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1962-03-16 第40回国会 衆議院 外務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月十六日(金曜日)    午前十時四十五分開議  出席委員    委員長 森下 國雄君    理事 北澤 直吉君 理事 野田 武夫君    理事 福田 篤泰君 理事 古川 丈吉君    理事 松本 俊一君 理事 岡田 春夫君    理事 戸叶 里子君 理事 松本 七郎君       安藤  覺君    愛知 揆一君       井村 重雄君    池田 清志君       宇都宮徳馬君    齋藤 邦吉君       正示啓次郎君    竹山祐太郎君       床次 徳二君    黒田 寿男君       帆足  計君    穗積 七郎君       細迫 兼光君    森島 守人君       横路 節雄君    田中幾三郎君       川上 貫一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         外務政務次官  川村善八郎君         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (アジア局賠償         部長)     小田部謙一君         外務事務官         (アメリカ局         長)      安藤 吉光君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (条約局外務参         事官)     須之部量三君         大蔵事務官         (理財局長)  宮川新一郎君  委員外出席者         通商産業事務官         (企業局次長) 伊藤 三郎君         通商産業事務官         (企業局賠償特         需室長)    池田 久直君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 三月十五日  委員猪俣浩三君及び井堀繁男辞任につき、そ  の補欠として帆足計君及び西尾末廣君が議長の  指名委員に選任された。 同月十六日  委員野原覺君及び西尾末廣君辞任につき、その  補欠として横路節雄君及び田中幾三郎君が議長  の指名委員に選任された。     ————————————— 三月十四日  航空業務に関する日本国とパキスタンとの間の  協定締結について承認を求めるの件(条約第  五号)(参議院送付)  航空業務に関する日本国とイタリアとの間の協  定の締結について承認を求めるの件(条約第六  号)(参議院送付)  航空業務に関する日本国インドネシア共和国  との間の協定締結について承認を求めるの件  (条約第七号)(参議院送付) 同日  ドミニカ国ハラバコア地区引揚者の援護に関す  る請願(片島港君紹介)(第二五一九号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する  日本国アメリカ合衆国との間の協定締結に  ついて承認を求めるの件(条約第一号)  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について  承認を求めるの件(条約第二号)  国際民間航空条約改正に関する議定書締結  について承認を求めるの件(条約第三号)  日本国アルゼンティン共和国との間の友好通  商航海条約締結について承認を求めるの件(  条約第四号)  海外技術協力事業団法案内閣提出第九二号)      ————◇—————
  2. 森下國雄

    森下委員長 これより会議を開きます。  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件、特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件、国際民間航空条約改正に関する議定書締結について承認を求めるの件、日本国アルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約締結について承認を求めるの件及び海外技術協力事業団法案を議題とし、質疑を行ないます。  質疑通告がありますので、これを順次許します。横路節雄君。
  3. 横路節雄

    横路委員 外務大臣お尋ねしますが、私はきょうは主としてタイ特別円協定についてお尋ねをしたいと思いますが、去る三月二日の予算委員会でも概略触れたのでありますが、タイは、終戦後の昭和二十年九月十一日、日本政府に対して、「タイ同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は、特別円決済に関する両国大蔵省間協定覚書をも含め、終止したものとみなす」、こういう通告がございましたので、外務省としては、タイ国側廃棄通告により特別円に関する一切の諸取りきめは効力を失ったものである、こういう考え方に立っておることはこの前御答弁をいただいたところですが、そこで、ちょっと念をおしておきたいのです。これは私のところにも出していただきましたから外務大臣のお手元にもあろうと思うのですが、まず第一番目には、日本国タイ国間同盟条約昭和十六年十二月二十一日、この第二条に、「日本国又ハ「タイ国ト一又ハニ以上ノ第三国トノ間二武力紛争発生スルトキハタイ」国又ハ日本国ハニ其同盟国トシテ他方ノ国ニ加担シ有ラユル政治的、経済的及軍事的方法ニ依リ之ヲ支援スヘシ」、そして、第三条には、「第二条ノ実施細目ハ日本国及タイ」国ノ権限アル官憲間ニ協議決定セラルヘシ」、こうなって、第五条までありますが、これは廃棄通告によって廃棄されておる。その次は、どういうことかというと、日本国外務省タイ国大蔵省間の了解事項、ここで初めて特別円の問題が出てきておるわけです。第三番目に、特別円決済に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間の協定覚書昭和十七年五月二日。さらに、第四番目には、特別円の金への振替等に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間の了解事項昭和三十七年五月二日。この条約並びにその他協定覚書等につきましては、先般の外務大臣答弁で、これはタイ国側から廃棄通告が行なわれておる、従って、これは効力を失っておる。この解釈はいいのですね。この点をまず最初に確認をしておきたいと思います。
  4. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今お述べになりました第一項から第三項まではこれは廃棄せられたものでございますが、第四項に関しましては、予算委員会でも申し上げたように、一種の商業勘定というようなことで日銀残高になっておるわけであります。従って、これをいかに見るかということが特別円解決の問題となって残ったわけであります。
  5. 横路節雄

    横路委員 今あなたは第四項と言っておるが、第四項は効力を失っているのですよ。今私が読んだ昭和十七年五月二日の特別円の金への振替に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間了解事項というのは効力を失っているのだ。これは効力なんてないですよ、両国政府間の了解事項だから。間違いでしょう。
  6. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 失礼しました。間違っておりました。
  7. 横路節雄

    横路委員 そこで、これはあと総理大臣にもたくさんお尋ねしますからお聞きいただきたいのですが、今申し上げましたように、日タイ軍事同盟は破棄された。効力を失っている。特別円決済に関して両国大蔵省間その他覚書了解事項は全部効力を失っている。こういうふうに効力を失っているのに、特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定、これが生きているというのはどういう理由なんです。これが生きているんだということは、あなたの方から出していただいたのに、「特別円決済に関する日本国大蔵省及泰国大蔵省間昭和十七年五月二日付協定覚書実施のため日本銀行日本国政府の権限ある官憲承認を経て泰国大蔵省と左の諸条を協定す」と、こうなっておる。だから、この特別円決済に関する日本大蔵省及びタイ国大蔵省間協定というものは、すでに効力を失ったと今外務大臣答弁している。効力を失った協定は、特別円決済に関する日本国大蔵省及びタイ国大蔵省間昭和十七年五月二日付協定覚書はすでに効力を失っている。効力を失っているのに、その協定覚書実施のためにやった細目協定といいますか、そういうものだけが効力があるんだということは、それは法律的には全然成り立たないではありませんか。これは全く成り立たない。特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定が全然違った協定であるならば別です。しかし、効力を失った特別円決済に関する日本国大蔵省及びタイ国大蔵省間の昭和十七年五月二日付協定覚書、これはすでに効力を失ったことを両国間で確認している。その実施のための細目協定が何で生きるのでしょうか。外務大臣、どうですか。これは生きるわけはないじゃないですか。親が死んでしまったのですから、それを実施するための細目協定が何で生きているのですか。
  8. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 特別円の問題は、御承知のように、日本銀行帳簿じりにございました十五億円強のもの、これが商業勘定として残っておるのでございまして、特別円協定というものは通告があった日以後は失効しておるわけでございますが、その関連でできた商業勘定、このしりというものは失効していない、こういうふうに考えるべきものだと思っておるのであまりす。
  9. 横路節雄

    横路委員 そこが一番大きな問題点だと思うのです。なぜ問題点であるかというと、この特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定が全然今あなたの言うように商業勘定に基づくいわゆる日銀残高であるということであれば別でしょうが、この問題は、あげて、タイ軍事同盟の第二条、第三条並びにそれに基づく特別円決済に関する両国政府間の協定覚書了解事項、その昭和十七年五月二日付協定覚書実施するための細目協定である。その特別円決済に関する政府間協定がすでに効力を失っているというようにあなたの方では認めている。その協定覚書実施のための細目だけが生きるわけはないのです。もとが死んでいるではありませんか。特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定、これが一体何で商業勘定のものなんですか。前のは日・タイ軍事同盟の第二条、第三条に基づいて経済的な協力のための協定覚書了解事項、それがあげて全部効力を失ったのに、なぜ特別円決済に関する日本銀行及びタイ大蔵省間協定だけが生きるのです。これは外務大臣がどんなに強弁されても生きるわけがないじゃないですか。どうです。
  10. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御承知のように、特別円という問題は、日・タイ同盟関係に基づきまして、日本軍タイに二万人から行った、そういう膨大な日本軍が在留いたしまするために調達すべき軍費を、バーツで調達されるものを日銀につけかえておく、つけ勘定でその軍費調達したということでございます。特別円勘定に基づきまするいろいろな、たとえば金約款であるとか、あるいは金を必ずしも現送する必要がないと了解するというような了解事項とか、そういうものがございまして、その関係のものは通告の日以後は消滅したわけでございまするが、すでに諸種の関係から生じました、日本が直接支払うべきものを立てかえておったと認められる銀行残高については、それを何らかの形において清算するという必要が生ずるわけでございます。そこで、もし特別円協定が生きておりましたならば、その協定中にございまするこの金約款の問題あるいはその付属の了解事項ということが問題になって参りますでありましょうが、この帳簿残高をいかに決済するかという場合には、これを解決すべき取りきめの上の法的な基準がない。これが日・タイ特別円解決の場合一番困難な問題を提起した原因であると思います。そういうことでございまして、すでに生じた商業勘定決済するということは、これはもう当然そうあるべきものと考えておるのであります。
  11. 森下國雄

    森下委員長 関連質問通告がありますので、これを許します。岡田春夫君。
  12. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これは小坂外務大臣はあるいはごらんになっておられないかもしれないけれども、これは条約問題ですから、私は中川条約局長でもけっこうだとい思ます。条約局長は、この交渉昭和三十年のときも直接当事者として折衝された中心人物の一人であるわけなんですが、そうなって参りますと、当然、この当時の条約条文は、すなわちその当時の特別円決済に関する日本国大蔵省及びタイ国大蔵省間協定覚書並びに了解事項、これはお読みになっておられるのだろうと思いますが、まずこの点をちょっと伺っておきたいと思います。
  13. 中川融

    中川政府委員 戦争中の日・タイ間のこの問題に関する文書、これはいずれもよく読んで交渉に当たったわけでございます。
  14. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、もう一つ伺っておきますが、先ほど小坂外務大臣は、日銀勘定のその点は商業勘定並びに商業決済上の勘定である、こういうように御答弁になったように記憶しておりますが、それは間違いございませんか。
  15. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 必ずしもそうおとりにならないでいただきたいと思います。私が申しましたのは、日銀帳簿じりにある残高の性質を見れば、残高そのもの商業的な性格を持っておるものだ、こういうふうに申し上げたわけでございます。銀行残高というものは、これは一般の経済的な、商業的なベースで判断すべきものである、こういうことです。その原因が何であるかということではございません。
  16. 岡田春夫

    岡田(春)委員 原因とか結果とかの問題を伺っておるのじゃなく、その勘定それ自体商業勘定でございますか、商業勘定でないのですか、政府勘定であるのか、この点を私は伺っておる。残高の数字それ自体の問題じゃなくて、その勘定商業勘定ですか、協定に基づく勘定ですか、こういうことを伺っておる。
  17. 中川融

    中川政府委員 これは、日・タイ間の大蔵省間覚書、またその覚書に基づきます日本銀行向こう大蔵省、あるいはあとになりましては大蔵省の仕事がタイ銀行に移りましたが、タイ銀行との間の協定ができまして、その協定に基づきまして特別円勘定というものが日銀に設定されたのでございますが、しかし、この内容といたしましては、貿易勘定も含めまして、軍費調達をも、要するに日・タイ間のあらゆる決済をこの勘定でやるんだ、こういうことでございます。従って、勘定性格といたしましては政府間協定もとにしてできておりますが、日本銀行に置かれます勘定としては、これはやはり一般銀行における債権債務関係勘定である、その性格には変わりないと思うのでございます。しかし、ほかの一般商業上の銀行勘定と違います点は、要するに、これが円ではありますけれども、これを国際決済に使い得る、アジア共栄圏、その当時大東亜共栄圏と申しましたが、この共栄圏内国際決済に使い得る、そういう特殊の性格を持った円である。そこが違うのでございまして、その違う性格は、やはり政府間の取りきめであるということから出てきておると考えるのでございます。
  18. 岡田春夫

    岡田(春)委員 大へん長々と御説明になりますが、要するに、私の質問に答えていただけばいいので、勘定それ自体は、中川さんお話しのように、これは商業勘定ではなくて政府間協定に基づく勘定である、そこへ出てくる金額というのは貿易決済その他もあるが、これは商業上の貸借関係である、こういう意味のことをお答えになったのでございますか。
  19. 中川融

    中川政府委員 大体要約すればそういうことになります。
  20. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、この点を伺いますが、商業勘定としての貸借関係ができたけれども、その口座それ自体政府間協定に基づくものですから、特別円勘定という勘定消滅するわけですね。そうでしょう。
  21. 中川融

    中川政府委員 終戦タイ側がこの協定の元になる協定を廃棄して参りまして、従って、その日をもってこの協定は終止するということを言ってきたわけであります。従って、その日以後はこの勘定は要するになくなった。従って、今のような金でこれを決済するとか、あるいは国際的な決済に使い得るとか、そういう特殊の性格というものはその日以後はなくなった、こういうことになると思います。
  22. 岡田春夫

    岡田(春)委員 関連ですから、私これで終わります。
  23. 横路節雄

    横路委員 今の中川条約局長岡田君に対する答弁は当を得てないと思います。あなたは、今のお話で、二十年の九月十一日に日・タイ軍事同盟並びに一切の条約協定特別円決済に関する両国大蔵省間協定覚書実施を含めて効力を失ったのだと言われる。だから、その日までにあったものは効力があるのだ、そんなことはないですよ。それはこの間予算委員会であなたは議論したじゃありませんか。敗戦国相互間の請求権消滅をするのだと言っておる。もう一つ議論しておかなければならぬことは、敗戦国相互間の請求権消滅をしている、だから、そういう意味で、二十年の九月十一日に全部御破算ですよと言ってきたが、それから、その前にあったものは有効だなんということにはならないですよ。御破算ですよと言うから、金約款の分は全部御破算にしたじゃありませんか。それならば、金約款の分は有効だと言わなければならぬはずだ。二十年九月十一日までのものは有効で、それ以後のものは無効なんだ、だから二十年九月十一日までにあった日銀残高の十五億は有効だというようなことをあなたが言うならば、金約款の分についても有効だということになる。外務省金約款の分については無効だと言っておる。この間も、私はここに会議録を持っているが、あなたは答弁しているのだ。だから、今の岡田君に対するあなたの答弁は、それは間違いですよ。二十年九月十一日に廃棄通告をしてきたから、それからあとは無効だけれども、その前のは有効だ、そんなことはないですよ。中川さんともあろう人がそんな筋道の通らない答弁をしてはだめですね。あなたはここで言っているでしょう。ここにございますが、あなたは、「いわゆる戦争中の協定にありましたような金一グラム四円八十銭の割で金で返すことができるというこの金約款は、なるほど消滅しております。」と言っている。九月十一日前に有効ならこれも有効なんだ。中川さん、筋が通らないでしょう。だから、あなたはここであんまりごまかしてというか、この場だけのがれればいいというのでなくて、条約のことなんですから、もっときちっとして答弁をされなければいかぬですよ。金約款の分は無効でしょう。
  24. 中川融

    中川政府委員 二つの点について御質問があったわけでありますが、第二点のあとの方からまずお答えいたしたいと思いますが、金約款が要するに向こう廃棄通告があって以後消滅した、援用できないということを前回予算委員会で私申しましたが、これは決して間違いを申し上げたのではないのでありまして、要するに、もとになる協定をよく読んでみますと、金約款がそのまま使われる、そのまま生きておるのではないのでありまして、要するに、合理的な要求があった場合には金で払うことができるということになっているわけであります。従って、協定がまるまる生きておりましても、それはタイ側の合理的な要求があって初めて日本側が払うということになるわけでありまして、タイ側がそういう合理的な要求をしないうちにタイ側がそのもとになる協定を廃棄して参りました。従って、九月十一日以後はそういう金約款に基づく要求はなし得ない。これは当然であります。なし得ない。従って、金約款はどうしても生きてこないということになるわけでございます。しかしながら、廃棄通告がございました際に残っておりました日本銀行にある十五億円という帳簿じりの残高、これは協定が有効な間に有効にできた債務であります。これはもと協定が廃棄されましても、有効の間にできました債務はそれに伴ってなくなってしまうということにはならないのでありまして、これは、一般条約の廃棄されました場合にも、その条約によってすでに実施した事項、これは元に戻ることができないのでありまして、条約によって発生いたしました債権債務というものは、これは残ることが当然の国際上の原則でございまして、従って、これは金約款については九月十一日以後は使えない、従って、これを元にさかのぼりまして有効な十五億円の債務について金約款をさらにタイ側が援用するということは、これはできないわけでございます。従って、そういう趣旨の議論をあの当時の三十年の交渉のときにやったわけであります。
  25. 横路節雄

    横路委員 今の金約款の分については無効だという外務省の見解、私たちも無効だとい思ますよ。このことはあとで総体の金額を聞くときに相当大きな問題になりますから……。  そこで、私どもの考え方は、今申し上げましたように、二十年の九月一日には、「タイは、同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は」として、その次に、特に断わり書きをつけて、「特別円決済に関する両国大蔵省間協定覚書をも含め、終止したものとみなす」、わざわざこう言ってきているわけです。終止というのは、全部効力を失効したということです。  そこで、その問題につきましては、今あなたの方で特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定はこれは効力を失った、昭和十七年五月二日付の大蔵省間協定覚書実施、その協定覚書効力を失ったわけです。失ったのだから、それから出てくるところの特別円決済に関する日本銀行及びタイ大蔵省間協定というものは、これは当然効力を失っているわけです。これはもとになる法律ですね。母法効力を失ったわけであって、それから出てくるところの細目協定だけ生きるということはないのです。この点は、あとで私の方で三十年協定に関する政府折衝問題点を出しますが、あなたの方でも、実際には一切の効力を失っているのだけれども、まあこの分だけはタイの顔を立てて認めてやろうじゃないかという立場なんです。  そこで、次に私がお尋ねしたいと思うのは、この「同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は、終止したものとみなす。」という「一切の条約及び協定」の中には、軍費調達に関して、たとえば昭和十七年十一月二十四日に調印をしたのには、軍費決済に関するタイ国外務大臣と駐タイ日本大使館との決済協定というのもある。こういうのはどうなるのですか。私は、こういうのも一切あげて効力を失ったもの、これは両国間、片一方外務大臣片一方日本大使、こういうものもあげて効力を失ったんだよということを相手が通告してきたものとみなすことが正当だと思うが、この点はどうですか。
  26. 中川融

    中川政府委員 軍費調達ということは、もちろんこれは日・タイ同盟条約に基づく行為でございます。従って、これに基づく軍費調達を命じたといいますか、この両国間の合意というものは、やはり失効したと見るべきであるのでございます。しかし、御承知のように、十七年当時の軍費調達ということは、すでに実行してしまったわけであります。終戦後に九月十一日に廃棄通告いたしました際には、すでに実施してしまったわけでございますから、これが失効したといっても、形骸だけが問題になるわけでございます。問題は、要するに、金売却協定というものが七回行なわれたわけでございますが、これが失効したかどうかということにも若干関係があると思いますが、これははっきりタイ特別円覚書というものとは縁がない。これと離れて、要するに、これは金をタイに売却するだけだという取りきめでございます。これは了解ははっきりしておるわけでございます。この方はいわば商業上の売買であるということで、これは廃棄されていない、こういうのが基本的な考え方でございます。
  27. 横路節雄

    横路委員 今の条約局長答弁は、私が次にお尋ねするだろうと思って、あなたは先回りをして答弁されたのでありますが、今のあなたの答弁の前段は、たとえば昭和三十七年十一月二十四日に調印した軍費決済に関するタイ国外務大臣、駐タイ日本大使館との決済協定などは、全部それは終わったんだとあなたは言った。全部終わっているかどうかはこれからお尋ねをしていきますが、軍費に関する調達協定決済協定も全部これは終止したものである、こういうようにみなしている。あなたはそう解釈している。  そこで、私は外務大臣お尋ねをしますが、これも外務省の方から私の方に出された資料ですから、あなたもお持ちだと思うのです。それは、第三条の第二項の(a)です。一九四四年四月七日付の坪上大使書簡、これがいわゆる五千万円を限度にして金を次の通りタイ政府に売却する、三千万円の限度で本年中に実行して、残り二千万円については明年から毎年五百万の額でやるんだ。あなたの方から出された資料を見るとそうなっている。そして、三千五百万だけは金を売却しているが、千五百万は残っている、これがこの間の中川条約局長答弁です。その次、同じく第三条の二項の(b)項は一九四五年一月十八日付の山本大使の書簡だ。これを見ますと、「日本国政府は、タイ銀行に対する金の売却に関し最大の同情的考慮を払って来ており、バーツ貨による本年上半期の日本国軍費の提供によってタイ銀行が受領する特別円を対価として、本年中に、二千万円の額の限度まで金を売却する用意がある。」、これでございましたかね、七億バーツの予定であったが、実際に借りたのは三億一千四百五十万バーツである、従って、二千万円の四五%の九百万が残っているんだ、こういうのがあなたたちで出されてきた資料であったと思う。そうして、第三条第二項の(c)には、一九四五年七月三日付の山本大使の書簡、これも、「日本国政府が、本年下半期の日本国軍費について日本側によせられた協力に感謝し、かつ、」ということで、ここには二千万円を限度にしてやる、こうなっておる。今私が読み上げましたように、この三十年協定の第三条の第二項の(a)については明確ではないが、あなたの方で出してきた(b)項並びに(c)項を見ても、これは軍費調達に関する決済なんです。そうすると、今中川局長からお話があったように、軍費調達に関する決済協定は、あげて日・タイ軍事同盟の第二条並びに第三条につながる協定なんだ。だからこれは効力を失っているはずなんです。だから、私は、軍費調達に関する決済協定その他は一体どうなんだと聞いたら、あなたは、それは基本的には廃棄通告がなされているから廃棄されているのだ、こういうことをあなたは答弁した。だから、三十年協定の第三条の第二項、総額で、千五百万プラス九百万プラス二千万で四千四百万が五十四億のほとんどを占めておる三十七億円になっておる。これは明らかに軍費調達に関する決済協定から生まれてきたのであって、従って、これは効力を失っているという考え方が正しいのだ、今の条約局長答弁からするとそうなんです。これは、小坂外務大臣はこの間商業ベースに基づくものだと言われたが、何が商業ベースですか。あげて軍費調達じゃありませんか。何が商業ベースでしょうか。あなたはこの間私の予算委員会における質問に答えて、これは商業ベースだから十五億円は五十四億円の中に入っておるのだから払うのだ、こう言っておる。これも先ほど条約局長が私に答弁をした金約款に相当する部分になるじゃありませんか。本来から言えば、あなたたちの主張からすれば、まるまる十五億円を払えばいいものを、そのうちの四千四百万だけは金で払うのだ、これを換算して三十七億円にして払う。金約款は無効なんだ、こういう立場をとるならば、この三十七億円についても払わなくてもいい。払うとすれば日銀残高の十五億だけ払えばいい。何が商業ベースでしょうか。軍費調達に関して、これこれの分については五千万円を限度にして金で払うのですよ、これこれについては二千万円について払うのですよと言っておる。これが何が商業ベースですか。軍費調達に関する日・タイ軍事同盟からするものじゃありませんか。私は、あなたの御答弁を聞き、さらに速記録であらためて確認をしたが、何が商業ベースなんでしょうか。
  28. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この日・タイ軍事同盟、またそれに基づきましてその関係もとにおきます特別円協定、これは廃棄通告以後失効しておることでありますが、その協定実施の過程において、日本タイ側に、さもなくば日本の円をもって当時支払うべきものを立てかえ勘定にしておったわけでございます。その帳簿じりを見ますと、十五億円あった。だから、十五億円・十五億バーツでいいじゃないか、こういう議論も立てられると思いますけれども、しかし、そのできまする過程におきましては、これは、金を売却するということはもうすでに約束をしておって、その約束が実行されておらない。そこで、この約束されておったものを、四千四百万円というものを、当時一グラムの金が四円八十銭であるというもので割り出してみまして、九・一七トンというものを、その三十年協定の当時の金の価格、——現在もそうでありますが、一グラム四百五円というものをかけてみて、はじき出して三十七億何がしを出した。当時のいきさつもあるから、これは無効だと言い切れないものがあると私は思います。日銀帳簿じりに現にある、さもなくば日本が実行しておるべかりしものでありましたものでございますから、それを今さような考え方に基づいて考えるということが妥当だろう。商業ベースということは、先ほど私も申し上げたように、何もその勘定商業取引によってできたということを言っているのではなくて、残高そのもの銀行勘定であり、それが一般的に見て決済についての理解は商業的な理解において決済すべきものである、こういうことを申し上げておるわけであります。
  29. 横路節雄

    横路委員 今の外務大臣の御答弁の中で、中川条約局長答弁と違うわけです。それはどういう点が違うかというと、日銀残高の十五億については、政府の方では、認めましょう、しかし、一切の協定が破棄されたのであるから、従って、金約款の分については効力はない、この金約款の分については、特別円決済に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間協定覚書昭和十七年五月二日のところにこういうようになっているわけです。日・タイ両国間に「特別円を使用せんとする希望を表明したる場合に於て日泰両国間に於て之に付合意せらるべきものとの間の一切の支払の決済に使用せらるる日本円を謂う。又特別円は必要に応じ純金一グラムに付四円八十銭の割合にて金に振替え得べきものとす。」、こうなっているわけです。これが、中川条約局長の先ほどの御答弁では、これは効力を失っているのです、こう言っているのですよ。これが効力を失っているのに、なんで一体これに基づくところのこの軍費調達協定に基づいての書簡、これが有効ですか。これも全部一グラム四円八十銭、その計算をして、そしてあなたの方では三十七億の計算をしておるわけですね。四円八十銭で総体の重さを出して、その重さに対して一オンス三十五ドルで計算をして三十七億を出した。  だから、中川条約局長のお話のように、この特別円決済に関して日銀残高の十五億だけは認める。しかし、金約款についてはこれは無効だ、先ほどそう言ったんです。それであるならば、当然、この三十七億について、これを十五億の中から四千四百万をはずして、これを一グラム四円八十銭で重さを換算をして、一オンス三十五ドルという計算で三十七億を出すことは、これは一切のこの協定が無効になって、金約款が無効になっているのに、おかしいじゃないですか。軍費調達のこれに金約款をつけているじゃないですか。
  30. 中川融

    中川政府委員 今の御質問で、金約款が失効しているのにどういうわけで三十七億を払うかというお尋ねでございますが、これは、三十年協定第三条に書いてあります三つの金売却契約というものは、実は金約款に基づく契約ではないのでございまして、全然これは離れまして、要するに、そのときの金の価格によって商業的にこれを計算いたしまして売る契約でございます。いわゆる両大蔵省覚書とは全然離れた契約でございます。従って、その契約というものは有効にできておるのでございますから、しかもこれはいわゆる廃棄通告のカテゴリーに入らないということでありますから、当然、戦後におきましてもやはりこれは日本として義務として支払わなければならぬ、こういうことでございまして、決してこの金約款が死んでいることと矛盾しないわけでございます。
  31. 横路節雄

    横路委員 今あなたはそういう答弁をなさいますが、先ほど私は、二十年九月十一日に日本政府に対して同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は終止したものとみなすと通告してきたこの一切の条約及び協定の中には軍費に関する決済協定も入っているのでしょう、こう聞いたら、あなたは、すなおに、入っていますと、そう言ったじゃないですか。だから、この特別円決済協定と離れても、軍費調達に関する決済協定は、これは全部この二十年九月十一日の通告によって終止したものとみなす、こうなっているじゃないですか。だから、私は、先ほどあなたの方からいただいた資料に基づいて、一つ一つ、これは上半期の軍費調達の幾らである、七億のうち三億一千四百五十万バーツであったからそれはどうなんだ、その次には、下半期の軍費調達であるということでお尋ねしておる。先ほどあなたが軍費調達に関しては入らないのだということを言えば別だけれども、あなたは、同盟条約及びそれに連なる一切の条約及び協定は終止したものとみなすという中に、軍費に関する決済協定も入っていると先ほど御答弁なすったから、私は聞いているわけです。そうじゃありませんか。これが特別円協定に関するものでないと言われるが、しかし、これは軍事同盟その他一切廃止されたものである。従って、軍費調達に関する決済協定から言って、これは当然——大体この十五億の中からはじくことすらおかしいんだよ。中川さん、どうですか。あなたは今軍費に関する決済協定はこれは無効だと言ったんです。
  32. 中川融

    中川政府委員 私が無効だと申しましたのは、軍費調達に関する両国間の協定合意でございます。これは、軍費調達というものは、日本軍からたとえば毎半年ごとに幾らぐらい要るということを先方に通告いたしまして、先方がその軍費をバーツで供給するわけでございます。そのことをそのつど合意するわけでございます。この合意は失効しておる。それで、どういうことになるかといいますと、このバーツに見合う円を日本銀行特別円勘定に計上するわけでございます。それで要するに軍費調達のあれは済んでしまうわけでございます。一方、金の売却は、それとは実質的には関係がないとは申しません、実質的に関係があるのでございますが、形から言いますと、それとは切り離しまして、商業ベースで金を売るということになって金売買契約ができておりまして、これはやはりもとの両大蔵省覚書からは離れておる、三つの契約とは離れておるものである、こう解釈せざるを得ないということで、この三十年協定ができておるわけでございます。
  33. 横路節雄

    横路委員 外務大臣、私が先ほど指摘をしましたように、日本国タイ国間の同盟条約の第二条には、「政治的、経済的及軍事的方法ニ依リ之ヲ支援スヘシ」、これが軍費調達に関するいろいろな協定になっておる。あるいは軍費決済に関する協定になっておる。そこで、第三条で、「第二条ノ実施細目日本国タイ国ノ権限アル官憲間二協議決定セラルヘシ」とこうなって、それから出てきたのだ。だから、先ほど私が言いました昭和十七年の十一月二十四日ですかの協定については、中川条約局長が、軍費決済に関する協定は、あれはなるほど無効です、こう言っている。だから、そういう意味からいけば軍費決済に関するこの協定というものはあげて無効なんです。同盟条約廃棄通告、それに連なる一切の条約協定廃棄通告、しかも、この間ここでも議論したように、敗戦国相互間の請求権消滅をしている、だから、日銀残高の十五億についてはまあ折衝の過程で認めてやらなければならぬかなということがあなたの方では生まれてきたかもしれないが、しかし、この金売却については、これは明らかに軍費調達に関する決済協定から生まれてきている。これがただ単に商業ベースに基づいてこれこれのうちで何千万が金で売却しますよときめたから、それは商業ベースなんだ、それは軍費決済協定とは関係ないのだということにはならないのです。ならないですよ、外務大臣。どうしてこれが軍費決済協定と離れたものでございますか。これは、軍費決済協定の中で、たとえば一番はっきりしているのは、七億のバーツを受けることにした昭和二十年の上半期、それが三億一千四百五十万バーツしか受けないから、受けないなら二千万円の金を払おうとして、あなたの方では四五%の九百万に済ますのだ、こういうことで、何が商業ベースなんでしょう。購買の決済協定から生まれてきたいわゆる書簡の交換ではありませんか。だから、先ほど条約局長が、軍費決済協定については二十年九月十一日のいわゆる終止通告で無効なんだとあなたは答弁したのだから、そのことは同時に金約款特別円決済についても無効なんだと言っているなら、当然このことはそういう意味では効力を現わしてはいないのです。外務大臣、どうですか。
  34. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 特別円協定廃棄通告があった日から無効になったわけでございます。そこで、それ以前の日銀帳簿じりをいかに計算するかということになりますと、これは非常に議論の分かれるところであるのでありまして、タイ側の希望としましては、当時の一ポンドが十一バーツということで計算いたしまして、千三百五十億円をほしい、こう言って参りました。もちろんこれは受け入れないわけであります。ところが、今、金約款のそのものに関して、これが特別円協定は無効になったんだが、それ以前のものについては全部適用されるという考え方に立ちますれば、千二百六十七億円ということになるわけでございます。しかし、累次にわたって申し上げておりますように、この第三条の二項の(a)、(b)、(c)、とのものにつきましては、われわれは金を売却するという約束をしておってそして実行されていないものがある、これは単純に商業勘定として決済すべきものである、こういうことにいたしまして、それをはじいて三十七億ドル何がしということにいたしたわけでございます。
  35. 横路節雄

    横路委員 外務大臣、あなたの答弁のうちの筋道の通らないのは、二十年九月十一日に廃棄通告があった、それ以降のものは無効だが、それ以前のものは有効だなんという議論はないですよ。九月十一日に、一切の条約、それに連なる協定覚書特別円決済も含んで一切終止、——終止と書いてあるのです。字を見ましたか、終止というのは、終わってとどまったと書いてある。書いてあるでしょう。終わりとどまると書いてあるじゃないですか。それを、それまでのものは有効で、それからあとのものが無効だ、そういうことはないですよ。終止したのです。全部それで廃棄する通告だ。そうなっている。外務大臣はそこはどう思う。
  36. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 廃棄されたものがいつまでも生きているんだ、これはそういうことはないと申し上げるのが正しいと思いますね。ですが、十五億円の残高というものも全部煙のように何もなくなってしまったのだ、こうお考えになることも、これもいかがかと思うわけです。そこで、また御質問に対するお答えを繰り返すようになるわけでございますけれども、事後決定で残高は何がしかの形で決済せねばならぬ。そこでいろいろ相談があるわけです。ここに明確な法的基準があって、そして十五億円はずばりと幾らになる、こういう勘定が出るなら、これはもう議論が全然ないのであります。しかし、その間の事情をいろいろ精細に検討いたしまして、金を売るという約束をしておって、そしてまだそれを実行していないというようなものは、当時の状況に照らしまして計算もしてこれを払うということは、これはもう一般的に正しいことだと思います。
  37. 横路節雄

    横路委員 これはあとでまたお尋ねをしますが、それはどういう意味かというと、あなたの方では、日銀残高の十五億についても払う必要はない、敗戦国相互間の請求権消滅しているから払う必要はないが、しかし、将来のタイ国との友好関係を考えた場合に、日銀残高の十五億は考えてもいいじゃないかというのが外務省考え方なんですよ。あなたの方の考え方だった。だから、そういう意味で、この終止したものとみなすは、ここで一切の効力は失っているのです。これからあとのものだけが失ったので、それから先のものは残っているなんということにはならないのです。もしあなたたちがそういう理屈を言うならば、タイの側で言う、この特別円決済協定に関するこの中にあるいわゆる金約款については払いなさいという相手側の主張が生きてくるではありませんか。あなたたちががんとして相手側に対して、金約款については受け付けないんだ、こういう主張を最後まで押し通したのは、やはり二十年九月十一日前の特別円協定の中で、一グラム四円八十銭の換算で金をやるのだということをここに書いてある、しかし、それは無効なんだ、こういうことでしょう。そう言ってきている。あなたたちの外務省が今までとってきた態度からすれば、こっちの方は無効だけれども、あっちの方だけは認めてやるということは成り立たないのです。成り立たないじゃありませんか。それは、外務大臣、どうして成り立ちますか。それが千三百五十億なんぼになったり千二百六十億になってきたりしたのですよ。だから、金約款については認めないのだ、こういうように、あなたの方は、特別円協定は廃止通告によって全部破棄されたんだという態度をおとりになっている。昭和十七年五月二日といえば、二十年九月十一日前じゃありませんか。こっちの方が全部無効だ、そっちの方だけは残してやる、——これは、かわいそうだから残してやるということであればまた別ですよ。しかし、あなたの方では、当然のものとしてやるんだ、こういうことを言えば、タイの国で主張した、金約款について千三百五十億ですか、そういう数字が出てくるじゃありませんか。それを、あなたの方は、それは違う、それは無効なんだ、こう言ってきている以上は、この軍費調達に関する三十七億というのは不当ではないか。どうでしょう。これは外務大臣から伺います。
  38. 池田勇人

    池田国務大臣 事を分けて考えましょう。第一、原則といたしまして、特別円勘定を設けて軍費調達しました。そして、その勘定日本銀行に残っておるのです。そして、その十五億円のうちには、もともとは必要あれば金で払うということになっております。そして、その間におきまして七回やりまして、三回半と申しますか、四回半と申しますか、ある程度は金を売っております。その間にまだ売っていない約束の分があるわけです。この売ってない約束が有効か無効かという問題です。われわれは、昭和二十年九月十一日以後におきましては無効でございますが、有効であったときの約束は守らなければならぬ。おわかりでございますか。だから、九月十一日以後の向こうの発言に対しましては、われわれはなくなっていると言ってこれを拒否いたしました。しかし、その前に約束しておったのは守らなければならぬ。大体、債権債務が発生する場合に、契約をいたしまして、そして、その契約によって起こった事実は、契約破棄後におきましても当然残るのが普通の観念ではございませんか。それで、二十年九月十一日から破棄したから、それまでの債権債務で厳然として残る事実もなくしたのだということは、常識に合いません。国際慣行にも合いません。よろしゅうございますか。もしタイが二十年九日十一日までに金約款を全部主張して、われわれがそれが必要であると認めた場合におきましては、全部払わなければならなかったかもわからない。しかし、幸いに、——私は参議院の予算委員会で幸か不幸かと申しましたが、幸か不幸か、二十年九月十一日にあの契約を破棄したから、破棄後における彼らの主張は認めるわけにはいかぬ。しかし、破棄前に主張してわれわれが認めた分は認めなければならぬ、こう私ははっきりしておると思う。
  39. 岡田春夫

    岡田(春)委員 ちょっと関連して……。
  40. 森下國雄

    森下委員長 関連質問を許します。
  41. 岡田春夫

    岡田(春)委員 池田総理に関連して伺います。総理の今のお話は筋は通っている。ただ、そこで問題になるのは、あなたのおっしゃる通り、昭和二十年九月十一日までは動いている。動いているから勘定に操作があったわけです。これはあなたのおっしゃる通りなんですよ。今横路君の質問しているのは、動いている問題を言っているのじゃなくて、破棄通告があったから勘定は停止しただろう、停止したから、先ほど言ったように、金約款その他の協定も破棄の通告をしたのだからそれによってなくなったではないかということを言っている。それ以前の問題が動いているのはあなたのおっしゃる通りですよ。そこに横路君の質問に何も議論はないわけです。むしろ、あとの点が動いているところに問題があるのではないかということが問題なのです。それが一つ。
  42. 池田勇人

    池田国務大臣 一つずつやりましょう。
  43. 岡田春夫

    岡田(春)委員 いや、関連質問だから。委員長、そんなにたくさん時間をとっていいですか。
  44. 森下國雄

    森下委員長 関連質問でも、一つずつこれを許します。
  45. 池田勇人

    池田国務大臣 二十年九月十一日までの分は厳然たる事実であるのでございますから、今でも生きておるわけでございます。廃棄してから後の向こうの主張は根拠がない。廃棄する前に両方で合意せられたことは生きているわけです。その生きていることを私は言っておるわけでございます。
  46. 岡田春夫

    岡田(春)委員 そうすると、これは総理がお答えになったのですから、ほかの大臣、局長の言っていることは全部違うことを言っておっても、総理の方が正しいので、局長その他の言ったのは間違いだ、こういうことになるのだろうと思うのですが、先ほど、池田総理はお聞きになったでしょう。中川条約局長は、日銀にある特別円勘定というものは条約破棄によってなくなったのだ、こう言っております。勘定はなくなったのです。速記録で見ればはっきり言っていますよ。勘定はなくなったってあなたは言わない。それでは、勘定は生きている。勘定が生きているのならおかしいじゃないですか。政府間は破棄になっていないじゃないですか。勘定はなくなったと局長は言ったじゃないか。そこの点が第一違うじゃないか。これは総理に聞いているのです。
  47. 池田勇人

    池田国務大臣 私はその条約局長の言ったことを直接聞いておりませんが、間違いではございません。この勘定というのは、勘定がなくなるかあるかということは、二十年九月十一日以後入ったり出たりするそういう勘定はなくなった、しかし……
  48. 岡田春夫

    岡田(春)委員 そういうものじゃないでしょう。
  49. 池田勇人

    池田国務大臣 いや、そういうものです。条約を破棄いたしまして、この勘定が動くことはなくなっておる。貸借の借りに入ったり貸しに出たりする勘定はなくなりました。しかし、今までの厳然たる事実は清算勘定として残っておるということでございます。
  50. 横路節雄

    横路委員 今の池田総理の考えは違うのですよ。これは違うのです。これはどうして違うかというと、問題が二つある。   〔「違うときめつけるからいかぬのだよ」「委員長、注意しなさい」と呼び、その他発言する者あり〕
  51. 森下國雄

    森下委員長 静粛に願います。
  52. 横路節雄

    横路委員 総理大臣、あなたのお考えは間違いである。この間違いは私だけが言うのではないのです。外務省当局がそうなのです。その問題の一つは、いわゆる二十年九月十一日に同盟条約並びにそれにつながる一切の条約協定及び特別円決済に関する同国政府間の協定も全部終わったのだ、——いわゆる廃棄通告なのです。これは全部効力かないのだ、もう一つ、外務省の見解としては、敗戦国相互間の請求権消滅している、こういう二つの立場に立ってやっているじゃないですか。ただ、あなたたちの方で十五億を認めたのは、これは従来から将来にわたるタイとの友好関係にかんがみて、日銀残高の十五億だけは認めようではないか、こういうことになったのですよ。敗戦国相互間の請求権消滅をしているということもあわせて一つあるのです。
  53. 池田勇人

    池田国務大臣 前提に誤りがあります。敗戦国相互間の債権債務消滅すると外務省はこう言ってはいないと思います。消滅する例はあると言っておりましょうが、国際法上、当然消滅するということはないと私は思います。
  54. 横路節雄

    横路委員 それでは、私総理に申し上げますが、あなたの方で今インドの大使館で公使をしている服部比左治君が出しているものがある。この人は正式にあなたの方で当時の交渉の任に当たった人で、当時は外務省アジア局第四課長であります。これが交渉の経過を詳細に述べて、ここでこう言っているのです。私は決していいかげんなことを言っているのではない。まず、昭和二十九年の九月の二十七日から十月八日まで六回にわたってタイ国側日本政府交渉し、特に外務省側は専門家会議を開いている。その専門家会議を開いてタイ側のクレームに対する日本政府の立場を主張している。その主張している中で、第一点は何を言っているかというと、今ここで議論をしましたいわゆる昭和二十年九月十一日までの一切の条約協定、取りきめ、特別円決済に関するものの、それのいわゆる廃棄通告である。だから、特別円に関する一切の諸取りきめは失効しているということが第一点です。第二の点は、そこで敗戦国相互間の請求権消滅をしているということを例にとって、あなたの方では、外務省側の見解として、わざわざそこで、第一次大戦の結果における敗戦国相互間の請求権の問題、第二次大戦後のイタリア・ブルガリア、ハンガリー及びルーマニアに対する平和条約においては敗戦国のドイツに対しては一方的に請求権を放棄している、日本はサンフランシスコの平和条約で相互放棄を条件としてドイツに対する請求権を放棄した、これらの先例から判断すれば、敗戦国相互間においては請求権を行使しないのが慣例である、一般の慣例だ、こう言っているじゃないですか。私は何も私自身の勝手な解釈で言っているのではない。しかも、服部比左治という人はどこへ行っているかといってこの間外務省で調べたら、インド公使になっている。だから、私はこの点を指摘をしているのです。あなたの解釈で、二十年の九月十一日に廃棄通告、終止通告をしてきた、その前のものが生きている、そんなことはないんです。軍事同盟も全部終わったんです。一切終わったんです。請求権も放棄しているのです。こういう立場に立って私はお尋ねをしているのです。中川条約局長、あなたはそのとき局長でしょう。あなたが専門家会議の主査をやっているのです。あなたが専門家会議の主査をやっているのだが、あなたの答弁は、先ほどからの池田総理の答弁とはだいぶ違うのです。中川条約局長、どうなんです、その点は。
  55. 中川融

    中川政府委員 三十年協定ができます前に、いろいろ事務的な折衝をしたのでございまして、その際に、服部課長がアジア局におりまして、事務的に折衝をやりましてそういう主張をしたということは、ほんとうだと思います。いわば私の下におりまして折衝をしたのでございまして、その服部課長の言っておりますところも、それによりましても、いろいろ国際条約の例もあげて、そういうのが慣例であると言えると思うということで言っておるのでございまして、これは国際法上の原則であるということに断定して言っているのではないのでございます。従って、日・タイ交渉にあたりましては、できるだけ日本に有利な解決をするために、あらゆる考えられる主張をするのは当然でございまして、服部課長がそういう主張をしておると思います。しかし、これはもちろんタイ側はその通りは承服しないのでございます。従って、こういう三十年協定が結局できたのでありまして、もしそれが国際法上の原則としてきまったものであるならば、別に折衝の必要は一つもないのでありまして、もう国際司法裁判所に持っていけばいいのでありますが、やはりそうはいかない。やはり原則とまではいかないのでありまして、慣例があるということを申しておるのであります。
  56. 横路節雄

    横路委員 それから、先ほどの池田総理のお答えは、外務省の見解とは全く違う。どこが違うかというと、右タイ側による一方的廃棄通告により特別円に関する一切の諸取りきめは効力を失なった、現在これを援用することはできないとなっている。はっきりしているのです。それを、二十年の九月十一日前のものは有効で、二十年九月十一日以降のものが無効になったということはない。この解釈は外務省の正式解釈じゃないですか。これは明らかに二十年九月十一日前の取りきめは全部効力を失っているのですよ。それを、その前のものが有効で、そのあとのものが無効だということはないのです。それじゃ総理の御答弁を一つ聞きます。
  57. 池田勇人

    池田国務大臣 二十年九月十一日以前に両方で合意したこと、金でこれを返しましょう、これは厳然たる事実でございます。従って、その事実におきましてこの三条に規定しておるわけであります。
  58. 横路節雄

    横路委員 私は委員長要求したいと思うのです。これは決して私はいいかげんな資料に基づいて言っているのじゃないのです。特に、この服部という当時のアジア局の第四課長は、今中川条約局長の御答弁にもございましたように、当時の専門家で、中川条約局長を助けてやった当面の責任者でもあるわけです。ぜひこれはここに証人として出てもらいたい。証人として出てもらって、ぜひ一つここで当時の経過を明らかにしていただかなければならぬ。これは公になっている文書ですから、その点要求します。
  59. 森下國雄

    森下委員長 これは証人の要求でございますから、理事会に諮ります。理事会に諮ってよく協議をいたします。
  60. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 実は、今の問題に関連してでございますが、昭和二十年九月十一日に、タイ側から、同盟条約の廃棄並びにこれに関連する一切の協定特別円協定も含めて廃棄の通告をして参ったわけでありますが、それよりさきに、終戦の五日前でございましたが、八月十日、日本タイ側に対しまして、連合国との終戦交渉を開始した経緯を説明いたしまして、八月十五日、日本政府終戦の詔書渙発の次第を正式にタイ側通告いたしました。タイにおいても戦争終結のための最善の措置を講じて差しつかえないということをこちらから言ったのであります。そうして、タイ側においては九月十一日に廃棄の通告をしてきた、こういうことでありまして、タイ側の方から、何でもこれは廃棄する、こう言ってきたような印象がありますといけませんので、その間の事情を申し上げておきます。  さらに、服部君のことでございますが、これは、当時中川条約局長アジア局長でございまして、服部君はその下僚として交渉に従事したのであります。従いまして、この責任者において十分当時の事情は詳細に申し上げることができる次第でございますから、念のために申し上げておきたいと思います。
  61. 横路節雄

    横路委員 今の外務大臣の御答弁で、条約局長が当時のアジア局長として交渉の衝に当たったのだからというのであれば、事実を明白にしてもらわなければならぬ。それを、あなたは、私どもの質問に答えてある程度事実を明白にしだすと、総理大臣外務大臣が別な答弁をすると、くるっとひっくり返る。それではだめじゃないですか。  委員長、先ほど要求しました服部君を証人として呼ぶことについては、どうなんですか。
  62. 森下國雄

    森下委員長 理事会を開いて協議いたします。
  63. 横路節雄

    横路委員 それでは、この問題はあと理事会で協議をしていただくそううですから、次の問題に移りたいと思うのです。  今の総理大臣の御答弁は全く間違いである。終止通告をしてきたのに、その前のものは有効で、そのあとのものだけが無効であると言う。それでは、このタイ特別円の問題で一番問題になったのは、金の約款の問題だ。これは明らかに金約款については二十年の九月十一日前の協定だが、これは絶対に認めるわけにはいかぬ、これはやはり、この終止通告向こうから来たから、従って、これは政府側としても認めるわけにはいかぬ、こういうことなので、その点は、あなたたちのいわゆる金約款については認めない、こういう方針を厳としてきめているその立場からすれば、当然、今の第三条の第二項についても、軍費調達軍費決済に関する協定の中で、特にこれは軍事同盟の第二条、第三条につながってくる軍費決済協定でございますから、これは第三条の第二項も当然そういう意味ではこれは金約款については認めることができないのと同じ立場でなければならぬ。金約款については効力を失っている、こういうように認めた以上は、それと同じ立場が貫き通されなければならなかったはずである。こう私どもは思うわけです。  その次に、三十年協定の第三条第三項についてお尋ねをいたしたいと思うのですが、このタイ政府及びタイ銀行日本国政府に対する引き渡し確認書というのは、何も日本政府と行なったのではないわけですね。これはどことやったのですか。
  64. 中川融

    中川政府委員 このときは占領下でございます。従いまして、日本政府当局とタイ政府当局との間の確認書もございます。なお、タイとGHQ、当時の総司令部との間の確認書もございます。従って、いわば三角形的な相互確認と申しますか、そういう格好になっておるのでございます。
  65. 横路節雄

    横路委員 それでは、条約局長お尋ねしますが、これは相当大きな金塊になっておるわけです。ここにございますのは約三十九トン近くになっておるわけですから、この引き渡し確認書というのは、どことどういうようになっておるのか、三角関係だというが、一つきちっとしてもらいたいと思います。
  66. 中川融

    中川政府委員 つまり、三角形と申しましたのは、二つの確認書があるわけでありまして、内容は同じでございますが、その第一の分については、日本政府の代表とそれからタイ政府の代表とがサインしております。第二の確認書は、タイ政府の代表とアメリカの総司令部の代表がサインしておるのでございます。内容は全く同じものを要するに二つ作ったわけであります。
  67. 横路節雄

    横路委員 それでは、お尋ねしますが、この三十年協定タイ特別円協定の中で、第三条第二項のこの金全部で三十八・八九幾ら、約三十九トン近くになるが、これはどういうものなんですか。これは金であることには間違いないが、どういう決済に充てるためのものであるか。
  68. 中川融

    中川政府委員 これは性格的に言えば三つの部分に分かれております。第一は、日本軍費とは全然関係がない、いわば商業勘定決済の分、これは十六年から十七年の半ばまでのものであったと思います。あと賠償部長から詳細なことを申し上げますが、第二は、要するに、軍費信用取りきめというものに基づく基金でございます。これは、最初の間は軍費につきましては全額金で支払っておったという時代があるわけでございます。これの勘定の金でございます。第三の部分は、今三十年協定の第三条第二項に出てきておりますああいう性格のもの、つまり、軍費と実質的に関係がありますが、要するに商業勘定として売買契約に引きかえしたわけでございますが、それの分、この三つになっております。なお、数字の詳細は賠償部長から……。
  69. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 お答えします。  三十八トンの金でございますが、その前に申し上げますことは、昭和十六年の八月以降から戦争終了後まで、日本タイに売却した金でございます。その金は、すでにこの所有権はタイに行っておりまして、ただ当時の状況で必ずしも船の便宜その他輸送の便宜のために送れないために、日銀の倉庫の中に残っていたというものがあるのでございますが、その売却した金が約四十四トン、詳しく申し上げますと四四・八三トンの金があったのでございます。まずそれから申して、発生の原因あとで申し上げます。そのうちの、戦争前または戦争タイに現送した金が五・九八トンあったのでございます。その五・九八トンのうちで四・三一トンの金は、昭和十六年の九月十五日に現送しておるのでございます。残りの一トンちょっとの金は、戦争中わずかながら飛行機または船で送ったのでございます。そこで、四四・八三トンの金から戦争タイにほんとうに売って、しかも向こうに送ってやった金が五・九八トンございますから、残っていた金の三八・八五トンが日銀にあったのであります。この金はもうすでにタイに所有権が移っておる。ただ、当時送れなかったために、日銀の倉庫にあったということでございます。  しからば、その金はどういうふうな原因でできたかと申しますと、第一は、軍費及び特別円勘定と全然関係のない金売却があるのでございまして、これは昭和十六年の後半より昭和十七年の四月一日までの間に発生した軍費関係ないものでございます。そこで、それが約一八・一三トンだけタイに売られたわけであります。そのうち四・一三トンがもうすでにタイに現送されたというわけでございます。そこで、残りの一三・幾らの金が日銀に残っていたわけであります。その次に、特別円協定ができましたのが、戦争の始まる翌年の七月一日から有効になったわけでございますが、それまでに軍費信用協定というものがございまして、それに基づきまして日本タイに売った金があるのでございます。それは四・八九トンの金であるのであります。それから、特別円協定になりましてから売った金、並びに、特別円協定が発効しましてからタイに売って所有権の移った金が二一トンちょっとあるわけであります。そういうわけで、それを合わせますと、三八・八五トンという金ができた。この金はもうすでに所有権がタイに移っちゃった。ただ、それは、その当時の情勢で、そのうちの五・九ちょっとはタイに現送しちゃったわけでございます。その残りの金は、交通の事情その他において日銀にあった、こういうことなんであります。   〔発言する者あり〕
  70. 横路節雄

    横路委員 横でふざけてだめですよ。いかぬですよ、こういうのは。まじめな条約について、だめですよ。委員長、注意して下さい。私もきょうは遠慮して聞いているのに、何ですか。委員長、何だ、こういうやり方は。こういうのはよくないですよ。
  71. 森下國雄

    森下委員長 静粛に願います。両方とも静粛に。
  72. 横路節雄

    横路委員 賠償部長ですか、今の数字で、商業ベースによるものが一八・一三トンですか。それから、特別円勘定によるものが、これは全部で幾らになるのですか。もう一ペン数字をはっきり、たとえば商業ベースによるものは幾らなんだ、それから特別円協定によっては幾らなんだ、軍費決済協定によっては幾らなんだというふうに、もしそうなっておれば、途中の経過はいいですから、その最後の数字のところだけをきちっと話をしてもらいたい。
  73. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 軍費特別円勘定関係のない金の売却が一八・一三、あと端数はございますが、一八・一三トンございます。それから、特別円協定ができます前に軍費信用設定協定というものがございまして、それで売りましたのが四・八九トンの金がございます。それから、その次に、特別円勘定設定後金を売却しましたものが二一・八〇トンございます。それを全部合計しますと、約四四・八三トンになるのでございます。そのうち、戦争前または戦争タイに現送した金、これが、五・九八トンございます。そこで、残りの部分が三八・八五トンある。これは売却して所有権がタイに行っちゃって、ただ現送できなかった金、こういうのが残っております。
  74. 横路節雄

    横路委員 今の答弁で、金の三八・八五トンについての内容は明らかになったわけですが、ここで問題は、〇・五七トンについては、当然これは日本銀行においては初めタイに渡すべき金である、こういうように予定をしていたものが、一体なぜ、いかに占領下であるとはいえ、——これはイギリス政府から略奪したものなんだ。たしかそうですね。これによりますと、ここには、「連合国最高司令官が日本国の軍隊によって略奪されたと決定し、したがって連合国最高司令官の管理から解除されず、」云々と、こうありますが、この点は、〇・五七トンについてはどういうように連合軍としてはそれを考えたわけですか。
  75. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 まず第一に申しますと、戦時中日本軍が占領地から内地に、略奪してかどうか知りませんが、とにかく持ってきました金並びにその他のものがたくさんあるわけでございます。それで、占領軍としましては、その金銀とかいうような以外の略奪品に関しましては、はっきりとそれがそうであるということはわかるものでございますから、それをわからして返さしたのでございますが、金銀に関しましては、まず第一に、日本側にスキャッピンを出しまして、これは一番最初は昭和二十一年のスキャッピンでございますが、出しまして、そういうものがあるならばオーバーロールな報告をせよということを占領軍からわが方へ申し込んできたわけであります。ところが、わが方を見ますと、当時、たとえば日本の軍隊が持ってきた金というものは、大阪の造幣局とかなんとかに行くのでございますが、その間の帳簿の記載があまり正確じゃなかった。たとえば何トン、何本というぐらいなことは書いてありますが、これがどういう形で持ってこられたかわからなかった上に、戦争帳簿の焼けた部分もあったのでございます。そこで、わが方は何回となく司令部に言われまして報告書を出しておるのでございます。この金は多分持ってきたんだろう、こういう事実がある、——ところが、また、もう一つ、アイデンティティが欠けましたということは、この金を持ってきまして、造幣局ではその金とほかの金とをまぜて、これを溶解して新しいものを作る。そうしてみますと、アイデンティティということは、それを探るということは非常にむずかしい仕事であったわけであります。ただ、しかし、これらのものをマレーなりオランダなりに持ってきたという報告書は司令部の方に行っておるのでございます。そこで、司令部のこのスキャッピンをごらんになりますと、このタイの場合の〇・五七トンの金が、はたして、その部分がずばり英軍に渡すべき現物であるかどうかは別にして、つまり、占領下の英国からの略奪品であるかどうかわかりませんから、スキャッピンの方でも、その書いてあるものにアカウンティング・レスポンシビリティという字が使ってありますが、日本が持ってきた責任があると思われる、それに相当する金の部分の〇・五七トン、これを英国に返せ、こういうことになっておるのでございます。当時の情勢としましては、司令部としては何度となく日本側に調べさしたのでございますが、金に関しては溶解してしまっておる。しかも、書類も焼けてしまっておる。持ってきた事実だけが復員局か何かからいろいろ提出してわかった。こういう事実があって、そこでやむを得ず返したわけであります。
  76. 横路節雄

    横路委員 今の問題で、金塊のことについては、特別円協定で二一・八トンだけすでに売却をきめてあった、だからそれをやったんだ、こういうことになっているわけですね。この点は当然日銀残高からは抜かれてあるわけでしょうね。条約局長、その点どうなんですか。
  77. 中川融

    中川政府委員 これはもちろん戦争中にすでにその金がタイに売却されてタイのものになっておるわけでございます。従って、終戦の際にありました十五億円からはもちろんそれは抜かれております。決済済みで十五億円という帳じりが出てきておるわけであります。
  78. 横路節雄

    横路委員 そこで、私はあなたにお尋ねしたいのだが、タイ国バーツ貨による日本銀行からの政府借入金は臨時軍事費特別会計が終わったときにおいては十二億五千万円となっておる。この今私が出した数字は、日本銀行調査局特別調査室が出している満州事変以後の財政金融史の第三編第四章その他からとったのですが、タイ国バーツ貨による日本銀行からの政府借入金は臨時軍事費特別会計終結時におきまして十二億五千万円となっている。そうして、これの金額は、バーツ貨については、昭和十九年の四月から六月までが一億五千万、七月から九月までが一億二千八百万、十月から十二月までが一徳二千九百万、昭和二十年一月から三月までが三億三千八百万、四月から六月までが一億七千一百万、七月から八月までが三億二千五百万で、合計十二億五千万となっておる。これがどうして十五億になったのか、その点を一つ明らかにしてもらいたい。
  79. 中川融

    中川政府委員 今の十二億幾らという数字、日本銀行でお調べになられたのか私存じませんが、タイ特別円協定解決するために三十年協定の前に事務的折衝を相当長く——先ほど服部課長の発言をいろいろお引きになりましたが、事務的折衝を相当長くやりました。その際幾ら残高が残っておるかということの帳じりの突き合わせが一番の基礎であったわけでございます。日本銀行の係官が出まして、先方の事務当局と東京で折衝いたしまして、この帳じりの差はそう大してはなかったのでございます。しかし、やはり日本の帳じりの方が少なく、タイ側日本に売ったと申しますか、日本に持っておる債権だと称するものの方が実は数千万円多かったと思います。しかし、タイ側は、終戦の際のごたごたでバンコックから日本への報告がおくれたとかなんとか、そういうことであろう、しかし、いずれにせよ日本側の数字を採用するということになりまして、少し少ない日本側の十四億幾ら、約十五億に相当するあの残高を先方も承認いたしまして、これははっきり向こうが確認したのでございます。従って、今の十二億幾らの数字は私直接存じませんが、内訳でいろいろなことがあったかと存じますが、日本銀行にはっきり残っております数字をそのままタイが採用した、こういうことであります。
  80. 横路節雄

    横路委員 三十年協定の、日銀残高十五億、それが五十四億に発展をして、そうしてさらに今度総理が行かれて九十六億を払うことにした、百五十億になるその一番の基礎なんだから、そこで、今まで本委員会でもこの十五億円についてはあまり論議されてないようですから、大へん恐縮ですが、どなたか一つ政府側で、私の方でも今のはこういう出所でとったわけですから、あなたの方も、十五億はこうなっているのだという点が明確であればここでお答えをしていただきたい。
  81. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 これは、私の方は日銀帳簿で調べたのでございますが、それによりますと、いろいろの費目からなっておるのでございます。そこで、これは借記の方と貸記の方とで申し上げます。それを今読み上げます。  端数を全部読み上げますと、まず、軍費調達の方が十四億四千八百二十八万九千五百円でございます。向こうではバーツになっておりますが、こちらは円。それから、それの反対に、日本の方で借記している額が、いわゆる金で二一・八トン売った分はこちらの方で借記しております。それが一億一千四百十一円五十一銭、こうなっております。そこで、それだけが借記で引かれているわけです。それから、為替集中を、これは協定第二条で、その協定効力は別として、為替集中をとにかくタイといたしまして、そこでやりました額が、日本の貸しの方に属する分が一億八千五百八十二万三千三百二十六円十五銭という額になっております。それに対しまして、借記している額が、七千六百五十六万六千九百六十三円三十九銭という額になっているわけでございます。それから、バーツ貨の売買というもの、これは正金銀行が当時必要な際はタイから借りたりなんかしたような分で、返すときは返していった分でございますが、日本が貸記の分、日本が借りている分が八千四百十万円でございます。それから、日本がこのうちで返した分が借記の方についておりますが、三千四百二十万でございます。その次に、タイ国の公金、これは日本のたとえば大使館でタイが金を使ったとかなんとかしたようなものでございますが、そういう向こう日本で使った分が二千六百八万九千八百三円五銭という額でございます。それに対しまして、向こうの収入になっております分が、二十二万九千六百六十六円六十七銭ということになっておるのでございます。それから、利息がついておるのでございますが、利息は向こうへつくばかりで、借記はなくて、貸記だけでございますが、それが四百八十八万七百三円三十六銭となっておるのでございます。それから、食糧証券というのがございまして、これが、貸記の方には七億でございまして、借記しておる方は六億九千七百三十六万一千円でございます。それから、正金銀行から移管してきた分がございまして、これはタイ特別円協定が始まる前にちょっとやったのでございますが、それが日本の借りになって、つまり簿記でいう貸記の方になっておりますのが、二千六百九十四万七千六百四十七円三十二銭となっておるわけでございます。そこで、日本側タイに借りている分が二十四億五千二十七万八百四十三円五十銭になりまして、それから、日本が払った分が九億四千八百二十一万七千七百七十七円九十五銭でございまして、そこで、最後に残りましたのが十五億二百五万三千六十五円五十五銭、こういう勘定になっております。
  82. 横路節雄

    横路委員 今詳細に数字をお述べいただいたのですが、やはり、この問題はタイ特別円協定の中心をなすものですから、今私たちもだいぶ急いで数字を書いてみましたけれども、やはり全部が全部記録もできませんから、大へん恐縮ですが、午後再開までにぜひ一つ印刷をして配付していただきたいと思います。それから、なお、先ほどの金塊につきましてこまかな数字の発表もございましたが、それもあわせて出していただきたいと思います。  それから、次に賠償部長にお尋ねしますが、今お聞きしていますと、利息が四百八十八万七百三円ですか、そういう数字について御発表がございましたが、この利息は、年利率どういう計算でおやりになったのですか。
  83. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 これは、当時、昭和二十三年七月五日までは、日本銀行商業手形割引歩合が年利五厘で、それ以降は七厘五毛でございますから、それを勘考しまして計算したのでございまして、その利息は昭和二十年の六月三十日までを足した分でございます。
  84. 横路節雄

    横路委員 もう一ぺん言ってくれませんか。今のは、昭和二十六年……。
  85. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 二十年でございます。
  86. 横路節雄

    横路委員 あなたは下を向いてお話しなさるものですから……。  次にお尋ねしたいのは、この間総理は、三十年協定の九十六億円、この問題について何と答弁されているかというと、言葉を間違えるとあとであれですから、総理の御答弁されたところを読みますと、総理は、供給する義務がある、こう言っているのです。これは、三十年協定の第二条に、「日本国は、両国間の経済協力のための措置として、合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディットの形式で、日本国の資本財及び日本人の役務をタイに供給することに同意する。」、これを総理は、供給する義務を負ったんだ、それが今度はしまいには無償で支払いする義務になった、こういうことになるだろうと思います。これは、供給する義務と、一体ここで言い切ることができるかどうか。ここに明らかに、合意される条件及び態様に従って、九十六億円を限度として、投資及びクレジットの形式でやる、こうなっている。それが何も条件が示されていない。これだけで、総理が、九十六億円については供給する義務があると言うのは、私は言い過ぎだと思うんですが、いかがですか。
  87. 池田勇人

    池田国務大臣 供給することに同意する、——いろんな条件はありますよ。供給することに同意した場合におきましては、同意によって供給する義務が発生するのであります。
  88. 横路節雄

    横路委員 私は三十年協定のことについて聞いているのです。三十年協定で合意された場合に初めて供給する。合意及び態様、それぞれの条件が示されて、そして合意に到達したとき初めて供給する義務が生ずるので、この第二条では、これだけによって、九十六億円については供給する義務がある、私はこういうふうにはまだ言い切ることはできないと思うのです。条件が示されて、そして合意に達したときに初めて供給する義務が生ずるんで、あなたはそうではない。三十年協定について、いきなり供給する義務があると、あなたはここで言い切っているわけです。私は、明らかに間違いであると思う。
  89. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、日本語であの二条を読みますと、——二条ばかりじゃございません。まだ条件がございますが、二条のことは、第四条で、東京で合同委員会できめる、こういうことになっております。しかし、そういう条件を満たせば義務になるわけです。もちろん、義務は——今あなたは、九十六億円を払う債務を負担した、こう言うのですが、まだ負担していない。やはり国会の議決を得て負担するのでございます。だから、普通の条約文で、条件がこうあって、そして供給することに同意するといえば、同意が成立したら義務が発生するのは当然でございます。
  90. 横路節雄

    横路委員 いや、総理は、あれからだいぶ時間がたっているから、冷静になってあなたは答弁されておる。あなたはそうでないのですよ。二月六日の衆議院本会議における、こちらにおられます森島委員タイ特別円に関する協定質疑のときのあなたの御答弁、特に、一月の三十日でございましたか、私たちの党の辻原委員に対する総理の御答弁はそうではないのです。これは明らかに債務である、こういうようにあなたは御答弁されたから、私は三月二日の日に重ねて聞いたら、その債務であるということについてはまずいとお思いになったのでしょう、今度は一歩後退して、供給の義務、こうなっておる。きょうは合意されればという条件を頭につけてきた。この点はあなたもだんだん一歩ずつ条約の運営について正しく解釈されるようになったから、この問題については、それでおくとして、(「何を言っているか」と呼び、その他発言する者あり)——私は記録をたんねんに読んでやっている。  次に、私は総理にお尋ねしたいのですが、総理は森島委員質問に答えていろいろ言っていらっしゃいます。これは四つほど示されていると私は思うわけです。その四つ示されているのはどういうことかというと、一つは、いわゆる九十六億円については、石油精製工場を建てて、そしてそれから上がってくる利潤によって返済してもらおうかということについて考えてみた。それから、九十六億円を貸して、それについてどういう返済をしてもらおうかと考えてみた。その次は、減額して一時払いにして払った方がいいのではないかと思って計算してみた。第四点は、十億円ずつ八年間払っていった方がいいのではないかと思って計算してみた。私はメモでやってみた。この間テレビでわざわざそのときの状態を再現されたようでございますが、私は総理にお尋ねしたいのは、減額して一時払いにしたらいい、こう思ったと言う。向こうとの交渉でおそらく出たんだろうと思う。一時払いの減額はこれでやってくれないか、この点は、一体タイ側から一時払いというのはどういうように言われてきたのか。この程度であるならば一ぺんに払ってくれ、——何か総理はしきりにそのことを、八年間で十億ずつ払うのと一ぺんに減額払いするのでは一体どちらが得だろうか、こう計算した結果、十億ずつ払っていくことの方がいいんだ、こういう計算に達したと言って、総理がみずからはじいたらしいのです。一体、向こうとの、一時の減額払いであればどうだという、この交渉を一つ明らかにしていただきたい。
  91. 池田勇人

    池田国務大臣 四つのうち、一の石油精製工場を作るというのは、これは三十一、二年ころじゃなかったかと思います。それから、貸してクレジットして、そしてその利子でやったらということは、これは私が総理になる前のできごとでございます。それから、こちらの方で、池田内閣ができまして、九十六億円を減額してそして一瞬払いということは、池田内閣になってからいろいろ交渉したわけです。(横路委員交渉したのですか」と呼ぶ)いや、考えて、そして一時そういうことも大使に言ったと思います。しかし、これはなかなか向こうは聞かない。それから、年賦がいいんじゃないかということも話してみました。その計算を、六分五厘と、七分と、八分ぐらいでいろいろやってみたわけです。現在価値を出してみました。この点は、外務省大蔵省とも相談いたしまして、減額して一時払いということを大江大使にやらしたわけです。昨年の一月ごろでございました。しかし、なかなか向こうはそれを聞きません。そして、とにかく九十六億円というものを一ぺんに払ってくれ、こういうわけです。バンコックでの交渉は、やはり九十六億円を一ぺんに直ちに払え。それから、だんだん、二年ぐらい、こういうことになって、まあやりとりでございますが、向こうでの交渉は、減額して一度ということは、減額は絶対に聞かない。そこで、年賦を私は考えたわけでございます。この年賦も、外務大臣その他と相談いたしまして、これを何年にするかということが問題だったのでございます。今賠償を支払い中ですから、おもなる賠償が済めば自分は楽になる、こういう考えのもとに、いわゆる初めは十億円ずつ、そして八年目に二十六億、これは財政負担から言っても非常に楽でございます。向こうが最後に五年までおりて参りました。私は最後に十年までいった。しかし、どうしても前の日の交渉では合わない。そして、翌日どうしても五年ということを盛んに向こう外務大臣を通じてこちらの随員に話しておりましたが、私は、一歩も譲らぬ、それならこのままで帰るという決意を見せたものですから、翌日には、とにかくまとめましょう、こういうことで、そして、私がメモに、一九六二年十億と書きまして、そして八年目に二十六億と書いた。それで、向こうは、そうですが、あとが高くなるのですか、多くなるのですかと言うから、いや、これは今日本の財政上こういうふうに考えざるを得ないのですと言ったら、日本総理大臣はそういうことまで計算するのですかと言うから、(笑声)もちろん計算しなければ、こういうふうに申し上げました。実を申しますと、十億ずつ七年で払って、八年目に二十六億というのは、いかにも気がひけましたから、八年目を十八億にして、七年目を十八億と、ここまでは譲ってみると言ったところが、いや、そんならもうあなたの原案通りということで、十億ずつで、最後の二十六億になったわけでございます。  だから、四つございましても、私が池田内閣になって考えましたのは、減額で一時払い、あるいは年賦でなるべく長く、こうやってみますと、やはり、賠償をずっと払っているときには困難期に五十四億を大体十億円ずつ払いましたから、その程度なら、財政負担も大したことはないし、しかも、私がこういう計算をしましたのは、ここでやらないと、とにかく、今、トウモロコシを買うにいたしましても、一億一千六百万ドルで、六千万ドルか七千万ドル、とにかく五千万ドルぐらいのこっちが出超でございます。それで、五年ぐらい前までは、向こうの方から米を買っておったからよかった。ところが、四年ぐらい前から、もう日本が倍あるいは三倍ぐらい、こういうことで、もし経済措置なんかとられたら、五千万ドル、六千万ドルの輸出超過がなくなるということになったら、百八十億、二百億の輸出が少なくなるわけです。そうすると、いろいろな点から考えても、まあ十億くらいなら、しかも今後のことを思うとというので、自分はいろいろ計算いたしまして、そうして自分でとにかく、——そのときに外務大臣が十年くらいまではどうでしょうかといって前に言っておったのです。実を言うと私は十五年ぐらいで乗り出したのですが、外務大臣は十年ぐらいという気持を持っておったらしい。こうやってきたものですから、それではこれは外務大臣まで譲ろうというのが経過です。そこで、最後まで十年でがんばった。向こうは五年でございます。結局、お互いの信頼とあれによりまして、私は、十億、これならば、もう五、六年後からは賠償がぐっと減って参りますから、大体ここでケリをつけた方がよかろう、全体でも、一年の出超分の半分、半分以下でございます。
  92. 横路節雄

    横路委員 池田総理がタイとの貿易関係を引用されることはおかしいじゃありませんか。ガリオア・エロアについてはどうなんです。去年一年間の日本全体の貿易において、昭和三十六年一月から十二月までの日本の貿易上の輸入超過が約十六億ドル、そのうちでアメリカとの関係は十億ドルじゃないですか。あなたは、タイとの関係で、こちらの方が輸出超過なんだから、だから払ったって損はないじゃないかと言うのなら、アメリカに対して十億ドルも一年間に輸入超過をしておるのに、もう少しアメリカにしゃんと言ったらいいでしょう。タイだけにはそう言っておるけれども、ガリオアエロアの返済について向こうに言わないのはおかしいと思うのです。もし御答弁なさるなら御答弁して下さい。
  93. 池田勇人

    池田国務大臣 外交問題というものは、やはり相手のことをずっと考えて、日本の立場も考えなければならぬ。どこにも同じ方法でいけるものではございません。
  94. 横路節雄

    横路委員 それでは、総理にお尋ねいたしたいのでありますが、九十六億を支払うというのは、何を根拠にして支払うのです。五十四億円についてはだいぶここで議論をしました。それは日銀残高が十五億あった、そのうち四千四百万については金で売却することにした、だからその点については、三十七億だ、十五億については、残りの十四億五千六百万をそれに加えて、そしてそれに〇・五七トンの金塊についてそれを換算して五十四億払うのだ、その点は議論をしましたが、九十六億をなぜ払うのです。その支払う根拠は何ですか。
  95. 池田勇人

    池田国務大臣 三十六年の協定で九十六億が一応はきまっておるのであります。しかし、そのきまっている九十六億円の払い方をどうするかというのが問題なんです。だから、これは九十六億円というものを一つ既成事実としてわれわれはこれを取り扱ったのであります。それを取り扱うことがいいかどうかという問題になりますと、これはずっと前からの向こうの主張も言わなければいけませんが、千三百億円とか、あるいは千二百六十億円とか、あるいは五百四十億円とか、二百四十億円とか、結局百五十億円ということにきまったわけであります。全部御破算にしてしまうということならば格別でございますけれども、一応九十六億円というものがきまりまして、今問題になっておるのは払い方の問題であります。投資またはクレジットの方式で資本財及び労務を供給する、こういう供給するという供給の仕方が問題になる。そこで私は九十六億というのを前提にしてやったのであります。
  96. 横路節雄

    横路委員 それでは、総理大臣、五十四億についてはずいぶんここで私たちもお尋ねをして、金塊についても詳細にお話を承り、さらに、軍費決済協定に関して、三つの書簡に基づいて四千四百万が三十七億の計算になったことも十分わかったのであります。しかし、九十六億というのは何をもとにしてはじいたのですか。何か根拠があるのですか。
  97. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、三十年の協定のときに、今申し上げましたように、向こうは今の日本の円貨というものを戦争中の一円と同じようにするのはいかぬじゃないか、バーツに換算しろ、あるいはドルに換算しろということで、千三百億円、千二百億円ということを言ってきたのです。しかし、これは日本は認めませんよ。認めませんが、いろいろ折衝のところで、全体で百五十億にしよう、そのうち向こうはさしむき現金でこれだけ、——そして、向こうはあやまったと言うのですが、投資あるいはクレジットの形式でこうなった。そして、百五十億を前提とし、九十六億と五十四億できまった。九十六億というのは三十年の協定できまっておるから、それを前提にしてやった。ただ、われわれの問題は、九十六億の支払い方法、決済方法について議論があったから、その決済方法を今度の協定で改めようとしているのであります。
  98. 横路節雄

    横路委員 いや、総理大臣、五十四億については、一応私たちはここで承ったのです。詳細な、日銀残高が十五億円、(「三十年協定と言っているじゃないか」と呼ぶ者あり)——何を言っているのだ。三十年協定にかわる協定じゃないか。何を言っているんだ、うるさい。ここで質問しているじゃないか。何だ一体、質問しているのに。   〔発言する者多し〕
  99. 森下國雄

    森下委員長 御静粛に願います。
  100. 横路節雄

    横路委員 三十年協定にかわる協定なんですね。三十年協定と別個な協定なら別ですが、三十年協定のうち部分的に変えた協定だ。だから私は聞いているのです。そうでなければ聞かないですよ。そこで、私は、総理に、五十四億円についてはわかりました、われわれは納得しないけれども、説明を求めて、五十四億を算定した基礎はわかった。しかし、九十六億円を出したのはどういう理由なんですか。これはわからないですよ。
  101. 池田勇人

    池田国務大臣 九十六億円というのは、一応三十年の協定で五十四億円と九十六億円にきまっておりました。問題は九十六億円の払い方で、だから、払い方につきまして私は折衝を重ねたのであります。三十年の分を全部御破算にすることはいたしません。九十六億円というのは、三十年におきましてはこういうふうな気持できまったと心得えております。問題は支払いの方法。いわゆる供給に同意した、その条件つき義務が、条件がととのわなかった。そこで、九十六億円を前提として、問題の支払い方法を協議したのであります。
  102. 横路節雄

    横路委員 いや、私が総理にお尋ねしているのは、九十六億円を算定した基礎は何ですかと聞いている。もしも総理がお答えできなければ、外務大臣、総理でなくてもいいですよ、総理もそこまで、おれは九十六億円をどうやってこまかな算定をしたかわからぬと言うならいいです。外務大臣お尋ねします。外務大臣、三十年協定の五十四億については数字はわかりました。これは日銀残高が残っている。そのうちの四千四百万があれだ。しかし、九十六億円を算定した基礎は何ですか。外務大臣お尋ねしている。
  103. 池田勇人

    池田国務大臣 私がかわってお答えいたします。九十六億円の算定の基礎は、今五十四億円を問題にしておりますが、九十六億、三十年協定で一応きまった数字と心得えておるのでございます。三十年のときにどうやってきめたかということを申しますと、今言ったようにいろいろ折衝して、千三百とか、千二百とか、五百四十とか、二百四十とか育っておったのですが、まあ大まかと申しますか、戦争中のあれで、こちらは一円は一円だとしてやっておる関係上、向こうも、そう固いことを言わずに、百五十億円までは少なくとも払ってくれぬか、こういうことだったと私は記録によって承知しております。
  104. 横路節雄

    横路委員 当時総理は閣僚でもございませんでしたから、それじゃ外務大臣お尋ねしても、私もわからぬということになるのじゃないかと思います。それならば、中川条約局長、あなたは折衝当時アジア局長だった。だから、九十六億円をはじいた算定の基礎は何か。
  105. 中川融

    中川政府委員 三十年協定当時に九十六億円という経済協力規定しておりますが、これがどうしてはじき出されたかと申しますことは、今総理の御答弁になられた通りでございまして、先方としては、どうしても百五十億円以下には下がり得ないのだ、こういう固い主張でございます。その百五十億円という数字がどうして出たかということになりますと、これは、結局、十五億円を十五億バーツと考えまして、これは戦争中は一バーツは一円であったわけでございます。十五億バーツと考えまして、その当時の米ドルの実勢価値によりまして十五億バーツを換算いたしますと、二千七百万ポンドになるわけでございます。二百七十億円でございます。二百七十億円であるけれども、二百七十億円全部をもらうと言ってもなかなかむずかしいだろう、従って、これをもし現金外貨で、つまりポンドでくれるならば、ポンドでくれる分は倍と計算してよろしいというふうな向こうは考えであったようでございます。従って、そのうちのたとえば半分をポントでくれれば、あとの半分は一つ現物でもらいたいというようなことから、いろいろ話が出て参りまして、結局百億円分ポンドでもらう、そうすると、これは倍になりますから二百億円になるわけでございます。余りの五十億円は物でもらいたいということで、合わせて実際の価値は二百五十億円であるけれども、日本からもらうのは百五十億円でいいのだ、こういう計算であったわけでございます。それがもとになりまして百五十億円という数が出たのでございまして、これは日本としては必ずしも理屈としては納得のいかない面もあったわけでございますが、先方がどうしても百五十億という数に執着いたしますので、そのときの一つの政治的判断といたしまして、理屈の合うものは現金で払い、日本としては政治的に片づけるものは九十六億円の経済協力でやろう、こういうことになって九十六億という数が出てきたのでございます。
  106. 横路節雄

    横路委員 そうすると、今のお話で、百五十億というのは別に計算の基礎はないというわけですか。今のあなたの答弁は、私も急いで紙に書いてみましたが、日銀残高十五億円をバーツにすれば十五億バーツだ、それが米ドルに直してやったところが、全部で二百七十億になったわけですね。それを何ということなしに百五十億にしたわけですか。
  107. 中川融

    中川政府委員 数字を、はっきりしたラウンド・ナンバーと申しますか、そういうものにするために、一応二百五十億でがまんする、こういうことで二百五十億になったわけでございます。そのうちの二百億は現金外貨で払えばそれを倍に計算するということで、百億分だけポンドで払ってくれれば二百億と計算する、従って、余りが五十億出るわけでございますが、この五十億は物でもらいたい、こういうのが百五十億の根拠でございます。これは先方の数字の計算でございます。日本側は何もその数字の計算を承服したわけではございませんが、先方としてはそういう計算で百五十億という数を出してきたということでございます。
  108. 横路節雄

    横路委員 外務大臣、ちょっと条約局長は口の早い点もあってよくわからない。数字があちこち動いていますから、あとで速記を見なければわからないです。そこで、あなたにもう一ぺんお尋ねをしたいのですが、この九十六億をきめたというのはどういう算定の基礎なんですか、もう一ぺん外務大臣から伺いたい。
  109. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今条約局長が申しましたように、先方は初め一ポンドが十一バーツというような計算から出て、千三百五十億円と言ってきたわけです。三十年協定のときには先方はその態度を改めまして、一ドルが二十バーツである、それで十五億バーツですね。それを計算いたしますると二百七十億円である。そこで、これはラウンド・ナンバーにして二百五十億円ということだが、金で、すなわちスターリング・ポンドでもらうものは倍にしようとか、いろいろなことを向こうは言ったわけでございますが、結局、それをいろいろ折衝いたしました結果、百五十億円まで、どうしてもそれ以下にはおりられない、こういうことを先方は言いまして、それでは、日本側として、先ほどから申し上げているような五十四億円というものは計算できるから、それはスターリング・ポンドで払って、あとの九十六億円は第二条に言われておるところの条件、態様に従って供給しよう、こういうことをきめたわけでございます。
  110. 横路節雄

    横路委員 総理大臣、そうすると、物価も変動したし、いろいろ戦争中のことと戦後の経済も違ったから、大体十五億だから、まあ十倍の百五十億ぐらいでちょうどいいのではないか、こういうわけですか。どうも聞いていてその辺がはっきりしないのです。
  111. 池田勇人

    池田国務大臣 私はそのときの折衝のことを一切存じませんので、国会議員として、百五十億でああいうふうにしたということは国会議員として知っております。しかし、今の向こうがどう言ったとかこう言ったとかいうことは私は存じません。ただ、百五十億の線よりはおりられぬ、こういうことを言ったので、察するに、——私は察するのでございます。察するに、タイ日本との関係のことも考え、そして、もう十何年前の借金を、まああの当時の一円が今の一円というわけにもいかぬというような気持も、やはり経済的の気持もあるのじゃございませんか、と私は考えます。
  112. 横路節雄

    横路委員 総理大臣の今の御答弁は、私は大へん大事だと思うのです。私もまた、総理大臣はそういうように御答弁なさるのではないかと思ったのです。戦争中に借りた一円を一円といって返すのはどうも気の毒だ、この際十倍の十円くらいにして返したらいいのではないか、そういうお気持ならば……。
  113. 池田勇人

    池田国務大臣 私はそういう気持ではございません。察するに、そういうようなことでやる場合も考えられるのではないだろうか。私は、今の日本政府として、一円を一円ということははっきり言っておるわけです。そうしなければ、——ほかにも、今までも言っておる。ただ、そのときの状況をお聞きになるから、察するに、経済的に明るい日本の外交ですから、やはり向こうとの関係、千三百億、こう言っているのですから、私は、いろいろな情勢、今の昔からの関係、そして同盟国であったこと、そうして向こうの状況等々を考えて、いろいろな考え方が出て参ります。しかし、私はよく知りません、こう言うのです。
  114. 横路節雄

    横路委員 総理大臣がよく知りませんということなら、私もこれ以上追及しない。ただ、総理大臣が、昔の一円でそのまま返すのは気の毒だから、まあ一つ十五億だったが百五十億にしました、こう言うならば、それならば、一つ戦争中に国民が郵便局に預けた郵便貯金その他も十倍にして返さなければならぬ、そういうことになるのではないかと思って……。しかし、当時は関係してないからわからぬということであれば、総理にはこの九十六億の算定の基礎は聞きませんが、しかし、中川条約局長、もう一ぺん聞きたいのです。これは総理が今度おいでになられて九十六億円を払うことになったその基礎になるわけですね。そうでなければ私三十年協定の九十六億のことを聞かないのですが、一体、どういうように話が詰まって九十六億ということになったのか。向こうが絶対百五十億をぜひ払ってくれと言うについては、それがいろいろな交渉の経過があったのでしょうが、最終的にお互いに、わかりました、適当なところで百五十億で折り合おうではないか、こういうことではなかったのだろうと思う。ある程度話を煮詰めて、そうか、それならばこれで一つ割り切りましょう、こういうことになったのだろうと思う。そこで、もう一ぺんあなたから、百五十億についてきめられたその経過もございましょうが、最終的にタイとの間に話がきまり、また国内においては閣議においてきめたのでしょうが、経済閣僚懇談会においてもいろいろ相談をしてやったことでもあろうと思うので、その点は一つ、どういうようにして、百五十億でわかりました、これでやりましょうということが、最終的にどういうのできまったのですか。千三百五十億がどうあったとかなんとかいうことは別です。あなたは当時のアジア局長で、外務大臣を補佐した最高の責任者だから、話して下さい。
  115. 中川融

    中川政府委員 三十年協定の形でまとまりましたこの最終的な段階の考え方でございますが、これは、結局、日本側は五十四億円以上はどうしても理屈がつかないというところが、まず日本側の一番ぎりぎりの線がそこでございました。タイ側はいろいろな勘定をいたしましたが、結局は百五十億円というものをどうしても下がり得ないというのがタイ側の基本的な立場であったわけであります。しかしながら、これを何とか片づけるとすれば、その間のギャップをどうして埋めるかということであったわけでありまして、この埋める方法といたしまして、経済協力、投資及びクレジットの形式によって九十六億円分の物と役務を供給する、こういうことできめよう、こういう判断を政治的にしたわけであります。それによって協定ができたということでございます。
  116. 横路節雄

    横路委員 それで、総理も今条約局長からお聞きの通り、日本側としては五十四億以上は理屈に合わないから払わない、タイは、理屈のことはさておいて、百五十億を払ってくれというので、両方が合意されたものは、九十六億については投資及びクレジットでやる。これを無償でやるなんということはどこにもきめてない。  総理はこれを御存じですか。三十年協定のときに、昭和三十年の四月九日にナラティップ外相が、日本タイとのこのタイ特別円に関する最後の交渉タイ側交渉案として政府に示したものは、五十四億円を現金で三カ年で分割払いをしてもらいたい、第二番目、四十六億円は現物で五年間に分割払いをしてもらいたい、五百万ポンド、五十億円に相当する長期かつ無利息の外貨のクレジットの供与をしてもらいたい、右クレジットは、日本において、あるいはもしも日本が希望する場合はその他の国において物資を購入するために使用される、右クレジットは前記(ロ)の現物払いが完了した後に使用が開始され、たとえば五年間で打ち切られることにしても仕方がない。この最終案というのは、明らかに、九十六億円みなくれなんて言っていないですよ。タイの最終案じゃないですか。タイの最終案は、九十六億については、四十六億円を現物五カ年間で払ってもらいたい、五十億円に相当する長期かつ無利息の外貨のクレジットの供与をしてもらいたい、右クレジットは前記(ロ)の現物払いが完了したあとに使用が開始され、たとえば五年間で打ち切られても仕方がない。これがタイの最終案であって、これは中川条約局長知っているでしょう。これがタイの最終案で、何でこれが一体今ごろ池田総理が行って——タイは四十六億円でいいと言っている。一体何でこれは九十六億払うのですか。これはタイの最終案でありませんか。そのタイの最終案に対して、条約局長に尋ねておくが、これはそうでしょう。タイの最終案ですね、四月の九日、時間まではっきりしている。午後三時に示されたもので
  117. 中川融

    中川政府委員 四月九日に持って参りましたタイ側の案は、そういう案でございます。
  118. 横路節雄

    横路委員 総理、今お聞きの通り、私があなたにお伝えしたように、昭和三十年の四月九日の午後三時にタイのナラティップの外相が示したタイの最終案というものは、九十六億くれなんて言っていない。四十六億だけ現物払いをしてくれと言っている。それに対して、経済閣僚懇談会では、そういうことについては絶対に了承はできない、こういうので、その午後、その時間に最終案が示されると同時に、四月九日の午後三時から開かれた経済閣僚懇談会でこのタイの最終案をけっている。そして、この協定にあるように、九十六億円を限度とする投資またはクレジット、こういうことにして、従って、三十二年の六月に岸総理が東南アジアを回られてタイの当時のピブン首相と会ったときも、絶対にだめだ、こう答弁しておる。あなた自身そう言っているじゃありませんか。ナラティップ外相がアメリカからの帰りここに寄って、当時の石井副総理と会った際、当時あなた大蔵大臣だったじゃないですか。このナラティップ外相が、困るから何とかしてくれないかと言ったら、絶対に改定は不可能である、こうあなたはがんばってやったじゃないですか。タイのどこに九十六億くれなんて言っていますか。おかしいじゃないか。これは全くあなたの独断専行なんだ。タイだってこういうように最終案を出してあるのに、あなたの方でこれを上回って九十六億円やるなんて、一体どういうわけです。
  119. 池田勇人

    池田国務大臣 三十年の協定までの経緯は私は存じません。しかし、われわれが有権的に認めておるのは三十年の協定でございます。協定には、二条に、お示しの通りに、投資またはクレジットの形式において供給する、これが厳然たる事実でございます。九十六億円を投資及びクレジットの形で供給するという、この事実を私は主張しておるのです。従って、石橋内閣のときには、絶対にそういうことは相ならぬと言って断わっております。断わりましたが、その後の状況を見まして、タイとの貿易関係等を考えましても、ちょうど三十年ごろは、これは反対に片貿易でした。日本が輸入超過でございました。タイなんか、こっちが買ってやるというくらいなところだった。そして、三十三年ごろからだんだん変わってきまして、三十四年ぐらいには、日本の輸出額に対して向こうから輸入するのは三分の一、四分の一くらいになった。情勢が変わってきている。しかもまた、向こうで、合意しながら、われわれが間違いました、しかし、今の金にして千三百億円のものを徴発せられて、そしてタイが九十六億円の借金を負うということは常識上考えられぬと言う。それじゃあの協定はどうしたのかと言ったら、われわれが誤りました、間違いました、こう言うときに、私は、今さらその厳然たる事実の前のことをとやこう言ってやることはよくない、今の状態において、両国関係、東南アジアとの関係等を考えてやるべきだ、こう思って決心したのでございます。
  120. 横路節雄

    横路委員 大体一時ちょっと回ってきまして、お昼の休憩ということでございますから、午前の最後として私一つ伺っておきたい。  総理はしきりに千三百億円のことを言っていますが、あなたはおかしいのじゃないかと先ほど私が言ったのです。そんなことを言うならば、国民の郵便貯金その他のものは一体どうなったのですか。あなたの方では先ほどからタイ特別円に関する金約款については効力を認めていないわけです。だから、五十四億円で話がきまったものが、さらに当時の政治折衝というか、九十六億円をプラスして百五十億にした。それは、タイは、先ほど言ったように最終案として出した。四十六億円について払ってもらいたい、五十億円についてはクレジットでよろしい、こう言っている。それをあなたが行って九十六億にしたというところに問題がある。九十六億を全額払うというところに問題がある。あとで石油精製工場その他の問題でさらにお尋ねをしますが、これは、池田総理がタイに行って、サリットと手を握って、サリットから、——これは向こうの新聞の伝えるところですから、そういうことには触れたくございませんが、サリットは言っておりますよ。太平洋の中に落とした宝を拾い上げたようなものだ、太平洋のどこにあるかわからぬ宝を拾い上げたと同じようなものだ、こう言っている。こういう意味で、今まで岸内閣から全部、この協定については、九十六億は投資、クレジットである、こういう考え方で一貫してきたのに、この九十六億円について支払いをするということについては、これは絶対に筋が通らぬ。  あと石油精製工場、タイの政情その他の問題については、さらに午後お尋ねいたしたいと思います。
  121. 池田勇人

    池田国務大臣 千三百億とか千二百億とかいうのは、向こう勘定でございますよ。そしてまた、昔徴発せられて、タイ日本に対して債権を持っているのに、協定を結んだところが借金を負わなければならない、こういう国民感情であります。私は、千三百億というものを認めるわけじゃございません。認めない、こう言っている。ただ、向こうの国民感情としてはこうだ。それで、今の太平洋から宝を取ってきたというのは、向こうは非常に喜んでいることを現わしているので、それはタイのためではございません。東南アジアのため、両国のために喜んでいる現われだと思います。
  122. 森下國雄

    森下委員長 本会議散会後再開することとし、休憩いたします。    午後一時五分休憩      ————◇—————    午後二時五十三分開議
  123. 森下國雄

    森下委員長 休憩前に引き続き、これより会議を開きます。  質疑を続行いたします。横路節雄君。
  124. 横路節雄

    横路委員 午前中の最後にお尋ねしました点について、どうも総理の答弁がはっきりしませんので、重ねてお尋ねをしておきたいと思います。  午前中の最後に私が申し上げましたように、昭和三十年の四月の九日にナラティップ外相から、タイ国の最終案として、五十四億円の現金払い、それから四十六億円については現物五年間の分割支払い、それから五百万ポンドに相当する長期かつ無利息の外貨のクレジット供与、これが出されたわけですが、これを、三時から開かれた経済閣僚懇談会では否決いたしまして、そして、五十四億円を現金払い、別に経済協力として九十六億円を限度として投資またはクレジットを供与する、そして期限、方法、対象等については一切今後の交渉によるものとする、こういう案を示し、なお、ここではっきりしていることは、非常にタイ側は満足しまして、二、三の字句の修正を行なったのみであり、非常に満足の意を表して右に同意をしたわけです。ですから、政府側の方針としては、タイの最終案として示された四十六億円の現物五年分割支払い、五百万ポンドに相当する長期かつ無利息の外貨クレジットの供与の二点をはっきりと否決して、九十六億円を限度とする投資またはクレジットの供与ときめたのだから、絶対に変更しないのだ、こういう方針で今日まで来たわけです。先ほど私が申し上げましたように、昭和三十二年六月に岸総理が東南アジアにおいでになられたときも、この点については、はっきりと、改定はできない、池田当時の大蔵大臣も、ナラティップ外相に対しては、改定できない、こう言っているのです。ここまで明白で、しかもタイ側としてはその当時から九十六億円を全額払えなんて言っていない。タイ側の最終案をはるかに上回って、九十六億円をまるまる現金支払いをしていく、こういうやり方は、一体どういう政治的な配慮からしたのであるか。ただ総理が大所高所から考えてやったのだということだけでは、これは説明にならない、どういう点から、このタイの最終案を当時の内閣において否決をして、しかも、最終案では、みずから、四十六億は現物支払いをしてもらいたい、こういうようになっているのを、九十六億全額支払いをするようになったということについては、大所高所だけの内容では、私どもに対する説明にはならぬと思う。一体どういうようにその後政治的に情勢が変わったというのか。ピブンからサリットにどういうように政治情勢が変わったというのか。それに対して総理はどういう判断の上にやったというのか。何べん聞いてもただ大所高所と言うだけでは、私どもは、国民の前に、九十六億を全額支払いをするという総理の御説明にはならないと思います。特に今日はサリットの独裁政権で戒厳令がしかれたまま解かれていない。こういうような状態で、どういう政治判断をされたのか、どういうタイの政治事情の変革によるものか、こういう点について、よく納得のできるような御説明をしていただきたいと思います。
  125. 池田勇人

    池田国務大臣 御納得のいくような説明ができるかできぬか、これはお互いの気持の問題でございます。私が申し上げているのは、三十年八月の問題をもとにして言っておるのであります。その前にどういう交渉が行なわれたか存じません。しかし、いかなる交渉が行なわれようとも、政府間で同意したのは三十年八月のあの協定でございます。これを土台にしておるのであります。そして九十六億は二条並びに四条の規定に従ってやることになっております。この条約は両方とも納得していったのでございますが、午前中に申し上げましたごとく、タイとしては、戦争中非常な物資を徴発せられ、そして、それを今の金に換算いたしますと、大へんな、千数百億円になる、自分らとしては、三十年八月の協定に一応は納得いたしましたが、その後いろいろ考えてみると、大へんなものを徴発せられ、そして三十年の協定によりますと、今度また借金を負わねばならぬ、こういうことは国民感情として納得できないというので、三十年の協定の二条、四条は動かない。六年間も動きません。その間に、私といたしましては、石橋内閣のときに向こうの代表者と会いまして、やはり三十年の協定を変えるわけにいかぬと、これははっきり断わっております。しかし、その後、タイのそういうことを聞くと同時に、日本タイとの過去の貿易関係、そしてまた将来の見通し等々から考えまして、私は、この際、三十年の協定が六年間も動かなかったし、今後においても動かぬときに、日・タイ関係あるいは日本の東南アジアヘの活動がどうなるかということを考えて、そしてまた、九十六億円を現金で返すのじゃない、——片一方では九十六億円の労務あるいは資材を供給する義務——義務と言っては何でございますが、供給する約束に同意しておるわけです。その供給の仕方等を考えてみますと、いろいろやってみて、無利子で何十年か貸すとか、あるいは一つの事業を起こしても、それが利益を生むか生まぬかわからない、初め九十六億円投資して事業を起こして、その事業がうまくいけばそれでいい、うまくいかないようなときを考えてみると、今九十六億円出すということと、なしくずしで十億円ずつで八年間やっていくのとどっちが利害得失があるかということを考え、御審議願うような案で一応調印いたしたのでございます。
  126. 横路節雄

    横路委員 そこで、次にお尋ねしたい点は、午前中の総理の答弁ではっきりしなかったことは、二月六日にタイ特別円協定に関して私たちの党の森島議員から質問した際に、先ほどお尋ねしたように、一時払いで減額をして払った方がいいんじゃないか、こういうふうにも考えたということで、一時払いで減額という場合に、ただ計算上からいけばその方がよかったので、総理ほど計数に明るい方が何でまた減額払いでやらなかったものだろう。かりに損得ということからいけばですよ。そこで、私がお尋ねしたいのは、総理が一応お考えになられた減額払いというのは一時にどれくらいお払いなさろうとなさったのですか。総理よく言われますから、一つ……。
  127. 池田勇人

    池田国務大臣 減額払いで一応は交渉いたしたわけでございます。交渉の第一回でございます。これは私じゃない、大使をしてやらせたのですが、大蔵省案、外務省案がありました。しかし、まあ三十億くらいから出たらどうだ、こういうことになりまして、その話を大使が言い出しましたところ、けんもほろろに断わられた。絶対にそういう減額は相なりません、こういうことで来たわけであります。これが実情であります。これは、大江大使から、昨年の五、六月ごろでございましたか……。
  128. 横路節雄

    横路委員 今の総理のお話で、三十億から出発したというけれども、それは、想像してみるのに、交渉を、三十億から四十億、五十億にと、こういかれたのだろうと思うのです。最終案として出されたいわゆる一時払いの減額というのは六十億だ、こういうようにいろいろ伝えられておる。六十億円でどうだ、こういうふうに言われたともいわれているのですが、あくまでも三十億でがんばったわけですか。その点、どうもいろいろ言われているものですから、明らかにしてもらいたい。
  129. 池田勇人

    池田国務大臣 これは二十億案と四十億案があった。最初でございますよ。これは外務省大蔵省の見解が違うところだったらしい。あとから聞いてみたら、三十億円、これで一応やったそうです。そうしたところが、今も言ったように、けんもほろろに断わられた。六十億というのは提案がないのです。初めの分だけでだめになったと思います。
  130. 横路節雄

    横路委員 私は、六十億くらいを提案されたのかなと思った。六十億というのは、たとえば、先ほどお話のございましたように、年六分五厘、七分五厘、八分、そういうように数字を総理も言われている。たしか七分五厘で十カ年間やると約倍になりますね。年八分でいけば八年間で倍になるでしょう、複利計算でいけば。そうすると、六十億をやって、かりに八分なんというのは高いから七分五厘として、十年間使わないでそのまま置いておけば、日本側からすれば利子がつく。それで、六十億でいけば約二十億くらいになる、総理の計算で。私も今こまかな計算をしたわけではありませんが、かりに年七分五厘くらいにして、初め十億払っていくと、普通の銀行預金の形式でいけば、この分については七分五厘は八年間つく。その次の十億については七分五厘で七年間ついていく。こうやられると大体百三十億くらいになるではないか。だから、六十億の提案をされて、相手方に、どうだ、おれの方は六十億でいくぞ、これをかりに年七分五厘の複利計算でいくと十年間で倍の百二十億になるのだ、これをこっちの方の十億ずつの計算でいくと、七分五厘でいけば大体百三十億で似たものになるがどうだ、六十億でいかないか、とこう言ったと思っていたら、あなたの方では三十億で提案をした。三十億で提案をしたら、年七分五厘でいって十年たって六十億にしかならない。私は、総理が、減額払いをした方がよいか、十億ずつ七年間払って、八年目には二十六億でいった方がよいかというのは、計数のこまかい、計数は内閣のうちで一番確かだと自他ともに認めておるところなんだが、その総理の計算にしては合わないではないですか。三十億でやってけられた。それを十億ずつやってこっちの方がよいのだなんていう計算は、けられたは別にして、そういう点からいくと、どうも計数の明るい総理としてはおかしいと思う。十億ずつ七年間やって、最後二十六億ですか、この計算でやればどうなりますか。この計算がいろいろ他の支払い方法よりははるかによいのだ、こうあなたは言っているわけですね。森島議員の質問に対して、あなたは、計算してみたらこの方がはるかによいのでこれでやったと言っているが、何にもよくないじゃありませんか。私は、計数の明るい総理にしては何とこれはまずい計算の仕方をやったものかなあと思って、一ぺんよくお尋ねをしたいと思ってきょうまで待っていたわけです。
  131. 池田勇人

    池田国務大臣 まことに恐縮でございますが、森島さんにどう答えておりますか、私、速記録を持っておりませんが、ちょっと読んでいただきたい。
  132. 横路節雄

    横路委員 質問を受けましたから、それでは私答えなければなりません。せっかくの総理のお尋ねですから。ここにこう言っているのです。「私は二日間考えまして、どれが日本のために一番いいか。」、——日本のためにと言っているのですよ。タイのためとは言っていないのですよ。タイのためなら別ですよ。「どれが日本のために一番いいか。九十六億円を現物出資で工場を置いて、その利益から長いこと払っていくのがいいか、あるいは九十六億円を直ちに貸してやって、低利で十五年も二十年もたってその金を戻してもらうのがいいか、あるいは減額さして一ぺんに払うのがいいか、あるいは十億円ずつずっと払っていったのがいいか、どれが一番いいかということを、私はタイに行く前から、あるいはおる間じゅう、ずっと考えたのであります。そこで私は、サリットともいろいろ二人で話をいたしました。メモで計算をしながら、私は八年間というふうにいたしたのでございます。」、どれが日本のために一番よいかというのです。タイのために一番よい方法というならば別ですが、一ぺんに減額して払った方がいいか、どれが日本のためによいかという計算をされた総理としては、いつもの計数の達者な点からいけば、ちょっと合わないのではないか。これは総理がさらにテレビでわざわざメモを持って、鉛筆を持たれて、こうやってやったのだといって、国民の前に、何か十億ずつ払うのがばかに日本のためになったようなことをおっしゃいますから、だから、わざわざここで四つ言われた点について伺いたいわけです。
  133. 池田勇人

    池田国務大臣 そこで、私の方からお答えを申し上げます。  午前中に申し上げた通りに、初めの二つですね。工場を置くがいいか、お金を九十六億円貸して、——これは二条の通りですよ、そうして安い金利で二十年も三十年もということもありますし、とにかく、九十六億円が利子で払えるところまで貸さなければいかぬ。そうなりましょう。その二つの分は、私が総理になる前にいろいろ考えられた問題です。それから、私がなりましてから、とにかく片づけた方が国のためにいいのだ、日本のためにもいいし、向こうのためにもいい、こういうので、一つ減額計算をやったわけであります。九十六億円ということを向こうがどうしてもこれだけはほしいと言うときに、今度向こうへの説明に、——それは元がございますよ。三十億といたしましても、何年間でやるか、これによって違うわけですね。三十億でたとえば十年ならば九十六億円になりません。あるいは、僕としては、自分では大蔵省に命じて、複利計算で九十六億円を六分五厘でやった場合に、現在価値にしたときに、何年で、——たとえば十五年とした場合、十二年とした場合、十年、八年とした場合、六分五厘、七分五厘、八分と、こう計算して、今の現在価値がなんぼになるかということは、私一人では計算しておりますが、しました。しかし、交渉には、外務大臣はどうしましょう、大蔵大臣はどうしましょうと言うから、自分はこうだと、こう言ったところが、大蔵省外務省の間で、僕の言ったよりももっと低く出たのが事実でございます。それで、三十億円、てんで相手にしない。これはまたしない。しかし、私は、タイへ行きまして、とにかくこれは聞かぬでも、自分たちは、おい現在価値にすればいいじゃないか、——これは金額は言いません。減額して、そして一度に出すかと言ったら、タイのサリットは、もう減額ということは絶対にお断わりです、九十六億円とにかくもらうことにしているのだ、もらうという建前にして下さい、こういうのでございまするから、九十六億円を維持して、日本のためにどれが一番いいかということになると、なるべく少なくて長く払うほどいいわけです。そうでございましょう。なるべく長いことで年賦計算が一番いい、年限がきまれば、初めを少なく、終わりを多くした方が得なんだ、こういうことで、今の最後の分をメモに書いてやったわけです。だから、年数というものできまります。初めとおしまいの払う金額できまります。いろいろ私としては研究いたしたのでございますが、総理になってからの分は、一応やはり減額して、利子計算で九十六億円をやるのだ、払うのだということにしたらどれだけでいいか、こういうことで、そのときには何年間でということをきめなければいけません。そういうあらゆる計算をして実はやってみたのでございますが、減額ということは向こうがのみません。しからばどうやったらいいかということになれば、減額をのまなければ、長期間にやることと、そして、払い方を、初め少なく、おしまいに多く、これが日本に一番得な方法でございますので、それをやったのでございます。
  134. 横路節雄

    横路委員 今総理のお話で、タイは九十六億円もらうことを建前にしている、これもおかしいじゃないですかね。総理は、タイは九十六億円をもらうことを建前にしているのだ、だから、総理としては、少しでも九十六億円を実質的に減らすような方法でいった、結果的にはこういうお話のようです。しかし、先ほどから私が何べんも申し上げておりますように、協定そのものは、九十六億円は投資またはクレジットとなっている。またここで三十年の交渉過程においてはどういうものが出たかは存じないという総理のお話ですが、条約局長その他は明確に三十年協定についての最終案は認めているわけです。ですから、タイ国側も九十六億円もらうのだということを建前にしているのだということはわれわれとしては絶対に了解できないことなんです。これは、九十六億円はもらうことにしているのだというタイ国側考え方はどこに原因があるのでしょうか。こんなに条約ではっきりとしているものを、投資またはクレジットとなっているものを、九十六億円はもらうのだというタイ側の根拠というものはどこにあるのでしょうか。もしも総理が言えなければ、外務大臣でもけっこうです。
  135. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、午前中から申し上げた通りに、九十六億円というものはきまったわけです。それは、条約の二条で言えば、「投資及びクレディット」の方法で資材、役務を供給する、そのやり方については、四条で、合同委員会できめるのだ、こうはっきりしておる。タイもこれは承知いたしましたと言って成立したのですが、よく考えてみると、これは大へんだ、タイは、間違いでございます、一つ何とか直してもらいたい、九十六億円は借金ということではわれとしては国民感情としても納得できないのだということで、これはまた繰り返すようでございますが、戦争中、今の金にすれば、——これは私の言ではございませんよ。向こうの言い分では、今の金にすれば千三百億円にもなります、われわれはほんとうに協力いたしました、そういうような計算になるのを、今条約が済んでいよいよとなったときにはタイが九十六億円借金をしておるんじゃ、とても国民感情として納得が得られない、条約効力もさることながら、間違いましたから、九十六億円を払ってもらうようにしたい、こう言うのでございます。私はタイの気持はわかる。そこで、あなたの御質問は、九十六億円というものをそれじゃどうやって払うかという今の方法論の問題でございます。方法論とかいうものを今答えているので、九十六億円をなぜきめたかということは、午前中からのことでございますから、それはもう質疑済みだと私は考えております。
  136. 横路節雄

    横路委員 総理、こちらで言うことですよ、それは。(池田国務大臣「いや、そう思うのです」と呼ぶ)総理の今のお話の中で、あの協定に調印をして憲法上の手続に従って効力を発生した、そこで、いやあれは間違いだったのです、あれは間違いだ——今も言っておりますね。タイ側はあれは間違いですと言っていると言われる。これは政府間の協定ですね。しかも両国ともそれぞれ憲法上の手続に従ってそれぞれ承認されてやっているのを、あれは間違いでしたと言う。タイという国はどういう国なんでしょうか。いわゆる憲法があるのでしょうか。一体、普通の憲法または議会、普通の立法府、こういうものであるならば、憲法上の手続に従ってやって効力が発生してから、あああれは間違っていた、こういうことは、普通の国では言えることではないと私は思うのです。(「普通じゃないからだ」と呼ぶ者あり)いや、今のお話のようにタイが普通でないというならば別ですよ。タイが普通でないというのならばこれは別ですよ。(「総理はそんなことを言っていない」と呼ぶ者あり)いや、総理はそう言っていないけれども、今のタイが普通でないというのはなかなか重要です。そこで、私もこれから、タイが普通でないのじゃないかという観点に立って質問を続けていきたいと思います。  そこで、これはまず外務大臣でけっこうですが、三十年協定の第二条に、「日本国は、両国間の経済協力のための措置として、合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディットの形式で、日本国の資本財及び日本人の役務をタイに供給することに同意する。」とある。ここでこの「合意される条件及び態様に従い、」ですが、この点いろいろ交渉された点があると思うのですね。この三十年協定を置いてから、片一方では毎年十億円ずつ払いながら、一方においては、第二条、第四条の問題で、この「合意される条件及び態様に従い、」ということで、政府の方でもタイ政府と折衝された状態が、交渉内容があると思う。一つこの際、どういう内容の交渉をされたのか、この点をお話しをしていただきたいと思うのです。
  137. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 一九五五年の十二月二十四日、これは協定のできたその年の暮れになります。ナラティップ外相は国連総会の出席の帰途来日いたしまして、日本政府当局と約一カ月にわたって協定第二条の実施に関しまして交渉を行なったのでございます。ナラティップ外相と、そのときはリップスという顧問もついてきております。この人たちは九十六億円は資本財及び役務の無償供与であるということを主張いたしました。わが方の、本件経済協力は投資及びクレジットの形式で行なわれるものであるから償還を前提とするものであるという立場と対立いたしまして、結局意見の一致を見ないで、翌年の一月終わりに帰国いたした。こういうことでございます。その後、先ほど午前中総理がおっしゃいましたように、合弁会社案を出したり、あるいは精油所の案を出したり、あるいは利息でかせげるようなクレジットの方式を提案したりいろいろいたしたのでございますが、いずれもタイ側の同意することにならないということでございました。タイ側も、協定ができた画後から、この第二条というものは無償のものだということを主張し、従って、第四条に合同委員会を作るということが書いてあるわけでございますが、その第四条の実施もさっぱり動きがとれない、こういうようなことになっておるわけであります。
  138. 横路節雄

    横路委員 石油精製工場については、九十六億円をもとにしての石油精製工場の建設案についてはだいぶ話が進んだわけですね。これは昭和三十三年の七月一日のタイのサイアム・ニコーンという新聞から抜粋をしたものですが、「日本大使館の鈴木商務官は、日本政府タイ国との特別円勘定決済する方針でこれを精油所建設費として日本鋼管への支払いに充てることは日本政府承認するであろうと述べた。」ということがタイの新聞に出ているのを私書き抜きしてきたわけですが、そこで、石油精製所の案についてずいぶん折衝されたわけですね。その点について、これは外務大臣がおわかりでなれけば、これはだれになるのですか、条約局長ではないから、やはり外務大臣ですね。——賠償部長ですか、じゃ賠償部長から一つお話し願います。
  139. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 石油精製所の件に関しましては、まず三十二年の一月からその話がタイ日本側の間に起こったわけでございます。そこで、そういう非公式の話に基づきまして、わが方は日本側の業者をしてタイの開発公債を担保として九十六億円をタイ政府に融資するという方針で交渉を開始したのでございます。これはピブン内閣時代でございます。ところが、やっているうちに、三十二年の九月になりまして、サリット元帥のクーデターが起こって、そこでポート・サラシン内閣が一時ちょっと成立いたしました。それから次いでタノム内閣が成立したのでございます。ところがそのタノム内閣のときの三十三年の五月に、向こうの方から、日本政府の三十二年一月の今申し上げました案は受諾できない、今度はタノム内閣で工業大臣になりましたクリット工業大臣が本件の交渉に当たるということを言ってきた。そこで、クリット工業大臣がわが方に申しましたのは、それも同じく五月でございますが、同じような案でございますが、九十六億円を日本側業者に輸銀が融資する、それで日本側業者がタイ国内に精油所を建設する、その利潤の中から日本輸出入銀行に対して元利償還を行なわしめるとともに、九十六億円相当額を年賦でタイ政府に払う、相当非常にむずかしい案でございますが、九十六億円の中から輸銀にも払うし、タイ国も年賦で九十六億円をそこの利潤から得よう、こういう案だったのであります。そこで、わが方でそのタイ側の案を中心にしまして検討しているうちに、その年の九月になりまして、タイ側から石油精製所設立の問題と特別円交渉は切り離したいということを申しまして、この案が成立しなかったわけでございます。
  140. 横路節雄

    横路委員 総理、今、賠償部長から経過についてお話がございましたように、タイは何も初めから九十六億円は無償でもらうのだと言っていないのです。今明らかになったように、タイ側日本側と両方から話が出て、石油精製所について、今お話しのように、開発公社の債券ですか、それを引き受けるというのです、九十六億円。ところが、総理、これは初めはこういうことでいったのです。それがなぜつぶれたかというと、この石油精製所については日本鋼管並びに丸善石油が関連をしておるわけです。日本鋼管並びに丸善石油はだれをたよっていったかというと、これはピブン総理をたよる。そのピブン元帥の下にサリット元帥とパオといういわゆる警視総監というのですか、警保局長というのですか、警察関係の警察大臣、このパオにたよったのです。そのパオにたよったのが、今お話しのように、三十二年の九月の十六日ですか、これはサリット元帥のクーデターによってピブンが倒れ、パオはいち早く逃亡せざるを得ないという状態なんです。だから、そこで、ピブンがやっていたその日本鋼管並びに丸善石油の九十六億はだめだ、こうなったわけです。何も初めから九十六億はただなんて言っていないのです。これは私が申し上げるまでもなく総理はよく承知なんです。これはそういうことなんです。今賠償部長のお話しの通り、これは初めから石油精製工場で九十六億をこの第二条のこの条件に従って話を進めていたのです。そこで、これは、ピブン元帥、パオをたよった日本鋼管並びに丸善石油が思惑違いというか、こういうタイの国内事情、タイのいわゆる政権の争奪、勢力争い、こういうものから生まれ出ているのであって、何も九十六億円が初めから向こうは間違っていた、全額もらうんだなんということにはなっていないはずなんです。  次、通産省の人、だれか来てますか。——それじゃお尋ねしますが、そこで。
  141. 池田勇人

    池田国務大臣 今のにお答えいたしましょう。先ほど外務大臣が申しましたように、タイの代表がアメリカから帰りに寄って言っておるのであります。もらったものとわれわれは思っております、それははっきり言っておる。ただ、問題は、われわれもらったものだという説が国民感情としてずっと前からあるのです。ただ、こちらが何ともいたしませんから、あるいはどういう根拠から言ったのか、これを投資及び貸付ということで日本が聞かないから、貸付の方法で考えられたことであって、しかし、いずれにしても、まとまりません。結果はそうなんです。だから、そういう片一方の方でいろいろ、日本が聞かないから、その二条通りにやってみようとした努力はございましょうけれども、これは今のようにもらったものだと思っておるのであるから成り立たない。だから、そういうことがあったからといったって、それはもらったものだという考え方が初めからなかったかということになりませんよ。その点だけ申し上げておきます。
  142. 横路節雄

    横路委員 先ほど同僚の与党の委員の方から、どうもタイというのはあたりまえじゃないんじゃないかという、こういうお話がありましたが、(「冗談だ」と呼ぶ者あり)まあ冗談にしても……。これは外務省のアジア局で編集をしておるタイ王国便覧というのが私たちの手元に届いておるわけです。これはどのタイの政治情勢についても書いてあるものですが、一九五七年の八月、まずピブン首相は閣僚の営利企業参加を禁止したのです。そのとき今のサリット総理は富くじ公社の理事長であったわけです。年間二十億バーツといわれているから、大体八十億円くらいは国の収入にならないで、これは自分のふところに入って、自分たちの政権確保にやっていた。そこで、ピブン首相はサリット元帥に、お前は閣議をやめるか富くじ公社の方の理事長をやめるか、どうなんだ、こうして資金を断とうとしたわけです。これは大事なんですよ。資金を断とうとしたら、大臣よりは富くじ公社の理事長の方がいい、こういうので、サリット元帥以下その関係閣僚は自分たちの政治資金が断たれるためにピブンとたもとを分かったわけです。そしてクーデターをやったわけです。ですから、そういう国家企業あるいは民間企業、こういうものについて、この当時サリット元帥はたしか十二から十五くらいのそれぞれの民間会社の社長とか重役をしている。そこで、民間の営利企業参加を禁止されたので、しかも自分の資金が断たれるのでクーデターを行なった。そこで、今まで進んできたピブン元帥と片やパオ警察大臣のあと押しでやっていた日本鋼管並びに丸善石油のそういう石油精製工場は、ピブンがやったんだ、パオがやったんだ、われわれの政敵がやったものについては絶対認めるわけにいかないというのが、ずっと交渉が続けられてきた石油精製工場についてこれが御破算になった点なんです。  そこで、もう一つ問題があるから通産省の方にお尋ねしておきたいのですが、富士車輌とタイの国防省との間の石油精製工場の建設の問題についてお尋ねをしたい。富士車輌の代理店は、サリット元帥、現在のタイ首相のイースタン・インターナショナル・ディベロプメント会社内にある。その富士車輌と国防省とはたしか七十六億円について石油精製工場建設の協定ができた。ところが、この点については、通産省がプラント輸出について許可をしない、日本輸出入銀行はそれについて保証をしない、こういう問題が起きて、富士車輌と国防省との間の石油精製工場の交渉はだめになったわけです。これは、サリット元帥が三十二年の九月にクーデターをやって、翌年の三十三年四月十八日に富士車輌と国防省とはそういうように七十六億円についての石油精製工場の建設に関する協定ができたのに、通産省がプラント輸分を許可しないために御破算になった。そうすると、この第二条の、「合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディット」という点は、通産省がまずこの点は三十三年四月十八日に協定が成立をしているのにこれを許可しないということになったのだが、このことは、私は、今回の九十六億円を無償でよこせという一つの根拠になっているのではないかと思う。この点は、伊藤さん、あなたは通産省の関係の責任者なのかどうか私わかりませんが、三十三年四月十八日サリット元帥が実権を持っている国防省と富士車輌とが石油精製工場についての話をきめたのに、あなたの方でプラント輸出を許可しなかったというのはどういう理由なのか。わからなければわからぬで、わからぬと答弁していただいてもいいですよ。
  143. 伊藤三郎

    ○伊藤説明員 私、当時担当しておりませんが、私の承知しておりますところでは、富士車輌の五千バーレルの精油所の建設は特別円とは無関係と思われる、従って、一般の延べ払い輸出の条件には合わないということで、輸出を許可しなかったというふうに承知いたしております。
  144. 横路節雄

    横路委員 伊藤さん、先ほど私ちょっと読み上げましたタイのサイアム・ニコーンという新聞の昭和三十二年七月一日ですが、「日本政府が保証を拒否したため」、—— サリット元帥が国防省の実権を握っていたのですから、「サリット元帥は内閣及び国防省に対しブラパ・サコン・セタキット会社と富士車輌との精油所建設契約協定の改訂を要求する計画とのことである。陸軍動力局長ナーロン中将は、ワシントンにサリット元帥をたずねた際、日本の輸出入銀行日本政府より保証を得られなかった等の新事態が起こったことを話したと伝えられ」、こういう点がございますが、私がこの問題を取り上げているのは、そのタイにおける石油精製が、片や、ピブンからパオ、これは三十二年九月のクーデターで倒れたが、これをたよってやった日本鋼管、丸善の日本政府からのいわゆる交渉でやった九十六億円の石油精製工場建設はつぶれた。片一方、三十三年四月十八日というと、サリットがクーデターをやって、アメリカにサリットは静養には行っているけれども、先ほどお話がございましたように、内閣は次々にかわったが、サリットが実権を持っていた。そこで、富士車輌がそのサリットが実権を持っている国防省との間に石油精製工場をやったが、これはつぶれてしまった。これは今お答えがございましたが、通産省がこれに対して許可しなかった。輸出入銀行政府から保証を得られなかった。この点についてもう少しつまびらかにしていただきたいと思う。
  145. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 この点は、日本側としては、例の旧第二条で九十六億円の経済協力をやることに政治上約束しようと考えていたわけでございますが、富士車輌の締結しました五千バーレルの精油所の建設は特別円協定の第二条の実施には当てないという意向がタイ側から明らかになった。たとえば、三十三年一月十一日に当時のナラティップ外相から渋沢大使にあてて、国防省は富士車輌に商業ベーシスで五千バーレルの精油所建設の契約を与えようとしたところ、それは日本外務省は、はたしてそれは特別円を利用して特別円のこの協定に乗るものであるかと聞いた趣であるけれども、それに対してタイ側の答えは、精油所の建設計画は特別円とは別個の問題である、こうはっきり申しておるわけであります。わが方といたしましては、これは特別円と別個の協定である以上、今通産省の御説明のありました通り、延べ払い条件として当時適当なものであるかどうか、そういうふうな判定に基づいて支援を与えなかった、これが実情でございます。
  146. 横路節雄

    横路委員 私がお尋ねをしているのは、また私が総理に申し上げているのは、私が申し上げるまでもなく、総理はタイの国情については十分御承知だと思うのです。これは全くタイというのは一部軍人、政治家が一切の企業を独占をしているわけです。これはそれぞれの閣僚で重要企業に参加している者がほとんどであるわけです。ですから、そういう意味で、九十六億円について第二条の条件及び態様に従い云々、石油精製工場について話が一度進展して、先ほど私が言ったように、タイの鈴木商務官が大体まとまるのではないかというような観測等も行なわれたのにかかわらず、これがつぶれてしまったというのは、そういうタイの政治家、軍人と、率直に言えば、日本におけるそれぞれピブンからパオをたよった者と、サリットをたよった者と、そういう関係、これはタイ国内における商社の諸君のそういうつながり等の関係もあって、九十六億円はつぶれてしまった。そこで、今ごろになって、九十六億はあれは無償なんだ、こういうことになってきたのですよ。だから、先ほど総理が言われているように、最初からタイは間違いであった、こういう考え方では全くない。これは現地の商社の諸君はみなそう言っていますよ。そういうタイ国の中における、日本とは全く違って政治家、軍人が国家企業に全部参加しているというタイの特殊な政治情勢、ピブンからサリットに移っていったそういう特殊な政治情勢の中で、この九十六億円が、第二条でせっかくこういう協定がありながら、そういうことになってしまった。今日、人の話によると、サリットは肝臓がだいぶ悪くて、一体いつまでこの政権が続くかわからぬとも言われている。三十年協定でやった、それが政権が変わったら、いやまた違うんだというようなことが、一体今日のタイのこういう政治情勢の中で再び起こらないとだれが言えますか。その点が、普通でない、あたりまえでないということになったのです。いみじくもそう言ったのです。この点どうですか。
  147. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど外務大臣がお答えしたように、一九五五年、すなわち三十年の八月に協定を結んで、その年の十二月に外務大臣とあれが日本へ参りまして、これはもらうものだとわれわれは心得ておる、こう言っておるのであります。それはタイの事情はございましょう。そうして、石油なんかにも、今外務省の賠償部長が言っているように、特別円に名をかりるような格好をして契約しようとした事実もございましょう。そういうことなんで、あなたのように、石油精製工場の話があったからこれは初めから二条の適用を受けてやるんだ、こう考えておると見るか、あるいは、政府首脳部が日本に来て正式に言ったように、これは結んだときは誤解であって、——その直後その年の暮れに結んだ人が来ておるのですから、結んだ外務大臣が四カ月たってすぐまたやってきて、あれは間違いで、われわれがもらうものだ、こういうので交渉を始めておるのですから、私はこの事実を言っているわけでございます。
  148. 横路節雄

    横路委員 総理、三十年の八月ですか、効力を発生して、そうして、すぐその年のうちに来て、あれは間違いだ、こういうことが普通の国ならば言えるでしょうか。また、普通の外務大臣ならば言えるでしょうか。ここに私は問題があると思うのです。この点、今総理大臣もだいぶお笑いのようで、そんなばかな外務大臣なんかあるものではないとお思いだろうと思う。憲法上の手続に従ってやったというのなら、八月に終えて、暮れになってあれは間違いだということでは、話にならぬ。  そこで、お尋ねをしたい。この前お尋ねしたのですが、時間がなくてはっきりしませんでしたから、きょうは重ねて聞いておきたい。当時はタイは王国憲法でございまして、重ねて申し上げますが、この憲法の九十二条に、「諸外国と平和条約その他の条約締結することは、国王の大権である。タイ国領土の変更を規定し又はその履行のために法律の公布を必要とする条約は、あらかじめ、国民代表議会の同意を経なければならない。」、この協定は、タイ国領土の変更を規定し、またはその履行のために法律の公布を必要とする条約ではございません。そこで、この間いろいろお尋ねをしたのですが、これは、いわゆる国王の承認を得ていない。いわゆる国王のサインがない。国王の署名がない。だから、このナラティップ外相は、お前勝手にやったじゃないか、わが国は知らぬぞ、こういうように言われて、全く困りはてて、彼は九月以降から、あれは間違いだ間違いだと、こう言っている。そこで、小坂外務大臣お尋ねをしたいのです。この間お尋ねをしなかったのであなたにお聞きするのですが、いつ、何月何日に国王が署名しておりますか。
  149. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これはタイ側の事情でございますので、私この件に関しては先般申し上げた通りでございます。条約に必ずしもすべて国王が署名するということは、日本の旧憲法の場合をお考えになっても、そういうことでないということはおわかりいただけると思いますけれども、念のためタイ外務省に照会をいたしてみましたところが、先方の答えでは、この九十二条の前段は、後段の立法府による協賛のある場合と対比して、一般的に国王に代表される行政府条約締結権があることを意味したものであって、一般の立憲君主国と同様にこの権限は包括的に政府に委任されている、従って、各協定ごとにそのつど国王の承認行為が行なわれることはない、タイの慣行としては、この種の条約は閣議決定をもって最終的に承認され、憲法上の手続を完了する次第で、三十年協定の際も以上の手続によったということを回答して参りました。三十年協定が憲法上の手続に従って承認を了したことについては、タイ側には何ら疑念はないのでございまして、サリット首相も、当然三十年協定の有効性を認めた上で、この二条協定の改定を求めてきたものであるということでございます。
  150. 横路節雄

    横路委員 小坂国務大臣、今のタイ国の政府というのは、サリットが政権をとったときに戒厳令をしいたままになっているわけです。そうして、タイ王国憲法は停止したままになっている。タイ王国憲法は停止したままになって、そうして臨時憲法がたしかできているはずです。私は、あとで、それぞれの国の憲法上の手続というのではなくて、今度の規定にかわる協定では、それぞれの国内法の手続というように変わった点につきましてはお尋ねをいたしますが、そういう意味で、今お話のございました九十二条は、諸外国と平和条約その他の条約締結することは国王の大権となっておる。この間、あなたの方では、第八条を引用されて、たしか国王は内閣を通じ行政権を行使するという点を引用されているが、林法制局長官のこの間の答弁、ここに速記録を持っていますが、「タイにおいてすべての条約が、日本で言えば天皇のサインを必要とするか、あるいはアメリカの憲法上に示すように、場合によっては、あるものはいわゆる行政取りきめとして内閣の権限に属するか、これはタイの国内問題でございますから、こっちからはわかりません。しかし、いずれにしても、国王の大権であるという手続は了したものだと思うわけでございます。」、こういう答弁をしている。しかし、今の小坂外務大臣の御答弁では、いわゆる国王の大権としての手続は終わっているというようには私どもは解すことができないのであります。その点については、そうでなければ三十年の協定についていわゆる効力が発生したあと直ちに、この協定は間違いだ、九十六億についてはいわゆる投資またはクレジットでないのだ、これは無償なんだ、そういうがんばり方は、先ほどから言っているように、正常な国と国との外交交渉、それぞれの憲法、法律に基づいての承認を与えられたそういう協定について、これが言われるべき筋ではないと思う。だから、そういう意味で、この問題については私どもはそういう憲法上の手続について疑義がある。そういう疑義のあるものについて政府の方で一方的に支払っていったということについては、これはいわゆるまずいやり方である、失態である、こういうように私は言う。いわゆる憲法の手続上疑義があるのにかかわらずこれを行なってきたということは、池田内閣ばかりではなしに、従前の鳩山内閣から岸内閣というものは、そういう意味で重大な失態である、こういうように私どもは考えるわけです。
  151. 池田勇人

    池田国務大臣 憲法上疑義があるというのは、今の外務大臣の答えで、向こう政府がはっきり言ってきておるのであります。憲法上疑義がないものとわれわれは見ております。憲法上疑義がないものを、なぜ、われわれが労務、資材を投資あるいはクレジットの形で供給するというこの二条に対して何を不服を言うのかと言うと、向こうは、間違いました、こう言っておるので、疑義があるからと言っているのじゃない。向こうが、間違いました、こうはっきり言っておるのであります。
  152. 横路節雄

    横路委員 重ねてですが、総理大臣、間違いましたって、何が間違いなんですか。
  153. 池田勇人

    池田国務大臣 それは、外務大臣がお答えしたように、一九五五年十二月に、調印をした外務大臣とリップスという顧問が調印後三カ月か四カ月目に来まして、あれをわれわれはもらうものと心得ておりました、こう来たわけなんです。それがいいか悪いかという問題は、それは間違いじゃないか、君らそんなことを言っても聞かぬ、われわれはそういうことは聞き入れられぬということを言って五、六年を過ごしてきたわけなんでございます。これは、今までの質疑応答でもって、われわれは向こうに疑義があるから向こうが今度申し入れたというのじゃございません。もう調印したその人が、自分はこう思っておったのですから、あれは無償で下さいということを三、四カ月後に言ってきておるのですから。
  154. 横路節雄

    横路委員 しかし、今総理大臣の言われる、間違いだったというのは何が間違いなんです。判をついたということが間違いだったというのか、それとも、第二条について実は投資またはクレジットというのはあれはもらうものだと思っていたというのか。その間違いだということが、いやしくも一国の外務大臣が判を押して、しかも皆さんから言えば憲法上の手続ですよ。そういうものを、間違いましたで済むのですか。一国の外務大臣がそれぞれの国の憲法上の手続に従い、タイの憲法上の手続に従ってやったものを、それを間違いだなんということは、その間違いであるという点はわれわれとしては絶対に了解できない。間違いであるというのは、間違って判をついたというのか、第二条の解釈が全く間違っていたのか、そこの点を明らかにして下さい。
  155. 池田勇人

    池田国務大臣 それは、間違って判を押したのじゃございません。判を押したのは事実が残っているのですから、これは間違いがない。ただ、二条の解釈で、もらったものと思いました、これは思い違いです、間違いです、こう言っているのです。そのことの善悪を言うのじゃないのです。
  156. 横路節雄

    横路委員 しかし、外務大臣、これは総理にお尋ねした方がいいのですが、総理、これはどこに間違うのですか。「日本国は、両国間の経済協力のための措置として、合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディットの形式で、日本国の資本財及び日本人の役務をタイに供給することに同意する。」、この投資及びクレジットの形でやるということを、いやあれはもらったつもりだったんですが、それは大へんですなんと、こういうことを、一国の外務大臣が判をついて、しかも外務大臣が判をついたばかりではないのです。自分の国に行って、そうして憲法に従って手続をやっている。こういうやり方というものはまさに前代未聞です。こういうやり方に対して、総理がこれを認めて、そうしてやるということは、これはビルマの賠償問題その他東南アジア各国に対する経済協力の問題で私は重大な支障になると思うのです。そうでないですか。ここに「投資及びクレディット」というように書いてあるじゃないですか。総理、どうですか。あなた、一国を代表して外務大臣が判をついて、憲法上の手続を終えて効力を発生したこういうものが、あれは解釈が間違っていたなんて、どこに間違いがございますか。
  157. 池田勇人

    池田国務大臣 それで、われわれは数年にわたって、間違いといってもおかしいじゃないかと言って参りました。先ほど申しましたように、その年の十二月二十四日にナラティップ外相は国連総会の帰途来日し、日本政府当局と約一カ月にわたって協定第二条の実施に関し交渉を行なったが、ナラティップ外相及びリップス顧問は、九十六億円は資本財及び役務の無償供与であると主張する、わが方は、本件経済協力は投資及びクレディットの形式で行なわれるものであるから償還を前提とするものであるというので、これでずっとやってきたわけです。そこで、これは間違いでしたと言うときに、間違いだったんだがお前の方の責任だといって、いつまでもほうっておくかという問題。いつまでもほうっておくか、そのときに、向こうが、これは間違いで、とにかく下さいませんか、こう言う場合に、そこがいわゆる大所高所から考えなければならぬというのが日本の置かれた外交でございます。(「越権だ」と呼ぶ者あり)そこで越権と言われるが、私は大所高所で判断して国会の御審議にかけている。こうやった方が、両国間のみならず、将来の日本の発展のためによい。日本ができ得るだけのことをしてやって、タイとの今の経済関係をもっともっと広くした方がいい。私は、十億円の金は国民の税金でございますから惜しゅうございますが、片一方で、一ぺんに九十六億円も出して事業をして、その事業がどうなるかもわからぬ、九十六億円の元も子もなくなるとは思いませんが、なかなかむずかしいことも考えなければならぬし、それならば、金額を少しずつ長い間で払っていった方が国のためにもいいのじゃないか。ことに、一年に二百億円くらいの輸出超過になっている。これを考えると、もしこれをやらずに、二百億円の輸出超過でなしに、日本はトウモロコシを買わなければなりませんが、向こう日本から輸入する一億二千万ドルというものをよその国から買ってきても、お前はおれのものを買わなければならぬという主張はできますまい。こういうことを考えたときに、月に十億円、しかも九十六億円は何とかしてクレジットまたは投資の形式でしなければならぬという二条があることを考えますと、どの道が一番いいかということを大所高所から考える。お前ら間違いだからおれは知らぬということを日本という国は言える立場じゃないんじゃないでしょうか。
  158. 横路節雄

    横路委員 この問題は、今総理のおっしゃるように、大所高所論ということでやるのが至当だという意見には、われわれは賛成できない。なぜならば、この問題は国と国との条約できちっと、「九十六億円を限度額とする投資及びクレディット」と形式的になっている。それを、これは全部払うのだ、こういうことにする。そういう態度は、これからのビルマの賠償交渉の問題や経済協力や、それから東南アジアに対する経済協力の問題で非常に私は悪影響を来たすと思う。国と国との契約で協定できちっとしているものを、こういうように、相手の国が一方的にそういう解釈をしたから、だからそれには従わざるを得ない、そういうやり方は私は不当だと思う。  そこで、委員長にお願いをしたい。これは委員長にお願いをしたいのですが、ほんとうにタイがこの三十年協定は間違っていたと言っているのかどうか、三十年協定の九十六億を投資及びクレジットにする、こういうことは、これは間違いなんだが、間違っていたのだと言うのかどうかは、ちょうど幸い当時のタイ総理大臣であったピブンが新宿区払方町の元穂積重遠邸におりますから、これはやはり国会に一つ参考人なり何なりとして呼んでこの間の経緯を明らかにする必要がある。これは一つ委員長にお願いします。   〔発言する者あり〕
  159. 森下國雄

    森下委員長 理事会を開いて協議をいたします。理事会を開いてよく協議をいたします。
  160. 横路節雄

    横路委員 私の要求についてと言って下さいよ。何の協議をするかわからないですから。委員長、私の要求についてと言って下さいよ。もう一ぺん言って下さい。
  161. 森下國雄

    森下委員長 申し上げます。横路君、委員長が申し上げます。理事間においてよく協議いたしまして、あなたの要求を協議いたします。
  162. 横路節雄

    横路委員 それでは、この点は、今委員長からお話がございましたから、この三十年協定の第二条のこの点は、こう簡単に、相手の国が間違っていた、だから、それを五年しんぼうしたとか六年しんぼうしたとはいっても、それを直していくというやり方は、国と国との外交あるいは条約の問題であるからといっても非常な将来の悪例になるから、そういう意味で、これは今委長長からお話がございましたが、理事会でぜひ一つ特段私どもの要求が通るように御配慮をいただきたいと思います。  そこで、これは外務大臣お尋ねしますが、この今回出されています、特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定の第七条です。今度は、「この協定は、日本国及びタイによりそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならない。」となっている。前には憲法上の手続となっていたが、今度は国内法上の手続というが、日本ではどういう国内法の手続なのか、タイではどういう国内法の手続なのか、その点一つ明らかにしていただきたい。
  163. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お話のように、三十年協定には、「憲法上の手続に従って」と書いてございますし、今回の協定には、「国内法上の手続に従って」承認すると書いてございます。しかし、この間には何ら本質的な相違はないわけでございます。すなわち、三十年協定の際には、タイ王国憲法に条約締結手続の規定が存在したのでございますが、現行の臨時憲法にはこれに当たる規定がございません。そこで、国内法の手続という表現をとっておる次第でございまして、なお、タイは現在条約手続については実際上旧憲法の規定を準用している、こういうことでございます。
  164. 横路節雄

    横路委員 今のお話で、あれですか、外務大臣、これはあと非常に大切なことになるから聞いておくのですが、今のお話では、この国内法の手続というのはタイの王国憲法の規定を引用してやるというのですか。
  165. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは規定を準用しておるわけでございます。王国憲法の規定を準用しておるのであります。しかしながら、現在ある臨時憲法にはこうした手続の規定がないわけです。従って、国内法の手続というふうに書く方が正当であるということであります。
  166. 横路節雄

    横路委員 外務大臣タイ王国憲法は停止しているんですね。これは効力がないんですよ。停止しておる。そこで、今クーデターのもとににおけるそういう政権で、あなたもこの前辻原君に間違ってあと答弁をしているんだが、今の臨時憲法についてはそういう規定がないから、今停止しているタイ王国憲法のその条約締結についての規定を準用するというのですか。あなたの今の答弁ははっきりしないのです。これはあとでまた協定について効力が発生するかどうかというときに問題が起きる。この点について明らかにしてもらわなければならぬ。国内法ならばどういう国内法なのか、その点明らかにしてもらいたい。
  167. 中川融

    中川政府委員 私からかわってお答えいたしますが、今外務大臣の言われた通りでございまして、この点につきましては、今外務大臣の言われた……   〔発言する者多し〕
  168. 横路節雄

    横路委員 委員長、注意して下さい。全然聞こえない。委員長、注意して下さい。
  169. 森下國雄

    森下委員長 静粛に願います。——静粛に願います。
  170. 中川融

    中川政府委員 今外務大臣のお答えになりました通りでございまして、これはタイ政府に念のために確かめましたところ、現在は臨時憲法であって、臨時憲法はきわめて簡単なものであっる、——要するに、新しく憲法を作ることを主として書いておるのでございまして、制憲国会というようなものを書いておるのでございまして、条約の批准あるいは締結にあたりましてどういうふうにしてやるかということの規定を欠いておるわけでございます。従って、臨時憲法には条約締結についての規定はないが、この点は、従来の旧憲法すなわち王国憲法、改正王国憲法、あの九十二条の規定を、要するにタイの慣習法といたしましてこれをそのまま踏襲して条約締結に当たっておる、こういう返事でございます。従って、そういう方法によって向こうは旧協定と同じ手続によってこれを承認するということになるわけでございます。
  171. 森下國雄

    森下委員長 横路君、ちょっと窓をあけて空気を入れます。——では、質疑を続行いたします。   〔発言する者多し〕
  172. 森下國雄

    森下委員長 静粛に願います。静粛に願います。質疑を続行いたします。横路君。
  173. 横路節雄

    横路委員 第七条は、前の協定では、それぞれの国の憲法上の手続、こうなっておるわけです。今度は、それぞれの国内法上の手続によって承認されなければならぬとなっており、これは大きな変わり方なので、従って私がこのことをお尋ねしているわけで、その点は当然この条約について審議をする場合には問題にしなければならないところなのです。特に、私が先ほどお尋ねをした結果、外務大臣並びに条約局長の御答弁では、今のタイの臨時憲法では条約協定についての締結ということについて規定がない、従って、タイ王国憲法の規定を準用するのだ、こういうように私たち聞いたわけです。ところが、タイ王国憲法というものは停止されているわけです。これは廃止と言うのがほんとうはいいのかもしれない。ですから、そういう意味では、この国内法上の手続というのは何か別途に国内法上の手続があるのかどうか、もう一ぺん聞いておきます。
  174. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 今申し上げましたように、現在のタイ条約締結の手続については実際上旧憲法の規定を準用しておる、こういうことを申し上げました。その根拠は何か、こういう横路さんの御質問だと存じますが、これは先方の憲法上の運用のことでございまするが、私ども先方に聞きましたところでありまするが、第二十条に、本憲法の条文に規定されていない場合は民主政体としてのタイ国の行政慣習に基づき決定されるというのがございますが、これによるのであるという説明でございました。
  175. 横路節雄

    横路委員 私は、けさ午前中からお尋ねをしましたが、問題の一つに、昭和二十年九月十一日付のタイ国から日本に対する日・タイ軍事同盟並びにそれに連なる一切の条約協定特別円決済に関する両国大蔵省間協定、これらは全部終止したものとみなすという通告がある。この点について、私どもの考え方は、従って、二十年九月以前のものも全部消滅したのである、なお、敗戦国相互間の請求権については消滅をしている、こういう点が私どもの主張でございまして、それで、当時、——条約局長、おりますが、ここに公にされた本に、午前中に私が申し上げましたように、当時のアジア局の第四課長の服部氏がわざわざ政府側の見解として署名入りで出しているわけですから、従って、先ほど私は委員長に、ぜひ一つ証人として出てきてもらいたい、こういう要求もいたしました。さらに、第二条について、九十六億円を限度とする投資及びまたはクレジット、この問題についてはこう明確になっているのに、これが誤りだった、こういうことは、われわれ普通の外交上の慣習から言ってもそれは了解できないわけです。そういう意味で、当時のタイ総理大臣でおりましたピブンもちょうど東京に来ておられますから、ぜひ一つこれはここに参考人としてお呼びいただきたい、こう思います。その節また、けさから私がお尋ねをしています主張に従ってさらにお尋ねをいたしたいと思いますが、きょうのところは私の質問はこれで終わります。  なお、私の場合は、今のタイ特別円に関する重要な問題と、ガリオア・エロアについては、いずれ機会を改めて十分一つお尋ねをいたしたいと思いますから、よろしく一つ……。
  176. 森下國雄

    森下委員長 了承いたしました。  速記をとめて下さい。   〔速記中止〕
  177. 森下國雄

    森下委員長 それでは、速記を始めて下さい。  岡田春夫君。
  178. 岡田春夫

    岡田(春)委員 私はタイ特別円の問題を質問いたしますが、大体問題の柱を五つくらいに私分けております。そうすると、きょうはとても全部実はやれないわけで、一つの問題を一時間半ずつやりましても約十時間かかるわけで、きょうは理事会の話等によってごく簡単にお伺いをして参りたい。そういう点で、きょうの質問は、横路君の先ほど御質問された問題に関連した点の二、三の点だけお伺いしたいと思うのです。  まず第一点は、先ほどだいぶ横路委員池田総理との間で質疑応答が繰り返されました点ですが、タイ外務大臣のワン・ワイタヤコン外務大臣協定の第二条について解釈の違いがあった、こういうことを言ってきた、こういうお話でございますが、これは、政治的な道義的な問題としては、そういうことについていろいろお話をされるという点はございましょう。しかし、この条約を一度締結をいたしております限りにおいて、そういう解釈の間違いがあるとするならば、それは外交上の問題として、条約上の問題としてわれわれは扱っていかなければならない、こうわれわれは考える。そうすると、そういう先方における考え方の間違いというものは、外交交渉の問題としてお話があったのかどうか、この点をまず第一点に伺いたいと思います。
  179. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私からお答えいたします。先方は、先ほど総理がお答えになったように、八月に批准が終わりまして、直後の十二月に参りまして、あれはもらったものだという趣旨の解釈を言って参りまして、当方は、終始一貫いたしまして、この条約の条文からはこの九十六億円というものは無償の供与ではない、こういう主張をして参ったわけであります。この解釈は池田総理大臣がサリット首相とお会いになりましたときもその通り言われました。先方は条文の解釈上の問題として御提示になるならこれは一言もない、こういうことを言っておるのでございます。ただ、政治上、外交上の観点から何とか一つ考えてもらいたい、かようなことを言ったわけであります。
  180. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これは、今度新しい条約が作られるのについて、この解釈の問題というのは非常に重要な問題なわけですね。従って、条約上において解釈の間違いがあったものであるとするならば、これは正式な外交文書によってこの点が明らかになっていなければならないと思うのですが、これについての外交文書上の手続はどうなっているのですか。
  181. 中川融

    中川政府委員 外交文書上この現行協定の解釈の相違を向こうが明らかにしてきたということは、特に文書として言ってきたものはないように私は思いますが、要するに、外交交渉の段階におきまして、口頭でしょっちゅう向こうはそういうことを言っていたのでございます。それが、外務大臣のただいまお述べになりましたのがそのことを言っておるわけでございます。
  182. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これは、私は、外交文書で来てないとするならば、どういう形で外交上の問題として確認をするかということは重要な問題であると思う。特に、条約局長である中川さんの場合においては、その点を文書上においても明確にしておくことが必要であったと思うのですが、文書がなかったというのならば、どういう形で相手国の考え方を確認するということになるのですか。この点を伺いたい。
  183. 中川融

    中川政府委員 これは、この協定を結びました三十年の十二月にワン・ワイタヤコン外相が来まして、どうしてこの九十六億円の経済協力を現実に具体化するかというそれについて相談したわけでございますが、その際に向こうの言いましたのが、そういう意外なことを言ったわけでございます。こちらは、そういうことはとうてい解釈上承認できない、そういう解釈というものはあり得ないということで反駁したわけでございますので、向こうの間違った解釈を特に文書で取っておくということを特にしていないわけでございます。しかし、こういう会談でこういうことを向こうが言ったということは、ちゃんと記録に載せて、こちらとしては取ってあるのでございまして、その間の事情はその記録でわかるわけでございますが、文書の交換はいたしておりません。
  184. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、今のお話でだいぶ明らかになって参りましたが、一九五五年ですか、五五年の十二月にワン・ワイタヤコン外務大臣が参りまして、そのときの会議の席上、実施細目をきめるための正式の会談の席上において正式の発言があった、これが最初であったと解釈してよろしゅうございますか。
  185. 中川融

    中川政府委員 正式の会談ではございますが、いわゆる会議の形をとった会談ではないのでありまして、ワン・ワイ外相もおつきを一人、二人連れてきただけであります。こちらの方も別に代表団というものを作ってやったわけではございません。外務大臣なりアジア局長なりがその折衝に当たったわけでございます。従って、いわゆる外交交渉でございますが、会議体の交渉ではなかったわけでございます。
  186. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これは重要な点ですが、外交交渉、正式に相手国との関係交渉の席上においての発言である。これはなぜ私こういう点を言うかというと、あなたにしてもわれわれにしても、お互い人間ですから会議以外のときにいろいろな話をする場合もありますね。そういう話をこのときに言ったんだということになると、相手国の外務大臣でも迷惑だということもあるわけです。ですから、ここで外交交渉の席上に明確にされたものか、たとえば一つの例として外務大臣の招待のカクテル・パーテーの席上でそういうことを言ったということだと、根本的にその発言は違うわけです。ですから、私は、外交交渉の席上においてはっきり言明をいたしましたと、こうおっしゃるならば、その点ははっきりしておいていただきたいと思うわけです。ですから、中川さんのお聞きになったのは、私的な会談の上ではなくて、外交交渉の席上において相手国の外務大臣からはっきりとそのような言明があった、このように私たちは解釈してよろしゅうございますかということなんです。いかがでございますか。
  187. 中川融

    中川政府委員 晩飯のときとか、そういう私的な機会にそういう発言があったということではなくて、公式の会合におきまして話し合いの際にそういうお話があったということでございます。
  188. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、もう一点伺っておきますが、先ほど申し上げたように、三十年協定を改めて九十六億円というものは今度は与えるのだ、こういうことになって参りますと、その解釈の問題というのは非常に重要になってくると思う。従って、相手国の外務大臣が公式の発言をしておる、外交交渉において公式の発言をしておる、そういうことになってくると、その公式の発言というものが相手国の合意の上において一致する外交上の一致点を求めておくことが私は必要であったと思うが、この外交上の手続としてはどういうふうにお考えになりますか。
  189. 中川融

    中川政府委員 一致点を求めるという御趣旨がちょっとわかりかねますが、われわれはわれわれの解釈の方に向こうを一致させようとしていろいろやったのであります。ただ、それが一致しないためにこれが五年間続いておるわけであります。
  190. 岡田春夫

    岡田(春)委員 しかし、あれでございましょう、一致しないために交渉したわけですが、しかし、先方の意見がこういう意見であったということは、こういう今度の条約の改定が行なわれて、前は皆さんの方の外務省当局としても、これは、いわゆる投資またはクレジットの形で、簡単に言うと貸すんだ、こういうものであったのが、今度は与えるのだ、こういうことになるわけですね。与えるということはタイ政府の方針通りになったわけですね。とするならば、タイ国の政府がかねがね自分たちの解釈は間違いでありましたということを言っておったことについて、ここで外交交渉上明確にしておきませんと、この点は、あと交渉を進める場合において、実施上の問題になって参りますと、また問題が起こる危険性があると思う。私は外交文書においてその点を確認しておくことが大切であったと思うのですが、なぜそのような手続をお取りにならなかったか、この点を伺いたい。
  191. 中川融

    中川政府委員 昭和三十年当時、われわれは、われわれの解釈の方が正当な解釈である、タイ側の解釈はそれこそ間違っておると考えたわけでありまして、従って、その間違った解釈を確認するというようなことは取り得なかったわけであります。また、そういうことは決して必要なこととは思っていなかったわけでありまして、何かお尋ねは、今度変わりましたことに関連して、今度新しい協定ができますことに関連して、そういうタイ側の解釈が昔からあったならば、そのときなぜその点をはっきり確かめておかなかったかということのようなお尋ねでございますが、そのときは、もちろんタイ側の解釈は採用するというつもりはなかったわけでありまして、五年間その解釈の採用をしないで交渉が続いておったわけであります。今回どうして実質的にはタイ側の解釈と同じようなことになったかという点は、これは、総理大臣が先ほどから申されておりますように、政治的な高い立場からの外交的判断でなされたわけであります。
  192. 岡田春夫

    岡田(春)委員 先ほど中川条約局長は、外交交渉の席上そのような発言があったと言われる。といたしますと、外交交渉というのは、当然、相手の方が話しをして、それに対してあなたの方がお答えになる。そのことについては当然その限りにおいての会談の記録というものがあるのです。こういうことは先ほどお話しになりましたね、条約局長。その会議の記録というものは、その日の記録については両国の間であとで確認をされているわけですね。当然これは確認されていると思いますが、どうですか。
  193. 中川融

    中川政府委員 外交交渉をどんなふうな方法でやるかという問題になるわけでございますが、いろいろのやり方があります。正式会議でありますれば、大体のやり方として、そのときどういうことを双方の代表が言ったかということをちゃんと記録にとりまして、こういうことであったということを両方であらためてそれを再確認するということをやりまして、いわば合意議事録式のものを残すというのが会議体のやり方でございます。しかし、一対一で、たとえば普通の外交折衝をしております際は、なかなかそういうことをするひまもなければ、するのが適当でないということもあるのであります。しかし、必ずそのとき、自分の方はこう言い、向こうはこう言ったということを自分側では記録をとるのであります。同じようなことを大体常識的には相手方もやはり記録をとっておる。その記録をお互いに見せ合って、お互いの確認を得るかどうか、確認を得る必要がある場合に、そういう確認をとることもありますが、大体普通の一対一の外交折衝ではそこまでのことはやらない。自分のところの記録をとっておいて、将来の証拠にしておくというのが普通のやり方であります。
  194. 岡田春夫

    岡田(春)委員 なぜ私この点をいろいろと伺うかというと、こういうことなんです。あなたは御存じのように、翌年ですね、三十一年の一月のたしか九日からだと思うが、二十七日まで、実施細目についての正式会談といいますか、外交会談をやっているわけですね。そういう会談の席上においてその発言があったならば、当然その会談の上における記録というものは合意されて残っているであろう、こういうことをわれわれは考えざるを得ないわけです。ところが、そういう会談ではなくて、今までの中川さんの答弁は、われわれが推測するところ、そういう細目交渉に関する会談以前において、たとえば、簡単に言えば、アジア局長の室に外務大臣が訪れて、その際においてこのような発言があったんだ、そういう程度のものが今残っているんだ、このようにお話しになっているということならば、これは、いわゆる細目交渉に対する交渉の過程でそういう発言があったということとは、これはやや違うわけでございますね。そういう点で、ここの点をはっきりしておきませんと、われわれの方も、今後審議して参ります場合に、この点をいかに解釈するかという点でいろいろ問題が起ころうと思いますので、やや長くなりましたが、伺っているわけなんです。そういう経過をもう少しこまかく、具体的な事実に基づいて条約局長からお答えをいただくならば、大へんけっこうだと思います。
  195. 中川融

    中川政府委員 昭和三十年の暮れから翌年の一月にかけまして、いわゆる実施細目交渉をやろうということで、ワン・ワイ外相がリップス顧問を連れて来たわけであります。それで、暮れから始まりまして、一月の十日ぐらいまでかかりましたか、実施細目の取りきめをしたわけでありますが、これは別に会議体の交渉ではないのであります。向こうから来ましたのも、この二人と、それにこちらにおりますタイの大使が加わりまして、大体三人でやったわけであります。こちらの方も、外務大臣、私、あるいは私の下の課長というようなことでやったのでありまして、会議体ではなくて、従って、今岡田委員の言われましたように、初めは、どう言いますか、非公式の会談をやり、一月になってから公式の会談をやったという性質のものじゃなくて、全部、初めから引き続いて同じ性格の打ち合わせといいますか交渉をやった。それで、双方の意見がどうしても一致しないで、その意見が一致しないままワン・ワイ外相は帰った、こういうのが経過でございます。
  196. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、この問題はあまり重要な問題でもあまりせんから、次に入って参りますが、しかし、池田総理もお聞きのように、これは、外交交渉といえば外交交渉であるかもしれないが、多分に非公式なものの発言であった。この非公式のものの発言を、ことさら非常に大きく強く強調されるということになりますと、特に何か総理が言われたということになりますと、外交上の問題として非常に権威を持つわけです。そういう点から言うと、われわれは、総理がことさらこれを例に出されるということは、事外交上の問題であると、どうかと考える。こういう点から考えて、総理からもう一度この点についての御感想を伺っておきたいと思うわけです。
  197. 池田勇人

    池田国務大臣 私はその当時の手続、形式等は存じませんが、ここでお答えいたしておりますのは、外務省並びに外務大臣の報告を読みまして、そしてお答えしておるわけでございます。
  198. 岡田春夫

    岡田(春)委員 午前中から、横路君の質問に対してだいぶいろいろ重要な御発言があったわけでございますが、この点を二、三、整理、要約をいたしまして伺って参りたいと思いますけれども、第一点としては、横路君の質問の最初の部分で、戦争が開始されると同時に行なわれた日本タイ国とのいわゆる軍事同盟条約、日・タイ同盟条約というものについて、戦争が終わりました年、昭和二十年の九月十一日に破棄の通告があった。従って、これらの同盟条約初め同盟条約関連のある特別円決済に関する協定、これはあのときの破棄通告の文書の中にもありますが、これらの協定は破棄されたものとわれわれは考えていいか、三十年の協定が結ばれた場合においては、それらの政府間協定は破棄されたという合意の上に立って、その上での交渉であり、調印された協定であったのか、この点をまず伺いたいと思います。
  199. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 二十年の九月十一日に破棄の通告があった。従って、日・タイ同盟条約関連する諸協定が廃棄された、こういう前提であと処理はできておるわけです。
  200. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、伺っていきますが、そのときに破棄されました協定は、どういう協定とどういう協定が破棄されておりますか。
  201. 中川融

    中川政府委員 まず日・タイ同盟条約、これは廃棄されております。それから、日本国外務省タイ国大蔵省間了解事項、これも廃棄されております。その次の特別円決済に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間協定覚書、これも廃棄されております。その次の、十七年五月二日付の特別円の金への振替に関する日本大蔵省タイ国大蔵省間了解事項、これも廃棄されております。その次の、特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定、これも廃棄されております。それから、タイ国国庫特別円勘定に関するタイ国大蔵省日本銀行及びタイ銀行協定、これも廃棄されております。大体こういうものが廃棄されております。
  202. 岡田春夫

    岡田(春)委員 では、伺います。これはどうなっておりますか。南方占領地域及びタイ国間交易決済協定、十八年九月十四日……。
  203. 中川融

    中川政府委員 それは、お手元に差し上げました協定集の中には入っていない分だと思いますが、私、その内容を実はよく覚えておりませんので、今ここで、破棄されているか破棄されていないか、ちょっとお答えできかねますが、その内容を見まして、日・タイ同盟条約に付属する協定と考えられれば、これは当然破棄されておると思います。内容を一ぺん見さしていただいた上でお答えいたしたいと思います。
  204. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、答弁を留保されましたから、それは次の機会に御答弁願います。  それから、今の御答弁によりますと、特別円決済に関する日本銀行及びタイ国大蔵省間協定というものは破棄された。といたしますと、先ほども、実はこの点で私は関連質問をやったわけでありますが、中川さんに、これは関連質問の速記録が今その部分だけできましたので、あなたが御発言になったのですから、そのまま私が読んで参りたいと思います。中川条約局長として、このように答弁されております。「これは、日・タイ間の大蔵省間覚書、またその覚書に基づきます日本銀行向こう大蔵省、あるいはあとになりましては大蔵省の仕事がタイ銀行に移りましたが、タイ銀行との間の協定ができまして、その協定に基づきまして特別円勘定というものが日銀に設定されたのでございますが、しかし、この内容といたしましては、貿易勘定も含めまして、軍費調達をも、要するに日・タイ間のあらゆる決済をこの勘定でやるんだ、こういうことでございます。従って、勘定性格といたしましては政府間協定もとにしてできておりますが、日本銀行に置かれます勘定としては、これはやはり一般銀行における債権債務関係勘定である、その性格には変わりないと思うのでございます。しかし、ほかの一般商業上の銀行勘定と違います点は、要するに、これが円ではありますけれども、これを国際決済に使い得る、アジア共栄圏、その当時大東亜共栄圏と申しましたが、共栄圏内国際決済に使い得る、そういう特殊の性格を持った円である。そこが違うのでございまして、その違う性格は、やはり政府間の取りきめであるということから出てきておると考えるのでございます。」ということで、私が今度は重ねて質問をして、「長々と御説明になりますが、要するに、私の質問に答えていただけばいいので、勘定それ自体は、中川さんお話しのように、これは商業勘定ではなくて政府間協定に基づく勘定である、そこへ出てくる金額というのは貿易決済その他もあるが、これは商業上の貸借関係である、こういう意味のことをお答えになったのでございますか」と私が聞いたのに対して、中川政府委員は、「大体要約すればそういうことになります。」、こう答えておりますね。そうすると、先ほどの政府間協定との関連において私の伺っておきたいことは、日銀における特別円という勘定それ自体というものは政府間協定である、その点はあなたは私の質問にそうだとお答えになった。これは協定の破棄によって当然この勘定それ自体は破棄されたとわれわれは解釈すべきである。そういう解釈として先ほどの条約局長答弁は受け取ってよろしいかどうか、この点を伺いたいと思います。
  205. 中川融

    中川政府委員 この日本銀行に残りました十五億円の勘定というものは、もと政府間協定というものから生まれてきたものであるということはその通りだと思います。しかしながら、それがもと協定がなくなったから生まれた子供の方も全部なくなってしまった、こういう結論は御賛成できないのでありまして、もとの親の協定はなるほど九月十一日をもって効力を失うわけでございますが、生まれた子供の勘定の方はやはり残っておるのでありまして、日本銀行帳簿には厳然として残っておる。従って、やはり債務というものは依然としてそこにあるんだ、こういうことがやはり正当な解釈であると思うのであります。しかしながら、先ほどから商業勘定というようなこともいろいろ私の答弁でありましたが、その趣旨は、やはりその当時の大東亜共栄圏国際決済に使えるという特殊の性格は、もとの親の協定がなくなりましたから、その性格を親の協定に基づいて債権者であるタイ側が主張することは九月十一日以後はできなくなったわけでありますが、残っておるその勘定自体は依然として残っておる。これは、商業勘定銀行における普通の勘定と少なくとも同じ程度の効力を持って残っておると見ざるを得ない、こういうのが政府の一貫した立場であると思います。
  206. 岡田春夫

    岡田(春)委員 私は残っているとか残ってないとかいうことを聞いているのじゃないのです。あなたが先回りして言うのは言ってもいい。あなたの御感想ですからいいけれども、私の言っておるのは、必ずしもあなたの発言を否定しているのではない。特別円勘定という勘定それ自体条約の破棄によってなくなったのでしょう。あなたは十五億という金額勘定という言葉であいまいにしようとされておるわけです。そのお金の金額それ自体は、これを払うべきか払わざるべきかということは、私がこれから質問すべき問題です。しかし、問題は、勘定それ自体はなくなったんだ、政府間協定がなくなったのですから、勘定それ自体はなくなったと解釈せざるを得ないじゃありませんか。あなたの今の御答弁、長長といきさつを言われるが、条約上の御答弁でお話し願いたいと思うのですが、条約が破棄になったから、その勘定それ自体、その費目それ自体はなくなったということじゃありませんか。そこで貸借関係があるかないかは別問題ですよ。これは私がこれから議論する問題ですが、条約上から言えばその勘定それ自体はなくなったということになるのじゃありませんか。どうですか。
  207. 中川融

    中川政府委員 日本銀行帳簿がありまして、その帳簿タイ政府の名義でお金が書いてあるわけであります。その帳じりが十五億というものが書いてあるのでありまして、これを私は勘定と言っておるのでありまして、この勘定はやはり現実に残っておるのでありまして、ただ単に十五億という数字が書いてあるのではなくて、タイ政府を債権者とする格好で勘定帳簿にちゃんと残っておる。これは現に残っておると見ざるを得ない。これがたくなったとは言えない。なくなったのは、これが国際決済に使われるという特殊な性格が援用できなくなった。そういう意味では性格が変わったと言えましょう。しかし、債務といいますか、勘定はやはりそこに厳然としてある、こういうのが政府の立場でございます。
  208. 岡田春夫

    岡田(春)委員 私がなくなったという言葉で言ったからといって、あなたそこら辺に藉口して言われるが、まさか勘定がなくなったから日本銀行帳簿にあるのを消しゴムで消したと言っているのじゃない。一切の効力を失ったということを言っている。私の言うのは、政府間協定に基づいて権利義務というものは喪失したのだ、こういうことを私は言っておる。金額はあってもその権利義務関係というものが喪失をしたのだ、そのことを言ったので、消しゴムで消したということを言っていはしない。それは、勘定という名目で言おうと金額という名目で言おうと、そんなことはどっちでもいい。私の言っておるのは、債権債務関係がなくなったのだ、それは条約それ自体がなくなったからなくなったのじゃないか、こういうことをさっきから申し上げておるじゃありませんか。  総理大臣、あなたは数字にも詳しい方ですし、この点は一つ総理大臣から統一された見解を伺っておきたいと思います。
  209. 池田勇人

    池田国務大臣 今の特別円決済勘定、いわゆる特別円勘定というのは、出入りでございますね。出入りをする口座がなくなったけれども、特別円勘定じりというものは残っておるわけです。私はあまり詳しくございませんが、そういうことで、これからは、これにどんどんつけるぞ、日本が払うときには借り方です、日本が物を買ったときには貸し方につける、こういう約束の勘定というものはなくなった。今までのしりは残っておると私は思う。だから、今までのように、タイから買ってきたのは貸し方につけるし、日本が払ったものは借り方につけるという勘定はなくなった。しかし、今やめましたが、やめたからといって、消しゴムで消したというのではなく、しりはまだ残っておるということであります。
  210. 岡田春夫

    岡田(春)委員 池田総理大臣のお考えのことはよくわかりました。今池田総理が前段に言われたように、戦争中のように勘定それ自体が動いておるということは、これは停止しますね、破棄ですから。これはお説の通りです。しかし、問題は、あなたはしりという表現を使ったが、帳じりということになるわけだから、それでいいと思う。この帳じりのしりの金額の数字ですね。これは、あなたの御解釈だと、そのしりそれ自体は法律的に有効なんだ、こういう解釈をおとりになっておる。ところが、われわれから言うと、そういう変動をして動いてきた結果は、政府間協定に基づいて動いてきたのではないか。その政府間協定それ自体が済んでしまったのだから、一応破棄されたのだから、そのしりの方も当然それによって債権債務関係というものはなくなったのではないか。特に、この債権債務関係というのは、国内上の帳じりということ、これは総理の得意の方のあれですが、国内上の帳じりということならばそれは言えるかもしれない。しかし、国際関係の権利義務に関する基本条約について、いわゆる権利義務の関係向こうから破棄したということになって参りますと、国際間の貸借関係というのは同時にそれで破棄されたと見るべきではないか、国内上の帳じりはあっても、国際間というものはないことになるのではないかという解釈もできるわけです。その点について総理大臣の御意見を伺いたい。
  211. 池田勇人

    池田国務大臣 国内的に申していきましょう。あなたと私とでいろいろ取引しまして、この勘定はA銀行の帳じりで整理するようにしましよう、こういう契約をします。しかも、その分は、円がデフレートしてはいかぬからアメリカのドルにリンクしよう、こういう契約をしておるわけです。それで、物を買って払ったりしておる。そして、そういう買って払い買って払い、帳面でツケでやることはやめようということになった。そうすると、そういうツケの取引はやめましたけれども、過去において私があなたから物を買って、そして金約款の条件をつけた分を、あなたが破棄したからといって、それなら今までの分も全部おれは払わぬぞ、十五億借りがあるけれども払わぬぞ、それで通りますか。通らぬでしょう。そこで、国際間におきましてもタイがああいうことを言ったからといって、君はやめたんだからおれは今までの分は払わぬぞと言ったら、不当利益になる。そういうことは良識だ。敗戦国の間は全部だめだということは、これは何か服部君が言ったとかいうお話ですが、これは国際法の原則があるわけじゃございませんよ。お互いの考え方でやるのであって、向こうが破棄したから、前のいわゆる勘定じり、帳じりも全部破棄したんだというのは、少し虫がよ過ぎて、そういう議論は日本タイとの間には通らぬのじゃないか。詳しくは法制局長官からもっと法律的に答弁させます。
  212. 岡田春夫

    岡田(春)委員 総理の御答弁で国内の例をお使いになりましたから、私も国内の例でやりましょう。この点も、今あまりこまかくやるつもりはなかったんだけれども、総理が、国内で、あなたと私、——あなたが私にお金を貸すなんて珍しいことだけれども、(笑声)えらいことなんだけれども、しかし、貸すといったって、私は、あなたから、自民党の総裁からは借りませんよ。その点は余談だからいいです。それでは伺いますが、これについて、途中であなたが打ち切ると言いますね。そのときに、打ち切るが、残額はこれだけ返して下さいよということを言うのがあたりまえじゃありませんか。国内関係ならそうでしょう。ここで帳簿は打ち切りますよ、それなら、あとは残額十五億円あるから、いずれはいただきますよと言うのがあたりまえじゃないですか。そうでしょう。それを、破棄通告のときには、十五億円いただきますよという何らの通告タイからはなかったじゃありませんか。破棄通告は何も言ってないですよ。勘定を破棄しますということを言っただけです。十五億円は留保するということは、そのときに国際間で言わなければならない。これは言ってないじゃないですか。
  213. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、今までのように、ツケ勘定でいきましょう、この口座にやっていきましょう、この口座のやり方は、同盟条約を結んで戦争しておるときのものだから、こういうツケ方は、やり方はやめましょう。そのときに、あの十五億を返してくれと言わなかったから、君は債権を破棄したんだ、これは私はちょっとどうかと思います。
  214. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これは条約解釈ですから、私はこういうことを言っておるのです。いわゆる世人の常識上の問題を越えているのです。これは国際間の関係ですから、破棄通告をして、その場合に、債権の請求権の留保をしてないところにむしろ問題がある。問題はそこにあるんですよ。ここに松本俊一さんという優秀なる外交官もおられるが、請求権については、破棄宣言通告をすると同時に請求権の留保をするのは、これは国際法上常識ですよ。通念ですよ。そういう点、請求権については破棄をしますということを言いながら、あなたのおっしゃるように、どこか一ぱい屋に飲みに行ってツケで貸してくれ、ツケの勘定はここで打ち切ったんだから、あとどうされるというような、国内で一ぱい屋で飲んだときの話を国際間に使われたら、われわれは困る。国際間においては、請求権の留保というのは当然あるじゃありませんか。その証拠に、どうですか、ここに松本俊一氏もおられますが、同じだなんておっしゃるけれども、先ほどの配付された金塊の資料なんかについても、〇・五トンはイギリスに行った。イギリスに行ったときに何と言っていますか。これは占領中ですよ。タイは、イギリスに行った分については請求権を留保しますとはっきり言っている。請求権を留保するということははっきりしているから、今払わなければならぬのでしょう。条約の破棄の宣言をやっておりながら請求権の留保をしなかったら、これは条約請求権に対して留保というものは行なわれていない。条約上そうなる。あなたは国内上の飲み屋に行ったときのツケの勘定の式に国際関係を言って、あなたそればかり言っているとは思わないけれども、国際間の条約においては、先ほどタイの金塊の〇・五トンの例を考えてもおわかりの通りに、請求権がある場合には、請求権を留保しますとはっきり言っている。今度の場合は請求権の留保をしていない。これは一体どういうわけか、伺いたい。
  215. 池田勇人

    池田国務大臣 そのこととは内容が違うじゃございませんか。タイのものを日本がよそにやったというときには請求権を留保します。タイに返るべきものをよそにやったときには、タイは自分のものだからというので請求権を留保するのは当然のことでございます。ただ、今のは、特別円勘定という決済方式の条約でございましょう。特別円勘定というものは決済方法であって、権利の得喪の問題じゃないでございましょう。確認の方法の問題でございましょう。だから、この勘定の仕方の方法をやめようというときに、今まで発生した債権債務が、勘定の方法をやめるからといってそれがすぐなくなるという解釈は出てこない。
  216. 岡田春夫

    岡田(春)委員 総理、もう一点だけ伺います。その点は、それにしても、タイ国から見れば、これはタイそれ自身のものと思っているわけですよ。当然そうでしょう。だから、金魂と同じことですよ。向こうから見れば、当然同じ請求権があると思っている。それじゃなぜ請求権の留保をしていないか、こういう問題がある。同じことじゃありませんか。これとあれとは違うのだということは答弁にならないですよ。
  217. 池田勇人

    池田国務大臣 十五億円の特別勘定のうち、日本が一方的にその十五億円を十四億円として特別勘定をよそにやったとしたら、向こう請求権を留保します。よそにやらない、帳面についた帳じりをそのまま置いておるのですから、向こうは別に請求権の確認の訴訟も何も起こしません。これは当然でしょう。
  218. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これはまだ私は納得いたしませんが、留保いたしておきます。  続いて、先ほどから勘定残高十五億あったという話を再三答弁されるわけです。これは総理じゃなくて事務当局に伺いましょう。この勘定残高十五億というのは、中川さん、これは戦争中の軍費の残でございますか、何でございますか。
  219. 中川融

    中川政府委員 十五億円は、軍費のほかに貿易じりその他あらゆる決済が入っておるわけでございますが、分量から言うと、軍費が結局その非常に大きな部分であるということが言えると思います。
  220. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、軍費軍費以外のものとの比率はどのくらいになっておりますか。
  221. 中川融

    中川政府委員 実際の割合は、大体九割五分程度軍費でございます。
  222. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、十五億円の中で、軍費は九五%、残る五%、約七千五百万円が貿易上の決済であって、十五億から七千五百万円を引いたものが軍費である、そういうことでよろしゅうございますか。
  223. 小田部謙一

    ○小田部政府委員 前に申し上げました通り、その十五億円のうちの十四億幾らが軍費でございまして、その他は貿易じりとかいろいろなその他のものからなっておるわけでございます。
  224. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、十五億円の大半が軍費であった、こういうわけですが、この点に関連してもう少し質問して参りたいのですけれども、これをやっていると、あと五時半までというのでやれませんから、ほかの前提の問題に入っていきます。  先ほど配付されました資料を拝見しますと、これは資料を見なくてもわかりますが、協定の中で第三条に関する部分、第三条の(1)、(2)、(3)は当然請求権があったということですから、これらは戦争中のものであるけれどもこれは請求権は持っておった、有効である、政府間協定に基づいて無効になったが、この書簡並びにこれらの請求権ですか、これらの点は協定上有効である、第三条の(1)、(2)、(3)、これらはすべて、具体的に申しますと、ここにある第三条の第二項、(a)(b)(c)という書簡がございますね、これは有効である、こういうように法律上、条約上有効であるということに解釈して決済されたわけなんでございますね。その点はどうなんですか。
  225. 中川融

    中川政府委員 現行協定の第一、第二、第三各項に掲げてありますタイ側請求権、これは有効であるということで、この三つの項に掲げております請求権を、タイ側はこれで満足したということで、これに対する権利を放棄しておるのでございます。なお、念のために、この第一項でございますが、これはいろいろ大蔵省間の協定とか大蔵省銀行との間の協定とか掲げておりますが、これはその協定が有効であるというのではなくて、その協定に基づいて日本銀行に設けられておるその勘定、その勘定に対する請求権であります。
  226. 岡田春夫

    岡田(春)委員 わかりました。それでは、三条の一項は、その勘定が有効である、それから、三条の(1)、そういう特別円勘定勘定が有効である、それから、(2)は、この書簡それ自体が有効である、書簡に基づく債権債務ですか、そういうことになりますね。
  227. 中川融

    中川政府委員 そういうことでございまして、このおのおのの項目に基づくタイ側請求権というものをここで有効と認めて、これを放棄させておるわけでございます。
  228. 岡田春夫

    岡田(春)委員 (3)の金未引渡分に対するこれも有効である、こういう解釈になりますね。
  229. 中川融

    中川政府委員 そういうことでございます。
  230. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、よくわかりました。そうすると、第三条の(1)、(2)、(3)は、ただいま条約局長の言われた通りに、有効であったものとして、請求権があるものとして交渉がされて妥結された、こういうことに解釈してよろしいか、この点重要ですが、もう一度確認願っておきます。
  231. 中川融

    中川政府委員 その通りでございまして、その三つが合わさりまして、五十四億円というものになったわけでございます。
  232. 岡田春夫

    岡田(春)委員 わかりました。それから、先ほどの、これは古い協定だからちょっとあれなんですが、先ほどのお話では、あなたの御答弁では、同盟条約協定覚書並びに金への振りかえに関する了解事項決済に関する了解事項、これら、いわゆる金約款に関するものも破棄されたと解釈してよろしいのですか。
  233. 中川融

    中川政府委員 金約款に関するものも九月十一日をもって失効した、かように考えております。
  234. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、三十七億の算定というのは、金約款に基づくものではない、——いわゆる四千四百万円ですね。先ほど横路君が朝からだいぶやったその点を、時間がないから要約して今申し上げているのですが、五十四億円の算出の基礎になっている三十七億円、この三十七億円はどうして出てきたかというと、四千四百万円という金売却分の未引渡分というか、未決済分ですね、この四千四百万円が三十七億円になったというのは金約款の適用ではない、こういうように解釈してもよろしゅうございますか。間違いございませんか。
  235. 中川融

    中川政府委員 九月十一日をもって失効した金約款を当てはめて三十七億というのを出したのではないのでありまして、そのもとになっている契約自体に、すでにその金を売るということになっております。幾らで売るということも書いてあるわけでございます。それに基づきましてこの計算をしたわけでございます。
  236. 岡田春夫

    岡田(春)委員 これらの点、今までの点、私これから質問を続けて参りますために重要な基礎的資料になる点でございますので、ただいま御答弁になりました条約局長答弁は、外務大臣、再度確認しておきますが、間違いございませんか。
  237. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 確認をいたします。
  238. 岡田春夫

    岡田(春)委員 委員長、これから私発言して参りますと、途中とめないで約二時間やりたいのです。というのは、一つの問題に大体二時間ほしいのです。ですから、もし自民党の諸君に御同意をいただけるならば、きょうはここで切りまして、実はあとで重要な理事会もございますので、切りまして、また、総理もだいぶお疲れのようですから、あとであらためて総理に御出席をいただきまして質問を続行いたしたいと思います。
  239. 森下國雄

    森下委員長 本日はこれにて散会いたしますが、念のために申し上げておきます。理事会を開きますので、理事の方はお残りを願います。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時七分散会