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寺部参考人 工業
都市及びその周辺の
大気汚染問題におきましては、非常に共通的な問題が多いと思います。それで私
どもは、特に
調査研究に従事しております川崎市における
調査結果の概要をまず初めにお話を申し上げまして、そのあとに総括的に
意見を申し述べたい、かように考えております。
お手元に資料を配付してございますが、川崎市と申しましても、東海道線以南に重点を置いた
大気汚染が主体となります。まず何と申しましても、臨海地区におきます
燃料消費量の集中的な増加と申しますか、神奈川県下の四千余の
工場における
石炭消費量のうち八五%が川崎の臨海地区で消費されますし、また重油におきましても八九%を占めておるわけでありまして、かかる
燃料の
燃焼に基づく
大気汚染問題が、やはり主として目立っておるということであります。そのほか
燃料の消費に伴いまして、特にばいじんの降下、あるいは亜流酸
ガス等が目立ちまして、これは工業
都市の
一つの特徴かと考えられます。なお、この二つ以外に、浮遊粉じん、あるいは窒素の酸化物とか臭気とか、その他問題は種々ありますけれ
ども、まず
降下ばいじん、亜流酸
ガス、浮遊ばいじんの三つにつきまして、状況をかいつまんでお話し申し上げたいと思います。
降下ばいじんにつきましては、比較的
粒子の大きなもので、特に夏季におきましては、南風によりまして市街地に多く降下するという特徴があり、かつまた、大
工場におきます
燃料の
燃焼管理は比較的よろしいわけでありまして、微粉炭
燃焼に伴う灰の降下というものが非常に目立っておるわけであります。かかる
降下ばいじんは非常に多くございまして、昭和三十一年ごろに工業地帯で一カ月一平方キロ当たり六十八トンというような数字も、その後自治体あるいは企業側の
努力によると思いますが、三十三年には四十二トン程度に減ってまいりました。一応減少のきざしが見えたのでございますが、やはり生産の増加に伴いまして、集じん
設備その他の
防止対策が追いつかない現象かと思いますが、最近漸次増加の傾向にあることは警戒を要することと思います。
それから、
降下ばいじんの毎月の量と風向との
関係を詳細に調べてみますと、その
調査地点におきまして、どういう方向から
発生源があるかということもある程度調べがついておるわけでございます。
次に、浮遊ばいじんでございますが、非常に
粒子のこまかい
スモッグの
原因ともなるような浮遊粉じんにつきましては、従来
調査がおくれておりますけれ
ども、高性能のハイボリューム・エアサンプラーという
装置によりまして調べましたところ、最高一立方メートル当たり二・二六ミリグラムというような数値が得られておりまして、これはシンシナチあるいはドノラ等に匹敵する濃度でございます。
次に、
亜硫酸ガスの
測定でございます。これは
工場周辺地帯はかなり濃度が高いわけでありますが、
工場地帯の内部はともかくといたしまして、その周辺あるいは商業地、住宅地等の濃度を私
どもは環境としては注目していかなくてはならないと思います。
亜硫酸ガスの
測定法に、継続的に一カ月単位で
汚染の程度を調べる二酸化鉛法という
方法と、その刻々の濃度をPPM、百万分の一の濃度の単位で
測定する腐蝕法と、二種類おもに用いているわけでございます。年間の経過、あるいは広い地域の大づかみの傾向を見るために二酸化鉛法の値をまず見ますと、これは特殊な値でございますが、三一ページの表七というところに詳細に出ておりますとおり、やはり工業地区におきましてかなり高い数値が出ております。この表を、私が提案いたしております「二酸化鉛法による
亜硫酸ガス汚染度の判定標準」という、そのページの一番下の
汚染第一度から第五度まで分類いたした表で判定いたしますと、三以上のところはかなり濃度が高いと私は考えておるわけでございます。やはり工業地帯並びにその周辺におきまして三以上のところが多い傾向にございます。また、英国におきますデータと比較いたしましても、最高、平均、最低の各値を見ますれております。と、非常に類似したような濃度が得ら
次に、
大気汚染の
影響につきまして、私
どもの
研究、あるいは川崎市を対象にいたしました種々の
研究につきまして簡単に御紹介申し上げます。三二ページからございます。
まず、
大気汚染度と市民の保健動向であります。図の四にありますように、
大気汚染の濃厚な地域におきましては、
大気汚染の比較的薄いところと比較いたしますと、住民の肺炎、気管支炎の死亡率、あるいは児童の学年別支病気欠席率等は、
大気汚染の濃厚な地域において、また下級生ほど、両者が正比例の
関係にあるというようなことが見られております。また、
大気汚染の濃厚なときに、抵抗力の弱い病人、乳児、老人等にはその
影響を否定することはできないと思います。ただ、こういう
研究におきまして相関
関係はある程度見られますが、因果
関係まで裏づけるのには、さらに今後の
研究を必要とすると思います。
それから二番目に、これは慶応
大学の外山教授の
研究によりますと、学童の肺換気
機能と
大気汚染との
関係がはっきりとあらわれております。
工場地帯の
大気汚染の濃厚な地域の学童の呼気最大流量でありますが、これは気道の狭窄を起こしているかどうかを見る
測定であります。こういうものにおきましても、
汚染地区の学童の気道が、
汚染の激しい月に比例して狭窄
状態になっていることを明らかに示しております。また、ぜんそく様呼吸器疾患と浮遊ばいじんとの
関係でございます。これはいわゆる
横浜ぜんそくに
関係して神奈川県で調べられた状況に見ますと、ぜんそく様の呼吸器疾患を持っている者のうちに、浮遊ばいじんによって誘発されるものが三分の一くらいあり、小児は特にこの
影響を受けやすい。また、その土地の在住年数の少ない者に多い傾向がある。本患者のうち、発作と浮遊ばいじんが正の相関
関係にあるものは準工業地域に多く分布している、というようなことが報告されております。
さらに、小児の気道性疾患と
降下ばいじんとの
関係についての
調査を見ますと、あたたかい季節には少ない咽頭炎が、
降下ばいじんの多いところにはあたたかい時期に高率であるとしう報告もあります。
さらにまた、川崎市における犬の肺の
調査によりますと、犬の臓器、肺の全臓器大切片標本及び普通病理組織標本を見ますと、肺内の沈着ばいじん量が明らかに工業地域のほうが多い、田園地域のほうに比較して工業地域に非常に多いということ、かようなことが
調査の結果わかっております。
それで、
汚染の状況につきまして、最近の資料を若干ごらんいただきたいと思います。
資料ナンバー2の一ページには、地図の上に
降下ばいじんの分布が載っております。いかに重工業地帯に
降下ばいじんが多いかということが一目りょう然といたします。
二ページは、降下ばじん量の地域別年次別比較でございます。工業地域では一カ月一平方キロ当たり昨年度四十二トン、準工業が約二十三トン、商業地域が十五・八七トン、住宅商業地域及び田園地域が約十トン程度となっております。これをさらに年次別にグラフで見ますと次の三ページのとおりでございまして、
先ほども申し上げましたように、工業地域におきまして、三十三年年と三十四年にかなり減少のきざしが見えました。これは集じん
設備がある程度つけられまして、比較的
粒子の荒いものがとれて、こういう地域に降下するばいじん量が減少した結果でありますが、三十五年、三十六年とやや増加の傾向にあることが注目に値する、かように考えます。
次の四、五ページは、冬季と夏季におきます分布を示したものでございますが、風向との
関係が非常に深い状況でございます。
次の六ページは、川崎、横浜を含めた
降下ばいじんの
発生源の重点がどういう地点にあり、かっこれがどういう分布をして流れてまいるかということを一月と七月にわたって示したものでありまして、こういう図を見ましても、やはり
大気汚染の
調査にかなり広い範囲に
調査網がなくてはいけないということが痛感されるわけでございます。
次の七ページもやはり神奈川県の川崎、横浜地区の
降下ばいじんの分布図でございますが、川崎の重工業地帯に集中的に
降下ばいじんが多いということが示されております。
八ページの表は、神奈川県におきまする
燃料消費量等の
調査でありますが、ここにおきまして川崎臨海地区の
石炭、重油の消費量の多いことが目立ちます。もう
一つ業種別に見ますと、第一次金属製造業の
燃料消費、それから電気業における
石炭使用量の多いことが、顕著な数値となっております。
ただいま
降下ばいじんの資料を申し上げましたが、次に、冬の
スモッグと非常に密接な
関係のある浮遊ばいじんと
亜硫酸ガスの浮遊の
状態につきまして、資料ナンバー三につきまして、ことしの二月ごろの浮遊の教値を若干申し上げたいと思います。
浮遊ばいじん度が、二月におきまして、
工場中心地あるいは周辺地区におきましても一・七八ミリグラム、あるいは多いところで二七七というような数値でございます。一立方メールト当たり一ミリグラム以上のところは、
外国でも
大気汚染のかなり濃厚な地域とされておるわけでございます。
それから次の
亜硫酸ガス汚染度におきましても、ナンバー1の
工場中心地帯はかなり多いし、またナンバー4のところは埠頭に近いところでございますが、いま申し上げたような石油あるいは石油
化学工場の周辺におきましても、かなり高い値が見られております。
三番目に、
亜硫酸ガス濃度のPPM単位の
測定値を見ますと、ナンバー1の
工場地帯の中心部では〇・六PPMというのが最高になっております。ナンバー2、ナンバー3は、
工場地帯周辺の住宅、商業のある地帯の学校の付近ではかった値でありますが、〇・二七、約〇・三に近い値が出ております。これは、いままで出た値ではかなり高い
亜硫酸ガスの濃度だと考えております。ナンバー4におきましては、港の付近でやはり〇・二五、最高〇・三四という値も示されております。それからナンバー5の国電川崎駅付近の商業地帯の中心地の冬季におきます
亜硫酸ガスの濃度が、大体〇・二PPM程度を示しております。これはいわゆる
スモッグの
発生しているときの濃度と見て差しつかえない、かように考えております。
以上、川崎におきます
大気汚染の
実態と申しますか、そういう点を申し上げましたが、もちろん前の資料に出ておりますように、主要
工場におきましてかなり高額の集じん機も設置されておりますけれ
ども、
対策につきましてはなお促進の要があると考えます。
以上を総括いたしますと、川崎市の
大気汚染の特徴は、工業
都市における
一つの共通点が多いと思いますが、まず一番として、やはり重工業型で、ばいじんと
亜硫酸ガスの
汚染が高い。二番目に、冬季は
工場の
ばい煙にビルの暖房による煙がプラスされて、
東京都心部に匹敵する
スモッグ状態を呈している。三番目に、夏には南風の
影響で市街地に
工場等のばいじんを多く飛散することは、他の
都市にあまり例がないと思います。四番目に、自治体の
活動あるいは企業側の熱意によりまして、一時的に減少のきざしがあった
降下ばいじん量が、生産の増加とともに再び増加の傾向にあることは警戒を要する点であります。五番目に、多くの
研究の結果を見ましても、
大気汚染が健康その他
生活に及ぼす
影響というものは無視できないものがあると思います。
さらに、これらの
調査研究を通じまして感じますことを二、三申し述べさしていただきますと、まず一番といたしまして、いままでは
降下ばいじんとか浮遊ばいじん、
亜硫酸ガスにいたしましても、こういう三つのものが指標とされて
大気汚染度の
調査が大づかみに行なわれるわけでありますが、今後は、さらに
有害ガスその他を含めまして、時間的な変化とか、あるいは最高濃度等を把握していく必要があると思います。しかるに現在では、この方面の
試験研究者の人数が少ないと申しますか、前
参考人のお話にもあったような、そういう
研究者の層が薄いということを、やはり同じく感ずるものであります。三番目に、全国的に統一した常時観測のネットワークが必要だと思います。それと同時に、
一つの
大気汚染の
研究を総合的に行ないます総合モニタリングステーションといったような、あたかも原研の周辺に置かれておるようなものを、試みに
大気汚染のばいじんのところで設けるとか、そういう
方法によって
調査していくことも必要ではないか、かように考えております。
以上、
調査研究を主体とした
実態と、若干の
意見を申し述べさしていただきまして、私の話を終わりたいと思います。