○大平国務
大臣 日韓の間に、御案内のように、まだ国交の正常化を見ていないわけでございます。この国交を正常化いたしまして善隣友好の実をあげたいというのが、私
どもの立っておりまする根本的な立場でございます。国交正常化をする必要がないのだという論拠に立ちますれば、また話は全然別になると思います。私
どもはいかにしてこの国交の正常化をなし遂げたいという希望を持ちまして、鋭意
努力をいたしておるわけでございますが、しからば、その国交の正常化を期するためには、言うところの日韓の間に横たわっているもろもろの懸案があるわけでございまして、漁業の問題にいたしましても、竹島の問題にいたしましても、
法律的な地位の問題にいたしましても、そして今問題になっておりまする請求権の問題またしかりでございます。こういった懸案の妥当な解決がなければ、国交の正常化というものはあり得ないわけでございまして、私
どもは懸案の解決を懸案のためにやっているわけではなくて、すべての懸案を国交正常化との関連におきまして吟味し、でき得べくんば解決の道を見出したいということで今日まで
努力してきたわけでございます。
そういう前提に立ちましてお聞き取りいただきたいのでございますが、その場合、もろもろの懸案の中で
一つの請求権の問題というものがある。これは木原さんのおっしゃるように、私は、日本人の感情といたしまして、韓国になぜ金を払わなければならないかということについて、十分御納得がいっておるとは思いません。私自身もそう思います。しかしながら、一方韓国側におきましては、日本に対しまして、三十六年の統治を通じましてたくさん有形無形の言い分があることも、またよくわかるのでございます。こういう日本に対するクレームがある。日本側はないということをいつまでも続けておったのでは、これは国交正常化の前提に横たわる懸案の
一つさえ解決ができないということになりますると、正常化ということは所期できないわけでございまして、こういった日韓間に非常な落差のある問題につきまして、何かこれを割り切る道がないかということを工夫してみるのは、外務
大臣としての私の当然の
責任だろうと思うのでございます。
しからば、この請求権の問題を、
法律関係、事実
関係を明徴にいたしまして解決する道があるかと申しますと、きのうも、井出先生、勝間田先生の御
質問に対しまして私が答えました
通り、
法律論といたしまして、彼我の間に非常な見解の相違があるわけでございます。きのうも一例として申しましたように、朝鮮銀行から持ち出しました金地金というものは、朝鮮銀行法によりまして正当な売買をしたものだとわれわれは主張する、先方は、そもそも不当な統治をやっておるのであるから、すべての実定法の根拠を認めないという立場にお立ちになるわけでございまして、双方の間には氷と炭みたいな見解の相違があるわけであります。従いまして、
法律的な見解の帰一を見るということは、これはむずかしいといいますよりは、ほとんど不可能ではないかと私
どもは判断するわけでございまして、また、それをささえる事実
関係につきましても、推定の要素をたくさん加えないと事実
関係の
構成ができない。その推定の方法につきまして、また平行線をたどるという過程を繰り返してきたわけであります。しかしながら、国交の正常化はやり遂げなければならない歴史的な課題であるとすれば、そういった問題をどのように割り切るかということは、
一つの方法しか残らぬのじゃないかと思うのです。過去の事実をせんさくするかわりに、将来に向かって日韓両国は相提携して、将来の繁栄と相互の利益をはかろうじゃないか、そのためには、世界全体が今
経済協力時代でありまして、先進工業国が後進国の
経済開発に応援をいたしている、そういう時代になってきている。従って、わが国が、一番近い隣邦である韓国の
経済再建に対しましてある程度の援助を申し上げるということをいたしますから、どうぞ百年河清を待つような請求権論議をいつまでも両国が繰り返しているという愚をやめて、こういう問題は、一方において将来の展望に立って
経済協力をすることによって、この問題は解決したのだということを両国で確認したらどうだということの御提案を申し上げまして、大筋において先方も、そういうことにするより以外に解決の道がございませんでしょうという点にまで歩み寄ってきていただいておるわけでございまして、そういう意味合いでわれわれは
経済協力を
考えておるわけでございますが、今、三億ドル、五億ドルという
経済協力という問題は非常に過当ではないかという御判断であります。木原
委員もお認めのように、これは賠償ではございません。従って、フィリピンやインドネシアとのバランスをとって
考えるべき性質のものではないと思うのでありまして、一にかかって日本の財政能力からいたしまして、また、海外支払い能力からいたしまして、許される限度において
考えるべきものだと判断いたしまして、きのう申し上げたような数字を
考えておるわけでございます。