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山際参考人 私は今年の二月に当
委員会に
出席をいたしまして、当面の
経済金融情勢等につきまして
所見を申し述べたのでございます。その後約半年余りを
経過いたしておりますので、その間における
経過等に関しまして概略申し述べてみたいと思います。
今次
金融引き締めを総合的にないし本格的に始めましたのが昨年の九月でございます。顧みますれば、自来約一年を
経過いたしておるのであります。最近に至りまして、この
引き締めの効果は漸次
経済の各分野に浸透して参っておるやにうかがわれるのであります。中でも今回の
景気調整、
景気循環において最も大きな
要因となりましたいわゆる
設備投資の
行き過ぎという問題も、昨
年度第三・
四半期あたりを頂点といたしまして、徐々ではありましたが減少の傾向を示し始めまして、また従来は年率にいたしまして二割以上の増勢を続けておりました
鉱工業生産も、本年に入りましてからは、月によって高低まちまちではありますが、大勢といたしましては
横ばいないし場合によりましては弱
含みの
状態をもって
推移いたして参っております。
このような
情勢を反映いたしまして、
国際収支も昨年の秋ごろから順調な回復の歩調をたどりまして、去る七月には
経常収支においても約一年
半ぶりに黒字を示しておるのでございます。
また
物価につきましても、
卸売物価は総じて弱
含みの
状態を続けておりますが、ただ
消費者物価につきましては、いまだ騰勢をやめることができないという
状態が続けられておるのであります。
このように、
景気調整の足取りは現在までのところでは比較的順調に
推移いたしておりまして、大体われわれが目標といたしました線に沿って進んでおるものと観測いたしております。この間において、
設備投資の圧縮や
生産の
調整を余儀なくせられました
業種、
企業が多いのでありますが、さらに構造的な問題をかかえた
業種にありましでは、
引き締めの
影響は一そうそれが重い負担となっておりますことは否定できないところと思います。総じて
産業界といたしましては、この
引き締め政策はまことに楽ではなかったと思うのでありますが、全体として
考えますならば、今日まで
経済界に大きな
犠牲をしいることなく、比較的円滑に
調整を進めて参ることができたものと
考えております。特に
景気調整の
過程において、ややもすれば打撃を受けやすい
中小企業につきましては、
政府及び
金融界におきましても比較的早手回しに必要な
措置を講じて参っておりますし、本行といたしましても、
金融機関の指導におきましてこの点について遺憾なきを期するように
努力をいたして参ったのであります。幸いに今回の
景気調整におきましては、この
方面において特に大きな混乱を生せしめることなく今日まで
推移しておりますということは、私といたしましてもまことに喜ばしく思っておる点でございます。
景気調整が比較的順調に進みまして、
国際収支も
均衡を回復しました以上、一日も早く
金融政策を転換してもとの
状態に返す
措置を打ち出すべきであるという説も一部では聞かれ始めておるのでありますが、私といたしましては、この際まだ
前途を
楽観してよろしいというところまでは熟していないように思うのであります。いましばらく
様子を見ながら、
日本経済がしっかりした基盤の上に将来の飛躍を可能ならしめる
状態を実現することに努めて参る必要があろうかと思うのであります。私どもがこの点において特に注目しておるところを一、二申し上げますならば、第一は
企業の
設備投資がかなりの落ちつきを示し、また
生産も
横ばいないし若干の低下を示してきておるにもかかわらず、
金融機関に対する
資金の
需要は一向に衰えを示していないという点であります。これらの
資金需要の中には、
滞貨金融であるとか、あるいは俗に言う
減産資金とか、いわば
景気の
刺激要因とはならないものもかなり含まれておるようではありますけれども、反面まだ強気を捨て切っていない
企業もかなり多いように見受けられるのであります。
資金がつけば再び
投資を拡大したいという
意欲が、全然懸念なき
状態まで参っておるとは思っておらぬのであります。
次に、また
国際収支の
前途におきましても、昨年五、六月ごろの
貿易収支の
赤字が最も大きかったころにおきます
状態と比べますと、最近は
輸出入両面からの
改善ぶりが著しいのであります。中でも
輸出の伸張は、特に目立っております。
輸出が伸びた理由といたしましては、
一つには
国内でも
引き締めの圧力が、
輸出ドライブをかけたことがあげられるのであります。一方においては最大の
輸出市場であります
アメリカの
景況が、この点において
わが国に幸いしたことが指摘されると思うのであります。従って
金融情勢と
輸出意欲との
関係、あるいは
アメリカの
景況の将来の
動き等に関しましては、今後とも注意深く見守っていく必要があろうかと
考えるのであります。
いま
一つ注意を要する点は、近くその実現を控えております
自由化の進展に関連する問題であります。
わが国が本格的に
自由化を推進し始めましてからすでに二年余に相なっております。今までのところ比較的円滑に進められて参ったと思うのでありますが、今後はいよいよむずかしいものが最後まで残っておるという
意味において、むずかしい
段階に入ることを覚悟しなければならぬと思うのであります。それによって、従来
国内経済のうちに内包されておりました構造上の問題が表面化する場合もあるだろうと思いまするし、また
景気調整についても、一そう複雑なる
要因が入り込んでくるものと思われるのであります。今後の
金融政策の運営にあたりましては、これらのことについて
十分考慮を払って参る必要があろうかと
考えております。なお
国際収支は一応
均衡を回復し得たのでありますけれども、ここに至るまでの
外貨資金繰りにつきましては
米国の
市中銀行、
米国輸出入銀行並びに
国際通貨基金の支援を受けたところが少なくないのであります。
米国市中銀行借款につきましては、
外貨繰りの許す限りこれを返済して参りたいのはむろんでありますが、それが今の
情勢をもってすれば可能であろうと
考えております。これに伴って
国際通貨基金のいわゆるスタンドバイ・クレジットを実際に使用するかしないかという問題はなお今後数カ月の
推移を見ながら慎重に定めて参って
しかるべきであろうと
考えております。
以上、最近の
状況と今後の
見通しについて私の
所見を申し述べたのでありますが、要するに、今後は
景気調整のいわば一番大事な仕上げの
段階に入って参っておると思うのであります。ここ当分はなお
引き締めの基調は堅持する所存でありますが、
調整過程において生ずる必要以上の摩擦に対しましては、十分に配慮いたしまして、最も円滑に
所期の
目的を達成し得るように十分配慮して参りたいと
考えておるのであります。
以上、概略でございますが、当面いたしまする
情勢についての
所見を申し述べた次第でございます。