○矢嶋三義君 私は、ただいま
議題となりました
国立工業教員養成所の
設置等に関する
臨時措置法案に対し、
日本社会党を
代表して反対の討論を行なわんとするものであります。
本
法律案の
内容は先刻
委員長から報告された
通りのものでありますが、反対の第一
理由は、戦後十六年にしてようやくその成果をあげつつあるわが国の新教育
制度、新教員養成
制度を破壊し、混乱せしめる
内容を持ち、教育の質的低下を招来するおそれがあるということであります。すなわち、社会の高度化と教育、文化、学術の進展に即応する高水準の知識と、人間性豊かな教員養成のために、一般教育科目、基礎教育科目を重視し、四年制の大学の中で教員養成を行なうという大原則のもとに現在まで参ったのでありますが、本
法律案は、修業年限を三年間に短縮し、基礎教育科目をわずかに十七単位とし、人文社会科目、保健体育科目等は、必修としては一単位をも修得しなくともよろしいことになっておるのであります。教師としての人間形成に欠けるところはないでしょうか。科学技術振興のテンポの早い科学時代、宇宙時代に、発展性あり、創造性豊かな中堅工業技術者を養成することのできる優秀な工業教員が、かくのごとき
内容で養成され得るものでありましょうか。将来、工業高等学校の教育水準の質的低下を招くおそれが多分に感ぜられるのであります。教育職上きわめて重要な現行免許法に照らして、二級普通免許状さえも付与できない
内容でありますから、便宜的に免許法そのものの一部を
改正して、二級免許状を授与せんとするものであります。現行教員免許
制度の原則をも破壊するものであり、以上が第一の反対
理由であります。(
拍手)
反対の第二の
理由は、有能な人材が魅力を感じて応募して参る
内容を具備していないということであります。すなわち、本養成所は、学校教育法に基づく大学でないことはもちろん、学校でもなければ、
各種学校でさえもないのであります。そんなところで人の子の先生を養成してよろしいものでございましょうか。もちろん、大学への進学の進路は開かれておらず、また、授業料全免
措置や学費貸与の特別
措置等もなされていないのでありまして、従って、優秀なる人材を工業教育界に確保するととに欠けていることを反対
理由として指摘するものであります。
反対
理由の第三は、工業教員の確保が意のままにならない、その根本
原因排除の方策が講ぜられていないということであります。工業教員の不足は、好況なる産業界に比し著しく劣悪な給与及び待遇を抜本的に
改善適正化するのでなければ解決できない問題であることは、本院において、勝田、進藤、杉野目、小野各参考人がひとしく強く指摘したところであります。現在、国立の七大学に教員養成課程があり、その定員は約百三十名でありまするが、三十五年度卒業生中、工業教員となった者はわずかに一名であったのであります。また、工業教員免許状取得者数は、三十三年度に一千三百十三名、三十四年度に九百七十八名、三十五年度には七百九十六名と著しく減少しつつあり、また、採用試験に応募、合格した者のうち、相当数の人は産業界に走る傾向がきわめて顕著となっているのであります。これ全く給与や研究環境等について学校と産業界との間に著しく差等があるからであります。しかるに、本
法律案は、この根本問題に何ら対策が講ぜられていないのでありまして、年間一人当たり約六十万円の国費を投じて養成しても、その卒業生を工業教育界に確保し得る保証は全くなく、産業界に流出するおそれがきわめて大であり、工業教員養成の目的を達じ得ないことは容易に予想せられるところであります。
反対の第四の
理由は、養成所予算が学科目制大学に準じて組まれ、教官の定員は、新制大学一学科に対し、教授四、助教授四、助手四の半分、すなわち二、二、二でありますから、おのずから非常勤講師が多くなり、教育
内容を低下せしめるのみならず、物的、人的両面から、付設される親大学みずからのその教育と研究体制に支障を与え、迷惑をかけるおそれが明白であります。これらのことは、付設される九大学の教職員組合の共同反対声明や、愛知県下六大学教職員組合の反対声明、さらに東京工業大学教授会有志六十四名の教授の方々や、
日本教育学会大学
制度研究
委員会等の反対声明
理由の
内容によってきわめて明らかなところであります。
私は、ここに討論を行なう中で、
政府に注意を喚起し、強く警告を発しなければならないことを遺憾とするものであります。最近三カ年間における元国立大学理工系教官の海外流出人員は実に三十三名であり、大学教官の民間への流出状況は、三十三年度一千四百十六名、三十四年度千六百三十名の多数に及んでいるのであります。また、三十四年度において、
政府関係機関研究公務員中、実に二百十五名が離職しているのであります。この現象のよって来たるところは、給与が実質的に戦前の約六割にすぎず、その研究費も戦前の約六割五分程度というがごとき劣悪な状況で、研究生活に安んじて打ち込める環境と生活が保障されていないということが最大
原因であると
考えられるのであります。(
拍手)
世は、人工宇宙衛星船ウォストークや、宇宙人間ロケット、レッド・ストーンが、人の手によって、自信を持って飛ばされる宇宙科学時代であります。技術革新のテンポの激しさは目をみはらせるものがあるのであります。領土が狭く、資源に乏しく、過剰の
人口をかかえるわが国こそ、国策として教育研究への大幅投資を断行することこそ、投資効率の高い、ぜひやらなければならない
国民的投資ではないでしょうか。しかるに、研究投資は、
国民総所得のわずかに一・四%程度にすぎず、先進国の約三%近くであるのに比し、著しく劣っている現状であります。外国からの技術導入に際し、ロイヤリティとして支払われた外貨は、最近六カ年間に約九百四十億円の巨額に達しているのであります。私は、保守党
政府の手になるわが国科学教育政策の貧困を指摘し、その
是正積極化を要望警告せざるを得ないのであります。(
拍手)先人は、幾何学に王道なし、幾何学に王道なしと申されましたが、科学にも王道はないことを
政府は肝に銘ずべきであります。
池田内閣の掲げる所得倍増計画遂行に即応して、今後十カ年間に不足が予想される大学卒業程度の技術者数は約十七万名であり、工業高等学校卒業程度の中堅技術者は約四十四万名も不足と見込まれており、その対策として、今後七カ年間に、大学理工系学生約一万六千名の定員増と、工業高等学校生徒約八万五千名の定員増の計画がそれぞれ策定されているとのことであります。この計画遂行に必要な工業教員の四十五年度までの不足数は約一万五百名といわれ、本
法律案成立によって充足するとしても、なお約四千三百名が不足し、また、高級技術者は約十万名不足するとの資料が
政府側から提出されたのでありますが、約十万名に及ぶ高級技術者の充足計画のあいまいさ、提示された数字の不正確さや、さらに、毎年約百三十名の工業教員養成課程卒業生中、わずかに一、二名程度しか教員とならないというのに、その打開策を講ずることもなく、工業教員養成所と並行的に養成課程の募集を従来
通り継続する等、きわめてずさんな
内容を含むものであり、本
法律案は、どろなわ式、近視眼的拙速
法案でありまして、
池田科学技術庁長官の言葉をかりれば、下策の下の
法律案であります。荒木文相の
説明によれば、幾つかの欠陥はあるがやむを得ない
法律案であると呼ばれるしろものであります。
審議中に判明したのでありますが、科学技術者の養成計画や教員養成
方針について、荒木、
池田両
大臣の間に著しい見解の相違があり、本日に至るまでいまだに一致点を見出し得ず、われわれがある程度了解できる
説明と資料の提出をなし得ないほどの醜態を呈しているのであります。このぶざまさは本
法律案審議過程に支障をもたらし、立法府に対して
内閣が責任を果たし得なかったことは、まことに遺憾きわまりないことであり、
池田内閣の責任を声を大きくして追及しておくものであります。(
拍手)
さらに、現行教育
制度、教員養成
制度を破壊するがごとき本
法律案を提出するに際し、
委員長報告にもありました
通り、中央教育
審議会に正式
諮問することもなく、また附設を予定される東京工業大学の教授会の意向に基づいて、学長から私信の形で文部省に提出された建設的
意見すら
政府は尊重することなく、軽く取り扱われたのでありますが、かくのごとき態度は今後断固改めらるべきであります。
わが竹本
社会党は、需要の多い工業教員の養成は、現行免許法のもとに四年制大学で行なうことを堅持すべきものであると
考えるし、また、その具体的方策は、たとえば大学に工業教育学部等を設けることにより可能だと
考えます。適格有能なる人材確保のためには、教職員の初任給引き上げを含む給与及び待遇の抜本的
改善をはかることによってその目的を達成することを確信するものであります。よって、本
法律案を同僚諸君とともに否決し、再
検討すべきことを主張いたします。私は、本
法律案のように、単なる技術屋教師、インスタント教師を養成せんとする本
法律案に、
日本社会党を
代表して反対
理由を申し述べるとともに、あわせてわが党の
方針をも披瀝し、御聡明なる同僚諸賢の御共鳴、御同調を心から期待しつつ、討論を終結するものであります。(
拍手)