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1962-02-02 第40回国会 衆議院 予算委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月二日(金曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 山村治郎君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 淡谷 悠藏君 理事 川俣 清音君    理事 小松  幹君       相川 勝六君    赤澤 正道君       池田正之輔君    井出一太郎君       稻葉  修君    今松 治郎君       臼井 莊一君    上林山榮吉君       仮谷 忠男君    北澤 直吉君       周東 英雄君    田中伊三次君       床次 徳二君    中村三之丞君       西村 直己君    羽田武嗣郎君       八田 貞義君    藤本 捨助君       船田  中君    松浦周太郎君       三浦 一雄君    山口 好一君       山本 猛夫君    井手 以誠君       加藤 清二君    木原津與志君       高田 富之君    楯 兼次郎君       辻原 弘市君    堂森 芳夫君       永井勝次郎君    野原  覺君       長谷川 保君    山花 秀雄君       横路 節雄君    春日 一幸君       玉置 一徳君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小坂善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 灘尾 弘吉君         農 林 大 臣 河野 一郎君         通商産業大臣  佐藤 榮作君         運 輸 大 臣 斎藤  昇君         労 働 大 臣 福永 健司君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 川島正次郎君         国 務 大 臣 藤枝 泉介君         国 務 大 臣 藤山愛一郎君         国 務 大 臣 三木 武夫君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    中野 正一君         大蔵事務官         (主計局長)  石野 信一君         大蔵事務官         (理財局長)  宮川新一郎君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月二日  委員井村重雄君、藤井勝志君及び佐々木良作君  辞任につき、その補欠として田中伊三次君、中  村三之丞君及び玉置一徳君が議長指名委員  に選任された。 同日  委員春日一幸君及び玉置一徳辞任につき、そ  の補欠として西村榮一君及び佐々木良作君が議  長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十七年度一般会計予算  昭和三十七年度特別会計予算  昭和三十七年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 山村新治郎

    山村委員長 これより会議を開きます。  昭和三十七年度一般会計予算昭和三十七年度特別会計予算及び昭和三十七年度政府関係機関予算を一括して議題といたします。  質疑を続行いたします。春日一幸君。
  3. 春日一幸

    春日委員 私は、まず質問に入ります前に、本委員会総理並びに閣僚定刻より四十分も遅参をされたことについて、釈明を得たいと思います。  今、国民の関心事は国会正常化をはかることにあります。池田さん御承知通り、今議長あっせんもとに、三党がそれぞれ身を尽くして国会正常化のための努力が払われておるのであります。国会正常化をはかる方法はいろいろあるでありましょうが、しかしながら、それは何といっても、まず国会法衆議院規則を守ること、各党の申し合わせを順守することにあると思うのであります。本委員会は、その性格からいたしまして、各大臣を本委員会に拘束する立場から、従いまして、他の常任委員会も、事実上その審議がストップされておるのであります。こういうようなときに、本委員会使命が重いので、従って、本委員会定刻をもって開会するということを三党間で厳に申し合わせをされておるのであります。従って、本委員は、本日十時、定刻からずっとここに四十分間お待ちを申し上げておりました。国会法衆議院規則、三党の申し合わせを守らないのみならず、少なくとも国民代表として御質問を申し上げようとする私を、ここに四十分間もたなざらしをしておくということは失礼千万ではないか。(拍手)一体、どういうわけでその申し合わせを守られないのか。少なくとも総裁が、総理がそのような態度であっては、どうして国会正常化の実をおさめることができましょうか。この点について私を納得せしめる御説明、御釈明を得たいと思います。
  4. 池田勇人

    池田国務大臣 御承知通り、きょうは閣議もございまして、十時過ぎまでちょっとございました。そして、その後外務大臣外交関係いろいろ話をしておりました。その話に夢中になりまして、時間の経過を忘れたのと、そうしてひょっと気がつきましたところが、非常にあれしておって、急いで参ったのですが、時間がおくれたこと、まことに恐縮に存じます。おわびいたします。
  5. 春日一幸

    春日委員 そのような公のお仕事で遅参せざるを得ないような事情がありまするならば、すべからく委員長を通じて、開会をしかるべく延期するとかなんとかの手続をとられてしかるべきであると思うのであります。少なくとも多くの委員が、かれこれ四十分もここで総理の来着を待つというがごときは、非礼きわまるあり方であると思いますので、今後かかることがないように、各閣僚を含めて十分御注意を願いたいと思うのであります。  まず最初に、私は、外交問題を中心といたしましてお伺いをいたしたいと思います。  池田内閣は、総理施政演説外務大臣外交演説におきまして、国連中心主義を標傍し、かつ、民主陣営の一員といたしまして、懸案を積極的に打開するために、さらに強力なる外交を推進する、この決意を表明されております。わが民社党といたしましても、その示された基本路線については異論はありません。しかしながら、その実態を見まするに、その実績に見るがごとく、それは全く民主陣営のボスであるアメリカ追随、擁護されることに終始いたしておりまして、そうして独立国としての気、気魄——また、事実上日本アジア運命をになうものでありまするが、その使命を果たし得てはいないと思うのであります。たとえば、国連での中国代表権問題の処理におけるわが国態度へそれからガリオア・エロアの返済協定の中身、また、日米会談の推移、核実験禁止を含むところの軍縮問題を取り扱う場合におけるわが政府態度日韓会談沖繩施政権返還に関するわが政府態度、こういうようなものは、アメリカに対するにあまりに従属的なものであって、これは何といっても、独立国たる権威をはなはだしく欠いておると思うのであります。もとより、わが国は、お互いの国民生活アメリカとの間に至大の関係を持っておりまするので、これが親善友好を維持、発展せしめるために、多くの努力を払うことについては、これは必要ではございましょうけれども、さりとて、そのためにわが国権威、そうしてまた、わが国におのずから課せられておるところの国際的使命、こういうようなものを対米外交の中に埋没させてしまうようなことは、これはおそらく九千万国民意思でもないでありましょうし、少なくとも客観的に判断をして、これは国民感情代表するものではないと思われるのであります。従いまして、この際、池田内閣に対する、本年度の外交に対する国民の要求、これは大体次の三つ基本的方向を強く推進してもらいたいというところにあるのではないかと思うのであります。  すなわち、第一は、これまでの対米追随外交を清算していただいて、そうして日空独立態度を堅持してもらいたいということ。第二には、わが国は現実にアジア運命をになうものであるという矜持に立って、アジアにおけるアジア外交を強力に推進してもらいたいということ。それから第三には、アメリカ互恵通商法の改定、それからまた、ヨーロッパにおけるEEC動向、これに相当の変化がありましょうから、その動向を見きわめつつ、それに即応した強力なる経済外交を推進してもらいたいということ。大体、以上三つの基本的な課題について、国民の要望は強いものがあると思うのでありますが、総理のこれに対する見解はいかがでありますか、これについて御答弁を願いたい。
  6. 池田勇人

    池田国務大臣 日本外交アメリカ外交追随している、こういうふうにおっしゃいますが、私はそう考えておりません。国連におきましての問題も、私は、昨年の六月ケネディ大統領との話の際、日本は、中共問題につきましてのたな上げ案は、今年は反対であるということをはっきり言っております。そしてまた、核兵器の問題につきましても、地下実験も反対するということをはっきり私は言っておるのであります。ただ、たまたま、アメリカあるいはイタリア、そしてオーストラリア等と一緒に、これを重要問題として取り扱うことになったからといって、これを追随と言われることは、私は心外と思います。もちろん、独立国でございます。われわれは、世界の平和とわが国利益ということを考えて外交をやっておるのであります。決して追随はいたしておりません。  また、第二の、アジア外交につきまして強力にやるという点、日本アジア責任者であるとまでは申しませんが、責任一端を分担する、こういう気持で、私はアジア外交の推進に邁進いたしたいと考えておるのでありましす。  なお、三番目の、互恵通商法あるいはEEC問題等につきましては、非常に関心を持ちまして、わが国利益になりますように、あらゆる方法を講じて、折衝その他に当たっておる次第でございます。
  7. 春日一幸

    春日委員 ただいま御答弁を得ましたけれども、しかし、それは総理がみずからその空観を述べられておるという限界でありまして、少なくとも旧民をして、あるいはまた野党の批判をして、そのように同感せしめるの事実が乏しいのでございます。どうか、今お述べいただいたような方針を堅持されまして、少なくとも懦夫をして立たしめるというくらいのきぜんたる態度をもって、三つ基本的課題を強力に推進されることを強く要望いたしたいと思うのであります。  そこで、具体的問題に入るのでありますが、国連における中国代表権の問題についてお伺いをいたします。  総理は、過日本会議代表質問に答えられて、今次国連総会で、日本中国代表権変更問題を重要事項指定提案を行なった、これは従来の方針に比べて、中共問題を一歩前向きの方針に前進せしめたものであると述べられ、ただいまもまたそのようなことを述べられております。また、小坂外務大臣は、外交演説の中で、「加盟各国が本問題の実体を十分に考慮して、公正妥当な結論を引き出すよう努力することを期待」し——期待しと言われまして、また「内外世論向こうところを注視しつつ、極東の安定と世界平和に貢献するとの方針もとに、この問題を具体的に検討して参りたい」いうならば、期待をしたり、検討をしたり、今までやってこられたことと本年度の外交方針に画期的な変更というものは、ここからは印象づけられないと思うのであります。このように述べられております方針なるものは、たとえばあの共同提案国になりましたコロンビアとかあるいはイタリア国会で行なわれる演説であるならば、これはまあ一個の方針を述べられた形になりはするかと思うのでありますが、しかし、御承知通り日本は、中国との関係において、地理的に歴史的に経済的に、これはまた特典の立場を持っておると思うのであります。わけて、中国本土の政権とは戦争状態終結が行なわれておりません。漁業関係抑留者がかの地にはおります。また、戦争中の戦犯というような意味合いで抑留されておる人々も、向こうになおたくさん残されておると思うのであります。このような実感、またそのような責任感の上に立ちますならば、あの本会議において総理が述べられておるように、重要事項指定提案を行なったから前向きに一歩前進したのだとか、あるいはまたこういうふうになることを期待しておるとか、いろいろ検討しようとかいうことは、まずわれわれの受ける印象は、何となく通り一ぺん、これはまあアメリカがいろいろと苦労してやっておるようだから、いわばあなたまかせの年の暮れみたいなもので、これはアメリカの鼻息を伺ってみずからの姿勢を決定しようというような、いわば卑屈な態度にしか受け取りかねるのでございます。また、内外動向を見きわめつつ、自分姿勢あるいは自分方針をきめるというのではなくして——もとより、外交は、諸国事情を十分判断し、それを材料としなければ、わが国方針も立ちかねるではありましょうけれども、しかし、ものの言い方、心がまえといたしましては、やはり内外のいろいろな方向わが国の置かれておるところの特殊な立場にかんがみ、また、アジア運命をになうところの、一端運命のにない手として、これはやはり内外世論動向を指導しながら問題の解決をはかろうという、それだけの気迫というものがあってよろしいのでなかろうかと思うのでありまするが、そのことのないことは、きわめて遺憾と中さなければ和なりません。  そこで、私は、この際お伺いをしたいのでありますが、そんなことをいつまでやっておったって私は解決がつかぬと思う。現にアメリカとあのような友好親善関係深きイギリスといえども、北京政府を承認し、そうして中共との間に大幅な貿易の拡大を行なうことによって、自国の利益の増大をはかっておるのであります。しこうしてまた、国際問題の具体的解決に貢献をしておるのであります。従いまして、以上申し上げましたような理由によって、私は、この際、日本政府といたしましては、自主的に中国との間の国交回復をはかるために必要なる措置をとるべきであると思うが、これに対する、総理外務大臣の御見解はいかがでありますか。
  8. 池田勇人

    池田国務大臣 春日さんは、中共、いわゆる中国大陸の問題だけをお考えになっておりますが、日本といたしましては、中華民国条約を結んでおる関係もお忘れになってはいないと思います。しこうして日本の一部、あるいは相当な一部の人に、中共即時承認論もあることを承知しております。しかしまた、それにも増して、即時承認論に反対する声も非常に大きいことも私は考えなければなりません。従いまして、国際的にも非常な問題がございますし、国内的にも非常な議論が大いに分かれておるところでございます。一昨年から昨年にかけましての外交懇談会のあの様子を見ましても、まだ国論がそこまで統一していないということは、春日さんもお認めになると思います。国論も統一していないで、しかもまた、国際的にも非常に問題があります。イギリスの例をおとりになりましたけれども、イギリス朝鮮事変前に小兵を承認しているという事情があるのであります。しこうして、従来も、たな上げ論にはイギリス賛成しておったのでございます。こういうふうないろんな各国事情がございます。日本も、中国大陸ということについての関係はお話の通りでございますが、外交的には中華民国を承認し、これと通商条約を結んでいる、この事実も否定できない。国際的にも、これは重要問題として十分審議すべきだというのが六十一カ国もある、大多数であるのであります。こういう情勢を考えまして、今あなたのおっしゃる通りに直ちに結論を出せということは、私は国のためにとらないところであるのであります。
  9. 春日一幸

    春日委員 ちょっとこれは事実関係でありますが、今総理は、英国はた上げ論賛成したと申されましたが、事実関係はいかがでありますか。
  10. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 一昨年の総会では、さような態度をとっております。昨年の総会では、イギリスは重要問題の指定にも賛成し、また、ソ連の出しておる提案、すなわち、中共に議席を与えて、そして台湾国民政府を排除する案にも賛成投票しております。こういう関係であります。
  11. 春日一幸

    春日委員 だから、事実関係を明らかに願わなければなりません。わが国重要事項指定提案には賛成をいたしておるが、即時承認すべしという案にも賛成をいたしておる、こういうことについてよく御認識を願っておかなければ、こちらだけの案に賛成して、中共即時承認論については反対しておるというような印象を受けますので、やはりソ連案に対しても、わが国提案に対しても、両方賛成しているのだ、とにかくその意向というものは、問題を解決しなければならぬので、いつまでもたな上げしておいちゃだめなんだということについて、イギリスアメリカとのあのような親善関係実態の中から、なおそんな踏み切りをいたしておるということは、わが国外交路線を定める上において重要な資料になると思いますので、この点を明確にいたしておかれたいと思うのであります。  そこで、私は、何といっても、この中国の問題を解決することのためには、なるほど世界動向もあり、国内世論も帰一してはいないとは申されておりますけれども、貴党の内部においても、石橋湛山氏を初めといたしまして、多くの有識の士が、少なくともアジアの安全、そうして日本国の繁栄のためには、中共問題をすみやかに解決をせなければならないという方向に向かって努力されている。そういう人々も少なくはございません。国論が帰一していないと言いますけれども、国論の最後の一人々々まで統合するということは、これはできはしませんけれども、むしろ、大局的立場に立って国論を指導するだけの使命、これが私は内閣にあろうと思うのでございます。そういうような意味合いにおいて、今総理が申されたように、台湾問題の処遇についてはいろいろ困難な問題もございますし、民社党といえども、これに対しては十分な配慮を加えているのであります。しかしながら、台湾をどうするかという問題については、総理も御調査になっていると思いますが、これはアメリカのトルーマン氏の具体的な見解の表明、あるいはダレス国務長官がその当時述べた台湾問題処理具体的方針イギリスイーデン外相が、台湾に対してはこんなふうな解決方法もあるであろう、そういうような工合——アメリカのアドレー・スチブンソン氏あるいは国務次官チェスター・ボールズ氏、スカラピノ教授、いろいろな人々が、台湾をこんな工合解決したらば中共問題の解決をも云々ということで、具体的な見解を述べて、解決方向に向かってのいろいろな研究や努力が進められているのであります。こういうようなときに、当事者であるところの日本が、ただ漫然と、台湾問題もあるので何ともものの言いようがないのだ、日華条約の現存する限りどうにもならぬのだというようなことを言っておりましては、一切の理論も、政策も、ほんとうにこれはから回りしてしまってどうにもなるものではございません。だから、私は、そういうような問題については、幾つかの解決方法というものがすでに世界外交舞台において論じられている経緯にもかんがみまして、少なくとも日本としては、中共問題を解決し、アジアの安定をはかりますことのためには、台湾問題の処理については、住民意思を含めて合理的解決国連の場においてはかるべしという、そのような方向を打ち出して、具体的な処置については、アメリカ諸国の了解を求めて、そこへ問題を具体的にしぼっていく、いわばそういうような話を切り出していくというような態度も、私は必要ではないかと思う。日華条約があるからだめだということならば、かりにアメリカ中共を承認するようなことになっても、日本としては、日華条約の存する限り中共との間に国交を持つことができない、こういうようなことになってしまうではありませんか。私どもが今申し上げましたことは、多くの案のうちの一案でありますが、そのような台湾問題をも含めて、とにもかくにも、あの大きな大陸に六億、七億という大きな住民を擁するその政府と、やはり国交を回復するということは、当然の事柄であって、不可欠の要件である、私は、こういうような立場において総理の所見はいかがでありますか、この点お伺いをいたしたいと思うのでございます。
  12. 池田勇人

    池田国務大臣 アメリカの方々、イーデン外相の御意見もおっしゃいました。最近のアメリカボールズ国務次官の著書を見ても、その後において、ボールズは一切そのことについて触れぬようになりました。アメリカでは非常にこれを問題にいたしまして、ボールズは撤回とは申しませんが、今そういうことを言っていない状況でございます。イーデン氏のあれも聞いておりまするが、しかし、この問題は、もう一つ小兵並びに台湾の場にもあるのです。今あなたのおっしゃるように、台湾住民の投票によってやる、これは中共やあるいは台湾政府はどう言うでしょう。そんなことはわれわれとしては今言えましょうか。かえって両者を激高させるゆえんになるのであります。従いまして、こういう二つの中国論というのは、ほかの国にはございます。われわれは一切言ったことはございません。そういうことを考えたことはございませんが、ほかの国にはございます。そういう意見を吐く人はある。しかし、そういうように中国台湾政府みんな一つ中国と言っておるときに、あなたのような議論を今日本政府が出したら大へんです。私はそうは考えておりません。だから、こういうむずかしい問題、しかも、世界の平和にも関係するということでございますから、私は、やはり国連におきまして十分各国意見を戦わして、そうして解決を見出すことがいいと思います。しかし、日本は特別の立場にありますので、各国情勢その他を十分前もって探知しながら、どういうふうに持っていくかということも、われわれとして考えなければならぬ問題でございますが、今、国連の重要問題として審議することが先般きまったあと、われわれが勇み足でとやこう言うべき筋合いのものではございません。検討と勉強をせなければなりませんけれども、今方針をここで言うことは、私はかえって弊害があると思います。
  13. 春日一幸

    春日委員 まあ、おっしゃればそういうことになるかもしれませんけれども、しかし、こう言うたら相手が怒るだろう、こんな言い方をしたら両方が怒るだろう、それじゃ何もに言わないで、国連で何となく解決ができる日を待つほかないというようなことは、これは私が申し上げておるように、たとえば提案国になったコロンビア政府とか、あるいは中国にはるかに遠いイタリア政府とか、あるいは台湾に対して特別の関係を持つアメリカであるとか、そういうところならば、まあ、それはそうも言い得るし、そう言わざるをな得るし、ほかに言いようがないかもしれない。けれども、日本中国大陸戦争状態終結もなされていないし、向こうにまだたくさんの国民が抑留されておる。すみやかに解決をせなければならぬのである。われわれがいろいろと身を砕いて考えてみればこんな方法しかあるまいぞということは、解決のためには、けんかを仲裁することをも含めて、言うたら一方が怒る、両方が怒る、あるいは両方が怒ることも覚悟の前で、やはり雨降って地固まる式に問題を提出して、問題をともにこなす、これだけの気魄を持って、アジア運命の一翼をになうという総理矜持であるならば、その使命感責任感の上に立って、大胆にこの問題に踏み切る、私は、そのことが、強力なる池田さんに課せられておるところの民族的使命ではないかと思うが、いかがでありますか。
  14. 池田勇人

    池田国務大臣 今のお言葉のうちにございましたが、われわれは中華民国と戦い、中華民国講和条約を結んでおる、これははっきりした事実でございまして、この点はここであらためて申し上げておきます。そして、お話の通りに、われわれが最も関心があり、責任がある大きい問題でございます。大きい問題だからといって、踏み切って、そして足を外へ出すということはよくない。だから、一歩前進でございます。そして、その間におきまして、各国の意向を十分聞いて、そうして意向を聞きながら、わが国としての最後の態度をきめるのが、慎重にしてかつ賢明なやり方だと私は考えます。
  15. 春日一幸

    春日委員 そうは仰せられますけれども、事実関係というものはそういうものじゃございません。たとえば台湾政府と平和条約を結ばれたときに、北京毛沢東政府は、そんな条約を結んだことは無効だ、たとえば中国本土に全然施政権が及んでいないのだ、国土においても国民においても、台湾政府の支配は受けていない、実際戦争をやったのは、台湾でなくして、中国本土であり、中国人民と戦争をやったのだ、われわれというものが全然納得しないもので、大体台湾政府とそういう条約を結ぶということは、台湾政府としては越権であり、日本政府としては無効であると、その宣言を発表し、日本政府にも通告をいたしておるのであります。むろん、台湾との親善関係は大きく結ばなければなりません。それはそれとして大いに配慮しなければなりません。けれども、現実の問題として、中共政府がその無効宣言を発しており、また、力関係において、多くの人々を抑留して帰してはくれない、漁民もどんどん抑留して帰してはくれない。貿易は開かれてはおりません。民間的なものが暫定的に部分的に行なわれておりましても、本格的なものはなされてはおりません。これを解決するということは総理使命です。日本国政府日本国民に対する責任です。従いまして、ああだこうだという法律関係、いろいろな外交関係等、これは重視せなければ相なりませんけれども、なお実態を直視して、可能な限界をはっきりすることのための努力、これがなされてしかるべきであると思うのであります。しかし、私は、きょうはたくさん質問もせなければなりませんので、この問題で押し問答しておることはできませんので、先へ進みまするが、なお、問題を一つ集約をいたしまして、極東の安定、世界の平和確保のために、総理は、中共北京政府の国際的地位はいかにあるべきであるとお考えになっておりまするか、この点について御答弁を願います。
  16. 池田勇人

    池田国務大臣 中共の国際的地位をどうするかという問題が、今の国連の問題でございます。で、国連において十分討議をしようとしておるのであります。
  17. 春日一幸

    春日委員 討議しようとされておる、いわゆる外交方向とか手続とかいうことはわかる。しかし、それは御答弁を求める方が無理かもしれませんけれども、中共の国際的地位というものが、日本国民といたしまして、今このような実態の中において、あるいはこのような国際背景の中において、あるいはまたこのような力関係の中において、いかにあるべきものであると期待をされておりますか、この点お述べ願えませんか。
  18. 池田勇人

    池田国務大臣 それは岡崎代表国連で申した通り、今国連中共が平和を好まざる政権だ、こう言っておるのであります。しかし、片一方に、六億の民を擁して、一つの厳然たる政府があるということもわれわれは考えなければならぬ。国際連合のユニバーサリティの問題からいって、これはわれわれ十分考えなければならぬ、これは岡崎代表をして言わしめておるのであります。そういう問題をどうしようかというので、国連で討議しようというのであります。
  19. 春日一幸

    春日委員 平和愛好国でないということは、日本国政府意思として岡崎大使は言われていないと思う。国連においてそういう決定がされたことがあるという、その事実を指摘しただけのことであって、平和勢力であるのかないのかということを、今事新しくここで断定的に日本が指摘する必要はないし、また、事実関係として、岡崎大使はそのようなことは申されておりません。従って、この点は明確にしておく必要があると思うのであります。この問題で押し問答になると時間を食うばかりでありまするが、ならば、どんな条件が整ったら池田内閣はこの北京政府を承認するか、外交関係を打ち開くか、それについてお述べ願えませんか。
  20. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう条件につきましては、日本ひとりできめる問題ではございません。われわれ自身としての条件も考えなければなりませんが、また、こういうものは、国連が共同して多数で考えるべき問題と思っておるのであります。
  21. 春日一幸

    春日委員 これはヒョウタンナマズですが、それでは、アメリカ中共を承認するまで日本は承認されませんか。
  22. 池田勇人

    池田国務大臣 アメリカの意向に関係はございません。アメリカを含めた国連全体の意向でございます。
  23. 春日一幸

    春日委員 この問題は、いろいろと今後の国連における交渉の機微もありましょうし、また、責任ある立場として、ここに具体的にお述べになることも困難であることはよくわかりますけれども、私は、池田内閣外交政策を攻撃するということではなくして、日本の安全と日本国民の福祉の増大のためには、何といっても、台湾政府とも仲よくせなければならぬし、また、アメリカとの親善友好をそこなってはならぬが、同時に、近い隣であるところのこの中国と、どうしても外交関係をすみやかに回復して、経済、文化の交流をはかって、両国国民の福祉の増大をはからなければならぬということは、世界的にさまざまな国際関係が存在するとはいいながら、その中においてこれは日本国民の大悲願である。日本国政府がしょせんは果たさなければならぬところの大使命である。そのことは、十分総理はお考えになってはおると思いますけれども、どうか国民期待がそこにあるということを十分に実感を持って認識されて、問題の消化、事の解決に当たられますように強く要望いたしまして、質問を先に進めます。  次は、日タイ特別円協定の改定問題についてであります。一九五五年七月に締結されました協定第二条にいう経済協力九十六億円を、今回総理が無償供与に改定されたことについて、われわれは数日来この委員会で質疑応答を通じて総理の信条を承りました。それによりますと、総理の協定を結ばれた信条は、戦争中タイ国民に大へんな御迷惑をかけたから、その贖罪の意味もある。その後における日タイ貿易は、こちらが米を買わないために片貿易になって、しかも、東南アジアにおいてわが国の上得意である。得意さんが無理を言うので、これは仕方がないというような内容に承知をいたしました。私どもといえども、そのような事情もあるし、いきさつもある。だから、総理の言われることに無感覚ではありませんけれども、立憲法治国の外交というものは、条約か協定によらなければなりません。国内の政治というものは、どうしても法律規則を順守して、これが厳粛に執行されなければならぬと思うのであります。戦争中に御迷惑をかけたから、まあ無理を言うてもしようがないとか、現在の取引関係が片貿易になって、たいへん日本の品物を買ってくれるのだから、きげんきずまをとらなければならぬから、ここで踏み切ったというようなことは、立憲法治国の総理として、また総理でなくとも、何人もこんなことは許されてはならぬことであります。この点について、総理はどういうふうにお考えになっておりますか、お伺いをいたします。
  24. 池田勇人

    池田国務大臣 わが国といたしましては、昭和三十年のあの協定を、過去六年間ずっとあれでいくということでがんばってきたのであります。向こうにおきましても、六年間、あれは無理であり、われわれは納得できない。調印はしたけれども、どうもわれわれは納得いかぬような気になった、こういうことできておるのであります。御承知通り、九十六億円を、クレジットまたは投資の形式において、資本または役務を供給する、こうなっておりますが、そのやり方につきましては、第四条で、合同委員会を開いてきめるということになっておるのであります。その合同委員会も開けません。向こうの、いい悪いの問題でなく、事実上開けない。そして、合同委員会でどういうことをきめるかによって、いろんな問題が起こってきます。たとえばクレジットで九十六億円を貸したままで、どういう条件で何年間ということもきめようにもきめられない、理不尽な問題ではない、将来の日本とタイとを考えまして、あの条約によって、四条の合同委員会で条件も何もきまらないということになる、そのままで過ごすことが、日本立場としていいかという問題でございます。これは道徳上の問題ではございません。経済上の問題、その他外交上の問題でございます。そこで、私は、合同委員会も開かれない、このままにしておってはいけないというので、この際、やむを得ず、九十六億円というものを八年間で払うことにしていこう。これはけじめをつけるという意味ではございません。この問題を解決して、両国が経済の発展をともどもにはかっていこう、これが私は前向きの外交であると、大所商所からきめたわけでございます。
  25. 春日一幸

    春日委員 それは事実関係で何ともしようがないから、まあ、こうするより仕方がなかったからこうしたのだ、こういうのですけれども、それは、立憲法治国では遺憾ながらそういうことは許されないと思うのですね。たとえば感情で支配されてはならない。思いつきで問題を左右してはならない。やっぱり外交というものは、条約や協定、そういうものの経過というものを尊重して、なし得ることとなし得ない限界があると思うのです。私は、総理大臣がタイ国へ参られて、タイ国の総理大臣と話を結んじまったというところに問題があると思うのです。一国の最高の責任者と一国の最高責任者とが話を結んじまえば、あとで代表権の資格を持った者がそういう調印はするのだと言ったところで、まだ最終的には国会の議決を得るのだと言ったところで、一国の内閣総理大臣がその当事国の内閣総理大臣と、じゃこうしましょう、よろしい、こんなことをやっちまうということは、これは極道のおやじが、外へ行ってどんぶり勘定でうちの金をどんどこどんどこやつちまったようなもので、私は、立憲法治国の総理、宰相として、政治道義的にこんなことは許されないと思うのですね。ああそうですか、そうならば、そういうふうで、いずれ外交機関を通じていろいろの話をさらにまとめましょうというようなことで、あるいはそういうような事態をも国会に付議されて、こういう協定にはなっておるけれども、しかしどうにも解決がつかぬからというので、新しい議案を起こして国会の事前審議を求めるとか、いろいろな方法があると思う。少なくとも内閣総理大臣向こうへ行って、向こう内閣総理大臣と約束しちまったことを、国際信義の上において一体これはどうなりますか、履行しないというわけには参らぬではありませんか。これは、私は、憲法八十五条の、違法行為ではないと思うが、脱法行為だと思う。要するに、そういう協定関係がパーセント濃縮されちまっているんですね。総理大臣がこう言ったから、まあ言いはしたけれども、これは日本国会が承認しなかったとか、あとで事務官僚が出て交渉するときに、ああだこうだこうだとくちばしをさしはさむ余地があり得ないではありませんか。この関係、政治道義の問題として、また、実体関係の問題として、憲法八十五条の脱法行為だと思うが、これは法制長官に聞いたところで、そうでないと言うにきまっておるから聞きはいたしませんけれども、これは、私は、総理として大いに反省を要することだと思う。少なくとも国を代表されるあなたが、向こう総理大臣とよろしいと言って手を打っちまうということは、なんと気前がいい、気前はいいけれども、打たれちまった国民の方では、一体うちのおやじはずぼらなやつだなという、はなはだもって遺憾千万、私もそう思います。こういうふうにむちゃくちゃを相手が言っておるが、しかし、戦前には御迷惑をかけたことだし、片貿易だし、これをもう改定しなければならぬ、憲法七十何条でありまするか、事前において事後において、だから事前審議で、一たん国会で議決をされた問題だから、これは事後ではなく、事前に、一つ国会の意向を確かめて、そこに踏み切ろうではないか、このような手続を踏まれてしかるべきであると思うが、あえてそのことをなされなかったことについて、御心境を伺いたいと思います。
  26. 池田勇人

    池田国務大臣 私がタイへ行って、気まぐれにぽんとどんぶり勘定でやった、これは言い過ぎじゃないかと思う。この問題は、一昨年からずっと交渉しておるのでございます。そしてまた、私が東南アジアに立ちます前にも、大蔵大臣あるいは外務大臣と十分に協議したのでございます。そうしてまた、私がタイに参ります前に、外務大臣は、バンコックで向こう外相とも話をしております。私が急に思いつきでやったわけではない。もう過去六年間の実績から考えまして、この問題はどういうふうに片づけようか、四条の合同委員会も開けないし、そして向こうからは、一つ一ぺんに払ってくれと、強い要求もございますので、どういうふうにやったらいいか、いろんな計算もあるし、いろんな議論もし、そうして、大体総理が行ったときは解決した方がいいというふうな関係閣僚の意向もあったのであります。急激にやったわけではない。十分考慮の上いたしたのであります。
  27. 春日一幸

    春日委員 前に交渉もあって煮詰まってきたからと言うのでありますが、この問題を政治道義の上から判断をいたしますと、向こうがこういうことを言って引かぬ、問題は依然として解決しない、手に余った、こういうときには、前の三十年協定が国会の議決を得たる協定であることにかんがみまして、それを根本的に変更するような場合は、憲法七十三条でありますか、これはやはり事前、事後との関係があるが、タイ国に対してこういう改定をしようと思うが、と事前に国会の承認を得べき筋合いのものではないかと私は判断するのでありますが、法制局長官、こんな正論についてはどうか。公正な答弁はできませんか。
  28. 林修三

    ○林(修)政府委員 お答え申し上げます。今の七十三条の、条約に対する国会の承認の問題では、あの憲法の規定は、事前に、また時宜によっては事後に、ということになっております。この場合の事前、事後の意味でございますが、これはもうここ何年来、要するに条約の効力発生の時期によって区別しておるわけであります。私どもとしては、今度の、従来のタイ特別円協定の第二条と第四条を置きかえる協定は、もちろん国会の御承認を得て、その上で発効させる建前をとっております。従ってこれは事前にやることで、この前の外交交渉とは別問題だ、かように考えます。
  29. 春日一幸

    春日委員 私の言う事前という意味はそういうものではない。法律の条章の文言上の問題ではなくして、法意、法律の精神からいって、事前と事後との関係は、こんな場合、ある一つの問題についてすでに議決され、国権の最高の機関の意思決定がなされた場合、それを根本的に改廃するような場合には、その事柄をも含めて、その内容をも含めて、事前に国会意思を確かめる、こういうことが必要ではないかと思うが、しかしかねて期待した通り法制局長官答弁は、辻原君であったか申された通り、まるで三百代言みたいなもので、まことに遺憾千万にたえません。進めます。  そこで昨年十二月九日の某有力新聞の解説記事によりますと、この問題についてこういう工合に報道いたしております。この点については辻原君も向こうの顧問弁護士に触れてこれを論じられておりましたが、この新聞記事によりますと、相手方が言うばかりではなしに、こっちも、言うたと響いてあります。「三十年の交渉当時、日本側の有力な某交渉委員が、日本国内の常識で「金を借りるということはもらうのと同じことだ」といったことで交渉が急転解決したいきさつがあり、」云々とここに書いておりますね。だから向こうの顧問弁護士もそんなことを言ったのであろうけれども、アメリカさんばかりではなしに、こちらの有力な交渉委員がそういうことを言った。条文にはこう書いておる、条文には書いておくが、日本の慣習では借りたということは借りもらいということだから、君そう心配するな、ああそうかそうか、それならそれでオーケーだということで、あの三十年協定が妥結したいきさつにもかんがみ云々と、この新聞の解説記事が載っております。私はそれは有権的なものではありまんから、これを論拠にするわけではありませんけれども、そうだとすれば、自民党政府外交というものは非常にずさんきわまりないものと断ぜざるを得ないのであります。  それで重視すべきことは、はたせるかな二十九日の予算委員会で、政府答弁は、井手君の質問に答えられまして、一九五五年七月の協定第二条は、第一条の文言に比べ不明確な点があると総理が述べられております。その不明確な点はどういうことかというと、第一条は、金を払う、これは断定的に踏み切って表現をしておるが、第二条では「投資及びクレディットの形式で、」ということが、ちょっと変は変ですと、総理が問わず語りにそんなことを述べられております。それで私がここでお伺いをいたしたいことは、当時政府はその三十年協定について国会の承認を求められましたとき、総理答弁のごとく、その不明確な文言について何らかの含蓄のあることを承知されておったか。これは藤山外務大臣であられたと思うのでありまするが、金を払うときには払うと簡明率直に言っておる。ところが第二条については「クレディットの形式で、」と言っておる。総理は二十九日、井手君の質問に答えられまして、なるほどそう言えばこれはちょっと変な表現がありはありましたな、こういうことを言っておる。速記録をごらん願いたい。私はずっと耳を開いて謹聴しておりました。総理がどういう答弁をされるかと思って。これは変は変ですな、変なところもなくはありませんな、こういうニュアンスの答弁をされております。それで私は、これば総理が大へんなことを言っておられるのだなと思って、びっくりしました。今度私が質問をするときにはやっつけなければならぬと思って、手ぐすねを引いておりました。これは記録をとって見てもらえば明確であります。それで総理がそのように答弁されたごとく、その不明確な文言について、何かここに含蓄があるのだ、すなわち新聞の解説にあるように、日本では、貸す、借りる、これはやる、もらうというようなことに通ずる場合があるのだということを述べることによって相手を説得した、こういうようなことと関連さして、この文書そのものから見ると、私自体もこれは変だと思う。何と言ったところで、第一条の表現の文言と第二条の表現の文言とはニュアンスが違います、この点の関係はいかがでありますか。もし差しつかえなくば、時の外相藤山愛一郎氏に、あわせてその当時の記憶をたどって、その当時のことについてもお述べを願いたい、政府の確信についてお述べを願いたいと思います。
  30. 池田勇人

    池田国務大臣 私は二十九日の質疑応答の場合に、節二条が不明確な点があるとか、疑わしい点があるとは言っていないはずだと思います。不明確という言葉はその日使っていないと思います。(「外務大臣が言った」と呼ぶ者あり)私は言っていないと思います。速記録を調べてみます。私はそのときも申し上げましたように、二条の規定は、九十六億円は、投資またはクレジットの形式によって、資本または労務を供給すと書いてある。「供与」と書いてない。「供給す」と書いてあります。従いまして、タイに参りましても、またそれまで大蔵大臣の職にあったときにも、これははっきり私は言うておるのであります。これはクレジットあるいは投資の形でやるのだということを、はっきり言っておるので、私の考え方に不明確のものはないと思います。
  31. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今のお話は私に関連がございますから、私から申し上げますが、実はそういうふうにおとりになったとすれば、私の言葉が足りませんので、これはおわびしなければなりませんけれども、私の言う意味は、タイ側とすればそういう曲解といいますか、そういう点をその文言について言った、こういう意味を申し上げたつもりでありましたが、これはもしそういうふうにおとりになりましたら、私の言葉が足りないためにそういう誤解を免じたと思いますから、これは一つ取り消さしていただきます。
  32. 春日一幸

    春日委員 これはそうでなければならぬと思います、しかし記録をみずからとって見て判断されれば、総理並びに外相がこれについて、井手君の質問に答えられておりますことは、なるほどそう言えば変なところが一条と二条を比べるとありますということを言っておられるのです。これは取り消されてしかるべきかとも思います。  私は、時の藤山外務大臣にお伺いをいたしたいのでありますが、(「重光さんだ」と呼ぶ者あり)重光さん、これは死んだ者に口なし、困った問題です。そこで私は、もはや現総理の判断を求めるしかないと思いますが、第一条は、五年間に支払うものとすと断定しておりますね。第三条は、これは「クレディットの形式で、」といっておる。クレジットを供給するものとすといってないのです。「クレディットの形式で、」何だか舌をかむようなものの言い方をしておるのですね。これについて一体有権的な判断——これは法制局長官、こんな事務的なことならば公正に言えましょうな。
  33. 林修三

    ○林(修)政府委員 当時の、昭和三十年協定のときの国会における提案理由の説明等を見ましても、これは少なくとも日本側としてははっきりしているわけであります。形式で云々ということを書いた理由は、その資本財及び役務を供給するというところに関連して、こういう形になったものと、私たちは考えておったわけでございます。つまり日本から金を貸す、貸した金で日本の物資をまた持っていく、そういうことを二つ結びつけた意味で、こういうふうに書いたのじゃないかと私は思っております。
  34. 春日一幸

    春日委員 今の問題は、辻原君が指摘されたアメリカの弁護士の云々——アメリカの弁護士は、アメリカへ帰って、アメリカの新聞に見解を発表しておるそうであります。これは外務省でいずれ取り寄せていただけばおかると思いますが、同時に日本の新聞も、解説記事の中に、日本の有力なる交渉委員がそういう工合に述べたからと言っておる。タイ国外交機関が——とにかく一条と二条との表現がこんなふうに狂っておる。片方は五十四億円を現金で支払うものとする、片方、九十何億円というものは、何々の形式で何やらというような回りくどい表現をしておる。私はここにインチキがあると思うのです。全然ないということならば、幾らタイだって、そんな無理難題を吹っかけてくるはずはございません。そんなものは、タイの外交機関があらゆる文言を正当に解釈するならば——これは何と言ったところで、その当時十分協議して、長い間検討、交渉をして、この文章によって妥結したのでありますから、それを純粋に経済援助、経済協力であるということを、明確にこの文言の中から相手も受け取っておるならば、今苦情をつけたり、難題を吹っかけるはずはございません。また米軍の顧問弁護士がアメリカでしかじかの発表をいたしましたり、わが国の一流新聞がこのような解説記事を掲げるはずはございません。しかしそれは、今ここであなた方と押し合いへし合いをいたしましても明確にはならぬと思いますから、私は委員長に申し上げます。  すなわち、この第二条の文言の意味、これをわれわれが的確に解説を受ける必要があり、それがなければ判断をすることができないと思いますので、その当時の交渉に当たりましたところの委員、これを本委員会に証人として喚問されたいことを要求いたします。委員、長において適当に処理されたい。  そこで本問題は、ビルマ賠償のごとく、再検討条項も何もあるわけではございません。全く違法、異例の事柄であります。当時国会はその協定について、あらゆる角度から慎重審議をいたしまして、政府答弁というものは経済協力だ、これは贈与ではない、賠償ではない、こういうふうにはっきり議決しておるのでありますから、それを変更するときは——この際、政府はこの五十四億円の現金支払い、九十六億円の投資とクレジットの供与、これは妥当ではなかった、だから、今それを変えなければならぬということについて、すなわち五十四億円プラス九十六億円の現金支払いが必要であるということについて、一切を白紙に返して、そうして政府はあらためてその理由と数字的根拠を国民の前に明示し、そうしてこの問題について、われわれの決定を待たるべきである、こういう工合に考えますが、この点いかがでありますか。
  35. 池田勇人

    池田国務大臣 三一年の協定をここに変更するという協定案を国会に提出いたしまして、そうして先般来私がその理由を説明いたしておるのでございます。これで一つ御了承願いたいと思います。足らない点は、御質問によっていかようにもお答え申し上げます。
  36. 山村新治郎

    山村委員長 春日君に申し上げます。先ほどの委員長に対する御要望につきましては、午後の理事会におきまして相談をいたしたいと思います。
  37. 春日一幸

    春日委員 次は、ビルマ賠償再検討問題について伺います。  ビルマ政府は、どういう理由と根拠で再検討を申し出て参りましたか。それから申し出を受けてから本日に至りますまでの経過を、御説明願います。
  38. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ビルマ側が一昨昨年の四月に、賠償に関する協定の再検討条項に基づきまして、この要求を持ってきたわけでございます。ビルマ側にしますれば、インドネシア及びフィリピンとの比較において権衡を失しておる、こういうことで再検討を要求してきておるわけでございますが、その後われわれとしては、権衡を失していないという立場を堅持いたしまして、先方と話し合って参ったのでございます。わが国とビルマとの友好関係にもかんがみ、またアジアにおけるわが国の今後の地位にもかんがみまして、この友好関係を強く結んでいくという考え方から、この荷検討問題について話し合いをいたしておるわけでございます。昨年の九月に、先方のタキン・ティン大蔵大臣を団長とする大がかりな視察団がこちらへ参りまして、いろいろ話し合いをいたしました。その間の経過等は、春日さん、すでに御承知と思いますから省略いたしますが、私の方も、十一月になりまして、私が団長となりまして、関係各省の専門家と一緒に先方に行って話をいたしました。たまたま総理がビルマを訪問されまして、先方の曽和との間に非常に友好的に話し合いをされて、双方の立場についての了解はお互いによくできておると考えておりますが、そういう状況の下において、この問題について、できるだけ早く双方において満足すべき結論に到達したい、かように考えておる次第でございます。
  39. 春日一幸

    春日委員 これもまた私は異様なことであります。私はこのインドネシアとフィリピン賠償、これを国会へ出されたときの速記録をいろいろと調べてみたのでありますが、その当時各委員から、さまざまな質問が藤山外務大臣に発せられております。こういうことを承認することは、後日ビルマ政府から再検討問題を惹起してくるような心配はないか、こういうことを質問されております。現に昭和三十三年三月七日、第二十八国会外務委員会において、須磨彌吉郎氏、この賠償協定これはインドネシア賠償協定をさしますが、ビルマのいおゆるエスカレーター条項にかんがみ、何らかの問題をまた起こしてくる心配はありませんかと尋ねたのに対し、藤山外務大臣は、インドネシア賠償協定交渉の進展にあたり、今日まで、ビルマ側からその問題について何の意思表示も、あるいは日本政府の意図を尋ねたようなことも全然ない、われわれとしては二億二千三百八万ドルという金額は、ビルマ及びフィリピンとの賠償金額との関連において適当なものだと思う、その意味において、本問題については何らかの意思表示が今後起ころうとは考えていない、あるいは質問が来るかとも思っておるが、これならば説明をして十分了解をしてもらうことができると確信をしておる、こういうことでございます。三十三年六月二十六日、大蔵委員会、平岡忠次郎君が、同じことを尋ねております。それに対する藤山外相答弁は、インドネシアの債権を棒引きしたのは賠償には関係がありません、ビルマに関しては、インドネシアとの賠償締結以後、特別の問題がビルマから惹起されていないし、私は別段差しつかえない関係にあると考えておる、こういうふうにずっと述べられております。私は、おそらくはそれがその当時の政府の考え方であり、しこうして国会政府答弁というものを信頼して、大丈夫であろう、外務大臣がこう言ったからには、これを承認したところで、後日エスカレーター方式によるところの再検討の申し出はあるまい、ないということであるから、ないであろうと確信をして、これに対して承認をいたしました。しかるに今日こういうようなことを相手方が言ってくることは、これは国会答弁が二様ではありませんか、いかがですか。
  40. 池田勇人

    池田国務大臣 当時の答弁につきましては十分承知しておりませんが、われわれ日本政府といたしましては、エスカレーター条項はございますが、ビルマの方としては、まあ申し出がないということを期待して答弁をされたと思うのであります。しかし情勢の変化と申しますか、向こうから追加の二億ドルを申し出ておるということは事実でございます。しかして、これに対して今折衝をいたしておるのが実情でございます。
  41. 春日一幸

    春日委員 そんな心配はない、そんなことはありませんと答弁されて、そういう心配がなければよろしからんということで承認をしたところが、はたせるかな指摘された通りのエスカレーター条項が上ってきた。どうなりますか。当時の内閣は更迭したりとはいえ、引き続いて自民党がその政権を担当してその責任の衝に当たられておる。こういうような不実な答弁あるいはその見通しを誤るといいましょうか、あるいはその場さえ過ぎればそれでよいというような態度というものは、国家の将来をあやまり、並びに国民の損失を大きくする。非常に重大であると思う。自民党の総裁として、時の内閣答弁責任は別のものでありましょうが、こういうその場しのぎの無定見な答弁がなされてきたこと、しこうしてそのことによって国会意思があやまってきたこと、これについて、いかなる責任をお考えになっておりますか、御答弁を願います。
  42. 池田勇人

    池田国務大臣 ビルマ賠償は、他の国の賠償の一番初めにやったのでございます。しこうして、そういう事情からエスカレーター条項、再検討条項を入れたことは、私はやむを得なかったかと思います。その後において他の国との賠償協定をいたし、そのときにもわれわれといたしましては、再検討条項がありますが、ビルマとしてはそういうことは言ってこないだろうという気持を持って答弁したのであります。先ほど申し上げましたように、情勢の変化で、ビルマからそういう再検討条項によって追加賠償の申し出があった、これは事実でございます。再検討条項を置いたということにつきましての当然の結果かもわかりませんが、途中におきましては、われわれはそういう要求はないと確信しておったことは事実で、見通しを誤ったと言われれば、誤ったと言われても差しつかえございません。そのための責任は負わなければなりません。
  43. 春日一幸

    春日委員 見通しを誤ったと言われればその通り誤った、責任を追及するならば責任を追及してこい。これはやぶれかぶれみたいなものですね、実際。(笑声)そういうことでは困りますよ。実際問題として、そういうことはないと思う、にもかかわらずそうなってきたならば、政府責任は重大である。そういうことで、民主政治は責任政治、従って、責任をとるの態度がなければならぬ。国民の前に深く陳謝をされる必要があると思うが、この際、その当時見通しを誤り、誤った答弁をし、国会の議決をあやまたしめたかもしれないという事柄について、この際、本委員会を通じて国民並びにその当時の国会、こういうものに対して陳謝される意思はありませんか。
  44. 池田勇人

    池田国務大臣 見通しを誤ったことにつきましては陳謝すべきと思います。しかし、今せっかく交渉中でございまして、私は二億の要求に対しましてはぽんとけって参りました、従いまして、今陳謝するということは、まだ少し早いじゃないかと考えております。(笑声)従って、今度の交渉によりまして、出したときには再検討条項のあることを前提といたしまして、また途中におきまして見通しを誤った。しかし、これは私は事実をはっきり申し上げておるのでございます。何も逃げ口上でも何でもありません。正直に申し上げておるのであります。
  45. 春日一幸

    春日委員 はなはだ誠実でよろしい。私はそういう態度が望ましいと思うけれども、後段はいけません。事実関係向こうから堂々と申し込まれ、何がしかの処理をするにあらざれば、問題の解決はないのです。まだ解決はしていない、ぽんとけった。ぽんとけったというのは二億ドルをけったのであって、どれだけにまとまるのか、いずれにしても何がしかのものを払わなければならぬ。陳謝の実というものは、なお将来につながるのですね。だから、まだ、ぽんとけったんだから今陳謝すべきじゃないなんということは、漫才か落語みたいなものですね。これはいけませんぞ総理。後段を強く戒めておきます。(笑声)  次はガリオア・エロア問題に入ります。国が債務を負担するには国内法上あらかじめ国会の議決を必要とする。これは憲法八十三条、八十五条、財政法四条、十五条。ガリオア・エロアについては今までそのような手続がとられた事実はありません。何かこれについて日米両国政府間に公的に了解したことがありますか。
  46. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この問題は、債務として確定したものは今までなかったわけでございます。しかし、これは債務性の濃いものだということでは、わが方もこれに同意をしておったわけであります。従って交渉の結果、今度債務を確定したいと考えまして四億九千万ドルをきめましたので、これを国会で御承認をいただければ、ここに債務が確定する、そのように御了承願いたい。
  47. 春日一幸

    春日委員 債務性の濃いものだということを了解しておったというのは、だれがどこで了解しておったのですか。
  48. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先方の言い分の一番大きいものは、対日の基本政策というものが極東委員会で決定されておりましたりする点、これは書類で資料として差し上げてありますが、そのほか日本政府が先方に放出を要請した時代に、先方から書きものがありまして、これは放出するが、この支払い条件、支払い金額等は後日相談するということを書きものでもらって、それを承知して放出を受けておった、こういう事情によるものだと思います。
  49. 春日一幸

    春日委員 そんな書きものはどこにありますか。資料にいただいておりませんよ。それは向こうで一方的に言ったものであって、わが国政府はそれに対して何らかの了解をしたとか、何らかの発言をしたという事実がありますか。意思表示を行なったことがありますか。
  50. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは資料1というのに差し上げてあると思いますが、その中にスキャッピン一八四四、昭和二十一年七月二十九日、それにございまして、それを見て放出を受けておりますので、了承しておるということになると思います。
  51. 春日一幸

    春日委員 この資料1、2ならみな読みました。けれどもこんなものは贈与と言明したことはないと書いてあるだけですね。何も債権債務の関係をここに明確に出してはおりません。贈与でないけれども、贈与でない援助もあるしいろいろあると思う。だから贈与でないものは全部債権債務だということはない。(小坂国務大臣「英語で書いてあります」と呼ぶ)英語だろうと何であろうと、この英語を翻訳したものが日本語じゃないのか。ばかなことを言うな。(笑声)  それからしばしば述べられている通りに、マッカーサー元帥が米国議会に発したところのメッセージ、これも強く強調されておるが、これを読んで見ると——別添2の参考資料でありますが、ここでは債権債務ということは浮かんでこないのですね。マッカーサーの表現も救済は慈善ではないと言っている。けれどもここには、救済するということは相手に貸し付けることである、債権を後日に確保するものであるということを言ってない。救済は慈善ではないと響いてある。これは救済は贈与ではないという意味ではない。それからいろいろずっと読んで参りまして、慎重に考慮すれば米国の納税者は、この処置によって一ドルたりとも損をすることはないと書いてある。ほんとうにこれが債権債務の考え方なら、相手方がその確信の上に立ってこの処理がなされておるならば、慎重に考慮しなくても小麦の一袋でも、ミルクの一かんでもみな債権債務で、何も慎重に考慮する必要はない。それから、あと読んでいってみると、これは勝利者がもたらしたところの明瞭な責任を果たすための暫定的な処理にすぎない。これはまあいうならば、ヘーグ条約でありまするか、戦勝者というものが被占領地域において、その住民の日常飢餓、これを救済することのための責任が、これはやはり国際慣例として成り立っておるのでありまするが、そういうような一連の事柄をうたっておるのであって、債権債務を立証する文章ではありません。それから二十四年の阿波丸請求権放棄のときに、日本側の何か覚書が出されておるようではありまするけれども、それもその当時の政府の独断専行によるところの越権行為であって、このようなことは何ら国会国民も関知したことではございません。こういう意味において、マッカーサー最高司令官が、ほんとうに債権債務の関係でこれをやるんだということならば、こんなアメリカ国会でいろいろなことを言ったり、それから議会に向かってさまざまな証書をしてみたり、対日基本政策がこれであるというようなことを言ったりしないで、日本政府に対して断定的に明確にこれはやるものではないんだ、結局あなたの方から代金の支払いを後日受けるものである、こういう意味の明確な文書があってもいいはずです。そういうことについては有権的な文書は何一つもない。しこうして、さらにこのアメリカにおけるいろいろな政府要人の機関に対して発言されておるところを読んでみますると、すなわち、ドッジ予算局長がアメリカ国会でこういうことを言っております。ドッジ氏は「対日援助の主要な内容をなす食糧と綿花は、いずれも過剰物資であり、商品金融会社によってすでに買い上げられているが、これは現行立法によって買わなければならないものである。その限りでは、これは現在も将来も政府支出の増加を意味しない。対日援助計画の実質は、このように主として過剰物資であることを十分考慮すべきである。一九五一年度の日本向け経済援助総額二億七千一百万ドルのうち八七%は、米国内の過剰物資の購入と輸送に当てられる」と述べておる。またドッジ氏は次のようにも述べておる。「さらに重要なことは、本年度日本に与えられる援助が、日本が占領軍に与える費用よりも少ないという率直な事実である。本年度の日本に対するガリオア援助資金要求額は二億七千一百万ドルであるに対し、占領軍のための日本政府の支払い額は一億七千九百万ドルになるであろう。駐留米軍のための日本政府の支出は、もしそれがなかったら、国防省の軍事予算等から三億四千五百万ドルの支出を必要としたであろう」こういうことで対日援助というものは、物を相当やるけれども、しかし米軍が日本において占領に要する費用の多くのものを日本から取っておるのだ、取り越しになっておるのだ。しかもやるものは、いうならば、アメリカが国内法によって買い上げなければならないから、予算措置としてすでに買ってあるところの——私はロスとは言いません。けれども、そういうような、すでに買い」げたところの、どこかへ放出せなければならない余剰農産物である。八十何%までがどこかへ処分せなければならない余剰農産物、それを日本にやって、占領費を日本からもらっておって、勘定というものは非常に合っておるのだ。ドッジ氏によれば、対日援助は他の地域と比較して割のいい投資である、そろばんに合った援助であったのである。また同委員会でヴォリーズ陸軍次官は、「日本は次の会計年度において、われわれの軍事支出の軽減の点で、アメリカの対日経済援助額よりも約二〇%よけいの金を出している。これは意味深い数字である」と証言をいたしておるのであります。以上でガリオア・エロア援助の性格は、ほぼ明らかになったと思いまするが、こういうようなわけで、米国政府諸機関で買い上げた過剰物資の、これはいうならば——私はそんなことは言いませんけれども、論証するために言葉を使うならば、廃物利用みたいなものである。こういう形であがなわれたことがドッジ予算局長の証言に徴して明らかである。こういう意味でガリオア資金が正式に米陸軍省の特別予算に計上されたのは一九四七米会計年度であります。エロア資金のそれが一九四八米会計年度で、いずれも援助開始のときからずっとおくれている関係も、これによって立証されると私は思うのであります。こういうような関係から申しますると、アメリカはほんとうに債権債務という考え方であれを放出しておったのかどうか。アメリカ国会におけるこういうような有権的な証言、その他いろいろな文書の判断、これは大いに判読しなければならぬと思う。マッカーサー文書だって、おれは払いたい払いたいという気持で読めば、それはどうも債務性を濃厚に浮び出させることもできるだろうけれども、しかし、少なくともアメリカにおけるこの各種委員会において、国会においてドッジ予算局長の立証したところによると、すでにアメリカ予算で買い付けた余剰農産物、これを日本にやって、そうしてその飢餓と窮乏を救い、かたがた日本政府に占領の費用を出させるのだ。実に割の合ったことだから、そんなにやかましくおっしゃるな、こういう解釈がついている。だから、そういう意味合いにおいて、マッカーサー将軍のアメリカ議会に対するメッセージを判読するならば、慈善は、これは贈与ではないと書いてあるが、慈善は債権であるとは書いてない。そうしてこれは当分やらなければならないところの戦勝者の義務である。それを裏づけるものはヘーグの戦争条約である。かくのごとく一連の判断を加うるならば、これは債務じゃないのだと思うが、いかがでありますか。いつごろから一体日本で債務だ債務だと言ってわめき出したのですか。片山内閣も芦田内閣も、その当時の内閣でありますけれども、片言隻句もそんなばかげたことを言っておりませんよ。いつごろからそんなばかなことを言い出したのですか。
  52. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ガリオアの問題は日本だけではございませんで、ドイツの場合も同じ状態があったわけでございます。ドイツはすでに一九五三年に協定を結びまして、債務を払うことにしてありまして、すでにそのうちの十億ドルのうち八億ドルまで払っておるわけなんであります。今のお話しの中に、ガリオアというのはだいぶあとから始まったじゃないかということがございましたが、その前にブレガリオアという勘定で処理されておりまして、当然ガリオアと同性質のものであるということで経理されておるのであります。われわれは、さっきも申し上げたように、昭和二十一年に占領軍の指令書をもらいまして、この支払い方法、金額はあとで相談するということを請書を出して、放出してもらっているわけであります。これは歴代の内閣が、片山内閣も含めて放出を受けておったわけであります。これを承諾している以上、やはりその支払いについて協議に応ずるということはわれわれも承知して、その放出を受けておったわけでありますから、これについては、われわれとしては、それは知らぬと言うわけにはいかないわけであります。昭和三十年に、当時の外務大臣重光さんがアメリカへ行かれまして、共同声明で、この問題については至急に解決しようということを言われ、その後、東京で会議を開いて、ずっとそれ以来問題になっておる問題であります。
  53. 春日一幸

    春日委員 そのプレガリオアの問題ですけれども、これは当時アメリカ占領軍がオールマイティでありましたころに、御承知通りわが国の為替相場は複数為替レートでございました。輸出は円安レート、輸入は円高レート、それで貿易公団をして買い上げ及び払い下げを行なわせておったのでございまして、当時の貿易資金特別会計は大きな赤字になりました。それで赤字の大部分が援助物資払い下げ代金によって埋められ、そうして少なくとも二十四年三月までは援助によったところの金は、この穴埋めに使われたのです。あの円レート、複数円レートを作ったのは米軍です。これは米軍の行政技術上の必要によってもうその中に消費、償却されてしまっておるのです。日本国民の関知したことじゃございません。輸入は円高であり、輸出は円安ならば、大きな赤字になる。大きな赤字になるそのレートをきめたものは米軍である。その赤字は米軍が行政上の操作によって埋没せしめてしまったものであって、これは米軍がやったことで、こっちは関係ないのです。行政技術上やったもので、こっちは関係ありません。(「六百円の千円レートだった」と呼ぶ者あり)今おっしゃった通りであります。  それから、ガリオアについては、ドイツはあるが、その例はどうだと言っておられますけれども、このドイツの問題も、各党とも十分調査をしておるわけでありまするが、これは、一九四五年のポツダム四国会議、これによって確認された。ドイツはガリオアのほか多額のマーシャル・プランによる援助がございます。そうして、その中にはドイツの戦前債務も含まれております。日本はマーシャル・プランがありません。戦前債務も含まれておりません。そういうわけで、ドイツと一括並行の形で処理するということは、これは異質のものである。全然違うのです。  だから、プレガリオアの問題は今申し上げた通り。それから、西ドイツが払っておるからといったところで、西ドイツと日本との関係は、今申し上げたように、ポツダム四国条約、それからマーシャル・プランの援助、戦前債務の関係日本とは全然違う。ファウンデーションも違うし、そのコンストラクションも全部違う。何でも日本に不利なことを強調される必要はないじゃありませんか。小坂さん、あなたのような愛国者が、何たる不謹慎な発言ですか。  それから、もう一つ、この際日本国民として私はアメリカに言いたい。実際問題として、日本はあの原爆によって数十万人が爆殺されておるのです。これは、ジュネーブ協定でありますか、毒ガス兵器等の使用禁止に関する戦争条約があります。私は、原爆から来たるところの放射能は、実際問題として毒ガス等の中に含まれると思う。こういう原子爆弾なんかを使って何十万人も殺すということは、一阿波丸を戦争条約に違反をして撃沈をしただけでもって大きな賠償責任があるのでありますから、少なくとも、そのような残虐兵器を使用することによって相手国の国民何十万人を爆殺したということについては、やはり私は国際法上国家の責任というものがあるはずだと思う。こういうような点についても日本は黙っておるのです。さらに、戦後処理の中においては、琉球はいかがですか。小笠原はいかがですか。南洋諸島は当然のこと、国内において、米国に対するところのさまざまな反対給付というものは、現実の問題として枚挙にいとまがない。これらに対して何らの要求をしていないではないか。  そのようなときに、今ドッジ予算局長がアメリカ国会において証言されておるがごとく、これは買い上げた廃物なんだ、これを日本にやって、そうして戦勝国としての責任を果たすんだ、同時に、日本からはこういうような占領費を払ってもらっておるのだから、アメリカの納税者としては大きな損失をするものではないと、こう言っておるのですよ。かれこれ一連の事柄を判断するならば、今ここにわれわれはアメリカの友情を多とする。あのとき、飢餓と窮乏と疫病の中から、アメリカのこういう救援物資で救われたことに対しては、感謝は感謝として、深く肝に銘じて忘れたい。けれども、それは、今日本が、国内の治安あるいは民生、産業経済大いに復興したりとはいえ、何百万人かのほんとうにボーダーラインにうごめいておる多くの人々もある。国際収支は今や逆調、四月には危機来を訴えられておる、このようなときに、二千数億円という金を、アメリカがほんとうに日本に払ってくれと言っておるのですか。払わなければ承知しないと言っておるのですか。私はこれを聞きたい。小坂外相、御答弁を求めます。
  54. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほどの御答弁の中で少し漏らしましたのですが、終戦処理費は、わが国は五十四億ドル払っておりまするが、これは、西独の場合でも百二十七億ドル、わが方の倍払っておるわけです。  なお、先方に対する請求権でございますが、これは、御承知のように、平和条約第十九条の(b)項で放棄をいたしておりますので、これに対してこの際に反対請求権を持つというわけにはいかないわけでございます。  アメリカ日本にこれを払えということを言ったかということでございますが、これは、先ほどの御答弁の中にも申したように、昭和三十年以来、このことはアメリカの方からしばしば要求があったわけでございます。ただ、幾ら払えということについては要求はないのでありますが、どのくらいか、一つ交渉して決定しようじゃないか、こういうことはございました。私どもも、私どもの能力の許す限りにおいてこの問題については精根を打ち込んで、四億九千万ドルということをきめる努力をしたつもりでございます。
  55. 春日一幸

    春日委員 私は、アメリカも、なるほど十七億何千万ドルという集計額にはなるけれども、その全額を要求してはいないということ、これはわかる。だから、責務性の中においても、これはやはり、アイ・オウ・ユーという程度の、言うならば自然債務的な一つの性格があり、アメリカもそれを認めてのことだとは思います。けれども、それはそれといたしまして、日本の側といたしましての主張は、こういう目にもあったんだから、ああいう目にもあったんだから、——現に、沖繩のごときは、アメリカの極東政策の遂行の必要に全的にこれをゆだねておる。戦争によって領土的野心はないとか、いろんなことは約束がされておるのに、琉球、小笠原においても、みんなその大筋の約束を越えての処置が現実になされておるのです。だから、こんな小さな勘定を、日米親善友好立場から、アメリカは要求していない、アメリカのヒューマニズムはそんなけちくさいものではないと私は思う。ドッジさんが、とにかく余剰農産物を買い上げたもの、しかもすでに予算が支出されておるもの、そいつをやるんだから、アメリカの納税者は損するものじゃないんだから、こうも言っておる。マッカーサーは、こういうような供与を行なうということは、これは、戦勝国が被占領国民に対して、疫病、飢餓、民生の安定のために当然尽くさなければならないところの国際慣例、その義務を遂行しておるんだから、アメリカ国民心配するなと言っていらっしゃる。これを正当に受け取ったらどうですか。ありがとうと受け取ったらどうですか。それを、あなたの方は、電光さんが向こうに行って、返す返すと言っている。独断専行、越権行為だ。申し上げた通りです、そんなことを言ってはいけません。アメリカ側は非常に親切にやっておってくれるのを、こちらで返す返すと言っていきり立つことはないじゃありませんか、全く。大いに反省を求めたい。  そこで、私は、今度は別の角度からお伺いしたいと思うのでありますが、質問はこれです。  国がその代金を後日支払うことを条件にしてその代価の支払いをせずに物件の受け入れを行なう行為、これは、国が返済責任者となって借金をする行為と同じように、国が債務を負担するの行為に該当すると思うが、総理大臣、いかがですか。
  56. 池田勇人

    池田国務大臣 お話の通りでございます。まず契約をいたしまして、そして物を借りてくれば債務でございます。しかし、案件の対日援助というものは、契約ではございません。向こうが支払うべきものだとして供出したのでございます。だから、われわれは、債務であるとは言っておりません。今までは債務と心得て言っておるのであります。
  57. 春日一幸

    春日委員 問題はそこであると思うのです。債務じゃないと心得ておる。債務じゃないなら、ほんとうに債務じゃないのですよ。債務であるから支払わなければならない、協定を作成しなければならないことになってきておるのです。だから、その債務というものは一体何ぞや、憲法八十五条のいう債務とは何ぞや、問題はここでありますが、国が返済責任者となって外国から金を借りる行為、これは債務負担行為でありましょう。ところが、国が支払いの責任者となって外国から金を支払わないで物件を受け入れるの行為、たとえば、具体的に言いますならば、いずれ金は払う、対価は払うからといって、金塊を外国からもらう、あるいは軍艦、飛行機をもらう、金は払わない、いずれは日本国政府責任において払います、こういうようなものは債務を負担するの行為ではありませんか。
  58. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいまのところ、まだ債務を負担していないのです。
  59. 春日一幸

    春日委員 私はそんなことは言ってない。一般論として、概念論として、今申し上げたように、日本が支払いの責めに任ずることを条件にして、支払いを行なうことなくして外国から物件の受け入れを行なうの行為は債務負担の行為にあらざるや、御答弁を願います。
  60. 池田勇人

    池田国務大臣 支払い義務が確定していないのでございますから、債務負担の行為とは申されません。
  61. 春日一幸

    春日委員 支払い義務が確定していないといったところで、それはおかしいじゃありませんか。よそから品物をもらって、払わない、支払いの協定がなされていないとするならば、それはただということですか。もらったものとみなしていいのですか。もらったものとみなしていいのなら、以降の論述を行なうこともないし、当初の私どもの主張であります。いいですか、第三者から品物を受け入れる以上は、もらう場合か、対価を払う場合か、二つしかないではありませんか。力で略奪する場合もあるかもしれないけれども、ネコババをする場合もあるかもしれないけれども、それは別にいたしまして、厳密には三つしかない。よそから対価を支払わないで品物を受け入れるの行為は、これは、あとで金を払うか、ただでもらうか、無理を言ってネコババをするか、三つしかない。いかがです。(「借り受けだ」と呼ぶ者あり)だから、借り受けならば債務です。
  62. 池田勇人

    池田国務大臣 三つしかございません。それで、三つを含めて債務と心得ておったのであります。
  63. 春日一幸

    春日委員 それでは、そのネコババの部分も含めて、もらう部分も含めて、それがこのガリオアの性格だと、こうおっしゃるのですか。
  64. 池田勇人

    池田国務大臣 ネコババというのはちょっと言葉が悪うございますが、払うか、もらうか、あるいは負けてもらうか、どういうことでございます。
  65. 春日一幸

    春日委員 ただ、そういう問題は、憲法運用の問題として、このガリオアと離れて、大きな前例になる問題でありましょうから、慎重に考慮して、この場しのぎの答弁で悪い前例を作っては相なりません。憲法の運用は大事であります。しかも、それが、国会の了解のもとに行なわれるということにつきましては、さらに慎重なる配慮を加えなければならぬでありましょう。私は申し上げますが、そういうことならば、むやみに品物を外国から受け入れていいのですか。要するに、支払い条件も明確ではなくして、何かわからない、まあどんどん来い、けれども、そのものは、ある分は払うぞ、ある分は負けてもらうぞ、ある分はもらうぞ、そうい形でどんどん来い、こんなことが前例とされてよろしいか。
  66. 池田勇人

    池田国務大臣 そういうことはよくないんでございますから、われわれは、ああいう戦争をして、敗戦を二度としたくたい。われわれ、あのときに、これは支払うべきものなりということにつきまして内閣も承認いたしております。そして、どんどん入って参りまして、感謝決議もいたしておるのであります。これは厳然たる事実であります。二度とあるべき筋合いのものではございません。この事実を早く解決して、ああいうことを忘れたいというのがわれわれの考えでございます。   〔発言する者あり〕
  67. 山村新治郎

    山村委員長 静粛に願います。
  68. 春日一幸

    春日委員 今加藤君の言われるように、これは国会が感謝決議をしております。実際に、ほんとうにすなおな気持でありがとうと感謝決議をしておる。これは事実として大いに重視していただかなければならぬと思います。ただ、今これから私が論ぜんとするところは、ガリオアの問題を若干離れて、そして大いに戒心せなければならぬことは、憲法八十五条の運営についてであります。今総理が言われたが、これは債務ではありませんと言われておる。では純粋に債務ではないかというと、債務的性格を持っておるものだから、従って、ここに協定を結び、国会の議決を得て支払いを、すなわち債務を履行されようといたしておる。だから、ああいうものを受け入れた行為、債務を負担した行為が戦後からずっと行われておったのです。この問題は、もらったものもあり、一部は払い、一部は負けてもらう、こういうことを含めておるから、純粋の債務負担行為ではないと言われておるけれども、一部たりとはいえ、少なくとも国が後日支払いの責任を負わなければならないというような事柄を伴う行為は、債務を負担するの行為である。こういうことでなければ、今後、国が外国から品物を受け入れる受け入れ行為を行なうときに、何も国会に相談をしないで、何でも勝手にやっていけるということになれば、国会の審議権、憲法が保障しておるところの国権の最高機関の職務権限、これを行政府が侵すことになる。重大なことだと思われるが、その点どうです。
  69. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど申し上げましたごとく、戦後において、餓死者も出る、こういうふうな状況のときでございます。事実それは来ておるのであります。今後はそういうことはあるべきものではございません。しかし、これはもういたし方のないことではございますまいか。
  70. 春日一幸

    春日委員 私は、これは重大な、デリケートな関係があると思うので、ぜひとも、外務大臣、大蔵大臣、通産大臣、藤山大臣、みんな大臣方に聞いてもらいたいと思うのです。今おっしゃったように、特殊異例の事柄であった、全くそうであったと思うのです。だから、問題は、憲法の運用というものがそのときに誤られておったのではないかという点と、そうではなくて、憲法は恪守しておったけれども、時の内閣がそれを債務とは心得なかったか、二つに一つでなければならぬと思う。と申しまするのは、憲法が発布されたのが昭和二十一年十一月の三日でありましたか、施行されましたのが昭和二十二年五月の三日ですね。それから、憲法が施行された当時は、選挙中で、国会はございませんでした。新憲法施行後初めて持たれた国会は片山内閣でありましたね。それだから、このエロア・ガリオアの物資を受け入れるの行為は、憲法施行前からずっと継続して行なわれておった。終戦直後から昭和二十二年の五月三日以前もずっと行なわれており、さらにその行為が継続して行なわれておったのですね。ここに重大な。ポイントがあると思うのです。だから、憲法八十五条の、国が債務を負担するときは国会の議決を要するということは、この憲法が施行されたら、すべからく、時の内閣は、これが債務であると認識したならば、国会の議決を得なければならぬ、承認を得なければならなかった筋合いのものであると思う。ところが、片山内閣はこれに対して国会の議決を得られておりません。あとに続く芦田内閣もそれに対して国会の議決を得られておりません。なぜ得られておらないか。そのときには、マッカーサーさんも重光さんもそのいろいろな発言をされるずっと以前のことですから、その当時の片山内閣、芦田内閣の認識なるものは、すなわち感謝決議によって象徴されておるがごとく、これは向こうの援助なりと受け取って、感謝とともに、これをもらったものと考えて、国会の議決をしなかったのではないか、私はかくのごとくに理解せざるを得ないのであります。この点、いかがでありますか。法制局長官答弁は求めません。
  71. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お話の中に感謝決議の問題が出まして、私も、さような決議をしておる点があるかどうか、これは非常に重要な問題でございますから、よく決議の内容も見てみましたのでございますが、あの決議の中には、輸入食糧の確保について感謝をしておる、それから輸入食糧の放出について感謝をしておるということで、贈与を受けて感謝をしておるという字句は、どうも感謝決議そのものからは見当たらないのでございます。国と国との関係でございまするから、やはりさような点に着目しなければならぬかと思います。  それから、先ほど私の申し上げたことの中で少し足りない点がございますのですが、このガリオア処理の最初の米側の要求はいつからかというのでございますが、最初にガリオアの返済を要求してきましたのは、一九五二年、昭和二十七年、これはマーフィ時の駐日大使から書簡で要求して参りました。それから、一九五三年、昭和二十八年の八月に、池田・ロバートソン共同声明これも公表されておりますが、この件に触れまして、本件は東京で交渉するということになっております。一九五四年、二十九年夏、共同声明に基づきまして、東京で公式会談を行ない、その後、昭和三十年、電光・ダレス共同声明になっておる、こういう関係になっております。
  72. 春日一幸

    春日委員 時間がないので、これは、総理、憲法運用の問題として、向こうから言うてきたとしたところで、それはずっとあとで、言ってきたのです。言ってきたときには、もう受け入れてしまったから、そんな気持でもらってしまったつもりで、あとからこれは払ってくれと言ってきたって、それは話が違いますといってぽんとければいい。それが外交です。自主独立の外交とはそういうものだ。自分たちの考え方と相手の言い方とが違っているときには、ノーと言うだけですね。(笑声)そうですよ。何でもイエス、イエスと言って共同声明なんかに捺印されることは、これは、過ぎたことだから仕方がないといたしましても、適切ではない。だから、私は、この際、片山内閣意思というものを次の内閣がいかに継承すべきものであるかというところ、これは重大であると思う。私は、片山先生にも、芦田先生はなくなられたが、副総理でありました西尾先生に聞けばわかると思うのだが、従って、私は、片山内閣、芦田内閣がこれについて国会の議決の承認を求めていないということは、これは、責務負担をしておるという認識がなかったから、もらったからだ、いただいたからだ。その内閣方針というものはずっと踏襲されてしかるべきものである。それを変更するときには有権的な意思表示というものが必要ではないかと思う。前の内閣がそういう気持でやってきたことを、もらったと思っていたことを、あとの内閣が、これは借りたのだ、払うのだということをにわかに言い出してもらっては、現実の問題として国民は迷惑すると思う。この点は非常にデリケートな問題でありますから、私は二、三冊やらなければならぬと思うのだが、時間が迫って参りまして、一冊の半分で過ぎてしまって、まことに残念でありますが、これはいずれにいたしましても重大な内容を含むものでありまするし、アメリカも今ドル防衛のために非常にさまざまな措置を迫られてはおりましょうけれども、同時にまた、日本も同様の立場において、かつはまた、国内において生活ボーダーラインの諸君の生活困窮の問題も解決がされておりません。こういうときには、その当時のいきさつや、さらに文献、——西ドイツがどうと言われたところで、西ドイツとは中身も違う。だから、身長にも慎重を重ねられて、さらに十分国民の納得する形でやってもらいたいと思うのです。特に、この支払金の使途に関する交換公文なんかは、返済資金の大部分を低開発諸国への経済援助に関するアメリカの計画推進の原資に充てると言っておりますけれども、はたしてこれがアメリカ国会の承認を得られるかどうか保証がない。私は、今総理答弁されたように、これは全く贈与的な性格を多分に持っておったものであるし、負けてもらうべき三振の根拠というものが非常に強いのであるから、かりに払うとすれば、われわれといえども、これは自然債務として、出世払いといいましょうか、情勢がよくなればアメリカの必要に応じて御恩返しをしなければならぬという認識と感覚はある。だから、その返し方というものについては、後進国開発のために、それもアメリカの後進国開発計画ではなくして、日本国独自にもまた後進国開発の計画というものはあるでありましょうから、日米合同委員会が合意に達したところその開発計画の原資としてこれを全額使用でき得るように、さらにまた、その額についても、四億九千万ドルということであるが、これはとほうもなく大きい。だから、これをさらに圧縮をいたしまして、われわれ国民感情に沿うように一つ再交渉してもらいたい、このことを強く要望いたします。  委員長、時間が追っておるようですけれども、わが党は一人なんだな。だから、もうちょっとやらせていただきたい。   〔「やれやれ」と呼ぶ者あり〕
  73. 山村新治郎

    山村委員長 そういうふうに言っておると時間がなくなりますから、どうぞ。
  74. 春日一幸

    春日委員 与野党の御了解をいただきましたので、(笑声)経済問題に移ります。  経済の高度成長政策並びに国民所得の倍増政策でありますが、この際、池田内閣の言われる経済の高度成長政策と所得倍増政策、この意義とその価値について批判をしながら質問いたしたいと思います。  まず、将来をはかるためには過去についてその実績を調べてみなければ相なりませんが、この際、経済企画庁の調査統計によりますと、国民所得の実績調べ、これを過去十カ年について調べてみました。国民所得は、実質で、これは対比率を正確にいたしますために昭和九−十一年度の平均基準によってこれをスライドいたしておりますが、企画庁の調査もそうなっております。昭和二十六年度の国民所得は百五十四億、十年後の三十五年度には三百三十七億と、国民所得は倍増いたしておる。国民総生産も、二十六年度は百八十四億、三十五年度には四百十八億と、これまた倍増以上に達しておる。しこうして、予算規模も、従って、名目額では、二十六年度の七千九百三十七億が、九年後の三十四年度にはすでに一兆五千百二十億と、それぞれ倍増いたしております。このことは、過去十カ年においても、わが国の経済成長と国民所得の増加が、池田総理が昨年来叫ばれておる通りに、それは高度成長しておることを示しまして、また、所得もそのように増加しておることを物語っておると思うのでありまするが、総理は、このことについてどのようにお考えになっておりまするか。
  75. 池田勇人

    池田国務大臣 昭和二十六年から昨年までの実績は、お話の通りだと思います。
  76. 春日一幸

    春日委員 ここにわれわれが大いに判断をしてみたいと思うことがございます。それは、この過去十カ年間において、それぞれの内閣責任者であられたところの鳩山さん、あるいは石橋さん、あるいは岸さん、こういうような方々が、高度成長政策とか、所得倍増論、そんな看板を上げもせず、また、そのような格別の政策を上げられもしないにもかかわらず、わが国の経済はそのように成長し、そのように国民所得は倍増いたしておるのでありまするが、これは、池田総理のように、高度成長政策、所得倍増論といってわめき立てても、あるいはまた、岸さんや石橋さんや鳩山さんのように黙っておっても、結果は同じことだということは、一体どういうことだとお考えになりますか。
  77. 池田勇人

    池田国務大臣 過去十年の状況と、これからの十年の状況は、おのずからそこに違いがございます。そこで、過去十年のわれわれの努力が実るように、今後は過去十年よりもむずかしいけれども、あの実績を考えて、そうして大いに伸ばそうというのが私の政策で、言わなくてもいいじゃないかとおっしゃるが、私は、言って、国民のいわゆる潜在成長力というものを伸ばすのが政治だと思います。はたせるかな、各国もこのごろは言い出してきておるようでございます。
  78. 春日一幸

    春日委員 私は、池田さんが掲げておられます高度成長政策、所得倍増論、これは、非常に印象的にバイブレーションを描いて、国民経済をはなはだ刺激して、今日さまざまな不均衡、アンバランスを生じて参りました。私が申し上げたいのは、高度成長政策とか、所得倍増政策というものが、これは池田内閣の特異の政策であるとか、何か非常に効果のある、意義の深い政策のように一部の人には受け取られておる面がなくはないと思うのでありますが、実績から言ってみると、そんな泥くさいことを言わなくても、自由主義の経済のもとにおいては、すなわち自由にして公正なる競争の原則の上に立って利益の拡大のために経済というものが努力されている。すなわち、一定の経済の基盤を備えた場合においては、資本主義経済、自由経済というものは、ほうっておいても成長していくんだ、過去の実績が十年間に倍になっておると同じように、高度成長政策とか所得倍増とかいってあおぎ立てなくても、経済というものは大体において成長していく、それが資本主義経済、自由経済の特質である、自律的作用というものはそういう方向へ向いていくんだ、私はこういうふうに考えますが、いかがでありますか。
  79. 池田勇人

    池田国務大臣 自由主義経済、資本主義経済はそういうふうに向いていくのが普通でございます。しかし、しからば過去のごとく十年間二倍が黙っておっていけるか。そうして、ほんとうに二倍になっても、その間にどういうふうな不均衡、——所得の格差、地域的あるいは業種別いろいろな格差がございます。それを、倍増計画をしながらこれをやっていこうというのが私の考え方でございます。あなたのような考え方なら、何もケネディがニュー・フロンティア四・五%と言うことはございません。OECDが十年間に五割増しということも言わないでしょう。自由主義国も最近みな言っておるじゃございませんか。また、所得倍増というのは、私は言っておりますが、五、六年前にイタリアは、五年五割と言っております。イギリスは六、七年別に——五、六年前ですか、二十五年倍増ということを言っております。私は、それを、過去の実績にかんがみまして、われわれは十年以内に一つ倍増し、そしていろんな格差をなくしよう、これが私の新しい政策だったのでございます。
  80. 春日一幸

    春日委員 私が申し上げんとしておることは、資本主義政権が資本主義経済に介入しようと思うときには、おのずから限界があるということを言いたいのでございます。社会主義計画経済においては、五カ年計画、十カ年計画、その通りに進んでいきます。なるほど、ケネディにも政策があり、においても計画性を持った資本主義政権というものがさまざま行なわれておりまするけれども、それは、あなたも十分御研究されておりまする通り、拍車をかけようとするときには手綱を締める。すなわち、行き過ぎたときにはそれをため直す、足らざるときには補っていくという、資本主義経済の中において資本主義政権が政策的に関与するという限界というものは、それは、その本質の活動そのものに、本体に圧倒的な影響力を与えるような限界であってはならないということなんですね。高度成長政策とか所得倍増論とかいうようなことはあまり言うてはいけないということです。考えて、それを目標として、理想として描くことはいいけれども、そのためにさまざまなことをやるということは、結局そういうことにならないということなんだ。たとえば、あなたの外貨収支の見通しだって、当初見通しと実績というものは違っております。物価だって、上がりはしない、横ばいだとおっしゃったものが、上がっておる。生産だって、伸びだって、ぴたり合ったものはありません。大きく狂ったもの、国際収支の逆調なんかその一例であります。だから、私は、こういうように分析し、判断いたしますならば、池田さんのような勇気のある良心的な人が、本気で月給倍増論なんというものを政策として研究されて、そうしてそれをいろいろと国民に訴えられておるのではないと思うのです。私は、資本主義経済というものと計画経済、社会主義経済というものとは本質的に違うんだ、違うにもかかわらず、所得倍増論とか高度成長政策、何年に何%でどうというような小さい数字まであげてやっておられることは、まるで、言うならばこれは社会主義計画経済である。私はそれに反対するものではございません。われわれの理想社会は、福祉国家を通じてこれを民主社会主義社会にアウフヘーベンするというところにある。計画経済については私どもは本質的に賛成なんだけれども、そのためには、一切の基盤、国民生活から社会慣習から一切の制度全般が均衡のとれたそういう制度化されなければ、むやみにそのような計画性を押しつけていけば、アンバランス、不均衡を生じてくる。だから、現に、私が申し上げるまでもなく、その結果が現われております。国際収支の逆調、物価の値上がり、労働力の不足、社会資本の立ちおくれ、所得格差の拡大、こういう工合になっております。そういう計画性を無理やりに概念的に押しつける結果、均衡が全部にはかられていないから、軌道があまねく敷かれていないから、そういう結果が現われてくると思うのです。だから、この所得倍増なんというようなものは、そのもとをただせば、選挙のときに何か選挙民にアピールするいい選挙スローガンはないかしら、所得倍増論、これはいいだろうというようなことで、ふと思いつかれてそれを掲げ、そうして、野党からそれに対してさまざまな質問があるものだから、今度、負けずぎらいなあなたが、それをあとから合理化しよう。政策化しようというので、やっきになってあんな数字をやられてきた。そのために、経済を刺激して、さまざまの、今も列挙いたしましたような国民経済の中に悪い面が現われてきたのではないかと思うのです。この点、あなたの確信はいかがですか。要するに、計画経済、資本主義経済、自由経済、その各経済に対する政府の計画性の限界というものはどうあるべきかという、これについて伺います。
  81. 池田勇人

    池田国務大臣 自由主義経済でございますから、政府の計画と申しますか、考え方が民間をずっとしゃくし定木に指導していく筋合いのものではございません。私は、所得倍増計画は昭和三十二、三年ごろから考えておりました。初めて発表したのが昭和三十四年の一月だったと思います。選挙は三十五年の十一月でございますから、二年近くあったわけでございます。何も選挙のために言ったわけではございません。しこうして、所得倍増計画も、十年以内の倍増計画も、私は、日本のあの昭和三十三年、三十四年の伸び方を見て、これは大体九%程度ほどほどにすべきだというので、何もどんどんやれと言ってあおったわけではございません。ただ、三年間は、いわゆるベビー・ブームと申しますか、雇用の労働人口が非常にふえてくるから、十年以内の倍増だが、三年間は大体九%程度でいくのがいいではないか。これは今までの実績から言えば腹八分目だが、そのくらいの程度でいってもらいたい、こういうことを言っただけでございまして、計画経済とは違うのであります。
  82. 春日一幸

    春日委員 それにもかかわらず、国民の受け取り方は、何といっても、高度成長政策、それから所得倍増、これを印象的に受け取って、そうしてあのような形で結果的には設備投資というものが旺盛に行なわれた。これがさらに二次、三次のいろいろな投資を生んで、ああいうような形になり、それが反転して国際収支の中にこういう悪い影響を与えて、本日の危機を招来いたしておるのであります。だから、それは、結局の話が、昨年度の神武景気から本日のなべ底不景気になったということは、その政権の衝に当たられたところのあなた、それから、あなたの言われておるところの代表的な政策というものの結果と見るべきであります。  しこうして、本質的に考えるならば、高度成長政策とかなんとか言わなくても、結果的には、過去の実績を判断するならば、一定の条件、一定の基礎の上に立ったところの資本主義経済というものは自律作用によって伸びていくのだ。だから、それに対して悪い刺激を与えるような月給倍増論なんかの看板はこの際おろしちゃったらどうだ、ちょうどあの当時は選挙スローガンで使われた。これはわかる。社会党も牛乳三合論なんというものを使ったけれども、しかし、今社会党も牛乳三合論なんかけろっと忘れてしまっておるし、あなたも、こんな月給倍増論なんかけろっと忘れて、そして、そんなことを二度と口にしないで、そうして、経済というものは、政府の介入する限界というものは、そのようなあおり立てることではなくして、やはり、過ぎたるものに対してはこれに対してブレーキをかける、足らないものは積極的に補っていく、むしろ社会政策とか、そういう社会政策的立場に重点を置いて施策をこらすべきものであって、ただ単なる経済成長に重点を置かれるべきものではないと思う。この点についての御反省はありませんか。
  83. 池田勇人

    池田国務大臣 私が従来から考えておることであり、わが党の政策の根本でございます。この根本を変える気持はございません。ただ、この政策によって不均衡の生じた点につきましては、これを均衡をとれるようにしなければなりません。今、均衡をとれるようにいたしておるのであります。そして春日さんは非常に不景気で、なべ底不景気だとおっしゃいますが、私の見るところは、そんなに不景気だとは思ってない、一部に不権衡のしわの寄ったところのものは直しますけれども、全体として日本が非常に困った状況だとは思っておりません。これは直し得ることであり、これを越えれば非常な明るい場面に出てくる、こういう考えで努力を続けておるのであります。
  84. 春日一幸

    春日委員 私がう言ことをそうじゃないと言われておりますけれども、これは私個人が申し上げるのじゃございません。この間朝日新聞の笠信太郎氏のあれでありましたが、とにかく池田さんは景気という馬の上に乗っておるだけだ、景気という馬を池田さんが走らしておるのではない。走っておるその馬のしに池田さんがぽんと乗っておるだけだ、こういうことを言っております。景気がいい、悪いという問題は、政策の影響はそれは大いにありはいたしまするけれども、政策の影響よりも、より多く資本主義経済そのものの持つ自律作用、こういうものに負うところが多いのでございます。だからその点を十分勘案されて、あやまたざる施策を願いたい。今の景気とあなたの方針とが、不景気じゃないと言っておられるけれども、現実には不景気なんです。黒字倒産があります。中小企業へのしわ寄せがある。金融引き締めの施策が、中小企業に寄って、黒字倒産があります。それを好況だと言ったところで、中小企業者は納得いたしません。だから現在の国民経済と現在の日本国政府の考え方が、言うならば、鞍上人なく鞍下馬なしという言葉があるが、人馬一体、こういう形にならなければだめなんです。今あなたが日本の経済は不景気でない、相当行き過ぎておったやつがちょっと悪くなっただけだ、景気がいいんだとおっしゃったところで、中小企業というものや、そのもとに働く労働者、千六百五十万の店員、工員の生活は暗いのです。私はここに労働省の統計を持っておりまするけれども、申された通り所得のアンバランスはひどうございます。規模別賃金格差の数字なんて見てみますると、昭和三十六年度において、大企業のそれに比べれば、中小企業五百人未満のものについては賃金七三%、三十人以下のものについては五〇・九%、・賃金は半額でございます。大企業はいよいよ大きくなり、中小企業はいよいよ萎縮する。末端肥大症である。そうして他の一端は萎縮症である。こういう工合日本経済はひずみ、ゆがみ、二重構造を描いて参りました。そういうようなわけで、各階属間においてこんな所得格差がございまするし、また現実にはそういうような被害が中小企業その他の面において、企業しの障害が現われて参っておりまするから、総理が、今、日本の経済は不景気でない言われたところで、ああそれならばりっぱな経済であるか、健全な経済であるか、均衡のとれた経済であるかといえば、何人もそうだとは申しません。だから、そういう意味で一つ大いにその認識を改めて、今後の発言なり、私はこう言ったのだから間違いないのだというようなことでなしに、現実にこの労働省の賃金統計なんというものはそういうふうに半分しか、三十人未満の店員、工員の給与は、大企業、官公労のそれに比べれば五〇・九%、半額である。これが日本の経済の実勢である。それがりっぱな経済、国民の経済だとは言えません。だからこの点は大いに御反省を促しておきます。  それから技術的な問題でありまするが、綿製品に対するアメリカの賦課金の問題、これはどういうふうにされておりまするか。日本の繊維品の輸出は、日本の輸出総額の三〇%、対米関係で今問題となっておりまする賦課金が課せられまするならば、これは日本の死活に関する重大な問題である。従いまして、政府はその賦課金阻止のためにどのような対策を今とられておりますか、将来とらんとされておりますか、これは小坂外務大臣からお伺いします。
  85. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この綿製品の賦課金問題につきましては、一貫して外交ルートを通じまして強くアメリカ側の反省を求めております。池田総理アメリカへ行かれたときにも、従来日本は五年間輸出規制をやっている、その間にアメリカにおける綿製品輸入の中に占める日本のシェアというものが非常に減っておるのだということを強く言われまして、先方の政府においても、大統領以下この点については強く了解をしている。そこで二国間の関税取りきめについても、これはかなり日本の方として、今までに対して事態を改良し得たと思っているのでございます。そこへこの綿製品の賦課金問題が出てきた、こういうことになるならば、実質上の関税引き上げになるので、この繊維協定を取りきめても実際その基礎が動いてしまうことになる、こういうことはぜひやめてもらいたいということを強く申しておるわけであります。なおジュネーブにおける長期取りきめの際にも、賦課金の問題は非常にわれわれ強く主張して、こういう問題がまつわっておったのでは、長期取りきめは意味はないのではないかということも申しております。また、アメリカにおります朝海大使を通じましても、あらゆる方面に接触して反省を求めております。
  86. 春日一幸

    春日委員 私は総理に特に御認識を願いたいと思うのでありますが、もしこれが賦課金を課せられた場合一体どうなるか、わが国の百七十四万の繊維帝業労働者の中で百五十万人、これがその直接の被霊を受けるのであります。特に綿スフ関係では、従業員三百人以下の中小企業が九九%、これらの中小企業が大きな打撃を受けるということは、国内問題としてもゆゆしい問題でございます。  さらにもしそれ繊維関係労働者が生活防衛のために一個の抵抗に出るという場合もありましょう。この間、ちらっと新聞に出ておりましたけれども、ものにははずみというものがある。アメリカがそんな残忍酷薄な仕打ちをするのであるならば、われわれ綿関係労働者は米綿の加工を拒否するぞというようなことが、もしそれもののはずみや生活防衛のため、やむなくしてそんな戦術がとられたりなんかした場合に、日米親善友好の中に大きなきずなを作ります。実に重大な社会問題であり、労働問題であります。単なるこれは経済問題ではございません。認識はいかかでありますか、この点を伺いたいと思います。
  87. 池田勇人

    池田国務大臣 前の御質問に答えていかぬかもわかりませんが、この際ちょっと言っておかなければならぬことは、私は、今非常な不景気ではないと言っておるのであります。お金に困った方もおられましょう、全体としては、これから非常に不景気になるのではないかという御心配はあります。それをないようにしようとしておる。  それから最低賃金、企業別、規模別の賃金格差の問題、だんだん縮小しつつあるという数字は出ております。その点は一つお考え違いのないようにしていただきたいと思います。  それから今の問題のアメリカ態度でございますが、私は、外交機関を通じて言っておりますのみならず、報道関係機関も、私は自分としてやって、向こう政府並びに民間に、こういう問題が日米関係に重要な結果を来たすおそれがあるということは常に言っておるのであります。私は、アメリカの良識は、やはりイギリス、インドもこのわれわれの主張に同調しておりますので、今計画されておる賦課金問題は、私は起こってこないことを念じつつ努力を傾けていきたいと思います。
  88. 春日一幸

    春日委員 問題は、もしそれこの綿製品に付する賦課金の成り行きいかんによりましては、そのアメリカ政府が自由貿易を原則としておるにもかかわらず、このことに端を発しまして、現に米国の国内においてもの製品業者、それから人繊関係、こういうような各繊維業界全般にまたがってアメリカの国内産業防衛のための何らかの措置をとれという要望が高まってきておる。従いまして、もし繊維製品に対して賦課金が、日本の抵抗にもかかわらず、またあなたの熱誠なる交渉にもかかわらず、押し切られるということになりますと、次は毛になり、人繊になって、わが国の繊維産業というものを大きく脅かし、そのことがわが国の輸出に対して致命的な打撃を与える。まことにその重大な前途、この問題は重大な内容を含んでおると思うのでございます。こういう問題について、通産大臣の決意はいかがでありますか、不退転の決意はいかがでありますか。
  89. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほど来、総理並びに外務大臣からお答えをいたしました。政府は一体になり、また民間の関係業者とも協力いたしまして、ただいまの日本の繊維製品に対する賦課金を課さないように、あらゆる努力を払っておる次第でございます。私は、今までの交渉その他で明るい見通しが立ったとは申しません。しかし、日米間のあらゆる機会をとらえてのこの種の理解、これを与えることは相当効果が上がりつつある、かように期待をいたしております。
  90. 山村新治郎

    山村委員長 春日君に申し上げますが、時間がだいぶ超過いたしましたから……。
  91. 春日一幸

    春日委員 わかりました。もう一問で終わります。  実際問題として、この問題については国民こぞっての世論が結集しております、どうか一つ、この気持を背景にされて、交渉が成功されますように全力を尽くされるよう、総理並びに関係閣僚に対して強く要望いたしておきます。  最後に、海運政策についてお伺いをいたしますが、外国航路の関係だけで三千億円の今借金があるといわれております。年間に支払う利子だけでも二百五十億円、日本海運界の現状は日々深刻な度合いを加えつつあるのでありますが、この局面打開のための政府方針は何でありますか、お伺いをいたします。
  92. 斎藤昇

    ○斎藤国務大臣 ただいまおっしゃいますように、日本の海運は基盤が非常に脆弱でございます。従いまして、今後国際競争力に打ちかって、そうして日本の経済にマッチした船を作っていくというためには、相当のことをしなければならぬと考えております。従いまして、このたびの予算に海運の企業整備に関する審議会の予算をとっていただきまして、そうして今おっしゃいますように、多額の負債を負うておりますので、大体五カ年以内に今日の元本の遅滞をなくする、あるいは償却不足をたくするというめどのもとに、海運企業の整備計画を個々の企業について立てさせまして、そうして政府は必要な所要の措置をいたしたい、かように考えておるわけであります。
  93. 春日一幸

    春日委員 ただいま大臣からも述べられております通り、一昨年末における普通償却不足額が五“十四億、元本の延滞額が七百億ということでございます。このような弱体な企業基盤を強化することなくしては、せっかくの計画造船というようなものがあっても効果はありません。今伺いますと、大臣は基盤強化の措置についてさまざま研究中であると旨われておりますが、かつ、われわれが仄聞するところによりますと、海運企業の基盤強化のための臨時措置法というようなものを提案しようということで、大蔵省と運輸省との間において極力念査されておるようでありますが、これの見通しはいかがでありますか、運輸大臣から伺います。
  94. 斎藤昇

    ○斎藤国務大臣 ただいま大蔵町と、その実質的な点につきまして協議をいたしております。大体の行き方につきましては、大蔵大臣意見が一致いたしておりますので、さらに細部についてただいま協議中であります。
  95. 春日一幸

    春日委員 今日のこの日本海運の窮状は、何といっても戦争中の七千億円というような膨大な損害を戦時補償打ち切りによって打ち切られた、ここに大きな問題があります。しこうしてわが国の貿易量がどんどんと伸びておりますから、この輸出入においてこれらの貨物を消化するためには、何といっても自国船を持たなければならぬ。これは国際収支改善の基本政策にもまた合致するものであると思うのであります。いずれにいたしましても、わが国がこのような貿易国として海運政策を強化せなければならず、その海運業界の実態がこのような状態であっては、わが国の経済を健全に発展せしめることは、これによって強くはばまれておる面があると思うのでございます。従いまして、ただいまお話のありましたような海運企業の基盤強化のための臨時措置法、こういうようなものは大蔵大臣の御理解を得てぜひとも一つすみやかに御提出を願わなければならぬ筋合いのものであると思うが、これに対する総理の御方針はいかがでありますか。
  96. 池田勇人

    池田国務大臣 海運の助成は必要でございますので、第十七次造船も、計画の二十五万トンを五十万トンにいたしました。これが財政的、資金的措置も見ておるのであります。今後におきましてもこれを続けなければいかぬ。しかるところ、今のような海運会社の状態では、なかなかわれわれの期待通りに参りませんから、五カ年計画の再建計画を立ててもらいまして、政府としてもあらゆる努力をいたしたいと考えております。ただ問題は、この計画を立てます場合におきまして、船員法その他やはり外国並みのいろいろな雇用関係なんかも考えていかなければならぬと思うのであります。
  97. 春日一幸

    春日委員 私の質問に御答弁を願います。
  98. 池田勇人

    池田国務大臣 答弁いたしたと思います。あらゆる努力を払っていこうということでございます。
  99. 春日一幸

    春日委員 海運企業の基盤強化のための臨時措置法、こういうようなものが全運輸大臣の御答弁されるところによりますと、大蔵省との間においていろいろと交渉中である、そうして大蔵大臣の了解を次第に得つつあると言われております……。
  100. 池田勇人

    池田国務大臣 いや、大体の了解はして、細部を検討していると言っているのでございます。そのことにつきまして、私もできるだけの努力をいたしますと、こう言っている。
  101. 春日一幸

    春日委員 それでこの法案は早期に御提出になりますか。
  102. 池田勇人

    池田国務大臣 だから、そのいつ出すかという問題は、今検討いたしておるのであります。
  103. 春日一幸

    春日委員 いつごろお出しですか。
  104. 池田勇人

    池田国務大臣 検討が済みましたら出します。
  105. 春日一幸

    春日委員 それでは最もすみやかに御提出あらんことを強く要望いたしまして、私の質問を終わります。
  106. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、次会は明三日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後零時五十九分散会