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1962-03-29 第40回国会 衆議院 外務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月二十九日(木曜日)    午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 森下 國雄君    理事 北澤 直吉君 理事 野田 武夫君    理事 福田 篤泰君 理事 古川 丈吉君    理事 松本 俊一君 理事 岡田 春夫君    理事 穗積 七郎君 理事 松本 七郎君       安藤  覺君    愛知 揆一君       井村 重雄君    池田 清志君       宇都宮徳馬君    宇野 宗佑君       齋藤 邦吉君    椎熊 三郎君       正示啓次郎君    田澤 吉郎君       床次 徳二君    藤井 勝志君       井手 以誠君    稻村 隆一君       黒田 壽男君    戸叶 里子君       帆足  計君    細迫 兼光君       森島 守人君    井堀 繁男君       田中幾三郎君    川上 貫一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         外務政務次官  川村善八郎君         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (アジア局賠償         部長)     小田部謙一君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君  委員外出席者         参  考  人         (東洋棉花株式         会社取締役)  宇敷 正章君         参  考  人         (外交評論家) 杉山 市平君         参  考  人         (東京銀行新橋         支店長)    田口 治三君         参  考  人         (区会議員)  山家 和子君         参  考  人         (中央大学教         授)      田村 幸策君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 三月二十九日  委員宇都宮徳馬君、竹山祐太郎君及び田中幾三  郎君辞任につき、その補欠として田澤吉郎君、  藤井勝志君及び井堀繁男君が議長の指名で委員  に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について  承認を求めるの件(条約第二号)について、参  考人より意見聴取  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する  日本国アメリカ合衆国との間の協定締結に  ついて承認を求めるの件(条約第一号)  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について、  承認を求めるの件(条約第二号)      ————◇—————
  2. 森下國雄

    森下委員長 これより会議を開きます。  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件を議題とし、参考人より意見を聴取いたします。  まず参考人の方に一言ごあいさつ申し上げます。本委員会は、本件につきまして二月九日提案の理由を聴取いたして以来、本日まで慎重に審議を進めて参ったのであります。本日は特に本件について大洋棉花株式会社収納役宇敷正章君、外交評論家杉山市平君、東京銀行新橋支店長田口治三君、中央大学教授田村幸策君、区会議員山家和子君の参考人のおいでを願い、忌憚のない御意見を拝聴し、もって本件に対する審議参考にして参りたいと思います。本日は御多忙のところ本委員会のために御出席下さいまして、まことにありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  なお、民主社人会党より一名推薦されることになっておりました参考人は都合により辞退されましたので、この際申し上げておきます。  なお、議事の順序について申し上げますと、まず参考人各位からおのおの御意見を開陳していただき、そのあと委員から質疑がある予定でございます。なお、御意見の開陳は一人二十分程度でお願いいたします。  それでは、順次参考べの御意見を承ります。宇敷参考人
  3. 宇敷正章

    宇敷参考人 私がただいま御紹介にあずかりました宇敷正幸であります。私は、昭和三十二年から約四年間タイバンコックに在住、在勤いたしましたが、本日は、貿易商社に籍を置く一員として、貿易的な立場からタイ特別円問題について私見を申し上げてみたいと円います。  まず両国の貿易の推移を簡単に申し上げますと、わが国タイに対する輸出は、一九五〇年代においては年率一一%の趨勢で着実な成長を示しており、一九六〇年代に入りましてもこの趨勢は衰えず、輸出は前年に比較して一四%の増加を示し、約一億二千万ドルを記録いたし、タイ輸入総額の二六%を占めて、首位に立っております。商品別に見ますと、機械類増加が著しく、わが国機械類に対する認識が深まっており、その他、繊維、金属、化学製品なども増加を示し、タイわが国にとって将来性ある市場であることを示しております。  他方輸入面を見ますと、わが国の米に対する輸入需要減少により、一九五八年までタイからの輸入は毎年減少を示して参りましたが、タイ側貿易バランス是正要望に対応して、市場調査などにより、米以外の産品の買付促進がはかられた結果、再び大幅に回復して参りました。一九六〇年の輸入は約七千万ドルでありまして、タイ輸出額の一一%を占め、これも首位に立っております。商品別に見ますと、なまゴムが前年に引き続き増加しましたが、トウモロコシの輸入も激増を示しております。  以上申し上げましたように、貿易面から見た場合、タイにとって輸出輸入とも日本が第一の市場であることは、わが国タイ経済的にいかに深い関係があるか、おわかりいただけると思います。  また、わが国企業タイに対する企業進出もまことに活発でありまして、その種類は、鉱山関係亜鉛鉄板製造、製糖、漁業、調味料製造、その他多方面にわたっております。  戦後、日本タイ経済関係は、以上のごとく、まことに順調に進み、拡大して参りましたが、将来もこれが一そう拡大する可能性は十分あると申し上げて間違いないと思われます。本年初頭、バンコックジェトロ駐在員も、「わが国タイ向け輸出は、一九六一年一月から十一月において、前年同期に比べ一二%増加を示した。この内訳を見ると、一方で機械類中心とする重化学工業品輸出伸びるとともに、他方繊維品輸出も依然好調を持続している。一九六一年十月末のタイ外貨準備は約四億ドルとなっているが、これは他の東南アジア諸国に比較し相対的に豊かであり、タイは将来も東南アジア第一の有望市場として、わが国輸出は今後ともかなりの伸びが期待できるであろう。」との報告を寄せておりますが、まことに同感であります。  次に、一九五八年に現在のサリット政権が成立しましたが、その後、政治経済、文化の各方面にわたって総合的・計画的発展を企図し、これを実行してきたことにより、政権は多数の国民の支持を得てきわめて安定しております。サリット政権は特に経済政策に重点を置いた結果、一九五八年以降の経済発展には相当見るべきものがあり、一九六〇年の鉱工業就業人口は一九五八年に比較して二七%の増加を示しております。また、同国の建設関係では、幹線道路建設と改良、空港の拡充とか鉄道の延長、電力関係では火力発電所建設等、相当意欲的に進行しております。  さらに、一九五九年には経済開発庁を設置して経済開発計画の立案をいたし、一九六一年から開発六カ年計画が実施されております。これは国民総生産の成長率を毎年平均五%に維持していくことを主目的としておりますが、特に意欲的なのは鉱工業についてでありまして、最初は年率一〇%とし、最終年度には一二%の伸びを想定しております。さらに、積極的な外資導入政策もはかっており、六年間でこれは総投資の約三二%に達する予定だと聞いております。  従来、タイは、御承知のごとく、自由貿易政策を採用して参った国でありますが、その結果入超が慢性的に続いておりました。この傾向経済開発の進行とともにさらに激化するものと予想されましたが、しかし、最近はその外貨準備はむしろ増加傾向を示しております。これは、政府の積極的な外資導入政策によって、外国政府国際機関援助並びに民間資本の流入が順調で、これが経常収支の赤字を埋めるに至ったためであります。  また、タイは、東南アジア諸国間におきましては指導的な役割を演じ、たとえば東南アジア共同市場問題については積極的な意欲を見せております。EECの問題が世界的に論議されておるとき、タイのこの動向はわが国としても大いに尊重されねばならないと思います。  以上私が申し上げましたことは、東南アジアにおいてタイがいかに大きな経済的可能性を持つ国であるかということでありまして、これは同時にタイ日本輸出市場として非常に大きな将来性を持つ国であることを意味しております。かかる将来性を持つタイと密接な友好関係を維持していくためには、数年来問題になっております特別円問題の早期解決前提条件であると思われる。特に、国をあげて輸出伸長を叫ばれております今日におきましては、その感を深くするものであります。  さらに、私は次の諸点からも本問題の早期解決を希望するものであります。  その第一には、本件タイ国民に与えておる影響が非常に大きいということでありまして、私は過日現地からの新聞を見ておりますと、特別円問題に関して次のような論調が目にとまりました。特別円は大東亜戦争中日本がその軍隊軍需品糧食を調達するため借りたものであるが、タイ国としては経済的余力があって貸与したものではない、非常なインフレに苦しみながら、タイ国民の一人々々が食を節してまで日本軍糧食その他を提供したものである、従って、特別円問題の成り行きにはタイの一人々々の国民が大きな関心を持っておるのだ、こう言っております。かりにこれが真実の半分を伝えておるといたしましても、特別円問題の帰趨がタイ国民に与える影響は少なからざるものがあると思われ、この面からも早期妥結が望まれる次第であります。  第二には、本件解決わが国資本財輸出に従来よりもさらに大きなスケールにおいて拍車をかけることであります。九十六億円は役務または資本財で支払われるため、これは資本財輸出に直接効果があるばかりではなく、間接的にも日本商品の宣伝の役を果たし、輸出増進に大いに役立つと思われます。たとえば、ビルマにおきましては、賠償輸出によって市場が開拓され、賠償物資以外のわが国商品評価を高め、進出の基礎となっております。本年一月末特別円勘定処理協定が調印されましたあとタイタナット外相も、資金は開発資材多量買付に使用されると述べられておりますが、これは欧米品を駆逐して日本品進出をはかるまたとない機会であると思われ、また、資本財輸出後も、部品買付その他ある程度輸出を長期的に保証されておると考えて差しつかえないと思います。  第三には、本件解決は、わが国としてタイの積年の好悪に報いる国際的な礼儀ではないかと考えるのであります。タイが戦前・戦時中・戦後を通じ日本ときわめて親密な友好関係を持続してきましたことは御高承の通りでありまして、戦後平和条約発効後すぐ他国に先んじて対日国交を再開したことも周知の事実であります。戦後、他の国におきましては、在留邦人が種々の制限・圧迫を受けたのに対し、タイ在留邦人に対して何らの圧迫も加えず、友好的な態度を維持したのであります。現在、在留邦人約千名、日本人小学校もできて、各自が安心して貿易に従事していけるのも、そのためであろうと思われます。この際戦時中の跡始末を積極的に解決していくことは当然のことでありまして、日本平和的意図を中外に宣明することにもなり、タイ国人に好印象を与えるということは、日本の将来の無形の財産であるとも思われます。  以上いろいろ申し上げました次第ですが、要するに、日・タイ経済関係のスムースな発展は、一に特別円問題の早期解決にかかっていると断言申し上げても過言ではないと信ずるのであります。  以上をもちまして私の卑見を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
  4. 森下國雄

    森下委員長 次に、参考人杉山市平君にお願いいたします。
  5. 杉山市平

    杉山参考人 杉山市平であります。国際関係、特にアジア問題を約二十年間研究し、いろいろ評論を書いておりますそういう立場から、この問題について若干意見を申し述べたいと思います。  現在タイ特別円の問題が議会で議論されておるわけでありますけれども、この時期にこの東南アジア地域で非常にあわただしい動きがあるということをまず皆さんに申し上げたいと思います。  その第一に、三月二十一日から二十四日前後にかけまして、御承知のように、アメリカハリマン国務次官補日本に来られまして、その次官補フィリピンバギオ会議をやったあと回って来られたのでありますが、東京から直接帰国される予定であったところ、急に予定を変更されて、二十一日バンコックに向かわれました。同じ時期に、バンコックでは、サリット首相が、折りからパキスタンを旅行中であったタナット外相を呼び戻しまして、ここで、ハリマン国務次官補、それからこのサリット首相及びバンコック駐在アメリカ大使、この三者、それにラオスからかけつけましたノサバン将軍をまじえまして、鳩首協議をやっております。これが第一の動きであります。第二に、ちょうど同じ時期に、ホノルルでアメリカマクナマラ国防長官が、軍関係者、それから南ベトナム大使、これらと協議をしております。そのあと、レムニッツァーといいます統合参謀本部議長、この人がバンコックに行っております。このように、バンコック、それから南ベトナム、ここをめぐって非常にあわただしい動きがある。また、御承知のように、バギオ会議が終わりました直後からSEATOの大演習が行なわれております。こういうことは、現在アメリカが、ラオス南ベトナム中心として、それにタイを一応非常に重要な拠点としながら、非常に強力な軍事的な行動、軍事的な性格の非常に強い行動をやろうとしているということを意味するものだと思うのであります。この時期に日本で九十六億円というお金をこのタイにつぎ込む、こういうことが議論されて、政府はそれを考えている。これは決して偶然の一致ではない、このように私は考えます。  一方、いま一つ、第二に指摘したいと思いますのは、このタイ及びフィリピンを加えまして、SFATOという東南アジア条約機構があります。このSEATOが最近になりまして内部的に分裂する傾向を示し出した、こういう点があります。これについては、オーストラリアの外交評論家であるデニス・ウォーナーという人がこういうことを言っております。イギリスフランスが最近SEATOの活動にあまり乗り気でなくなってきた、そこで、タイフィリピンが非常に不安を感じまして、今まで全会一致の原則で会議を運営してきたのに、この英仏のこういう態度では非常に不安である、そこで、全会一致でなくて会議を運営するようにしていきたい、こういうことを考えるようになってきた、こう言っている。それから、タイ及びフィリピン、それぞれこのSEATOに結局実質的には見きわめをつけるという動きが出ております。それは、このSEATOという組織を通じてでなく、アメリカと直接結びついて、アメリカから援助をもらおう、こういう動きがあるわけです。それが三月六日ラスク国務次官タイとの間で発表されました共同声明一つ現われております。これは、アメリカSEATOの決議に拘束されることなく単独で必要とあればタイを全面的に支持するということを言っておるわけです。このようにして、タイ、あるいはフィリピンもそうでありますけれども、それぞれ、SEATOは頼むに足りないという工合に、側々に今度はアメリカと折衝してという動きが出始めている。これも一つ御考慮に入れていただきたいと思います。  このようにして、タイは国際的に言いまして徐々に孤立化を深めてきて、今タイを支持している国は、実際のところはアメリカ一カ国しかございません。それで、このようにイギリスフランスから見捨てられたあとは、是が非でもアメリカによりかかっていかなければならぬ、こういう感じが強く出てきているわけです。それに日本が一枚加わっていこうとしている。こういう事情もよく御承知おき願いたいと思います。  そこで、タイは、今では、タイ及びフィリピン、それからマラヤ、この三つを加えましたASA、東南アジア連合といいます組織がございますが、これに非常に期待をかけております。しかし、この組織は、この間日本で開かれましたエカフェ総会でもはっきりしましたように、決して有望な将来性のある大きな経済機構ではない。きわめてささいな、ごく手近なところからつましくやっていこうという非常に控え目な組織であります。そうしますと、こういうところにしかよりどころがなく、アメリカだけによりかかっている。このタイ日本が九十六億という大金をつぎ込んで、これがはたしてどういう意味を持つのかということは、よくよく考えていただく必要があることではないかと思います。  第三に、同じことでありますけれども、イギリスフランスが今申しましたようにSEATOから手を引こうとしている。西ドイツはどうか。西ドイツはやはりこのタイに非常に不信を抱いております。貿易の面で、もうかる限りタイ貿易をしていく、プラントを作っていく、これは別問題であります。それと、タイ政権そのものに非常な信頼を持つか不信を持つか、これは全然別もので、この点になりますと、西ドイツでは、タイの現在の政治というものに非常に不信を持っておる。これはアメリカの「ネーション」という雑誌が書いておりますけれども、約一年ほど前に、タイの王様が非常にぜいたくな旅行をしました。ドイツからフランススイスを回っております。衣装が二十三着とか、それから、スイスで第一流のホテルに泊るとか、随員が何百人とかいうことで、ものすごい豪華旅行をやったわけです。これを見まして西ドイツでは、アメリカは一体何をしている、あれほど莫大な金をつぎ込んでタイをささえているというのが、結局こういう連中にあれほどのばかげた旅行をさせるためであったかということを言っているわけです。このような不信感が根強くヨーロッパ諸国にあるということも、どうしても忘れてはならぬことではないかという工合に考えます。  そこで、こういうことを見ますと、皆さんもうお気づきかと思いますけれども、現在のタイというのは、国際的な地位、国際的な信用度から言いましても、大体よく似ておりますのは韓国の朴政権であります。この朴政権に対して、日本でも決して心底から信頼を抱いておるわけではない。これはもう皆様御自身で体験がおありのことと思います。だとしますと、タイに対して同じような程度警戒心を持って接していかなければ事を誤るという工合に私は考えます。先ほどの参考人は、タイ政権が非常に安定しておる、将来非常に有望であるとおっしゃいましたけれども、実際の動き、実際の各国の反響、こういうものを見ておりますと、そのような結論はどうも出てこないという工合に私は考えます。  さらに、どうしてタイがこのようにアメリカに対して非常に強くよりかかっていくようになってきたかといいますと、これはもうこの一年来のインドシナ情勢から来ております。ラオスが非常にあぶなくなっておる。南ベトナムもあぶない。そうして、現実に、タイサリット首相は、ラオスがもし共産党に乗っ取られるならば、われわれは六カ月以内に南ベトナムと同じ状況になるだろうというように演説をしおります。  ところで、じゃあ実際はどうかといいますと、これは、日本でも、先日ロバート・ケネディ司法長官が来日されましたときに、自民党の宮沢喜一先生から意見書というものが出されておるという工合に承っております。この中で、先生は、ラオスはもうだめであると私たちは考えるという工合評価していられました。そうしますと、日本でもラオスというものに対してもうだめであるという見通しが出ている。これは日本だけの評価ではなくて、アメリカ、それからイギリス、各国至るところ現在定評になっておると見て差しつかえございません。一月にラオスそれからカンボジア一帯旅行されました富永天外という方がいらっしゃいます。これは中国問題の権威であります。中国語が非常に詳しいために、ラオスに行きましても、ラオスの民衆と親しく接触していろいろ話をすることができる。この方がおっしゃっておるのは、現在のラオス情勢は、タケックという重要な反プーマの拠点がありますが、ここがあと何カ月で落ちるかというのが実情だという工合に、帰って報告されております。そうしますと、タイは将来性があるということは言えない。タイ首相自身が、ラオスがだめになればあぶない、南ベトナムがだめになればあぶないと言っている。そして、実際にラオス及び南ベトナムはあぶなくなっている。こういう状況である。アメリカは最近タイ軍隊を送り込もうとも考えております。それから、先ほどの共同声明でも、軍事援助をどんどんつぎ込むということを言っております。これは、そのようにタイがあぶない状況にあるということを考えたればこそやっている行動だと思います。従って、日本がここで九十六億もの金を出すといいますのは、アメリカタイを支える、何とかして支えていかなければならない、そうでないとインドシナが総くずれになってしまう、このときにアメリカにかわって日本国民の血と汗の結晶である九十六億円というお金をそこへつぎ込むということになるわけであります。そうして、このお金が、合意された議事録第八項でも言われておりますように、現実タイ軍需物資を買いつけることに使われる可能性がある。タイ経済自体が、予算の五〇%以上を軍事費にぶち込むというひどい予算になっております。こういう国に与えられる金が全部軍事的なものに回されるということは当然である。そこで、それがくずれいく軍事政権を支えるという役割しか果たすことはできない、こういうのが実情ではないか、このように思うのであります。  さらに、最後にもう一つ、ぜひとも考えておいていただきたいことがございます。これは、日本タイ一体幾ら金を出すのかということは、アジア諸国ばかりでなくて、ヨーロッパでも非常に深い関心を持って見ておるところであります。この間池田首相アジアを回られましたときも、池田首相タイに行って九十六億円を出すということを確約したということがあらゆる国の記事で最後のところに入っておる。それだけ非常な関心を与えておる問題であるということです。ところが、日本は、この間のエカフェ総会でも非常に問題になりました東南アジア共同市場の問題について、これを推進するという態度の表明をついに差し控えた、あるいは見送ることにしたということがございます。これはなぜかといいますと、うっかりここでイギリスフランスを刺激してはまずい、そういうことをしますと、やがて日本EECヨーロッパ共同市場に接近していくときに、イギリスフランスからしっぺ返しを食う、江戸のかたきを長崎で討たれるようなことをしてはまずい、こういう配慮があったために、せっかくの東南アジア共同市場という構想を見送ったという事情があると聞いております。こういう事情があるときに、しかも、一方では、ガット三十五条の承認もなかなかやらない、実施もやらない、それだけ日本に対して深い不信を時っておるイギリスフランス、こういうヨーロッパ諸国を前にして、日本が百億近くの金をぶち込む、それは何のためであるか。これは、タイという一つ市場をここで日本が確保していくためであるということは明らかである。こういう行動が、はたして、日本が一番心配して気づかいをしてきた対英仏関係、対EEC関係、これを一体刺激しないものであるかどうか、こういうことは忘れてはならない点ではないかと思うのであります。  タイは、今申しましたように、ASAの重要なメンバーであります。ところが、イギリスはこのASAに対しては必ずしも信頼していない。同じような別の形態をマレーシア連邦という形で進めようとしております。そうすると、これを前にして、わざわざASAにバックしてこういう行動をおとりになることが、日本経済界にとってはたして損であるかプラスであるか。しきりに言われております。ほんとうの大所高所に立ってこれをながめた場合、必ずしも簡単に進まない。エカフェで慎重な態度をとったとすれば、これについてももっと慎重なる態度をとらなければならぬ、こういう結論に到達せざるを得ないのではないかという工合に考えます。  つまり、タイに対する投資というものは、発展していく投資ではなく、むしろ消滅していく投資である。それはふらふらして倒れそうになっておる独裁名を支えるための投資にしかすぎない。そして、その結果は、日本タイもろともアジアでも世界でも非常な孤立に陥っていく。従って、これは日本にとってEECということから見てもマイナスの意味しか持たない投資にほかならないのではないか。そして、その結果、タイにはアジアの戦争の危機を激発するようなことだけが残っていく。しかもそれは日本の金によって行なわれるという結果になっていく。こういう悪循環が日本をますます深刻な孤立と国際的な孤児に追い込んでいく結果になることだと、私は思うのであります。こういう結果になることが見え透いておるような対象に対して、私どもの九十六億というとうとい血税を軽々しくぶち込んでもらいたくない。これが国民の一人としての私の希望であります。(拍手)
  6. 森下國雄

    森下委員長 次に、田口参考人にお願いいたします。
  7. 田口治三

    田口参考人 私は田口治三と申します。現在東京銀行の新橋支店長として勤務しておる者でございます。が、かつて、昭和三十三年の七月から昨年三十六年の八月まで、駐在惨事といたしまして満三カ年バンコックに在勤しておりました。日本に帰りましてから約半年ちょっとになるのでありますが、在勤当時のことを思い出しながら、現在当委員会において御審議中である特別円問題について私の考えを申し述べたいと思います。御参考になるならば、はなはだしあわせであります。  先ほど宇敷さんも申しておったところでありますが、タイ国との経済関係がなかなか重要であるということは、あらためて申し上げるまでもないと存ずるのでありますが、日本側から見て、貿易の取引先、相手先の国別に輸出入の貿易往復の合計金額を出して比べてみますと、タイ国は、全世界各国の中の大体十番目か、悪いときでも十四、五番目というところにあるのであります。はなはだ重要な貿易の相手先であると言えようかと存じます。たとえば、大蔵省の税関部でまとめられた貿易統計によりまして昨年の実績を見ますと、この年は年間の輸出入の往復のく合計が百億四千六百万ドルに上った年でございますが、タイ国との間の貿易は二億一千二百万ドルでございまして、全世界各国のうちの九番目となっております。  また、この貿易の内容を見てみますと、時期によりまして、あるいは日本側の大きな輸入食糧の買付先であったこともありますが、最近のところでは大きな輸出先となっておりまして、たとえば、同じく昨年のタイ国への輸出総額を見ますと、一億三千三百万ドルになっておりまして、これは日本から見て世界の四番目かと存じます。この輸出商品も、繊維類から金属類、機械類等、非常に多岐にわたっておりまして、わが国として関連する産業はきわめて広く多い。貿易・産業的に見て決してないがしろにできない相手先と存じます。  この結果、当然のことでございますが、最近数年の輸出入の貿易じりは、わが国から見まして、出超、黒字となっておりまして、その黒字の大きさの順序をこれまた各国別に順番をつけてみますと、世界各国相手先の中で相当な上位にありまして、たとえば昨年は、五千五百万ドル、邦貨にいたしまして約二百位円、世界各国のうちの第七番目となっております。  同じことなのでございますが、これをひっくり返しましてタイ側から見ますと、現在最大の貿易の相手国は日本となっておるのでございます。これを御参考に数字の上で申で上げますと、統計がお手元に古いものしかないのでございますが、一昨年、一九六〇年には、タイ国貿易の全体のうちの二一・九%を日本との往復貿易で占めており、これは第一番目であって、第二番目はアメリカの一五・四%というように相当差が開いておる、こういうようなことでございます。  以上は主として貿易関係について申し上げたのでありますが、その他、政情も落ちついておるように存じます。物価、為替関係も安定しておりまして、最近はわが国から生産工場が現地に進出するものも相次いでおりますしこれらを総合いたしますと、経済関係は大そう緊密であると言えるかと存じます。バンコックでは、現地に進出いたしておりまする日本の商社、船会社、その他いろいろの事業会社で日本人商工会議所を組織しておるのでありますが、昨年四月当時、その会員数はたしか七十二社であったと記憶しております。このほかにも、会議所の会員にはなっておらない現地進出企業もたくさんございまして、これまたいささか古くて恐縮なんでございますが、一昨年の四月ごろ私が調べました際、合計百四社まで調べましたのですが、だんだんとこまかくなり、調査しにくくなって、百四社までで打ち切ったこともございます。このようなことを反映いたしまして、在留邦人の数も非常に多く、先ほど宇敷さんも言っておられましたように、バンコックだけでも千人はこえているだろうというふうに考えております。  いささか前置きのような部分が長くなりまして、大へん恐縮なんでございますが、このようなところで、私は昭和三十三年の七月に現地に参りましたのですが、そこで実際問題として私が感じましたことは、一般的な対日感情は決して悪くはない、住みよい、前の在勤地でありましたアメリカに比べて決して対日感情は悪くはない、しかし、経済的には必ずしも安穏無事にはいっておらない、日本に対する風当たりは強いというようなことを私は感じました。現地の新聞その他にときどき出ます事柄、また、だんだんと、いろいろ銀行家とか、その他の事業をやっている連中の現地の知り合い、友人ができて参りましたのですが、その言うこと、いろいろの面から感じたのでございますが、日・タイ経済関係は決して安心して手放しでほうっておけない、何とかしないと、これだけ貿易関係もあり、大半な経済関係にある国であり、たくさんの日本の会社、工場も進出しているところなんだけれども、手ばなしにしていてはどうも困ったことになるのではないかしらというようなことを、在勤中を通じまして絶えず感じました。また、これはただ私だけの主観的な感じではないようでございまして、ほかの在留邦人の間でもよくこの話が出ました。先ほども申し上げました商工会議所の集まりの席上でも、いつもこのような話や心配が出るというようなことでございました。なぜそんな感じを受けるかと申しますと、たとえば、日本タイ国への輸入に対してどうも制限が行なわれるらしいといううわさが出ましたり、いや少なくとも関税が引き上げられそうだということがうわさされましたり、そういうことが再々でございます。現地側の新聞に出る政府の交換筋の話の中で、特別に日本という国の名前をあげはしませんが、どうも日本のことを言ったのではないかしら、それに間違いないのではないかというような節々もありますし、現地の知り合いと話しますと、あれは日本のことなんだよというふうに言われるようなこともある始末であります。こういうことがまことに再々でございました。そこで、実際そういうようなばかなことがあったのでございますが、日本からの商品輸入を、そのような輸入制限をされたりあるいは関税を上げられたりしては大へんだから、いろいろな不利なことはあるけれども、しようがないから、見越して、先物輸入をして現地へストックしようかしらというようなことがいつも考えられるような始末で、私も現実日本の商社からそのような相談を再再受けたことがございます。在留邦人の間でも、何とか円満にこういうようなことが解決されてほしいものだというような話が出ておったわけでございます。  その原因は一体何だろうか。出時私ども在留邦人の間でうわさしておりましたものは、次の二つでございます。  一つは、わが国タイ国からの買付がはかどらない、タイ側から見ますと、大きな貿易入超、赤字になっている。たまたまタイ国全体の貿易が入超、赤字なのでありますが、年によって違いますが、六千万ドルないし七千万ドルの赤字になっておる。大体これに近い金額が日本との貿易の赤字になっておりますので、どうも日本からの入超がタイ国の国全体としての入超の原因であるようにしろうと目にとられることがあって、風当たりが強い。この貿易上の事柄がタイ側から見て入超になっているという点。第二番目に、特別円問題がまだ完全に解決しておらないということ。このような二つのことが原因なんじゃなかろうかと、われわれ現地で実際問題として心配し、うわさしておったわけでございます。  特別円の旧協定は三十年に成立いたしまして、その年から五年間、すなわち三十四年までは旧協定一条の年賦払いが毎年十億円ございました。この間はあまり本件について風当たりが強くなかったように感じます。私三十三年に参りましたのですが、三十三年、三十四年と進みまして、三十五年からは、先ほどの毎年の年賦払いがもう済んでしまって、ないわけでございます。そこで、三十五年あたりから風当たりが強くなったように感じます。これまた、在留邦人の間で、何とか円満に解決せぬものだろうかという声が実際には根強く存在しておりました。日本から御視察の方がお見えになったときにも、いつもわれわれ現地側としては御報告しておったところでございます。  なぜそれではこの旧協定第二条のいわゆる経済協力が空文のままで残ってしまったか、そして、むしろ、現地側におりましたわれわれが感じましたように、日・タイ経済関係の上のしこりになったのだろうかということを考えてみますのですが、これは、日本側はいわゆる経済協力ということで長期の貸金をしてやろうということであるけれども、タイ側は、やはり、特別円というものは、昔戦争中に日本に貸した分だ、その貸したものの解決、取り立てのときに、タイ側が借り手になるというのはおかしいじゃないかというような、まあ言ってみますればきわめて素朴なことなんでございますが、そういうことが実際問題としてタイ国民感情にもなっていたんじゃないかと存じます。  それからまた、もう一つは、だんだんとタイの国際的地位が微妙になって参りまして、経済的なこともございますが、各国がいろいろと援助、投資をしてくる。すると、その条件がいろいろあるわけで、そういう海外援助、外国からの援助が受けられるのに、昔金を貸した日本から経済協力をしてもらうのに、ありがたみが少ないようなことではつまらぬじゃないかということが、長い間にタイ人の国民感情になってしまった、そういうことなんではないかと、これは私の考えでございますが、そのように存じます。  何にせよ、特別円問題の旧協定第二条が有名無実のままの形で未解決で残っているということは、悩みの種の一つであったわけでございます。  今後は、もちろん、先ほども申し上げました貿易の不均衡、タイ側の著しい入超ということも考えまして、日本側としても、タイ国からの買付についていろいろと考慮をしなければいけない、その他のことがあろうかと存じますが、このことと相待ちまして、特別円問題がタイ国側も納得するような形で解決されて、経済関係のしこりがなくなれば、いよいよ両国間貿易経済関係も不安を伴うことなく盛んになるのではないかというふうに考える次第でございます。  どうも、つまらないかもしれませんが、そのようなことでございます。(拍手)
  8. 森下國雄

    森下委員長 次に、山家参考人にお願いいたします。
  9. 山家和子

    山家参考人 山家和子でございます。一般の国民の方々と大へん近いところにおります末端地方議員の仕事と、それから、日本母親大会の事務局長の仕事をいたしております。昨日のガリオア・エロアに引き続きまして、きょうは、タイ特別円につきまして、専門家の方々がそれぞれのお立場から参考人としての御意見をお述べになっていらしゃいますけれども、私は経済だの外交だの条約問題だのという専門家でもないので、一般の国民がこの問題をどのように見ているかということにつきまして申し上げたいと思います。とりわけ、国民の半ばを占めております婦人の立場から、さらに子供たちのしあわせを毎日願っております母親の立場から、タイ特別円につきまして考え方を申し上げたいと思うわけでございます。  今さら申すまでもないことでございますけれども、主権在民の今日の社会におきまして、政治というものは、国民の意思に沿って、しかもみんなが納得するような、よくわかるような手だてによって取り運ばれなければならないというふうに思います。ところが、非常に残念なことでございますけれども、このタイ特別円問題の経過というものは、これとどうも反対な道筋によって今日に至っているというふうに私には考えられるわけでございます。  第二次世界戦争中、日本軍タイで調達した物資など、日本の債務については、昭和三十年に日・タイ間の協定が両国の政府間の合意によって行なわれていると思います。そうして、その第一条に当たる五十四億円というものは、先ほどの参考人もおっしゃいましたように、初めの約束通り五年がかりで支払われているということだと思うのです。あとは九十六億円を経済協力として投資及びクレジットの形で供与するという第二条で、これが今問題になっているというふうに承知いたしておりますけれども、この解釈につきましては、私ちょうだいいたしました書類の中にもあったわけでございますが、タイ側日本側の主張というものを正しいと認めている、だけれども、さっきの参考人がおっしゃいましたように、何とか借りるということではなくてもらえるというふうにならないものだろうかとおっしゃっていらっしゃる、そういうふうに要請してきたのだ、こういうふうにたしかなっているのだと思うわけです。これは政府の提案理由の中にもはっきりと経過として示されているのだということを、私たちは確認しておいた方がいいのではないかという気がいたします。私どもも、新聞、ラジオ、テレビぐらいでしかこの問題の経過というものを承知していないわけですが、何しろやはり大へん一般国民の頭へ入ってきにくいこと、だものですから、繰り返して少しずつ念を押してこれをやっていきたいと思うわけでございますが、もちろん、タイ側立場から見ますれば、借りるよりももらう方がありがたい、有利だということは、きまり切ったことだと思うわけです。しかし、日本にとっては、それでは一体どうなのだろうかということになりますと、やはりそれでは逆の条件になる。大へん不利になる。これは、幾らだれが考えてみても、あたりまえ過ぎるくらいあたりまえなことだと思います。ところが、池田首相が昨年の十一月にタイにおいでになった。そうして、タイの首相とお話し合いをなさって、非常に気前よくこの九十六億円というものを八年間の分割払いでタイに支払うという約束をしておいでになったこと、これも多分間迷いではないだろうと思います。貸すはずだったお金を上げようとおっしゃってきたんだというふうに私どもは承知しております。続いて、本年の一月には、大江大使タイの外相との間で新しい協定の署名と会議議事録のイニシャルが行なわれたということも、これは公文書の中に書いてある。次は国会においてこの協定承認してほしいというのが、私たちの承知しております非常にざっとしたものでございますけれども、経過のあらましだというふうに考えるわけでございます。  そこで、私はいかにも変だと思うことが幾つかあるわけでございます。もちろん総理大臣という方は日本政治の最高責任者でいらっしゃるわけでございますが、だからといって、こういうような問題を出先でいわば勝手に約束してこられるほどの権限を私どもはおまかせしているというふうには考えていなかったわけでございます。池田首相は私におまかせ下さいということをおっしゃることが大へんお好きなようでございますけれども、国民の税金の使い道について総理が先に外国と約束をしておしまいになって、それから国会の論議がそのあとで行なわれるということは、やっぱり国会は何のためにあるのだろうかというような気持がございます。それはそういうことがあり得るからきょうもこうなっているのだと思いますけれども、しかし、普通の国民にはどうも大へん心配な気がしてくるということは、国民感情としてあるのでございます。国会の正常化ということが非常にやかましく言われておるわけでございます。固く会の正常化、固く会はぜひ正常化されたいというふうに私どもも思います。だけれども、その国会が正常に運営されるためには、やっぱり、いろいろな人たちが、今私が申し上げたような疑問を含めて、そういうものを持たないで済むような、そういう大事な問題をまず国会に終るという、そういう国会尊重の精神がないと、どうも本物の正常化にならないような気持が私はするわけでございます。  次に、以上の取りきめは全部両国間の伝統的な友好関係及び経済協力関係を強化するためのものだということが大へん強調されているわけでございます。この辺にも少し納得できないところがあるわけでございます。日本国民は平和憲法というものをとにかく今日まで守り続けている国民でございまして、特に私たち婦人は平和を願う気持が非常に強いのでございますから、世界じゅうどこの国とも仲よくしていきたいというふうに心底から思っているわけでございます。そういう意味で、タイ国民との友好を深めるということも大へんけっこうなことだと思うわけでございます。何も別にこっちが無理なことをやろうとか、巻き上げてこようということとはこの問題は違うということも含めてです。しかし、友好関係とか協力関係というものは、何でも向こう様の言う通りになるということではないのじゃないかというふうに私は考えるわけです。こちらも喜んで同意するという前提条件がないと、なかなか友好ということは成り立たないのじゃないか。これは、個人の関係でも国家の関係でも同じじゃないかと思うのです。そこで、池田総理が大へん気前よく差し出されました九十六億円というものを、私たちはどうもそう簡単に差し上げる気になれないのだということを私は申し上げたいし、ずいぶんたくさんの人たちがそういうふうに思っているのじゃないだろうかということが、私どもとお話し合いになりましたときに特にお母さんたちの間では出てきているということを、むしろ外務委員会皆さんに御報告申し上げたいという気もするのでございます。  ガリオア・エロアの返済協定につきましても、日本経済はもう立ち直ったのだから、出仕払い的な意味で支払ったらよいという御意見が出ているようでございます。しかし、日本国民が今どんなふうな生活状態にあって、どんな要求を時っているか、その要求ははたして満たされているかどうかということにつきましては、私は特に子供を育てている母親たちの立場に立って少し詳しく申し上げて皆様方の御理解をいただきたいというふうに思うわけでございます。  まず、母親たちにとって今一番直接的な、子供を健康に育てたいということから申し上げたいと思うのです。一昨々年になりますけれども、青森で、それから一昨年北海道で起こりました小児麻痺の大流行というのは、日本じゅうのお母さんたちを全くふるえ上がらせたということだと思います。お母さんたちを中心とする全国的な小児麻痺撲滅の運動助が盛り上がった中で、昨年はソ連の生ワクチンが輸入されまして危うく大流行を食いとめることができましたけれども、この運動の中で私たちは国の医療対策の貧しさというものをいやになるほど知らされたということだったのです。今、私たちは、日本から小児麻痺をすっかりなくしてしまうために、ことしはせめて二十才までの行少年に生ワクチンの予防接種をしていただきたいということを申し上げておりますけれども、今のところカナダ製の生ワクチンによりまして小学化のところまで接種を受けることができるという状態にあるということは、皆様よく御承知だと思います。私どもの希望はまだかなえられていないという状態でございます。それからまた、この冬の流感対策というものも、学校ばかりか、おとなの職場までが流感麻痺になってしまうというような無防備だったということは、皆さんよく御承知だと思うのです。流行病から国民を守るという文化国家として当然の手だてを尽くすことが今日本ではされていないということでございます。  次に、現在非常に深刻な教育問題であり、社会問題になっております高校の問題について申し上げたいと思うのです。私も中学校の今度三年になります子供を持っておりますけれども、ベビー・ブームと言われておりますこの子供たちは、一年後にはいやおうなしに中学校を卒業いたします。今日の社会情勢の中で、せめて両校までは入れたい、あるいは入りたいという親と子供たちの痛切な願いと、それから実際のベビー・ブームという生徒増とが相待って、昭和三十八年の受験競争、来年の分ですけれども、とっくの昔にそれは始まっていることですが、それはおそらく未曽有のものになるであろうということが思われます。こんなことはずっと前からわかり切っていたことで、あの子供たちが生まれたときからわかっていたことなんだけれども、それに対してぎりぎりの今日まで必要な配慮がほとんど行なわれていないということでございます。昭和四十年までの生徒増は百六十七万人というふうに推定されておりますけれども、そうすると、二千二百校の学校の新設が必要となってきますし、現在言われておりますような公私を合わせて二百二十二校の新設ではとうてい間に合わない。東京では三十八年度には七万人からの中学浪人までが出るだろうということも言われております。それはどんな大へんなことか、これはわかっていただけると思うのです。  また、婦人が職業を持ったり、あるいはこのごろ暮らしが大へん苦しいから内職する人たちがいよいよふえておるわけですけれども、乳幼児のための保育所がほしいという要求が非常に痛切なものになっております。最近、東京の新宿では、住宅地区のいわゆる奥さんと言われる人たちも、バタヤ部落のおっかさんたちも一緒になって、五日間で七千名の署名を集めて、区議会に請願するということがございましたが、保母さんの低賃金の問題も含めて、このことはやはり国の責任としてぜひ取り上げていただきたいことだと思います。  最後に、現在所得倍増政策によって一番苦しめられております最低生活者、生活保護世帯のことを申し上げたいと思うのです。生活保護基準は多少上がりましたけれども、これが物価の値上がりに追いつける額でないということはどなたも御承知のことだと思います。いよいよ激しくなっております消費者物価の値上がり、特に公共料金だの食料品の値上がりというものは、この人たちののど首のところを締めつけておりますし、私のところに参りました日雇いをしているお母さんは、学校に持っていくお金を一体兄弟のどっちが先に持っていくかということでつかみ合いのけんかが始まるのだということを泣いて訴えておりました。必ずしも最低生活だけでなくて、一般の非常に広い層の国民の中で、生活が苦しくなったということが訴えられておりますし、池田内閣の経済政策に失望しておるということが世論調査の結果で明らかに示されておるというふうに思います。  こういうことを外務委員会で言っても仕方がないとお思いになる方がたくさんいらっしゃると思いますけれども、こういうことを申し上げるというのは、国民の納める税金の使い道はよくよく考えていただきたいということを申し上げたいからなんでございます。今度のタイ特別円の問題についての考え方が、私たちの願っております政治のあり方、政治の向きというものとどうも基本のところで食い違っておるというふうに考えられますので、その点をはっきりさせたい意味で長々といろいろ例を申し上げたということでございます。ぜひ外務委員の方に聞いていただきたいというふうに考えたわけでございます。国民感情というものは国民の日常生活に根ざしたものでございまして、国の政治を担当なさる方方は、国民大多数の生活の実質的な充実というものを、ムード作りよりも先にお考えいただきたいということなのでございます。  このようなおふくろ族の考え方に対しまして、それは目先のことであって、長い目で見れば今の九十六億というものは何倍にもなるのだというお考えもおそらくあろうかと思います。しかし、私どもは、先ほどもちょっと触れましたけれども、長い目で見ますならば、なおさら、今度のようにある国とだけ仲よくするというようなことじゃなくて、アジアのどの国とも、世界のどの国とも正常な友好関係を作り上げていきたいというふうに考えるのでございます。まして、タイとお隣りのラオス、ベトナムあたりの関係も考えてみましたときに、そのことで私どもは慎重に配慮していくということが、むしろ世界平和というものに寄与する日本の責任ではないかというふうにも考えるわけでございます。  以上の理由で、タイ特別円の新協定には私はやはり反対だということをはっきり申し上げたいと思います。  それから、今後総理が各国を訪問されます際に、このようなお約束はあまりしてきていただきたくないということと、それから、異論の多いこの問題を、強行採決などということで、きょうは参考人意見を述べたからこれで終わったということじゃなくて、そういう押し切り方をしないで慎重な御審議を国会がお重ね下さいますことを、特につけ加えましてお願い申し上げたいと思います。(拍手)
  10. 森下國雄

    森下委員長 申し上げます。山家参考人は都合によりまして、正午に御退出をさせていただきたいとの申し出がありますので、山家参考人に対する質疑を先に行なうことといたします。  正示啓次郎君。
  11. 正示啓次郎

    ○正示委員 山家さんにお伺いいたします。私も子供の父でございまして、ただいま山家さんのおっしゃられたと同じ角度において私からお尋ねを申し上げたいと思いますので、よろしくお願いいたします。  まず第一に、総理が三十年の協定を結びましてから今日まで六年間、政府はいろいろあの協定通りに実行したいということで努力してきたことは、山家さんもお勉強になっておわかりの通りでございます。三十年協定は、申し上げるまでもなく、社会党さんも御賛成になりまして、みんなで賛成して作ったのです。ですから、何とかしてその通り実行したいというので、実はわれわれも一役をになってやったのでございます。このやり方について御意見がございましたが、日本の憲法では外交権というものを政府に与える、これは憲法できまっている。ちょうど、一家の中で、外で交渉をするときに、家族がみんながやがや言ってやったのでは言うことがいろいろ迷うわけです。そこで、まず一応外で交渉するときは代表が行ってやりまして、それを国会へかけて、いわば家族会議へかけて、そこで初めてこれが成立する、こういうことに憲法でなっております。山家さんの御意見によりますと、憲法を改正しないとどうも山家さんの御主張のようなことにはならないという点をまず申し上げて、お伺いをしておきたいと思います。  それから、言う通りになったのじゃないかというお話でございますが、実は、三十年協定では、御承知のように、最初戦争中の帳じりが十五億円というふうに日本銀行に残っておりまして、それをいろいろの換算方法があるわけでございますが、タイ国は、最初千三百五十億、その後五百四十億、こういうふうにしてきて、最後に百五十億、そこまでは野党・与党がまあ仕方がないだろうということで協定ができ上ったのです。そうして、動かそうとしたところが、第一条は動いたけれども、第二条はがんとして動かない。この事情について、先ほどいろいろほかの参考人から現地の事情をお話しになったのでございます。そこで、今回は、何も言う通りじゃないのでございます。タイ国は九十六億円すぐほしかった。しかし、八年間分割で支払いしていきますから、これは、利子を年々つけていくことを考えますと、いわゆる現在価値にしますと、六十五億とか八十億ということにも実はなっておるわけでございます。大へんこれはまとめるのには苦心をしたわけでございます。何も総理が一人で行きましたわけではなくて、よく閣内で相談しまして、関係の各省を連れていって相談した結果、日本としても、このプラスとマイナス、——この際日本として払うことはなるほどつらいが……。   〔発言する者あり〕
  12. 森下國雄

    森下委員長 御静粛に願います。
  13. 正示啓次郎

    ○正示委員 ちょっと静かに聞いて下さい。しかしプラスとマイナスを考えて、この際八年間にこれを分割払いすることが、年々の貿易じりで、さっきもお話しのように二百億、——よろしゅうごいますか、百億足らずのものを八年間に分別して支払ったら、年々二百億ぐらいの貿易の受け取りが来る。それをもっとふやしていこうということは、これはどうでございましょう、家族会議にかけたら御賛成にならないでしょうか。そこなんです。そこが第一点です。  それから、その次にもう一つ申し上げたいのは、実は、私どもも、条約でございますから、結んだものをその通り実行しようとして努力したことはさっき申し上げた。それで、山家さん御存じだと思いますが、御承知の通り、昔のベニスの商人の物語でございますね。あれは金を貸した。そうしたら肉一ポンド担保に出そう、肉一ポンド取ってもいいけれども、血は一滴も流してはならぬぞと言ったというのですね。ちょっとこれは関係は違いますが、それは当時社会党さんもほめたんですよ、大蔵省というところはりっぱなところだと。(笑声)協定を結んだことはほめた。ほめたんだけれども、それが動かなかった。ちょうどシャイロックのベニスの商人の約束が動かなかったごとく、タイ国との協定の第二条は動かなかった。そこで、名判官が出てきて、動かそう、動かしたらそれが国家的に民族的に大いに将来プラスになるという判断のもとにやったんだということを母親としても一つ御理解いただきたいという意味で、この所見を伺いたいのです。  その次にもう一つ申し上げます。昨日のガリオア・エロアまで御言及になりましたので、この際ちょっと申し上げますが、なるほど、日本の母親として、有償のものを無償にするのはいやだ、貸してやろうと言ったのをただにするのはいやだ。それじゃ、いかがですか、アメリカの母親は、ガリオア・エロアは日本に貸したと思っておったのです。それをだれかがただにしてくれと言ったら、アメリカの母親はどういうふうにお考えになりましょうか。この点についても御意見を伺いたいと思います。  それから、最後に国会の正常化についても大へん有益な御発言がございました。私は国会というところは言論の府だろうと思うのです。正常な言論が戦わされて、十分尽くした上に、最後に多数決の原理にまってやるのが、国民の信託を受けた国会議員の当然の責任だと私は信じております。しかるに、どうです、この議場でこんなにやじが飛んだり、ルールに従ってやろうとすると、暴力をもって委員長の職権を阻止したり、暴力だけはやめましょうということが国会正常化の第一歩だと私どもは考えておるのでございますが、いかがでございましょう、母親として御意見を伺いたい。
  14. 山家和子

    山家参考人 大へんわがままを申し上げまして、私だけ先に発言をさせていただくというようなことになりまして、申しわけございません。お礼申し上げます。  大へん御丁重な質問を何項目かいただいたわけでございます。はたしてうまく全部お答えできるかどうか、また、お答えしなければならぬのだろうかということを考える部分もあったわけでございます。  一番初めの、憲法改正をしないことには私の申し上げたような順番にはいかないのだよというお話につきましては、それは、ただいまの行き方が違法だからどうこうとさっき申し上げたとは私は思っておりません。だから、こういうふうになっているのでございましょう、しかしこれは国民感情の側から見ますとこういうことなんでございますという言い方を、私はあのときから気をつけて申し上げていたというふうに思うわけでございます。つまり、それまでの間にどういうことがあったのか、一般国民は議員さん御承知のようには知らないわけでございます。突如としてきまって持って帰られてきてしまって、今議会でもめている、つまり、そういう印象なわけでございます。つまり、そういうふうにならないようないろいろな手だてというものが、私は国会のことはよく存じませんけれども、あるんじゃないだろうかと思う意味で申し上げたということでありますから、今ここで憲法を改正してなんということは一言も申し上げていないということが第一のお答えでございます。  それから、その次でございますけれども、タイ側の言う通りにまるまるなってしまったのではないとおっしゃることも、これもごもっともだと思うのです。非常に長い期間をかけて皆さんがいろいろ御苦労なさったということも、私は私なりにわかるわけでございますけれども、そして、そのあとのところでやはり意見が違ってきたのだろうと思うのです。この貿易の帳じりがどのくらいにいけば合うのかということについての帳じりの合わせ方にもいろいろな意見が、これは経済学者の間にもおありだろうというふうに思いますし、ましてや私にわかることではないのでございます。しかし、だから、さっきから慎重に御審議いただきたいということを申し上げているわけでございますけれども、みんながよくわかるような帳じりが出てくるようなところまでお話がいっていないのじゃないかという気もいたしますし、おわかりになる方はわかっていらっしゃると思います。ですけれども、タイの言う通りでないということはわかるけれどもまだ、今の段階では、むしろこっちから喜んで言う通りになった、そうすると何かあるのじゃないだろうかという心配の方が出てくるような、そういう段階だと少なくとも私どもは考えるわけです。  それから、その次ですけれども、第二条が動かなかったというのですか、動かそうと思っても動かなかった、それで、今のような名判官がおいでになって動かして下さった、ちょうどうまくまとめて下さったというのですけれども、これも、さっきこれについては意見がいろいろあるところだという。そこなんで、これはやはりもう少し慎重な御審議をいただきたいということが、私どもの方としてはお願いしたい分でございます。  それから、アメリカの母親は、——私はアメリカの母親じゃございませんから、どう考えるかと言われても大へん困るわけです。ガリオア・エロアの問題につきましては、アメリカの母親が第一そのことをみんな日本に売ってやったんだと思っているかどうかという辺も、これもよく聞いてみないとわかりませんので、御質問には私はちょっとお答え申しかねるということでございます。  それから、国会の正常化のことでございますが、暴力を認めるか認めないかとおっしゃれば、これはここであらためて私にそれを聞こうというおつもりだろうと思うから申し上げるわけでございますが、国会は皆さんおっしゃる通り言論の府だということがございます。その中で、私どもも、暴力がいいなんて、どこのだれだってそんなことを思っている人はいないし、すわり込みをなさったりする議員の方々も、それがとてもすばらしいことで、楽しいことでやっていらっしゃるということではないと私は思います。そこで、私が先ほど正常化という言葉を使いましたのは、やはり、みんなが納得ずくでもって物事がきまっていくような段取りというものが一番初めの問題が起こって進んでいく経過の中で用意されるということが、国会の正常化には必要な前提条件だということを申し上げたのだということでございます。  大体以上でお答えしたと思います。
  15. 正示啓次郎

    ○正示委員 さすがに議会人として体験を積んでおられるだけに、大へんいいお答えをいただきました。ただ、私もう一つだけつけ加えてお尋ねしたいのは、先ほどお話しのように、国民生活をよくするために、また、社会保障をいろいろ充実するために、この際九十六億を払うのは惜しいような気がするということもおっしゃった。ただ、これは、ほんとうに国民生活をよくしたり社会保障をさらに充実していくためには、日本経済の力をつけていかなければならない。財政の力をつけていかなければならない。そのために、九十六億円ステイックして、これだけ守って九十六億円払わないぞと言っているうちに、タイとの貿易がだんだんなくなってしまうと、日本経済伸びないわけでございます。そこで、国民生活をよくし、社会保障をよくしていくために、経済の力をつけ、財政の力をつけるために、この際九十六億は一種のいわば元手になって、それが上へ上へと発展していくなら、お母様としていかがでございましょうか、御賛成なさるか、その点が第一。  それから、もう一つ、慎重審議ということが相言葉のように言われておるのでございますが、実は、先ほど委員長が冒頭に申しましたように、二月の九日にこの案が出ているのでございます。それから、三十年協定のときも社会党さんも十分審議された。もっともあのときは質問していないのでございますが……。そこで、今度も決して今われわれは急に出して急にどうしろと言っているのではない。もう二月の九日からこの問題は外務委員会でし審議しておるし、また、できる立場にあったのだということをあわせて申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。  ちょっとさっきの点だけ……。
  16. 山家和子

    山家参考人 今の御質問の第一点につきましては、私先ほど申し上げているような気がするのです。つまり、長い目で見てみれば、これは今九十六億出し惜しみするのはけちくさい女の考え方だということをお考えになるかもしれないけれどもという前提をつけ加えて私は意見を申し上げたというように思いますので、もう一度繰り返す必要はないんじゃないかと思います。  それから、慎重審議につきましては、いろいろな主観もございますので、ある方々はもう慎重に審議し尽くしたとお思いになるし、ある方々はまだだと思う。参考人の中にもいろいろいるわけでございますから、私はそういう意味で慎重審議をお願いいたしたいということを申し上げておりますし、国民の中にかなりたくさんの人たちがそう思っているということは確かだと思います。
  17. 森下國雄

    森下委員長 帆足計君。
  18. 帆足計

    ○帆足委員 まだ田村幸策参考人の御意見も承らねばなりませんし、各参考への方々にそれぞれ御質問もしたいのでありますが、山家参考人先にお帰りでありますから、山家さんにだけ質問させていただきますから、あとの質問はその権利を留保させていただくことを委員に御了承願っておきます。  ただいま正示委員からいろいろ御質問がありましたのを、われわれも楽しく拝聴いたしました。その中に、民はよらしむべく知らしむべからずというようなムードが流れていたような印象をわれわれは得ましたけれども、私は外交というものは非常に重要なことであると思う。特に、日本貿易の国でございますから、いわば日本丸というような島に一億の同胞が生きていかねばならぬ。しかも原材料の非常に大部分のものは外から輸入せねばなりません。従いまして、この国における貿易というものは、吐く息は輸出、吸う息は輸入、呼吸に当たるほど重要なものでありまして、従ってまた、日本の外交は平和と貿易を必要とする点において、その外交の道を誤ったならば大へんなことになるわけでございます。従いまして、外交は国の大本でありますけれども、同時に、国民の手から遠く離れたものではないわけでございます。ちょうど、軍事戦略というものが、あれは専門家にまかせておけばいいなどと考えていたところが、サーベルを下げた新撰組新徴組に国をめちゃめちゃにされてしまいました。やはり、軍事、外交、貿易などについては、国民大衆の持っておる良識と離れないことが国の安全のために必要である、私はこう思う。  こういうような見地から、ただいま山家さんが母と子たちの立場を代表してるる述べられましたことを非常に感銘深く傾聴いたしました。さすがに与党各位の同性議員の皆さんも、おうちに帰れば平凡な父親でございますから、粛として声なく拝聴した姿を見ますと、やはり、お互いに人の子の父としては超党派のところがあると思って、大へん心強く感じました。しかし、同時に、政治は国の方針をきめるのでありますから、他の政党が誤った道を進もうとしておるときには、その誤れるゆえんを明確にして、そして国民の判断を受けるというのが、これは政治家の基本的任務でございます。本日もいろいろな立場参考人の発言を承りまして、また、私ども社会党はわかり切った問題のように思うのでありますけれども、保守党さんはそうお考えにならないような点もありまして、国民各位は簡単な新聞記事ではいろいろ迷うわけでございますから、やはり問題の所在を明らかにするために参考人の方にいろいろ聞いただすということも必要であろうと存じまして、ぶしつけな言葉もございましょうけれども、お尋ねする次第でございます。  一つは、実は、昨年でございましたか、南ベトナムの賠償の問題が起こりましたときに、すでに今日のことをわれわれ憂慮していたのでございます。南ベトナムで私どもが一体いかなる戦闘行為をしたか、(「それは問題が違う」と呼ぶ者あり)——南ベトナムタイ関係をあなたは御存じないのですか、外交委員で。そこで、ベトナムから南方にわたって日本の戦線は広がりまして、そうして、戦後の処理の問題につきましては、広く東南アジアとの国交の回復、諸条件の調整ということが日程に上りました。北ベトナムまたは中国においてはわれわれは非常にたくさんの残虐な行為をいたしましたけれども、さすがのファシスト諸君の暴行も南ベトナムにはそれほど及んでいなかったのでございます。いわゆる鶏三匹の被害と称する南ベトナム、その鶏三匹に対してたしか二百億円かの賠償金を出す、これはあまりにひどいというので長らく審議が続き、しかも、与党の諸君の中にも、この問題はちょっと無理であるという御発言をされた方もあって、速記録に残っておるのでございます。それが連鎖反応を起こしまして、やがてフィリピン、インドネシア諸国民の感情を存し、さらにそれが波及いたしまして、ビルマにおいてもう一度賠償問題を再交渉するという議が起こりまして、一ぺんきまった話を、(「委員長、注意した方がいい、参考人が貴重な時間をさいて来ているのに、自分の意見ばかりで、質問していないじゃないですか」と呼ぶ者あり)——よく聞いておれはわかります。委員長、私が話をしていることをうしろから妨害する方がおります。(「参考人は迷惑だ」と呼ぶ者あり)迷惑なのは僕です。参考人はあなたの発言に迷惑している。では参考人に聞いてごらんなさい。
  19. 森下國雄

    森下委員長 静粛に願います。質問の常道に入るようお願いします。
  20. 帆足計

    ○帆足委員 そこで、この問題は、ビルマにおいてもついに断絶状況となって響いて参りました。このたび、タイに対して、一度きまって批准して、もう両国の懸案は解決したと一応なっていたことに対して、再び経済援助を一種の無償援助に振りかえるということ、それから一種の連鎖反応を起こして、日韓会談においても、朴政権というのがまた三千億円の一種の賠償を日本に要求しております。そうなりますと、南朝鮮がそれを要求するならば、北朝鮮も振り合い上何とか言わねばならぬというところに追い込められるおそれがある。中国は、蒋介石さんが、おのれの欲せざること人に施すことなかれの趣旨をもちまして、東洋的な一つの情操をもって、賠償問題などを取り上げない。同時に、毛沢東主席もまたその点については同じ態度をとって、今のところはそういう問題に触れないということにわれわれは了解しておりますけれども、日本立場があり無原則でありますと、そういうところまで連鎖反応の心配がある。おそらくお母さんたちのいろいろな集まりにおきまして山家さんたちがいろいろ御議論なさったときにそういう御意見が出たと思いますけれども、まず一点は、そのことについての山家さんたちが代表する母たちの空気を、また御認識のほどを伺いたいと思います。
  21. 山家和子

    山家参考人 ただいまの御質問の分につきまして、やはり先ほど申し上げたという気がいたしますけれども、もう一つ言いますれば、一番おしまいのところで、これからこれが例になって各国でおそらくこの次またいろいろな形が出るのじゃないかということを私も考えたわけでございます。総理が外へお出になったたびにそういうことがきまってくるとか、必ずしもそうでなくても、NEATOの問題も先ほど別の参考人から出ておるわけでございますが、その諸国のところに日本が無原則に金をつぎ込んでいくのだというふうな印象を一般に与えることになるのは、やはり非常にまずいというふうには私どもも考えております。ただ、先ほど、そのことは世界平和に寄与する日本としては慎重に考えていただきたいのだ、どういうことでもってこのことはぜひ行なわれなければならないのかということが、各国の人たちにも日本国民にもよくわかるような状態でなければ、このことはやはりまずいのではないかという申し上げ方をしておるのは、今おっしゃったようなことだと思います。
  22. 帆足計

    ○帆足委員 もう一問だけで終わります。ガリオア・エロアの方も二千億になり、それから、今度のタイのも百億近くになる。このくらいの金ならば、丸の内に大手町ビル、冬は暖房装置、夏は冷房装置のビルが櫛比しておるから、払えるのではないか、出世払いもできるのではないか、こういうような意見もありましたし、きょう出世払いという言葉もこの議場で出ましたけれども、それは、大資本家各位は大いに出世なさっておられるかもしれませんけれども、日本の一般の国民大衆は、戦争の痛手まだいえず、——私は多少経済統計の心得ある者でございますが、統一表を見ましても、日本の実質賃金統計というものが非常に間違っております。これについては他日論じたいと思いますけれども、従いまして、都会における労働者の生活は大部分が戦前の水準に達しておりません。ましてや、中産階級、学名、大学の教授、助教授、研究者などの生活はさんたんたるものでありまして、断じて出世払いのような負担をにない得るような状況になっておりません。このこともやはり考慮する必要がある。特に、最近、子供たちは、疫痢がなおるようになり、乳児肺炎がなくなりましたので、もう一息というところですが、そのかわり、死亡率の中に事故死というのが急激にふえておりまして、ある場所によってはそれが最高の、死亡率になっておるようなところもございます。また、老人は老人性肺炎がなくなりましたけれども、住宅問題に追われまして、従いまして、子供の結婚を喜んだのもつかの間、老夫婦は住む場所がないということで、自殺が最高の死亡率になり始めております。これは議員だれしも心を病める問題である。それから、住宅問題はきわめて深刻なものがある。従いまして、こういう点から言って、出世払いということは、大資本家、また少数の支配者層には理解できると思いますけれども、一般には出世払いという観念は理解しがたいと思います。従いまして、この点につきまして山家さんの御意見を伺いたいと思います。
  23. 山家和子

    山家参考人 おっしゃる通りの状態があると思いますし、このことを先ほども申し上げたというふうに思うわけでございます。時間の関係もございますので長くお答えできないと思うのですけれども、とにかく、前と違ってて、今苦しくなってきたということについては、つまり、中産階級のところで暮らしが苦しい苦しいという声が今上っておる中で、今までの苦しさと違った分というのは、ほしいものが非常にたくさん山のようにあるということだと思うのです。にもかかわらず買えないつらさがもう一つプラスされてきておるというところがあり、しかも、それどころじゃなくなって、また物価の値上がりもひどくなっておるということによって、また引き戻されておるということが今の状態だと思います。  ただ、もう一点、私は先ほど事故死のことも申し上げたかったのですけれども、ここは外務委員会だぞときっと皆さんおっしゃるだろうと思いましたから、あまり幾つも言わなかったわけです。しかし、お出しいただけたところから言えば、これはもう非常に金がかかる。金がかかるということは、道路計画、国土の計画、全体を含めて大へんなことをしなければならない。事故死というものは共通問題だということを考えてみても、非常にたくさんの金がかかるものであって、とにかく、全体として言えば、予算の使い道がものすごくあり過ぎて、私どもがして、ほしいことは山ほどあって、それが十分に満たされていないのに、たかが九十六億とおっしゃる方もあるかもしれないけれども、それだけのお金だって私たちはやはり出し惜しみしたいのだということをもう一ぺん繰り返して申し上げて、お答えとしたいと思います。
  24. 森下國雄

    森下委員長 山家参考人には御多用中まことにありがとうございました。  次に、田村参考人より意見を聴取することといたします。田村参考人
  25. 田村幸策

    田村参考人 御審議の資料に加え得る何ものももう残されていないように私は思うのでありまするが、ただ、この問題の起因と、その経過をめぐりました政治上の背景と、この問題に含まれておりまする若干の法律問題とに関しまして私の解釈を申し上げさせていただきたいと考えるのであります。  大東亜戦争の始まります以前のアジアには、独立国というのはただの三つしかございませんでした。日本と中国とタイがそれでございます。しかし、その戦争の前夜には、不幸にして中国と日本はすでに干戈をまじえておるというような状態でございましたが、幸いに、タイとの間では、伝統的な友好関係を維持しておるのみならず、戦争の前年には友好関係の存続並びに領土の相互尊重という条約まで作っておるのであります。いよいよ開戦になりますると、その十二月八日の日に日本軍タイ国通貨に関する条約ができました。それから二週間日にはタイ国との間に同盟条約が結ばれたのであります。それのみならず、さらに、それから四週間たちますると、タイ日本に協力をいたしまして、イギリスアメリカに戦争をしかけたのであります。タイは、その前年、すなわち日本との間に友好関係の存続並びに領土保全の条約を結びましたと同じ日に、イギリスとの間に不可侵条約を結んでおるのであります。その不可侵条約によりますと、相互は、一方は他方に対して単独たるとまたは他の第三国と合同するといなとを問わず、一切暴力、戦争行為、侵略というものをやらないという条約上の義務を負うておったのであります。それでありまするから、タイイギリスに戦争をしかけるためには、どうしてもこの条約を破らざるを得ないのみならず、日本の戦勝に国家の運命をかけてのことでございまするから、タイとしてはかなり迷惑なことで、非常に弱ったことであろうと思われるのであります。イギリスの方は、隣のビルマとかマレーが当時イギリス領でございましたから、まだこれに戦争をしかけるということも全くわからぬことではございませんが、タイアメリカにいくさをしかけたということになると、これはもう全然わからないのでありまして、そんな理由はだれが考えても考えられないのです。それはなぜかと言えば、だれが解釈いたしましても、日本からの要望であるとか要求であるとか、強い要求の結果、日本の道連れに連れられていった、こう解釈せざるを得ないのであります。その間の外交文書が発表でもされますればはっきりわかると存じまするが、ただ、日本といたしましては、タイを敵に回したくない、しかして、イギリスに対してはすでに宣戦を布告しておる、イギリスの領土をいかな攻めなければならない、そうすれば、作戦上の必要上やむを得ずタイ国を、非常な迷惑ございますが、道連れにせざるを得なかった、こういうことがあり得ることだろうと考えられます。そういう状況のもとで、開戦と同時に、その日に二万五千という日本軍タイは迎えたのでありまするが、そうして、四年九カ月という間、ここで日本軍最後には十二万にもなったという、ずいぶん長い間の二万五千、平均一万五千が二万と申しましても、これは、四年九カ月、五年近くになりますると、一つの小さな市でありますか、町の大きなものを、おまけに食う盛りの者を五年も養っておったのでありまするから、食うものだけでも相当のものを食っておると思います。そういうふうに、タイは自国に全然無関係な戦争に日本の道連れに巻き込まれ引き込まれたのでありまするが、その上、今のような外国の軍隊をも常駐を許さねばならぬ、その上また、今のその軍隊に要る物資でありますとか、特に労力を提供しなくてはならぬ。そればかりではありませんで、さらに、物資や労力を調達する支払い手段までタイ国に背負わされたのであります。これが特別円でございまして、その総額は、これは日本銀行の預金でありまして、向こうからタイの通貨を受けて、それの相当額を日本銀行の帳簿に書いた。これは日本銀行におけるタイ政府の預金であります。その預金額は、終戦のときに当時の金で十五億円になった。この金額は、これは日本政府はかつて争ったことはないのであります。特に、この特別円ということでありますが、特別円という意味はよく知らないのですが、おそらく、そういう名前をつけたのは、金の交換性がある、コンバーティビリティがあるということで特別円と言ったのではないか。円に何か特別のものがあるわけはないと思いますから、そういう意味で、初めは、御承知のように、金で換算して払う、金を別送するというわけであります。それが、戦局の進展とともに現送がむずかしくなったのかどうかよく存じませんが、今のように日本銀行の帳簿にタイ貨として、バーツで受けた金を日本の金で日本銀行の帳簿に載せた。つまり、タイ国の預金でありますが、この預金の残高が十五億円だ、これが私のこれからの展開いたします出発点になっておるのであります。  戦争をやってみて、ついに負けたということになりまして、これをまた、日本は非常に信義を重んじまして、降伏の決意をいたしますると、直ちにその瞬間にこれを内報しております。十五日に、正式に終戦になりますと、これを公式に通告をしておる。ヨーロッパのわれわれの同盟国は、彼らは日本より早く降伏いたしましたけれども、同盟条約に基づけば、日本に相談もしなければならぬ、通告しなければならぬ義務があるのですが、そんなことは一切してくれませんでした。そうなりますと、われわれは、やはり、敗れたりといえども信義を重んじてタイ国には降伏の決意をすると同時にこれを内報しておるというようなことは、この際記憶を新たにする必要があるのじゃないか、こういうふうに考えるのであります。  さて、そういう日本と運命をともにしたタイが、その片割れがいくさに負けて、正式に降伏したという通告を日本から受けたタイとしては、失望もいたしましたでありましょうが、道連れにされてずいぶん怒りの感情も禁じ得なかったと思います。それで、日本からも、お前さんの方はイギリスアメリカといくさをしておるから、その方は一つしかるべくお前の方で最善の方法をとってくれと言われたものでありますから、イギリスとは休戦条約などを結んだような形跡がございますのですが、アメリカは敵国とみなさなかったのであります。タイから宣戦を布告されましたけれども、タイの宣戦布告というものはタイの自由意思によった自発的のものでないとみなして、これは強要されたものであるというので、ついに敵国たる地位を与えなかったのであります。これもよくその間の感情がわかると考えるのでありますが、一方、日本に対しまして、これは大へんなことであったのでありますが、同盟条約及び同盟条約の付属の一切の条約、特にと言うて念を押して、この特別円に関する協定まで、これを、ターミネートという字を使ってありますが、終了したという通告をして来たのであります。ここで大きな通告の効力というものの法律問題が起こるわけでありますが、これはやはり今日でも問題であろうと思いますが、特に向こうは断わっておりますね。その通告文を拝見いたしますと、特にこの特別円に関するものを含みというような言葉が使ってあります。同盟条約その他は正常な情勢で廃棄されたとか終了したということは、これはもう理解ができるのでございますが、わざわざ特別のものまで終了するというのは、ちょっと見ますと、彼らはりっぱな根拠のある債権をみずから進んで放棄したようにも解釈されるようであります。しかし、私は、それはそうではない、次の二つの理由で、それはそういうふうに解釈すべきものではない、この通告は債権まで放棄したという効力を持つものではないという解釈をとっておるのであります。  その第二の理由は、こういう条約の終了ということは、これは将来に向かってのみ効力のあるものでありまして、過去にさかのぼって、その条約なり協約が有効に存続中に発生した事態までこれを抹殺するというような効力のあるものではない、これが第一の理由であります。ターミネーションという字は、条約の場合はいろいろな場合を含んでおります。あらゆる条約が、もとの条約が変わって新しいものができるとか、もとの条約が全然なくなるというような、あらゆる場合を含んでおるのでありますが、大体概括して申し上げますと、今申し上げたようなことが一般の理解でありましょう。また、事柄の性質上そうでありまして、過去において、たとえば李承晩時代の日韓会談の当時に、韓国併合の条約を廃棄してくれということをしばしば言うたと、私ども伝え聞いておるのでありますが、これなどはしようがないのでありますね。過去の歴史を抹殺することはできないのであります。条約を廃棄するということは、将来その拘束力はないということだけでありまして、それでございますから、この特別円に関する協定が廃棄されたからといって、それは、将来、それがために日本銀行にあった頭金がなくなる、預金にそれが影響する、そういうものではございませんで、やはり、その通告というものは、将来預金を続けるという原因がなくなったということであり、それからまた、その損金を続ける場合に、それを計算する基礎がなくなった、こういうふうに私は解釈しておるのであります。それでありますから、タイは、あの通告によって過去における預金を放棄する意志は毛頭なかったものだ、こういうのが第一の理由であります。  第二の理由は、同盟条約の第二条を見ますと、タイ日本に対しまして政治上、経済上、軍事上あらゆる援助をするということがあるのであります。この特別円に関します協定と申しますものは、その同盟条約第二条の経済援助日本にいたします一つの方法としてのものであります。従って、その基本になりますもとの、母親である同盟条約がなくなったのでありますから、当然、それを実施する——その経済協力をするという同盟条約二条の一般的な義務を具体的の場合にどうして協力するのかというのがタイ特別円協定でございますから、それが消滅するのは、母親がなくなったら子供も同時になくなる。これは当然です。安保条約がなくなって行政協定だけが生きているということはあり得ないと同様でありましょう。それを、その通告において、タイがわざわざ、特にこれまで含む、終了するものの中に特別円に関するものまで含むとこう書いたのはどういうわけかといえば、これは私の解釈でありますが、タイからすれば、あれだけを残しておくと、今言うのが当然の解釈でございまして、母法がなくなれば子法もなくなる、根本法がなくなれば実行法もなくなるというのが当然でございますが、それを残しておけば、あるいは生きておれば、また日本からいつ、こんなものがあるじゃないか、これで一つ続けろと言われてもしようがないじゃないか、そういうおそれがあり得たんで、私は、特にといって、わざわざあれを書いたのではないかと思います。かりに私があの文章を起草したとすれば、そういうような気持で書いたのではないかというように考えられるのでございます。それが第二。  第三の理由、ということでもございませんが、第三は、日本は、御承知のように、開国以来、ロンドン市場とかニューヨーク市場で幾多の外債を出しておりますけれども、いまだかつて元金はもとより利子一毛といえども怠ったというような歴史を持っていないのであります。対外信用というものは非常に高いのであります。私がかつてロンドンに在勤していたときに、ある財務官が言われておりましたが、ロンドン市場で何か四十数カ国が公債を発行しておるそうでありますが、一番金払いのいいのは日本であったということであります。そういうので、タイとしては、大国日本が食い逃げなどするようなものではないという、日本に対する信頼感というものがまた一つあったということが、一つの原因ではなかったか、こういうふうに考えるのでございます。  さればこそ、そういう消えたのではないということであるからこそ、日本が平和条約によって独立を回復いたしますと、すぐ、一つあの円の問題の解決をつけてくれないか、こういう交渉を持ち込んだ。これは、もう、その債権の十五億の日本銀行の預金を放棄したというつもりならば、そんなことを申し出るわけもありませんし、また、日本政府がそれを受けて交渉に応ずるわけもなかったと私は思うのであります。  ともかく、この問題は、三十年の条約で一応解決がついたのでありますね。ところが、この三十年の条約というものは二つの部分からなっておる。この二つの部分は不可分一体でありまして、そこに私は非常に大事な点があると思うのであります。それで、これは二つの部分になっている。一つの部分は支障なく履行が完成したのでありますが、第二の日本が負うておる義務の方は、日本が義務を履行するためには必ず相手のタイ国の協力が必要なのであります。そのタイ国の協力がなければ条約の義務の履行はできない。すなわち、投資とクレジットでありますが、そうなりますと、これはずっと履行のできないまま今日までデッド・ロックになっておる、不屈行の状態になって六年なり七年なりを経過してきた、こういうのでございます。  それでは、なぜタイ国は、日本条約を履行しょうというのに、投資とクレジットをしようというのに、それに協力しないのか、なぜ協力を拒絶しておるかと申しますと、その理由でありますが、これは、別に、第二条のクレジットなり投資というものに日本政府が与えている解釈、すなわち、これはタイ国の債務になるのだ、あなたの借金になるのだ、こういう日本政府の解釈に挑戦をしておるわけではないのであります。それはその通りだと向こうは認めた。それでありますから、これは国際司法裁判所へ持っていくこともできないのであります。向こう様は認めておるのであります。それからまた、とにかく判をついているのです。条約に同意をしているのです。ところが、その同意をしたけれども、その同意の意思表示に瑕疵がある、きずがあるということも言うているわけではありません。たとえば、同窓はしたけれども、あれは強迫したのだとか、詐欺にかかったのだとか、策謀にかかったのだ、そういうことを言うておるのでもありませんということであります。それからまた、よく、条約の終了の一つの原因だと言われるのに、事情変更の原則というものがございます。条約を結んだ当時と事情が非常に変更した場合、条約の義務の履行が耐えられなくなった場合にはこれを変更することが許される。もとより相手の同意が要るのでありますが、そういうようなことを言うておるわけでもないのであります。なるほど、三十年と三十七年とを比べると、日本経済は変更したけれども、そういうことを言うておるのでもない。ただ、自分の方で勘違いしておったのだ、間違っておったのだ、こういう率直なる告白なんであります。いつタイが自分の間違いを発見したか、ちょっとわからないのであります。早くに気がついたのか、このごろ気がついたのか、ちょっとわからない。これは向こう様の腹の中へ入ってみないとわからないことでございます。私の考えでは、非常にこの一条と二条が不可分の一体をなしているので、二条の方の投資とクレジットを、タイ経済発展日本援助をするというような目的で、特別円問題とは無関係に、これと全く独立に経済援助協定というものを結んだならば、タイ政府も、日本から金を借りたからといって国家の面目に何ら関係いたしませんし、国民に対する言いわけだってりっぱにつくのであります。ところが、これが特別円問題と一緒になっておりますから、これがぴったりひっついて不可分の一体をなしているところに困難が起きた、こういうふうに考えられるのであります。  履行不能になりました三十年条約の成立までの過程をちょっと私顧みますと、一番初めは、タイは御承知のように千二百六十七億円という数字の要求を出した。日本がそれに反対して参りますと、たちまちこれを約半額の五百四十億に減額した。それもいかなかったら、今度はさらにその半額の二百七十億に引き下げた。最後にはその約半分の百五十億と、四回要求額を引き下げまして交渉が成立した。いかにもこれは高くふっかけて手荒なかけ引きをしたように見えますが、しかし、タイから見ますと、これは決してそうではなくて、やはり一定の根拠を持っておると私は解釈されるのであります。と申しますのは、初めの千二百六十七億というものは、金であったものでありますから、そういう協定でありましたから、金約款を有効だと見るとこういう数字が出るのでございましょう。そんなことはとてもできないというのでこれを引き下げたのでございましょうが、たとえば二百七十億というものもそうでございますね。二百七十億という数字もどこから出たかと申しますと、バーツと円とを一対一で、十五億円をバーツに換算して十五億バーツになります。十五億バーツをドルで換算したものをさらに日本の現在の円にすると、それがちょうど七十億になる。こういうわけでございまして、決して縁日のかけ引きというようなことではないようにも考えられるのでございます。そういうわけでございますから、この交渉の経過から見ますとこれは非常に大事な点だと思いますが、タイの預金の十五億の決済というものが百五十億円程度で、妥協された、こういうことになる。経過から見ますと、どんどん下がって、もとは十五億、最後に百五十億で妥協した。この百五十億という天井は日本も認めておってのことであります。  ところが、タイのふところ勘定を見てみますと、実際は戦前の十五億円の預金がただの五十四億円にしかならなかった。金でもらったのは五十億でありました。戦前十五億の預金を日本銀行にしておった。それが今、日本銀行にくれぬかと言うと、五十四億円しかくれなかった。あと借金だということになった。これが一番大きなことで、十五億円というものを日本政府がかつて争っていないとするならば、戦前の十五億円を今日五十四億円で支払うというのが妥当であるか、この数字が公正なものであるかどうか。私は数学のことはよくわからない、非常に不得意でありますが、法律的には、どうもイクィティに、公平の原則に反するのではないかという感じが強いのでございます。戦前の十五億円の預金というものを現在の金で現金で払ったのは五十四億しか払っておりませんから、それだけで打ち切ることが正しいかどうか。  そこで、問題は、日本政府がどこまでも条約第二条の投資とクレジットに関します文理解釈をたてにとって、戦争のつめ跡を無期限に残しておくのが賢明な策であるか、それとも、この際、百五十億という天井は三十年の条約にも認めておるのでありますから、大局にかんがみまして政治的な解決を行なうのが得策であるか、こういうハイ・ポリティックスに関する問題でございまして、行政府としては、ことしその後の政策をとって、百五十億円を債務と認めるということに踏み切ったわけでございますから、当院における御審議もそこが核心にならなければならぬと思うのであります。  これに関しまして以下、条約締結に関します行政府と立法府との、先ほど御婦人の方にも何かあったようでありますが、その関係について一言つけ加えさしていただきたいのでありますが、どこの国の憲法でも、条約締結に関しまして、どんな事項を条約の対象にするかという選択、それが一つ、それから、選択したあと、これをいかに交渉するかという問題、それから、いよいよ交渉が済みまして調印をする、この段階までは、これは行政府の自由裁量に一任されておるのが、世界にほとんど例外のない慣行でござ一いまして、立法府が条約締結に参加をいたしますのは、批准の段階になって初めてでございます。わが憲法もその例外ではございません。従って、調印までというのは、外部に漏れないのが原則であります。これを外へ漏らしておったら、交渉なんかできません。交渉が成立しないのです。これは普通のわれわれの個人間の取引でもそうでございますが、一々取引を公衆の面前でやっておったならば、取引なんて絶対に成立しっこありません。いわんや、結婚の媒介においておやでございます。調印が終わりましてから初めてこれを国民に発表いたしまして、それから後にこれが同意を議会に求める。この制度は日本ばかりではございません。この制度は行政府と立法府との間に非常に摩擦を起こすのであります。ときには、すっかりデット・ロックになってしまって、麻痺状態に陥る場合が少なくないのであります。立法府は、どこでもそうでございますが、行政府が交渉をし調印をしたものを時ってきて、それにイエスかノーかを言う、これが立法府の権限でございます。中で修正する、これはまた事柄の性質上修正なんかできないわけであります。条約というものは相手と判をついておるのでありますから、これをうちへ持って帰って国内で手を入れるということは許されないのでございますから、イエスかノーか、どっちかしか言えません。そういう権限を時っておられますけれども、同時に、それではもし立法府自身が出かけていって条約の交渉者になれるかというと、それはまたできないのであります。どこの国でもやっておりません。そこで、第一次大戦以後は、どこの国の憲法でも、みんな条約締結には立法府の参加を必要といたしております。立法府の協力を願っております。ところが、今申しましたように、なかなか協力の実現ということが政治的に非常に困難なことがある。なぜ困難かと申しますと、条約を結ぶ前には、立法府と行政府というものは、本質的に立場が違うのであります。行政府の方は、条約を結ぶ場合は自国の利益とそれから相手の国の利益とのバランスをとって、均衡をはかって、初めてその条約というものができるわけであります。すなわち、ギブ・アンド・テークというものでできるのでありますが、ところが、立法府の方はそうではないのでありまして、立法府はもっぱら国内の利益、自国の利益に主として重きを置いて、しかも、その関心の置き方は、選挙民にいかに有効に訴えるか、これは日本ばかりではございません。どこの国でもそうです。選挙民にいかに有効に訴えるかという方法で発言するのであります。そこで、行政府と立法府というのは非常に摩擦を起こすので、それは本質上やむを得ないのであります。でありますから、わが憲法の母法でありますアメリカの憲法には、大統領は上院の三分の二の助言と同意と書いてあります。日本の憲法には助言というのがないのでありまして、同意だけ、承認だけでございます。だから、アメリカでは、条約は、財政上の支出以外は下院は関係ないのでありますが、上院の助言が要るのであります。ですから、大統領は始終表面に出ないのでありますけれども、外交委員会という非常に有力な委員会がございますから、その委員会と大統領は絶えず重要な条約については明前に協議をする。非常に多くの条約でございますから、ことごとくの条約ではございませんが、たとえばNATOの条約を結ぶとか、国家の大きな方向を変えるような条約のときには、必ず事前に十分連絡する。また、憲法上もその助言を求めざるを得ないことになっておりますので、立法府と行政府との間の円滑な条約締結に関する運営をやっておるようでございますが、日本でもそういうことができれば、大きな条約になりましたらそういうことが非常に願わしいのであります。国家の生命というものは永遠でございますから、今もしタイとの協定が本院で否決をされるようなことがありますればどうなるか。かつてフランスの議会でEDC条約というものが否決をされました。また、その前にイギリスの議会で、ジュネーブ・プロトコール、国際連盟規約を修正する重大な条約ができたのでありますが、これが否決されたのであります。また、さらにさかのぼれば、アメリカの上院はベルサイユ条約を否決いたしました。そんな世界の歴史を大きく変更するような重大な影響はございませぬにしても、これが今否決されるようなことがありますれば、タイ国民の胸の中にぬぐりべからざるしこりを残すことは、何人も考えざるを得ないのでございます。  御年配の方は御記憶でございましょうが、四十二対一ということがあったのであります。これは、満州事変のときに、国際連盟の最後総会でありましたが、そのときに、日本は国際連盟規約を破った侵略者であるという決議であります。それが四十二対一で通過したのであります。(「五十二対一だ」と呼ぶ者あり)——いや、四十二対一なんです。この四十二と申しますのは、これは全世界でありまして、一というのは日本であります。そのときに、ただひとり棄権をした国があるのであります。どっちにもつかない、それが今日のタイでございます。タイは、全世界の人が日本を侵略者なりという烙印を押そうという決議に棄権をいたしました。別に、タイが、今日いう、当節の中立主義をとっているとか、または、もしそうしなければ、四十二の仲間へ入れば日本から復讐を受けるというような考えであったのではないのでありまして、日本にもこの際何か言い分があるに違いない、だから、日本を今侵略者にするという仲間に入らない方が、タイの将来を考えてその方が利益と見たに相違いないと私は感ずるのでございます。  非常にわれわれにとっては理解のある国であるということのいま一つの証拠で私の話を終わりたいと思います。これは個人のことにわたりまして非常に恐縮でございますが、大戦たけなわなるとき、タイのある大使が重光外務大臣を訪問されまして、私どもはあなたの国と同盟をしていくさをしておるが、どうも日本の方がアメリカに戦争をしかけたということは実に無理なように今の今まで実は思うておったと言ったというのです。ところが、最近、田村某が、コンテンポラリー・ジャパンという雑誌に、太平洋戦争の起因論、ジェネシス・オブ・パシフィック・ウォーという論文を数回にわたって書いたのでありますが、その論文を読んだが、そうではないということを発見した、それで、これを自分らばかりが読んでおるのは何だから、タイ語に翻訳してタイ国民に知らせたいから著者に翻訳の許可を得てくれぬかということを大臣に申し上げたという、かようなエピソードがございましたのですが、日本のやったことについて日本が世界の指揮を受けるような場合には、そこに何かわけがあるのじゃないか、これを発見してやろうというのがタイの一貫した心持ちのように見えるわけでありまして、何も十七世紀からの山田長政の歴史を言わなくても、近い歴史をわれわれが見ても、タイ日本立場を絶えず理解してくれるようという心持を持っておるということは、いろいろ例があると私は思うのであります。どうかそういう点もお考えの上御審議を進めていただきたいと思います。(拍手)
  26. 森下國雄

    森下委員長 参考人に対する質疑は本会議散会後に行なうこととして、この際暫時休憩いたします。    午後零時四十一分休憩    午後三時二十八分開議
  27. 森下國雄

    森下委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  これより各参考人に対する質疑に入ります。なお、質疑の通告者が九人ございますので、一人当たりなるべく十分程度でお願いいたしたいと存じます。  松木俊一君。
  28. 松本俊一

    松本(俊)委員 私は杉山参考人に対して少しく質疑をいたしたいと思います。  先ほど杉山参考人の御説明によりますと、今度の日本特別円の新しい協定、この協定は非常に政治上の含みが多く、そしてそれが極東方面におけるアメリカの政策につながりがあるというような御趣旨で反対の御意向を表明されたように私は了解したのでございますが、さようでございますか。
  29. 杉山市平

    杉山参考人 まさに、そのように、極東の緊張を激化するという上で、そういう形のつながりがあるという趣旨で私は発言いたしました。
  30. 松本俊一

    松本(俊)委員 そういう御趣旨かと私も了解いたしましたが、その通りといたしまして、どうも私が了解しかねるのは、今度の協定で一本が年々支払います額は、わずかと言うとはなはだおしかりをこうむるかわかりませんが、十億円であります。しかも、この協定の付属の「合意された議事録」というものをごらんになりましたでございましょうが、その中に、9には、「協定第三条1の適用上「設備」は、武器及び弾薬を含まないと解釈される。」というふうに、いわゆるミリタリー・エクイプメントというものは含まないということははっきりしておるのでありまして、従って、この協定がそれほどの非常な重大な影響を持つものかどうか。また、杉山さんの御意見だと、これがひいてはEEC諸国の日本に対する競争心を刺激して、日本が、それでなくてもEECのたとえば英国とかフランスとかから、白い目で見られておるのが、なおさら猜疑の眼をもって見られ、そしてガットの三十五条の適用を排除することもできなくなるんじゃないかというような非常に深刻な御意見を拝聴したのですが、私は実はヨーロッパにも、長くおりましたし、ガットにも代表で出ておりまして、三十九条の適用を見た事情もよく知っておりますが、日本がこの特別円を決済した協定で、わずか十億円というものをしかも武器弾薬等は除いて供給するということが、それほど深刻な影響を及ぼすことは絶対にないと、私は私の外交感覚では確信いたしますが、杉山参考人は、それでもなおそういうふうに影響があるという御議論を固執されますか。はなはだ失礼でございますが、その点をお伺いいたします。
  31. 杉山市平

    杉山参考人 それでは、少し材料に基づいて御答弁したいと思います。  年十億円というように今おっしゃられましたが、私が見ております。今度の池田首相東南アジア訪問、これに関する論調がいろいろアジア諸国にございます。インドの新聞とか、こういうところで共通して気がつきますのは、それを年額で幾らとは書いてないのです。総額として全部を書いております。インドの新聞なら、ポンドで何ポンドという形で、全部が総額で言われておるわけです。従って、各国が受ける印象も、総額として、つまり、九十六億円という数として印象づけられておる、こういう事実がございます。  それから、今おあげになりました合意議事録、これは、9には確かに、武器弾薬を含まないとかなんとか、そういうふうな意味のことが言われておりますけれども、その前には、たとえば発動機をアメリカから買えばその分は含まないのだ、すなわち、そういうことであれば、飛行機はそれでもって買いつけることは一向差しつかえない、こういうことになるわけですから、そういうことでいきますと、発動機だけをどこかで調達してバンコックで組み立てるということはできるわけであります。現実の例として、サイゴン近郊のある工場で、初めはわかりませんでしたが、聞いたところでは、日本援助で修復したその工場が、実は昔のフランスの兵器工場であった。そこで何が行なわれておるかといいますと、日本からここに部品が持ち出されていって、そういう工場に届くと、そこでそれが組み立てられて、戦車になるかトラックになるか、何になるかわかりませんが、少なくとも現在ベトナムでやっている戦争の物資として動いていくという事実があるわけであります。そういうことからすれば、南ベトナムであることがバンコックで行なわれないという保証は全然ない、このように私は考えます。  いま一つ、きょうのジャパン・タイムスに、ロイ・エソイアンという人がサイゴンからの記事を書いております。長いものでありますが、その中で、日本からは主として経済的な援助という形でいろいろなものが現在行なわれている、たとえばベトナムとかそういう場合、しかし、大部分のものが経済援助ではあるけれども、実際にはそれらすべては何らかの形で軍事的な努力に貢献していくものである、こういう工合に書いております。そうすると、これはまさに、私が先ほど申し上げましたように、日本からの持ち出されていく金額、つまり年額十億というものではなくて九十六億というものが何らかの形で軍事的な努力に貢献していく。こういうことを言っておるわけであります。
  32. 松本俊一

    松本(俊)委員 私、幾ら聞いておりましても、どうもそれだけのことでこの九十六億円のためにタイの軍事力が非常に強化してあの方面におけるアメリカの勢力が増すというふうにはならないと思うのです。そもそも、この協定を今度こういうふうに作りかえたということについては、そういう前提は全然ないのです。全く、池田総理のお考えのように、タイとの間の友好関係を何とかして維持して、外交上の行き詰まりを打開しようという気持と、それから経済上の発展日本は今何といっても輸出を伸ばしていくという非常に重大な要請を持っておるわけですから、これをじゃまされないようにしたいという気持で踏み切りをつけたことであって、その点はしばしばここで池田総理から御説明があった通りです。別にこのためにSEATOというものを日本が片棒かついで強化しようとか、あなたの御観察によると、SEATOというものに対して英仏さえ非常に冷たくなっておるのに、日本が乗り出してやるのは、いわゆる日本が戦争の片棒をかつぐようなことだというふうなことを言われますが、そういうことはあまりにこじつけであって、そういうふうにこの協定国民に説明されますと、要らざる心配を国民に与えて、タイ特別円協定によってあたかも日本英仏を押しのけてSEATOに割り込むような印象をお与えになりますと、国民は非常に誤った想像をたくましゅうすることになりますので、もう少し客観的にごらんになっていただきたいと思うのでございますが、それに対してどういう御感想をお持ちになりますか。
  33. 杉山市平

    杉山参考人 問題は、額ではなくて質だと思います。まさに、日本についてアジア諸国が問題にしているのは、日本がどういう方向をとるかということです。その意味で、この九十六億円という額がとるに足りないものかどうか、非常に私はとるに足る額だと考えておりますが、少なくとも、私は、とるに足りなりものであっても、明らかに、現在の客観情勢からして、日本の今のたどっていく方向からして、SEATOを強め、あるいは実質的には先ほど申し上げましたように分裂していく傾向があるとしても、そのように世界的には分裂していく、ばらばらになっていくというものを、あえて、先ほど発言者がおっしゃったように、四十二対一ということで繰り返すような意味でこのSEATOを盛り上げていく、その意気込みは確かにすさまじいものだと思いますが、こういう時代錯誤といいますか、逆行することをなぜやる必要があるのか、それこそアジア諸国日本に対して非常に感じている不安だと思うのです。客観的に評価するとすれば、まさにそのようにこそ評価しなければならない。また、そのようにこそ国民に知ってもらわなけば、非常にそこに危険なことが起こってくるということを私は強調したわけです。
  34. 松本俊一

    松本(俊)委員 これ以上あなたと議論を繰り返しても平行線でありますけれども、ただ、絶対にそういう意図でこの協定が結ばれたのではないということだけは、私は何度も繰り返す自信と確信を時っておりますから、それだけ申し上げて私の質問を終わります。
  35. 杉山市平

    杉山参考人 国際関係においては、私は、絶対に軍事的にこれを使う意図はございませんとか、主観的には非常に善意でありますということは、通用しないと思います。通用するのは、その人の主観がどうであれ、善意がどうであれ、客観的にどういう工合にいき、どういうような性質を持っているか、どのような方向に向かっているかということが問題であり、それを評価するのが政治家の任務だろうと思います。私が先ほどから声を大にして言っておるのは、客観的に世界が見ておる日本、また、いろいろな情勢からして、世界の動いていく方向、こういうものを客観的に評価されて、それで日本政治を預かる皆さん方が方向を誤らないような良識判断をここで発揮してもらいたい、そういうことに尽きるわけです。ですから、私は、主観的にはこれが軍事的に使われる気づかいはないというこうとでは、日本政治日本国民の税金を預けられている皆さんのお約束といいますか、お言葉としては、まだ安心しかねるものが非常にたくさん残る、こういうのが実情だと思います。
  36. 松本俊一

    松本(俊)委員 時間も来ましたからこれ以上御査問しませんが、ただ、昨日の松岡洋子参考人は、ガリオア・エロアをもって日本が中共包囲陣に参画するようなことを言われたと思うのです。それから、きょうはまた、あなたから、あたかもインドシナ半島に日本が非常な軍事力を及ぼす前提のようなことをおっしゃる。両方とも国民に非常な誤解を与えますので、私は明確にそれは誤解であることを申し上げておきます。
  37. 森下國雄

    森下委員長 稻村隆一君。——稻村君に御注意を申し上げますが、大体十分の約束でございますから、お含みの上どうぞよろしく。
  38. 稻村隆一

    ○稻村委員 参考人の諸先生からきわめて有益なお話を承りまして、私ども大へん得るところがあったのであります。特に田村先生は国際法の権威であり、外交通であることは、私ども前から熟知しておるところでありますが、タイの問題につきまして田村先生にお伺いしたいのであります。  タイは昔から親日的であることは全くその通りであります。今度、タイ特別円の問題につきまして、池田総理が東南アジア旅行の際に、九十六億を贈与とした。これは私は真の日・タイ親善と確固たる貿易政策の立場からよかったというふうなことをどうしても考えられない。現在の東南アジア及びタイ情勢を見て、私は非常にそれを疑問に思うのです。元来、タイ歴代政府の外交政策はきわめて賢明でありまして、そのことがタイをして長い間東南アジア唯一の独立国としての誇りを全うせしめたゆえんであります。それは田村先生の言われた通りであります。ただ、大東亜戦争のときに、日本軍閥の侵略を免れるために、日本の強要によって心ならずも軍事同盟を結んだことは、これまた田村先生のおっしゃる通りであります。長い間中立政策をまじめにとっていたのがタイの外交政策でありまして、それがタイのために非常によかったわけであります。だからして、タイは大東亜戦争のとき以外は外国との問題に介入したことは絶対にないと私は思うのであります。ところが、御存じのように、タイはしばしばクーデターのある国でありますが、サリット将軍がクーデターによって政権を把握してから、タイの伝統政策を破りまして、そしてラオス問題に介入したのであります。すなわち、ラオス右翼政府の実力者ノサバン将軍は、サリット氏のおいとも、また親威ともいわれますが、おいのようであります。そして、ノサバン将軍は、中立のプーマ政権を非常にきらいまして、アメリカの何と申しますか出先は、これは日本の過去の満州事変あるいはシナ事変においてわかる通り、出先というものはいつでも非常にあせりまして、しかも全体が見えないものですが、その出先のアメリカ官憲と結んでクーデターをやった。フランスが非常に忠告をし、イギリスもこれに反対をしたにもかかわらず、ノサバン将軍にクーデターをやらして、プーマ政権を倒した。そのためプーマ政府を共産派に追いやった。これは間違いない。そして今やアメリカ及びサリット将軍は今日みずから自縄自縛に陥ってしまった。しかも、ラオスにおいては、プーマ政権というものはもうラオスの大半を支配する政権発展しつつあるのであります。私は、戦前に一度、戦後に一度ラオスに行っておりますが、ちょうど私がラオスを去ったすぐあとに政変があったのでありますが、御存じのように、川を一つ渡ればラオスの首都ビエンチャンであります。そこで、サリット氏が非常にプーマ政権をきらいまして、それに介入したアメリカの官憲と一緒になって倒したことが、かえってサリット将軍、今のタイ国政府に非常に恐怖を与えている、こういうわけなんです。  そこで、私はあとでも申し上げたいと思うのでありますが、この意味におきまして、タイは今後もしばしば政変があることは予想されるのでありますが、サリット政権は決して安定せる政権とは思わない。この点につきまして、私は田村先生に御意見を承りたい。それから、その次に杉山先生の御意見を承りたいと思うのであります。
  39. 田村幸策

    田村参考人 条約の当事者は国家でございます。条約上の権利を得、また義務を負う当事者はあくまで国家でありまして、時の政府ではないのであります。従って、タイの政情が将来どういうふうになるとか、その基礎がどんなものであるとか、それを一々やっておりましたら、いっときも国と国との交際はできないのでありまして、そのときにわれわれが、正統な政府として認めたものと交渉する以外に方法はないのであります。これは、特に南米あたりは、極端な言葉で言えば、あの二十カ国のうちで毎月くらい内乱、政変があるのであります。このいわゆる新政府承認という問題は、国際法では法と政治とのボーダー・ラインにありますきわめて微妙な問題でございますが、それはそのときの行政府が認定する以外に方法はないと思います。今かりにどんな確実な程度かというと、私どもこの間プロンディシ大統領を東京へお迎えしていろいろお話を聞いたのですが、帰ってみたら今のようにひっくり返る。こういうようなものでありまして、それは実に思いも寄らないことでございますから、そういう相手国の政変をどうこうしては交際というものはできません。その当時の、その瞬間の、われわれが正統政府と認めておるもの以外に、ちょっと方法はないと言うよりほかはないのでございます。これは長続きするかしないかというようなことを当てにして取引をするとかなんとかいうことは望めないので、たとえば、日本とロシヤは、第一次世界大戦の終戦前、一九二八年末に同盟条約を結びました。それから半年もたたぬうちに、ロシヤ皇帝の退位というものがあって、政権がひっくり返った。これなんか実に予想しなかったことでありますが、これはやむを得ないのでありまして、りっぱな同盟条約が結ばれている。それと同じことでありまして、タイの政情がどういうふうになるかということによってこの問題は考えるべきことでなく、われわれはタイという国に対して役務を負うておるわけで、国が主体である、こういうふうに私は理解しております。
  40. 杉山市平

    杉山参考人 先ほども私はタイ政権は決して安定していないということを申し上げました。それは、そのときも紹介しましたように、タイ首相自身の言葉もこういうことを言っておりますし、それから、アメリカその他の方面の雑誌その他にもそういう、言葉が出ております。たとえば、アメリカタイムという雑誌は、昨年十月十三日号で、たといタイアメリカから、絶対に支持する、あるいはいろいろな援助を与える、こういうような約束をしてやっても、もしアメリカ南ベトナムが共産主義者の手に陥るというようなことを許しているようなことがあれば、たちまちタイに与えた保証というものも空に消えてしまうだろうというようなことを言っております。それから、最近では、タイの首相がケネディ大統領に手紙を送りまして、どうかタイアメリカの戦闘部隊とそれから空軍部隊を送ってほしい、そうして、この原文のままで言いますと、親米的な政府をボルスターといいますから、支えるということですが、支えてほしいという、手紙を送っております。ケネディ大統領は今それを真剣に検討しておるということが、三月二十五日付の英文毎日に出ております。それで、その中に、もしラオスが共産党の手に落ちるならば、われわれは六カ月以内で、六カ月たたないうちに第二の南ベトナムになるであろう、こういうことを言っておるわけです。  こういうことからしますと、現在のサリット政権というものは決して安定していないとどうしても見なければいけない。それが条約の対象としてかどうかということは別の問題でありまして、つまり、私が言いたいのは、これがきわめて安定した政権であり、この政権に対して非常に思い切った金額を供与していく、こういうことが日本の将来にとってもいいんだという議論は、このタイ政権の安定性ということからは出てこない、こういうことであります。  いま一つ申し上げたいのは、韓国の場合は、現在、韓国もタイ政府も同じように、国際的に軍事独裁政権だということが言われております。どちらも議会が否定されている。憲法もない。憲法は今臨時憲法を作っておりますが、それから、政党は全部活動停止、政党はなくなっておる。そこで、サリット将軍も朴正熈将軍も、軍人として国家の全権を握っている同じ独裁政権であります。しかし、韓国の場合には、そういう形で、労働組合も活発でありませんし、共産党も全然ないわけです。ところが、タイの場合は、地下組織ですか、共産党が現実に活動している。何か事があるとビラがまかれるわけです。それは、たとえばラオス情勢タイから見て非常に悪くなっていく、そうして、表面には現われないけれども、タイの政界にそういう動揺が広がっていきますと、町かどにそういうビラが張られていくわけです。これは現実にあることであります。こういうことから見ても、タイというものの政権の基礎が非常にあぶない、いつ何どきそれが爆発するかわからぬ、それを押えているのが現在のアメリカの金であり、タイの非常に膨大な軍事力といいますか戒厳令というような体制、こういうものが押えているというにすぎないという工合に見た方がいいだろうというふうに思うわけです。
  41. 稻村隆一

    ○稻村委員 次に私は貿易の問題につきまして宇敷さんと田口さんにお伺いしたいのですが、タイ日本との間に従来しっかりした友好通商条約があったわけでありまして、歴代のタイ政府は、この友好通商条約によって日本との間に円満に貿易を行なっておった。いまだかって横車を押すようなことは一回もなかったはずであります。しかるに、私は、横車と言っていいかどうかわからぬが、サリット将軍になってから、政権をとってから、特別円の問題で、日本との貿易を中断するとか、あるいは高関税をかけるとかいうふうなことをしばしばタイの新聞等に書いておったわけです。池田総理のおっしゃることには、タイ国民が非常に特別円の問題で日本に対して感情が悪い、新聞は盛んにそれを書いておる、こう言っておられました。田口さんだったか宇敷さんだったかも、さようにおっしゃったように思っております。ところが、私は、タイに戦前二回、戦後二回、一九五六年と九年に行っておるのです。私は元来百姓の方ですから、農村問題に興味を持っておりまして、タイの農村を少し調査したことがある。タイというのは非常におもしろい特殊社会なんですね。たとえば、農村の生活は、御存じでしょうが、非常に低くて自給自足なんです。それで、日本外務みたいじゃない。ほとんど肥料をやらない。今は部分的にはやっているでしょうが、ほとんどやらない。稲の草とりもやらない。それから、収穫のときだけのこのこ出ていって働くというわけなんで、きわめて原始的な農業をやっておる。小さな家に住んでいて、それで飯を食っておるわけなんで、日本の百姓みたいに朝から晩まで働いておるわけではない。種をまくときと収穫のとき以外はまるきり遊んでおる。そんな低い生活で何とか飯を食っておるわけです。そこで、生活は非常に低いけれども、近代経済に目ざめてくれば、それはいろいろ不平も言うし、何かあるけれども、そういうふうな農民の低い生活の上から、今すぐ南ベトナムのベトコンとかラオスのパテト・ラオのような勢力が農村から出てくるような気配は、将来はどうか知らぬが、ないわけです。  ところで、タイの政変というのは、そういう社会革命的な意義は少なくて、利権を中心とするクーデターなんです。これは皆さんタイにおられて御存じだろうと思うのですが、つまり、新聞の世論というけれども、新聞というものは全部参謀総長や警視総監が経営しておる。みな大官が経営しておるわけです。外務省の方はよく知っておるでしょうが、タイの大官になるとみな億の金をためるわけです。日本政治家もだいぶ金をためている人がおるなんというけれども、私はうそだと思うので、おそらく日本池田総理なんか金はあまり持っておらぬと思うのですが、とにかく大官になると金がもうかる。私の行った床屋は参謀総長が経営しておる床屋です。床屋もみな大官が経営しておるわけです。一時華僑を圧迫したけれども、華僑がいなくなれば何にもできません。品物は何も回らないから、このごろ華僑の圧迫の手をゆるめたわけです。そういうわけで、都会を中心とする利権を中心にして始終クーデターがあるわけです。たとえば、厚生省の調べによりましても、麻薬などは、香港が唯一の供給地であったのが、今はもうタイが一番大きな供給地になってしまった。むろんタイ国内では麻薬を使う者は厳罰にしておりますけれども、そういうふうに、麻薬の供給国になったりして、いろいろな利権がある。その利権を中心にして始終クーデターが行なわれておるのです。そこで、その政権がいろいろなことを言う。たとえば、新聞が世論だといっても、新聞なんて、政府の機関でなくて、政府のえらい者個人のものなんですから、それが始終何か書き立てるので、国民の世論なんというものでは絶対なんだろうと思う。そういうものによって始終貿易政策の根本を変えておったのではたまったものでない。そういうものが高関税をかけるとか日本のものは買わない言うからといって、貿易政策を変更しておったら、これはたまったものではないと思う。たとえば、この問題が片づいても、そういう悪例を残しておけば、その次には要らない米を買わなければ買わないというようなことを必ず言ってくるに違いない。そういうことをやらないで、確固たる貿易政策を指示して、現象にとらわれないということが私は必要じゃないかと思う。  特に出先の人に御注意を願いたいのは、はなはだ失礼でありますけれども、たとえばフランスのアルジェリア問題の解決を妨げてフランスを苦悩に陥れておるのは、アルジェリアの欧州系民族です。そういうことは、しばしば、過去における満州事変、シナ事変においても、出先の人によって軍が引きずられて事を起こしておる事実がたくさんある。それがおもだった。それで、商売人の方も、現象にとらわれて、新聞が省いたり、何だかという流言飛語が飛ぶと、政府にがんばらせないで、すぐ方針の変更を迫るということは、私は、貿易政策を誤らせるのみならず、日本の外交政策を誤らせてしまうと思う。池田さんが九十六億円くれたことは、いろいろな事情があって、参考人の方々のお話を聞けばもっとものように聞こえるけれども、きわめて私は軽率だったと思う。一つの悪例を残したと思う。そういう点につきまして、宇敷さん、田口さんは、タイにおける経験によって一体いかように考えられるか、お教えを願いたいと思います。
  42. 宇敷正章

    宇敷参考人 ただいま、タイは依然として、非常に低開発国とまでいかないが、非常に山奥のようなお話を承った次第でありますが、最近のタイは、先生がおいでになった時期はよく存じませんが、この数年間あるいは十数年来、もう一つ言いますと、特に戦後の発展は実に目ざましいものがありまして、たとえば繊維品輸入品を見ましても、私は大体見当がつくと思う。繊維品にしましてもだんだん高級品に移る、冷蔵庫もあるし、ラジオ、テレビまでいくわけでありまして、タイのいろいろの経済的統計を見ましても、国民の収益、収入と申しますか、一人当たりの収入は逐年増加しておるというような工合で、特に、最近の交通の発達整備に伴い、かつピブン総理が在職中に行なわれました学校の整備、これは余談でありますが、ピブン内閣で一番よかったのは、学校の制度を普及したのが一番の功績だったと言われるくらいに、山間僻地といえども教育その他が向上して参りまして、先ほど先生がおっしゃいましたように、たとえば、逆から申し上げますと、こういう新聞も読んでいない人がいるのに世論として取り上げることができるかというふうに私承ったのですが、ただいま申し上げたような事情によりまして、一般国民生活というものは向上して参りましたために、刊行物とか新聞というものはどんどん奥地に参るというような工合で、われわれが古シャムとかいって考えておったころとは実に様相を異にしておるわけであります。卑近な例を申し上げましても、ごくいなかに私も旅行いたしましたが、ちょっとびっくりしたほど、学童の服装といえども、ちょうど日本の小中学生に非常によく似ておるということも、私は非常にびっくりした次第でありますが、そういうわけで、新聞というものは逐次いなかにも頒布され、しかも、いなかとの交通が非常によくなったという見地から申し上げまして、多分に地方の意見というものも盛り込まれておる。でありますから、私は、新聞だけにつきましても、十分とは申しませんが、ある程度相当な民意が反映しているものと思います。特に、タイのチェンマイとか、そういう都市を中心にいたしましては、現在日本に見られる以上の文化機関というものが非常に発達して参りまして、その面からも、私は決して軽べつすべき問題ではないと考えておる次節であります。  それで、そのような国と、貿易の要求があったから特別円なり何なりを付与するというのは非常に早計ではないかという御質問に対しましては、私は、これは商売の面からきわめて常識的にお答えしたいと思うのでありますが、御承知のように、日本という国自体を見て参りますと、どうしてもこれは貿易面で立っていかなければならぬことは、百も先生方御承知のことと思います。それで、年々、日本の世界的貿易の統計など見ておりましても、四十何億の輸出入が盛り込んでありますが、出超と入超というものから考えますと、東南アジア、特にタイにおきましては日本の出超に非常に寄与しておる。ですから、かりに九十六億円と申されますと、約三千万ドル。日本の出超は、先ほど申し上げましたように、毎年約四、五千万ドルは受取勘定になっておる。これが、今後とも、われわれの見方としましては、引き続き継続されるものと思い、まあごく平明に申し上げまして、お客様を大事にするということは、われわれ商売人としての心情でもございますが、大きなそろばんからはじきましても、この受取勘定による利益というものを考慮に入れました場合、相手が気持よく、平たく申しますればわれわれにもうけさしてくれるという立場にありますので、これは決してそのままやりっぱなしの損にもならないし、十分そろばんの合った取引ではないかと信ずるものであります。  ですから、今後いろいろ貿易の拡大をはかるにいたしましても、早くこれを決定し、やるものはやってしまった上でとなれば、先ほど申し上げたように、スムーズにわれわれ日本貿易も拡大され、伸長していくのではないかと信ずるものであります。
  43. 森下國雄

    森下委員長 ちょっと稻村君に御注意申し上げますが、制限の時間を倍ほどこしておるのでございます。各自、非常に質疑者が多うございますので、どうぞ一つ、御注意を申し上げます。時間を守っていただきます。
  44. 稻村隆一

    ○稻村委員 今、私がタイを軽べつしているとか、あるいはタイの最近の経済を知らないというふうなことをおっしゃいましたけれども、そういう意味じゃないのです。タイの農村のことを言っておるのですよ。都会は生活は高いですよ。教育が非常に普及していることも知っておりますが、タイの新聞というものは、タイの大官の個人の所有物になっておるのです。これは御存じだと思う。それから、何もタイを軽べつしているというようなことは全然ございませんから、その点を一つ誤解のないようにお願いいたします。  ただ、私の言うのは、それはなるほど九十六億円くれてやった方が一時は貿易のためにいいでしょう。それはきまり切っております。だけれども、将来の交渉において、そういうことは悪例を残す。前はそういうことはなかったけれども、サリット政権になって初めてそういう強引なことを言うようになったのですね。その点で、サリット氏というのは、政府の人はそういうことは言えないだろうけれども、信用できない。ラオス問題に介入したいということはタイの致命傷ですよ。そういうふうにして、日本に対してもやはりいろいろな強引なことを、まあタイとしては理由はあるでしょうけれども、強引なことを言う。それに対して池田さんが軽率に九十六億円ということをきめてきた、戦前のあれがあるからというふうなことでやったことは、きわめて軽率なことで、私は、確固たる貿易政策の上から言って決してプラスにはならぬと思う、こう申し上げるのであります。  これでよろしゅうございます。
  45. 森下國雄

    森下委員長 井堀繁男君。井堀君にまことに気の毒でございますが、ただいま申し上げたような事情で、たくさんの通告者がございます。どうぞ御含みの上御質疑を願います。
  46. 井堀繁男

    井堀委員 参考人四人の方にそれぞれお尋ねをいたしたいのでございますが、時間の都合で簡潔にお尋ねをいたすことになります。そういう意味で、質問の内応がおわかりにくいかと存じますが、御賢察の上、明確な御答弁を願えれば幸いだと思います。  まず、田村参考人の御説の中でどうも納得しがたい点が二、三ありますので、それから先にお尋ねしてみたいと思います。  田村参考人は、今回政府のとられた措置に同意をされて、その理由としておあげになりましたものの中で、日本タイとの同盟条約を結んだ当時の手柄、さらに、その以前に、日本が世界の孤児となった、すなわち四十二対一の際におけるタイの一票が棄権になった、こういう当時の日・タイ友好関係を前提にされまして、今回のタイに対する日本政府の措置が過分な好遇であってもさしつかえないのではないかというような意味にとれるようなお説が一つございました。この点について実はお尋ねしてみたいと思うのでありますが、当時の日本タイ国との関係は現在と根本的に異なった事情にあるという点において、われわれは先生の御説にちょっと、承服しかねるのであります。それは、戦争以前の日本と降服以後における日本は本質的に異なっておるのではないか。すなわち、この時代の日本は軍国主義者に率いられていたというポツダム宣言の規定もありますが、今日は平和主義を理想とする新しい日本であります。当時問題はたくさんあったろうと思いますが、こういう問題の取り扱いの際に当時のことを引例するのは、非常に大きな誤解を世界に与えるのではないか。すなわち、この当時の日本は、いろいろ理由はあるにいたしましても、軍国主義的な指事力によって外交交渉がなされておったときであります。今日の日本は、少なくとも平和主義、民主主義を愛好する立場に立つ。特に、日本の憲法はそういう意味で世界的に特徴があるとされておる国柄であります。でありますから、こういう際に、そういうときの事情を今回の協定を改定する際の一つの条件にするということは、非常に危険なことではないかとすら思うのでありますが、その点に対する御見解を一つ伺っておきたい。  次に、三十年協定のままに日本タイとの間に債権債務を残しておくことは、日本タイ国の間に好ましからざる事態が起こるるのではないかという意味のことをおっしゃられておりました。これは、先生だけではなく、他の宇敷さんあるいは田口さんのお話の中にもあったようであります。この点について私はまだはっきり先生のお考えを伺っておりませんから、はっきりしておきたいと思うのでありますが、もし三十年協定のままで残しておきますと、日本タイとの間に、どういう日本に不利益、あるいはタイに対しても不都合が起こるか、こういう点に対する先生の理解について伺っておきたい。  もう一つは、先ほど先年が数字をあげておられましたが、私の聞き違いかもしれませんが、千三百九十億、そうして五百四十億、それが二百七十億、そして百五十億、こういうようにタイの主張が変わってきた、その背景をなす何か合理性があるようなお説に伺ったのであります。この点は、先生だけではなくて、むしろ田口さんにお尋ねした方が適当かと思いますが、これはやはりそれぞれ根拠があるということに対する御見解を伺いたいと思います。  時間がありませんので、なお一ぺんにお尋ねするといいのでありますが、あまり混戦するといけませんから、この程度一つ御見解を伺います。
  47. 田村幸策

    田村参考人 第一の、何か私がタイに過分な待遇を与えろと言ったようにお話しですが、私は別にタイの弁護士でも何でもございませんので、過分というようなことではなく、むしろだれが見ても納得できるような額かどうか、そういう趣旨で申し上げたわけです。私、この問題について考えましたことは、かりにこれを国際司法裁判所に持っていったら、裁判官はどういうことをするかということを考えてみたのでありますが、結局、戦前の十五億を今の五十四億で返したというわけでありますが、三百六十分の一になった円貨で、とにかく四倍弱のものしか返していない。それがどうも私にはふに落ちない、世界を納得させるに足るかどうか、そういうことが申し上げた趣旨なんで、決して過分なものをやろうというわけじゃありません。  それから、戦前の軍国主義者に振り回されておった時代と今とは違う、これはまことにその通りであります。しかし、これは、先人がやって、今民主主義になったらなおさらのことなんで、先人のやった不始末、これに対して、ちょうど、われわれはやむを得ずポツダム宣言に判を押し、やむを得ずサンフランシスコ条約に判を押したと同じ気持でありまして、これはやむを得ず先人がやったのだから、わしらは民主主義になったから判など押さぬというわけには参らぬのでありまして、なおさらのことであります。これが第一問でございます。第二問は、条約の不履行の結果がどうなるかということであります。これは、向こう様から見れば、一条と二条とは不一分で、一体をなしておる、それで、このいわゆる特別円問題というものの最終的な清算ができた、こう考えておるのでございます。ところが、あにはからんや、一つしか履行されなかった、あとはわれわれはこれを受けないのだ、こうなれば、これは今までもどこの国のことでもありますが、条約を結んで、その条約が履行されないのと同じ結果になりまして、日本にとっても、政治的にも経済的にも非常な不利益、また、両目の上からも不利益であるというふうに私は理解しておるわけであります。  それから、第三の数字でございますね。四回にわたって向こうは引き下げて参りました。私は例を二つあげたのでありますが、第一のものは、ただ私は百五十億円に落ちつきました過程を申し上げたのでございますが、これを合理化するというわけでも何でもございませんで、向こう様から見れば、でたらめな数字をあげたのではなくて、たとえば、千二百六十七億というものは金約款を基礎にしての計算である、それから、二百七十億というものは、日本が認めておる十五億円という借金を日本銀行に預金した、これをバーツにすれば十五億バーツになる、その十五億バーツをアメリカのドルとの換算率でやって、これを逆算して円にすれば二百七十億なる、こういうことをただ申し上げただけでありまして、あのときに申し上げましたが、最終的にだんだんおりてきて、一番しまいには百五十億になったのであります。そこが私は非常に大事な点じゃないかと思う。向こう様の気持を理解してやる上において、ここまでおりてきたのだ、ところが、おりてきてみて、いよいよ全体の問題を整理してみたら、ただの五十四億しか手に入らなかった、あとは借金になるのだ、こういうのであわてた。これは初めから知っておってやったのではなくて、途中で気がついただろうと思いますが、そういうふうに理解します。
  48. 井堀繁男

    井堀委員 もう一つ、今の三十年協定ですね。三十年協定の当時の借款あるいは投資ですか、あの当時のタイ国日本との間には解釈上の迷いや主張の迷いがあったことは私どもよくわかる。あのまま日本が借款として、あるいは投資その他の約束を、まあ話し合いはいろいろしなければならぬと思いますが、その話し合いは、協定を改めるということでなしに、三十年の協定を土台にして、政治的にあるいは経済的に、文化的に、もっとタイ国日本が友好的な措置をとれる方法があるのじゃないか。しかるに、今度無理な協定をして、その結果は——あるいはこれはまああとになりますけれども、その前に、先生のお話の中で、何かこの三十年の協定をああいうふうに改めなければ、日本経済的に相手方から不利益な、あるいは日本に対して相手国の圧力があるかのような、これは先生のお話じゃなかったかもしれませんが、そのようにちょっと聞いたのですが、そこら辺はどうですか。
  49. 田村幸策

    田村参考人 私が申し上げましたのは、あの条約不履行のままでとにかく突っぱれば、あの文理解釈は、投資とクレジットというのでございますから、これははっきりしておりますので、どこの裁判所に時っていきましても、日本の解釈というものは勝つと思います。しかし、それでは向こう様の方は条約は運営されないのでございますね。不履行のまま終わるのでございます。それをあくまで日本が通す、通すということは、すなわち戦争のつめ跡をそのまま永久に残しておくということなんでありますね。向こう様の立場からすればそういうことになる。それが賢明であるかどうかという問題だ。それ以後の問題は、どういうふうにあれをやったらよいか、これは政府に御質問下さったらいいかと思います。これは政府のやることでございます。
  50. 井堀繁男

    井堀委員 次に、ちょっと田口さんにお尋ねしてみたいと思うのでありますが、先ほど田村先生のお話の中でもあったように、タイ国の主張が千三百五十億から百五十億までに変わってきたわけです。あなたは専門家ですから、こういう主張の裏打ちになる国際経済の何かものさしというようなものがあるのか、あるとすれば、それがこの場合にどうはまるだろうかという専門家の御見解を一つ何っておきたいと思います。  もう一つ、これは一緒にお答えいただきたいと思いますが、大へんタイ国のことにお詳しいようでありますから、田口さん、あるいは宇敷さんにもお尋ねしてみたいと思いますが、日本の今回の新協定になりまする前に、タイの米人顧問でサージ・リップス氏あるいはオーク氏というお二人が東京においでになっていろいろ折衝した経過があるのであります。当時この顧問の動きに対してもちろんあちらの新聞なども書いたと思いますが、新聞記事を見られるとか、あるいは一般国民の間にこの顧問に対するいろいろな評価の仕方等があったと思いますが、もし御記憶がありますならば、そのことをちょっとお聞かせ願いたいと思います。
  51. 田口治三

    田口参考人 最初にお尋ねのありました、終戦当時の十五億円が百五十億円に立ち至った経緯、これは今田村先生からお話がございましたが、金約款で計算するか、あるいはその計算のやり方を完全な金をベースにしてやらないで別の方法でやるか、いろいろあろうかと思います。この場合としては、田村先生から学問的なお話がありましたので、私あまりこれにつけ加えるような考えもないのでございますが、思い出しますのは、例の東京市がフランスで公債を出しておりました分が、フランの価値が変動したために、非常に長いこと係争になって、国際裁判所に持ち出したりいろいろして、結局、両方とも、機械的な計算でなしに、話し合いで合意し合ったということが参考になるのじゃなかろうかと思います。そういう前例がございます。あまり機械的に計算したところではぴったりとしたものが出ないのじゃないかしらと思います。  それから、二番目にお尋ねのありました、リップスというアメリカ人の法律顧問が、三十年協定日本と結ぶころ、タイの外務大臣の顧問にいたじゃないか、それについて現地の新聞その他でいろんなことがあったか、それを記憶しているか、こういうお尋ねでございましたのですが、私が参りましたのは昭和三十三年で、リップスという人はもうおりませんでしたし、何か、そう言えば、新聞で、リップスが所得税を納めていないというケースがあって、それを何とか整理したいとか、アメリカへ行ってしまっていてもうどうにもならないじゃないかとかいうような論争が若干あったことがあるように記憶いたしておりますが、その程度しか存じておりません。
  52. 井堀繁男

    井堀委員 もう一度田口さんにお答えいただきたいのですが、さっきもちょっと田村先年にお尋ねいたしましたように、この三十年協定をそのままにしておいたのでは、日本タイとの間に何か不利益が起こるような意味のことを、どなたかはっきりしませんが、おっしゃったと思います。経済的な点で、あのままにしておいたらどういう不利益なことが考えられるでしょうか。
  53. 田口治三

    田口参考人 申し上げます。先ほども最初の御説明の中で申し上げましたように、タイ国の現在の貿易の形が非常に大きな輸入超過になっておる、まあ、当然のことなんですが、こんなに貿易の赤字が大きい輸入超過は困るじゃないか、何とかこれを始末しなくちゃいけないのじゃないかということが、常に慢性的な問題になっているわけです。そうすると輸入超過をどう始末するか。これはいろいろやり方があるだろうと思うのですが、タイ国で常に言われていたことは、不要不急品、ぜいたく品の輸入を何とかしてとめようということで、御承知のように、タイ国はあまり工業化が進んでおりませんで、国内の産物は、ほとんどが泥から出てくる農産物であって、完成品がない。そのための輸入超過なんでございますが、毎年赤字がひどいので、何とかして不要不急品、ぜいたく品の輸入をとめなくちゃいけないのじゃないかという議論、そのぜいたく品とは何ぞやということになって、いつも堂々めぐりをしておったようでございまして、そのときに、現地で、われわれ日本人ばかりでなしに、ほかの国の外国人で商工会議所を作っているのは、華僑を入れまして六カ国ございますのですが、その連中も、いつも、何か自分のところに一番風当たりの強いような輸入統制をされたら大へんだぞ、こういうようなことを心配しておりました。  そこで、日本の場合はどうかということなんですが、もし平地であれば何にも波が起こらないと思うのでございますが、私特に感じましたことは、三十年協定の第二条が、いろいろと双方が話し合った結果であろうと信じますが、何にせよ現実の問題として動いておらぬ。あれがなければまだいいのですが、動いておらない。そこで、そういう約束をして、しかも、先ほど、ほかの参考人の方からもお話があったように、タイ国民感情としてはちょっと受け入れかねるような格好になってしまっていて条項が動いていないじゃないかということで、日本の場合非常に不利益なことが起こるのじゃなかろうかしらというふうに心配しております。
  54. 井堀繁男

    井堀委員 よくわかりました。何かこの際協定を改めないと不利益になるという事情がよくのみ込めませんでしたが、よくわかってきましたが、今おっしゃられるような、あるいは参考人が前からお話しになりまするような点からすると、むしろ三十年の協定が今言ったような条件を満たす上に好都合ではないかというわれわれの見解なんですが、たとえば、九十六億が投資やクレジットによる分、そしてそれに対するタイ国側の解釈と日本側の主張との間に相違があったといたしましても、タイの後進性を近代化する、工業化するためには、むしろ三十年協定の方が、そういうものを育成する上に内容としてははるかにすぐれておったものではないかと、こうわれわれは実は理解しておるわけであります。今のお話と軌を同じくするわけであります。  そこで、宇敷さんにもお答えをいただきたいと思うのでありますが、タイの農業経済、あるいはもっとおくれた姿を近代的なものにしていこうということのためには、タイの要求も、日本の希望も、私は一致すると思うのです。参考人のお話もそうであると思うのですが、そうだとすると、今回の協定でこれを八回払いに税金で払うということは、私はどうも国民を納得させることができないと思って実はお尋ねしたわけであります。そこで、時間もありませんので、簡単にもう一つ二つお尋ねをして終わりたいと思いますが、一つは、その条約の改定をすることによって、何か日本が有利になるというようなものはちょっと感じられません、しかし、逆に、三十年協定のままで、不利益になるというような点は、私は、たとえば十三年の日・タイの友好通商航海条約の中にも、あるいは議定にも、きわめて明確に、差別をしたりあるいは経済貿易などに対して不利益な行為をしてはならぬし、また、しないことをかたく条約で結ばれておるわけでありますから、そういうことは起こり得ない保証がされておるわけであります。でありますから、どうもそういう点で実は参考人からしかるべき意見がありましたならばと思ってお尋ねしたのでありますが、時間がありませんから、もしおついでのときに御答弁いただければいいと思っております。  そこで、最後に二つだけ一緒にお答えをいただきたいと思いますが、一つは、杉山さんにお答えをいただきたいと思うのですが、いろいろお話の中で、私どもの非常に関心を持っておりまするのは、今のタイ国政権、サリット内閣というものが、タイ国国民の間からどれだけの信頼と支持を受けておるかというようなことはなかなか測定しにくいことだと思うのでありますけれども、あなたの勘でけっこうですが、これが国民の強い支持を受けているか。その意味は、やはり新しい民主主義への情熱というものをどれだけこの内閣が持ち、そうしてそれを国民がどの程度評価しておるかというようなことについて、御承知でありますならば、新聞すなわち報道関係、ジャーナリストの見方もありましょうし、あるいは民間のなまの声もありましょうし、それから政府筋の宣伝などもあると思うのであります。そういう点に対して、もし色分けがついて言えるならば言っていただきたいと思います。  それでは一つ三人の方に……。
  55. 宇敷正章

    宇敷参考人 先生の先ほどのお話の、そのままにしておいたらどういう不利益があるかという点ですが、これは、もう申し上げるまでもなく、あらゆる機会に私は生ずると思います。先ほど田村先生のお話にもありましたかのごとくに思いますが、何しろ政治経済というものはきわめて現実的なものでありまして、田口参考人からもお話しになりましたように、非常なアンバランスの問題、これをいつも苦慮しておる。今後われわれは、先ほど私冒頭の説明でも申し上げたように、イギリスに対する、あるいは東南アジアにおける域内の経済的な問題、そういうものをいろいろ話し合っていく、身近かには年々の通商とか、あるいは、ちょっと私伺ったこともあるのですが、税金の問題とか、いろいろタイ国と話し合っていく場合に、必ずこれが、しこりと申しますか、いつもタイ側の胸の中にありまして、あらゆる面にそれが出てくるのじやないかと思います。その根拠は、午前中もいろいろお話がありましたように、タイとしては、一ぺん貸したものを返してもらわなければどうしてもすっきりしない、何か胸につかえた格好でいつも話をしなければならぬという状態だと思います。  それから、分割払いの点についての郷質問ですが、これは、タイ側としては一括してほしいのだと私は思うのでございますが、これはむしろ日本側の支払いの面における都合によってこういうふうに分割されたものと解釈しております。  以上でございます。
  56. 杉山市平

    杉山参考人 電報その他新聞からという形では、なかなかタイの世論、民心の動向をキャッチすることはできない実情だと思います。それは、やはり、すでに何回も出ましたように、非常に軍事色の強い独裁的な政権だということが一切の原因をなしておると思います。それで、一つ判断をされる手がかりになると思う事実があるので、それを紹介してみたいと思います。  それは、一九五七年九月に、今の首相であるサリットが司令官であったわけです。この人がクーデターを起こしまして、そのときのピブン政府を転復した、これが第一回のクーデターであります。次いで一九五八年一月、タノム・キテイカチョーンという政府ができまして、このときに、サリットは軍人の代表を引き連れてその政権に入り、実際に実権を掌握しておったわけです。ところが、その一月の政変以後わずか九カ月たって、一九五八年十月、再び政変が起こります。今度はサリットが正面切って出て来まして、ここで議会を解放し、憲法を廃止し、政党を全部活動禁止する、こういうことが行なわれました。ここで名実ともに独裁政権ということになったわけです。それから、五九年の二月に、ですから十月の政変から約四カ月ですか、今度は、サリットが軍人としてではなくて総理大臣になりまして、そうして三軍司令官を兼ねるという形で、軍と政治の実権を握り、そこまでまた広がってきたわけです。今度は、五九年九月にサリットは警察を握りまして、完全に軍、警察、政治、あらゆる部門を掌握してしまった。こういう経過をたどっておるわけであります。そこで、この五八年一月ごろの政変のときには、正確に記憶しておりませんが、ちょっと今手元に資料を用意していないわけでありますが、あの当時まだ政党の活動も相当自由でありました。その中で、名前は忘れたのですが、中国に代表団を送って、全体として中国に接近していくという気分が非常に強く出た時期があります。特に、それがあったあと、中国に行ってきた政党の代表が帰ったとたんにつかまって監獄に放り込まれます。この政党の名前を忘れたのは残念なのですが、そういう動きタイのある時期に経験したことがある。それが、五八年十月には、完全に、一切の政党活動が全部禁止されるということになって現在に来ているわけであります。そうしますと、今は、日本からタイの方にいらっしゃっていろいろ耳を澄ましてみても、これは民衆の声というものはなかなか出てこない、キャッチするすべもないと思うのです。しかし、その底に、その当時中国に接近していった人たち、政党、政界人士あるいは業界人、こういう者がいるということ、この人たちのそういう熱意までを圧殺してしまうことはとうていできない相談でございますから、そういうものは現在もやはり底を流れているだろうということは察していいと思うのです。それは、ある時期、ある条件が熟せば、また表面に出てくるということは当然考えていいと思います。
  57. 井堀繁男

    井堀委員 それでは、どうも……。
  58. 森下國雄

    森下委員長 帆足計君。——大へん恐縮ですが、時間がありませんので、どうぞ十分間に……。
  59. 帆足計

    ○帆足委員 簡単にやります。  二つ質問したいのですが、一つは、すでにきまった協定がこのようにくつがえされて、そしてこうなったということは、従来の外交慣例にもないことであるということを指摘されましたが、私は、こういうようなことはやはり非常な悪例だと思うのですが、国際法の専門家たる田村さんはどのようにお考えでございますか、御教示を願いたい。  それから、なお、このタイとの関係で、タイ政府は喜ぶでしょうけれども、これが、やはり、昨年の南ベトナムの賠償の問題のように、日本は支払い能力が非常にあるというふうに錯覚を起こされまして、ビルマや韓国に連鎖反応的に悪い影響を与えるということもわれわれ憂慮いたしておりますが、そういうことについてのお考えのほどを参考のため伺っておきたいと思います。
  60. 田村幸策

    田村参考人 条約が調印されて効力を発しましてから、それが実施が困難になったという歴史は相当あるのでございますが、多くは、戦敗国と戦勝国間の非常に無理押しでやった条約というものに非常に多うございます。必ずしもそうでなくとも、対等に自由にやった条約でも批准がずいぶん手間取ったりしたことがございます。また、その条約の実施が困難になったという例は非常に多いわけでございます。特に議会で否決されたものとしては先ほど一般報告で申し上げたようなことでございますが、その他にも、たとえばワシントン会議のときにシナの関税自主権を回復する条約ができましたが、これによってシナは大きな関税収入をふやすことができるようになっていた。ところが、フランスは当寺シナとの間に團匪事変の賠償金の支払いに金フランで払えという問題がありまして、それをシナの方では当時のフランの価値でこれを払うということを主張したために、この条約フランスが批准しないために、長い間、二年も三年もこれが停頓されたというような例もあります。今回の場合は、そうではございませんで、条約はりっぱにできたのでありまするが、その一部が向こう様の協力が得られませんで、それが実施不可能になったと、こういうのでございますから、こういう例は第一次大戦後の無理をされて押しつけられた条約には非常にたくさんございましたのですが、今のところ、普通の場合の例をちょっと思い出せないのでございます。  それから、第二の連鎖反応のことでございまするが、これはやはりものによりますのであって、こういう明らかなものですから、日本が少し景気がよくなったからみんなでたかってやれというような気分を起こしてというようなものにはならない。また、むろんならしてはならないのでありまするが、事柄の性質上、きわめて理論的なものでありまして、算数の問題でございますので、そういう問題にはならない。基本があやふやなものであって払うか払わぬかわからないというものならば別でございますが、実は、敗戦のその日からはっきりわかっておる基礎に基づいてできた十五億円、こういうものは終始動かずにおるのでありまするから、それの計算の問題、それの妥協の問題で、日本がかりに譲歩したとしましても、それが連鎖反応をほかに及ぼすというようなことはないと考えております。
  61. 帆足計

    ○帆足委員 ベトナムの賠償のときの海外論調にも、私はときどき東南アジアの新聞でそういう記事を見たのでありますが、今後もそういう影響が来ることを憂慮する者でありますけれども、時間がありませんから、さらにお尋ねいたしますが、日本タイの現在の貿易輸出総額は幾らでございますか。さっきちょっと聞き落としましたので……。それから、タイの今の政治の性格、一体これはどういう型の政治とごらんになっておりますか。タイ経済の見通しは大体どういう型のものとお考えになっておられるか。たとえば、中南米にたくさん興ったり亡びたりする半封建的軍事政権がありますけれども、そういう状況がずっと続くようにお考えでしょうか。参考までに宇敷さんにお尋ねしておきたい。
  62. 宇敷正章

    宇敷参考人 ごく最近のあれで参りますと、タイに対する日本輸出は、これは一九六〇年でありますが、一億二千万ドルであります。それから、輸入は同年七千万ドルであります。それから、タイ政治の形態、今後のあれについていろいろ不安をお持ちのようでありますが、これは、中南米その他と違いまして、先ほども申し上げましたように、タイも、しっかりした、これは非常につつましい計画ではありますが、一九五九年に開発六カ年計画というものを立てまして、五九、六〇年から徐々に実行に入っております。これは農業からあらゆる面を網羅しておりますが、その速度は特に米その他トウモロコシというようなもの以外には少し低調ではありますが、非常に計画的に着々と行なわれておるということを申し上げたいと思います。
  63. 帆足計

    ○帆足委員 先ほど、これは外務大臣も御指摘になったことでありますけれども、日本が満州侵略の際にタイ政権日本を支持してくれたということで、それに対してよい気持を持ったことも、これは常識論としては考え得ますけれども、私ども社会党の立場から考えまして、また、民主主義をこれから育成していく者の立場から考えますると、あのときの日本の軍閥ファッショ政権の太鼓持ちをか弱なタイ政権がしたということは、振り返ってみて、理性的に見れば、あまりほめるべきことではない。日本の軍閥の下やっこをした。そこで、タイに小さいながらもたとえばネールのような理性的な政権があったならば、日本軍国主義の露払いをしないで、もちろん正面から衝突するとひどい目にあうからというので中立を保ったにしろ、そのときはやはり民主主義の立場を上手に保って、そうして戦後にタイ国の自由と自尊心及び発言を大きくするために努力する、そういうような型の政権になるべきであったと思うのです。  そこで、私どもとしては、今アジアが目ざめ、ナセルが目ざめ、スカルノが目ざめ、シンガポールも目をさまし、コロンボも目をさましているときに、タイは旧式の半封建政権があって、台湾、韓国いずれも時代おくれであって、対華白書などを見ますると、蒋介石についてアメリカ国務省が詳細に分析しておりますが、個人としては尊敬すべき点があっても、蒋介石政権はすでに時勢からおくれているということを、アメリカ国務省スチムソン報告は口をきわめて完膚なきまで分析している。韓国の李承晩がどういうものであったか、朴という今できている政権がどういうものであるか、これは分析を必要とする課題である。それと日本と、そしてSEATOと結びついている。そういう点において、私どもはタイの問題について相当不安を感じておる。そのタイとまた特別の関係を結ぶということには気が進まない。それよりも、それだけの努力をもって、むしろ、貿易をふやすのだったら、キューバと貿易をふやすとか、(笑声)中国と貿易をふやすとか、——キューバのことを言うと笑いますけれども、キューバからは日本の砂粒の半分近くを買っているのです。(「急場の間に合わぬ」と呼ぶ名あり)——しかも急場の間に合うのです。(笑声)英国船を通じて買っておりますが、キューバはドルは要らない。八割まで日本商品を買う。現にカナダはキューバと大きな貿易をしている。アメリカからねじ込まれたときに、中国、ソ連が貿易をするよりもカナダが代げいこしている方がアメリカに有利でしょう、こういうふうに答えた。さすが野党の党首ピアソンのおる国であると思って、私は、英国の妹といわれている国だけあると思って感心しているのです。日本貿易国ですから、それくらいの知恵が必要である。従いまして、中国、インドネシアまたはインドとのよしみをも考えなければならぬ。現地の貿易に熱心な業者の方は、木を見て森を見ず、自分の職業はかわいいから、特に東京銀行さんと三井銀行さんはタイでは大切な仕事もしておらなれるから、仕事かわいさということもあるでしょうが、堀江頭取にでも伺ってみて、全世界のバランスということを考えると、社会党この問題に対してして否定的態度をとっている、こういう面も与党の方にも参考人の方にも了解していただきたいのですが、それについて代表的に田村さんと杉山君のお考えを参考に承りたい。
  64. 田村幸策

    田村参考人 私が先ほどからここで伺って、友好国タイの総州大臣の人物批評があって、ある意味から言うと、聞いておると友好国の総理を誹謗しておる。こういうところでなければよろしいのでありますが、アジアの一番の先進国であるその国の国会の壇上で、この友好国の総理などの個人攻撃をやるのには、私はくみしないのでありまして、別に私はサリット総理の親類ではないのでありまするが、これは最も慎まねばならないことであります。  それから、独裁者というようなことをしばしば言われますけれども、独裁者は、フルシチョフしかり、毛沢東しかり、ナセルしかり、カセムしかり、スカルノしかりで、これを独裁者はサリットさんだけのごとく言われる。私はサリットの親類ではありませんよ。けれども、サリットだけを独裁者だなどと言って何か特に悪い人間のようにおっしゃる。そういう話にはわれわれは賛成しないのであります。  それからまた、世論の問題などもありましたが、それならば、われわれは、プラウダも信用しないし、イズベスチアも人民日報も信用しないということになるのであります。独裁者の新聞はみないけない、そういうことでそういう議論をやることは、どうもここでは神聖な場所にまことにふさわしくないと考えますのであります。  四十二対一の問題で今帆足先生から何かお話がありましたが、これは、何か日本のちょうちん持ちをしたというようなわけでなくて、やはり、タイが将来を見通しまして、タイのナショナル・インテレストがこれをしからしめた。そうすることがタイのために将来にとって利益であると彼らが確信したからでありまして、決して、日本のためにちょうちん持ちをするとか、軍閥のちょうちん持ちをする、そういうっもりでやったものではない。どこの国でもそうであります。どの国の政策でもみんな自分の国のナショナル・インテレストを中心に考えるのでありまして、決して国際政治の中で好きだとかきらいだとかいうようなことで政策がきまるものではない、そういうふうに考えております。
  65. 杉山市平

    杉山参考人 私は、別に、サリット将軍をここで議論しても、第一にサリット将軍を個人攻撃をしたというふうに聞いてもいませんでしたし、また、ここでは、今問題になっている国の政権、その指導者、こういうものについて客観的な評価をいろいろな面から試みてみる、これはやはり当然しなければならないことであって、これを個人攻撃だと言って、そこを目をつぶってしまうということであると、かえってここの外務委員会としての任務を十分に果たしていないということになるのではないかと思います。そういう点で、先ほどそこまでいろいろ——わき道にそれるかと思いますが、独裁者ということであれば、フルシチョフも毛沢東も、サリットだってカストロだって全部独裁者だ、これはやはりちょっと暴走した議論ではないかという工合に思います。つまり、問題は、アジアの地域に、アジアの問題について言いますと、戦後、イギリスアメリカ、そういう国々の支配から脱却して自分らの国を作っていこう、こういう民衆の独立の運動が起こってきたという事実がある。そうすると、こういう民衆の運動を伸ばしていく方向で政権を作っていく国、あるいはそれをつぶそうとする方向で現実につぶしている国、これはもうはっきりだれがどう見ても分かれるところであって、その国の政体が、たまたま、インドネシアの場合、スカルノ大統領、これがかなり独裁的な形をとっておるということがあったとしても、だからといって、インドネシアを独裁の国だ、タイと同格の独裁の国だと言ってしまうことは、あまりにも事態を言葉の上でつなげてしまって真相を見ないという弊害に陥るものだろうと思うのです。やはり、ここで必要なことは、たといスカルノが百歩を譲って独裁的であるとしても、その独裁的な形態をとっておるこのインドネシアに現実にどのような民衆の生活があり活動があり、それに反してタイでは一体どのような民衆の生活があり方向があるか、その点については先ほどから私もいろいろな機会にタイについて述べてきたわけですが、こういう点を明確にさして、明確に検討していく、これはやはりここでぜひやっていただかなければならぬことだと思うのです。そういう意味で、サリット将軍の支配し指導するタイの現政権というものが軍事的な独裁的な政権であるということ、これは、もうやはり、今おっしゃられたように、その御意見に私としては全面的に賛成したいと思うわけです。
  66. 帆足計

    ○帆足委員 これで終わります。私はただいま懇切な御質問を参考人にしたつもりでありましたが、田村さんは国際法の先輩でありますけれども、その論理と理性において、どうも私どもの質問に対して適切に答えていただかなかったように思いますけれども、しかし、それぞれ参考になりましたので、お礼を申し上げまして、時間の都合もありますから、これで終わります。
  67. 森下國雄

    森下委員長 穂枝七郎君。——御承知のように時間がありませんので、どうぞ時間のお約束を守って下さい。
  68. 穗積七郎

    穗積委員 お話のように時間がありませんし、参考人の方も午前中からで御迷惑だと思いますから、簡潔にお尋ねいたします。  実は、私ども、ガリオアの問題でも、タイ特別円の問題にしても、心配する点、不満に思う点が多々ありますが、やはり、大きな問題の一つは、杉山さんも指摘されたように、最近のアメリカ並びに日本の外交路線というものがアジアにおける反共軍事体制を強化するという政策であること、これは外交の上でもそうですし、それから、それを裏づけるところの経済政策においてもそうですか、その現われの一つがこれだと思うのです。ところが、これらの心配や反対に対して、政府の方も、また参考人の方も、それをやることによってタイ日本との間の友好関係を深める、そうして経済的交流を拡大することができて、わが方に利益があるのだと言う。実は、意外に思いましたのは、特にタイにつきましては、三十年協定でもう確定しているわけですね。その条約の合理性、論理性というものを実は重要視さるべき国際法学者の田村先生までが、今言いましたように、これをやることによって経済的な利益があるのだという点を強調されたわけです。  そこで、私は、条約の問題はきょうは時間がありませんからおきまして、宇敷さんと田口さんにちょっとお尋ねしたいと思いますが、おっしゃるように、九十六億円をプレゼントすることが日本貿易発展のために非常に役立つのだということを言われるわけです。そこまではわかりましたが、私が第一にお尋ねしたいのは、向こうへプレゼントするところの九十六億というのは、私も含んでおる全部の国民の納税なんですね。それをえさにしてタイをつろうということなんですが、タイをつるのは一体だれがつるのかということですね。だれが損をしてだれがもうけるかということをちょっとお尋ねしたいのです。銭勘定は私ども社会党の方ははなはだ不得手なんですけれども、あなた方は銀行家で経済貿易は専門家ですから、この経済上の論理は直ちにおわかりになると思うのですね。今タイとの間で貿易をやっている商社、タイとの間で取引をやっている銀行、これは一体何行あるか、東京銀行を初め三井、二行かと理解しておりますが、そうすると、この九十六億円のプレゼントによって、だれが負担をしてだれがもうけるかという経済上の論理ですね。これについてどういうふうにお考えになっておられますか、おります。先ほど申し上げましたように、世界の各国を相手先別に分類すると、最近では十番目くらいに来ておると思います。現地に出ている会社、これは百をこす数でございますが、これは限定されたものでございます。そういうところが主になって輸入輸出し、それからまた、現地にそういう出先の店を持っていないところも輸出入をやっておりますが、直接的には商売がそういう貿易商社を通じて行なわれているわけであります。もう申し上げるまでもなく、商社が物を買う、注文すると、産業基盤へだんだん広まっていくわけでございまして、これは現在の日・タイの間の貿易品目で判定してみないとわからぬと思うのですが、この貿易の品目はきわめて多岐にわたっております。輸出品のごときは、繊維品、金属類、たくさんの中小企業もこれに関連しておるということ。従って、貿易からこういうところに潤っているということは事実として考えていいかと思います。
  69. 穗積七郎

    穗積委員 そのままでちょっとお尋ねしますけれども、今タイ国に支店を出しておる銀行は、あなたの方と、ほか何行でございますか。
  70. 田口治三

    田口参考人 日本の銀行でタイ国に支店を出しております銀行は、三井銀行だけでございます。
  71. 穗積七郎

    穗積委員 これは、言うまでもなく許可制でございますね。
  72. 田口治三

    田口参考人 さようでございます。
  73. 穗積七郎

    穗積委員 その場合に、制限をされて、すべての銀行が取引ができるのではなくて、三井銀行だけが政府の許可を受けて取引をしている、こういう実情であるわけですね。私どもの聞いているところでは、他の銀行もタイ国に支店を置きたいという願望を持っているようですけれども、それはいかがでございますか。東京銀行だけのことでなくて、業界全体のことに精通しておられましょうから、伺うわけです。
  74. 田口治三

    田口参考人 現在一支店の支店長である私のことで、銀行全体のハイ・ポリシィにはとても自信もありませんし、いわんや、他の為替銀行多数のお考えがどうか、これは全くどうも私よくわかりません。
  75. 穗積七郎

    穗積委員 今おっしゃるように、取引をしておる三井銀行、それから、取引をしておる商社の一つであるきょうの宇敷さんの東洋棉花、これが九十六億のプレゼントをすることによって商売がやりよくなる、それでもうける、三井銀行と東洋棉花の会社がもうけることは、品目が多いから、全国民、全産業がもうかるのだ、すなわち国益なのだ、こういう論理は、資本主義の個別資本なり個別企業によって経営が行なわれている場合においては、バンカーとして、はたして成り立ちましょうか。はなはだおかしいと思うのです。そうすると、全部の会社、全部の銀行というものがプール計算をして、利潤を全部それでやって、配当も同じ率で全部国民まで均霑せしめるということならわかりますけれども、もうけておる銀行ともうけない銀行もある。それから、九十六億の金というものは、他の商社どころか、われわれ全国民が負担しておるわけですからね。ただ東洋棉花とか三井銀行が九十六億円をえさにして、プレゼントをやってエビでタイをつってもうけたというなら、一商社の商業政策ですから、そのことのいい悪いは別として、国の名において国益になるのだという論理は、この場合は、九十六億円のもとが国民の負担ですから、厳密なるべき、そして非常にラショナルに意見を吐かるべき大銀行のバンカーとしては、論理がはなはだ飛躍するのではないかというふうに、われわれちょっと疑問を持つわけですけれども、御感想いかがでしょうか。
  76. 田口治三

    田口参考人 お答え申し上げます。どうもあまり穂積先生の御質問にお答えになるかどうかわからないのですが、先ほども申し上げましたように、直接的には、貿易をやる商社、それからその貿易輸出入の面を取り扱う銀行、これが営業をやれるわけですから、そこで利潤は当然期待しているわけです。しかし、それがそっくりその商社のポケットに入るのではなくて、私申し上げましたことは、それはまた国内で買い付けるところへ取引が細分されてつながっていく、それからまた、そこから下請とかなんとかいうことでもってだんだん広い基盤へしみ渡って参りますということを申し上げたつもりなんで、あるいは言葉が足りなかったかわかりませんが……。
  77. 森下國雄

    森下委員長 関連質問の通告があります。松本七郎君に、これを許します。松本君。
  78. 松本七郎

    松本(七)委員 東京銀行の田口さんにちょっと関連でお伺いいたします。私あと質問通告しておいたのですけれども、もうずいぶんおそくなりましたから、関連で今後の審議に直接必要な事実関係だけお伺いしておきたいと思います。簡単でよろしゅうございますから、お答え願いたい。  現在タイ国には東銀の支店は幾つございますか。
  79. 田口治三

    田口参考人 私、一支店長でございますが、東京銀行の職員として承知しておりますので、お答え申し上げます。タイ国には支店はございません。
  80. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、今後バンコックには支店を開かれる御予定でございますか。
  81. 田口治三

    田口参考人 私が的確な銀行の方針としてお答えできるかどうかあれなんですが、そういう御同情の立場でお聞き願いたいのでございますが、先ほどから申し上げましたように、貿易関係が非常に多い国でございますので、バンコックにはできたら支店を設けたいという気持はございました。私、三年間おりましたときに、そういうようなことでおりました。
  82. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、それはまだ銀行の方針であって、開けるかどうかは未決定だ、そのことも支店長さん御自身はよく御存じないというふうに理解していいのか、もう方針としてはきまり、かつ政府その他の話し合いでも開設の見込みは十分あるというふうに田口さん御自身は御了解になっておるのかどうか、そこのところをちょっと……。
  83. 田口治三

    田口参考人 バンコックにできたら支店を開きたいという気持は、銀行では変わっていないと存じます。しかし、これは、先ほど穂積先生のお話にございましたでしょうかしら、タイ政府が許可することであって、まだ現在的確に見通しがついているというふうにはなっていないように私聞いております。
  84. 松本七郎

    松本(七)委員 もう一つだけあれしますが、われわれの聞いているところでは、この年々、五月に日本から入る十億円が東銀に預金されるということまですでに約束されておるということなんでございますけれども、この事実は御存じでございましょうか。
  85. 田口治三

    田口参考人 承知しております。それは、もしこの特別円の新協定がまとまりまして動き出す場合には、さっそくタイ国政府がこの金をどこか銀行に預けることになるわけでございまして、その場合の預託先の銀行をタイ政府がきめましたものが、タイの銀行が一つ、それから日本の銀行が二つ、こういうふうになっておると開いております。
  86. 松本七郎

    松本(七)委員 それは、東銀に預託するということはいつ約束されたのですか。
  87. 田口治三

    田口参考人 いつというとあれですが、私新聞で見ましたのでは、三月の初めごろに、タイ側がそういうつもりでおるというふうなことが発表になったとかなんとか、そういうふうに承知しております。
  88. 松本七郎

    松本(七)委員 それは、当然、それだけの約束がなされれば、東銀の代表と、それからタイの責任者との間に話し合いがなされる、あるいはその間に日本政府がどのように関係しているかというようなことも明らかになるはずだと思います、そういう点は御説明できる範囲でよろしゅうございますから御説明願いたいと思います。
  89. 穗積七郎

    穗積委員 関連。  それについて、日本の銀行間で競願になっていろいろな競争が行なわれて、そうしてその間にいろいろな政治的な動きがあった事実を御存じであるかどうか、それも一緒に一つお答えをいただきたいと思います。
  90. 田口治三

    田口参考人 手前どもの銀行のバンコック在勤者としての立場意見を申し上げるということからだいぶ離れているように思いますが、手前どもの東京銀行の幹部がこの特別円の預託のことにつきましてタイ側の要人と会うというようなことがあったとは聞いておりません。  それから、穂積先生のおっしゃられたことは、この預託を受けるのについて、日本のほかの銀行の間で相当な競争があって、そしていろいろな政治的な動きもあったのではないかということでございますが、それは私どもよくわからないのです。これはタイ政府がきめることであって、いろいろタイ側に対して銀行が希望を申し上げ、何と言いますか、申請したとは思いますけれども、政治的な動きというのがタイ側でどういうふうにどうなったのか、どうもあまりよくわかりません。
  91. 松本七郎

    松本(七)委員 ありがとうございました。関連ですから、これで終わります。
  92. 穗積七郎

    穗積委員 実はその間の事情ですね、もう少し伺いたいと思ったのですが、御存じなければこれ以上伺ってもしようがないことです。  次にお尋ねしたいのは、わが国タイに対して出超である、だから、この際貸付にしておった九十六億をプレゼントすることが貿易発展のためになり、それは国益になるのだという論理を経済人として展開しておられるわけですね、しかも、この九十六億円というのは、相手と合意に達して調印された九十六億円の貸付なんです。それをしもこの際切り捨てて贈与にかえよう、こういうことなんですね。そういう論理でいきますと、日本アメリカとの関係は、御承知の通り、年間十億以上のものがわが国は入超になっておる。向こうは出超なんです。そういたしますと、今度の、ガリオア、これは債務であることはいまだかつて確認をされていない。何らの合意も取りきめもない。そうして国民の大多数はもらったものだと思っておった。そうして、日米関係の今日から見れば、日本態度一つで、この入超国日本から言えば、この五億ドルというものは当然プレゼントにしてもらって差しつかえない、そのことがアメリカの利益にもなることである、こういう論理が同時に経済人としては展開できると思うのです。従って、タイに対する九十六億円の貸付をプレゼントに切りかえるということが今後の両国の経済交流に役立つということであるならば、日本アメリカとの経済発展のためには、ガリオア援助というものは、これは初めからもらったものだと思っておったのだから、そのようにプレゼントにすることが両国の経済発展のために役立つのではないか、そういう論理が出てこないでしょうか。池田さんもあなた方も、国際法学者の田村先生まで、出超だ出超だと、こう言われるわけです。それにこの九十六億円をプレゼントに変える正しい論理的根拠があるかのごとく言われるわけですが、その論理でいくと、今のアメリカのガリオアは、これはプレゼントにしてもらうことが当然な論理になると思うが、御感想はいかがでしょうか。
  93. 宇敷正章

    宇敷参考人 ただいまの穗積先生のお話は、二つのことを一緒にされていると思います。われわれがるる申し上げたことは、借りたものは返せ、そして、すっきりしたところでこれからの商売を順調に進めていこう、その可能性は十分にある国だから、その辺のことを勘案して、今後の交渉その他にしこりのないように、スムーズにいくよりにしたいというので、ただ進呈するということとはちょっと違うように思います。
  94. 穗積七郎

    穗積委員 アメリカはどうですか。
  95. 宇敷正章

    宇敷参考人 アメリカのことは私はあまりよく研究いたしませんでしたが、これはどうぞ専門の方にお願いいたします。
  96. 穗積七郎

    穗積委員 それでは、最後一つお尋ねいたしますが、こういう非合理的なプレゼントというものが経済の興隆発展のためになるという考えを日本の財界の人が持たれるということになると、これは非常な思い違いじゃないかと思うのです。東洋棉花であるとか東銀というような、非常に合理的な基礎に立ってのみ経済発展するものだという論理とビジネスライクな態度を持つべき方が、こういうことろに来て、政治的に、貸付を向こうへプレゼントしてしまうこと、これが役に立つのだ、こういう政治的な判断をされて、国民にこのタイの効用を説かれるということは、これはわれわれとしてははなはだ残念に思うわけです。  そこで、ちょっと田口さんに一つお尋ねしますが、あなたの銀行でかつて……。   〔「そういう不謹慎なことを言っていいのか」「せっかく参考人を呼んでつるし上げるな」と呼ぶ者あり〕
  97. 森下國雄

    森下委員長 穂積君に申し上げます。質問の趣旨を明らかにして質問して下さい。
  98. 穗積七郎

    穗積委員 かつて貸付としておいたものを、その会社はまだ黒字経営をやっている、——タイは、さっき言われるように、経済的に困窮状態ではない。……
  99. 森下國雄

    森下委員長 穂積君、すでに規定の時間を過ぎております。
  100. 穗積七郎

    穗積委員 ですから、そういう会社に対して貸付金を贈与に切りかえるというような業務の仕方を東京銀行はおやりになっていらっしゃるのでしょうか。そういうことはちょっとわれわれは納得がいかないことです。経済論理としてはちょっとおかしいのではないでしょうかね。いかがでしょう。
  101. 森下國雄

    森下委員長 参考人のお答えは必要ないでしょう。  時間が過ぎております。あとからどんどん質問する人がいますから……。
  102. 穗積七郎

    穗積委員 答えられなければ答えられないでけっこうです。
  103. 森下國雄

    森下委員長 森島守人君。——たくさん質問者がございまして、はなはだ失礼ですが、時間がありませんので、どうぞお含みの上御質疑を願います。
  104. 森島守人

    ○森島委員 私は田村先生に一問だけお伺いしたいと思いますが、先ほどお話がありましたが、タイ特別円の廃棄通告と申しますか、終了を通告した文書がございますね。これは、昭和二十年の九月十一日付の、タイ国外務大臣発、駐タイ日本大使あての書簡でございますが、この点について先ほど御言及になりました。この点につきましては、実は本委員会における質疑におきましても問題になったことがございました。言に、外務省においては、現在インドに行っております服部公使が当時タイとの交渉に当たった。このときに、特別円関係は、将来のものも、また過去のものも全部御破算になったのだという見解に立って交渉をしたことがあるのでございます。この点は外務省の当局も認めております。しかし、外務省としては、当時これがはたして国際慣例として確立したものであるかどうか、国際法上の原則に基づくものであるかどうかという点については疑問があったのであります。そこで、いろいろ検討した結果、日本銀行に残っておる残高十五億円というものは、これは決済する必要があるのだという結論に達したと、こう言っております。田村先生は、その点のみならず、政策的な見地からも、これは払った方がいいというふうな御発言であったように私は記憶しておるのでございますが、はたして、この終了を通告した後に、日本銀行にあった十五億円も決済すべきものだという明確な国際慣例が確立しておるか。あるいは、国際法の原則上から言ってそうすべきものであるか。私は、外務省としてもまたこの点に十分なる確信がないのじゃないかというふうに存じておりますが、条約論といたしまして、国際法の理論から言って、国際慣例が確立しておるかどうかという点について御所見を伺いたいと思います。
  105. 田村幸策

    田村参考人 午前の陳述で申し上げましたように、ターミネーション、終了という字の効力でございますが、これは、繰り返すまでもなく、私は、あの特別円に関する協定というものがございますが、それが終了したということは、その日、その瞬間以後、今後はそれにのっとっていろいろな処理をしないのだという、これから先に拘束力がないということ、すなわち、たとえば、日本はそれによってタイからバーツを要求することもできませんし、また、向こうもそれをこちらに引き渡す義務がない、こういう意味でありまして、その協定の終止の瞬間以前に、有効中にその協定に基づいてここにある事態が発生したとすると、その事態までもその瞬間以後に拘束力を失う、その瞬間前にその有効中にできた事態までもこれを抹殺する、これを変更する、これを修正するとかこれをなくする、こういうことは許されない、こういうような私は解釈なんであります。従って、あそこには基準が書いてあるわけでありますが、それだから、基準がなくなったということは、これから先はあの基準に基づいて計算することもできないし、また、日本はあの基準に基づいてどうこうすることはできなくなる、タイはそういう義務がなくなる、こういうことでございまして、その前のすでに起こった事態までも動かすということは、これは国際法よりもむしろその前の自然法の原則である、そういうふうに思っております。
  106. 森島守人

    ○森島委員 私はもう一問だけ田口さんと宇敷さんにお伺いしたいのですが、私がきょう承りましたところによりましても、私はタイに何回も旅行いたしましたが、そのとき現地で聞いたところによりましても、タイは自由主義的な自由政策を貿易上とっておる、そこで日本タイとの間に非常な輸出入の不均衡がある、申しますれば、タイが著しく入超になっておる、そこにタイ日本に対するいろいろな不満が重なっておる、こういうことであって、日・タイ協定の問題が今度解決いたしましても、私は、日本の通商政策全体の問題が解決しない限り、依然としてタイ日本に対する不満や不平は残るものと思う。日・タイ協定の問題が解決いたしますれば多少は緩和することはもちろんでしょうが、依然として日本に対する貿易上の最も大きな不満の原因は残ると私は思っております。この点はいかがお考えでございましょうか。
  107. 田口治三

    田口参考人 御意見の通りかと思います。大事な貿易関係のある国でございまして、この間にいろいろなしこりがあっては非常に工合が悪いということを、先ほど来るる申し上げたわけでございます。その意味で、長い間のしこりになっておりましたこの旧協定の第二条が解決されれば、私は大きな飛躍かと思いますが、これで日・タイ間の貿易の全問題が解決したというふうにとるのは、いささか、先生の御指摘の通りに、楽観に過ぎるというか、事態を正しく受け取っているとは思えないのであって、さらに、貿易のアンバランスについて、今後も日本側が政策をいろいろの角度から考え、事態に適応したことをやらなければいけない問題も残るかと存じます。
  108. 宇敷正章

    宇敷参考人 ただいま先生のおっしゃったように、解決しても残りますが、解決せぬでもこの問題は残っていく問題であります。解決した上について、われわれも、そのアンバランスの是正、タイ側の要求というものについていつも関心を払い、できるだけ向こうのものを買いたいというふうに心がけておるのですが、これがもしも未解決のまま進んだとしたら、この前途は非常に憂慮すべきものであり、いわゆる経済外交としても、なかなか、ごつごつしまして、うまくいかないと私は信じます。
  109. 森島守人

    ○森島委員 もう一問だけ私お伺いしたいのですが、宇敷さんは、タイには最近おいでになりましたか。
  110. 宇敷正章

    宇敷参考人 午前中申し上げましたように、私は二十二年からまる三年おったわけですが、ごく最近は参っておりません。しかし、タイの方の事情その他については、商売あるいは刊行物その他を通じまして、できるだけおくれないように勉強しておるつもりであります。
  111. 森島守人

    ○森島委員 総理大臣のお話を見ますと、このタイ特別円問題が解決しないために、いろいろ商売上不都合な厄介なことが起きておるのは、はなはだしいのになると、経済断交までいくのだというふうな発言をしておられるのです。これははっきり「政府の窓」という広報にも載っておるのです。皆さん方は最近の事情についてはお知りでないかもしれぬが、事実上商売をやっていく上において何らか不都合なやりにくいことが起きておりますか起きておりませんか。もし起きておるとすれば、私はこの輸出入の不均衡の問題が一番大きいと思うのですが、タイ特別円の問題だけで特に皆さん方がお困りになっておることがあるかどうか。宇敷さんはこの点については先ほどお触れにならなかった。田口さんは多少お触れになりましたが、どういう具体的な事実が起きておりますか、お知りでありましたら一つお教え願いたいと思います。
  112. 宇敷正章

    宇敷参考人 直接にはまだ被害もありませんですが、絶えずわれわれがその風説におびえると申しますか、その懸念が多分にあるということを申し上げたいと思います。
  113. 森島守人

    ○森島委員 田口さんにちょっと御答弁願いたいのでございますが……。
  114. 田口治三

    田口参考人 先ほどもこの問題は申し上げたのでありますが、何もなくて平地であればまだと思うのでございますが、たまたま三十年の協定ができて、そして、それができました当時のこと、それから、できてからのこと、いろいろあろうかと思いますが、これが旧協定の第二条でもって動いておらない、きまったものが動いておらないということで、やはりいろいろな阻害があるわけでございまして、私ども、しろうとで、いろいろ相手の国との折衝の内容その他存じませんけれども、現地でうわさしておりましたところでは、やはり何とか早く御解決を願わないと具体的に困るというふうにお聞きしておりました。
  115. 森島守人

    ○森島委員 私これでやめますが、お二人の御答弁を承りますと、現実には何ら不都合なことはしてないという御答弁で、私は安心いたしました。しかし、同時に、憂慮をしておるというのは、在留邦人間のうわさの程度であって、池田さんやあるいは小坂さんが特にわれわれに指摘して、こうなるんだ、こう悪化するんだというふうな意見を吐いておられるのは、私は、取り越し苦労であろう、こういうふうに存ずるのでございまして、私、この点について明確なる御答弁を得ましたことをお礼申し上げます。
  116. 森下國雄

    森下委員長 細川兼光君。——はなはだ失礼でございますが、御承知の通りの時間でございますので、どうぞよろしくお願いします。
  117. 細迫兼光

    細迫委員 宇敷さんと田口さんにお尋ねをいたしたいと思います。いろいろ聞きたいことがありますが、私どもの態度を決定するための資料としていろいろな断片的な事実をお尋ねいたします。簡単に聞きます。ごらんのように、夕やみが迫って委員長も少し頭が先鋭化しておるようですから、簡単に事実を御陳述を願いたいと思います。  一つは、今森島君が触れました点ですが、基本的には貿易のアンバランスが問題だと思うのです。それで、今タイから日本輸入を拡大するという可能性についていかがお考えでありましょうか。その物資あるいは日本の需要等を勘案なさいまして、日本タイからの輸入の拡大の可能性についての御意見を伺いたいと思います。
  118. 宇敷正章

    宇敷参考人 私は、いろいろタイの農産物貿易面から見まして、今後まだ相当の種類におきまして輸入増加されるものと思います。それで、具体的に申し上げますと、最近では、ゴム、それからトウモロコシ、これが倍くらいなスピードで、非常なスピードで伸びております。米がちょっと何でございますが、その他のいわゆる油脂原料としてカポックの実とかヒマの種とかいうもの、それから、もう一つはタピオカ澱粉とか、いろいろ農産物関係でわれわれは相当期待ができるものと思っております。
  119. 細迫兼光

    細迫委員 田口さんには何かほかの御意見あるいは御追加説明いただくことができますか。
  120. 田口治三

    田口参考人 専門家の商社の方からお話があったことを特に補足するというあれもありませんのですが、やはり、トウモロコシとか、最近ゴムが非常に買付量が多くなっておりますし、今後日本側でもいろいろな措置が必要かと思いますけれども、貿易のバランスを少しでも努力して、タイ側もあまり文句を言わなくするようなことができるのではないかと存じます。
  121. 細迫兼光

    細迫委員 タイにおける華僑の経済的な勢力と申しますか、どういう状況にありますか。御意見を開きたいと思う。
  122. 宇敷正章

    宇敷参考人 タイにおける華僑と申しましても、いろいろありまして、おじいさんのころから来ている華僑、あるいはお父さんのころから来ている華僑と、こういうものを全部含めまして、あるいは、ごく古い、もっとも古い時代から言いまして、大体われわれ常識的に考えておりますことは、タイの人口の三分の一見当は大体中華民国系であるというように言われておりますし、バンコックだけの人口比率から見ましても、大体華僑または華僑系と称される者は、半数以上、もう少し占めているのではないか。これらの人々が有する経済勢力は相当のものである。大体においてタイ経済は従来華僑に非常に何されてきたというふうに言われておりますが、ここでわれわれが注目せねばならぬのは、なるほど華僑ではありますが、来たばかりのお父さん華僑は、これはタイの国籍がありません。しかし、そのお父さん、お母さんから生まれた子供は、問題なしにタイの国籍になってしまう。それから、お父さん、お母さんが新しく来られましても、たしか十五年か二十年と思います、その他読み書きというような点があれば、タイの国籍ができる。先ほどから申し上げたように相当な華僑がおりますが、これは、その九割九分と申し上げてもいいと思いますが、大体タイ籍を持っておることは注目すべきだと思います。
  123. 細迫兼光

    細迫委員 タイと中国との輸出入数額、日本と比較してどういうことになっておりますか。
  124. 宇敷正章

    宇敷参考人 中国とタイとの貿易昭和三十三年からとまっております。そして、一九六〇年におきましては、日・中、外務日・タイ貿易は大体五対一になっております。具体的に申しますと、輸出入で、日・タイの方は二億、日・中の方は四千五百万見当だったと思います。これは、いろいろ中断とかその他の事情がありまして、そういうふうになっているのじゃなかったかと思いますし
  125. 細迫兼光

    細迫委員 輸出入に関係するいろいろな条件、輸送状況、交通関係なんかも大きな一つの条件だと思いますが、中国との輸出入に関する条件は、値段のことは別にしまして、日本とのそういう条件を比較してどちらがどういうふうに有利であるでしょうか。
  126. 宇敷正章

    宇敷参考人 日本からの中国向けの配船と、日本からのタイ国向けの配船は、その船の数と申しますか、これは当然貿易量に見合わなければなりませんが、大体においてあまり差がありません。日・タイ間、中国・タイ間で見ますと、配船の関係から言って日・タイ間の方がはるかに有利であります。
  127. 細迫兼光

    細迫委員 タイとの貿易におにて、将来日本に関しましては中国は大きな競争相手になると思われますが、そのほかに日本と競争状況にあるおもな国はどこらでありましようか。
  128. 宇敷正章

    宇敷参考人 それはタイ国貿易についてでございますか。——日本の次はアメリカであります。その次は、シンガポール、マラヤ、次がインドネシアあるいはインドというような順番ではないかと記憶しております。
  129. 細迫兼光

    細迫委員 そのタイにおける華僑は、明確ではないかもしれませんが、台湾びいきが多いのですか、北京びいきの者が多いのですか。
  130. 宇敷正章

    宇敷参考人 少しむずかしい問題でありますが、大体において、実際はどちらにもあまりつきたくないというような気持が支配しておるのじゃないかと思いますが、双方によしみを通じておるというような感じだと思います。
  131. 細迫兼光

    細迫委員 相当大きな部分の華僑が公民権を得ておるようですが、すなわちそれは選挙権を持っているものと理解していいでしょうか。
  132. 宇敷正章

    宇敷参考人 一定の資格がありまして、いなかにおいても都会においても選挙権を持っております。
  133. 細迫兼光

    細迫委員 終わります。
  134. 森下國雄

    森下委員長 北澤直吉君。
  135. 北澤直吉

    ○北澤委員 だいぶ時間もたってきましたので、二点にしぼってお尋ねをしたいと思います。  第一点は田村参考人に伺いたいと思います。日本が地理的条件また歴史的条件から申しましてアジア各国との提携協力をますます強化しなければならぬことは今さら申すまでもありません。日本の対アジア外交が積極的に推進されますことは、国民のほとんどすべての者がこれを期待しておるわけであります。ところが、従来日本は、東南アジア東南アジアと申しましても、ともするとかけ声だけに終わって、そして実質的な結果があがっていないというふうに東南アジア方面には映っておるわけであります。東南アジア方面におきましては、ともすると日本の外交はアメリカの方に寄り過ぎて、アジアの方に対する関心が比較的少ない、こういうふうな印象をアジア各国が受けておりますことは、遺憾でありますがこれは事実であります。そういう点から考えまして、私どもは、日本東南アジア外交につきましては、日本が誠心誠意これを進める方針であるということをはっきり事実の上にこれを現わすことが必要でありますが、その点から申しまして、今回のタイ特別円協定というものは、東南アジアの一国でありますタイ日本との関係、まずこの経済関係を推進して、さらに政治その他の面におきましても日本タイ関係をよくするということがそのねらいでありまして、これが、ひいては、日本アジア外交についてほんとうに積極的に踏み出した、こういう感じを私はアジアの各国に与えるだろうと思うのであります。けさほどの田村参考人のお話でも大体そういうお話でありますが、今度の協定、この特別円協定がもし万が一にも成立しないということになりますと、ますます、東南アジアの各国の国民は、一体日本は口ではアジア外交と言っているけれどもほんとうは心の中ではやっていないのだという感じを持つのではないか。そうでなくても、東南アジア各国の国民は、長年の間外国勢力の支配下にありまして、いわば劣等感を持っている、ひがみを持っているわけであります。でありますから、この協定自身が先ほど申しますような日本アジア外交を大いに進める一つの大きな柱でありますが、その点から考えましても、どうしてもこの協定を成立させないと、その結果東南アジア各国に及ぼす影響は非常に悪いものがある、こういうふうに私は非常に心配するのでありますが、その点について、長年国際法あるいは外交について権威者の立場にあります田村先生のお話をお聞きしたいと思います。
  136. 田村幸策

    田村参考人 われわれはアジアのビッグブラザーだと思います。決してアジアの孤児どころでなくて、大きな大兄さんでありまして、そのアジアにおけるビッグブラザーという地位を保持するためには、幸いにわれわれは非常に産業革命の成果を輸出し得る唯一の工業国になっておりまして、喜望峰以東二十億以上の人口がありますけれども、ただ唯一の工業国でありますが、これがアジアにおける地位を永久に、またますますこれを保持し、かつこれを促進するためには、やはり、公正な、だれが見ても指をさされないような外交をやらなければならない。その意味においては、私は、今北澤さんのおっしゃったような、今回のことのごときは、これを上下に処理するということが非常な大きなファクターである、そういうふうに感じておる者であります。従って、特に総理がこれは面接におやりになっておられる。先年、ベルサイユ会議にウィルソン御自身が出られて、自分で談判をして自分で判をつかれて、その条約を持って帰ったら上院で否決された。こういうときにイギリスではごうごうたる非難があったのであります。どうもアメリカはだれを相手にすればよいのか、大統領を相手にしてすら話がつかないのに、一体だれを相手にしたらいいのか、一体これから将来アメリカとはだれの判を一番信用したらいいかというような問題が起こったことがございますが、そのときに前の外務大臣のグレイさんという人がロンドン・タイムスに書簡を寄せまして、いや、それは君らが間違いだ、君らそれはアメリカの憲法を知らないからだ、アメリカの憲法をごらんなさい、大統領に条約締結する権限はないのだ、上院の三分の二の助言と同意がなければ条約はできないのだ、それを君らが知らないからいけないのだ、こういうことを国民に警告されたことがありますが、本院のやはり同意、承認がございませんければこの条約は成立しないわけでありまするが、そういうことのないように、私は日本アジア政策を推進する上において希望してやまないものでございます。
  137. 正示啓次郎

    ○正示委員 委員長
  138. 森下國雄

    森下委員長 正示君。
  139. 正示啓次郎

    ○正示委員 ……   〔発言する者、離席する者多く、議場騒然、聴取不能〕   〔委員長退席〕    午後六時二分