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1962-01-19 第40回国会 参議院 本会議 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年一月十九日(金曜日)    午後四時十三分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程第四号   昭和三十七年一月十九日    午後四時開議  第一国務大臣演説に関する件     ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  一、請暇の件  一、日程第一国務大臣演説に関  する件     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。      ——————————
  3. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。  この際、お諮りいたします。病気のため、秋山俊一郎君から六十一日間、野村吉三郎君から四十一日間、請暇の申し出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 御異議ないと認めます。よっていずれも許可することに決しました。      ——————————
  5. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、藤山国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。池田内閣総理大臣。  〔国務大臣池田勇人登壇拍手
  6. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 諸君とともに新しい年を迎え、ここに第四十回通常国会再開に臨み、明年度予算その他重要案件の御審議を求めるにあたり、わが国をめぐる内外の諸問題に対する政府所信を披瀝する機会を与えられましたことは、私の最も欣快とするところであります。具体的施策については関係閣僚所信表明に譲り、施政の大綱につき率直に申し上げたいと存じます。  戦後十七年、国民諸君努力により、わが国経済驚異的復興を遂げ、生産技術も著しく進歩し、国民生活は着実な向上を記録することができました。また、わが国に対する世界信用は年とともに高くなり、国際的地位もまた向上して参りました。とのことは、わが国が、内外に新たな課題責任をになうに至ったことを意味するものであって、小成に安んじ、安逸をむさぼり、放縦に流れ、闘争を事としては、この課題責任にこたえることができないものと思います。  真の繁栄は、豊かな経済を基礎としつつ、これを貫くに、高い精神、美しい感情、すぐれた能力をもってして初めて実現されるものであります。真の福祉は、漫然として享楽すべき贈りものではなく、われわれが営々として追求し、額に汗して建設すべきものなのであります。  この意味において、私は、文教刷新充実、特に、次の時代をになう青少年諸君育成が、現下最も重視すべき要務であると信じます。政府は、地方公共団体その他教育界各位協力して、学校教育社会教育を通じ、教育機会の均霑、教育内容向上教育施設充実等に努め、教職員学生が遺憾なくその本務に邁進できるような環境整備と、働きつつ学ぶ方々に知識と技能を体得される機会の提供に、一段と努力を傾ける所存であります。このことは、政府が、明年度予算編成にあたり、新時代に即応する科学技術の開発並びに科学技術者の養成とともに、最も力点をおいたところであります。  青少年こそは祖国の生命力の聖なる源泉であり、民族の純潔と勇気を代表するものでありますから、遠大な使命感とゆかしい学問教養を身につけていただきたいと思います。また、教職員諸君は、その職分にふさわしい品格と学識の研磨に努め、父兄と国家期待にこたえていただきたいと希望いたします。このことが、教師と学生の間を一そう緊密にし、学校教育を真に充実したものにするものであると信ずるのであります。  文教とともに、政府が、日夜意を用いなければならない問題は、貧困、病気失業等のため、不幸にして経済成長の陰に取り残された同胞に対するあたたかい配慮でなければなりません。わが国社会保障は、国民の深い理解協力を得て、逐年着実な前進を遂げて参りましたが、なお、今後の改善に待たなければならない事項が少なからず残されております。政府は、予算編成にあたり、引き続き重点をこの分野におき、低所得層対策医療保障充実中心として、一そうの伸張をはかることにいたしました。  国家社会秩序の安定は、国民一人一人が、国民生活の支柱をなす民主的な法秩序を尊重し、これを順奉することにより確保されるものであります。国民各位良識により、わが国民主的秩序の大本が、堅実な土壌の中に育成されつつあることを喜ぶものであります。しかるに一部には、少数者の恣意により、あるいは集団を頼み、さらには誤れる海外の思想におぼれ、民主的秩序を無視した脅迫的政治活動が、今なお跡を断たないことは、われわれに深甚な考慮と警戒を要請するものであります。(拍手政府としては、みずからの姿勢体制に絶えざる戒慎を加えつつ、国家社会のあらゆる分野によき民主的慣行の浸透を促すとともに、一方、国法を犯すものに対しては、厳正な処断を加えて、国家社会に対する内外からの破壊活動の根源を除去して参る決意であります。(拍手)  現代の社会における対立は、ひとり思想政治の領域にとどまらず、労働関係等に見られるように、国民の間における利害の対立が、ときに先鋭な姿をとることがあります。かかる場合、私は、当事者が相互民主主義に欠くことのできない敬意と寛容の精神を重んじ、事案に対する合理的検討忍耐強い話し合いを通じてその対立を解消し、進んで国民福祉増進のために、相ともに協力されることを期待するものであります。世界の平和を願うものは、まず国内の平和を追求しなければならず、国内の平和を願うならば、何をおいても同胞間の不信憎悪をとり除かなければなりません。同胞間の不信憎悪をかり立てながらいたずらに平和を呼号することは、自他を欺く矛盾であるからであります。(拍手)  国家社会秩序を確保し、国民福祉増進をはかるためには、政府においてもみずからその姿勢を正し、戒慎の実をあげる必要があることはもちろんであります。政府は、綱紀の維持と行政効率的運営に不断の努力を払っておりますが、今回、新たに臨時行政調査会を設けるゆえんは、行政機構運営根本的刷新を期し、国民願望にこたえんとする配慮に出たものであります。また、選挙制度審議会の答申に基づき、近く公職選挙法改正法案を提出し、御審議を求めんとするゆえんも、選挙公明化をはかるため、公明選挙運動の一そうの推進と相呼応して、政治に対する信用を高めたいと念願しておるからであります。私は、さらに国会が、すみやかに懸案国会正常化をなし遂げ、国民の負託にこたえられるよう、各党各派の真剣かつ建設的な話し合いを心から希望いたすものでございます。  次に、外交について申し上げます。  国際情勢は、依然、険悪な様相を呈し、緊帳緩和は、にわかに望みがたい状況にあることは御承知のとおりであります。特にソ連の核実験再開と、それに続く米国対応は、平和の空気に対する心理的重圧となっておることもいなめません。しかし、東西の勢力は重苦しい均衡状況にありますので、愚かなる偶発事件の突発しない限り、全面戦争に立ち至るがごとき事態考えられないことであります。また、ベルリン問題、核実験の禁止問題、軍縮問題等当面の懸案は、早急な解決を見ることが困難であり、さらに忍耐強い話し合いと、それへの瀬踏みが繰り返されるものと考えられます。一方、東西間の問題のみならず、植民地問題等をめぐっても、世界各地局地的衝突が起こる可能性もなしとしない情勢であり、現に新たな緊張アジアの一部に発生しつつあることについても、十分注視する必要があると思います。  このような国際情勢に処して、日本は、自国のみならず、アジアひいては世界の平和と繁栄増進に寄与するため、一そうの明知と勇気をもって、あらゆる機会をとらえ、緊張の緩和と経済外交推進努力しなければなりません。そのためには国連中心としてさらに強力な平和外交を展開しつつ、各種懸案積極的打開と新しい外交的課題に立ち向かって参る決意であります。  わが国外交の基調が、政治的にも経済的にも自由国家群との協調にあることは申すまでもありません。自由世界内部において、特に注目すべきことは、旧来の国家主権考えを修正しつつ、欧州文明の伝統と自由を守るという強い自覚のもとに、西欧六カ国が企図した欧州経済共同体が、急速にその統合の成果をあげつつあることでございます。さらに英国その他の志を同じうする欧州諸国がこれに参加をはかり、優に米ソ両国に匹敵する「新しいヨーロッパ」を形成しつつあり、米国がこの共同体経済的な結びつきを一そう強化しようとしておる事実であります。このような自由世界内部における新しい動きに対処することが、わが国にとり、経済上のみならず、国際政治の上においても、今後の新しいかつ長期的な課題となって参りました。  また、わが国アジア一員として、アメリカその他の自由諸国アジア諸国に対する援助計画との関連を吟味しながら、これら各国との貿易の伸長に努めるとともに、その経済平和的建設に積極的に協力すべき任務を持っておるのであります。わが国賠償の誠実な実行と並行して、可能な限りアジア友邦との間に経済協力の実をあげて参りましたが、タイ国との間に特別円問題の最終的解決を遂げ、ビルマとの間にも賠償の再検討を通じ、新しい協力関係を樹立すべくせっかく交渉中であります。  韓国の安定と日本の安全とは深い関連を持っております。私は、韓国が、善隣としていち早く今日の困難を克服し、民主国家として繁栄することを心から希求するものであり、日韓の間に横たわる各種懸案を合理的かつすみやかに処理して、国交の正常化をはかるべく、目下鋭意交渉を重ねております。  中国代表権問題は、国連今次の総会が、従来のたな上げ方式を捨てて実質的討議に入りましたことは一つの前進であると思います。この問題は、現実に即し、しかもあくまで公正妥当な国際世論に基づいて対処せねばならぬものと信じております。国連加盟国の圧倒的多数がわが国の提案に同調されましたことは、わが国良識が広く支持されたことを意味するものであります。私は、国連が慎重にかつ公正に本件の実質的審議を続け、賢明と勇気をもってその解決を見出すことを、アジア及び世界の平和と進歩のために望んでやまないのであります。  わが国は明治維新以来、みずからの後進性をいち早く脱却して偉大な進歩を遂げて参りましたが、世界の新しい波に針路を誤り、軽率にも無謀な戦争を強行し、悲惨な敗戦を経験したのであります。私は、アジア友好諸国が、この轍を踏むことなく、それぞれの国民性を重んじつつも、国連中心としてあらゆる問題の平和的解決をはかる態度を堅持し、すぐれた政治的経済的自立への建設的努力を傾けられることを衷心より希望するものでありまして、われわれとしても、あとう限りの協力を惜しまないものであります。  北方領土の問題につきましては、政府として、公正な内外世論の喚起を通じて、わが国の正当な主張を貫徹するよう、今後とも一そうの努力を継続して参りたいと存じます。沖繩・小笠原の問題については、日米相互の信頼と理解の上に立って、これら地域同胞の安寧と福祉増進のため、米国協力して積極的な施策を講じつつ、その施政権返還実現を促進して参りたい所存であります。変転する国際情勢に対処して、わが国の安全を保障することは、政府に課せられた至大な責任であります。政府としては、日米安保体制を堅持しつつ、引き続き、国力と国情に応じ防衛力自主的整備をはかるため、国民防衛意識の高揚を期待しつつ、さきに国防会議において決定した第二次防衛力整備計画にのっとり、防衛力内容充実に努めたいと思うのであります。  私は、つとに、外交と内政は一体不可分のものであるとの確信を披瀝して参りました。内における民主的秩序確立、自由な経済体制による豊かな経済力充実によって、はじめて、自由国家群一員であると同時に、アジア一員であるという立場にあって、世界の平和と繁栄のためにわが国独自の貢献をなし得るものであると思います。また、かくしてのみ、わが国国際的信用向上期待することができると思うのであります。国際政局多難のおりから、国民諸君が、公明かつ寛厚な精神をもって、政府外交政策に建設的な批判と協力をお願いいたすものでございます。  次に経済について申し上げます。昨年の日本経済は、設備投資の著しい増大と消費の堅調にささえられて、きわめて旺盛な拡大を続け、三十六年度の国民生産は十六兆七千億円余に達し、三十五年度の実績に対し、一四%にも上る成長を示しておるのであります。この結果、国民生活水準向上雇用改善と並行して、貿易自由化対応する産業近代化に顕著な成果をおさめました。しかし他面、この成長のテンポはわれわれの予想をはるかに上回り、内需の旺盛と輸出の停滞による国際収支の悪化を招き、また、消費者物価上昇労働力不足道路港湾等社会資本の立ちおくれが顕著となるなど、経済の各分野に不均衡を生じ、この状態を憂える世論もまた異常な高まりを見るに至りました。  経済成長発展は、本来、程度の差こそあれ、生産流通消費はもとより、貿易雇用物価等経済要因に革新をもたらすものであります。かつて見ない近代化革命を経験しつつあるわが国経済にとっては、その成長過程において、これらの経済要因に相当の変動を見ることは、これまた当然のことと申さねばなりません。今日の緊張した事態は、日本経済がその針路を誤ったことから生じたものではなく、予期以上の経済成長が、われわれの予想を越えた不均衡を引き起こしたものと見るべきであると思います。それにいたしましても、あらかじめ起こるべき事態適確な予見と、これを回避すべき事前の対応策に十分でなかったことは、これを認めるにやぶさかではないのでありまするが、われわれの堅持する経済政策がその針路を誤ったと見る見解には承服するものではありません。私は、との反省認識の上に立って、全力を傾けて事態発展的な収拾に当たり、わが国経済の堅実な成長推進して参る覚悟であるのであります。  今日、大企業はもとより、中小企業においても、その近代化は非常な速度で進み、その生産性も著しく向上して参りました。また、その労働条件は日とともに改善され、その水準生産性向上の線に迫りつつあり、賃金の構造的格差も着実に縮小を見つつあります。農業生産選択的拡大農業経営近代化は、急速な進展を見せ、農業所得も堅実に増加して参っております。雇用構造は顕著な改善を見、失業者は減少し、雇用は増大し、一部にはその不足をさえ訴える状況になりました。  一方、中央地方を通ずる財政力は、明年度の一千二百億円余の減税を加えて戦後一兆円以上の減税を断行しつつも、逐年充実し、行政水準も漸次向上を見つつあります。特に住宅事情は年とともに好転し、一世帯一住宅実現に着実な歩を進め、環境衛生状況も目ざましい改善を見つつあります。また、教育機会教育施設は顕著に拡大整備され、生活困窮者や低所得層に対する社会保障は、医療保障一般的拡充とともに、その改善の跡は見るべきものがあります。  総じてこれらのことは、われわれの経済政策国民諸君協力を得てなし遂げた偉大な成果であって、九千四百万人の国民の就業と所得機会が急速に増加し、その内容改善されつつあることを物語るものであります。われわれは、もとよりこれに満足することなく、さらに、わが国経済近代化とその構造改善のために、ますます精力的に施策し、経済地域的構造的格差を解消して、われわれが希求する近代福祉国家としての骨格を作り上げて参る所存であるのであります。  私は、これら一連の大きい成果につき、国民諸君が冷静に正しい評価を加えられることを希望いたします。同時に、かかる成果がもたらした各種の不均衡の存在とその是正の方途についても、十分な理解を持っていただきたいと存じます。われわれはすみやかにこの不均衡を解消しなければなりませんが、このことが成長途上にある農林漁業中小零細企業に対し不当な圧迫にならないよう心がけるとともに、受難期にある海運事業石炭産業等に対しても周到な配慮を加え、さらには、その後において経済の沈滞を招くことのないよう十分留意して参る所存であります。したがって、これら不均衡是正の措置は、いたずらに成長を抑制することによってではなく、建設的かつ発展的に進めて参ることがわれわれの課題であると信じます。そしてこのことは、われわれの創意と工夫決意と行動によって可能なものであり、ただにその実行が可能であるばかりでなく、その過程を通じて日本経済の新たなる躍進を約束することになるものと考えるものであります。われわれが明年度予算編成にあたり、従来より推進してきた基本政策の地道な拡充をはかることをその方針として堅持したゆえんもここにあるわけでございます。  物価は、わが国経済近代化による生産性向上流通秩序改善によって、私は遠からずその上昇傾向を食いとめ得ると確信いたしております。ただ生産性向上に均霑し得えい物資ないしはサービスの価格については、その合理的値上げを容認しながら、消費者ないし利用者所得増加の一部をもってこれを吸収し、全国民が公正に経済成長の恵沢に浴するよう配慮して参りたいと存じます。  道路港湾その他の社会資本充実は、もっぱら政府及び地方公共団体任務でありますが、治山治水事業環境衛生事業とともに、政府がその予算編成上最も重点を置いたところであります。特に交通対策としては、国民諸君交通秩序の尊重を求めつつ、道路、鉄道、駐車場整備等国民期待にこたえる諸施策を強力かつ周到に進めて参る考えであります。  私は、わが国国際収支均衡を本年秋ごろまでに達成するという目標を打ち立て、経済の伸びをやや控え目に見積もるとともに、国際収支改善対策を打ち出しました。この対策が、国民諸君協力を得て、漸次予期した効果をあげつつあることを報告できることを喜んでおります。また、IMF当局よりの借り入れも成立の運びとなり、当面外貨繰りの懸念は一応一掃されました。もとより国際収支については、引き続き慎重な態度を堅持し、輸出増進につき一そうの工夫努力を必要といたしますが、これまでの経過から見て、私は、日本経済の実力に十分の自信と期待を持ち、政府の慎重な施策とこれに対する国民協力を得れば、われわれの目標が確実に達成できるものと確信いたしておるのであります。  諸君、新しい年も、たんたんたる泰平を楽しみ得る年ではありません。国際情勢は平穏ではなく、国内的にも多くの問題が解決を待っております。しかし、これらは、日本国民が新たな歴史的時代を創造するために与えられたとうとい機会であり課題であると思います。問題のないところに進歩はなく、困難を克服することなくして飛躍と発展を望むことはできません。新しい年に臨み、新たな課題の挑戦を前にして、私は、国民諸君とともに、このような覚悟を新たにするものであります。  進歩繁栄が謳歌されている欧米諸国において、その反面に遊惰と頽廃の風潮に対する反省警戒が叫ばれておりますが、わが国においては、決してかかる憂えのないよう、政府としてもその施政上十分戒めて参る所存でありますが、国民諸君に対しても一そうの御奮発を期待してやまないものであります。(拍手)     —————————————
  7. 松野鶴平

  8. 小坂善太郎

    国務大臣小坂善太郎君) 第四十回通常国会に際し、政府外交方針に関する所信を申し述べたいと存じます。  ここに新しい年を迎えたのでありますが、過去久しきにわたるベルリン問題をめぐる東西両陣営の対立は依然として重苦しい緊張を続け、その間、ベトナムその他の諸地域においても、局地的紛争発生の危険が考えられるなど、世界平和確立への道は、遺憾ながらいまだ険しいものと考えざるを得ないのであります。  今日、国際連合は、すでに百四カ国の加盟を見ているのでありますが、残念ながら国際連合自体、ある意味では東西抗争の舞台となり、世界平和機構としてのその本来の機能を十分発揮するに至っていないのであります。しかしながら、第十六回総会におきましては、関係国間の話し合いの結果、軍縮核兵器実験及び大気圏外平和利用に関する国際会議が開会されることとなりました。今後とも国際連合が種々の試練に耐え、よくその本来の機能を発揮し得るためには、すべての国がひとしく国際連合憲章目的原則を尊重し、あくまで、この機構をもり立てていくという態度に徹することこそ肝要なのでありまして、わが政府率先国際連合協力し、その育成強化に努めることをもって、外交政策重点とするものであります。  世界の平和が維持されるためには、すべての民族が、みずからの自由な意思に従って、その生活を築いていくことが必要であります。この意味におきまして、今日アフリカ大陸において多数の独立国が誕生し、さらに引き続いて本年もその数を加えんとしつつありますことは、御同慶の至りであります。わが国は、植民地の住民が抱く独立への願望に対しては、常に十分の同情と理解を有するものでありますが、同時に、また、このような願望は、あくまで平和的手段によってのみ達成されるべきものでありまして、目的のいかんを問わず、いやしくも武力によって事を解決しようと試みるがごときは、国際連合憲章目的原則にも反するものであり、直接世界の平和を脅かすものとさえ言わなければならないと存ずるのであります。  軍備の拡張と核兵器生産、またその実験等は、全人類の平和と福祉への悲願に逆行するものであります。特に人類の英知が創造した核エネルギーを他国に対する威嚇の手段として利用し、もって政治目的を遂行しようとするがごときは、平和を愛好する国民の断じて許すべからざるところであります。政府は、核兵器実験に対しては、常に声を大にしてその停止を求めることこそ、史上唯一被爆国としてのわが国民が、全人類の将来に対して負うている重大な責務であると信ずるものでありまして、私は、関係諸国が、効果的な核兵器実験停止に関する協定を一刻もすみやかに締結し、ひいては有効な軍縮協定の締結を促進するよう、強く要望するものであります。  次に、最近におけるわが国と諸外国との関係を概観いたしたいと存じます。まず、池田総理大臣の訪米によりまして、日米両国首脳者間において腹蔵なき意見の交換が行なわれ、両国間の相互理解を一段と深め得ましたことは、各位のつとに御承知のところであります。その後、日米貿易経済合同委員会及び日米科学協力委員会、さらに近く開催せられまする日米文化教育会議など、広範な分野にわたる日米国民間の意志疎通が活発に行なわれることとなりました。  ただ日米関係の一まつの暗影を投ずるものは、綿製品に対する賦課金問題その他、米国側に見られる一連輸入制限動きであります。これらの動きは、その直接関連いたします貿易額に比して、はるかに大きな、そうして好ましからざる影響を日米関係に及ぼしているのでありまして、政府友邦としまして、率直に指摘すべき点は指摘いたしまして、この点について是正を求めるという立場に立って、強力に米国を説得する努力を重ねつつあります。  最近ケネディ大統領が、その年頭教書において、自由貿易政策を明確に打ち出しましたることは、大いに歓迎するところでありまして、私は、この自由貿易政策推進するにあたり、米国政府及び有識者が、わが国自由世界において占める政治上、経済上の重要な地位につき、十分な認識をもって対処することを、強く希望いたすものであります。  米国との間に多年にわたる懸案となっておりましたガリオア等戦後対日援助の処理に関しましては、昨年の春以来交渉の結果、今回妥結いたしましたので、関係協定並びに附属文書を本国会に提案いたしまして、御審議を願う予定であります。わが国が戦後困難な事態に直面して、餓死者まで出るという危険に陥った際、当時約二十億ドルに上るといわれた援助が、いかにわが国民を勇気づけ、安堵と復興への気力を与えたかは、何人も忘れ得ないところでありまして、政府はこのような多額の援助に対し、今回四億九千万ドルの支払いを十五カ年間にわたって行ないますることにより、本問題の最終的処理を行なうこととした次第であります。しこういたしまして、わが国が支払う右金額の大部分は、発展途上にある諸国に対する経済技術援助の資金として利用されることが期待されております。また、一部は日米間の教育文化交流のために充当される予定であります。  米国と並んでわが国政治的、経済的に深い関係を有するカナダとの関係につきましては、昨年池田総理大臣の訪問、続いてディーフエンベーカー首相の訪日を見る等、相互の友好関係は一段と深められつつあります。  私は昨年七月西欧諸国を訪問し、これら諸国との相互理解増進に努めた次第でありまするが、さらに十一月英国王室よりアレキサンドラ内親王の御来訪を受けましたことは、日英両国の親善関係の上に、記念すべき一ページを画したものと信ずるものであります。  政府はもとより、アジアの一国として、わが国アジアの諸国との友好関係増進を、重視するものであります。昨年十一月に行なわれた、池田総理大臣のパキスタン、インド、ビルマ及びタイ訪問が、単にわが国とこれらアジア諸国との友好関係増進するにとどまらず、今後のわが国アジア外交推進する上にきわめて大きな意義を有するものとなったことは、申すまでもないところであります。  ビルマとの賠償検討問題につきましても、池田内閣総理大臣とウ・ヌービルマ首相との会談によりまして、両国それぞれの立場についての相互理解は一そう深まりましたので、遠からず妥結に至るものと期待されます。また、タイ特別円問題は、さきに行なわれました両国政府間の協定が、解釈問題をめぐって実施不能となっておりましたが、今回、池田総理大臣とサリット・タイ首相との間に会談が行なわれましたる結果、両国間の友好関係を考慮する高い見地に立って合意が成立し、交渉は近く妥結の見込みであります。  わが国と中国との関係をいかに処理するかは、わが国にとって重大な問題でありますると同時に、極東の安定、ひいては世界の平和に影響を及ぼすものであります。かかる観点によりまして、今次国連総会におきまして、わが国は、オーストラリア、コロンビア、イタリア及び米国とともに、中国の代表権を変更するとのいかなる提案も重要問題であることを国連憲章第十八条に従って決定すべきことを提案いたしました。その結果、総会において六十一カ国に上る多数の国の賛同を得ましたことは、本問題の包蔵する複雑性が、広く世界各国によって認識されるに至ったことを示すものと考えます。私は、今後国際連合において、加盟各国が本問題の実体を十分に考慮して、公正妥当なる結論を引き出すよう努力することを期待するものであります。  従来中国問題については、国内においても、ややもすれば問題の複雑性を十分に考慮することなく、ばく然と主体性のない議論が行なわれ、かえってわが国益に反する結果を生むきらいがありましたが、政府といたしましては、今次国連総会において、初めて中国代表権問題について実質的論議が行なわれましたことにもかんがみて、内外世論の向こうところを注視しつつ、極東の安定と世界の平和に貢献するとの方針のもとに、この問題を具体的に検討して参りたいと考えております。なお、中国大陸との貿易問題については、双方の国民経済が必要とする物資の交流が拡大されることを望むことは申すまでもありません。  わが国の最も近い隣国である韓国との関係につきましては、多年にわたり懸案解決のだめに交渉が続けられておったのでありまするが、いまだに国交の正常化をみておりませんことはまことに不自然な状態であると言わざるを得ません。幸いにいたしまして韓国の新政権は、非常な熱意を示しており、国交の正常化について昨年十月より第六次会談を開始いたしたのであります。特に昨年末には、朴国家再建最高会議議長が訪日いたしまして、池田総理大臣と忌憚なき話し合いを遂げることによって、相互理解を深め得たことは、会談の前途を明るくするものであります。政府といたしましては、懸案解決に今後一そうの努力を傾け、すみやかに国交の正常化実現したいと考えております。  さらにソ連との関係につきましては、昨年夏ミコヤン副首相がフルシチョフ首相の池田総理大臣あて書簡をもたらして以来、特にわが北方領土の問題をめぐって、両国首相間に両三度にわたり書簡の交換が行なわれて参りました。ソ連側は北方領土問題はすでに解決済みであると一方的に断定いたしまして、さらに、日ソ両国間に平和条約を結ぶためには、わが国日米安全保障条約を廃棄することが必要であると宣伝いたし、わが国内でとの宣伝を広めるべく意図をしておるのであります。政府といたしましては、北方におけるわが国固有の領土に対する、国民こぞっての愛着を無視するごとき妥協は一切行なわず、今後ともわが国の正当な主張を堅持して参る所存であります。もとより、貿易や文化の交流によりまして日ソ善隣関係増進に資することは政府方針とするところであります。  次に中南米諸国との関係につきましては、昨年はプラード・ペルー大統領、フロンデシ・アルゼンチン大統領の訪日があり、その際通商航海条約その他諸協定及び取りきめの締結を見まして、これら諸国との関係が一そう密接になりましたことは、まことに喜ばしい次第であります。わが国といたしましては、今後とも貿易経済協力及び移住を通じまして、中南米諸国との協力推進して参りたいと考えております。  本年のわが国外交の重要な課題は、経済外交の積極的な推進にあると考えます。  わが国は現在、健全経済成長政策を進めつつ、当面の国際収支の困難を克服し、かつまた貿易為替自由化を促進するという立場にありまするが、そのためには、何よりもまず輸出振興に力を注ぐことが肝要であります。  政府は、ガット三十五条援用を初めとする、わが国に対する通商上の差別待遇を撤廃するよう、強く要望して参りましたが、昨年十一月のガット総会におきましては、本問題の重要性が一そう広く理解されるに至り、一部の国が三十五条援用を撤回いたしたのであります。また、昨年八月以来、イギリス、フランス、イタリアその他の欧州諸国とも対日差別の撤廃につき交渉を行ない、その結果、今後わが国の対西欧貿易は、相当程度の増進期待されるのであります。私は、本年こそはぜひともこの対日差別を撤回する年としたいと考えております。  この点に関連いたしまして、私が特に申し上げたいのは、わが国の業界と欧州諸国の業界との接触を密にして、相互の意思の疎通をはかるということが非常に重要であるということであります。すなわち、欧州諸国の業界におきましては、わが国の実情にうとく、そのために対日不信と猜疑心がかなり根強いのでありまして、これが対日輸入差別継続の根源をなしていると見られるのであります。これを解消するためには、政府民間相協力してまず輸出体制整備にさらに工夫をこらすとともに、各国の業界とも一そう積極的な接触をはかるよう努力することが望ましいと思います。  欧州における経済共同体発展は、近年まことに目ざましいものがあります。ことに、イギリスを初めとする他の欧州自由貿易連合の諸国におきましても、多くはこれに加入ないし連合するということのために交渉を始めるに至りましたので、ここにアメリカ、ソ連両国に匹敵する強大な経済圏の出現が予想されるのであります。アメリカも共同体との貿易関係を強化するため、相互に関税の大幅な一律引き下げをはかっております。また、ヨーロッパ諸国にアメリカ、カナダを加えた経済協力開発機構も、昨年十月以来活動を開始しておることは御承知のとおりであります。  このような動きに対しまして、政府は従来から西欧諸国との経済交渉を強力に推進するとともに、共同体の対日通商政策をできるだけ自由なものとするよう、また共同体当局との間にも種々話し合いを行ないまして、関係の緊密化に努めております。また、経済協力開発機構につきましては、わが国もその活動に積極的に参加すべきであり、また関係国理解を得られるものと信じておるものでありまして、現にこの機構の下部機構である開発援助委員会に参加しておることも御承知のとおりであります。  欧州経済共同体とアメリカという大工業圏が経済的に紐帯を強化するということが予想されるのでありますから、わが国といたしましても、これにいかに対処するかということについて十分な心がまえをもって準備を進める必要があると考えます。  わが国が、発展途上にある諸国、特にアジア、アフリカの諸国の産業開発を援助し、その発展に寄与することは、これら諸国との関係を緊密化するのみならず、それらの地域の安定、ひいては世界平和にも貢献するものであります。政府は昨年インド、パキスタンに対して、総計一億ドルに上る借款を供与し、かつ、その他の諸国に対しても経済技術協力を積極的に推進してきたのでありまするが、さらに本年度は、輸出入銀行、海外経済協力基金等の資金の充実、海外技術協力事業団の設立などによりまして、これら諸国に対する経済技術協力体制をますます強化充実する所存でありまして、そのため、コロンボ・プラン、国連関係諸機関との協力に努めると同時に、他の先進工業国との間にも積極的な協調を重視しておる次第であります。  また、これらの諸国からの一次産品の買付の増加につきましても、わが国貿易自由化の進展とともに、種々困難な問題を生じておるのでありまするが、政府といたしましては、これらの諸国に対する経済技術協力推進と相待って、その買付増加の方法につき一段と工夫をこらし、相互経済関係の一そうの増進をはかりたいと考えております。  さて、世界の諸民族相互理解を促進し、親近感を深めますることは、世界の平和に寄与する重要な方途であると存じます。政府は、かような見地から、つとに、わが国の文化と国民生活の実態を広く世界に知らしめるべく努力して参りましたが、わが国の文物に対する関心は今や全世界を通じて著しく強まって参りました。同時にまた、私は、わが国民においても、複雑微妙な国際情勢に対する関心をさらに深められまして、諸外国、諸民族の事情をよく知るとともに、国際社会におけるわが国立場を正しく理解することが、国家間の協力を促進する上にもきわめて重要であると考えております。  申すまでもなく、外交国内世論と密接に結びついたものでありまするが、今後、思想経済、文化その他あらゆる生活の面を通じて、国民に対する国外からの働きかけがいよいよ激しくなるものと予想されるのであります。私は、国民各位がこの複雑な国際情勢について正確な認識を持たれ、世界の平和とわが国繁栄とを目的とする政府外交方針について、今後とも強力に御支持を賜わりまするよう、切に要望いたします次第でございます。(拍手)     —————————————
  9. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 水田大蔵大臣。   〔国務大臣水田三喜男君登壇、拍   手〕
  10. 水田三喜男

    国務大臣(水田三喜男君) 本年は、国際収支均衡を回復するという当面喫緊の課題にこたえるため、引き締めの政策を堅持しつつ、経済成長に伴い顕在化するに至たった各面における不均衡是正をはかり、長期にわたる国力発展の基礎を充実すべき年であります。  顧みまするに、政府は、昨年半ばより、国際収支改善のため、一連の政策を実施し、内需の抑制と輸出の振興に努めて参りました。しかして、その効果はようやく経済の各分野に浸透し始め、輸入は高水準ながらも落ちつきを示し、卸売物価は軟化し、企業の投資態度にも慎重さが加わるなど、漸次、景気鎮静化のきざしがうかがえるに至りました。  しかしながら、引き締め政策が所期の成果をおさめますには、なおしばらくの時日を要するのでありまして、実勢として引き続き大幅な赤字を示しております国際収支の先行きについては、いまだ予断を許さないものがあります。すなわち、輸入は数カ月にわたり頭打ちの傾向を示しているものの、わが国経済の規模が著しく増大していることを考えますと、輸入水準の大幅な低下を期待することは困難であります。のみならず、今後における貿易為替の自由化の影響や設備投資等の内需の動向いかんによりましては、再び増勢に転ずるおそれもなしといたしません。  一方、輸出につきましては、米国景気の上昇、西欧諸国における差別的な対日輸入制限の緩和の動き等、国際環境には好転の気配も感じられます。また、過去の設備投資生産力化し、引き締め政策が浸透するに伴って、輸出余力が増加することも十分期待されるところであります。その反面、米国におけるドル防衛政策や、西欧経済拡大速度の鈍化、地域的な経済統合の動き等を顧みますれば、必ずしも楽観を許さない要因も多いのであります。  わが国経済の国際的な信用を保持し、対外支払いの必要を満たすため、外貨準備の確保に遺憾なきを期することはもとよりであります。一時、二十億ドルをこえたわが国の外貨準備は、その実勢において、最近までに六億四千九百万ドルの減少を見たのでありまして、米国市中銀行からの二億ドルの借款の取りきめ、及び米国輸出入銀行の保証による一億二千五百万ドルの借款契約の交渉も、この趣旨に出たものであります。さらに、国際通貨基金に対し、さきに申し入れた三億五百万ドルのスタンド・バイ取りきめも、本日の理事会において審議される運びとなりました。したがって、当面、外貨の資金繰りにはいささかの不安もないものと考えます。しかしながら、これらの借款は、いずれも短期的なものでありまして、長期にわたってこれに依存することは許されず、できるだけすみやかに返済することを要するのであります。  このような情勢にかんがみ、政府といたしましては、昭和三十七年度下期中に国際収支均衡を達成することを経済運営の第一の目標とし、財政金融政策におきましても引き締め基調を堅持することといたしております。  もちろん、引き締め政策の浸透過程におきまして、中小企業等にしわ寄せが行なわれることのないよう、従来にもまして、慎重に配慮する所存であります。  また、国際収支改善にあたりましては、単に、内需を抑制し、間接的に輸出拡大を期するのみならず、輸出振興策を推進して、積極的にその伸長をはかることも、けだし当然であります。  予算編成におきましても、ただいま申し述べました基本方針に基づき、昭和三十六年度につきましては、多額に上ると見込まれる租税の自然増収等を剰余金として極力後年度に繰り越すことといたし、昭和三十七年度予算につきましても、厳に健全財政方針を堅持して編成いたしましたのみならず、その執行にあたりましても、経済情勢の推移に応じ、弾力的に対処して参りたいと存じます。  他面、わが国の現状におきましては、国土の保全、産業基盤の強化、生活環境整備等社会資本の立ちおくれを是正するとともに、経済社会均衡ある発展推進し、もって長期にわたる国力発展の基礎を充実することの必要性が痛感されております。  これがため、公共投資の充実社会保障拡充雇用対策の強化、文教刷新科学技術の振興、及び産業間・地域間の格差の是正などの施策を進め、さらに、租税負担の軽減合理化をはかることがきわめて緊要であります。  したがいまして、昭和三十七年度予算及び財政投融資計画においては、健全財政方針を堅持しつつ、従来から政府重点を置いて参りました重要施策を着実に推進することを主眼として、これらの要請にこたえることとした次第であります。  以下、今回提出いたしました昭和三十七年度予算について御説明いたします。  一般会計予算の総額は、歳入歳出とも二兆四千二百六十八億円でありまして、昭和三十六年度当初予算に対し四千七百四十億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しては三千七百四十三億円の増加となっております。  また、財政投融資計画の総額は八千五百九十六億円でありまして、昭和三十六年度当初計画に対し千三百四億円、改定後の計画に対しては七百七十三億円の増加となっております。  政府が特に重点を置きました重要施策について、その概略を申し述べますと、第一は、国、地方を通ずる減税中心とする税制の改正であります。昭和三十七年度におきましては、三十六年度に引き続き、税制の体系的な整備改善をはかるとともに、租税負担の軽減に努めることといたしております。すなわち、中小所得層の負担軽減を主眼として、間接税及び所得税を中心に、国税において、平年度約千二百億円の減税を行なうこととしたのであります。  間接税につきましては、戦後、減税が見送られがちであったため、その負担が全般的になお相当重く、また、課税対象相互間にも不均衡が目立っていることを考慮し、この際、負担の適正化をはかりつつ、相当大幅な減税を実施することといたしました。  すなわち、酒税につきましては、広く大衆が飲用する酒類において、現行の小売価格をおおむね一割程度引き下げることを目途として、全般にわたって税率の軽減を行なうとともに、一部の高価な酒類に対する従価税率の採用、その他酒税制度の合理化をはかることといたしました。物品税につきましては、最近における消費内容の変化、零細企業対策等を考慮して、相当数の物品に対する課税の廃止、税率の引き下げ及び免税点の引き上げを行なうことにより、大幅な負担の軽減をはかることといたしました。  さらに、入場税につき、現在の三〇%ないし一〇%の税率を、一律に一〇%に引き下げるほか、通行税、印紙税、トランプ類税につきましても、それぞれその負担を軽減することといたしております。  直接税におきましても、所得税につき、中小所得者の負担の軽減をはかるため、基礎控除及び配偶者控除の引き上げ、税率の緩和、青色専従者控除の拡充、寡婦控除の引き上げを行なうとともに、寄付金控除制度の創設、生命保険料控除の引き上げ等を行ない、相続税につきましても、遺産にかかる基礎控除を引き上げることといたしました。  さらに、税制の体系的な整備の基礎として、各税法を通ずる基本的な法律関係を明確にするとともに、納税者の利益に着目しつつ、争訟制度や利子税、加算税制度等の改善合理化をはかるため、この際、国税通則法を制定することといたしました。なお、企業年金に対する税制を初めとして、各税を通じて所要の整備を行なうことといたしております。  また、国税、地方税を通ずる税源配分を適正化し、地方税源を強化するため、所得税の一部をさいて道府県民税に移譲し、たばこ消費税の税率を引き上げ、これに伴い、入場税の地方譲与の制度を廃止することといたしました。このほか、地方税におきましても、住民税、事業税、電気ガス税その他につきまして、所要の減税を行なうことといたしております。  歳出面の施策としては、まず、社会保障関係費であります。わが国社会保障制度は、年々充実の一途をたどっており、特に、昭和三十六年度におきましては、その画期的な拡大をはかったのでありますが、三十七年度予算におきましても、引き続き、諸般の施策推進強化して、国民生活均衡ある向上社会福祉充実を期することといたしました。すなわち、生活保護基準の引き上げを行ない、児童保護その他社会福祉費を増額するとともに、国民健康保険の療養給付費に関する国庫負担割合を引き上げ、医療保障改善をはかることといたした次第であります。また、国民年金におきましては、拠出制年金について、保険料免除者に対する国庫負担を開始するとともに、福祉年金については、所得制限の緩和、他の公的年金との併給など、改善措置を講ずることといたしております。さらに、雇用対策の面におきましても、労働力移動の円滑化をはかるための措置を講ずることとし、特に、炭鉱離職者援護対策については、雇用奨励制度の創設、住宅対策の強化等、格段の配慮を加えることといたしました。  以上、社会保障関係費の総額は二千九百七十六億円となり、昭和三十六年度当初予算に対し五百十五億円の増加を示しております。  なお、文官、旧軍人遺族等恩給費につきましても、この際、所要の是正を行なうこととし、また、社会保障拡充の一環として、住宅、上下水道等の生活環境の積極的改善をはかることといたしております。  経済成長の基礎条件の整備でありますが、最近における大都市を中心とした交通輸送事情の逼迫に顧み、まず、道路整備につき、五カ年計画の強力な実施に必要な経費を計上するとともに、新たに、阪神高速道路公団を設置し、道路交通の円滑化に努めることといたしました。また、港湾についても、その整備を促進し、船混みの解消等をはかるとともに、国有鉄道、電信電話施設の計画的拡充のため、所要の資金措置を講ずることといたしております。  さらに、農業基盤整備についても一そうの充実をはかり、また、用水需要の増大に対処して、水資源の急速な総合開発をはかるため、水資源開発公団の事業資金の確保に努めることといたしました。  治山治水対策におきましては、昭和三十六年災害の復旧の進捗を最重点として、災害復旧費七百三十七億円を計上しており、既定の五カ年計画に沿った治山治水事業の遂行と相待って、国土保全施設の強化に遺憾なきを期することとした次第であります。  以上、公共事業関係費の総額は四千五百二十二億円に達し、昭和三十六年度当初予算に対し九百三十八億円の増加と相なっております。  文教刷新充実して人材の養成に努め、科学技術を振興して現下の要請にこたえることは、政府の重大な責務であります。これがため、教育水準向上教育環境改善に特に意を用い、小中学校における教職員数の充実施設整備を引き続き推進するとともに、高等学校生徒の急増に備えて、校舎の整備につき、所要の資金措置を講ずることといたしました。また、今回新たに国立の高等専門学校を創設することといたしましたのは、大学、高校における理工系学生、生徒の増募、教育施設充実と相待って、産業発展に伴い必要とされる技術者の確保に遺憾なきを期するためであります。  さらに、各省試験研究機関の研究体制の強化、国産新技術の開発、原子力等の重要研究を推進して、科学技術の一段の飛躍を期することといたしております。なお、育英奨学、低所得者子弟の就学援助につきましても、引き続き配慮いたしましたほか、新たに義務教育の教科書について財政負担の方途を講ずることといたしました。  以上、文教及び科学技術関係費の総額は三千五十三億円となり、昭和三十六年度当初予算に対し四百八十二億円の増加となっております。  貿易の振興につきましては、海外市場調査、国際見本市などの事業を一そう拡充するとともに、日本輸出入銀行に対する財政資金を増額して、貸付規模を千二百五十億円とし、もって輸出の増強を期することといたしました。  また、対外経済協力の面でも、海外経済協力基金に対して六十五億円を追加出資するほか、新たに、海外技術協力事業団を設置する等の措置を講じ、長期にわたる輸出市場の確保に努めることといたしております。  農林漁業の振興につきましては、その基本的政策に即して、成長農産物の選択的拡大、経営の近代化生産基盤の強化等の施策を着実に推進し、農業構造改善事業の本格的な実施をはかることとしております。  また、農業近代化助成資金による系統資金の活用を一そう促進するため、融資ワクを五百億円に拡大するとともに、一部金利の引き下げを行ない、農林漁業金融公庫の資金の充実とあわせて、金融措置に遺憾なきを期することといたした次第であります。  中小企業につきましては、その経営の安定強化に資するよう、中小企業近代化の促進と、小規模事業対策推進に一そう努めることとし、また、中小企業金融対策充実するため、中小企業信用保険公庫に対する出資を増額するとともに、財政投融資において、千百二十五億円の資金を投入し、国民金融公庫、中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫の貸付規模を拡大することといたしております。  石炭鉱業の安定強化は、エネルギー及び雇用対策の面からみて、今日、きわめて重要であると考えられますので、合理化の推進と離職者対策を中軸とする石炭対策の展開をはかるため、百三十五億円を計上いたしております。  地方財政内容は、幸いにして著しく改善されつつありますが、昭和三十七年度におきましては、国、地方を通ずる税源の再配分を行ないましたほか、昭和三十五年度以降当分の間設けられた臨時地方特別交付金の廃止を行なうことといたしたのであります。他方、地方の行政内容、住民福祉向上をはかるため、地方交付税率を〇・四%引き上げるとともに、地方団体の起債ワク拡大の措置を講ずることといたしております。  地方団体におきましても、経費使用の合理化をはかり、財政健全化の努力を続けられるよう、希望するものであります。  財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目において御説明いたしたととろでありますが、計画の策定にあたりましては、輸出の振興と中小企業金融の円滑化に重点を置くほか、引き続き、住宅、上下水道を初めとする生活環境施設整備に努めるとともに、農林漁業の振興、地方開発の推進、及び道路港湾、工業用水等、産業基盤の強化に、特に配意した次第であります。  なお、この際、昭和三十六年度の補正予算について、申し述べたいと存じます。  昭和三十六年発生災害に対しましては、さきに、一般会計予算補正第一号をもって対処いたしたのでありますが、その後の災害の発生、調査の進捗に伴い、既定予算不足を生ずることとなりましたので、義務的経費に関する国庫負担の不足補てん、その他緊急やむを得ない経費とあわせて、近く、補正予算として御審議を願う所存であります。  金融面におきましては、御承知のように、昨年来、公定歩合の引き上げを初めとする一連の景気調整の諸施策が講ぜられて参りましたが、国際収支均衡を回復するためには、引き続き、引き締めの方針を堅持して参ることが必要であります。もとより、金融の引き締め措置は、できるだけ摩擦や困難を避けながら、円滑に運営されるべきものであり、また、引き締め自体も、国際収支改善目標が達成せられるに伴い、逐次正常な姿に立ち帰るべきものであります。政府といたしましても、これらの事情に十分配意しながら、今後、日本銀行と緊密な連携を保ち、情勢に応じて、機動的、弾力的に臨んで参る所存であります。  特に、本年一月から三月までの財政の大幅な揚超期におきましては、日本銀行による買いオペレーションを通ずる財政資金の活用によって、これに対処することといたしております。また、金融の引き締めが経済的に弱い面にしわ寄せされないよう、中小企業金融対策としては、昨年末に、総額八百億円に上る財政資金による手当をいたしましたが、さらに、適宜、所要の財政資金を追加し、政府関係金融機関の資金量の増加をはかるほか、中小企業向け貸し出し促進のため、市中における金融債等の買い入れを行ないたいと考えております。  なお、経済情勢の変化に伴い、昨年後半以降、株式市場及び公社債市場にもその影響が見られるのでありますが、政府といたしましては、長期の安定した産業資金調達の場としての株式市場、あるいは公社債市場の育成強化が、日本経済にとりきわめて肝要であることにかんがみまして、これら市場の健全な発達のため、一そうの工夫配慮を重ねて参りたいと考えております。  さらに、私は、国際収支改善のためには、この際、貯蓄の増強を一段と推進する必要のあることを強調いたしたいのであります。政府におきましても、国民貯蓄組合を通ずる預貯金の非課税限度及び郵便貯金の預入限度を五十万円に引き上げるとともに、税制面における優遇措置を講ずるなど、貯蓄増強のため、格段の努力をいたす所存であります。  最近、国際金融の面におきまして、各国間の協調の態勢は、着々と強化されつつあるのであります。今般、国際通貨基金におきましては、短期資金の移動が主要工業国の国際収支に好ましからざる影響を及ぼす場合等に対処し、国際通貨制度の安定を確保するため、主要工業国十カ国から、総額六十億ドルに及ぶ各国通貨の借り入れに関する具体案を決定した次第であります。わが国も、主要工業国の一員として一億五千万ドルの分担を期待されているのでありますが、この種の取りきめに参加することは、わが国国際的信用を高め、発言力を強化する機会でありまして、わが国といたしましては、所要の準備を整えた上でこれに加わり、国際収支の許す範囲内におきまして協力して参りたいと存じます。  貿易為替の自由化については、政府は、自由化率を本年九月末までに九〇%程度に引き上げる方針を決定いたし、昨年十二月には七〇%の自由化を達成したのであります。しかして、このような自由化の進展は、内に対しては、企業の体質改善産業の合理化、コストの引下げを促進し、国際競争力の強化に貢献するとともに、外に対しては、世界貿易拡大に寄与するという国際的要請にこたえ、わが国に対する輸入制限の緩和にも資するところがあったのでありまして、政府といたしましては、今後も、国際収支改善と相待って、自由化促進計画に基づき、その推進をはかって参りたいと存ずるのであります。なお、その際、わが国産業に及ぼす影響に慎重な考慮を払うことは当然でありまして、関税率についても所要の調整を行なうことといたしております。  低開発国援助は、国際社会一員としての責務であると同時に、わが国貿易拡大のためにも大きな意義を有するものであります。政府は、従来から、各種国際機関へ参加するほか、二国間の取りきめによる援助の推進にも努めてきたのでありますが、引き続き、国力に応じ積極的に努力して参る所存であります。  終わりに臨みまして、私は、わが国経済の直面する難局に対処するためには、政府努力はもとよりでありますが、経済界を初め国民全体の理解協力が不可欠であることを強く訴えたいのであります。  まず、産業界に対しましては、輸出の振興こそわが国経済繁栄成長を約束するものであることに深く思いをいたされ、一段とその意欲を高揚し、不断の努力を尽くされることを切望いたすものであります。また、大局的判断に立って自主的に設備投資を抑制されるなど、経済調整の主たるにない手としての自覚に徹せられるよう、強く期待するものであります。  国民各位におかれましても、極力、用を節し、費を省いて、貯蓄の増強に努められるとともに、進んで国産品を用い、外貨の節約に寄与されるよう、切にお願いする次第であります。  幸いにして、国民各位の深い理解と心からの協力が得られますならば、諸施策と相待って、旺盛を続けております内需もやがて落ちつき、輸入は鎮静し、輸出は増加し、国際収支昭和三十七年度下期中には必ずや均衡を回復し得るものと、深く確信いたしております。その暁にこそ、引き締め政策はその功をおさめ、その使命を達成したことになるのでありまして、金融も次第に正常な状態に立ち戻り、わが国経済は、著しい停滞に悩むことなく、国民の活力に支えられて、健全な成長を見るものであることを信じて疑わないのであります。(拍手)    ———————————
  11. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 藤山国務大臣。   〔国務大臣藤山愛一郎君登壇、拍   手〕
  12. 藤山愛一郎

    国務大臣(藤山愛一郎君) 私は、当面する内外経済情勢と、これは対処する所信とを明らかにいたしたいと思います。  最近の経済情勢を見ますと、昨年来実施して参りました景気調整策の効果が、ようやく経済の各分野に浸透して参りまして、卸売物価は全般に軟化し、出荷の停滞並びに製品在庫の増大傾向が現われ始め、民間企業の投資態度にも慎重さがうかがわれるようになって参りました。このように国内経済が落ちつきを取り戻すに従い、国際収支面では、輸出信用状収支はかなりの黒字を示すようになって参りましたが、経常収支は依然としてなお多額の赤字となっている実情であります。したがいまして、国際収支均衡回復には、なお相当の期間を要するものと考えられ、前途はいまだ楽観を許さないのであります。  したがって、本年においても、国際収支改善を第一の目標とし、引き続き引き締めの基調を堅持して内需の抑制に努めるとともに、輸出の振興に特段の努力をすることが必要であります。  政府は、去る一月十六日、「昭和三十七年度の経済見通しと経済運営の基本的態度」を決定し、発表いたしました。この政府経済見通しは、単なる予測ではなく、政府、民間を通ずる政策と努力とを前提とした見通しであり、いわば努力目標というべきものであります。したがいまして、この目標実現するためには、輸出の振興、輸入の抑制、設備投資の調整、財政金融上の諸施策などが適時適切に行なわれるとともに、これらの諸施策に対する民間各界の積極的な協力が要請されるのであります。  私は、今後の経済運営していくにあたり、特に重要と考えます若干の点について見解を申し述べ、国民各位の御理解と御協力を得たいと思います。  まず第一は、輸出の振興についてであります。国際収支改善のためにはもとより、わが国経済が長期にわたって成長発展するためにも、輸出の伸張は不可欠の条件であります。  本年のわが国輸出をめぐる国際環境について考えてみますと、米国の景気は引き続き上昇を続け、これに伴い、低開発諸国も漸次停滞を脱する方向に向かうものと期待され、また、先進諸国における対日差別待遇の問題も若干好転のきざしを見せておりますが、他方、西欧経済上昇鈍化、米国のドル防衛問題、地域経済統合強化の動きなどがあり、また、国際競争は一そう激化することが予想されるのでありまして、決して安易な楽観は許されないと思います。このような国際環境の中にあって、政府経済見通しで見込まれております四十七億ドルの輸出を達成するためには、政府、民間を通じてあらゆる努力をこれに傾注しなければならないのであります。政府は、すでに税制、金融、保険、経済外交等各分野にわたる輸出振興策を実施して参ったのでありますが、海外経済協力の促進とともに、輸出振興には今後とも特段の努力をいたす所存でございます。  また、貿易外収支の赤字が国際収支の悪化の一因となっていることにかんがみまして、海運、観光収入の増大につきましても、輸出振興とあわせて極力その方策を講じなければならないのであります。しかしながら、輸出の増大をはかるためには、根本的には、民間産業における国際競争力の強化と輸出意欲の高揚とが最も重要であります。私は、国民各位内外経済情勢を正しく把握し、わが国産業の国際競争力を高めることに努められるとともに、輸出意欲を一そう振起されることを切望するものであります。  第二は、内需の抑制についてであります。最近における輸入の動向には落ちつきが見られるとはいえ、鉱工業生産はなお高水準を続けており、個人消費も堅調であります。政府は、昭和三十七年度の輸入の目標を四十八億ドルと見込んでおりますが、国際収支改善するためには、三十七年度の輸入を必ずこの程度にとどめることが必要であり、そのため政府は、今後なお相当期間財政金融政策において引き締め基調を堅持するとともに、輸入抑制の諸施策を続ける方針であります。もとより、これにより深刻な影響を受けるおそれのある中小企業等に対しては十分な配慮を払うとともに、経済情勢の変化に即応する労働力移動の円滑化等雇用対策の強化をはかり、引き締めに伴う摩擦や混乱は極力排除するよう努力する所存であります。国民各位におかれては、冷静に事態に対処する心がまえをもって、投資の調整、消費の節約、貯蓄の増強、国産品の愛用等に協力されることを期待いたすものであります。  内需の抑制にあたり、特に申し述べたいことは、設備投資についてであります。技術の革新に即応して、産業の合理化、近代化推進し、産業構造の高度化をはかるためにも、また、本年秋に予定しております貿易の大幅な自由化に対処し、わが国産業の国際競争力を強化するためにも、必要な設備投資は、これを確保しなければならないことはもとよりであります。しかしながら、他面、最近の経済拡大過程におきまして、行き過ぎた競争投資が経済の不均衡を生み、国際収支の悪化を招いた主要な原因となったことにかんがみまして、国際収支改善を第一の目標とする現在におきましては、比較的緊急度の低い設備投資は、極力これを繰り延べるとともに、自由化への準備体制確立や当面の隘路打開のために特に緊急を要する投資は重点的にこれを確保し、設備投資全体としては妥当な水準にとどまるよう調整することがぜひとも必要であります。政府としては、極力行政指導を行ない、投資調整が円滑に行なわれるよう努力する所存でありますが、何よりもまず民間企業の側における自主的な、合理的な投資調整と金融機関の慎重な融資態度が肝要でありますので、この点につき、とくに産業界及び金融界各位の積極的な御努力期待するものであります。  第三は、物価の安定についてであります。景気調整策の浸透に伴いまして、卸売物価は全般に軟化を見るに至り、今後も引き続き下降の状況が見込まれるのでありますが、これに反し、消費者物価は依然上昇ぎみであります。消費者物価は、経済成長過程にある場合には、労働力需給の関係から来る人件費の上昇所得増加に伴う消費構造の変化などのため、サービスの価格を中心として、ある程度の上昇をみることは、欧米先進諸国の例に徴しても明らかなように、やむを得ない面もあるのであります。しかしながら、他方、経済成長に伴い、工業製品の多くのものについて生産性向上の結果として、製品価格の引き下げが可能となる面もあり、したがって、これら二つの面を総合して、全体としての消費者物価上昇は、できるだけ小幅にとどめるべく努めることが肝要であります。最近の消費者物価上昇は、生鮮食料品の自然的、季節的原因による値上がりを除外して考えてみましても異常なものがあります。政府としては、引き締めの基調を堅持するほか、食料品その他の消費物資の供給力の増加、輸送の円滑化、流通機構整備改善等をはかるとともに、公共料金の値上げを極力抑制し、一般消費者協力を得て、便乗的値上げを厳に排除していく等適切な施策を講ずることにより、このような異常な消費者物価上昇を鎮静させなければならないのであります。  御承知のように、昭和三十七年度においては、相当大幅な間接税の軽減を行なうこととしているのでありますが、その減税分のほとんどが消費者の負担軽減に向けられるよう関係各位の御協力を望むとともに、特にこの際、企業各位が、国際競争の激化に対処して、生産性向上に努められるにあたり、その成果が具体的に製品価格の引き下げとなって実現するよう努力されることを期待するものであります。  当面の事態に対処して、引き締め基調を堅持しなければならないことは、以上申し上げたとおりでありますが、この基調のうちにあっても、同時に、長期にわたって円滑な経済発展をするための基盤を整備することはきわめて重要であり、これが見失われるようなことがあってはならないのであります。特に、最近の急速な経済拡大過程において顕著な問題となっております道路港湾などの社会資本の立ちおくれ、技術者の不足など経済の各分野に見られます不均衡是正わが国経済の二重構造、特に地域間、産業間、階層間に見られる各種所得格差の是正は、ぜひともはからなければならないのであります。したがいまして、政府は、先ほど大蔵大臣から詳しく申し上げましたとおり、昭和三十七年度の予算において、これらの点についても配慮いたしているのであります。  昭和三十七年度のわが国経済は、貿易自由化を大幅に促進しつつ、以上述べたような問題の解決をはかっていかなければならないのでありますが、政府施策が民間各界の協力を得て、円滑に進行し、設備投資の適正な調整が行なわれ、輸入が政府の見通しの程度におさまり、輸出もその目標を達成することができれば、下期には国際収支均衡基調を回復することが十分期待できるのであります。  わが国経済は、過去幾たびか国際収支の障壁によって引き締めを余儀なくされました。しかし、そのつど国民各位努力により、よくその難局を克服し、世界に誇り得る高度の成長発展を遂げて参ったのであります。しかも、前回の引き締め時に比べ、わが国経済の底力は著しく強まっており、したがって、私は、この底力に加うるに、政府の適切な施策国民の創意、努力とをもってすれば、今日の事態を早期に克服し得るばかりではなく、再び安定した成長発展を遂げることが可能であり、今日の労苦は必ず明日の繁栄となって報われることをかたく信じて疑わないのであります。(拍手
  13. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) ただいまの演説に対し質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  14. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 御異議ないと認めます。  次会の議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時四十四分散会