○千田正君 私は、一昨日行なわれました
池田内閣総理大臣並びに水田、小坂両
大臣の所信表明の
演説に対しまして、いささか時間がありませんが、重点的にお尋ねいたしたいと思うのであります。
特に私は、
池田総理は、その所信表明の中で、
わが国外交の基調である国連
中心主義外交に触れ、自由
国家群に属しながら、同時にまた、AA諸国の一員であるということを自覚し、より高次の理念をもって臨むと述べておられたのであります。ところが、昨日から今朝にかけまして重大な発表がなされていることは、
諸君も御承知のとおりであります。それは、
池田総理書簡に対するフルシチョフ・ソ連首相の返書に、われわれとしては無視黙過できないところの領土問題についてのきわめて重大な発言が含まれているということを見ましたときに、今まで
日本政府が主張しておりました点と、ソ連フルシチョフ首相の答えた点との間に、重大な食い違いがあるということをわれわれは見ましたときに、いささかこの点について納得のいくように、
総理大臣から
国民に表明していただきたい、この点についてお伺いしたいのであります。
フルシチョフ首相は、その返書の中で、
日本の領土は今までの国際協定に基づいてすでに確定しており、ソ連から返還すべき何ものもない。日ソ平和協定を結んだ後に領土問題を解決すべきであるという
日本側の
見解は何の根拠もない。
日本側が領土返還を主張するのは、日ソ
関係をいたずらに悪化させるだけであるとして、サンフランシスコ条約をたてにとり、領土問題に関する論議は一切無用という主張を述べ、さらに、
日本国内に、ソ連、中国を目標としているアメリカの
軍事基地が存在することを強調して、ソ連はこれに無関心ではいられないと主張しているのであります。
そこで、私は
総理大臣にお伺いいたしたいのは、まず十六年前の敗戦により受諾したところのポツダム宣言に照らし合わせまして、千島列島の帰属問題の正しい解決は何であるか、
政府のはっきりした
見解と態度を表明していただいて、
国民に納得のいくような御所信を発表していただきたい。
次に、ヤルタ協定について、
日本政府は関知しないという態度をとっておるのでありまするが、フルシチョフ首相の言う国際協定の中には当然ヤルタ協定が含まれており、
政府が一方的に関知しないと主張しても、それがソ連のいれるところでない限りは、単なる水掛け議論となって、終始日ソ国交の上に大きなみぞが今後残されるであろうということをわれわれは懸念するのであります。この点についてはどうお
考えになりますか。また、サンフランシスコ平和条約によって、
日本の領土問題について、特に問題となっている千島列島の問題について、対米
関係に関しての入領土権の問題は解決し、ソ連に対しては依然として領土権の主張をしておるが、この問題については、ヤルタ協定及びサンフランシスコ平和条約の領土権の問題についての明確な態度を重ねて
国民に表明する必要があると私は思いますので、
総理大臣から御表明をお願いしたいのであります。さらに、次に一九五六年九月の日ソ交渉にあたりまして、
日本側の松木全権とソ連側のグロムイコ外務次官との交換文書によれば、当時合意に達しなかった領土の帰属問題については、明らかに日ソ平和条約締結に際してのときに、あらためて
協議の上決定すべき旨の一項があるのでありますが、このときのソ連との確約をはっきりさして、真の解決をはかるべきではないだろうかと思われるのであります。
しかし、国連
中心主義外交のみを唱え、相次いで提起される対ソ外交をなおざりにすることはでき得ない。私は、昨日の
総理大臣の御
説明の中に、ソ連などは――まあ、ある程度ソ連の主張をおそれるに足らないと、これはごもっともで、われわれも大いに同感であります。しかしながら、おそるるに足らないとするならば、それだけやはり
日本の主張はあくまで主張しなければならない。同時に、
国民にそういう心がまえを植え付けるだけの納得のいくような表明を
総理大臣は確信をもってなさるべきであると思うのであります。でありますから、この際この点についてあらためて、重大な段階に来ておりまするから、御表明をお願い申し上げたいと思うのであります。
次に、私は先般参議院から派遣されましてヨーロッパ諸国を回って参りましたが、その際に特に
考えましたのは、世界の
経済は新しい段階にもう突入しておる。今までソ連とアメリカだけの二大強国のいわゆるリードによってなされたがごとく見えておったところの世界
経済、あるいは
政治外交という問題は、新しい段階に入ってきた。それは何かというと、これは私が申し上げるまでもありませんが、東西ベルリンの緊張にいたしましても、国連での論争にいたしましても、その基礎的背景には必ず
経済問題があるのであります。特に第二次大戦後におけるところの欧州諸国が、
米ソ二大国に対して、新たに第二
経済圏、ひいては欧州連邦的
政治外交の連携をはかる基礎として、欧州六カ国の共同市場が誕生して以来、目ざましい進展ぶりを示してきているということは、すでに
総理も、また水田大蔵
大臣も、十分に御
認識のことと存じます。私が詳しく申し上げるまでもなく、
石炭鉄鋼共同体の過渡期間における経験にかんがみまして、あらゆる産業部門の共同により、西ドイツ、フランス、あるいはイタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ等の六カ国は、自国産品の市場を
確保して、さらに強化
拡大するとともに、新たなる原子力の平和利用はアメリカやソ連のみの独占ではならない、われわれは小さいながらも、一国の力ではとうていこの
米ソ大国に列することはできないから共同の力をもってこれを解決していこうというような共同体制のもとに、第三勢力として世界の
経済界に大きな地歩を占めるようになったのであります。共同圏内における相互の関税障壁の撤廃や、あるいは圏外貿易におけるところの高率関税の設置、
労働力及び資本の移動協力、
投資基金制度の設置等々、まさに欧州
経済共同市場は新たなる脚光を浴びて、新しくヨーロッパあるいは東南アジアあるいはアフリカ等に伸びようとするわが
経済外交の前面に、大きな力をもって立ちはだかってきたということを
考えますときに、これらに対しまするところの
日本の新しい
経済外交を生み出さなければならない。これに対するところの確信ある御所信を承りたいのであります。
特に最近に至りましては、この共同市場はイギリスがさらに参加する、いわゆるEFTAを解消して新しく英国が共同市場に参加しましたときに、その目標とするところは単に
経済共同ではなくて、第三勢力としての
政治外交の共同へ持っていこうとする、ソ連とアメリカの二大勢力の間にくさびを打ち込もうとする新しい
政治分野が世界の上に台頭してきておるということを
認識しながら、
日本の
政治外交をもっていかなければならないということに直面して参ったといわざるを得ないのであります。こういう問題に対しましてどういうふうにお
考えになっておるか。
これに引き続きまして、私はこれに関連しまして、欧州諸国の共同政策と
日本の貿易の上に最大の難関とされておりますところのガット三十五条の問題――昨日も
総理大臣並びに水田大蔵
大臣からお話もありましたが、われわれの貿易政策の前面に立ちふさがるのはガット三十五条であります。これをどういうふうにして撤去するか。われわれは、国内の輸出入の問題、そういう問題について真剣に論議すると同時に、国外においてはわれわれ
日本の進出をはばむような問題が起きておる。その底辺には、大きなヨーロッパの共同市場、こういうものが現われてきておるということを
考えましたときに、これを突破するにはどういう手段に訴えてこれを突破していくか。
こういう状況のもとに、最近新しく唱え出されておるところの第四
経済圏という問題が起きておるのであります。それはEFTAによって解消されようとしているところのイギリス連邦の多くの国々たとえばカナダ、あるいは豪州、ニュージーランド、こうした太平洋に面するところの国々が、
日本を主体として第四勢力を結集して新たに
政治外交の面まで押し出していこうじゃないかという空気が、最近世界の
経済界の一面において行なわれようとする声が、高らかに唱え出されておる今日におきまして、
日本経済の進出と、また
政治外交の一場面の進出の面からいいまして、新たなる観点に立って
日本経済の外交を進めなければならないと思いますが、それに対しまして、
総理大臣並びに
外務大臣、貿易等に関しましては
通産大臣から、御
意見を承りたいと思うのであります。
第四に、私は、
岸内閣から引き続きまして
池田内閣の成立を見てから、日中間の問題が前向きに進むかの感じがあったのであります。昨日も
総理大臣からは、親近感を感ずると、あるいはいろいろな面においてそのニュアンスを含むお答えがあったのでありますが、現実の問題におきまして、今後の輸入抑制政策にからんで、今まで行なわれておりましたところの、ささやかではありまするが、日中貿易というものが、あるいはここでさらに抑制されるのじゃないか、もっと進む一つの
考えをお持ちじゃないか、あるいはこの中国の問題に対して、一応は外交問題として国連の舞台においていろいろな課題を解決しなければならないでしょうが、その裏づけとしての面としましては、日中貿易等については、むしろ進んで、輸出あるいは輸入の面において、
政府が、表面からでもなく、特別の力を入れて、その親近感の実際の裏づけをしてもいいではないだろうか。この点につきまして
総理大臣のお
考えと
通産大臣のお
考えを承りたいと思うのであります。
次に、国際収支の赤字解消について、
総理からたいへん強気の御
見解の表明があったのであります。ともかく先般の
貿易自由化措置の促進によって新しい段階に入ったと思われるのでありまするが、この赤字問題は、
日本経済の赤信号を直接表示するものとして、多くの識者の憂えるところでありまして、これが
対策に
政府も苦心と努力を払ってきたであろうことは容易に想像もできるのであります。その主要な
対策は、一方では輸入制限措置をとりながら、もう一方では貿易の自由化を断行するという、実際的効果という面から観察するならば、全く相反する効果が生まれてくるおそれがあるのであります。しかも、どろなわ式に急いで実施するということは、それ自体、はなはだ矛盾した政策ではないでしょうか。この点について、輸出の伸びが期待するほどには少しも進捗しない。五月以降の赤字の累積する状況にあるにもかかわらず、この悪条件を少しも顧みることなく打ち出された貿易の自由化促進政策は、タイミングにおいて非常に悪いではないか。
経済的
理由に基づく措置というよりも、むしろ
経済外のある種の
理由に基づく措置ではないかとさえ
考えられるのであります。その結果として、現在以上の赤字の累積を招くであろうということは想像にかたくないのでありますが、この点について、
政府のあまりに楽観したお
考えではなく、真剣に、矛盾撞着のない――一方においては輸入制限をし、一方においては貿易の自由化ということを唱えられる現
政府のこの矛盾を調整していくという――はっきりした確信のあるところの所信を御表明をいただきたいのであります。
最後に、私は農業問題について農林
大臣にお伺い申し上げたいのであります。前国会において農業基本法の成立を見たのでありまするが、これが
審議にあたり、私は、かつてこの議場から、
政府及び
自民党がいたずらにみずからの提案のみに固執することなく、少数
意見であっても識者の論評によく耳を傾けられんことを切望いたしたのでありますが、
審議の過程は必ずしも満足すべきものではなかったことを遺憾とするものであります。同時に、基本法に関連する幾つかの法案が、会期末において突如として問題にされた
政防法案のために廃案に終わったことは、
日本の農民
諸君とともに全く遺憾千万と申さざるを得ません。もっとも、そのうちの幾つかは今国会に再提出されるごとくでありまするが、それ以前に、当然基本法に従って、
政府が長期間にわたる農業発展
計画を樹立して、六百万耕作農民が意を安んじて農業に従事し得るように措置をとることを期待していたのでありまするけれ
ども、第三次
池田内閣の成立後、いわゆる
河野構想として伝えられますところの食管制度
改善に基づく問題、この問題について、農業の総合的発展
計画を欠除した米麦
生産だけを問題にした
河野構想は、行きつくところ、食管会計の赤字を補てんする程度の問題に還元せざるを得ないではないかということの杞憂を持つものであります。ぜひこの点は、農業
計画の長期
計画の根本的問題であるという着想であるならば、そこに、はっきりした観点を
国民に示してもらいたい。産米についての無制限買い入れ方式と自由販売化は、おそらく農林
当局の期待するように、品質
改善と、需要の変動による他の農作品種への自然的転換をもたらすものではない。