○坪野米男君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
委員長から
報告のありました
行政事件訴訟法案について、反対の
討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
本
法案は、現行の行政事件訴訟特例法の不備を
整備して、行政事件訴訟についての一般法、基本法を定めるために全面的な改訂を加えたものでありますが、私は、本
法案の中に、国民の権利救済の点につき、一歩前進の
改正点が相当含まれていることを認めるにやぶさかではありません。しかしながら、私たち社会党は、本
法案につき、四項目にわたる重要な修正、特に
内閣総理大臣の
異議の
規定の全面的削除を強く主張しているものでありまして、この社会党の修正案がいれられなかった以上、私たちは、本
法案が国民の権利救済の点につき
現行法を改悪したものであり、さらには司法権の独立を侵す憲法違反の
規定を含む悪法であるとして、その成立に強く反対せざるを得ないのであります。(
拍手)
およそ行政事件訴訟は、旧憲法のもとにあっては、特に許された訴訟事項に限って行政裁判所という一審かつ終審の特別裁判所で裁判されたのであります。従って、泣く子と地頭には勝てぬと申しますが、行政権力の違法処分で権利侵害を受けても、泣き寝入りになってしまう場合が非常に多かったのであります。ところが、新憲法のもとでは、軍法
会議や行政裁判所などの特別裁判所は一切認められないこととなり、一般的に行政庁の違法な処分の取り消しを求める訴訟等が広く認められ、しかも、普通の
地方裁判所に提起できることとなったのであります。従って、新憲法下の行政訴訟は、行政庁と国民とが対等の立場で権利関係を争う民事訴訟の一形態として認められ、ここに国民の権利の司法的救済の道が初めて開かれたといっても過言ではありません。この民主的な行政訴訟
制度をあまり歓迎しないのは、国民と対等の立場に立たされ、しかも、被告席にすわらされる
政府並びに行政官僚であろうことは想像にかたくないのであります。
ところで、この
現行法の中でただ
一つ、どうしても認めることのできない非民主的な憲法違反の疑いの濃い
規定がありますが、これが
内閣総理大臣の
異議であります。すなわち、行政庁の違法な処分の取り消しを求める訴えの提起があった場合において、処分の執行により生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は決定をもって処分の執行を停止すべきことを命ずることができるのでありますが、これは一種の公法上の仮処分命令とも言えましょう。ただし、裁判所は、執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのあるとき及び
内閣総理大臣が
異議を述べたときは、執行停止命令を出せないことになっているのであります。
一体、裁判官の行なう裁判に行
政府の長たる
内閣総理大臣が
異議を述べて、裁判を抑制するといった
制度は、三権分立の建前をとる新憲法のもと、司法権の独立を侵犯するものではないか、まことにゆゆしい問題であるといわねばなりません。(
拍手)かような
制度は、諸外国の
立法にも例を見ないところでありまして、行政権優位、司法官不信の思想に根ざすものでありまして、行政の司法への不当介入を認めたこの
制度は、
わが国の司法権独立の歴史的伝統に一大汚点を残したものというべきであります。(
拍手)また、この
規定は、占領中に平野力三氏の追放をめぐって下級裁判所が追放処分の執行停止命令を出したことに端を発して、GHQから強い示唆があってできたものであることは周知の事実でありまして、まさに国辱的な占領政策の遺物といわねばなりません。
ところが、
政府は、この総理大臣の
異議は、伝家の宝刀ともいうべきもので、むやみに抜くものではない、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある場合に限るのであり、また
異議を述べたときは、次の通常国会に
報告して、その政治責任を明らかにしなければならないから、乱用のおそれはないと答弁しておりますが、公共の福祉というあいまいな概念を
政府が勝手に解釈をして、総理大臣の
異議権を乱用してきたことは、過去十数年の本
制度運用の現実が雄弁に物語っているところでありまして、政党内閣の総理大臣が国会へ
報告しただけで、その政治責任を明らかにし、乱用を
防止できるなどとは愚にもつかないことであります。しかも、
政府は、執行停止命令は、本質的には一種の行政処分だから、司法権を侵すことにはならないし、従って違憲の問題は起こらないと繰り返し答弁しておりますが、これは
政府お抱えの
法律屋の得意の詭弁であります。(
拍手)裁判所が出す執行停止命令が純理論的に司法事項かあるいは一種の行政事項かは問題ではないのであります。裁判手続の中で裁判所の権限と定められている事項の中へ行政権が介入してくることが、裁判の独立を侵すものとして非難されているのであります。民事訴訟の仮処分命令が、その性質上一種の行政処分的なものであるからといって、この仮処分命令に行政権の介入があったならば、まさに大問題になるでありましょう。
さらに私たちが問題にしたいことは、本
法案は
現行法の
異議制度をさらに改悪しておることであります。すなわち、最高裁判所の判決によっても、
現行法は裁判所の決定が出る前でなければ、総理大臣の
異議は述べられないのでありますが、本
法案は、執行停止の決定があった後に
異議を述べた場合には、裁判所の決定を取り消さねばならないことになったのであります。裁判所の裁判を総理大臣の
異議によって取り消させるとはもってのほかでありまして、明らかに憲法違反といわざるを得ないのであります。(
拍手)私たち社会党が強く本
法案の改悪に反対する
ゆえんでありまして、ひとり私たち社会党のみならず、
全国の裁判所の八〇%以上の裁判官がこれに反対をしております。また日本弁護士連合会も強くこの
規定の削除を求めておるのであります。このように、司法界、法曹界の世論はあげてこの
規定に反対をしております。
私は、
政府に強く猛省を促すとともに、自民党議員の中の少数の良識に期待して、この
規定の削除に同調を求めたのでありますけれども、これを得られなかったことをまことに遺憾とするものでありますが、私は将来の再
改正を期して、ここに本
法案に反対の態度を明らかにして、私の
討論を終わることといたします。(
拍手)