○
山中参考人 お指図によりまして、簡単に、私
どもの
研究会でいたしました
仕事につきまして御
説明申し上げたいと存じます。
最初に申し上げたいと思いますことは、私
どもの
研究会は法律に基づく
審議会等とは違いまして、学界の
研究者の集まりでございまして、当初、先般なくなりました
藤林慶大教授も
メンバーに入っておったのですが、病気で参加できなくなりました。私のほかに
江幡清、
大内經雄、
大河内一男、
近藤文二の四人の方が御
一緒に
研究に従事したわけであります。そのほかに、
専門的メンバーとしまして
一橋大学教授の
石田忠君にも参加を願ったわけでございます。従いまして、
通常の
審議会のように、会を
代表いたします
代表者というようなものはございませんで、私も、ただいま便宜上だれか一人が
説明しなければなりませんので、簡単に
説明の衝に当たらせていただいておるという形でございますので、これもお
含みを願いたいと存じます。
それから、私
どものいたしました
仕事は
失業問題についての
研究ということでございまして、私
どもそれぞれ、みなかねてから多少やっております
仕事もございまして、労働省の委嘱もございましたけれ
ども、この夏を
含みましての約数カ月の間だけしか時間の使用が不可能でございましたので、その間に
研究するということで、広く
失業問題についての
分析をすることを取り上げたわけでございまして、ある特定の何か
結論がありまして、それをどうしたらいいかということを取り上げる、あるいは委嘱されるということは当初からございませんでした。この点もお
含みをいただきたいと存じます。
それから第三点といたしましては、
失業問題の
研究でございまして、いわゆる失対
事業の
研究も含まれるわけでございますが、しかしそれは、
失業問題の
研究の中で出てくるという形で失対問題の
研究をいたしたわけでございまして、そのような
意味合いからいたしまして、できるだけ具体的に、現在の
日本で
失業の問題が
現実にどうなっているであろうかということの
調査、
現実の把握ということを
中心にいたしました。従いまして、短い時間でございましたが、私
どものグループの
研究の
仕事の
通常のほとんどすべての
部分というのは、事実の
調査に費やされました。従いまして、それは
報告書といたしましても、正式の
研究報告というもののほかに
参考資料を別に添えてございまして、その
参考資料の
部分が、実を申しますと私
どもとしましては大
へんに大事な
部分を占めるわけでございまして、私
どもが把握することのできました事実を基礎にいたしまして、その中からおのずから比較的簡単にまとめてございます
調査報告というものの
結論が出てきたという形を持っております。印刷が別々になっておりますので、多少その点お見にくいかとも存じますけれ
ども、私
どもとしましては、その
参考資料の方が非常に大事な
立論の
根拠になるのでありまして、そういうものは別につくりましたので、一々これを本
報告と申しますか、短くまとめました方には引用してございませんけれ
ども、その
立論の
根拠は全部そちらにあるわけでありますので、これを一体としてごらんいただきたい、こういうふうに存ずるわけであります。
それから、もう
一つ御了承いただきたいと思います点がございますが、それは、繰り返しますように
失業問題の
研究でございまして、要するに、働く力も意思もあるわけでありますが、残念ながら
通常の
職場に、
職安等のあっせんを通じましても
就労できない
失業者を、どういうふうにして近代の
社会経済政策の中で取り扱ったらいいかということが
中心の
問題対象になるわけでございまして、その
意味で、私
どもの
研究は、現在の
日本の
失業問題全体ということを取り扱わなければならないわけでございます。ただ、その
日本の現在の
失業対策のいろいろな
仕組みの中で失対
事業という、これは非常に特殊なものでございますが、とにかく全国で三十五万人、その家族にいたしますと大体百万人をこえると思われます
方たちのために失対
事業というものが行なわれておりますので、つまりこの
日本の
失業問題の非常に特殊な
実態がその中に現われておりますので、これを
分析するということを通じて全体の
失業問題をうかがう、こういう
手続をとることが実際的でもあり、一番手っとり早かったということがございますので、おのずから、事実上の結果といたしまして、
失業問題全体の
分析が私
どもの
対象であったわけではございますが、それをながめます
一つの
手続として、失対というものを大
へん重要に見たという結果になっておりますので、これも御了承を願いたいと思います。これは
手続上の
過程があったわけでございますが、いろいろの
研究上の便宜もそのために出て参りましたことは、否定できないと存ずるわけであります。
大
へん前置きが長くなったようでございますが、こういうような
幾つかの前提の上で私
どもの
仕事をいたしました。率直に申しますと、私
どもはいずれも
研究者でございますので、
研究上の習性と申しますか、たといどのように些少なことでございましても、
意見が一致しない場合は
意見が一致しないと言うのが私
どもの習慣であるわけであります。そういう
意味で、この
仕事が始まりましたときに、参加しました私一員として、おそらく
最後の
結論というのは
幾つかに分かれるのだろう、こういう予想を持っておりましたところが、ただいま申しましたように、五月ごろから始めまして九月の終わりに
結論を出したわけでありますが、八月ごろまでは各地の実地の
調査なりいろいろな
資料の整理、それから聞き取りなり、いろいろな
調査を行なったわけでありますが、その
調査のデータを整理する、あるいはそれを集めるということが
仕事の大
部分でございましたので、その間、われわれの
仕事の進め方としては、ほとんど
意見というようなものは、どういうふうに
対策を立てたらいいかということは全く触れずに
仕事を進めて参ったわけであります。そして私
ども、この
仕事を始める前から、多少とも
日本の
失業問題の
実態その他につきましてそれぞれの立場から
研究はしておったわけでありますが、最近の新しい事実というものは、もちろん十分まだ手元になかったわけであります。そういうものが、ただいま申しましたような
調査の
過程でかなり蓄積されました。これを整理して
最後に、ではどうしたらいいだろうかという話をする段階になりました際に、非常に私
どもの予期に反しまして、かなり
意見の一致がそこでおのずから生まれてきたわけです。それが結果として「
失業対策問題調査研究報告」というものになりましたわけでございまして、ここでおのずから一種の、共同に到達した
一つの見方と申しますか、それを簡単に申しますと、
失業問題というものを取り上げた場合の重要な
中心問題は、それは
失業者に対して、働く
場所をいかにして確保するかということに帰着するわけでございます。そういう点から見ますと、現在、ずいぶん前から、御
承知のように
職業安定行政というものがございます。それから特に最近のことを考えますと、世界的に行なわれております
社会保障の一環でございますが、
失業保険制度というものもある。それから沿革的には、それと相前後いたしまして、現在まで十数年続きました、いわゆる
失業対策事業というものも行なわれておるわけであります。それからそのほかに、最近だいぶ熱心に取り上げられるようになりましたが、全体としてはやはり多少おそかったと思いますが、いわゆる
職業訓練というものがつけ加えられてきておる。これが、ごく大ざっぱに申しまして、現在行なわれております
失業者に対する
働き場を与える与え方としての対応の仕方というふうに見ることができると思うわけであります。
これらのいろいろの
やり方というものは、それぞれの
特色がありますことは私があえてここで申し上げるまでもないと思いますが、その
幾つかの方策の中で失対
事業というのは、これは一番直接的に、
働き場のない人に積極的に働く
場所をつくり出して与えるという
やり方を取り上げておるわけでございまして、それは
失業保険とも違いますし、それから
職業訓練とも一応は違いますし、もちろん政府のいわゆる
一般の
職安行政とも違うわけでございます。この失対
事業というのは、これも申し上げるまでもないことでございますけれ
ども、いわゆる低
賃金原則というものを取り上げまして、実際ここで働かれる方は、ただ
通常の
職場での
雇用がないので、しばらくここで働いて正当な
雇用の場を発見する、こういう
意味で、
つまり外へ出ていくのが
建前ということで、低
賃金原則というものが
制度上とられてきたわけであります。それからまた、
就労したい方に
就労させるという
意味合いの上で、多少
社会保障的な
考え方、つまり救済的な
考え方が初めから入りまして、それがいわゆる
現行法できめております
適格要件というものになりまして、単に
失業者でなく、世帯の主たる
担当者という
要件がつきまして、それからまた、
土木事業を一本でやる、そのほかのものはやらないということがつきましたり、いろいろの
仕組みがそこについて今日まできたわけであります。ところが、実際上の
効果を見ますと、これは
報告書の中にございますので一々申し上げる必要もないと思いますけれ
ども、いろいろと実際上の
効果を生んでおることは否定できないのですけれ
ども、それにもかかわらず、各種の批判がだいぶ最近は強まってきておるというのも事実でありまして、さらに、その当初の
目的から申して、その営んでおります
作用を見ます。どうもその
作用の方についてもいろいろとその当初の
目的にこたえ得ないような
状態も生まれておる。特に失対の
調査をいたしまして私
どもとして非常に強く感じられましたことは、現在の失対
就労者のうちの半分は前
職雇用者の方ではないのであります。そして業主あるいは
無業者の方が失対
就労者の中に入る。そして
残りの半分の前
職雇用者の方を見ますと、その五〇%ほどの
雇用者の中で、三〇%ぐらいしか
失業保険の
受給者であったということもないのであります。つまりここには、
日本の現在の
労働市場のむずかしい
特色と考えられますものが非常にはっきり出ている、こういうようなことを感じたわけでございまして、そういうようないろいろ複雑な
事情を考え合わせますと、十数年前に始められましたシステムのそのままで推移し、しかも内容の性格がはっきりしておりませんでしたために、いろいろとまた
あとから複雑した要素がくっついて参りまして、そのためにいろいろとやりにくい点、それから成果のうまく上がらない点も生まれておるのではないだろうか、こういうふうに考えたわけでございます。
そして現在の失対の
就労者の中身の示します
失業者層を見ますと、ごく一
部分には
——少数でございますけれ
ども、一部には、私
どもが考えましても、そういう方が
土木事業で
屋外作業に従事しておるということは、これは人道的にもどうも看過し得ないのではないか。つまり
身体障害者の方でございますとか、それから
年令の非常に高い方、記録によりますと八十三才になる方が現在失対で働いておられるそうでございますが、もちろん元気でおやりになっているのだろうと思いますけれ
ども、しかし、とにかく現在の
日本の
社会保障制度が不十分でございますために、そういう方が、一体失対
就労者として
屋外の
土木作業に従事しなければ暮らしていけないという
事情がありますようなことは、私
どもとしましても、何とかこれはそうでない道をとるべきではないか、こういうふうにも思われる。そういう方も中にありますが、しかし非常に多くの方は一応
就労の可能な方であり、それからまた、一
部分の方は
一般民間の
事業に従事いたしましても十分活動できる方が中に含まれておるのではないか、その
割合は必ずしもはっきりいたしませんけれ
ども、大多数は比較的にその技能は低うございますし、
年令も高い方でございますが、しかし、とにかく一応御
本人たちも働いてみずからの生計も立てたい、こういう
希望を持っておられる方であります。ただ、そういう
方たちの
通常の
職場がなかなか得られないというために、失対
就労者として働いておられるということがかなりはっきりして参ったわけでございまして、そういう
方たちを
中心にいたしまして、とにかく今までの
実情から見ますと、外部へ出て常用化される方も相当ございますし、そういう
希望をお持ちの方も決して少なくないわけでございますけれ
ども、現在の
通常の
労働市場の
状態でありましては、現在失対
事業の中で発見されます非常に多くの
部分の
失業者の
方たちには、やはり容易に
雇用の場が発見できないのではないか。そこでこのような事実の指さします方向は、これらの人々のために、やはりある程度その
就労の場というものを、
救貧制度でなく、つくり出すべきではないか。現在の
適格条件とかあるいは
低率賃金の
原則というようなものはやはり不適当であって、そういうものを除きまして、そしてこの
就労の場をつくり出す。現在、十年選手というふうな言葉で呼ばれておりますような方もすでに相当おるわけでございますので、そういう事実を率直に受け入れて、その失対
事業を有効に行なうべきではないか。ただ
土木事業だけに限りますことはいろいろの支障もございますので、これはやはり
地方自治体の
自主性をできるだけ生かしまして、
労働者の
能力を生かしますような
配置、従いまして、その
配置も考えまして個々の方の
能力を十分生かして、ちょうどあの戦時中の
護送船団のように、一番
能力の悪い方に全部右へならえをさせられてしまうような
状態が起こらないように、いろいろと工夫をしてやっていただくような道をこの際考えるべきではなかろうか。もちろん、そのためには国も財政的な援助を怠ることはできないであろう。
地方自治体の方からもいろいろの御議論があるのでございますが、しかし、この
失業の問題は国も取り上げなければなりませんけれ
ども、やはり
地方の、何と申しますか、
社会がこれを取り上げて改善の
責任をとらなければならない問題でございますので、そこはやはり積極的に問題に対面していっていただきたい、こういうふうに考えるわけであります。
ただ、御
承知のように、たとえば北九州のように
失業者が多発いたす
地帯もございます。それらの
地帯をその
地域だけの
責任において、あるいは主としてその
地域がこれに立ち向かうというようなことは実際上できない面も相当ございますので、それらの特別な
地域につきましては、もちろん他の
地域とは違いまして、国が
相当肩入れをしなければならないということは申すまでもないと思うのでございます。しかし、この失対
就労者の
実情を通じまして私
どもが痛感いたしますことは、失対
事業だけで問題を解決するというようなことは、これは本来初めから無理なことでありまして、
失業問題に対応いたしますためには、現在の
職業安定行政というものを根本的に立て直す必要があるのではないかということも、
一つ私
どもの
共通に
結論といたしました点であります。
それからもう
一つは、先ほ
どもちょっと簡単に触れましたが、本来
雇用者については
強制加入というのが
建前であるはずの
失業保険というものが、失対に流入して参ります
就労者の方の
実情を調べますと、
全数のうちの半分は
無業者であったり、あるいは
自営業者でございますから、本来
失業保険にかからぬわけでありますが、せめて
残りの半分が、
全員失業保険にかかっておれば多少
事情も違ってくると思われるにもかかわらず、そのうちのわずか三〇%、従いまして、失対
就労者の
全数からいたしますと、一五%しか、
失業保険というこの非常に合理的なものがあるのにその
作用を受けていないという
実情などは、私
どもとしては、やはりどうしても看過するわけに参らなかった
実情でございます。のみならず、
失業保険だけでも、ただいま申しましたように失対
就労者の層から理解されます
失業者数の半分、つまり
自営業者とか
無業者、これらの
方々には、
失業保険というものすらも実はなかなか適応できないような層でございまして、そこに
日本の
社会における
雇用問題の基本的なむずかしさがあるというようなことを、やはり十分考えて対応していただきたい。
それからまた、私
どもが
通常の
考え方からいたしますれば、これだけ高度に発達した
日本の
社会であるとするなら、
社会保障制度によって老後を一応曲がりなりにも過ごすことができる、あるいは
身体障害者等の方で、働かないでも何とか済ませられるというような
社会保障制度があるべきだと思うのでございますが、そういうものが不十分でございますために、失対
就労者の中に、私
どもがあることを予期しなかったような、そういう方が、
少数ではございますけれ
ども発見できるということは、これは
失業保険を含めまして、
日本の
社会保障制度が著しくやはり足りないところがあるのではないか、そういう点をそのままにしておいたのでは、この
失業問題、もちろん、それからまた、その中の
失業対策というようなものも十分にはできないということになるのではなかろうか。ことに一部の
地方に参りますと、失対の
賃金でも非常に
自分たちにとっては
割合に有利な
賃金だというふうにおとりになる方があるので、これは
日本のやはり
最低賃金制度というものが、
一般的に確立されてないということからくるのではなかろうかということも考えないわけには参らないのであります。
そのほか、全般といたしましては、
完全雇用というものが
日本では十分にまだ実現されていないのではないか。公の統計によりますと、いわゆる
顕在失業者の
失業率というものは少なうございますけれ
ども、しかし、やはりいろいろと問題が実際はあるのでありまして、そういう点につきまして、
完全雇用、それから
最低賃金制度の確立というようなことも、他方においては十分に行なっていただかなければならないのではなかろうか、こういうようなことを失対
事業の周辺において発見いたしましたわけであります。
ただ、申し添えますけれ
ども、たとえば
社会保障制度の
問題等につきましては、幸い私
どもの
研究の
仕事が行なわれておりましたときに、並行いたしまして
社会保障制度審議会の方の詳しい答申も出ましたので、そういう
方面の問題はもちろんそれらにこまかいことは譲りまして、あえて一々こまかくは触れないということを
報告書ではいたしておきましたのですが、その問題の性質から申しますと、非常に
関係が深いそれらのものと見合わせて、全体の
日本の
失業問題の
対策は立てられなければならないであろうし、失対
事業というようなものもその中で考えられなければならないであろう、こういうようなことを、私
どもの
仲間の
共通の
結論として取り出したわけでありますので、この
報告書には、先ほど申しました、あらかじめお断わりしましたような点は特に取り上げませんでございました。それを主として簡単に、私
ども仲間の
報告の御
説明を申し上げたわけであります。
当初に申し上げましたように、私は
代表ではございません。ただ、たまたま便宜上私から御
説明申し上げたのでございますが、本日は、私
どもの
関係しております学会が名古屋大学において今明日開かれておりまして、
大河内さんはそちらの方へお出かけになって、きょうお見えいただけませんでしたけれ
ども、
あとお二人がここに私と
一緒に来ていただいておりますので、どうぞ私だけでなく他の方のお考えをお聞きいただきたい、これをつけ加えさしていただきたいと思います。
なお、もう
一つつけ加えさしていただきたいのでございますが、
江幡委員は今、
日本にはおりませんので、きょうはここに御
一緒願うことができなかった、これも御了承願いたいと思います。
非常に簡単でありまして、もしまだ申し上げ足りない点がございましたならば、時間の範囲内で御
説明申し上げさしていただきたいと思います。
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