○
公述人(大内力君) 私、大内でございます。
三十七
年度の
予算につきまして
意見を申し述べろ、こういう御要望でございますが、私は、主として農業問題の勉強をしておりますので、大体農林
予算を中心といたしまして、二、三の感想を申し上げさせていただきたいというふうに思います。で、三十七
年度の農林
予算というものを拝見いたしますと、いろいろの問題がそこにあるように思うのでございますが、しかし、時間も限られておりますので、こまかい点まで立ち入りましていろいろのことを申し上げる余裕がないかと思います。したがいまして、その点は後に御質問でも出ますならば、できます限り私の考えておりますことを申し上げさしていただく、こういうことにいたしまして、とりあえず申し上げたい点を大体三つの問題にしぼりたいように思うのでございます。
その
一つは、農林
予算全体の
規模というものに関連いたしますけれども、主として食管
経費というものを中心とした問題でございます。まず、その点から少し申し上げますならば、御
承知のとおり、本
年度の農林
予算というものを拝見いたしますと、全体といたしましては相当にふえているというふうに申し上げることができるかと思います。農林
予算というのは、農林省所管のほかに、ほかの省所管のものも多少ございますが、一応農林
関係予算というものを広くとりますと、三十七
年度には二千四百五十九億円、こういうことになっているようでございます。で、この農林
関係予算は、前
年度の
予算、当初
予算で見ますと千八百七十二億円であったわけでございますから、五百八十七億円というふうな増加になっております。それから補正後の
予算と比べますと、補正後の
予算は二千二百十八億だったわけでございますから、二百四十一億円の増大ということになります。これを前
年度の当初
予算と本
年度の当初
予算とを比較すると、こういう考えで比べてみますと、
予算全体といたしましては、御
承知のとおり、約二二・四%増加しております。それに対しまして農林
予算は、三一・三%という膨張率になっているわけでございますから、その点だけから見ますと、いかにも農林
経費が潤沢になったように見えるわけでございます。したがって、農林業のために、
政府の
施策が大いに充実されたと、こういうふうに見ることも可能なように思えるわけでございます。しかし、よくその
内容に立ち入ってみますと、この五百八十七億円の増加の中の三百二十億というものは、実は
食管会計の穴埋めという形で使われてしまう、こういうことになっておりまして、その
食管会計の穴埋めの分を除きますと、農林
経費その他の部分の増加はわずか一七・五%、こういう計算になりまして、総
予算の増加率をかなり下回っている、こういう計算になるわけでございます。そこで、この辺にわれわれはかなり大きな疑問を持っているわけでございます。もちろん国の
予算の全体の
規模というものは限られているわけでございますし、また、今日
日本の
経済の引き締めということが要求されている時期でありますから、むやみに
予算全体が膨張するということはむろん望ましくないわけでございます。したがって、かりに今の状況から申しますならば、農林
予算全体の
規模というものをそれほど大きくすることはできない、こういう考え方は一応納得のできることかと思うのであります。しかし、もしそうでありますならば、その限られた
予算の中身が今日の農業の要求に最も適しているように、最も効率的に使われる、こういう点にわれわれは注目をしなければならないかと思うのでございます。その点から考えますと、この
予算の中の非常に多くのものが、単なる
食管会計の赤字補てんというだめに使われているということに、私としてはどうしても疑問を感ぜざるを得ないわけであります。で、もちろんこの
食管会計の赤字補てんというものがすべてむだな
経費だというふうには私は申し上げようとするものではございませんで、そには確かに今日、一方では生産者米価を維持する。他方では、ひっくり返して逆の面から申しますれば、消費者米価を相対的に低く押えておく、こういうことの上にある
程度の役割を果たしている。こういうことについてはもちろん否定できないことかと思うのでございます。しかし、この点につきましては、御
承知のとおり、きわめて多くの問題が今日出てきているように思うのであります。その問題をこまかに申し上げる時間はございませんから、ごく要点だけをかいつまんで申し上げますならば、
一つは今日、御
承知のとおり、
日本の農業は大きな生産の転換をなし遂げなければならない、こういう段階に到達しているわけでございます。この点は
国民の食糧の消費構造の変化という点から申しましても、また、いずれだんだん進んでいくであろうというふうに考えられます
貿易自由化に伴う国際
関係への農業の参加、こういう点から考えましても疑いをいれない事実でございままして、その中で、御
承知のとおり、生産を大いに伸ばさなければならないものは、むしろ畜産物なり、果樹生産なり、あるいは蔬菜なりというような農産物でございます。それに対しまして、農政
審議会でも需給の見通しを今作業中でございますけれども、大体の傾向から申しますならば、米麦というものは少しずつ過剰生産の傾向になるということは疑いをいれないことだろうというふうに考えます。そういう生産の大きな転換が現在差し迫っている。こういうときに
政府の農産物価格
政策という点から申しますならば、御
承知のとおり、米麦、イモ類というようなものに非常に重点がかかっておりまして、そのためには莫大な
経費を使っておりますが、成長農産物、これから大いに生産を伸ばさなければならない農産物に対しましては価格
政策がきわめて貧弱である、こういう形になっておりまして、そこで三百で申しますならば、今日の
政府の価格
政策はかえって農業の生産構造の望ましい転換というものを阻害するような
一つの
条件になりつつある、こういう点に大きな問題が出てきているように思うのであります。
そこで将来の問題といたしましては、どうしてもこの農産物の価格
政策というものを全面的に取り上げまして、成長農産物に対する価格支持
政策を強化すると同時に、だんだんと過剰生産に陥る危険性のある農産物に対しましては、少なくとも生産を押えていくような弾力的な価格
政策、こういうものを講ぜざるを得ない、こういう問題にぶつかっているように思われるわけであります。もちろんそのことは、一どきに、たとえば米の統制を一ぺんにはずしてしまうとか、あるいは米価を一度に二千円も三千円も引き下げるとか、そういういわばドラスティックな方法でやりまするならば非常にこれは混乱が起こりまして、望ましくない結果を生むかと思います。したがいまして、特に農産物価格
政策のようなものは漸進的であるということが望ましいというふうに考えられますけれども、どうも現在の
政府の農産物価格
政策なるものを見てみますと、きわめて現状維持的な色彩が強いのでございまして、将来の見通しの上に立った長期的な価格
政策の
計画というものが全くないと言っていいような
状態にあるように思うのであります。そしてこの食管の
経費の穴埋めという点に関しましても、いわばそういう現状維持的な価格
政策ということをただ漫然と前提をいたしまして、そうして食管の穴埋めをするという形で
予算が組まれているようにわれわれには見受けられるわけです。この点は私は大いに疑問とするところでございまして、もちろんその将来の価格
政策の見通しを立てた上で、なおかつ食管の穴埋めが必要だ、こういうことでありまするならば、その食管の穴埋めの意義を評価することができると思いますけれども、ただ、現状の価格
政策を維持しておくというだけのために農林
予算の非常に大きな部分をさくということは、決して賢明な方策ではないだろう、こういうふうに考えるわけでございます。その点にまず第一の問題点を見出したいわけでございます。
それから第二番目の問題点としてあげなければならぬのは、今
年度の農林
予算におきましては、御
承知のとおり、農業構造改善
施策というものがその中心に据えられているわけでございます。この農業構造改善
施策というものは、もちろん農業基本法に基づきまして、農業基本法の精神をいわば実現するための手段と、こういう形でもって組まれたものでございます。この
経費は昨年から多少計上されておりましたけれども、御
承知のとおり、今度の
予算から非常に大幅な
増額をされまして、そうしていわば新しい農業
政策の中心的な位置を占める、こういうような
条件を与えられているわけでございます。ところが、この農業構造改善
施策というものにつきましても、実はさらに立ち入って見ますと、私は幾つかの重大な問題があるように思われるのでございます。それにつきまして、二、三の特に重要だと考えられる点だけを指摘して申し上げておきますならば、まず第一には、この農業構造改善
施策という形で、今度
政府が出して参りました農業
政策、また、それに対する
予算的な裏づけというものは、基本法で申します構造
政策というものとはきわめて違っているということでございます。違っていると申しましても、全然無縁だとは申せないのでありまして、ある意味では、基本法で申します構造
政策の一部分であるというふうに言うことは必ずしも不可能ではないかと思います。しかし、少なくともそれは基本法で考えておりますような構造
政策全部をおおうものではございませんで、きわめてその部分的なものでしかない、こういうことをまず第一に申し上げたい点で、しかもその部分的であるという場合に、その部分がきわめて重要な部分あるいは本質的な部分をついている、こういうことでありますならば、まだしもわれわれとしては納得ができるわけでございますが、もし率直に言わしていただきますならば、私は
政府の農業構造改善
施策なるものが基本法で申します構造
政策のいわば本質的でないものにだけ触れているのであって、本質的な問題にはほとんど触れていないというふうに申し上げたほうがよいのではないか、こういうことが
一つの問題だと思うのであります。
これはそれだけ抽象的に申し上げたのでは、十分に私の申し上げたいことがおわかりにならないと思いますので、もう少し具体的に申し上げますならば、基本法で申します構造
政策なるものは、言うまでもなく、いわゆる自立経営というものを中心といたしまして、新しい農業の
状態に耐え得るような農業経営を作り出す、こういうことに中心的な課題があるように思うのでございます。もちろん、その自立経営というものは、自立経営と名づけられておりますが、単なる一本立ちの独立の自作農家ということではございませんで、これからの農業
技術の発達というようなことを考えれば、当然それはいろいろの形で協業経営、基本法で申します協業化というものの中に組み込まれた形の自立経営でなければならない、こういうことは自明のことでございますけれども、しかし、それにもかかわらず、やはりそういうこれから変化して参ります農業生産なり、農業
技術なりに対応し得るような自立経営ということを考えますと、それは少なくとも今の
日本の農家の大部分の経営
規模というようなものをもってしては、とうてい自立経営たり得ないわけでございます。したがって、構造
政策の一番基本的な点は、その自立経営を育成するということでありますけれども、それを言いかえますならば、やはり農業経営
規模の相当大きな専業的な農家というものを育成する、あるいは創設する、こういうことでなければならないというふうに思うのであります。ところが、この問題は、まあ口で申しますのは簡単のようでございますが、具体的に考えればきわめてむずかしい問題でございまして、今日の
日本の農家、六百万の農家の平均
規模は、御
承知のとおり、一町足らず、九反ぐらいしかございませんし、しかもその三分の二は一町未満の農家でございまして、それを二町なり、三町なり、あるいは五町なりというような経営
規模の大きい専業農家に、まあ数は少ないといたしましても、とにかく経営
規模の大きい専業農家をその中から作り出していくということになりますと、これはきわめて大きな
政策的な手を打ちませんと達成できないことだというふうに考えられるわけであります。しかしまあその場合に、きわめてむずかしいとはいいながら、そこでどうしてもわれわれとしては手をつけなければならない問題が私は
二つある、一番本質的な問題として
二つあると思うのでございます。その
一つの問題は、言うまでもなく農用地を拡大するということでございまして、現在の、たとえば五百万ヘクタールなら五百万ヘクタールの農用地を二倍なり三倍なりに拡大することによって、農業経営を拡大する余地を作ると、こういう問題でございます。ところで、もちろんその場合に、農用地を拡大すると申し上げましたけれども、それは従来やって参りましたような開墾なり開拓なりと、こういう考え方とはきわめて違った考え方にならなければならないと思うのでございます。これからの農業は、先ほど申し上げましたように、畜産を中心といたしまして、果樹作なり園芸作なり、こういうものが成長農業部門として入ってくると、こういうことになりますと、新たに追加される農用地というものは、いわゆるこの田畑というような従来の耕地ではございませんで、たとえば家畜のための放牧地であり、採草地であり、あるいは果樹園のための山地の利用である。そういう形での農用地の拡大というものをどうしても考えなければならない、こういうことになってくるかと思います。で、その場合に最も現在大きな問題になって参りますのは、言うまでもなく山林原野の利用権がそれに適合した形で存在していないと、こういうことでございます。この点は一昨年でございましたか、農林漁業基本問題調査会で、ことに林業部会のほうでこれが取り上げられましたときも、非常に大きな問題になったわけでございます。そこでその基本問題調査会の考え方は、すでに答申案に盛ってございますので皆様御
承知だと思いますが、まあ簡単に申しますならば、まず第一に、この国有林や公有林ないしは部落有林というようなものにつきましては、できるだけこの地元の利用のために、ことにこの畜産のための利用のためにこれを開放する
措置を講ずべきであると、こういうことを
一つうたっております。それから第二番目には、私有地につきましては、少なくとも土地を管理するような民主的な組織というものを各地方に作って、その民主的な組織が山林原野の私有地の部分を管理することによって、それを将来農業の
発展のために合理的に利用し得るような方法を講ずべきであると、こういうことをうたっております。さらに、この里山近いところの林業地でございまして、現在の林業としてこれを利用している者がなかなかそれを開放したがらないと、こういうような場合には、たとえば国有林とこれを交換するというような方法を講ずることによって山林原野の開放を進めるべきだと、こういうことを言っているわけです。そういう意味で、まあいずれにせよ、今日非常に大きな問題になっておりますのは、そういう農用地を拡大するための山林原野の土地所有権なり、あるいは土地利用権なりの調整という問題でございます。その問題の解決なしにはなかなかこの自立経営を育成していくというようなことが困難だろうというふうに考えます。ところが、この問題につきましては、御
承知のとおり、現在の農業
政策の中には一かけらも出てこないと言ったほうがいいのでございます。その点でまず構造
政策は本質的な部分を欠いているというふうに私は申し上げたいのでございます。
それから二番目は、もちろんこれは単なる農業
政策の問題ではございませんで、国全体の
経済政策の問題になると思いますけれども、やはり自立経営を一方で育成いたしますためには、零細な兼業農家というものをできるだけ早く整理をしていくという方法を考えなければならないと思うわけでございます。ところで、これを整理していくと申しましても、もちろん
現実に農業経営を営んでいる
人たちに対して、強制的にこれを立ちのかせるというようなことはもちろん不可能でございますし、また望ましくもない
政策でございます。しかし同時に翻って考えてみますならば、今日の零細な兼業農家という存在は、実は決して安定的な存在ではないわけでございます。何と申しましても、かたわら農業経営を営み、かたわらたとえば工場へ働きに行く、こういうような二重生活をしていくということは、いろいろな意味で生活の負担を非常に大きくしていることでございます。それから同時に、またそれは農業の
発展にとりましても非常に大きな障害になっている問題でございます。したがって、ここのところをやはりできるだけ整理ができるような
経済政策を講ずべきであると思うのでございます。その方法といたしましては、言うまでもなく雇用
政策に重点をかけなければいけないわけでございまして、農業以外の労働市場を拡大していく。単に量的に拡大するだけではございませんで、むしろそれに安定的な
条件を作り出していくということが必要かと思います。その安定的な
条件を作り出しますものは、言うまでもなく、
一つは賃金
水準をできるだけ高く維持して、農業を兼業しなくても一家の生活が安定的に維持できるような
条件を作り出すということであり、あるいは失業や病気や年をとった場合に不安がないようにするような社会保障制度を完備するということであり、とにかくそういう安定的な雇用
条件というものを与えるような、そういう
施策が伴いませんと、農業の構造
政策というものは進まないわけでございます。そういう点から考えましても、これは農林
経費以外のことでございますから詳しくは立ち入りませんが、なお
政策の不十分さというものはおおうべくもないわけでございます。いずれにせよ、私は以上申し上げました
二つの点こそ構造
政策の本質的な問題があると、こういうふうに考えているわけでございまして、それに対しまして、今の
政府が考えております構造改善
施策というようなものは、そういう本質的な部分には触れないで、ただ農村にある
程度の金をばらまいて、そうしてたとえば機械化を進めようとか、共同施設を作ろうとか、そういうことをやろうという考え方でございますが、これはいわば土台を作らないで空中楼閣を作ろうというような考え方になる危険性が私はきわめて大きいのではないか、こういうふうに思うのでございます。そこで、この基本的な点についてもっと意欲的な
政策が盛られなかったということを私は非常に不満に思うわけでございます。
それから今度はその構造改善
施策自身の中に入ってみますと、これにつきましても私はきわめて多くの疑問を持っております。これも時間がございませんから簡単に要点だけを申し上げますならば、まず第一には、構造改善
施策というものがいわゆる村作りという考え方と結びつけられているというところに大きな疑問を感ずるのでございます。この村作りという考え方は、御
承知のとおり、
昭和二十九年でございましたか、河野さんがこの前農林大臣をやられておりました時期に、新農村建設という形でもって打ち出された
政策でございまして、ある意味では今度の構造改善
施策はそれを
発展させたというような形のものとして理解することができるかと思います。しかし、この前の新農村建設というのも、方法においては成功した
政策とは言い得ないのでございまして、少し悪口を言う人は、新農村建設とは有線放送を作ることだというような批評をしているくらいでございまして、それ以外の効果がそれほど上がったとは言い得ないというふうに一般には言われているかと思います。その新農村建設
政策を今ここでとやかく言う必要はないわけでございますが、私は今度のこの構造改善ということを考えますと、先ほどから申し上げておりますように、基本法の精神をほんとうに尊重いたしますならば、その中心的な課題は自立経営を作るということであって、村を作るということとは直接結びつかないわけでございます。言いかえますと、従来の村というものは自立経営を中心として成り立っているわけではございませんで、そこには兼業農家もあり、零細な農家もあり、専業農家もあり、非農家もある、そういう毛のがごちゃごちゃに入りまじったものが村であって、その村を主体といたしまして、何らか構造改善
政策をやる、こういう考え方にどうも基本法の構造
政策という考え方とギャップがあるように私には考えられるのであります。この点は、しかもこの構造改善
施策の中で、いわゆるパイロット地区というものに関して申しますならば、そのおそれは比較的少ないだろうというふうに考えられます。実はパイロット地区というのは、大体二百町歩くらいを考えておりますから、かなり狭い範囲において自立経営を育成するというところに焦点を合わせると思うのであります。それに一般地区というのが抱き合わせになっておりまして、しかも一般地区というのは村を、市町村を単位といたしまして、それにある
程度広く金をまいていこう、こういう考え方になっておりますので、ますます焦点がぼけておるように思えるのでございます。そういう意味で、構造改善
施策というものを村作りという形で押えようという基本構想そのものが、はたして正しいのかどうかということを私はかなり強く疑問とするわけでございまして、この点にも問題を感ずるわけでございます。
第二番目の疑問といたしましては、この構造改善
施策というものを見ますと、これがまた著しく総花的、羅列的になっておりまして、あらゆる事業がそこにあげられる、こういう形になっているのであります。しかし、今日の農業の
技術の
発展ということを考えてみますならば、私は、おのずからそこには
施策の順序というものがあるはずであるというふうに思います。これはもちろんそれぞれの村の自主的な
条件とか、あるいはどういう作物を中心とするかということによって違うことでございますから、一がいには申せませんが、しかし一般的に申しますならば、何と申しましても、土地の整理というものがなければ農業の機械化もできませんし、農業の共同化もできませんし、集団化もできない。こういうことは自明のことでございます。したがって、もし構造改善
施策というものを本式にやろうといたしますならば、少なくとも大部分の地区につきましては、私は一年間なり、二年間なりは土地改良事業に超重点的に
予算を向けるべきで、機械を入れるというようなことは第二段階として考えるべきものだというふうに思うのであります。およそ土地を整理しないで機械を入れてみましても機械は能率を発揮することができませんし、かえって機械の利用のされ方がきわめてゆがめられてしまうということは、たとえば姫路周辺に今中型トラクターが入っておりますが、あの地帯の実例を見ますならば、きわめて明瞭にそのことを物語っているというふうに言わざるを得ないのであります。そういう意味で、どうしても順序なり段落なりというものは必要であると思われますのに、その順序なり段落なりが少しも明確にならないで、羅列的に、土地も改良する、機械も入れる、共同施設も作る、あれもこれもやると、こういう形で
予算をつけていくという、こういう考え方自身に私は非常に大きな疑問を持っておるわけでございます。こういう総花的なまき方でいたしますと、結局また有線放送を作るというようなところに重点が移ってしまう、こういうふうになる危険性がきわめて大きいということを警告したいわけでございます。
それから最後に、もう
一つ構造改善
施策に非常に強く結びつけられておりますのは、農業近代化
資金でございますので、これにつきましてもう
一つ疑問を提起したいのであります。これの基本的な考え方が私は誤っているのではないかということは、すでに昨年の
衆議院の
予算公聴会におきまして申し上げましたので、ここで繰り返して申し上げることを避けたいと思いますが、ただ要点だけを申し上げますならば、私はこういう農業
政策を遂行するための金融に、農協の金にげたをはかせて使うというようなやり方はよろしくないというふうに思うのでございます。それは農協のほうから申しましても、そういうことをやれば、農協がいわば
政府の
政策の下請機関化されてしまって、農協の自主性を侵害するということになりましょうし、逆に
政策当局のほうから申しますならば、農協にいわばげたを預けるということによって
政策の最終責任を
政策当局がとるということがなくなってしまう、こういうことになるわけでございまして、いずれにせよげたばき金融という形は私は最も望ましくない形であるというふうに考えております。しかし、まあ干ての点には立ち入らないとしまして、近代化
資金につきまして一番大きな問題は、世間ではこれを利子率の問題として考えているようでございます。そういう意味で、この七分五厘なら七分五厘の利子にするとか、あるいはやれそれを一分下げろとか、もう少しよけいに
政府の利子補給をふやして五分にしろとか、いろんなことを言っているわけでございます。しかし、こういう議論には私は多少疑問を持っております。もちろん農民が利用できる
資金というものは利子が安いということもきわめて重要なことでございますが、おそらくそれと並びまして、今日農村で一番強く農民が不満に思っておりますことは、近代化
資金の償還期限がきわめて短いということでございます。御
承知のとおり、たとえば果樹園なら果樹園を設けるというために金を借りるといたしますと、そのために何百万円かの金が要るといたしまして、その果樹園が実際に実を結んで農家に所得の増大をもたらしますのには、少なくとも十年はかかるわけであります。その十年の間は一文もある意味では金が入ってこない。農民は投資を続けていかなければならない。こういう
立場に置かれます。そういう場合に、しかも借りた金のほうは、たとえば三年据え置きで五年間で返す、あるいは五年据え置きで十年間で返す、こういう形で与えますと、これは利子が高い、安いの問題以前に、農民はまだ
収入がふえない以前に金を返さなければならないという形でございまして、こういう形で利用ができないのが当たりまえな話だというふうに思うのです。したがって、問題はむしろ利子率を下げるか下げないかということにこだわる以前に、もっと長期の
資金、ことに据置期間の長い
資金というものを考える必要がある。それを考えませんと、私は近代化
資金というものはおそらく十分利用できなくなりまして、
ワクだけのものを貸し出すということすら不可能になるのではないか、こういう感じを持っておるということを申し上げたいわけでございます。
以上三つの点を申し上げましたが、それが
政府の農業構造改善
施策というものに対しまして私の持っております基本的な疑問の要点でございます。
それから最後に、第三番目にもう
一つ申し上げておきたいことは、これは今日非常な大きな問題になっておりますいわゆる地主補償の問題でございます。これはまだ法律
措置のほうはついていないようでございますが、
予算にはすでに
国民金融公庫二十億円の
予算が計上されているわけでございます。この地主補償につきましては、もちろんいろいろな問題があるわけでございまして、農地改革の際の買収価格が適正であったか適正でなかったかと、こういうことももちろんさかのぼれば議論をしなければならない点でございます。しかし、今は直接それに
関係がございませんから、その点までは立ち入りませんけれども、先ほど
最初に申し上げました基本法の精神をほんとうに貫いていくためには、今私的所有のもとに置かれております山林原野につきましても、いわば新しい土地改革の構想というものをどうしても持たなければならないということを申し上げた点と結びつけて、私はこの問題を考えてみたいというふうに思うのでございます。で、この新しい山林原野を中心といたしました土地改革というものは、もちろん前に行なわれました農地改革のような形で遂行するということは、今日のいろいろな情勢から申しまして不可能に近いことかと思います。しかし、そうかと申しまして、土地私有制というものを今のままで放任しておきまして農業構造の改善ができるかと申しますと、私はほとんど不可能であろうと言わざるを得ないわけであります。そこに何らかの土地の公共的な利用、こういう考え方に立ちまして、新しく利用権なり所有権なりの調整ということを考えざるを得ない段階に今日の
日本の農業は来ているというふうに思うわけであります。そういうことを前提として考えました場合に、旧来の農地改革の際の地主に対しまして、すでにそれから十数年も経ておるにもかかわらず、なお補償をするというような考え方でそういう土地所有権をある意味では強化する、あるいは少なくとも土地所有という観念を特に強めるような
政策をとるということは、将来の農業
政策の問題としては、私はきわめて大きな疑問を持たざるを得ないわけでございます。で、したがってその過去の問題としてそれが補償に値するかしないかという議論をしばらくおくといたしましても、将来の農業
政策の構想の中にこの問題を入れて見ましても、やはり大きな疑問がそこに出てくる、こういうことを申し上げたいわけでございます。
で、時間が限られておりますので、十分意を尽くしませんが、私の感じております要点だけを申し上げまして、御参考に供する次第でございます。(拍手)