○加瀬完君 私は、日本社会党を代表して、
昭和三十六
年度予算第二次補正二案に対して、反対討論をいたします。
まず、根本の問題は、
池田内閣に
予算を編成する資格がないということであります。昨年の今ごろ、三十六
年度当初
予算審議の際、わが党は、口をそろえて、高度成長政策は行き過ぎる懸念がある、物価や国際収支に危険な徴候が見えることを指摘して参りました。しかし、
池田総理は経済のことはおれにまかせろと言うだけで、その後何ら適切な手を打っておらず、ついに今日の事態を招いているのであります。国際収支において一千万ドルの黒字予想が、九億二千万ドルの赤字を招来し、デフレ政策に転換せざるを得なかったのであります。この原因は過大な設備投資にあることは明らかでありますが、それを促進いたしましたのが
池田内閣の成長政策であり、金利引き下げであったことは明白であります。また、低金利政策の看板をおろすことをおそれて、日銀に干渉し、公定
歩合引き上げの時期を誤った責任はあげて
池田総理が負わなければならないのであります。しかるに、
池田総理はみずからの失敗を行き過ぎにすぎないと強弁するのみではなく、その責任を
民間事業に転嫁しようとしております。
他方、国際収支の悪化の
内容を検討いたしますと、対米貿易が赤字が九割、八億五千万ドルを占めているのであります。これは
池田内閣が米国のドル防衛に協力をし、対米追随の経済外交を行なった結果であることは明らかであります。
池田内閣はその打開のためと称して日米箱根会談を鳴りもの入りで喧伝をいたしましたけれ
ども、日米片貿易の状態は依然として激しくなるばかりであります。
このように
見通しを誤り、責任を回避する政治家に国政をまかすことは断じて許さるべきではありません。
予算編成の資格なしと断言せざるを得ないのであります。私は以下数点にわたりまして
政府原案の欠陥を明白にしたいと思います。
その第一点は、景気調整のための
予算額の一割繰り越しの問題であります。わが党の木村
委員の指摘されたとおり、
池田内閣は経済成長政策のための景気調整措置として、全
予算額の一割を繰り越し明許費として片づけておりますが、繰り越し明許費は財政法第十四条の三でも明らかなごとく、「その性質上又は
予算成立後の事由に基き
年度内にその支出を終わらない見込のあるもの」でなければならないはずであります。その性格はあくまでも、努力しても
年度内に支出を終了し得ない見込みのものでありまして、
政府の行政上の都合で、国会で決定された
予算に繰り越し、繰り延べの自由選択の権限を
政府に委任したものではありません。財政法二十九条の二項は「内閣は……
予算は成立後に生じた事由に基いて、既に成立した
予算に
変更を加える必要があるときは、その修正を国会に提出することができる。」と規定してあります。明らかに景気調整という理由によって
予算に
変更を加える必要が生じたわけでありますから、早急に修正補正を提出すべきでありますのに、
政府はこれを怠っておるのであります。もしも
政府に勝手に繰り越しや繰り延べが許されるといたしまするならば、憲法八十三条の「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」、この規定は全くの空文となるのであります。本
補正予算に、このような憲法違反、財政法違反の問題に関して、何ら解決への手続がとられておりませんことは、
予算案の
内容以上に許されない点であります。
その第二点は、
大蔵大臣の説明によりますと、三十六
年度において多額に上ると見込まれる租税の
自然増収は譲与金として後
年度に繰り越す、こう御説明をされております。しかし、繰り越す前に譲与金見込み総額は幾らになるのか、本
年度補正として使用すべきものがはたしてないのか、こういったことがもっと国民の前に、国民のために明らかにされなければならないのであります。
たとえば、物価の問題であります。
池田総理は物価問題について、卸売物価が
中心であると御主張をされておりますが、
一般国民と直接つながりのあるのは申すまでもなく消費者物価であります。ネギ一本、大根一本の
値段がどう動くかということは、われわれの台所の生活を左右するのであります。この消費者物価は、昨年一
年間に八・八%上昇をしております。最近の町の主婦たちの買いものは大根半本、ニンジン半分という買い方で、一本の大根、ニンジンが値上がりのため買い得ないという現状すら呈しておるのであります。
政府は、これら物価騰貴に対し、何ら有効な手を打っておりませんし、かてて加えて、鉄道運賃を初め公共料金を勝手に引き上げを許容しております。この
実情を、われわれは国民の福祉を増進する適切な措置とは
考えられないのであります。
さらに、生活保護について見ますと、保護基準引き上げと称して、前回の補正で五%引き上げ、明
年度予算で一三%引き上げることとしております。しかし、東京標準五人
世帯で月額は一万三千四百七十円と、こう鬼の首でも取ったような自画自賛をしておりますけれ
ども、一人
当たりの生活費は月額二千六百九十四円、これを三十日として割ってみますと、一日の生活費は八十九円八十銭であります。生活費の総額をしめて一日八十九円八十銭、これで生活保護あるいは
社会保障が完全と言われるのでありましょうか。
具体例の二は、
昭和三十六
年度第一次補正において、公立文教施設の補助
単価を引き上げました。しかし、
政府はこの引き上げにつきまして、
昭和三十五年六月と三十六年八月の資材費、労務費等の値上がり指数を現行
単価に乗じて新
単価を算出したと説明されました。しかも、大蔵省がその後、労務費の算定基礎である平均賃金上昇率が大蔵省算定に誤差がある場合は新
単価そのものも
変更さるべきであると、他の
委員会で御答弁をなさっております。今特に木造校舎の労務費を
中心にいたしますと、当然これは大工、左官の手間代が問題になります。
政府は木造校舎の労務費上昇率の三二・三%と見ておりますけれ
ども、労働省の統計調査部の資料は、大工は三十五年の九月と三十六年の九月、この二つを比べますと、七百六十一円が千百三十四円、一六一%上昇、とび工は七百六十円が千七十三円、一四一%上昇、左官は七百六十二円が千二百十七円、一六〇%上昇という
数字を示しております。
昭和三十六年九月の労務費は、三十五年と三十六年の比較では、
政府の一一九・五%ではなくて、一五〇%をこえるのであります。したがって、上昇率は三二・三%ではなくて四〇・五%以上となります。このためには、
単価は文部省の要求の木造の場合が三万六千円に修正さるべきでありますが、こういう修正も今度の補正の中には加わっておりません。
次に、具体的事例の三としてあげたいのは、このたびの補正
内容に百二十八億、一億三千五百万のそれぞれ地方交付税交付金、臨時特別交付金が入っております。一体この
金額は必要経費を下から積み上げて作ったものでありましょうか。そうではないのであります。たとえば問題の高校急増
対策にいたしましても、
政府は現状の認識をはなはだ欠いております。現状の高等学校経費
負担というものをあげてみますと、支出のうち土地、建物について、国、府県、市町村、寄付金、この項目によるそれぞれの
負担率は、土地については国が四・一、府県は四六・二、市町村は六・三、寄付金は実に四三・二を示しております。建築費にいたしましても、国の九、府県の五五・二、寄付金の二六・三。今府県費と市町村
負担を含めての寄付金総額とを比べますと、土地は四六・二%に対する四九・五%、寄付金のほうが公費よりも多いのであります。建築費は五五・二%に対して三〇・七%。国庫補助金と寄付金との累年比較をいたしますと、三十二年から三十五
年度決算までにおきまして、寄付金は一九・四、二九・八、三〇・〇、三二・〇と上がっております。国庫補助金は変化がございません。これでは公立ではなくて、PTAの立てたものということになりましょうか、父兄立ということになりましょうか、少なくとも公立の責任は果たされておらないのであります。これらの解決措置を本
年度ならとれるのであります。しかし、本補正の
内容にはこれらのものは含まれておりません。
政府は今まで、高校急増
対策等に対しましては起債でまかなうと言っておりますけれ
ども、起債の許可条件は全
予算額の起債償還額が一四%をこえたものは不適格、一〇%をこえたものは要注意とされております。今要注意の府県が何県あるかといいますと二十二県、実に五〇%に近いのであります。しかも、道府県は来
年度、
事業税、遊興飲食税、入場譲与税、こういうものが非常に減って参ります。府県民税はふえますけれ
ども、ふえる府県民税と減る
地方税とを合算いたしますと、減ってくる府県の方が多いのであります。入場譲与税
一つをとりましても、北海道は十億、長野、熊本、鹿児島等でも四億円の減収となります。
収入が減るが仕事が多くなる、この解決に
予算的措置は何にも講じられておらないということになりますと、地方財政はどういうことになりましょうか。剰余金がたくさん出るときにこういった問題は当然補正で解決さるべきでありますが、こういう国民の要求は本補正の中には加わっておらないのであります。
その第三は、石炭産業の危機とその
対策費であります。わが党は数年前から、エネルギーに関する基本政策を樹立しておきませんと社会的混乱が起こると指摘をして参りました。
政府は、しかし真剣にエネルギー
対策を樹立したとは
考えられません。それが証拠には、そのしわは
炭鉱労働者の首切りとなって現われております。今回の
補正予算で宣伝をしておりまする別居手当、技能修得手当等の措置についても、全く当を得ておりません。技能修得手当一日七十円、職業訓練所までの距離が二キロ未満のときは四十円、別居手当は月三千六百円、これで離職をして完全に新しい職業に立ち直れるということはあり得ないのであります。具体的に、
炭鉱都市である大牟田、田川市等の
炭鉱離職者
対策の地方財政措置がどうとられておるかをわれわれは指摘をせざるを得ません。大牟田市の失業
対策費は、三十五
年度決算総額三億八千万、このうち国庫
負担は一億、
一般財源による持ち出し分が一億八千万。田川市の一月支出現況は、現金の在高見込みが二千九百三十九万円、支出見込みは、生活保護費千六百万、緊急失対八百四十万、職員給与その他をやり繰りしても計三千四百六万円の支出が必要となります。しかし、赤字は四百六十七万円出なければならないことになります。
年度内赤字は八千万と言われております。財政非常事態宣言というものを市民に対して発したそうでありますけれ
ども、非常事態宣言を発してもこの問題は解決をされません。この問題も今度の補正には何らめんどうが見られておらないのであります。
その四は、
年度内
減税の実施の問題であります。
政府提出の資料によりますと、本
年度の税の
自然増収は、当初
予算に比べて約三千三百億、第一次、第二次の補正を差し引きましても、千七百億円をこえると予想されております。これだけ膨大な
自然増収があるのでありますから、国民が要望をしておりまする生活保護費、失対賃金、その他災害復旧、石炭
対策、医療
対策等に相当の資金を投入いたしましても、まだ相当の
自然増収分というものは残るわけであります。それならば、なぜ一体
減税をおやりにならないのか。
年度内
減税をおやりにならないか。わが党は今年一月にさかのぼりまして、
年度内
減税を行なうべきであることを主張をして参りましたが、ここにあらためて強く主張をいたします。
以上、四点の理由をあげまして、反対の意思を明らかにいたします。(拍手)