○
松澤兼人君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となっております
政府提案の
昭和三十七年度
予算補正(第1号)外二件につきまして
反対、日本社会党
提出修正案につき
賛成の
討論を行なわんとするものであります。まず、
討論に入るまでに一言いたしておかなければならないことがあります。それは、
臨時国会の審議経過についてであります。
衆議院における自民党の横暴により
国会が混乱し、その余波を受けて、参議院の審議も停頓しまして、そのしわ寄せのために十分な
予算審議が行なわれなかったのであります。
予算委員会において、今回
国会の焦点となっております石炭問題の重要点である自民・社会両党間の了解事項、すなわち、
石炭政策についての
政府答弁のための自・社了解事項
一、六千万トンの需要の確保は、現状からみて、非常に困難であるが、
政府としては、雇用の安定、国際収支、エネルギーの安全保障を考慮し、需要の拡大について極力努力する。
二、増強、維持並びにボーダーラインにある炭鉱を強化育成するため、
特別の融資制度を設ける。
三、炭鉱のスクラップ計画については、当該炭鉱の経済性と地域に及ぼす影響等を考慮して、十分に検討し、その方途を講ずる。
自由民主党日本社会党
昭和三十七年十二月十七日
これについて追及いたしましたにかかわらず、
政府は、一切知らぬ存ぜぬの一点張りでありまして、何らの進展を見ることができず、最後には、自民党の強引な審議打ち切りの強行により、われわれは六十七分にわたる審議時間を放棄せざるを得ないことになり、まことに言論封殺の暴挙を目のあたりに経験いたしたのであります。これは、客観的に見ればこのとおりでございますけれども、平素、寛容と忍耐を看板とし、一昨年の三党首テレビ会談において、単独審議はいたしませんと、全国民の前に誓った公約を、池田総理はなぜみずから破ったのか。国民は、池田総理の不信行為に怒り、池田
政府並びに自民党のかくのごとき
議会無視の考えに対して、絶対に許しがたいと叫んでいるのであります。(
拍手)参議院
予算委員会の段階においても、わが党は以上の経過をただし、総理の反省を促そうと試みたのでございますが、総理、
内閣官房長官、通産大臣は、あらかじめ口を合わせ、石炭対策に関する両党間の交渉の「内容を知らなかった」「交渉が決裂したことの報告だけを受けた」と強弁いたしました。事実を隠蔽し、自分に不利な問題は知らぬ、存ぜぬでは、審議も全く無意味と言わなければなりません。こでは池田総理は警職法当時の岸総理と何ら変わりはない。忍耐と寛容の看板は全く偽りであって、池田
内閣もまた、ファシズム独裁の亜流であることをみずから証明したと言わなければなりません。(
拍手)
現在、日本経済は重大な危機に直面いたしております。池田
内閣が所得倍増のかけ声であおり立てた大資本優先の過剰設備投資のために、わが国経済は深刻な様相を帯びています。第一は国際収支の問題であります。
政府が昨年九月以来とって参りました引き締めによりまして、貿易収支は黒字基調となりましたが、アメリカがドル防衛、バイ・アメリカンを一そう強化しながら、日本に対しては一〇〇%貿易自由化を求めていること、加えて欧米諸国の今後の景気の見通しが楽観できないこと、これらの諸国の、日本の低賃金に対する警戒心が依然として強いことなどから見て、今後もコンスタントにわが国の輸出が伸び続けることは期待できません。しかもアメリカに対する外貨借款の返済等を考えてみますと、今後の国際収支は依然として予断を許さないものがあるのであります。第二には、物価上昇の問題であります。これは自然に物価が上がったというものではなく、
政府が物価抑制の方針に反し、公共料金等を引き上げて参ったことに原因があるのであります。しかも物価の値上がりは、低所得階層ほどその被害を大きく受けているのであります。勤労者の名目賃金は若干上昇いたしましたが、それにつれて租税負担が重くなり、租税の自然増収なるものは、ほとんど勤労者の源泉所得税からしぼり出されているということは、はっきり申し上げることができると思うのであります。第三は過剰生産の問題であります。
政府の金融引き締めと、今日までの無計画な過大設備投資によりまして、ここに、本格的な過剰生産、過剰供給による不況を呼び起こして参ったのであります。したがって、現在の不況は戦後の何回かの不況と比較して、比べものにならないほど深刻であります。鉄鋼、繊維、紙パルプ等は大規模な操業短縮をしているにもかかわらず、市況は回復せず、造船、機械は大幅に受注が減り、さらに加えて、石炭、金属鉱山、合成化学等の産業では、合理化のあらしが吹きすさんでいるのであります。そしてまた、失業者が最後の頼みといたしております失対事業は、
政府によって打ち切られようとしているのであります。こうした状態に追い打ちをかけるように、IMF八条国への移行、あるいは一括関税引き下げ等の圧力がアメリカから加えられております。これは日本の勤労者の
生活にとって、また、農業、中小企業を含めた日本の全産業にとって、まさに死活の重大な問題であります。これに対し池田
内閣は、依然として対米従属を深めるばかりでありまして、日中、日ソの貿易進展等につきましてはきわめて消極的であります。財界や自民党の一部にさえ、こうした日本経済の危機打開のために、真剣に、日中、日ソの貿易の打開に努力している人があるのに、池田
内閣はアメリカの一喝に屈して、特に日中貿易に対して誠意を示しておらないことは、まことに遺憾というべきであります。国民の批判をよそに日韓会談を進め、日本の
炭鉱労働者が七万六千人も首切られるときには出ししぶっている金を、韓国の朴軍事政権てこ入れには惜しげもなく支出しているということは、われわれの断じて許さないところであります。(
拍手)
こういう時期に本院に
提出されましたのが
昭和三十七年度のこの
補正予算であります。ところが、この
補正予算は、今申し上げましたように、日本経済の危機に対して何らの糸口を示すものでもなく、全く国内の矛盾を蔵したまま暫定的な
補正予算となりました。しかも直接の目的である各種の施策に対しましても、何ら見るべき策がないのであります。
今
国会の中心であります石炭問題の重要点といたしましては、
政府のエネルギー政策の根本が誤りであり、したがって、提案されている石炭対策は不十分であり、見当違いが多いということを指摘しなければなりません。さきに申したとおり、十一月十九日の閣議決定を見ましても、
政府の石炭対策大綱は、申すまでもなく、労働者にとりまして不利であると考えられております有沢答申をさらに後退させたものであることは明らかであります。端的に言うならば、答申における首切り、合理化により、少数の財閥系石炭会社の自立経営ができるように、国家資本でこれを促進するという面だけを採用し、過去のエネルギー政策失敗の責任、エネルギー革命下における石炭需要確保の方途をとるべきであるという答申の他の部面を軽視しているのであります。わが党は有沢
調査団答申自体にいろいろの欠陥があることを指摘いたしているのであります。
第一の問題は、答申における五千五百七十万トンの需要が
精一ぱいであるという主張の中には、全エネルギー構成における石炭の地位をどう見るかの十分なる検討が加えられておりません。この点は答申がみずから認めているところであり、したがって、五千五百万トン云々は仮定の数字にすぎません。エネルギー全体に占める石炭の比率がどうあるべきかは、単なる従来の放任的需給傾向の延長で論ずべきではなく、国際収支の見地、エネルギー供給の安全保障の見地、適正なる液体エネルギー価格体系等、十分な考慮を加えて、総合的な判断においてこれを断定しなければならないのであります。わが国と同じ悩みを持つ欧州諸国の例を見ましても、国産エネルギー依存率が二〇%以下になってもかまわないという国はありません。さらに石油輸入を自由にして、自国石炭と競争させている国もありません。詳しくは申し上げませんけれども、各国におきましては、各種エネルギーの構成が激変しないような格段の統制なり
補助なりを与えるという政策をとっているのであります。石炭がコストの上から見て液体エネルギーに比して不利であるということは申すまでもございませんけれども、それを機械化、合理化、首切りによるコスト・ダウンだけで石油と競争させている国はどこにもないのであります。有沢答申は、石炭需要の推定において、高い国策的な見地に欠けているばかりでなく、スクラップ・ビルド方式による五千五百万トンの達成の方法が、いかに
炭鉱労働者にのみ犠牲を強要しているか、スクラップされる炭鉱所在地域の社会的、経済的影響がいかに深刻であるかの認識が欠けていると申さなければなりません。したがって、このような認識不足の有沢答申を根拠とした
政府の石炭政策は、それ自体、不完全、不徹底、不親切であり、労働者にとっては冷酷無残な政策と言わなければなりません。
以下、
予算の内容について意見を申し上げます。
第一に、今申しました石炭政策の具体的な問題であります。今回の
国会は石炭
国会と言われておりますが、総理は、石炭対策大綱は画期的なものであると言明しております。しからば、この画期的な対策は、当然、今次
補正予算に画期的な
予算額として計上すべきであるにもかかわらず、その画期的な石炭対策費が
特別会計と合わせても七十七億五千万円にすぎないのであります。いかに
臨時補正的な性格を持っている
予算であるといたしましても、これでは石炭
国会の名に値しないものであると言わなければなりません。雇用安定を出発点といたしました石炭鉱業
調査団は、結局、企業の安定を前面に出し、大量首切りの決定版を答申したにすぎません。
政府の石炭対策大綱は、この首切りをやりやすくするための画期的な大綱であります。三十七年度
補正予算は、大なたをふるって馘首した労働者の離職者対策に、わずかな資金を計上したにすぎないと言わなければならないのであります。たとえば、離職者援護対策として、新たに
就職促進手当制度を設けておりますが、求職期間中の
生活の安定をはかると言われておりますその額が、一日四百五十円で
頭打ちであり、月一万三千四百七十円の
生活保護費と同様でありまして、これでは一体
生活の安定がはかられるかどうか、われわれとしては多大の疑問なきを得ないのであります。また
産炭地域は住民の切実な要求を持ってこの
予算を見守っているのでありますが、この
予算では完全に無視された結果となりました。
産炭地振興対策費として、わずかに一億五千万円が追加されたにすぎません。われわれの要求は、需要の拡大と安定のための施策、雇用安定をはかるための時間短縮とその賃金の国家的な保障、最低賃金制、やむを得ず離職する者に対する一時金の支給、再就職に至るまでの
生活保障として平均賃金の八〇%保障、職業訓練の拡大強化、住宅確保等でありまして、これらのきめのこまかい対策が
予算化されてこそ、初めて石炭対策の画期的政策と言えるのであります。
政府のこのような政策は、今申しましたようなきめのこまかい対策という点から十分な配慮が払われておらず、われわれとしては承服することのできないものであります。
次に重大な問題点は、
特別会計
予算補正が、食管会計において消費者米価を引き上げることを含んでいることであります。ここにあらためて申し述べるまでもなく、現在の食糧管理法では、米の生産者価格は農民の再生産を確保することを旨として定め、消費者価格は消費者の家計を安定せしめることを旨として定めることになっているのであります。つまり、生産者と消費者の二重価格制度をとり、食糧管理法によってこの旨が規定されているのであり、その差額を
一般会計から補てんすることは、農民と消費者に対する二重の社会政策的意味における経費であります。これを食管会計に赤字が生じたからといって
政府与党が大騒ぎすることは、食糧管理法の精神を知らないと申しても過言でありません。さらにまた、このたびの消費者米価の変更にあたりまして、特選米という制度が設けられたのであります。これは、根本的には、金持ちはうまい米を食え、貧乏人はまずい米を食えという考えの現われで、それはやがて米の自由販売に通ずるものと言わなければなりません。
さらに、公務員に対する
給与改善費であります。
政府は、本年八月十日に行なわれました人事院勧告を尊重したと称して、今回
給与の是正を行なっているのであります。二百十九億の
給与改善費はそのために計上されたのであります。しかし、ここに根本的な問題があります。第一に、七・九%の引き上げは、なお民間
給与と比べて依然として大幅な格差があるということであります。これでは、団体交渉及び団体行動の権利を奪われている公務員の利益を守るべき人事院勧告として、またそれを受けた
政府の措置としても、きわめて不当であります。第二に、初任給の引き上げ及び中だるみ是正など、
給与体系についての是正を行なったと
政府は称しているのでありますが、しかし、依然として特権官僚と
一般公務員との
給与の格差は大きく、いわゆる上厚下薄の傾向が拡大されているのであります。さらに、これは、
一般に民間をも含めての賃金体系に職務給概念を導入して、労働者の陣列に分裂のくさびを打ち込もうとする陰険な労務対策の現われとも言うことができます。第三に、人事院は五月一日からの
給与引き上げを勧告しているにもかかわらず、その実施期日を十月一日に引き延ばしているのであります。これで勧告の完全実施などとは笑止千万と言わなければなりません。私どもは、以上の理由から、この
給与改善費を容認することができないのであります。
以上、主としてその骨子であります三点を中心として
討論をいたしましたが、そのいずれの点をとりましても、国民の利益と幸福に役立たないということを論証いたしまして、
反対の
討論といたしたのであります。
次に、日本社会党の
修正案について申し上げます。
社会党の
修正案の第一点は、炭鉱離職者援護対策費の増額、第二点は、石炭鉱業
特別対策費の増額、第三点は、
産炭地振興対策費の増額をその内容としているのであります。
政府の
予算の欠陥や不十分な点をわれわれはこの
修正案をもって補足し、離職者の
生活の維持向上、石炭鉱業対策の強化拡充、
産炭地域の振興発展に必要最低限度の金額を今回の
補正予算に追加しようとするものでありまして、万全といえないまでも、きわめて適切であると考えて
賛成いたすものであります。もとより、日本社会党は野党であり、
予算編成権を持っておらないので、修正はまことにささやかなものでありますけれども、従来われわれがなして参りました
予算の組みかえや返上と異なり、
予算の計数的修正をいたしましたのでありますが、これはわが国
予算審議における画期的なできごとでありまして、敬意を表する次第であります。
以上をもちまして私の
討論を終わります。(
拍手)
—————————————