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公述人(木内
信胤君) 私は、きょう、ここへ来て何か話せという御注文を受けましたときに、実は今の
予算については、あまり勉強していないから、私が申し上げることはあまりないと申したのですが、ところが、世界
経済との
関係において、むしろ、現在の世界
経済の動き、そういう
ものを話せというような御注文がありましたので、それで、あえてお受けして出てきたわけですが、したがいまして、私は、今度の
予算に関しまして、あまり関心がないのですが、しかし、世界
経済との関連もやはり申さねばならぬと思いますから、
予算に関する私の見解見解というほどの
ものではございませんが、感想を
——立場ですか、
立場を一通り申しておきますと、私は今度の
予算には、あまり問題を感じません。と申しますのは、深いところだったら、こまかいところだったら、大いにあると思います、けれども、それは、私の今の仕事に
関係がない
ものですから、深いところは、よく知らない。もっと改良の
余地はあるのでしょうけれども、それはわからぬ。大局的に見まして、
予算は大型だったらいけない。今、
日本は外貨で苦労しているのに、こういう大型
予算を組んでは、それはインフレ的な傾向を助長するからいけないといったその大局観は気になりますから、私も注意しておりますが、それには私は、あまり問題は感じないのです。その説明は略しましょう。
そこで、ただし、じゃあこの
予算に対して、あまり研究はしていないのかもしれないが、どう思うかといったら、あまり高い点をつけるつもりはございません。しかし、それでは野党の方が反対しておられる、あるいはいろいろ御意見を言っていらっしゃる、そのほうがいいのかというと、そうではないということも、あらかじめ申しておいたほうがいいかと思います。
ところで、今の
日本の
経済は、
予算という
ものが出ますと、
予算にばかり引きつけて
ものが論じられるのは、
日本国における
一つのまずいことだと思います。だんだん
予算という
ものの国家
経済における重要性という
ものは実は減っているのだと思います。ことに現在においては、私は今の
政府の
政策に非常に批判的でありまして、いろんな書き物を出しておりますが、たとえば文芸春秋の正月号なる
ものに論文を書きましたが、あそこで言うておりますように、実は
日本の
経済は、とんだところへきている
ものだと考えている人間です。それに関しては、倍増計画の打ち出し方にまずいところがあるのだという私は意見でございますが、倍増計画その
ものに関しては、
産業計画会議の
援助を受けまして、ことに六人の方がサインをして下さったのですが、その方々とともに、倍増計画を批判するというパンフレットも書いおりますが、それらに示しましたとおり、相当批判的です。
しかしそれは、一口に言えば
日本人の、
日本国民の
経済力という
ものは、その
発展力から見まして非常な力があるのですが、その力を知らなかったのは、ついこの間までで、それを急に気がついて倍増計画ということになってきたのですが、その
発展力を持ち扱いあぐんでいるような格好であると思います。
日本の
発展力という
ものを、うまい姿で
発展さしていけばいい
ものが、気がついて早々ということもありますが、うまくいっていないということになるのでありまして、文章に書けば、ずいぶん激しい批判の言葉を使いますが、まあ公平に第三者として点をつければ、そう今までと比べて、社会党の方にはお気にいらないだろうけれども、申しますと、社会党の方がおっしゃっていることに比べて、ひどく悪い点をつける必要はないと思います。しかし、これは直らなければならぬのでありまして、そこらの
一般経済政策問題には非常に問題を感じますけれども、それと
予算との
関係という
ものは、必ずしも密接でないのであって、むしろ間接ではないかというふうに考えているのです。これが、私の
予算問題に対する大体の
立場ですから、そういったような考え方に立って、それが間違っていれば、それまでですが、そういうベーシスで聞いていただきたいと思う。
そこで御注文の世界
経済について、どういうことを感ずるのかという点ですが、私は世界
経済に対しては、今、
日本国全体に非常に誤解が多いのであって、問題なきところに問題を感じ、ことに
心配する必要のないところに
心配を感じてやきもきしている、あせっているというのが大体の姿だと思います。
そこで今の世界をどう見るべきかということ、ことにどういうところに、問題なきところに問題を感じていると私が考えるかを、ちょっと申し上げますと、たとえば
アメリカです。
アメリカの景気の動向というのを非常に重んずる。これは誤りなんです。
アメリカの景気の動向というのが騒がれますけれども、
アメリカではそれは非常に何と申しますか、ジャーナリズムをにぎわしたり、あるいはみんな一生懸命考えたり、
議論したりいたしますけれども、これは実にこまかいところに話があるのであって、それが世界に
影響し、
日本に
影響するにはするでしょうが、それが
日本国においては非常に過大評価されて、気にし過ぎると思います。その証拠には、
アメリカのほうは非常に不況になるはずであったのが、ケネディが出て間もなく、ケネディ自身の言葉に反しておりました。彼がまだ大統領選挙戦に戦っていたころは、共和党の
政策は非常に悪いようなことを言って、これではたいへんなことだと言っていた。御自身がお出になってからであったのでよかったような
ものですが、あまりまだ何もなさらないうちに、
アメリカの不景気が終了してしまいました。そういうふうに、予想という
ものは非常に違いますし、その不況の間、
日本が非常に困ったんでもなければ、好況になってきたからといって非常にいいわけでもない。そこらはどうも自己の分析が足りないので、原因を他に求めるようなところがありまして、いつも人に話を持っていく。これは一種の逃げですね。これは
政府が逃げているという意味じゃありません。
国民のインテリ層全部がそうだと思いますが、そういう
関係にあると思います、というのが、世界に対する私の感じている誤解の
一つです。
次に大きな
ものは、EECですが、EECが、まるでこつ然として現われたような、それがえらい強い
ものになって、
アメリカさえ脅威を感じておるようなふうに
国民に伝わるんですが、これは全然違うんであって、EECは、もっとゆっくりした歩みで歩んでおる
ものですし、何もEECだけ、あの六カ国だけが団結し、団結というより
ほんとういうと、
経済一体化ですが、
経済一体化しているんではなくて、けんかしておるように見えておる、英国ともけんかしておるような際に
——このごろは加入を申し込みましたので、けんかはやめたような姿に見えますが、けんかしていると思われた最中でも、
経済のとけ合い現象、一体化現象が進んでいるんです。これを、ですからなぜそういうふうになるんだという大きな見地から見ていただけないかというところが、EECに対する誤解ですが、特にEECは、排他的グループだということが非常に宣伝されて、だから、
日本はたいへんなんだという認識がはびこっていますが、それが非常に強いのですが、だからたいへんではないんで、EECはその全面において、
日本から見れば非常に喜ぶべき現象です。またEECだけが特別な
ものではない。
アメリカとカナダ、あるいは
アメリカとカナダを合わしたヨーロッパとの
関係、あるいは当
日本国との
関係においても、そのとけ合い現象、一体化現象は、しんしんとして進んでいるんで、けっこうだと思います。ですから、これをおそれずに、たいへんだという認識を捨てて対処するのが
ほんとうだと思うのですが、そこらのところが違っているように思います。
この問題は、もう少し深く申し上げますが、その誤解ですね、問題なきところに問題を発見してじたばたする、非常にあせるというのは、EEC問題において特に激しいと思う。そういうことを地域統合という言葉で呼んで、
日本は、そのらち外だからたいへんだということは、東アにそういうOAECですか、それを作れとか、あるいは太平洋地域を作れという思想になって出ますが、それはそれとして悪いとは言い切れませんけれども、EECができたから、こっちも作るんだという考えで考えられたら、これは必ず邪道に陥るようになると思います。
次は、後進国ですが、後進国に関しては、後進国がどうだからたいへんだと言うとか言わないの誤解は、ないと思います、何となれば、後進国は、すべてあまりよくいっていないのであって、ですから、後進国がこうなってきたから、
日本はたいへんだという感じは
日本国にはあまりないと思いますが、ただし後進国が
日本の舞台だという感じがあって、アジアが
日本の将来だ、そこにはヨーロッパ人は入って来ては困るような印象で考えておるような人もあるし、そこでヨーロッパ人に負けたらたいへんだという考えでおる考え方もありますが、これらの
ものも違うと思います。
そういったようなことで、世界
経済に関する、世界の動きに関する誤解が非常に多い。それは一口で言えば、繰り返しになりますが、問題なきところに問題を感じ、必要のない恐怖観念みたいな
ものをつい持ちたがるという格好になっておると思います。ですから、そこを除いていただくことが私は正しい理解であろうと思うのです。
そういう
関係から見ますと、今の世界
経済の動向という
ものをお前はどう見るんだという、私の見ております世界
経済の動向を申し上げることが一番端的で早いと思いますから、それを申し上げますが、今の世界で私は大きな動向に三つあると思います。
第一点は、世界の
先進国、
先進国という
ものは十幾つしかないと思います。十四、五を数えれば、それでいいと思いますが、
日本は堂々たるその一員ですが、上のほうに位していると思いますが、その十四、五の国という
ものは、今申しましたEECがそれをシンボライズしているように、非常な勢いで一体化しつつあるんです。相互た解け合い現象を始めている。これが今の世界の非常な大きな態勢であって、なぜそうするのかということは、よく
新聞にありました。今でもそれを信じている人が多いでしょう。EECという
ものは、ヨーロッパが
米ソの谷間に入ったから苦しまぎれに作ったというあの感じ、これは全然違うのであって、
米ソの谷間という
ものは存在しないんです。軍事的には存在しますけれども、ヨーロッパは谷間におりましたけれども、ヨーロッパは軍事的には
アメリカ側のお金をもらっている連中ですから。
経済的には谷間意識がないと思います。ヨーロッパが戦後の疲弊のどん底にあったときといえども、ソ連よりは、はるかに上です。今日もそうですが、その
関係は、ますます差は拡大すると思いますが、のみならず、ヨーロッパ人の意識において、ソ連を
経済的には眼下に見くだしていますから、谷間意識は彼らにはないんです。その谷間意識が彼らにないにかかわらず、谷間に入って苦しいから作ったという見解を勝手に想像して作り上げて、それで、そうだと思い出すと、一人が言い出すと、みんながそう言う
ものだから、そうだと何となく人が思うというのが、そもそも間違いのもとだと思う。なぜEECができたということは
——EECに限らない、なぜ
先進国は、今一体化しつつあるかというと、こないだの戦争までは、第二次戦争までは、いわゆる列強という名によって呼ばれた国々、世界のリーダーですか、それらの連中は、相互に実にたびたび戦争をしてきた。平生も、平和なときも、いざという場合には戦争だという建前で国をなしていたのが、あの戦争を境にして、フランスとドイツをごらんになればよくわかるように、あるいはドイツとイギリスとをごらんになってもわかるように、相互の戦争という
ものは一切なくなったんですね。それは私は、人類の文明歴史という
ものが一段上の段階に出たということだと思います。そういう大きな思想的といいますか、人類の大きな歴史という
ものが、あの激しい戦争を境として、確かに一段上に出たんだという事実があるから、彼らは相互に戦争をする建前で平生から国を経営してきたということをやめましたから、たいへんな変化ですが、だから、それがそうならば、EECというのは、その中の偶然です、偶然、六カ国が境を接していて、話をすれば相互によくわかる、文化的レベルは同じだということにおいて、彼らが一緒の組合を作っただけであって、この動きという
ものでは、ですから、イギリスとフランスとの間にも、イギリスとドイツとの間にも、あるいはその他のヨーロッパ諸国との間にも、あるいは
アメリカとヨーロッパとの間にもある。この現象は、
日本人は、そういうふうに自覚していないかもしれないが、
日本といえども同じことです。ですから、すべての進歩した国という
ものは、今の歴史の新段階に入ったことによって、その
経済を解け合わせる必然性を持っている。それはやがて、ヨーロッパが新しい大ヨーロッパという
一つの国のような、
アメリカ合衆国のようになるかもしれませんが、必ずしも、そうなるからEECができるとは思いません。なってもならなくても、今の
経済の一体化は進行をしているのだ。それが、六カ国のEECが
——これは
一つの偶然だと申しましたが、偶然にもっと大きなヨーロッパ国になるかもしれませんが、それとこれとはちょっと違う話ですね、とにかくEECという
ものを、そういうふうにお考えになって下されば、
日本といえども、
先進国である以上、また昔の列強であった以上、当然その波に乗っているはずですね。この波に乗るということは、そうむずかしい芸ではない。それを、なだらかに乗っていけばいい
ものを、むずかしく考えて、やつらがブロックを作るからたいへんだというように考える。これが非常な間違いですね。
EECは誤解を起こすわけがあるので、彼らの仲同士は、たとえば関税に関しては、やがて無税になりますから、ですから、たとえば、ドイツを相手として、フランスからドイツへ
輸出したい、
日本も
輸出したいといって、ドイツを相手にフランスと
日本が
競争関係にあったとするなら、
向こうは無税、こっちは有税ですから、幾ら下げてくれても、やはり税が残るとすれば差別がありますから、やはり負ける、こういう
関係になります。ですから、彼らは排他的ブロックだからたいへんだという認識に多くの方がなるんですけれども、その点をとらえれば確かにそうですけれども、何もフランスがドイツへ
輸出する、
日本が
輸出する、その面で負けたとて、
日本としては別に差しつかえないので、
日本として問題は、EECを打って一丸とした全体に対して、思うように
輸出が出るか出ないかということが問題でしょう。その見地から見るならば、彼ら同士の
関係と、
日本との
関係に差があろうとも、差がありながら、すでに
日本の彼らに対する
輸出は盛大に進みつつあるのですね。この事実
一つごらん下すっても、EECに対する誤解という
もの、あらぬ恐怖観念という
ものをすっぱり除いていただいていいと思います。
それは、どのくらいふえているかというと、これは私が探し出した数字ではないので、この間、佐藤通産大臣が経団連ですかへ行って、最近にお話になったそうですが、そのときにお話になった数字を、私ちょっと原稿を拝見する機会に恵まれたので、その数字を知ったのですが、それに出てきます数字は、EECが活動を開始したのが一九五九年ですが、その前の五八年と昨年の六一年とを比べてみまして、
日本のEECに対する
輸出は六割六分になっているのだそうですね。その間における、その三年間における
日本の総
輸出という
ものは三割六分伸びているのだそうです。ですから、ほとんど倍に近い
ものがEECに伸びているのです。その間
日本人は、EECができたらたいへんだ、差別的ブロックができたといって、不平を言っていたけれども、そのように
日本は伸びているので、
輸出が彼らに対して伸びているということは、もちろん彼らの繁栄の結果ですが、だから、ここにそういうブロックができて、今までの戦争のかまえを捨てて、解け合い現象を起こしたこと等々、いろいろな理由から、ここに非常な
経済発展があるということは、
日本から見れば非常にうれしいことです。
アメリカの繁栄という
ものは
日本のじゃまではなくて、
日本にとっては非常にいいことであったと同じことになると思います。
そこで、今これはEECが、なぜ
発展するかということにもなるのですけれども、今世界の大勢として、
先進国が
経済を一体化させたという事実、その事実の内容を見てみますと、ここに、もっともっと大事なおもしろいこと、しこうして、
日本人として喜んでいいことがあります。それは何かと申しますと、彼らの中において、国の大小、国の中に資源があるなしにかかわらず、
生活レベルは同じだ、同じになりつつあるということ。EECの中では、オランダという国は小さい国で、
国内資源は御
承知のとおりゼロに等しいですね。石油もなければ鉄もなければという国ですね。ただ、平ったい、ともすれば海の水が入ってくるかもしれない畑もたくさんあるといったような、つまり貧しい天然資源しか持っていない国ですが、そのオランダの
生活は、西ドイツと比べて、あの世界からもてはやされている西ドイツと比べて、少しも遜色がないのです。その西ドイツを含めて、EECの全体は、現在すでに
アメリカのレベルに、これは追っつくだろうと思われているのですね。追っつきつつあると言っていいでしょう。言いかえれば、EECが追っつくなら、EECの中で遜色が少しもないオランダという
ものは、あの小さい国、あの人口過大、資源ゼロ、インドネシアを失ったオランダ人の
生活が、何とあの大
アメリカ人の
生活と同じになるということです。それが現代の世界に進行している事実であって、これは
先進国の間だけのことですから、私は
先進国としてお話ししますが、
先進国経済一体化ということは、同時にレベルの均一化を意味しているのです。
この事実をはっきりながめてみれば、そこに
日本人としては大いに心を、何といいますかね、大きく持って、安心して、大らかな気持になる、なってもいい理由がそこにあるわけです。この事実を見るのが、私は実に大切であると思います。
私が思っております第二の現代における世界的な大きな動向とは何かと申しますと、それはマルキシズムという
ものが、いよいよ最後の場に瀕しているということだと思います。これは
アメリカ等においては、
アメリカもマルキシズムの説教に対して、大いに心動いたことがありますね。あの大恐慌の以前、あるいは大恐慌の最中
——一九二九年から始まった大恐慌ですが、そのころだったら
——その前でしたら、
アメリカだって、ずいぶん共産主義者はいたのです。ドイツにヒットラーが出てくる直前は、まさに危かった。危いからこそヒットラーが出てきた。
国民はヒットラーを支持したということに相なっておりますが、そういう状況を思い出してみますと、今は何と変わったか。
アメリカ、ドイツ、オランダ、スイス、オーストリー、カナダですね、まあそれらの五つ、六つの国においては、マルキシズムのイズムとしての、いわゆる誘惑といいますか、呼びかけという
ものには、全然こたえがないと思います。確固不動の
立場になりましたが、これはそれらの国においてイズムとしてのマルキシズムが、すでに、何といいますか、人が相手にしない、あるいは偉大な学説ではありましたけれども、過去の
ものだということがわかってきたことと思います。ところが私は、世界のレベルにおいてそれが今最後の場に、終末の場に臨んできたと思います。そこらはソ連の中においてもイズムとしてのマルキシズムという
ものは行方不明のように見えます。というのは、このごろはあすこも国を開きましたから、人が行けるようになりましたから、行ってごらんになる方が、ソ連の中においてもプライス・メカニズムといいますか、
価格機構にたよらなければ
ものが動かなくなってきたということです。これはソ連の
経済がかなりよくなった結果だと私は思うのです。大いに祝福していいと思うのですが、ある程度よくなれば、まあ平たくいえば、テレビを見ようかということになれば、つまらぬ番組だったら消してしまう、スイッチをひねってしまいますのでテレビの用をなさないわけですね。そこでチョイスという
ものが出てくる。欠乏
経済のときは配給で済みますから、作った
ものはみなそれで片がつくのですが、今はうっかりするとマーケッティングを考えないと売れ残りが出る。これはまあテレビ屋に持っていけばいいということになるのでしょうが、そういう時代に入ってきたということはイズムとしてのマルキシズムが、私は、ソ連の
国内においても行方不明になりつつあるのだと思います。中共のほうはむしろ農業において
——ソ連においても農業がうまくいかないというのが顕著だと思うのですが、中共のほうはそれと逆に、思い切ってマルキストらしくやってみたいというのが人民公社だと思いますが、これはあのとおりの失敗なんですね。それらのことを考えてみますと、後進国の場面においてもこのごろはなかなか変わってきたのであって、マルキシズムの誘惑という
ものには人が乗らなくなってきた。その
状態が今の
アメリカ、ドイツ、百パーセント大丈夫になったという国のようになったら、それはマルキシズムという
ものは世界から忘れられるときですが、それがまだそこまでいかないところに世界のいろいろな事件が起こるわけです。ソ連がそれを使って
——後進国はすべてうまくいっておりませんから、それとのコンビによって撹乱行為をやると非常な効果を出すという結果になります。しかしながら、よく落ちついてながめてみれば、イズムとしてのマルキシズムは死滅に瀕していると私は思う。これが非常な動向だと思います。こういうところに世界の動向があると思います。
経済を論ずる場合に、どこの産物がどうなったとか、どこの税金がどうなったとかというようなことばかり考えていたのではそれは違うので、こういう大きな動向という
ものは世界を支配するのです。
日本人が
政策を考え、
経済を考える場合には、やはりそういう動きがあるならば、それをそれと知って対処なさらなければならぬだろうと思います。これが私が考えて非常に大事な第二点だと思います。その今の死滅ということが
ほんとうに死滅してしまうと世界はずっと違った世界になる、そういう場は近いのだと私は考えますから、これは超重要な動向だと思うわけです。
第三点は、これは後進国ですね、後進国はすべてうまくいっていない。独立すればもとの親方、植民者を追い出してしまえば、今までは搾取をされていたのだから、搾取者を追い出せば、搾取がとまれば自然よくなるかのごとき心持で独立した国が多いでしょう。ところが、そうはいかないというのが顕著な事実ですね。後進国は実際国をなしていくことが非常にむずかしくて、どこもかしこもですからクーデターがあるというようなことになっておりますが、その結果として現代の世界においては先に申しました十五、六しかない
先進国と後進国の間は非常なギャップができ、非常な違いができた、その差ができたというのが現代世界の大
特徴で、これは共産主義とかなんとかといったそういう
ものとは、いわゆる東西の
対立とはまるで違う問題をここに露呈しているわけです。これがいわゆる後進国問題ですが、私は世界の動向としてこれを考えれば、後進国
関係においては、現在は頭の中で事件が進行しているのだと私は思います。その頭の中の事件とは、今までの開発
方式という
ものではうまくいかないという自覚が出てきて、新しい道、開発という
ものに対する考え方、あるいは国という
ものに対する考え方もそうですが、それらのことが変化を起こしつつあると私は思います。これはまだごくごく進歩した人たちの頭の中にある変化であって、外には、たとえばケネディの演説に現われている
アメリカの後進国
援助政策にそれが見えてくるというところまではまだいきませんけれども、そうなるのも私はそう長いことではない、二年とか長くて三年くらいでそうなるんじゃないかという私は気がしますが、とにかく後進国に対する
態度という
ものは、根本的には後進国においてでも、
先進国側において毛反省されておるということが大変化だと思います。これが変わりますと、後進国の
見方が変わって参りますから、したがいまして、世界の
経済の実態も変わりますし、私どもが
日本という国の
経済政策を考える場合にも重点が変わってくるわけです。そういう変化が起こっておると思うのです。そういう変化を必要とする後進国ですから、先もちょっと触れましたとおり、後進国、つまりアジアにおいて
日本がその地歩を譲っちゃたいへんだとか、早くあそこに進出してなわ張りを確保しておこうとか、市場をどうだとかいうことがございますけれども、そんな
ものではございません。資源に関しても、
国内資源がないということが繁栄に
影響がないということが見えてきた以上は、どこへ行って早く資源を開発して、そこになわ張りを張らなければ人に取られちゃってはたいへんだというあれは昔の意識であって、ああいう意識で
日本対世界の
関係を考えるのは誤りだというのが私の考えです。そんなことを基本に持って
ものを見ておりますと、さて
日本の対外
経済政策はこれでいいのかと申しますと、ずいぶん悪い点がたくさんあると思います。ことに貿易問題、
自由化の問題、保護関税をどうするとか、為替管理をどうするんだとかいろいろな問題がございます。それらのさばきがまずいから外貨危機にも陥っているのだろうと思いますが、それらを通じて世界の態勢の上からながめますと、それらの誤解を
日本人が一掃して、正しい認識に立つとなれば、ここに出てくる
政策といいますか、その
政策の前の世界認識という
ものはどういう
ものかといいますと、今の世界というのはそうおそろしい世界ではなくて、人が言うようなおそろしい世界ではなくて、
自分の身の振り方さえ正道に乗っていれば、実に何といいますか、安心して
——勉強しなければだめです、利口でなければだめですけれども、利口であって、勉強して、秩序を守って、勤勉に働いていれば、
経済発展をすることに障害という
ものが認められない実によき世界です。そういうふうに世界を認識していただきたいと思います。ところが、そのわけは、今のオランダがインドネシアを失い、資源がちっともなくてもああいうふうにいける、つまり何が
経済レベルを決定するかというと、一にかかってブレーンなんです、知力が決定する。その知力を、近代科学
技術を使い得る能力という
ものを国全体が組織によって使うようになればいいんですね。勉強しなければもちろんだめですけれども、利口であれば、そのレベルという
ものは近代科学
技術を使う能力のレベルに応じて上がってくるわけです。現在科学
技術を使う能力が
日本人は世界で超優秀だと思いますから、超優秀な
生活レベルになるはずの
ものです。ところが、そうはいかないのは、やはり一人当たり
資本蓄積が少ないというようなことにさえぎられるわけですね。ですから一人当たりの
資本蓄積、これは
会社ベースだけで見てはいけないので、
道路、港湾等みな
資本ですから、そういう社会
資本もあわせて考えまして、なるほどその
資本蓄積が足りないから、今のところでは
生活レベルはそういかないけれども、これは倹約してためていけばいいのですから、やがては追っつく、追っつくに従って同じになるんだ、そういう原理が世界ではすでに成り立っておると認めていただきたいと思います。そう考えますと別に
心配逆ないんですね。急げば失敗をします。しかし、あせる必要はないんですね、今さら
日本を取って食うやつはないんですから。ソ連
関係は別です、ソ連、中共さんはちょっと考えを変えていただかないと、これは非常にあぶないと思いますが、それはマルキシズムの終末ということで片がつくだろうと思いますが、ここには大問題が残っておりますけれども、その問題さえ片がつけば、
経済を上げていくということにそう大きな障害を感ずるということは私は誤りである。これは非常に乱暴なことを言うようですけれども、その誤りにとらわれていると何が起こるかというと、問題なきところから問題を感じてあせりが起こる。そのあせりから失敗が起こるということだと思います。現在の
日本の貿易
政策、対外
経済政策にはそのあせりが非常に認められるから、それがいけないと思いますから、そういう
ものが来年の
予算と比べてどうだといったならば、貿易をうんと
発展させなければならないのに、それに対する
予算の盛り方が足りないといったような批評がありますけれども、私はそういうのは当たらないのであって、そんなところに問題はないのだ、今申した大認識に立って、大きな心持で落ちついてあせらずにやるという心がまえがないところには、再び世界
経済との
関係においても、私は今度の
予算との間にはあまり問題を感じないということに相なるのです。これは現在の
日本の
政策がいいと言っているわけじゃありません。ただ
予算との
関係においてそうなるのであって、大事なことは、今のそういう認識を争う、しかし、その認識が間違っていればそれまでですが、そういう認識が正しいなら、そういう認識に早く
日本の世論という
ものが達するようになってほしい、こう考えるのです。
これは
予算と世界
経済との
関係です。(
拍手)