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政府委員(牛丸
義留君) この前の
委員会で御質問の点がございましたので、その項目に大体従って御説明を申し上げたいと思います。
第一は、麻薬取り締まり
強化に対する麻薬取締職員の増員についての問題でございます。これは現在麻薬行政に従事しております職員は、
厚生省の麻薬課に二十四名、それから北海道、東北、関東甲信越、中部、それから近畿、中国、四国、九州の八地区に麻薬取締官事務所というものが設置されておりまして、そういう地区の事務所に合計百五十三名の職員が配置されておるわけでございます。そのほかに、各都道府県に麻薬取締員というものが、これは取締官と違いまして、身分は府県の吏員でございますが、そういう者が四十六府県に合計百名配置されておるわけでございます。これらの職員では、近来ますます巧妙になり、潜在化してきております麻薬事犯の取り締まりの完璧を期するわけにはどうしてもいかないわけでございまして、組織の
強化をはかって、職員を増員をする必要があるということが第一の点でございまして、これはまだ
厚生省として来年度
予算の概算要求の査定もできておりませんが、私
ども業務局の事務当局としては、少なくとも今日の人員の倍以上の増員を
お願いしたい、こういうふうに
考えておるわけでございます。
職員の問題はその点でございますが、次は、麻薬取締法の改正をいろいろと事務的に検討しているわけでございますが、その問題点はどういう点かということでございまして、その点についての御説明を申し上げたいと思います。麻薬取締法の改正の検討を要すべき点としては、大体大きく分けまして、麻薬の犯罪の捜査及び罰則の
強化に関する点を検討するということと、それから麻薬中毒者の医療及び保護に関する
事項を検討するという、この二点が一番大きな点でございます。この点に関しまして、どういう点が問題になるかと申しますと、まず第一の犯罪捜査、麻薬取り締まりの捜査並びに罰則の
強化の点でございますが、これは、
一つは
予算的な問題とも関連するわけでございますが、現在の麻薬取締官は特別司法警察官としての職権を持っておるわけでございますが、取締官としては、職務質問その他の権限がないというようなところから、なかなかその活動に対して限界があるわけでございます。こういう点をどういうふうに改正していったらいいか、こういうことがわれわれが検討したい
一つの点でございます。これは一般の警察権を行使される警察官との関係、その他との関係がございまして、まだ結論は得ていないわけでございますが、取締官の捜査活動上、権限を拡大してはいかがであろうかということが私
どもとして検討しておる点でございます。
それから、その他の活動としましては、非常に経費が少ないという活動費、それから装備、そういうふうなものは
予算措置として来年度の
予算要求を
考えるわけでございますが、取締官の増員をし、その権限を
強化していくということが、捜査に関連する麻薬取締法の改正の
一つの問題点でございます。
それから、もう
一つは罰則の
強化でございますが、これは現在、わが国の現行の麻薬取締法におきましては、罰則が最高十年というような刑になっておりまして、罰金も最高額が五十万円ということでございまして、これではどうしても罰則が少し軽きに失するではないか。外国の例を見ますと、タイ国におきましては二十年の刑、それからお隣の台湾、中国、それからアメリカ等におきましては、最高が無期になっておりますので、そういう外国の立法例等も
考えまして罰則の
強化をはかる。それから罰金五十万円というものも、これはいわば不法行為である
一つの
経済事犯というふうにも
考えられますので、罰金の最高額をもっと上げることが必要じゃないか。これはまあ最終的には法務省の所管でございますが、今私
どもと事務的に連絡し、そういう懲役の最高刑を上げると同時に、罰金の最高額を上げる。少なくとも現在の五十万を、百万を単位とする、あるいは一千万を単位とする程度まで上げることが必要じゃないか。これは私
どもの所管でございませんので、その辺がどこまでいくかは、刑の一般的な
バランスの問題でございますが、そういうふうに私
どもとしては希望いたしておるわけでございます。
それから第二の点は、麻薬中毒者の医療及び保護に関する問題でございます。これは現在、麻薬中毒者等は、精神衛生法の措置入院の規定を援用いたしまして、自己または他人に危害を及ぼすような者は強制入院の措置をやるわけでございますが、しかし、麻薬患者は一般の精神病患者とは違って、自分なり他人を傷つけるような、そういう狂暴な症状を起こすということはきわめてまれでございますし、また、そういう禁断症状でそういうようなことがあったにしても、それは非常に短い期間においてそれが消滅するということで、なかなか一般的な精神衛生法の規定のほうの運用ということでは措置できない点がございますので、この点に対して、この麻薬取締法の中で改正をするか、あるいは精神衛生法の中で改正をするか、問題点についてはまだいろいろと検討している段階でございますが、いずれにしてもそういう点についての措置入院、そういうものに対する現行の規定を
強化する必要があるのじゃないかということが医療並びに保護に関連する第一の点。
それから、現在のただ医療だけを
考えまして、禁断症状が起こっているその期間だけ入院をたとい強制的にやりましても、それが過ぎまして退院をさせるということになると、再び同じような事犯を繰り返すという傾向がございます。つまり麻薬の患者というのは、そういういわば疾病的なものと同時に、非常に精神的な面のいわば弱さが、麻薬によってそれが倍加されてきているというような傾向もございますので、たとい禁断症状がとれても、一定の期間入院をして、そうして心身ともに健康な
状態にまで回復して退院をさせる、まあいわばそういう
一つのアフター・ケアというか、それが療養の一部とも思いますけれ
ども、単に禁断症状に対する措置だけではなくて、ある一定の期間をもって治療を行なうということが必要であるということでございますので、そういう点も
考えて、その点をどういうふうにすればいいか。しかし、麻薬の禁断症状がとれましたあとは、これはまあいわば精神
状態はそういう意志力が非常に弱ったとしても、その他の判断力その他については一般人と変わりないわけでございますから、そういうふうな者を強制入院、身分の拘束をするということは、これはもう非常に悪用されると人権問題に関連する問題でございますので、まあそういう点の強制規定をどうするかということで、現在関係当局と話し合いをしている点でございますが、そういう点の改正を考慮する必要があるのじゃないかというのが第二の点でございます。
そのほか、まあこれはもっとこまかい問題になりますけれ
ども、麻薬の治療に対して、現在麻薬を使用することは禁止されておるわけでございますが、療法として漸減療法という療法がございますので、そういうふうな療法を採用するということになれば、麻薬患者の治療に麻薬を使用するということを法律の改正によって制限的に許可するというようなことも必要になってくるわけでございます。そういう点についての改正、その他いろいろとこまかい点もございますが、時間の関係で大きな改正点はそのような点を考慮しているわけでございます。
それから第三の点は、過去において覚醒剤禍の対策として、罰則の
強化が非常に有効であったというか、麻薬禍撲滅のための罰則引き上げ、これはただいま申し上げた点でございますが、覚醒剤の過去との関連で補足説明を申し上げますと、覚醒剤取締法の場合は、輸出入、所持、製造、譲渡、使用等の制限及び禁止の違反に対しましては、三年以下の懲役または五万円以下の罰金というのが当初の規定でございましたけれ
ども、これを最高一年以上十年以下の懲役または五十万円以下の罰金に引き上げる、そういう改正の措置をとられたわけでございます。それによって、そういうことも覚醒剤禍撲滅対策が非常に効果をおさめた
一つの規定になっているというようにこの前
お話がございましたので、その実情を申し上げたいと思います。
それからその次の点は、麻薬中毒者の刑務所等の入所
状況はどういうふうになっているかという御質問でございますが、麻薬中毒者の激しい禁断症状というものは、大体十日ないし十五日間で消滅するわけでございますので、少年鑑別所
——これは少年の場合でございます。並びに拘置、起訴後移送される刑務所等において中毒者であったということで、そのために特別の取り扱いを行なったというような事例は今日聞いておりません。おそらくこれは時間的に禁断症状がとれて、精神はもうろう
状態でございますが、禁断症状がとれた
状態において鑑別所なりあるいは刑務所に送致されるというような
格好になるので、そういうふうなものの禁断症状のある
状態でそういう措置をされたということは、例としては今日ないというふうに私
どもは聞いておるわけでございます。
それから、強制収容する麻薬中毒者というものは一体どの程度推定されるかという数の問題でございます。で、今日私
どもとして麻薬の中毒者というものは一体どのくらいおるかということは、これはまあ非常に実情把握が困難でございまして、正確なところは私
どもも自信がないわけでございますが、記録上私
どもが掌握しているもの、これは人間の名前もわかっておるというようなものは現在六千人くらいおるわけでございます。この六千人の中で、しかし、現在私
どもが収容を必要とするようなものは、その中からこれはいろいろと現在犯罪のために刑務所に入っている者もございますし、それから医療からくる中毒者で、現在治療を受けている者もございますから、六千人をそのまま強制収容するという必要はないかと思います。それで、とりあえずの点は、私
どもとして強制入院の対象にする麻薬中毒者というものは、大体二千人程度のものを予想して、それに対する対策を
考えていけばいいのではないかというふうに
考えておるわけでございます。
それから次は、麻薬と売春の関係はどういうふうになっているかという御質問でございます。これは過去三年におきます麻薬中毒者の発見数というものの一応数を申し上げますと、昭和三十四年は、麻薬中毒者発見数の中で、婦人の中毒者というものが五百二十九名、三十五年が四百七十五名、三十六年が六百一名、そういうふうなこれは婦人の中毒者でございます。そのうちで接客婦なり、あるいは無職という者、要するに職業別に見て売春婦であると推定をすることが非常に公算が高いものは、接客婦であるとか、あるいは無職、職がないというようにその職業を申告しておる者の数を当たってみますと、三十四年の五百二十九名中、四百三十五名が接客婦なり無職というふうになっておりまして、これは比率から申しますと八二%でございます。三十五年は四百七十五名中、四百二十五名、比率は八九%、三十六年は六百一名のうち、五百三十八名で、比率は九〇%、これだけの者が接客婦なり無職という、職業別に見てそういうふうになっておりまして、これは一番売春婦であると推定する公算の高い職業であると
考えられますので、これを概論的に申し上げますと、婦人の麻薬中毒者のうちの大部分は売春に関係があるというふうに、断言はできませんが、推定できるのじゃないかというふうに
考えておるわけでございます。
それから、
最後はヘロインの密輸対策でございますが、これはわが国の麻薬違反の大部分はヘロインによるものでございます。そのヘロインは国内では
生産をされておりませんで、ほとんど百パーセント国外から密輸入されておるというのが現実でございます。したがって、これを十分取り締まれば、
日本の不正麻薬の流入なり、あるいは使用というものは禁止できるわけでございますから、これに対して一体どういうふうなことを
考えるかという御質問でございます。これはなかなかむずかしい問題でございますけれ
ども、第一に
考えなければならぬのは、的確な情報の収集ということが必要になってくる。それも国内の情報収集だけじゃなくして、
日本に麻薬が密輸入される地域として、香港あるいはバンコックというような東南アジア地域、そういうふうなところの主要地に情報収集のための係官を常駐するなり、あるいはそういうものと国際的な
協力によって特別の措置を講ずるなり、そういうふうにして海外から国内に密輸入されるその情報をまずキャッチする。それと同時に、国内においても情報の収集に努める、そういう点が何をおいても私
どもとして第一に
考えなければならない点じゃなかろうかというふうに
考えておるわけでございます。それから、そういう情報の収集というものは、私
ども厚生省の麻薬取締官だけの問題ではございませんし、これに関連する警察はもちろんのこと、税関あるいは海上保安庁、その他いろいろとこの麻薬取り締まりに関連する官庁との緊密な連携ということが非常に必要になってくるかと思いますので、そういう点についての
一つの情報交換の
制度を、今でも警察との間には互助協定も結んでおるわけでございますが、さらに緊密にしていく。海外の情報についても、同様に関係各官庁と緊密な情報をとって、それぞれの立場から麻薬の不法侵入というものに対する的確な情報収集、それに基づいて適正な手を打つということが根絶のための一番大きな手段であろうかというふうに
考えられるわけでございます。
大体この前の
委員会で御質問がありました点は以上のような点でございましたので、私から御説明を申し上げた次第でございます。