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1962-02-20 第40回国会 衆議院 商工委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月二十日(火曜日)     午前十一時三分開議  出席委員    委員長 早稻田柳右エ門君    理事 内田 常雄君 理事 岡本  茂君    理事 長谷川四郎君 理事 板川 正吾君    理事 田中 武夫君 理事 松平 忠久君       浦野 幸男君    小沢 辰男君       齋藤 憲三君    始関 伊平君       首藤 新八君    田中 龍夫君       中垣 國男君    中川 俊思君       林   博君    原田  憲君       南  好雄君    村上  勇君       岡田 利春君    北山 愛郎君       久保田 豊君    小林 ちづ君       中村 重光君  出席国務大臣         通商産業大臣  佐藤 榮作君  出席政府委員         内閣法制局参事         官         (第三部長)  吉國 一郎君         通商産業事務官         (大臣官房長) 塚本 敏夫君         通商産業事務官         (通商局長)  今井 善衞君         中小企業庁長官 大堀  弘君  委員外出席者         通商産業事務官         (繊維局長)  松村 敬一君         専  門  員 越田 清七君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  商工組合中央金庫法等の一部を改正する法律案  (内閣提出第三六号)  中小企業信用保険法の一部を改正する法律案(  内閣提出第四七号)  通商産業基本施策に関する件      ————◇—————
  2. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 これより会議を開きます。  商工組合中央金庫法等の一部を改正する法律案並びに中小企業信用保険法の一部を改正する法律案を議題として、質疑を行ないます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。松平忠久君。
  3. 松平忠久

    松平委員 ちょっと大臣にお伺いしたいのですが、商工中金ともう一つ中小企業信用保険公庫がかかっておるわけなんですが、その中で、商工中金というのは大体半官半民でやろう、こういうことでできておる銀一行なんです。ところが、なかなか民間資金が集まらない。そこで、政府の方が非常によけいになっておるのです。商工中金創立早々考え方から言うならば、大体資本金は同じ建前にしていくというのが常道ではないかと思うのですが、どうして一体民間資金が集まらないのか。地方銀行その他は預金もかなり集まっているし、資本金増強されておるのですが、預金量も割合に少ない。一体どういうわけなんだか、その点の解明を一つしていただきたいと思います。
  4. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいま松平さんの御指摘になりますように、本来から申せば、うんと民間資金をここに集めるということが望ましいことだと思います。金利その他の関係がありますから、大体半々くらいならいいところにいくのだろうと思います。しかし、御承知のように、なかなか債券売れ行きが思わしくなかったり、あるいはまた中小企業等資金の弱い層を相手にしておったりいたしますので、なかなか思うように実は参らないというのが現状でございます。これを農業関係の方のものと比べてみますと、もうすでに農林関係では中央金庫は独立している形で、政府の助成は順次減って参っております。これは御承知のように、米の代金等扱い等よほど資金的には潤沢でございますが、そういう利用層の相違並びにもう一つは最近の債券売れ行きが思わしくない、そういうところにあると思います。
  5. 松平忠久

    松平委員 今、大臣から農林中金との比較論が出たのですが、私は中小企業組合金融として、商工中金というのは一つの柱ではなかろうか、こう思います。そこで、中小企業の柱である商工中金増強と同時に考えなければならないのは、都道府県知事許可権を持っておる信用組合の親銀行として商工中金というものを育てて、そうして両方ともに親子の関係でいくのは、ちょうど農林中金、それから地方のいわゆる信連、農協といういわゆる系統金融と若干似たようなところがなければならないと思うのです。従って、その間の脈絡というか、そういうものを今以上に増強していかなければならぬというのが私の考え方なんですが、これに対する所見は一体どうですか。
  6. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 一応形の上からごらんになりますと、地方商工組合と結びつけて一つ組織化考えられます。しかし、今日までのところ、実際問題といたしましては、なかなか金利の面が思わしくないであろう。それから資金の量が農村の場合とは全然違う。これを一つ指摘しないといけないのじゃないか。ただいま言われております中小企業に対する三公庫金融、その三公庫がそれぞれ下部にただいま御指摘になったような商工組合その他の協同組合等を持ってしかるべきでありますが、問題は金利資金量の問題であると実は考えております。しかし、工夫の余地があるだろうと思いますので、御指摘の点については、なお検討を要するであると思います。
  7. 松平忠久

    松平委員 そこでもう一つ中小企業金融の一環として、今申された政府系の三金融機関のほかに、末端金融機関として信用金庫というものがある。これは大蔵省所管です。この信用金庫の親銀行のようなものがございません。ただ、たとえば城南信用金庫というように大きくなれば、日銀の保証を取りつけておるということなんだが、信用金庫一つ親銀行のようなものを作って、そうしてあたかも信用組合の親銀行商工中金であるように、もう一つ信用金庫の親銀行みたようなものを作って、日銀と同じような機能信用金庫に対してやってやる、こういうことが必要ではなかろうか。今日信用金庫がつぶれそうになったって、これは助けてくれるものはありません。都市銀行の場合は日銀がある程度保証しますけれども、信用金庫に至ってはそういうものはない。そこで、まさかの場合には困るわけです。そこらの点を一つはっきりした形の中小企業金融というものを考えたらどうか、こういう意見を私は持っているのですが、いかがですか。
  8. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいままでのところは信用金庫というものを商工中金等代理貸しといいますか、そういう店舗には使っております。しかし信用金庫自身は、御承知のように、先ほどお答えした点、ことに金利資金量から申しまして、商工中金がやるという筋にはなかなかなりかねるのじゃないか。ただ信用金庫自身は、申すまでもなく、零細な層を相手にしている庶民金融機関でございますから、この持つ機能を無視するわけには参りません。これは十分尊重してしかるべきだと思います。しかし、いわゆる一般銀行と同様の扱い方をするのには、今の信用金庫自身は私は弱いと思います。また今の一般銀行に対する中央銀行日本銀行のあり方、そういう責任を商工中金に持たすということになれば、これは大へんなことで、よほど考え方が進まないと、そこまではいかないのだ、これはまず困難なことじゃないかと思います。それよりむしろ信用金庫自身がもう少し姿勢を正しくし、地方銀行並みに成長することが第一だろうと思います。そこになれば、これは完全に大蔵省の方の考え方で左右されて参るのでございまして、都市銀行あるいは地方銀行あるいは相互銀行、さらにまたただいま御指摘になります信用金庫、さらにまたその下のもの等金融機関全般組織として考えるべきじゃないか、かように思います。なかなかこれはむずかしい問題のように私は考えます。
  9. 松平忠久

    松平委員 根本的にいいますと、今の政府系の三金融機関補完金融機関であるという考え方に立っておれば、なかなか私はむずかしいと思います。そこで一歩前進して、政府系金融機関というものは補完銀行からいわゆる指導金融、そういうところまで増強をしていく必要があるのじゃなかろうか。そこで、今大臣がおっしゃいましたけれども、信用金庫の方、これは末端の零細な資金を集めて零細企業者に貸しておるわけですが、それの金融的な保護の措置というものがございません。相当大きくなれば日銀信用によって日銀と直接取引ができるわけなんだけれども、普通の信用金庫日銀取引ができない。そこで補完金融機関というものを指導金融まで引き上げてやって、そしてたとえば中小企業金融公庫というものが、これがかりに信用金庫の親銀行的な役割を演ずるということになっていくならば、それは補完金融から一歩進んで指導金融になり得るわけだと思うのです。そこに信用金庫自体も出資をして、民間からも金を集めて親銀行的な工合にしていくことによって、初めて末端信用金庫信用ができ、かつ資金量もふえていく、こういうふうに思われるわけなんですが、そういう行き方というものを考えたらどうか、こう思うわけです。
  10. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 これはなかなかむずかしい問題でございますし、私大蔵省におります際にも、いろいろの金融機関について姿勢を正しくし、しかも大事な資金を預かるのですから、政府もよほどそういうものについてのめんどうも見るし、また同時に経営者自身一般庶民信用にこたえる、そういう態勢をとってほしい、こういうことを特に申して参ったのであります。しかし、地方銀行自身にいたしましてもなかなか目が届かない。さらにその次の相互銀行、この辺までは何とか目が届いて参りましても、ただいま御指摘になりました地方長官等めんどうを見ております金庫、あるいは信用組合というようなところになりますと、非常に複雑なものが実はあるのでございます。これをどんどん成長させて、さらに相互銀行まで地位を高めるとか、あるいは地方銀行まで地位を高めるとか、あるいはさらにその上の十大銀行並みにできるかというと、事実は私はできないことじゃないかと思うのです。それよりもむしろ金融機関そのものとしてはもっと見やすい方向にすることが望ましいじゃないか、けれどもこれはなかなか言うべくしてできることではありません。この信用金庫などの便利な点は、あるいは夜間にも営業してくれたり、あるいはまたそうやかましいことを言わないで、金利相当いい金利で預かってくれたり、また同時に貸す場合においても比較的簡素な手続で融資してくれる、こういうところが喜ばれるのでございます。しかしまた逆にこの信用金庫資金集めに非常な無理があったり、ことに信用組合の場合などもそういうことがしばしばあるのでございます。そういたしますと、いわゆるもう一つ下民間市中金融、そういうところとも関連相当ございまして、どうもなかなかむずかしい組織のようでございます。大蔵省としては、今も同様だろうと思いますが、これは庶民の大事な財産を預かるのですから、そういう意味で特に気をつけさせてはいるようでございますが、まま問題が起きたりする、こういうことでございまして、今の各種の扱い機関が少し多過ぎるというような、わかりにくい組織のように実は私には感じられます。これはむしろしろうとの考え方です。こういうものがどんどんできて参りますのも、必要に迫られての実際的処置として、やむを得ざるものだろうと思います。しかし、それを全部強化し、強力なものにするというのはなかなか困難だろう、かように私は考えます。
  11. 松平忠久

    松平委員 この問題はいずれ大蔵当局を呼んでやる機会があるだろうと思うのですが、ただ一つこの際お伺いしておきたいのは、信用組合のことなのですが、これは中小企業等協同組合法に基づいてできておるものなのです。そこで中小企業等協同組合法は、通産省、つまり中小企業庁所管になっておるわけであります。ただ、この中から信用金庫というのは都道府県において許可を与えておる、こういうことになっております。それから中小企業等協同組合法連合会中央会とか、そういうものは通産省所管であります。ところが、信用組合連合会は全然通産省所管にはなっていないということなのです。これは大蔵省専管になっておる。この間山屋君がつかまったが、やった盲点はどこにあるかというと、ここにあると思っているのです。つまり下の方の都道府県信用組合専管する、ところが連合会はそうではない、大蔵省専管になる、この間を利用していろいろ悪いことが行なわれておることは事実だろうと思います。従って、人事にいたしましても、普通の協同組合法に基づくものについては、ある程度通産省におきましても監督権があるわけです。信用組合連合会に対しても、金融関係についてはなるほど大蔵省専管ではありますけれども、中小企業等協同組合法に基づいたものであるとするならば、やはり共管くらいにして、そうして悪いことがあったら、どんどん連合会の会長をやめさせるくらいにしなければならぬと思うのです。そこらのところが法の不備じゃなかろうか、私はこういうふうに思います。これは答弁を求めるわけではありません。その点は一つ研究していただきまして、そして中小企業等関係団体については、いかなる性質の団体であっても、通産省中小企業庁なら中小企業庁というものが、ある程度の発言なり指導なり監督ができるような法制建前にしなければ、中小企業一般の政策を実施していく上においては万全な策ではない、こういうふうに私は見ておるわけであります。  それからもう一つ、この際申し上げたいのは、国民金融公庫なんですが、三金融機関の中で、国民金融公庫だけは大蔵省専管であります。あと共同なんです。ところが、いつも中小企業金融ということになりますと、問題になるのはほかの金融機関なんです。そこでこの委員会におきましても、国民金融公庫大蔵、通産と、借りる方と貸す方の共管にしたらどうか、そうあるべきものだ、こういうふうな考えを持っておって、そういう決議をしたこともございます。その点については一体大臣はどうお考えになっているか、もしそれが正しいというならば、その事務的な話を進めさせた方がいいのじゃないか、こう思います。
  12. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 前段の御意見でございますが、問題は協同組合法なるものがあるのでございますから、金融大蔵省だというだけでなしに、通産省といたしましても当然発言権を持ち、その法の精神によって運用の面についての要望をすることは当然だろうと思います。そういうように考えますので、ただいま各省の権限の問題になりますと非常にむずかしい問題がございますから、私は必ずしも共管とまでは申しませんが、当然通産省といたしましては、借りる側に立って運用に万全を期するように、あらゆる機会要望いたしておるわけでございます。また、国民金融公庫につきましても、これも松平さんはよく御承知なので、私多くを申し述べる必要はないと思いますが、過去におきましても専管あるいは共管論等いろいろ論議されたことだと思います。今日は実質的には今三公庫についての資金等についても通産省がいつも発議し、大蔵省と折衝を重ねて、それで三公庫間の均衡のとれた方法資金をきめて参りますし、そういう意味で三公庫とも大蔵省あるいは通産省同様な連携をとっておると思います。私どももそういうように金融大蔵省だとかあるいは国民金融公庫大蔵省専管だからといって、これを軽視するとかあるいは無視する、こういうことはいたしていないつもりでございます。問題は、実際がどういうことになっておるか、実は実際の方が大事じゃないか。実際の点で大蔵省専管のためにやりにくい点があるかと申しますと、今日まではそういう事態にぶつからないで来ております。人事等にしても、あるいは資金等にしても、また貸付方法等にしても、十分連携をとっておりますから、今日のところはまず利用者立場に立たれても、一応御要望に沿い得ておるんじゃないか。その辺まで行っておるんだから、それではついでにはっきりさせたらどうだ、このことは御指摘の通りだと思いますが、まあ私も官僚の出でございますが、権限の問題になりますと、なかなか一朝一夕に参りませんので、そういうことで今のままでしばらくやってみまして、不都合ができれば、今のようなすっきりした形にすることも望ましいかと思いますが、これは一つ研究問題としてあずからしていただきたいと思います。      ————◇—————
  13. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 次に、通商産業基本施策に関する件について調査を進めます。  田中武夫君より発言を求められておりますので、これを許します。田中君。
  14. 田中武夫

    田中(武)委員 これは基本施策には違いないと思うのですが、実は繊維局長が長らく海外出張をして帰ってこられました。大へん御苦労さまでございますが、ジュネーブにおける繊維長期契約、そうして帰りアメリカに寄りまして、今、日本繊維業界で大きな問題になっております米国綿製品輸入についての賦課金問題——ちょうど繊維局長アメリカに回られたころは公聴会をやっておった時期じゃなかろうかと思います。これらにつきましては、新聞等で見通しがよいとか等のことは報道せられております。また繊維局長も羽田に着きまして、何か談話のようなものを発表せられたことを新聞で見ましたが、一応公式にこの委員会において、まずジュネーブにおける長期契約のことについて、それからアメリカにおける綿製品輸入賦課金の問題について、簡単でよろしいですから、海外に出張せられて調査し、あるいは行なってこられた結果の上に立って、御報告を願いたいと思います。
  15. 松村敬一

    松村説明員 今お話綿製品の長期取りきめの問題と、賦課金公聴会のことについて、ジュネーブワシントンと回って参りましたので、その概要を述べよというお話がございましたので、御報告申し上げたいと思います。長期取りきめの問題につきまして、ほんとうならばいろいろと経緯等も申し上げるのがけっこうだと思いますが、いろいろ外交上の問題もあるだろうと思いますので、今御指摘に従いまして概要を申し上げたいと思います。  今度の長期取りきめの会議は、一月二十九日から二月九日までジュネーブで開かれたのでありますが、これはこの前の七月二十一日にできました綿製品の短期の一年間の取りきめに引き続きまして、ガットにおいてこの長期取りきめのための会議を開くということがきまりまして、昨年の十月に第一回の会議が開かれて、それに従って起草小委員会ができまして、十二月と一月の初めに二回その委員会が開かれまして、それぞれこちらから外務省及び通産省から代表が参っていろいろその審議にあずかったのでありますが、結局各国からの提案が対立しましたままで、起草委員会で一応案文の形になって、一つの条文に幾つもの案があるというような状態でございまして、それに基づいてこの一月二十九日の本委員会で決定をする、できれば協定を結ぼうという状態でございましたが……。
  16. 田中武夫

    田中(武)委員 簡単でいいですから……。
  17. 松村敬一

    松村説明員 結局一番大きな問題点は、長期取りきめをいたします場合に、御指摘賦課金の問題がございましたが、賦課金との関連をどういうふうに考えるかということと、アメリカ輸入制限のやり方の一つとして提唱しておりましたグロウス・フォーミュラの形がどうしても日本綿製品輸出に将来非常に悪いので、これを何とかして突き破らなければいけない、その二つが一番大きな目標ということで訓令をもらって参ったわけでありますが、最初の賦課金の問題につきましては、冒頭にこの長期協定会議日本審議に参加するについては、もし賦課金を課するというようなことがあれば、日本はおそらく長期取りきめには署名をしないであろうということを非常にはっきりした形で宣明をしたわけでございます。従って、そういう前提で、日本は一応国際協力趣旨で長期取りきめの審議にできるだけ積極的に協力する、こういう態度をとったのが一つと、次にこのグロウス・フォーミュラというのは、国内の消費の動向に合わせて輸入分量を調節するんだ、こういう考え方が入っておりますのと、もう一つ綿製品全体を制限したい、こういうつもりが裏にございまして、ほんとう市場撹乱の起こった品目だけについて必要最小限度輸入調整をやる、そういう趣旨から申しますと、アメリカ国内産業の都合のいいように拡大的にこの協定を動かそうという意図が相当ある案でございまして、これが米国案。それに対してヨーロッパ共同市場の方がこれまた一つの案を作っておりまして、これは過去三年間くらいの実績でいろいろ押えるということで、最近の伸びを相当無視して輸入制限をしたい、こういう形の案であったわけでございます。それに対して日本が新しい案を出しまして、これは市場撹乱が起こりました品目ごとに、その起こった時点から計算して三カ月さかのぼったところから一年という一つの基準を設ける、それから非常に大事な点は、一度そういうことで輸入制限をいたしましても、二年目からは五%ずつ上昇させなければいけない、こういう形になっております。二年目のことについては、場合によって非常に例外的な場合には五%上昇させないでもいいことがあるのでございますが、三年目からはどうしても強制的に輸入をふやさなければいけない、こういう案でございまして、それをわれわれの方といたしまして相当強く主張いたしました結果、結局アメリカが非常に業界の圧力もあって、どうしてもということで相当強く押しておりましたこのグロウス・フォーミュラというのを幸いにして葬り去ることができまして、一応日本の提案いたしました線で、それが基礎になって大体問題がきまったわけでございます。  それが輸入制限の方の形でございますが、もう一つこの協定の大きな点は、従来輸入制限をしております国は——これは特にヨーロッパ諸国でございますが、将来門戸を広げなければいけない、そういう義務をこの協定でもって負うということがきまったことでございます。これは、そういう広げなければならないということは、輸出国のうちでヨーロッパで一番門戸を閉ざされておりますのが日本でございます。従って、そういう国々が門戸を開くという場合に、現実には日本に対して開くという分量が、ほかの香港とかインドパキスタン、スペイン、ポルトガルというようなおもな輸出国に対して開くよりも、対日に開く率の方がよほど大きくなる可能性がある、そういう仕組みになっておる次第でございます。  それでこの協定自身につきましては、いろいろ利害得失があると思いますけれども、現在までの情勢で考えました場合に、輸出国輸入国利害から申しまして、相当均衡のとれた協定ができたのではないかと思いますのと、もう一つ特に御報告申し上げたいと思いますのは、今回の会議運営を通じまして、日本が先ほど申し上げましたような非常にはっきりした態度で最後までアメリカあるいはEEC等相当の反対を押し切って、同時に同じ輸出国インドパキスタン香港等とも十分了解をとりまして、この協定を合理的な均衡のとれた線で結ぶということに非常に積極的な役割を果たした、そういうことがガット事務局としても日本態度を非常に多としたような形になりまして、結局協定の中身も一応均衡のとれたものになったのではないかと思いますし、会議進め方自身につきましても、そういうような意味で、日本としては、会議運営自身は成功であったのではなかろうかというふうに考えておる次第でございます。  それから、帰りワシントンに回りまして、ちょうど田中先生指摘関税委員会公聴会に間に合うように参ったわけでございます。大使館員は別でございますが、外国政府の役人が公聴会自身に顔を出すことがあまり適当でございませんので、私出ることは差し控えまして、裏で日本立場を弁護いたしますマイク正岡弁護士とかそういう連中と終始いろいろと相談をいたしまして、論点の進め方等、特にジュネーブ会議ができましたことをわれわれの方の立場から有利に進展させるためのいろいろな議論の進め方等につきまして、十分、二、三日打ち合わせをいたしまして、公聴会が済みますとあとでまたいろいろと打ち合わせるというようなことで、弁護の論旨についてある程度それが役に立ったのではないかと考えておる次第でございます。公聴会の方は、その公聴会の席でかなり日本が有利なように議論を進めておるように見えましても、結局関税委員会の結論ということになりますとどういうふうな結論が出ますか、これはちょっと予測ができませんし、また出ました場合に、もし賦課金を課するということになりましても、大統領が拒否するという可能性も十分あるわけでございます。  その見通し等についてはいろいろむずかしいデリケートな問題だと思いますが、少なくとも長期取りきめができまして、アメリカ政府としては当然互恵通商協定法を通しますために、特に繊維関係の政治勢力の賛成を得ることが、互恵通商協定法が通るか通らぬかということのほとんど分かれ目になっておるようなこともございまして、そういう面でもこの長期取りきめがアメリカに対して非常にいいものであるということを、アメリカ政府としては当然説明する形になると思います。そういう非常にいいものがもしできたのだという説明であるならば、その上に賦課金を課することが非常に不合理ではないかということを反対側としてはなお強く申せるような状態になっておりますので、少なくとも、長期取りきめができる前とあととでは、できました場合の方が賦課金を阻止するのにははるかに状況が有利になるということだけは申し上げられると思います。
  18. 田中武夫

    田中(武)委員 先ほど報告の冒頭に長期取引の契約といいますか、それを話し合うにあたって賦課金問題が解決しなければ応じないのだ、こういう態度で臨んだ、こういうことをおっしゃったわけですが、長期取引契約というのですか、これはジュネーブにおいて関係各国の意見が一致した、こういうことであって、法律的効果を成立せしめるような契約が成立したのかどうか。これは帰ってきてから署名をして、何カ国条約かに全部関係国が署名をする、そのことによって法律的効果が出ると思うのです。この長期取りきめが、現在いわゆるジュネーブにおいては、関係各国で意見の調整が終わったという程度なのか、法律的に成立するのかどうか、それからまだ成立していないとするならば、いわゆる賦課金問題がわが方の主張通り解決しなければ、この長期契約というものは署名しないのかどうか、そういう点はいかがですか。
  19. 松村敬一

    松村説明員 今度のジュネーブでできましたのは、一応の案でございまして、これが国際的に成立するかどうかということは、九月の末までに、今度の参加国か十九カ国ございますが、それがそれぞれ署名を通告するという形になっておりまして、これは別段何カ国というふうにあらかじめ手続的にはきまっておりませんけれども、署名が相当の数に達しました場合に、その署名国の間で、一応短期が九月末まででございますので、十月一日から発効、その発効のやり方についていろいろ相談する、そういうことになっております。実は短期のときには、協定自身の案文が相談した通りであるという、そういう確認のためのイニシアルをするということがございます。それからそのイニシアルというのは何も拘束はないのでございますが、外務省の条約局の方で、訳文がございませんで、仮調印という訳文になりましたために、いろいろと問題が生じたあれもございまして、今度もまたアメリカがそのような意味のイニシアルをしたいという気持が非常にございましたけれども、これは日本ガット事務局にいろいろ交渉いたしまして、協定案文が間違いないという趣旨のことであれば、ガット事務局で十分確認できるのではないかということで、そういうイニシアルという手続もやめてもらいましたので、今は全くただそういう一つの案文ができて、これを各国がそれぞれ状況を見てサインすればいい、こういうことになっております。それでなにが九月になっておりますので、日本は最初から賦課金がもし課せられるようなことであれば、これは署名しないという態度をとっておりますから、少なくとも賦課金をかけないということが正式にきまりますまでは、これに署名する必要は全くない、また署名すべきでないと思います。
  20. 田中武夫

    田中(武)委員 これはやはり一つの条約ですか。憲法でいう条約になるのですか。
  21. 松村敬一

    松村説明員 条約ではございませんが、いろいろ法律的な性質等につきましては、やはり外務省の専門家の方で御説明をいたされると思います。これは短期のものと同じように、ガットの中の協定でございまして、行政協定といいますか、何というかよく存じませんが、条約ではございません。ガットに基づく協定であります。
  22. 田中武夫

    田中(武)委員 そうすると、いわゆる協定ということで、憲法でいう条約の手続じゃなく、これはもちろんそれには業界等の意見も聞くわけなんだが、政府だけで処理できるわけですね。そうなんですか。——そこでアメリカ綿製品賦課金問題は、御承知のように国会でも、衆議院でも決議をやったわけなんですが、これはむしろ大臣にはっきりしておいてもらいたいのですが、今、松村繊維局長が申しましたように、賦課金問題がわが方の主張通り解決しなければ、この協定にはわが方は署名しないんだ、こういう強い態度は、やはり政府としてもお持ちなんですか、どうですか。
  23. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 もちろん松村君を出します際にも、政府の方針を決定し、また青木公使もその訓令に基づいて取りきめの交渉をいたしたわけでございますから、政府の方針は非常にはっきりしておるという状況であります。
  24. 田中武夫

    田中(武)委員 そうすると、長期とりきめの協定が大体話し合いができた、こういうことは、賦課金問題について有利な一つの条件ができた、こういうことは少なくとも言える。そして、もし賦課金アメリカが言うように課するならば、わが方はこれに調印をしないのだ、こういう態度を強く打ち出すことができた。そういう点において、こちらとしてはこれを賦課金問題の一つの足がかりができた、こういうように思うわけなんです。そこでこの長期取りきめは、いわゆる賦課金問題が解決することが前提となりますが、これが成立した後において、日本綿製品輸出というものについては、今までよりどういうような明るい見通しが持てることになりますか。それから、それと同時に業界関係について……・。
  25. 松村敬一

    松村説明員 特にはっきり申し上げておきたいと思いますのは、まず従来日本が対米綿製品協定で、過去五年間、あるいは昨年まで入れまして六年間、非常に不公正な扱いをこうむりまして、いわゆる正直者がばかを見たということでございましたが、今度の長期取りきめによりました場合には、発動する場合には、必ず同じような原因を起こしておるほかの国と公平に発動しなければいけないということがきまっておりますので、日本が押えられている間にほかの国が伸びる、こういうおそれは全然なくなるということが非常に大きな強いささえでございます。  それから第二に、伸びる見通しでございますが、さっき申し上げましたように、従来は日米の協定綿製品全体にワクがございましたが、今度は、これも初めはアメリカ考えは、かなり全体にワクを置きたいような気持が非常にございまして、業界は特にそれを熱望しておったのでございますが、その点は非常にはっきりいたしまして、市場撹乱を起こした品目についてだけ、必要最小限度しかこれを発動していけないということがきまりましたので、一般の問題になりません。品目については全然制限がない、こういう形になりますので、その部面においては十分貿易を伸ばすことができるわけでございます。ただ、その辺は非常に慎重にいたしませんと、そこに非常に集中したり何かいたしますと、市場撹乱を起こしたり何かするという理由で押えられるということはございますけれども、しかし全体のワクがございませんので、市場撹乱を起こしていない品目については、全く一応無制限に伸ばせるということが第二点。  それから第三点は、二国間の交渉でございますと、相手方がいろいろな理屈を述べまして、毎年少しずつ漸増するということが認められないで、くぎづけされる傾向が非常にあったわけでございますが、今度は市場撹乱を起こしましたものも、第二年目から五%ずつ上昇をする。特に三年目からは必ず五%上昇しなければいけないということがはっきりきまりましたので、そういう点では非常に有利になっておると思います。業界もこの程度はやむを得ないものと見ておるようであります。
  26. 田中武夫

    田中(武)委員 今、局長の言われたように、日本綿製品業界は、五年間、いわゆる自主調整ですか、こういうことでアメリカ輸入制限にこたえてきたと思う。ところが正直者がばかを見るといいますか、その間に香港その他でどんどん日本アメリカにおける綿製品市場を荒らした、こういうことは事実でありますので、そういう正直者がばかを見ないような、日本綿製品輸出振興について、今後格段の努力をしてもらう、そういうことを希望いたしておきます。
  27. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 板川正吾君。
  28. 板川正吾

    ○板川委員 今、田中委員は、大体綿製品賦課金問題は結論としてかけられないだろう。こういう方の考え方から質問されておるのですが、私は逆の面から一、二質問したいのです。  綿製品公聴会日本側の代表として出席して発言された正岡何がしという方は、どういう資格でどういう方なんですか。
  29. 松村敬一

    松村説明員 初めのおっしゃいましたかけられないだろうというお話、かけられない可能性の方が、協定ができた方がより多いという程度に一つ……。  マイク・正岡は、二世ですが、ワシントンに非常に長くおりまして、いわゆる政治的なロビーと申しますか、そういう人で、特に移民問題等につきまして、従来から非常に活躍した人でございまして、特にトルーマン政権のころに民主党系に非常に顔が広いわけでございます。在留邦人の間にも非常に人望のある人でございますし、この前一度賦課金が問題になりまして、アイゼンハワーのときに調査命令が出て、結局あれは四対二で賦課金が必要なしという結論になりましたが、そのときも長いこと綿製品業界が頼んでおる弁護士でございまして、従来からいろいろ情報等ももらっております。非常に適任の人でございます。
  30. 板川正吾

    ○板川委員 新聞の報道によるのですが、正岡氏の発言というのは、日本の国民の声を率直に表現しておったと私ども考えております。その発言の中で、もし米国賦課金をかけるようなことになれば、日本は原綿の輸入市場をアメリカから他に転換せざるを得ないだろう。こういう発言もされたように報道されておるのです。この賦課金をもしアメリカがかけるような場合には、事実日本ではアメリカから大半の原綿を買っておって、その一部をアメリカ輸出したら禁止的なそういう措置をとられるならば、日本も自衛上他から原綿を買って、その方面に輸出するという方法をとらざるを得ないだろう、こう思うのです。そういう点について、アメリカ賦課金をかけた場合に、どういうような対策を考えられておるのですか、その点を一つ伺いたいと思います。
  31. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 賦課金をかけられたらどうなるか。とにかく賦課金をかけないことを心から願っておりますし、最善の努力をしている最中でございます。ことに衆議院におきましても、全会一致で賦課金をかけては困る、かけないようにしろということで、これは珍しいことだと思います。ことに日米間の今までの関係等から見て、当方の意向は十二分に伝えられておると思います。ただいま賦課金を課けられたらどうするかということを実は論議する段階でないように思います。当方の強い希望なりまた決意なり、これはあらゆる機会に表明いたしておりますので、しばらく成り行きを見さしていただきたい。先ほど繊維局長が申しましたように、大体見通しはどうだと言われると、新聞等も報道しておりますように、不利な状況にはまずないだろう、あるいは私どもの希望的見通しでもあると思いますが、そういう意味で私どもしばらく慎重に経過を見たい、かように考えております。
  32. 板川正吾

    ○板川委員 私もそういう結果になることを希望しておるのです。ですから、賦課金をかけるような結論が出ることを期待して言うわけじゃないのですが、正岡氏の発言等から見ても、万が一そういう結果になれば、日本としては自衛上そういった措置をとらざるを得ないだろうと考えるのです。  そこで一つ委員長、資料を要求したいのですが、それはわが国の輸入原綿の輸出国別の数量、原綿の品質、用途別等について資料をいただきたい。その次は世界各国の主たる原綿の生産数量と、その国の輸出可能数量と価格、これは概算でいいのです。それから、原綿を米国以外の国より輸入したいとするならば、品質、価格等からいってどの国が一番いいかということ。これは将来万が一のことを考えて、対策として考えなければならないものですから、そういった資料を一つ出していただきたいということを要望いたします。
  33. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 久保田豊君。
  34. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 今の問題に連関して一つお伺いいたします。  今度の賦課金問題の今後の推移はまだわからぬが、大体大丈夫になってきた、こういうところだろうと思います。そこで、今度の賦課金問題なり今度のジュネーブの国際会議の結果、あの協定がまとまった場合に、現在日本が対米綿製品輸出について自主規制をしておるものが相当ありますが、これとの関係はどうなるかということを御説明願いたいと思います。
  35. 松村敬一

    松村説明員 今度の長期協定の仕組みでございますが、市場撹乱が起こりましたときに、輸入国がまず輸出国に対しまして、自分の方に入ってくるのは非常に困るから自主規制をしてくれないかということを申し入れるわけでございます。それでその協議が六十日以内に整いませんと、輸入国輸入制限を自分でしてよろしい、そういう仕組みになっております。もし納得ずくで輸出国の方が自主規制をやれば、その方が形としては円滑にいくというふうに思いますので、今度の協定からいきましても、自主規制の部分が全然なくなるかどうかということは、一に輸入国側の方から言って参りました内容がこちらに納得いくものであれば、自主規制してもいいということになりますし、それが理不尽でありますれば、こちらは反対して、それを向こうが輸入を制限する。そのかわり、先ほど申し上げませんでしたが、国際綿花委員会というものが今度参加国でできるわけでございまして、輸入国市場撹乱を起こしておるから自主規制してほしいというときには、その理由を書きました書類を輸出国に送るとともに、今の国際委員会に出さなければいけないわけです。それで、もし輸入国の方のやり方が理不尽である場合には、その委員会でいろいろそれを議論し、批評する、そういう仕組みが一つ加わっておりますので、米国が自主規制を求めあるいは輸入制限をしようという場合にも、ある程度国際的な批判にたえる内容でないといけない、こういう仕組みが、全般的に現在よりも日本にとっては非常に有利な仕組みになっておる次第でございます。  御質問の、現在の日米協定との関係がどうかという点でございますが、まず第一に、先ほど申し上げましたように、現在の協定綿製品全般にわたっておりますので、今度は全般にやらない建前でございますから、まず全般にやる形の日米協定はなくなるということになると思います。  それから今度は品目ごとに、向こうが、市場撹乱だから一つ自主規制してほしいと言って参ります中身がどれくらいのことを言って参りますか、これは、協定自身は、先ほど申し上げましたように、輸入国がそういうことを輸出国に求める場合には、ほんとうに最小必要限度に言わなければいかぬということになっておりますけれども、どれくらいの範囲の品目について米国が、日本あるいは香港とかそういうところに言ってくるかは、向こうの出方にもよりますが、しかし、これは仕組み上、品目ごとに、市場撹乱が起こったつど言ってくることになりますので、もしかなりの広い品目にそういうことを言って参りましたにしても、今のように時期が一つにきまって協定ができる、そういう形ではなくて、物ごとに問題が起こったときに言ってきて、その品目ごとに、相談ずくあるいは向こうの一方的な輸入規制のワクができる、そういう仕組みになりますので、現在の日米協定とは非常に形が違って参ると思います。
  36. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 ですから、私が端的に聞いているのは、現在日本アメリカ側の要請に基づいて綿製品についての自主規制をやっているわけですね。この自主規制はしなくてもいいのかどうか、今度の長期協定に基づいて全般的にやるようになるのかどうかという点を聞いているわけです。
  37. 松村敬一

    松村説明員 これは形としては、従来の協定がなくなります。それで、新しい取りきめに従ってあちらから言ってくる、こういうことでございますが、従来の一つの基準がございますから、品目によりましてはそれと全然離れた内容じゃないと思いますが、形としては、全体をかぶせた意味協定はなくなります。
  38. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 そうしますと、今自主規制をしておるものについても、今度の長期協定がそのまま認められて、賦課金の賦課がなくなったという場合には、それを基準にして、年五%ずつの増加が行なわれるというのですか。
  39. 松村敬一

    松村説明員 その通りでございます。
  40. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 それじゃもう一つその点についてお伺いいたしますが、そういうふうにして長期協定がそのまま認められて、賦課金問題が解消したという場合に、日本がその長期協定に基づいた場合には、対米の綿製品輸出は、当面、年にどれくらい伸びる見込みですか、金額で。
  41. 松村敬一

    松村説明員 これは推定が非常にむずかしいのでございまして、先ほど田中先生の御質問に対して申し上げましたように、従来は全体に網をかぶっておりますのが、今度は必要なものしかかぶりませんので、網をかぶらないところは全然自由ということになるわけであります。しかし、それがどれくらい伸びるかということについては、また十分推定を——なかなか推定がむずかしゅうございますし、また業界の方々も、推定について詰めておりません。アメリカ側の方が最小必要限度に網をかぶせてくるというのが、どれくらいの網をかぶせてくるかということにもよりますし、そのときにもまた相当いろんな論争になるわけでございまして、それが理不尽であれば、先ほど申し上げましたように、国際的な綿花委員会審議の対象になる、こういうことでございます。
  42. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 私は、一つ特に最近の通商政策の根本問題について少し突っ込んだ御質問をいたしたいと思うわけです。  あらかじめ御了解を得ておきたいと思いますのは、少し長くなりますので、一回では終わらないかもしれませんから、この点も一つ承知を願いたい。それから政治要因についてはできるだけ触れないつもりであります。しかしながら、事は政治と非常に密接にからんだ問題が多々出ると思いますが、私も触れないつもりですから、大臣の方もお答えの際はできるだけそういう面からのお答えは避けて、純経済的な観点からのお答えがいただきたい、こう思います。もう一つは、主としてこれは意見にわたる面が多いと思いますが、私も意見をはっきり申し上げるつもりです。従いまして、大臣の方からも、一つ木で鼻をくくったような、見解の相違ということでなしに、あなたも意見をはっきりと述べていただいて、意見を戦わせるという格好でお答えをいただきたいということ。あらかじめこの三点を一つお願いいたしておきます。  そこで、第一に、私は少し長期的な観点から基本問題を提起したいと思うのであります。  最近の内外の経済指標といいますか、貿易等の動き、あるいは国際収支等の動きは、政府が昨年の九月意図し、その後本年度の経済見通しで立てたような方向にほぼ動いておるような、政府にとれば好ましい方向にやや動いておるように見えるのであります。もちろんしかしその底には非常に困難な問題を含んでおることは御承知の通りであります。私は、現在、政府なり業界なりも、こういう目先の問題にほとんど全精力を費やされておるように思うのであります。これは、政治が日々のことを処理していかなければならぬ立場からいえば、これは当然であります。しかし同時に、やはり今のように変転の非常に激しい世界の経済情勢に処しては、相当長期の見通しを持った、はっきりした政策をもって相対しないと、これはやはり非常な間違いであって、最近のように、昨年せっかく十カ年の長期計画を立てた、それが、実施半年度にして直ちにくずれてしまって、それから先は、総理大臣以下、やれ在庫が二億五千万円あるの、月に幾ら食いつぶすの、こういうことを経済閣僚全部が頭を突っ込んで一生懸命やっていて、それに対する見解が統一しないで、統一見解まで出さなければ処置がつかないということでは、この変転の激しい世界経済の中で日本経済をうまく発展さしていくということはなかなか困難だろうと思う。短期の具体的な処理はてきぱきやらなければいかぬが、同時に、私は相当長期にわたる見通しを持って、これに対する基本的政策なり方向というものをはっきり持ってやらなければだめだと思う。これが欠けておった点が、最近におきまする池田内閣のいわゆる経済政策の失敗の根本の原因だろうと思うのであります。しかも、具体的にいえばこれはいろいろありますけれども、大きくは二点になると思います。一つは、短期資金等の積み重ねによって水ぶくれをした、いわゆる国際収支の黒字、これを過重に評価をして、国内におきまして無統制な設備投資をあおった。そしてそれがついた。これが一つの根本の原因で、ここにも長期の見通しを持たなかった根本の原因があろうと思います。もう一つは、日本の産業構造が今急速に変わりつつある。それに対処すべき貿易政策、これがはっきり確立されていない。この点にも、私は今日のような失敗なり困難を持ってきた根本の原因があると思うのであります。これも、私に言わせれば、長期の見通しかなかったところに根本の原因がある、こう思うのです。これは非常に抽象的でお答えにくいと思いますが、こういう点についての経済担当の中心としての佐藤さんの反省といいますか、お考えはどうですか。
  43. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 なかなかむずかしいお尋ねでございます。まず基本的に私どもが立っておる自由経済の立場というふうなもの、これをまず宣明しておきたい。いわゆる計画経済というものではございません。その自由経済のもとで一体何を考えていくか、これはいわゆる所得倍増計画という形で打ち出されたもの、いわゆるこの経済を拡大することによって国民生活の向上をはかっていく、これが政治の基本だということです。この問題は、いわゆる十年倍増計画あるいは十年がもっと短縮して八年で可能じゃないか、こういうところに議論があるわけでございます。当初スタートいたしましたときは七・二%の平均成長率、この七・二%の成長率でものを考えて参りましても、日本の産業の弱さ、これはただいま御指摘になりました二重構造ということがよく言われますが、それよりももっと基本的な問題としては、日本経済は、重要な原材料、場合によっては食糧すら外国から輸入しなければならない、こういう問題があるわけでございます。ただいま米自身は輸入をいたしておりませんけれども、あるいは小麦を輸入するとか、あるいは広い意味において酪農その他の面の飼料だって外国から輸入してくる、そういう一つの特殊性があるわけであります。ことに原材料等になれば、先ほど議論のありました米綿なり、綿花なり、羊毛にしても、あるいは鉄鋼にしろ、あるいは粘結炭にしろ、おそらく。パーセンテージで見ると、人によっては五分の四というようなことも言うでしょう。あるいは五分の三程度は少なくとも外国から輸入しなければならない、これが非常に弱いものがあると思います。こういう観点に立って経済成長を計画していく、そうすると長期の期間においてのその山あるいは谷、こういうものには当然ぶつかるだろうと思うのです。私はこの所得倍増計画が表明され、そうしてこれを出した場合に、ただいま申し上げるような日本経済の弱点、それからもう一つは過去の成長率というものを非常にたよりにした、たとえば一四%伸びたとか、こういうものが戦後の日本経済の、全部壊滅し、そこからスタートしておるその特殊性というものを十分考えて倍増計画を進めていかないと、やはり幾ら自由経済と申しましても少し粗雑になる、こういうような非難があるんじゃないか、こういうように思うのです。政府自身が一つのつもりというか、腹づもりを持っておりましても、その腹づもりを財界あるいは国民一般に周知徹底さすことは、なかなか困難だと思います。そういう意味から、昨年招来したような設備投資の過大、こういうようなものを招来したと思います。だから私どもが経済の拡大計画を立てる、これは政治から申して当然のことであります。そうして少なくとも日本の国民生活をどの程度にするか、オーストリア程度や、あるいはもっといいところに持っていきたい、イタリア程度にはすぐ持っていきたい、こういうようなことを考えると、これは急速に経済を伸ばしていかなければならない。その場合に外国に非常に依存せざるを得ない日本の経済、これを一つ考える。それから内部的には御指摘の二重構造という弱さの面もある、そういうものを十分工夫していかなければならない。これらが、私どものもくろみと、現実にその思想の徹底の間に相当のそごがある、こういうことは言えるんだと思います。それが今調整に入っておるということだと思います。私はやはり十カ年の倍増計画というものは、これは基本的にただいま申し上げるような観点に立って、日本輸入依存しなければならぬその場合に、輸出というものを増強していくこと、こういうところが一つのポイントじゃないか、かように私は考えます。
  44. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 基本問題に一番最後に入りますが、その前段として私は中期的なごく目先の短期だけの問題でなく、来年度あたりまでを見通した状況は、まだ日本は非常な経済的には困難な状況、私に言わしむれば一つの構造的危機にぶつかっておる、こう思うのです。と申しますのは、第一に、かりに本年度の経済の動きが、この政府の三十七年度の経済見通しと経済運営の基本態度と、この通りに動いたとしましても、——これはなかなか動きにくいと思いますが、動いたとしましても、私は来年度の当初におきましては、日本の持っている構造的な経済上の矛盾というものはもっと拡大された形になってくるのじゃないかと思うのです。その一点は、第一に国際収支の見通しが来年度においてどうなるかということであります。これは政府の今の見通しでは、来年のことを言うと鬼が笑うと言うかもしれませんけれども、ことしの見通しでは、御承知のこれに書いてある通り、大体におきまして国際収支の見通しは、貿易外の収支では一億八千万ドル、それから経常収支では二億八千万ドルの赤になる、それから資本取引が長短期合わせて一億八千万ドルの黒になる、そうして収支つまり合算して総合収支では一億ドルの黒になる、こういう大体の見通しです。その前提になっているのは輸入が四十八億ドル、輸出が四十七億ドル、こういうことになっております。そうしてその結果は外国から、今特にアメリカから御承知の市中銀行から二億ドル借りた、それから米国の輸銀から一億二千五百万ドルですか借りた、それからさらにIMFから三億五百万ドル、合わせて六億二千五百万ドルですか、これだけを大体借りるということになっておる。この計算は抜きであります。抜きにしますると、政府の試算によりますというと、来年度の当初の手持ち外貨は大体において十一億四千五百万ドルになるという見通しになります。そうしますと、これに今申しました借りたものの返還ということを考えた場合に、大体来年度の当初のつまり外貨の手持ちは幾らになるのか、さらにその中で実際に使える金、この中には金の保有もありましょうし、その他にはすぐには使えないという金もあるはずであります。相当それが多いと見られております。その場合の使える金は幾らになるのか、この見通しを私ははっきりお聞きしたい。これは大臣の専門じゃないかもしらぬが、これはむしろ大蔵大臣かもしらぬが、大蔵大臣もおやりになったのですから、十分その点は消息にお通じのことだと思いますので伺いたい。ことしの問題は、ことしの問題だけでなく、来年につながる問題であります。九月から十一月ごろに国際収支がとんとんになって、収支が均衡して、これから大体景気も漸進的に上向きになる、これだけでは困ると思うのであります。この点が一点。  それからもう一点、これに見合う国内における大きな問題としては、こういう点があろうと思います。過去三年間に約十億ドルの設備投資を国民総生産規模でしたわけです。ことしも大体において三兆六千九百億の設備投資を一応政府としては予定をされている。これは現在盛んに押えておりますけれども、そういうことになる。過去三カ年間に十兆円、約三百億ドルの設備投資をした。その内容は主として重工業化である。これは通産省からもらった通産省所管の産業の設備投資の実績表というのを見ますと、三十三年から三十六年の間でも総額四兆五千億ばかりです。その中で重工業への投資は八六・四%であります。それから軽工業への投資はわずかに一三・六%、その重工業の中でも、電力、鉄鋼、機械、化学が圧倒的な比重を占めておる。つまり日本国内需要としましては、過去三年間に設備投資をある意味においてはやり過ぎた、これは政府にも責任があると思いますけれども、責任の所在の有無は別としまして、十兆円という、例の所得倍増計画で予定をしたようなものを、過去三年間にほとんどその大部分を——大部分でないまでも、大きなものを先食いをしてしまった。その結果、それだけ規模が大きくなった。しかもその内容は、結局こういう重工業が重点になってきた。そうすると、どうしても三年間の十兆円の設備投資というものは、これは少なくとも今年ないしは来年の初めあたりからは大体において生産力化するわけです。そうすると、この三十六年度の経済白書の三十九ページに書いてあるのですが、どういうことを書いてあるかというと、日本では百億円の設備投資をすれば、それは一、二年後においては百五十八億円の生産増になる、それだけのものをまかなうには、どうしても工業原材料並びにエネルギーの輸入量が十八億円要るということを書いてあります。私はいろいろな点で数字には少し狂いがあると思いますけれども、大体そういう関係になると思います。そうしてくれば、少なくとも三年間十兆円ということになりますと、今後はこの成長をほぼ維持していくためにも、一年間どうしても三兆五、六千億円の設備投資は続けていかなければならぬ。それでなければ、十兆円というほど急激に大きくなったこの工業の国内市場の確保ができないという問題が出てこようと思う。しかもその内容は重工業が中心だということですから、どうしても設備投資が相当のウエートを持って行なわれなければならぬ、こういうことになろうと思います。その場合に出てくる結論は何かというと、日本のように国内資源のない国においては、工業の生産力を発展さしたがったら、それを養う原料の入手ということがまず第一であります。そうしてくれば、これが過大だとしても、この白書の企画庁の推算通りとすれば、一年間に少なくとも十八億程度の工業原料というものは輸入増しをしていかなければならぬ。これが、そうでなくて、かりに十億であっても、それだけのものは増していかなければならぬ。それをまかなうためには、どうしても重工業を中心とした輸出増を年間に十億ないし十五億というものはやって、そうして今全然底をついた外貨の手持ちを余裕を作っていかなければならぬという問題が出てくると思います。これが今日本の一番根本に考えるべき政策の基準だと思うのです。こういう点について、今の政府のその場限りで、十一月になったら国際収支が大体においてとんとんになるから、それからゆっくり、ゆっくり景気が上向くなどと言っていることは、これは国民大衆をごまかすにはいい。しかしながら、少なくとも日本の工業成長、その中には今おっしゃったような二重構造の解消、その他いろいろの問題を含んでおりますが、それらは一応触れないこととしますが、基本の線としては、私はこれからは重工業を中心とした年額十億程度の輸出増というものをどうしても確保するような市場というものをはっきりつかんでいかなければならぬ、そうして、それは、同時にこれと均衡をとった形において、大体において工業原料の約十億程度のものの輸入を確実に安く安定して取れる市場というものを確保するということが通商政策の根本でなければならぬ、こういうふうになると思う。ここらの連関の見通しについては、ことしはその問題の解決はつかぬのみならず、来年度においても、その問題の基本的解決は、今の政策路線の中では出てこないというふうに断ぜざるを得ない。この点について佐藤大臣考えはどうですか。
  45. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 数字は大へん弱いものですから困るのですが、ただいま久保田さんはなかなか各方面御検討の上で結論を出しておられる。あるいは私が最初基本政策はどうかと言われたから、基本の方を先にお話をしたのですが、御指摘の通り、中間の議論は別にしまして、結論としては、何と申しましても日本の産業をささえるためには、輸出でまかなっていく、この基本的態度は堅持していかなければならぬと思います。そういう意味から、新しい今度の産業部門といえば、今御指摘になりました重工業部門、こういう方向に私どもは力を入れていく。その場合に、申すまでもなく、新市場の確保ということ、これは大へんむずかしい問題だろうと思いますが、むずかしいと申しましても、これと取り組まざるを得ない、こういうふうに私は思います。昨年の秋以来今日までの状況から見れば、その大目標を達成する上に足踏みになっておった、こういうことも見のがすわけにいきません。もちろんこれは政府が一致して申しておりますように、半年や一年の状況で喜んだりあるいは騒いだりする筋ではなく、やはり倍増計画というものを持てば、その長期の見通しに立って、これを推進していくということが当然だと思います。従いまして、今日の手直しの段階において、特に行き過ぎた設備の抑制もいたしますが、輸出を振興さすためにはあらゆる努力をしている、これがただいまの基本線に返りつつある証左だとお考えをいただきたいと思います。これは一面政策の面の輸出振興だ、と申して、国内金融の抑制と合わせても輸出金融というものは特別なめんどうを見ておりますが、非常にむずかしい点が一つある。これは何かというと、私どもの国民生活を上げたいといえば、どうしても国内消費というものが伸びていかなければならぬ。しかも輸出をするだけの材料が十分ないとすると、輸出の品物がないとすると、ある程度国内消費を押えざるを得ない。しかし、政府としては、国内消費を押えて、非常に極端な例を言ったら、過去の飢餓輸出というようなことは絶対にするつもりはございませんし、国民消費は伸びていく、伸びていって、しかもなお所要の輸出を進めていく、こういうことを計画しておる。ここに各方面の理解を特に得なければならぬ点があるのであります。ただいま設備投資の金額等についてもお話がございましたが、これは学者によっていろいろな議論がある。投資すれば、翌年は六割も生産性を出すとかあるいは八割だというような人もございますし、あるいはそれがフルに動き出せば五割増しになるという議論もございます。ただいまの設備投資そのものは、二重投資もありますし、新しい技術の導入もございますが、また全部新しく生産力をふやすというものではなしに、過去の旧式なものをスクラップして代替しておるものもあるわけでございます。従いまして、一面にこれが生産過剰になる、こういう危険は、私ども、現段階ではまだそこまでは心配しておりません。ただいま申し上げるように、基本的な考え方でどうしても輸入が必要だ、輸出はとにかく伸ばしていく、しかも国民生活に圧迫を加えないようにやるような方法が今のところで可能かどうか。これはもう少し数字を精細に見ないとなかなか簡単には結論は出て参りませんが、政治の課題としては、この困難なものに取り組んでおるわけであります。一つの例で申せば、鉄鋼生産が二千四百万トンだと言われておる、所得倍増計画だとこれが十年後におそらく四千八百万トンというような数字を一応想定せざるを得ないだろう。しかし一年に四千八百万トンも鉄鋼を生産するというような国になれば、それは米ソに次ぐ国になるでしょう。ドイツやイギリス以上のものになるだろうと思います。これを倍にするということは非常に困難なことなんですね。だから今の数字そのもので全体をもっと詳細に掘り下げてみないと、そこらに乱暴なものがあるんじゃないか、こういうことが指摘されるわけであります。冒頭に申しましたように、今日までの経済拡大は容易であったが、ある程度まで成長したその経済をさらに倍増していくということは、基本的に鉄鋼の一例をとって申しても困難である。しかも新しい産業部門に新しい技術を導入し、先進国と競争して輸出市場を獲得するということになれば、よほどの決意とよほどの努力をしないと容易なものでない、これはもう御指摘の通り言えるだろうと思います。しかし、私どもは、そうすることがお互いの生活をより向上さし、そうしてお互いが肩身の狭い思いをしなくて済むようになるんじゃないだろうか、その意味の大目標であり、これをやろうというこの意気込みを、これは超党派で一つ御協力願いたい、こういうふうに思います。
  46. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 どうも質問の要点を次々にはずされるんで困るわけですが、私がお聞きしたのは、今政府は盛んにことしの問題、目先の問題に没頭されている、しかし来年の見通しはどうかということを大臣に聞いておるわけなんです。その点、具体的な問題としては、来年度の国際収支は、初年度すべり出してどのくらいになるのかということが一つと、すでに三カ年間で十兆円という膨大な設備投資をして、これが既定の事実になっている。これは当然企画庁的な推算でなくても、相当の生産増になって、来年度の初年度あたりからは現われてくることは明らかです。しかもその内容は重工業化を急速にしていくという場合には、国際収支がどうなるかわかりませんけれども、これをささえながら、返済業務なり必要な輸入というものが、今のような態勢の中で——はっきり言うと、貿易の態勢の中で必要な原料の確保ができるのか、その原料の確保をするための輸出増というものが重工業品を中心としてできるのかどうか、数字は入れなくてもいいですが、こういう点の大体の見通しをお聞きしているわけです。
  47. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 長期の計画がないと言われるものだから長期の方に重点を置いて説明しましたが、短期というか中期というか、ことし三十七年度は一体どうなるか、これはすでに先ほど御指摘になりましたように四十七億ドルの輸出、四十八億ドルの輸入という計画目標を立てておりますが、その線に沿っているかどうか、これは一進一退はございますが、昨年の十二月以降の輸出信用状の残高等をごらんになれば、やや政府考えを支持するかのような数字が出ております。しかし十二月はよかったが一月は悪かったとか、二月は一体どうだろうとか、まだ締め切ってないとかいうようなことで、一喜一憂は出てくると思いますが、しかし昨年の秋ごろ、三十六年の年度末の三月末にあるいは十四億ドルを切るだろうとかあるいは十三億ドルになるのじゃないかというようなお話がございましたが、ただいまのところでは、国際収支は比較的順調に来ているのじゃないか、十五億一千万ドルというような数字が出ておりますが、これは借りたものは別だと言えば内容は十分見なければなりません。ことに本来から申せば一−三月は綿花借款などがあり、同時に輸入繁忙のときでもございます。原材料を先に入れるときでもありますから、これを見るわけにはいきません。一つ国内金融のあり方が非常に影響しておると思います。きょうの新聞に出ているのを——これは実は私も新聞を見て気づいたのでありますが、航空機といいますか、飛行機を輸入します、どうも外貨の割当がないから、それが本ものになって動かない、こういうような記事が出ております。先を見通して手付だけ打って、そうして品物は入ってきている、それが稼動しない、こういう意味です。輸入抑制を一方でしながら、やはり信用取引が進んでおる。こういうものにやはり自制というか自粛がないと、私どもの計画はなかなか思うようにいかないだろう、その意味では施策もよろしきを得なければならないが、何といいましても業界の進んでの協力が最も望ましいのです。しかも最近は、輸出が出たといっても、これも一部非常に悲観しておる方から申せば、これは換金輸出だ、せっかく米綿を輸入したのに、米綿のまま香港に売っているような例も事実ございます。これは国内金融のあり方から見まして、背に腹はかえられないという業界の動きもあるわけでございます。こういうものがやはり本筋に乗ってこないと、なかなか思うようにはいかないのじゃないか。先ほどPRが十分できていないとか、政府考え方と財界の動きとの間に相当のギャップがあると申しましたが、そういう事例は枚挙にいとまがないと思います。あらゆる機会はつかまえまして、大方針はよく説明しておりますが、なかなか動かないのが現状です。それでは今日の国内金融が、貿易はどこまでも為替じゃないか、こういうことを言われるかとも思いますが、久保田さん御承知のように、国内金融のあり方で為替の取り組み方は当然拘束を受けて参りますから、今日の金融引き締めという事態から申しまして、そして輸出金融には特別にめんどうを見る。しかし、輸入金融あと回しだというようなことになれば、自然と輸出入のバランスはとれる。しかし、輸出入のバランスはとれても、それは経済の正常な状態だと言えるかというと、これは特別な政策が加味されているので、正常な取引とは自由経済のもとでは言えない。こういうものは長続きしない。従って、一部でおそれられておりますように、もし金融がゆるめば、昨年と同じように、今ためているものが一どきに輸入に殺到するだろう。そうすると非常な混乱を生ずるのではないか。こういうことが指摘されるわけです。そこで、日銀その他が非常に慎重な態度をとっているのもこの点にあると思います。私どもは今四十八億ドルの輸入あるいは四十七億ドルの輸出と申しておりますが、輸出の方には輸出のいろいろな困難がありますけれども、おそらくだれが考えましてもあれだけの設備投資をし、そして進んでいて四十八億ドルに輸入を押えることができるか、原材料を押えることができるか、もしこれができなかったら国際収支の見通しは変わるだろう、こういう心配が一面あるわけでございます。しかし、私は過去においてお話をしておりますように、昨年の設備投資というものももちろん国内の景気をあおっておるが、設備投資が過大になれば当然在庫の思惑輸入もあるわけであります。その一例は、昨年港湾荷役がすっかり行き詰まって、倉庫がもう満ぱいで一切揚げるわけにいかないというような事態を起こしましたか、これなどを考えてみますれば、正常な状態なら輸入したものは必ず引き取り者があるわけです。また港湾があれだけ殺到するなら、向こうからの積み出しを少し押える手もあるわけです。これは明らかに見越し輸入というか、そうものであったことは事実であろうと思います。先ほど在庫論争を御指摘になりまして、一体幾らあるのか、二億ドル、二億五千万ドル、あるいは三億ドル、そうしてその在庫の過重なものを一カ月に幾らずつ食いつぶすのだというような問題が起きて、いろいろな議論をされておりますが、とにかく今の素原料の在庫は相当ある。そういう意味では輸入を抑制する。国内金融を押えても、日本の産業自体は影響なしに進んでいく。最近の鉱工業生産の動向などを見ても、横ばいあるいはやや下がるという状況である。そういたしますと、在庫補給というものを今すぐしなくてもいい。しかし、在庫が相当あるから食いつぶすと申しましても、仕入れの時期がそれぞれございまして、必ず必要なものは次々に入ってきておりますから、輸入が半年間ストップするというようなものではございませんで、今の在庫の食いつぶしがいつからいつまでかかるかというようなことは、なかなかむずかしいのです。政府の見方でも、いや七月だとか八月だとか、いやもっと早いのは五月で一ぱいだ、あるいは長いのは九月だとか、かように申しておりますが、問題は今の国内金融が正常化して正常な経済活動に返ってくると、これは御指摘の通り、過去の設備投資がどんどん働いてくるでしょう。そうすると、在庫の数量ももっと必要だ、こういうことになるだろうと思います。しかし、私どもは、今の調整に入り、これをためておる姿は、もう少し事態をよく見きわめて、この辺なら走り出さないというか、十分協力を得られる、そこまでは一つしんぼうせざるを得ないのじゃないか、かように考えておりますので、何とか済んでいきはしないか。そこで四十八億ドルの輸入と四十七億ドルの輸出という、その双方を立てての目標達成に最善を尽くすというのが現状でございます。
  48. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 どうも議論が食い合わないのですが、私の申し上げているのは、ことしの大体の日本の経済の推移が政府の予想通りに輸出も四十七億ドルなら実現をする、輸入も四十八億ドルでいくとしても、設備投資が国民総生産規模で大体三兆六千九百億ですが、これだけいくとしても、来年の初めになっては問題はもっとシリアスに出てくるのではないかということを言っているのです。ことしだけうまくいけば、来年は出たとこ勝負でそのときの状況で考えればいいということでは困るということを言っている。その一つは、国際収支にいたしましても、政府のこの見通しのように、本年度末において外貨の手持ちが全体で十一億四千五百万ドル、これは今の借金の返済ということを考えずにそうなる。とすれば、六億二千五百万ドルの借金の返済はことしから始めるでしょう。この借金の返済ということは、半分は当然来年に持ち越すということになりましょう。そうすると、かりにこの際この借金が、表面は日本の外貨の手持ちがよけいになることになりましょうけれども、その外貨の手持ちなるものは水増しなるものだ。普通の状態でいけば、来年度は返していかなければならぬということになると、この十一億四千五百万ドルというものが、とにかく日本の外貨の手持ちの一つの基準になりはせぬか。この中で実際に貿易の収支に使える金は幾らあるのか、おそらくは二億ドルか三億ドルくらいしかないのじゃないか。そうなると、片方において設備投資が動いてくる、十兆円のものが動いて、これが生産力化してくる。当然輸入も大きくなるが、輸出もふえていかなければならぬ。そういうものをまかなえるだけの余裕がそこでとれるのかということが一つであります。もう一つは、最近の世界情勢の急激な変化の中で、ことしは四十八億、四十七億がどうやら実現をしたとしても、来年度以降の国際情勢の変化の中で、そのときの生産力の増大並びに外貨手持ちの実質の天井の低さ、これに制約をされた中でこの国内の生産力の伸びというものに合った輸出輸入が確保できるのかどうか、そういう見通しを持った政策を今日実行しているのかどうかという点をお聞きしているのです。今あなたのおっしゃった御説明の段はよくわかります。私も非常に御苦労だと思っております。しかし、それでは全体として見ると心配だ。少なくとも本年度の施策は来年度以降の基本的な施策をふんまえた上での当面の施策でなければならぬ。そういう観点から見ると、今の政府の貿易政策の中には、ほとんど当座の手当だけであって、見るべきものがほとんどないのじゃないかということを言っておるわけです。
  49. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 現状分析は一応私も御説明申し上げました。そこで三十八年度は一体どうなるのか、この三十七年度の目的を達成したときは、あるいはそれより早くでしょうが、国内金融も正常化するだろう、そういうところを考えなければならぬ。これが正常化すれば、経済の伸びも本来の姿に返っていくということでありまして、今の調整の段階ははずしていく。その場合になると、過去の、昨年あるいは一昨年の設備投資というものが役立ち、ものを言ってくる時期であります。そのときに必要なのが新市場の開拓ということであります。この新市場の開拓のために、一番大きいものは、何と申しましてもアメリカ市場、第二はEECの市場、それからさらに東南アジア諸地域、さらに共産圏市場、次々にそれぞれの拡大目標というものを考え、そしてそれに手を打っていかなければならぬと思います。このアメリカ市場については、今日までの日米間の関係等から見まして、ずいぶん論議を尽くされておりますが、またことしも十一月かあるいは十二月の初めになれば日米合同委員会等も開きますので、この一年間の実績等を十分検討する機会があると思います。新しい問題とすれば、何といってもEECです。EECに対しては、これはなかなかむずかしい問題があります。まず第一は、これはやはりトップ・レベルの人たちがEECに出かけていくことが必要だと思います。これはあらゆる外交なりあるいは実情調査の面で協力を得ることが望ましいのじゃないかと思います。共産圏に対しては、ことしの六月時分には日本の実業団もソ連に行くという話もあります。また日ソ間には通商取りきめもただいま進んでおります。ほとんど結論に近くなると思います。また中共なども政治と別にすれば、おそらく民間貿易段階の機運は相当期待できやせぬか、また期待できるようにし向けなければならぬのじゃないか、かように思います。あるいは東南アジア、あるいは南米等については、これは相当長期の見通しを立てなければ、今直ちに貿易が進んで、それが国際収支の面に出てくることはなかなか容易ではない。しかし、経済協力の形においてまず産業開発の面で進むことが必要だ。これは三十六年度があと一カ月残っておる、その間の調整と、三十七年度にかけての経済調整、これに私どもが力を入れ、そしてその目的を達成し、成功した後には、ただいま申したような正常の方向へ進むべきだ、かように考えております。
  50. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 私はその点について、実は政府のそういう点についてのいろいろな検討なりあるいは準備なりは不十分じゃないかというふうに思うわけです。と申しますのは、特に本年度もそうでありますけれども、来年度以降も日本の貿易つまり輸出なり輸入を決定していく環境というものは、最近では非常に変わってきているのは御承知の通りであります。一方におきましては、共産圏地域の経済発展というものは、アメリカも認めておる通り、順調な——いろいろ中国の不作のようなああいう問題もありますけれども、それにしましても、全般としては資本主義国よりははるかに高い。少なくとも三倍程度の比率で、しかも計画的に順調に伸びておる。それが単に共産圏だけの問題ではなくて、最近ではどんどん貿易面その他にも出てきている。特に低開発地域の貿易や経済援助については、相当の積極性を持ってきておるという事実があります。それに連関して、おそらくこのままでいきますれば、数年後においては、ルーブルが共産圏のいわゆる国際共同通貨だけではなくて、資本主義世界まである程度進出してくるという可能性もないわけではない、こういう一つのあれがあります。それからさらに今度アメリカの方を見れば、御承知の通り、ドル防衛というものは、少なくとも今後数年間は、今のアメリカの世界的な反共世界戦略とでもいいますか、こういったものが後退をしない限り、ドル危機というものは当然深化する。従ってドル防衛はますます強化する。そういう中で欧州のEECとの接近、結合ということが今問題になってきておるという状態であります。さらに欧州の方は、御承知の通りEECが発展の第二段階に入ってきた。さらにそれに連関して、イギリスがEECの参加の表明をしておる。観測筋によりますと、本年度内くらいにはこれが実現するのじゃないか、ということになれば、来年度あたりになりますと、そのほかのEFAT諸国がまた今EECに参加をする、あるいは準参加をするという問題が起きて、ここに一つの大きな経済ブロックが出てくるという状態です。さらに今度低開発地域を見ればどうかといいますと、ここじゃ、御承知の通り、非常な開発意欲はありますけれども、銭足らずということ、そういう中で経済危機が進んでおり、そういう中でしかも、これは私がそう言うとあなたはおそらくそんなことはないと言われるでしょうが、私はある意味においての社会主義的な要素がだんだん強くなりつつあるのが実情だと思う。その型にはキューバ型があります。またインド型の民族資本なり国家資本主義を中心とした社会主義的な傾向、こういういろいろの型があろうと思います。しかし、そういう型によって経済開発がだんだん進むという事態があって、ここでも資本主義経済面と社会主義経済面とのある意味での分裂というものが進み、それらがある程度の大きな意味ではブロック化を促進しておる、こういうのが今の実情だと思います。こういう中で日本は、国内においては、今後少なくとも年百億ドル程度の経済成長政策を続けていかなければ、ここに産業循環の中断が起きてくる心配がある。そういう意味においては続けていかなければならぬ。しかもその内容は重工業化する。重工業化してくれば、輸出品目といえども、従来のように軽工業ないしは軽機械を中心とした輸出では進まなくなってきて、どうしても重工業製品中心のものになってこざるを得ない。こういう中で日本の現在の貿易政策なりなんなりでは不十分ではないかというふうに思うのです。  特に私が申し上げたいのは、現在の貿易政策というものは、今もお話がありました通り、主としてアメリカを中心にした輸出入、これを主軸にして、それから量的には少ないが、今後はEECの欧州諸国ということでしょう。それから東南アジアを中心とした低開発地域でしょう。それから最後に来るのは、共産圏貿易ということになりましょう。これは政府の所得倍増計画の七〇年を見ましても、はっきりそうなっております。一番大きく伸びるのはアメリカでありまして、これが一九五六年−五八年の平均の六億一千万ドルが一九七〇年には二十七億八千六百万ドルになるとかずっと出て、特にこの中で注意すべきは、共産圏貿易というものが非常に軽視されておるということであります。基準年次の八千一百万ドルが一九七〇年に四億七千九百万ドル、伸び率では一番大きいが、ウエートからいきますと、わずかに一九七〇年になっても五%程度の伸び率しか持っていないのであります。要するに、アメリカ一辺倒、共産圏軽視、こういう格好の貿易の地域構造、こういうことです。こういうものと、今までの軽工業から重工業中心に移行していく日本の貿易の商品構造とがはたして合うのか合わないのかということ。さっき申しましたような最近の世界の経済動向といったものとあわせて、基本的に貿易の商品構造がどう変わっていくか、また変わらなければならないのか、それに応ずる貿易の地域構造はどうなるか、それを裏づけていくというか、規制をしている最近の、共産諸国も先進諸国もあるいは後進諸国も含めた世界全体の経済動向というものがどうなっているのかという点の基本的な検討なくして、従来と同じようにアメリカ一辺倒の地域政策では、私は輸出を直そうとしても伸びないと思う。それで輸出と見合った原材料の輸入もうまくいくはずがないと思う。これはある意味においては、今日の経済の行き詰まりは、政府のいわゆる無統制な設備投資の奨励策も一つの原因であります。しかしながら、アメリカ一辺倒のいわゆる貿易構造といいますか、こういったものがもう限界に来ている。この点私は明確に認識すべきじゃないかと思う。というのは、アメリカは、御承知の通り、日本からいえば、毎年貿易面では大幅な入超です。その穴埋めとして何をしているかというと、要するに、CIFの買付と特需の買付あるいは各種の資金や資本の導入とか、あるいは短期の資金の借り入れとか、こういうことで穴埋めをしてきた。ところがその穴埋めがドル防衛にひっかかって、だんだんと細ってしまってない。だから、むき出しに貿易面のいわゆる赤字が出てこざるを得ない。これが今日の貿易、日本の外貨危機ないしはそれに連関する経済の停帯といいますか、構造的停帯をもたらしている最大の原因じゃないか。少なくとも直接的にはそう見て差しつかえないと私は思う。そういう意味では、今日の段階では、アメリカの経済とそのアメリカのドル防衛その他の諸要素を考えた場合に、アメリカ一辺倒の貿易構造というものは限界に来ている。これを再検討することなくして、この所得倍増計画において、今のお話でも、ことしもそうだが、来年も、おそらく政府の言いたいことは、再来年もアメリカを中心として貿易の拡大、輸出の拡大をはかっていくんだ、こういうことでしょうが、この点は私は根本的に間違っておると思う。なぜかと言うと、アメリカは、御承知の通り、日本よりもはるかに進んだ重工業国です。日本が今まで入れているものは何かというと、軽工業品か、しからずんば軽機械です。これは向こうでは要らないものです。必要不可欠なものじゃありません。なくても済むものです。日本と競合する産業があるのです。だから、入れ過ぎればすぐ向こうから反対が出るのは当然です。しかも今度は、重工業はどうかといったら、アメリカに対しては、これは限界輸出ではないかと思うのです。つまり、鉄鋼の輸出がふえるといったって、これは向こうに鉄鋼ストとか何かがなければふえっこありませんよ。しかもきわめて伸び率は少ないし、しかも不安定です。何か特殊な事情がなければ、日本の重工業品は向こうに行かないじゃないですか。こういう状態になっておる。しかもその基準になっておるところのドル防衛は、少なくともアメリカのこれは世界的な、何と言いますか、反共政策の反映がこういうふうに現われてきたと思うのです。ですから、これは慢性化している。ことしもすでに総合収支の赤字は、年率にして五十万ドルだ。しかも手持ちのドルは百七十億ドルを割って、百六十八億ドルになっている。このままいけば、もう一そうドル危機がひどくなることは明らかです。その上へもってきて、EECの攻撃があるから、これはたまらないというので、防衛的な意味でケネディは、今度の政策を立てて、EECとの間に少なくとも関税を共通に一律に引き下げて、少なくともアメリカの対欧州の輸出を減らさないようにしよう、そのかわり、ある程度欧州のいろいろの品物がアメリカへよけい入ってくることは認めよう、その方が得だというので、御承知のような方策を出した。つけたりみたように、そういうあれが、EECとアメリカとの間に貿易の相互一律引き下げができれば、その恩恵も日本に及ぼすといっているが、しかし、これは及ぼしっこありませんよ。私どもはそう見ている。そんなに甘くはありません。そんなに甘くないことは、あなたが箱根会談で百も承知のはずじゃありませんか。八〇%は少なくともおれの方の輸出をふやしてくれと言ったら、断わられた。そうじゃなくて、アメリカの方からいえば、何よりも自由主義諸国、資本主義諸国全体としては、アメリカのドルの強化が一番中心問題だから、それに協力する意味において、力をかせといわれたじゃないですか。そういうのが事実でしょう。そういう言葉で言ったかどうか知りませんけれども、あの経過を見るというと、そういうことになる、こういうことです。ですから、私は、アメリカという市場は、重工業化して、しかも原料を国内に持っておらず、輸入するという立場からいいますと、これは日本の市場として、輸出市場としてあるいは輸入市場として、基本的に私は、決してこれにばかりたよっていくということが間違いではないか。重工業の市場は、アメリカに開拓はできません。これは多少ふえるくらいのものはできるかもしれませんけれども、向こうに何かの特殊な事情がなければ、開拓できるはずはないと私は思う。現実の今までの実績もそうであります。向こうとこっちの技術水準の違いやら、その他いろいろのことを考えてみれば、いかにこっちが低賃金で切り込んでみたところが、そう簡単にはいかない。しかも主要なる軽工業品というものは、向こうに競合産業があり、しかも今度は欧州から入ってくる。この二つから追い出される危険性が多い。多少伸びても、少なくとも日本の年々百億ドルの設備投資をまかなうための輸入を必要とするだけの伸びというものは、これは困難でしょう。しかもその上へもってきて、ドル防衛だ、EEC関係だなんという、ある意味においては政策的な、政治的な要因が加わっておって、これは単に日本が安い、いい品物をよけい作って出せば、アメリカへよけい入るというものじゃ、もう今日ではありませんよ。ある意味においては、経済外的な制約を食っておる、こういう段階でしょう。こういう情勢をあなたはどう認識されているか。特にアメリカの、日本の貿易市場としてのいわゆる性格なり発展性というものについて、どんなふうに考えておられるか、この点を一つはっきり聞いておきたいと思います。
  51. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 いよいよ久保田さんと大論戦を展開しなければならない段階のようです。私は、久保田さんのお話のうちで、一部賛成の面もありますが、基本的にどうも意見が一致しない。それはどういうことか。これは申すまでもないことですが、貿易の面から見ますると、相手の国の人口というもの、これは一番大きな一つの要素です。同時に、その生活の程度が一体どういうことかということが、これがまた貿易の側においては重要な要素であります。今日、今のアメリカあるいは中共、ソ連、こういうものを比べました場合に、政治的ないろいろの相違もございますが、その生活様式の相違が、貿易側においても必ずしも伸びないというところに実はあると思うのでございます。これは共産貿易が、私どもがどれだけ力を入れましても伸びていかないのは、この点なんです。たとえば日ソ間の貿易にいたしましても、片道一億ドルの通商協定をいたしましても、ソ連自身は、石油もあるしあるいは石炭もあるし鉄鉱石もある。当方としては、そういうように木材もあるから買いますが、日本からは向こうへ行くものとしては、いわゆる生活必需品というか消耗品というものはほとんど買いつけてくれない。こういう実情では、日本の今日までの産業では、日ソ間の貿易がなかなか拡大ができないのです。中共の場合においても、実はそういうことが言える。また自由圏諸国でも——これはまあ中立国でございますが、インドのような民族というか多数の国民を擁していて、これは非常ないい市場であるはずなんですけれども、これとても、国民生活が低い、そのことが国力自身を一つ反映しておりますために、貿易がなかなか思うようにいかないということであります。この基本的な考え方から申せば、多数の人口を擁し、そうして高度の国民生活を続けておるところ、そこに対しては貿易の伸長の余地が多分にあるということが実は言えるのであります。  ところで、それに対してアメリカは、アメリカのドル防衛という政策をとる。今度は、アメリカに対して私どもは、ドル防衛が行き過ぎだということを指摘いたしておりますが、アメリカの経済援助なり軍事援助をやっている限り、アメリカ自身はそれは必要でしょう。だから、どこにもどんどん輸出したいというわけです。しかし、これは日本と同じ立場において、日本が、わが国の産業をささえるためにどうしても適当なバランスのとれた日米貿易というものを主張する、これは当然のことでありますから、アメリカ自身もそれを否定はできない。これはアメリカあるいは米州につながるものとして、私は、将来とも、日米貿易というものは拡大の方向にあり得る。ことに、ケネディが所得倍増計画を立てておる。そうすると——倍増計画じゃない、拡大計画ですが、経済を拡大しようとすると、アメリカが持つ自力だけでその拡大を続けていくということは、アメリカといえども困難だと思います。過去において、久保田さん御指摘のように、アメリカに鉄鋼ストライキがあれば、日本から鉄鋼が現に入っておるわけです。今度は逆に、ストライキはないけれども、需要が旺盛になってくれば、その生産だけではなかなかまかなえないものがあるわけでございます。だから、アメリカに対して日本が鉄鋼を送り出す余地がないかというと、そうじゃない。経済を拡大すれば、必ずそこにそういうものがある。あるいは産業構造がさらに進んできて、そうしてお互いに共同するならば、御指摘になりましたように、部品などはこれは容易に出かけるようになります。あるいはまた、将来の日米の間の関係がもっと密接になれば、あるいはアメリカ自身が日本に出てきて、日本国内において産業を興すことも可能だと思います。現にEEC諸国の間においては、そういうことがどんどん行なわれておる、こういう状況であります。だから、そのEEC自身を今度は私どもは相手にして、そして輸出を伸ばそうとしている。今日までいろいろ日本に対して差別待遇をしてきておる。この差別待遇をしておる国に対して、自由化を機会に、その差別の撤廃あるいはこの減少を主張している。そうしてイギリスやフランスとの間には、もうすでに昨年末当方に相当有利な改善された通商取りきめになった。しかもこれは一億七千万の大きな共同体であります。しかもそれらの生活は非常に高い。そうすると、わが国の産業は軽工業と言わず重工業と言わず、これはもぐり込む余地があると思うんです。ただ問題は、これは余地があると言って、楽にするわけにいかない。ことに私どもが気をつけなければならないのは、EECとアメリカとの間において共通関税、関税の引き下げというような問題が起きている。この関税の引き下げという問題に対しては、最恵国条項で日本もやはりそれに均霑するとはいえますが、むしろこれはこの共同体においてまかなっていくという気持の方が多分強いのじゃないか。これは外のものを、アウト・サイダーを締め出すという意味ではなくて、この共同体を形成しておるものがお互いに協力し合う、そのために便利な意味の共通関税というような問題を考案していると思う。だからこれは一面当方で利用する点もあるが、逆に、これをうまく使わないと、自然に締め出されるといいますか、日本から幾ら持っていっても、いやもうおれの方はこの中で売れるようになっている、消費できるようになっているから、外から品物は来なくてもいい、こういう、積極的締め出しじゃなくて、自給自足態勢ができるのじゃないか、そういう心配が実はあるわけでございます。だから、自由諸国がただいま言っているのは、各国間の産業を分業的な地位に推し進めよう、こういうことは実は申しておりますが、経済の面でまだまだそういう目標が一年のうちに実現するとは考えられません。しかしEEC自身が最初は関税同盟から発展して今日の経済統合ができ、そうしてイギリスまで入る、しかも今度は政治統合だと言われている。そういう話まで話が飛躍してきている。アメリカも無視することはできない。これなどはアデナウアーさんの非常に真剣な指導がそこまで行っているのだと思います。これは独仏は、われわれの教わった歴史では絶対に一緒になれない国だと考えたものが経済的に一緒になり、しかもそれが政治的に一緒になる。これはおそらくNATO等から、対共産国に対する軍事同盟その他からこういうことに発展してきたのだと思います。ところがそれならば対共産国に対して門戸を開放してないかというと、そうじゃない。西独などはソ連を初めいわゆる共産圏の東欧諸国に対しての輸出もずいぶん拡大しておる。あるいはイタリア自身はソ連から原油を買っている。いろいろ経済の面では結びついておるわけであります。今後日本としても、在来の自由主義諸国内における日本地位というものは高めるし、また対米貿易にしても私はまだまだ拡大していくと思います。けれども、これも将来非常に伸びるとは考えられない。しかし、将来伸びるというものは、何といっても多数の人口を擁しておるところが今後の私どもの市場でなければならない。ただそれらの国々がやはり国民の生活を向上させてくれて、そうして、いわゆる国民自身が平和的生活を楽しめるようになれば、日本の産業は重工業化する場合においても大いに拡大する余地があるのだと思う。だから私は、共産圏の諸国との貿易についても、積極的に前向きにいろいろ話をいたしておりますが、これは、今さらいわゆるココムがどうだとかチンコムがどうだとか、そんなことを言っている時期じゃありません。イギリスだって飛行機を中共に売っている時期でございますから、そういうことにちっともこだわりませんが、もう少しこの七億に近い人口を持つ中共自身の経済状態が、あるいは国民生活の状態が変わってくれば、日本は当然いいお得意としてこれを考えてしかるべきだ、またそういう方向であることが、皆さんと同様に世界平和を念願しておる者から見ればそうだと実は考えるのです。この基本的な問題については、ちょっと立場が違っておるかと思いますが、私はただいま申し上げるような見方をしております。だから、あらゆる場合をつかまえて貿易の拡大については努力する考えでございます。
  52. 久保田豊

    ○久保田(豊)委員 実はまだ議論の初めの方なんですが、もう時間がないようでございますから、今日は残余の質問を保留いたしまして次に譲ります。ただ、私が特に大臣とこれから論議をしたいのは、資本主義諸国間の貿易なりあるいは共産諸国との間の貿易の日本との基本的な関係を中心にし、また最近におきまする世界の貿易の原則の底を流れている問題、そういう問題から、さらに最後には、今もお話のありましたように、共産圏諸国に、今のようなお話でけっこうでありますが、現実はなかなかそういっておらない、そこで、何が阻害をしておって、その阻害を打ち破っていけばどの程度の可能性が将来広がってくるかということを、特に近い共産圏諸国について具体的にお尋ねをし、論議をしたいと思っておりますので、大へん時間が長くなりますが、申しわけございませんけれども、一つ相手になっていただきたいということをお願いして、今日はこれで質問は一時保留をいたしておきます。
  53. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 本日の質疑はこの程度にとどめます。      ————◇—————
  54. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 この際参考人の出頭要求に関する件についてお諮りをいたします。  ただいま本委員会において審査中の、内閣提出商工組合中央金庫法等の一部を改正する法律案及び中小企業信用保険法の一部を改正する法律案の審査のため、並びに金属鉱山に関する件について調査のため、それぞれ参考人の出頭を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議はありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  55. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  なお、以上の各参考人の出頭の日時、人選等につきましては、委員長に御一任を願いたいと存じますが御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  56. 早稻田柳右エ門

    ○早稻田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  次会は明二十一日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時十八分散会