○鈴木壽君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
首相の施政方針
演説に関連をいたしまして若干のお尋ねをいたしたいと思いますが、特にこの際、
昭和三十六
年度予算と
池田内閣の
公約という点につきまして、それを中心にお尋ねをいたして参りたいと思います。
三十六
年度予算案について私どもは大きな関心を持って注目をいたしておったわけでありますが、それは、
池田首相の三つの
公約であります
減税、
社会保障、公共投資の三本の柱がどのように打ち立てられるであろうかということであったのであります。ところが、いざ、ふたをあけてみますと、公共投資はともかくとしまして、
国民の最も期待をしておりました
減税も
社会保障も、
公約と比べて著しく後退をいたしておりました。全くおざなりのものになってしまっておったのであります。あれほどテレビやその他で、私はお約束をいたします、私はうそを申しませんと
国民に誓い、去る特別
国会におきましても、一千億以上の
減税、画期的な
社会保障の拡充、三十六
年度予算を見ていただきたい、こう大みえを切っておった
首相は、このことについて、
国民に対し、われわれに対して、どのような御説明をなさるつもりであろうか。ところが、
首相は、これは
公約を十分に織り込んだ画期的な
予算であり、
わが国財政史上空前のものと誇っておるのであります。心臓の強さもここまで来れば、また何をか言わんやといわなければなりません。しかし、これは私が言うまでもなく、全くの詭弁であり、
国民をあざむく以外の何ものでもないのであります。
まず、
減税から見て参りましょう。
所得税、法人税、通行税の
減税額の合計が、三十六
年度において九百二十六億円、平
年度一千百三十八億円となっておりますが、
〔
議長退席、副
議長着席〕
一方、租税特別措置の整理による増収、三十六
年度百十八億円、平
年度百六十五億円があり、さらにガソリン税一五%増税分が三十六
年度において百八十億円、平
年度二百十七億円あるから、結局差し引き計算をいたしますと、三十六
年度では六百二十八億円、平
年度で七百五十六億円の
減税となるのであります。かりに租税特別措置分を別といたしましても、ガソリン税の増税によって三十六
年度七百四十六億円、これしか
減税にはならぬのであります。これをもってはたして
公約が実行されたと言い得るでありましょうか。一体、
減税の問題を取り上げる場合に、一つのものの
減税額だけを取り上げて、同時に行なった他のものの増税は、これは別扱いであると、こういうふうにたな上げをして、
減税額だけを振り回して
公約通りであるというようなことで、一体いいものであるかどうか。われわれは、
国民の税負担の現状から、また税の
自然増収が約四千億円も見込める現段階においては、
公約に忠実に、いな
公約以上の大幅な
減税を行なうべきであったし、そうしてそれは可能であったと信ずるものであります。
昨年八月、
税制調査会の中間答申において、現在の
自然増収その他の
見通しのもとでは、中間報告の趣旨に沿って、平
年度一千億円以上の
減税を実施すること、こう述べられてあり、さらに中山会長は、一千億円以上というのは、一千億円から一千六百億円までの幅のある
意味である、地方税についても積極的
減税を行なう含みであると、こういう談話を発表しておるのであります。当時の
自然増収の
見込みは、二千億から二千五百億円
程度であったことから
考えまして、すでに述べたように、四千億円もの
自然増収が確実だと見込まれる今日、さらにまた
国民の租税負担率を
国民所得の二〇%以内にすべきであるとの同会の結論を尊重するということからしても、一千億を大幅に上回る
減税を行なうべきであったのであります。
自然増収は結局、税の予定以上の取り過ぎであります。その取り過ぎ分は、全部とは言わないけれども、納税者に返すべきであります。租税負担率からいっても、三十六
年度における二〇・七%から、これをかりに二〇%に引き下げるとすれば、その〇・七%分だけでも、三十六
年度国民所得の
見通し十二兆七千三百億円を基礎にして計算しますと、実に八百九十一億円の
減税が可能となるのであります。さらにまた、大衆課税の性格の強い間接税の
減税も当然行なうべきであったのに、これもまた見送られておるのであります。
政府は今回
程度の
減税で、はたして
公約を果たしたと思っておるのか、特にうそを言わない
池田さんのお
考えを聞きたいと同時一に、今後の
減税に対する
考え方をもあわせて明らかにしていただきたいと思うのであります。当然の
減税も行なわず、税の取り過ぎ分もこれを返すことなく、さりとて、これを
社会保障の拡充、民生安定等に思い切って投入するということもなくして、軍事費の増強や、あるいは公共投融資をふやすことによって、
経済成長の名のもとに、特に大企業、大資本を潤おすような結果となって、一方また、租税特別措置の整理合理化についてもすこぶる気乗り薄であります。
〔副
議長退席、
議長着席〕
税負担の公平を期さねばなりませんこの措置の整理合理化がはなはだぼやけてしまったことも、結局は
国民大衆に背を向けて、ひたすら企業を保護することによって
経済の成長拡大に役立たせようとするからであります。このようなことは早急に改められなければならないと思うのでありますが、この点についてもあわせてお
考えを承わりたいのであります。
次に、
社会保障について見て参りまして、これに関連をして二、三のお尋ねをいたしたいと思います。三十六
年度の
社会保障費は二千四百六十六億円で、三十五
年度のそれと比べますと六百三十六億円の増、三四・七%の増加でございます。この
数字だけから見ますと、それは確かに相当の前進を示したものとも言えるかもしれません。
首相が誇らしげに言っておるように、財政史上空前のものだということも、あるいはこの
数字からだけならば言えるかもしれません。しかし、
社会保障費と
予算総額との比、三十五
年度が一一・六%、三十六
年度が一二・六%であるが、
予算全体の伸びと
社会保障費の伸びを比べてみますと、わずかに一六・六%、また
国民所得と
社会保障費との
割合が三十三
年度一・六、三十四
年度一・六、三十五
年度一・七、三十六
年度一・九、さらに
国民生活安定のための費用と
予算総額との比、三十五
年度においては三〇・八%のものが、三十六
年度においては二〇・四%となっている。こういうことからして必ずしも大きな前進を示したとは言い得ないのであります。しかも
数字の内訳において、
国民年金等の経費に見られるいゆわる当然増が二百五十億
程度入っている。さらに医療費の一〇%
引き上げのための国庫負担の額、七十四億円が加わっていることを
考えてみますと、
明年度の新たな施策としてふえた分は大体三百億か三百十億円
程度であります。これをもって画期的な拡充というようなことは、これは義理にも言えたことではないのであります。医療費国庫負担分七十四億円の計上は、このまま見ますと、いかにも医療行政拡充のためのもののように
考えられますけれども、しかし実はこれは医療費一〇%値上げに伴うものであって、しかも反面に、保険料や患者負担の増加約二百億円、平
年度三百億円となって
国民にはね返ってくる、こういう性質のものであります。しかもまた、一方、保険財政への大きな圧迫となるようなこういうものでありますから、
国民にとってはむしろ迷惑な
社会保障の拡充であるとも言えるのであります。さらに、
内容について見ますと、児童扶養手当その他こまかい、あまり目につかないような施設等に、不十分ながらあたたかい手が施されていることは、これはほめられてよいことであると私も率直に認めましょう。しかし、肝心の
生活保護基準の
引き上げが一八%にとどまったことは、何といってもこれは致命的な弱点であります。厚生省の
引き上げ率二六%の要求といえども不十分であり、これが五〇%
程度の
引き上げがなされなければならぬということは、保護世帯の生活水準が一般世帯のそれと比べて三九・七%、
所得最下層のそれと比べてもなお五七%のところにあるという、こういう
数字的な
調査を今さら示されるまでもなく、すでに世人の常識になっているところなのであります。しかも一般世帯との格差が年々大きくなって、とうてい憲法に保障する最低生活を維持できないことは、かの朝日判決を引き合いに出すまでもなく明らかなところであります。こっけいなことには、毎年
予算参照書の生活保護費の説明に、「憲法第二十五条に規定する理念に基づき、生活に困窮するすべての
国民に対し必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともにその自立を助長する必要がある。」こう書かれておりますが、何という白々しい説明でありましょう。
社会保障における中心的な柱として
考えられなければならぬものは、いわゆる低
所得層に対する対策であります。従って、この生活保護対策は
社会保障拡充のいわばバロメーターとも言うべきものなのであります。
池田内閣の施策におきまして、われわれの最も注目していたものが実はこの点であったのであります。医療費の
引き上げ、軍人恩給の増額等にすさまじいまでの熱意と努力を傾けたにもかかわらず、この問題には、圧力
団体もなかったせいか、ついに一八%アップにとどまって、期待はずれに終わってしまったことは、あるいは
池田内閣の性格そのものの表徴であったと見るべきであるかもしれない。かりに厚生省要求の二六%が、かりに、せめてものぎりぎりのところであるとしましても、それを
引き上げるのに必要な経費は約四十八億円で足りるという話でありますが、この
程度の金すら一体出なかったのであろうかどうか。三十六
年度予算が圧力
団体や与党内の各グループから圧力をかけられまして、ぶんどりほうだいにされた結果でき上がったたっぷり
予算だといわれる、満腹
予算であるといわれる、たたけば、押せば、じゃらじゃらと出るパチンコ
予算だともいわれております。こういうことからしまして、熱意さえあれば、出す腹さえあれば、十分これは捻出できたはずであります。なかったのは金ではなくして、この誠意と熱意であったのであります。(
拍手)
池田内閣の一枚看板である
経済成長
政策、いわゆる
所得倍増計画の進行が、逆に、
所得の格差、生活の明暗の差をさらに深めつつあるという矛盾をさらけ出してきているのでありますが、この矛盾、不合理は、
池田内閣の
責任においてやはり取り除かれなければならないのであります。すなわち
社会保障制度を確立し、広い分野にわたって国家による
所得再配分
政策を進め、すべての人が最低生活を保障され、いかなる人も生きる権利を尊重されるように、社会全体の力でこれを守ることに施策の重点が向けられなければならないのにもかかわらず、この自覚と熱意を欠いているところに、このようなごまかし
政策、継ぎはぎ
政策に終始せざるを得なかったところがあるのであります。一体、
総理大臣、厚生
大臣は、この
生活保護基準の
引き上げについてどのように
考えておられるのか。そうしてまた、今後どのようにこれを
引き上げていくおつもりなのか、この際明らかにしていただきたいと思います。
いま一つ医療費の問題につきまして、私は、一体今回の一〇%の
引き上げがいかなる根拠といかなる合理的な割り出し方をしたために出てきたのであるかということも、ここではっきりしていただきたい。しかもこれが中央医療協議会等の議を経ておるものなのであるかどうか。合理的な
引き上げは私どももちろん否定しておりません。ある
程度の
引き上げは必要であるというふうに
考えておるけれども、一体その根拠となるものが明確でない今回のこの
引き上げは、まことに私どもは納得ができないのであります。しかもこの
引き上げ分の配分についてもまだはっきりしておらない。一体どのような方式によってこれを配分するのか、単価の
引き上げをするのか、あるいは点数改正をするのか、こういうこともまだ結論を出しておらないのであります。まことに変則的などんぶり勘定式な
引き上げと言わなければならない。これを一体どういう形でケリをつけてやるおつもりなのかも、あわせて
お答えをいただきたいと思います。さらに、このたびのこの医療費の値上げが
国民にしわ寄せされないような方法をとるべきであったのに、これを欠いたのは一体どういう
考えであるのか。こういう際であるから、そうしてまず、さきに私が述べたような点から、
国民にできるだけしわ寄せさせない形において、これは処理されなければならない問題であります。
国民健康保険はことしでいよいよ
国民皆保険といわれるようになるわけでありますけれども、これを機会に七割給付の全面実施に踏み切るべきであるというふうに私どもは
考えるけれども、この点に対して一体
政府はどのように
考えておられるのか。また、一方、
国民の負担軽減と国保財政の確立という点も、これはぜひ
考えていかなければならない問題であると思いますが、これについてもどのように
考えておられるのか。拠出制の
国民年金は四月から開始せられることになっておるわけでありますけれども、これにはすでにわれわれが指摘をいたしておりましたような幾多の欠陥があるわけであります。保険料の掛け捨てになること。拠出期間が長過ぎ、開始年令がおそいこと。保険料が均等かつ高額である反面、給付が低いこと。
経済変動に対するスライドが明確になっておらないこと。積立金の運用制度がいまだ明らかにされておらないこと。こういうことについての改正を行なってから実施すべきが当然であり、そのためには、四月に実施するということを一時延期をいたしまして、こういう思い切った改正をすべきであるというふうに思うけれども、特に私は
首相のこれに対するお
考えをお聞きしたいと思います。
最後に、この問題について、将来のあるべき
社会保障の構想のもとに、医療、年金あるいは生活保護のみならず、完全雇用、最低賃金等とあわせて
検討いたしまして、総合的な保障制度というものを立てなければならんけれども、こういうことについて一体どのようにお
考えになっておるかということも聞きたいと思います。
次に、私は
政府の
物価対策について承りたいと思いますが、昨年来の消費者
物価の
値上がりに引き続きまして、今年になっても多くの物が
値上がりを示しておることは御
承知の通りであります。そうして
昭和三十六
年度予算を
編成するその過程において、郵便料金の値上げや国鉄運賃、あるいは医療費、ガソリン税等の
引き上げがされておるために、最近はクリーニング代が大幅に上がってくる。また教科書の用紙代も六%も
値上がりされる。公団公営住宅の家賃もあるいは固定資産税も
引き上げられるであろう。果ては葬儀料金まで大幅に
値上がりをする。これでは全く死ぬにも死ねないというような声まで出てきておるのであります。さらにこの次に控えておるのが電気料金や私立学校の授業料の
引き上げ、国鉄運賃が上がれば私鉄の運賃も上がるであろうし、ガソリン税の引上げによって、バス代、ハイヤー、タクシー、トラック代の値上げもこれは必至である。その他いろいろの点について将来のこの
物価値上げの心配が、実は単なる杞憂でなしに、現実の問題としてここに起こってきておるわけであります。
迫水さんは
値上がりムードが困るとかというようなことを言っておりますが、これはもう
値上がりムードとか値上げムードというようなことより、さらに進んで値上げモードになってきておる。やがては値上げブーム、値上げラッシュということが来かねない情勢であるわけであります。(
拍手)
政府の今までの楽観的の放任の
態度、さらに今度は一方、自分自身の手で
公共料金やガソリン税を
引き上げる、そういうことから起こってくる、これは必然の結果でございます。
池田さんは卸売
物価が安定しているから心配はないと、こうおっしゃっている。サービス料金くらいの
値上がりは、これはやむを得ないと、こう言っておられる。
経済企画庁長官は先だっての
演説の中に、諸外国の消費者
物価の上昇と
日本のそれを比べておりますが、肝心の
昭和三十五
年度でどのくらい上がったかということを示しておらない。
昭和三十五年においては三・二%上がっている。東京だけでいえば三・八%上がっている。さすがに
経済見通しもこれはこのままではいかぬというので、昨年の末作ったばかりのものをつい先だってこれを改定いたしまして、その上昇率を〇・七%から一・一%に
引き上げざるを得なかった。しかし、これでとまったのではないと思う。また再び三たび修正をしなければいけない事態がくるのではないかということを私どもはおそれるわけであります。今、私は
数字的のことを申し上げましたけれども、このような
数字的のものよりも、むしろ私は、具体的に
国民生活にどう影響しているかということをもっと
考えていただきたいと思う。
一体、
減税するからいいんだというけれども、わずかばかりの
減税では役に立たなくなってしまいます。たとえば夫婦、
子供三人、こういういわゆる標準家庭で、月収四万円の人の今度の
減税額は月五百十五円でございます。
物価が一・五%
程度上がればこれはもう吹き飛んでしまう。おそらく二%あるいは三%の上昇を示すであろう、こういわれておりますから、そうなりますと、
減税分というものは吹き飛んだほかに、なおかつマイナスということになってくるわけであります。しかも
減税の恩恵を受ける人はまずいい。
減税の影響を受けない、
所得の二十万以下の低い人たちは五百七十万世帯あるといわれている。扶助を受けている世帯が六十万、百六十六万人。ボーダーラインにある者が百六十万世帯、六百八十五万人。こういわれておりますが、こういう人たちは
減税の恩恵も受けることなしに、
値上がりによる圧迫だけを受けるわけでございます。
生活保護基準が一八%上がったといっても、これは何の役にも立たないということになりかねないのであります。