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猪俣委員 大臣がお急ぎのようでありますから逐条
審議をこの程度にして、法務大臣にお聞きいたします。
実は
本法については私
どもも根本的に
反対するあれは何もないと思います。
暴力団のばっこそのものは何よりもわれわれは身にこたえておる。これに対する断固たる
政府の方針に対しては賛意を惜しむものではないのでありますけれ
ども、どうも
立法というのは両刃のやいばに相なりまして、その施行する人の
考え方によって非常に危険なことにもなるわけであります。そこで、実は
相当進歩的な弁護士の団体、いろいろありますが、この法案に対して非常に
反対をいたしておりまして、連日われわれのところに陳情に来ている始末であります。それはこの法案は、やはり組合運動を頭に置いて、その対策として
考えられたものだ、先年政防法が出たが、これがつぶれた、今度は形を変えてなるべく人の食いつきやすいような形にしておいて、実は労働運動を弾圧する用意なんだというふうに、しきりにわれわれに迫ってまいるわけであります。そこで、そういう心配がないのだと申しましても、過去の
暴力行為等処罰に関する
法律のときにも、
提案者は、労働組合運動なんぞには
適用しないということを口をきわめて
説明しているが、事実は非常にこれを悪用して労働組合運動に
適用しておる。こういうことを実例をあげて迫ってきているわけであります。
第一条ノ三を見ますると、「常習トシテ
刑法第二百四条、第二百八条、第二百二十二条又ハ第二百六十一条ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ
傷害シタルモノナルトキハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ三月以上五年以下ノ
懲役ニ処ス」。もちろん、いかに労働運動といえ
ども人を
傷害するようなことはけしからぬから、これは一年以上十年以下の懲役にする、
権利保釈を許さぬと言われればそれまででありますが、労働運動の実際を知っている者から見ますると、そういう意思が全然なくとも、いわゆる
刑法の暴行、脅迫というものに当てはまるような外観を呈するわけでありますし、何かもみ合っておってちょっと足の皮をひんむいたといっても
傷害ということになる、そういう
判例があるのです。大ぜいもみ合ったり談判をやっている際に皮をすりむいたというようなことが起こる可能性があるわけです。そうすると、これは
傷害をしたのだ、そして労働運動なんかはしょっちゅう繰り返してやっていますから、常習として
傷害したというようなことで、全部パクられて
権利保釈を許さぬ。実は第一条ノ三が
政府のほんとうのねらいであって、これによって労働運動を弾圧するのだ、正面切って人を
傷害したやつはしかたがないじゃないかと先般の
答弁にも見えていますが、その
傷害と称するものが、刀でもって深く右腕を切ったとか、左足を切ったとかいうのと違うのでありまして、皮をすりむいても
傷害になるわけであります。ですから、この
法律をいわゆる保守反動的な
検事が、あるいは警察官が、組合の幹部を弾圧しようとして使えば、幹部ですから常習になる。そして何かちょっとかすり傷ができてもすぐこれを
傷害だということになりますと、これはたいへんな弾圧の法規に変わるわけであります。そういうことを、総評系の弁護団その他が実際の
裁判の経過から心配してわれわれに陳情に来ているわけでありますが、これは第一条ノ二のように
銃砲、
刀剣類を持ってきて
傷害を与えたというような場合はやむを得ませんが、一条ノ三は、いわゆる
銃砲、
刀剣類でなくても、こういう暴行、脅迫、これは労働運動にはつきものであります。これは労働運動といったって暴行、脅迫はけしからぬじゃないかといいましても、強い談判をやれば脅迫にもどっちにでもとれるわけです。そういう団体交渉その他において強い態度をとると、これは脅迫だ、あるいは机をがたがたいわしても暴行だというふうに、意地悪くとればみんなとれるわけです。しかも労働組合の幹部なんというものは、大体常習というふうにみなされやすい。あるいは大ぜいでやっている間にそこらのかきねがこわれたとかなんとかいうことが起こるかもしれません。そうすると、みなこの一条ノ三にひっかけられますと、
権利保釈もできないということになるわけでありますので、この点について、右翼のいわゆる御常連、そういうものを処罰する意思なんだということが明白になれば、われわれも
反対はいたしませんけれ
ども、どうもこの法文からはそれが書き分けられない。いま局長の御
答弁のように、
暴力団というものの
定義が困難のためにそうなるのでありますが、ただ私
どもとしては、立案者から、そういうことを頭に置いてやっているんじゃないというふうな明白な御
説明をひとついただきたい。それは労働者といったって、
刑法の
規定に違反すればそれは当然じゃないかとおっしゃられると、ここに私
どもの心配が出てくる。というのは、いま繰り返して言うようなもので、どうにも労働運動の団体交渉というようなものには、いわゆる
法律でいえば器物毀棄、非常に重大なことであっても、かきねが破れても器物毀棄になるわけです。ちょっと何かやっても、かすり傷が出るかもしれません。そうすれば
傷害だ。労働者ですから荒っぽい強い
ことばで言えば、脅迫だと言えば言えるわけです。そこに実に心配が労働組合側にある。労働組合側といえ
ども、
暴力団に対しては徹底的に憎んではおりますが、どうもいまの
政府の性格を信用しないわけです。
暴力団体と称しながら、政防法に肩がわりするようなものをひょっと出したんじゃなかろうか、こういうふうに受け取られている。それで私
ども実は難渋しているわけです。
法律常識を持っている者は、そんなことはあり得ないということで
説明はしておりますけれ
ども、非常な
反対運動があるわけです。
そこで、これは
政府がほんとうにそういう意思がないならば、くどいようでありますが、法務大臣から、そういう心配は絶対するなという御
説明をいただきたい。ただ、いや、労働組合だって人を
傷害すればしょうがないというような
説明だと、労働組合とか、団体交渉とか、多衆行動の中には、そういう意思がなくても、思わずそういう結果が発生するおそれが十分あるわけなんです。これを一切静粛に、紳士的になんていって要求するのは、それはいまの労働交渉の
実態を知らざる机上の空論でありまして、そういうわけにいかぬわけです。そこで、その点についての法務大臣の御
説明をいただきますれば、法務大臣は十二時から御用があるようですから、御退席いただいてけっこうです。