○中垣国務大臣 お答えいたします。安倍君が検事として軌道をはずれておるというふうには申し上げておりません。そういうことは全然
考えておりません。その中央公論等も私も見ましたし、彼の出した諸論文につきましてもたいがい目を通しておりますが、安倍君の検事としての過去の経歴等から見ましても、なるほど研修所に入りまして非常に優秀な検事でありましたので、留学等もいたしまして、また帰ってまいりまして、法務省のいわゆる本省づとめをずっとやってまいりまして、検事としてはほんのわずかの経験しかない検事であります。私といたしましては、本人安倍個人の問題をとやかく言う
考え方はございませんが、人事管理の面で申し上げますと、やはり検事は、もちろん当て検として行政面に携わることもりっぱな幹部をつくっていくという一つの方法でもありましょうし、また実際の検事として検察行政に現地で携わることも私は非常に大事なことであると
考えておりまして、少し本省づとめが長過ぎる、この際本人のためにもなることであろうから移そう、たまたま彼のよき先輩が函館の検事正におります。大学の先輩でもあり、またかつては何とか
事件というのを一緒にやったこともある人だそうでありますが、次席の人も彼のよき先輩であります。むしろ、そういうところは彼のために気分的にもいいであろう、この際ひとつそういう現場の事務をみっちりみがいていただくことは、私は、彼のためばかりでなく、やはり検察行政全般のためにもそういう人事こそ必要である。こういうふうに
考えまして、私の責任で彼を転出させた。
これが真相でありまして、ただいまおっしゃったような吉田
事件であるとか、あるいは国会の参考人出頭の問題であるとか、そういうことにつきましてまことに度しがたい、許しがたい、そういうこと等でやったのではないのであります。むしろ参考人として出る問題でも、私は私が良心に従って申し上げますと、法務省の職員としては、法務省で検討しておる再審
制度等の大体の概要を知って出るほうがむしろ正しい。なぜかといいますと、個人として参考人にお呼びになったと思うのでありますが、一たび口に出ますことばは、安倍検事であります。そうしますと、安倍検事の
考え方が法務省を代表するような再審
制度であるということでありますと、やはり法務省も、彼の同僚や先輩が真剣にそのようなことを検討しておるのでありますから、むしろ私は内部の和の上から見ましても、また法務大臣としての職責の上から見ても適当ではない。それよりも法務省の再審
制度に対する
考え方も知ってもらって、なお自分の責任において自分の良心に従ってここで開陳していただくことが適当だ。こういうことでありまして、そのことに対しては何も私は不満を持っておりません。出たことに対しましては少しもとがめる等の意図はございません。
吉田老人に対しましても同じようなことでありまして、やはり既決因に対しまして、それが無実であると一人の検事が良心的に
考えまして、資料を集めまして、そういう議論を展開したりすることは、これをもし悪いと言うような法務大臣でありましたならば、そういう法務大臣は私はないほうがいいと思うのでありまして、やはり検事といえ
ども犯人を製造するための行政ではなくて、真実を追求するための検事である以上、自分がそういうふうに信じまして行なう言動につきましては、これをとめたりあるいは排斥したりするような
考えはいまでも持っておりません。しかし、現職の検事がそういうことをする場合には、やはり機構の中の一人であるという立場に立ちまして、たとえば私よりも猪俣先生は専門家であられますが、吉田翁
事件のときに、もし検事長が彼を公式に忌避した、安倍君にそういう発言をしてもらいたくないと、もしこういうことをした場合にどうなったであろうかということをお
考えいただきたいと思うのです。担当の検事がそのことに不服を唱えるようなことがあったらどういうことになったかということもお
考えいただきますと、当時検事正も検事長もそういうことを申しておらないのでありまして、やはりすべての検察官というものは安倍君の行動について黙認を与えておったことは事実であります。その
二つの事柄をとらえまして本人が、先輩がおこっておるとかなんとか書いておるようでありますが、これは先輩と言いましてもいろいろありますので、すべての人の意見を代表するわけではございませんけれ
ども、法務省内におきまして、そういうことで彼を転勤すべきだということを私に意見を述べた人は実はありません。むしろ、私のほうが老婆心と申しますか、心配をいたしまして、馬でいったらあれはたいへんな優秀な駿馬である、こういう人は指導のしかた、人事管理がよければ相当伸びる人であるから、伸びる人を大いにす伸ばようにみんなして愛情を込めてひとつ指導してもらいたいというようなことを、私は研究所の所長等にもたびたび申し上げたくらいでありまして、いま猪俣先生が言われましたように、その
二つの問題をとらえて懲罰的にどういう
考え方はないのです。このことは私も法務省の職員の幹部の人にも申しております。が、いかに優秀な考た方でありましても、いかにそれがヒューマニズムを貫いている
考え方でありましても、やはり公務員であるとか、あるいは検察官であるとかいう者が外に向かってそれを言動にあらわすときには、紳士的に
善意に満ちた手順を踏みまして、できるだけ全体の和の中でそのようなことが行なわれることが正しいと思います。もしいかに正しいからといって、いかにそれが絶対のものであるからといいましても、やはり全体の和を無視するような
考え方の言動というものは、安倍君に限らず、そういうあり方をしてはいただきたくないと
考えております。
そういうふうに
考えておりますけれ
ども、しかし、そういう私の
考えに基づいて転出させたのではないのでありまして、四十三才という非常に優秀な若い検事が、法務省の当て検のような、また検事という名前だけで実際は法務省の研究所の職員であって、検察庁の中に彼は入っていない。法務省の職員としてのそういう仕事だけをやらされている。このことがはたして彼の持つ優秀なものを全部伸ばすために真に役立っだろうか、こういうことも
考えまして、かつて彼は一番最初に、研修所を出たとたんに、わずかでありましたけれ
ども北海道にいたこともありますし、知人、先輩等も多いことであろうから、この際そこに行って実地を学んでいただきたい、これは正直に申し上げまして私が
善意に満ちた措置としてやったのでございまして、決して敵意など持ってやっていないことを御了解いただきたいと思います。