○小林信一君 私は、ただいま
趣旨説明のありました
公立義務教育諸
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準に関する
法律及び
市町村立学校職員給与
負担法の一部を改正する
法律案に対しまして、社会党を代表して、
総理大臣並びに
関係各
大臣に
質問をいたします。
文部省は、さきに道徳教育の時間を設定し、道徳教科書をつくる意向を漏らし、さらに本年は全国に百九十二の道徳教育指定校をつくって道徳教育の徹底を期する体制を固めております。世相が悪化し、非行青少年がちまたにあふれ、その行為は自暴自棄にひとしく、将来が憂慮される今日、文部省のとられる
処置もわれわれに理解できるのでありますが、社会事情そのものが過去の常識で
考えられない複雑さを生じている現在、道徳教育という教育方法の考究より、教育行政には、教育の本質である教える心と教えられる心が強く接触することが可能な条件、つまり一学級の生徒数を少なくすることが強く要求されているのではないでしょうか。すし詰め教室を一日も早く解消してほしいと要望を続ける父兄や教師の声は、学力の向上ももちろんでありますが、
想像できない将来の社会生活をたくましく生き抜くためには、教師がそれぞれの個性、能力を生かすきめのこまかい指導をすることが必要と感ずるからであります。したがって、本法案には
政府の積極的な
態度を求めてやまないもので、この観点に立ちまして
質問を申し上げるつもりであります。
諸外国はすでに三十人ないし四十人を限度として
学級編制がなされ、教育の成果をあげながら、なお最近の科学技術の発展に伴いまして、その基礎教育である理科、数学を教える場合はさらに二つのクラスに分けて教えるほど、教育の効果と
学級編制のことは重視されておるのであります。これに対しまして日本の教育は、教師にますます複雑化する
学校事務、さまざまな雑務を負わせ、五十人から五十五人の過大学級を受け持たせ、教材研究も十分できない
状態に追い込んで、勤務評定や学力テストという非常手段で教育効果をあげようとしておるのが現在であります。教育の近代化こそすべてに先がけて行なわれなければならない問題であると私は
考えるのであります。
ただいま
趣旨説明がありました標準法は、
昭和三十三年公布されたもので、第一次五カ年計画がいま終了し、今回第二次の計画として立案されたものでありますが、今後の五カ年間は児童生徒が実に三百万以上激減するという
事態に直面しているのでありますから、少なくとも社会党が提案し、目下審議中であります五カ年間に四十人とする編制基準、そのための教職員の定員増加はきわめて妥当なものと私は思うのであります。(
拍手)何ゆえこれに同調しないのか、
政府の
態度は理解に苦しむものであります。四十五人が理想の基準と
考えるのか、四十人まで引き下げたいが
財政が許さないのか、施設その他に問題があるのか、教育を受ける権利を保有する児童生徒にかわって要望する声が受け入れられない理由を文部
大臣からまず御
説明願いたいのであります。(
拍手)新聞の論説にも、この法案は児童生徒の激減するのを機会に、一学級の生徒数を減らし、相対的に教員の定数をふやして、七万六千人の首切りを避けようとする、ごく消極的な一石二鳥をねらった法案であって、画期的
対策であるとか、世界水準に達するなどと自負するほどのものではないと批判をしております。
文部省は昨年秋に教育白書を出しまして、欧米各国では国民所得や行政費に対する文教費の比率が年々上昇しているのに対し、
わが国における比率が停滞していることは、将来の経済成長の見地から憂慮される、こう経済成長政策に警告し、将来への投資を主張して国民の信頼を受けたのでありますが、その
精神こそこの法案に生きなければならないはずであります。国民がこの法案を見て裏切られた感じを抱いておるではないかと私は
考えます。
総理大臣の人づくりもまた国民に高く評価されておりますが、この法案を出されるようでは、人づくり政策は国民の要求から遠く離れた一つの理論にすぎないといわざるを得ません。(
拍手)
総理大臣にお
伺いいたしますが、
総理の言う高度経済成長政策は、産業界の一部あるいは経済界の一部に
施策されるものでなく、国民全体を対象とした企画であると私は信じます。しかもそれは、あなたの政権担当の期間という一時的なものでなく、将来にわたって成長を期する構想であると私は思います。したがって、大樹が風雪に耐えて成長するために、その根を地中にしっかり張らねばならぬと同様に、国民一人一人の技能をみがき、個々が高い教養を持つことが、政策遂行の要件でなければならないはずであります。
総理が説く人づくりは、こうした思想の中から出発し、この
法律もその
精神を体して生まれた具体的な教育政策の一つとして
考えられます。あなたの人づくり政策達成のためには、
学校教育が最も重要な役割を果たすことは論をまたないところでありまして、義務教育における基礎学力の向上や、科学技術教育の充実、青少年の非行防止に万全を期すべきであります。そのためには、個々の児童生徒に教師の指導が徹底し得る
学級編制が必要であり、特殊な技能を養成するための専科教員を配置し、現在のごとき教師が過重な負担を課せられて、教材研究も十分にできないような
状態から解放するために、養護教員、事務職員、司書教諭、栄養士の定員を
確保して、教育内容の充実、向上に努力すべきであります。遺憾ながら本法案には、この期待にこたえるような
熱意は認められません。これがあなたの人づくり政策の一環のものであるとするならば、その人づくりは、まことに空虚なものといわなければなりません。(
拍手)
この際、
総理の人づくりの具体的な方策を明らかにされるとともに、本法案は人づくりといかに結びつけられて検討されたかを御
説明願いたいのであります。
次に、
大蔵大臣にお
伺いいたします。
大蔵大臣は、本年度予算に
学校給食の無償給与費四十億を計上いたしまして、文部当局の意表をつき、教科書無償という画期的政策を引き受け、私学振興
対策に二十億、まさかと思っておりました平城宮址のために七億と、予算総額から見れば大した額ではありませんが、かつて教育に対しかかる
熱意を示した
大蔵大臣は残念ながらなかったのであります。教育に関心を持つ国民はあなたに深く敬意と感謝をささげたのでありますが、しかしこの法案では、画龍点睛を欠いたうらみがあります。
大蔵大臣の教育観、はたして那辺にありやと国民は理解に苦しんでおります。なぜならば、給食無償も教科書無償も、国民の悲願であったことは事実であります。しかしこの標準法は、教育一切の基盤をなすものであって、第一次の計画が児童生徒の増加する段階で組まれたのに対しまして、今回は三百万以上の減少を予想する中で計画され、教育充実の絶好の機会であったことを賢明な
大蔵大臣が判断できなかったことは、遺憾というべきでありまして、
大臣のこれに対する御見解をこの際
説明していただきたいのであります。
さらに、この標準法は、
地方の
実情、特殊性を認めて、実員実額の形が従来とられてきたのでありますが、大蔵省が定員定額を主張し、定員実額に妥協したと聞いておりますが、
地方の自主性を教育に生かす点からも、まことに残念といわなければなりません。
大臣の真意のほどをお聞かせ願いたいと思います。
次に、
自治大臣にお
伺いいたします。
自治大臣の教育に対する
責任は、教育費が
地方財政を圧迫しないよう、しかも、
地方自治体の教育に対する自主性を守ることが、あなたの
責任だと
考えております。国民の教育に対する関心の高まりは、施設設備の充実から、事務職員、養護婦、栄養士、司書、こういう
人たちの要員を市町村費で充足する傾向が次第に強くなっております。そのためには、
地方財政の中に占めるところの教育費は、ますます
地方財政を圧迫してきておるのでありますが、本法案は、これらの問題を解決するに重大な使命を持つものでありまして、立案にあたって、
大臣が
地方の要望をどのように果たしたか、お
伺いしたいのであります。
最後に、文部
大臣にお尋ねいたします。
第一に、本法案では都会地、富裕
府県の教育は恵まれるが、僻地や小規模
学校を持つ貧弱県は恵まれません。ますます教育の格差が
増大すると
考えられます。学力テストを実施した文部省としては、その結果としての特別な
措置がなさるべきであるが、そうした
配慮がどのようになされたか、お示し願いたい。
第二に、
昭和二十二年制定の
学校教育法施行規則にさえ、小
学校には特定の教科を担任するため、必要な数の教員を置くことができると
規定されております。今日、理科、音楽、体育等の専科教員の必置が強く要望されておるのに対し、どのように
措置されたか、
説明をお願いいたします。
第三に、同じ
学校教育法第二十八条には、事務職員、養護教諭は置かなければならないと定め、養成機関の不備等から当分の間置かなくともよろしいとして今日まで放置されまして、毎回の国会審議の中で問題となり、文部省は、最近の教育事情を考慮いたしまして必ず善処すると約束されておったのでありますが、いかが
処置をされたか、御
説明願いたいのであります。
第四に、この法案では首を切られる者が少なくとも二万人以上に及ぶと私は
考えられるのであります。この
処置は一体どうするお
考えであるか。また、今後も児童生徒の減少が予想されるのでありますが、教員志望はいよいよなくなり、教育界の沈滞が憂慮されますが、いかに
対策されるか、お
考えをお聞かせ願いたいのであります。
第五に、
池田総理は一作家の文章を読んで直ちに厚生
大臣にその
調査を指示し、その作家はもちろん国民全体を感激させたことは、まことに喜ばしいことであります。文部
大臣としては、精薄児、肢体不自由児、盲、ろう、こういう子供たちの完全就学に一そう努力すべきだと
考えますが、現在の就学率、将来に対する
対策、そのための教職員の
確保についてどのように
考えられているか、御
説明を願いたいのであります。
さらに、
学校給食、
学校図書館、
学校の警備の問題、こうした要員の
確保、社会情勢の急激な変化に応ずるための教職員の再教育、そのための教職員の配置について、教育行政者として当然考慮されなければならない問題でありますが、どのようにかかる点に検討をされておるか、との際明らかにされることをお願いいたしまして、
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕