○春日
委員 私は、民主社会党を代表いたしまして、
産業投資特別会計法改正案に対して、ここに反対の意思を明らかにいたします。
本案は、第一に、
ガリオア・エロア債務の支払いをこの会計の負担とすることとし、また第二に、一般会計から二百三十億円を受け入れて、
日本輸出入銀行、
農林漁業金融公庫等に投資するための
資金といたそうとしておるのであります。私
ども民社党は、前
国会におきまして、
ガリオア・エロア返済協定に関する
政府案に反対の態度を表明しておりますので、その反対したる
返済協定に基づく国内
処理法たる本改正案に対し反対することは当然のことであります。しかしながら、最近における
わが国産業事情の推移に徴し、この産投会計がになう財政投融資の使命がますます重要性を加えつつある現状を重視し、この際は産投会計そのものの機能を確保するためと、しこうして法体系を擁護し、政策秩序を確立することを論拠として、ここに反対の理由を明確にいたしたいと存じます。
わが党がこの改正案に反対する第一の理由は、本改正案は財政法の規定に違反し、財政法の精神をじゅうりんするものであるからであります。ここに産投会計法こそはもっぱら
経済の再建、産業の
開発及び貿易の振興のために、国の財政
資金をもって投資を行なうための制度であるのであります。しこうして、財政法第十三条二項の規定するところによれば、「国が特定の事業を行う場合、特定の
資金を保有してその運用を行う場合その他特定の
歳入を以て特定の
歳出に充て一般の
歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、
法律を以て特別会計を設置するものとする。」と規定しておるのでありますから、従ってこの産投会計は、産投会計法第一条が明示するその目的を純粋に遂行するために確保せらるべきものであり、かつその
条件のもとに制定されておると思うのであります。しかるに本会計に対して、
ガリオア・エロアの対米
債務の支払いを行なわしめんすることは、全くこの産投会計のと目的と何ら
関係のない
異質の任務を押しつけるものであって、このことは限られたる本産投会計の
資金力の中において、当然二律背反の相剋を生ずることは明瞭であります。この
意味におきまして、本改正案は明らかに財政法の規定に全く違反し、財政法の精神をじゅうりんするものでありますから、
国会は財政制度の秩序を確保するために、このような悪例を設定することは絶対に避けなければなりません。これが反対する第一の理由であります。
反対する理由の第二は、すなわち、この改正案は、当然の帰結として、対米
債務返済額をこの産投会計の
資金から減殺することになり、そのことはおのずからこの産投会計の機能を著しく阻害することになるからであります。ここに産投会計の運用の実態を見ますると、この会計は出資が中心となっており、収入は
開発銀行よりの納付金が主体となっております。従って、
開発銀行よりの納付金が計画
通り納付されたといたしましても、それは本産投会計の使命たる産業投資を行なうために必要欠くべからざる
資金として、これは産投会計の運用のために確保されなければ相なりません。特に海運、石炭産業等、開銀に莫大な
債務を持つ基幹産業に対しては、それら各企業の経理を建て直し、これを再建整備するために、今後開銀の機能は大幅に増大されなければなりません。現に、海運事業に対する債権利子の一時たな上げ法案が提出されておりますが、このような政策の方向は今後海運、石炭、非鉄金属の三業種に限っても、今や国はこれらの産業に対し、根本的な施策を講ぜざるを得ない必至の段階に立ち至っておると思うのであります。すなわち開銀の機能はますます強化されなければ相なりません。かくのごとき産業の現状と政策背景の中において、この産投会計に対し、事あらためて対米
債務支払いの負担を負わせ、二千八十五億の
資金力を削減せんとするがごどきは、
国民世論とその政策の動向に逆行するの最もはなはだしきものであって、まさに無定見にして無
責任きわまる態度と断ずべく、かくのごときことはわが党の断じて容認し得るところではありません。これが改正案に反対する第二の理由であります。
本改正案に反対する第三の理由は、この改正案は法の体系を乱し、政策の秩序を混乱に陥れるおそれが甚大であるからであります。申すまでもなく、産投会計は投資を目的とする会計であります。しかるに対米
債務をこの会計の負担とするという改正規定は、この会計の目的に背馳し、かつそれは両立しがたいものであります。およそ
法律秩序は厳然として首尾一貫したものであるべきであります。よってもって法の体系は厳粛に確保されなければ相なりません。これは立法府が
国民に負う至大の責務であるのであります。もしそれここに、対米
債務ありとして、これに対し、これを
処理するための
法律秩序を求めるといたしますならば、それは当然賠償等特殊
債務処理特別会計法によるべきであると思うのであります。すなわち、賠特法第一条は、本邦が連合国に対し、連合国の軍隊による占領に関連して負担する
債務で平和の回復に伴いその支払いを要するものの
処理に関する特別会計を設置する云云と明記しておりますことは、
ガリオア・エロア債務のごとき
債務を
処理する場合のために用意されたものであることは、いささかも疑いの余地のないところでありまして、この賠特会計法第一条に明示されておる性格の
債務を、ことさらにこの賠特会計によって
処理しないということは、むしろ賠特会計法に違反する処置と申さなければなりません。
かくて、この産投会計改正案は、二重、三重に法の体系を混乱せしめ、
法律の機能を幾重にも重ねて阻害する希代の法秩序破壊の立法であるのであります。かくのごときは、
議会主義を至上の政治方針とし、法秩序の維持を最高の党是とするわが党の断じて容認し得ざるところであります。
以上主たる反対の理由を申し述べました。すべからく
政府に猛省あって、本改正案については深甚なる考慮を加えられ、さらに善処あらんことを強く要望いたしまして、私の反対討論を終わります。(拍手)