○
参考人(大内義夫君) 私、
船舶通信士協会の大内でございます。私は
船舶職員法の
改正案に対して反対する
立場から、特に
改正の動機となりましたあるいはその
理由となっておりまする
船舶通信士の
需給関係を中心としまして、少し申し述べたいと思います。
最近一般の
船員不足と同様に、
船舶通信士の
需給関係が非常に逼迫しておるということが強くいわれまして、私
どももこれは事実において確かに人が不足である、また人が窮屈であるという点は毎日見ているわけではございますが、なぜそういうふうになったか、また、その不足の
状態がどういうものであるかということについては、多分に誇大に、または事実をゆがめて一般に誤り伝えられている点があるんじゃないかという点を非常に気にしておるわけでございます。
一つの影響といたしまして、
船舶職員法の
改正案が出まして、この影響が現在現われておる。ただいままでの
国会その他において、
政府その他
関係者の御説明によりますと、今度の
職員法が
改正になりますと、
法律的に
定員が減りまして、大体九百名であるとか何名であるとかというふうに
法律的に削減されるようになっております。たとえまた九百名の
定員が削減になっても、新規需要やあるいは自然消耗に充足していくために現実に失業不安はないという説明をされておる。ところが、われわれの
立場から見ました場合、
船舶職員法の
改正によって
定員が削減されるということは、
船舶職員法の資格においては
甲種船舶通信士、乙種
船舶通信士というふうな資格別が厳然としてある。こういうところにおきましては、一級
通信士、二級
通信士という資格上の区別がある。このたびの
改正によって
法律的に削減されるのは、大体大型船、
外航船の二等
船舶通信士あるいは三等
船舶通信士、この大半は二級
通信士の資格を持っている。そこで、この人たちが——
職員法でいえば乙種
船舶通信士——
法律的に過剰になる。ところが余った者を足りないところへ持っていけばいいと言われましても、残った者は第一級の免状を持つ
通信士、
甲種船舶通信士の資格でなければならぬのです。そういう余ったものをどこかに持っていくにもそういう資格上のアンバランスがある。もう
一つは、肝心の
供給源であるところの
無線通信士の養成機関——文部省でやっておられます二級の電波
高校、仙台、託間、熊本、こういうところが現在の日部の
無線通信士の教育機関でありますけれ
ども、これは文部省令によりまして二級
無線通信士の養成を目的とする学校でございます。他に電気
通信大学がございまして、これは一級
無線通信士の養成をあわせて行なっておりますけれ
ども、先ほ
ども御説明いたしましたように、ほとんど出てこない。主流は依然として国立電波
高校の三つの学校から出る。二級
無線通信士の
供給源が、これから要らなくなる二級
無線通信士を養成しておきながら余った者をどういう
方法で補わなければならないか。私はこういう事実を見て参りますと、たとえ今後一名でよろしいというふうに
法律がなりましても、一名の
無線通信士が得られなくなるという
状態さえ予想される。これは現実の問題でございます。
それからもう
一つは、二級
通信士の職場というものは、現在においても内航船、小型船、これが主たる職場でございますけれ
ども、すでに
政府で計画されております内航船、小型船の場合は、今後、
無線電信を
無線電話に切りかえる、こういう方針のもとに千六百トン
未満の小型船におきましては、将来
無線電話になる、こういう話が一般に伝えられている。この職場は大体二級
通信士の職場でございますが、御
承知のとおり電話になってしまえばこの職場を失う。上と下の両方から責め立てられて二級
通信士の職場というものがだんだんなくなっていく。こういう事実を
法律改正、これは
国会でどういうふうになるかわかりませんけれ
ども、まだきまってもいないのに、これは非常にたいへんである。こういう不安が出てきたために、必要以上に船の
通信士の移動が多い。こういう際に、将来職場の将来性がないということでもって陸上に転職する者が非常に多い。私
どもが知った範囲では、半年、一年の間に百二十名という
通信士が船を離れまして陸上に転職しております。この百二十名という数字は
外航船で大体四十ぱいの船に相当する数字でございます。こういう大量の
通信士が、ほとんど若い年令層の人でありますけれ
ども、船からやめていっておる。残った人は相当年配になりますと陸上の転職もきかない。こういう
状態に追い詰められてきて、転職の自由もない将来どうなるだろうという不安があって、この際少しでも待遇
条件のいいところへ、また、
電波法であるとか、
職員法であるとか、こういう
定員の問題で悩まされない水産会社、そういうところに移動しようということで、非常に移動が頻繁になった。一人やめて一人会社に入るという事実がございますと、それは非常に強く、また大げさに宣伝をされて、
日本中に
船舶通信士が現在一人もいないといううわさまで飛び出す。こういうふうな
状態になっておる。
自分の生活問題を考えたときに、これじゃ不安でならないというような事実が、今日現在現われておるわけであります。
それからもう
一つ、
電波法、
職員法の話になると、よく
オート・アラームの問題があるわけです。この
オート・アラームというのは、二十四時間の無休
聴守をしなければならぬ、そのかわり人にかわってそういう機械をつけるということでありますけれ
ども、今度三人の人を一人にして二人分を埋め合わせるために
オート・アラームをつけるということになっておりますけれ
ども、これは事実に反する。今度の
改正案によりますというと、
オート・アラームを必要としない、すなわち一日一人八時間船に乗って仕事をすればいいというふうな船は、これは内航船全部でありまして、
オート・アラームをつけなければならないような船は国際航路に従事する
船舶に限って二十四時間やらなければならない、そのかわり
オート・アラームをつけなさい、こういうことでありますから、これが通った場合、どういうことになるかと申しますと、
日本の
近海を走る船は
オート・アラームをつけなくてもよろしい。日中八時間やればよろしい。
日本の
近海は全部ブランクになってしまう。小型船が遭難してSOSを打つ。夜、夜中どういう時間においても現在の
状態においては
船舶が遭難してをS
○S打つと、立ちどころに五はい、十ぱいという付近を航海しておる船が応答してくれます。ところがこの
法律が
改正になると、だれも来てくれない。来るのはだれかといいますと、国際航路に往事する
日本船舶が
日本の周辺に近づいたその範囲内と、
日本に参ります
外国船によって
日本の
近海周辺を
航行する内航船の安全が守られる、こういう
状態になるわけです。
一つは、閣議決定とかいろいろの話の中で、
日本船舶の設備というものが
国際水準並みということをよく言われておる。これははたして
国際水準並みであるかどうかということは、私
どもは断言できないと思う。
日本の
法律改正をなさろうという案は、海上人命
安全条約という
国際条約の一番最低線に乗っかって、そうして国際航路に従事しない船は二十四時間の無休
聴守は必要としない、こういうことは確かに
国際条約並みでありますけれ
ども、これは
国際水準並みであるかどうかわからない。たとえば
日本の現在の
法律を見ると、何万トンの船であっても何千人という乗客を積んでも、沿海区域を走っておる船は
無線電信設備は必要でないということになると——これは
日本の
国内法ではそうなっておるのです、
国際条約並みであります。たとえば青函連絡線があれだけの船客を積んで毎日々々
航行しておりますけれ
ども、これは
法律的に
無線電信をつけなくてもいいということになって、
合理化が進めば
無線電話に切りかえられて、
通信士は下船させられるという不安が起きてきます。それから瀬戸内海を走る別府航路の船は一切
無線電信を廃止してしまう。何千人お客を積んでも沿岸区域を走っておる以上は
無線電信をつける必要はない、こういう
状態になっておる。これ
国際条約並みでありましても、
国際水準並みであるかどうかということは断言できないと思うのです。こういう不安な
状態の中でもって
職員法を
改正して
国際水準並みにすると、こういう不安がすでに現在
船舶の
通信土の
需給関係の中に現われているわけであります。
もう
一つは、
オート・アラームの問題でございますけれ
ども、この点も実は先ほど他の
参考人からも御説明がありましたれけ
ども、
日本においては大体今度はいよいよ大詰めがきて、
電波法がある、
職員法の
改正案が出るという昨年の三月、四月、五月ごろから、またこの半年にかけまして、私
どもの知った範囲においては、
日本船舶で百三十雙近い船が、すでに
オート・アラームを設置し、あるいは設置しようとしている。これは
オート・アラーム、
オート・アラームと申しまして、盛んにわれわれ抗議しておりますけれ
ども、実は
日本の
無線通信土で
オート・アラームを現実に見た、扱った者はきわめて少ない。戦争前に
オート・アラームという例も現われましたが、これはあまりにひどくて役に立たない機械でありましたので、とうとうやめになってしまった。昭和十一年から昭和十四、五年にかけて、
日本においても製作されたが役位たぬ、機械が悪くてどうにもならない、実用にならないので、とりやめになってしまった。戦後はさしつかえないということで復活いたしました。ところが現実においては——当時においても
オート・アラームを製作しましたけれ
ども、部分的に二十ぱいの船であるとか三十ぱい
程度の船はずっとつけておった。しかし実際においては常時三人の
通信士でやっているものですから、現実には使用していません。その範囲内において見たり、聞いたりで、扱った者はきわめて少ない。ところがこの一年以内、半年以内に実に百三十雙近い船がつけておる、あるいはつけようとしている。この実績の中で初めて現実に扱った。ところが、これは全然同じだ、わずか半年や一年の使用経験だけでは、決定的なことはとても言えませんけれ
ども、このわずかの期間の中においても、私の知った範囲においては、故障の率であるとか、あるいは誤作動の率であるとか——警急信号を打たれて、正規に作動したかどうかという問題、これこそ
国際水準並みであって全然役に立たないということが立証されたと、
通信士の実感の上においては知っておるわけでございます。そういう点におきまして、私
どもは
日本の
オート・アラームは
外国の機械に比べて特別に劣っているという証拠はない、あるいは部分的にには古い
外国の船の
オート・アラームよりか新しい
日本の
オート・アラームの機械のほうが、むしろ性能がいいんではないかというように私は思うわけでございます。性能のいい悪いは、これは全く問題ないのです。
オート・アラームの持っている機械の宿命的な性格——その特定の信号が五〇OKCというのが常時
日本の
近海においてはずっと続いておる。こういう
状態がある場合においては、どんな優秀な機械があっても誤作動があったり空電があれば鳴ってしまう、これはどんな優秀な機械であっても避けがたい、
外国でも同じことでございます。
外国ではどうしているか。役に立たないことをお互いに知っていながら、お互いに使うことによって国際的な妥協の産物として現われた
オート・アラームでございますから、
外国においても同じでございまして、実際においては、率直に申し上げましてほとんど
航行では使っていない、こういうふうな実例が多いわけでございます。これでもって、たとえばどういうふうなことをやっておるか。たとえば
オート・アラームという機械は——一日八時間の時間が過ぎますと、
あとは
通信士が休むわけです。
自分の部屋に帰って休んでいる間に空電あるいは誤作動でもってベルが鳴る。このベルの音というのはすさまじい音であって、やさしい音じゃない、どんな寝ぼ助でも飛び上がるほどの大きな音です。船長の部屋と船橋にあります、それから
通信士の部屋にある、この三つが一斎に鳴るわけです。行ってみるというと、これは誤作動であった、空電であったということで、何だということで帰る。これは多分うそであろうということでも行かないわけにいかない、実際に鳴るんですから。ところが、空電とか誤作動であればまだいいんですが、これは規則でもってきまっておりまして、もし
オート・アラームの機械に故障が生じた場合にも自動的にベルがなるようになっている。たとえばちょっと電圧が下がった、ジーと鳴る。それから真空管の球が切れた、。ジーと鳴る。そういうことでは、たまったものではない。こういう点で、誤作動やそういうような
状態で
通信士が起こされて
無線室に行った回数が合計にして六回になったならば、これは一時間分の時間外手当を支給する、こういう労働協約を結んでいる。
アメリカはそうですけれ
ども、そういうことに実は私
どものほうはばかげた制度だと思う。労使双方ともこれは実際お体裁なものであるということは、実は一応認めているんです。しかも空電、混信があれば誤作動は避けがたいものであるということは、お互いに認めているんです。遭難の
通信だということで、鳴れば、まさかと思っても行ってみる、行ってみれば、やはり違う。そういうわけでもって、それを補償するためにそういうような時間外手当を支給してやっておる。そういうふうな
状態でございますので、これは三十年前から
国際条約できまっておりますけれ
ども、国際会議で盛んに問題になりまして、そういう
信頼のできない、
信頼の薄い機械では困るんじゃないか。そのいろいろの論議の中で、そんなに
信頼できない機械であるのなら、
航行中一日一回この機械をテストした結果、いいか悪いか、どういう
状態であるかということを、一日一回船長または当直中の士官に報告しなければいかぬ、そういうことを義務づけて今やっているのがこの
状態です。そういうばかげた機械を使った上で、われわれ
通信士が今言ったように職場から締め出されて、われわれとしてはまことに情けない話であります。しかも、
航行安全にはほとんど役に立たない。
日本の場合においても、実は先ほど申し上げましたように、使用経験が非常に少ないのじゃないかということもありますけれ
ども、遇難した場合に警急信号を発射いたしまして、それによってベルが鳴って遇難が救助された例は
日本においては一回もございません。ただ、じゃ全然鳴ったことはないかというと、たまにはある。船が遇難しますと、実際においては船の
通信士というのは——
外国でも
日本でも警急信号は実際には役に立たない、とりあえずSOSを打って、付近にいる船に知ってもらうSOSをたたく。それを聞いた近くの海岸局がかわって海岸局のほうで警急信号を打つわけです。そうするも、海岸局が打った警急信号を聞いた
オート・アラームをつけておる船の場合は、たとえば信号の距離二十マイルあるいは大体十マイル、非常に短距離で鳴った場合の例は一回か二回かあるわけですが、有効に作用したことはないというのが実際の状況でございます。したがって、今申しましたとおり、内航の場合には、今後
日本の
近海で鳴った場合は、夜、夜中はだれも聞いてくれない。そういう中で今まで夜、夜中、どんな危険な航海をやっていても、必ず近くにたくさん船がいますから、安心して夜寝ておられたけれ
ども、今後は、こういう
電波法改正、
職員法改正になれば、だれも聞いていないということになる。これではあぶなくて乗っていられない。これは
通信士だけの実感でございます。こういう
状態では将来性がないので、今足を洗ってよそに行くとか、よその会社に入るかというような、現在こういう
意味の影響が出ております。なるほど
日本の
近海の安全というものは、海上保安庁が二十一ヵ所にわたる
通信所で聞いておる。常時五〇〇kcを聞いておる。漁船の場合は電話の波二メが帯で常時聞いておる。ただし、聞いてくれますけれ
ども、海上保安庁の救難態勢といいますか……