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吉田参考人 時間があまりございませんので、懇切を欠くと思いますが、
生産者団体の
中央機関の
職員といたしまして
一言陳述をいたしたいと思います。
まず現在の
状況でございますけれ
ども、御承知のように、昨年の十一月の初めに
全国一斉に
乳価の
値下げ通告を受けたわけでございます。この
値下げ通告の実態は、先ほど
根岸参考人から言われましたように、同じ時期に、しかも同じ地域に対して、同じ期日から、しかも同じ
値下げの幅を通告されたわけでございまして、これは事前に
メーカーが協定した
疑いが非常に濃いものでございます。すなわち
独禁法違反の
疑いが非常に濃いものでございまして、現在、昨年
酪農民大会を開きましたが、
大会実行委員会としましては、これにつきまして
公正取引委員会に提訴をしておるという
実情でございます。
第二番目に、
乳価の
値下げは、
乳価の
価格の
値下げでない、
奨励金の取りはずしであるというような詭弁を
メーカーは弄しておりますが、われわれの考えるところでは、現在
奨励金なるものの額を見て参りますと、この額が
乳価の二割にも及ぶというのが実態でございます。他の農産物あるいは商品におきまして、
価格の二割に及ぶ
奨励金がつけられておるものはない。これは
牛乳だけでございまして、これはわれわれとしては常識的に見まして明らかに
価格の一部であるというふうに考えております。こういう実態につきまして、実は再三われわれ
生産者団体としましては
契約の改定交渉を今まで行なってきたわけでございます。すなわち、
奨励金なるものをいわゆる
基本乳価に全部繰り入れてくれということを再三乳業者と交渉して参ったわけでございますが、力が弱いためにらちがあかないというのが
実情でございます。さらに
酪振法第十九条におきましては、「都道府県
知事は、前項の
規定による書面の提出があった場合において、生乳等の
取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、当該
契約の当事者に対し、その内容を改善すべきことを勧告することができる。」ということをいっております。ところが、われわれは寡聞にして、このような勧告を受けたことは一ぺんもないのでございます。農林省がそのような御指導をなさったこともないということを今までの経過から申し上げる次第でございます。
第三番目の問題としましては、現在
全国各地域におきまして、
乳価をめぐりまして紛争
状態にございます。これも
メーカー側は、紛争
状態にはないのだ、九割通り片づいたのだというふうなデマ放送を流しておりますけれ
ども、第三者の公正な観察もございます。たとえば一月十二日の朝日新聞をごらんになった方があろうと思いますけれ
ども、この朝日新聞には、福島県の酪連を除いてほとんど
全国各地で紛争中であるということがはっきり書いてあります。新聞の
責任ある報道として、第三者の観察というものは公正であるというふうにわれわれは見ております。
なお、十二月分の
乳代の受け取りにつきましては、ほとんどすべての
生産者団体がこれを内金として受け取っております。しかも、従来
乳価と
値下げ通告乳価との差額につきましては、この近県では、茨城県あるいは栃木県におきましては、差額を県の信連で立てかえ払いをする、あるいは単位
農協が差額を立てかえ払いをするというような手段を講じております。なお、
酪農振興法による調停
申請もすでに長野県を初めとしまして近日中にほとんどの県が歩調をそろえて調停
申請をやるという段取りになっておるような次第でございます。以上が今の
状況でございます。
これから申し上げますのは
問題点でございますが、私
どもが感じておりますのは、もちろん
値下げの幅も問題であると思いますけれ
ども、どちらかと申しますと、
値下げの幅よりもその裏にある意図が最も問題であるというふうに実は考えておるわけでございます。この意図が問題であるということの内容を申し上げますと、
乳業会社の
経営状態は一体どうかということになりますが、一部の特定の
メーカーを除きまして、いわゆる大手三社というような
乳業会社におきましては、非常に
経営状態がいいのでございます。
乳価を下げなければならないというような
経営条件ではないというふうにわれわれは考えております。たとえば、去る九月の
乳業会社の
決算状況を見ましても、それぞれ純利益金として三億円内外の利益金を出しておりますし、そのほかに内部留保として七億なり八億なりの積立金をやっております。昨年は御承知のように
産業界全体として非常に不景気であった時代といわれておりますが、その不景気の中におきましても、
乳業会社は
成長産業としましてかなり
経営的には好調を示しておる。それにもかかわらずなぜ
乳価を下げなければならぬかという疑問がわれわれには実はあるわけでございます。さらに
メーカーは、昨年夏でございますけれ
ども、約七十万石の
乳製品の過剰在庫があるのだ、あるいは秋になりましてから、約百二十億円分の過剰在庫が存在するのだというようなことを言っておられるわけでございますけれ
ども、どうも私
どものいろいろ聞きました
事情から推察いたしますと、それほど過剰在庫がたくさんあるように考えられないという
実情でございます。たとえば今度の
事業団による
乳製品の買い上げが去る十二月二十二日に公表されたわけでございますが、公表された直後の
状態を見ますと、ある
団体におきましては、あわてて問屋に対して荷どめをするというようなこともやっておられたようでございますし、また、ある大きな
乳業会社の首脳部の方と
話し合いましたときの言を申しますと、
事業団に売り込むほどのものはないのだ、これからつくって売らなければならぬというようなことも言っておられます。また某大乳業の首脳部の言を間接的に聞いたのでございますけれ
ども、私の
会社は東京の
市乳店においてなお日常三百石の乳がほしいんだということも言っておられます。こういう実態から見まして、過剰在庫なるものがはたしてどれだけ存在しておるのかということは、実はわれわれのはなはだ疑問としておるところでございます。
さらに
メーカー側は
乳価値下げの口実といたしまして
市乳の
消費が
伸びないということを盛んに言っております。ところが昨年の春からの
状況を見ますと、ほとんどの
メーカーは昨年の春からいわゆる
乳飲料それから加工
牛乳という、業界で言います色もの
販売に非常に力を入れたようでございます。その反面いわゆる普通
牛乳、きっすいのミルクでございますが、普通
牛乳の
販売の方はかなり怠っていたんじゃないかという
状況が見られるわけでございます。先般私がある小売業者と話しまして、お前らは利幅の広い色ものばかり売って普通
牛乳を売らないのはけしからぬじゃないかということを申しましたところが、確かに色ものの方が利幅が広い、だからそれを売りたがるのは小売業者の心理である、しかしながら
会社の方で普通
牛乳、白といっておりますけれ
ども、この普通
牛乳の割当をあまりくれないんだ、私のところは千本しかくれないということをはっきり申しております。もっとはっきりしておりますことは、
先生方がもう御存じだと思いますけれ
ども、有楽町とかあるいは東京駅で
牛乳を売っております。ところが夜の八時以降くらいになりますとほとんど白いものがなくなってしまう。フルーツ
牛乳とかコーヒー
牛乳ばかりしか売ってないというのが実態でございます。こういう実態から見まして、はたして
メーカーが
牛乳の
消費拡大にどれだけ努力をしたかということが疑われるわけでございます。しかも農林省あるいは厚生省でございますが、この色ものにつきましてはことに食品衛生法の
関係がございまして、成分の規制をやっていない。ですから色ものの中に含まれる
牛乳というのは別に乳成分としてどれだけ
牛乳が含まれなければならぬかということは規制していないわけですね。われわれの推察では、大体普通の
牛乳の五分の一
程度しか乳の成分が色ものについては含まれていないんだというふうに推察しております。つまり色ものを五本売っても普通
牛乳一本売ったことにしかならないというのが大体の
実情だろうというふうに想像しておるわけでございますけれ
ども、このような色もの
販売に力を入れるというような
メーカーのセンスそのものが非常に問題であるというふうに実は考えております。
メーカーの首脳者の言い分を聞きますと、おれのところは私企業なんだ、私の企業なんだ、だからおれが何を売ろうと勝手じゃないかということを申されるわけでございます。しかしながら
乳業会社というのは多数の
生産者から乳を集めて多数の
消費者にこれを
販売するという、
大衆と
大衆との間の中間に介在する
会社でございます。ですから、単なる私企業である、おれのところはもうけさえすればいいんだということで済まされないのじゃないかというふうにわれわれは考えるわけです。いわゆる私企業であろうと、やはり企業の公共性ということは、ことに
乳業会社の場合は必要なんじゃないかということを特に申し上げておきたいと思います。こういう点におきまして実は企業センスの問題があるんじゃないかということを特に申し上げておきたいと思います。
さらにここで申しますのは、われわれ
生産者団体の不信と申しますか、不満と申しますか、そういう点につきまして申し上げたいと思います。経過から申しますと、昨年の春の三月に
畜産物の
価格審議会というものが開かれたわけでございます。この際におきまして
政府側の方から、この三十七年度は全体で
牛乳が約二十万石
程度不足をするということで、予察指導を農林省の方で出されたわけであります。これに対しまして
メーカー側委員はあげてこれに賛成をいたしまして、ことしは供給
不足になるという結論で、その結論に基づきまして昨年の夏に脱脂粉乳二千トン、バター四百トンを
事業団をして輸入をせしめたわけであります。ところがその口先もかわかない夏になりまして、ことしは
牛乳がだぶつくんだ、だぶつくんだということを
政府と
メーカーが一緒になって宣伝をいたしまして、
乳価値下げのムードをつくってきた。これは
生産者に対してのみならず、
消費者に対しても重大な背信行為であるというふうに私は考えるわけであります。こういうことで、そういうことをやった
責任は一体どうとってくれるのかということを実はわれわれとして追及いたしたいわけであります。いかに無
責任時代とは申しながら、こういう明確な誤り、誤りで済まされないもの、こういう
責任をどうやってとってくれるんだということを強く申し上げたいと思います。現実といたしましては、みずからそういうことをやっていながら、その
責任を
生産者に
乳価値下げの形で転嫁してくるというのが実態でございます。われわれとしては絶対これは受け入れられないという気持でございます。
さらに申し上げますと、
メーカー側の首脳者の方々は、これは今までの惰性からきたことでございますが、
乳価を下げないと百姓は幾らでも
牛乳を増産してしようがないんだ、だからどうしても
乳価の上げ下げによっていわゆる
需給の調整をやらなければならぬのだということを常に言われております。たとえば今月の二十日のNHKの朝の放送を聞きますと、そういうことを公然と言われております。つまり牛小屋の中で乳の調整をやるというのが
メーカー側の言い分でございます。こういうことを突き詰めますとどういうことになるかと申しますと、
畜産物価格安定法なんというのは要らぬのだということになるわけですね。
事業団買い上げというのは、そういう
施策というのは一切要らないんだ、おれたちは
乳価の上げ下げによって調整するから、国や県にそんな介入してもらわなくてもいいんだ、
政策というものはなくてもいいんだということになるわけでございます。こういうセンスの持ち主が今の
メーカーの首脳部におるということははなはだ遺憾に考えるわけであります。
さらに
生産者の不安をかき立てておりますのは、いわゆる
乳製品の貿易
自由化の体制がかなり着々としてでき上がりつつあるということでございます。たとえば一昨々年にナチュラル・チーズ、
原料チーズは自動承認制に移行したわけでありますけれ
ども、それ以来、三十六年と自動承認制に移行いたします前と比べますと、輸入が一躍八倍にもふえておるというのが
実情でございます。しかも業界新聞によりますと、
メーカーの首脳者の方々は、この貿易
自由化に対して、貿易
自由化が実現すれば
原料乳の
価格は一升
当たり二十八円か三十円に下げにゃならぬということを公然と言っておられるわけであります。こういうことが非常に
酪農民の不安をかき立てておるというのが
実情でございます。一体将来どうなるのだろうか、貿易
自由化になったら一体
メーカーはどういう態度を示してくるのだろう、どうも今の
乳価値下げは貿易
自由化への地ならしではなかろうかというのが、率直な農家の不安であるというふうに考えております。このように
メーカーとしましても、
生産者に背中を向けて、かえってアメリカあるいはニュージーランドから輸入されます
乳製品の方に興味を持っている。いわゆる国内の
メーカーとしてコスト・ダウンをする、企業の
合理化をするという
方向よりも、むしろ外国の安い
乳製品を輸入して、二次加工
会社になろうという気配が多分に濃厚でございます。こういうことに対しまして、実は
政府の態度でございますけれ
ども、非常にあいまいであると申しますか、
政策として貧しい、貧困であるということが言い得るのではないかと思います。つまり、
酪農のこれからの将来に対しまして、一体どういうふうに
政策として対処をしていくのかというような未来像と申しますか、ビジョンがない、
政策方向が全然ないというのが、今の
酪農の政治の実態でございます。一例を申し上げますと、
牛乳の裏側にあるえさの問題でございますけれ
ども、現在畜産全体といたしまして、輸入
飼料に対する依存率は大体五〇%にも達しております。これが五年先になりますと大体六〇%になる。十年先になりますと七〇%になりまして、大体七百万トンくらいのえさを輸入しなければならぬことになるわけでございますが、七百万トンと申しますと、約五千トンずつ積みまして千四百そうの船が要るわけでございます。港の設備もそれ相当に整えなければならぬ、こういう問題に対しまして一体どうするのかということになりますと、それの答えがさっぱり出ていない。ただ十年後には
牛乳の
消費事情が三・七倍にふえるのだ、だから
酪農を
振興するのだというようなことで、
構造改善事業とか申しまして、
酪農の主産地造成を一生懸命やっておる。しかしながら、われわれの受け取り方としましては、どうもそれにあまりついていくと、将来つまずくんじゃないか。その際に一体
政府はしりをぬぐってくれるのかどうかということになりますと、非常に不安でございます。このような
事情でございまして、つまり、
酪農の将来に対しましてビジョンがないというのが
実情であろうと思います。やはり将来
自由化になるならなるで、その場合は一体どうなるのだ、その場合のウイーク・ポイントは
乳製品なんだ、
原料乳地帯なんだ、だからそれに対して、国としてどうしてカバーするのだということをこの際はっきりさしていただきたいというのが、われわれの要請でございます。
さらに、現実の
施策につきましても非常に矛盾が多い。たとえばえさの問題につきましては、ふすまは今後非常に
需給が窮屈になるということが見え透いておるわけでございます。しかも、わが国は世界じゅうのふすまを買いあさっているのが
実情でございますが、その買いあさったふすまを払い下げる場合におきまして、いわゆる実際の
実需者からでき上がった
団体、
農協にこれを払い下げるだけでなくて、配合
飼料業者の
団体に
政府のふすまの二割
程度のものが毎年払い下げられる。ところが配合
飼料業者はこのふすまをほとんど配合
飼料にいたしまして、それも養鶏の配合
飼料にする。養鶏は、御承知のように必ずしもふすまを必要としないわけでございますが、そういうものにほとんど回ってしまう。肝心の牛の口にはふすまが入らないというのが
実情でございます。
さらに、当面の問題としましては、伝えられるところによりますと、例の脱脂粉乳の輸入の差益金四千四百万円を使用して、これから
牛乳、
乳製品の
消費普及運動をおやりになるということでございますけれ
ども、この普及運動の主体となっております
牛乳乳製品消費推進協議会なるもののメンバーは全部
メーカーで占められておる。
消費普及運動をやるのだから、われわれの常識といたしましては、当然
消費者
団体が入るべきじゃないか、また
生産者団体も当然これに関与すべきじゃないかというふうに思っておるわけでございますが、そういうものは全部オミットいたしまして、
メーカーだけで
消費普及をおやりになる、しかもその
消費普及の内容をお聞きいたしますと、大体小学校の学童等を対象に絵をかかして展覧会をやるというような迂遠な
方法でおやりになるということでございます。現在
メーカー側の言い分としては、乳が余っているのだという実態におきまして、そういう迂遠な
方法で余った乳が処分できるかということがまず問題になろうかと思います。
しかもさらに申しますと、来年度、文部省におきましては、四十億円の予算を使いまして輸入脱脂粉乳で
学校給食をやろう、約八万五千トンの脱粉を輸入してやろうというような御計画のようでございますが、先ほどの
消費普及の問題とあわせますと、どうも私
どもが
納得のいきませんのは、小学校の生徒に盛んに
消費を宣伝するが、その口に入るものは輸入のまずい脱脂粉乳であるということであります。さらに、農林省の方は、別途国内産
牛乳につきまして、来年度八億円ないし九億円
程度の補給金を出して、国内産
牛乳の
学校給食をおやりになる。同じ
政府の中で、文部省と農林省とやり方が違うわけでございます。文部省の方は輸入の脱粉でおやりになる、農林省の方は国内産
牛乳でやるんだ、こういう不統一なことで一体どうするんだということを私は心配するわけでございます。
さらに、
畜産物価格安定法の運用にいたしましても、実は
生産者団体としましてはかなり不満を持っておるわけでございます。昨年の豚肉の買い入れ
状況等を見ましても非常に規格がきびしくて、ほとんど半分はふるい落とされてしまって、そのふるい落とされたものは食肉業者が待っていたとばかりに安い値で買いたたいて買う。
事業団が買い入れました十一万頭分の豚肉は、安定上位
価格を上回った場合に放出するということでございましたが、安定上位
価格三百四十円に達しない前に三百十円の
価格でどんどん昨年の九月から放出をされまして、すでに八万頭
程度の放出をされておるということを聞いております。つまり、せっかく上がる値段を
事業団がわざわざさましてくれておる。去る夏に私は鹿児島県の養豚地帯に行きましたところが、
生産者の農家は非常に不満である。あんな畜安法なんていうものはない方がいい、もしあれがなかったらもっと豚肉の値段が上がっただろう、われわれの借金も払えていただろうということでございます。そういうわけで、畜安法には抜け穴が非常に多いわけでございますので、こういう点も
国会の諸
先生方の御努力によりまして、ぜひ早目に改正をしていただきたいというふうに考えております。
結びといたしまして、結局
メーカーもさることながら、
酪農につきましては政治の姿勢、なりを直しませんと、どうにもならないのであるということが結論として言い得るわけでございます。われわれが最も期待しておりますのは、やはり
国会でございます。
国会しかたよるところがないというのが
実情でございます。この辺を十分
一つお考え下さいまして、
国会におきまして適切な御措置をおとり下さるようにこの際お願い申し上げておきたいと思います。
以上で終わります。(拍手)