○
帆足計君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
大平外務大臣不信任案に賛成の意を表するものであります。(
拍手)
大平外務大臣が、その人となり慎重にして、一種の
安全感覚を有され、その国会における御
答弁ぶりを承りますと、常に低声にして、不得要領、巧みに
質問の論点をはずらかし、常に
日本資本主義の
保守的要望を代表して、その
均衡を失わざるようひたすら努めておらるることは周知のことでありますが、今般の
日韓交渉の経過を見ますると、
世界の
情勢、
韓国の
現実に対する認識を
誤り、
日韓交渉は慎重なれという
国民の
世論に
思いをいたさず、
野党の
警告に耳をかさず、
アメリカ極東政策の
圧力に追随して、
日本民族の
進路を危うくし、国政の
前途を誤らんとしつつあることは、まことに遺憾しごくのことであります。(
拍手)
今日、
韓国の
政情は、かつての
李承晩ファッショ政権没落の前夜をほうふつたらしむるがごとき深刻なる
様相でありまして、朴・
金コンビの崩壊はもはや必至の勢いであり、
韓国政局の前述は暗たんとして、その先行きは逆睹を許さぬ形勢であります。
しからば、そもそも
朴政権とは何ものでありましょうか。過ぐる一九六一年の五月十六日朝明け、突如として京城に銃声とどろき、かの二・二六事件を思わせる風景のもとに、民主主義の殿堂たる国会は一挙に否定せられ、戒厳令下に軍事ファッショ独裁
政権の支配が行なわれたのでございます。(
拍手)かくして、民主主義の初歩的
条件たる言論、集会、出版の自由は一挙に抹殺され、二十三の政党、二百三十八の社会団体、二十の大学、二千三百の新聞雑誌並びに出版機関は、あるいは禁止され、あるいは解散されるに至ったのでございます。また、
野党に対する弾圧はことさら激しく、多くの
政治指導者、社会運動家、著名なるジャーナリストたちは続々と投獄または処刑され、たとえば
社会党組織部長崔百根氏、穏健なる自由主義者趙鏞寿民族日報社長らも、単に
南北の平和
統一に賛成せるゆえんをもって死刑に処せられたることは諸兄の熟知せられる
通りでございます。さらに悪名高き
金鍾泌氏を長とする軍の特務機関は、各種布告違反の口実のもとに、劇場、映画館、食堂、旅館、理髪店等至るところで民衆の生活を束縛し、さまつなる
理由をもって逮捕、処罰至らざるなしという状況を現出いたしたのでございます。まさに、
大平外務大臣が
交渉の任に当たり、大野伴睦氏が親善使節としてよしみをあたためんと試みたる
朴政権とは、このような歴史的性格のものであったのでございます。(
拍手)すなわち、朴正煕なる人物は、かつて
日本の陸軍士官学校に在籍し、ゆがめられたる運命のもとに身を立てたる一職業軍人でありまして、この教養低き職業軍人の訓示に誓いを強要されつつ生まれ出んとする
韓国民政の
前途の多難なることは、ひとしお察せらるるのでございます。
さて、このような
政治的混乱の
背景をなす
韓国、すなわち南
朝鮮の
経済と社会の実情はどのようでありましょうか。
南
朝鮮の人口は二千三百万、そのうちの大部分は農民でありまして、製造工業に従事する者わずかに四十万。製造工業四十万に対してサービス業は六十万、これは
アメリカ進駐軍にサービスする娘たちも含むのでありますが、小売商同じく六十万、失業者は、
大平外務大臣の発表によりますと、実に百四十万をこえる。このような病的社会構成をなして苦しんでおるのが南
朝鮮の今日でございます。米を初め農産物の収穫も、李承晩の悪政以来著しく減産いたしまして、毎年春になりますと、春窮、すなわち春きわまると称しまして、毎年四、五月のころは、食糧飢饉、社会
政治不安が激化いたすことも、諸兄の御
承知の
通りでございます。さらに、
南北戦争の惨禍は言語に絶するありさまでありまして、なお、多年にわたる季承晩
政権の悪政と、さらに六十万という分不相応な軍備を強要されておる重荷のゆえに、社会保障を顧みるいとまもなく、結核患者の数は、人口の七〇%にも蔓延し、九〇%の回虫、四一%のジストマ、さらに、
戦争と生活苦のため、精神病患者三十万、犯罪検挙数は、今日
外務省の発表によれば、四十五万をこえるような惨状を呈しておるのでございます。このような生活の貧窮と社会不安が今日不幸なる
韓国の政局不安の根源であることは、おおうことのできない事実でございます。
しからば、そもそも
外務大臣が今次
見通しを
誤りしゆえんのものは何であったでしょうか。もとより変転きわまりない今日の
国際情勢の中にありまして、私は、単に今次の一政変をとらえて、わが党の先見の正しさを誇り、小じゅうとのごとく外相を追及しようとするものではありません。にもかかわらず、私どもがどうしてもここに、今国会において明らかにいたしておかねばならぬと痛感いたしますことは、いやしくも
外交の衝に当たる以上は、敵を知り、おのれを知る、百戦危うからず、
相手方の社会、
経済、
政治情勢の
大局だけは正確に把握しておかねばならぬという一つのことでございます。(
拍手)そのためには、少なくとも
大平外務大臣は、
交渉の前提として、まず第一に京城に
外務省の在外事務所の設置を
要求すべきではなかったでしょうか。このことは、東京に
韓国の在外公館が置かれている以上、これまた当然のことでありまして、これすら実現せずして
交渉を開始したのでは、あまりにも軽卒、めくら
外交と評せざるを得ないのでございます。(
拍手)
第二には、平素から必要なる統計資料を整備して、これを念頭に入れて事に処すれば、およその見当はついたはずであろうものを、私が先ほど申し述べましたような
韓国の不幸な
経済構造の数字だけでも
外務大臣が心にとめておかれたならば、もう少し
見通しを正確にし、緩急よろしく事に処することができたはずだと思うのでございます。(
拍手)
韓国の
経済構造が、不自然かつ著しくかたわでありますことは前に述べた
通りでありまして、たとえば
朝鮮の北半分におきましては、諸兄の熟知せられるように、鴨緑江の水力電源に恵まれ、平壌の石炭、茂山の鉄鉱石、咸興の化学肥料、その他金鉱、螢石、タングステン等に恵まれておりますけれども、南半分におきましては、石炭と鉄鉱石と水力電気にも乏しく、ただ
南北統一し、互いに相
交流するならばアジアのスエーデンたり得る素質を持っているのに、
南北に分断されているばかりに、今日の
韓国は実に貧困と絶望のどん底にあえいでいるのが
現状でございます。(
拍手)これを
国民経済の帳じりたる
貿易統計に例をとってみますと、
韓国の輸出
総額わずかに四千万ドル、これに対して
輸入総額は三億一千万ドル、差引赤字二億数千万ドルは主として
アメリカの軍事援助によるものでありまして、
韓国経済は、いわば
アメリカの尾てい骨ほどのものである
現状でございます。
大平外務大臣は、
韓国への
経済援助を考慮されるにあたりまして、真に
朝鮮民族の
経済自立に
協力するものにあらずして、単に左顧右眄して
アメリカの尾てい骨をなでてみずからを慰めていたというのが、
韓国援助計画の実態でなかったでしょうか。(
拍手)
かつて
朝鮮の愛国者であり、かつ、すぐれた哲学者であった朴燕巌という学者は、「熱河日記」という古い記録に封建割拠の弊を嘆いて、次のようにしるしております。「六ジの麻布と関西の絹。三南の紙と海西の鉄。内浦の鮮魚と青山のナツメ、広州の梨と関東の蜂蜜。すべてこれ
朝鮮人民の宝である。これらの物資を互いに有無通じ合おうというのにたれが妨げることができるであろうか。」周知のように、
朝鮮の歴史は、若い
アメリカの歴史に比べて何十倍も古く、大百科事典によりますと、人類史上最初の金属活字が発明されたのは隣邦
朝鮮であり、
世界最初の天文台といわれる膽星台を建設したのもまた隣邦
朝鮮人であったといわれておるのでございます。(
拍手)かつて古代
日本の陶工、織姫、楽士がいかに
朝鮮の文化の影響を受けたかは
諸君の熟知せられる
通りであって、柳宗悦氏の
朝鮮民芸史、さらには、かしこきあたりの宮中、雅楽史の一こまをひもとけば説き尽くして余るところがないのでございます。(
拍手)
さて、このような
世界文化史の一こまに大きく寄与して参った隣邦
朝鮮民族の生活と文化が、歴史の悲劇によりまして不自然に分断され、人為的障壁に苦しんでいるときに、
南北を問わず、その
国民が平和
統一を念願することは、天の理、自然の情ともいうべきものでないでしょうか。
日韓交渉にあたりまして、私たちが
池田総理並びに
大平外務大臣に対して声を大にして
警告するゆえんのものは、この天の理に反して、民族分断を固定化せんとする方向に力をかしてはならぬということでありまして、今日三十八度線の傷の痛みは、
朝鮮民族全身の痛みであることを深く諸兄とともに理解せねばならぬと思うのでございます。(
拍手)
さらに、奇異の感じに打たれますことは、
朴議長が、しばしば李承晩
政権を打倒したる四月革命の精神について言及しているということであります。そもそも四月精神とは何でありましょう。それは、第一には外来勢力の干渉を排除し、第二には民族の平和
統一を願い、第三には軍事ファッショ支配を打倒して
国民の自由と民主
政治と国会の権威を守らんとする意欲でありました。しかしながら、今日朴ファッショ
政権によって
現実に弾圧され、獄中に呻吟しているものは、実にこの四月精神そのものでありまして、しかりとするならば、不当なる李承晩反動
政権を退場せしめた
韓国の四月精神は、民衆の力は、やがて朴ファッショ
政権そのものをも早晩退場せしめるであろうことは、だれしも予見し得たところでございます。(
拍手)
このような実情が、今日置かれているありのままの
韓国の過渡期の
政情でありまして、
政府は当然慎重に事に処し、傷あと深い
韓国の病状に対しては、しばらく
事態の推移を静観すべきものであったのでありまして、何を好んで事を急がねばならぬ
理由があったでありましょうか。(
拍手)もしそれ、
国交の調整が当面必要であるとするならば、いたずらにあわてることなく、
南北それぞれ平等に必要なる事務的
関係を持てば、当面事足りるのであります。
しかも、
日韓交渉の内容をしさいに検討してみますると、
韓国への有償、無償の供与実に五億ドルに及び、そのすべては何ら法的並びに
現実的根拠がなく、かつ、具体的資料の
提出すらなさず、
国民の監視の目を盗んで、悪名高き
金鍾泌輩との
秘密外交に終始し、竹島の返還、
李ライン撤去への確たる
保証さえなく、ただ手づかみに
国民の血税二千億円を軍事ファッショ
政権に提供せんとしているのであります。しかも、このような筋違いの非生産的贈与でありますがために、当然財界、政界の汚臭ふんぷんとして蝟集し、早くも内外に広範なる汚職事件が報ぜられつつあることは、まことに遺憾のきわみであると思うのでございます。(
拍手)当初、
大平外務大臣が多少なりとも慎重なる
態度をとりましたことは、私どももよく
承知いたしているのでございますが、やがて急テンポに緊迫せる
アメリカの極東戦略に押され、さらにまた、世上いわゆるコリアン・ロビーと称せられる一部の無知なる勢力に押しまくられて、ただうかうかと流れに身をゆだねているうち、気がついてみれば、すでにとうとうたる濁流に洗われて今日の悲運に至ったというのが、偽らざる
事態の真相であると察するのであります。(
拍手)
しかしながら、事すでにここに至る、
見通しを
誤りたる
大平外務大臣の
責任は、まことに重かつ大であります。外相は、よろしくその
情勢認識の甘さを
国民に謝し、この際、
日韓交渉を打ち切ることが当然の務めであると考えられるのであります。
私は、外相とは外務委員として席を同じくし、まことに忍びがたき
思いをいたすのでありますが、ここに国政の大道、平和を守る
日本民族の大義を明らかにいたしますために、情理を尽くし、あえて馬謖を切るの
思いをもちまして、
大平外務大臣の退陣を
要求し、外相
不信任の
決議案に賛成の意を表する次第でございます。(
拍手)