○岡田修一君 私は、
自由民主党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
海運業の
再建整備に関する
臨時措置法案、並びに、
外航船舶建造融資利子補給及び損失補償法及び
日本開発銀行に関する
外航船舶建造融資利子補給臨時措置法の一部を改正する
法律案に関し、若干の質問を行なわんとするものであります。(
拍手)
海運は、
日本の
国民性に最も適合した民族産業ともいうべきものであります。戦前におきましては、
わが国は英国に次ぐ大海運国として、
日本船舶は七洋に雄飛し、その得た外貨は、よく一般貿易の慢性的赤字をカバーして、真に
日本経済の一大支柱をなしていたのであります。しかるに、敗戦によりまして保有船腹のほとんどすべてを失い、加えて、
日本海運が再び立ち上がる唯一のよすがともいうべき喪失船舶に対する補償金が、当時の金額にして約二十五億円、現在の金にいたしまするならば六千億円以上のものが、
日本海運の復活をおそれる連合国側の占領
政策によりまして、その一切を打ち切られるという悲運にあったのであります。
幸い、その後における官民必死の
努力により、その船腹童は七百五十万総トンに達し、戦前保有量をはるかに凌駕するに至っております。しかし、海運
企業の
内容におきましては、現在まさに私
企業として考え得る最悪の事態にまで立ち至っておるのであります。前述の補償打ち切りによりまして、膨大な海運再建
資金のほとんどすべては、これを借入金にたよらざるを得なかった上に、その金利は、
外国のそれに比しきわめて割高という、二軍の重い不利を背負わされて参りました。また、海運には、他の
国内産業のように
国内市場という温室で庇護される部面が一つもありません。自主
経営を許された当初から、ほんとうのまる裸のままで熾烈な国際競争に突入してきたのであります。これを援護すべき
政府の助成策も、また、かえって欧米諸国のそれが
わが国に幾倍する手厚いという状況であります。
かかる不利な
条件のもとにあって、
日本経済の伸長に応じ急速な船腹拡充を行なってきた
日本海運が、現在のごとく
体質悪化を来たしましたことは、必然のことといわざるを得ません。
わが国海運
企業のほとんどすべてが、戦後いまだ一回だに配当を行なうことなく今日に至り、現在金融機関への返済滞り金約八百億円、造船所への支払い滞り金約四百億円、普通償却未済額約八百億円というみじめな姿を示しておりまするのが
日本海運の現実であります。
海上輸送は、船型の大型化、船舶自動化の急速な進展によって、今やまさに革命的変革を遂げつつあり、国際海運競争はいよいよ熾烈化の一途をたどりつつあります。他面、
日本経済の
高度成長に伴い、船腹拡充の要請はますます強くなっております。瀕死の状態にある
日本海運に対し、国際競争力の強化と船腹拡充のための起死回生的
施策は一刻も猶予すべからざるところであります。(
拍手)
このときにあたり、
政府がこの
法案を
提出し、
日本海運再建のための抜本的方途を講ぜんとすることは、まことに時のよろしきを得た
措置でありまして、ことに、この方策が、単に在来業者の救済に堕することなく、海運
企業の合併集約、
企業提携の強化による新しい
経営体制の確立と、減資、財産処分等による徹底した
経営合理化を前提として助成せんとしておることはきわめて意義深く、当を得たところであり、深く
政府当局の明に対し敬意を表するものであります。(
拍手)
私は、本
法案が一日もすみやかに成立に至ることを望むものでありますが、しかし、
審議に先だち、次の諸点につき、
政府の見解を明らかにしておきたいと考えるものであります。
まず第一に、この海運
再建整備法案のねらいとするところは、五十万重量トン以上の船腹を保有する船舶運航業者、いわゆるオペレーターを中核として、百万重量トン以上の船腹を運航するグループを結成せしめることにより、
日本海運の秩序ある
経営体制を確立せんとするものと考えるのであります。私は、その考え方に深く賛意を表するものであります。しかしながら、ただ漫然と形、姿を整えることだけでは、
企業経営の中でも最もむずかしいといわれる
海運業の根本的建て直しが期せられるとはとうてい考えられないのであります。漫然たる
企業の合併集約は、ときとして
日本海運全体の健全化に何ら貢献することなきのみならず、かえって各個の
企業経営の非能率化、
内容の低下等のマイナス面だけを招来するおそれなきにしもあらずと考えるのであります。今回の
施策は、
日本海運にとり明治維新にたとうべき一大革新であり、
日本海運の根本的編成がえを行なわんとするものであります。従って、
政府は、
日本海運を急速に建て直すとともに、長き将来にわたりこれを健全に伸ばしていくためには、海運全体をいかなる形に整え、かつまた、各
企業の合併集約の
内容をいかなるものにすることが最も望ましいものであるかという
政府自体の構想が打ち立てられねばならぬと思うのであります。もとより官僚独善、官僚的統制は避くべきでありますが、同時に、業者だけの考えのおもむくまま、金融機関の指示するままに放置して拱手傍観することもまた許されないと思うのであります。運輸大臣は、みずからの構想に基づき、業者、金融機関等の
企業的立場、考え方と調和をとりつつ、
日本海運にとり最も望ましい姿、
内容の再編成を実現する重大なる責任を負っておられるのでありますが、この点に関する運輸大臣の所信のほどをお伺いいたしたいのであります。
なお、私は、
海運業者がこの法律の助成対象より漏れることは、その
企業の死を意味するがために、無理な合併集約に追い込まれ、かえって
企業内容が悪化するに至るものが生ずることをおそれるのであります。たとえば、現在のままにして推移するも、三年後には自立態勢に達し得ると考えられる
企業が他
企業と合併した結果、たとい手厚くなった国家助成を受けるに至っても、なお五年、六年と自立の時期がおくれるに至るものが生じないとは言えないのであります。
政府は、合併集約にあたり、かかる不条理の生じないよう、法律の
実施に十分な
配慮を加うべきであると考えるのでありまするが、この点に関する運輸大臣の所見をお伺いいたしたいと思います。
次に、海運
企業の中には、本
法案に
規定する基準に適合せず、助成の対象となり得ないものが多数出てくるのであります。特に、オペレーターに対し自己保有の船舶を用船として提供している、いわゆるオーナーと称せられる船主は、その大部分が適用外になると考えられるのであります。もとより、本法は個々の業者の救済を策するものでないことは言うまでもありません。けれども、それらオーナーの保有する船舶のほとんどすべては、オペレーターの債務保証のもとに建造せられたものでありますので、万一オーナーが本法の適用外となり、ために破産に立ち至りまするときは、オペレーターは保証債務の履行により、それらオーナーの債務を引きかぶらざるを得なくなるのであります。しかも、その保証債務の総額は六百五十億円もの巨額に達しておりまして、もし、オペレーターがこれをひっかぶらざるを得ざるに至りまするときは、せっかくの今回の利子猶予の恩典も何ら残るものなき状態に立ち至るのであります。従いまして、本
法律案の適用基準の解釈、運用については、できる限り弾力的に行ない、せっかくの本
法案の効果をそとなわないようにすべきであると考えまするが、この点に関する運輸、大蔵両大臣の御所見を伺いたいのであります。
次に、今回の海運再建方策におきましては、金利負担以外の
日本海運の一大病根ともいうべき不経済船並びに高船価
対策を欠除いたしておるのであります。近時、船舶の急速な大型化、専用船化によりまして、これまで経済船として建造せられてきた船舶が大量に不経済船化しつつあるのであります。これらの船舶は、朝鮮動乱時あるいはスエズ・ブーム時の造船船価のきわめて商い時期に建造せられた船舶とともに、
日本海運のガン的存在となっておるのであります。従って、これら船舶に対する適切な
措置を欠いては、真の
日本海運の健全化は期しがたいのでありまするが、運輸大臣はこれに対しいかなる
対策をお考えになっているか、お伺いいたしたいのであります。
なお、
政府部内において、これら船舶に対し、
日本輸出入銀行を活用して延べ払い制度による海外売却を促進することが検討されておる由でありますが、まことに機宜の
措置であります。東南
アジア、中南米、その他世界の海運後進国にあっては、まだまだ
わが国が不用とみなしている船舶を必要とするところが多いと考えるのであります。しかしながら、それら地域はおおむね著しく外貨
事情の悪い国々でありまするので、
日本の中古船の大量売却を促進いたしますためには、思い切った延べ払い
条件の供与、たとえば頭金一割、十年延べ払い等の
条件を与えるか、あるいは後進国開発援助のためのクレジット設定、経済協力基金等による船舶売却を考慮すべきであると考えますが、この点に関する大蔵大臣初め
関係大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。
次に、
政府は、今回の
施策により、その対象となる海運
企業を、五年後にはすべて配当可能の状態にまで
内容を改善しようとの意図であると思うのでありまするが、最近、
日本の海運
経常に幾つかの暗い影を投ずる事象が現われてきているのであります。その最も大なるものは、
日本海運にとってドル箱航路ともいうべきニューヨーク航路を初めとするアメリカ
関係の定期航路における盟外船の割り込みであります。それら航路は、いずれも
日本海運業者が中心になって航路同盟を結成し、極力
経営の安定に努めてきておるのでありまするが、近時、
外国海運会社が盟外船として不当の低運賃をもって競争をいどんでおり、その勢いは急速に増しつつあるのであります。今これに対する適切な
対策を講ずるにあらざれば、
日本海運の
経常改善はとうてい期し得ないのでありまするが、運輸大臣はこれに対しいかなる
対策をお持ちになっておるか。また、この盟外船の割り込み現象は、米
政府が、世界の海運慣習に反して、海運同盟の活動を不当に抑圧しておることに起因するところが大でありますので、
政府は、この際、他の海運国と連携をとり、強力な外交的手段によって米
政府の考え方を改めさせるべきであると考えまするが、運輸大臣、外務大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。
海運は、申すまでもなく、
日本経済の最も重要な基幹産業でありまして、その消長隆替は、
日本経済の伸長
発展に至大の影響を及ぼすものであります。従いまして、現在のごとく疲弊こんぱいの極にある
日本海運の建て直しのためには、
海運業者の懸命の
努力、
政府の庇護のみならず、広く
わが国経済界のすべてが、より強く積極的に協力支援をなすべきであると考えるのであります。
わが国においても、米国のとっているシップ・アメリカンの
政策ほど行き過ぎないにいたしましても、
わが国経済界のすべての層が、「
日本の貨物はまず
日本船で」との考え方を、もっともっと強く持つような方策がとらるべきではないかと思うのであります。少なくとも、
政府の買い付ける物資、あるいは
政府の補助を受け、
財政資金を使い、その他
政府の特別の恩恵を受けておる
企業には、
日本船を優先的に利用せしむるよう、
政府において特別の考慮あってしかるべしと考えまするが、これらの点に関し、池田総理のお考えをお伺いいたしたいと思うのであります。
なおこの際、私は、池田総理に、
日本海運育成について、いかなる基本的なお考えをお持ちになっておるか、あわせてお伺いいたしたいと思うのであります。
最後に、私は、本
法案のすみやかな成立と、さらに、目下本院で
審議中の船舶職員法及び電波法の一部改正案の成立による海上労働の合理的配置の急速実現、並びに
外国海運に比し重い負担となっておる船舶の固定資産税、登録税についての
政府の思い切った軽減
措置の
実施等により、
日本海運が真に民族産業たるにふさわしい、たくましい力を備えて、国際海運場裏に馳駆する日の近からんことを祈念いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕