まっている、予備折衝が。損害の金額は幾らですか。
  223. 大平正芳

    大平国務大臣 この問題は、御案内のように、拿捕の事実があったケース、ケースにおきましてわが国は賠償権を留保いたしておりますことは、野原さんも御承知の通りでございます。今の問題、幾らぐらいの金額になるかということになりますると、事実百七十一隻の漁船の評価ということは、正確に、慎重にやらなければならぬ性質のものでございまして、大まかに幾らになるというようなことでただいまお答えはできる段階ではございません。
  224. 野原覺

    ○野原(覺)委員 あなたは交渉すると言いながら、いまだに金額の算定もしていない。しかも、賠償請求するかと言ったら、言葉を濁すのです。しない腹でしょう。はっきり言って下さい。国民は聞いておるんだ。しない腹でしょう。いかがですか。賠償請求するのですか。するのか、せぬのか。簡単です。するか、しないか。金額はむずかしいからあと回しでもよろしい。とにかく賠償請求はしなければならぬという基本的な態度をとっているのか、とっていないのかということだ。交渉することはわかっております。どうなんですか。するのかせぬのか。イエスかノーかです。
  225. 大平正芳

    大平国務大臣 それは、ただいま申し上げました通り、賠償権は留保してございます。
  226. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、賠償金は留保してございまするから、賠償請求をする、こう理解してよろしゅうございますね。
  227. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう事実の上に立ちまして、漁業交渉を通じて処理いたします。
  228. 野原覺

    ○野原(覺)委員 実に不明確です。これはしなかったら大へんですよ。昭和三十二年の十二月十七日に閣議決定をしておりますね。これは外務大臣御承知でございますか。抑留中になくなった者に対して見舞金を出したのです。ところが、この見舞金の性格が問題になったのです。日本政府責任で抑留されたわけじゃないんだ、どうしたものだろうかといったら、三十二年の十二月十七日の閣議では、これは賠償金の内払いだということで決裁をした。決議を出しておる。しかも、外務大臣はただいまいみじくも御答弁になったように、あなたは、日本の漁船がつかまってひどい目にあっておるときに、そのつど外務省は抗議の口上書を出しておる。その口上書を読んでみなさい。賠償金は留保すると書いてある。これはどう考えても、国際法違反李ライン日本の船をとっつかまえてひどい目にあわして、賠償金の請求をするとあなたが明言できない理由は何ですか。私は、するのかしないのかと、こんな簡単な問題で押し問答することは、時間が惜しくてならぬのでありますけれども、これは国民が聞きたいから、私は押し問答しておるのですよ。何ですか、一体その態度は。いかがですか。あなたは、そういう事実を踏まえて交渉をする、こう言いましたが、そういう事実を踏まえて、今言った閣議の決定、これも事実、それから賠償金を留保した抗議の口上書も事実、そういう事実を踏まえてあなたは交渉するということは、当然これは賠償の要求を出すんだ、その基本態度をもって臨むのだ、こう受け取ってよろしいかどうか、再度お尋ねいたします。
  229. 大平正芳

    大平国務大臣 賠償請求権は留保してあるわけでございます。今、野原さんおっしゃった通り、日韓の間に横たわる懸案として漁業問題は最大の問題の一つだと思うのでございまして、これを両国民が納得がいくように解決することに成功しなければ、国交の正常化と言うことができないわけでございまして、そういう重大な問題の交渉を目睫に控えておるわけでございまして、今私が申し上げましたように、あなたが御指摘されたもろもろの事実、そうして私どもが従来賠償権を留保した経過等を踏まえた上で、漁業交渉を通じて処理いたしますと、こう申し上げておるわけでございます。
  230. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、賠償請求をすると私は理解いたします。  そこで、総理にお尋ねいたします。総理は、昨年の八月二十一日の予算委員会でございましたが、損害賠償の請求に対する答弁で、こう言っておるのです。「損害賠償をどうするかという問題は、やはりそれをしなければ日韓交渉をしないというわけのものじゃございません。われわれは今までの不本意な状態を今後正常化によって、いわゆる李ライン問題が資源確保、共同利益のために解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません。」どうもこれは文章が難解でございまして、私ども何回も繰り返して読んだのでありますが、やはり最後のところが大事だと思うのです。資源確保、共同利益のために漁業問題が解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません——総理、この御答弁は、今日もお変わりございませんか。
  231. 池田勇人

    池田国務大臣 われわれは、前向きで、過去の事実を考えながら正常な妥結をはかりたい、こういうのでございます。
  232. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理にもう一度だめを押したいのですが、賠償請求をするのかしないのかは、漁業交渉の場で、いろんなことを判断をしながら進めなければならぬ、こういうお考えですね。
  233. 池田勇人

    池田国務大臣 過去の事実は事実として主張いたします。しかし、それにとらわれることなしに、両国民の相互納得のいくような方法で解決したいと思っております。
  234. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そうなれば、あなたははっきりそういうように答弁をしなければならぬが、この速記は、「私は問おうという考え方は持っておりません。」こういうことなんです。これで終わっておるのです。実は、これが外務委員会で問題になりましたら、大平外務大臣は——九月の二日、外務委員会の速記にこう書いてある。「ああいう時期にああいうことを言われたのは、私どもにとって若干迷惑だ、そういう心境であります。」外務大臣が、総理答弁こんなことじゃけしからぬじゃないか、抗議の口上書、賠償留保、閣議決定、いろんなことを指摘されて追及されたら、われわれは迷惑だ、あんな答弁総理から言われて迷惑だ、こういう心境であります、こう言っておるのです。総理はどうお考えですか。
  235. 池田勇人

    池田国務大臣 私は前向きに答弁したのでございます。こちらの主張すべきことはもちろん主張いたしますが、しかし、それで正常化すれば、もう今までのあれはなくして前向きでやっていこう、こういう考え方でございます。
  236. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そこで、私は、漁業問題について、若干お尋ねをいたしたいと思うのであります。  私は、漁業問題で私どもがまず考えなければならぬのは李ラインの問題だろうと思うのであります。李承晩宣言というのは、いまだに生きておるのかどうかということなんです。あなたむちゃくちゃな李承晩宣言が一体生きておるのかどうか。韓国は生きておるというので、いまだに逮捕を続けておるじゃありませんか。だから、私は、漁業問題を解決するにあたっては、一九五二年一月十八日の李承晩宣言、つまり、李ラインの撤回をまずやらせなければならぬ、こういう基本的態度をとるべきだと思うのでございますが、外務大臣、いかがですか。
  237. 大平正芳

    大平国務大臣 広く公海にわたりまして、一方的に排他的な権利を行使するというようなことは、不法、不当でございまして、私どもはそれを容認するわけには参りません。
  238. 野原覺

    ○野原(覺)委員 李ラインの撤廃は主張しないということですか。
  239. 大平正芳

    大平国務大臣 私どもは、一方的に排他的な権力を公海において行使するということは容認できないと今申し上げたわけでございまして、李ラインの不法、不当性はすでに明々白々でございまして、その問題が訂正されない限り漁業交渉妥結のあり得ないことは、もう当然のことと考えております。
  240. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そこで、漁業交渉に入りますが、ここで大事なことは領海の問題です。やはり領海ということが問題になる。私どもは、かつて、日本は三海里を主張しているというふうに実は聞いてきたのであります。今日日本は何海里を主張し、韓国は領海とは何海里だと言っているのでありますか、これをお教え願いたいのであります。
  241. 大平正芳

    大平国務大臣 この間本委員会の御質疑に対しましてお答えしたのでございますが、今から漁業交渉が本格化して参る段階でございまして、日本側の主張がどういう主張であり、韓国側の主張がどういう主張であるということを本議席から申し上げるということは、穏当でないと思います。ただ、私どもがただいまの段階において申し上げられるぎりぎりは、韓国側の御提案はまだなお柔軟性を欠いておるように思われるということが一点。それから、わが方といたしましては、最近の海洋法の傾向にもかんがみまして、また、イギリスと北欧の妥結した漁業条約等の先例にもかんがみまして、最近の海洋法の傾向についてわが国としても十分の理解を持つ必要がありはしないかという点と、それから、わが国が第三国と漁業条約を結ぶ場合に、日韓の間の漁業条約の結びようによりまして不当な不利があるようなことをしちゃいけない。双方の漁業者が最大限の利益を得るように、与えられた資源の上にたちまして、双方共存共栄の実を上げる道がないかというようなことが、私どもの最大の関心事でございます。こういうことでございます。
  242. 野原覺

    ○野原(覺)委員 なぜこういうことをくどくどお尋ねするかと申しますと、大平外務大臣のやり方を見てみると、私どもはあぶなっかしくてしょうがないのです。財産請求権平和条約の本質は、法的根拠に基づく支払い、これをあなたはああいう経済的援助の形で、随伴的効果でなくなるのだという解決をする、そういう外務大臣でございますから、これは韓国が、聞くところによれば、第二次交渉では四十海里を持ち出しておると私どもは聞いておる。この四十海里をどうしても日韓会談で、あなたが外務大臣の在職中にまとめなければならぬというようなこと等もあって、これは押し切られるのではなかろうかということ、韓国ペースで何もかも解決するのではなかろうか。率直に申し上げまして、李ラインも竹島も、とにかく反共の基地を強化しなければならぬということもあるし、アメリカの要求もこれはきびしいのです。このことには触れません。そこで、今国民が聞きたいことは、海洋法会議の十二海里、これは絶対固執しますね。日本は三海里を領海としてきめておりましたけれども、最近領海は長くこうなってきております。調べてみると、六海里、十二海里、海洋法会議では十二海里と、結論は出ておりませんが、大体これに近いのが大多数の意見である。この十二海里ということは、いかなることがあっても日本は譲歩できない、四十海里なんということは許さぬ、こういった基本的な言明くらいは、国会でしたらいかがですか、あなたの決意を。
  243. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう国際的な傾向というものにつきましては、十分の理解をもって臨まにゃいかぬと考えております。
  244. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理大臣にお尋ねいたします。竹島の問題ですね。先ほど総理は、大野さんから承ったことはないということであったのでありますが、竹島の共有論について、先ほど私は大野さんの談話を読み上げたのです。それじゃお伺いしますが、承っていなければそれでいいのでありますが、共有論については総理はどうお考えですか。今自民党の中では、これが問題になってきつつございます。あなたは、竹島の日韓共有論についてどうお考えですか。
  245. 池田勇人

    池田国務大臣 私はそういうことについて考えたことはございません。従って、私の考えはこうだということは言えませんが、竹島問題につきましては、国際司法裁判所で——両当事国間できまればよろしゅうございます。きまらない場合におきましては、国際司法裁判所の判決によっていくべきだということは、私は従来から言っておるのでございます。
  246. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そういたしますと、総理に、これは外務大臣でもけっこうでございますが、韓国が訴訟に応じない、応訴してこない、これは総理御承知の通り。そこで、政府は共同訴状をつくっておるかどうかということです。国際司法裁判所に提訴する、こう申されておりますが、こういったものを国際司法裁判所に持ち出す場合には、おれが提訴するが、お前はどうだと言ったら、それじゃ応訴いたしましょう、こういう基本的な了解をまず第一段階で取りつける。そしてその第二段階としては、それじゃというので、提訴する側の方が訴状をつくる。その訴状を相手国に見せて合意書をとる。こういう形で、共同訴状ということで、これは国際司法裁判所に付託されるというのが、国際司法裁判所の規定に書かれております。訴状はかつてつくったことがあるのでございますか、外務大臣
  247. 大平正芳

    大平国務大臣 本問題に対するただいままでの経過は、たびたび申し上げておりますように、私どもが先方に対しまして、司法裁判所に提訴するから、あなたの方は応訴を願いたい、こういう提案をいたしております。これに対しまして先方は、それも一つ方法でございましょうけれども、第三国あるいは第三者に調停を願って、その調停が不調に終わった場合、国際司法裁判所に提訴するかどうかということは、日韓両国で御相談しましょうじゃございませんかというのが、ただいままでの先方の返事でございます。従いまして、今両者の見解をそういう状態におきまして調整をはからなければいかぬというのが、私どもの課題でございまして、共同訴状をつくるというような段階までまだいっておりません。
  248. 野原覺

    ○野原(覺)委員 この問題は、これは池田総理が言明されましたように、私は、第三国の調停などで解決できる問題ではないと思う。いわんや、竹島の日韓共有論で、これは朴さんの方も非常に憤慨をしておるようであります。これは私は、いずれ大野さんが本委員会にお見えになるでございましょうから、そのときにお尋ねいたしますが、朴は非常に憤慨しておる。新聞記者に談話を出しておる。そういうことを言った覚えはない、そういうことは絶対反対だと言っておる。そこで私は、やはり政府が今日までとって参りましたように、領土問題の解決は国際司法裁判所、この方針でいくべきだということを重ねて申し上げておきたいのであります。  日韓会談の最後の段階に入って参りましたが、金鍾泌の地位が最近動揺いたしまして——また元に、民主共和党の幹部に返り咲いたようでありますが、その動揺したときに国民がひとしく心配したのは、一体大平外務大臣は金さんを相手に交渉してきておったが、この人の地位がなくなったら日韓交渉はどうなるだろうか、これが素朴な国民の懸念であったのであります。この懸念がこの委員会でも質問をされた。そうしたら、政府の方はこう答弁しておる。責任者は朴さんだ、金がどうなろうと会談には影響はない。この答弁は間違いではないと私も思う。そこで、それならば、この四月に大統領選挙があって、朴さんが大統領に当選できない、あるいはまた民主共和党の内紛がいつどうなるかわからないです。私もいろいろ情報を聞いておりますが、どういうことに発展するやら、朝鮮の政情はにわかに逆睹しがたいものがある。そこで、朴政権が倒れるとかあるいはどうしても朴が大統領になれないという場合には、この今までの日韓交渉というものは、根本から破壊される、やり直ししなければならぬと私は考えるのでございますが、外務大臣いかがですか。
  249. 大平正芳

    大平国務大臣 これは日韓両政府の間の交渉でございまして、一応韓国の政情とは関係ないわけでございます。韓国の政情の推移につきましては、私どもも注視はいたしておりますけれども、それの是非を論評することは差し控えたいと思います。あくまでも両政府間の交渉でございます。私は外務大臣といたしまして、韓国の政情がどうでありましても、日韓の国交正常化という歴史的課題が私どもの肩にあるわけでございまして、日韓の間の国交はどういう姿で正常化すべきものかという問題は、どの瞬間においても忘れてはならない大事な懸案と心得て、追及、探求していかなければならないと考えております。
  250. 野原覺

    ○野原(覺)委員 韓国は国会がないのですから、これは朴さんが倒れたら御破算になるのです。これはもうはっきりしておる。だれもあとで責任を引き継ぐ者がないのです。そうなった場合の政府責任は重大であるということを、今から警告しておきたいと思うのです。  最後に私は——日韓会談の最後でございますが、総理にお伺いいたします。政府がかりにこの日韓交渉をまとめて妥結調印をした、その次は批准ということになるわけでございますが、たとえば財産請求の解決にしても、ああいうすりかえの解決をしておるし、いろいろな問題が介在しておるのでございますから、少なくとも日韓交渉に関しては、批准の段階において国民の総意に聞かなければならないと私は考えますが、総理の所信はいかがですか。
  251. 池田勇人

    池田国務大臣 必ずしもあなたの意見に同意はできません。
  252. 野原覺

    ○野原(覺)委員 なかなか用心深い発言であります。御用心深い御発言でございますけれども、これは国民の総意にお聞きにならなければならないことであろうと私は思うのでございます。  時間の関係もございますから、私は次に問題を発展させまして、文教の問題を若干お尋ねしたいと思うのであります。  総理の施政演説を拝聴いたしまして、私は、あの人つくりという言葉の内容が初めて施政演説に出て参ったことに対しては敬意を表します。そこで、総理にお伺いしたいことは、人つくりということと教育ということは同じか、違うかということです。人つくり政策ということは、あなたの施政演説の中身を読んでみますと、文教政策と読みかえてもいいように私は思う。従来国民は文教政策と言ってきた。どういうわけであえて人つくり、こういう新語をお使いになられたのか。これは総理の何らかの御理由があろうと思うのでございますが、この点はいかがですか。
  253. 池田勇人

    池田国務大臣 人つくりというものは、私は、これは文教政策、家庭教育、社会教育等といろいろございますが、だれがっくるかといったら、一人一人自分がつくっていくのだという考え方でございます。しこうして、文教政策は、そういうりっぱな人を自分がつくるような手助けをする、環境をつくる、そういう気持を発展させ、伸ばすということであろうと思います。
  254. 野原覺

    ○野原(覺)委員 人つくりという言葉は文教政策、人つくり政策とは文教政策、こう受け取ってもよろしいような御答弁でございました。そこでなお、施政演説の中にこう書いてある。「人つくりの主たる対象は、何といっても将来をになう青少年でありましょう。」、こう言っておる。そうなりますと、私は、人つくり政策とは、これは完全な同義語にはなりませんけれども、青少年教育対策、こう考えても差しつかえなかろうと思いますが、いかがですか。
  255. 池田勇人

    池田国務大臣 そうではない。人つくりというものは、自分が自分をりっぱにつくっていくのでございます。教育というものは、教える者と教えられる者とある、その間に、教える者も自分が教えられることもありましょうけれども。そこで、人つくりというものは、自分がりっぱな人をつくるようにすることが人つくりなんでございます。そして、自分が自分でつくり得るような環境をつくり出す、それを助けるというのが教育でございます。
  256. 野原覺

    ○野原(覺)委員 そうなって参りますと、あなたは施策演説の中にこう書いておる。確かに総理のお考えはこういうふうに出ております。そのところは、「このような人つくりは、国民一人一人がみずからの問題として精進すべきことであり、」とあります。これはわかりました。これは私も教育のあり方からいって当然であろうと思う。失礼でございますが、総理大臣が人をつくるのじゃなかろうと思っておったのです。自分自身がつくらねばならぬことは、これは当然でありますが、「われわれ政府の任務は、」として、政府の任務をその次にうたっておりますね。だから、この人つくり政策、人つくりでは政府の任務が重大でありまして、こう書いてあります。「政府の任務は、家庭、学校、社会のそれぞれの場において、このような機運を醸成し、そのための環境と条件を整えることにある」環境と条件を整える、学校をたくさん建てるということ、先生をきちっと置くということですね。それが政府の任務だと、こうあるわけでございますから、政府の任務は非常に重大になってくるわけであります。そこで、私どもの党の柳田秀一君が本会議であなたにお尋ねをいたしました。一体施政演説のどこを見ても、教育基本法という言葉がないじゃないか、憲法という言葉がないじゃないか、こう言ってお尋ねいたしましたら、あなたが御答弁になられておる。こう言っておる。「人づくりの内容につきまして、教育基本法とどういう関係か。われわれは憲法並びに教育基本法の精神に沿っていくことは当然でございます。教育基本法の精神に従っていっておるのであります。私はそれを敷衍して国民の皆様によくわかっていただくように、施政演説で申し上げておるにすぎないのであります。」これは教育基本法の教育の目的、第一条に書かれておるようなことが、なるほどそう言えばずっと施政演説の中に出てきておるのであります。あなたは教育基本法を尊重されておる、当然だ、こう言われておるのであります。ところが総理大臣、困ったことが起こっておるのです。この政府の任務である、環境と条件を整備しなければならない文教政策の責任者であります文部大臣の荒木さんは、教育基本法では人づくりはできないと言っておるのです。御承知でございましょうか。あなたは、教育基本法で人をつくるのだ。こうおっしゃいますけれども、荒木さんは、教育基本法では人づくりはできないと言っておるのです。この点をあなたはどうお考えになりますか、お伺いいたします。
  257. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、あそこで答えたように、教育基本法はもちろん憲法の精神にのっとりまして、そうしてりっぱな人づくりをしたい、こういうので、矛盾はないと思う。荒木君がどう言っておるか、教育基本法で人づくりができぬという意味がわかりませんので、荒木君から答えることにいたします。
  258. 野原覺

    ○野原(覺)委員 荒木さんは言っておるのですよ。荒木さんはそこにいらっしゃるから、これは確かめたら一番はっきりするのです。あなたは教育基本法で人づくりをやる。ところが、荒木さんは教育基本法では人づくりはできないと言っておるのですよ。私は指摘いたしましょう。朝日新聞にこう書いてある。荒木文相は、広島県庁で開かれた文部省主催の中国ブロック市町村教育長研究協議会に出席し、約三百人の中国五県下の教育長を前に、教育基本法は占領時代に押しつけられたもので、この範囲では日本民族の優秀性を伸ばせないため、国情に合ったものに改正したい云々、こう言っておる。教育基本法では人つくりができない、こう言っておるのです。愛国心の養成も、国民としての自覚を持たせることも、あなたの施政演説を見て下さい、あなたの施政演説は、愛国心の養成、国民としての自覚、ずっとこう述べてある。そういうことも、今の基本法ではできないと言っておるのです。あなたは文教政策を荒木さんに御一任になっていらっしゃるのですね。総理としてこのことをどう考えますか、もう一度お尋ねいたします。
  259. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、教育基本法第一条のりっぱな人格を形成する等の精神をくんで言っておると思うのであります。ただ、荒木君の説明を私はまだ聞いておりませんが、荒木君が言うのには、教育基本法だけでは不十分な点があるということを言ったのじゃないかと思います。だからその点は、せっかく来ておりますから、ここで聞いてみようじゃありませんか。
  260. 野原覺

    ○野原(覺)委員 全くただいまの点は総理に同感であります。私も今荒木さんにお尋ねしようと思っておったのであります。そこで、お尋ねする前に申し上げて置きますが、これはまた同じく朝日新聞にこう書いてあるのです。今度は全国都道府県の教育委員長協議会と、同じく教育長協議会、これは教育政策では重要な会議です。その臨時合同総会の席上でこう言ったのです。「りっぱな日本人をつくり、諸民族から敬愛される人間を教育するには、教育基本法をはじめ、戦後の制度は物足りないのではないか。」こう言っておるのです。私は文部大臣に率直にお伺いいたしますが、事は重大ですから、お伺いいたしますが、あなたはかってこういうことをおっしゃったことはございませんか。あなたの教育基本法に対する見解を腹蔵のないところを総理大臣も聞きたいと言っておるし、国民も知りたいのでございますから、今ここで述べていただきたい。
  261. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 お答え申し上げます。  ただいま御指摘になりましたような趣旨のことを言いました。今でもそう思っております。それは御承知の通り、憲法すらも、今、国会の審議を経ました法律に基づく憲法調査会で、改正すべきかいなかを含めて、盛んに数年来検討されております。教育基本法も、制定当時は、教育勅語がなくなってからっぽのままでいいかどうか懸念されるという心配をなすった識者、刷新委員会の方々が、お堀ばたの存在を念頭に置きながら、当時として許される、いわば最小限度のアプルーバルのもらえる範囲内のものは何だろうという考慮のもとに、原案がつくられて、むろん国会の審議を経まして制定された法律であります。ですから、当時の刷新委員会の方々すらも、不十分であることを意識していらっしゃると私は推察いたします。憲法にしてすでにしかり、教育基本法の生い立ちの記が以上のごとしとするならば、独立を回復してから十年にもなる今日、日本人みずからの自由の見識において、教育基本法はいかにあるべきかということを検討すべき一つの課題であろう、そういうことの趣旨を申しました。今日でもそう思っております。  また、教育基本法では人がつくれないということを申したわけではございません。教育基本法そのものについて、以上のような見解を私は持っておりますから、できれば立法論としては、今後よりよきものに検討さるべき課題であろう。従って、もし足らないところがあるとするならば、文部省はもちろん、教育委員会も学校の先生方も一緒になって、足らないものを補う心がまえでやるべき課題があるのじゃなかろうかという気持を、一両回言ったことはございます。従って、総理答弁のごとく、現実に何に基いて、何に従ってやるかというならば、当然のこととして、憲法の趣旨を体し、また教育基本法の前文にも書いてありますように、憲法の趣旨を体してつくられた教育基本法に従い、また憲法と教育基本法の趣旨に従ってつくられた学校教育法その他もろもろの法律に従って教育が行なわるべきことは当然のことだと心得ております。
  262. 野原覺

    ○野原(覺)委員 きわめて重大な発言であります。総理、私はお尋ねいたしますが、あなた教育基本法を尊重すると言うが、今荒木文部大臣の御答弁を何とお聞きになりますか。荒木さんが教育基本法ではやはり依然として問題があると言っておるのです。教育基本法で人づくりはできない、文教政策は教育基本法では進展しないと言っておるのです。総理の御見解を承って、私は重ねてお尋ねいたしましょう。
  263. 池田勇人

    池田国務大臣 別にそう変わってはおりません。私は憲法並びに教育基本法の精神に従っていくことは当然だ。ただ、教育基本法が万全なものか、これで十分かということになりますと、人、人によって、これはまだ改正しなければならぬという人と、もっとこういうことを明らかにせねばならぬということもあるかもわかりません。しかし、私の教育基本法の精神にのっとりということには、荒木君も違いないと私は今聞いておりました。
  264. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理がそういうような御答弁をされたら大へんなことになりますよ。人、人によって教育基本法に対する考え方の違うことは認めましょう。しかし今日、日本の教育は何によって行なわれておるのですか。教育基本法じゃありませんか。その教育基本法では文教政策が進まないのだ——これが単なる一民間人がお話したならば、これは問題がない。文部大臣がそれを言う。文教の責任者である文部大臣が、教育基本法ではできないのだとはっきり言っておるのです。今文部大臣の御答弁を聞きますと、いろいろ言葉じりを濁された点がございましたが、あなたが東京新聞に寄稿した「文教の本質をこう思う、荒木萬壽夫」というのに、あなたがはっきり書いている。これは総理もお聞き願いたい。人、人によって違うことは私も認めます。それから教育基本法に対する注文のあることも認めます。しかし、日本の教育は憲法と教育基本法が行なわれておるのに、責任者である文部大臣が、教育基本法ではできないのだ、こう言っておる。これもいいでしょう。ところが、総理大臣が、教育基本法で教育をやるのだと言っておる。この食い違いがあるということを、私はここに指摘したいのです。東京新聞に荒木さんはこう書いておるのです。「教育基本法第一条を見ると、これはまぎれもなく敗戦によって与えられた法律に違いないのだが、」それからずっと第一条の文言を書いて、「ここにはわれわれが考えているような意味の日本人をつくるという精神がみじんも出ていないということを指摘しなければいけない。」文部大臣はこう言っておるのです。日本人の教育は、教育基本法ではできないと言っておるのです。総理大臣はどう考えますか。あなたの教育基本法を尊重するという答弁はうそですか。これをどう考えますか。
  265. 池田勇人

    池田国務大臣 第一条にりっぱな国民をつくるということが書いてあります。私は、この精神はわれわれ守っていくべきだと思います。ただ人、人によって、国際的の立場に多く立つか、あるいは日本の国ということを強く出すかという、出し方の問題はありましょう、ニュアンスの問題として。しかし、あの一条の精神は、私は古今を通じて誤まらない——と言ってはひどいかもしれませんが、とにかくりっぱな精神でございます。ただ、人によっては、物足らぬという気持の人はあるかもしれません。本質的にどうこうではなく、ただ少し物足らぬという考え方の人はあるかと思います。しかし、教育基本法というものを否定するという言葉じゃないと思います。
  266. 野原覺

    ○野原(覺)委員 とんでもないことをおっしゃってはいけません。みじんも出ていないと言っているのですよ。いいですか、日本人をつくるという精神はみじんも出ていないと言っているのです。教育基本法ではできないと言っているのです。あなたは内閣総理大臣として、文教政策の最高の責任者ですね。あなたが柳田君に答弁されたことはうそですか。あれを取り消しになりますか。それならば荒木さんをかばいなさい。しかし、あなたの柳田君に答弁したものは、教育基本法の精神を尊重して人をつくる、こう言ったのです。文部大臣は教育基本法ではできないと言っておる。どうしますか。
  267. 池田勇人

    池田国務大臣 私の言ったことは私の信念でございます。取り消す必要はございません。
  268. 野原覺

    ○野原(覺)委員 文部大臣はできないと言っておる。どうなさるのですか。文部大臣はできないと言っております。荒木萬詳夫として署名入りで書いておるのです。みじんもできない、日本人はつくれないと言っているのです。あなたはどうするのですか。
  269. 池田勇人

    池田国務大臣 私の信念に変わりはございません。荒木君ができないと言うのは、それは十分でないという意味かと思いますが、それは荒木君にここでお聞きになったらよろしゅうございましょう。私の責任ではございません。ただ私の考え方と本質的に非常に間違っておれば、私は責任を負いますが、私は大体合っておると思います。
  270. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理、ただいまの答弁は重大ですよ。あなたは日本憲法を御承知でしょう。今日の日本憲法は、内閣一体の原則をうたっております。そうしてあなたは行政各部の指揮監督をし、同時にあなたの方針にたがったところの者はこれを罷免する権利を憲法が与えておるのですよ。あなたの方針は人づくりだ。その人づくりは教育基本法でやるのだと国会で答弁をして、国民にはっきり明らかにしたのであります。ところがあなたが任命をするところの、あなたが文教政策を一任しておる荒木文部大臣はできないと言っている。なぜあなたは憲法に基づいた行動をしないのですか。あなたは憲法を破壊するのですか。憲法に書いておるじゃありませんか。憲法六十六条に書いておるじゃございませんか。なぜあなたはこの憲法六十六条に従っておやりにならないのですか、お伺いいたします。
  271. 池田勇人

    池田国務大臣 私も憲法の規定は存じております。しかしあなたは、私と荒木君が全然反しておるという前提に立っておられるようでございます。それを一つ釈明しなければあなたの議論は成り立たぬでしょう。
  272. 野原覺

    ○野原(覺)委員 全然反しておりませんか。あなたは、教育基本法の精神を尊重してそれでやると言う。荒木文部大臣は、教育基本法では日本人の教育はみじんもできないと断言をする。これが反しておりませんか。総理、反していないですか。
  273. 池田勇人

    池田国務大臣 荒木君の意見を十分に聞かれたらどうですか。それから追及なさったらいいでしょう。
  274. 野原覺

    ○野原(覺)委員 文部大臣の御意見は、これは重要な段階ですからお尋ねします。しかし、あなたは反してないというような独断を言うから言っているのです。文部大臣、それじゃ一つあなたの所信をもう一度承りましょう。
  275. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 私の憲法及び教育基本法についての所信は先刻申し上げた通りでございます。その通りの考え方を求められて立法論を述べたのであります。およそこれは、共産党を引き合いに出すとしかられますけれども、共産党の諸君は、ともすれば悪法は法にあらずと言う。私どもはそう思わない。いやしくも憲法、法律というものがある以上は、それに従ってしか行動できない。これは民主政治、議会政治の形態をとる日本人として、例外なしに当然のことだと心得ます。そのらち内において就任以来行動しておるのであって、いまだかつて一瞬間といえどもそののりを越えたつもりはございません。今御指摘のことも、その立法論を申し上げたにすぎないのであります。そこで、おっしゃる通りだとするならば、言葉を返すようですけれども、たとえば大学の問題にしましても、中教審の答申を受けて現行法の欠陥を整備しようということすらも言えないという道理らしく考えられる。そういうことは毛頭ないはずでありまして、念を押されるまでもなく、憲法、教育基本法その他もろもろの法律に従って行政は行なわるべきだ。繰り返し申し上げるまでもなく当然のことと思います。ただし、立法論を述べることは、行政府責任者としても当然のこと、職責の一端だと心得ております。
  276. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理大臣に申し上げますが、私は、何回も同じことを申し上げるようでございますが、教育基本法では人づくりはできないというこの文部大臣の考え方は依然としてあなたのお聞きの通り変わっておりません。あなたは教育基本法を尊重すると言う、文部大臣は教育基本法では人づくりはできないと言う、日本人づくりはできないと言う。もっと詳しく言えば、日本人づくりをして初めて人間づくりに到達するのだということも書いてある。日本人づくりができないということは人づくりができないということです。これはあなたの考えに違いませんか。あなたの考えにたがうことでしょう。私は、内閣が施政方針として打ち出したところの、教育基本法の精神で人をつくるのだというこの内閣の方針にたがう文部大臣であると思います。どう御判断になりますか、お尋ねします。
  277. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいまお聞きの通り、文部大臣も、憲法並びに教育基本法の線に沿っていくのだ。ただ立法論として、今の教育基本法について自分はこういう考えを持っているということは、文部大臣の意見です。しかし法に従っていくということは、文部大臣が答えた通りでございますから、私の意見と変わりありません。
  278. 野原覺

    ○野原(覺)委員 立法論じゃございませんよ。内容論ですよ。あなたはどうお聞きになったのですか。教育基本法ではみじんも日本人がつくれないということは立法論ですか。断言されておる。そうして、私は確かにそう言った、それはおれの信念だ、こう今文部大臣は言っているじゃありませんか。立法論じゃありませんよ。戦後できたことは事実です。戦後できたからといって、これを改正しなければならぬという立法論、それから来ておるのじゃないのです。この内容では人がつくれないというところから来ておるのです。この問題は重大でありますから、私どもはこの問題は重ねて追及いたしますが、この機会に総理に申し上げておくことは、憲法六十六条の精神から見て、内閣一体制の原則から見て、あなたの方針と違う、内閣の方針と違うことを国民の前に公言してはばからない文部大臣をそのまま内閣にお残しになるということはいかがなものかと私は思うのです。私は、荒木さんに情において忍びませんけれども、もしあなたがあえてそのことを不問に付するというならば、過日本会議において柳田君の質疑に答弁したあの答弁はお取り消しになったがいいでしょう。あなたが教育基本法の精神を尊重するというならば、あなたは憲法六十六条の規定に従って処断すべきです。結論を出すべきです。私はこのことを申し上げて、先に進みたいと思うのであります。ただいま申し上げた問題は、今後私どもは徹底的に本日の速記をもなおよく読み返しまして、追及して参りたいと思うのであります。  そこで、次に申し上げたいことは、人づくりの演説で総理はこういうことを言っております。「輝かしい歴史を生み出すものは、世界的な視野に立ち、活発な創造力と旺盛な責任感を持った国民であります。国民の持てる資質を最高度に開発し、それを十二分に発揮することは民族発展の基礎であり、その発展を通じて世界人類に寄与するゆえんでもあります。このような人つくりは、国民一人一人がみずからの問題として精進すべきことであり、われわれ政府の任務は、家庭、学校、社会のそれぞれの場において、このような機運を醸成し、そのための環境と条件を整えることにある」というのであります。私は、この文章を実は読み返し、あなたの施政演説を聞いたときに、ほんとうにからだが躍動するのをとめることができなかったのです。実に力強い文章なんです。  そこで私はお尋ねしたいことは、一体人づくり、人づくりと、こうおっしゃいますけれども、そうしてこうしたりっぱなことをお述べになられますけれども、人づくりをする上で、今日私ども政治家として反省をしなければならない点は、総理、何だとお考えでございますか。あなたが人づくりをなさる上で——私も政治家の末席を汚しておりまするが、われわれ政治家として反省しなければならない点は何だと総理はお考えでございますか。
  279. 池田勇人

    池田国務大臣 人、人によって違いましょうが、私はやはり施政演説で申しております通りに、りっぱな社会人、りっぱなよりよき市民として、常に自粛自戒し、国民のりっぱな代表としての務めを果たしたいと、こう施政演説でも申しておる通りであります。やはりわれわれとしては、りっぱな民主主義議会政治制度を守り抜くということであろうと思います。
  280. 野原覺

    ○野原(覺)委員 私どもが反省しなければならない点は、はたして憲法と教育基本法の精神に従って今日の教育政策、教育行政が徹底的に進められておるかということが第一点です。そうして日本戦争を引き起こしたのです。戦争を引き起こした一番大きな責任は、政治家にあるのです。この責任をほんとうに痛感しておるかという問題です。あなたはここの中で、旺盛な責任感を持った国民であると、こう言っておりまするが、旺盛な責任感を持った国民だとして、総理大臣としてこれを国民に要望される前に、今日の政治が責任を持って行なわれておるかということを御反省になったことがありますか。日本戦争を引き起こしたことに対する責任を、一体今日の政治がほんとうに考えておるだろうかという疑惑が国民の中にあるじゃありませんか。私は具体的に申し上げます。戦争を引き起こした戦犯というものは、これは政治の先頭に立つべきものではないと私どもは考えておる。それからまた国民に責任を説く前に考えなければならぬことは、選挙違反で当選をしてこられたような方が、選挙違反だといって関係者が起訴せられておるような方が、少なくとも責任ある大臣というような地位だけは、その問題が解決するまでは私は遠慮すべきだろうと思う。こういう卑近なことが、実は国民が大きな疑惑を持っておるのであります。私は、あなたの書かれたことは、言葉だけから言えばまことに賛成です。しかしながら、この書かれた言葉というものが、現実の具体的な政策の上に、政治の上に遺憾ながら現われていないのであります。  そこで議論を進めます。どう現われていないのか。もう一度総理にお尋ねいたしますが、政府の任務は、環境と条件をつくり上げるとこうある。あなたははっきり施政演説で私どもに方向を示されたのでございますけれども、義務教育の場で環境と条件をつくり上げるためには、今何と何に重点を置かなければならぬのですか。環境と条件をつくり上げるための義務教育の場における努力すべき点は、総理は何だとお考えですか。
  281. 池田勇人

    池田国務大臣 教育内容の改善あるいは教育者のよりよき良識と知識、いわゆる教育者の素質向上、あるいはまた学校施設の整備拡充等々、いろいろあります。私は三十八年度予算におきましても、そういう意味におきまして、施政演説にも申し述べておりますごとく、教科書の無償供与あるいは学校給食等、各方面にいろいろ力を尽くしたつもりでおります。
  282. 野原覺

    ○野原(覺)委員 教科書の無償というお言葉が出ましたから、これは大蔵大臣にお尋ねいたしますが、この三十八年度の予算を見ますと、教科書は小学一年から小学三年まで全額国庫負担、これは公立にも私立にも給与する、この三原則で実は計上されておるのであります。この三原則というものは私はくつがえしてはならないものだと考えますが、大蔵大臣、財政当局の責任者としてどうお考えでございますか。
  283. 田中角榮

    田中国務大臣 教科書の無償につきましては、御承知の通り党及び政府の間で長いこと問題になっておったわけでありますが、昭和三十七年の予算編成にあたりまして、小学生一年分に対して国が全額支出をして教科書を無償で交付をすることにいたしたわけであります。第二年次目の昭和三十八年度予算編成に際して、一年から三年まで全額国庫負担で給付することになったわけであります。しかし、この問題につきましては、地元負担の問題、いわゆる地方公共団体の負担等の問題に対しては、あわせて次年度以後において検討することになっておりますが、それは御承知の内閣に設けました調査会の結論としまして、地方負担その他に対しても、自後において考慮した方がいいという答申がありますので、来年度以後においてこれができるかできないかというような問題も、あわせて検討するということであります。しかし、あくまでもこの教科書については、御承知の通り、地方公共団体が主体でありますので、国はこれに対して補助をするというような建前で法律上の措置をいたしておるわけであります。
  284. 野原覺

    ○野原(覺)委員 大蔵大臣の御答弁を承りますと、総理が、人づくり政策の政府の努力しておる点の一つにあげた教科書無償については、ほんとうに来年も全額国庫負担でいけるのやら、供与という方針でいけるのやら、私立学校にも渡せるのやら、検討しなければならぬというのです。総理大臣、あなたはこれはそう言っておりますけれども、私は、どうもこの教科書無償の問題をじっと見ておりますと、何かしら人気取りのようなにおいがしてしょうがないのです。これは、はっきり自民党なり、池田内閣が教科書無償として打ち出した限りは、完全無償の計画を国民の前に出しなさい。小学校六年、中学校三年、この九年間は何年計画でやるのだというものをかつて出したことがございますか、ないのじゃありませんか。去年は予算を小学一年だけ、ことしは三年まで計上したが、来年はどうなるかという方針がありますか。ないでしょう。来年はどうなるのですか。来年は小学校六年までなるのですか。それとも中学校の三年まで全部来年は完全無償でいけるのでございますか、文部大臣、お尋ねします。
  285. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 野原さんお話しのように、きちんと何年までに完了するということは、政府全体としてきまっておりません。それは事実であります。ただし、この前の通常国会で御審議願いましたあの法律に基づきまして、義務教育の教科書を無償とするという方針は確定していただきました。そのやり方については、これまたあのときの法律に定められましたがごとく、調査会を設けて検討するということで、ほとんど一年近く、昨年の十一月末日まで検討していただきました。その結論としては、今のお尋ねの点についてだけ申せば、年次計画を定めてそれを完成しなければならぬという趣旨のことがございます。その年次計画が何年以内だということはむろん具体的には出ておりません。今まで関係省とも相談いたしまして当面三十八年度予算に、今御指摘のごとく三年生までということまでたどりつきました。文部省だけの希望としましては五年以内に完了したい、かように思っております。政府全体の結論ではございませんけれども、のんべんだらりとやるべきではなかろう、できれば五年以内に完了したいものだ、かように思っております。
  286. 野原覺

    ○野原(覺)委員 文部大臣の御決意はわかりましたけれども、大蔵省では事ごとに反対をしております。これは半額国庫負担にすべきだという考え方もあるのです。これは田中大蔵大臣なかなかつらい立場です。事務当局は承知しないと言っておるのです。大蔵関係の議員の中でも反対をしておるのです。だから、あなたの計画、あなたの決意はわかりましたけれども、これが池田内閣の方針であるかには疑問がある。  それから、総理の人づくりの努力点で次に申されたのは、施設の拡充ということでした。私は最近朝日新聞を見て驚いたのです。高等学校急増対策について朝日新聞が全国的にわたって調査した「お寒い限り」という見出しで書かれておるのを見て驚いたのです。時間もございませんからこれは急ぎますけれども、新潟県では七つ学校を建てたければならぬのに、建っているのは四校で、間に合うというのが二校、一校はまだ完全に工事にも着手していない。これはことしの四月から始まらねばならぬ学校であります。神奈川県においては、これまた七校建てるというのに、間に合うのは一校だけだそうです。大阪においては、この急増対策が間に合いませんから、工業高等学校の地下室に今度の新入の高等学校の生徒を入れるというのであります。ベニヤ板で間仕切るならよいのでございますけれども、福島、函館、茨城等々、全国の実情を朝日新聞が調査して発表しておる。こういう実情が片一方ではあるのに、片一方では人づくり、政府の任務は環境と条件をつくり上げること、こう言うのです。そうしてそれが施政演説に出てくる。そうして私はやっておると言うけれども、何にもやっておらぬ。一体この高等学校急増の問題は、私は荒木文部大臣に去年文教委員会で何べんも申し上げたはずだ。荒木さん、御記憶でございますか。進学率を六〇%にしておるのは少ないぞ、これでは大へんなことになるぞと言ったら、あなた方は当時がんばったでしょう。なぜ去年六一・八%に是正しないのですか。今ごろになって、あと二カ月で学校が始まるというのに、六一・八%と進学率を是正する。これをどろなわ文政というのです。私は指摘しておるのだ。しかも六一・八%というのも、これは少ない。これでいきましても、私どもの計算によれば、十四、五万人の高等学校に行きたくても行けない生徒ができるのです。これを俗に中学浪人というのです。  時間がございませんから次に入りますけれども、たとえば学級定数の問題、これから子供はだんだん減っていきます。小学校の生徒は減っていきます。小学校の生徒が減少して参りますと、勢い教員の数もこれは減っていくのではなかろうかという問題が生ずるのであります。ところが、幸か不幸か、日本の学級定数というものは諸外国に比べて非常に高い。文部大臣が御承知の通り、三十七年度は五十五名であった。ことし五十名にする。フランスは三十名、アメリカは二十五名です。ベルギーは、これは二十何名です。英国のごときは、ある小学校の校長が、三十七名以上持てと言ったら、私は責任が持てないと言った。子供の教育をするのに、ほんとうに個別に即して、池田さんの言うように、産業界の要求に間に合うような技術者、技能者をつくらなければならぬ、片一方には精神づくりをしなければならぬ、この二本の柱があなたの人づくりのようでございますけれども、あなたの人づくりというものをほんとうに実現するためには、政策の上では学級定数を減らさなければならぬ。文部省では減らす計画があるようです。まずその計画を一応発表していただきたい。どういうような計画で学級定数を減らそうとなさっておるのか。何年になったら、少なくとも四十名ぐらいの——ヨーロッパ並みの三十五名とはいかなくても、一学級四十名ぐらいの生徒の定員に何年たったら実現するのでございますか。文部大臣、承りたいのです。
  287. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 生徒減少に伴いまする対策にお答えします前に、いわゆる高校生急増対策について言及されましたので、簡単に申し上げます。  御指摘の通り、前向きに三十六年度から、三十六、七両年度を含めまして、三十八年度の生徒増に備えるということで、昨年一月二十六日に閣議決定をいたしました計画で前年度は進行して参りました。年度途中におきまして都道府県知事の方とも十分に連絡をし、大蔵、自治、文部三省一緒になりまして、いわば共同作業をして検討をしました結論としては、昨年一月二十六日の閣議決定の線は、御案内の通り三十五年度をとるほかになかったので、それを基準に考えまして、進学率を六〇%と見て作業をいたしました。ところが、今も申し上げた都道府県知事との現実の計画に見合いまして再検討をした結論は、六一・八%という、全国平均でいけばおおむね一月二十六日に予定しておりました現実入学者の入学率九六%を確保できそうだという結論に到達いたしましたので、年度途中におきまして、御案内のごとく五十八億円の追加財源措置をいたしまして、さらに三十八年度は、全事業量から申し上げれば、当初の計画の五百五十三億円では十分でないというので、六百八十二億円に増額いたしまして、三十八年度の年次割を二百十二億円と予定して財源措置をそれぞれいたしております。従って今申し上げた通り、入学率は九六%を確保し得る見込みでございます。  それからなお次の問題でございますが、小中学校で生徒が御指摘のごとく減少して参ります。ほうっておけば首切りにならざるを得ない。ただ一面、五年計画ですし詰め教室解消計画を立てまして、三十八年度がその最終年度であることは野原さんも御承知の通りであります。五十人にようやく全国的にたどりついた、そこで三十八年度としましては、五十人にしますことによって、結論を先に申し上げれば、三千人ばかり教員が余る勘定になりますけれども、従来の平常時の実績の例を見てみますると、年間約一万人の自然退職者があり、さらに高校急増に移りますためにその方に教員が要る。これまた御案内のごとく年々の大学卒業者の教員志望、あるいは臨時養成等のルートを通りましてもなかなか教員充足が困難だというので、以前から計画的に、中学の先生で高等学校の免状を持っておる方々を配置転換するというやり方によって、約四千名近い者を期待いたしております。そこでそれをあわせ考えますと、三十八年度三千人ばかりの赤字が出るような勘定でありますけれども、全体としましては、相当の新規採用をいたしましてもなおかつ首切りは必要でない、そういう結果になるはずがないというその根拠に立ちまして首切りは行なわない、こういう考えに立っておるのであります。将来学級定数を何人にするかはなかなかむずかしい課題ではございますけれども、当面少なくとも四十五名を目標に、できれば五年計画くらいでもって漸次そういう方向に移行していったらいかがであろう、こういう考え方のもとに作業を進めておる段階であります。
  288. 塚原俊郎

    塚原委員長 野原君に申し上げますが、申し合わせの時間が経過いたしましたので、至急結論をお急ぎ願いたいと存じます。
  289. 野原覺

    ○野原(覺)委員 ただいまの文部大臣の御答弁では教員の首切りは行なわない、私もこれは賛成でございますから、ただいまあなたがこの予算委員会で言明されたこのことは、これはあなたが責任を持って首切りが行なわれないように措置をして下さるものと私は確信をいたすのであります。  それからこの学級定数の問題でございますが、これは一体四十名くらいの計画を立てなければならぬのに、このことに対する明言が、何年計画で実現するのやらきわめて怪しいのであります。聞くところによれば田中さんの大蔵省では、文部省が学級定数を減らすならば義務教育費国庫負担法に基づいて金がよけい要るから、これは何とかしなければならぬというので、義務教育費国庫負担法の改正を実はもくろんでおるかのようなうわさも流れておるのであります。これは私は大蔵大臣に申し上げておく。あなたの事務当局がそういうことを考えておるとするならば、とんでもないことなんです。池田内閣の方針は、これは人づくり、しかも人づくりは環境と条件を整備することなんです。これが池田内閣の基本方針なんです。だから教育の環境と教育の条件を整備するということに対しては、大蔵当局は、これは優先的に考えていかなければならぬものではなかろうかと私は思うのであります。  文教問題の最後にお伺いをいたしますが、これは文部大臣にお尋ねをいたしますが、この前の臨時国会であなたは大学管理の改正案をこの国会に出す、こういう言明をされて、この言明が非常な物議を実はあちらこちらに与えておることは、大臣御承知の通りであります。ところが、今度は通常国会が開かれますと、池田さんの施政演説によって、この大学管理法というものは出さないことになったのです。文部大臣、どういう理由で出すと言明しておったものが出さないことになったのか。その理由に対して文部大臣としてはどういう御所見を持っておられるか、お伺いいたします。
  290. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 お答え申し上げます。大学の諸制度の改善、関係法律の改正、これは御案内のごとく昭和三十五年五月二日松田文部大臣当時に中教審に諮問されましたことから、真剣な客観的な冷静な立場での御検討が行なわれまして、三年越し次々に結論的に答申をちょうだいに及びました。その答申に基づきまして、それを尊重しながら、現行法上大学制度に現実に欠陥がございますから、その意味において、文部省としましてはそれを受けて立法措置を講ずべきものは講ずる、これは当然のことでありまして、物議等がよしんばあるといたしましても、そういうことでなしに、淡々として水の流れるがごとくそれを受けて、大学をよりよくするするために、言うところの研究の自由と大学の自治を、よりよく大学人ともどもしていくための措置として、立法措置が必要であるという角度から受けまして、またその通りの内容ですから、国立大学の学長会議の意見も全部入れられた答申が出ました以上は、それを受けて立法化するものはするという考え方のもとに、通常国会に出す心がまえだ、そういう意味で一、二度御質問に応じてその考え方を申し上げました。ところで、先日の閣議で発言をいたしまして、取り下げることにいたしました。取り下げました理由は、実際問題として、だんだん日がたって当面してみますれば、統一地方選挙を控えまして、実質的な御審議の期間があまり多く期待できない。さらにまた日韓問題を初めとします当面の緊急重要課題もあることでございますから、文部当局としましては、一刻も早くという気持は十分にございますけれども、全局的な判断からしますれば、この際は提案を取りやめまして、向こう一カ年間、より一そう大学人の意見も聞き、世論にも聞きまして、よりよきものとして提案する心がまえにすることが適切であろう、かように判断しまして閣議で発言して取り下げることにいたしたのであります。
  291. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理大臣にお尋ねしますが、荒木文部大臣のただいまのお答えによりますと、大学管理法を文部省は出したいのだ、けれども実質的審議が時間の余裕もないだろう、今度は選挙もあるし、それから国会では日韓会談等々の重要な問題もあるからこれは実質的に審議する時間等も少ないだろうから提案をしないということであります。あなたの方針は、国会対策上提案をしないということなのですか。いかがですか。
  292. 池田勇人

    池田国務大臣 今、文部大臣が答えましたように、今、大学の方におきましていろいろ自主的に管理運営につきまして反省、改善の機運があります。私はそういうところも見まして、やはりこういうものは世論の気持、そして大学の関係者のよりよき方策等々を参考にしてやった方がいい、これは荒木君も今言った通りであります。どちらかと言えば、国会の運営ということよりも、後段の方が私が主として考えた方でございます。
  293. 野原覺

    ○野原(覺)委員 自主的運営の適正化に期待しなければならぬと施政演説に書いてある。私はこれはまことにけっこうなことだと思うのであります。賛意を表したいのであります。文部大臣が国会対策の運営でこれは出さないのだ、取り下げるのだと私は発言したとこう言っておる。違いましょう、総理大臣。違うでしょう。あなたもお聞きになったでしょう、今。私はこれはそうじゃない。総理が政施演説の中で「その運営が自主的に適正化されることを強く期待するものであります。」というので大学管理法は出さない。つまり大学が自主的に運営をしてくれるならば、適正に運営をしてくれるならば、この種の法律は要らないのだという考えだということです。しかし自主的に運営できない、じっと模様を見てもどうも適正でないという事態がきたならば考えなければならぬということは、確かにあなたは施政演説で言っておりますけれども、総理が今お話しになりましたように、自主的運営の適正化に期待をしておる。文部大臣、違うじゃありませんか。
  294. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 お答え申し上げます。違わないと思います。と申しますのは、大学人も私のところには見えまして、提案を慎重に考えてくれという申し出がありました。また自主的に今までもある程度やったでしょうが、こういう問題がやかましくなって、特に大学人の責任を痛感し始めておる、また自主的な運営上の措置も講じたいと思っておるということを私も直接聞いておりまして、そのことも全然関係なしとは申し上げません。それは、文部省といたしましてもむろん望むところ、本来そうあってしかるべきものを、おくれたりといえども感づいていただいたことは御同慶にたえない。それに大いに期待する、これは当然のことであります。そのことと、大学人の意見もいれて中教審が答申されたこととは、また別個の問題でありまして、大学だけでもって自主的にやられて、現実に不便不利がなくなるということは望ましいことですけれども、万に一つも不便があるとするならば、それとこれとは相寄り相助けて、協力して、初めてほんとうの意味の大学のためのよりよき管理運営ができる道理でございますから、大学人が自主的に云々とおっしゃったから、それで問題がすべて解消するものでないことは、大学人みずからもよく御承知であります。  そこで、先ほど申し上げましたような文部省としての考え方、及び今総理が言われましたようなこと、それをあわせ考えまして、この際としては取り下げるということが適切である。そこで、先刻も申し上げましたように、元来、大学側からも、法案ができたらばぜひ見せてくれという申し入れもありまして、取り下げると同時に、一応準備しました法案を公開いたしまして大学にも送り届けまして、十分に御検討を願い、御意見を承りたい、こういう措置をいたしております。それのみならず、一般の識者の、公開しましたこの法案についての御意見等も十分承りまして、そして今後よりよきものとして次の機会に提案するということを考えることこそが適切なり、かように考えた次第であります。
  295. 野原覺

    ○野原(覺)委員 総理大臣、大学管理についてはよりよきものとして次の機会に提案するというお考えですか、いかがですか。
  296. 池田勇人

    池田国務大臣 教育法その他につきましては、まだ体系として十分にできていない、改善すべき点があるのであります。従いまして、文部大臣が答えましたように、中教審に対しまして答申を求めておるのであります。しこうして、文部省の方は、当初はその中教審の答申によって教育法その他の関係法令の改正を企てましたが、片一方では、私が非常に期待しておりますごとく、各大学におきまして自主的に管理、運営の改善をはかっていこうという機運がございますので、その機運の盛り上がりを期待しておるわけでございます。だから、盛り上がってくれば、あと法律は一切今後出さぬという意味のものではございません。やはり法律というものはできるだけ整備した方がいい。整備をするのに急いではだめなんで、やはり盛り上がる気持、みんなの衆知を集めてりっぱなものにしたいというのが私の念願であるのであります。だから、この改正は将来永久に出さないというわけのものではないのでございます。ただ、今国会には出さぬ。それでは来国会出すか、これはやはり盛り上がりをいろいろな点から考えて慎重にきめなければならぬ問題だと思います。
  297. 野原覺

    ○野原(覺)委員 時間もございませんから、これをもって終わりたいと思いますけれども、私は最後に文部大臣に申し上げておきます。  あなたは、大学管理の運営については単独立法でなければ適正化は期しがたいというのがあなたの持論であったのです。ところが、そのあなたの御持論が閣議で拒否されたのであります。私は、この政治責任は大きいと思うのですよ。しかも、あなたのただいまの御答弁を聞きますと、総理答弁と非常に食い違っておるのです。総理は、自主的運営の適正化が期せられるならば、何も急ぐ必要はない、法の整備はそれは考えなければならぬけれども、こう言っておるが、あなたは、次の機会に出さなければならぬと言う。聞くところによれば、文部省の内藤次官なり荒木文部大臣は、閣議で破れて残念だ、閣議で破れたが、この執念は必ず実現さしてみせるぞ、こういうような放言をいたされておるやに私は承るのであります。これはきわめて遺憾千万です。私は、先ほど申し上げましたように、教育基本法の問題では、総理大臣に内閣一体性の原則から、あなたの決断を今後も促して参りたいと思いますが、同時に、大学管理法の問題を通じて、荒木文部大臣は、今日御自身進退を決定しなければならぬ時点がきたのではなかろうかと私どもは考えるのであります。  そこで、委員長に最後に要望いたしておきますが、日韓会談につきましては、私は、先ほど大野さんを本委員会にすみやかに参考人として喚問して下さるようにお願いをいたしましたが、このことはすみやかな機会に御実現下さるように委員長に要望をいたしまして、私の質問を終わりたいと思うのであります。
  298. 荒木萬壽夫

    ○荒木国務大臣 私と事務当局が何か申し上げたようなことをおっしゃいましたが、そういう事実はないことだけを一つ御了承をいただきたいと思います。
  299. 塚原俊郎

    塚原委員長 次会は明後二月四日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十八分散会