○松澤兼人君 私は、ただいま議題となっております
昭和三十七年度補正第一号外二件につきまして、
日本社会党を代表して反対の討論を行なおうとするものであります。
討論に入る前に一言触れておきたいことは、この参議院の
予算委員会で明らかになりましたように、われわれは
衆議院における
自民党の一方的な強行方針によって多大の被害を受けているわけであります。われわれは
予算委員会におきましていろいろと
政府を追及いたしましたけれ
ども、
政府は知らぬ存ぜぬと言うだけでございまして、われわれに対しまして何ら問題の核心に触れる
答弁をしておらなかったことは、皆さんすでに御承知のとおりであります。われわれが、かりに新聞記事を中心といたしまして、あるいは
池田総理、あるいは
黒金官房長官、
福田通産相その他に質問いたしましても、新聞の書いていることが間違いであるというようなことをしらじらと申しまして、われわれが今日
政府がこう言ったと考えているにかかわらず、
政府は、そういうことを言わない、あるいはそういうことを知らない、こういう
態度で終始されていることが、われわれが良識をもってこの参議院の
予算委員会を推進していこうとする場合におきまして非常に障害になったということは、これは、われわればかりでなく、おそらくは
自民党の各位もよくそこのところは御理解願えると考えるのであります。
この
国会は
石炭国会であるといわれ、
石炭問題を中心としてわれわれは臨時
国会の召集を
要求いたしまして、
政府もいろいろとその対策を講じられまして、予算及び
法律案をそろえて提出されてきたのであります。しかも、
衆議院におきましては、
石炭対策特別委員会におきましては、わずかに十五分の
審議をしただけであって、
あとは強行採決であります。さらに、
予算委員会におきましても、重政農林大臣の失言問題から端を発しまして、四日あるいは五日の時間を空費いたしているのであります。予算の核心に対するわれわれ
日本社会党の十分なる
質疑もいたされないまま、強行採決によって、
単独審議によりまして、われわれ参議院の前にこの関係
法律案及び予算案というものが送られて参ったのであります。われわれは、
衆議院におけるこのような一方的な強行方針によりまして、初めから
審議をしなければならないという非常に困難な状態に陥っているわけであります。われわれは、こういう点を考えてみまして、いかに
池田総理が、低姿勢であるとか、あるいは寛容と忍耐であるとか言われましても、実際現われて参りました結果というものは、非常に高姿勢であり、野党の言うことは何らこれを取り入れない、取り上げない、こういう方針で参られていることを、よく承知しなければならないと考えるのであります。
石炭対策に関しまして、今申しましたように、
衆議院審議の段階において
単独審議を行なったという、こういう非民主的な方法によって、われわれは非常に困難を来たしているわけであります。この
予算委員会が開始されまして、その
衆議院における問題、これを中心にして論議しなければならないということは、実質
審議に入り得なかったわれわれといたしましては、まことに遺憾にたえないところであります。
事態がここに至ります
経過につきましては、すでにわが党同僚の議員諸君がこの席上においてるる申し上げたとおりであります。今回の
石炭問題としましては、
政府みずからも、もちろん
石炭産業の重大な危機に際しているというこの認識の上に立っていろいろと
方途を講ぜられているのでありますが、いざ
国会のふたをあけてみますと、
政府は現下の
石炭危機の実情をどこまで認識しているかということについて、非常にわれわれを疑わしめるものがあるのであります。
政府が尊重したと言われます
有沢調査団の
答申の最大眼目であります五千五百万トンの
需要確保にいたしましても、十一月二十九日
閣議決定の
石炭対策大綱におきましては、その数字というものが全く出ておらないのであります。この
国会における
説明につきましても、五千五百万トンは努力目標である、こういうことでお茶を濁しているのでありまして、あの
炭鉱の悲惨なる状態は、ニュース、新聞、ラジオ等において、だれもが国民として知っているわけであります。そういう実際に即したきめのこまかい対策というものを、この
政府の
決定によりますところの
石炭対策大綱というものを通じて、何らその片りんをもうかがうことができないことは、まことに残念なことであります。さらに、本
会議、
予算委員会におきましても、五千五百万トンの
確保の具体的な裏づけを追及いたしてみまして、
有沢答申の
提案いたしておりますような、ボイラー規制法の存続であるとか、重油消費税の創設につきましては、やるのか、やらないのか、これがさっぱりとわからないのであります。これから検討するという程度の
答弁に終始しているのであります。このような状態では、肝心な
石炭需要の
確保がはたしてできるかどうかということは、われわれ国民として非常に疑問にたえないところであります。
政府は
石炭対策の予算を提出したということを言っておりますけれ
ども、一方的に
石炭産業における労使休戦の
約束を破棄して、今後は首切りは御勝手次第というようなふうに
石炭資本家代表に通告しているのであります。で、全国の
炭鉱に働く諸君が、これを聞いてがく然とし、憤激し、上京して
政府の真意をただし、あるいは
国会に請願をしようと集まってきたことは、まことに当然のことと言わなければならないのであります。わが
社会党は、両院を通じて、
政府の真意を確かめようと幾たびか試みたのでありますが、そのつど、検討中、検討中と逃げ回り、あげくの果ては重政農林大臣の無責任な
発言となり、正式な
審議の方法は事実上封ぜられてしまったのであります。そこで、時局はまことに重大であるから、
話し合いで解決すべきだとして、
日本社会党と
自由民主党との間に
話し合いが始められたのであります。この両党の間の
折衝は、十二月十七日午後に参りまして、六千万トンの
需要確保に努力することとなったのであります。これを初めとする四
項目の基本的な了解が両党の責任者の間で妥結いたしまして、
あとは事実上調印するということ、あるいは案文の整理だけが残されているという状態にこぎつけられたのであります。四日にわたる
折衝の
経過をここで申し上げる時間はございませんけれ
ども、先ほど
阿部委員なり亀田
委員なりからその
折衝の
経過及び成文につきましては申し上げたところであります。ところが、
最後の段階になりまして、
池田総理が——
池田総理は知らないということを言っておられますけれ
ども、われわれが朗読いたしました
経過の
報告によりますというと、
池田総理の
裁断によってこの妥結が御破算になったということであります。その後は、直ちに、
池田総理の言われるいわゆる正常なルートに乗せて、
委員会、本
会議の
単独採決、会期延長ということになってしまったのであります。
以上は客観的な事実を申し上げたのでありますが、平素寛容と忍耐とを看板にし、一昨年の三
党首会談において
単独審議はいたしませんと全国の国民の前に公約されましたその公約というものは、
池田総理自身によって破られたのであります。全国民は
池田総理の
不信行為に怒り、
池田政府並びに
自由民主党のかくのごとき議会民主主義のルールに対する挑戦は絶対に許しがたいものであると考えるのであります。参議院
予算委員会の段階におきまして、わが
社会党が以上の
経過についてただし、
総理がこの間の事情を承知しておられるかどうかということについて重ねて追及いたしたのでございますが、
総理、
内閣官房長官、
通産大臣は、あらかじめ口を合わせて、この天下周知の両党間の
交渉を、
内容について知らない、相談を受けたことがない、
交渉が決裂した後に
報告を受けただけであると強弁しているのであります。しからば、今日もし十七日夜原則的に妥結しておった四
項目を再検討されたならば、
政府として同意し得るものではないかという質問に対しまして、これまた、
政府原案を変更の余地は少しもない、こういう
答弁であります。これでは
池田首相は、警職法の
審議における岸信介
総理と何ら異ならない。忍耐と寛容の看板は、全く偽わりであって、
池田内閣もまたファシズム、独裁に通ずるものであるということを、おのずから証明しているものであると考えるのであります。
現在わが国は重大な問題に直面しております。あるいは日韓
会談を中心とする国際関係、あるいは
石炭、消費者物価の値上がりを中心とするところの経済問題、あるいは公務員の給与、こういったような現実に国内的及び国際的な問題をかかえ、そのさ中において今回の臨時
国会が招集せられ、開会せられているのであります。
日本経済について申し上げますならば、まさに重大なる危機に直面していると申さなければなりません。
池田内閣が所得倍増の名のもとにあおり立てた大資本優先の過剰設備投資のために、わが国経済は深刻な様相を呈しているのであります。
第一に、
国際収支の問題であります。
政府が昨年九月以来とって参りました引き締め政策によりまして、貿易収支はようやく黒字基調となりましたが、アメリカがドル防衛、バイ・アメリカン等の政策を一そう
強化しながら、日本に対しては一〇〇%の貿易自由化を求めていることに、さらに加えて、欧米諸国の今後の景気見通しが楽観できないこと、これらの諸国の日本の低賃金に対する警戒心が依然として強いことなどから見て、今後もコンスタントなわが国の輸出が続けられるであろうということは、期待することはできないのであります。しかも、アメリカに対する外貨借款の返済等を考えてみると、わが国の今後の
国際収支は、依然として予断を許さないものがあるのであります。
第二は、物価上昇の問題であります。これは自然に物価が上がったといえるようなものではないのであります。
政府が物価抑制の方針に反して、公共料金等の引き上げを行ない、その結果として、現在のような物価の値上がりという状態が出ているのでありまして、物価の値上がりは、低所得階層などにその被害が最も大きく現われているのであります。勤労者は、名目賃金の若干の上昇を見ておりますけれ
ども、それにつれて租税負担が重くなり、租税の自然増収なるものは、ほとんどが勤労者の源泉所得税からしぼり出されているということは、まことに重大な問題といわなければなりません。
第三は、過剰生産の問題であります。
政府の金融引き締めと、今日まで無
計画な過大設備投資によって、ここに本格的な過剰生産、過剰供給による不況を呼び起こしておるのであります。したがって、現在の不況は、戦後の何回かの不況と比較して、比べものにならないほど深刻な問題であります。鉄鋼、繊維、紙、パルプ等は、大幅な操業短縮をやっているにかかわらず、市況は回復せず、造船、機械は大幅に受注が減り、さらに加えて
石炭、金属鉱山、合成化学等の産業では、
合理化の嵐が吹きすさんでいるのであります。そうして失業者の
最後の頼みの綱である失業対策事業は、
政府によって打ち切られようとしております。
こうした状態に追い打ちをかけるように、IMF八条国への移行、あるいは一括関税引き下げの圧力がアメリカから加えられております。これらは、日本の勤労者の
生活にとって、また農業、中小企業をも含めた日本の全産業にとって、まさに死活の重大な問題であるといわなければなりません。これに対して、
池田内閣は、依然として対米従属を深めるばかりであって、日中、日ソ等の貿易を伸展させるということについては、きわめて消極的であり、あるいは前向きの姿勢をとるといいながら、米国の圧力に屈して、何ら見るべきこれらの共産圏との貿易の振興をいたしておらないのであります。すでに財界や
自民党の一部にさえ、こうした日本経済の危機打開のために、真剣に日中、日ソの貿易打開に努力している人々があるのに、
池田内閣は、アメリカの一喝に屈して、特に日中貿易の問題につきましては、何ら誠意を示しておらないのであります。国民の批判をよそに日韓
会談を進め、日本の
炭鉱労働者の首切られる人に対しては、財政の支出を出し渋り、韓国の朴軍事政権てこ入れに対しては、惜しげもなく支出しようとしているのであります。こういうようなことは断じて許すべきではないのであります。
このときに、本院に提出されたのが
昭和三十七年度予算の第一次補正であります。ところが、この補正予算は、すでに私の述べた日本経済の危機に対する何らの対応策となっていない。したがって、
日本社会党は、もちろん
内容的にも数々の矛盾と、あるいはその欠陥とを含んでいるものであると指摘し、われわれは断じてこれを承認することはできないと言っているのであります。
次に、
石炭政策の問題であります。この臨時
国会は
石炭国会だと言われているのであります。
総理みずからも、
閣議におきまして、
石炭対策大綱というものが画期的なものであると
言明しております。しからば、この画期的な対策は、当然今次補正予算は、画期的な予算額として計上すべきであるにもかかわらず、その画期的な
石炭対策費は、特別会計を合わせても七十七億五千万円にすぎない。いかに臨時補正的な性格を持っている予算だからといっても、これでは
石炭国会の名に値しないものであります。
雇用安定を出発点とした石
炭鉱業
調査団は、結局企業の安定を前面に押し出し、大量の首切りの
決定版を
答申しているにすぎません。
政府の
石炭対策大綱は、この首切りをやりやすくするための画期的大綱となり、三十七年度補正予算は、大なたをふるって排除した労働者の離職対策に、おざなりな資金を計上しているにすぎないのであります。たとえば離職者援護対策として、新たに就職促進手簡制度を設けて、休職期間中に
生活の安定をはかるとしておりますが、その額は、一日四百五十円で頭打ちであります。月一万三千四百七十円の
生活保護費並みで一体
生活の安定がはかられると考えているのかどうか。全く対策の名に値しないものであります。また、産炭
地域住民の切実な
要求も、この予算では完全に無視されております。これは産炭
地域振興対策費としてわずかに一億五千万円が追加されているにすぎません。
需要の
拡大と安定のために、
雇用安定をはかるための時間短縮と、その賃金の国家保証、やむを得ず離職する者に対する一時金の支給、再就職に至るまでの
生活保障として平均賃金の八〇%保証、職業訓練の
拡大強化、住宅
確保等、きめのこまかい対策が予算化されてこそ、初めて
石炭対策が画期的な政策といえるのであります。
政府の政策は、かかる点において十分な配慮が払われておらず、われわれとして断じて承服することができないのであります。
さらに、重大な問題点は、特別会計予算補正が、食管会計における消費者米価引き上げを含んでいることであります。これもわれわれの承服できないところであります。ここにあらためて述べるまでもなく、現在の食糧管理法では、米の生産者価格は、農民の再生産を
確保することを旨として定め、消費者価格は、消費者の家計を安定せしめることを旨として定めることになっております。つまり生産者と消費者の二重価格制度をとっているのであります。その差額は一般会計から補てんすることになっており、農民と消費者に対する二重の社会政策費であります。これを食管会計の赤字と称して、
政府、与党が大騒ぎすることは、食糧管理法の精神を知らずと申して過言でないのであります。
さらに現在の食糧管理の経費には、食糧庁の事務、人件費、食糧証券の金利、米の輸送費、倉庫料などが含まれております。これらは三十七年度食管予算では五百億円以上に上っているのでありますが、これは食糧管理という
政府の行政責任に属するものであって、当然一般会計で負担すべきものであります。
さらにまた、このたびの消費者米価引き上げにあたって特選米という制度が設けられました。これは根本的には、金持ちはうまい飯を食え、貧乏人はまずい飯を食え、という、まことに残酷な
考え方であります。さらに重大なことは、
政府は、特選米制度を契機として大規模精米施設を作るなど、米穀業者の整理と系列化を進めようとしており、他方、特選米と普通配給米との区別をつけるために、生産者米価に銘柄格差や
地域格差をつける方向に進もうとすることが予想されるのであります。こうなれば米の統制撤廃につながるものであり、米も含めた農産物の輸入自由化が迫られている現在、今後の情勢はまことにきびしいものがあると言わなければなりません。こういう点を考えてみて、われわれは食糧管理会計の補正につきましても、賛成することができないのであります。
以上申し述べました理由に基づいて、本補正予算に対して、われわれは反対しなければなりません。
内容的に申しますと、まず、公務員に対する給与改善費であります。
政府は、本年八月十日に行なわれた人事院勧告を尊重したと称して二百十九億の給与改善費を計上いたしております。しかし、ここには根本的な問題があります。
第一に、七九%の引き上げは、なお民間給与と比べて依然として大幅に差があるということであります。これでは団体
交渉権及び団体行動権の権利を奪われている公務員の利益を守るべき人事院勧告として、また、それを受けた
政府の
措置としてもきわめて不穏当であります。
第二に、初任給の引き上げ及び中だるみ是正など、給与体系についての是正を行なったと
政府は称しておりますが、しかし、依然として特権官僚と一般公務員との給与の格差はいよいよ大きくなり、いわゆる上厚下薄の傾向が
拡大されているのであります。さらにこれは一般民間をも含めて、賃金体系に職務給の概念を導入して労働者の陣列に分裂のくさびを打ち込もうとする陰険な労務対策であると言わなければなりません。
第三に、人事院は五月一日から給与の引き上げを勧告しているにもかかわらず、この実施を十月一日に引き延ばしております。これで勧告の完全実施などとはまことに笑止千万であります。
私
どもは以上の理由からこの給与改善費を容認することはできないのであります。