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1963-05-30 第43回国会 衆議院 法務委員会 第17号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十八年五月三十日(木曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 上村千一郎君 理事 小島 徹三君    理事 林   博君 理事 松本 一郎君    理事 猪俣 浩三君 理事 坪野 米男君       稻葉  修君    小川 半次君       岸本 義廣君    田中伊三次君       竹山祐太郎君    千葉 三郎君       赤松  勇君    西村 力弥君       松井 政吉君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中垣 國男君  出席政府委員         総理府総務長官 徳安 實藏君         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      宮地 直邦君         警  視  監         (警察庁保安局         長)      野田  章君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君         検     事         (矯正局長)  大澤 一郎君         法務事務官         (人権擁護局         長)      稻川 龍雄君         厚生事務官         (薬務局長)  牛丸 義留君  委員外出席長         厚 生 技 官         (環境衛生局食         品化学課長)  豊田 勤治君         専  門  員 櫻井 芳一君     ————————————— 五月三十日  委員井伊誠一辞任につき、その補欠として西  村力弥君が議長指名委員に選任された。 同日  委員西村力弥辞任につき、その補欠として井  伊誠一君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 五月二十九日  商業登記法案内閣提出第一四六号)(参議院  送付)  商業登記法の施行に伴う関係法令整理等に関  する法律案内閣提出第一六三号)(参議院送  付) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政検察行政に関する件  人権擁護に関する件      ————◇—————
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  法務行政に関する件、検察行政に関する件、裁判所の司法行政に関する件及び人権擁護に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。猪俣浩三君。
  3. 猪俣浩三

    猪俣委員 これは世界的な問題であるし、日本においても相当問題になっております中性洗剤の問題につきましてお尋ねするのでありますが、法務省の方にお尋ねすることは、昨年の九月二十日に東京都北区の庵島弘敏という人が中性洗剤をあやまって飲んで死亡した事件がございます。さような事件があるにかかわらず、厚生省の態度その他はなはだふに落ちない行動をやっておると思うのであります。これは本年の三月二十日に東京監察医務院長吉村三郎の名において死体検案書が出ておる。この死体検案書には明瞭に中性洗剤による死亡であることが出ているのでありまして、この事件警察にも報告せられているわけであります。  なお、事案は、庵島弘敏氏の生後二カ月半の次女真理子さんに夜、粉ミルクをやろうとして奥さんが調合した。ところが、奥さん粉ミルク中性洗剤を間違えて赤ちゃんに飲ませようとしたが、赤ちゃんは飲まなかった。そこで夫の弘敏さんが、どういうわけだろうかと思って自分でためしに一口飲んでみた。何かあまりいい気持のものじゃない。それから調べたところが、この粉ミルクの箱とライポンFの箱と間違えて置いたことがわかった。たぶんいつものとおり五さじぐらい奥さんが調合したのだと思われるのですが、それは中性洗剤を調合した。そこで、これはたいへんだということで中性洗剤ライポンFを調べてみたところが、ここに厚生省実験証明毒性を有せず、衛生上無害であるというレッテルが箱に張ってある。そこでたいしたことではなかろうというので、医者を呼んで胃の洗浄をするかといったのだけれども、こういう厚生省実験証明毒性を有せずと証明しているのを何をその必要があるか、夜もおそいことであるしというので、その夜は寝ました。ところが、およそ二、三十分して突然苦しみまして、そのまま死亡したという事件であります。これは変死でありますから、警察の活動となり、最初監察医務院では青酸性中毒死ではないかと思ったくらいのどの中が荒れておった。ところが青酸性中毒死である証拠は出てこない。いま言ったような中性洗剤の誤飲であることがはっきりしました。その後、監察医務院死体検案書というものが出たわけなんです。これには明瞭に中性洗剤のためであることが出ているわけです。  これは昨年の二月には参議院において、四月には衆議院においてそれぞれ国会の問題になり、本年になりまして、やっぱり参議院においてこれが論議せられておる問題であります。しかも世界において人体中性洗剤実験したという例がないことだそうであります。そこにおいて、これは重大な問題であると存じまするから、警察においてもお調べになったと存じまするし、この死体検案書検察庁東京地検滝岡検事が現在保管しておるとも聞いております。そこで、そういう報告法務省になされているか、それから警察の本庁にそういう報告がなされているか、そういうことをお尋ねいたしたいと思います。
  4. 竹内壽平

    竹内(壽)政府委員 お答えを申し上げます。ただいまお尋ねのございました中性洗剤死亡したという事例につきましては、いろいろ調査してみたのでございますが、東京地検からもちろん報告がございませんし、そういう事例があったことを私自身承知をいたしておらないのでございますが、きわめて具体的なお話でございますので、さらに慎重調査をしてみたい、かように考えます。
  5. 猪俣浩三

    猪俣委員 これが死体検案書なのです。   〔文書を示す〕
  6. 野田章

    野田政府委員 ただいまの御指摘の点につきまして、私どももまだ伺っておりませんし、なお警察庁関係の部局に直ちに調査を命じたいと存じます。
  7. 猪俣浩三

    猪俣委員 知っておらないとおっしゃれば、それ以上いたし方ありませんが、われわれは警察庁なり警視庁なり検察庁あるいは法務省が、この事件御存じないということに奇怪な念を抱くのであります。もしこれが青酸性のものであるなら毒殺であります。しかし、その毒殺ということよりも、中性洗剤を飲んだという世界にまれに見る実例としてこの事案が起こってきておるわけでありまするから、しかも昨年来学界におきましても、国会におきましても、中性洗剤の害毒につきましての論議が盛んなときにおきまして、たまたまあやまって人体実験をしたような事件が起こった。学者としても、検察庁としても、警察庁としても、これは重視して検討すべき問題じゃないか。しかるに今日まで警察も知らぬ、検察も知らぬ、法務省も知らぬ、これは何たることなんだ。国民生命身体に重大な影響のあるところの問題であります。さればこそ、いま国会におきましても世論の代表といたしまして相当これを追及してきた。ところが、学者有毒説無毒説ということで対立しておる。そのときにこういう問題が起こってきたわけであります。しかも世界に類のない問題であるから、庵島さんにははなはだ気の毒であっても、庵島さんは身をもって実験をせられたわけであります。これをして有意義ならしめるには、もっと熱心に政府機関検討すべき問題じゃなかろうか。ここに私どもは多大の疑問を持つのです。一体中性洗剤のあり方について、厚生省を中心とした政府機関がどれだけ国民健康保全のために熱心になっておられるか。その点、私どもの疑問が疑問としてやはり残るわけであります。どなたも御存じない。そこでこれは警視庁なり警察庁なりに報告があったのですかないのですか。それさえわからぬですか。あるいは検察庁報告があったのかないのか。
  8. 野田章

    野田政府委員 変死死体につきましては報告があるはずだと存じますが、私はまだそういう具体的なものを聞いておりませんので、その点を確かめてから御返事を申し上げたいと思います。
  9. 猪俣浩三

    猪俣委員 これは厚生省の方がお見えになりましたら聞いてみますが、この中性洗剤についての諸外国取り締まり状況、そういうことも警察検察庁の方、あるいは法務省の方は御検討でありましょうか。——どうもそれも御存じないようであります。これは一厚生省の問題として放置すべき問題じゃないと思う。これは昨年から国会でもしばしば問題になり、本年にも問題になった。この中性洗剤は、そのもの有毒であるかどうかどいうことと、中性洗剤の特質から見て非常に公害が甚大である。中性洗剤有毒性の問題と公害性の問題ということがいま世界的の問題になり、最もたくさん扱うアメリカにおきましても、ドイツにおきましても、一斉にこれが取り締まり法案が出ておるはずなんです。しかるに、日本におきましては、取り締まり当局さえこの外国の例さえ知らぬというような状態では、この問題についての研究がはなはだ私は不足しておると考える。  厚生省の方見えられましたか。
  10. 高橋英吉

    高橋委員長 牛丸薬務局長が見えました。
  11. 猪俣浩三

    猪俣委員 牛丸さんにお尋ねいたします。  いま中性洗剤の問題をお尋ねしておる。これは国会で去年からしばしば問題になっておる。そこでお尋ねいたしますが、東府都北区田端町、庵島弘敏という人が中性洗剤を誤飲して死亡したという事件御存じでしょうか。
  12. 牛丸義留

    牛丸政府委員 私は存じ上げてはおりますけれども中性洗剤環境衛生局所管でございまして、いま所管課長が見えましたので、課長からひとつお答えさせます。
  13. 豊田勤治

    豊田説明員 最近のABSの誤用による死亡事故は聞いておりませんですが……
  14. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなたは聞いておらぬのか。
  15. 豊田勤治

    豊田説明員 洗剤では聞いておりません。
  16. 猪俣浩三

    猪俣委員 聞いておらぬ。それは何たることだ。厚生省が聞いておらぬくらいだから、ほかの省が聞いておらぬことは当然と思われる。全然知りませんか。
  17. 豊田勤治

    豊田説明員 はい。
  18. 猪俣浩三

    猪俣委員 これは驚いた。そうすると、こういうことを聞いておるとすれば、あなたの局のどの課ですか。
  19. 豊田勤治

    豊田説明員 食品化学課でございます。
  20. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなたはそこの者じゃないのですか。
  21. 豊田勤治

    豊田説明員 私は食品化学課長でございます。
  22. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、あなたが知らなければ、だれも知らぬわけですか。それじゃ話にならぬじゃないか。これは死亡診断書です。   〔文書を示す〕
  23. 豊田勤治

    豊田説明員 これは昨年のことでございますね。
  24. 猪俣浩三

    猪俣委員 昨年です。知らなければしょうがない。
  25. 豊田勤治

    豊田説明員 ちょっと私、最近と伺いましたので……。
  26. 猪俣浩三

    猪俣委員 検案書が出たのは最近なんだ。それまではわからない。どうして検案書がこう長い間本人に渡されなかったかも疑問なんだが、昨年の九月二十日に死んでいる。いつ行ってもこの検案書が渡されない。ようやく、本年になってこれが世の中へ出てきたわけです。
  27. 豊田勤治

    豊田説明員 昨年の九月二十日に、北区におきまして、ABSによる死亡事件新聞紙上に出ましたので、私たちのほうといたしましては、東京都の衛生局長あてに、九月二十四日でございますが、調査結果の報告を求めております。その調査結査につきまして、十月三十一日に東京衛生局医務部長より、目下行政解剖及び司法解剖に移行して引き続き調査を行なっておるという報告をいただいております。しかし内容につきましては、ABSであるかどうかという点についてはまだわからないということで、とりあえず新聞の要旨を送付されてきております。  そのこちらの調査事項といたしましては、事件の概要、死因及び原因物質解剖組織所見資料分析成績動物実験結果、その他という報告書を照会いたしたのでございますが、回答はその後いただいておりません。
  28. 猪俣浩三

    猪俣委員 実に各省ともこの取り扱いについて冷淡きわまるとぼくは思うのです。学界においても大問題になっている。しかも世界的に取り締まりの傾向に出てきておる。たまたま誤飲をいたして死亡した人が出ている。私は、庵島さんには気の毒だが、中性洗剤有毒性実験する絶好のチャンスでなかったかと思う。しかるにこの人の死を全然犬死にたらしめている。そういうことが一体許されることかどうか。動物実験はやれても人体実験というものは容易じゃない。不幸なことでありますが、この人が実験したわけであります。厚生省は飛びついてこれを研究しなければならないじゃないですか。しかも東京都の監察医務院長死体検案書が出ているじゃないですか。中性洗剤のためであることは明瞭に書いてある。それでもなおこれをほおかむりしておる。それをだれも研究しない。なお奇怪なのは、食品協会であったか厚生省であったかわからぬが、たとえこれを誤飲して死亡者が出たとしても、通常使用については有毒じゃないという通達は何ら変わらないという報告書が出ている。   〔委員長退席林委員長代理着席〕 これは環境衛生局食品衛生課長——あなたじゃないのか。違うのか。
  29. 豊田勤治

    豊田説明員 私じゃございません。
  30. 猪俣浩三

    猪俣委員 これには「先頃、中性洗剤を誤飲したという事件については、関係当局に照会し、その回答により、その事件の様子の一部を知り得たが、くわしいことは司法上の問題となっているため、未だ回答を受けていない。食品衛生調査会では、このような段階において審議を行なったものであるが、今後その結果が明らかにされた場合でも、本日の答申は変らないという調査会の意向である。」妙ちきりんなことだね。これがたとえ誤飲で死んだとしても、毒性有せずというこの調査会答申は変わらない。これはどういう意味なんだ。これを見ると、いま司法上の問題となっているためいまだ回答を受けていないというのだが、回答はそこへ出ている。これは解剖検案書の出る前の通達でしょう。出ているのだ。そうすると、一体こういうのはいつの通達なんです。その事情はどういうのですか。
  31. 豊田勤治

    豊田説明員 いま御指摘昭和三十七年十一月三十日の厚生省環境衛生局食品衛生課長通達について御指摘があったことと、それから死亡検案書でございますが、これは三十八年三月二十日付で出ております。この検案書につきましては、私のほうにまだ届いておりません。実は食品化学課が発足いたしましたのは四月一日でございまして、厚生省組織令に、食品食器洗浄する化学的合成品事務を所掌することになっておりますので、従来食品衛生課で担当しておりました洗剤につきましては、四月以降食品化学課でやることになっておりますので、この通牒内容につきましては、すでに科学技術庁調整費をいただきまして、各省連絡の上、毒性検査あるいは労働関係方面、それから下水関係、総合的に調査をいたしました結果、食品衛生食器及び食品を洗います場合に、通常の使い方においては有害であるとは言えない。有害でないという結論に達しまして、昨年の十一月三十日食品衛生課長から都道府県関係衛生部長あてにこの書類が来たわけでございます。ABS毒性につきましては、科学技術庁調整費によりまして十分検討されておりますので、この誤飲による場合は、食品衛生法上何か措置をするということはできないのじゃないかと思います。
  32. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなたの答弁は何だかさっぱりわからぬ。わからぬが、問題はこういうライポンF、これに厚生省実験証明として、毒性を有せず、衛生上無害である。これは私の家にあったのだ。りつ然たらざるを得ないのだ。そこでこの庵島の家で飲んだとき、医者を呼んで胃の洗浄をしようかと言ったが、これを見て、毒はないのだからこんなものは大したことはなかろうといって、胃の薬を飲んで寝たそうです。そうしたら二、三十分後に死亡しちゃっているじゃないか。そういうことをあなた方は真剣に研究しないのかね。これは粉ミルクと非常に似ているでしょう。あやまって飲むかもしれぬ。ところが、こういう堂々と、厚生省実験証明として出しておる。それでいいのか、それで一体われわれの生命の安全はだいじょうぶなんですか。これはあなたを責めてもしようがない。厚生大臣を責めなければならぬが、大臣出てこない。出てこないからこれ以上言えませんが、もう少し真剣になって考えていただきたい。そこでこの庵島なんぞは、そのときに医者を呼んで胃を洗浄したら助かったろうと思う。ただこんな証明があるために、胃の薬か何か飲んで休まれたのが命取りになった。三十二才の、しかも二人子供を持っておる父親であります。惨たんたるものなんだ、そういうことが起こったじゃないですか。役人諸君はそれこそ心を寒うしてこの事案に取り組まなければならないと思うのにかかわらず、どこの役所に聞いてみてもさっぱりわからない。これは私のうちにあった、誤飲しないでよかったと思う。たいへんなことになりますよ。これは厚生省関係者を集めて、損害賠償請求訴訟を起こさなければならぬかもしれぬ。そういうことで私に相談に来られた。これはただそれだけの問題じゃないと思ってお尋ねしているわけですから、これは皆さんが不注意きわまりないじゃないかと私は思う。なお検討していただきたい。  なお、いま法務当局にお尋ねしたのですが、はっきりお答えがないのですが、諸外国、ことにこの合成中性洗剤を非常に使っておるところのアメリカドイツあたりにおいては、どういうふうな取り締まり状況であるか御説明をいただきたい。
  33. 豊田勤治

    豊田説明員 外国におきましては、ABSの問題は大体下水処理関係で問題が出てきておりまして、衛生上の問題は、この次ですが、衛生上の問題は相当研究されておりまして、有害であるというような大きな問題は、いままでにはアメリカドイツにおいても出てきておりません。下水処理のほうに相当量ABSが入ってまいりますと、細菌処理という問題について困る、分解できないということで、現在外国のほうではハードのものからソフトのものにかわりつつあるということを伺っております。
  34. 猪俣浩三

    猪俣委員 もちろん中性洗剤は、そのものが毒があるという問題と、その非分解性によって、及びその浸透性によって、それが長く分解しないで存在する、公害を起こすという問題と二つあるが、いまドイツ及びアメリカにおける取り締まり状況は、分解性中性洗剤でなければいけないという論点がありますけれども、一体いま私どもが問題にするのは、こういう異常な事件が起こった、アメリカにも人体実験例がないらしい。しかし、たまたま日本にこの誤飲事件が起こった。新たなる研究課題じゃないかと思うのですが、アメリカには野菜類中性洗剤洗浄するなんという習慣がない。この前参議院の質問で五十嵐さんが、それはすでに洗ったものを売っているのであるから、家庭では洗わないのだという答弁をなさっているのはごまかしだと思う。そんなことをアメリカがやっておらぬのがわれわれの調査に出ておる。さらやなんか洗っても、野菜類をこれで洗わない。アメリカといたしましてはこれは相当の貿易品なんだ、日本にもたくさん来ておる。そこであまりこの毒性を強調するということは、そういう意味においてばかりがあるということで、相当遠慮しておるわけです。しかし、われわれがそれの犠牲になったのではたまったものではない。こういう世界にも珍しい例が出てきたことに対して、もっと検討すべきではないかと思うのです。  そこで昨年か本年、ドイツ中性洗剤取り締まり状況について、成田ドイツ大使から詳細な報告日本に来ているはずでありますが、それはどういう状況でありましょう。
  35. 豊田勤治

    豊田説明員 西ドイツABS洗剤についての法的規制報告大使からいただいた内容につきまして概略を御説明申し上げますと、ドイツにおきます法的規制の趣旨は、洗剤中の界面活性剤分解度をできるだけ高く保つことを目的としているのでございまして、そういうことからABS下水処理に悪影響があるとして問題になりましたのが、一九五九年の夏、非常に水がなくて、汚水の中に合成洗剤含有量が増加して各地で汚水処理に支障を来たすような事態が起こったということから、先ほど申しましたように、分解されやすいものに切りかえるというようなことになっておる。毒性につきましても、分解されないようなABS飲料水中に相当含有されるようになりますと、当然検討を必要とされて、目下西独におきましても研究を実施中であるという報告をいただいております。
  36. 猪俣浩三

    猪俣委員 ドイツで一九六一年の九月五日に洗浄剤に関する法律が出ているわけです。相当取り締まりが厳重になっている。そして生産会社が相当閉鎖しておるというふうに聞いているわけです。いまの成田大使報告にもほぼあるわけです。アメリカではいま、本年の一月十七日にアメリカの下院のルイスという議員から、合衆国に輸入され、または使用される、州間貿易に出荷される合成洗剤にかかる分解度其準を定めるための法律案、こういうものが提出せられて、このルイス議員提案理由の中にも、人体の直接の害を長い間あげて説明している。ただ、直ちにそれによって禁止するということは、アメリカ合成洗剤業者独占資本に非常な影響を与えるということで、まず分解洗剤使用するというようなこと、しかし実際はその規定を見ると、野菜なんかには使用できないことになっている。というのは、何分間かの間に分解してしまうというふうな規定が織り込まれておるから、実験の結果、その時間に滲透せしめないで野菜を洗うということが不可能だ。そういうことだから、結局においては、毒があるから使用を禁止するという表現はしないけれども分解基準を厳密に定めることによって実際使用できないような法律案になっておるはずなんであります。ドイツにおいてもいま言ったとおりであります。これについて一体厚生省はどう考えているのか、これはみなさんでは無理だと思うので厚生大臣に来てもらって答弁をいただきます。ただ一片のごまかしのことを言わずに、もっと正確なことを言っていただきたい。のみならず、庵島氏の死をむなしゅうせずして徹底的に検討していただきたい。しかも東京監察医務院という公の機関で解剖研究されておるものであります。みなさんがデータをとるにはまことに好適な場所なのです。それを今日までほうっておかれるということは私どもはなはだ奇怪に思うのであります。  そこでなおお尋ねいたしますのは、食品協会ですか、これは一体どういうものでありますか。
  37. 豊田勤治

    豊田説明員 食品協会と申しますのは、食品衛生法昭和二十二年の十二月に国会を通過いたしまして公布されて以降数年の後に食品衛生協会ができました。食品衛生というのは、非常に官民一体とならなくては食品衛生の保持という問題を徹底することができませんので、外郭団体といたしまして食品衛生協会をつくり、環境衛生局長並びに食品関係食品衛生課長、それから乳肉衛生課長、私たち理事になっておりまして、できるだけ行政上の問題並びに民間業界とのつながりをよく連絡さそうというためにつくられたものでございます。
  38. 猪俣浩三

    猪俣委員 この食品協会生産業者に無毒であるという証明を出した。食品協会というものはそんなふうな有毒無毒を判定する機関を持っているのですか。
  39. 豊田勤治

    豊田説明員 食品衛生協会におきまして推奨制度というものをとりまして、推奨委員の中に学識経験者を数名入れまして、洗剤に限らず、食品衛生の向上の意味におきまして、いろいろな器具に至るまで、いいものであれば推奨するという形をとっております。ただ、いま先生から御指摘のあった合成洗剤につきまして無毒であるという表示がしてある点につきましては、昨年のABSが問題になりました以降、当局といたしましては、そういう表示は一切させない、やめてもらいたいということを洗剤メーカーに対して指導いたしておりますし、また先ほど御指摘の昨年の十一月三十日の通牒の中で、表示の面につきましても、無害である、無毒であるというようなことはいけないと、望ましい表示のしかたと、好ましくない禁止させる表示事項という点につきまして都道府県のほうに流しております。
  40. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなた方の出した通牒それ自体に問題があるわけだが、きょうは時間がないから次会にお尋ねすることにいたします。  なお、この食品衛生協会ですか、この会長は足立正という日本の財閥のトップレベルの人のようであります。そこでこの中性洗剤の原料の経路ですが、これはおわかりになっていますか。アメリカからくる中性洗剤の原料、おわかりになったらその原料の経路をおっしゃってください。
  41. 豊田勤治

    豊田説明員 ABS製造方法はいろいろございまして、現在つくられております日本の方法につきましては、プロピレンとベンゼンからいろいろな触媒をつくって、最後にスルフォン化するのでございますけれども、どういうところから入ってきておる原料だという点については、まだ私は存じ上げておりませんので、帰りまして調べてみます。
  42. 猪俣浩三

    猪俣委員 われわれの調査によると、いま問題になりましたこのライポンF、誤飲して死亡した洗剤でありますが、これはライオン油脂株式会社でつくっておる。このライオン油脂株式会社はカルフォルニア・ケミカル会社から輸入している。これは三井物産が輸入し、三井物産からまた買っておるのであります。このケミカル会社から三井物産が日本の輸入量の八〇%を輸入しておる。そうしてこういう会社が一般に市販しているわけであります。そこで、厚生省あたりの態度が何かはっきりしないのは、この独占資本の圧迫によるのじゃないかという巷間のうわさもある。われわれはそれを信じているわけではありませんが、ただ昨年の四月、衆議院の科学技術振興対策特別委員会で与野党一致の決議がなされておる。十分この中性洗剤については検討すべきことの決議がなされ、それに基づきまして厚生省では百三十万ばかりの予算をとって実験をされ、成績の発表があったわけです。それは厚生省環境衛生局食衛生課で発表されておる。私もこれを持っておるのです。この結論は一体どういう結論なんです。われわれは学者じゃないからよくわからぬ。ある学者検討してもらうと、これは結局有毒である。そうして地下なんかに非常に浸透して、ばい菌そのものを殺すんじゃなくて、あわでこれを包んで地中深く浸透して、今日狛江町においていろいろの青酸カリが井戸の中に出てくるのも、この中性洗剤のあわに流されて浸透していったんじゃないか。このデータによれば、野菜なんか洗った際にいかに浸透が早いか、それが詳しく出ている。そうすると、このデータそのものは、中性洗剤については行政上必要な考慮を払わなければならぬことがここに出ておる、こう言うのです。どうしてこんなものを無害であるなどというわざわざPRまでして厚生省はやったのであるか。通常使用においては無害であるというようなことを言って、ごまかしですよ。通常使用ならば無害である。通常なる使用通常ならざる使用とどう区別するか。いかなるものでも、薬も毒からつくる場合もあり得るのですが、家庭に入るものは、通常使用の場合と、通常ならざる使用の場合なんて区別されたって、わかったものじゃない。このABS実験成績と称します昭和三十七年十月の厚生省環境衛生局食衛生課のこの結論は、一体どういうことなんです。膨大な実験が出ておる。
  43. 豊田勤治

    豊田説明員 いまABS毒性についての御指摘があったと思うのでありますが、ABS毒性につきましては、さほど危険なものではないという成績が出ております。それと、先ほど先生が御指摘になりましたABSがどんどん土のほうに入っていくという実験につきましては、すでに衛生試験所で、その報告にもございますように、ABSが入った水はかなり土にABSが吸着されるという成績が出ております。その吸着率におきましても、ABSを十PPM含有しております水は八%、百PPM含まれておりますものにつきましては三七%、千PPM含まれておりますものは六二%というように吸着されるのであります。それで、さらにABSの除去法の試験も出ております。活性炭によります除去にいたしましてもABSは非常に吸着されます。九五%から一〇〇%まで活性炭によって吸着されるようであります。それからイオン交換樹脂はほとんど一〇〇%ABSが吸着される。そのほかの実験ではいろいろと吸着剤を使った実験をやっておりますが、活性炭とイオン交換樹脂がよいというような成績が出ております。それからまた菌分を抱き込んで井戸水等に入るのではないかという御指摘でございますが、これにつきましても、ABSの存在によりまして細菌を抱き込んでろ過浸透等が、濃い場合は、かえって抑制されるというような成績が出ております。それでありますので、上水の場合の影響におきましても、またABSが入っております場合の菌分の抱き込みというような点から考えましても、さほど影響力が強いものでないとわれわれは判断した次第でございます。
  44. 猪俣浩三

    猪俣委員 毒性については、なお実験の足らざるところがあるでしょう。ですから、私どもは庵島氏の誤った実験を重視しておる。しかし、これは公害がある。これはもう世界中の定論じゃないですか。だからアメリカでも禁示しておる。ドイツのごときは、もう二年前から禁止されておる。いまにおいても厳重な監督取り締まりをやっておることは成田大使報告でもわかっておる。あなたの説を聞くと、そんなたいしたものじゃないというような説明を言っておる。そういうことは、日本厚生省の役人の頭が違っておるのじゃないですか。公害のあることも世界の定説じゃないですか。みんな法律で取り締まっておるじゃないか。こんな開放しておるのは日本だけですよ。しかし、それをあなたに責めてもしようがない。これも厚生大臣で、次会に譲ります。  それからなお、この有毒、無毒でもって相当の争いがある。刈米国立衛生試験所長は、有毒でないということで、私が飲んでもいい、飲んで実験しても大丈夫だということを新聞に堂々と発表している。新聞の切り抜きを持ってきている。私はいま中性洗剤の致死量の十分の一の三十グラムを飲めといえば、飲んでお目にかけてもいいと書いてある。いっそ、ひとつ飲んでもらったらどうだ、それを勧告するのだ。新聞に約束しているじゃないですか。天下の新聞に書いてある。自分で飲んでもいい、こんなものは無害だと言う。これを読むと、みんなは、そうか、刈米さんという国立衛生試験所長が自分で飲んでもいいのだと言えば、みんな安心します。これは大いにPRになる。しかし、この人は飲んだかね。飲んでもらったらどうだ。これも大臣でなければだめかね。こういう大胆なことを言っている。この人も食品衛生協会か何かの役員をしていますか。
  45. 豊田勤治

    豊田説明員 私は、いま存じませんです。
  46. 猪俣浩三

    猪俣委員 それでは私の方でも、もう少し整備しますが、次会には厚生大臣が出て責任ある答弁をしていただきたい。これは家庭の主婦にとりましては重大な問題であります。われわれは独占資本をうけさせるために隠密にしておくわけにはいかない。  それから警察庁あるいは警視庁法務省検察庁にお願いしますが、これは変死でありますから、いま言った東京都の監察医務院で解剖されている。これは地検の滝岡検事のところにいっているというのです。皆さんのところに報告がないと思うが、これをもっとよく調べていただきたい。検案書が出ましたのは三月二十日なんです。これもどういうわけですか、半年以上もどうしても出さない、ようやく出たわけです。その間、長い間検討しておったのかもしれません。これには明白に中性洗剤の中毒だということになっている。ですから、庵島さんがでたらめなことを言っているわけじゃない。これは検察庁警察庁あるいは法務省としても重大な関心を持って検討していただかなければならぬ。現在広く家庭に浸透いたしました中性洗剤にいささかでも毒性があるならば、その毒性をいかにして避けるかの検討をしなければならぬ。通常使用では毒性はないという、はなはだごまかしたような通知を出しているところに間違いがある。現に庵島氏はこの厚生省実験証明を信用して医者に手当てを受けなかった。それが死因になっています。人命擁護のためにも、もっと十分なる御検討を願いたいと思います。私は、この中性洗剤については以上で終わることにいたします。  次に、先般朝鮮総連が声明を出しまして、朝鮮総連所属の高等学校の生徒が日本の高校生に相当乱暴され、一人は死んでおる。そうしてたくさんの例をあげてわれわれに陳情してきているわけです。そういうことについてお尋ねしたいと思ったのですが、時間がありませんので簡単に御答弁いただきまして、次会になお詳しくお尋ねしたいと思いますけれども、その点について警察庁のお調べを御報告願います。
  47. 野田章

    野田政府委員 東京の渋谷におきまして、日本人の高校生が朝鮮人の高校生を刺したという事件が本年の五月二日にございました。そのほか朝鮮人高校生と日本人高校生との間の集団的な闘争事件は数件ございますが、渋谷のことを御説明申し上げますか。
  48. 猪俣浩三

    猪俣委員 その渋谷のことその他について大体の御報告をいただきたい。
  49. 野田章

    野田政府委員 渋谷の事件は五月二日の午後四時五十分ごろ、渋谷駅の東横デパートの一階の通路付近で国士館高校の二年生が東京の朝鮮中高級学校の高級部一年生の一人をナイフ様のもので刺して、右大腿部刺傷、全治三週間の傷害を与えたという事件でございますが、この事件は、前日の五月一日に、他の国士館高校の二年生のUという少年が、朝鮮人高校生十名ぐらいになぐられまして、その仕返しのために、国士館高校の生徒十数名が翌日この事件を起こしたという点でございます。この加害者のKという少年を、傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反で緊急逮捕をいたしまして、身柄つきで検察庁に送致しましたほか、他の国士館高校生十七名も暴力行為等処罰に関する法律違反で検察庁に送致をいたしております。  そのほかの事件で、五月十七日に国電の武蔵小金井駅の上り線ホームにおきまして、日本人の高校生が朝鮮人の高校生に対して傷害を与えたという事件がございます。これは十七日の午後八時ごろ、国電の武蔵小金井駅におきまして、上りホームにいた日本人の高校生に対して、下りホームにいた朝鮮人高校生がガンをつけたという文句を言ったことから口論になりまして、朝鮮人高校生が日本人高校生のいる上りホームに渡ってきまして乱闘になったのでありますが、その際日本人高校生の少年が、持っておりました鉛筆削りのナイフをかまえたところへ、朝鮮人の少年が頭突きでかかってきまして、腹部負傷、全治一カ月の傷害を受けたものであります。この点は現在捜査をいたしております。  そのほか、昨年の十一月三日、これは神奈川県の事件でありますが、法政第二高校の教室で、法政二高の少年が朝鮮人の少年をライフル銃の柄で頭を殴打したというのがございます。その少年は、頭部内出血で十一月四日に死亡したという事件があります。  何か具体的に御質問のある事件がございましたら、わかっている範囲でお答え申し上げます。
  50. 猪俣浩三

    猪俣委員 その問題につきましていろいろお尋ねしたいことがありますが、相当時間がたっておりますので、次会にまた具体的にお尋ねしたいと思います。ただ要望したいことは、どうもけんかをする相手が朝鮮総連経営の高等学校の生徒であり、けんかの当人は国士館とかなんとかいうような右翼がかった学生であるというところに問題があると思います。そういう思想的な立場——そういうことが学生の相当の部分で、しかも朝鮮人と日本人の学生の間に行なわれるなんということは容易ならざることだと思うのでありますが、これについてはもう少し私ども検討して、警察なり法務省の所信を伺いたいと思いますが、きょうはこの程度にとどめておきます。  それからいま一点、宿題として御検討願って、この次御答弁いただきたいことは、実は警視庁の内部の人、それから警察署の内部の人からと思われる——私は面接をしたわけじゃないので、と思われる人から、私に電話または投書があるわけです。おもに刑事警察の捜査に所属している人たちのようであります。それによりますと、実はまさかと思われるような報告があるわけです。これは、彼ら言うには、どういう理由かわからぬが、上役が金品の受け取りを、たとえば一千円なら一千円の受け取りを、自分たちから取るのじゃなくて、どこかから一千円の受け取りを持ってこい。デパートでもいいし、飲食店でもいい。一千円の受け取りをもらってきて、それを差し出せということが行なわれている。月五千円ぐらいになる。これがどういうことになるのか自分たちにはわからぬけれども、はなはだ奇怪だという電話が、いずれも夜の十時過ぎに私のところにかかってくるわけであります。で、内部の人であるかと言うと、そうである、絶対姓名その他はお聞きくださるな、すぐわれわれは首が飛ぶかもしれぬ、こういう奇怪なる電話が数度あるわけです。私どもは、名前は聞いておりませんし、所属の警察署も聞いておりませんが、一人は警視庁の本部内から、一人は警察署からです。そういうふうな怪電話がある。それについて一体どういう事情で——もちろん、そういうことをやっているかやっていないかが先決問題ですが、どうも私はやっているように思われる。どういう事情でそういう受け取りを取るのであるか。中には三越なり、デパートなりに行って、下に落ちている伝票を拾ってくるというのです。あれは、伝票が落ちていますわ、買い物の伝票が。それを集めてきて出す、そういうこともしておる。そうして、それが何千円かになればいいというふうなことをやっているという、はなはだ奇怪なることであります。これは、そんな事情が絶対ないのであるか、あるとすれば、こういう事情でそうやっているというのであるか、いずれにしてもこれを明らかにしていただきたい。私はいますぐ答弁を求めません。ただ、この情報が内部から出たものであることは間違いないと思う。切々とした訴えであります。そうして、自分の名前はどうしても言わぬのであります。私が、文書に書いて投書にしてくれと言っても、どうも筆跡がわかりやしませんかと、そこはお手のものですから、心配をしておる。投書もできない。私はどうもこれはほんとうの訴えじゃないかと思われるが、何かの必要があって、警視庁なり警察がさようなことをなさっておるのであるか、よく調べて次会に答弁していただきたい。これは宿題として出しておきます。終わりました。
  51. 林博

    ○林委員長代理 坪野米男君。
  52. 坪野米男

    ○坪野委員 私は法務省人権擁護局長に最初にお尋ねしたいと思います。  事件は、東京北区の王子中学校の校長が、その中学の生徒の高校受験に際して行き過ぎた内申と申しますか、受験生に不当な不利益を与える意図を持ってなされたと考えられる行き過ぎた内申をやって、私立の錦秋高等学校は受験の結果不合格になり、いま一つの私立の順天高校は幸いにして合格をしたということでございますが、この木住野実という校長の不当な扱いに対しまして、被害者の母親から法務省東京法務局の人擁護部に対しまして、人権侵害の申し立てがなされたわけでございますが、この申し立てを受けて、東京法務局の人権擁護部では厳正な調査をなされたというように聞いております。調査の結果が、最近朝日新聞あるいは読売新聞紙上で公表されておりますが、憲法違反の疑いがある、人権侵害だという結論を出し、厳重な勧告を東京都の教育委員会等々になされたという新聞報道を見たわけでありまするが、このいわゆる王子中学事件と申しますか、この事件調査の経過なり、もうすでに結論が出たということであれば、この調査の結果の概要について局長から御答弁願いたいと思います。
  53. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 ただいま御質問の事件でございますが、御指摘のように、東京法務局で調査をいたしまして、処理、結果を出した事件でございます。  問題点だけを簡単に申し上げますと、北区立の王子中学の木住野実校長先生が、同中学校長の職名をもちまして、本年の二月錦秋学園高等学校長あてに、「貴校に入学願書を提出したA子」本名は省略させていただきまして、かりにA子といたしますると、「A子の母親は王子中学校を一方的に悪評した印刷物を校内外に配布したり、PTAの各会合で学校を非難するなどの行動がある人なので私立学校の進歩発展を念願する老婆心から御報告する」かような親展文書を発送したのであります。それからまた同時に、その校長先生は二月二十日ごろ順天学園高等学校にも参りまして、同校主事に面接いたしまして、すでに同校に入学を許可されておりまする前段申し上げましたA子のことに関しまして、錦秋学園高等学校長に申し入れたことと同じ趣旨のことを伝えた上、一度母親を呼んで注意したほうがよい、母親は思想的に危険であるというような趣旨を申し入れたというものでございます。   〔林委員長代理退席、松本(一)委員長代理着席〕  そこで私のほうの人権擁護機関としての問題点を申しますと、木住野校長は、A子が錦秋学園高等学校を受験するにあたりまして、その出願手続に必要な本人に関する校長名義の報告書、これは俗に在学中の学習、性格、健康などを記録した調査書といわれておるのでありますが、これを出しておるのであります。これは一般の受験生に必要とされておる文書でございまするが、前段申しましたような親展文書というものは、さらに同人については追加する必要があるというような趣旨から発送したというふうに認められたのであります。このような文書をもって申し入れた事項といいますのは、受験者の生徒本人の能力というものには関係のない母親の信条、行動、こういうものに関係するのでありまして、しかもその生徒自身にとりましては入学の許否の判定に不利益を与えるかもしれないと思われるものであります。したがって、この点が人権擁護機関の立場から問題にされる問題でございます。そうしまして、このような事実といいますものは、調査の結果大体間違いないと関係者も認めております。そうしますると、このような事実を擁護局の問題として一体どう考えたらいいかという問題でございます。  御承知のように教育基本法の第三条は教育の機会均等を明記したものでありますが、これによりますと、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」かように基本法は教育の大方針を明記してある。それと同時に、同趣旨のことはやはり児童権利宣言の第一条にも明記してある。かような関係でありますと、どうしてもこの事件が憲法十四条の法のもとの人間平等の原則に反するということになるのではないか、かように判断したのでございます。ことに人権、信条、社会的身分、門地、これによって政治的、経済的または社会的関係において差別されないという趣旨にこれはまっこうから違反しはしないかということが問題点になったのでございます。ただ私のほうといたしましては、そういう内申書と言おうが、あるいは追加書と言おうが、あるいは単なる連絡と言おうが、それはどちらでもいいのでありますが、子供の入学に際して、子供の学力や能力に関係のない親の思想的動向とかあるいは行動に関して、そういうことを申し出るということ自体が問題点なのである。したがって、その結果がかりに学園の入学の合否の判定に影響しようがしまいが、それ自体が憲法が保障する人間の平等に反するという建前で、五月二十七日に以上のような事実の認定をいたしまして、東京法務局長から東京都教育委員会委員長東京都北区教育委員会委員長両名にあてまして、本件の木住野校長のとった前記の処置は、憲法十四条、教育基本法及び児童権利宣言などの規定の理念から考えて、法のもとにおける平等の原則に違背したものである。かかる所為は、責任ある教育公務員の立場にある者のとった措置として妥当を欠くものであって、基本的人権尊重の上からまことに遺憾である。貴職におかれては進学する生徒の取り扱いにつき十分管下職員を指導監督して、再びかかる事態のないよう万全を期せられたく勧告する。結論といたしましてかような勧告をした次第でございます。  簡単に経過を申し上げますと、さようなことになっております。
  54. 坪野米男

    ○坪野委員 ただいまの人権擁護局長の経過報告で、人権擁護当局としての御判断あるいは立場はよくわかったのであります。当然そうあるべきだと思う。また英断をもってこのような結論を下された人権擁護局あるいは東京法務局の態度に対しては敬意を表したいと思うわけでありますが、この中学の校長のとった態度はまことにけしからぬ。教育者の良心と申しますか、教育者として適格性を欠くまことにけしからぬ行為だと思うわけであります。そういう行為に対して、人権擁護局としては、法制制度上のたてまえから、ただ今後このような人権侵害の行為が二度と起こらないように万全の措置をとるように勧告するという、この勧告から一歩も出ないという点において非常に残念に思うわけでありますが、人権擁護局としてのとるべき措置としては、この勧告以上に出る強力な措置がないものかどうか、その点についてちょっとお尋ねしたいと思います。
  55. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 御指摘のように、この勧告は、人権侵犯されたという事件に対して人権機関がとり得る刑事事件以外の処理としては現在最高の処置でございます。これ以上は強制力がございません。
  56. 坪野米男

    ○坪野委員 問題は、むしろ東京都の教育委員会の処置の問題であろうと思います。あるいはまた監督機関の文部当局として、この事件についてどういう監督指導を行なうかどいう問題が中心であろうと思うのでありますが、人権擁護の観点から、これが基本的人権を侵した違憲の措置だという判定を下されただけでも、私は大きな意義があると考えるわけであります。  そこでもう一つ、事実関係についてお尋ねをしたいのでありますが、この木住野校長のとった態度は、合否の結論にどういう影響を与えたかということのいかんにかかわらず、けしからぬ行為である、教育者としてあるまじき行為であるということは当然のことでございます。校長の弁解、あるいは北区の教育委員会に参りまして教育長その他の上司に会って事情を聴取した際にも、校長はその受験者A子ならA子の受験あるいは入学を妨害する意図は毛頭なかったのだ、ただ母親がこういう人だという事実を伝えただけなんだという校長の弁解をそのままわれわれに伝えておる。この北区の教育委員会の態度はまことにけしからぬと思うわけでありますが、調査の結果、この校長の親展書なり、あるいは口頭でわざわざ申し入れに行ったという行為が、錦秋学園高校の場合には不合格になり、一方の順天高校の場合には合格になっておりますが、この合否にどういう影響を具体的に及ぼしたかという点についての調査の結果をちょっとお尋ねしたいと思います。   〔松本(一)委員長代理退席、林委員長代理着席
  57. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 順天高校のほうから先に申し上げますと、これはもう十二日に合格して、校長が参りましたのが二十日ごろでございますから、これは合否に関係ない、かように見ております。それから、これは先ほど申しましたように御参考までに申し上げるのでありまして、私のほうは、それが合否に関係あろうがなかろうが、それ自体がいかぬのだ、こういう立場でございます。ただ御参考までに申し上げることは、錦秋高校側を調査しました結果、結論を先に申し上げますと、その追加された手紙の内容が合否の職員会議に提出されたものやらどうやら、それが合否の結果に影響したものかどうかということの結論はわからぬのであります。もちろんこれは学校側としては、問題の女生徒の不合格の原因は発表できない、かように拒否されておるようでございますが、これもまあごもっともだと思うのであります。それから合否の決定というものは、学力、面接、家庭状況などを総合して判断するのだが、それが総合判断の点数までいっていないのだ、こういう説明であります。ただ残る問題は、木住野校長の発送した手紙のスタンプの消し印であります。消し印が二月二日の零時から六時までのスタンプが押してあるのであります。それがいつ届いたかという問題と合否の職員会議の及落決定がいつあったかという問題なんでありまして、ただいままでの調査の結果では、合否の及落会議は、二日の午後四時ごろからあったのだ、かようになっておるようであります。そうしてその手紙を受領したのが二月の三日ごろだ、かように述べておるようであります。ただこれをくつがえすだけの調査は、強制力がございませんから私の方ではできませんし、これ自体を問題にしておりませんから、そこまでは突っ込んでやっておりません。
  58. 坪野米男

    ○坪野委員 もう少し具体的にお尋ねしておきますが、二月二日付の消し印のある親展書がおそらく翌日に届いておると推定されるわけですが、合格会議というのですか、合否を決定する錦秋学園の教授会というか、理事会というか、かりに合格決定会議と仮称しますと、二日から三日にかけて行なわれた。こういうことでございますが、問題は、このA子の不合格という決定がすでになされた後にこの親展書が受理されたものか、あるいは私立高校ですから、おそらく補欠入学というような形で、定員をオーバーして相当数を入学さしておる例はたくさんあるわけでございますから、一応成績その他でもう合格問題なしという人たちの分は、簡単に合格にきまるだろうと思うのでありますが、いわゆる合格不合格のすれすれの線上にある人たちの決定というものは、どうしてもおくれていくんじゃないか、それが二月の三日の午後に速達郵便に付して、四日の日に本人に不合格の通知があった、こういうように聞いております。その合否をきめる会議でこの親展書なるものが、その関係者の間で読まれたものかどうか。要するに合否をきめる前に、この親展書がただ校長なり教務主任の手だけではなしに、その合否をきめる関係者の人たちの目にとまったものかどうかとい点のお調べはどうでありましょうか。
  59. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 その点につきましては、その会議にその手紙が出たかどうか、もしくはそのA子の問題が提出されたかどうか、結論は得られませんでした。
  60. 坪野米男

    ○坪野委員 調査の結果わからなかったということですね。
  61. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 そういうわけです。
  62. 坪野米男

    ○坪野委員 そうして錦秋学園の当局のほうも学校内部の詳しい事情の質問には応じなかった、拒否された、こういうように聞いておられますか。
  63. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 ある程度は、こちらで聞くべきことは聞いております。ただ肝心の点になりますと、こちらの調査をする目的の結果が得られていない、かように御了承いただきたいと思います。
  64. 坪野米男

    ○坪野委員 この錦秋学園当局のとった態度も非常に不明朗であります。もしほんとうに成績その他で不合格にしたのだ、王子中学校長の親展書に全く左右されておらない、学校の名誉のためにその真実を明らかにするという勇気があれば、私は、法務当局のお調べに対してむしろ協力的に応ずべきでなかったかと思いますが、若干不明朗な点を残しておると思うわけです。しかし、法務局としては強制的に調査する権限はないということでありまするから、はたして合否に影響したかどうかという点は、調査の結果は不明であるというように伺っておきたいと思います。しかし問題は、局長の言われるとおり、こういった内申書以外に親展書類を出すという行為が問題だと思うわけであります。この親展書を出した行為について、校長からどういう弁解を聞かれたかは存じませんが、私たち社会党で西村力弥代議士以下数名が北の区役所へ参りまして、冨田健という北区の教育長、また鈴木英男という指導室長に会いまして、経過をただしましたところが、教育長のいわくには、校長の意図は生徒の入学を妨害する意図ではないのだ、学校の実情をありのままに伝えただけだ、こういうことであります。では、どういう意図をもってそういう親展書類を出したというように教育長なり教育委員会は判断をしているのだという問いに対して、これまた校長の弁解そのとおりでありますが、他の生従に迷惑をかけないように出したのだ、また相手の高校に迷惑をかけないためだ、さらには学校の名誉のためにやったのだ、こういう弁解を、校長の弁解をそのとおり伝えておる。また行き過ぎだ、あまり好ましいことじゃないけれども、校長の意図は決して受験を妨害する意図でなかったのだ、こういう弁解で北区の教育委員会が終始しているということ、これまた私はけしからぬことだと思うのです。校長が何らの意図もなしにわざわざ親展書を受験高校にあてて出すはずはないのであります。人間の行為というものは何らかの目的意識をもって発動するわけでありますから、こういう内申書を、しかも本人と何の関係もない母親の信条なりあるいはその行動なり、そういったものを、これが合否がきまるという受験校にあててそういった書類を出すという行為は、明らかにこれはA子の受験を妨害する意図から出たものだ、そういう悪意に出たものだということは、これは判断として何人も疑うことができない。校長はそれで学校のため、あるいはそういう悪い母親を持つ子供を高校に入れたくない、これが国家のためだ、社会のためだ、そういう間違った信念を持っておるとすればともかくでありますが、少なくとも校長の意図がそのA子の合格を望まない、合格を妨害しようという意図をもってなされたものという推定を受け、そういう判断を受けることは私は当然だと思う。こういう校長の弁解をただうのみにして、この校長に対する適切な、厳正な処分ができない都教委なりあるいは区の教育委員会の態度は、これはまことにけしからぬことだと思うのであります。これは都議会の問題であり、また文教委員会でも同僚が追及をする問題だと思いますが、この校長の意図は、法務局人権擁護部においても、ただ軽率に過失でもってそういったことをしたというようなお考えですか。人権侵害だあるいは憲法違反だという断定を下されたその校長の意図を、これは悪意をもって、A子に対する不当な差別待遇をしようという意図をもってなされた行為だというように判断なさっておるのかどうか、その点ちょっと念のために聞いておきます。
  65. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 校長の人柄とか世界観というものは、調書自体からはよくわかりませんけれども、全体を通観してみますると、基本的人権に対する配慮というものが非常に少ないのではないか、その点が欠けておったという点だけしか私は目下申し上げる材料がないのでございます。
  66. 坪野米男

    ○坪野委員 人権擁護局としては明快な結論を出されたわけですが、ただ校長がなぜこういうけしからぬ不当な行為に出たかという理由の中で、若干そのA子の母親のとった行動その他について一方的な申し立てをしておるようでありますから、私は本委員会の議事録にとどめて、校長がいかにけしからぬ——母親にどういう行為があってこういう行動に出たのかという経過の概要をこの委員会の議事録にとどめておく必要上、東京法務局人権擁護部に出された上申書のうちの申し立ての理由の一部をここで読み上げておきたいと思うのであります。  名前は伏せておきますが、本件発生の経過として、   (一) 従来王子中学校PTA規約には、「入会金五〇〇円を徴収する」という規定があったが、たまたま、昭和三十五年四月のPTA総会並びに王子中学校職員会において、父母、職員より、公立中学校のPTAに入会金の制度があるのはおかしいと問題になり、結局PTA総会にかけて規約を改正するという条件付で、この年度は協力費と名目を変えて徴収された。その後、昭和三十六年度と昭和三十七年度の入会者の父母からは、入会金も協力費も全然徴収されず、規約も改正を見ないままになっていた。   (二) しかるに、昭和三十七年十一月、校長は突然「現在まで徴収していなかったPTAの協力費五〇〇円を規約に従って一年生と二年生から徴収する」と言明した。そして、その使途については「将来体育館が建設された際、その内部設備のためなどに有効に使用したい」という漠然とした説明がなされた。これに対し父母並に教職員より、   (1)(一)で述べたように五〇〇円の徴収金については昭和三十五年四月のPTA総会において規約改正することが前提となっていたにも拘らず、まだその改正がされていないこと。   (2) 公立学校の経費は法律上公費によって負担されるもので、名目はともあれ、強制的に徴収されるものではないこと。   (3) 昭和三十三年四月より王子中学校新校舎建築の際、内部設備の殆ど全部が公費でまかなわれたため、PTAの協賛費として集めた協賛会費が、約一二〇万円程余っていること、その他、同校長のもとにおける学校経費の使途につき不明朗な点があること。  などを理由に、校長がPTA協力費として五〇〇円を徴収することに反対する動きがあらわれた。   (三) 昭和三十七年十二月十日、右五〇〇円の徴収問題について、校長を含むPTA実行委員会が開催され、王子中学校教師三名、K外二名が傍聴参加したが、父母三名の発言は一切許可されないまま実行委員会傍聴の教師、父母を退席させ、PTA総会にはかることなしに実行委員会の独断で徴収を強行する旨決定した。   (四) 同月十四日、右徴収に反対する父母約二〇名が集まり話し合った結果、「王中地域子供を守る会」を結成し、こうなった以上、ビラを配って各PTA会員である父母に実情を訴えるより方法はないと考え、別紙添付書類(一)の如きビラをPTA会員に対して配布し、五〇〇円徴収の不当性を訴えた。なおこのビラの末尾にはKの住所氏名並びに電話番号が記載されていた。   (五) 昭和三十八年一月二十七日、王子中学校講堂においてPTA総会が開催されたが、その席上、校長並びにPTA会長は、前記ビラの内容や、五〇〇円徴収問題につき、一方的な弁明をしたのみで、五〇〇円徴収の根拠については、何ら納得のゆく説明をなし得なかったばかりか、父母や教師から徴収に反対する発言がなされると総会を中途で閉会してしまった。  これが本件発生の経過でありまして、あとはAの高校受験に対する校長の不当介入問題、これは先ほど局長が指摘された事実を記載したものでございます。こういう経過でありますが、A子の母であるKなどがPTAの協力費の徴収に反対する、これはもう民主的なPTAの運営の中で賛成、反対があって当然のことなのであります。そういう活動をもって危険思想のあらわれだというように断を下す校長の頭こそ、教育者としてまことにこれは危険きわまりない存在だと言わざるを得ないのであります。そういうどこの学校にでもありがちな問題であります。父母が目ざめて、学校の民主的な教育の運営についての中で発言をするというのは当然のことなのでありますが、この校長は、こういう発言が気に入らないということでもってA子の受験妨害を意図したという根拠は、まことに重大な人権侵害の問題だ。なるほど刑法第何条に触れるという問題でないかもしれませんが、教育者としてはまことに不適格な、教育者の良識を全く越えた不当な行為でありまして、こういう教育者に対して都教委が、今後この種の人権侵害事件が二度と再び起こらないための適切な措置を法務当局から勧告を受けたとすれば、この校長に対して厳正な処分をすることこそ、この種の人権侵害の再発を防止する唯一の道だと考えるわけでございますが、局長の言われた勧告、今後の再発を防止するための適切な措置ということを、具体的に言えばどういうことを期待しての勧告であるのか、その点ひとつ伺っておきたいと思います。
  67. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 具体的になりますと、所管外のことでございますが、私どもとしましては、地方公務員法上どうであってそれがどうされようが、それはその所管事項の問題であり、こういうことを再び繰り返してもらっては困るということが精一ぱいであります。それ以上のことはちょっと申し上げかねるのではないかと思います。
  68. 坪野米男

    ○坪野委員 局長にそれ以上のことを求めるのは無理かもしれません。これはわれわれの社会問題であり、政治問題であり、あるいは重大な教育問題として今後この問題の成り行きをわれわれは厳重に監視しなければならぬと考えておりますが、法務委員会で直接関係のある問題としてはこの程度で私は質問を一応終わりたいと思います。
  69. 西村力弥

    西村(力)委員 関連して。私、この事件を知ったときに憤激を押えることができなかった。それは校長が子供を売ったと極言されてもやむを得ないのではないか。この問題について調査し、またあなたにもお会いして人権擁護活動の開始をお願いしたわけでございますが、こちらは選挙なんかあったりして国会の審議が延び延びになっておる限り、人権擁護局が適正なる勧告を出してくれたことに対しては敬意を表わしたいと思うわけなのです。ただこの勧告の出された基本が憲法違反である、学校教育法の精神、児童憲章の精神に違反する、こういうことはそのとおりでございますが、もう一点、これは学校長の権限の範囲という問題であります。子供の入学に際しまして、相手校の学校に子供の入学に関する内申をやるのは、これは内申書という一つの形式的なものがある。この学校ではあまり明確なものはなかったそうでございまするが、いずれにしましても、学校長の職分をもってやる追加内申をする必要がある場合においては、担任の教諭と十分に打ち合わせをし、学校長の職分をもって堂々とやらなければならぬ、それ以外の行動をやるということは、これは職権からいって逸脱行為である。人権擁護局の立場から言いますと、これは職権乱用だ、こういうことが一つ言えると思うわけです。ですから、勧告をされたその基礎理念の中にこの一項がつけ加えられなければならなかったのではないか、こういうことを私は思うわけなのでございます。御見解はいかがですか。
  70. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 おそらく問題は地方公務員法二十九条一項一号、二号の問題と考えておられるかと思いますが、その地方公務員法違反ということ自体が、人権侵犯の基礎資料とか、あるいはそれと直接の関係があるという事項でありましたらば、当然内容として調査の対象にしたと思います。もちろん、その点も考えてみましたけれども、それ自体は直接われわれが考えておりました十四条違反とは関係がいまのところはないという観点に立ちまして、地方公務員法関係は結論を出しておりません。
  71. 西村力弥

    西村(力)委員 このことが合否に影響する、しないにかかわらず、これは基本的に人権侵犯だという立場でありますが、私たちは、これは理由をどういうぐあいにつけようとも牽制をする、マイナスを与える結果になるのだということは常識的に否定できないことだと思うのですよ。普通の場合ですと、内申なんといったら、自分の教えている子供たちをよかれと願って、可能なる限りいい資料を提示するということは当然でありますが、たとえ事実を述べたというにしても、これは悪影響を与えるのだということは否定できないですよ。ですから、そういう点から言いますと、私は、やはり学校長の職務権限を逸脱しているということをはっきり言わなければならぬと思う。事実そのとおり、マイナスを与えようと与えまいと、これは校長の責任でやらなければならぬというのは、学校長の職分である。この場合においては、マイナスを与えようとも、これはあたりまえだと思う。職権乱用でも何でもないと思う。ところが、こそこそと私信をもって、あるいはみずから出向いて、不見識きわまる、こういうぐあいに私は思うわけなのであります。ですから、いまの件については触れられなかったといういろいろな立場の弁明がございましたが、私は、一つはやはりその職権逸脱というものが判定の基礎理念になるべきではなかったか、こう考えるわけなのでございます。  第二点は、いま坪野委員の質問に答えての法務省人権擁護局の見解、私たちもそのとおりだと思いますので、そういう点については触れることをやめますが、ただ一つ、私、この前池田調査課長さんですか、おいでのときにちょっと申し上げておったのでありますけれども、現地の調査に当たった調査官が不要なる言辞を吐いておる、こういうことを聞いたわけなのでございます。そのことに対する調査方法を私は依頼してあります。私たちの期待するたいへんけっこうな結論だから、そういうことは不問に付するかということもありますが、しかしそれはいかぬと思います。ですから、やはりその点は明確にしておいていただかなければならぬ、こう思うわけなのでございます。そういうふうなことは今後それこそあり方としてはならない問題である、かように私は考えますので、その点釈明をひとつ願いたいと思います。
  72. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 何か実際の取り調べに当たった担当官が、この母親に対して不当な言辞か何かがあったように承ったのであります。さっそく調査させましたのですが、私のほうの調査では、さようなことは認められない状況であります。もちろん、そういうことがあってはいかぬですが、あるなしにかかわらず、さような点につきましては、将来とも戒心をさせるつもりでおります。
  73. 西村力弥

    西村(力)委員 もう一点だけ、具体的な事項で、錦秋学園に入学を志願し、受験をし、そして不合格になった受験者は何人いるか、これは御調査願えましたでしょうか。
  74. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 申し上げます。入学志願者が千百三十七名。これは定員五百名だそうですが、合格者が九百五十七名、不合格者が百六十二名でございます。
  75. 西村力弥

    西村(力)委員 志願者だけじゃなくて、受験者数です。願書を出したけれども受験しない者もおりますから、実際受験した者……。
  76. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 それはちょっと私わかりません。
  77. 西村力弥

    西村(力)委員 そうすると、志願者が千百三十七人で合格者が九百五十七人ですから、百八十人不合格になっておるのですね。これは願書を出しておいても受験しなかった者がいるかどうかということが問題なんです。私の聞きたいのは、不合格者が非常に少ないという場合はやっぱり影響しただろうという推定をする資料として求めたのですが、計算すると、不合格者が百八十人くらいおりますから、これは資料にならぬと言わざるを得ないわけです。これは事実問題としてちょっとお尋ねしたわけでございます。  いずれにしましても、今回早急に結論を出されたことに対しまして、私たちはこの問題をまた文教委員会においても、文教行政として追及することになりますが、御努力に対しまして敬意を表しまして終わります。
  78. 坪野米男

    ○坪野委員 ちょっと先ほどの釈明に対して関連してお尋ねします。  東京法務局の第一線の調査官が不当な言辞を吐いたことがないということでありますが、私たちの聞いたところでは、その入学をした娘さんの一生に影響しますよ、だからたいした問題じゃないんだからこの提訴を取り下げたらどうですかという趣旨の勧告というか、そういった言辞があったというように聞いておるわけです。いまの局長の答弁では、調査の結果そういう事実がなかった、こういうことでありますが、私は、人権擁護局あるいは人権擁護の第一線に立つ職員というものは、人権感覚については非常にきびしいものがなければならぬと思うのです。なるほど法律に照らして違法であるとかないとかいうような判断だけでもって人権侵害の事実を判断するということでは、私は問題にならないと思うのであります。憲法の精神を体して、人権侵害であるかどうかということについて非常にシビアーな、厳格な態度で臨まなければならぬと思うわけです。いやしくもこれだけの事実が提訴されている中で、政治的な配慮かどうか知らぬが、もしそういうようなことがあったとすれば、まことにけしからぬことだと思うわけでありまして、今後部下の監督指導の面で、第一線の人権擁護の担当官の人権感覚をますます高めていただくように、ひとつ指導していただきたいということを強く要望しておきます。
  79. 稻川龍雄

    ○稻川政府委員 御趣旨のほどはまことに私同感でございまして、私は常日ごろから、人権調査の第一線に立つ者は敏感な人権感覚と高邁なヒューマニズムに徹しなければいかぬということを指示しております。おそらくそれを体しておってくれるものと思いますが、今後ともその点は十分注意したいと思っております。
  80. 坪野米男

    ○坪野委員 人権擁護局長に対する質問は終わります。  それでは次に、矯正局長に対する質問をします。時間がありませんのでなるべく簡単にお尋ねをして、また将来もう少し問題を掘り下げてお尋ねをしたいと思うのであります。  事件と申しますのは、長野刑務所を約十カ月の刑期を終えて出所してきた、これも名前は伏せて、Aと仮称しておきます。大正十四年生まれでありますから、三十六、七歳の男でありますが、この男が出所してまいりまして、刑務所の中におけるいろいろな作業上の問題その他を見聞して、非常に不合理な点を私のほうへ訴えてまいっておるわけでございます。具体的に一つ一つの事件をとってみれば、おそらく全国どこの刑務所にでもありがちな事案ではないかと思いますし、またそれに対して相当な処置がなされておるというようにも了解はできるわけでありますが、非常にこの人が頭のいい、鋭い感覚でもって刑務所の中を観察しておって、私に手記を寄せているわけでありますが、なるほどよく読んでみれば、ささいな問題のようだけれども、これはゆるがせにできない重大な問題だというように感じましたので、このAの申し立ての中から問題になりそうな個所だけを指摘して、少し局長の御見解なりを伺いたいと思うわけであります。  このAという男は、罪名ははっきりしませんが、私に訴えておったところでは、破廉恥の財産犯罪じゃないか、暴力犯その他ではなしに、財産犯で十カ月の刑に服して、昭和三十七年五月十一日東京拘置所から長野県須坂市の長野刑務所に移送されたということでありまして、三十七年五月十九日から洋裁工場に就役をした。三十八年一月三十日、ことしの一月三十日に満期で出所したのだ、こういうことでありますが、このA君の刑務所の中における受刑者の分類が、非常におもしろい分類をしておるのです。市民型受刑者、ぐれん隊型受刑者、こういう二つの型がある、こういうわけなんです。市民受刑者というのは、ある期間工場、会社などに勤務して、一般市民としての生活を営んでいた者が何らかの事由によって転落した者で、これらの者は、閉ざされた社会である刑務所においても善良な者と言える。もちろん例外も少なくはない。こういう一つの型がある。こういうのであります。そしていま一つの型はぐれん隊型受刑者、これは少年期から不良化して非行を重ねて、ぐれん隊の組織に身を投じた者、及びいまだぐれん隊の組織に属しないが、彼らに憧憬を抱き、彼らに付和雷同して常に接近せんと願っている者だ、こういう分類をいたしまして、そういうぐれん隊型の受刑者が長野刑務所で洋裁工だけで約六十人おる。印刷工で十五名おる。その他わずかですが、そういうぐれん隊型の受刑者が八十名前後おるのだ、こういうようにこのA君は言っているわけなんであります。  このぐれん隊型の受刑者が刑務所内で相当幅をきかしておって、善良なる市民型の受刑者を圧迫しているという事実をいろいろ指摘しておるわけなんであります。本人は吉田という保安課長に面接した際に、課長のいわくには、刑務所は社会の縮図である、ゆえに社会でこみやられる者は刑務所でもこみやられるのだ、これはどこの社会でも見られることでしかたがないのだ、こういうことを言ったということであります。このAなる男は、自分の一般的な感想として、一般社会で刑法犯ともいうべき犯則事犯、たとえば非合法にたばこを入手して喫煙するとか、けんかだとか、暴力行為、傷害などを刑務所の職員が取り締まるのは当然のことであるが、一般社会の軽犯罪法あるいはぐれん隊防止に関する都条例違反とでもいうべきものに該当する軽微な規律違反者に対して、末端の現場にある刑務職員がき然たる態度をとらなければ、彼らぐれん隊型受刑者の横行はますますあとを断たないであろう、こういうふうに結論づけておるわけなんであります。こういう、長野刑務所に限らず、全国の刑務所あるいは行刑施設内で受刑者間の暴行、傷害事件、あるいは受刑者の職員に対する暴行、傷害あるいはその逆の場合も皆無ではないと思いますが、刑務職員が受刑者等に対して暴行、傷害等を加えたというような所内の暴行、傷害事件が、全国的な統計でどういう形であらわれているかということを、最初にお尋ねしたい。
  81. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 刑務所内におきまして、ただいま御指摘のようないわゆる小暴力ないしは強い者が弱い者をいじめるというような傾向の存しますことは、まことに遺憾ながら肯定せざるを得ない現状であります。ただいま御質問の収容者間の暴行件数は、三十七年度におきましては正規に報告のありましたのが四千百二十四件、また受刑者が職員に対して暴行を働きました件数が七百五十三件でございます。
  82. 坪野米男

    ○坪野委員 私の方にもらっている資料では、昭和三十四年度で暴行人員が六千八百四十七名、そのうち刑事処分を受けた人員が百五十二名、昭和三十五年度では暴行人員が六千八百四十五名、刑事処分人員が百四十一名、昭和三十六年度が暴行人員七千二百五十二名、刑事処分人員が二百三十五名、三十七年度もほぼそれと同じような件数らしいというようなことでありますが、全国的に刑務所の中で相当暴行事件が発生しておるということは事実のようであります。刑事処分を受けているのが非常に少ないということは、単純暴行で、所内の懲罰で処理されている事件が多いのじゃないかと思いますが、また暴行が起こる特殊な環境、原因というものもあって、暴行事件をなくするということはなかなか因難なことであろうと思うわけでありますが、そういった暴行事犯が起こった場合の適切な処置、あるいはこのA君が指摘しておるますように、き然たる態度、処置というものがなければ、刑務所の中の比較的善良な受刑者の人権が侵害されるのじゃないかという感を強くしておるものでございます。  そこで、この長野刑務所の中で本人が具体的に指摘をして問題にしておる点を一、二申し上げますと、このぐれん隊型の受刑者というのは、課せられた作業をまじめにやらず、なまけておって、そうして工場内に製品検査係の受刑者がおるらしいのであります、そういったものも、本来は受刑者を使うことがいいかどうか、これは相当問題であります。予算の関係、人手不足等から、あるいはいまの累進処遇の問題で、事務補助者とかそういった者を使っているのかもしれませんが、工場内の製品検査係受刑者が検査をいたしまして、不良品製作者に対して注意をするという場合がよくあるわけであります。ところが、このぐれん隊型の受刑者が、お前も同じ受刑者ではないか、少々の粗悪品に対しては目をつむっておれというような意味のことばを言って圧迫を加えるというようなこと、またそういうぐれん隊型の受刑者が不良品を出して注意された場合に、逆になまいきだといってみずから暴行を加えるというような形で、作業をなまけいてる者と、検査係が同じ受刑者であるために、その受刑者にある程度集団的に圧迫を加えて、検査をごまかせというようなことを言っているというのをこのA君は見て憤慨をしているわけなんであります。この点、長野刑務所に限らず、全国的なケースでもけっこうですが、こういった作業をやらしておって、一方で作業をなまける、監督ということもありましょうけれども、私が指摘したような、検査をごまかせ、大目に見てくれというような圧力を加えている、こういうけしからぬ受刑者が一体おるのかどうか、お調べになったかどうか、それをひとつ……。
  83. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 御指摘のように、受刑者のうちの成績優秀者を監督官、つまり官吏であります看守の補助として製品検査等の手伝いをなさしめておるという点は事実でございまして、職員の数等で、全部を自分でやれませんので、その下検査なり補助等として使っている点はございますが、これらの者等に対しまして、他の、いまのような不良なぐれん隊のような受刑者が威迫を加えるというようなことがございますれば、そのつど担当の看守が注意をしているはずでございまして、特にそういう点についての調査報告というものは徴しておりません。また、その場合に、直ちに報復してなぐったとか、あるいは注意をした看守に切りかかったというような特段の事件がない限りは、刑務所として報告してまいっておりませんので、ただいまのように、製品検査についての特段のトラブルについての報告は手元にございません。しかし、刑務所の実情から見まして、さような点でぶつぶつ言うことはわれわれは決して想像にかたくないところでございます。ただ職員が、強く受刑者に、正しい点はあくまでも正しく。また非はどこまでも追及するという態度で臨むように指導はいたしておるのでございます。いま御指摘のような事実も、おそらくないと思いますが、さような点のないようにわれわれは平素指導もし、また、さようにあってもらいたいと考えている次第であります。
  84. 坪野米男

    ○坪野委員 このA君は受刑者に対する刑務所の職員の態度をいろいろ具体的に指摘をしているわけなんでありますが、自分は入所当時から節度と寛容とは異なるものだ、だから職員はもっとき然たる態度をとれという要求をたびたびしておった、こういうのであります。それに対して職員の、部長というとどの程度の職員でありますか、刑務所に来て文句を言うくらいなら来るなと言ったというのであります。だれも好きこのんで刑務所へ入っておる人はおらぬわけでございまして、裏を返して言えば、刑務所に入った以上、受刑者である以上は文句は一切言うなということに通ずるわけで、こういう暴言を吐かれて、本人は理屈屋でありますから、憤慨しておるわけであります。刑務所に来て文句を言うくらいなら来るな、これはまことに名言でございますが、しかし刑務所の職員が、こういった規律維持という点で、こういうまじめな受刑者が文句を言った場合に、この世界はしょうがないんだということで、むしろ、そういうぐれん隊型受刑者の規律を乱し、あるいは小暴力といったものについてあまりき然たる態度をとっておらないということをこのA君は指摘をしておるのであります。これは刑務所によっても違うのじゃないか、東京とか大阪とか、大都市の刑務所では相当規律が厳正らしいということをA君も、どこで聞いたのか、言っておるわけなんであります。そして長野とか、いなかの刑務所では、軽微な犯則事犯に対して幾らこれを摘発して保安課に連れていっても、上司が取り上げてくれない、みな握りつぶしてしまうんだ、だからおれたち下級の職員の立場がなくなるんだ、というようなことを下級職員が受刑者、このA君にも訴えておるということを言っておるわけなんであります。熊本の刑務所というのはずいぶん荒くれが入っておって、したがって、所内におけるぐれん隊型の暴力事犯が相当多いのじやないかというようなことも聞いておりますが、一体刑務所の職員は、この種のぐれん隊型の受刑者に対してき然たる態度で臨むだけの職責に対する自信というか、あるいは責任感というものがないのか。あるいは給与が安い、待遇が悪いから、こういうくだらぬやつを相手になぐられたんじやつまらない、何か所内のこういうぐれん隊型受刑者の暴力におびえて、むしろ見て見ぬふりをするというような、非常に情けない、嘆かわしい状態にあるのじゃなかろうかというようなことも想像できるわけなんですが、全般的にどうですか、相当荒っぽい受刑者もおると思いますが、腕ききの職員を配置して、そういうぐれん隊受刑者に対するきびしい態度をとるような指導がなされておるのかどうか。
  85. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 最近の受刑者の中には、いわゆる暴力団の隊員とか、あるいは町のぐれん隊、あるいはさような暴力的な犯罪の多いのに比例しまして、受刑者の中にもさような者が非常に多いのであります。彼らはまた、わりあいに傷害とか暴行事犯につきましての判決が軽いものですから、外部との連絡が非常にいいのであります。そういうわけでありますので、ある刑務所では、看守に、おまえらの家族にあとでお礼に行くというような脅迫的な言辞を弄する者もございますし、また、これはある例でございますが、その事件のまだ被告の間でございましたが、裁判所に出廷する際に一緒に乗せていく、一人一人乗せずに一緒に乗せていって、それであばれさせるというような事例もございまして、刑務官必ずしも体力的にすぐれた者ではございませんで、ときどきなぐられたり、大きなけがをすることもございますし、さような際には、各管区に特別警備隊というものを置いておりまして、必要なところに直ちに派遣をして、いわゆる受刑者の実力に対して防衛するだけの措置はとるわけでございます。しかし、離れております拘置支所等におきましては、直ちには間に合わぬというので、一時的に暴力に屈服したという例もあることはあるのでございまして、われわれとしまして、あらゆる場所に大ぜいの人間も配置できない。地方の拘置所になりますと、全職員が五、六人というところもございまして、そこに五人、六人とさような受刑者あるいは刑事被告人が入ってまいりますと、一時的にさような現象もあろうかと思います。全体といたしまして、各管区がそれぞれの通報に基づきまして必要な警備措置はとるようにいたしておるわけでございます。  なお、職員の士気に関する点でございますが、終戦以来いわゆる人権の主張ということが非常に強くなりまして、刑務官は法的な知識というものに欠けるところもございまして、いまは非常に固まってまいりましたが、一時人権主張の高揚というムードがありました時代にやや弱くなったという点があったのでございます。しかし、最近われわれとしまして、初任者研修あるいは中堅研修というように、各矯正管区所在地あるいは中央におきまして研修を行ないまして、さような点の適切な処理という点につきましては十分意を用いて訓育し、また各施設の現状につきまして、ただいま長野刑務所の例を御指摘を受けたのでございますが、それらの点につきましても、本省なりあるいは管区からそれぞれ監査なり巡閲に参りまして、さような点の是正、また全国的な処遇差のないようにつとめておる次第でございます。  なお、ただいまの職員がき然とした態度、そうして寛容と忍耐の精神を持ったほんとうの行刑官としての態度に徹するようにさらに指導につとめていきたいと思う次第でございます。
  86. 坪野米男

    ○坪野委員 長野刑務所の場合は、松本少年刑務所から成年に達して、そうして少年囚の特に不良度の高い者が相当移送されてきているというように聞いているわけなんでありますが、こういう少年あるいは年少の成人囚でありましても、特に少年期から不良性の性向を持った受刑者に対して、刑務所としては、教育刑的な立場から相当同情的にそういった受刑者に対する指導とかをしている面もあるらしくて、そういう点を強調し過ぎるために、いまのA君が指摘するように、一般の善良な市民型の受刑者がこの種のぐれん隊型受刑者に相当圧迫を受けているということで、そういう年少のぐれん隊型の受刑者に対する教育的観点もけっこうだけれども、やはりき然たる態度で節度を保ってほしいということを強く訴えています。これは私は何も長野刑務所だけでなしに、ああいう特殊な社会でありますから、全国的に小さい点をとらえればきりがない問題があるのではないか、そういった問題を今後どういうように改善されていくかということにかかってくるわけでございます。  そこで私はこの際お尋ねをしておきたいのですが、監獄法の改正について、これは明治四十一年制定といえば約五十年をすでに経過しているわけであります。大正十一年以来改正の問題に取り組んでおられるわけですが、現在の段階で改正作業がどのように進んでおって、どういう点が問題点になっているかということを、ひとつ参考に聞かせていただきたいと思います。
  87. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 前段の刑務所収容者に対しまする刑務職員のあり方等につきましては、さらに御趣旨の点に沿いまして十分指導してまいりたいと存じておるわけであります。  監獄法改正の問題につきましては、すでに数年に及ぶ次第でございますが、大体の目安といたしましては、本年中に一応の矯正局内部における草案と申しますか試案と申しますかを完成する予定にしておる次第であります。なお、最近法制審議会に諮問せられました刑法改正についての問題で、その資料となっておりまする中に保安処分に関する規定もございます。さらにこれにつきまして新たにその検討を始めなければならない段階に達するのではないか。また刑法の新しい中に、刑罰の内容としまして、拘禁作業を刑罰の内容と見るのか、あるいはまた教化の手段と見るのかという点につきまして仮案の中にもまだ意見がまとまっておりません。さような点を見合わせまして、法制審議会の審議の状況に応じてわれわれの作業を進めていきたいと存じますが、一応の仮案と申しますものができ上がるまでには、まだ相当の日時を要するかと存ずる次第でございます。なお、問題点となりますのは、現在の監獄法がいわゆる監獄という形で施設法として規定されておるのでございます。われわれとしまして法律のていさいと申しますか、内容を明らかにする意味で、いわゆる作用法とすべきかあるいは施設法とすべきかという点についてその問題であります。また、現在監獄法の中には未決拘禁と、そうして性質の違う有罪の確定者の処遇というものが一つになっておるわけでございます。これらはやはり別個の性質のものであるから、別個の法規にすべきではないかという議論があるわけでございます。なお、個々の処遇につきまして、いまの監獄法では、相当条理判断と申しますか、こまかい注意規定に欠けておりまして、その点、自由制限等につきましても明確に、なるべく執行側にしましても、また収容されておる側にしましても、わかりやすい親切な条文にする必要があるというような点につきましていろいろ考慮しておるわけであります。いま手元に資料がございませんが、概略さような点が問題点でございます。
  88. 坪野米男

    ○坪野委員 時間がありませんので、また後日に質問を譲りたいと思いますが、一、二点だけお尋ねしておきたいと思います。  この受刑者に対する賞与金というのがいろいろ分類があって、一類一等工という最高の賞与金が一時間当り三円恵与されておるということをA君も指摘しておりますが、受刑者が強制労働をさせられて相当生産的な作業にも従事しておるようにわれわれは外から見ておるわけなんです。もちろん刑務所の作業品は、部外に売る場合は非常に安いということらしいのですけれども、一方またこういう悪質なぐれん隊型の受刑者も相当おって、粗悪品も相当出る、あるいはまた未経験者でまだ見習い工程度の者で一人前の仕事ができないということもありましょうけれども、相当生産的な作業をやっておる受刑者に対する賞与金の制度というのは、私はこれはどうかと思うのです。いかに法を犯した受刑者であるとしても、その労働を国家が搾取するというのは、これはどうも民主国家として芳しくない。もちろん社会復帰のための教育刑の意味もありましょうが、その労働によってやはり価値を生み出したその受刑者の更生資金という点からいっても、相当なやはり日当というのか、労賃というのか、そういう名目のものが与えられてしかるべきではないか。何もめしを食えなくて刑務所に志願して入るやつばかりじゃないのでありますから、いまの賞与金という制度で一時間三円、八時間労働で一日最高が二十四円しかもらえないというようなことじや、これは更生資金のたしにもならぬのじゃないかという意見を抱くのですが、この賞与金について何かお考えがあれば聞かせていただきたいと思います。
  89. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 刑務所におきます懲役受刑者の作業に対する報酬の問題ですが、学問的には、これは懲役刑であって金刑ではない。労働の得た利益というものは受刑者に帰属すべきじゃないかという学説もあるのでありますが、また反面、さような説をとってまいりますと、刑務所の作業というものはただいまのような低能率である。そうすると、その損害はだれが負担するのかというような問題も出てくるわけであります。その点につきましていろいろ学説なり議論があるわけでございますが、われわれといたしましては、現在の刑務作業でようやく作業に必要な原材料費、それに付属消耗品費と受刑者の日常の被服、飲食物費あるいは医療費等を、どうやら計算上まかなえる程度まで伸びてきたというのが現状でございまして、利潤というものは実際上まだないのであります。やっと収容費と作業費というようなものをどうやらとんとんにまでまかなえるというところでございますので、利潤をあげているというような段階に達しておりません。われわれとして作業賞与金の立場をとっておりますのは、受刑者が刑務所から社会に出ました場合に、一日の生活もできないということになれば、直ちにまた悪の道に戻らざるを得ない。したがいまして、さような者が職をさがしますまで、あるいはまた職のない場合に、生活保護を受けるのにある期間がかかるので、その期間何とか一時的なしのぎになるものをぜひ均等に与えたいというような考え方から、作業賞与金の金額を——大体いま刑務所の平均の在所日数と申しますか、釈放される者の平均が一年二カ月くらいでありますから、そのくらいで出た者が大体社会保護の一月分の給与金に当たるまでのものを出したいという計算から、本年度の予算の増額要求をいたしまして、過般御協賛を得たわけでございます。大体一年二カ月くらいで出る者が五千円前後得て出られる。そうして一時的にそれで生活して、就職なりあるいはまた生活保護を受けるまでのつなぎというような意味合いでその賞与金の金額を算定しておるわけであります。これは多いほうがいいわけでありますが、反面、刑務所を出た者だけがもらえるというような社会的な感情もございますので、その点にやはり限度があろうかと思いますが、大体生活保護の一月分ということを目途に支給しておるわけであります。その予算から逆算して一等工一日幾らというような点に金額がきまっておるわけでありますが、いまのA君の書きましたものが正しい労働の対価であるというふうには考えていないわけであります。
  90. 坪野米男

    ○坪野委員 最後にもう一点お尋ねしますが、刑務所の職員の待遇の問題になるわけですが、この刑務職員というのは、全部刑務所施設周辺の官舎に住まうことを義務づけられておるように聞いておるのですが、そうであるかどうか、ちょっと伺いたいと思います。
  91. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 法規上は、官舎に居住すべしという義務はないわけでございます。ただ刑務所という特殊の施設でございまして、緊急の場合の招集等がございますので、一般の国家公務員は有料で官舎に入るわけでございますが、その刑務所周辺にありまする国家公務員宿舎は特に無料ということになって入っておるわけでございます。しかし、現在の充足率は大体六、七〇%ぐらいで、いまのところ希望者があるのでございますが、全部をまかないきれないというような事情ではございますが、義務として入らなければならないということはないのでございます。
  92. 坪野米男

    ○坪野委員 六、七〇%程度が官舎に居住しておって、あとは自宅からの通勤ということで、その自宅というのも、その施設に近接した自宅をすすめておる、通勤に一時間もかかるという場合はどういうことになりますか。
  93. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 刑務所の看守、看守部長という方は大体地元の方が多いのでございます。自宅が御近所の方もございますし、あるいは三十分、一時間というような方もあるわけでございます。必ずしもどのぐらいに住めということは指示いたしておりません。大体は通勤可能区域からの通勤のように聞いております。
  94. 坪野米男

    ○坪野委員 私がある刑務所職員から聞いたところでありますが、課長クラスになると、大体みな官舎に強制的に住まわされるのだ、法規上はともかくとして、その職責上課長クラスになると、もう官舎に住むことを義務づけられておるのだ。ところが課長というクラスになると、給与はともかくとして、子供が相当大きくなる。子供がもう高校へ行く年かっこうになってきて、いまの官舎の基準ではとても狭くて子供の教育上非常に困るのだ。軍隊でいえば、将校になれば営外から、自宅から通勤ができる。ところが刑務所の職員は、えらくなると、所長なり課長になると、官舎に住むことを義務づけられて、所長の官舎は知りませんが、課長クラスの官舎が非常に狭くて、しかも子供が大きくなって、もう一部屋ほしいというような具体的な訴え、私は見たわけじゃなく聞いたのですが、義務づけられているとすれば、そうしてその年配の家族構成を考えて、とにかく人間らしい生活にたえ得る程度の官舎を、法務省としてあるいは国としても当然これは保障すべきではないかというふうに私は感じたのです。いまは法規上義務づけられていないと言いますが、課長クラスは義務づけられているのじゃないかと思います。その点はどうですか。
  95. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 法規上の義務づけはございませんが、いわゆる課長以上になりますと、全国的な異動を行なっているわけでございます。さような意味合いから、遠隔の地に異動します際に当然住宅の問題がある。そこで課長級については自然にいままでの課長官舎があいてくるわけでございます。それに引き続いて入るという点で、いま住居をさがそうとしましてもあるわけではございませんし、大体引き継ぎ、引き継ぎ、保安課長が動けばそのあとの保安課長が入ってくるというような形で、事実上引き継ぎの形になっております。また刑務所の幹部の責任といいますと、何か事故がありました場合、これは事故なり、あるいは大ぜいの人間を預かっておりますので、保安課長のみならず医務課長、あらゆる責任者というものは直ちに夜間でも施設に出て直接指揮をとらなければならぬというような現状でございますので、義務とは各人が強く感ぜずに、当然職務の内容として、習慣と申しますか、昔からのしきたりで、当然そうあるべきだという考え方で、現実に刑務所の官舎に住んでいるというふうに私は感じているわけでございます。  ただ官舎の大きさの問題でございますけれども、これは公務員の宿舎は、われわれ一般の公務員の宿舎も非常に規模が小そうございまして、各家庭も大きな中学生、高校生、それに男女を持たれてお困りになっておる状態であります。刑務所だけが特に優遇を受けるわけにもまいりません。一般の基準で現在は建築しておるわけであります。決して十分な施設とは思いませんが、現在の各省状況から見ましてやむを得ないのではないかと思います。
  96. 坪野米男

    ○坪野委員 私は実情を調査したわけではないし、また一度調べてみたいと思いますが、一般公務員の官舎よりも規格が少し悪いという訴えを受けたので、せめて一般公務員並みの、課長なら課長クラスの官舎が支給されるように努力していただきたいということだけ一つ申し上げておきます。
  97. 大澤一郎

    ○大澤(一)政府委員 現在新しく建ちますのは大体大蔵省の基準で建築しておりますので、極度に小さいということはなかろうかと思います。ただ、刑務所は大体いなかにありまして戦災等を受けておりません。昔の所長官舎といいますと、きわめて広壮な邸宅であります。いまでもそういうので残っているのがあります。また課長の官舎でも、残ったところは相当大きな官舎であります。しかし、終戦後、戦災を受けた地に急造いただきましたところは非常に規格が小さい。また現在から見ても、もとのままの戦前の戸数を整えようというので規格の小さいところもあろうかと思います。さようなものは順次大蔵省の基準に従いまして、大きなものは小さくする、小さいものは大きくする、そういうような方針で進んでもらえたらと思います。
  98. 林博

    ○林委員長代理 赤松勇君。
  99. 赤松勇

    ○赤松委員 総理府総務長官にお尋ねしたいと思います。  これは現在沖繩で問題になっております昭和三十八年二月二十八日の午後四時過ぎ発生をいたしました事件でありまして、那覇市の国場有仁の長男秀夫君という十三歳の上山中学の一年生の子供が、アメリカ海兵隊第三マリン師団上等兵ロナルド・D・ジャクソン(二十歳)の操縦する大型トラックによって轢殺をされた事件であります。すなわち、青信号で約十五人が横断をしておる際に、一番後方におりました国場君が犠牲になったわけでありますが、しかもこれは軍法会議におきまして無罪の判決があった。沖繩におきましては非常な問題になっておる。一昨日、日本社会党の中央執行委員会におきまして、この問題はきわめて重大である、と申しますのは、この事件だけでなしに、現在祖国復帰を叫んでおる沖繩の同胞は目に余る不法不当な取り扱いを受けております。したがって、この事件を通して、沖繩のいろいろな住民の生活構造自身を改善する必要があるのではないか、そういう考えのもとにこの事件国会で取り上げるということが決定いたしまして、昨日の国会対策委員会におきましても、やはり同様の決定をしたわけであります。この件につきまして、総理府のほうに沖繩から参っておりまする資料なりあるいは報告なりございましたならば承りたいと思います。
  100. 徳安實藏

    徳安政府委員 ただいまの件につきましては、私どもも、現地におきまする非常な衝撃等にかんがみまして、できるだけ適切な処置がとれるならばと思いまして、重大な関心を持っておるわけでございます。したがって、その判決に対しまして、その根拠がどういうものであるかというようなことにつきまして、一応の判決文なり記録等を取り寄せまして、しさいに拝見したいということで、総理府では外務省を通じまして連絡をしていただいておるわけでございますが、まだこれに対する的確な御回答と申しますか、判決理由だとか訴訟記録というものを入手いたしておりません。また一方、私のほうの南方連絡事務所がございますので、そのほうを通じまして、いま申し上げましたような記録等が何とか入手できるように最大の努力を払うようにということ、そしてこれが入手でさましたら、さっそく政府のほうに送るようにという指令は出してございますけれども、これも今日まで督促はいたしておりますが、入手はいたしておりません。まことに残念でございますが、新聞に出ておりまする程度のものは向こうからも連絡は参っておりますけれども、掘り下げて判断し得るような根拠になる判決文や記録がないために、実は私どもも困っておるような状態でございます。
  101. 赤松勇

    ○赤松委員 そういう御答弁があるだろうと実は予期しておったわけであります。事件は二月に発生しておるわけです。すでに六月になろうとするのに、なお現地から詳細な報告がないということは怠慢のそしりを免れることはできません。そこで私は、第一に総理府に対しまして、判決文なり訴訟記録が参りましたならば、さっそく私どもに渡していただきたいということをまず希望しておきます。  それから第二に、あなたはいま新聞の情報程度だということをおっしゃいましたが、おそらく内地の新聞だと思うのです。内地の新聞はほんの数行報道しているにすぎません。私も判決文及び訴訟記録はまだ読んでおりませんが、ちょうどここに琉球新報がございますので、あなたが先ほどおっしゃったように、現地におきましてこの事件が非常なショックを各方面に与えておるが、どのように与えておるかということを、この新聞の記事を通じて私はあなたにぜひ知っていただきたい。それから私の質問に移りたいと思います。  五月二日の琉球新報によりますと、「軍法会議で判決」この米兵に対する無罪の判決で「両親や関係者は憤慨」「大きな社会問題にまで発展した米軍車による上山中学生ひき殺し事件は一日午前九時から開かれた軍法会議で加害者の米兵に無罪の判決が下された。青信号の横断歩道を横断中に突っ込み即死させた悪質な事故だけに、殺人なみの重罪を、と訴えていた関係者たちはこの判決結果に激怒「いくら何でもひどい話だ。これじゃあ文字通りのひかれ損、人権をふみにじるのもはなはだしい」とフンマンをぶちまけている。」「事件はさる二月二十八日、那覇市上山中学一年生国場秀夫君(一三)が学校からの帰り那覇市内一号線道路上の横断歩道を通っているとき午後四時十分ごろ那覇港方面から北方へ運行中の第三マリン師団第三タンク大隊ロナルド・D・ジャクソン上等兵(二〇)の運転するトラックにはねられ即死したもの。第三マリン師団では現場調査にもとづきジャクソン上等兵を不注意運転により不法に国場君をひき殺したものとして軍法第百三十四条違反として事件を過失致死罪として特別軍法会議にかけた。初日の軍法会議は四月三十日キャンプ・ヘーグのマリン師団本部法廷でランプ少佐を議長に六人のマリン将校で構成した陪審メンバーのもと、検事ブロフィー中尉、弁護人ダンセロー中尉が出席して行なわれた。一日の公判では検事側証人としては事件当時ジャクソン上等兵と助手席に乗っていたバッツ中尉をはじめ、目撃者親里嘉正さん、浦崎信男、学友の屋嘉松江さん、吉川幸枝さん、前田清栄君ら六人が出廷。バッツ中尉は「トラックは十ないし十五マイルで走っていた。交通信号灯は右側にあったと覚えているが、信号灯の色は覚えていない」と証言、学友たちは「国場君は青信号のときに横断していた」とのべた。弁護人は七人の証人を呼び出した。最後に被告ジャクソン上等兵は「信号標示機の色は太陽の光が後方の建物の壁に反射して識別できなかった」と証言した。これらの証言にもとづいて、法廷構成メンバー(陪審員)五人により「有罪か」「無罪か」の投票が行なわれ、その結果無罪が決定した。これに対し関係者は「そんな無茶な裁判があるものか、陪審員は被告側の身うちとみなしてよいものばかりであり、被告に有利な評決をすることははじめからわかっていたことだ。子供だましの裁判であり、不当裁判もはなはだしい。民主主義を基盤にしているというアメリカの横暴であり、住民に対する人命軽視を徹底的に暴露したものである」として、この無罪判決に対し、徹底的に抗議する構えを見せている。軍法会議の場合、規則により無罪判決に対しては検事側上告はできず、それだけに関係者は「ひとつの生命を石ころ同様ふみにじられた。こんな横暴が許されてはならない」と憤慨している。一方、この知らせを受けた国場君の両親も無罪と聞いてあ然とし「これでは秀夫も浮ばれません」と唇をかんでいた。国場君の学校でも「そんなバカなことが許されてなるものか。アチラさんのことだから、刑量の問題で無期か有期になるていどはじゅうぶん予測していたが、まさか、きれいさっぱり無罪とは……」と、激しい怒りをみせ、さっそく問題をとりあげて軍に抗議する一方、各方面に訴えるという。」  これが現地の新聞の報道であります。そこで一体この事件について新聞社のほうではどういう見方をしているか、これはきわめて公正な立場からこの事件の批判をしておるわけでありますけれども、琉球新報のそれによりますと、「金口木舌」という欄でございますが、「戦後人権尊重という英米法の精神をとり入れて日本や沖繩の刑事訴訟手続法も大いに改正された。「正当なる法手続き」というのがそれである。アメリカの西部劇映画をみると、よく無法者に恨みを持つ町の人々が、団結して無法者と闘い、ひっつかまえたあげく町はずれの枝っぷりの良い大木で吊し首にしようとする場面がある。そこへ現われるのが今まで町の人々の指導者であった保安官。彼は捕えた無法者を町の人々のリンチから守り「正当な法手続き」を経て裁判にかけるため大いに奮闘するというわけである。英米法では陪審制度が裁判の主体のようだ。一人あるいは三人の判事の判断より多数の人々の判断に基づいた方がより民主的だからというわけ。ところが陪審員はしろうとがやるから理づくめの専門家より感情に支配される可能性は大きい。戦後の日本・沖繩でも裁判は検事と弁護士の論戦のヒノキ舞台となって、論告や弁論も判事に対してのべるというよりか傍聴席に対して陳述しているという場面が多くなっている。陪審員制ではなおのこと、いかにして陪審員の同情を買うかということが、検事側、弁護人側の闘争になってくる。こんどの上山中校の国場君ひき殺し事件にしても「正当なる法手続き」を通して裁判が行なわれたことは間違いない。しかし軍法会議なるものは陪審制度と同じようなもので、指揮官任命による将校で構成されている以上、やはり弁護士の弁論いかんによっては被告側に同情を寄せられるかも知れない。ましてや沖繩側の証人は通訳を通してだから通訳の資格にも問題はあろう。民族的感情としては「人を殺しても無罪か」ということだ。米軍側もこの感情を尊重しなければならない」。こういうように報道しておるのであります。  そして一般の児童にどういう影響を与えているか。ここで私はくどくど引用はしませんけれども、一般の児童に与えた影響というものはきわめて大きい。それは、たとえばこの国場君の中学校の生徒会で米軍に対して抗議運動を起こしておる。この一事をもってしてもわかる。それから抗議の県民大会が開かれた。この大会は沖繩教職員会、それから子どもを守る会、人権協会など十三団体が主催して、そうして会場には国場君と同じ上山中学三年生の佐久間さんら二百人が参加したのをはじめ、各階層も弔旗をあげて参加した。それと同時に、これは県民大会だけでなしに、ここではあなたたちと同じ思想を持っておるところの自由民主党も、この点については責任者の糾弾を決意して、そうして無罪判決の真相を徹底的に究明するというところの声明を出しております。この声明の内容を読み上げてみますると、「米軍人による上山中校生のひき殺し事件の特別軍事法廷は、衆人の予想に反して無罪となり、われわれはこの判決に驚きと疑念を抱かざるを得ない。この事故は中校生の一団が青信号を確認の上、横断歩道を通過中に起こった事故であり、他の車両は全部停車していたのにも拘らず米軍人が一人信号を無視し、横断歩道通行時の注意を怠たり、中校生をひき殺した事実はすでに新聞に報道されている。事故当時米軍人の琉珠人命軽視の非難さえ起こり、運転者の厳罰は当然と考えていたものである。しかるにかかる歴然たる交通違反行為が無罪になったのは全く理解できないものがある。われわれはこの判決に対し一大関心をもって真相を究明し、いささかでも公正を欠く点があれば人道上の立ち場からこの裁判の責任者を徹底的に弾劾する決意である」、こういうように自由民主党が声明を出すと同時に、さらに立法院の行政法務委員会は五月の十四日午前十時から委員会を開いて、そうしてこの事件を審議しました。この日は幸地警察局長を参考人として招き、そうして事故の実情聴取を行なったわけであります。  このように、すでに立法院におきましても、また自由民主党におきましても、社会大衆党におきましても、政界におきましてはあげてこの不当なる判決に対する憤りが沖繩で渦を巻いている。また、民間におきましても、先ほど申し上げましたように県民大会が開かれようとしておる。こういうときにあたりまして、先ほどあなたは適切な措置を講じたい、こう言われたのでございますけれども、なるほど、判決文を見なければ正確なことはわからないとおっしゃいまするが、すでに私は琉珠新報を読み上げて事件の概要を述べ、しかも自由民主党などは公式に声明を出し、あるいは立法院がまたこの問題を取り上げて、行政法務委員会におきましてすでに究明をしているというのでありますから、あなたは事件の概要がわからないとかおっしゃらないと思います。したがって、先ほど適切な措置をとるということをおっしゃいましたが、一体どのような措置をおとりになるつもりであるか、これをお伺いしたいと思います。
  102. 徳安實藏

    徳安政府委員 ただいまお話がございましたように、無罪の判決に対しまして各方面に非常な反響が起きております。先ほど申されましたように、沖繩子どもを守る会とか沖繩教職員会等十二団体が協議会を設けられまして、沖繩人の生命の軽視という点から抗議をなさっております。また五月の二日には、いまお話しのように社大党の抗議声明が発表されております。五月の三日には、自民党議員総会を開いて真相究明を声明して、これが発表になっております。十四日には、琉珠政府から裁判の経緯について民政府に文書で照会をいたしております。また二十二日には、いまお話しのように立法院の行政法務委員会が開かれまして、立法院の議長名で訴訟記録を要求されております。かような状態でありまして、五月に入りましてから各党並びに沖繩の政府、立法院等が動き出しておるわけでございます。  これはいずれも訴訟記録でありますとか真相の究明等、あるいはそうじゃなくても、けしからぬといって声明をお出しになっておるところもございますが、一応はその経緯等をつまびらかにしたいということで、文書をもって、第一次的には——御承知のように向こうには琉球政府があるわけでありまして、これが実際の法的な責任を持つわけであります。この琉球政府から民政府のほうへ、いわゆるアメリカ側にそうしたものを要求もいたしておるわけでございまして、一応一次的にはこの琉球政府の処置に大きな期待を持たねばならぬと思います。  しかし、先ほど申し上げましたように、沖繩というものは私どもの敗戦によるしわ寄せの最もお気の毒な場所でございまして、その方々の心情を察しますと、ただ手をこまねいてばかりおるというわけにはもちろんまいらないと思いますので、そうしたものの真相をはっきりいたしましたら、政府として与えられる範囲——これは法的にどういう点があるかはわかりませんし、あるいは外交当局とも相談しませんと、私にはそういう詳しいことについての判断はつきかねますけれども、何としても私どもの同胞のことでございますから、あとう限りの方法は私どもとして考えねばならないということは一応考えておるわけでございますが、何しろその真相究明を声明されましても、まだ真相が究明されておりません。また記録等も、訴訟記録あるいは経過等につきましても、正しい文書によるものが入っておりません。いまお読み上げになりましたような新聞報告を私どももちょうだいもし、また、こうではなかろうかという、それにやや似寄ったものの報告を受けておるだけでございまして、ここにはっきりした態度をどうするということを申し上げられぬことはまことに残念でございますが、しかし、重ねて向こうの方には、そうした書類を早く入手すること並びに入手したらすぐに送るように強く要望しておりますから、それが参りましたら、政府として差しつかえない限りはここで御説明も申し上げられると思いまするし、あるいはものによりましてはその報告を差し上げることも可能なものもあろうかと思います。政府も、ただ責任のがれをいたしましたり、これを傍観しておるという気持ちでは決してございません。ただ何しろ向こうに御承知のような施政権があり、また琉球には琉球政府が厳存しておりまして、そこに司法、立法、行政の諸機関があるわけでございます。そうしたものを通じて私どもは資料をとる以外には方法がないという現状でございます。
  103. 赤松勇

    ○赤松委員 五月二十三日の琉球新報によりますと、あなたはこの事件について政府の立場から談話を出しておられる。内容は、「こんどの事件判決にかんし私は専門家ではないし政府の立ち場からは施政権を米国がもっている関係もあり重大なので軽卒にはいえない。しかし沖繩住民は日本国民であり深い関心をもってみている。しかし米軍人の公務中の事犯などは内地でも軍法廷で扱われるし、ましてや米国が施政権をもつ沖繩では軍法廷で裁かれるのはやむをえない。軍法廷は民主的で公開されているというし、一応過失がないとみた判決である以上りっぱなものなのであろう。無罪がけしからぬということで動きがあるというが、経過や判決文をみないことには新聞報道だけでは何ともいえないので、本当にいいのがれかどうか参考のために判決文をとりよせるようにしてある。判決が妥当かどうかはべつとして日米間で感情がもつれるのは好ましいことでない。権利、義務をたてに四角ばった争いでなく、訴えるとしても人道的立ち場からみることがのぞましい。補償も親御さんの悲しみをいやしてあげるようなことにならなければいけないと思う。とりよせる判決文が納得できるものであればいいと思うが、いまから判決をくつがえすことはむつかしいのではないか。政府として米国に何か意思表示をするかどうかは、べつに泣き寝入りするわけではないが米国の良識をまちたい。とにかく感情にとらわれず日をかけ冷静にのぞみたい。」こういう談話が出ておりますが、これは間違いございませんね。
  104. 徳安實藏

    徳安政府委員 いまお話しの談話につきましては私も承知いたしております。ただ内容の文字の上におきまして、「一応過失がないとみた判決である以上りっぱなものなのであろう。」という批判的な意味のことが文字にあらわれておりますが、私の考えておりましたのは多少これとは違っておりますので、ここに一応私の気持ちだけを申し上げておきたいと思います。  これはりっぱな判決であるかどうかという御質問を二、三の方からも伺いましたから、もし過失がないのだということが根拠で判決したならばあるいはやむを得ないのではないかと思うが、しかし過失があるかないかということは判決文等を見ぬとわからないのですという意味のことを申し上げたことが、ことばのあやになってあるいはこうした文字になったかと思うのであります。私は、元来から琉球の諸君に対しましては私の立場から同情もし、また協力する立場におることはもちろんでございますけれども、そうでなくとも、日ごろから沖繩に対しては相当認識を持ち、また諸君の相談相手となり協力者となっていこうという意思に燃えているわけでありますので、この問題をうやむやにしましようとか、向こうの言われることがりっぱな判決で理屈なしに承認しなくちゃならぬとか、そういう考え方は毛頭持っていないのでございます。ただ何しろいま申し上げましたように向こうに施政権がございまして、一次的には琉球政府というものがあって、そこで処置しているわけでございます。そうした点並びに軍事裁判というものに対しまして、これはその当時聞いたのでありますが、お尋ねにおいでになりました新聞記者の諸君も裁判のときには入れたとかで、全部公開ではなかったかもしれませんけれども、そうした意味においては多少ゆとりのある、公開にひとしいものではなかったかというような報告も受けておりましたりしたものでございますから、もし公開されているものであるならという気もございまして、相当公平にやられたのではなかろうかという考えもあったわけでございます。軍法会議でございますので、私も法律的なことは詳しくは存じませんけれども、これを私どもが何も材料を持たずにひっくり返すというようなことも言えるものではございませんし、今日は言う立場でも一応ないわけでございますので、そういうものを一応早く拝見したいものだということをお話したわけであります。  ただ、いずれにいたしましても、事の善悪にかかわらず、アメリカ日本側がこうしたことによってもつれを生ずる、沖繩の諸君がアメリカに対して不信を持つというようなことは非常に好ましくないことでございますので、そうしたことは非常に遺憾だ、でありますから、そうした点について法律がどうであるとか、あるいは条約がどうであるとかということは、一応は考えなければなりませんが、それと同時に、大きな視野から両国の親善というもの、両国民の友好関係等を考えられて、すべてのものを人道的に良心的にやっていただきたいということを望んでおるという意味のことを話をしたのがこういう文字になったわけでございまして、決して沖繩に対して、これは当然じゃないかという意味ではございませんから、どうぞひとつ赤松先生も御了解いただきたいと思います。
  105. 赤松勇

    ○赤松委員 あなたは官僚じゃないのですから、われわれと同じ政治家なんですから、あなたの気持ちはよくわかるのです。何もこの新聞に載っているあなたの談話のあげ足をとってどうこう言う考えはちっともないわけです。問題は、あなたがおっしゃるように、全く人道的な立場に立ってこの事件の最もいい解決をみなくちゃならぬわけです。これは日本政府の責任であると同時に日本国民の大きな責任だと私は思います。ただ私は、ここで聞きたいのは、「補償も親御さんの悲しみをいやしてあげるようなことにならなければいけないと思う。」この気持ちにはかわりないのでしょう。
  106. 徳安實藏

    徳安政府委員 私はそのとおりはっきり補償ということばを使ったかどうか、ことばではないと思いますが、なるべく良心的に、人道的な立場から、悲しみに満ちておる両親に満足されるような処置をいたしたいものだという気持ちをあらわしたわけでございました。
  107. 赤松勇

    ○赤松委員 そういたしますと、潜在主権を持つ日本として、また日本の政府として、そういうお考えを同胞に対して持たれることはあたりまえだと思う。そこですでに軍法会議では判決が下っているのです。あなたのその気持ちを生かして、そうして補償の問題も何とか考えてあげたいという気持ちを具体的に生かすにはどういう方法をとられますか。
  108. 徳安實藏

    徳安政府委員 これは先ほど申し上げましたように、私が条約の関係でございますとか、あるいは向こうにおける国内的な法律関係等に対してつまびらかでございませんので、決して言いのがれではないのでありますけれども、そうした問題を多少研究いたしませんと、逸脱したことも言えませんし、また私どもの許された範囲以外のことで大きなことを言いましても、これも用いられることでないわけでございますから、そうしたことにつきましては、先ほど申し上げましたように、実情等をよくつまびらかにいたしました結果において、何とか考えられるものは考えてみたいという切なる気持ちを持っておるということでございまして、いま的確に、こうだからこうしますというようなことをここではっきりお約束できるような私には資料と内容を持っていない、これはひとつ御了承いただきたいと思います。
  109. 赤松勇

    ○赤松委員 それならば、いますぐ政府の態度はきまらないとすれば、判決文がこちらにきて、そうして十分検討する、それから政府の態度をきめる、こうおっしゃるのですが、それは大体いつごろなんですか。
  110. 徳安實藏

    徳安政府委員 ただいま申し上げましたように、先方にはもう何べんも繰り返して早くそうした資料を入手するようにということを話してございますし、外務省にも私のほうから、できるだけ外交ルートを通じて入手できるならしていただきたいということも重ねて話してございます。でありますから、それを入手次第全貌もわかると思いますから、そうしましたらよく相談してみたいと思います。
  111. 赤松勇

    ○赤松委員 問題は、沖繩におきまして、平和条約第三条によって施設権、統治権を信託統治がきまるまでは一応アメリカは持つということになっておることは明らかであります。しかしながら、施政権がいずれの国にあろうとも、人権は尊重され、守られなければならぬことは申すまでもないと思います。これはどこの国であろうと私は同様だと思う。したがいまして、アメリカが沖繩を植民地とみなさないという限りにおきましては、当然アメリカの言う文明的な諸制度を沖繩でつくり上げる人類としての義務があると思うのであります。ところが向こうのほうでは、裁判所は、いわゆる軍裁と呼ばれておるところの琉珠列島米国民政府裁判所と、それから民裁と呼ばれてるところの琉珠政府裁判所とが並存しておる。そして軍人は軍法会議に送られておるわけです。容疑者がアメリカの軍人、軍属、政府職員及びそれらの家族である場合には、軍法会議ないし民政府裁判所の裁判に付するわけで、琉球政府のいわゆる民裁は全く手を出すことが許されない、こういう実情になっております。それからアメリカ側の裁判所によって裁判されるのであるから、その結果は沖繩住民に知らされる例はきわめて少ないわけであります。  それから今度は沖繩の住民が罪を犯した場合はどうなるか。その場合には民裁判所が裁判管轄権を持っていることになるけれども、合衆国の安全、財産または利益に影響を及ぼす重要な事件で高等弁務官が指定する事件は、いつでも民裁判所から民政府裁判所に移行することができるという重大な例外規定が設けられております。いわゆる高等弁務官の裁量というものが大幅に与えられておるわけであります。ことしの一月にも、現地の新聞は、民裁によって保釈された部隊荒らしの容疑者が沖繩未決監を出たとたんに、今度は軍裁の逮捕状によって逮捕された。そして軍法会議にかけられて、軍事裁判にかけられたということを新聞は報道しておる。したがって、沖繩の住民というものは、いわば軍裁と民裁の二重支配を受けておる、こういうことになるわけであります。  それから実際は民裁判所が裁判権を沖繩住民に関する限りは持っているようなかっこうに実はなっておりますけれども、これは先ほど言ったように、非常に大きな例外規定が設けられて、大幅な裁量権が現地のアメリカの支配者に与えられるということから、いろいろな不利益な事件が起きておることは、あなたも十分御承知だと思うのであります。それで一九四八年から五八年まで十年間に百十二件の補償が請求されたけれども、そのうちわずか十五件が処理されて、あとはうやむやになっておる、こういう実情です。これはもう民主主義も何もあったものではありません。それから賠償手続については、琉球政府は事件調査して賠償請求の適法を審査し、それを民政府に申達するだけで、単なる取り次ぎ役なんです。いまあなたは琉球政府が何か裁判官轄権を持っているようなことをおっしゃったけれども、これは取り次ぎ役にすぎない。そしてその損害賠償審査室の決定にかけられて、そしてそれがきめられていく、こういう仕組みになっておる。それから審査室の決定額と賠償請求額との間には大きな開きがある。たとえば沖繩で起きました五つになる少女を強姦し、これを殺人した由美子ちゃん事件というのがありました。この由美子ちゃん事件損害賠償請求額は百六十一万円であったけれども、実際に賠償された額は二十四万円にすぎなかった。それから薬きょう拾いに部隊内に入りまして殺された悦子さん事件というのがある。この悦子さん事件は、その賠償請求額は百七十万円であったけれども、すべて過失責任をとられて却下されておる。こういうように救済の手が全然伸べられていない。すなわち人権というものが保障されていない。これがいまの沖繩の実情です。  このことは、平和条約第三条によってどうにもならないのだということだけでは済まされないと思う。ここに総理府設置法がございますけれども、明らかにこの総理府設置法の第九条には、「特別地域連絡局においては、左の事務をつかさどる。」という中で、第二に「南方地域に滞在する日本国民の保護に関する事務を行なうこと。」ということが明らかになっておるわけなんです。ですから、もし統治権、施政権というものがアメリカにあって、そうして日本の政府がどうにもならないのだということになるならば、これは外地に滞在しておる日本人でございますから、その日本人に対しまして、この総理府設置法の第九条によって保護の手が伸べられてしかるべきだし、またアメリカ政府に対しましては、外交保護権を行使して、そして言うべきことはどんどん言うという措置がどうして講じられないのか、私はこう思うのです。あなたは、そんなものは外務大臣の問題だ、こうおっしゃるかもわかりませんけれども、政府全体の問題であると同時に、明らかに総理府設置法の第九条の第二号には、総理府がつかさどる行政事務についてその目的、任務を明確に規定しておる。あなたのいまの答弁を聞きますと、むずかしいことはわからぬけれども、一応現地から資料を取り寄せて、そして判決文を検討した上で政府の態度をきめたい、こうおっしゃるけれども、あれだけ大きな事件に発展しておるところの、私どもの同胞である十三歳の中学生が殺された、これに対して無罪の判決を下した。きわめて遺憾であるという遺憾の意を表することは、私は当然だと思う。それと同時に、米国に対して、平和条約第三条の問題とは別に、日本人として当然抗議すべきである、こういうふうに考えるのであります。  それは今度の問題だけじゃないのです。沖繩でなぜ今度の問題があんなふうに憤激を買ったかといえば、先ほど私が申し上げたように、五つの子供を強姦し、これを殺人しておる、あるいは薬きょう拾いの子供を射殺しておる。そしてこれは過失だといって、これまた全然無罪にしておる。そういう、この新聞にもありましたように、全然人権を無視して、そうして植民地的な支配を続けておる。そして構造上にも制度上にもそういう仕組みを沖繩において行なっておる。近代民主主義というものはその一かけらもありません。事実上人権を保障する基本的な制度であるところの裁判制度、裁判管轄権というようなものは、基本的にはアメリカの手に握られておるじゃありませんか。琉球政府というのは名前だけなんです。しかもアメリカは、この平和条約第三条に基づくところの平和のために行なうところの主権の行使あるいは施政権の行使でなしに、あれを基地として、戦争準備のためにあそこを核兵器の基地として、そうして外国との戦争に備える、そういう軍事的な大きな負担を沖繩住民にかける。さらに最近におきましては、土地問題などで相当な紛争が起きておる。一つ間違えば、アメリカの軍隊とそれから沖繩住民との間に一大激突が発生しないとも限らないというような緊迫した事情が存在しておる。これはどうして生まれてきたかといえば、単に今度の中学生の轢殺事件だけではありません。長い間全く人権を無視した奴隷的な、植民地的な支配を積み重ねてやってまいりましたアメリカの横暴に対する沖繩住民、いや日本国民の怒りがあのように爆発したのだ、われわれはこのように理解しておるわけであります。おそらく沖繩住民の諸君もそう考えておられると思うのであります。  したがいまして、私は、あなたが先ほどおっしゃった、むずかしいことはわからぬが、とにかく判決文がくれば、よく検討して政府の態度をきめようということをおっしゃったけれども、私は態度のきめ方は二つあると思う。一つは、やはり施政権はどちらにあるかという形式上の論理の問題ではなしに、日本人の一人、同胞であるという人道的な立場、民族的な立場から政府として何らかの措置を講ずる必要があるということが第一点。第二点としては、日本人自身の人権がこのようにじゅうりんされておるということに対する外交保護権を行使して、そしてアメリカに対しまして厳重抗議をすべきだ、こういうふうに考えるのでありますが、あなたはどういうふうにお考えになりますか。
  112. 徳安實藏

    徳安政府委員 ただいまのお話、私どももこの人道的な立場から、もし条約、法律等の関係で言うことができませんでも、人道的な立場、人間としての良識の立場から処置するということが今後たくさん残されているのではないかという考え方を持っておるわけでございます。したがって、法的な面から、あるいは条約の面から動きのとれないような形になっておりましても、いまお話がありましたように、私ども自身も人道的、良心的立場から処置する方法があるんじゃなかろうかということ、並びにこういうことをアメリカ日本側でしばしば繰り返すようなことはまことに遺憾千万なことでございますから、そういうことがないように、お互いに良心的な行動をとり得るような話し合いも、時に応じ、機会に触れ、私ども実はしておるわけでございますけれども、それが現実の問題として成果をあげていない今日でございます。できることなら私どもも、もう少し進んで沖繩の諸君の要望される事柄が早く実現できるようにという気持ちで、非公式ではございましても、機会あるたびに向こうには話はしております。しかし、御承知のように、やはり外交ルートもございまするし、長い間の歴史的な条約等もございますために、思うようにまいっていないことはまことに残念だと思いますが、そういう点につきましては、良心的な、また人道的な高い視野から話し合いを進むべきものは進めてまいりたい、かように考えております。  なお総理府設置法の問題につきまして、ただいま御指摘がございました。私どもも不敏にしてあまり詳しくここで御答弁するだけの勉強をしておりませんから、ひとつ帰りましてよく勉強いたしまして、後ほど御返事申し上げたいと思います。
  113. 坪野米男

    ○坪野委員 関連して総務長官にお尋ねしますが、先ほど判決文や訴訟記録を琉球政府なり、あるいは外務省を通じて、アメリカ軍政府当局なりアメリカ政府から取り寄せをしておる、こういうことでございましたが、どうですかね。もう判決が確定して相当月日がたっているのですが、アメリカ政府なり軍政府が軍法会議でなされた判決並びに訴訟記録を、どういう経過をたどってか、日本の政府にその写しを送付してくるという見込みはありますか。私はおそらく送ってこないんじゃないか、よほど日本政府が腹を据えて強硬な外交交渉を通じて判決文なりあるいは——判決文は公開したってちっともさしつかえないが、おそらく公開の法廷でやっているんでしょうから。しかし、訴訟記録をはたしてアメリカ政府なり軍政府当局が送ってくるかどうかという点で、私はこれは何カ月待っても送ってこないんじゃないかというように見ていますが、時間がたてば必ず送ってくるという見通しはございますか。
  114. 徳安實藏

    徳安政府委員 これは日本の政府と向こうの政府というようなかた苦しい立場でなくて、とにかく琉球政府というものがいまあるわけでございまするし、また琉球には向こうで認めておる立法院もあるわけでございまして、そういう機関から真相糾明だとかあるいはまた訴訟記録要求等も正式に申し入れておるわけでありますから、私どものほうに外交交渉を通じて正式によこすことはあるいは困難なものがあるかもしれませんが、琉球政府やあるいはまた立法院等のそうした機関に対しましては、何しろ第一次的な責任者でもありますから、そういうものを交付するのではなかろうか。そちらに入りますれば、これが向こうのほうで厳秘に付せられて絶対に他出相ならぬということでありますれば、あるいは入手は困難かと思いますけれども、沖繩の琉球政府も私どもしばしば折衝をし、きょうだい同様な援助をしつつあるわけでありますから、向こうにそういうものが入りましたら、当然向こうのほうで差し押えをしなければ写しぐらいはよこしてくれるのではなかろうかということで、そちらのほうとも連絡をしておるわけでありますが、しかし、これはそう遠くないと思います。出さぬなら出さぬ、見せないなら見せぬということは、もうそう長くはないと思いますが、一応まだそうしたはっきりした返事はもらってないために、いま督促をしておるという状態でございます。
  115. 坪野米男

    ○坪野委員 琉球政府がアメリカ軍政府当局に対して判決文なりあるいは訴訟記録の写しをくれという要求をして、おいそれとくれるような軍政府じゃないのですね。ですから琉球政府から日本政府に対して送付されてくるであろう資料は、やはり琉球政府自身が向こうで入手した資料——新聞記事あるいは関係者から徴した資料を送ってくるにすぎないのであって、判決文、訴訟記録を琉球政府からアメリカ軍政府に要求をさせてというような回り道をしても、絶対に私は入手できないというように見通しを持っています。むしろ日本の政府が、何もかた苦しい外交交渉と言いますけれども、これは沖繩がアメリカの施政権下にある、立法、司法行政にわたる施政権下にあるのだということであれば、外国におる日本人であります。あるいは潜在主権がありますから文字どおり外国ではないけれども外国の支配下にある、アメリカの施政権下にある日本国民日本人だという認識のもとに、いわゆる外交保護権を発動して、外交交渉を通じて、こういう事件——常識でちょっと考えられない判決ですね、無罪判決というのは。よほど専門的に検討して、あるいは無罪というのはあなたのおっしゃるようにりっぱな判決なのかどうか知りませんけれども、私たち専門家が見ても、また普通の人が常識で考えても、これが無罪——殺人事件じゃない、過失致死で軍法会議にかけられた、それが無罪だということはちょっと考えられないわけですが、そういう問題について、やはり日本政府からアメリカ政府に対して強硬に言わなければ、言っても、アメリカはほおかむりをして簡単にノーとは言ってこないと思います。握りつぶして、結局時日の経過を待って、ほとぼりをさまそう、そういうずるいやり方じゃないかと思いますが、私はやはり、人道上の立場からはむろんでありますが、また日本の在外の国民に対する保護という立場からも、政府がもっと強腰で、これは何もそういう要求をしたからといって反米運動、反米闘争というようにあなた方が心配されるような問題じゃないと思うのです。ですから、私は、政府が腹をくくって、判決文なり訴訟記録なりあるいはそれにかわる報告アメリカ政府なりあるいは軍政府から求められるという措置が、どうしてもこれはなされなければならぬと思うわけです。  それからもう一点、いまのりっぱな判決云々、なるほど公開されたかもしれない、あるいは裁判らしき形態をとった審理がなされたということも大体推察されますけれども、この軍法会議の、しかも陪審員の構成、裁判の構成を見れば、こういう裁判所で公平な公正な判決が期待できるということは、どだい無理な話なんです。大体軍法会議というのは、そういう軍人による同族裁判、階級裁判です。しかも陪審制度がもう一つ問題であります。これはアメリカの良識であり、あるいは民主主義、人権尊重を標榜するアメリカの国内裁判でこういうでたらめが行なわれるはずはおそらくないと思いますが、植民地と目しておるこの琉球において、その他の面でも人権じゅうりん——ほとんど人権というものが認められておらないというのが沖繩の実態でありますけれども、この軍法会議の、こういう軍人による陪審制度のもとで判決を受けなければ、公正な判決が期待できないということは当然のことだと思うわけであります。そこに問題があるわけなんです。ですから、これはりっぱな判決だというように、どういういきさつから言われたかわかりませんけれども、ちょっとこれは日本人の国民感情からすれば、軍法会議で、しかも同族の軍人によって有罪、無罪を判定する陪審制度のもとで、しかも、こういう結果が出たという裁判をとらえて、りっぱな裁判だ、判決だということを、政府の立場から表明されたということは、ちょっと私は問題じゃないかと思うわけであります。これはただ単に沖繩だけの問題じゃないのです。日本国内においても、米軍の公務執行上の刑事事件については軍法会議が行なわれる。この軍法会議で、やはり同族の軍人によって判決を受けて無罪になってみたり、あるいは不当に軽い罰金、あるいはその他の軽い刑罰で過ごされるということが過去にもあったし、今後もあり得るわけなんです。そういう意味で、私たちはただこれが沖繩の問題というよりも、日本アメリカとの関係の中で、こういう軍法会議のあり方、こういう被害者が日本人である場合のアメリカの軍事裁判のあり方というものについても、日本国民の権利を守るという立場から、やはりアメリカ政府に対してもっと強い厳然たる態度で臨んでもらいたいというように考えるのですが、その点御意見をお聞かせください。
  116. 徳安實藏

    徳安政府委員 先ほどの判決理由でありますとか、訟訴記録というようなものに対しましては、お話のとおりでございまして、正式には、先ほどから申し上げておりますように、外務省を通じまして米側にこれが入手できるように依頼をいたしてございますから、それはあくまでも正式ごとであることには間違いありません。またそれも催促中でございます。ただ余分のことではございましたが、先ほど申し上げましたように、立法院も要求しておりますし、琉球政府も民政府を通じてアメリカ側にそういうものを要望しておりますから、あるいは四角ばった形においてアメリカ側が日本のほうにそういうものを出してくれなくても、内輪の関係が向こうに政府的にあるわけでありますから、そちらのほうにはあるいは出してくるのではなかろうか。そうしましたら向こうのほうからでも、厳にこれを外に出すことを禁ぜられておりましたら別でございますが、そうでなければ日本政府にはそうした写しくらいは提供してくれるのではなかろうかという考えもございまして、よけいなことでありましたけれども申し上げたわけでございます。これは、一方は外務省を通じ、一方は南方連絡事務所等を通じまして双方に話し合いをし交渉しておるということでございます。しばらくこれはお待ちいただきたいと思います。
  117. 坪野米男

    ○坪野委員 軍法会議でありますから、もう一審限りで無罪判決と確定しております。けれども被害者の立場からして——私は沖繩の法律あるいは訴訟制度をよく承知をしておりませんけれども損害賠償の民事訴訟をいまの加害者に起こすなり、あるいは加害者の所属する米軍政府ですか、軍政府を相手に損害賠償の民事訟訴なりすれば、はたして過失であったのか無過失であったのかというような事実関係も明らかになるわけでありますし、あるいはまた損害賠償なり補償という観点からしても、アメリカ当局——軍政府にしてみれば無過失なんだからといって、補償要求にも誠意を示さないということも考えられますから、そういった損害賠償の民事訴訟を提起する道があるのかどうかというようなことを、ひとつ政府においても御検討願いたい。まだ十分政府の態度はきまっていないようですし、われわれのほうも、ただここで質問したというだけで問題は解決つかない。今後の問題もございますので、一応問題点だけをお尋ねして、私の関連質問を終わります。
  118. 赤松勇

    ○赤松委員 いま長官から、裁判が公開で公正に行なわれたというような発言があったのですけれども、私は冒頭申し上げたように、この軍法会議はキャンプ・ヘーグのマリン師団本部法廷で行なわれ、そして検事にプロフィー中尉、それから弁護人ダンセロー中尉、それから目撃者をそれぞれ六人呼びました。それから、これはあるいは私の間違いかもわかりませんが、私の聞いたところでは、琉球新報と沖繩タイムスの新聞記者二名を中に入れたということが言われておる。ですから、一見何か非常に公正に公開で行なわれたような形を示しておりますけれども、この法廷の構成はどういうふうになっておるかというと、五人の軍人によって構成をされました。そしてこの五人の軍人が、これが指揮官を議長にいたしまして判事側、検事側、それから弁護人ももちろん先ほど言ったように中尉、これは全部軍人によって構成をされました。そしてここでは五人の陪審員、すなわち法廷構成メンバーが、有罪か無罪かということで投票したわけです。投票の結果無罪が決定したわけです。  したがいまして、これは人を何人入れた、新聞記者も何人入れたということが問題でなしに、私は、日本人の重要な人権に関する問題が制度上こういう形で行なわれるというところに問題があると思うのです。どうして政府はこれに対してその制度を改めるような外交折衝をしないのであるか、これは私は非常に大きな問題だと思う。もしこの制度を改められなければ、人権が保障されなければ、すなわち裁判制度というものが改善されなければ、第二、第三の国場君事件が相次いで起きると思うのであります。あなたがおっしゃるように、日本アメリカとの両国の親善をはかろうとするならば、まず沖繩のこういう制度に対する体質改善をやる、それを日本政府は堂々と発言していく。日本人の人権の問題じゃありませんか。  その場合、平和条約第三条が問題でなしに、われわれが日本人同士である、同胞であるということが問題なんです。一時形式的には、その領土の管轄権がどこに移っておるかということは、形式的には問題になるにしても、いまこの国場君の事件は、そういうことが問題でなしに、あなたがおっしゃったように全く人道上の問題、すなわち人権の問題、民主主義の基本に関する人権の問題なんです。それと同時に民族的問題、日本人同士としての問題だと思うのであります。こういうことが判決文がこないから、だから政府の態度がきまらない、そんなあなたの答弁をもし沖繩の同胞が聞いたならば、おそらくいまの日本政府、池田政府に対して、非常に憤激する、あるいは失望をする、むしろ絶望する、こういうふうに思うのであります。  しかも立法院が警察局長を呼んで、立法院の行政法務委員会で調べた。そうすると、その警察局長はどういうことを答弁しているかといえば、「軍当局の公判についてはいっさい報告を受けてない」それから「CIDおよび憲兵隊で直接、証人などの取り扱いについては知らない」第三に「目撃者の伊保巡査部長、安里繁雄さん(事故現場付近で停車していた車の運転手)らの証言から、横断歩道が青信号であったことはじゅうぶん確認されている」第四「事件は現場から警察側の調査後ただちにCID当局に引きわたされた。」こういうようにはっきり言っておる。それからなお、この立法院の行政法務委員会は、今後は目撃者の証言、同事件に対する軍法会議当局アメリカ当局の取り扱いなどについて審議をする、こういうことを言っておる。すでに現地の責任ある琉球政府の警察局長が、立法院において、横断中は青信号であった、したがって国場君は赤信号を無視して横断したのではない、青信号で横断中、それを米軍が轢殺したのだとはっきり言っておるじゃありませんか。さらにこれを目撃した証人として伊保という巡査部長も証言している。これは琉球政府の警察局がちゃんと取り調べておる。すでに立法院の行政法務委員会において、責任のある警察局長がこれほど明白に証言をしておるのに、判決文を見ないと日本政府の態度がきまらない、そんな答弁は絶対に許されない、私はこういうふうに思うのであります。  それからこの犯罪について、沖繩の子どもを守る会、沖繩人権協会など十三団体の代表が、五月の三日に、裁判のやり直しを要求するために、師団長代理のチャールス・ギルロイという憲兵司令官と会見をした。そうして抗議書を手渡すと同時に、同事件に対するアメリカ軍側の意思表示を要求した。これに対してギルロイ憲兵司令官は、まず「遺族および関係者各位におくやみを申し上げる」。そんなおくやみならだれでも言えますよ。「と述べ、代表の質問につぎのように答えた。1判決裁判はすでに終わっており、裁判を再びやりなおすことはできないが、抗議書は非公式に受け取り軍の関係者に手渡す。2公開裁判要求に対してはさきの裁判は報道人、その外関係者が傍聴しておりその必要はない。3米国法によれば交通事故は犯罪として成立しない。それ故代表一行の要求する殺人罪を適用することはできない。」こういうように彼は答弁をしておる。そしてただおざなりに「おくやみを申し上げる」と言っただけで、一片の誠意も示そうとはしていないわけです。  先ほど私が申し上げたように、しからば沖繩の子供に与える影響はどうかといえば、おとなの社会に不信を子供が抱いた。ぼくたち、信号を守った、正しいことが通る世の中にしてくれ、一口に言えばこれが沖繩の子供たちの要求であります。この抗議集会を通じて集めました署名運動は、「国場君は青信号を確かめて横断するときにハネられた。米兵が信号を守らなかったために国場君はひき殺されたのだ。だのに裁判では無罪の判決だったので知らない人にはまるで国場君が悪かったように感じられている。僕たちは学校で教わった通りに交通道徳を守っている。この判決がそのまま通れば学校で習ったことも米軍も信じられません。」こう言っておとなの社会への不信の念を表明しておる、こういうのであります。  それから生徒会はすぐに集会を持ちまして、一、被害者への早急な適正補償、二、一号線通学横断道路に陸橋の設置、三、裁判の公開などを米軍に要求するということを決意しております。いかに彼らの反撃が強いかということはこれをもってしてもわかる。又吉真一郎君という生徒会長の三年生の子は、「さっそく中央委員会を開いて判決を検討したい。僕としては校内の抗議集会を通じて地区の全児童、生徒会へよびかけ、正しいことが通るように署名運動なども考えています。」吉川幸枝さん、三年、これは軍裁に証人として出廷した人ですが、「国場さんの事件で米兵が無罪になったことを聞いてとても信じられません。」前田清栄君という二年生の人は「青信号のとき国場君が僕の後から右肩をかすめて道路へ出たとたん飛び出してきた米軍トラックに目の前でひかれました。沖繩の人が人を一人殺せば一生がい刑務所にしばられることでしょうが、こんどの場合、無罪だと聞かされていきどおりを感じました。」そしてその次にこう言っております。「沖繩の人をブタの子ぐらいにしか考えていないのでしょうか。」これは非常に重大です。こういうように沖繩の子は豚の子ぐらいにしかアメリカは考えていないのだろうか、あるいは学校で教わった交通道徳を守っているのに、その交通道徳がもう信じられなくなる、こういう不信の声が表明されているのであります。  それに対して日本政府が、日本国会におきまして——これはおそらくラジオで放送されると思うのですが、沖繩の人があなたの答弁を聞いたら、絶望すると同時に非常な憤りを感ずるのではないか、私はこういうように思うわけです。いま聞けば、まあかた苦しいことでなしに話し合いによって判決文を送ってもらうようにしたい、こういう話でありますけれども、私が先ほどから何度も言っているように、日本人がこのような不当な不法な取り扱いを受けているのに、どうして日本政府はアメリカに抗議しないのですか。権利として判決文をとることを要求しなさい。あなたが公判は公開で行なわれた公正なものだとおっしゃるならば、その公開された公正な裁判でもって下された判決文が日本政府の手に渡らないわけはない。向こうがもし渡さないとすれば、まさに不公正、それこそ暗黒裁判でやったということを立証する。だから私は、何としてもこれは日本政府の権利としてアメリカに堂々と要求すべきであると思うのですが、あなたはどうお考えですか。
  119. 徳安實藏

    徳安政府委員 先ほど申し上げました公開の問題でありますが、これは私どもも実際を見てきたわけではございませんし、また書類等で向こうで正式に受け取っているわけではございませんで、ただ当時新聞記者諸君にお話をする時分に、事務当局の方からそういうメモが来たので、公開でしているという話をしたわけでございますが、しかし、いまお話しになりましただんだん事実を聞いてみますと、だれも入っていいという公開でもなかったらしく見えるわけです。こういう点につきましては、私どもも真実をやはり取りつけなければならぬわけであります。当時私に会見されて意見を求められたときには、そういうメモが来たので、私もそうじゃないかと思って、また新聞記者も入られたということを聞いたものですか、そういう話をしたわけですが、あとからだんだん新聞等の報道やその他の人の話を聞きますと、場所が場所でありますから、公開といったところで、だれもがちょっと入れるような場所でもないのでありますし、こういう点につきましては、私どももだんだん真実がわかってくるわけでありますから、公開で神聖にりっぱに民主主義的に、日本の一般の公開の裁判のように行なわれたというふうには決して考えておりませんから、誤解のないようにお願いいたします。  いまお話を伺いました。御意見といたしましては、私どもも傾聴し、尊重したいと思いますが、何しろ事柄が事柄でありますから、私がそうした政府を代表した御答弁を申し上げることもいかがかと思いますし、外交上のことは一応やはり外務大臣がございますし、あるいは法律上のいろいろの問題につきましても、やはり法務大臣の職務の範囲もございますので、一応そうした方面とよく相談し、話をいたしまして、私ども、そういうことにつきましては御存じのようにあまり研究もしておらないものでありますから、この際外交に対して代表的な答弁を申し上げる立場でもいまないと思いますので、しばらくお待ちいただきまして、他の適当なときに他の方にかわってしていただきますとか、あるいは私が一応まとめて御答弁いたしますとか、そういう処置を講じたいと思いますから、しばらくお待ちいただきたいと思います。
  120. 赤松勇

    ○赤松委員 総理府設置法の中でも義務づけられているのですよ。南方地域におる日本住民を保護する仕事をやらなければならぬというように義務づけられている。その保護が十分に行なわれていないという事態の中で、別にだれとも相談する必要はない。アメリカに対して、あるいは沖繩の軍事当局に対してでも、その判決文を送れといって要求することは当然の権利じゃありませんか。その程度のことができないようで一体何ができますか。判決文をよこせということが要求できないようで、しかも総理府の総務長官が国会においてそのことを答弁することはあれですから、一応関係者とよく相談して適当な機会に答弁をします、判決文一つとることを要求できないようなことで何が沖繩住民の権利が守れますか。冗談じゃありませんよ、どうですか。
  121. 徳安實藏

    徳安政府委員 いま申し上げたとおり、決して要求してないわけではございませんで、再々申し上げますように、正当なルートをたどって外務省を通じて要求しておりますということを申し上げただけでございます。そこでまだその結論が出ていない、よこすとかよこさぬとかいうはっきりしたものがきまっていないだけでございまして、要求をしておることだけは事実でございますから、それは先ほどから申し上げたとおりでございます。
  122. 赤松勇

    ○赤松委員 要求していることが問題じゃないのです。そんなことを要求することはあたりまえのことなんです。ただ、あなたの先ほどの答弁の中に、要求してもあるいはよこさない場合もあるかもしれませんということがあったから、そのこと自身が問題だと思う。それを要求することは当然の権利ですよ。また向こうが判決文をわれわれに渡すことは、日本人が殺されたのですから義務です。ですから、要求することに問題があるのではなしに、判決文を是が非でもこちらへ米軍からとって、そうしてそれを検討して答弁をするというならば私は話はわかる。あなたは吉田茂さんじゃないから、おそらく仮定の質問には答えられませんというようなばかな答弁はなさらぬと思いますが、すでに新聞でも明らかなように、いまの子供たちのことばもあなたに紹介した。ぼくたちは信号を守ったと子供はちゃんと語っているのです。新聞はうそを書きませんよ。青信号で横断歩道を渡っているときに、信号を無視してトラックがその子供を轢殺したことは過失致死に常識上なるかならないか、これはどうです。
  123. 徳安實藏

    徳安政府委員 常識を出ないわけでありますけれども、通ってもいいという青信号がある場合にそこを通ったからといって、これは通ることはあたりまえなことでありますから、私はそれは当然だと考えます。
  124. 赤松勇

    ○赤松委員 これはあたりまえなことでしょう。これを無視する者は一人もないと思うです。  そこで第二にお尋ねしたいのは、軍法会議で無罪だということが決定すれば、私もこれはまだ法律的によく研究しておりませんが、補償の請求ができないんじゃなかろうか。過失だという判決が下り、すなわち刑量の重い軽いは別として、過失であった、有罪だという判決が下った場合は補償の請求はできると思います。ところが過失でなかった、無罪だ、こういう判決が下った場合、補償の請求がおそらくできないんじゃないかと思うが、局長来ておりますか——来ておりませんか。いまのところ答弁できないか——答弁できない……。  それではもう一つ聞きましょう。それは請求できればよろしい。請求できない場合は、あなたは先ほど適切な措置をとる、あるいは親御さんに何とかその悲しみを少しでも薄れ得るような方法をとりたい、人道的な立場からそうおっしゃった。そういたしますと、その補償が請求できないという場合には、これは法律の問題ではありませんよ、日本政府として、同胞の一人、日本人の犠牲者に対して何らかの方法で措置をとるお考えはないか、これをお尋ねしておきます。
  125. 徳安實藏

    徳安政府委員 私ども決して責任のがれを言うわけではございません。先ほどお話しのように私も野人でございますから、むしろ気持ちは相通ずるものがあると思いますが、立場が立場でありますから気をつけてものを言わなくてはならぬことになるわけでありますけれども、適切な処置ということは、政府のほうで、じゃ、そういう場合にはこうしようじゃないかという相談もまだしているわけではございませんし、いまお話しのようなことをるる話をしてせんじ詰めた結果、じゃこういうぐあいにしなきゃいけないじゃないかという結論に達しているわけでもございませんので、非常にお気の毒だという気持ちから、その気持ちをいやしてあげるような償いができぬものか、人道的に適当な措置ができないものかということを考えているわけでございます。じゃ政府の立場からこれができるかといまはっきりと究明されますという、やりますというお答えはできぬかと思いますが、徳安個人としてはそういう気持ちでこの問題に対処したいということだけは申し上げたいと思いますけれども、政府全体の責任としてそれをやり得るかと言われますと、それはちょっと留保していただきませんといけないと思います。
  126. 赤松勇

    ○赤松委員 私は徳安さんを同僚議員として非常に尊敬しているのです。おっしゃるようにあなたは野人だ。ただこの間、原子力潜水艦の寄港の問題では、学術会議の声明に対しては非常に勇猛果敢なる態度をあなたはとったですね。ところが、一たび沖繩の問題になると、おっかなびっくり、おずおずと答弁して野人はどこかへ行っちゃった。ぼくはこれであってはならぬと思う。  そこであなたにひとつ次の点を要求したい。第一点は、判決文をすみやかに取り寄せるように、これはどんな方法でもよろしい、公式に要求する。第二点としては、その判決文を十分検討して、先ほどあなたが信号を無視して人を轢殺することはいけないことだとおっしゃった。そのいけないことをやっておった、それが無罪であったとすれば、それについて米国に対して厳重抗議をする。第三は、先ほど私が申したようにこれは氷山の一角である。この新聞をごらんなさい、婦人が米軍にハンドバッグを奪われたとか、何をされたとか、小暴力が相続いて起きている。私は軍事上の問題はしばらくおきますけれども、こういう人権を守る裁判制度の問題については、アメリカの良識に訴えてこの際改善をする必要があるのではないかと思う。そのことについて政府の態度をきめる。第四点                  −といたしましては、先ほど申し上げたように、補償の問題についてこれを具体的に考えるようにしてもらいたいと思いますが、この点はいかがです。
  127. 徳安實藏

    徳安政府委員 お説の点はよく拝聴いたしましたから、後ほどよく検討いたしましてお答えをするようにいたしたいと思います。ただしかし、補償という問題がございましたが、ここには補償という文字が出ておりましたので、いかにも日本政府が補償するようなことに聞かれたかも知れませんが、私は補償というようなことを言ったつもりではなかったと思うのであります。何か悲しみに対する償いをしてあげたいという軽い気持ち、人間徳安個人としての気持ちからそういうお話をしたにすぎないのでございまして、法律的に厳格に補償というようなことは現段階で日本政府が口にすべきことではないと思いますし、そういう過程につきましては、赤松先生は私以上によく御存じだと思いますから、誤解のないようにお願いいたしたいと思いますが、ただいまの点につきましては、よくお話はわかりましたから、検討いたしまして適当な機会に御答弁を申し上げるようにいたしたいと思います。
  128. 赤松勇

    ○赤松委員 これ以上あなたからいまこの段階で答弁を求めることは困難であると思いますので、至急いま私の提案いたしました諸点を検討して態度をきめるということでございますから、そうしていただきたいと思います。  最後に、五月二十七日の琉球新報に「沖繩の人権擁護、本土政府、研究に乗り出す」という見出しで、「本土政府の沖繩政策は経済技術援助面では昨年いらい一応県なみをめざして軌道にのりはじめた。しかし半面渡航、裁判権など人権や主席公選などいわゆる自治権などについては本土国民が保障されているような権利に多くの制約が加えられている。昨年の本土政府調査団でも法務省、労働省関係者の参加は認められず、自治権、人権の面の政策改善はタナ上げされた形となっている。本土政府はこの面に関する提議はちかく発足の日米協議会でも正式議題の範囲外とする米提案に同意しているが、外交ルートでの折衝の余地は残されているので、このチャンネルを通じ日米経済援助体制が滑り出そうとしているいま、日米間で未解決になっている権利面についての提案をあらためて準備したい考えのようである。もっとも日本側の提議は施政権を米国が全画的にもっている関係上、技術的な面にかぎられるが、日米友好に悪い影響を出さないために最小限に必要な措置を希望するといった程度のものになる見通しだ。そのおもな点はつぎの二つにしぼられよう。裁判手続き、本土では安保条約にともなう地位協定により米軍人、軍属にたいする被害者が日本人の場合の裁判権は公務執行中以外は日本側が裁判権をもっている。しかしジラード事件では一応公務中だったが米側が第一次裁判権を放棄した。公務中であるか公務外であるかは非常に微妙な分れ目なので、この判定は日米合同委員会の刑事裁判権分科会で双方が証拠を出し合いきめる。沖繩では公務の有無にかかわりなく米軍人関係の裁判は軍法会議にまかせられる。少なくとも公務外のさい民府裁に所管をうつすことができないかどうか。また米本国での刑の執行状況報告は本土の場合義務化されていないが、米が施政権をもつ沖繩では政治的考慮を加え義務化することができるのではないか。被害の補償制度、本土の場合米人と日本人との間に起きた事故、犯罪の被害について調達庁係り官が現場の立会権をもっており、補償はまず日本政府が払い、責任の度合に応じ日米の分担を協議する。沖繩の場合は米側が外国人損害補償法により支払っている。土地については米琉合同土地委員会で不服申立てし調整できるという救済措置がある。しかし墜落、放火、殺人など事故や犯罪への補償に不服があっても申し立てを調整する機関がないのは片手落ちである。したがって補償について米琉双方が納得のいく調整をする制度をこの際つくるべきではないか。本土政府としては、裁判権を本土同様にすることは国家主権のない沖繩でしかも支配、被支配の関係から不可能だが、手続き面の改善の余地はあるとみているようだ。」こういうふうに報道しておりますが、この点はいかがですか。
  129. 徳安實藏

    徳安政府委員 日米委員会東京に設置される予定でございますが、近く発足すると思います。ただいまアメリカ側にも早くしてくれという督促を外務省を通じて行なっております。沖繩の技術協議会も同時に発足すると思います。一応これらの機関は、先ほどお話がございましたように、経済援助という一つのワクがはまってのものにはなっておりますが、しかし、四角ばった席におきましてはそういうことでありましようけれども、お互いに話し合っておりますれば、おのずからまた自治権等の問題につきましても、向こうもしばしば話しておりますように、軍事関係になくてはならぬものはいますぐ返せと言われても、そういうわけにはまいらぬと思う。しかし、それに必要でないものは順次要望に沿いたいというようなことを私どもにも非公式に話をされておりますので、そうした問題もございますし、それから裁判関係法律関係等につきましては、内地より向こうのほうが手続等におきましても相当拙劣であり、おくれておるということでございます。そこで向こうのほうでも、日本法務省等に対して、あるいは研修をするとか、あるいは人の交流とかいうようなことも求めてきておるようでございますので、そうした点がどの程度までお互いに話し合いができて満たされるかわかりませんが、一歩一歩、沖繩の皆さんの気持ちが、私ども政府側にももちろんでございますが、一般の日本国民にも映りつつあるわけでありますから、いまお読み上げになりましたようなものは、厳格な意味においてこれとこれとをやりますというようなことをいま明言できぬと思いますが、各関係の役所でそれとなく調査もし、また研究もしまして、いつでも求めに応じられるし、協力もできるという体制に進みつつあるということだけは言い得るのではないかと思います。
  130. 赤松勇

    ○赤松委員 最後に三点質問します。  第一点、小平調査団が沖繩に行ったときに、なぜ法務省、労働省関係者の参加が認められなかったか。第二点としては、日米協議会の正式議題から労働及び法務問題がなぜ除外されたかということ。第三点としては、事件発生後古屋副長官が沖繩に行っている。そしてこの事件について調査をし、資料も持って帰っておるということを聞いておりますが、その三点についてはどうですか。
  131. 徳安實藏

    徳安政府委員 一問と二問につきましては、まことに残念ながら、私は今日すぐ答弁するだけの資料を持っておりませんから、あとから御答弁さしていただきたいと思います。なぜ除外したかというようなことは、私は当時おりませんでしたから、資料を持っておりませんので、あとから御答弁いたします。  なお、古屋副長官が参りまして、いま懸案になっております問題等につきましては、向こうの政府側といろいろ話し合いをしてまいりましたが、先ほど申し上げましたように、公的なそうした書類等はとうとう入手ができませんで、いま御披露をいただきましたような新聞だとか、そういう材料等を持って帰りましたけれども、外務省なり何なりを通じて正式に申し入れておるようなものはとうとう入手せずに帰ってきたというような状況であります。
  132. 赤松勇

    ○赤松委員 副長官がわざわざ沖繩まで行って、しかも事件発生後新聞の切り抜き程度のものしか持って帰っていないという、そんな不見識な話はありませんよ。どうして現地において米軍に対して要求しないのですか。日本の政府の腰抜け、弱腰、奴隷的、被支配者的な態度には全くあきれました。  労働関係が除外された理由は、第一には労働者に団結権、団体行動権を与えることはアメリカの軍事支配上困るということ。法務関係が除外されたのは、先ほど言ったように人権が無限にじゅうりんされている。ここに公正な、民主的な、人権を保障する裁判制度が確立される、すなわち民主主義が保障されるということになれば、これまた軍事支配が非常に困難になるという、この二点の理由から労働と法務が除外されているのではなかろうか、私はこういうふうに考えます。しかし、いま総務長官は、これも各方面とよく相談をして、この点についてあとで答弁をするということでございますから、先ほど要求しました答弁とあわせて、後の委員会におきましてぜひ答弁をしていただきたい、こう思います。  繰り返して申し上げます。池田首相が人づくり、人づくりと言っておりますけれども、同じ日本人の中で五歳の少女が強姦を受け、しかもそれがアメリカ軍の手によって殺され、それから今度十三歳の中学生が交通道徳を守って青信号の道を横断しておるときに、これまた向こうの軍用トラックによってひき殺される。そうしてひき殺したアメリカ人が無罪になる。こんなばかげた、全く何と言いますか、奴隷以前のような状態が今日なお沖繩において行なわれておる。私は、その責任はあげて政府にあると思います。したがいまして、先ほど来私が強調いたしました諸点について、できないなら、できません、安保条約があって、そうしてアメリカの制約がある以上はとてもそういうことはできないのですというならば、正直にできないということを日本国民、すなわち沖繩住民も含めて日本国民の前にそれを明らかにする。できるものなら、積極的にこうやりますということを明らかにしてもらうということを、あなたに要求いたしまして、私の質問を終わります。
  133. 林博

    ○林委員長代理 次会は明三十一日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後三時一分散会