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1962-02-12 第40回国会 衆議院 予算委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月十二日(月曜日)     午前十時三分開議  出席委員    委員長 山村治郎君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 保科善四郎君 理事 淡谷 悠藏君    理事 川俣 清音君 理事 小松  幹君       相川 勝六君    赤澤 正道君       井出一太郎君    池田正之輔君       今松 治郎君    臼井 莊一君       上林山榮吉君    亀岡 高夫君       仮谷 忠男君    北澤 直吉君       倉成  正君    正示啓次郎君       周東 英雄君    田澤 吉郎君       田中伊三次君    中曽根康弘君       中村 幸八君    中村三之丞君       羽田武嗣郎君    八田 貞義君       藤本 捨助君    船田  中君       前田 義雄君    松浦周太郎君       松野 頼三君    三浦 一雄君       山口 好一君    井手 以誠君       加藤 清二君    木原津與志君       高田 富之君    楯 兼次郎君       辻原 弘市君    堂森 芳夫君       中村 英男君    野原  覺君       長谷川 保君    山口丈太郎君       山花 秀雄君    稲富 稜人君       田中幾三郎君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小坂善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 灘尾 弘吉君         通商産業大臣  佐藤 榮作君         運 輸 大 臣 斎藤  昇君         郵 政 大 臣 迫水 久常君         労 働 大 臣 福永 健司君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 川島正次郎君         国 務 大 臣 藤枝 泉介君         国 務 大 臣 藤山愛一郎君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 小平 久雄君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    中野 正一君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         大蔵事務官         (主計局長)  石野 信一君         大蔵事務官         (主税局長)  村山 達雄君         大蔵事務官         (理財局長)  宮川新一郎君         農林政務次官  中馬 辰猪君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月十二日  委員田中伊三次君、床次徳二君、西村直己君、  山本猛夫君、永井勝次郎君、西村力弥君、稲富  稜人君及び田中幾三郎辞任につき、その補欠  として正示啓次郎君、亀岡高夫君前田義雄君、  田澤吉郎君、中村英男君、横路節雄君、佐々木  良作君及び西村榮一君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員亀岡高夫君、正示啓次郎君、田澤吉郎君、  前田義雄君及び中村英男辞任につき、その補  欠として床次徳二君、田中伊三次君、山本猛夫  君、西村直己君及び永井勝次郎君が議長指名  で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)  昭和三十六年度特別会計予算補正(特第3号)      ————◇—————
  2. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、これより会議を開きます。昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)及び昭和三十六年度特別会計予算補正(特第3号)の両案を一括して議題といたします。質疑を続行いたします。楯兼次郎君。
  3. 楯兼次郎

    楯委員 私は社会党代表いたしまして総括質問を行ないたいと思います。本題に入ります前に、今問題となっております核実験沖繩の問題について総理考え方を承りたいと思います。最近、新聞紙の報道によりますると、米国並びに英国では、クリスマス島あるいはネバダ州において核実験を行なら、こういうことが報道されております。この問題は、過去本会議におきまして超党派的に核実験禁止決議等もいたしておりますので、総理は、日本国民代表いたしまして、これらの実験に対しまする中止の強い要請を両国になげべきであると私は考えておりますが、総理のこの問題に対しまする考え方をお聞きいたしたいと思います。
  4. 池田勇人

    池田国務大臣 核実験禁止決議は、お話の通り、私は機会あるごとにアメリカ政府にも言っておるわけでありますが、最近また計画されておるようでございますが、これに対しましての具体策は今考慮中でございます。
  5. 楯兼次郎

    楯委員 この問題は、社会党といたしまして、緊急質問の形で本会議に上程をする、こういうことになっておりますので、総理の強い中止要請を期待をいたしまして、次に沖繩の問題に少し入っていきたいと思います。総理も御承知のように、二月一日の日に沖繩立法院におきまして日本復帰決議がなされました。これは、従来の決議と違いまして、一九六〇年十二月国連総会におきまして宣言をされました植民地解放宣言がこの中に挿入されておるようでありますが、この決議によりますると、国連加入各国並びに米国日本総理大臣あて決議文を送付するこういうことが言われておりますが、この決議日本の国に要請となって来ておるかどうか、この点をお聞きしたいのです。
  6. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 まだその決議は、要請となって来ておるという事実は私も承知しておりません。御承知のように、あの植民地解放決議というものは、われわれもその起草についていろいろ相談にあずかったのでありますが、あの決議の当初において、沖繩は別にその対象となっていない、こういう考え方でなされておることは、御質問とちょっと離れますが、念のために申し上げておきます。
  7. 楯兼次郎

    楯委員 立法院決議をして総理大臣あてにこの要請を行なう、こう思ったところが、いろいろ、立法院内における、あるいは沖繩事情、あるいは米国事情で、この決議文の発送が行なわれない、こういうようなことも私ども仄聞をいたしておるのでありますが、そういう事情はあるかないか、お聞きをしたい。
  8. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そういうような事情は、私もまだ特別に承知をしておりません。
  9. 楯兼次郎

    楯委員 総理は、本国会の施政方針演説におきましても、あるいは毎回の施政方針演説その他の機会に、沖繩返還を強く強調されております。しかし、私ども総理のこうした言明を聞きましても、実際、米国政府との交渉というものが、総理の言明されるほど切実に痛切に米国と行なわれておるかどうか、こういう点に非常に疑義を持つわけであります。大統領の先日出ました一般教書等におきましても、日本政府から沖繩返還に対します要請がない、全然触れておらないというような印象しか受けないわけでありますが、どのような交渉の仕方をされたか、お聞きをいたしたいと思います。
  10. 池田勇人

    池田国務大臣 私ばかりでなしに、歴代の内閣におきまして、施政権返還につきましては強く要望いたしておるのであります。しかし、そのつど、今はその時期にあらずということの返事であります。それからまた、御承知と思いますが、アメリカにおきましても、絶対に当分のうちはという考え方もございますし、また、できるだけ早く返せる事態に持っていきたいという意向もあるのであります。私は、今後も続けてやっていきたい。ただ、今いつ返すかということで交渉するよりも、今の現状をよくしていくということが先である、こう考えまして、御承知通り、いろいろな方法で沖繩住民福祉増進にわれわれは努力しておるのであります。
  11. 楯兼次郎

    楯委員 努力されたかは知りませんが、日本政府返還要求に対します切実さというものが、一向アメリカには受け取られておらない、こう私どもは考えておるわけでありますが、政府アメリカ沖繩返還を要求しております具体的な根拠は一体何ですか。この具体的な根拠を一つ承りたいと思います。
  12. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 沖繩についての条約上の立場といいますか、これは、平和条約第三条で、御承知通り沖繩信託統治にする、しかし、それが行なわれる前は、立法、行政、司法の三権をアメリカ管轄下に置くということで承諾している、これが法律上の根拠でございます。しかしながら、これについて日本潜在主権を認めておる、これはダレス全権講和条約会議の際にも言っておるのであります。沖繩住民はわが日本国民でございます。従って、こういういろいろなまわりくどいことをするよりも、われわれ国民は一つであることから、日本国民として沖繩住民がほんとうに名実ともに生活できるような、そういう立場が早くできることがわれわれとしては望ましいのだ、こういうことを言っているわけであります。しかし、総理がお答えになりましたように、それに至る間、できるだけ沖繩住民福祉というものにわれわれも協力して、アメリカ施政権下にありますけれども、われわれとしてもできるだけのことをしよう、こういうことで強く訴えておるわけでございます。その結果としまして、ケイセンという人が大統領特別顧問として調査団として参りまして、近くケイセン報告というものが出るわけでございます。しかし、これはまだ発表前でございますから私どもも十分に正確には承知しておりませんが、従来の事態を大幅に改善するということがその内容になっているというように伝え聞いている次第でございます。
  13. 楯兼次郎

    楯委員 外務大臣答弁を聞きましても、私は、アメリカ返還を迫る日本の具体的な根拠に欠けておると思います。ただ潜在主権があるから返してもらいたい、こんなことでは切実さがないと私は思いますし、また、返還交渉をするという口の裏から、調査団沖繩の自由について、生活についてというようなことを言っておられること自体が、沖繩返還要請をする切実さが私はないと思う。そういう点を私ども心配いたしておるわけでありますが、これに関連をいたしまして、一九六〇年の十二月十四日の国連会議におきまして植民地解放宣言が採用されておりますことは御承知通りでありまして、これに日本の国は賛成投票をいたしております。この植民地解放宣言は非常に長い文句でありますが、今度沖繩立法院がこの問題を採用いたしました項は、この文中にあります、あらゆる形の植民地主義をすみやかにかつ無条件に終止させることの必要をおごそかに宣言をする、この項が適用になっている、こういうふうに私は考えますが、この官爵に賛成をされました日本の国は、今読み上げました、あらゆる形の植民地主義をすみやかにかつ無条件に終止をせよ、この項をどのように解釈されたか、承りたいと思います。
  14. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほどちょっと触れましたように、この植民地解放宣言起草に際しまして、沖繩対象になっておらぬということが、最初にできましたときの了解でございます。今お読み上げになりました、植民地をできるだけ早く無条件独立させる、これは私ども賛成でございますけれども、さて植民地とは何ぞやということであります。植民地というのは、いろいろ学問上の定義にはむずかしい点がございますが、いずれにしても、私どもは、一民族が他民族植民地の形において搾取をする、こういうことと了解しておるのであります。従いまして、現在沖繩アメリカによって搾取されておるというふうには私どもは考えておりません。そういうことよりも、一日も早く日本に復帰するということが大事なのでございますから、さような点に問題を集中して、われわれは今後とも努力を続けたい、こう考えている次第であります。
  15. 楯兼次郎

    楯委員 私のお伺いいたしておりますのは、あらゆる形の植民地主義、この解釈はどういう解釈でありますか、こういうことをお伺いしておるわけです。どういう解釈ですか。
  16. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 植民地の名において、一民族が他民族搾取する、こういう形の植民地、あらゆる形の植民地、そういうものの現われがいろいろな形態となって、たとえば、よくある国が主張しておりますように、あれは植民地じゃないのだ、われわれの領土の一部である、こういう考え方、そういうものがやはりいけないのだ、こういうことでございます。
  17. 楯兼次郎

    楯委員 この植民地解放宣言賛成投票をするにあたって、沖繩は含まれておらない、こういうことをはっきりあなたの方は確認をして投票されているのか、もう一回お伺いしたい。
  18. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今回の投票に際して、その確認はいたしておりません。ただ、この植民地解放宣言ができまする経緯に基づきまして、その際の了解はさようなことであった、かようなことであります。
  19. 楯兼次郎

    楯委員 どうもおかしいじゃないですか。先ほどは、沖繩は含まれない、こういうことで賛成をしたと言われた。ところが、今外務大臣の御答弁は、この草案を起草するにあたってそういう了解であったというようなことを言っておられるのですが、前の答弁と少し違うのじゃないですか。賛成をするときに、沖繩ははっきり含まれておらなかったのかどうか。これは、会議の慣例としては、附帯条件をつけるか、もしなかったとしても、それをはっきり確認をして投票ということにならなければ、これは無効だと思う。どうですか。
  20. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そういう意味ではございませんで、最初植民地解放宣言案起草され、これが国連決議になりますその過程において、沖繩の問題は含まないという起草者側意向であったということでございますので、昨年この決議をまた採択します際にも、当然そういうことは前提となっているもの、こういうことで、特別に留保をつけるというようなことはしないで賛成をした。当然にこれは含まれていないという解釈でしているわけでございます。
  21. 楯兼次郎

    楯委員 外務大臣答弁では、当然そうであるとおっしゃいますが、あなた、外務省関係以外は、この植民地解放宣言を読めば、当然沖繩はあらゆる形の云々の中に含まれると解釈するのが常識だと思うのですが、どうですか。はっきりそういう確約というようなものが何かの文書のしに載っているのですか。ただあなたが口約束でそういうことをおっしゃるのか。はっきり文書の中に載っておらなければ、幾らあなたがそれを強調されましても何にもならぬと思うのですが、この点どうです。
  22. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほど申し上げたように、投票するに際して、そうした特例の留保をつけて投票しているという事実はないのでございます。しかし私どもは、この植民地解放宣言起草される当初からさような了解のもとにできている決議でございますから、今さら沖繩の問題がこれに含まれるということを考え、それが含まれないものであるという留保をつける必要もない、こう考えたから特別の留保をつけなかった、こういうことでございます。
  23. 楯兼次郎

    楯委員 それは外務大臣がわれわれにおっしゃる限りのことであって、すべての人は、沖繩は含まれておらないという証拠がなければ、幾らあなたがおっしゃいましても、信憑性というものはないわけです。これだけのりっぱな文章を国連各国が採択をするのでありますから、今外務大臣のおっしゃいましたことがはっきりと何かの形に残されて、こうであるから含まれておらないという証拠がなければならぬと思うのです。そういう証拠はございますか。あったら御提示を願いたい。
  24. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほど申し上げておりまするように、この決議案ができる経緯において、起草者側がそういう理解のもとにさような決議案の案文を作ったわけでございます。証拠といえば、それが証拠ということであろうかと思います。
  25. 楯兼次郎

    楯委員 私は、幾ら説明を聞きましても、そういうあなたのおっしゃることが記録に残っておらなければ、幾らあなたがおっしゃいましても、この文面を読んだ人はそういうふうには解釈できないわけです。だから、これはあげ足とりじゃありません。あなたはそうおっしゃいますが、はっきりと何かの記録にそれが残っておるかどうか、この点だけ一つ簡単に、あれば証拠を出していただきたいと思います。
  26. 中川融

    中川政府委員 今お尋ねの点でございますが、二つその論拠があると思うのでございます。第一には、一昨年の十一月に決議されました植民地解放宣言の節一項に、どういうものが植民地であるかということの解釈のいわば材料になることが書いてあるのでございまして、一国がほかの民族をあるいは征服し、支配し及び搾取することは好ましくない、こういうものは一切排除すべきだという精神が書いてあるのでございます。その点から見ましても、単に征服、支配するのみでなく、搾取するということがこの植民地趣旨であろうと考えられるわけでございます。この字句は、御承知のように、昭和三十年のバンドン会議決議から実はそのまま来ておる字句でございまして、従って、単に占領支配のみならず、搾取ということがまず書いてあるわけでございます。第二には、外務大臣が言われましたように、この決議が採択されます際に、この原案起草いたしましたのは、バンドン会議で非常に縁のあるインドネシア代表でありまして、その原案作成にあたりまして、アジア・アフリカ・グループの会議がございまして、その際に日本代表も出ていたのでありますが、起草者であるインドネシア代表から、どういう趣旨でこの宣言案起草したかという説明があったのでございます。その際に、インドネシア代表からはっきりと、たとえば沖繩のようなところが入るような誤解を与えてはいけないから、こういう字句を使ってあるのだという説明があるのでございまして、この点は、そのときの代表でありました松平大使から本省に対する公電にその経緯が載って来ておるのでございます。このような二つ事情から、われわれは、あの植民地解放宣言は、沖繩のようなところは含まない趣旨でできておる、かように一貫してその当時から考えてきておるわけでございます。
  27. 楯兼次郎

    楯委員 私は、同じ日本の国籍である沖繩人たちが、このあらゆる形の植民地主義という点を今度の決議に入れまして、そうして、この植民地解放宣言違反である、こういう形をとっておるのでありまするから、くどくお伺いをするわけです。だから、今条約局長はいろいろの経緯説明をされましたが、はっきりとだれが見てもわかるように、沖繩はこの宣言の中には入っておらないという文書がございますか。
  28. 中川融

    中川政府委員 文書で残っておりますものといたしましては、植民地解放宣言自体でございます。植民地解放宣言の第一項に、植民地というのはどういうものであるかという、いわば定義に相当するものがあるのでございまして、一国が他国の民族占領支配搾取する、こういうことはよろしくないということがまずうたってあるのでございます。それから見て、当然搾取という要素が植民地には入ると、かように考えておるわけでございます。
  29. 楯兼次郎

    楯委員 いろいろな答弁をされておりますが、私の質問をいたしておりまする、沖繩はこの中に含まれないという確たる文書はないじゃないですか。これは私があげ足とりで言っておるわけじゃないのです。沖繩の全住民が、この植民地解放宣言違反をしておる、こういうことを言っておるのです。だから、あなた方の方で沖繩住民諸君を説得するに足るだけの植民地解放宣言に対する解釈というものがなければ、これは納得しませんよ。どうですか、くどいようですが。
  30. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 条約局長答弁でおわかりかと思いますが、あなたの御発言の裏を返しますと、それでは植民地とはどれとどれとどれを言うのだと、こう列挙していなければいかぬということにもなるのでございます。その列挙はないわけでございます。そこで、沖繩の場合は、繰り返すようですが、最初に起算をするときから、これは植民地といってあげるものの対象になっていないということは明瞭になっておる、こういうことでおわかりいただけると思う次第であります。
  31. 楯兼次郎

    楯委員 どうもはっきりしませんが、それでは、アメリカに対して、平和条約第三条の後段では信託統治云々という項目になっておりますが、この問題でアメリカ交渉されたことがありますか。
  32. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この条約解釈については、いろいろ話し合ったことはございます。しかし、これは、信託統治にするということは、アメリカがそういう権利を持つのでありまして、いつ幾日までに信託統治にする義務をアメリカが負っておるということではないわけでございます。
  33. 楯兼次郎

    楯委員 私は、沖繩のこういう状態は、国連憲章解釈から言っても、日本国連加盟をしたときをもって当然自然解消をすべきものである、こういうふうに考えますが、国連憲章の七十八条でありますか、国連加盟国にはこうした形のものは適用しない、平等である、こういうことがうたわれておるわけでありますが、こういう解釈はどうですか。
  34. 中川融

    中川政府委員 ただいま御指摘になりました国連憲章規定は、国連加盟している国は主権の平等を持っておるはずであるから、国連加盟国になったら、その地域信託統治に付することができないという規定でございます。この意味するところは、その国全体が国連加盟国に新しくなったという場合に、その国全体を信託統治に付することはできないという趣旨規定でございます。これは国連憲章ができます経過ではっきりしておるのでございまして、旧委任統治地域がそのまま国連信託統治地域に切りかわるということが一方規定としてあるのでございますが、旧委任統治地域でありましても、たとえばシリアであるとかレバノンであるとか、こういうフランスの委任統治地域、これは実はそのときそのまま国連加盟国になったのでございまして、国連加盟国になった以上は、たといそれが委任統治地域でありましても、これは信託統治になるのではないのだ、これはちゃんとした独立国として国連加盟国になるのだ、こういう趣旨規定を書いたのでございまして、日本の場合に、日本国連加盟いたしましたから、日本領土の一部である沖繩信託統治に付することは、国連憲章違反であるということにはならないと思うのでございます。これは、現に国連憲章の中に規定がございまして、どういう場合に信託統治が可能であるかという規定があるのでございますが、その中の一項といたしまして、一国が自発的に信託統治に付する領域という規定がございます。それから見ましても、一国がその一部を信託統治に付するということは、国連憲章で認められておるわけでございまして、従って、今の国連憲章違反という解釈は出てこない、かように考えております。
  35. 楯兼次郎

    楯委員 信託統治は、軍事目的の必要から信託統治にするなんということは、これは議論のうちに入らぬと思うのです。今の沖繩は、どういう理由をつけようと、軍事目的のためにあのような形をとっておる。平和条約第三条には信託統治云々ということが書いてありますが、軍事目的のために信託統治制度にする、これは常識としても考えられない点でありますが、どうですか。
  36. 中川融

    中川政府委員 御指摘の点は、サンフランシスコ平和条約の第三条によりまして、沖繩アメリカ信託統治に付するという権利アメリカの選択によって持っておるわけでございますが、この規定自身国連憲章趣旨に反するのではないかということであろうと思うのでございますが、これは必ずしも国連憲章規定しているところに反するとは考えていないのでございます。というのは、国連憲章信託統治地域主要目的ということで四カ条ほど掲げております。その中に、たとえば、住民独立を推進するとか、あるいは各国連加盟国の平等の待遇を保障するとか、いろいろ書いてございますが、これは、信託統治に付せられた場合に、その信託統治地域がどういうふうに運営さるべきであるかという主要目的を書いたものと考えられるのでございまして、また、その目的の中にも、たとえば国際の平和及び安全ということもあるのでございます。それで、サンフランシスコ条約の第三条ができまして、各国、そのときの国連加盟国の相当多数、ほとんど三分の二以上の国が同時にサンフランシスコ条約の署名国であったわけでございますが、これがいずれもこのサンフランシスコ条約を承認いたしまして、そして、サンフランシスコ条約自体国連憲章尊重ということが書いてあるのでございます。また、そのサンフランシスコ条約そのものをいわば受諾した日本が、何らの条件なしに国連加盟を認められておるのでございます。日本国連加盟を認められた際には一国といえどもこれに反対した国はなかったのでございまして、このような経緯からいたしまして、国連加盟国全部が、日本の結んだサンフランシスコ条約というものは国連憲章違反していない、むしろこれにのっとっているものであるということをはっきり認めた上で日本国連加盟を認めたものである、かように経過的にも考えられるのでございまして、第三条は国連憲章違反であるということは考えられないわけでございます。
  37. 楯兼次郎

    楯委員 サンフランシスコ平和条約の冒頭に、国連憲章を順守するとあり、国連憲章を見て参りますと、七十八条から言いましても、日本加盟をすれば、主権平等の原則から、こういう形のものは包まれない。それから、七十六条の(b)項を見ましても、全住民が希望すればすみやかにこういう状態から脱却せしめることがはっきりとうたわれておるわけです。それから、先ほど申し上げましたように、軍事目的のために信託統治制度にするということは、そもそも、私は、国連憲章違反でないということを条約局長は盛んに強弁いたしますが、明らかに国連憲章違反をしておる、どの項目をつかまえてもこれは違反をしておると思います。立法院が四派共同で超党派的に国連憲章違反であるという決議をはっきりといたしておることに私ども賛成をいたしておるわけでありますが、総理大臣にお伺いいたしたいと思います。これはもう過去何回となく本委員会において論議をされておりますし、詳細な点についてはあと同僚議員が専門にこの問題をやりますので、私はこのくらいでやめたいと思いますが、沖繩立法院が全住民の意思を代表して、自由党もその他の革新政党も共同をして、国連憲章違反であるということをあの決議の内容にうたっておるわけです。一体、日本内閣総理大臣は、あの沖繩の状態を立法院決議のように国連憲章違反であるとお認めになるのかどうか、この点をお伺いしたいと思います。
  38. 池田勇人

    池田国務大臣 この問題は、本会議でもいつかの場合に私答えたと思いますが、解釈条約局長の言うのが正しいと私は思います。政府もその方針でいって一おります。しかる場合において、新聞で見ますと、沖繩立法院決議したようでございますが、私はまだ内容を十分知悉いたしておりませんが、解釈といたしましては、ただいま政府委員からお答えした通り解釈で私も進んでおります。
  39. 楯兼次郎

    楯委員 政府委員から説明をした通りだとおっしゃいますと、裏を返しますと、立法院国連憲章違反という決議は間違っておる、違反ではない、こういうことでありますか。
  40. 池田勇人

    池田国務大臣 まだ理由その他については見ておりませんので、批判は差し控えます。
  41. 楯兼次郎

    楯委員 私は、総理大臣の見解をはっきりおっしゃっていいと思うのです。全住民がいやだいやだと言うのに、あなた方は自分の立場国連憲章を歪曲して解釈をなさっておる。こんなばかなことはないと思うのです。これでは、いやだいやだと言う娘を無理にとにかく結婚をさせておく昔の徳川時代の政略結婚と同じじゃないですか。はっきりと国連憲章違反なら違反、その前提に立ってアメリカ交渉をされる、こういう切実さがなければこの問題は私は解決をしないと思う。その決意が歴代の内閣には足らなかったのではないか、こう思うのでありますが、一つはっきりして下さい。
  42. 池田勇人

    池田国務大臣 条約上の解釈と政治的にどう持っていくかとは別問題でございます。解釈といたしましては、私は、条約局長が言った解釈論が正しいと思っております。しかし、片一方で沖繩住民がぜひ日本に復帰したいということで、われわれもそれを非常に熱望いたしております。いかにしてこれを処理するかということは別の政治問題と私は考えております。
  43. 楯兼次郎

    楯委員 確答を得られませんから、同僚議員のあとの質問にこの問題は譲って、次の問題に入りたいと思います。  まず第一番にお伺いをいたしたいことは、昨年の十月でありますか、景気調整のために総額七百十一億円の支出繰り延べをいたしております。この七百十一億円をいつ使われるのか、この点を大蔵大臣にお伺いをいたしたいと思います。
  44. 石野信一

    ○石野政府委員 お答えいたします。  お尋ねの三十六年度の繰り延べの問題でございますが、これは、全体といたしまして、三十六年度の繰り越し明許とか、全般的な支出の年間における繰り越しというものが生じて参りますので、その中で一部として繰り越しになる、こういうことに相なると思います。
  45. 楯兼次郎

    楯委員 ちょっと私わからぬのですが、繰り越しになると、繰り越しになったこの分をどういうふうに処置をされるのか、いつ使われるのか、こういうことをお聞きしておるわけです。大蔵大臣、どうですか、いつ使われるのですか。
  46. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 例年繰り越される金額は相当多く、一千億円くらいになる場合もございます。従って、先般の七百億円の繰り越しがいつ使われるかという問題におきまして、たとえば災害復旧のごときは、今度の補正予算でさらに量をふやして繰り上げ実施もするというような方針になっておりますが、その方針と同じような事情にぶつかった繰り上げについては、今年中使用することになりましょうし、そうでないものは、ほとんど来年度に入ってからの使用ということになろうと思います。このはっきりした振り分けが非常にむずかしゅうございますが、大部分は繰り越されると思っていただけば間違いなかろうと思います。
  47. 楯兼次郎

    楯委員 七百十一億円だけ抜き出して、これをいつ使うんだ、使わない、こういうことはなかなか色分けがむずかしいと思う。ところが、七百十一億の繰り越しを決定をしたのは、景気調整のために、特別に例年にない決定のもとにこれは繰り越されておるのです。だから、大部分がどうだとか、あるいはほかの繰り延べの予算もある、こういうことでは答弁にならないと私は思う。だから、正確に七百十一億円びた一文、ということは私はお聞きしておらないわけですが、景気調整のためにこれだけ繰り延べた。これを一体いつまでに処置をされるのか、こういうことを一つはっきりとおっしゃっていただきたい。
  48. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 大体今年度は繰り延べられますので、明年度へ入ってから使用されることになります。
  49. 楯兼次郎

    楯委員 そういたしますと、この七百億円は三十六年度の剰余金として処置をされる、こういうことでありますか。
  50. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 剰余金ではありません。使用を繰り越されたものですから、次年度において引き続き使えるということになっております。
  51. 楯兼次郎

    楯委員 そういたしますと、昨年の十月、七百億円を景気調整として支出を繰り延べただけで、あとはどうやろうと使えるときに使え、いわゆる景気調整のための操作という意味を失っておる、こういうふうに今解釈すべきですか。
  52. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 その繰り延べによって、またそのために次年度へどうずれて繰り延べられていくかということはわかりませんが、いずれにしろ今年度中に使わぬ、これは明年度に行って使ってよろしいという性質の繰り延べでございます。
  53. 楯兼次郎

    楯委員 繰り延べを決定したので今年度には使わない、これはもちろんです。答弁を待つまでもないと思うのだが、来年度どういうふうに使われるかということです。景気調整として七百億円支出の繰り延べを決定した。ところが決定をしただけで、これは来年度どういうふうに使おうと勝手だ、こういうことでは景気調整の意味、それから景気調整と関連をして本年度予算を組んだ意味が失われるじゃありませんか。そうでしょう。どういうふうに使われるのですか、これは。
  54. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 繰り延べの意味は、この期間に支出が集中しないようにという景気調整的な点を考えて繰り延べしたのでございますから、時期がはずれて、これがずれて使われるということは、やはり景気調整の意味に沿ったことであろうと思います。
  55. 楯兼次郎

    楯委員 私の聞いておるのは、景気調整のために七百億円は、今年度は刺激をするから支出をしてはいかぬということをきめたが、あとは、年度がかわれば操作は自由である、いつでも勝手なときに使いなさい、こういうことですか、あなたの答弁はそれしかとれないです。景気調整資金であるから当然三十七年度に入っても景気調整という看板といいますか、目的のためにこの金額の支出が調整をされなくてはならぬ、こういうふうに私は思うわけですが、これはもう繰り延べは決定したのだが、あとは三十七年度に入ったら、本予算と一緒に幾らでも、いつでも使ってよろしい、こういうことですか。
  56. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 たとえば、私どもは年末にいわゆる増資調整というものをやりました。これは増資をしてはならぬ、きまったものを許可しないというものではございません。決定したものを、どの時期にこれを実行するかということについて、この一−三月の間に増資をすることを延ばしてもらいたい。これを二カ月延ばさせることは、今申しましたやはり景気調整の目的からそういう時期を延ばすということをやったのでございますが、国の予算においても同じことでございまして、きまっておる予算を使用しないということはできません。ただ今年度中これを全部使用することを繰り延べることにするという、景気調整的な考えを織り込んだ措置をとったのでございますので、決定した予算を、これはまだ有効でございますから、次年度へいってこれが使われるということをとめようとするものではございません。
  57. 楯兼次郎

    楯委員 どうもわからぬですね。景気調整のために七百億円を、当然使えるのを繰り延べておるわけなのです。ところが、三十七年度へ入ったならば、その使用は自由勝手であるということでは、これは景気調整のために決定した使命がなくなってしまうじゃありませんか。だから、同じ使うにしても、これは国際収支の均衡を見てやるとか、何らかの操作がなされなくてはならぬと私は思う。きめるときだけきめて、あとは勝手ほうだい、こういうことではあまりにも予算に対する考え方があいまいじゃないですか。もう少し使途について確たる自信のある答弁はできないものですか。
  58. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 これは、楯さんも御承知通り、予算は三月末に決定いたしましても、その年の予算が実際に動き出すのには相当時期的なずれがございまして、実施計画ができ、この予算が動き出していくのは普通夏ごろになるというのが例でございます。従って、今始まったことじゃなくて、従来から、前からの持ち越しの予算が四月、五月に動いておって適当にこれが調節されていく、そういうことになっておりますので、今回の三十六年度の繰り延べの予算も、結局四月、五月にずれて使われていくということになりますと、三十七年度にきまった予算の執行との関係において、そこにおのずから調整されるものが出てこようと思います。公共事業費にしても、能力に限度がございますから、前から多く繰り延べられてきているというようなときには、自然にそれに左右されて、後年度に、次の三十七年度の予算の執行がまたそれによってある程度先にずれるというようなことはあると思います。しかし、これはいつも同じように、新しい予算がきまっても、この予算が動き出すまでには、実際的には旧予算によって繰り延べられたものが動いているということになっておりますので、この点は、やはり前年度に繰り延べを多くするという措置がそういう調整的なことに自然になることでございますので、私はそれでいいのだと思います。
  59. 楯兼次郎

    楯委員 どうもその答弁には納得できないのです。なぜこれを私が質問をするかといいますと、来年度予算はどうです。景気調整予算であるというのが衆目の一致するところであったわけですが、非常に膨大になる。ところが、最初は景気調整のためにある程度の金額をたな上げする、あるいは予約繰り延べをする、しかしこれは財政法違反になるからそれもできないということで、あなたの予算の説明を聞きますると、三十七年度予算についても弾力的運用をはかって云々、こういうような説明をされておるのです。だから、七百十一億円を除いても、三十七年度の二兆四千億予算ですら、たな上げはいけない、あるいは予約繰り延べも財政法違反になるからできない、従って弾力的運用によってやっていこうというので、景気調整と予算の規模の関連をごまかしておられるのです。それにプラス七百十一億円では、本予算のあなたの説明に矛盾しておるじゃないですか。そうでしょう。三十七年度の予算ですら弾力的に運用をやるといって言いわけをされておるのです。それに前年度の景気調整のための七百十一億円を野放しということでは、あなたの御説明の三十七年度予算の弾力的運用という意味は全然ないじゃないですか、今までの御答弁であると。どうですか、こういう関連において私は質問をしておるわけです。どうです、具体的にはっきり言って下さい。
  60. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 そういう前年度の繰り延べもございますので、弾力的運営が特に今年度は必要だと私は考えております。つまりそれだけずれて参りますから、それとの見合いによって、今年度の予算の実行という点につきまして、一時期に、一度にこれが集中しないような、いろいろ支出の考慮というようなものも必要となってきますので、特に弾力的な運用が必要になろうと私は考えております。
  61. 楯兼次郎

    楯委員 同じような答弁で困るのですが、そういたしますと、景気調整をするときには支出繰り延べを決定をしたけれども、三十七年度はこれはもう自由に、制限を、ワクをはめない、勝手にお使いなさい、こういうことなんですね。どうもわからぬですよ。もう一ぺん、はっきりとわかるように言って下さい。しろうとにもわかるようにはっきり答弁して下さい。
  62. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 ですから、三十六年度に繰り延べたものは三十七年度において使われることになります。従って、三十七年度の予算との関係において弾力的な運営が必要になってくると考えております。じゃ、今回だけのことであるかと申しますと、そうじゃなくて、従来の予算がことごとくそうで、その前年度から持ち越されたものは相当多うございます。今回は、特に景気調整的な意味でそういうことをしたのでございますから、この上半期における執行というようなものも、相当弾力的な考え方をしなければならぬだろうと考えております。
  63. 楯兼次郎

    楯委員 私は、三十七年度予算すら景気調整という使命は失われておる、非常に膨大である。これは社会党がしょっちゅう質問をしておる点なんですが、従って、七百十一億円は当然これは三十六年度剰余金として処置をされることが最も適当であろう、こういうふうに考えておるわけですが、この点どうですか。
  64. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 剰余金として処置すべきものではございません。たとえば北の方の国におきましては一−三月に工事が実際にできない。気候の関係、いろいろなもので工事が制約されるところもございますが、その年の予算ですから無理に使うということで、従来無理に使っていることもございますが、そうじゃなくて、もしそういういろいろな事情のあるところは、これを無理に今年度の予算として使わないで、これを四月以後に繰り越すことが、また工事から見ましても効率を上げるというような問題もございますので、そういう点の見合いにおいて繰り越されたものは、むしろ四月以後急速にこれが使われることが効率を上げることになろうと思いますので、そういう点の見合いもあっていろいろ繰り越し措置がとられておりますから、剰余金として立てることは不適当でございます。
  65. 楯兼次郎

    楯委員 それは一般の場合をあなたはおっしゃっておられる。これは雪があるからすぐには使えない、それは毎年の例ですよ。一般的なことですよ。ところが、この七百億円は特に景気調整をするために繰り延べを決定したわけなのです。だから、そういう景気調整のために繰り延べを決定をしたのを、毎年雪があるから使えないとか、その他いろいろの毎年の例にこんがらかって話をされることはおかしいと思う。特別に三十六年度は景気調整をするために、七百億円は支出を繰り延べようということを特別にやったのです。だから三十七年度に入って使用についての特別な配慮がなされなければうそではないか、こういうことを私は質問をしておるわけです。特別に決定したのを、あなたは一般の例と同じ取り扱いにして答弁をされております。だからはっきりおっしゃって下さい、あなたの考えを。
  66. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 これは一般的に言っておるわけではございませんで、一般的にも従来そういうことでございますが、今回は特に景気調整的な意味を考えて各省と相談しまして、ふだんでもそういうようなことの言える場所は、特に今回は、今までよりはこの繰り延べを強化するというふうに、やはりそういう点を考えて、一律に無差別に繰り延べという措置をとったのではございませんで、この気候のときに工事を進めても効率がないというようなところは繰り延べ率を多くしようというような考えで、各省別に相談をしてこれはきめたものでございますので、ふだんそうだからと言われても、それは困るので、ふだんそうだから、特に今回はその部分は少し繰り延べを強化しているという措置をとったまででございます。
  67. 楯兼次郎

    楯委員 何回質問をいたしましても同じような答弁でありますから、私は先へ参ろうと思うのですが、せんだって小松委員質問に対しまして、三十六年度の自然増収は約二千億と、こういうことをあなたはおっしゃっておったのでありますが、間違いございませんか。
  68. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 三十六年度は二千億ではございませんで、今大体見込まれるところは三千二、三百億になるのではないかと思っております。
  69. 楯兼次郎

    楯委員 そういたしますと、今提案になっておりまするこの補正予算の中に、はっきり三千億円余が見込まれるということならば、歳入の項になぜうたわないのですか。なぜ入れないのですか。
  70. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 その自然増を見込みまして、すでに第一次の補正で約一千億円、今回の補正で合わせて千五百億円の補正をいたしておりますので、まだ剰余金として処理さるべきものが、税の部面においては千七、八百億円あるのではないかと思っております。
  71. 楯兼次郎

    楯委員 財政法からいきますると、第二条の四項に、「歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、」、こういうことがうたわれておるわけです。はっきりあと千数百億円あると、こうあなたはおっしゃっておるのでありますから、当然この補正予算の中に、たとい使わなくても、わかった歳入はうたうべきが忠実なやり方ではないか、こう思うのですが、どうですか。
  72. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 まだ歳入がわかってはおりません。今のところ見込みでございますし、これは当然決算において剰余金として処理さるべきものでございますので、この補正予算にこれを全部計上するという必要は別にございません。
  73. 楯兼次郎

    楯委員 これは十四条を見ましても、「歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。」こうなっておる。それからあなたが自然増収は見込まれるのであるからとおっしゃるならば、これは全部そういう解釈ですよ。これは決算の以後でなければわからぬじゃないですか。これは全部見込みでやっているのです。だから二条、十四条の精神というものは全然忘却した予算である、こういうことが私は言えると思うのですが、どうですか。
  74. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 決算において、結局は収入は全部歳入になるものでございますが、これを補正予算において見込まれるものを必ずしも歳入に立てなければならぬということはなかろうと思います。
  75. 楯兼次郎

    楯委員 どうも納得できませんが、私もあと質問をたくさん控えておりますから、納得しないまま、不本意でありますが、先に進めていきたいと思います。  私はこれから質問をいたしたいと思いますのは、大半の国民がどう考えてもわからないという疑問を集約をいたしまして三点申し上げたいと思います。  その第一番は、いわゆる自由陣営諸国が中国とどんどんと貿易規模を拡大をしておるのに、なぜ日本の国だけが中国貿易に対して積極的にならないのか、これが大半の国民の疑問点の一つだと思いますので、以下お伺いをいたしたいと思います。  私どもは、国民の大多数が中国貿易をやれと、こういう希望を持っておると解釈をいたしておりますが、総理は、国民の大半が中国との貿易を望んでおるのかどうか、この認識はどうですか。
  76. 池田勇人

    池田国務大臣 中国との貿易の拡大は、私は相当多数の人が望んでおると思います。私もそれを望んでおるのであります。
  77. 楯兼次郎

    楯委員 新聞による数少ない世論調査を見ましても、大体六割ぐらいまでが中国との貿易を要望いたしております。それから過去一年間、池田さんの言明を聞きましても、中国に対しては、いろいろのほかの意味も含んでおりますが、前向きだ、あるいは明るい見通しがある、日本はアジアの一員だ、時によっては、郵便や気象の協定ぐらいは一つ結びたい、こういうことを過去一年間、ちょっと振り返ってみましても盛んに発言をしておられる。ところが、実際はどうかといいますると、大して前進をしておらない。こういう点は、総理の言明と国民の期待に大きなみぞができておるわけでありますが、この点どうですか。
  78. 池田勇人

    池田国務大臣 私初め大多数の人が貿易の拡大を望んでおるのにできない、今のお話のように、気象あるいは郵便関係の方もやろうと言っておるのにできない、やはり相手のあることでございますから、自分らの思う通りにいかないのが現状でございます。
  79. 楯兼次郎

    楯委員 今郵便、気象は、向こうがやらないからとおっしゃいましたが、私は、前向き、明るい見通し、アジアの一員、こういうようなことで、まあいろいろな問題はあるでしょうけれども、貿易ぐらいはやるだろう、こういうふうに国民が期待しておったのだが、あまり積極的ではない、こういう点をお伺いしておるわけです。もう一回お願いします。
  80. 池田勇人

    池田国務大臣 われわれが望んでもできないのでございます。向こうも郵便協定、気象関係の方はやろうという気持がないようでございます、聞くところによりますと。私は正確に通知をもらったわけではございませんが。
  81. 楯兼次郎

    楯委員 だから、自民党の方はヤジっておられるけれども、今総理の言明のように、私は当たってはみないけれどもそういうことであるそうですと、総理答弁しておられる。だから実際できるものかできぬものか、なぜ交渉しないですか、総理は今言明されたんじゃないですか。私は当たっておらないけれども、聞くところによればそうであろう、そういう点に国民は非常な不満を持っておる、こういうことを私は言いたい。そこで、(発言する者あり)黙っていて下さい。そこで私は、いわゆる自由主義陣営諸国は盛んに中国との貿易をやっておる。自由主義陣営で、外務大臣にお伺いをしたいと思いますが、中国を承認をしておる国はどこの国ですか。自由陣営諸国で中国を承認をしておるおもな国を、これは概略でいいですから一つ教えていただきたいと思います。
  82. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 いろいろ申し上げますとなんですが、御質問趣旨は、おそらく貿易に関連してだと思います。イギリスは承認していることは御承知通りであります。イギリスとの貿易ということに関連しての御質問と思いますが、そのようにお答えいたします。
  83. 楯兼次郎

    楯委員 イギリスが承認をしておるということは、私は知っておるのです。だからイギリス以外の国で、いわゆる自由主義陣営に属する国で中国を承認をしておる国を、大まかなところ一つお聞かせを願いたい。外務大臣答弁できなければ、事務当局でけっこうです。
  84. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 自由陣営に属する国といいますと、中立国ですが、フィンランド、スウェーデン、スイッツランド、自由陣営と明確に言っておるものはオランダとかあるいはデンマーク、それからパキスタンですね。おもなところはそんなところで、あとは中立的な外交をとっておるという国が多いわけであります。
  85. 楯兼次郎

    楯委員 それでは、西ドイツとイギリスの、中国との間における最近の貿易額がわかったらお聞かせ願いたいと思います。
  86. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 イギリスと西独でありますが、実は御承知のように、五八年に日本との貿易が中断されましてから、イギリス、西独が非常に伸びたおけであります。試みに申し上げますと、五八年がイギリスの場合、中共輸出が七千六百万ドル、中共からの輸入が五千百万ドル、西独が輸出が一億六千二百万ドル、輸入が五千八百万ドル、日本は五八年は五千万ドルが輸出、輸入が五千四百万ドル、それから激減いたしまして、五九年にはイギリスが輸出六千九百万ドル、輸入五千五百万ドル、西独が一億二千八百万ドルが輸出、輸入が六千六百万ドル、日本が輸出が三百六十万ドル、輸入が一千八百万ドル、最近はいろいろ中共内部の食糧危機に関連いたしましての外貨不足等もございまして、全般的に非常に減っております。これは六一年の一月から六月まででございますが、イギリスの場合一千九百万ドルが輸出、輸入が三千六百万ドル、西独が一千四百万ドル輸出、輸入二千万ドル、フランス、イタリアはずっと非常に減っております。フランスが輸出が二千万ドル、輸入が七百八十万ドル、日本の場合は輸出が二百七十万ドル、輸入が約一千万ドル、さようなことになっております。
  87. 楯兼次郎

    楯委員 中国の貿易については、私どもも調べてみましたが、なかなか詳細がわからないことは事実です。従って私は、現実にこうだからこうだというような質問もちょっとできないのでありますが、最近新聞面に現われましたいわゆる自由三義陣営諸国と中国との貿易を二、三拾ってみますと、将来非常に多くの貿易が行なわれるであろうというような見通しであるわけです。最近、二、三の例を申しあげますると、これは一月の三十日に新聞に出ておったのでありますが、米国の上院で共産圏の貿易を調査をしておりまする委員会があるそうであります。これが二十九日上院に報告書を提出をいたしておりますが、かいつまんで申し上げますると、共産圏諸国と西側の貿易は年十億ドルの割合で続いておる。イギリスは中国に旅客機六機を売り渡す約束をしておるというようなことが載っておりまして、このままほうっておきますると、共産圏との西側の貿易がどんどん増大をしていく。これはココムによって輸出を禁じられておる精神に反するしこれではいけないから、共産圏に対する経済的圧力をかけるために考え直してもらわなくちゃ困る、こういうようなことを言っております。それから二月一日の新聞各紙の報道によりますと、「中共市場も失う、硫安輸出EECが大量成約」こういうことで日中貿易促進会の話では、EECが中国に対しまする硫安の輸出の契約を結んだ、こういうようなことが報ぜられております。それからここ三年間中国は非常に農業の不作のために、昨年から本年にかけまして膨大な食糧を輸入しておるようであります。輸入先は主としてオ−ストラリア、カナダから輸入しておる。総額で一千万トン、金額にして約二億三千万ドルになる。こういうようなことが最近の新聞紙からも感知できるわけです。このようにいわゆる自由主義陣営諸国がどんどんと中国との貿易をし、将来拡大をしていこうとするのに、日本政府だけが非常に消極的である、こういう点が国民にはなかなか理解されない。それからこの西欧諸国と貿易をしておる条件として、政経不可分というようなことを中国は強調をしておるらしいのでありますが、にもかかわらず、どんどんと貿易が増大をしておる。こういう点について国民の理解しがたいところを総理にお伺いをしたいわけですが、こういう情勢に対して、将来総理は中国に対しまする貿易の評価をどういうようにお考えですか、お伺いしたいと思います。
  88. 池田勇人

    池田国務大臣 中共と自由主義国家群との貿易は、外務大臣が答えましたように、一昨年までは相当あれでございましたが、昨年は非常に衰えました。三分の一内外になっております。日本は一昨年、一昨々年は二、三百万ドルの輸出でございましたが、昨年は大体輸入が一千万ドルあった。輸出が一千万ドル近く、この程度までいくと思います。契約高はそれの七、八割増しくらいで、二千万ドル近いのでございます。だから、よその国も昨年は非常に減って参りまして、日本の国はこれから伸びつつあるわけであります。それから小麦の輸入は主としてカナダ、そしてまた豪州でございます。私はカナダのジーフェンベーカーに、日本に対しては政経不可分というので、貿易をしたくてもしてくれない、カナダはいいな、こう私は首相に言ったことがある。カナダに対して政経不可分でない、何ゆえに日本に対して政経不可分だと言うのでございましょうか。私はこれが不思議なんです。しかし、これは昔からの関係があるから、特に日本は非常なクローズ・アップしてむずかしいのじゃないかと思いますが、こういうことじゃ困る。中共は今のようによほど国際収支は困っている。ほとんど食糧を輸入ということであれしておりまして、しかしまたほかの方面では、対外のクレジットをやったり、なかなかあなたのおっしゃる通りに、私も十分わかりませんが、とにかくわれわれは政経不可分とかなんとか言わずに、だいぶん空気も盛り上がってきておりますから、今後相当日本と中国との貿易は伸びていくことを期待し得る状況に相なっております。受け入れ態勢といたしましても、われわれは来年度の予算で、中共における見本市の開催の予算を組んでおります。見本市が開ける情勢になれば、いつでも行けるように予算的措置をしております。また日中の輸出入組合というものに対しましての補助金も準備しております。われわれの方としては、至れり尽くせりとは申しませんが、十分貿易をしていくという建前で進んでおるのでございますが、いかんせん向こうさんが、だいぶよくなって参りましたけれども、よその国と同じようなところまでいってないことを私は遺憾に思います。
  89. 楯兼次郎

    楯委員 政経不可分論については、このあと一つお伺いしたいと思いますが、気になるのは、総理は一年くらい前までは、中国との貿易をやってもせいぜい一億ドルくらいだ、大して将来性はないからというようなことを盛んに演説をされておったのですが、今日でもその見解には変わりございませんか。
  90. 池田勇人

    池田国務大臣 五年先、十年先、しかも中共の態度が非常に影響することでございまして、一がいには言えませんが、今今年とか、来年じゅうに輸出入額一億ドルということは、ちょっと今の状況からいったら期待できないのではないかと思います。
  91. 楯兼次郎

    楯委員 一年ぐらい前までは、総理は将来を見通して中国との貿易はせいぜい一億ドルくらいであるからあまり期待をかけてはいけない、こういうようなことを言っておられたのですが、この点について二、三の例を申し上げますと、西欧諸国は非常に違った見解を持っておる。これは図書館で私二つばかり例を拾ってきたわけでずが、一九六〇年の一月のイタリアの世界経済評論によりますと、こういうことを言っております。将来西欧と中国の貿易は四十億ドル以上を期待できよう、それから英国のハロルド・ウィルソン元商務長官ですか、この人が言っております言葉にこういうことがあります。この窮屈な世界市場で中国からイギリスに競争をし向けるならば、イギリスはその経済的立場を危うくされるであろう。しかしわれわれが中国をイギリスの顧客とするならば、中国がイギリスやアメリカその他の国々の生産物のすべてを入れ得るほどのほとんど無限の市場であることを見出すであろう。こういうことをハロルド・ウィルソンという元商務長官が言っておるわけです。今日一億六千万の人口を持っておるEECが、数年にして今日では世界経済の脅威となっております。中国は六億以上の人口があるということがいわれておりますし、膨大な資源を持っているわけでありますから、これは将来今申し上げましたウィルソンの言葉が実証されるのも私は架空ではない、こういうふうに考えるわけでありますが、非常に日本政府と諸外国の中国に対する評価というものが極端に違う。これは少差ではない、極端に違う。従って、今与党の諸君はお笑いになっておりますが、これは私が言うのではありません。私が言うのではなくて、イタリアあるいは英国あたりは、中国をこのように評価をしておるわけでありますが、こういう点について総理の見解はどうですか。
  92. 池田勇人

    池田国務大臣 貿易というものは人口とか土地の広さできまる問題ではございません。非常に大きい土地で非常に経済力の進んだアメリカにいたしましても、大体輸出入というものは国民所得の三%から四%。だから国が大きいからといって貿易が非常に盛んになるということはない。ことに生活程度がまだまだ非常に低うございますし、自給自足という建前でいっているような、原則はそうでございますから、私は、そういうイタリアの人やあるいはイギリスの人が言っているように、とてもここ三、四年や五年ぐらいでそうなるとは思いません。過去の実例を見ましても、三、四年前に非常に盛んなときだって、イギリス、ドイツ、日本、フランス等を集めて三億ドルか四億ドルもないぐらいであります。しかし、片一方で共産圏の貿易が相当ある。大体貿易額の七割程度は共産圏との貿易ではないかと思います。しこうして共産圏との貿易が、今聞くところによりますと、必ずしも昔ほどでないということになれば、自由国家群の方へ出てくるでしょうけれども、片一方には外貨不足というものがありますので、私は他国の経済学者の見通しをとやこう言うわけじゃございませんが、今までの経過から申しますと、そう四十億、五十億ということは、なかなかむずかしい状態ではございますまいか。
  93. 楯兼次郎

    楯委員 先ほど総理は、政経不可分で日本だけに中国は差別待遇をしておる、こういう点を強調なさいましたが、中国のいわゆる政治三原則というのは、御承知のように、中国敵視政策をやめること、それから二つの中国を作る陰謀をやめること、日中国交正常化を妨げないこと、これが政治三原則ということになっておるわけです。私は、池田内閣が中国敵視政策をやっておるとは思いませんが、この点どうですか。
  94. 池田勇人

    池田国務大臣 お答えするまでもなく、御存じの通りやっておりません。
  95. 楯兼次郎

    楯委員 それでは、二つの中国、この問題は、昨秋の国連加盟について盛んに論じられた問題でありますが、二つの中国を作る陰謀云々の項目はどうですか。
  96. 池田勇人

    池田国務大臣 二つの中国を作ろうという気持は持っておりません。これは、中共政府も台湾政府も、強く二つの中国には反対しておるのであります。
  97. 楯兼次郎

    楯委員 そういたしますと、台湾と中国というのは不可分の関係にあり、これは切り離すことができない、こういうお考えですか。
  98. 池田勇人

    池田国務大臣 そういうむずかしい問題がありますので、国連で審議してもらおうというのであります。
  99. 楯兼次郎

    楯委員 それならば、中国が政経不可分で日本を相手にしてくれないというようなことを言っておらずに、あなたの方でそういう三原則に適応する政策をやっておらないということならば、中国と誤解があったならば、あなたが行かれるということはどうかと思うのですが、代表でも代理でもけっこうですが、なぜ向こうの誤解を解かないのですか。あなたは、国内ではそういうことはやっておらない、こういうことを強調されておりながら、先ほどあなたが言われたように、相手にしてくれないとか、政経不可分であるとか、だから日本は困る、こんなことを言っておる必要ないじゃないですか。向こうが誤解しておったら、なぜ積極的に向こうの誤解を解いて、そうして政府間の協定を結ぼうとしないのですか。この点が国民にはどうしても理解できないのです。なぜそれをやられないのですか。
  100. 池田勇人

    池田国務大臣 隣国でございますから、仲よくすることにつきましてやぶさかではございませんが、向こうがその気になっていない場合に、あまり媚態外交をするのもいかがかと思って、われわれの真意を理解する時期を待っているわけでございます。向こうさんが話ししょうということなら、何もやぶさかではございません。
  101. 楯兼次郎

    楯委員 一年も二年も前から、時期を待っておるというような御答弁ですが、あなたに、いわゆる政治三原則に抵触する行動をとっておらない、こういう確信があったならば、なぜ積極的に誤解を解かないのか。あなたはここでそういう答弁をされておっても、現実の問題として、積極的にその誤解を打開しようという方向に動いておらぬじゃないですか、どうですか。
  102. 池田勇人

    池田国務大臣 誤解を解こうといたしましても、性急にやりますとますます誤解が深くなりますから、しばらく様子を見ておるのであります。だんだん貿易の点でもよくなっていきつつあります。ずっと今までの状況を見まして、今こっちから手を出して、向こうが応じるか応じないか、この点はおわかりだと思います。
  103. 楯兼次郎

    楯委員 手を出してもわからない。また、われわれは、あなたがなぜやらないか、わからないのです。だから、やってみたらどうですか。やってみて向こうがどうしてもいけないということなら、国民も納得するでしょう。ところが、国内向けはだめだ、だめだと言いながら、少しもこの誤解を解決する方向の行動をとろうとしない。これは日本の将来の貿易を考えて、国民が非常に遺憾だと思っておる点だと思います。  そこで、社会党は先日日中共同声明を出して、自民党の方からいろいろ批判をされましたが、そういう池田内閣の態度でありますから、お読みになったと思いますが、われわれは、貿易について、政治三原則、貿易三原則に基づく友好取引の中断はあり得ない、二番目は長期取引を具体的に検討する、三番目は技術協力の可能性、四番目に見本市の相互交換の可能性などについて、中共側と合意に達したことをあの共同声明にはっきりうたってあるのです。だから、われわれは政府に感謝されこそすれ、非難を受けることははなはだ心外であると考えておるのですが、どうですか。
  104. 池田勇人

    池田国務大臣 国民の大多数が望んでおるのだから、早く貿易再開の具体的措置をとれ、こういうことでございます。とって成功すればよろしゅうございますけれども、成功しないときには、ばかをみるということになります。将来にかえって悪影響を及ぼします。  それから、社会党さんの日中共同声明につきまして、貿易の点はよろしゅうございますが、その前提の外交方針について私は言っておるのであります。貿易はあるいはなくても、あの宣言前に、私はたびたび貿易の拡大を言っております。
  105. 楯兼次郎

    楯委員 貿易の点はよろしい、しかしその前が悪い、こういうようなことをおっしゃっていますが、自民党の方でわれわれを非難するのは、いわゆる浅沼発言、あるいは中立がどうだこうだ、こういうことを非難されております。ここに共同声明がありますが、なぜ浅沼発言がいけないのか、あるいはなぜ社会党の唱える中立政策がいけないのか。自民党の方あるいは池田さんも、共同声明の中を十分知悉されておって本会議でああいう言動をされるのではないじゃないか、私はこういうふうに思っておるわけでありますが、中国は、台湾にアメリカの軍事基地をたくさん持たれ、そうして敵視政策をとられておる。日本は、私が冒頭質問申し上げましたように、いろいろな理屈はあるかと思いますけれども日本の国の一部沖縄を軍事占領をされておる。こういう形が帝国主義と呼んでなぜ悪いのか。日本語では、こういう状態を帝国主義と呼ぶ言葉以外にはないのではないかと思うのです。なぜ悪いのですか。しかも、中国は台湾を同じような状態に置かれておる。日本は沖縄、小笠原を同じように置かれておる。これは国際的に客観的に見れば同じじゃないですか。アメリカ帝国主義によってこういう措置をとられておるということは当然だと思うのです。こういう状態を帝国主義と呼ばずしてどういう言葉があるのか、お聞かせ願いたい。
  106. 池田勇人

    池田国務大臣 アメリカの帝国主義は共同の敵だ、こう言っておる。帝国主義とは何ぞや。われわれはアメリカの政策と考えておるのであります。アメリカの政策をあなたは帝国主義帝国主義とは何ぞや。アメリカの帝国主義なんということは、アメリカの政策を非難しておられるのではないか。帝国主義という帝国を出しただけで、アメリカ政府アメリカ国民の政策を批判しておられるのではございませんか。アメリカ政府の政策はアメリカ国民の政策でないということは、竹に木を継ごうとするのと同じでございまして、私は承服できません。しかも、私が言うのは、われわれがアメリカ平和条約を結び、世界の平和に貢献しようとするわれわれに共通するものを、日本の一大政党が行って非難するということ、ことに、韓国問題につきまして中共と話し合って共同声明をするということは、われわれは迷惑である。いずれ機会を得て申し上げますが、私の考え方はそれでございます。
  107. 楯兼次郎

    楯委員 冒頭申し上げましたように、日本の国会で、しかもあなた方の方だけ——沖縄は、理由はどういうふうであれ、全住民が、植民地的である、国連憲章違反である、これじゃ困ると言っているのですよ。全住民がそういう意思を持っておる。全住民がそういう意思を持っておるにもかかわらず、総理大臣がそうじゃないというような、冒頭の私の質問に対して答弁をされておる。一体、全住民がいやがるところに他国の軍隊がおって、そうして施政をしいておるというのは、日本語で言えば・帝国主義という言葉以外にないじゃないですか。台湾だってそうじゃないですか。なぜ浅沼発言が悪いのか。しかも、あなたの方で社会党を攻撃なさる中立政策も、共同声明の条文をよく読んでごらんなさい。たとえば日本社会党の中立政策とは、平和五原則、バンドン会議——これは政府もこのバンドン会議には参加しておると思いますが、バンドン会議十原則及び日本の平和憲法の基本精神に立って、いかなる軍事ブロックにも参加せず、いかなる外国の軍事基地をも置かず、あらゆる軍事ブロックの解消を求めるというのが、日本社会党の言っておる中立政策なんです。これは何が悪いのですか。どうですか。もう一回一つ考えを聞きたい。
  108. 池田勇人

    池田国務大臣 われわれの政策との違いを言っておるのであります。いい悪いは国民が判断いたします。われわれの政策は違う。あなた方はいいと思われる。われわれは悪いと思います。われわれとは政策が違う。しかも、国民がそれを判断しております。世論があの共同声明は適当なりと言っておりますか。これはやっぱりわれわれも反省しなければならぬけれども、あなた方も御反省になることがけっこうだと思う。
  109. 楯兼次郎

    楯委員 あなたは、国民がそのよしあしを判断する、これは社会党といえども、それはもっともだと思います。いい悪いを判断されるのは、それは当然だと思う。あなたがこの間の本会議、あるいは今度の演説会等も社会党の要求に応ぜずに、自分たちだけで、今申し上げました帝国主義であるとかあるいは中立政策について、どんどんとPRをやっておられるじゃありませんか。誹謗しておられるじゃありませんか。そうしておいて、国民が一方においては判断をする、こんな一国の総理大臣の弁明というものは、私はないと思う。どうですか。
  110. 池田勇人

    池田国務大臣 民主主義政党政治でございまするから、われわれの所信を国民に訴えることは当然のことでございます。そうして、反対党の間違ったことはよく説明して、間違いなることを国民に知ってもらうことは、政党活動の当然の措置じゃございませんか。
  111. 楯兼次郎

    楯委員 よく日中共同声明のあなた方が攻撃される点を熟読をしてもらいたいと思います。  次に、貿易の問題に関連をして、バイ・アメリカン、それからシップ・アメリカン政策は、日本の緩和要請にもかかわらず、ますます強化の方向を向いておるようでありますが、このバイ・アメリカンあるいはシップ・アメリカン政策というのは、最近のアメリカの金保有の減少、あるいはケネディの一般教書が言っておりますようにドル防衛の強化、こういうような点から関連をいたしまして、当分は続いていくものである、こういうふうに考えるわけでありますが、どうですか。
  112. 池田勇人

    池田国務大臣 ケネディはそういう基本的な政策は続けていきましょうが、しかし、やはり外交というものは、基本方針を一つも変えずに四角四面でいくものでもございませんから、その根本方針を進めていくと同時に、やっぱり他国との関係の調整も考えていくと私は思っております。
  113. 山村新治郎

    山村委員長 楯君、参考に申し上げます。あと持ち時間は約三十分でございます。
  114. 楯兼次郎

    楯委員 総理大臣のおっしゃる通りだろうと思います。通りだろうと思うのですが、私どもが心配をいたしておるのは、箱根会談であのように親交を盛り上げた直後こういう結果である。それから、一般教書でもドル防衛の強化をうたっている。こういうことで、この問題はアメリカに解決を要請されておるのだが、しかし、そんな甘いものではない。まず、だんだんとこの政策は強化をされていくという前提に立って、将来の政策を立てなくちゃいかぬのじゃないか、こういうふうに考えておるわけですが、どうですか。
  115. 池田勇人

    池田国務大臣 アメリカ立場もありましょう。しかし、日本初めアメリカとの関係の立場もございます。だから、先ほど申し上げましたように、お互いに話し合い、調整し合っていくところに外交の根本があると思います。
  116. 楯兼次郎

    楯委員 それでは通産大臣にお伺いしますが、AIDによるバイ・アメリカンが緩和されないと、一部では、三十七年度の買付というのは五百万ドル以下になるだろう、こういうことがいわれておるのですが、見通しはどうですか。
  117. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 お尋ねの御趣旨がよくわかりませんが、私は、各国とも貿易拡大というか、通商拡大の方向へ努力して参ると思います。そういたしますと、各国にはその限度がございますので、日本の通商拡大の余地、割り込む余地はもちろんあることだ、かように考えております。
  118. 楯兼次郎

    楯委員 私の言っておるのは、そうじゃない。AIDによる買付が、このままでいけば三十七年度は五百万ドル以下になるであろう、今まで大体一億二千万ドル、多いときには一億四千万ドルになっておったのだが、このままの状態でいけば三十七年度は五百万ドル以下になるであろう、こういうことがいわれておる。いわゆるエ−ドです。AIDです。
  119. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 AIDの方はいろいろ交渉いたしております。もちろん、アメリカのバイ・アメリカン、シップ・アメリカン、この政策は、先ほど総理でお答えの通りに、相当続くと考えなければならない。しかし、アメリカ自身といたしましても、これはエ−ドの限度があるわけであります。また、エ−ドを受ける側から見ましても、非常に条件の悪いものをしいてとるということも、これは考えが必ずしも賛成しない面もあるようでありますし、また、日米間のこの事情から申すと、AIDだからといって、日本が非常に因るという、そういうものを強行するとも実は考えられない、かように思います。最近のパキスタンに対する肥料の入札参加などもそういう意味だろう、かように考えます。
  120. 楯兼次郎

    楯委員 われわれは、もうこのAIDあたりはあまり当てにしない日本の貿易政策というものを立てていかなくちゃいかぬ、こう思っておるからお伺いをしたわけです。  そこで、シップ・アメリカンによってわが国が受ける損害は年間どのくらいになるのか、運輸大臣に一つお聞きしたいと思います。
  121. 斎藤昇

    ○斎藤国務大臣 シップ・アメリカンの問題でございますが、シップ・アメリカンという言葉で、あるいは今までの政府物資五〇%の積荷を確保するという以外に、なお今後相当進められるのではなかろうかということで心配をいたしておりまするけれども、今日の現状におきましては、さしたる損害はございません。特に損害がひどくなってきたという状況ではございません。今後の将来を心配をしておるという現状でございます。
  122. 楯兼次郎

    楯委員 最近新聞紙の報道によりますと、外貨借款にあたって米輸銀の借款で買い付けた物資輸送は、今まで米船五、邦船五、五、五の比率であったのが、米船七、邦船三、こういうように比率が変わってきておる、しかも、その条件をのまなければ金を貸せない、こういうようなことが伝わっておるのでありますが、これに対する政府の見方、あるいは事実そうであるならば政府はどのように交渉をされているのか、お伺いをしたい。
  123. 斎藤昇

    ○斎藤国務大臣 アメリカの借款による物資の購入の場合におきまして、アメリカの船を使えば、その運賃についても全額借款を認めるという問題はございます。鉄鉱その他の物資についてその問題があります。日本の船を使う場合には、その運賃に対しては借款を認めないというのが、二、三の物資について今起こっておるわけであります。この問題は、外交問題といたしまして、今後その方針を緩和してもらうように交渉をしておる段階でございます。
  124. 楯兼次郎

    楯委員 時間もきましたので、重要な点だけ二、三お伺いしたいと思いますが、本会議以来池田さんのお話を聞いておりますと、OECD参加を非常に熱望されておる。これは施政演説、あるいはAID長官が来たとき、あるいはこの間ケネディ司法長官が日本へ来たときにも要請をされておるのですが、昨年の十月でありましたか、新聞によりますと、OECDのクリステンセンという事務総長がはっきりと、日本加盟はいやだ、こう言って拒否をしたということが伝わっておるわけでありますが、この見通しと、拒否された事実があるかどうか、この点をお伺いしたいと思います。
  125. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 クリステンセン氏がはっきりとそういうことを言ったという事実はないようでございます。われわれはOECDの下部機構であるDAC、ダックに入っておりますし、今度のIMFの出資金でもおわかりになりますように、あの中の経済政策委員会——御承知のように、経済政策委員会の通商委員会がほかにあるわけでございますが、この経済政策委員会において、日本に対するIMFの出資割当を一緒に協議をしたというようなこともございまして、だんだんに各委員会で、日本の持つ役割というものを強く認識してきつつあるわけであります。あの規定によって満場一致の承認を必要とするわけでございますので、われわれは、大体の見通しはつけつつも、十分そういう情勢を作っていくというふうにしたいと考えております。
  126. 楯兼次郎

    楯委員 それでは次にお聞きしたいのは、エカフェ要請によるアジア経済協力機構への参加でありますが、これには参加するのか、目的は何か、参加国、資金関係、この三点をお伺いしたいと思います。
  127. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは、エカフェの事務局長のウ・ニュン氏がそういう ○AECという構想を持ち出しておるわけでございますが、その基礎になりましたものに三人の委員会——これは各国の代表という意味ではなくて、御承知のインドとタイと日本からいわゆるスリーワイズマンの考え方で人が出て、一応の考え方を作っておるわけでございます。われわれその目標とするところは非常にけっこうだと思いますけれども、やはりアジアにおける経済的な諸種の条件やそういうものも勘案していいものができるように、そういう点で十分協議をして参りたい。ただ大ワクを作って中身がないということでもいけませんし、中身のことばかり言っておってなかなか全体の結合ができぬという場合もございますし、彼此勘案いたしまして、日本としての貢献が十分できるような立場でアジア全体の利益をはかりたい、こう考えておるわけであります。
  128. 楯兼次郎

    楯委員 簡単でけっこうですが、私が質問をしておる点、目的、参加国、資金関係を……。
  129. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 目的は、ゆるいバンドでアジア全体の経済繁栄をはかろう、こういうことであります。参加の国というものは、これはエカフェ地域、すなわち、日本からイランまで含めた十八カ国の域内国でございます。その他に域外のエカフェの関係国がございます。すなわち、米、英、ソ連、それからオランダ、そういうような国がございますので、域外諸国との関係もございます。なお、何といっても、アジア全体の問題として一番重要な点は、資金不足の問題でございます。そういう点を十分考えながらいかなければならぬ、こういうふうに考えております。
  130. 楯兼次郎

    楯委員 私は、このアジア経済協力機構と関連をしてこういうような想定を抱くのですが、間違いかどうか、日本が、OECDの下部機構であるダックですか、DACですね、開発援助委員会に参加をしておる。雑誌等を見ますると、この委員会では、参加国が国民所得の一%の金を拠出してもらいたい、こういうことが会議の再三の議題になっておるようです。しかも、今あなたが答弁されましたアジア経済協力機構には、資金関係でちょっと問題があるようです。そういたしますと、このアジア経済協力機構ができて、そうしてDAC国民所得一%の金が拠出をされて、これにパイプを通じて、OECDの、アジア経済協力機構というものが下請といいますか、さらに下部機構になって、東南アジア開発に当たる、将来こういうような姿になっていくのではないか、こういうように連想いたしますが、どうですか。これはあとで総理大臣も一つお答え願いたいと思います。
  131. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 アジアの共通の問題を一緒になって考えていこうという構想が根本になっておりまするが、どうしても底に流れるものはやはりアジアの民族主義、これが強く流れておると思うのであります。従って、今あなたがおっしゃいましたような、他の機構の下請機関というような形でこれを考えるということでは、この機構はおそらくうまくいかないだろうと思いますので、その点は十分考慮していかなければならぬと考えておるわけであります。
  132. 池田勇人

    池田国務大臣 いろいろな構想がございましょうが、大体のところは、根本は外務大臣の言うような方向でございましょう。まだアジア経済協力機構というのも、三人のいわゆるスリー・ワイズマンの草案でございまして、各国ともこれをみな納得しているという状況じゃございません。今その三人の考えを読んでいる程度のもので、ここでどうこうということは、まだ私は少し早過ぎると思います。
  133. 楯兼次郎

    楯委員 それでは、これはたくさん用意してきたのですが、時間があとないので、最後に、一つ交通問題を……。これは詳細にわたっては同僚の山口議員が質問をいたしますので、大ワクだけ私質問をいたしたいと思います。  昨年度の交通事故による死亡者は一万四千人、ちょうど日清戦争の戦死者と一緒である、まさに世は交通戦争であるということが毎日々々報ぜられております。だから家族も、朝出勤するときには水杯といいますかをやる。それで、家へ主人が帰って、顔を見てほっとする、こういうような非常な迷惑を国民はこうむっておるわけでありますが、これに対する解決策というものはいろいろあると思います。あるのだが、議論をしておるだけではこれは解決されません。従って、私は、できるものから片っ端からやっていく、こういう態度でなくてはいけないと思うのですが、この都市における交通緩和政策等についてどういうことを考えておられるのか、具体的な案があったら一つお示しを願いたいと思います。
  134. 中村梅吉

    中村国務大臣 実は私ども立場といたしましては、できるだけ道路交通のよくなるようにいろいろ応急措置、恒久対策等を検討いたしまして、応急措置につきましては、たとえば路側にガードレールをできるだけ早く全面的に設置いたしますとか、あるいは立体交差が、最近所によりましては歩道を架橋にするような施設を今着工する運びにいたしております。ただ、交通事故の問題は、あるいは公安委員長の所管と思いますが、確かに交通道徳といいますか、交通に対する観念というものと、自動車の増勢というものとが、つり合いがとれてこなかったというところに根本があるかと私は思うのであります。先般も大阪に行きまして、大阪の交通事故の人身事故の状況を聞きますと、市の中心部の事故はほとんど少なくて、郊外の、むしろ楽に走れるところの事故で人身事故が多いという統計を見ました。そういう点から見まして、やはり走る方の自動車の側及び歩行者の画面にわたって、今後大いに啓蒙をしていくということが、交通事故を減らしていく上には非常に大事なことではないか、かように先般大阪の実情をも聞きまして、われわれ痛感をいたしておる次第でございます。政府部内としましては、御承知通り、交通関係閣僚会議をしばしば開きまして、これらの応急措置、恒久対策等について、具体的に目下活発に進めておる段階でございます。
  135. 楯兼次郎

    楯委員 私は、対策はいろいろあるだろうと思うのです。われわれ社会党は、私責任者をやっておりまして、数年前から、都市交通の混雑緩和をするためには、まず一元化をやらなくちゃいかぬ、こういうことをこの委員会でもしょっちゅう主張をいたしておったのでありますが、最近映画館でニュース映画を見ましたら、川島長官がそれを力説されておるので、おそまきながらぜひ一元化の方向、そうして問題を片っ端から解決をしてもらいたい、こう思います。地方へ参りますと、やれることに手をつけておらぬ、こういう状態です。一例をあげますると、たとえば鉄道側と道路の立体交差でありますが、これは金さえ出せばすぐできるのです。それを道路だけ両端作りまして、まん中の立体交差だけは、鉄道管理者と道路管理者の負担金がきまらないからほうっておくというのが、全国で非常に多い。だから、こういう問題は、交通戦争といわれておるような状態でありますから、すぐ金を出して完成すればいいと思うのですが、なかなか負担金の問題で解決しない。これも、踏み切りに関する法案というのは、三、四年たな上げになっておりまして、ようやく去年の国会で通過をするにはしたのですが、やはり建設費の方がはっきりきまっておりませんから、なかなか道路はできても橋はかからない、こういうような実情です。  そこで、私は総理大臣にお伺いしたいと思いますが、この交通を緩和するためにやるべき仕事が幾らでもあるのです。ところが、金がないからやらないというのが実情であります。事戦争といわれておるのでありますから、防衛関係費の一年や二年くらい削減をして、まずまぼろしの外敵に対する防備をやめて、足元の交通戦争から解決をしていくために、もし金がなかったらよそから削るというようなことも、これはなかなか困難でしょうが、防衛関係費からできる限りの措置をとっていく方が、最も国民に対して、政治家としてあるいは政府としてやるべき第一の任務ではないか、こういうふうに考えますが、どうですか。
  136. 池田勇人

    池田国務大臣 防衛関係経費は最小限度にとどめておるのでございまして、これ以上削減するわけには参りません。しかし、道路の整備は必要でございますから、私は、関係閣僚に、あまり金のことを心配せずに思い切って事をやるべきだ、こういうことを言っております。金はまた何とか私は経済成長によって生み出されると考えております。
  137. 楯兼次郎

    楯委員 これは建設大臣あるいは運輸大臣、あるいは川島さんですか、実際やるべき仕事が金がなくてできぬのでしょう。現実に立体交差あたりは、道路が町側にできても、立体交差の橋だけほうってあるのがたくさんあるのです。実際やれるところ——土地の問題あるいは立ちのきの問題等の困難な将来の計画は別として、現在やりたくても金の関係でできないという個所があるのじゃないですか。あるかないか、一つ簡単でけっこうですから、答弁をしていただきたいと思います。
  138. 中村梅吉

    中村国務大臣 御承知通り、昨年の通常国会で、踏切道改良促進法が制定されまして、その後建設省と運輸省におきまして、両省間に踏み切り道の改善に関する具体的な個所の煮詰めを実はやっております。建設省の方からは大体五百数十カ所の予定を立てまして一つの案を持ち、運輸省は運輸省の立場で一つの案を持って進めておるわけでございますが、若干意見の食い違いは、建設省の側としましては、重要道路である一級国道、二級国道の方を先にやりたいと思っておりますが、運輸省の方の側では、交通量や何かの関係を見まして、地方道でも早くやりたいという関係がありますから、地方道はやはり都道府県が主体でございますので、この運びに若干手間取っておるような現状でございます。われわれとしましては、全力を尽くしてこれらの個所の煮詰めをいたしまして、もうすでに着工の手順になっておるところもございますが、できるだけ早くこの法律の制定されました精神にのっとって改善を進めて参りたいと、せっかく努力をいたしておる次第でございます。
  139. 楯兼次郎

    楯委員 私の質問は、そんなことを聞いておるのじゃなくて、実際やれるところもやらずにおるのは資金の関係でしょう、一体金があるのかないのかということを聞いておるのです。しかし、時間もありませんから、答弁は要りません。  そこで、もう一つお聞きしておきたいと思いますが、総理大臣は、本国会の施政方針演説でも、「われわれが希求する近代福祉国家としての骨格を作り上げて参る所存であります。」と、福祉国家ということを非常に強調されておるわけでありますが、一体これは具体的にはどのような姿を想像されておるのか、あるいは現在の世界で、日本福祉国家とするにどのような国を模範とされて、こういう演説をされておるのか、この点を承りたいと思います。
  140. 池田勇人

    池田国務大臣 この社会保障関係だけで見ますると、それはございましょう。スエーデン、ノルウエー等の北欧諸国もございます。また、経済的に申しますと、アメリカのようなところもございます。イギリスなんかもその線に入るかもわかりません。しかし、その福祉国家というのは、各国同じような形態というわけにはいきません。やはり国民感情、歴史というものがございます。だから、私は、福祉国家というのは、お互いに明るい住みいい国を作ること、こういうことでございます。だから、交通問題なんか、住宅問題とか社会保障なんかと同じような重要さを加えてくると思います。
  141. 楯兼次郎

    楯委員 演説ではこういうことをうたっておられますが、具体的なお答えはできないようであります。ただ心配をいたしますことは、社会党は、自民党をアメリカ一辺倒、こういうふうに批判をいたしておりますが、非常に政治的に、経済的に、文化的にアメリカに片寄っておると私は思います。そこで、アメリカの国の姿が、将来福祉国家として日本の国にとって参考になるのかどうか、こういう点で私ども疑義を持っておるわけです。なぜ私がそういうことを言うかといいますと、なるほど、国全体としての状態は、非常に富んでおる層が世界各国より飛び抜けておるでしょう。しかし、その反面、失業者がきわめて多い。そういう状態。それから犯罪を私ちょっと調べてみたのですが、日本アメリカと殺人、強盗、強姦等を比較いたしますると、べらぼうに違う。一九五八年の一年の計算を見ますると、米国は殺人八千百八十二人、日本が二千六百八十三人というので、べらぼうに違う。それから強姦は、アメリカが一万四千五百六十一、日本が五千九百八十八、強盗に至っては米国は七万五千三百四十七、日本が五千四百四十二というふうに、なるほど人口はアメリカの方が七割多いでしょう。しかしこの犯罪の比率、それから失業者の比率からいきますと、日本と比べものにならない。だからこういう国が日本の将来福祉国家として参考になるかどうか。しかも日本の体制、政府の、内閣の行き方としては、文化、政治、経済にアメリカ一辺倒の色彩がきわめて強いので、こういう点を心配しておるわけですが、この点についてどうお考えになりますか。
  142. 池田勇人

    池田国務大臣 アメリカ一辺倒という批判は当たらぬと思います。それは、戦後占領されておるときにはアメリカが中心になっております。そういう惰性もあるかもわかりませんが、私は、アメリカもさることながら、今後はヨーロッパということ、東南アジア、アフリカと同様に考えていかなければならぬ、こういう気持は前から持っておるのであります。
  143. 楯兼次郎

    楯委員 それでは質問をやめます。
  144. 山村新治郎

    山村委員長 それでは続いて田中幾三郎君に発言を許します。田中幾三郎君。   〔委員長退席、重政委員長代理着   席〕
  145. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 先般来、いわゆる田中発言をめぐりまして、国会が七日の午後から三日間にわたって審議が停頓したということは、国会正常化の叫ばれておる今日、まことに遺憾に存ずる次第であります。あのときの論点は、田中政調会長の言った新聞の報道が真実であるかどうかということに端を発しまして、池田総理が田中君に真意を確かめて、その池田総理の真意なるものの発表とそごを来たしたということが原因であります。私は、単なるあの事実によって、重大なる予算の審議が三日間も停頓したということは、まことに知恵のない話といいますか、良識のない話といいますか、あのときに真実に田中君がこう言ったんだということを率直に表明すれば、あとはその責任をどうするかという問題になるのであって、あの事実の発表が相互に食い違いを生じたということが原因であります。私は、この点は総理にも、少し反省をしていただかないと——間違っておるではないかと言ったときに、間違っておるならもう少し確かめてここで発表すればよかったわけです。しかし田中君から発言に対する遺憾の表明がありまして一応片づいたことでありますから、私はここでさらにそれを深追いして追及しようとは思いません。けれども、問題は、田中君があの発言をしたということそれ自体が問題ではなくして、発言の内容が問題なんだ。憲法の改正を沖繩返還にからめて考えておるか、あるいはまたもう少し突っ込んで、沖繩返還問題と憲法の改正をからめてやるという陰謀が、そこにありはしないかという話の内容であります。総理は、かりにそういうことを田中君が言っても、自由民主党としては考えていないということを、この委員会において表明されました。私は、あの問題を、ともかくここで終止符を打つ意味におきまして、一体自民党の党の方針として、憲法の改正が国内だけではむずかしければ、あるいは他の力を借りてでも改正しようというような意図が、党内にあるのかどうか。もしくは政調会の有力なるメンバーのうちに、そういう考え方の者があるのかどうか。この点を総理に明らかにしていただいて、一応この問題は、私も終止符を打っておきたいと思うのであります。
  146. 池田勇人

    池田国務大臣 日本の憲法改正に、他国の干渉を許すべき筋合いのものではございません。また干渉ではなくても、他国の忠言なんかによって、どうこうしようという考えは毛頭ございません。
  147. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 それはその通りで、私はあたりまえだと思います。しかし憲法問題がこの国会で論議されるのは当然でありますけれども、憲法の改正は、これは軽々しく口にすべき問題ではない。改正についての研究を加えるということは、これは自由でありますから、それは思想研究の自由でよろしいけれども、かりにも日本国憲法を改正すると言うようなことは、これは慎むべきことだと思う。この憲法の改正案が国会で問題になりました当時に、最後の九十九条の憲法尊重擁護の義務のところでこれが問題になりました。憲法の改正については、一体主権在民の立場から、国民に憲法改正を発議する権利があるのかないのか。なお、憲法を擁護するという義務を天皇にまで及ぼし、下は国務大臣、国会議員、裁判官、公務員にこの憲法尊重の義務を負わしてあるが、国民には負わしていない、国民ということを書いていない。この点は、一体国民は憲法を守る義務があるのかどうかという、これが九十九条の、最後の条文において論議になったことは明らかであります。そこで、国民は憲法を制定した主権者であるから、国民が憲法を守るのは当然であるというので、この条項から省いたのであろうということになっております。またこの論議の過程におきまして、政府当局や国会議員などが憲法改正を主張するというのは、本条違反ではないかという議論さえあった。最高の法規ですから、こういう議論さえあったのでありますから、ここに軽々しく、憲法の改正が行政府たる政府にあるのだという議論は、私は少し憲法を軽視した意見ではないかと思うのであります。先般来木原君、中村議員等からだいぶん突っ込んだ議論がありましたが、私は論点を少し加えて、もう少しここでこの問題を論議してみたいと思うのであります。  総理大臣に念を押しておきますが、憲法の改正は、提案権は政府にもあるのだという、確固たる政府の意見のようにうかがえるのでありますけれども、その論拠は、憲法七十二条の政府の議案の発案権、これを受けた内閣法五条による法律案その他の議案の発案権、これが論拠であって、ほかにもっと論拠がありますかどうか。
  148. 池田勇人

    池田国務大臣 憲法七十二条が、政府の提案権があるという論拠でございます。
  149. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そういうふうに簡単に申されますけれども、この憲法の改正の論議の過程において問題になった点を、少し明らかにいたしましょうか。憲法の七十二条は、御承知のように「内閣総理大臣は、内閣代表して、議案を国会に提出し、一般国務」云々と書いてありますが、これはマッカーサーの原案によれば、六十四条によって、「総理大臣は内閣にかわって法律案を提出し、」こう明瞭に法律案ということを書きまして、あと一般国務云々と、原案にはそう書いてある。それをいろいろの経過を経まして、改正案の六十八条として「内閣代表して議案を国会に提出し、」と、こう直したのであります。しかるにこの論議の過程において、はたして政府に法律案の提案権があるのかないのかということすら議論になっておる。よろしいか。法律案の提案権が内閣にあるのかないのかということが問題になっているんですよ。そこで内閣法はおそらくこの点を解明するために、第五条は、「代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案」として、七十二条の「議案」ということの内容をここに明らかにしてある。憲法の改正案というものは一つもここに書いてないのです。これはどうですか。この審議を通じて、やはり憲法の改正案を明らかに法律案、予算その他として、その他の議案の中に一山幾ら、十ぱ一からげでこの憲法改正案をこの中へ入れていいというお考えですか。どうですか。
  150. 池田勇人

    池田国務大臣 憲法七十二条の「議案」には法律案を含まぬという佐々木惣一先生以下の一派があることも承知しております。しかしそれは実際は通りません。もう多数説じゃございません。内閣法五条に、法律案、予算案、その他の議案として、憲法の提案を書いてないから、内閣にそれがないというのは、それは逆だと思う、書いてなくても、七十二条の分はそれだ、私はこう解釈いたします。だから、その規定にないからというて発案権がないというなら、国会法でも憲法改正案の発議のことが書いてないと私は記憶いたしております。こまかい問題ですから、法制局長官からお答えさせます。
  151. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 七十二条には——最初原案には法律案ということをはっきり書いて、内閣に法律案の提案権があるということが書いてあった。その原案を削って、そうして七十二条を「議案」としたんですね。その「議案」としたときに、法律案は提出の権利があるのかどうかということが議論になったことを林長官は御存じでしょう。
  152. 林修三

    ○林(修)政府委員 いわゆるマッカーサー草案から、次に政府が国会にお出しいたしました憲法改正の議案、それに至る経過につきましてはいろいろのいきさつがあったわけでございます。マッカーサー草案からいろいろの政府部内、あるいは当時の占領軍当局等の検討を経てああいう形になったわけであります。しかしその第七十二条でいわゆる議案と書きましたことが、法律案等を除く趣旨であったということでは当然なかったとわれわれは承知いたしております。これは御承知のような、いわゆる日本の国会対内閣の関係が、アメリカ流の完全な三権分立とは違いまして、いわゆる議院内閣制というものをとっている建前から、当然に内閣にも法律案の提案権はある、こういう解釈代表的な解釈であろうと思います。今おっしゃったような、内閣に法律案の提案権が憲法主ないのではないかという議論は、第一回国会であったことは私もよく承知しております。内閣法が憲法七十二条を受けたわけでございますが、これは御承知のように、七十二条の解釈を法律でするということは、ほんとを言うと僣越なわけで、これは当然に七十二条そのままをこの内閣法に書いてきたわけで、七十二条で含まれることが内閣法によって特に除かれるということはあり得ないわけであります。要するに七十二条の解釈内閣法五条の解釈でもある、かように考えるわけであります。七一二条の解釈として、憲法改正の議案が特に除外されるかということになりますと、これは私は、議院内閣制の建前からいって、それを特に除外する趣旨はここでは考えられない、それを除外する趣旨だという学説ももちろん一部にあることはよく承知しておりますが、私はそうは考えない、多数の学者もそう考えておるように思います。
  153. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうしますると、この憲法のもとにおいて、このままで憲法の改正法案といいますか、憲法改正に関する発議を出すのは、手続はどういう手続をとってやりますか。
  154. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは考えてみれば、まず憲法改正の議案と申しますか、憲法をどのように改正するかという議案が、国会においてまず審議されることに私はなると思います。その国会において審議されるにあたってのいわゆる議案は、これは国会議員が御提案権を持っておられることは、これは言うまでもないことでございまして、現在の国会法には、そのための特別の規定はございませんけれども、これは当然議案の中に私は含まれてしかるべきものだろうと思います。あるいは将来憲法改正の議案の提案についての特別の手続ができるかもわかりませんけれども、現在はないわけであります。明示はしてないわけでございますが、これは私は普通の議案の中に含めて考えるべきものだろうと思います。これは議員が出す場合のことであります。それから政府にもあるという解釈をわれわれはしております。政治的な可否は別としても、法律的にはどちらからか出るということになります。その議案を国会において御審議になる、これが可決されるためには、九十六条にはっきり書いてございますように、いわゆる総議員の三分の二以上の賛成を要する、これは衆議院においても、参議院においても、ともに総議員の三分の二以上の賛成を要する、これは法律案あるいは予算の議決方式とは全然違う方式がここに書いてあるわけであります。国会で衆参両院がそういう三分の二の多数によって議決したものを、国会が国民に向かって発議して、今度は国民投票に付される、こういうことになるものと考えております。
  155. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 憲法九十六条は、この間、中村議員からも、これに関連して質問がありまして、政府の方は、やはり憲法の改正は政府にもあるのだという解釈のようでありますが、これを何べんもすなおに前向きで読めということを中村議員がしばしば言っておりましたが、この憲法九十六条によりますと、ほかの法文の書き方と違って、これには三分の二以上の決議を要するとかどうとか書いてないのですね。普通ならば、私法でも、会社法でも、あるいは国会の決議でも、これこれには三分の二以上の決議を要するという、決議ということが書いてある。しかるにこの九十六条には、特に「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、」とこう書いてある。これをすなおに読めば、「国会が、これを発議」するということは、国会自身が提案して、国会自身が三分の二以上の賛成を得て発議をする、発案をする。われわれはその発議という中に、三分の二以上の賛成を求める決議も含めて、提案権すなわち発案権もあると思うのです。政府の出す案は、今法律のあらゆるところを見ても、政府が法案を提出すると書いてある。ところが議院がやるときには発議と書いてあるのです。これはここであなたに説明するまでもありませんが、議事規則の先例ですか、この十章、議案、百二十六項に、「議院の発議にかかる議案には、」こういうふうにしてありますね。これは本院提出の法律案として、発議ということと提出ということを明らかに区別してある。これは常識ですよ。この九十六条には、議院の発議という言葉を使って、特に「三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、」ということをすなおに解釈すれば、三分の二以上の署名の賛成を得て国会が発議するということも考えられないことはないけれども、国会は審議する場所ですから、三分の二以上の署名だけをとって、そうしてこれを発議しなければならぬとは考えられませんから、私もそれではだめだと思うけれども賛成のうちには、国会の意思を決定するということを含んでおると思います。その国会の意思を決定するには発議するということを含めて、国会がみずから憲法改正の発意、すなわち促すという意味を含めて、これは発議ということを書いたのではないかと思う、この用語がすでにそうなっていますから。しかもその憲法は、こういう議事規則以上の、以前のものなんです。ですから、私はすなおに読めば、やはり三分の二以上の賛成を得て国会がこれを発議するということは、提案権を含めて、国民代表するところの、主権代表するところの国会議員がみずから憲法改正するという意思を決定し、さらに三分の二以上の意思を決定して、これを国民に提案ということを書いてあります。政府が法律を提案するときには、議会に提案をする。九十六条は、国民に提案すると書いてあるんですよ。つまり、国民に対する法案を作ることなんです。これは内部のことなんです。ですから、やはりすなおに読んで、この「三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、」ということは、国会みずから憲法改正の発案をし、みずからその意思を決定して信を国民に問うということに解釈しなければ、私は理屈が合わないと思う。この点はあなたはどうですか、法律的に解釈して下さい。
  156. 林修三

    ○林(修)政府委員 実は私ども解釈も、もっぱら文理を重んじて解釈しておるつもりでございます。ただいま田中委員が仰せられましたように、国会が三分の二以上の賛成をもって発議し、とございます。その総議員の三分の二以上の賛成を得て発議と、その発議の言葉を、いわゆる国会に議員が出すことに考えますと、その文理からいうと、三分の二以上の署名がなければ議案も出せないのじゃないかという考え方が出てきます。これがとることができないということは、今田中委員もお認めになったところだと思います。つまり、三分の二以上の賛成がなければ提案はできないという趣旨では、これはなかろうと思います。これは学説も大体もうみな認めておると思います。それで、そういたしますれば、この三分の二以上の賛成を得て国会がこれを発議しというのは、普通の国会法なりあるいは衆議院規則等で言っておる発議とは意味が違うので、これは国会が意思をきめて国民に向かって発議する、そして提案するる、こういう趣旨と読むほかはないのじゃないか。これはまあ御承知だと思いますが、佐藤功その他の学者連の文理解釈も、そういうふうに読むほかはないと言っておるわけでございまして、これはその文章から申しまして、国会が三分の二以上の賛成を得て発議しということは、まさに国会の意思のことを言っておるわけで、その前提として、国会が意思をきめるにあたっての、国会議員の提案のことまで含める趣旨とは、文理としてはどうしても読めない、私はかように考えます。
  157. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると、この憲法九十六条には、政府が提案できるということは書いてない。それでは、別の法律で政府に提案権があるということをきめるんだということをおっしゃるのですか、あなたは。
  158. 林修三

    ○林(修)政府委員 この憲法九十六条そのものは、いわゆる国会が発議するための議案、国会に出される議案を、だれが出すかということには私は直接触れておらない、かように考えるわけでございます。出された議案を国会が国会の発議として国民に提案するについては、特別多数が要る、単なる過半数ではいけない、こういうことを言っているのが、あの三分の二の多数賛成を得て云々規定趣旨であろう、かように考えられるわけであります。従いまして、その国会が審議すべき議案をだれが出すかということは、九十六条の直接触れるところではない、従って、それは憲法の他の規定から解釈すべきもので、議員がそういうものの提案権を持っておられることは、これはもう憲法全体の趣旨から、明文がなくても明らかだと思います。しかし政府につきましては、憲法七十二条に内閣の議案提出権のことがございまして、これが法律的に、特に憲法改正の議案を排除する趣旨ではなかろう、政治的な問題はこれは別でございますが、法律的に排除する趣旨ではなかろう、かように考えるわけでございます。
  159. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると今の説は、七十二条に議案ということが書いてあるから、議案の中から憲法の改正案を排除する意思ではなかろう。それではなぜ、内閣法の五条に法律案、条約、予算と書いて憲法のことをのけたのですか。
  160. 林修三

    ○林(修)政府委員 これはまあ、いつかも御説明したことがございますが、結局憲法改正ということはめったに起こることでもございません。非常に異例なことでございまして、それは法律案、予算のように毎年々々出る問題でもございません。従いまして、特にここにうたうことは適当ではない、かように考えた趣旨であろうと思います。
  161. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 憲法改正は異例なことである。これは憲法改正を口にするだけでも、この九十九条の憲法擁護のことに反するのではないかというぐらいに憲法を尊重しておるんですよ。それを異例なことならば、なおさら慎重に——しかも主権在民であって、国民が作った憲法である。よろしいか。帝国憲法は欽定憲法であって、勅命によって改正案を出した。憲法改正の議案は、天皇の勅命によって改正案が出されたことは御承知でしょう。天皇みずから、お作りになった欽定憲法である。天皇の勅命によって発案権がある。この憲法は国民がみずから作って、主権在民である。しかもこの憲法は重要なるものとして順守の義務から非常に重く用いてあるにもかかわらず、十ぱ一からげに七十二条によってこの議案のうちに入るのだ、しかも異例なことであるからこれについて特別な規定はしなかったというような議論は通りますか。  それじゃ、さらに私はもう一ぺん聞きましょう。憲法の九十八条、最高法規の規定ですね。「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅」云々「全部又は一部は、その効力を有しない。」という九十八条の憲法優位の規定、これは憲法改正の原案にはどうなっておりましたか。九十四条——これは九十八条の憲法、最高法規の規定でありますが、原案は九十四条におきまして、「この憲法並びにこれに基いて制定された法律及び条約は、国の最高法規とし、」こう書いてある。憲法及びこれによって制定されたところの法律、条約は憲法と並んだ最高法規であるということを、この九十四条の原案には書いてある。ところがこれが衆議院で修正された。あなた勉強して知っておるでしょう。衆議院でこれは修正されて、ただ一つ憲法のみを最高法規であって云々と変えたわけです。ここに憲法を尊重しなければならぬという基本的な思想と、九十九条によるところの憲法順守の規定が生まれてくるわけです。かくのごとく憲法を法律、条約と切り離して最高優位の、国家最高の法規であるというこの法規の改正にあたって、あなたはそれを議案と、法律案と切り離してその他の議案というようなことは、あなたがそういうことを言うなら、その思想そのものは憲法を冒涜するもはなはだしいですよ。一体この点についてどう考えますか。
  162. 林修三

    ○林(修)政府委員 決してそういう考えではございません。先ほどから私が申し上げておりますのは、かねて申し上げます通りに、憲法七十二条の解釈問題でございます。七十二条でそれは排除するものではない、従って内閣法五条もそれを排除する趣旨ではない、かように考えるわけでございます。従って、内閣法五条で排除されておらないとすれば、その他の議案に入る、かような考えでございます。
  163. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 それでは一つ伺っておく。これは総理大臣に伺っておきます。  それでは、憲法とその他の法律あるいはその他の条令といいますか、それを同等に見ますか。同等に見ておるのですか。あるいはまた憲法は特殊に高い国の基本法規であると考えられるのか、法律その他の命令などと同じに考えられるのか、その点を一つ伺っておきます。
  164. 池田勇人

    池田国務大臣 もちろん憲法は最高法規であると私は考えております。憲法の精神に違反する法律はあり得ないと思います。
  165. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 ですから私は、この最高法規であるところの憲法と、それから生まれてくるところの子供の法律、命令、条約とは、これは別に扱うべきものであるから、十ぱ一からげにして議案の中に、その他の議案という中に盛るべきものではない。これはあなた方あとで考えた問題なんです。  それでは法制局長官内閣に要求しておきますが、昭和二十九年に、一月三日の新聞に国会法改正要綱試案というものが発表されております。その中に、衆議院議院運営委員会の意見を中心として衆議院事務局の手でまとめられた議案があるでしょう。これはそこにお持ちですか。持ってなければ、審議がおくれると困るから、取り寄せておいて下さい。すぐ取り寄せて、私が質問する時間までにそれをやってもらわないと……。
  166. 林修三

    ○林(修)政府委員 大体知っております。
  167. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 その中に、憲法改正に関する議事手続規定というものを事務当局でこしらえまして、理由として、憲法改正の発議権は国会に専属しておるという理由に基づくものだということを、一応改正議案ができておるでしょう。それはあとで持ってきて下さい。それはあとで私は聞きます。あとでそれを聞いて、政府では憲法の改正案というものは、国会に専属するものだという考えのもとにこの議案ができておる。これはあなた見たらわかるから、あとでよろしい、あとでよろしいから……。
  168. 林修三

    ○林(修)政府委員 ただいまおっしゃいましたような案が衆議院の事務局で立案されたことは私も存じております。しかし、これはいわゆる衆議院の事務当局のお考えでございまして、政府の考えと必ずしも一致しておったわけではございません。その点、私どもがそう考えてあとで直したというものではございません。
  169. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 あなたは、私どもの説、中村君、木原君なんかの説をあたかも少数説のように取り扱っている。大多数は政府にも改正提案権があるのだというような解釈をなさっておる。私はそれは誤っておると思う。かりにも衆議院の事務局において、これはあらゆる学者の意見を聞いたと思いますけれども、一度はとにかく憲法改正は国会に専属の権利であるというふうな意見がまとめられておるのですから、その点一ぺん取り寄せてもらって、あとで聞きますけれども、私はこういう見地に立っておりますから……。幾多の矛盾と撞着が出てきます。たとえば政府から出した法律案、議案が最後の決議ができたときには、御承知通り法律によって公布を要するものについては内閣を通じて奏上する、その他のものについては内閣に送る。この憲法の改正案をもし両院で作ったら、あなたはどういう手続をとりますか。
  170. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは当然天皇が公布されることになるわけでございまして、従来の憲法と一体をなすものとして公布するという規定が九十六条にございますそれから天皇の国事行為の中に入っておるわけでございます。しかしそれについては、もちろんこれは議院の方から奏上があることと思いますが、現在の国会法には特別の規定はございません。従いまして、現在法律案の規定しかございませんが、憲法改正のことがあります場合には、おそらくこの特別の規定ができるものかと思うわけであります。そのほかの憲法改正についての法案について、まだ実は整備されてないものがたくさんあるわけでございまして、御承知のように投票に関する問題も、まだ法律はできておらないわけでございます。これもかつて一時政府内部で、選挙制度調査会で案が作られたこともございますが、これは国会には出されなかったような経緯でございます。  それから先ほど、衆議院が二十九年に作られました案について、内閣の法制局もそのときはその考えであったというような御質問もあったと思いますが、これは二十九年の国会において、私の前任者の佐藤達夫氏が私と同じ考えを述べております。
  171. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 あなたは憲法の改正案といいますか、この点についてちょっとあとでまた伺いますけれども、それをほかの法律案については、国会で審議決議をした跡始末の手続についてはちゃんと規定があります。それから憲法の改正案の審議の済んだあとについての手続は、憲法九十六条にちゃんと別に規定してあるじゃございませんか。これはほかの法案もしくは議案と別個のものであるから、九十六条に、憲法改正において前項の承認を得たときには、国民の承認を得たときには、天皇はみずから国民の名でこの憲法と一体をなすものとして直らに公布する。これは法律案や議案と取り扱いを別にしております。しかも憲法の条章にこれを書いてあるでしょう。十ぱ一からげの議案としてやるというならば、こういう丁重なことを書く必要はないじゃありませんか。これは一体なんですか、これは議案と一緒に扱っていいのですか。
  172. 林修三

    ○林(修)政府委員 九十六条二項のことは、先ほども実は御答弁したつもりでございますが、九十六条二項に天皇の公布の規定があるわけでございます。これはもちろん憲法改正が成立1いわゆる国会の議決を経、さらに国民投票を経て成立したあとの公布のやり方のことでございます。憲法改正の公布の権限が天皇にあることは、同時に七条にもあるわけでございます。九十六条二項にその手続が書いてある。ただ先ほど私がちょっと申し上げましたのは、あるいは国会から奏上があるのか、あるいはこれは国民投票を経ますから、国民投票の結果でございますから、今のいわゆる九十五条の特別法と同じような手続によって、別にそういうことがなくて、自治大臣あるいはそういう方面から国民投票が確定したというような通知をもって公布をするのか、その点の手続規定は今まだないということを先ほど申し上げただけでございまして、この九一六条二項の規定から、議案として別なものだとおっしゃる趣旨は、ちょっと私には了解できません。
  173. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 それではあなたの方はこの七十二条、内閣法の五条だけをたてにとってそう申しておるのですが、私の申したように憲法は最高法規だ、しかも法律と条約を切り離して、憲法改正案審議の過程においてそれほど丁重に憲法を扱っておる。しかも憲法順守の規定もある。しかもこまかいところには議案と違った取り扱いをするという幾多の憲法を尊重し、憲法の取り扱いを慎重にするという法意があらゆるところに出ておるにもかかわらず、あなたはこの七十二条と、それから生まれてきた内閣法五条によって簡単に手直しできるようなことを考えておるならば、法律論は別として、これは政治問題に、大きなことに展開していますから、私はここでその点を論議する。  それでもう一度お伺いしたいことは、憲法九十六条によって憲法の改正案が発議されるというときには、一体どういう議案になりますか。考えれば、憲法の改正案としてずばりとあなたの言う議案として出すことも考えられる。また憲法改正に関する国会の発議として議案にすることもできるのではないか。これは特殊の場合ですから、あなたの言う異例な場合ですから、私は普通の法律案と、議案と同じように取り扱っておるとは考えていない。ですから、憲法九十六条には、「三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、」としてありますから、国会が国民に対して憲法の改正案を提案する、すなわち提案ということは外部に出たときの客観的な考え方ですけれども、国会の内部においては発議するという意思を決定しなければならない。その場合に憲法改正案として、議案として、法律案として出すのか。憲法改正に関する発議を、国会の中において三分の二以上できめるのか。憲法の改正案をむろんつけて——発議だけではありません、つげてどうなるのか。この九十六条からの解釈ですね、ほかのことを交えずに、この規定をすなおに解釈して、一体議案はどうなるのですか。
  174. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは憲法九十六条の規定からのみ、直ちに一つの答えが出てくるというものではないと私は思います。ただいまちょっとおっしゃいましたが、私も憲法改正の議案が法律案でないことは言うまでもございません。憲法改正——憲法の一部を次のように改めるというような形のものであろうと思います。しかしそれも、前提としていわゆる憲法の一部を改正する、何と申しますか案とするか、あるいは憲法改正を国民に発議する件というような形にするか、これは私は形式はいろいろ研究の余地もあり、また一通りにきまったものではなかろう、かように考えるわけでございます。
  175. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 もし憲法改正に関する発議として、改正案の内容をつけて出すならば、これは国会に専属することは明らかですね。憲法を改正しようという政治的動機は、あるいはほかのものもできるかもしれない。法的に国会自身が憲法を改正するという意思を決定するための提案、それはほかの案もいろいろと手に入れて政治的には動機があるかもしれないけれども、国会の内部において憲法を改正するという意思を決定しようとするときに、みずから国会がいろいろなことを参考にして改正案をつけて、憲法改正をする発議を国民にやって、提案をすべきであるかどうかということを国会に聞くのであって、これは内部のことであって、外からこういうふうに改正すべきものであると、持ってこらるべき問題ではないと私は考える。国会自身の問題だと考える。しかも、これは国民に提案権はないわけでしょう。国民自身が憲法を改正する権利があり、そして主権在民のわが国の憲法のもとにおいて、国民すら憲法改正案を提出する権利がないのですよ。   〔重政委員長代理退席、委員長着   席〕 聞くところによると、スイスは五万人の国民の署名を求めれば、国会に対して憲法改正の提案をすることができるように聞いております。しかしわが国の憲法のもとにおいては、主権者たる国民がみずから憲法改正を提案する権利がないのに、横から、議案の提案権があるからといって、この憲法の改正案を出すことができると、なおあなたはその説を固持しますか。
  176. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは先ほどからも申し上げておりますが、いわゆる九十六条一項でいう、国会が国民に発議し、というのは、国会の意思がきまって国民に発議するわけです。その国会の意思をきめるについての議案、これについてはやはり一般の国会の運営手続によって行なわれるものと私は思います。それで、たとえば法律案につきましても、憲法は、国会は唯一の立法機関であるといっておるわけです。従いまして法律の制定は、これは国会の専属の権限でございます。しかし国会が法律を制定されるにつきましての議案は、議員がお出しになれること、これはあたりまえでございますが、同時に内閣も出せる、かように従来解釈されておるわけでございます。私は、それと特段に区別すべき理由は、憲法九十六条の規定からは出てこないと思います。  それから国民一般にいわゆるイニシアチブの権限はないこと、これはもう憲法に規定がなければ、もちろんこういうことはできません。
  177. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 これは先般の質疑の中におきましても、法律論と政治論はまた別だというふうに総理大臣はお考えになっておるようでありますが、こういう非常に大きな疑惑といいますか、議論が分かれておる。私は、自分の主張しておる方が、これは多数の議論だと思います。一般国民にすれば、やはり日本の憲法というものは政府には提案権がない、これは国会の自主的意思にまかせるべきものであるというふうに私は確信をいたしておる。その際に、政府が横やり的にこういう改正案を出してきた場合に、国論というものはおそらく沸騰しますよ、内容に入る前に。しかも日本には憲法裁判所がない。憲法裁判所がありませんから、憲法改正の手続について訴訟の起こるようなことはないかもしれませんけれども、しかし、憲法改正によって個人の権利が侵害されるような場合には、それが原因になって、憲法の改正の手続についても批判しなければならぬような事態が起こるかもしれません。ですから憲法改正の手続をめぐって波乱の起こることは、これは当然です。ですからこの点は、林法制局長官の考えをそのまま総理大臣もうのみにするとは私も思いません。法制局長官の考えが直ちに総理の考えとは思いませんけれども、この点についてはどうですか、総理大臣、憲法改正の案を出すときには、やはりあなたは、国会の中からこれを出すのでなくして、これは政府から提案するのだというふうにお考えになっておりますか。
  178. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、私なりにこの問題につきまして検討いたしました。反対論も二通りございますが、京都学派のような反対論も私見ました。そうして結論は先ほど申した通りでございます。  それから政治論と憲法論、これは別に考える必要があると思います。私はその手続いかんにかかわらず、ただいまのところ憲法を改正しようという気持はまだ持っておりませんから、今後十分、こういう政治論は別にして、法律論も戦わすべき筋合いのものだと思います。現にけさも、私らの言葉でNHKでは、ある青年がこの問題についてやっておりました。いろいろ議論がございましょう。議論はございましょうが、私の考えでは、今の憲法は、法律的に政府の提案権を否定しておるものではないと私は考えております。しかしこの問題は、十分に今後も議論しましょう。問題は、政府に提出権があるからといって政府はやるかとおっしゃれば、私は、それは政治論で別に考えなければならぬ問題と思います。
  179. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 先ほどの衆議院の事務局の試案、そこへあなた持っていますか。林長官、だれか持っていませんか。  それではこれは昭和二十九年の一月の三日に各新聞に発表された案ですが、すでにこの国会法の改正要綱案の中に、憲法改正の手続の規定を置いて、これは一条から数条できております。第一条にはどういうことが書いてあるかというと、憲法改正の議案は、いずれかの議院の三分の一以上の議員が連名で発議することを要する、憲法改正の議案を発議するときは、国民の承認を求めるために特別の国民投票に付するか、またはいかなる選挙の際にこれを投票するかを明らかにしなければならない、これが憲法改正に関する議事手続の規定です。この当時はおそらく憲法改正に対する意欲が、今の池田総理よりももっと進んでおったのじゃないかと思う、憲法改正の手続の規定を書くくらいですから。これすら、あるいは憲法違反であるかないかということは、論議になったと思います。こういうことにした理由はどうか。すなわち、憲法改正の議案の発議を議院のみに限定して、その三分の一以上の議員の連名を要すると書いてある、政府にはこれを認めるような思想はない。その理由に、本条は憲法改正の発議権は国会に専属して、内閣はこれを有しないものとの前提に立っている、しかしこれには異論もあると、こう言って、むしろあなたの言うのとは反対に、国会に改正の発議権があるのであって、政府にもあるということは少数意見だということをここに書いてある。これは衆議院の事務局から出てきたものだと言いますが、当時は内閣法制局長官は佐藤さん、あなたは当時次長くらいですか、これは衆議院は四日ごろ鈴木事務次長が佐藤内閣法制局長官と会って政府側の意見を聞き、各政党もそれぞれこれをもととして、二月初めごろ国会法改正についての党議をきめて云々と、かなり作業が進んでおったように、この新聞の報道では見えます。あなたはこれは衆議院の事務局だと言いますが、何かこのときにあなた方の方の意見があったですか、なかったですか。
  180. 林修三

    ○林(修)政府委員 当時衆議院の事務当局で、そういう案を準備されておったことは私も存じております。衆議院の事務局の御意見が今あったようなことであることも、私は承知いたしております。しかし、当時私ども内閣の法制局としては、それに対して憲法的には異論を持っていたことも、これは事実でございます。二十九年の何月でございましたか、あの国会で当時の佐藤法制局長官委員質問に対して、内閣の提案権も否定すべきものではないという答弁はいたしております。
  181. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうしますと、衆議院の事務局と内閣の法制局との間に意見の相違が相当あるわけです。学者がただこれを論議するのならともかく、政府の法規の解釈をつかさどるところの内部においてそういう意見の対立があり、ことにわれわれのいう国会に専属するということは、多数の意見であるというような解釈のもとに言うておるのですから、もしこれを、今総理大臣、あなた方の考えておるように、内閣にも提案権、発議権があるというようなことで押し切るようなことがありましたならば、これは非常な議論の沸騰になる。総理は今憲法を改正する意思がないと言うのですから、少し論議は早いかもしれません。早いかもしれませんけれども、憲法改正の手続を軽視するというこの考え方が、憲法の改正を軽く口にするようなことになるのであって、田中発言なんかもそういうところから起こってくるわけです。与党が多数さえ得ておれば、いつでも憲法改正できるのだという軽い考えであったのでは、憲法を尊重するという憲法の規定にも反するわけであるし、広い意味での国民の憲法順守の義務にも、私は違反するのではないかと思いますが、この点は論議が二つに分かれておって、どう結着するということは、私はここではつけませんけれども、私どもはこの説は曲げません。ですから、実際にこの問題をやるというときにはよほど慎重にしてなさらぬと、今のような政府、国会の中の事務局の意見もあるのですから、この点を総理にも要求すると同時に、私は一般の者にもこの点を強く希望いたしまして、慎重にすべきであるということを申し上げたいと思います。  それから、私は日韓問題、特にわが国の在韓財産に対する請求権について一、二御質問を申し上げたいと思います。  今論議されておる問題は、韓国の在日財産に対する請求権が論議されておる。伝えられておるところの内容によりますと七項目か八項目ぐらいありまして、それらの中には韓国の人民に対する、日本の政策のもとに虐待といいますか、いじめられた精神的損害も含めてやるというようなこともあるようであります。私は、その問題はそれとしておきまして、日本人が韓国に置いてきた財産については、一体どう処置をするのであるか。日韓合併以来、故国を離れて韓国に渡って、非常な努力をしてしし営々としてたくわえた財産、それらの中にはやはり精神的なものも多分に含まれておると私は思うのでありまして、私は、韓国におりました日本の同胞のことに思いをはせまして、この点を御質問申し上げたいと思うのであります。  そこで、一時伝えられたところによりますと、韓国におけるわが国の財産は相当な額に達しておったと聞いております。先般の委員会におきましては、内容がはっきりわかっていないということでありますが、これは、日本国民の在韓財産請求権の額がわかっていないのでありますか、どうですか、その点を一つ……。
  182. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 日本においてどのくらいの財産を朝鮮に有していたかということについての記録というものは、ないわけではないのでございますけれども、その後御承知のように、南北両方に分けられておる関係もございまして、これをどういうふうに見るかということについては、われわれとしては今交渉中のことでもございますし、特に申し上げることを差し控えておる状況でございます。
  183. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 これは、私は、日本国民の韓国における財産ですから、政府はもう少し親切に、これに対する調査の具体的な方法を進めておってよかったのではないか。われわれ聞くところによると私有財産、いわゆる日韓合併後における日本人の朝鮮に居住しておってたくわえたところの私有財産、土地、家屋、動産、地上権、留置権、それから一切の有価証券を含めて、個人財産は七十億ドル、法人財産は三百五十四億ドル、合計四百二十四億ドルというような莫大なものがあるとわれわれは聞いておる。この財産、この額があったにしろなかったにしろ、少なくとも、日韓合併以後における、日本人が朝鮮に渡って事業をし、財産をたくわえておったことは事実です。その後日本の国の戦争行為によってこれが失われている。韓国の財産は韓国で請求するのは当然でありますけれども日本の財産が幾らあったかということが少しもわからぬようでは、政府国民に対する思いやりといいますか——もっと事務的にいえばこれは政府のやるべき事務です。これをこのままにしておいて、今少しもわからぬというようなことでは、まことにもって、私は、国民とともに政府のやり方を悲しみます。  そこで、この財産は昭和三十二年十二月三十一日の韓国との共同発表によりまして、請求権主張を撤回することを通告した。すなわち放棄をしたということになっております。これに対するいきさつは、先般外務大臣アメリカ平和条約解釈等も加えて言っておりましたからよくわかるのですが、この債権は一体韓国に対して請求しないといって確実に放棄したものなんですか、どうなんですか。
  184. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 いわゆるアメリカ解釈によって、日本が、軍令三十三号によってアメリカ軍当局が処理し、韓国に引き渡されたものについてこれを放棄する、しかしこの放棄されているということを考慮するという関連においてこの問題を処理する、こういうふうになっております。そのことを頭に入れてこの問題を解決する、こういうことでございます。実はどのくらいのものがあって、それがどういうふうに渡されたかということについては、これは米側しか、どのくらい渡されたかということはわからないわけでありまして、その点につきましては、アメリカ側にその資料を出すように要求しております。これが事務的には行なわれておりますけれども、先ほど申し上げましたような事情で、この際公表することは差し控えようということでございます。ただ韓国の方は、当初請求権というものが、何か賠償の性格のもののような言い回しをしておったのでございますが、最近は池田総理と朴議長との会談によりまして、法律的な根拠のあるもの、こういうことに先方は理解し、その点合意しておるわけであります。しからば何が法律的な根拠のあるものかということになってだんだん詰まって参りますと、いわゆる韓国として言っている八項目の中で、八項目のうち七項目、八項目というものは果実や支払い方法の問題でございます。あとの六項目の内容については、われわれの方では根拠がないと思われるものは逐一弁駁しております。この点については非常に問題の範囲が狭まってきているというふうに理解するのでございます。
  185. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 私は、在日韓国の財産のことに触れるよりも、在韓の日本人の請求権のことを聞いておるのです。そこでこの金額はわからぬというのですけれども、韓国に対する日本人の請求権というものは、アメリカの例の軍令三十三号によって没収された。日本は大体それを認めて、そして三十二年の十二月三十一日の声明によって放棄した。しかしこの件は、例の久保田氏の主張によって、今まで韓国に対して主張し続けられてきたことなんでしょう。この久保田発育も入れてこの請求権を放棄したのか。一体日本政府は、日本の個人の請求権を外国に対して放棄することができるのですかどうですか。その点をちょっとお聞きしたい。
  186. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 平和条約の十四条によりまして、外国にありましたものは放棄いたしております。十九条によりまして、戦争後に生じたいろいろの請求権、これも放棄しております。ただ韓国のような、従来日本領土であったものに対しての請求権をどうするか、こういうことで、これは第四条において放棄しているわけでございます。しかし、これは私有財産を含まぬのではないか、こういう議論をずっと展開してきたわけでございますが、これは今お話のように、三十二年の十二月三十一日のアメリカ解釈によって、これまた請求しない、こういうことにいたしましたわけで、日本政府としましては、この請求権をすでに放棄しておるわけでございます。
  187. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 私はそう簡単に日本人の在韓請求権を放棄するということはできないと思う。またアメリカがあの条項を楯にとって、かりに没収を主張してきても、陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約第四十六条によって、私有財産というものは保護されなければならぬという大鉄則がある。戦争のあおりを食って私有財産がめちゃくちゃになってしまって、それが請求できないというようなことに対しては、世界のこの法規によって私有財権は守られておるわけです。ですからベルサイユ条約の二百九十七条により、またイタリアの平和条約によりましては、第七十四条、九十七条によって、政府国民に対する請求権の放棄による損得の補償をするという条項を特に入れてある。国家の請求権と国民権利とは別でありまするし、今の陸戦ノ法規慣例二関スル条約によっても、私有財産は、名誉、権利、宗教の信仰、その他一切を含めてこれは没収をしてはならないという規定があるのですから、このベルサイユ条約もしくはイタリアの平和条約においては、放棄はするが国民に対しては補償してやるぞという、こういう規定をしてある。ところが、日本平和条約によっても何らこの点に思いをいたさずして放棄してあるのですね。これはこれでいいのですか。私は政府が何といおうとも、この私有財産保護に関する規則があってもなくても、政府にかかわりなく請求してもいいのではないかというふうに考える。あなたはこの日韓共同声明によって久保田発言を引っ込めて、そうして請求権を放棄したというが、それで日本国民の在韓請求権が消滅したと考えておられますかどうですか。
  188. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは平和条約の四条(b)項で、軍の処理の効力を承認しているわけでございますので、韓国におけるアメリカ軍の日本の財産没収、そうして韓国への引き渡しということは、条約上は日本は承認しておるわけであります。そこでその個人財産に及ぶ問題がどうかということで、いろいろ主張いたしましたけれども昭和三十二年に、これもその中に含まれるということを了解しているわけでございます。政府としてこういうものを要求するということは、これは法律上はできないことになっております。しからば個人が個々においてどうするか、こういうことは、これは日本の法律の解釈の問題でございますので、条約局長からお答えいたします。
  189. 中川融

    中川政府委員 従来の戦時国際法におきまして、占領軍が個人の私有財産を没収できないということは、御指摘通りヘ−グの陸戦法規に書いてある原則でございます。しかしながら、今次戦争の結果といたしましては、実は相当その原則が破られておるのでございまして、これは日本の場合ばかりでなくて、ドイツの場合でも同様でございます。なおイタリアの平和条約を今御指摘になりましたが、これにおきましても、国内補償の点はなるほど書いてはございますが、その人自体の財産は外地においてやはり没収されておるのでございます。いわゆる私有財産尊重の原則というものは、今次大戦の結果としては実は相当逸脱して処理されておる。こういうことは遺憾ではございますが、事実であるわけでございます。対日平和条約第十四条において在外資産、第十六条において中立国における日本財産あるいは第十九条におきまして日本の国内におけるいろいろ私有財産に対する占領軍なり連合軍の措置、こういうものを日本は認めておるのでございまして、その結果として、国の請求権ばかりでなくて、国民個人の方の請求権、財産権というものも、これで日本権利を放棄しておる、かような結果になっておるのでございます。そういう目にあった方々に対して国内的に補償すべきじゃないかという御意見、これはもちろん平和条約とは別にあり得るわけでございまして、これは終戦処理の一環として相当むずかしい、また困難な問題であったわけでございますが、御承知のように政府といたしましては、やはりその他の戦災者、いわゆる爆撃を受けた方々、家が焼けた方々、その他の戦災者の処理と一環をなすべきであるという見地から、一定額の見舞金を出す形で結局処理されたことは、御承知通りでございます。韓国における財産権も、やはり政府としては同様の考えでおるわけでございます。
  190. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 私のお聞きしたいことは、政府も従来この請求権については、韓国に請求してきたわけであります。いわゆる久保田発言によっても明らかな通り、してきたわけでありますが、その権利国民の意思に関係なく政府が外国との交渉によってこれを認めて、放棄をしてしまった。もし放棄をしないで——まあ数十億になるか、韓国の日本に対する財産請求権よりもおそらく数倍になることは明らかだと私は思うのでありますが、もしそれを放棄しないで、日本になおかつ在韓財産に対する請求権がありとする主張を継続していきますならば、日韓交渉の過程において、私はもう少し強くこちらの債権はどうだということも主張をいたして、日韓の財産権問題については日本に有利に展開できるのではないかと思うし、また国民に対してもそれだけの主張をして、なおかつ最後的にこうだということを言うならば、あるいはあきらめる人もあるかもしれぬ。しかるにこの三十二年の日韓声明によってたやすくこれを放棄して、請求しないという態度をとったということについては、私は国民とともに非常な不満であります。この点をどういうふうにお考えになりますか。
  191. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほど申し上げましたように、この請求権の問題は、だんだん先方も事情がわかって参りまして、現在八項目中われわれとしても問題にする、またせねばならぬと考えておりますものは、韓国人において郵便貯金を持っておった者、あるいは国債を持っておった者、あるいは徴用されておってまだ賃金が未払いである、こういう者は、これは請求権を向こうが持っていいと思うのであります。しかしその他の者については、これはまだ交渉の過程でございまするけれども、私どもはそういった膨大な財産請求権、こういうものはわれわれの交渉の際において、それほど——それによってそれを対象として解決するときは、これはなかなか問題がむずかしくなるということは、両国側においても了解してきておるのではないか、かように考えております。
  192. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると今の請求権の中には、明らかなものは放棄してない、そうすると放棄したものと放棄しないものとあるという意味ですか、幾らか残っておるという意味ですか。この共同声明によると一般的に、包括的に韓国に対する請求権はこれを撤回する、こう書いてあります。どうですか。
  193. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 当方は撤回をいたしております。しかし先方の、韓国側の日本に対する請求権というものは、今私が申し上げたようなことになるのではないか、こういうことでございます。
  194. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると、三十二年の十二月三十一日付の日本と韓国代表代表との間に合意された議事録のうち請求権に関する部分、こういう協定ですかができておりますが、その最後の方に、「さらに本大臣はこのアメリカ合衆国の表明が財産請求権の相互放棄を意味するものではないと了解する。」とありますが、これは相互放棄ではない、日本だけが放棄したのだということですか。これは韓国も了解事項だとなっておりますが、その意味はどうでしょうか。
  195. 中川融

    中川政府委員 その共同声明に載っております言葉の相互放棄とは解釈しないという意味は、軍令三十三号によって、在韓日本財産はこれは全部なくなったわけでございます。そうしてなくなったということは、韓国側の日本に対する請求権を今後日韓間で相談する際に考えに入れなければいかぬ、考慮に入れなければいかぬ、具体的にそれをどの程度考慮に入れるかということは、資料も不足であるから日韓間で相談してきめてもらいたいというのがアメリカ解釈でございます。そのアメリカ解釈を日韓双方で採用したわけであります。今後はそのアメリカ解釈によって交渉をやろうということになったわけでございますが、そのアメリカ解釈によりましても、日本の財産はなるほどなくなっておる。そうしてその事実は、韓国側の請求権を考える際に考慮に入れる、具体的にどの程度それで満足されたかは自分らには今結論は出せない、こういうことを育っておるわけでございまして、何か韓国側の請求権としてある程度のものは残るのじゃないかということが、大体そのアメリカ解釈から読みとれるわけでありますが、この点を特に明らかにする意味で、これは相互放棄、お互いに自分のものは全部これでなくしてしまう、こういう意味ではない。日本のはなくなっておるのでございますから、従ってその意味は、韓国側の請求権は少なくとも多少は残る、こういう解釈であるということを、そこで明らかにしておるわけでございます。
  196. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 まことに不明瞭ですが、そうすると日本の請求権は放棄した、韓国の方も全部放棄したのではないが、幾らか手かげんするという意味ですか。これはもう一ぺんはっきりとこの解釈をお答え願いたい。
  197. 中川融

    中川政府委員 例をとってみますと、韓国側の請求権、もし正確に勘定すれば、たとえば十あると仮定いたしましても、日本の請求権、日本の財産の方が全部放棄しておりますから、それをある程度考慮に入れる。この考慮の仕方は日韓間できめろ。しかも韓国側も、これでとにかく自分の方の十も全部なくしたのだ、こういう意味にこのアメリカ解釈解釈すべきではないのだ、こういうことを言っておるわけであります。
  198. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 何だか解釈すべきではないかということで、解釈が一定していないように私は考える、そこでそういう考え方は、なんですか外務大臣、あなたがしばしばこの委員会で、ほかの委員会でもそうですが、外務委員会でも、相殺思想ということを申されております。相殺思想という言葉まで記録の上に載っておる。相殺というと差引思想ですね。私どもは、私も弁護士ですが、相殺するということは明らかに誓うなら、ドンブリ勘定で幾らだからこうだということでなくて、国際的なあれですから、きちっと日本の在韓請求権は幾らある、韓国の日本に対する請求権は幾らあるときめて、そうして対等額を相当に接近させて、これとこれとは差引ということでやるのが、当然のことなんです。しかし今の話によりますと金額もはっきりきまっていない、放棄も全部したようなしないようなやり方で、つまり根拠のない請求権の上に立って、そしてまあ日本の末端で請求しないのだから、こういうふうにしてやろうというような大まかなドンブリ勘定ですが、財産勘定ということでやっていいのですか。私は今の日本人の在韓請求権を請求するというのは、おそらく韓国に置いてきた郵便貯金だとか、あるいは財産の所有権の権利書とかいうものを持っておる人もあると思う。政府で調べないから財産の額は幾らあるということはわからないのであって、個人として後生大事に持っている人も私はなきにしもあらずと思う。そういうときにあたって、日本の請求権もあったのだから、幾らか考慮してこの問題を折衝しようといったときに、一体どの部分が日本国民の在韓請求権として戻ってくるのですか。国と国との間の交渉はそれでいいかもしれません。いいかげんなところで妥協して、妥結すればいいかもしれませんけれども、その内容になるところの権利というものは、日本国民の個々に持っておるところの請求権でございますから、そういうものについてまあ妥結をした、差引勘定で幾らか、こういったところで一体どういうことになるのですか。それはあなた方は国と国との間の妥結のことばかり考えて、内容についてはちっとも触れてないから問題が起こるわけですよ。それは、あなたの言う相殺思想によるところの請求権の妥結交渉ということはどういうことになりますか。
  199. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 平和条約の第四条(a)項で韓国に何がしかの請求権を払うような形になっておるわけでございます。そこで、その問題についてのいろいろな経緯があって、アメリカ解釈というものが出て、今条約局長が御答弁申し上げましたような、そういう考え方交渉をやっておるわけでございます。そこで、国と国との関係で考えますれば、国としてその問題を解決するときには、個人の請求権というものは、全部でどのくらいあるかということも、もとより頭に入れるわけでございますが、そのうちどのくらいが考慮されるかということは、これは交渉の過程において考えらるべきものでございまして、そういう見地からいたしまして、われわれも、できるだけこちらの主張というものは、調べられるものは調べて先方に当たるわけでございます。ところが、向こうの持っておりまする請求権というものも、これまた、なかなかはっきりしないのでございます。たとえば、厳密に言うて、証拠書類のある請求権ということになりますると、たとえば腕をなくしたという人は、日本政府に対して補償を要求する、こういうことが請求権である、こう仮定いたしまして、そのけがは一体いつしたのか、これは自分が事故でこの十六年の間になったのか、あるいは南北の朝鮮戦争の際に、そういう事故が起きたのか、あるいは言うがごとくに、第二次世界大戦中に日本政府の行為によって、そういう外傷が起きたのか、その辺がなかなかわかりにくい。そういう点がたくさんあるわけでございまして、なかなかこの問題はむずかしいと言わざるを得ないのであります。
  200. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 私は、やはり先ほど申しましたように、久保田氏の発言を撤回しないで、アメリカがどうあろうとも、一応日本の請求権の主張はこうであるということをはっきりしておいた上に立って、放棄は最後にできるのですから、妥結をするときに、そうか、それではそういうことにしようということもできるのですから、韓国との間に妥結もしない前に、韓国は請求権を放棄しないで請求するが、日本だけは一方的に、それじゃやめておきましょうと、こういう外交交渉ですか、外交発言をなさったということは、これは私は非常に不利になると思う。あなたはやはりそのことを多少頭に置いて、二月五日の予算委員会でも、「アメリカ解釈というのはそれを考慮に入れておる、こういうことでございます。いわゆる相殺思想そのものではない。しかし一種の相殺思想といいますか、」こう言って、何だかわけのわからぬ、相殺する根拠もないのに、相手が幾らか手かげんをしてくれるだろうというような甘いことをもって、日本の在韓請求権を処理するというようなことは、これは私は期待できない、むしろ誤っておったのではないかということを考えます。ですからそういうことに対しては、国内の在韓請求権者が、このままではじっとしておらぬということを、ここに警告を与えておきたいと存ずるのであります。  それから竹島の問題でありますが、竹島問題は、かつてこの国会でもしばしば問題になりました。この問題は、かつては国際司法裁判所へ提起すべきではないかという論議が起こったのでありますけれども、御承知のように、韓国の同意がなければできないことでありますから、それが懸案となって今日に至ったわけでありますが、これは一度は一九五四年、昭和二十九年に、口上書をもって韓国に、竹島問題を国際司法裁判所へ提出することについての同意を求めたところが、十月の二十九日に拒否の意思表示があった、こういう結果になっておるようです。それから先般の委員会におきましても、また国際司法裁判所へ提起するような意味の御発言がありましたが、これについては、何かそういうことについての手順を政府で進めておるのかいないのか、ちょっとお伺いしたい。
  201. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 田中さん御承知のように、国際司法裁判所へ提起します場合、相手方が応訴しませんと、これは取り上げてくれません。そこで日韓交渉を進めまして、双方の間に十分友好的な雰囲気ができたところで相手方の応訴を求めて、その応訴の見通しがついたら、国際司法裁判所において適正な判断を下してもらうというのが最も適切ではないか、こう考えておるのであります。
  202. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると、具体的に交渉を始めたんですか、これから始めるというところなんですか。もし始めて、前のように向こうの同意を得られなかったら、一体竹島問題は暗礁に乗り上げたままになるのか、どういうことになりますか。
  203. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この問題については、わが方の主張と先方の主張が平行線をたどっておりますので、第三者の国際司法裁判所がよかろう、こう考えざるを得ないわけでございます。しかし、今この問題の正常な解決を妨げておりますのは、日韓間に友好的な状況がないということでございますので、交渉がかりに妥結をしましたら、そのときには、当然これは国際司法裁判所に出ずということの了承を得られるものであろう、常識上そういうふうに韓国側も出るべきものであろう、こう考えておるのであります。現状では、こちらが提訴しましても、韓国はなかなか応訴するというふうには考えられないわけであります。
  204. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 これは、昭和二十九年に求めたその前からの問題で、約十年以上も、この問題が、相手が悪いにしろ、とにかく政府の力がないという印象を国民に与えておるわけであります。そこで、この竹島問題解決の唯一の血路は、国際司法裁判所へ提訴するだけに残されておるのですか。そのほかに名案はありませんか。
  205. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御承知のように、季ラインというものができて、その中へ竹島は入っておるということで、先方は特にこの主張を強くしていると思われる点もございますわけですから、日韓交渉が妥結しまして李ラインというものが撤廃され、漁業協定ができるという段階になりますれば、先方もわが方の主張を受け入れやすい状態になるわけでございます。しかも、先ほど申し上げたような友好的な雰囲気をかもし出したあとにおいて、これを先方に納得せしめて国際司法裁判所においての判決を受ける、こういうふうにするのが最もよろしくはないか、かように思っている次第であります。
  206. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 もしそういうことでずるずると延びているということでありましたなら、もう一つ、解決の道として、国際連合憲章の第六章に基づく「紛争の平和的解決」という三十三条の第一項の適用によって、国連へ持ち出していけたんじゃないか。これはどういうお考えですか。これは読むまでもないと思いますが、「いかなる紛争でもその継続が国際の平和及び安全の維持を危くする虞のあるものについては、その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない。」、それから、三十五条にもこれに引き続いての規定があって、その道が、私は、やりようによってはあるのではないかと思う。政府はなぜこういうことをやらなかったのか、あるいはできないという解釈なんですか、一つ承りたい。
  207. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その憲章上の解釈は、紛争が現実に起き、あるいは起きる可能性が強くて、それが国際的な紛争の原因になるというおそれがあるときという解釈を一般にしておりますので、その点から見ますと、竹島問題というのは、それほど国連の条章に当てはまるというふうにも理解されにくいということが一点と、もう一つは、韓国がまだ国連加盟しておりませんので、構成国の間の紛争という場合とちょっと違う趣もございますので、私どもは、今考えている方針が一番よろしくはないか、国連に提訴してみても、事態が特別に進捗するというふうには考えられないというのが、国連に提訴しておらない基礎であります。
  208. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 政府の責任観念の問題でありますけれども、なるべくたやすい道を選んで、結論はどうでもいいというような政治のとり方では、私はちょっと納得できない。やはり、問題の解決については、政府みずから熱意を持ってその道を切り開いていくということでなければ、国民に対する責任を果たすことができないと思うのです。私は、今後とも、この問題の解決については、日韓問題の交渉とあわせて、政府に強くこの点を要望いたしておきます。  それから、委員長、あまり時間をとりません、私も審議終了まで協力いたしますが、もう少し時間がありますので……。  前の国会におきまして災害基本法というものができて、いろいろとこれも批判の多い法律でありましたけれども、大体が、事前に災害を防止するということではなくして、災害のあったときには一体どうしてこれを救助するかという事後の施策に重点が置いてあったように私は思う。私は常に災害のあるごとに言っておるのでありますが、台風常襲地帯における災害の防除に関する特別措置法というのが三十三年に制定されました。これは法律が改正になって経済企画庁の事務管掌にもなっておるわけです。そして、その法律によりますと、向こう五カ年の間に、台風常襲地帯、全国で大体十七県指定されておりますが、いわゆる台風銀座、台風常襲地帯に対する災害防除に関する計画を立てて、そうしてそれに対する対策を具体的に進める、もし五カ年でできないときには、なお五カ年継続してこれをやるという法律です。私どもは、台風のあるごとに、なぜ一体これに対する対策を立てていないのか、不審に思う。そこで、お伺いいたしますが、この法律ができてから以後、この法律によって認められておるところの審議会の活動は一体どういうふうであるのか、あるいは、全国の五カ年計画の調査が一体どういうふうになっておるか、それをお伺いしたいと思います。
  209. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 三十二年の四月に法律が制定されまして、その以後の審議会の活動等についての御質問でございますが、三十三年度中に、台風常襲地帯の指定、それから災害防除事業の指定というものについての審議をいたしました。なお、災害防除事業五カ年計画につきましては主務省において立案するように努力していくということで進めて参ったわけでございまして、三十四年におきましても、その方針を迫って、そうして審議会におきましても常襲地帯の追加指定その他を行なって参ったわけでございます。ところが、御承知のように、その後伊勢湾台風なりあるいは伊豆の風水害なりが起こりまして、その方に非常に問題が多かったものでございますから、従いまして、若干その活動が鈍って、その方の当面の対策にのみ重点が置かれたというきらいはございます。その後各省におきまして防災事業につきまして十分な検討をいたしておるわけでございますが、御承知通り、治山治水十カ年計画が策定されまして、従いまして、その面から、審議会におきましても、三十六年の三月に、建設省及び農林省は災害防除事業のうちから治山治水に関する事業について五カ年計画を策定して、そうして進めていくということにいたしておったわけでございます。同時に、治山治水以外の海岸地帯の問題がございますので、それもあわせて計画を進めて参らなければならぬということになっておりましたけれども、まだ十分な成案ができませんことは遺憾でございまして、今後十分努力をして参るつもりでございます。
  210. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 十分な調査事務が進行しておるというのじゃなくして、私の聞くところによると、何らこれが具体策も立てられておらぬ。五カ年計画はもう来年度で終わりですね。三十三年からの五カ年計画ということで、一期の五カ年がもう来るのに、何ら具体的に立てられておらぬ。政府は、法律を幾ら作っても、その法律を実施していかないなら、これは飾りもので何にもならないわけです。ことに、台風常襲地帯というのは、一年に二度も三度も台風の襲撃を受けて困るのですから、政府は、ただ跡始末だけでなしに、そういう地帯を台風から守るということのために、この五カ年計画を、今からでもいい、あとまだ五年あるのですから、やってもらって、ただ災害の復旧だけでなしに、予防ということに重点を置いてやっていただきたい。もし今までに三十三年以来の計画があるなら、これは委員長に要望いたしておきますが、台風常襲地帯における防除の五カ年計画というものを立てた実績があるならば、それをここに出していただきたい。
  211. 山村新治郎

    山村委員長 さよう取り計らいます。
  212. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 私はいつも考えるのですが、政府は必ずしも無策ではないのです。そういうりっぱな法律を立てておるのですから、無策ではない。りっぱな法律を立てておるなら、私は無策とは言わない。無為策だ、しないんだということ。私はいつもそう思う。策はあるんだけれども、なさないんだということですね。ですから、この台風常襲地帯にからんで、この前の伊勢湾台風のときでも、あすこを直せばよかったという所が台風のために決壊をして、そのために人畜に非常な災害を与えておる。これは天災であって人災でない、いつもこう言うけれども、しかし、直せば防御できるものを、なさないでほうっておくということは、——最近法務省で刑法改正を考えておるそうですが、不作為によって犯罪、親が子供に乳を与えなければならぬのに、ことさらに乳を与えなかった、乳を与える行為をしないために子供が死んだら、これは不作為による殺人だというようなことを考えておるそうですけれども政府がやることをやらないでほうっておいたがために災害ができて、幾多の被害者ができたというときには、私は、具体的には、その責任は、政治的責任でない、刑事的責任でも負わなければならぬ場合ができるのではないかと思うので、かつて私はこれを質問したことがあるのですが、一体どうですか、法務大臣。あなたに法律のことを聞いてもどうかと思いますが、だれか来ていますか。来ておるなら、危険な場所を防止しないがために、それによって被害を生じたということに対する責任は、やはり国家が国家賠償法によって責任を負わなければならぬと私は考えるが、どういうように考えますか。法務大臣にはちょっとむずかしいかもわからぬから、法制局でもよろしい。
  213. 林修三

    ○林(修)政府委員 その点はなかなかむずかしい問題でございまして、御承知のように、いわゆる災害に備えて河川等の堤防を作るべきものを作らなかった、いわゆる自然河川を放置したということに対しては、国家賠償法の適用がないというのが普通の解釈だと思います。従いまして、結局は事実認定の問題になると思いますが、御承知のように、これは下級審の判決でございますが、道路に穴があいておるときに、道路の穴をふさがなかったことによって、それにぶつかって自転車がひっくり返って死んだというものに対して国家賠償を認めた例がございますが、しかし、これは、私少し現状から言って解釈に必ずしも賛成できない点があると思います。結局、具体的な事実に即して、その不作為と賠償原因とにどれほどの密接な関係があるか、それから、そういう不作為が社会全体の通念からはたして違法として許されざることかどうか、こういう二つの面から考えるべきだろう。たとえば、予算等から言いまして、全国のそういう危険な場所を一ぺんに全部ふさぐというようなことが事実上できないという現状において、そういう事態が起こったから、直ちにこれは国家賠償法だというのは、私は、ちょっと行き過ぎじゃないか、かように考えております。
  214. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今の計画の策定は、先ほど申した通り、おくれておりますけれども、全然何もやってなかったかといいますと、その計画に即応して、台風常襲地帯におきます災害防除事業につきましては、それぞれ非常な関心を持って、予算措置等において十分に、総合計画ではございませんけれどもやっております。従って、三十三年度に対しまして、三十四年度は百三十五億でもって、常襲地帯の中で前年度に比べ三二%、さらに三十五年度は、三十四年度に比べまして百六十四億で二一%、三十六年度は、三十五年度に対して二四%というふうに、できるだけ実際的な仕事については進めておるわけであります。
  215. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 災害基本法ができましたが、この法律は、大体ことしか三十八年度で切れますが、継続してやっていくような政府のお考えですか。もしこれはことしで終わるということになりますと、全く、やることをやらないで、この法律を飾りものにして終わるわけであります。今報告がありましたけれども、具体的にはちっとも調査しておりませんよ。ですから、現実に調査をして、災害防除の方法をとらないと、直せば直るのに、保護のできるところをしないでおいたがために被害が生じた場合においては、政府に対する重大な政治的責任のみでないということを私は警告をしておる。ですから、これは、やるのならばこの問題を先決して、全国十七県がこの法律に期待しておるのですから、この点は一つ継続をしてしかも具体的にお進めを願いたい、こういうふうに私は考えるわけであります。  最後に一点、総理大臣にお伺いをしたいのは、要望を兼ねてでありますけれども、あなたの経済成長政策というものに対する論議というものが非常に多くなってきた。あなたは、行き過ぎだからしてブレーキをかけて調節するのは当然だ、こうおっしゃっておる。なるほど、行き過ぎがあったら調節するのは当然かもしれません。けれども、スピードを出し過ぎて、それで自動車で人をひいてしまったというのは、あとでスピードを落としても、ひかれた被害者というものは直らぬのです。あなたは、もし今までに悪いところがあったら調整をしていく、自分にまかしておけと言いますから、それはあなたの態度としてはそれでいいでしょう。けれども、経済成長のスピードの陰に倒れたたくさんの国民、中小企業その他の国民がおるといいまするならば、その超高度成長のスピードを出したおかげによって、陰に被害者がおるのですから、この被害者を一体どうするかという問題。ダンプカーを動かして人をひいて、そのまま医者へも連れて行かずにほうっておいたならば、これはダンプカーのひき逃げです。池田内閣はまさかそういうひき逃げダンプカ−とは言いませんけれども、そういうスピードを出し過ぎて、超高度成長、経済成長、所得倍増という、このダンプカーを動かして、スピードを出し過ぎたために国民に犠牲者ができたというならば、あなたのひき逃げは許されません。ですから、一体、ひき逃げされた人に入院させるのか、慰謝料を出すのか、この点はもう少し親切に跡始末のことを考えていただかなきゃならぬと私は思うのです。  そこで、金融の措置ですけれども、金融の措置もなさってはおりますが、それは、もう少し実態をよくお調べになって、そうして、政府の政策の陰に泣くところの幾多の犠牲者と申しまするか、そういう者に対してもう少し手厚い具体的な施策をしていただきたいと思いますが、総理の御意見を最後に伺って、私の質問を終わります。
  216. 池田勇人

    池田国務大臣 ダンプカーがひき逃げしたお話をおっしゃいますが、それはあまりに極端な話で、事実に反すると思います。高度経済成長が絶対に悪いんだ、国民は大へん迷惑しているというふうにお考えのようでございますが、私はそうは思っておりません。それはお気の毒な場合もあると思いますが、全体といたしましては大体動いていくんじゃないか。お話しの中小企業に対しまする対策も、いまだかつてないほどの施策をわれわれはやっておるのであります。数が多い中でございますから、全部が全部とは申しませんが、私は、一人残らず、いわゆる困る方のないように今後とも続けていきたいと思います。
  217. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 どうぞダンプカーのひき逃げ内閣と言われぬように善処していただきたいと思います。
  218. 山村新治郎

    山村委員長 以上をもちまして、昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)及び昭和三十六年度特別会計予算補正(特第3号)の同案に対する質問は終局いたしました。     —————————————
  219. 山村新治郎

    山村委員長 これより両案を一括して討論に付します。加藤清二君。
  220. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 私は、日本社会党代表して、ただいま提案されておりまする政府提出昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)並びに昭和三十六年度特別会計予算補正(特第3号)に対し反対の討論をいたしたいと存じます。  池田内閣の経済見通しの誤りと高度成長の失敗は、国際収支の危機、物価の急激な高騰、所得格差の拡大を招来した。池田内閣は、その責任を反省すべきところ、むしろ責任を民間に転嫁し、てんとして恥ずるところがありません。危機打開策を景気調整策と称して行なった一連の金融引き締め等のデフレ策は、そのしわを労働者、農民、特に中小企業に押しつけ、ついに、おのれみずから呼号した所得倍増計画は初年度に挫折、政策の転進のやむなきに至ったのであります。(拍手)池田内閣の責任たるやまさに重大でございます。失敗の原因が過剰投資であるとは総理の口ぐせでありまするが、もしそれ真にそれでありとすれば、国民池田政策に納得できないことがございます。なぜかなれば、調整策としてとられたところの金融引き締め政策は、その原因である過剰投資をした大企業に寛大であり、原因を作らなかった、むしろ過剰投資を何もしなかったところの労働者や農民、中小企業、下請企業等にきわめて厳重であるからでございます。大企業の過剰投資ができたのは、労働者の汗とあぶらの結晶ではあっても、決して労働者の意思ではありません。中小企業、特に繊維産業や陶磁器産業がどこで設備を増大したでございましょうか。しかし、引き締めのむちはここに一そう激しさを加えているのが今日の実態でございます。罪を作った者に罰が少なくて、罪を作らなかった者に罰が重い。世人称してダンプカーの引き逃げと怨嗟の声が高いのでございます。(拍手)政治は確かにあやまちを犯しているではないでございましょうか。今日こそ、いたずらに面子にこだわり、言いのがれに急なるより、すなおにその非を認め、改むべきは改め、国民とともに経済危機打開に邁進すべきときであると存ずるのでございます。  この見地に立ちまして、わが党は、すでに第一次予算補正にあたり、政府の経済政策失敗の犠牲者国民とその生活の救済は、緊急かつ可能な範囲、最大限度予算措置をするよう要望いたして参りました。さらに災害対策、石炭対策、医療費値上がりによる国庫負担の措置を組み入れたところの第二次予算補正を提出するよう強く要望して参りました。  しかるところ、今回政府提出の第二次補正予算案は、わが党の要求とは天地雲泥の差でございまして、犠牲者国民を救うの道はどこにも見当たらないことを遺憾とするものでございます。すなわち、政府案は、災害対策費、国民健康保険助成費等義務的経費、医療費改定に伴うところの増加経費、オリンピック準備費等をわずかに計上したにとどまっておりまして、この涙なき仕打、はたして国民は救われるでございましょうや、遺憾のきわみでございます。  さきに本会議におきまして石炭危機打開決議が行なわれました。離職者対策などにつき若干の前進はありましたものの、総合エネルギー政策そのものについては何ら抜本的な施策が行なわれていないのでございます。なおまた、失対労務者賃金の引き上げ項目は削除されたのでございます。さらに、港湾対策にもわが党の要望はとられておりません。よって、わが党は、政府提案の予算補正二案に反対の意を表明するとともに、この際、次の措置を要求するものでございます。自然増収見込みのうち、予測約二千億円になんなんとするところの膨大なものが明白でありながら、なぜこれを歳入として取り上げなかったかということでございます。財政民主主義の立場、財政法の示すところからしても、これは歳入超過として義人として見込むべきでございます。歳入を歳出に見合わせるために適当に歳入数字を変更したり、自然増収をうやむやにすることは、明らかに財政法違反であり、ひいき目に見ても健全財政とは言えないのでございます。  次に、歳出について二、三要求を申し述べます。  要求の第一は、災害対策でございます。干害対策費を追加するとともに、台風二十六号、集中豪雨被害復旧費及び三十六年度発生災害全般にわたり緊急必要な予算増額をすべきこと。わけても、個人被害の救済対策を強化するため、罹災者援護法等の制定を進め、必要な予算を計上すべきことを要求いたします。  要求の第二は、生活保護基準及び失対労務者賃金の引き上げについて。物価騰貴によるところの最大の被害者、すなわち、低所得者層の生活水準低下を防止し、かつ、これを積極的に引き上げるために、生活保護基準を本年一月より少なくとも一三%引き上げ、さらに失対労務者賃金を六百円程度に引き上げることくらいは、膨大なはね返り財源からして容易なわざであり、池田総理の反省と義務感さえあれば今直ちにでもでき得ることでございます。わが党の生活保護費及び失対労務者賃金引き上げ要求に対し背を向けることなく、前向きで前進すべきでございましょう。もっとも、生活保護費は昨年四月から一八%、十月から五%追加措置がとられて参りましたが、これはその過年度経済変動に伴うところの事後措置でございまして、今年度消費物価値上がりは今年度の問題として、来年度予算に盛られた程度のもの、すなわち、二二%程度は本年一月から実施されてしかるべきでございましょう。  要求の第三、失対賃金については、第一次補正の際少なくとも一〇%は引き上げるよう要求して参りました。しかるに政府は、何とかしたいと言ったまま今日に及んでいるのでございます。中高年令層の失対労務者のため悲しむべきことでございまして、政府の怠慢では済まされない現実でございます。  要求の第四、医療費値上がりによる社会保険の被保険者、患者等の負担の軽減について、国民健康保険については、第三十八国会での経緯及び国保財政の現状にかんがみまして、国庫補助率を五%引き上げるべきでございます。さらに第三十九国会改定四・八%引き上げによる社会保険の医療費増額分を国が負担するよう処置すべきでございます。  第五に、石炭対策でございます。石炭危機打開決議の精神にのっとり、当面炭鉱労務者の雇用と生活の安定のために必要な予算を大幅に引き上げるべきで、現在計上されている経費は、当面の最低限の要求から見てもあまりに貧弱、涙なきしわざでございます。これまで石炭労務者を中心に政策転換の要求が強く行なわれ、政府またこれにこたえて解決を約束しておきながら、この程度一部の手直しでは全く二階から目薬、約束不履行の言いのがれにしかすぎません。  わが党の要求の第六は、港湾対策費でございます。最近、港湾船込み、荷揚げの混雑は、東京の道路と同様麻痺寸前でございまして、鉱工業生産や国民生活に悪影響を及ぼすのみならず、輸出の阻害と日本の名誉を国外に失墜するのおそれがございます。港湾設備、港湾労務者の対策の緊急を要するゆえんでございまして、これは道路交通地獄対策、流感対策とともに国民の切なる願いでございます。政治家の目下の急務でございます。しかるに、わずかの予備費的対策費では政府の誠意と関心を疑わざるを得ません。港湾労務者の対策費を別途計上すべきでございます。  討論を終わるにあたりまして、一言申し上げたいと存じます。  池田総理は、常に、大所高所に立って政治を行なうと述べておられます。まことに見上げた心がけである。しかし、あまり高過ぎまして、山の峰だけをごらんになって、足元をお見忘れではないでございましょうか。上に厚く下に薄いは保守党政策の常とはいえ、谷底に呻吟する者もやはり人の子、日本人でございます。一掬の涙なき政治は、長続きしないでございましょう。さあれ、自民党が半永久的に政権の座につき、どんな失敗をしても政権移動の行なわれない今日では、まさに一党独裁というべきでございましょうか。独裁政治は行き過ぎがあっても反省のないのが常のようでございます。政治をする者にとって、たといそれがよかろうとも、国民にとっては不幸な政治でございます。国民のための国民の政治を祈念しつつ、私の反対討論を終わるものでございます。(拍手)
  221. 山村新治郎

    山村委員長 赤澤正道君。
  222. 赤澤正道

    赤澤委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)、及び同特別会計予算補正(特第3号)に対しまして、賛成の意を表するものであります。  今回の補正予算は、さきに大蔵大臣から説明がありました通り、災害対策費を中心に、医療費値上げ、義務教育費国庫負担など義務的経費の不足補てん、炭鉱離職者対策、オリンピック準備費など、七項目にわたる当面必要不可欠な義務的経費五百四十八億円を計上したものでありまして、いずれも適切妥当なものであると認めます。  まず災害対策費につきましては、さきの臨時国会において言四十九億円、今回の補正予算で三百億円、その他予備費から災害関係分として百四十五億円が支出されております。さらに年度内に予備費から支出を予定されているものを含めますと、三十六年災害に対しては総額約六百億円が措置されたのでございまして、これによって災害復旧は一段と円滑に促進されるものと思うのであります。  炭鉱離職者の援護対策については、従来から炭鉱離職者緊急就労対策事業に対する補助、雇用促進事業団が行なう援護対策事業に対する補助及び広域職業紹介等、各般の援護対策を行なっておるのでございますが、その上、今回さらに、石炭合理化政策の一環として、三十七年度に先がけて、この一月一日から新たに雇用奨励金制度を設けましたことは、きわめて時宜を得た措置であると思います。これは、炭鉱離職者が職安を通じて月額二万円以上の常用労働者として就職した場合、その雇用主に国が原則として賃金月額の四分の一を一年間にわたって補助するという仕組みであります。その他職業訓練中における寮費とも申すべき訓練別居手当の支給、また訓練期間中における教材費及び交通費とも申すべき技能習得手当など、相当きめのこまかい施策が打ち出されました。私は、炭鉱離職者対策に示されたこのような政府の熱意と努力を多とするものであります。もとより、炭鉱地域や石炭産業の現状を見ますときに、この程度をもって完璧であるとは申しません。引き続いて、今後におけるわが国のエネルギー対策の確立という観点から、さらに特段の前進を政府に要望するものであります。  その他、医療費改定に伴う増加経費、オリンピック準備費、義務教育費国庫負担、生活保護費、地方交付税交付金など、いずれも当面必要不可欠なる義務的経費の不足を補てんしたものでございますので、これは省略いたします。  以上の歳出をまかなう補正の財源は、所得税法、法人税、酒税、物品税、関税などの増収をもって充てておりますが、これらはいずれも最小限度とし、三十六年度において多額に上ると見込まれる租税の自然増収などは、剰余金として極力後年度に繰り越すという配慮をもって、あくまでも健全財政の線を貫いておりまする点、きわめて適切なるものとして、私は、政府提案の本補正一案に対し全面的に賛成するものであります。  はなはだ簡単でございますが、討論を終わります。(拍手)
  223. 山村新治郎

  224. 稲富稜人

    稲富委員 私は、民主社会党代表して、政府提案の昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)及び同特別会計予算補正(特第3号)案に対して反対の態度を明らかにいたしたいと存ずる次第であります。  政府案の歳出内容は、災害対策費追加、生活保護費等の不足額補てんのほか、医療費改定に伴う経費増額、農災補償改定時期のずれに伴う必要経費の追加が主体でありまして、新規政策的な色彩を持つ歳出補正としては、オリンピック東京大会準備費約八億九千万円と、炭鉱離職者援護対策費約八千三百万円にすぎないのであります。  年度末近くになって提出した補正予算案としては、政策的経費の計上をことさらに避けたいと誓えばいかにも筋が通っているように聞こえますが、私は、このように財政法を機械的、形式的に適用せんとする補正措置は、今回においては許すべきではないと確信するのであります。なるほど政府は、健全財政方針をもって予算編成に臨むと言われ、今回の補正も最小限度を目ざしたのでありましょうが、政府の現段階における基本方針は、総理施政方針演説にあるように、各種の不均衡是正、農林漁業、中小企業、海運、石炭などの産業に周到な配慮をめぐらすことにあることがすでに明示されているのであります。水田大蔵大臣の言う健全財政とは、これを実現するための財政技術にすぎないのであります。  私が、今回の補正予算案についてまず申し上げたい点は、政府は、自分自身の財政政策の展開において、政策の推進という本質と、予算編成の健全化という技術論とを本末転倒されている点なのであります。私が率直に申し上げたいことは、この補正予算案が実施に移される本年度の最終時期は、池田内閣みずからが招いた経済不況が次第に地にしみ込み、金融引き締めによる中小企業の苦境、離職者対策の網の目にかからない多数の石炭関係離職者の生活苦がさらに深刻になりつつある時期であるということであります。政府は、明年度予算案におきまして、生活保護費の基準単価を引き上げております。また、中小企業財政投融資の総領をふやしておられます。このような努力を何ゆえに三カ月間さかのぼって、本年一月分よりこれを実施しなかったのでありましょうか。  今回の政府案を拝見しますと、炭鉱離職者援護対策費として八千二百万円ほどを計上し、それによって新たに雇用奨励金制度、訓練別居手当と技術習得手当の二つの支給制度を創設し、これを本年一月一日より実施することにしておられます。政府の明年度予算案は、これを受けて引き続き実施するよう予算措置を講じておられるのでありますが、私ども民社党といたしましては、これらの政府案における予算単価については必ずしも同意しかねまするが、第二次補正予算を起点として、明年度予算においても一つの新規政策を一貫して実施するという離職者援護対策費のあり方を、何ゆえに今回の補正案全体を通じて一貫できなかったのか、この点特に私の理解できないところであります。私ども民社党は、以上の見解に立ちまして、遺憾ながら政府案の編成方針に同意いたしかねる次第でありまして、ここに明確に反対の意思を明らかにしたいと存ずる次第であります。  さらに、これと同時に、政府に対して、以下申し述べる五点を取り入れて、いま一度政府案を練り直して、再提出を強く要望いたす次第であります。  その要望する点は、一、国民健康保険に対する国庫負担率を本年一月一日より四割に引き上げられること。二、生活保護基準は本年一月一日より二五%引き上げられること。三、炭鉱離職者援護対策費を本年一月一日より適用対象人員を八万三百人に増員して、かつ離職と再就職のための住宅移住資金の支給制度を創設して、これが予算措置を講ぜられること。四、石炭危機に備える対策として中小炭鉱近代化資金の貸付金の追加計上をはかり、産炭地域振興事業団の事業として、新たに火力発電所新設に着手する経費を計上すること。五、中小企業金融対策として商工中金、中小企業金融公庫、国民金融公庫に財政資金を追加出資すること。以上により政府は率直に補正予算案修正をみずから行なわれるよう要望してやみません。  よって、本来ならわが党の、要望は、予算組みかえ要求の動議を提出すべきでありますが、本案は、明年度予算案の一体化として審議すべきものであるという見地に立ちまして、政府に対するわが党の組みかえ要求の態度は、明年度予算案採決に際して提出することといたしまして、今回は、組みかえ案は提出いたさないのであります。  よって、以上のごとく政府案の修正を要望いたしまして、予算討論を終わりたいと存ずる次第であります。(拍手)
  225. 山村新治郎

    山村委員長 これにて討論は終局いたしました。  これより昭和三十六年度一般会計予算補正(第2号)及び昭和三十六年度特別会計予算補正(特第3号)の両案を一括して採決いたします。  両案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  226. 山村新治郎

    山村委員長 起立多数。よって、両案はいずれも原案通り可決すべきものと決定しました。(拍手)  ただいま決定いたしました予算補正二案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任を願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  227. 山村新治郎

    山村委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。  次会は明十三日午前十時より昭和三十七年度総予算に関する公聴会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後二時十二分散会      ————◇—————   〔参照〕  昭和三十六年度一般会計予算補正  (第2号)に関する報告書  昭和三十六年度特別会計予算補正  (特第3号)に関する報告書   〔別冊附録に掲載〕