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猪俣委員 もうすでに
国会におきまして大臣が人道主義に基づいて処理するということで、これは
韓国人に相当安心感を与えたのでありますが、しかるに直ちにかような現象が起こっておる。これはわが国の
政府に対する不信の念を与えるものでありますので、これはよほど
調査していただきたいのです。御存じのように、国際連合の難民に関する高等弁務官の規約にあたります難民は、その本国の
法律保護を受けられない、つまり上陸するなら直ちに逮捕せられるというような人間は、これは難民と称することが精神でありますことは申し上げるまでもないことです。そこで、送還者の半分も逮捕せられるというようなことは、私どもは、どうも当
国会におきまする大臣の
答弁と少し違っているのではなかろうか、この点についてまた
調査なさっておらないということも、どうも日本
政府はあまり口で言うほどじゃない、みんなめんどくさいものは帰してしまうという方針を変えていないのではないかという不信感を今相当引き起こしてしまっているわけであります。今、
小川局長は、至急
調査すると申されておりますので、外国に起こったことでありますから、なぜわからぬかという
質問も強硬にはできませんが、しかし、これは
政府が
調査する気になれば
調査できることだと思います。それを参考といたしまして、次の送還者に対しては、やはり
政府の人道主義に基づいて処理するというその
答弁を重んずるような送還の仕方をしていただきたい。そういう
答弁をする口のもとから半分も逮捕せられてしまうということは、
政府の不信を買うだけであります。これは御注意あってしかるべきものじゃないかと思うのでありますが、これは強く
要望だけして、
質問を打ち切ります。
次に、帝銀
事件の平沢貞通という被告に対しまする処分につきまして、これは大臣の御決意のほどを承りたいと思うわけであります。これは非常に多く論議せられておる問題でありますので、しかも裁判所の問題として持ち出されておる問題につきまして、
委員会がとやかく言うべき筋合いではない。ある程度裁判所にまかせるということになろうかと思いますけれども、しかし、これはとにかく大臣が執行を命じなければ死刑の執行はできないことであって、平沢貞通の運命は一に
中垣法務大臣の握っておる判にあるわけであります。そこで私は
法務大臣に訴えるのでありますが、死刑廃止論というものも世界的にあることは大臣も御存じであります。しかしながら、私どもは、必ずしもこの死刑廃止に賛成でもありませんし、
現行法はそうでもありませんけれども、死刑廃止論が唱えられ、現に廃止をしておる国もある
現状におきまして、とにかく死刑の執行というものは、どんなに念を入れても差しつかえない問題だと思うわけであります。
中垣さんが判を押さなければ平沢は生きておるわけでありますので一しかし、どんな凶悪
犯罪にも大臣として判を押さぬというわけにはいかぬ。それは非常に気持が悪かろうとも、職責としてやらなければならぬのでありますけれども、平沢のごとく、非常に問題があり、そうして本人がほとんど畢生の努力をもって自分の無実を訴えておるような問題につきまましては、慎重の上にも慎重に執行命令を出すようにしていただきたい。
これはいろいろの問題が出てきておるわけです。第一は、他に
犯罪人があるのだという説でありまして、その
犯罪人の一人はなくなったが、しかし、他にもう一人それと違う
犯罪人があるのだということを相当の大新聞社でも
調査しておる人があるわけであります。それは生存しておる人であります。かように真の犯人が他にあるということ、これは法務省の人権擁護局で相当
調査をして鑑定までしておる
事件で、荒唐無稽の話ではない。何ゆえが法務省は、その人権擁護局長に対して、帝銀
事件の
調査はやめろという命令を出され、そこで打ち切られてしまったわけでありまして、それに関係した人は相当転出させられておる。こういう事情は、いかなることでそういうふうになったかは今ここで申しませんが、とにかく法務省の人権擁護局が相当熱を入れて調べておる。そうして東に東畑あり、西に大村ありと称せられまする大阪市立大学の大村博士、わが国の鑑定の二大双壁の一人が鑑定しておるわけであります。ですから、ただいたずらにこれを荒唐無稽のことだとは言い切れないものがある。今私は詳細にここに述べませんが、真の犯人が他にあるという説が相当行なわれておるわけであります。
第二には、この死刑判決の基礎をなしましたる検事の調書、出射検事の調書が偽造であるということを平沢は主張いたしました。これも法務省の人権擁護局で相当調べ、さっき申しました大村博士が鑑定しております。なおまた当時平沢を収監しておりました刑務所長の証明書も、人権擁護局人権擁護
委員あてに
答弁しておるところを見ましても、はなはだ奇怪なことだと思います。この点につきましては、先般赤松
委員が
質問されまして、当局はそれを軽く否定されておるようであります。こういう点は、裁判所の再幕申し立てをいたしましたところが、大体当局の考えは、検事というものはそんな偽造なんてするものではないということが常識だ、だからそんな
理由では取り上げられないということが、再審申請の却下の
理由にもなっておるようでありますし、また
竹内刑事局長の
委員会における
答弁のようでもあります。しかし、この点は、ただ相手が検事であるから偽造なんてあるものじゃないという
答弁は直ちにいたしかねる。われわれも検察権の威厳のためにさようなことは信じたくありませんけれども、先般、私がここで
質問いたしました松川
事件のあの門田判決の中にも、検事の調書偽造、変造が高等裁判所で指摘され、しかも職権乱用でもって準起訴手続され、検事を調べましたる福高地裁の
裁判官の決定を見ましても、はなはだ疑惑に満ちた決定の
趣旨になっておるのであります。かようなことがありまするから、検事にさようなことが一体あり得るものじゃないということで一蹴せられることは、はなはだふに落ちないわけでありますが、とにかくこういう容易ならざることが主張せられておるのであります。
なお、新たに東京大学の脳研究室の教授をやっておりまする先生が、この第一零当事の平沢の精神鑑定は間違っておったという研究を発表せられておりまして、これは
中垣法務大臣のところにも、朝日新聞の記者が、その鑑定書をつけて上申しておるはずでありまして、
中垣さんも御存じのはずだと思う。と申しまするのは、今から十数年前のいわゆるコルサコフ病というものの研究が、その後十年間に非常に進歩発達して、いろいろの脳波その他を物理的にも検出せられるようになってから、そこから振り返ってみると、十数年前のこの鑑定は間違っておった。コルサコフ病にかかると、ほとんど心神喪失の状態になるものであることが近ごろになって相当はっきりしてきた。かようなことを東京大学脳研究室の白木博士が主張せられておるわけであります。精神再鑑定の必要があることが主張せられておる。
もちろん私はこういうことを微に入り細に入り今
質問する気はありませんが、私は大臣に訴えたいことは、以上相当の疑惑があるわけです。そこへ持ってきて今度は帝銀
事件に対しまして、警視庁の刑事であって、この
事件の主任捜査官でありました人が、「ライト」という雑誌に詳細に書いておるのであります。なお、四月号か五月号の「日本」という雑誌に詳しく、これは平沢でないということを、自分が捜査当時の実際の
実情から見て発表すると言っている。成智英雄という人であります。これは元警視庁の警視である。そうして平沢
事件の主任をやっておった。これが実に専門的に詳細に平沢でないことの
理由を書いておるのであります。彼は、なお今日その確信を持って、ある雑誌の四月号に詳細にその論文を発表すると言っているそうであります。かように大学のその道の専門家、捜査に当たっておりましたその道の専門家が、いずれも、一つは、もし当時平沢がやったといたしましても、これは心神喪失の状態にあったのが事実であるということを立証いたしますし、一つは、当時のあの殺害の状況からして、平沢というような絵かきがやれるはずがないということ、これは満州において七百三十一部隊として勇名をとどろかせた細菌戦術の石井部隊の関係者でなければできるはずがないということを詳しく論証しているわけであります。
かような幾多の疑点が今日出てきておりますが、これは宮城刑務所へ送られたのは死刑執行のためではないかなんという巷説が相当行なわれたのでありますけれども、とにかく裁判は、判決が確定いたしておりましても、そうして日本の再審制度に不備があって、これは再審開始がなかなか容易ならぬものでありましても、たといこれが間違った議論かも存じませんが、かような議論が相当の責任ある人から発表せられている今日におきまして、私は、大臣は死刑の執行に対して判こを押さぬように願いたい。平沢も七十を越した老人であります。私は、今無理やりに死刑を執行しなければならぬというものではないと思う。とにかく日本の裁判手続、再審制度から見て、彼を救う道がないようになっておりますけれども、今なおかような――これは、ただおもしろ半分のデマ雑誌のあれではありません。成智という人だって警視庁の警視までやった、しかもその主任捜査官であります。この人が実に堂々たる論文を書いております。なお東大の脳研究室の白木博士、この人も、十年以前の鑑定は間違いであるということを、その後の科学の進歩によって立証しておる。なお、これも人権擁護局の人たちが研究しまして、どうもこの出射検事が刑務所へ行って平沢を取り調べたことに疑惑がある。刑務所長が、照会されるまでの間、平沢は房から出たこともなければ、検事が出入りしたこともないということを
答弁し、四カ月もたってから、その検事が出入りしたことがないということは、出入りしたかどうかはっきりしないという
意味だなんという訂正書を出しておりますけれども、これはおかしいのです。これはただ簡単にお片づけなさらずに、相当考慮しなければならぬ問題であって、私どもも、これは
国会において国政
調査権に基づいて徹底的に
調査してもらいたいと思うのでありますが、人権擁護
委員に対しまして、東京拘置所長の大井久さんが公文書をもってちゃんと回答しておる。「入所後四、五日中に身柄を他所に移監した事実はない。」「右
期間内に検事及び事務官の取調べを受けた事実はない。」ということをちゃんと
昭和三十二年十二月十三日に法務省の人権擁護
委員のところへ回答しているのです。ところが、その後数カ月たって、前項の
期間中、検事及び事務官等の取り調べを受けたことありや――これは
質問でありますが、受けたことがないということは、受けたかどうかが判明しないことであるというふうに訂正してきておりますが、これはおかしいのであります。そうすると、出射検事がほんとうに調べたかどうか疑問であるのみならず、大阪の市立大学の大村博士の鑑定というのが、この三回にわたった調書の拇印はみんな一ぺんに押してしまったものだという鑑定になっているわけです。これも、そんなばかなことがあるか、検事というものは神聖なんだという
答弁では過ごされないわけであります。私は、今この一つ一つについてあなたに
答弁を
要求するのじゃありませんが、どうかこういう
実情ですから、死刑の執行は当分あなたは考慮していただきたい。そこであなたの覚悟を承りたい。これは大臣として重大な権利であり、義務であるのでありますが、かようなときに、あっという間にあなたが判こを押されると、これは世論がおさまりません。事がいいにしろ悪いにしろ、やはり
一般の人が納得する線を出した上でないと、そして裁判が済んだ、判決が確定しているじゃないか、検事はそんなばかなことをやるかという官僚式の考え方だけでは、これだけの人がこれだけの意見を発表している以上は、それだけでは国民は納得いたしません。そこで私はあなたに、この死刑執行を急ぐべからず、これに対するあなたの所見を承りたいのであります。