運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1961-02-15 第38回国会 衆議院 予算委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年二月十五日(水曜日)    午前十時十六分開議  出席委員    委員長 船田  中君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 保科善四郎君 理事 井手 以誠君    理事 川俣 清音君 理事 横路 節雄君       相川 勝六君    赤城 宗徳君       赤澤 正道君    井出一太郎君       稻葉  修君    臼井 莊一君       江崎 真澄君    小川 半次君       小澤 太郎君    上林山榮吉君       仮谷 忠男君    菅  太郎君       北澤 直吉君    藏内 修治君       櫻内 義雄君    園田  直君       田澤 吉郎君    田中伊三次君       床次 徳二君    中野 四郎君       中村三之丞君    羽田武嗣郎君       前田 正男君    松浦周太郎君       松野 頼三君    松本 俊一君       三浦 一雄君    山崎  巖君       淡谷 悠藏君    岡  良一君       木原津與志君    小松  幹君       河野  密君    田中織之進君       高田 富之君    楯 兼次郎君       堂森 芳夫君    永井勝次郎君       野原  覺君    長谷川 保君       松井 政吉君    井堀 繁雄君       佐々木良作君    玉置 一徳君       西村 榮一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小坂善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 古井 喜實君         農 林 大 臣 周東 英雄君         通商産業大臣  椎名悦三郎君         運 輸 大 臣 木暮武太夫君         労 働 大 臣 石田 博英君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 池田正之輔君         国 務 大 臣 小澤佐重喜君         国 務 大 臣 迫水 久常君         国 務 大 臣 西村 直己君  出席政府委員         内閣官房長官 保岡 武久君         法制局長官   林  修三君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         大蔵事務官         (為替局長)  賀屋 正雄君         通商産業事務官         (石炭局長)  今井  博君         通商産業鉱務監         督官        (鉱山保安局長) 小岩井康朔委員外出席者         専 門 員   岡林 清英君     ――――――――――――― 二月十五日  委員稻葉修君、倉石忠雄君、橋本龍伍君、山崎  巖君及び西村榮一辞任につき、その補欠とし  て藏内修治君、仮谷忠男君、小澤太郎君、田澤  吉郎君及び井堀繁雄君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員小澤太郎君、仮谷忠男君、藏内修治君、田  澤吉郎君及び井堀繁雄辞任につき、その補欠  として橋本龍伍君、倉石忠雄君、稻葉修君、山  崎巖君及び玉置一徳君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員玉置一徳辞任につき、その補欠として西  村榮一君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)  昭和三十五年度特別会計予算補正(特第2号)      ――――◇―――――
  2. 船田中

    船田委員長 これより会議を開きます。  昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)、同じく特別会計予算補正(特第2号)、以上両案を一括して議題といたします。  質疑を続行いたします。小松幹君。
  3. 小松幹

    小松委員 自治省大臣にお尋ねいたします。  池田内閣減税政策の一環として、地方減税をやるという公約をしておりましたが、いまだに地方減税見通しがついておりませんが、地方税減税についての構想を承りたい。特に遊興飲食税減税については、選挙のときも自民党として公約をしておりますから、その構想を承りたいのですが、聞くところによると、どうも大衆のための減税というよりも、一部業者の圧力にほんろうされた減税をやるのではないか、こういうような気配を感じておりますが、その点について自治省大臣にお伺いいたします。
  4. 安井謙

    安井国務大臣 お答えいたします。地方税につきましても、国の税金の減税とともに、同じようにでき得れば減税をいたしたいと思って検討中でございますが、御承知通りに、地方財政もまだ非常に窮迫をいたしておる現状でございまして、中央の税と同じような比率での減税は、これはちょっと困難であろうと思っております。しかしでき得る限り各税制面調整、あるいはでき得れば減税をはかりたいと思って目下調整中でございます。  なお、遊興飲食税につきましても、従来のいろいろな公約もございますし、でき得る限りこの合理的な減税をはかりたいと思っておりますが、これもまだ成案を得ていない状況でございます。今お尋ねの、業界からの圧迫によって何かやるのではないかといった点につきましては、さようなことは一切なくて、純粋に理論的に検討いたしておる最中であります。
  5. 小松幹

    小松委員 やることはやるけれども、まだはっきりしない。もはや選挙が終わってから二、三カ月になりますが、いまだにその地方税減税についての去就がきまらない。第一、自治省大臣として、地方財政計画をいかにしますか。もう地方としては二月、三月からいよいよ来年度当初予算にかかるわけなんですが、地方財政計画というものをはっきり中央において示していただかなければ、地方減税待ちということになってしまうわけです。その点いつ地方財政計画を出すのか、減税の決定はいつやるのか、ほぼ年度内にやりますというようなことでなくて、かっちり、いつやります、これをお伺いします。
  6. 安井謙

    安井国務大臣 仰せの通り地方財政計画というものも早急に立てなければならぬのでございますが、御承知通りに、国の予算がほぼ内訳がきまりませんと、大体の目安の立てようがないわけでございまして、今それの調整を待ちまして、全国三千五百以上ある団体でございますので、それぞれを大まかな今検討の最中でございます。従いまして今すぐ何日にできるということにつきましては、いま少し御猶予をいただきたいと思います。御趣旨に沿いまして鋭意急ぎまして、地方財政計画及び減税の幅を決定いたしたいと思っております。
  7. 小松幹

    小松委員 それから自治大臣にお尋ねしますが、どうも地方減税については態度が不鮮明だと思う。だからもう一度お伺いしますが、地方減税は一般に池田内閣としてはやるという構想を持っておるのか。何か調整だけして今度は流すという考えか。それから遊興飲食税減税はやるのかやらぬのか、それをもう一回お伺いいたします。
  8. 安井謙

    安井国務大臣 先ほども申し上げましたように、地方減税も極力やりたいという線でやっておりますが、ただ幅が今の国の税ほどいかないということでございまして、たとえば地方税のうちでも事業税の一部でありますとかその他についてははっきりやります。それから遊興飲食税につきましても、これはやるという建前でただいま検討いたしておるのでありますが、まだ今検討中で結論が出ていないという状況でございます。
  9. 小松幹

    小松委員 池田総理にお伺いしますが、選挙のときに、自民党としては地方税減税をやる、そして遊興飲食税免税点引き上げをやる、それには遊興飲食税あるいは旅館の遊興飲食という関係があってはっきりしておるわけなんですが、そのはっきりしている公約がどうしていまだにはっきりしないのか、そういうことが端的にすっとやれない理由をお伺いしたい、どうもはっきりしませんから。
  10. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 地方税につきましてもでき得る限り減税いたしたいと思っておるのであります。電気ガス税遊興税につきましてもやる考え検討いたしておるのであります。ただ問題は、遊興飲食税免税点引き上げにするか、基礎控除にするか、地方財政にも相当影響がございますので、ただいま内閣の方で検討いたしております。
  11. 小松幹

    小松委員 免税点引き上げ基礎控除というのは、だいぶんカテゴリーが違うと思うのです。基礎控除の点というのは、いわゆる業界のための減税、しかも最近キャバレーとか特殊高級料亭等基礎控除の問題が出ておると思いますが、これは私は自民党公約したのは大衆のための遊興飲食税免税点引き上げる、こういうような公約であったと思う。それがいつの間にか一部特殊業者のいわゆる減税、そういうものに肩がわりしつつあるような気がするわけですが、その点をもう一回お伺いします。
  12. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ただいまそういう点につきまして検討を加えておるのであります。詳しくは所管大臣からお答えいたさせます。
  13. 安井謙

    安井国務大臣 お話通り大衆面免税点引き上げ等中心に今検討の最中でございます。
  14. 小松幹

    小松委員 地方減税は、行政的には地方自治団体に非常に影響するものであると同時に、その減税というものは国民の日常生活にも直接影響するのでございます。そういう意味において、一部特殊な業者のために減税を混乱させられるというのでなくして、早くすなおに大衆のための減税というものをお考え願いたい。いまだにその時期も方針もきまらないということは、私はどうもふに落ちない。この点を強く申し上げて、自治省大臣の今後の減税政策の断行を促進するわけであります。  次に経済企画庁長官にお尋ねします。それは貿易のことを中心にお伺いしたいと思います。  政府倍増計画によって対外貿易も特に指数をあげて、輸出輸入とも政策目標として十カ年計画を出して、大体年度平均一〇%の成長率を持っておるように伺っておりますが、輸入はいいとしましても、輸出というものが相当私は意欲的なものを持っておると思うのです。それはけっこうなことでございますが、そういう輸出輸入の意欲的なものと貿易自由化流れというものにどういうようにマッチしていくのか。この点が政策目標はぽんと一〇%年にはね上げていってここだときめて、そうして合わせていくという場合には、あるいは為替管理、あるいは輸出入のコストの問題、あるいは地域の問題、振替の問題、いろいろ私は政策的に考えられると思いますが、それには貿易自由化とかち合ってくる面もありはしないか、この点についてどういうお考えを持っておりますか。
  15. 迫水久常

    迫水国務大臣 御承知のように貿易自由化というのは、これは世界の大勢でございますし、われわれ日本経済にとりましても決して悪い影響があるとは思っておりません。もちろん国内の農産物その他に対する保護といいますか、それを立つようにする処置は必要な場合がございますけれども、貿易の観点から申しますれば、自由化が促進されればされるほど日本としては貿易の都合がよくなってくる、こういう工合に考えております。
  16. 小松幹

    小松委員 次にお伺いしますが、輸出伸長輸出を伸ばすという関係で最も過去に力のあったものは、私は日本物資価格効果というものが相当あずかって力があったのじゃないか。このいわゆる輸出物資価格効果ほんとうに下からささえてきたものは、私は日本の豊かな労働力というものがあって、その豊かでしかも低賃金の犠牲的な労働奉仕によって、今日まで輸出が可能になってなし遂げられてきたのですが、日本労働力は今では絶対不足であるということは私は申しません。しかし政府倍増計画にだんだんの理想を追うてみますと、どうもその倍増計画理想に合って成長していくならば、ある目的点までいきますと、労働力というもののいわゆる達成にはボトルネックを感ずるのじゃないか、そういうような感じもする。かりにそういう極端なところまで感じなくしても、熟練労働者等は相当市場不足を来たすということも比較的に考えられる。そういう場合には、私は労働者のいわゆる成長に伴うボトルネックあるいは比較的な熟練労働者市場不足、こういうものからコストインフレというものもこの十年の倍増計画の中には底に流れておるのじゃないかということも感ずるのですが、今までのように低賃金コースによって、それを足がかりにして国際競争をしてきたところの日本貿易が、所得倍増計画という一つ労働者の水準を上げることによって、輸出というものがどういうように見込まれておるのか、そういう点について倍増計画というものは考慮し、認められておるのかどうか。私はそういうことは認めていないで、ただ単に計数的にぽんと一〇%成長指数をとったのじゃないかという心配があるわけでございます。その点はいかがですか。
  17. 迫水久常

    迫水国務大臣 これから先に労働の対価が生産性向上と照応しながら上がってくることは当然だと思います。コストインフレというのは生産性向上に先だって労働賃金が上がってくるような場合に問題は起こって参りますけれども、生産性向上に照応しつつ当然労働賃金というものは上がってこなければならない。それをさらに不断の努力によりまして生産性向上をしながらこれを吸収して、日本産業国際競争力を培養していくのでありまするから、御心配のような点はないと考えております。
  18. 小松幹

    小松委員 今の企画庁長官説明によりますと、こういう問題はいわゆる生産性向上によって労働賃金の方はカバーしていく、だから労働賃金上昇生産性向上よりも常に下に置く、こういう考え方であろうと思うのですが、それはそれでいいとしましても、生産性向上というものがはたしてここ十年間にどれほどの可能性を持っているかということが指数的にはっきりしない。今日まで、この七、八年というものは非常な急カーブの技術革新というものが進められてきたけれども、これから先に、はたして今まで、過去六、七年間のようなテンポ技術革新というものが進められるのか。だから生産性向上技術革新テンポの早さと、労働者の賃上げ、あるいは労働力のいわゆる市場不足というものとのかけっこになると思うのです。そうした場合に、労働力が今非常に低いのですから、そのかけっこの場合にはウサギの足になって伸びが早いと私は思う。ところが片一方技術革新というものは、いわゆる生産性向上というものはそんなにウサギの足のように早くはならぬかもしれない。そうなると、十年間に、片一方は、カメとは言わないけれども、少しずつしか行かない。片一方の方はウサギの足で伸びると、いつかは生産性向上よりも所得倍増計画に伴う労働力の飛躍というものが大きくなってくるんじゃないかという心配もいたしておるわけです。これが杞憂でなければいいのですけれども、特にILO条約承認によって日本労働運動というものが世界労働市場とツウツウになってくる。今までの労働運動というものは単に島国だけにカン詰にされた一つのワク内の労働運動であった。ところがもっと積極的に世界労働市場と通ずるという考え方に将来は立たねばならぬと私は思う。それをいつまでもモンロー主義かあるいは島国に閉じ込めるわけにはいかない。やはりILO条約承認というものは、単なる承認でなくて、日本労働市場というものが世界労働市場と同じようなテンポになっていくということを考えねばならぬ。そうなった場合には、日本だけの独善に基づいたところの輸出促進――独善とは言いませんけれども、意欲的な貿易の前進というものがはたしてうまくいくのかどうか、こういうことを考えるわけなのですが、この点あなたが今言った生産性向上が常に高いのだから心配がない、こういう安心感というものは、私は必ずしも安心にならぬと思いますが、ILO条約批准等に基づくいわゆる労働市場向上というものを考えて、さらに御答弁願いたい。
  19. 迫水久常

    迫水国務大臣 要するに労働生産性向上してくるわけでありまして、生産性向上というのはそういうことを言っておるわけですが、つまり労賃は当然上がってくるべきであり、また上がらなければなりませんが、それを生産性向上によってカバーをして、日本の企業の国際競争力というものを常に培養する努力はもちろんしなければなりません。今お話しのように、労働運動世界的な共通になるとおっしゃいますが、それもそういう傾向は当然だと私どもは思っておりますけれども、それをカバーしつつ生産性向上が必ずあり得ると思いますし、日本技術をもってすればできると考えておりますし、同時に世界貿易というものが逐次拡大をいたして参りますし、その拡大テンポというのは、過去において考えられたよりも、もっと、ずっと大きなテンポでやってくる可能性も十分あると思いまするから、私は御心配のようなことはないと考えております。
  20. 小松幹

    小松委員 企画庁長官は、世界貿易進展をしてくると言ったのですが、あなたの出している倍増計画は、進展になっていません。これは、世界貿易伸長度というものは下がっております。こういうふうになっておりますよ。世界貿易は過去十年間六・二%の成長であった。ところがこれから先は四・五%の成長だと、あなた自身が世界貿易成長パーセントを下げておるでしょう。それで日本成長だけを上げておるでしょう。そういういわゆる世界貿易伸長度というものは、そういう関係上、必ずしも計画通りにどんどんはね上がっていくものではない。成長すれば成長するほど、成長率というものは下がってくるというのが一つの条件です。ところが、日本の場合はしゃにむに、それをむちゃくちゃに幾何級数的に上げておる。ここに食い違いがある。これが一点。今あなたが説明したのはちょっと説明にならぬ。だから生産性向上労働市場拡大を防ぐと言っても、生産性向上倍増率労働市場拡大倍増率テンポが違うと私は説明した。片一方ウサギの足で成長する。ところが生産性向上、特に技術革新というものは、ウサギの足のようにそんなに成長しない。そうするなら、そのギャップが来るじゃないか。ここのところをあなたは成長計画でどういうような説明をするのか、こう言っておるのです。
  21. 迫水久常

    迫水国務大臣 世界貿易の趨勢というものは、今おっしゃいましたように、過去の六・何%というよりも下がってくるだろうとは――もちろんそういうことを前提として、倍増計画はその範囲内で立てておるわけであります。ただいまの労働の問題でありますけれども、私は賃金上昇率が、かりに現在生産性向上をしたよりも低くあっても、それはその生産性向上賃金上昇率との差は狭まってくることは当然だと思いますけれども、なおかつ生産性向上によって労働賃金の高騰というものを吸収し得るように、日本産業生産性向上していかなければならぬし、その努力をしていくことによって可能である、こう考えております。
  22. 小松幹

    小松委員 どうも意欲的なところだけで、それを納得させるだけの説明をいただけないことは残念でございます。  その次にお伺いしますが、国際分業構造によって見た輸出の将来。だんだん輸出というものも構造が変わってくると思います。たとえば、昔はシンガーミシンがどんどん世界を風靡しておったが、今度は日本ミシンがどんどん出てきた。かつてはドイツがオートバイ世界一であった。ところが、もうそれは日本オートバイ成長率が大きくなった。こういうように輸出構造というものは変わってくるのですが、私は今までの日本輸出を見ていると、大体が手工業というような、本質的には軽工業、そうして技術を加えた日本のいわゆる手先の器用なという技術工業で今までの貿易というものはカバーして、あるいは成長を遂げてきた。そういう意味ではほんとう重工業というものは少なかったのですが、今度のあなたの倍増計画を見ますと、重化学工業というものが前面に出てきている。しかもパーセントも四十何%から五三、四%までにはね上げるというような重工業のはね上げ方をしておる。そしてその内容を見ますと、機械類及び運搬器具、金属及び同製品、薬材化学類というように、重工業としてはきわめて低位なものが日本重工業前面に立っておるのです。そして五三%、四%の成長率を見ているところに、私はちょっと、あなたの意欲的なことはわかったとしましても、どうも心配だ。そういうように変わってきますから……。きょうの一等が必ずしもあしたの一等にはならないのだ。そういういわゆる分業形態輸出流れから考えたときに、私はその意欲はわかったとしても、十年の倍増計画というものにぴしっと納得するような計画になっていない。特に日本量産体系というものが非常に少ないのと、国内市場がまだまだ幼稚である。こういうことから考えてくると、重工業東南アジアに持っていくか、先進地に持っていくかの二つになると思います。そうした場合に、東南アジア後進国に持っていく場合は、ドル不足外貨不足というものを補ってやらない限りは、絶対に重工業を持っていったってしょうがない。ただでやれば別ですけれども、ただ先進地と争うということになれば、ほんとう重工業アメリカ市場あるいは西欧市場で争うということになれば、私は、今度の倍増計画というものは、きわめてしろうと的な安価な計数にしかなっていない、こういうふうに考えるのであります。この点、重工業貿易前面に出して五〇何%の輸出を見る上には、一体どういうことをやらねばできないのか、今までのような成長ではとてもだめだと思いますが、その点企画庁はどういう構想を持たれているか、承りたい。
  23. 迫水久常

    迫水国務大臣 お話のように、将来の日本貿易中心というのは重化学工業であり、非常に精密なそういうふうなものになってくると考えておりますが、十年間で生産を倍にするというような計画内容は、十年間に生産を倍にするためにはそういう格好になるであろうという一つ見通しを立てておるのでございまして、その見通しが達成されるように、政策においても誘導していくというのが所得倍増計画内容でございますことは御承知通りでございます。従いまして、そういう面における今後における貿易政策あるいは重化学工業育成政策というものを十分にやることによってそれを可能にしていこう、こう考えております。
  24. 小松幹

    小松委員 ただ抽象的にそういうように誘導するとか仕向けるということだけで経済成長十カ年計画が遂行できるものじゃない。具体的にいえば、日本重工業テンポの早さをどういうように見るか、あるいはどういう地域に向けてどういう競争力で行くのかというものを計画内容で承らなければ、私はどうもその辺の心配があるわけなんです。もう現に東南アジアというのはドル不足が来ると思う。たとえばアメリカドル防衛によって相当経済協力局の資金というものが減ってくれば、それだけのドル不足が来ると思う。またドル不足というものは、それだけのアメリカの援助の減りというだけでなくて、私は基本的に東南アジア後進地ドル不足――ドルだけには限らぬ、外貨不足というものがあると思う。それをどういう形でカバーしていくかが出てこなければ、そこに重工業を持っていく――今までのように賠償金だ、賠償金だといって、ただでくれている賠償金を投げ込んでいく間はいいですよ。ところが、賠償金というものが種切れをしたときは、どうしてこの後進地重工業というものをほんとうに投げ込んでいくかというその計画が出てこなければならぬと思う。この東南アジアドル不足に対して、あるいは外貨不足に対して、どういうふうに対処するつもりか。
  25. 迫水久常

    迫水国務大臣 これは申し上げるまでもなく、要するに東南アジア地域が開発されてくれば、逐次外貨不足というものは解消していくわけでありまして、わが国といたしましても、分に応じてその開発に協力するという立場だと考えております。
  26. 小松幹

    小松委員 東南アジアの開発を頼みにと今あなたは言いますが、この貿易なりあるいは十カ年計画は、他人のふんどしで相撲をとるというような計画なんですか。あるいは、あなた自身がやると、こうおっしゃる。ところが、それならどういうようにやるのかということを今言っていない。分に応じたところをやる、分に応じたというのは一体どういうことになるのかという問題になってくるが、それでは、ことし百億円の地方開発資金が出ましたが、その百億円をことしどういうように使うか、ただ発足はした、金は積んだわ、何も計画はないじゃないか。それを具体的に承りたい。
  27. 迫水久常

    迫水国務大臣 海外経済協力基金の百四億円の資金をどう使うかということは、これは海外経済協力基金が中心になって考えることでございまして、現在これをこういうふうに使うという予定はまだございません。
  28. 小松幹

    小松委員 企画庁長官、そういう説明で、金だけはやるから、使い方はお前が考えろ、わしは知らぬのだ、これで経済成長の分に応じた、すなわち東南アジアの開発をやるというようなことが言われますか、そんな無責任なことで。こういうようにするから、こういうようにしなさい、その運営機構は柳田さんにまかせていい。けれども、あなたが基本的な百億円の構想というものを持たないで、だれが持ちますか。そんなのは答弁になりませんよ。第一、そのいわゆる百億円の使い方の――まず一つだけ聞きましょう、金利は何ぼにするか。どの程度に考えているか。
  29. 迫水久常

    迫水国務大臣 大体輸出入銀行の金利と照応するようなふうに考えております。
  30. 小松幹

    小松委員 それじゃ私は開発にならぬと思う。第二の世銀といわれて出たように、現在世界には通貨基金もあれば、第一世銀もあった。しかし第一次産業の開発というものは、東南アジアはとてもコマーシャル・ベースでもいかない。特に政府のいわゆる官僚ベースでもいかない。そこでどうするかというのが第二世銀の問題だと思う。日本の場合であっても、今まで輸出入銀行は財政投融資から持っていって利子が安いですよ。同時に今度はクレジットあたりでも相当いっています。それでもなおかつ後進国の開発にならないからというので、日本流にいうて第二輸出入銀行、輸銀のもう一つの第二輸銀という構想で作った、こう私は佐藤榮作大臣から聞いている。あなたのは輸出入銀行のベースでやるというたら、何もそんな必要はない。その辺はどうですか。
  31. 迫水久常

    迫水国務大臣 海外経済協力基金というものの仕事は、輸出入銀行のような銀行としての金融ベースには乗らない、しかし経済のベースには乗るというものを扱うわけであります。金利の点も、ただいま私は輸出入銀行と照応すると申しまして、ベースでやるとは申しておりませんので、当然場合によりましては、それよりも低い、あるいはクレジットの期間もずっと長いというものが現われてくるものと考えております。
  32. 小松幹

    小松委員 コマーシャル・ベースにも乗らない、そういうなににも乗らないで経済ベースに乗るというのは、言葉はどういうふうになるか知りませんが、経済ベースに乗らぬ、採算の全く合わぬものならば、盗人に追い銭か、あるいは投げてやるかです。それでなくして、将来の日本貿易にどれだけの足がかりになるかという、いわゆる経済ベースということになれば、そこがはっきり出ていない。またあなたに聞いても知らぬというのは無理はない。出ていない。だから、おそらく百億円の開発資金は今年じゅうは眠る。過去に何カ年か岸さんが五十億円を投げ込んで以降、今日まで眠ってきたが、今度五十億追加しても、また今年一年間は眠る。まだはっきりした構想がない、ここに私は問題があると思うのですが、これは聞いても、出ていないのですから仕方がない。  そこでもう一つ最後に私はお伺いしますが、東南アジアの場合には、もちろんクレジットあるいは援助資金の開拓ということもいいと思います。ところが、かの国は第一次産業がほとんど中心に動かなければならない。クレジットとか、あるいは一つのケース・バイ・ケースによるところの開発というものだけでは、将来には役に立ちますけれども、さしあたりの貿易には役に立たぬ。南方方面はクレジットもありがたい、援助もありがたいが、あすのおまんまよりもきょうのおまんまがほしいのだから、一つ貿易をやってくれ、貿易をやるのにはタイはタイの今の米を買うてくれぬか、クレジットもありがたい、開発もありがたいが、それは三年か五年かの先だ、きょうの米を買うてくれという貿易がここ二、三年間は貿易が急速に来ると思う。特にドル防衛の上から、ドル不足がくれば、どうしても貿易というものは、今の米を買うてくれ、こういうことが来ると思います。じゃ日本で米を買うてやるから、日本から何を買うてくれという輸出輸入との交換によってこそ初めて東南アジア貿易というものがこの二、三年間は非常にスムーズにいくことになると私は思うが、米を買うということになれば、日本の農業とかっちりぶち当たってくると思う。日本が不作である間はいいですよ。八千万石とれないで六千万石台でとまっているときはいいと思う。ところが七千万石、八千万石をこえる日本の米作になった場合には、東南アジアの米とかっちりぶち当たるわけだ。米だけをとってみた場合に、日本は米を輸入せぬ考えだ、それはなんぼか輸入するが、そういうことを私は言っているのでなく、基本的な構想として輸入するのかしないのか、しなければ、一体どうしてその間の貿易の前進をはかろうとするのか、その構想を、これは通産大臣が来ていればなおいいのですけれども、あなたの意見として伺いたい。
  33. 迫水久常

    迫水国務大臣 その問題はあるいは私が御答弁申し上げる筋合いではないかもしれませんけれども、私が知っております範囲におきまして、相談にあずかりました範囲において申し上げますと、米産国からは当然どうしてもある程度の米を買わなければならない、そうしなければ、お話しの通り貿易は進んでいかない、こう考えておりまして、その方向でものが考えられていると理解しております。
  34. 小松幹

    小松委員 どうも説明があやふやですが、総理大臣にお伺いしたいと思います。今言うた問題ですね。ここ二、三年ドル不足をかこっておる東南アジア貿易というものを考えたときに、長期にわたるところの経済開発というものの構想は一応承っていい。ところが、じかに米という問題をとった場合には一年ごと、一年ごとなんですが、これの日本生産力と向こうの米との関係についてあなたはどう考えるか、新しい構想があるのか、それをどう切り開いていくか、それをお伺いしたいと思う。
  35. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 東南アジアにおきましては、第一次産業で立っております。お話しの米につきましても、ビルマ、タイは米が余っておりますが、インド、インドネシアは輸入しております。そういうところで、わが国が豊作で米があまり要らないというときにどうやっていくか。私は二年ぐらい前にライス・パンクというのを考えたことがございます。これは今検討いたしておりますが、なかなか困難です。そこで私は全般的なことでなしに、日本が米が余った国と米の不足の国との間に立って、有無相通ずるような機構までいかなくても、具体的な商取引をやっていって、米をうんと作る国のドル貨、円貨をかせがし得るように日本が仲介に立っていくという気持を持っていっておるのであります。今回もビルマ、タイの米につきまして、商社に話をしまして、日本の商社が自分の計算で米の売りさばきを手伝っていこうという方向で進んでおるのであります。
  36. 小松幹

    小松委員 ライス・バンク構想というものは新聞でちらちら承っておりますが、ほかの品物はとにかく、米は三年も五年も十年も貯蔵ができないという前提に立てば、位置の問題あるいは倉庫の問題、これが相当問題だ。だからそういう具体的な構想ほんとうに出てこないと困るが、今の総理の御意見をお伺いしておると、南方の米をどういう格好で、日本に入れないで不足しておるインドネシアに持っていくかというはっきりした構想がまだ出ていないと思います。米の問題、日本の農林省あたりは、ことしはどっちかというと、八千万石以上は要らぬのだというので、米作を押える方向に動いておるのじゃないかと思いますが、ある程度これが成長し切った場合には、どうしても南方の米というものに対して政策の転換を求めなければならぬ。こうした場合に東南アジアの第一次産業に対する措置、それをどういうような金融なりあるいは構想なりによって転換していくか、それが貿易の前進のために必要なんだ。これを考えなくて、ただ貿易の前進と言えばそれは経済開発でございます、こういうような一つ覚えで言うただけでは進まぬのじゃないかと思う。同時に、その一つ覚えの開発基金百億円の構想もいまだ緒についていない。ただ柳田さんという責任者をきめただけで、ほんとう構想が出てこない。貿易十カ年計画を出しておりますが、こういうことでははたしてほんとうにやるために出したのか、所得倍増計画をやらなければ悪いから、そういうように貿易指数をはね上げるだけにしておこう、こういうようにきわめて安易に感ずるわけです。池田さんは貿易にはあまり身を入れていないというように、失礼ですけれども思う。やはり日本経済成長は、依存度の問題もあるでしょうけれども、貿易というものをはずしてはならぬと思う。そういう意味で、指数をはね上げることだけを意欲的にするのでなくて、ほんとうに倍増のための具体策を意欲的に出してもらいたい、こういうように思うのですが、最後に池田総理の御所信を承っておきたいと思います。
  37. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 輸出貿易を軽んじてはおりません。これは絶対に必要なのでございます。ただ生産の増強は輸出にありというばかりではいかぬ。やはり国内の健全な消費も考えなければならない。この二つを言っておるのであります。東南アジア開発につきましては、いろいろ案があるのです。どこの国のどのプロジェクトをこうやるのだということは今言えませんが、たとえば従来から問題になっておりますインドネシアのカリマンタンの開発、港湾から道路、森林その他をやれば相当の金が要ることはわかっております。こういうことはたくさんございます。各国にあるのです。それが今まで人もなかったし、金も十分でなかったので遅々としておったのでありますが、今度百億円出し、人も別に任命し、積極的にいろいろなプロジェクトに対して進んでいこうといたしておるのであります。何もなくてぼっと百億円出したというのではございません。
  38. 小松幹

    小松委員 終わります。
  39. 船田中

    船田委員長 岡良一君。
  40. 岡良一

    ○岡委員 私は第二次補正に関連して若干のお尋ねをいたしたいと思うのであります。  最初に総理大臣に申し上げたい。総理はしばしば政治の姿勢を正したいということを言っておられます。しかも憲法によって明らかに、内閣の大きな権限は予算の編成と提案でございます。従って、これは財政法という編成、提案の基本的な法律の秩序に従わなければならないことは申し上げるまでもない。私はそういう意味において、この第二次補正予算案についても、政府みずからが姿勢を正すという御決意に立っていただきたいということをあらかじめ強く要望いたします。  なお、最初にお尋ねをいたしたいのは池田科学技術長官でございます。一昨日の本委員会で、池田長官堂森委員の質問にお答えになりましたCP5炉の不始末の問題でございますが、その御発言の中に、「当時は日本の学者がみんな集まって、それでいいと言って買ったのです。政府はあくまでも科学者の意見を信じて買った。」こうおっしゃっておられます。同様な御発言が繰り返し速記録にとどめられております。私は言あげはいたしたくありませんが、聞き捨てにならない暴言だと思います。そこでお尋ねをいたしますが、原子力委員会を湯川秀樹博士がおやめになった、あるいは原子炉安全審査部会の委員を坂田昌一博士がおやめになったそのいきさつを御存じでございましょうか、もちろん御就任前のことでありますから、御存じがなければ私から申し上げてもようございます。
  41. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お答えいたします。日本の科学者の間には、どうも残念ながらいろいろな派閥関係その他があるようです。これはわれわれも大いに努力して融和をはからなければならないと思います。その結果がいろんな方面にいろんな悪影響を及ぼしていることは、私、聞いております。どの程度かは存じません。そういう関係からいろいろな問題が派生しておるということは、残念ながら事実のようであります。これは岡さんの方が私よりかえって詳しいのではないかと思いますが、これが現実だと思います。
  42. 岡良一

    ○岡委員 それはお答えになっておりません。それでは、湯川博士や坂田博士がそれぞれ原子力関係の重要な役職を去られたのは、学者の派閥関係だとおっしゃるのですか。
  43. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 必ずしも派閥関係だけではなかろうと思いますけれども、それも大きな要因であったと承っております。
  44. 岡良一

    ○岡委員 とんでもないことなんです。それは途方もないことです。湯川博士や坂田昌一博士というのは、日本の原子力の学者の中でも至宝です。世界の指折りの権威者です。これが原子力関係の機関から去られた。なぜ湯川博士が去られたか、五年前に、当時の原子力委員長が原子力委員会の方針として、大型の原子力発電の炉を入れるということを発表された。そこで湯川さんは、まだまだ日本の原子力はそういう大型の実用規模の炉を入れる段階ではない、じっくり腰を据えて研究しなければならぬ、こういう立場からおやめになった。もちろん病気は表向きの理由ではございましたが、その発言があってから十日たたないうちに辞表を出されておる。坂田さんは何でやめられたか、一昨年の秋のこと、坂田さんは東海村に今作られておるコールダーホールの改良型のあの大型の炉が、学者の良心において安全だという責任がとれない。そのときにも原子力委員長は強引にあの炉を入れようとされた。学者の良心において責任がとれないと言ってやめられた。はっきり文書でそれを出しておる。われわれは国会に呼んで、坂田さんの心境を聞いたが、はっきりそう言っておられる。そんな学者の派閥でやめられたのではない。学者の良心に基づいてやめられた。しかも当初の日本の原子力の開発計画、特に昭和三十二年の十二月の原子力発電の長期計画によると、十五年の間に七百六十万キロワットの原子力発電をやろうということが書いてある。毎年一つないし二つの炉を入れようという計画です。ところが、この間御発表になった原子力の開発計画によると、十五年を二十年に直し、しかも最初の十年は研究開発段階だ、だから百万キロしか発電しない。これはどういうことかといえば、日本の、しかも国際的に権威といわれておる学者が、まだまだ実用規模の原子力発電をやるべき段階じゃないと言われておる。また安全性や経済性で技術的に見て専門家が責任を持てないと言われる。その意見が正しかったということを証明しておるじゃありませんか。十五年の間にしゃにむに七百六十万キロワットをやろうというのが、十年間に百万キロに押える。しかも初めの十年間は研究の段階といっておるじゃありませんか。そうすれば湯川氏や坂田氏の言われたことが正しいということをあなた方の今度の原子力開発計画は認めておるじゃありませんか。どうでしょうか。
  45. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お答えいたします。お説の通り、湯川博士、坂田博士、いずれも国宝的なりっぱな学者であります。これらがやめられた事情につきましては、私実は詳しくは存じません。当時私も一代議士としてまことに遺憾だと思っておりました。坂田さんは今日まだ専門委員として残っておられます。そういうような事情でございまして、その当時のそうしたこまかい、それらの学者の、専門家の間の詳しい事情につきましては、私あまり存じておりません。もし御必要があれば政府委員から説明いたさせます。
  46. 岡良一

    ○岡委員 いや、私が申し上げておるのは、今度発表された原子力開発計画なるものは、湯川さんがまだまだ実用段階ではないから原子力の問題はじっくり腰を据えて研究すべきだと言われたということ、坂田さんが、原子力発電というものは安全性においても経済性においてもまだ技術的にはっきりしないところがあるから責任が持てないと言われた、その言葉通りに今度の計画は大きく後退をしておる。いってみれば、湯川氏や坂田氏の言われたことが正しいということを今度の計画が証明しておるじゃないか、それを認められるかどうかということを私は申し上げておる。
  47. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お説の通り、学者の間にもただいま申されました、ような御意見もあったことは事実であります。ところが、日本の多くの学者、つまり大多数の学者は、もうすでにイギリスその他においては実際にこれを実用化されておる段階であるから、日本も早く実験炉を入れて研究すべきであるということに大多数の意見がまとまって、そういう運びになったと私は承知いたしております。
  48. 岡良一

    ○岡委員 お答えになっておられないが、こういう問題はいずれまた別にそれぞれの委員会でとくと念入りに御所見を承りたい。問題は、そのように湯川博士や坂田さんのような学者の良心というものがかつてあったということなんです。今もあるということなんです。ところが、あなたはCP5の不始末の責任を学者に転嫁しておるじゃありませんか。当時日本の学者のみんなが集まって、それをいいと言われておるから買ったんだ、政府に責任がないとも言われておる。これではまじめな学者に対する公然たる侮辱ではありませんか。どう思われますか。
  49. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お答えいたします。私は学者を侮辱するという考えは毛頭ありません。学者はあくまでもこれは尊重しなければならぬという考えに立っております。ところが、あなたが今おっしゃいましたけれども、CP5を買うときの事情、それからその前のウォーター・ボイラー型の実験炉を買うときの事情から申しまして、あなたも御承知のように、これは昭和三十年十一月に原子力利用準備調査会というものができまして、それには委員が八人、その他日本のあらゆる方面の学者、ほんとうにいわゆる専門家十六人の専門委員会によって、そしてCP5を買うべきであるという意見が出されまして、それに基づいて翌年の三十一年一月に原子力委員会でこれを正式決定した、かような経緯になっておることは、あなたも御承知通りです。その当時湯川先生だけはあるいは反対であったのかもしれませんが、しかし日本の他の多くの科学者の人たち、これらの人たちは、これは当然早く買って実験炉の実験をやるべきであるというのが、日本の科学者の大多数の意見であった。それに従って政府はこれを遂行した。こういうことになっておると私は了解いたしております。
  50. 岡良一

    ○岡委員 私は、CP5を買う経過をお聞きしておるのじゃないのです。原子力委員会設置法の中で、原子力委員会は、左の事項について企画し、審議し、決定すると書いてある。その第一号には、原子力の平和利用に関する政策に関する事項ということが書いてある。そこで、CP5ならCP5というものは、原子力の平和利用の政策のために買ったものです。審議がどうあろうと、企画し、審議し、決定をしたのは原子力委員会なんです。原子力委員長がその責任者なんです。それをごまかしてはいけない。その間において学者の意見を聞かれようと、また学者の意見を基礎にして、原子力委員会が最終の決定をなすべきものです。そんなトンネル機関である、権威のない原子力委員会じゃないはずなんです。そういう意味で、これは原子力委員会の明らかに責任なんです。それをあなたは、日本の科学者がたくさんみんなそれがよかろうと言ったから買いました。責任を学者にすりかえておる。これは私が申し上げましたように、真心のあるたくさんの学者に対する公然たる侮辱だと思う。あなたは、これは当然陳謝すべきだと思う。どうですか。
  51. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お答えいたします。最終決定は原子力委員会でいたしますから、従ってそれに対する責任は、当然原子力委員会で負わなければなりません。しかし、その決定に至るまでの経緯におきましては、当然に科学者の意見を尊重して、その意見に従ってこれを決定する。その場合に、すなわちこれを決定した場合の経過を考えてみますと、ただいまも御説明申し上げましたように、いろいろの専門委員会その他に多数の学者のお集まりを願って、委嘱をいたしまして、そうしてその意見に基づいてこれを尊重して決定した、そういう経緯になっております。決してこれは侮辱でもなんでもありません。尊重した結果がそうなった、こう御了解願いたい。
  52. 岡良一

    ○岡委員 まあ原子力委員会のその決定の事項の中には、予算の配分も入っておるわけです。そこで、このCP5なら十何億という予算の配分の計画も決定されておる。今度また動力試験炉でしょう。四十何億でしょう。それでかりに万一これがまた事故を起こした。そうすると、学者の意見を聞いたから予算の要求をしたのだ。それで一体あなた責任が果たせますか。それじゃ国会としてどうしますか、そういう不手際なことをやられて。どこに責任を持っていきますか。あのときのだれとだれと何博士が悪かったのだ、それで済みますか。だから、審議過程でどういう方と相談されようと、それはいい。しかし最終的な責任は、決定権を持っておる原子力委員会が負うのだ。この原則だけははっきり立てなければ、私は承知できぬ。どうなんです。
  53. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 ただいま申し上げましたように、最終的な責任は原子力委員会にあるのであります。
  54. 岡良一

    ○岡委員 私は、池田さんのその御発言は、取り消す意思もなければ陳謝する必要もないとおっしゃるのですか。
  55. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 一昨日の私の答弁におきまして、若干言葉が足りなかったために岡委員にそういう感じを与えたかもしれませんけれども、そういう考えは毛頭ないのでありまして、ただいま申し上げた通りであります。(「元気がないぞ」と呼ぶ者あり)声の悪いのは、カゼを引いているからであります。
  56. 岡良一

    ○岡委員 まあこの前の堂森委員のときの御答弁では、まことに脱兎のごときものがありましたが、きょうはおかぜでほんとうに恐縮でございますから、(笑声)私はこれであなたへの質問は打ち切ります。しかしこれは総理大臣もよくお聞き願いたいのだが、科学技術庁の長官として科学技術行政を推進をしていくためには、何といってもやはりまじめな学者の協力がなければいかぬと思う。であるから、こういう不用意な発言というものがどういう影響を及ぼしてくるか。万一そういうことがあった場合には、あなたとしてもそれこそほんとうに責任を感じてもらわなければならぬと思う。ただ、しかし私は、池田さんのそういう御発言も、必ずしも池田さんだけの御発言、責任にとどめるべきじゃない。それはやはりこれまで戦後の日本政府が科学技術というものに対する関心が薄い。軽視をしておる。産業界の利に走る、産業界の意を迎えることにはまことに忠実である。しかしまじめな学界の意見というものを用うることにおいては非常に足りなかった。これがたまたま私は池田放言になったものとも解釈できると思う。  そこで、総理にお伺いをいたしますが、総理はしばしば経済の高度成長というようなことを自画自賛をしておられる。なるほど自動車工場にいけば、リミット・スイッチ、トランスファー・マシンあるいは汎用機械のラインの自動化も行なわれておる。鉄鋼にいけば、もう最迎は純酸素吹工で銑鋼一貫の転炉ができておる。圧延はストリップ・ミルなど、どこの製鉄所に行っても見られる。あるいは石油化学にいけば、ナフサからエチレン、ポリエチレン、最近はまた技術導入でプロピレンからポリプロピレンを作る。あるいは軽電機の工場にいけば、無数のベルトが走って、トランジスターの部品があり、自動機械のように若い女の子がこまめに組み立てております。しかし一体こういう技術の革新に基づいて発展をしてきた日本経済成長、いわば日本経済成長をささえておるこの技術革新というものが、今申しましたような現在のいんしん産業、主力産業といわれておる工場の中の生産技術というものが、ほとんど外国の借りものだということです。昨年九月までの、三十一年からの技術料の支払いが七百十六億、ところが、日本が外国から受け取った勘定というものは八億に満たない。こういうように、いかにも表向きははなばなしい成長の姿を見せておるかもしれないが、それをささえておる技術というものが外国からの借りものだ、一体こういうことでいいのかどうかということです。総理はどう思われますか。
  57. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 戦争中また戦後、御承知通り技術につきましての空白がございましたから、早急に高度の成長をするためには、これは外国の技術によるということは当然だと思います。しかし今後におきましては、この導入した技術をもとにいたしまして、日本自体でも技術革新に沿った新しい技術の開発に努めなければならぬ、こういう考えのもとに今回の予算もある程度組んでおるのであります。今後、技術向上革新が高度経済成長のもとであるということは私もよく存じて、その方向に向かって進んでいきたいと思います。
  58. 岡良一

    ○岡委員 先般の本会議の御演説で、総理も大蔵大臣も、日本経済成長の原動力は、勤勉で豊富な労働力だ、それから創造的意欲、自由な産業活動というふうなことを言っておられる。しかしこういう抽象的な、ある意味で文学的な表現では、私は、日本経済成長世界経済成長のメカニズムは解明されないと思う。要は復興需要が一循したあとでも、世界的に経済成長があの大戦前の二倍だということは、経済学者も一致しておる。しかもこれをささえておる力は技術革新という、経済外の大きな技術革新の力だ、自然科学の力だということは、これも経済学者が一致して指摘しておる。ところが今度のこの予算を見ましても、実にこの方面に対する配慮というものが乏しいと私は思う。総理は今、日本においても自主的な技術革新を進めたいとおっしゃいましたが、こういう予算でやれますか。
  59. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 従来はお話通り物足らぬ点が多々あったのですが、今回におきましては、科学技術庁の予算におきましても、また別に国立大学の方に回します予算につきましても、従来よりも特に力を入れたはずでございます。詳しい数字につきましては、関係閣僚から御答弁いたします。
  60. 岡良一

    ○岡委員 こまかい数字はけっこうでございますが、先般お役所の方からいただいた他の国々との比較の数字でございますが、今御指摘の文部省関係の自然科学方面の予算も私は大体三十億程度だと思いまするが、合わせてまあ三百億、そうすると国の予算に対する比率というものが大体一・五程度です。ところが他の国々、アメリカやイギリスや西ドイツやフランスでは、科学技術のための予算というのは日本の二倍ないし三倍です。しかもこれらの国々は、自然の法則を人間の知恵の力で掘り出して、これを人間社会の有用なものに役立てようという、科学技術振興予算というものはそういう意味の投資であるという考え方から、国民所得においても非常にその比重が大きい。それも日本の本年度の科学技術振興費、文部省関係の自然科学予算を含めてのものが、本年度の国民総所得に比べて〇・三%に満たない。ところが他の国々では多いところは五倍からある。こういうようなことではたして科学技術振興というものはできるか、自主的な国産技術の開発がはたしてこういうことでできますか、もう一度総理の御答弁を伺いたい。
  61. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほどお答え申し上げた通り、また今のお話のように、先進国と比較いたしますると、まだそこまで力がいっておりませんが、従来にも増して本年は予算を組んだつもりでございます。なお今後におきましても、こういう方面に力を入れていくことは、先ほどお答えした通りです。
  62. 岡良一

    ○岡委員 科学技術会議の先般の答申においても、国民所得の二%程度というようなことをうたっておるわけです。総理は議長をしておられます。ところが現在の予算では〇・三%弱、これはぜひ一つ国産技術の開発という方面には、そのために必要な基礎科学の研究にもまた力こぶを入れていただきたい。と申しますのは、今の技術革新の名において日本輸入されておるところの技術というものは、これはもう一代限りで、実を結ばないのです。今の新しい技術というものは、これは申し上げるまでもなくいろいろな、数字や、物理学や、化学の専門分野の深い研究を積み上げて、その頂点に生まれておる。上だけを持ってきたって、これは造花なんです。実を結ばないのです。そういう意味でも基礎研究から応用段階の研究から、技術の開発を一貫した態勢を作ること、同時に、十分な予算措置をぜひ持っていただきたいということをこの機会に特に要望をいたしたいと思います。  なお総理はその御演説の中で、日本経済構造的な変革を遂げようとしておる、こういうような表現を用いられました。それでは一体総理の言われる構造的変革とはどういうものか、総理のお仲間の下村博士は、経済成長の度合いというものは純設備投資の大小によって決定される、昨年の経済論争を見ても、成長論争はその産出効果が一かそれ以下かということが焦点のようでございます。ところが今の技術革新に基づく新しい産業というものはなかなか規模が大きい、資金も非常に要る。聞くところによると、鉄鋼業では一貫メーカーとしては最低の規模でどうしても鋼塊の七十万あるいは百万トン生産、乗用自動車にしても最低一万台以上でなければというようなことになっている。横浜に東電の新鋭火力がありますが、あれなんか二十六万五千キロワットからの大きな機械を据えてある。そういうような形で技術革新というものはますます巨大な設備を要求する。であれば巨大な資金というものを要求することは当然なんだ。そこで昭和三十年から三十四年までの電力、鉄鋼、化学繊維、石油化学、自動車、電気機械、こういうものの総設備投資額というものを調べてみました。約三兆程度です。この間に約八兆余の設備投資額がありますから、そのほとんど四割というものはこの鉄鋼、電力あるいは輸送機械、石油化学、化学工業、電気産業、これらが占めておる。こういうわけでこの技術革新の力というものは、経済外、政治外の力として強制的な法則として、この資本の巨大化、資本の集中、独占というものをどんどん締めつけていく。そこへあなたは長い間有力な経済閣僚として、あるいは租税の特別措置、あるいはまた国家資金を投入する、いろいろな形でこれを援助された。私は池田総理の言われる高度な経済成長、そして今や日本産業構造の変革に到達しておるということは、あなたが意識的に技術革新そのものが強制法則として独占と寡頭支配、資本と生産の集中を上から拍車しておる。それをあなたは有力な経済閣僚として、あるいは金融あるいは財政の面で援助しておる。そうすればあなたのいわゆる構造的変革の緒につかんとしておるということは、重化学工業中心として、日本の大経営、大資本の独占態勢が今や完備しようとしておることだとしか私には理解できない。総理の御所信を承りたい。
  63. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 高度の成長に伴いまして、第一次、第二次、第三次産業の形態が変わって参ります。また第二次産業におきましても大企業が興りますことも当然の姿でございますが、今の鉄鋼その他につきましても、独占関係というものは、昔よりは私は薄らいでいきつつあると思います。
  64. 岡良一

    ○岡委員 私は、こういう数字の事実、数字をもって見ましても、新しい形態における独占形態、寡頭支配形態というものがむしろ拍車されていると思う。公正取引委員会の報告を見ましても、生産の集中度は、電力が九社で一〇〇%、鉄鋼が上位十社で九〇%、合成繊維が十社で九九%、自動車は、小型四輪を除くと七社で一〇〇%、テレビの受像機にしたって十社で八六%真空管は一〇〇%、石油化学や化学工業にしたって、これは当然上位の十社か、おそらくはそれ以下の会社が生産の九〇%も一〇〇%近くも占めておると私は思う。こういう形で、あなたがどう言われようと、事実において、設備が集中し、技術がそこに集まり、資本がもちろん集中する、生産もそこに集中するということになれば、あなたの言われる重化学工業中心とした日本産業構造構造的変革というものは、これはもう寡頭独占の支配が強化されておる。あなたのおきらいなマルキシズムの公式が地でいっておるということじゃございませんか。
  65. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 独占形態が非常に高度化しておる、こういうお話でございますが、鉄鋼について見ても、私はあなたとはちょっと違うと思う。前は八幡、富士、日本鋼管の三社が七、八〇%を占めておった。これがだんだん他の会社も伸びて参りまして、私は以前よりもその形態は薄らぎつつあると思います。
  66. 岡良一

    ○岡委員 三者が十三社になったから独占が薄らいだとは私は言えないと思います。今後の推移においてはどういう事態が起こるかもわからない。これは私はあとで触れたいと思います。ただしかし、こういうようにこの盲目的な資本の設備競争をこのままにしておいて一体これでいいのだろうかという点に、正直のところ非常に私は心配をする。現に、これはアメリカのことでございますが、一九五四年に七百九十万台の自動車を作っておったのが一九五八年には五百万台を割っておる状態です。鉄にいたしましても、今は急激な需要増がございますけれども、しかし自動車の需要が減れば薄鉄板の需要が減るわけでしょう。そういうような時代時代が――その鉄は一兆一千億五カ年計画でまた大増産をやろうというので、通産省が調整に中に入っておられる。石油化学にしたって九千億五カ年計画というようなものをこの間発表した。現に紙パルプあるいは繊維のようなものはもうすでに過剰設備が出てきておるというふうにも私は聞いておる。これもある経済専門家の書かれた著書に書いてあったことでございますが、昨年春に、アメリカのアイゼンハワー大統領の教書を中心に、アメリカのモルガン系の銀行とそしてロックフェラーの財閥の代表者とが、アメリカ経済成長を何%に押えるかということを中心に論争があったそうです。去年の春といえば、アメリカは一昨年のリセッションから少し回復しかけておる。ところがそのときに、 ロックフェラーの方は三・五%くらい、モルガンはもう少し上げて五%がせいぜいだという。これはやはりこのままの形で盲目的な無政府的な競争をやったのでは、名目的には成長の数字というものは高くなるかもしれないが、やがてはそれが過剰生産となって、パニックの状態に入ってくる。求めて景気のリセッションを招くものだ。アメリカという資本主義の国の良識がそういうような自己抑制をやっておる。だから日本経済成長が名目的な数字だけでもって世界の驚異であろうなどというようなことは、私はとるべきではないと思うのです。そういう意味で、総理はこういうお考えがないでしょうか。そういう産業活動の資金というようなものについては、もっと民主的な機構を作り、そうして政府も参画をしてもっとコントロールする。そうしてあるいは二重設備投資を避ける、将来の過剰生産を避ける、そういう方向にやはり一つ政策を大きく変えていく必要があるのではないか。民間の自主調整、自主調整ということでは、結局においては過剰生産をあふり立てる結果になるのではないか、こう思うのでありますが、これに対する総理の御見解はいかがでありますか。
  67. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 民間のお方の良識によりまして、政府があれこれ言わなくても、私は、自由主義のもとに創意工夫をこらして進んでいけると思います。
  68. 岡良一

    ○岡委員 経済企画庁長官にお尋ねをいたしたいと思います。やはり過剰生産の問題でありますが、政府からいただきました統計で見ますと、昭和三十年から三十四年までの五カ年間、国民総生産の平均増加率は二%、国内総資本形成は三〇%、個人消費支出は七・六%、こういう数字をいただいております。ところがイギリスでも、アメリカでも、西ドイツでも、それぞれ一六%、一八%、二三%、これは国内総資本形成です。日本では三〇%、しかも消費支出が七・六%こういうふうに年々蓄積された設備というものは当然顕在化するでしょう。こういう総資本形成の比率が外国に比べて非常に高い。しかも国内の消費支出というものが七・六%このアンバランスが設備投資が顕在化してきたときには必ず供給過剰という状態を起こしはしないかということをこの数字から案ずるのでありますが、この点バランスがとれるのだというお見込ならばその点についての具体的な点をお示し願いたい。
  69. 迫水久常

    迫水国務大臣 お話のように過去において日本経済成長をささえて参りました需要要因の一番大きなものは設備投資でございます。これは当然生産力として次に現われてくるものでありますから、今後におきましては、先般来総理大臣もよく言われますように、個人消費の伸びというものが経済成長をささえるきわめて大きな要因として考えていかなければならない。従って個人消費の伸びというものを期待をする立場でおりまして、現在まで設備されておりますものは、きわめて確実な需要にささえられつつあるものと考えておりますから、従って生産過剰の状態というものが、アンバランスが経済をこわすような状態にはならない。大体において当分の間は生産の方が多目であろうとは思います。従って卸売物価は上がってこないと判断をしておるのでありますが、そのバランスが全然こわれてしまうような状態にはならないと思います。
  70. 岡良一

    ○岡委員 この際ちょっとお尋ねをいたしたいのだが、西村防衛庁長官にお願いをいたします。昭和三十三年、三十四年、三十五年、本年度、防衛庁の国内の民間産業に対する発注の総額というのはどういう推移をたどっておりますか。
  71. 西村直己

    西村国務大臣 お答えいたします。ちょっと御質問の趣旨がわかりませんが、全般の発注でございますか。武器生産、航空機から一切弾薬等を含めてということでございますれば、それではちょっと時間をおかし願いたいと思います、数字のことでございますから。
  72. 岡良一

    ○岡委員 それではお調べの間にもう一点お聞きいたしたいと思います。  新聞で拝見したのでございますが、第二次防衛計画では、ミサイルの装備を促進したいという御意向である。さしあたり三十六、七年度は地対空ミサイル、アジャクス型の試作を終え、三十八年度からはナイキ・ハーキュリス型の研究に取りかかる予定といわれておる、こういうことが新聞に出ておったのでありますが、方針としてそういう方向にお進めでございますか。
  73. 西村直己

    西村国務大臣 防衛庁といたしましては、自衛隊の在来武器と申しますか、在来兵器の刷新改善と同時に、誘導弾の研究開発、多少の購入をやっております。そこで在来兵器はさておきまして、誘導弾、ミサイル関係につきましては、防空を主眼にしまして、防御用ということに限界を置きます。従って比較的小型な、小規模のものであります。その中ですでに購入いたしましたものには、御存じの通り、一部到着いたしておりますサイドワインダーとかエリコンとかございます。それ以外のものについて開発研究中でございます。  なお将来ナイキ等についてはどうするか。ナイキ等につきましては、来年度の予算から、米国に向けまして訓練のための人員を多少派遣する、この限度において予算は組んでございます。従って将来第二次防衛計画の中でいかなる形でミサイル装備というものを計画していくかは目下検討中でございます。ただし、ナイキ・ハーキュリスという言葉が用いられましたが、これにつきましては核弾頭というものを私どもは使わない、こういう限度において従って率直に申しますれば、ハーキュリス等がもし核弾頭装備ということになりますれば、これらはもちろんそういうことを考えていない。これが現状でございます。
  74. 岡良一

    ○岡委員 ついでに、予算をお調べいただくときに、三十一年度からたしかミサイルの試作研究が始まっておりまするが、この予算もあわせて出して下さい。
  75. 西村直己

    西村国務大臣 先ほどの御質問の、全体の発注については、後ほど事務当局からお答えいたしますが、ミサイルの研究開発費は、三十一年がラウンド・ナンバーで三億五千万円、三十二年度が三億五千万円、三十三年度が四億八千万円、三十四年度が六億三千万円、三十五年度が七億、それから三十六年度が八億でございます。もちろんこれに国庫債務負担行為としての国庫債務がついております。その額は、それぞれの年次において、三十一年度が一億九千万円、三十二年度はございません、三十三年度が一億四千万円、三十四年度が三億五千万円、三十五年度が四億一千万円、三十六年度が三億八千万円、こういうふうに国庫債務負担行為が伴っております。
  76. 岡良一

    ○岡委員 そうしますと、ざっと三十五、六億はお使いになった、またお使いになることになりますね。
  77. 西村直己

    西村国務大臣 総計を申し上げませんでしたが、総合計で、ラウンド・ナンバーで三十三億が予算支出でございます。それに国庫債務負担行為が十五億ぐらいになりますか、歳出としては三十三億余でございます。
  78. 岡良一

    ○岡委員 先ほど、ミサイルの試作が完了し、実験をすることがあるのかというお尋ねをしましたが、今問題になっておる新島では、本年度実験をされるのですか。また、されるとすれば、どういうタイプのミサイルでございましょう。
  79. 西村直己

    西村国務大臣 新島関係は、すでに御存じの通り数年来もめておりますことまことに遺憾に存じております。ただ、あそこで扱いまするのは地対空、空対空、この二つの小型のミサイルでございます。そのミサイルのこまかい点につきましては、さらに突っ込んで申し上げてもよろしゅうございますが、詳細ございますけれども、大体二・五メートルから二・六メートルでございますか、人間のからだとそう違わない小型のものでございます。それから発射のキロ程は大体十キロから二十キロというものでございます。もちろんこれに対しては爆発物もつけませんし、危険物一切つけません。それから技術研究本部でただいまでき上がっているのはたしか三発くらいと存じております。それからこれは試射場が完成いたしますれば年間二十回、二十日前後を使わせていただく。もちろんこれは秋田県でやっております東大生産研究所のように打ち上げぱなしではございません。東大生産研究所の方は、二百キロないし三百キロあるいは三百五十キロというふうに報道されておりますから、相当長距離のロケットを上げるわけであります。私どもは二十キロぐらい、しかもこれには回収のための落下傘をつけまして、それで静かに海中に落としますから、そういう面からいったら危険程度が少ない。  あわせて申し上げますが、私どもの方は、あの新島は今後絶対に防衛基地という考えかは毛頭ない。ああいう離れた場所に防衛基地などを作る考えはない。あくまでも試射場、試験場という考え方でおるのでございますが、残念ながら一部誤伝されまして、なお紛争が続いていることは遺憾に存ずる次第であります。
  80. 岡良一

    ○岡委員 科学技術長官にお尋ねしますが、大気圏外平和利用といいますか、宇宙開発として計上されているロケット関係予算は、過去どれくらいでございますか。
  81. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 お答え申し上げます。三十五年度は二億五千三百万、三十六年度は約五億からちょっと切れます。その程度であります。
  82. 岡良一

    ○岡委員 このロケット産業というものは、電子工学から化学工業からあらゆる産業分野にわたった非常に今後大事な産業であることは、私もよく承知しておりますが、しかし今お聞きをすると、防衛庁では、すでに三十三億五千万、ところが平和利用の宇宙開発では合わせて大体八億余りで、非常な不均衡だと私は思います。こういう形で将来の技術革新の中核体たり得るロケット研究が、日本では防衛目的、軍事目的の方には、平和目的の四倍以上の大きな予算がつぎ込まれておる。こういう大きな矛盾というものは、私どもとしては納得いたしかねるのです。総理はどういうふうにお考えになりますか。
  83. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私はこの点につきましてよく存じませんので、関係当局からお答えさせます。
  84. 岡良一

    ○岡委員 私が申し上げておるのは、総理にお尋ねをしておるのは、科学技術の振興といいながら、そのトップクラスにあるロケットの研究が、防衛庁ではすでに五年越し、六年間に三十三億という予算を費しておる。ところが平和利用の方では、わずかに八億にも満たない四分の一以下なんだ。こういうふうに、これからの科学技術の中核であるようなロケット研究が、平和目的というものは非常に押えられておる。一方では莫大な予算の不均衡が――ことに莫大な予算というものが防衛庁の方の研究につぎ込まれておるという、こういう不均衡を総理は一体どう思われ、正しいと思われるのかどうか、このことなんです。
  85. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 各国の例でもよくあることでございますが、また戦前の日本でもそういうことがございましたが、科学の進歩というのは兵器からくる場合が多いのであります。従いまして、ミサイルの点につきましても、まず防衛庁に入ってきたから、そのものを検討いたしております。先ほど数字で申し上げましたごとく、科学技術庁においてこれを特に今後やっていかなければならぬというので、今年度は五億近い予算を出しておるのであります。これはこの進歩の過程におきまして、どっちが早くやるかということになりますと防衛庁の方でございます。今後は科学技術庁の方に相当力を入れていくべきだと思います。
  86. 岡良一

    ○岡委員 日本は憲法ではっきり戦力は持たないということがきめてある。でありますから今冷たい戦いの当事者である国々は、国防の目的というものから科学技術を振興させておるかもしれない。しかし僕は日本の憲法の建前からいっても、科学技術の発展、人間の英知の発展というものは、わが国や国際的な平和のためのものでなくてはならない、国民の福祉のためでなくてはならぬというのが大原則だと思う。これは憲法から演繹された当然の原則だと思う。ところが総理は国防産業によって日本の科学技術も振興されるのである、そういう方針をとろうというのでございますか、はっきりお答えを願いたいと思います。
  87. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 そういうわけじゃないのです。ただミサイル問題が防衛庁に来ましたから、起こりましたから、防衛庁では以前よりやっておるのです。しかし三十六年度の予算で見ますと、科学技術庁の方が多くなっておる。今後は科学技術庁の方がどんどん研究を進めていくことに相なると思います。
  88. 岡良一

    ○岡委員 昨年の春通産省の航空機武器課長も御一緒にロケット産業調査団というものが出かけておられる。その報告書を私は拝見をいたしました。そうするととにかくロケット産業を興さなければならないということを強く強調しておる。ところがそのためにはどうしてもアメリカとの間に技術提携をする必要がある。これが手っとり早いということをこれも強調しておる。ところがアメリカ技術提携をやれば、ミサイルの分野では必ず機密保護法をとらなければやれないと私は思う。ところがそれもあえて辞せずというような強い意向が報告書を貫いておる。まさかそういう手段をとられることはなかろうと私は思うが、政府あるいは総理はロケットの将来の発展のためにアメリカ技術提携をやり、機密保護法もあえて辞さない、そういう方針でございますかどうか、この機会にしっかりお伺いをしておきたいと思います。
  89. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は昨年の報告をまだ読んでおりませんが、ミサイルのために機密保護法を制定するという考えただいま持っておりません。
  90. 池田正之輔

    池田(正)国務大臣 岡委員の申されるようにロケットの開発をしなければならないことは当然でございます。科学技術庁といたしましては基礎的な研究に重点を置いて参りまして、今申されたようにさきには調査団を派遣し、またつい二、三日前に宇宙開発審議会会長の兼重さんを団長とする一行がアメリカその他に参りました。アメリカ日本との技術提携につきましては、ただいまあなたからおっしゃいましたような機密保護法まで制定してやるような考えは毛頭ございません。これは学者間において技術提携をやっていこうというのが現在の科学技術庁の考え方でございます。
  91. 岡良一

    ○岡委員 何しろロケットというものが発展をすれば、国際法上の公海と同じ大気圏外の宇宙というものに対して、使い方によればこれは破壊的な影響を及ぼそうとする。だからわざわざ国連代表の松平さんが委員長になって、大気圏外の平和利用というものの構想を進められておられたことは御存じの通りです。そういう意味でミサイルの開発というふうな方向が邪道に陥らないように、そのためにはあえてまた機密保護法をとるというようなことは絶対にとらないということでございますから、一応安心をいたしましたが、ぜひ一つお約束をお守り願いたいと思う。私がこういうことをお尋ね申し上げましたのは、日本の高度な経済成長の原因は何かという、一つの要件は、やはり日本が憲法で戦力は持たない。その結果、三割、四割、五割という、あの大きい過酷な軍事費の負担から国家財政が解放されておる。民間産業も平和的な生産を一生懸命やっておる。これが私は日本の大きな経済成長のてこであると思います。そういう意味からも、防衛生産という方向に日本産業活動がいくということは厳に慎まねばならぬと私は思う。この点について総理の御所信を承りたい。
  92. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 日本経済の非常な高度成長は、お話通り軍備の負担がない、非常に軽いということで、私は今後これを続けていきたいと考えております。
  93. 岡良一

    ○岡委員 もう一つ日本の高度成長は私は何といっても農地改革、その他いろいろな政府の保護政策もありましょうし、あるいはいろいろな技術改良もありましょうが、そういう形において農民の購買力のふえたとか、あるいは労働組合が公然とできて、労働者がやはり社会的な地位、所得の向上、こういう点に公然たる発言権を持って、事実それをやってのけておるという、こういうやはり国内における有効需要が戦後こういう形で大きく拡大をして伸びてきたということが、私は大きな要因の一つだと思います。その観点から、この技術革新というものが及ぼしてくる若干の影響について、労働大臣なり通産大臣に若干お伺いをいたしたいと思います。  第一の問題は中小企業の問題でございます。中小企業と大経営との格差を解消する。所得倍増計画を見ましても、労働者賃金にしても、中小企業と大経営の格差にしましても、これというめどを、はっきりしたものがつかめなかったように私は感じたのでございますが、しかしいずれにいたしましても、原則的に見まして、技術革新の時代に技術を独占したり、巨大な設備を持ち、そこに資本が集中され、生産が集中されるという状態をこのまま認める、その内部において大企業の間においての自主調整に期待をするとしても、事実そういう意味での独占的な寡頭支配というものは私は消えてなくならないと思う。とすれば中小企業との格差というものはどうしたら一体消えるのか、どうしたら解消できるのか。永久にこういう姿をこのままに放任しておいては、解消できないのじゃないかと私はあえて申し上げたいのでございまするが、基本的な点について総理の御所信を承りたい。
  94. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 大企業と中小企業の格差を全然なくするということは、なかなか私は困難だと思います。しかしわれわれとしてはその格差をできるだけ縮めていこうということであるのであります。これは先進国の例を見ましても、その格差が日本よりよほど縮まって参っております。われわれとしましては格差を縮めていこうということを目標として進んでおるのであります。
  95. 岡良一

    ○岡委員 問題は具体的にどう、それではされるのかということなんです。これも政府の統計を見ると、中規模、零細規模の労働者一人当たりの資本装備率あるいは資本の集約度、付加価値、資本係数そのものが全く大きな違いがある。しかも今さきに指摘しましたような状態をそのままに持続していくということではどうして縮まるのか。今度は設備近代化資金を四十五億、前年度よりかなりふえておるようではございますが、こういうものでなかなか二重構造が解消するはずはないと私は思う。非常に不親切だと思います。重ねて総理の御所見を伺いたい。
  96. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 中小企業の振興につきましては、従来いろいろな手を尽くしておったのでございます。その手を尽くしておるのを今後うんとこれに力を入れていく。今回、お話通りに設備近代化につきましては、従来のほとんど倍近くを計上いたしておるのでございますが、アメリカ輸出入銀行から二千五百万ドルを設備近代化資金として借り入れることにいたしております。今後金融面、税制面、あるいは技術面、いろいろな手を強力に尽くしていって、できるだけ早い機会にできるだけ多くの格差を縮めていこう、こういう考えで進んでおります。
  97. 岡良一

    ○岡委員 問題は四十五億しかないということなんです。開発銀行の昨年の九月ですか十月ですかの残高を見ても五千億ばかりありますが、計算してみると電力も加えるとほとんど大企業中心の方へ回されておるのが四千億近い。輸出入銀行もすべてがすべてそうじゃないと言われまするけれども、やはり貸付の累計が昨年の九月で三千三百億ばかり、これだって大きなプラント輸出や何かで大企業の方へ資本が集中的に回される。中小企業とすれば中小企業金融公庫の残高が昨年の十一月で千百八十二億、かりにアメリカから二千五百万ドルきたところで七、八十億、それに設備近代化資金が四十五億、一方では四年、五年の間に三兆も出して、そうして生産と設備が集中しておる。わずかこういうお金で中小企業の近代化はどうしてできますか。私はとてもできっこないと思う。通産大臣、何かこれでできるという自信があるのですか。
  98. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 技術革新の問題が主として大企業によって占められておるということでございますが、お説の通りだと思います。しかし中小企業が革新的な技術に結びつかぬかといいますと、必ずしもそうではない。電子科学工業等の面におきましては相当に第一流の斬新な設備を取り入れておるところもあるのであります。問題は、こういったようなことによってますます中小企業と大企業との所得格差が開いていくのではないかというお話でございますが、技術革新の問題が中小企業に一つも均霑してこないということになりますと、それは日本全体の産業界に及んでおるのでありまして、技術を独占するがゆえに中小企業と大企業との格差がますます開くということには必ずしも私はならぬと思います。それから新しい斬新技術の受け入れ体制というものが、今日の日本の中小企業全般においては遺憾ながらまだできておりません。それで、それの準備体制というようなものとして設備近代化の助成、あるいはまた今回税制面におきまして機械その他の設備の耐用年数でありますとか、あるいはまたこれに対する償却の問題でありますとか、あるいはまた専従者の問題、いろいろな税制面、補助その他の面において直接間接中小企業の近代化あるいはその向上というものをはかっておるのでありまして、漸次所得格差の問題を縮めていくという努力を具体的にしておる状況であります。
  99. 岡良一

    ○岡委員 それでは承りますが、日本の中小企業の設備近代化のためにどの程度の資金が必要ということになっておりますか。
  100. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 多々ますます弁ずということになるのであります。しかし消化力のないところにむやみに補助、助成をしても、これは不消化に終わるというような状況でありまして、今のところどの程度が適当であるかということはにわかに断定は下し得ないと思いますが、今回の近代化等の予算があれで十分だとはもちろん思っておりません。
  101. 岡良一

    ○岡委員 中小企業庁の方面から聞くと、なかなかどうして大へんな資金が必要だという話も聞いておるのであります。設備の近代化が進行しておるように言われますけれども、これもやはりあなたのお役所の調べで見ると、中小企業の設備の近代化というけれども、新しい機械を買っておらない場合が多い。一昨年の調査ですが、大体百人未満の工場では中古の機械が三割、しかもその三割というのはこれは価格での話なんだから、実際問題とすれば、物量的に言えば五割にも六割にもなるだろうと専門家の話では言われておる。そういうような形でいつまでたったって格差が縮まらない。しかも一千億をこえる最小限度の設備近代化資金というものが四十五億で事済まされておるようなことでは、いつまでたっても私は格差は縮まらないと思う。中小企業に対する対策を政府は慈善事業か何かのように心得ておるのじゃないか。問題は、日本産業構造を大きく変革しようとするならば、中小企業との格差をどう解消するかという、いわば慈善事業じゃなく振興計画を立てなければならぬ。年次計画を立てて計画的に選別された中小企業に対する近代化というものを進めていく、資金の援助なり工場診断なり技術なりを与えてやる、こういう年次計画をはっきり示さなければいかぬ。所得倍増計画を見ても何らそれがうかがえない。具体的な年次計画、振興計画をもってする、こういう方針でいくべきだと思いますが、通産大臣の御所見はいかがですか。
  102. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 一がいに中小企業と申しましても千差万別でありますことは御承知通りであります。従ってこれにすべてにきく施策、万能薬というものはございません。やはりお説のごとく地域的にあるいはまた業種的にこまかく中小企業の実態を十分に調査いたしまして、それに適応する施策をやる、こういう考え方のもとに、ただいま各業種別にこまかく調査をしておりまして、これの対策はいずれ予算の範囲内において逐次実行して参りたい、かように考えます。
  103. 岡良一

    ○岡委員 慈善事業としてやるというのじゃなくて、具体的な年次計画をもって進行させるという積極的な踏み出しを私はぜひとも強く要望いたしたい。  総理にお伺いいたしますが、鉄鋼、化学、化繊、自動車等の産業生産の伸び、昭和三十年から三十四年までですが、非常に激しい伸び方をしておるようです。ところが労働賃金の伸びがきわめて少ない。生産の伸びが三倍半以上になっておるもの、二倍近いものがどっさりある。ところが賃金の伸びというものは大体二割台、企画庁長官生産の伸びにおくれて賃金も伸びるのだというふうな御説明でございましたけれども、しかしそれにしても生産性向上賃金というものは、この計数で見ると非常にアンバランスだ、分配は不公平だ。私は先にも申しましたように、貿易も先行きが決して楽観できないとすれば、やはり国内における有効需要を拡大するという方針、従って大衆の購買力を増大せしめるという方針、労働者の側に立ってもっと考える必要がある。先般のケネディ大統領の教書を見ましても、あの十一項目の中で六項目も労働者に呼びかけている。最低賃金を上げるのだという訴えをやっておるじゃありませんか。総理はこういう生産性向上賃金上昇との間における不均衡というものに対して、これをこのままに放任していいと思われるか、御所見を伺います。
  104. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 生産性向上賃金上昇、これは大体つり合っていくべき筋合いのものでございます。三、四年前にイギリスあるいはアメリカでもそうでございましたが、いわゆるクリーピング・インフレーション、生産性向上よりも賃金上昇の方が多いということで、いろいろ論議されております。わが国におきましては、お話通り、大体今お話しになったような大産業の部門におきましては生産性が非常に伸びた。しかし賃金も相当伸びておるのであります。今の状態は生産性向上のある部分しか賃金は上っていない。しかしこれは年によって違います。多分三十二年から三十三年くらいは賃金の伸びが生産性向上よりちょっと上回っておったかと思いますが、最近におきましては、お話通りでございます。ただ問題は生産性向上した場合に、それをどう分配するかという問題でございます。その利益を労働者に持っていくか、あるいは将来の生産の基礎へ持っていくか、あるいは経営者、資本家に持っていくか、この分け方につきましては、いろいろ議論があると思いまするが、一般の原則としては生産性向上につれて賃金がそれに伴っていくことが理想型でございます。
  105. 岡良一

    ○岡委員 しかし、どう仰せられたところで、いわばこの分配というものは、私は非常に不公平だと思う。強い労働組合を持つことは産業の大きな資産だとさえいわれている。いずれはこの春からはまた賃金の問題について組合は立ち上がることでございますが、やはりケネディ大統領が就任早々の教書で労働者に呼びかけ、最低賃金を上げるというような確約をやった。こういう大きな、大局的な立場から、総理もぜひこのアンバランスを是正することが妥当だという観点から、政府としても総理を初め労働大臣の善処を私は願いたいと思う。そこで労働大臣にお伺いをいたします。私も実は三、四回テレビの工場を見学したことがございます。一番りっぱな日立とか東芝とか、伊丹のあれは三菱電機ですか、日本電気あたりへ行きますと、非常に明るい広い工場で無数のベルトにさっき申し上げたように部品が乗って、それで制服を着た若い女の労働者が一生懸命手仕事でまめに組み立てをやっておるわけです。ところが今度その下請の工場へ行くと、ここではもうそういうオートメ化というようなものはない。だからたんねんに目をはらさぬばかりに、あのこまかい線や真空管をいじって作業をしている。労働環境も非常に悪い。ところが、これは聞いた話でございますが、そのもう一つ下請がある。これは家内労働、そこでは真空管に細い針金を伝票の通りに入れたり、封印をしたりなんかそういう作業をやって、最近はせいぜい一つ当たり五十銭にもなればいいのだ、一家三人で一月働いたって、一万円になるかならぬかだというふうな嘆きが、そういう家内労働から出ておるということ、私は花形産業といわれておるテレビの生産のこの三つの現場というものが、日本の現在の雇用構造というものを端的に物語っておると思う。一つは、もう今では熟練工はあまり必要じゃないのだ、自動機械のように働いてくれる勘のいい若い労働者であればいいのだということ、だから、その結果とすれば、中高年令層はどんどん労働市場から排除されていく傾向にある。しかもセメント工場やテレビ工場へ行くと、梱包したものの運搬ということになると、これは制服も何もない非常に不ぞろいな格好をして、相当な年輩の諸君が働いている。これは私は臨時工だと思う。これは政府の統計を見ても、大経営の臨時工というものが非常にふえておるようです。こういうふうに労働市場というものは、技術革新で大きく構造的に変わってこようとしておる。今申しました集中的なこういう情勢に対して一体どういう施策をお持ちなのか、この点をまずお伺いしたい。
  106. 石田博英

    ○石田国務大臣 今の御質問にお答え申し上げます前に、先ほど総理の御答弁にちょっと補足を申し上げておきたいと存じます。それは昭和三十年から三十四年までの総生産の伸びは八五%でありますが、しかしそれに対して賃金は二六、七%で、生産の総量とアンバランスは非常に目立つようでありますが、一面雇用が三六、七%伸びておりますので、労働生産性上昇率は三五、六%であると記憶しております。そういたしますると、その労働生産性の伸び三五、六%に対して賃金上昇率は二六、七%ということになっておりますので、生産が八五%伸びておるのに賃金が二六%しかないというような、そういう非常に懸隔した状態ではないことを補足して申し上げておきます。ただその場合へ賃金上昇生産性上昇に伴って上昇することが望ましいのでありまして、その分配が、先ほど総理のお話のように、拡大生産のための資本蓄積に向けられる部分、それから消費に分配される部分、そうして生産者、労働者に分配される部分、その割合等についてはいろいろ議論もありましょうし、あるいは民間企業等においては労使の協議によって決定せられる部面が多いわけでありますが、その差はただいま申し上げましたような状態にあることを補足して申し上げておきたいと存じます。それからただいまの御質問でございますが、これは中小企業の労働賃金並びに労働条件と大企業の労働条件と賃金格差の縮小という大きな問題にからまる一つの典型的な例だと存じます。そこで中小企業と大企業との規模別賃金格差を縮小すると一がいに申しましても、中小企業の中で第二次産業と第三次産業とがございます。そこで今岡さんが御指摘になって御議論をされておるのは主として第二次産業の場合と理解をいたします場合には、第二次産業の場合、一つにはただいまお話のように、大企業とそれに関連していく下請との関係、この下請企業という形にある中小企業、もう一つは直接そういう関連ではないが、独立した形において存在する中小企業というふうに分けられると思うのでありますが、根本的には賃金格差その他労働条件の向上というものは、やはり生産性上昇によって求めて参らなければならぬことは言うまでもございませんし、現実に賃金格差は生産性の差に比例をいたしておるのであります。しかし、大企業との関連を持ちます下請との関係の是正ということは、他の独立して存在しておりまする中小企業よりは露骨に、現実的に格差が目立つものでありまするし、またその関連性の中でとらえやすい問題であると私どもとしては考えておりますので、これを一つの系列の中でとらえまして、そうしてその系列の中で労働条件の向上をはかっていくという方法を具体的に今とりつつございまして、その一つの例は日立製作所を中心にその下請企業全体を集めまして、そうしてその労働条件の向上のための組織を現在作りつつあるのであります。今週週末の十九日にその組織ができ上がりまして、たしか七週間にわたって各週ごとにいろいろの問題をとらえまして、たとえば福祉施設等については、最初の段階においては大企業の施設を下請企業も使えるようにする。あるいは親企業の方が、親企業の順守いたしておりまする基準法その他による労働条件の維持というものに下請企業が見習って近づいていくように指導していく。それから関連企業の方でも、過当競争をやって、勤労者の犠牲の上で安い納入を行なっていくというようなことを避けさせるように、お互いに横の連絡をとって、日立製作所を中心とする組織をサンプルといたしまして、そうしてその形を全国に押し広めていくことによって、大企業の指導と、大企業との関連の上に労働条件を大企業のそれに近づけていこうという試みをもう始めておるのでございます。十九日には私も現地に参りまして、その実情を見て参るつもりでございます。ただ一番末端の家内労働につきましては、これは今法制上の処置も具体的にございませんので、ただいま家内労働調査会におきまして家内労働法の立法の御検討を願っておりますが、その結論を得ますまでの間の経過的な措置といたしまして、行政指導を行なって、非常な低条件にある賃労契約というようなものの改善をはかって参りたいと思っておるわけであります。根本的には、大企業との関連のあるものは、設備その他におきまして相互の関連性を強めて、そして大企業のそれに近づけていく努力をすることも当然でありますけれども、大企業もまた下請に対して発注をいたす場合におきまして、その原価計算あるいは契約金等におきましては、その労働条件をやはり自分の企業の労働条件に近づけるような含みをもって協力していくような空気を作り上げ、同時に組織を作り上げることが一番大切だと考えまして、ただいま申しましたような試みを日立製作所を中心にやっており、それを広めていこう、こう考えておる次第でございます。  中高年令層の就職の問題は、文字通り頭の痛い問題であります。そこで私は昨年の夏に就任をいたします早々、中高年令層の就職問題の解決ということに雇用政策の大きな重点を置くことを命じますと同時に、まず中高年令層に必要な、中高年令層で間に合う職種の調査検討ただいま日経連と一緒になっていたしておるわけであります。大よそいろいろな調査ができましたので、近い機会にまず政府関係事業に対しまして、その政府関係事業内の職種で、中高年令層で間に合うのに若年層を使っておる業種がたくさんございます。そこでそういう中高年令層で間に合うものにつきましては、中高年令層の人を使ってもらうように協力を懇請いたしますと同時に、そういう職種について、職業あっせんその他の場合におきましても、意識的に中高年令層を優先使用してもらうような指導を今行なっておるところでございます。高年層となりますとなかなかむずかしいのでございますが、中年層の場合におきましては、先ほどのお話のように技術革新によって、もう高度の熟練とか勘とかいうものが要らなくなって、むしろ若い単純な労働力の方が需要が多くなってきているということも、それは事実でありますが、それと同時に、特殊な技能労働者に対する需要も非常に多いのでありまして、未充足数は現在八十二、三万に上っております。そこで高年層は無理でありますが、中年層につきましては、職業訓練所等に入ることがなかなかむずかしいのでありますが、一生懸命勧奨いたしまして、現に三池の荒尾等におきましては、五十五才の人が二名、五十才以上の人が数名すでに入っておるという例もございますので、そういう技術訓練等を通じまして、中高年令層の就職の機会の増大に努めていきたいと思います。しかしこれとても現在の中高年令層に現われておりまする殺到率から見ますると、なかなかむずかしい問題でありまして、中高年令層で間に合う職種の調査検討が終わりましたならば、もう少し強力な、たとえば身体不自由者に対してとったような行政措置をも考えなければならないかとも思っておる次第でございます。
  107. 岡良一

    ○岡委員 自動車産業なんかは、三十年の生産を一〇〇とすると三十四年三五五なんです。ところが賃金の伸びは二六%なんですね。こういうような極端な例もありますので、総体的な数字は別として、業種別には相当な不均衡があると僕は思うのです。それから賃金の問題では、いろいろ今言われました。この間本会議でも、三年計画二百五十万を目標に現在の最賃法に基づく業種別、地域別な最賃の決定をやっていきたいという方針のように承りましたが、私はしかしこの段階に来ましたら、こうして技術革新が雇用構造賃金構造に非常に大きな衝撃を与えておるこの段階にいったら、経過的な措置はいろいろお考え願うとしても、原則的にはやはり八千円なら八千円の最低賃金制という方向に切りかえていく必要があるのじゃないか。と申しますのは、さっき指摘しましたように、少数の高度の技能者は要るといたしましても、全体的にはもう日本賃金構造の、終身雇用を前提とした年功序列の賃金体系というものは、どちらかというとだんだん侵害されてきておる。ところが大工場へ行けば、終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系は、元来が初任給が安いということなんです。これがいわばめっけものとして、それだけはとられておる。一方、中小企業へ行けば、今特に中高年令層のごときは、就職率と殺到率の鋏状差というものが顕著に出てきていますけれども、それなくしても、やはりこの初任給の安いという条件、これは大企業と同じ、あるいはもっと激しい。こういうような状態をこのままにしておいたのでは、いつまでたっても私は基本的な賃金上昇はないと思う。だから地域別、業種別というような、そういう調整的な措置じゃなくて、八千円ベースなら八千円ベースという一律の最賃制というものが、今技術革新下における日本賃金政策の基本的な方針じゃないかと私は思うのです。なぜなら、終身雇用の年功序列型の賃金体系はくずれておる。しかし現在経営者は、この古い年功序列型の賃金体系の初任給が安いということだけは、少しも変えないでおるという状態ですね。この矛盾した状態を切りかえていく、それにはやはり一律の最低賃金制をとるべきだ、私はそう信ずるのございますが、労働大臣の御所見を伺いたい。
  108. 石田博英

    ○石田国務大臣 この初任給が安いという状態、これは勤労者の立場から見ても非常に困った状態でありますが、私も、経営者の側から見ても非常に不安定な状態でないかと思うことがしばしばございます。と申しますのは、最近の新興産業は、新興産業であるという特質から見まして、非常に従業員の平均年令が低いのであります。低いために、その平均年令の低いところからくる安い賃金、それに依存して経営しておるのでありますが、いつまでも年が若いわけではありませんから、それがだんだん今の年功序列型賃金体系で年々上昇していった場合に、そういう賃金の上に立っての経営というものをはたして考えているのであろうかということも、私どもには憂慮される場合もございます。そこで先はどの中高年令層の就職の機会の増大ということを解決いたしますためにも、現在の封鎖的な雇用制度あるいは年功序列型賃金というものに大きな検討を加えて、これを改めていかなければならぬ状態にだんだん来つつあることは、御承知通りだと存じます。特に初任給が非常に安いために、中高年令層の人たちは勢いどうしても相当高い賃金でなければ家計を維持できない。そうすると需要との関係で、就職の機会はそのためにいよいよ狭まるということにもまたなってくるわけであります。従って両方から考えて初任給をだんだんと上げていかなければならない。それには最低賃金制を有効に働かせることが必要であるということは、これは全く同感でありますが、さてそこに至りまして、地域別、業種別賃金、あるいは業者間協定というものを中にはさんだ現在の最低賃金法を、全国一律十八才八千円というような一律のものに一挙に改めた方がいいじゃないかという御議論になりますと、先ほどいろいろ御指摘になりました中小企業の現状というものを勘案いたしましたときに、そこにいろいろなむずかしい問題も出て参るのであります。  それからもう一つは、私どもは中小企業の経営の安定というもののためには、生産性向上が必要であり、そのためには技術、税制、あるいは資金、その他いろいろな要素の改善が必要でありますが、労働行政の面から見ますと、やはりよい安定した労働力を供給するということが一番大切であります。従ってそのためにも、私どもは賃金上昇、待遇の改善ということが中小企業の経営の近代化のための前提条件であると考え、そういう趣旨によって今最低賃金制を運営いたしておるのでありますが、しかしその中小企業の現状というものが、先ほどいろいろ御指摘になりましたように、一挙に改善されるという状態にもないのであります。また諸外国の例を見ましても、一番最低賃金制が進んでおりますアメリカさえも、やはり州際産業につきましては全国一律でありますけれども、そのほかの小規模の中小企業等につきましては、各州別々に最低賃金を定めておるという状態であります。従って全規模の産業について一ぺんに全国一律のものを実施するということは、現在まだ時期が早いのではないか。現在私どもがとっておりますのは、ただいま御議論のようなものに反対するのではなくて、御議論の中にございました経過的措置の一つとしてやっておるわけでありまして、現在四十八、九万に上っておりますが、三カ年で二百五十万にすることを一応の目標といたしておりますと同時に、その決定をいたします最低賃金額につきましても、もう十五才で二百円をかなり出ておる状態であります。古いものは残っておるものもありますし、順次改善されておりますけれども、新しいものは十五才で二百円をかなり出つつある状態でございます。そういうことを通じまして、二百五十万程度に普及をさせ、最低賃金制の効果を経営者にも知らせつつ、そして中小企業の業態の改善を待って、同時に運営の経過に生じました諸問題をとらえて、その後において法の改正というものに着手したい、こう考えておる次第であります。
  109. 岡良一

    ○岡委員 私は先ほど申しましたように、今が一律最賃制を実施する非常に適切な時期だ。しかしもちろんそれは御指摘のように、経営の内容というものを無視した最賃制というものにはいろいろな制約があるということは私も知っております。だからさっき通産大臣にも申し上げておったように、中小企業の設備の近代化と振興計画というものを年次的に立てて、国は予算的に、技術的に、設備的にその計画を責任を持って推進していくという形の中で、やはり一律最賃制を推進していく、今からやれるところは手をつけていくという経過的な措置を申し上げているわけであります。  それから先般、貿易自由化に伴って失業者が出る、通産省では百三十五万とかいう数字、労働省ではたしか百六万とかいうような数字を私拝見したように思うのでありますが、三十五万か六万かと言っても、三十万の失業ということは大へんな問題だと私は思うのですが、これはどこにそういう食い違いができてきたのですか。
  110. 石田博英

    ○石田国務大臣 それは貿易自由化によって影響を受ける産業に従事しておる者の総数を私どもは百六万、こう見ておるわけでありまして、大体大ざっぱに私どもが産業別に見ております数字は、鉱業におきまして四十万七千くらい、それから製造業において六十五万五千くらい、こういう見方をいたしております。それから三十二年度末の常用労働者数を六百二十八万、貿易自由化によって影響を受けるものの調査対象をそう見た中で、直接影響を受けるだろうという数を百六万三千六百人、こう見ておるわけであります。これは貿易自由化の実施時期、それから産業の合理化、近代化のテンポ経済成長率等を考慮しないで、現在国際競争力が低くて、そうして直ちに自由化すれば何らかの影響があるだろうと見られる産業を推測いたしまして、それに従事する労働者を機械的に試算した数であります。従って自由化の実施の時期、あるいは合理化の進み方、近代化のテンポというようなものによって変動を生じてくることは申すまでもないのでありますが、一応私どもが現在各種産業のうちで国際競争力が低いものというものを対象に考えた数字であります。それからこれはあくまで百六万人が職を失うというのではなくて、影響を受ける労働者数は百六万、こう見ておるわけであります。その中から合理化、近代化のテンポによって雇用の変動を迫られるというような状態が生じてくることを考えなければならないのであります。われわれとしては、これは石炭の場合も同様でありますが、根本的に、物の面からだけの計画ではなくて、やはり人の面も伴って考えていかなければならない。従って人の面を無視した場合の計画がいかに合理的でありましょうとも、それによって生じます雇用の変動というものが著しい摩擦を生ずる、あるいはその雇用の変動に対して摩擦を生じないような準備と努力が伴わない場合は、やはりそのテンポ、時期等について考慮をしていかなければならない、そういう方針で臨んでおるわけでありますが、数字の状態はただいま申し上げたようなわけであります。
  111. 岡良一

    ○岡委員 貿易自由化によって、労働省の調査では百六万、通産省の御発表では百三十五万というようなことになっております。せんだって農業センサスの速報というようなものを見ますと、昨年一カ年間で現に農業に働いておった者で都会の工業に、二次産業、三次産業にきた者が二十九万という数字が出ております。そこでここ二、三年いたしますと、今度は生産年令人口というものが五百万と言われ、六百万と言われている急激な増加が来る。一時ぐっとピークができてくるわけです。所得倍増計画を見ると、過去の実績からマクロ的に吸収し得るであろうというような期待が込められておりますが、一体このあと三年、四年後にくる大きな生産年令人口の急激な上昇というものに対して雇用政策というものはあるのですか。
  112. 石田博英

    ○石田国務大臣 これから三年、四年、昭和三十八、九、四十年、から四十二年くらいまでが、多少私の記憶に違いがあるかと思いますが、そのくらいの間毎年非常に多数の新規労働力人口というものがふえて参ります。これは御指摘の通りであります。平年度と申しますか、現在年度より大体五十万から六十万ぐらい増加するのではないかと思っております。ただ中等学校卒業生、高等学校卒業生に対しまする現在の労働力の需給関係を大ざっぱに申しますと、中等学校卒業生で就職希望者が三十万をちょっとこえる数だと思います。それに対して求人の方が九十数万であります。それから高等学校の卒業生は五十二、三万に対しまして、これまた九十数万でございまして、新規労働力の増加に対する需要というものは、これは供給をはなはだしく上回っておりまして、新規労働力そのものについては、経済成長所得倍増計画に大きな蹉跌を来たさないで進んで参ります限りにおいては、そう心配をいたしておりません。  それから農業からの移動でございますが、農業センサスでは確かに御指摘のような数字でありますが、そのほかの移動その他を換算いたしますと大体四十二、三万のものが三十三年、三十四年に移動しておるようでございます。やはり問題は結局技術労働者不足の反面にあります中高年令層、それから経済政策、あるいは産業経済界の発展によって、あるいは技術の革新によって生じます雇用の摩擦的変動にどうして備えていくかということが一番大きな問題であろうと存じておりますので、現在御審議願っております予算案の中に雇用促進事業団の新設を含んでおりますのは、これによりまして第一に労働力地域的なアンバランスの是正、これは九州、特に福岡等におきましては殺到率が四ないし五でございますが、その逆に東海、特に名古屋等におきましては月平均四万人の就職者に対して求人が約十四万というような数字であります。こういうようなアンバランスの是正のために住宅あるいは移転資金その他の仕事をいたしますと同時に、先ほど申しました技術労働者不足に対して職業訓練を強化いたしまして、そうして経済産業界の変動によって生ずる雇用の変動の摩擦をなからしめ、中高年令層の就職の機会の増大をはかっていくということが、これからの雇用政策であろうと考える次第であります。
  113. 岡良一

    ○岡委員 新しく生産年令人口に到達する人たちがどれだけかということで、私の調べたところでは昭和二十一、二年ごろの出生の人口は大体二百万をかなりこえております。最近は百万前後というような状態です。これが皆が皆というわけではございませんけれども、四十万や五十万では押え切れないのじゃないかという懸念を持つわけです。しかしながらこれは今から雇用の態勢というものについてはどうしても政府としてもただばく然と過去の実績からアクロ的に吸収し得るであろうという期待では、何しろこれは人間の生活の問題ですから私としては納得いたしかねるので、ぜひ一つ御奮発を願いたいと思います。  それから西村防衛庁長官、さっきお尋ねした数字を……。
  114. 石田博英

    ○石田国務大臣 これはよけいなことでありますが、大体大ざっぱな、私どもの方で立てております新規雇用希望者の逐年ごとの見通しというようなものについてごく概略申し上げておきたいと存じます。  昭和三十六年におきましては百四万でございます。三十七年に百三十一万と増加いたしまして、その次の年が百五十五万、百四十万、百五十一万、百六十三万、百五十九万、百五十四万、そうして、昭和四十四年ごろからまた下降線をたどっていくであろうというような数字でございます。
  115. 西村直己

    西村国務大臣 先ほどお尋ねがありましたが、防衛庁から外部へ発注する全体の年度別数字、それにつきまして申し上げますが、中央調達額、言いかえますれば米とかみそとかそういうものは別にしますが、中央で発注しておりますのは三十三年度が五百五十五億、それから三十四年度が五百三十七億、三十五年度はロッキードの国庫債務負担行為による六百八十億、それが一応発注という――契約の時期はいずれ三十五年度の三月三十一日までにできますので、ここだけはふえまして千二百億、それから三十六年度見込みが五百二十億くらいのところでございます。よろしゅうございますか。
  116. 岡良一

    ○岡委員 ミサイル装備をすると予算高も相当ふえてくると思いますが、こういうことについての予算的な見通しは立てておられませんか。
  117. 西村直己

    西村国務大臣 実は防衛生産全体の全鉱工業生産の中に占める地位を百分率で申しますと、百分の一、一%くらいであります。防衛生産そのものは、日本におきましてはきわめて微弱であり、また非常に出血受注のような、会社にも非常な協力を願わなければならないような面も多々あるわけであります。またただいまお話の、ミサイルにつきましては、先ほど来申し上げましたようなサイドワインダー、エリコンあるいはターター、こういうようなものにつきましては発注あるいはアメリカとの契約等もある程度行なわれておるのであります。その後のものにつきましては、国産につきましては、特に私どもとしましては防御用、防空用のものを主眼にして参りますから、きわめて大規模な非常な設備を要するようなものについては今のところまだそこまで考えがいっておりません。従ってこれを国の歳出面におきましても、もちろん今後長期見通し計画等を立てて、その中で参らなければなりません。言いかえれば国産化をかりにいたしましても、資本を投下いたしまして、設備の償却、金利、一切を考えて会社がもうけていかなければならない建前でありますから、急激に精度の非常に高い、大きなものを作らせようと思っても民間の協力は得られません。従ってわれわれとしてはわが国情に応じたいわゆるミサイルの開発、それからそれについての政策、それの国の予算化、従って全体の構想はどうなるかということについては、次期防衛力整備計画等の際においての国力、国情、言いかえれば財政力等をよく勘案し、また民間の技術開発の協力の程度を勘案しながら考えて参りたい、こういう考えです。
  118. 岡良一

    ○岡委員 もちろん大陸間弾道弾は五百二十七億くらいかかるとかいうのだから、そういうものはもちろん持つはずはないにしても、防衛生産委員会あたりから出しておる資料を見ると、これは航空機よりもよけいかかりそうな数字が出ておるようであります。  私はこれで質問は終えたいと思いますが、最後に総理に一問承っておきたいと思います。それは先ほど来るる申し述べましたように今は技術革新の時代である。経済成長をささえておる基本的な要因は技術革新だ。技術革新は人間の知恵の発展とともに見出されていくものですから、政治の力でも、経済の力でも押えられない。人間の英知の発展を押えられないように押えることができない。だから今はこの技術革新の日進月歩の発展というものがこの社会に挑戦をしておる。少なくとも非常に大きな衝撃を与えておる。それが産業構造に、雇用構造に与えておる時代なんです。だから私は先ほど来総理の御答弁に納得しがたいことは、基本的に、やはり総理がとられる経済政策のコースというものは、ほんとうにこれはもうマルクスの資本論にうたってあるようなあの筋道をそのまま行っておる、こういう古典的な、クラシックな経済政策は、たとえ保守党の内閣でも、私は修正すべきだと思う。この衝撃をどう緩和するかということが今日の政治の大きな課題になりつつあるという点。同時に日本経済成長を特に高い経済成長たらしめておる要因は何かといえば、それは総理も御承認になったように、一つは憲法が軍備を禁じておる、国の財政負担が、国防の負担というふうなあの重い負担から解放されて、民間の産業活動が、不生産的な軍需生産というものから解放された。次には何と言ってもやはり労働者や農民の所得の向上が戦後著しく改善された。だから日本経済成長をささえておるところの技術革新については、あくまでも国産技術の確立という方向に向かってよほど努力をしていただかなくては、日本はいつまでたっても事実上の後進国になる。もう一つはやはり憲法を守って、今お話しのように軍需生産は年間五百億程度だ、しかし飛行機だ航空機だといえば一千億以上にはね上がるという状態でありまするが、これがミサイルになれば、これはもう必至です。資本の論理として過当競争をやり、リセッションに不安を感ずれば、国家の財政にマーケットを求めようとするのは、今の政府のやり方ならば必至な論理的帰結になろうとしておる。これは厳に私は戒めなければならぬと思う。同時に先ほど来指摘しましたように、まだまだ生産性の伸びに対して労働者の所得は高くない、不均衡である。しかも失業構造、失業市場というものが大きな変革をし、なかなか妙案がないというふうな状態も一部に起こってきている。同時に雇用の大きなピークがやがて控えておる。これに対しても必ず完全雇用へという御信念は、私はまだ政府にはお見受けができない。社会保障社会保障と言ったって、完全雇用が大前提なんだ。少くとも労働者や農民の所得の向上ということが日本の大きな経済成長の柱であるということをぜひ一つはっきり認識をしていただいて、日本経済成長をささえておるこの二つの柱、これをくずすようなことをするということは、私は時代に逆行するやり方である。ぜひ一つこの点については十分の戒心をしていただきたいということを、私は最後に強調して、総理の御所信を承りたい。
  119. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 全体が調和をとれて伸びていくように考えておるのであります。お話しの技術革新、これは高度成長のもとでございます。それにはいろいろな予算の組み方もございましょうし、また青少年に技術教育をするということももとであるのであります。十年間倍増計画と申しますと、技術者が今の予定よりも十七万人あるいは技能者が四十五万人、今の上に要する、こういうようなこともございますので、技術革新のための文教施設には相当力を入れていこうといたしておるのであります。
  120. 船田中

    船田委員長 午後一時三十分より再開することとし、この際暫時休憩いたします。    午後零時五十四分休憩      ――――◇―――――    午後一時五十三分開議
  121. 船田中

    船田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。井堀繁雄君。
  122. 井堀繁雄

    井堀委員 私は、民主社会党を代表して、当面する労働問題を中心政府の所見をお尋ねいたしたいと思います。  政府は、さきに国民所得の倍増計画についてすみやかに国民総生産を倍増し、雇用の増大による完全雇用を達成すると言い切っております。さらに池田総理は、さきの施政方針演説の中で、生産年令人口の増加と不完全就労の状態にあえぐ多数の労働人口のあることに言及されまして、これらの人々に能力に応ずる職場を作り出すとともに、産業構造の変革に応ずる労働の適正配置をはかり、さらに新規就労人口に見合う技術、技能者の養成、職業訓練の拡充、雇用の流動化の促進などを予算策定にあたりて特に意を用いたと述べておるのであります。私どもは、この点に重大な関心を持ちますとともに、その実行の可能、不能について多くの疑問を持ちますので、順次お尋ねをいたして参りたいと思うのであります。  まず不完全就労が、総理の言葉をかりて言いますと、不完全就労にあえぐ人口が非常に多いことを強調されておりますが、全く同感であります。そこで問題になりますのは、不完全就労という言葉が従来問題になっておるのでありますが、不完全就労というものをどのように政府は理解をし、またその数についていまだ明確な数字をつかむことができないのでありますが、その数字をこの際明確にしていただく必要があると思うのであります。それから産業構造の変革という言葉を使っておるのでありますが、産業構造を変革するという言葉の中にも幾多の疑問があるのでありますが、まずこの点に対する政府の明確な見解を一つ明らかにしていただきたいと思うのであります。それによりまして順次お尋ねを進めて参りたいと思います。
  123. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 不完全就労というのは、お話通りなかなか定義がむずかしいのであります。仕事は持っておりますけれども、所得が非常に少ないとか、あるいは労働時間が少ない、まあこれも所得が少ないということに通用いたしますが、そういういろいろな定義がありますので、なかなか何人ということはむずかしいと思います。非常に所得の少ない、たとえば十八才以上の人で七千円未満とか、あるいは十五才ぐらいで五千円未満とか、こういうようないろいろな分け方がございますが、全体で五、六百万、こう言われておる状況でございます。こまかくは労働大臣からお答えすることにいたします。  また産業構造の変革ということは、生産が倍増いたしますと、どうしても第二次産業、第三次産業の方が非常に多くなって参ります。そして第一次産業は、それだけ伸びない関係上、そこに第一次、第二次、第三次の構造が変わって参ります。また第二次産業におきましても、やはり規模別にこのままほうっていったならば非常に格差が大きくなる。そういう規模別の格差なんかの産業構造も改めていく、こういう考えでいっておるのであります。
  124. 石田博英

    ○石田国務大臣 不完全就業につきましては、第一に就業意思からこれを調査いたします場合と所得から調査いたします場合と二通りございます。就業意思、すなわち現に働いているけれども、しかしそれでは不十分であるから、他の仕事を見つけたいと考えている者とか、あるいは現在働いている収入では不十分でありますから、追加就業を希望している、そういう線から調査いたしますと大体二百四十万という数字が出て参ります。しかし一般的に仕事を主にいたしておりますけれども、所得が低いという基準から、家族の構成とかいろいろな面から、その基準は一定ではありませんが、そういう基準から雇用審議会が算定をいたしました数字は、六百九十万ということになっております。
  125. 井堀繁雄

    井堀委員 私がなぜこの数字を追及するかと申しますと、これを正確に把握しなければ、池田総理のおっしゃられる所得倍増の前提条件が不明確になるからであります。  そこで今総理大臣と労働大臣の御答弁の中にも、数字の上でははなはだしく大きく食い違いが生じてきております。もちろんそれは統計のとり方によって変わると思うのでありますが、しかし一応総理が施政方針で明らかにいたしましたように、予算策定の中で深く考慮されておるというのでありますから、問題はもう具体的になってきておると思うのであります。そこで私どもが今一番信憑力のあると思われる統計の中からこれを求めてみます。そしてそれに対する明確な御答弁をいただけばはっきりすると思うのでありますが、これは総理庁が自慢にいたしております国勢調査に次ぐ大がかりに徹底した調査というので、第二回目の発表が昭和三十四年七月一日現在で出ておるのでありますが、その就業構造の基本調査によりますと、労働人口を約六千四百三十万と押えて、そのうち有業者が四千百三十万人、無業者が二千二百万人、こういう数字の中で、不完全就労と思われるものについて、今労働大臣のお答えになりましたものと一致するかどうかは問題があると思いますが、一応統計に現われております言葉を用いますと、不規則就業者二百十三万人、季節的に就業をしたりしなかったりするものが百二十五万人、それから転職を希望されておるものが百六十四万人、就業希望者四百五十万人、追加就業希望者が九十万人、当時完全失業者が七十万と発表しておるのであります。これは先ほどの石田労働大臣の言葉をかりて言いますならば収入と言われましたけれども、労働条件全体の上に不満があるということが前提になると思います。これを合計いたしますと一千百十二万人をこえるのであります。それと、先ほどお答えになりました二百四十万人あるいは雇用審議会の答申の六百九十万、これは私も多少検討いたして六百九十万には根拠があると思います。池田総理は五、六百万人。こういう基本的な政策の前提になります数字があいまいでありましたのでは、その上に策定されます政策予算などというものは、全く砂上の楼閣にひとしいこととなるのであります。でありますから、もう少しこういう数字については正確なものを前提とすべきではないかと思うのであります。この点については、企画庁はこういうものの上に一切の計画を盛っておると思うのでありまして、十分検討されておると思いますが、企画庁長官のこの点に対する御見解を一つ伺っておきたいと思います。
  126. 石田博英

    ○石田国務大臣 企画庁長官がおりませんので私がお答えをいたします。  今の総理府の調査の中でいろいろな項目の数字をあげられてその合計を一千何ぼ、こう言われておるわけでございますが、その場合はダブっているものもあるわけでありますから、一千万という数よりもやはり雇用審議会の調査いたしました六百九十万という数字が、大体われわれが基礎とすべき数字じゃないだろうか、こう考えておるわけであります。ただその総理府の調査のときは完全失業者七十万という時代ですから、完全失業者七十万という時代は、季節的に三月、昨年の三月そういうときがございましたし、年度平均ですと、一九五五年でありますから今から六年ぐらい前にそういう数字が出たときがございます。しかし昨年の十月現在では二十八万という数字になって、完全失業者が非常に減ってきております。そういう点から見て、先ほどの一千何ぼという数字でなく、やはり六百九十万前後という数から私どもは考えたい、こう思っております。
  127. 井堀繁雄

    井堀委員 どうやら自信のないほどを明らかにしたようでありますが、これはぜひ要望いたしておきたいと思います。今後どうしても所得倍増の前提になって参ります国民総生産の問題を論議する場合に、労働力をどういうふうに把握するか、あるいは労働市場に与えるこれらの人口というものをどのように処理していくか。処理という言葉は適当でないかもしれませんが、処置あるいは対策を具体的に持とうとする場合には、こういう乱暴な数字の扱い方では正確を期することはとうていできない。のみならず、その計画は全く根拠のない作文に終わるおそれがあると思うのであります。これは私今回初めて伺うのではございません。前々あるいは前の内閣にもこのことをきびしく要望いたしておいたのでありますが、どうもこういうものの数字に対して、まことに無責任だと思うのであります。追ってまたこの問題は、他の政策との関連もありますから、漸次お尋ねを進めて参りたいと思います。  次に総理は施政方針の中で労働力の適正配置をはかると言われております、また雇用の流動化を促進すると言っております。これは非常に新しい言葉を用いられたことでありまして、自民党内閣としてはかなり思い切った主張であると思います。  そこでお尋ねをはっきりいたさなければならぬことは、言うまでもなく、労働力あるいは雇用の流動というようなものは、どのように理解してこういうふうにお用いになったか知りませんけれども、前後の関係からいいますならば、労働力生産の中に重視してきた結果にほかならぬと思うのであります。そういたしますと、問題になりますのは、労働力は物と異なりまして、政府計画に簡単に乗ってくるものではございません。それにはそれぞれの前提条件が成熟してこなければ、労働力の移動やあるいは雇用の流通関係をよくするなどということは、それはもうこっけいに近いこととなるのであります。この点は、私はいずれの政府の参考資料を見ましても、これに説明を加える何ものもない、のみならず調べれば調べるほど、疑いが深まってくるのであります。思いつきでこういう言葉をまさか施政方針の中でお使いになるはずはないと思いますので、念のために総理大臣の所見をお尋ねをし、政府の具体的な政策がこの上に盛られておるとするならば、どの点にある、ことに予算の中でどういう形でそれを処理しようとされておるかを一つお答えをいただきたい。
  128. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 労働の流通、流動化というのは、今井堀さんも御承知通り地域的に労働力の過不足が現われておるのであります。われわれは住宅その他の問題を解決いたしまして、労働力の必要なところに適正な労働力を移していくように、やっていく、こう考えておるのであります。詳細は労働大臣から御説明申し上げます。
  129. 石田博英

    ○石田国務大臣 労働力の適正配置あるいは労働の流動性を高めていくという言葉、内容及びそれに対する予算的措置についてお答えをいたします。  現在の雇用情勢は漸次好転をいたして参りまして、大体全国平均の殺到率は一・三ないし四くらいになってきておるのであります。しかしその間におきまして、ただいま総理の御発言にありましたように、第一に地域的なアンバランスが著しく見られます。その極端な例をとりますと、九州で殺到率四ないし五に対しまして、愛知県では月平均の就職希望者四万に対して求人十三万八千ぐらい、こういうアンバランスが見られるのであります。その次には年令的なアンバランスであります。これは新規学校卒業者に対しましては、先ほどの御質問にもお答えいたしたのでありますが、昭和三十五年度の卒業生に対する見込みだけでも、中学校卒業後就職希望者三十数万に対して求人数が九十何万、高等学校は五十何万に対してやはり九十何万というふうに、若年層に対する求人が非常に多いのに反しまして、中高年層の就職が依然として困難だというような問題、それから第三番目には技術的な技能的な面におけるアンバランスがございます。  これは技能労働者の未充足求人数は八十万をこえておるという状態であるのであります。このアンバランスの是正を目ざすということが適正配置であり、流動化であると考えておるのでありまして、地域的なアンバランスの是正をいたしまするためには、労働者諸君の移動用の住宅の建設、これは昭和三十六年度に五千戸を目ざしておるわけであります。それから移転資金、移住資金あるいはそのほかの給付等を加えまして、地域的なアンバランスの是正に努めて参るつもりであります。  また技能的なアンバランスの是正につきましては、職業訓練の強化をはかりまして、これによって新しい技能労働者の要求にこたえますと同時に、産業界、経済界の変動によって生じまする雇用の変動、これを摩擦なくして行なわしめるようにいたしたいと思っておるわけであります。  中高年層につきましては、これは新しい職場を見出させるとともに、中高年層についての適切な職場の調査に目下着手をいたしますると同時に、さらに具体的に特に政府関係機関等に対しまして、その機関内の中高年層で充足し得る職場には中高年層を優先採用するような呼びかけを、これから調査が順次できつつありますので、やりたいと思っておるわけであります。  そこで、それらに対する予算的措置でございますが、雇用促進事業団を新設いたすことにいたしまして、四十数億円計上いたしておるのであります。そのほか残余の一般職業訓練あるいは広域職業紹介その他に計上してありまする予算の具体的内容を御希望でございますならば、政府委員から答弁をさせたいと存じます。
  130. 井堀繁雄

    井堀委員 いかに無定見であるかをべらべらと説明したような感じで受け取りました。私のお尋ねしているのは、もっと本質的なものを伺っておる。それは言うまでもなく、雇用の問題を論ずる場合に一番重要な点は、総理の指摘されておりまするように適正配置であります。その適正配置をやるためには、その前提になりまする日本の雇用の実態というものが明らかになっておりませんと、そういうものに対する正確な答えが出ないことはさきにも述べた通りであります。  そこで私、お尋ねしておりまするのは、物と違うということを言ったのは、労働者の人格を否定して動かすことはもちろん考えていないと思います。しかもその量は、さっきからの政府の答弁がまちまちでありますけれども、雇用審議会の答申しておりまする六百九十万というものに土台を置いたといたしまして、六百九十万という数字はおびただしい数字であります。この六百九十万の潜在もしくは偽装失業者という言葉をこの審議会は使っております。潜在失業なり偽装失業という人々は労働の意思を持っておる、能力を持っておる。これに仕事を与えるということはそうなまやさしい政策では生まれてこないと私は信じます。私が信ずる、信じないでなくて、各国のいずれも大きな悩みになっている事実であります。ことに先進国の雇用政策を見ますると、こういうものに対してはかなり徹底した強力な政策を遂行して、なおかつその完成の域に達しないでいる。今伺いますと、新規労働力人口の問題に対して、お尋ねもしないのに御答弁をいただいたのでありますが、今日新しい労働力を次から次に求めようとする傾向は好ましい傾向ではないと私は思う。あなたの御答弁の中に、二つの矛盾を同時に述べられている。中高年層としきりに言っておりますが、今日中高年層の人々の労働力というものは、生産に対しても重大な関係がありますが、政府の言っておりまする所得倍増すなわち所得の配分の問題についても重大な関係を持つものであります。でありますから新規労働力人口については、やや正確な数字を得ることはできましょう。またその雇用についても新しい雇用でありますから、ある程度政策もマッチできると思うのでありますが、一般の生活の中堅をなす人々の問題はなかなか深刻であります。こういうものに対するお尋ねをしたのでありますが、それではもう一つ政府の言葉の中にありまする完全雇用という言葉についてまず明らかにしていただければ、これに対する答えもだんだんはっきりしてくると思うのであります。  御案内のように、完全雇用という言葉は、これは西欧や北欧の国々でも一つ理想としておるのであります。その理想追求のためには精力的な努力を払っておりますことは疑いのないところであります。日本政府予算のどこにも――今何か予算の中で雇用という言葉を使っているから、これはあとで審議されるだろうと思いますが。雇用促進事業団が、何かそういうものにすぐにでも間に合うような御答弁のようでありますが、まだ構想や法律の内容については伺っておりませんけれども、予算の金額から比較すればすぐわかるのであって、そういう事業団がこういう大問題と取り組んでどうできるものではございません。そういうところに政府の根本的な誤りがあるのではないか、完全雇用などという言葉はかなり乱用に失すると私は思うのであります。そのことは国民を惑わすだけではなく、われわれが真剣に雇用問題を論議する場合に、非常に大きな目ざわりになってくるのであります。でありますから、もし政府の言う、雇用を増大することによって完全雇用の達成をはかるというのは十年先のことであるといたしましても、雇用審議会は十年や十五年の問題でこういう理想に到達することは不可能であるとすら警告をしておるではありませんか。もう少し答弁は、私の質問に該当するようにお願いいたしたいと思います。完全雇用に対して、雇用審議会の言うように十年ないし十五年先のものであっても、なおかつ今の政策の中からではそういうものは望めないので緊急の対策としてこれこれのことをしたらどうかという答申をしておる。でありますから、私はここで何も議論をしようとするものではありません。政府の前提といたしている大切な問題がどこに根拠を置かれ、それをどう理解し、われわれはどのように理解したらいいかということを知りたいから言っているのでありまして、それは意見の相違があってもいいです。立場の違いもありましょうから。だがあいまいなことはいけないと思うからお尋ねしたのでありますから、どうか質問の核心についてお答えを率直に願いたいと思います。
  131. 石田博英

    ○石田国務大臣 御質問が労働力の流動性というものは何を考えているのか。どういうことをさすのか、こういう御質問でございましたから、アンバランスの実情を申し上げまして、そのアンバランスの是正をはかることが流動性を確保することだ、こういうことを申し上げたのであります。  そこで、雇用政策全般として、六百九十万に上ると推定されますところのこの六百九十万という数字につきまして不確定であるというお尋ねでありますが、この調査は、事実問題として、正確につかむということが非常に困難であることは御理解いただけると存じます。従って雇用審議会の推定された六百八十七万という数字、それを六百九十万とわれわれは理解しているわけでありますが、こういう問題を含めた雇用政策は、やはり完全雇用というのは目標でありますから、それを目ざして参りますためには、一面において量の拡大、他面においてやはり改善ということを伴う。質の改善を伴うということが、六百九十万に上るという不完全就業者の雇用条件を次第によくいたして参る方法だと存じます。そこで、その質の改善、逆に申しますと質が低い状態というのは、やはり中小企業その他に勤めておる、つまり規模別賃金格差というようなものの解消を含んでいかなければなりませんが、これには最低賃金制あるいは退職金共済制度あるいは各種社会保険、労働関係保険の小規模事業場への適用というような、基準法関係の諸制度の行政効果を上げることに努力をいたして参りますとともに、本質的には中小企業の生産性向上ということに政府の施策を集中していく必要があると思っておる次第であります。それと同時に、そういうものに伴う今回の予算に、どういうことを計上しておるかという御質問でございますから、予算の中の一つの大きな柱として、雇用促進事業団というものを今回新設をして労働の流動性確保のために前進をしたい、こういう計画であるという計画の具体的内容を申し上げたのであります。御質問が流動性とは何ぞやという御質問でございますから、そういうふうにお答えしたのであります。
  132. 井堀繁雄

    井堀委員 労働大臣と言葉のやりとりをしようとは思いません。私のお尋ねいたしたいと思いますことは、あなたが最後にちょっと捨てぜりふのように言われました雇用の流動性という言葉はあなたは説明をなさらなかったし、私は答弁がむずかしいと思ったから追及をしないだけのことであります。それは言うまでもなく、さっきも申し上げたのでありますが、労働力の移動を前提にするのであります。でありますから、これはもう民主社会の当然のことであります。労働者の有機的な協力あるいは創意的な協力が行なわれなければ不可能なことは明らかなんです。それは、あなたが当然理解されておると思いましたから、何も言葉を足さなかった。もしあなたがさっき答弁したことが私の質問の答弁であると言うならば、この言葉は意味をなさなくなる、無責任な放言にしかすぎぬと思う。そう考えていくより仕方がないのであります。それに対して何か的確なお考えがあるようならと思って実はお尋ねしたわけであります。それに対して具体的に出てきたのは雇用促進事業団だけであります。これはその法案が出たときに明確になることでありますけれども、予算の規模からいいましても、そんなものが一労働省の政策でできるものでないことは雇用審議会の答申でも明らかでありまして、もっとまじめに、こういうものに対して大臣の所見を国民にかわって伺いたいと思うわけです。どうぞ言葉のあやでごまかさないで、そういう問題についてはお互いにもっと誠意ある見解を明らかにしていきたいと思います。  それからついでに、質の問題にあなたが触れておりましたが、質の問題につきましても問題はなかなか深刻であります。政府の総理府統計やその他のものを総合して、いろいろな資料を私は私なりに調べてみておるのでありますが、一例を先ほど申し上げた就業構造基本調査の報告書の中に見ますと、所得別に統計が出て、これは所得のとり方に問題はあるでありましょうが、今これ以上正確なものを統計の上で要求しても困難だと思いますから、この数字を前提にしてお尋ねをいたしてみたい。  それによりますと、いろいろな所得がこまかく階層別になっております。目安として年間十四万円以下の所得者をこの統計では雇用者と自営業者と二つの例をあげております。自営業主の場合におきましても五百三十二万人の多きに達します。雇用者の場合におきましては九百八万人をこえております。合わせまして千四百四十万人。なぜ私が十四万円の線を切って以下をあげたかと申しますと、ことしの厚生省の予算で訂正されております生活保護世帯の一級が月額一万一千三百五十二円に策定されておりますから、これと対照的なものでおもしろいと思いましたから取り上げてみたのであります。一万一千三百五十二円でありますから一年間にいたしますならば、十二倍いたしますと十三万六千二百二十四円になるわけでありますから、いわゆる生活保護対象の第一級に相当する人と比較して、以下ずっとあるのでありますから、はるかに低いものがある。そういうざっと一千四百四十万人の多くの低額所得者、その低額所得者はこの数字をもって言いますならば、最低の生活を維持することの不可能に近い低額所得者である。でありますからこれを機械的な所得倍増という政策がよし成功したとしまして、これを倍額にいたしましても、このうちの少なくとも、私の計算からいいますならば六百万人に及ぶ人々は、そのまま現在を倍にいたしましてもこの生活保護基準世帯に到達しない。でありますから所得のアンバランスを是正するということを真剣にお考えになるとするならば、この雇用審議会の答申いたしております六百九十万はなおさらそうでありますが、そのほかに自営業主、あるいは雇用の意思を持たない低所得者というものが、かなりおびただしい数字に上っておるということは想像するにかたくないのであります。でありますからこういう低所得者をただ倍増するということではないととは政府の言明にも明らかで、不均衡を是正するというのでありますから、働きながらなおかつ生活保護法適用の所得以下に置かれている、こういうものを正常な雇用に引き戻してくるということが、私は完全雇用に対する努力目標の段階として大切なことだと思うからお尋ねしておるのであります。こういうことをお尋ねをいたしたいのでありますから、前提について明確な、今はできぬならできぬでよろしいし、理想なら理想でけっこうです、理想は悪いと言うのではありません、その理想を誤るといけないから明確にして、この問題にこういう方向で近づこうとするというふうに御説明を願えるものと思って私は質問したのであります。私の質問の仕方が悪ければあやまりますが、そういう趣旨であることを明らかにして御答弁を願いたいと思います。
  133. 石田博英

    ○石田国務大臣 私どものとっておりますのは就業構造基本調査、昭和三十四年の調査でありまして、今、井堀さんのおあげになりました数字とは食い違って参りますが、私どもは一応こういう数字の上に立っていろいろなことを考えておるわけであります。その就業構造基本調査、昭和三十四年の五月の調査によりますと、所得の基準でいろいろこまかく出ておりますが、とにかく合計が六百八十七万、これが雇用審議会の答申にもあげている基礎の数字にもなっておるわけであります。そこでこの不完全就業の状態を改善いたして参りますのには、これは何と申しましても結局就業状態の質の改善が前提にならなければなりません。この中には相当数の農業労働者がございます。農業労働者の問題につきましては、農業関係労働者はこれは農林省の所管でございますが、非農林業の不完全就業者につきまして、これは大部分が中小企業の従業員、それから臨時工、社外工というような不安定な雇用状態にある労働者、それからもう一つは、これもやはり不安定であるという意味では同じでありますが、失業対策事業の対象人員というようなものがあげられると存じます。そこで基本的には、先ほどあげましたように、労働基準法並びに基準法から出発して漸次制定せられております諸法令の運用に努力をいたしまして、行政効果を上げていくということが、一番基本的な方策であると思います。その裏づけとなりますものは、やはり中小企業の経営の近代化、その生産性向上が伴わなければなりません。これは政府全般の施策としてそこに期待するのでありますが、しかし労働行政といたしましては、よき安定した労働力を確保することが、ひいては中小企業の経営の安定、あるいは近代化にもなるのだという前提の上に立ちまして、中小企業の労働条件の向上のために努力をいたして参るつもりであります。  それから、雇用政策全般、特に流動性確保について、労働者各位の自発的な協力がなければならぬことは申すまでもないのでありまして、首になわをつけて引っぱっていくわけには参りません。その自発的協力を確保いたしまするためには、単に仕事を見つけてやるということだけではなくて、やはり家族を持っている人には家族ごと移転ができるように、それから子供の教育の関係がありますならば、学校の関係調整いたしますなど、あるいはまた移転費等の支給をするなど、きめのこまかい手段を講じますとともに、やはり御協力を願えるようにして参る必要があると存ずるわけであります。しかしさらにそれをいたしましても、膨大な数の解決のためには、なかなかそれは一挙に参らないことはもう言うまでもないのであります。一挙に参らない一つの原因としては、やはり地域的な定着性とでも申しますか、そういうことも一つの大きな材料でありますので、就業状態の悪いところ、産業条件の低いところ等につきましては、やはりその産業条件を整備いたしまして、特定不況地の振興のための特別施策もこれから考究していかなければならない大きな問題であろうと存じておる次第であります。これは労働省一省でできることではありませんので、関係各省と連絡をとりまして、次の機会には具体的な予算的措置をも伴う施策を講じたい、こう思っておる次第であります。
  134. 井堀繁雄

    井堀委員 総理の御意見を伺います。
  135. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御質問は何でございますか。
  136. 井堀繁雄

    井堀委員 今労働大臣の御答弁にありますように、理想については急速に近づけないということは、私どももさっき申し上げた通りであります。その理想に近寄る誠意をどのように政府は持っているかということを実は伺ったわけです。それに対して労働大臣は二、三、私どもの納得できるものもあるし、またできないものもありますが、一応方向だけを答弁されております……。
  137. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 施政演説で申し述べましたごとく、よりよい職場を作り出そうというのが私の念願でございます。もちろん完全雇用ということにつきましては、井堀さんのお話通り一つ理想でございまして、また現実の完全雇用はどの程度のものか、非常に議論のあるところでありますが、とにかくよりよい就労の機会を作り出そうというのが私の考えでございます。なお、低所得者に対しまする所得の急激な増加、これは経済成長のもとでございますので、低所得者層の急速な所得増加を念願していっております。
  138. 井堀繁雄

    井堀委員 そこでやや具体的なものを二、三、時間もありませんから棒読みに申し上げて御所見を伺っておきたいと思いますが、今総理の言明されましたように、一応理想を完全雇用に置く。それから労働力の適正配置や雇用の流動化については最善の努力を払うというふうに理解をいたしまして、今日政府の掲げておりますこういう政策、そして予算については問題があるのでありまするけれども、可能な範囲で、これこれのものはぜひ解決しておかなければ前進できないと思われるものを具体的にお尋ねをいたしておきたいと思うのであります。  その一つは、どうしても最低賃金制を軌道に乗せなければならぬと思います。これは、政府は最低賃金法を国会に出した際にたびたび言明しているところでありまするが、段階的に、すなわち最低賃金法に近づけるための過渡的な処置として、まあ三年ぐらいはこれでやってみようというのが当時の概括的な見解であります。もう三年に近くなりまするが、最低賃金を確立するということは、先ほど述べられた範囲内においても一番先に手をつけるものではないか。すなわち低所得者を引き上げる具体的な方法としては、最低賃金法を国際的な定義に基づいてりっぱなものに仕上げていくという熱意が前提にならなければならないし、またそういうふうにわれわれは信じて、今まで、政府業者間協定という、最低賃金とは言えないにいたしましても、それに近づく一つの段階的努力としてこれを見守ってきたわけであります。今日は、少なくとも先ほどの答弁に従いますならば、この際全国一律の最低賃金制を実施する時期が到来しておると思うのであります。またこれはすぐ予算が要るわけでもありませんから、政府の誠意を具体的に現わすために、実施する段階にきたと思うのであります。この点に対する政府の所見を伺っておきたい。  それから、一ぺんで答えてもらえることですから、もう一つ。これどの関係もありまするが、先ほど雇用審議会の答申の中にも表われておりますように、日本労働人口の質が非常に複雑で、しかもひずんでおる、ゆがんでおるので、これを改めていくためには労働時間の問題をぜひ規制する必要を説いている。でありますから、私は最低賃金法の確立とともに、労働時間の短縮を前提にして、労働時間の規制をこの際政府は思い切って断行しなければならぬ段階にあると思うのであります。  それからもう一つ、これも審議会が政府に強く要請しておるようでありますが、労働基準の問題、すなわち日本労働基準法をまず完全に実施していく。そうして中小企業と大企業との間に起こってくる摩擦を調整していくための措置が行政的に行なわれなければならぬと思うのでありますが、その前提は、まず基準法を完全に実施せしめる、同時にその措置の中には、日本のように協力関係の事業というものが非常に多いところでは――私ここにデータがありますが、時間がありませんから述べられませんけれども、一つの自動車を作るためにはどれだけの部品が要るか。たとえばウインドー・ワイパーだけの例をとってみましても、ウインドー・ワイパーを一つ作るためには、四百近い部品がある。そのウインドーワイパーを作っております一つの工場を私は調査したのでありますが、四百人そこそこの工場でありますが、外注しておる協力工場、下請工場というのが百二、三十ある。そこでは、少ないところで五人、多いところは三十人、四十人ぐらいの雇用がなされておる。日本の零細企業あるいは中小企業というものは、こういう構造の中で生産に取り組んでおるわけであります。そこで、基準法は比較的基礎の確立した事業場には徹底してきております。こういうところは労働組合と経営者にまかしておいても大して問題がないのでありますが、そういう重要な関係をになっております零細企業、中小企業については、基準法を徹底せしめる、それは親工場においてやはり経済的な責任を果たさなければならぬという事情があるのでありますから、そういう点を配慮して基準法の完全実施に打ち込んでいかなければならぬ時期じゃないが。ところが基準監督なんというものは、どうもこういうものに対しては後退しておるのではないかと思うのであります。この点について一つ具体的な御答弁をわずらわしたい。
  139. 石田博英

    ○石田国務大臣 最低賃金法につきましては、私も現行の最低賃金法というものが理想的なもの、完全にいいものだとは思っていないのでありまして、これはやはりいいものに近づくための経過的な立法であるというふうに考えておるわけであります。しかしわが国の、特に中小企業の実情というものを勘案いたしまして、現在の段階でこの法律の普及と行政効果を上げることに努力をするのが一番適当であると考えておるのであります。この現行最低賃金法が施行されまして一年半ぐらいたっておると思うのでありますが、現在適用労働者数は五十万であります。先ほど国際水準というお言葉がございましたが、国際水準と申しましても、アメリカのごとく最低賃金の適用労働者数が全雇用労働者の中の五一%に及んでいるものに近づくことは、なかなか急速には容易ではございません。しかしイギリスは大体一二%、スイスが一四%と理解をいたしておるのでありまして、私どもは昭和三十六年を第一年度といたしまして、昭和三十八年までに適用労働者数を二百五十万にしよう。そういたしますと、雇用労働者の中で占めます。パーセントは一三%に相なるのでありまして、一応そういう数字を目標に行政効果を上げることに努力をして参りたい。そしてその行政効果を上げた努力を通じまして、その中で出て参りました諸問題をとらえますと同時に、この普及を通じて経営者の理解を深めて参りまして、漸次理想的な形に近づけていきたいと存じておる次第であります。全国一律の最底賃金制、十八才八千円という数字があげられております。私もやはり最終的にはこれは全国一律であるべきだ、これは賃金だけでなくて、生活の程度も文化の程度も全国が平均せられること、地域差がなくなることが理想だとは考えておりますけれども、しかしアメリカのごとく最低賃金制が徹底しておるところでも、先ほどの岡さんの御質問にもお答えいたしましたように、州際産業におきましては、全国一律でありますけれども、中小の企業におきましては各州ごとに違っているというのが実情であります。また中小企業の現状も漸次改善をされつつあり、また改善をされなければならぬことでありますけれども、しかしなお現在の段階では寸現行法の行政効果を上げていくことが適当であろうと存じておる次第であります。  それから労働時間短縮の問題でありますが、との労働時間短縮は単に理想でなく、現実の努力としても、労働時間は短くして、余暇をいろいろ生活内容向上のために使えるようにしていくべきものだと思っております。しかしこれはやはり生産性向上を通じて漸進的に行なうのが適当であると思っておるのでありますが、これからは特に先般のILO等の論議にもかんがみまして、少なくとも四十八時間以上の労働はなくするように努力はして参りたい。第一努力目標としてそうしていきたいと思っておる次第でございます。  それから基準法の適用、特に大企業及びそれに関する中小企業の問題についてお話がございました。基準法の完全な適用に努力をいたさなければならぬことは申すまでもないのでありますが、しかしこの努力は摘発とか、あるいはまた強制とかという――ある程度の強制はもちろん必要でありますが、そういう権力的手段を表に出しますよりは、指導、誘導によって、中小企業の経営者の理解を深めつつやって参るのが適当であろうと考えておるのであります。もっとも悪質な者に対しては峻厳な態度をもって臨まなければならぬことは申すまでもございません。これには講習会等を非常に活発に目下やっておる次第であります。特に大企業との関連については、先ほど岡委員の御質問にも詳しくお答えをいたしたのでありますが、現在そのモデル・ケースといたしまして、日立製作所を中心に日立製作所の下請企業一体となりまして、労働基準法の徹底を通じまして、労働条件の向上、あるいは日立親工場の福祉施設の使用などを含めます福祉、また同時にその福祉施設の新しい設置につきまして、親企業の指導、融資、協力というようなことも行なわしめる。また先ほどの親企業の経済的協力、この経済的協力の中には、発注品の原価計算、発注価格等の中に労働賃金を少なくとも親工場に比例して著しく劣らないように含んでいくということも当然内包されなければならぬのでありますが、そういうことを一切含んで、親工場が中心となりまして関係下請企業全体が労働条件の向上、基準法の重視ということが行なえるような組織を今作りつつ――正確に申しますと、十九日にその発会式が日立において行なわれる運びになりまして、これから数週間にわたりまして計画的に各種の事業を行ない、成果目標をあげて努力をいたすのであります。これを模範といたしまして、全国各親企業と下請企業との関係調整、同種のものの組織を通じまして御発言の御趣旨の徹底を期して参りたいと思っておる次第であります。
  140. 井堀繁雄

    井堀委員 もう四、五点ありますから、具体的にお答えいただきたいと思います。  次は、今言う中小企業の労働対策というものは、この内閣としては何よりも優先して処置していかなければならぬことであることは、今までの答弁の中でも明らかであります。そこで、やや具体的な、しかも効果的なものとして考えられるのは、中小企業と一口に言いますけれども、非常に複雑ではありますが、そこで典型的な集団をなしておるところ、あるいは同一業種といったような、比較的まとめやすいグループを中心にする、特に福祉関係――大企業と中小企業、零細企業の中で、賃金格差もはなはだしいのであるが、それよりも福利施設と一般に言われます、労働者の実質所得を引き上げてやるための設備がはなはだしく相違しております。でありますから、こういう制度は、ちょっと政府が力を入れれば、業者の共同による施設を設置するということが可能だと思います。こういう共同の福祉センターといったようなものを設置せしめるための行政指導、あるいは立法措置というものが今日行なわれても、決して早くはない。  それから次に問題になりますのは、中小企業、零細企業――これはあとで私産業災害の問題について具体的な事例をあげてお尋ねをいたす所存でありまして、そのときに詳しく述べますが、中小企業と大企業との間にもう一つ大きな問題が出てきているのは、災害が中小企業に非常に多く出てきておる。これは人道上の問題でもありますし、労働対策のイロハのイであります。こういうものは、立場や政策の相違から生まれるのではなくて、こういうものは当然取り上げなければならぬと思いますが、災害予防のために業者だけの責任を追及するということでは、跡を断つことは不可能であります。こういうものに対する共同の施設あるいは共同の保安といったものを指導されなければならぬ。  それからもう一つ関係が生まれてくるのは、労働者の住宅の問題をあげておりますが、住宅の問題についても、大企業は産労住宅をやろうと思えばまた援助が与えられる。零細企業、中小企業の場合には、産労住宅にすら今日手を染めることができないという実情にあるわけであります。特に低所得の労働者でありますから、高額な家賃を支払うことはもちろんできません。この住宅問題は、今日非常に荒れておるのであります。こういうものについても、行政的な援助や、あるいは立法的な措置の当然とられる時期に当面しておるものと思うのであります。  それから通勤問題については、中小企業だけではございませんけれども、今日東京、大阪、名古屋などの大都市を中心とする通勤事情というものは、労働力のいたずらなる摩滅だと思うのです。こういうものに対して政府がそれぞれ――たとえば国鉄は政府の責任であります。こういうような問題の解決は、われわれが主張するまでもなく、まず具体的に手を染めていなければならぬ問題である。通勤地獄という言葉がありますが、こういうような問題は、住宅問題とともに通勤労働に関する政府政策としてはもう当然手をつけていなければならない。皆さんはああいう電車にお乗りにならないから実感が出てこないかと思うのでありますが、こういう問題については、切実な問題であるだけに、具体的に手を打てば打てる問題ですから、こういうものの実施にすぐ入るべきではないか。  さらにもう一つ関係のあることでありますが、社会保険や労働保険、ことに年金制度による積立金が、非常に加速度的に多額になってきておる。こういう積立金を、今のところは大蔵省の資金運用部資金の中に入れておるようでありますが、こういうものを福祉のために還元、もしくは施設のために効率的に使用するということは、特別経費が要るわけでもないのであります。こういう問題は、実はだれが考えてもすぐ実施できると思われる部類のものだと思うのであります。どうしてこういうものをおやりにならぬのであるかということが、私は不思議でしょうがない。今申し上げたようなことは、特別予算を必要とするとか、あるいは立法措置に困難が生ずるというものではないと思うのでありまして、以上の諸点について、一つ政府の誠意ある具体的なお答えを願っておきたい。
  141. 石田博英

    ○石田国務大臣 中小企業の労働者諸君の実質的な条件の充実のために、福祉施設あるいは住宅の建設というようなことについて、どういう具体的な措置をとっておるかという御質問が第一問だと思いますが、これにつきましては、準備はいたさせておりますけれども、まだ具体的な立法措置は、今国会に間に合うものではございませんが、現実的措置といたしましては、厚生年金の還元融資を、中小企業のために三十億円、実は別ワクで確保いたしておるわけであります。この金は、今申しましたような目的のために、共同施設等を作られるときに御使用願うように準備いたしたものであります。  それから、特に住宅等につきましては、建設省、住宅公団等、低所得者に対する住宅の建設に、今回特に留意をいただいておるのでございます。  それから労働災害の実情、特にそれが中小企業に多い。もう一つの最近の特徴は、非常に重大な大きいものが多いことでありまして、これはまことに憂慮にたえないところであります。絶対数は若干増加しておりますが、これは最近の雇用の著しい伸びと比較をいたしまして、相対的に増加しているとは言えませんけれども、中小企業における災害の増加、それから大規模なものの頻度が高いということ、これに対して、特に大規模なものについての重点的な指導、それから中小企業につきましては、実は私どもの方の労働基準監督官の調査をまとめますると、現在中小企業において、所要の安全設備その他をいたしますためには、全国で約百億円程度の金が要るというような報告が入っておるのでありまして、これには単なる欠陥の指摘だけでは済むものではないので、金融等の措置、特に低利の金融等の措置を講ずる必要があると存じまして、いろいろ計画をいたしたのでありますが、しかし、今回は諸般の事情で、未熟でありましたために、中小企業金融公庫その他を通じまして、現実的な措置を経過的にとって、明年度以降において実現をはかりたいと存じておるわけであります。  それから、失業保険、労災保険その他の保険金の積立金の使用方法、これは確かに井堀さんの御意見について、私も全くその通り考えているのでございます。私は今回におきましても、あとう限り努力をいたしてみたのでございますが、思う通りの成果を上げ得られなかったことを残念に思っております。これから研究を重ねまして、なお御声援を得まして、これを有効に勤労者の福祉の増進のために使いたい、こう思っております。  ただ労災保険の積み立ての場合におきましては、支払い準備金が、昭和三十五年度末では百七十九億円くらい要るわけでありますが、現実に現在積み立てられた金は百三十数億円でありまして、なお法定の、いわゆる支払い準備金の額には達しない状態であります。しかし、その運用については、御指摘のような方法をとれるように、欠点のない案を作るべく、今努力をいたさせておる段階であります。  それから失業保険金の積立金の、特に運用利子を中心といたしましては、職業訓練所、あるいは今度雇用促進事業団の事業の方にこれを運用いたしております。金額は数億円でありますけれども、その中から雇用促進事業団の予算の中に繰り入れて使用することになっているものもあるわけでございます。
  142. 井堀繁雄

    井堀委員 もう一つ重要なことがあると思いますが、それは、未払い賃金が依然として跡を断たないことであります。これは私たびたび各委員会などでも要望しておりますが、この際この問題について、一つ正確な政府の見解をいただきたいと思います。それは、説明するまでもありませんが、すでに労働を提供して、しかもそれが低所得者に多いということ。一カ月あるいは二カ月、それだけの労働力を提供して、最低の生活を維持する、あるいはそれ以下の所得しかない者が、賃金の支払いが受けられないというようなことは、これは近代社会においてあり得ることではないのであります。もちろん労働基準法には、賃金は通貨をもって本人にきめられた日に支払えということになっておりますので、払わぬのでありますから、これは明らかに法律違反でありますが、もちろん、法律違反であるから処罰すれば解決がつくというものではないのであります。そこに問題があると思うのであります。それと、もう一つよくないことは、前回も申しているように、公租公課がこれに優先するということは、多少問題があると思います。ひどいのになりますと、公租公課が優先しておりますために、賃金に回すときには、もうすでにその源泉が枯渇しておるというような悲劇が何回もありまして、当局としては、全く冷たい法律解釈をもって始末をつけてくるという傾向が非常に強いのであります。でありますから、私は、行政的な措置としては、大蔵省と労働省との間に話し合いができれば、未払い賃金だけは公租公課よりも優先してとれるような、行政的方法が当然あり得ると思う。それをあえてやろうとしない。私は、これはどちらに責任があるかは別として、この際これを一つ解決してもらいたい。  それから、法務大臣にお伺いしたいのですが、このことは牧野法務大臣のときだったと思いますけれども、これはどうしても立法措置が必要だというので、立法措置をここで約束をされております。しかし、少なくとも国会で責任大臣が約束したことが実行に移せないのについては、それぞれその理由を明らかにしなければいけない。よい機会でありますから、この未払い賃金事件の跡を断つために――近代国家としてこんな不名誉なことはないと思いますので、この点に対して、きょうは一つ明確な御答弁をそれぞれお願いいたしたい。
  143. 石田博英

    ○石田国務大臣 労働者諸君に対する未払い賃金が相当巨額に上っておるという実情は、御指摘の通り近代国家としてまことに恥ずかしい状態でありまして、基準局を通じてそういうことのないように、またその状態を改善するように、あとう限り努力をいたさせておるのであります。昭和三十五年の一月末で八億八千万円くらいの金額に上っておりましたが、昨年の十月の終わりでは三億五千万円くらいに減少いたしております。しかし、なおそういうものが存在していることは事実でありますから、この上ともそういうもののないように、基準行政を通じまして、厳重監督をして参りたいと思っておる次第であります。  それから賃金債権と公租公課あるいは担保つきの債権との関係につきまして、これは私もはっきり記憶いたしておりますが、前に私が労働大臣をしておりましたときに、やはり井堀さんから御質問、御希望がありました。以来鋭意関係方面との折衝、法律上の問題の処理に努力をさせているのでありますけれども、どうしてもなかなか話し合いが具体的につきにくい状態であるのであります。しかし、中小企業その他が倒産をいたしました場合におきまして、一番強い国が先取って、その次強い銀行が取って、一番弱い労働者が何にもなくなって第三番目に置かれるという状態は、労働省といたしましては何としても承服しがたいところでありまして、今後とも関係省の賛成を得るように努力をいたして参りたいと存じております。
  144. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今の租税の優先権の問題でございますが、この優先権が実際にものを言うのは、強制換価の措置がとられるというときでございますが、国税の納税の大半というものはそういう措置によってとられてはおりませんで、ほとんど強制徴収猶予という方法で徴収されております。この手続をする場合におきましては、賃金というものは事業経営に不可欠なものであるということで、優先的にこの賃金債権というものは保護するという立場をとっておりますので、実際においては、徴収猶予ということで解決されるものの限りにおいては、租税よりも優先している、実際にはそう扱われておりますので、この点はもうりっぱに保護されておると思います。  それからやむを得ず雇用主の財産を競売にかけて処分するというような場合でも、これは一昨年でございましたか、国税徴収法の改正によりまして、先取得権を登録すれば、以後こういう強制換価の場合でも賃金債権は租税よりも優先するという措置が現に法律でもそういうふうにとられておりますので、賃金債権の保護ということは、現在ある程度行なわれているような実情でございます。
  145. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 お答え申し上げます。ただいまの御質問の中に、牧野元法務大臣の時分に御質問がありまして、そうしてそれに対して研究をする旨お答えをいたしたそうでございますが、調べてみますと、その研究の結果を当時すでに御説明しておったと私は聞いております。その大体の実情は今大蔵大臣あるいは労働大臣からお答えになりました一端もございますが、現在の制度におきましては、賃金債権については、御承知のように民法、商法で先取り特権を認めておる規定のあることは御承知通りであります。しかしそれをさらに、たとえば抵当権の担保がついておるというような債権よりもさらに先立たして優先さしたらどうかというようなことも十分考慮はしてみたのでございますが、しかし、そういうことをやりますと、かえって当該企業の金融の道をふさぐようなことになる、業者がこれに金を貸すことを渋るようなことになりまして、かえって企業そのものの運営を殺してしまうようなことになりはせぬかという心配もございます。それやこれやで、まだわれわれ当局といたしましては、こうした特殊の債権に先立ってもっともっと優先させる必要は認められますが、制度全般から考えます場合には、どうもこれを現行法の改正あるいは新しい法制を作るという結論までまだ達しておらないのであります。  租税債権につきましては、ただいま大蔵大臣がお答えになった通りでありまして、これにつきましても、なお全般的に研究を続けてはおりますけれども、今直ちに租税債権に先立つ優先権を与えるというところまでの結論には達しておらない次第でございます。
  146. 井堀繁雄

    井堀委員 時間がございませんので残念でありますが、以上具体的にすぐ実施可能だという御答弁が大部分であったようでございます。今は賃金債権の問題で、立法上の点でそれぞれ私も事情を伺っておるのでありますが、ただこういう賃金未払い事件というものを法律の力で解決するということが望ましいかどうかということにも議論があると思うのでありますけれども、こういう状態があとを断たぬようなことでありましては、近代的な労使関係など、あるいは先ほど冒頭にも申し上げましたように、労働の意欲的な協力、あるいは労働者の総意的な協力を得られるという体制を整える一番最初にこういうものを排除しておかなければならぬ事柄をあげて、私はお尋ねをしたわけであります。御答弁によりますと、誠意はあるけれども、実際不可能だ、あるいは今すぐ答弁ができぬというようなものもございましたが、これは今の労働大臣あるいは大蔵大臣、あるいは法務大臣などがそれぞれ御答弁を願っておりますが、いずれにいたしましても、これは池田内閣としては速急に処置を迫られておる問題だと私は判断するものでありますが、総理大臣はこういう処置については、今それぞれ関係者の御答弁がありましたけれども、なお一つ責任者の立場において、労働者に対する最低の具体的の誠意だと考えますので、お尋ねをいたしておきたいと思います。
  147. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 労働条件の改善、労働者保護につきましては、われわれとしてもぜひとも考えていかなければならぬ問題でございます。ただいまの案件につきましては、現状のところ三大臣がお答えした通りであります。今後も十分検討をいたしたいと思います。
  148. 井堀繁雄

    井堀委員 次にILOの問題について二、三お尋ねをいたしておきたい。  これは、御案内のように、最近のILO問題が世論の間にも、いろいろ形は変えておりますけれども、重視されて参っておるのであります。私はこの点について池田総理一つ率直な御答弁をいただきたいと思いますのは、池田総理は政治の姿勢を正すとしばしば述べられておるのでありますが、外交に対する姿勢を正してほしいと思うのであります。それは、申し上ぐるまでもなく、ILOの問題は日本が国連に復帰しようとしてかなり精力的な努力をされた時期があります。具体的には一九五二年の六月に、日本政府は国連に加盟することを申請しておる。ところが同年の九月に安全保障理事会では加盟を拒否されまして、やむを得ず政府は当時澤田大使をニューヨークに送りまして国連本部との連絡に当たらしめたり、あるいは国際舞台に還元する努力をされたことについては、われわれの記憶に新しいところであります。そこで日本が国際舞台に、国連に復帰する以前、すなわち一九五二年に国連の専門委員会、といいましても、他の委員会と性質が違うのでありますが、国際労働機関に復帰することが許されまして間もなく、日本理事国になっておるのであります。このことは、私は、日本の外交を考える場合に、非常に重要な問題だと思うのであります。ILOの憲章については説明を要しないところでありまして、ILO精神の重要性は、国連を中心として日本の外交を推進するということはたびたび述べられ、また周知のところでありますが、私は、不可分の関係というよりは、ILO精神というものを具体的に日本が実施して、またこれを順法するということが、外交に対する姿勢を正、すという非常に重要な段階に当面しておる。ことに今日、この問題を見ますると、非常にわれわれは遺憾に思う節が幾つかございます。この点を具体的に二、三お尋ねをいたそうと思うのであります。  そこで、総理にお尋ねをいたしたいと思いまするのは、ILOに対する日本政府の態度というものが正式にまだ表明されておりません。あとでお尋ねをいたしまするが、なしくずしといいますか、ばらばらといいますか、あるいは不自然な姿といいますか、いろいろ取りざたをされておりますけれども、日本政府が国連に対する態度と同様にILOに対する態度を表明する時期に当面いたしておると思うのであります。そういう意味で、日本政府はILOに対する態度をこの際中外に声明する時期にあると思いますので、ILO精神をどう理解し、またILOにどのような態度で臨まれるかについて、総理の責任ある御答弁を願いたいと思います。
  149. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ILO憲章に示しております通り労働条件の改善によって社会主義と世界の恒久平和に寄与する、こういうことで、われわれはこれに参加することにやぶさかでございません。進んで参加し、そしてその精神によってやっていこうといたしておるのであります。ただ、問題は、国内の今までの諸制度その他につきまして改善をなすべき点がありますので、それを改善しながらILO精神に乗っかっていこうといたしておるのであります。
  150. 井堀繁雄

    井堀委員 そこで、具体的な問題を一、二簡単にお尋ねをいたしたいと思います。この二十三日から、聞きますと、ジュネーブで団結権の自由委員会が開催されるようであります。また、三月の七日からば理事会が招集されるようでありますが、その際、日本の国鉄労組や日教組などから提訴が行なわれておるやに聞いております。で、こういう問題が国際的な舞台に明らかに上ることは否定できないと思うのでありますが、そういう際に、私は、日本政府の態度というものはきわめて重大であると思うのであります。申すまでもなく、今日、日本は常任理事国でございます。ILO憲章に従いますと、常任理事国の地位はかなり高い地位であります。少なくとも、国際的には労働問題に対する指導的な地位を意味するようであります。そういう意味で、日本政府の、こういう問題がこれらの委員会や理事会に上程された際における行動というものは、非常に大きな結果を及ぼすと思うのであります。悪くすれば国際信用を失墜することにもなると思うのであります。こういう点に対しましては、あまり世論も取り上げておらぬようでありますが、少なくともこの方の専門関係の国際人の間で強い関心を持っておることは間違いがないのであります。こういう点にもし日本政府の態度が誤りまするならば、どんなりっぱなことを言いましても、日本民族の名誉を傷つけることとなるのでありまして、この点に対する政府の所見をお尋ねをいたしておきたいと思うのであります。  そこで、具体的にお尋ねする必要が生ずると思うのでありますが、聞くところによりますと、と言いますよりも、これは新聞の報道でありますが、去る七日の政府の発表といいますか、閣僚の間から、日教組のILOに申し立てたものに対して政府の反論が発表されました。われわれは非常に意外に思っておるのであります。少なくともILOは国際機関でありまして、外交上の重大な場所であります。そういう問題をかりそめにも国内の、しかも使用者の立場を、あるいはそういう対立関係にある場合に、こういう問題について政府として軽々な意見を発表するということは、国際信義を知らない、あるいはそれから起こってくる日本の国際的な信用の失墜というものに対して、あまりにも軽率ではないか。その責任はきわめて重大だと私は思うのであります。その内容を言う前に、その扱い方に重大な欠陥があると思うのでありますが、その点に対する政府の責任ある御答弁を伺っておきたいと思います。
  151. 石田博英

    ○石田国務大臣 ILOに対する政府の意見その他文書の交換等は、ただいま御指摘のように、外交上の機密として扱われるという慣例になっておることは承知いたしております。日教組の提訴に対します日本政府の反論につきましては、文部大臣はそういう精神は十分承知しておられたのでありますが、従って、その御質問に――今と同様の御質問について文部大臣はお答えになりまして、――私のお答えする範囲ではありませんが、私は、文部大臣はそういう事情を十分御承知の上、そういう事情に抵触しない範囲において各方面の要請に答えて発表されたものと理解しておりますが、これは直接的には文部大臣から一つお聞きいただきたいと思います。(「文部大臣出せ」と呼ぶ者あり)文部大臣の答弁は、私が今申しましたような答弁と私は聞いておりました。そこで、その通りお答え……(発言する者あり)今御発言中の――野原さんの御質問に対してのお答えでありましたか、その通りの答弁であったと聞いております。ただいま御欠席でありますので、聞いておりましたから、私がかわってお答え申し上げました。
  152. 井堀繁雄

    井堀委員 外務大臣もこれに対する責任があると思うのであります。あなたはこういう扱い方に対して、閣僚ではありましょうけれども、むしろあなたの責任ではないかと思うのであります。外務大臣としてどういう責任を感じますか。
  153. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいま労働大臣からお答えいたしましたように、この問題について日教組の提訴がございました。当然これに対しまして、政府がこういうことをしておってよくないという提訴でありますから、政府側はこういう趣旨であるという反論を出すのは、これは当然でございます。そこで、問い合わせに基づいての趣旨説明書についてその要項を述べるということは、これは何ら差しつかえないことでございますから、この梗概を述べた、こういうことを承知いたしております。これは国際慣例上何ら差しつかえないことであります。
  154. 井堀繁雄

    井堀委員 私は、問題は二つあると思うのであります。一つは、こういう外交上の問題を取り扱うのは、私は外務大臣でなきゃならぬと思う。そういう問題に対して、争いをかまえておる所管大臣がそういうものを取り扱うことは、いたずらに誤解を深める。とにかくそういう国際的なきわめて重要なものでも何でも、自分の都合のいいときには武器にしようというようにとられがちの危険な事柄であります。でありますから、こういうものについては、私は、政府としては閣僚に対する統制上の問題にもなりはせぬかと思うのであります。  それから、いま一つの問題は、言うまでもなく内容であります。内容の問題については、これは私はなかなか重大だと思うのであります。あと続けて一、二お尋ねをすることによって明らかになるのでありますが、まず私は、こういう国際的なきわめて微妙な問題の取り扱いに対しては慎重でなけれならぬと思うのであります。ところが今外務大臣に言わせますと、存外あっさり片をつけておりますが、そういうことは、ひとり外務大臣の責任や、あるいは資格の問題のかなえの軽重を問われるだけではなくて、日本民族全体に及ぼす重大な影響だと思うのでありますが、総理大臣は、こういうものに対する外交上の姿勢を一体どのようにお考えであるか、これは私に答弁というよりは、こういうことは国際的にも伝わることでありますから、日本政府の名誉のために、また日本民族の名誉のためにはっきりいたしておきたいと思います。
  155. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 先ほど要旨を述べますことは何ら差しつかえないと申しましたが、さらに慎重にILOに問い合わせておりまして、ILOの方において、そのようなことを言うことは差しつかえないという了承のもとにしているわけでございます。念のためにつけ加えておきます。
  156. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御質問のような点がございますので、われわれとしては慎重に処理したつもりでございます。文部大臣も、――外交関係もそうでございます。先ほど外務大臣がお答えしたように、いろいろILOと連絡した上でやっていることでございます。
  157. 井堀繁雄

    井堀委員 私は日本民族の不名誉になることをこの上強調しようとは思わないのでありますけれども、今後こういうことを繰り返すようなことがあってはならぬし、またその危険も感ずるからであります。それは次にお尋ねすることで明らかになると思うのでありますが、もし今新聞の伝えておりまするように、日教組なり国鉄なりの提訴が行なわれた際に、理事会常任理事国としての日本政府代表というものはどうあるべきかということについて、きわめて大切なことだと思いまするので、具体的にお尋ねいたしておきたいと思うのであります。  それはILO条約の批准をめぐりまして問題があると思うのでありますが、これも報道機関の伝えるところでありますから真偽のほどはわかりませんが、八十七号の条約をめぐりまして、政府並びに与党との間に意見の対立があるかのように伝えられておるのでありますが、そのことは私は一向差しつかえないと思うのであります。ただ問題は、ILO条約の八十七号に対する政府考え方がしっかりしておればいいと思うのであります。そういう意味で、この際明確に御答弁を願おうと思うのでありますが、ILO条約の批准はいたしておりませんけれども、ILO憲章、ことに団結権の問題、それに強制労働の問題、差別待遇の問題は、特に国連からILOに対して要請をされておりまする基本的な条約であります。言いかえますならば、憲章の精神を十分理解をし、それを日本が正しく遂行していくということでありますならば、条約を批准しようとしまいと、その精神に抵触するような雇い主でありましても、労働団体でありましても、これは政府としては厳正公平な立場から、そういう事態を解消するために最善の努力を払うべき事柄だと思うのであります。ところが何か一方の立場に立って、その対立の激化をみずから進んで行動するというようなことがもしあるとし、あるいはそういう傾向が認められるとすれば、そのことは許されない大きな失態であると私は思うのでありますが、この辺、もうすぐに問題が国際舞台に移るのでありますから、この際政府の統一した見解、そして誤らない方針というものをわれわれの前に一つ明確にしてもらいたいと思います。
  158. 石田博英

    ○石田国務大臣 八十七号条約、それから百五号でありますか、それから最後のやつは百十一号条約、これがそれぞれILOの憲章の差し示す根本的な問題をとらえておる条約であることは承知いたしております。  八十七号条約は結社の自由。これは自由主義国家が全体主義国家と根本的に違う基本的な国家体制であります。それから政治行動その他、あるいは労働争議その他によって強制労働を課せられない。これもやはり近代的自由主義国家として基本的なものの一つであります。ファシズムや共産主義などという全体主義国家と自由主義国家と違う大きな要素であります。それから雇用された場合において差別待遇をゆえなくして受けないということも、これも同様であることはよく承知いたしております。  そこで八十七号条約につきましては、政府はしばしば申し上げておりまする通り、これの批准案を国会に提出いたすべく目下準備中であります。それから百五号条約につきましては、この中にありまする強制労働という言葉の理解の問題につきまして、ILO事務当局に問い合わせをいたしたのでありますが、事務当局といたしましても、この条約を批准した国のレポートが本年の六月以降に集まってくるのを見て、この強制労働というものについての解釈の統一をしたい、こういう話であります。そこでこの強制労働というものについての言葉の理解統一がされて、それと国内法との調整考えた上で処置を決したいと考えております。それから百十一号条約につきましては、これは日本国内法も、この条約の精神に沿っておるものと理解をしておるのでありますが、目下細部にわたって検討中でございます。  いずれにいたしましても、われわれは自由主義国家、自由主義の建前で国を建設しておりまする以上、われわれの国の建前の一つでもあると、私どもはこう理解をいたしておるのであり、かつ日本の現行法も、また根本的にはこの建前に決して違反するものではない。ただ批准をいたします場合の細部の調整について、ただいま申しましたような検討を行なっておるところであります。
  159. 井堀繁雄

    井堀委員 時間がありませんので、重要なことだと思いますけれども、今御答弁で明らかになりましたように、ILOの精神は尊重されなきゃならぬし、それからその精神にのっとった基本的な条約については、批准をするとしないとにかかわらず、これを尊重していくということは明らかになったようであります。  そこで問題は、今後これは、政府が八十七号の批准を求める用意があるようでありますから、その節議論をすることによって明らかになると思いますが、ついでにと言ってはなんですが、最低賃金法のことで先ほど御答弁がありましたが、これは二十六号と九十九号の批准が私は好ましいと思うのであります。そうすることは国際的にも信用を高めるし、あるいは国内的には労働者の意欲的な協力を求められる。一文も金のかからないよい政策であると思います。それから労働時間の関係は三十号と三十一号、それから災害の問題は三十二号、社会保障の最低基準の問題は百二号、週休制実施の事項は百六号であります。いずれもこれらの条約の批准は、私どもの知る範囲内においては、国内法に対しても大改正をしなければならぬとか、あるいは特別の措置が必要であるとは考えられません。こういうものも順次批准していくという態度こそが、先ほど私の質問に御答弁なさいました政府の具体的善意の意思表示になると思うのでありますから、こういう点に対する具体的な御答弁を伺って、ILOの問題については質問を終わりたいと思いますが、総理からもこの点に対する御答弁を伺ってみたいと思います。
  160. 石田博英

    ○石田国務大臣 お答えを申し上げます。二十六号と九十九号、最低賃金についての条約は、私ども現行最低賃金法はこの両条約に合致するものと理解いたしておりますが、細部について、今ILO事務当局と打ち合わせ中であります。それから労働時間の問題につきましては、大体基準法の精神に合っておると思いますが、国内法の建前が違っておる。これはよく御承知だろうと思いますが、特に建前が違っておる部分がございますが、現在の日本における労働者労働条件からいって、日本労働法の建前が有利か、向こうが有利か、これはなお検討を要する問題だろうと存じておる次第であります。
  161. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ILOの精神につきましては、先ほどお答えした通り、われわれは大体において賛成するものでございます。国内法の関係、また日本労働界の現状等を見まして、逐次その精神に向かって進んでいきたいと思っております。
  162. 船田中

    船田委員長 さきに留保になっておりまする質疑を許します。佐々木良作君。
  163. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 理事会の話し合いに基づきまして、関連質問の形で質問をお許し願いたいと思います。  去る十日の質問におきまして、金流出とドル危機の問題に関連をいたしまして、昭和三十三年十月当時のわが国の金ドル準備の金保有率について、私の、多分二%程度だったと思います、こういう発言に対しまして、池田総理は二〇%程度と考えていたと答弁をされ、さらに事務当局の説明を求めましたところ、一一%程度だったという発言をいたされました。このことにつきまして、私は、後刻数字を明らかにすることを留保しておきましたので、この問題について結論をつけさせていただきたいと思います。  十日の質問を終わりました直後、この予算委員会の閉会後におきまして、事務当局より、考え違いをいたしておりましたが、あの当時は多分二・八、九%だったであろうと思いますという事実の訂正が私向けにあったわけであります。この点を明確にいたしておきたいと思います。  まず私の調査によりますと、昭和三十三年の十月、第三十回臨時国会におきまして、金流出問題を提出して、わが国の金準備を増加すべく、岸内閣、佐藤大蔵大臣に要請をした当時、私の提出いたしました数字は、金ドル準備総額の日本の額は大体八億数千万ドル――八億三千万ドルと言ったと思います。その中で金の占める内容は約二千三、四百万ドル、大体二・数%だった、こういうふうに私は発言をいたしておるわけでありまするが、この事実、この数字に対しまして、まず事務当局の明確な御訂正か御発言をお願いしたいと思います。
  164. 賀屋正雄

    賀屋政府委員 お答えいたします。先日佐々木委員の御質問にお答えいたしまして、三十三年の暮れの外貨準備と金の保有高、その割合を申し上げましたが、これはその当時はまだ形式的には返還になっておりませんでした日本銀行の保有しております被接収金を含めた数字を申し上げましたので、一一%程度の割合に相なっておる旨をお答えしましたが、これを除いて数字をはじきますと、三十三年の九月末で外貨の準備高が七億五千九百万ドルでございまして、これに対する金の保有額が二千四百万ドル、割合にいたしまして三・二%、十月、十一月は変わりがございませんで、外貨準備高が八億五百万ドルでございまして、これに対しまして金の割高は相変わらず二千四百万ドルでございまして、両月とも割合は二・九%ということになっております。
  165. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 要するに三十三年の秋、私が質問いたしました当時におけるわが国の金の保有は、今お話がありましたように、額にいたしまして二千三、四百万ドル外貨準備の総額が大体八億程度でありますから、従いまして二、三%という低額、低率であったわけであります。しかも金保有をだんだんと高めておりました当時、西欧諸国の保有率は当時も示しましたようにほとんど五〇%から多いところは八、九〇%の保有率を示しておったわけでございまして、当時二%ないし三%程度の金の保有率の低下を見ておりましたものは、わが国と韓国とフィリピンの三国だけであったと私は思います。この事実を指摘いたしまして、反省を求めたわけでありますが、今お話しのように、池田総理もお聞きになりましたように、事務当局もその事態を認めておるわけでありますので、池田総理はこの事実を承認されて、記憶を新たにしていただきたいと思います。同時に、それゆえにこそ私は質問を行なったのでありますが、その質問の直後、つまり三十三年の十二月に至りまして約三千万ドルを、そして越してすぐ、三十四年の正月以降二、三カ月間に一億数千万ドルの金を買い入れまして、合計で約一億五千万ドルを増加して、結局金の保有は合計一億七千万ドル程度となったはずでありますが、今お話しのような接収貴金属の繰り入れ約七千万ドルを、これは三十四年六、七月ごろに入れたわけでありまして、これを含めましてその当時から現在まで二億四千四百万ドルということになっておりまして、その三十四年の春以来ほとんど増加を行なっておらない。こういうふうに思うのでありますが、池田総理にこの事実の認識は相違ないかどうか、明確にお答えを願いたいと思います。
  166. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は何年何月どうだということは、明確な数字を持っていないのですが、一応私といたしましては、日本銀行が従来保有しておりました貴金属特別会計以外の七千万ドルというものがあるということは、私は常に頭に置いておるのであります。これは日本の保有する金でございますので、準備と考えていいというので私は過去常に頭に置いてきておるのであります。従いましてあの当時二千四百万ドル、合わせて一億ドル程度がございましたので、七、八億ドル外貨のうち一〇%余りと言っておりました。それから確かな記憶はなかったのでありますが、今お話しのようにおととしにおきましては、八月ごろでしたか十月ごろでしたか、十一億ドルばかりのときに二億四千万ドル持っておったのでございますから、私は二〇%程度持ったこともあると言っておるのであります。月ごとに見ますと、しかも日本銀行が前保有しておりました、現在日本にあります金を入れれば一〇%、そして三十四年では二〇%余り、今では外貨がふえましたから、十八億に二億四千万ドルですから一四%くらいになっておる。外貨のあり方によって常に動くことは事実でございます。
  167. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 そういうつべこべとした言いのがれは私はやめてもらいたいと思います。私が明確に当時お伺いをいたしましたのも、三十三年の秋、私が質問をした当時の話をして、それに対するお答えであったはずであります。事務当局自身もその観点に立って、ただ間違っておったと思うのは、七千万ドルという三十四年に接収貴金属で繰り入れたものを、ほんとうはその当時から扱っておってもよかろうと思ったので、従って七千万ドルを加えてはじき出して、三十三年の秋の数字として一一%という数字を申した、こう言っておられるのであります。そうすると、あの当時あなたは私の質問を聞いておらずに勝手に答えておったということになりますか。その事実は明確にしておいてもらいたいと思います。
  168. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、日本銀行が前保有しておりましたものは日本外貨と私自身が考えておったわけでございます。従いまして、事務当局にあなたの質問の直後に、あの外貨を繰り入れてないかと聞きました、入れておりません、それは入れるべきだ、おれは入れた考えで答えた、こう申し上げておるのであります。ただ何年何月にどれだけ、何年何月にどれだけということは、私はその衝に当たっておりませんので、それは月が違ったかもわかりませんが、一〇%ないし二〇%余り持っておったことは事実でございます。あなたの何年何月ということにつきましての答えが違っておったということは、これは私も了承いたします。私のばく然たる考え方外貨はあのころ幾らくらいあったか、そして今は非常に保有外貨が多くなった、金の割合はそれ以上に少なくなった、こういう全体的の傾向は認めておるのであります。何年何月についての数字の誤まりはそれじゃ認めましょう。
  169. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 そういう言い方がありますか。お話しのように、たとい七千万ドルを加えましても、二千四百万ドルに七千万ドルを加えればせいぜい一億ドル程度でしょう。その場合でも初めて事務当局が言っているように一一%だ。あなたの言われたのは二〇%と言われたのですよ。だから、私の質問を聞かずに、あなたはいいかげんにそのあとの話をされておりながら、その前の話に理屈をつけて今答弁をされるということは、私は間違いだと思う。率直にこの間違いを認めなさいよ。そうしなければ話は進まぬ。
  170. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は先ほど申し上げましたごとく、二千四百万ドルというのは表面上のあれで、実際は日銀に七千万ドルぐらいある。こういう記憶があるものでございますから、合計いたしまして九千四百万ドル、一億ドル程度でございます。そのころには外貨が八億ドル程度あったのでございます。それから三年前というのは、これは一年違ったかもわかりませんが、三十四年の八月にはお話しの通り二億四千万ドルになっております。三十三年はお話しの通りでございます。だから三十六年から足かけ三年かまる三年かということになるわけでございますが、ばく然として、私は日本の財政あるいは外貨、金を考えるときにおきましては、日本の持っておる金を一応頭に入れてお答えしたのでございます。三十三年と三十四年、一年違いの二四%という分につきましては、それは訂正してよろしゅうございます。
  171. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 いつまでたってもそういう言いわけばかりをしておられるような状態でありますと、私はなお一そう不安がつのるわけであります。この事実を一生懸命にあなたにただすのは、私の質問しました三十三年の暮れ、その当時におきまして、かりに七千万ドルを入れようが入れまいが、七千万ドル入れましたところで一億ドル程度だ、その場合には事務当局が答えたように二%程度のものでありまして、二〇%なんかになってはいません。そうして七千万ドル引いて勘定するならば、何ぼたくさん見積もりましても、八億の外貨の中で占める比率というのは二・数%ないしは三%弱であります。ここに問題の出発点があるのです。この出発点をあなたがはっきりされないものだから話がこんがらかるわけです。この出発点をとらえて、私はこれでは少な過ぎるではないかと言って佐藤大蔵大臣に反省を求めた。反省を求めた直後三千万ドルを買い入れ、一億数千万ドルの金を買い入れられて、合計をいたしまして一億七、八千万ドルの金の保有になったのです。私の言いたいのは、私の質問直後そこまで金の保有をふやされるのであるならば、当然にそれから外貨もふえておるのであるから、三十四年から三十五年にかけて、並行的に金をふやす方途を講ぜられるべきではなかったのか。しかも、そのときはまだ金が買えたのである。しかもその時分には金をふやそうという行為をなさらずにおいて、昨年の十月ごろに、御承知のようにロンドン市場における金暴騰の事実があった。日本の新聞でもみんな金ブームというものが出て、そうして入れ歯の金でさえも高く売れるような状態のブームが出た。ちょうどあなたが十日に答えられたのは、いっそういうことに気がつかれましたかと言ったら、昨年の多分九月か十月ごろ何かの質問でと言われましたけれども、何かの質問ではなくて、おそらく新聞でも見られて感じられたのじゃないかと思いますが、問題はそこにあるのです。そうしてあなたが去年の九月か十月ごろになって感じられて、大蔵大臣に対しまして三〇%程度までふやしたらどうか、こういう話をされたということでありますが、その世界経済の見方、あなたの感覚に対する不信の念を私は今ぶちまけておるわけであります。本来金をふやそうとするならば、あなたの感づかれたところの去年の九月か十月以前でなければ金は買えない状態であった。その事実をはっきりと認めなさいよ。そうしてでなければ――私はあなたを責めようとは思わない。あなたを責めたって何にもなりゃしませんから。日本経済さえよくなればいいのだから。去年の九月か十月ごろ気がつかれたと言われますけれども、そのときにはもう金は事実上買えなくなっておるときなんです。私の言うのは、三十三年の暮れに指摘したときに買われた、そのときに買われた傾向を進められればよかった。しかしながら、それが間違っておったなら間違っておったでもよろしい。それをちょうど今のへ理屈と同じような強弁をされまして、去年の九月か十月ごろ気がついて、それから金をふやせと言った、だけれどもなかなかうまく買えそうもなさそうだ、そういうべらぼうな答弁がありますか。私はあなたの総理大臣としての、並びに大蔵省で育ちまして、そして経済通としての識見を十分認めております。認めておりますが、同時に人間というものには誤まりがあり得る。独断というものは民主主義としては避けなければならないのが当然でありましょう。私自身もドルの切り下げがあろう、こういう予感がいたしておりますけれども、そのために全部こうせいと言っておるのではありません。御承知のように経済問題は事実問題でありまして、イデオロギーの問題でもなければ、あるいはそれに類するような感情問題で律してはならないものであります。平時に備えを行なうのが経済の基本であるはずであります。アメリカにおきましても、いつでもわが党の西尾委員長が言いますように、いいときに悪いときの準備の政策を引き出しにしまっておく政策として持っておるのが政治家の最も必要とする建前である、こういう発言をされておる。特に欧米諸国におきましては、私が指摘しました当時よりもうんと、たとえばイタリアの例をごらんになりましてもおわかりになりますように、当時四、五〇%のものが今や八、九〇%にまで金の保有をふやしておる。そうしてドルの不安に対して対処しようとしておる。その姿勢に対して謙虚に目を向けて、日本の台所を預かられるところの大蔵大臣なりあるいは総理大臣として善処をお願いいたしたい。こう言っておるのに対しまして、あなたは事実をほとんど否定しながらつべこべとへ理屈をもって逃げられるという態度に対して、私は心からなる不満を禁じ得ないのであります。重ねて御所見を承りたいと思います。
  172. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 金の保有につきましては、先般お話し申し上げましたように、大蔵大臣とも話し合ってできるだけ多くしようという方針はきめております。しかし、いつどうこうだったということにつきましては、今お話し申し上げた通りでございますが、今後も金をふやすことにつきましてはわれわれは努力をいたしたいと考えておるのであります。
  173. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 関連でありまするし、時間もありませんので打ち切りましょう。ただ池田総理大臣並びに水田大蔵大臣に私は心からお願いをしておきます。感情でけんかしても何にもなりませんから、国民の一人として心からお願いを申し上げておきます。  ヨーロッパ諸国におきましては、すでにこのことあるを予期しながら備えを行なっております。そして御承知のように、金の準備というものは外貨が不安になった場合にのみ初めて価値を持つものであります。外貨の不安がないときには金の準備というものはゼロにひとしいものであります。その場合には、かつての大蔵大臣や今の池田さんが言われますように、利子を損するだけ、金は持たない方が得であります。外貨不安、ドル不安、ポンド不安が出てきた際に、初めて金準備を持っておるかおらないかが大きな価値を持つか持たないかになるわけであります。この間もお話がありましたように、日本人は金にあまり執着を持たないからとかなんとか、金を入れ歯にしようと思って退蔵しておるのではありません。あくまでも外貨準備の基礎として金を持とうとしておる諸外国の例を、私ははっきりと率直に見なさいということを強く申し上げておきたいと思います。かりにドル切り下げが行なわれたとするならば――ドル切り下げが私は必ず行なわれると断言するものではありませんけれども、かりにドルの切り下げが行なわれるというような事態に立ち至りました場合には、外貨準備中における金保有の内容によりまして、われわれの持っておる外貨準備の高が倍になったり、半分になったりいたすことは御承知でしょう。かりに今持っておりますところの十八億の外貨準備の中で、十億というドルを金にかえて今持っておったとしまして、そうしてその場合に金の引き上げが行なわれ、うわさされるように一オンス三十五ドルがたとえば七十ドルという倍額の金の値上げが行なわれたとします。その場合には、今十億ドル外貨を金にかえて持っておられる場合には、その外貨準備は事実上二十億になります。逆にそれを全部ドルで持っておられました場合には、その逆でありますから、現実に十億ドルという損失を国民に与えることになるわけであります。十億ドルというのは三千六百億円ですよ。十八億のうちもし十五億を金にかえて持っておったとするならば、その場合の勘定は大体五千億円ですよ。それをもし措置を誤まってその事態がくる場合には、そのまま国民にその負担を転嫁することになるわけであります。このことあってはならないからというので、少々利息は損をするけれどもというので諸外国は全部金を準備しておるのにかかわらず、今お話のようにほとんど準備はされておらない現状に対して、私は心から不安を禁じ得ないから、あなたに心からなる忠言を私はいたしまして、準備をされるように、同時にまたせんだっての質問でも申し上げましたように、金準備だけが唯一の準備ではありません。予算の姿勢を整え、国際収支の姿勢を整えることが、それと並行した今とらるべき措置と思われるわけであります。この問題に対しましては、永田大蔵大臣からも私は答弁を求めて、そして率直な意見を聞きたいと思いましたけれども、時間もございませんし、おそらく答弁のしようがないだろうと思いますから質問はやめます。やめまするが、その意味におきまして三年前からこの問題を指摘しながら、私この問題を一生懸命聞いておるのであります。池田総理大臣はせんだって政治の姿勢を整える云々と本会議で演説をされた。しかも政治の姿勢を整えるということは、野党といえども正しい意見に耳を傾けて与党の施策に取り入れることがまず手初めだと思う、こういって答弁をされておる。その態度をはっきりと確認されて、もう一ぺん謙虚な態度で反省されんことを私は心から要望いたしまして、関連質問を終わります。
  174. 井堀繁雄

    井堀委員 時間もありませんから、率直にお尋ねをいたそうと思うのであります。それは人道的に見ましても悲しいできごとでありますが、福岡県の田川郡川崎町にあります豊州炭鉱の災害が発生をいたしまして、六十七名の鉱夫諸君が坑内奥深く埋没したまま、遺体の収容も目鼻がつかないという惨事がございます。もちろんこれは前国会でも委員会などで取り上げられておりまして、その記録をそれぞれ拝見いたしましたが、政府の責任ある答弁といたしましては、できるだけ早く遺体の収容をいたすと言っておられるのでありますが、もうすでに九月二十日のできごとであります。今日まだその遺体の収容についても見通しすら困難であるという現地の報告を聞き、われわれも現地を直接調査いたしましたが、全く悲惨な姿に目をおおうのであります。また遺族の諸君はその現場を離れることはもちろん、その肉身に対する情は、まことにわれわれ情なくしては現地を視察できないような状態である。この問題はひとり感傷的な見方だけで追うわけにはもちろん参りますまい。政府には政府としての責任もあるし、また国家社会といたしましても日本の重要なエネルギー源としての石炭採掘のために長い間心血を注いで参りました労働者が、この災害のために死体が収容できないというようなことは、産業災害といたしましてもまた一般の災害といたしましても、これ以上の悲劇はないと思うのであります。この点に対してその後政府のおとりになりました措置について、私はあらかじめ書面で質問をいたしました。しかしその回答はあまりにも簡単で情のない、また策のない答弁であったと思います。この際あらためて政府のこの災害に対するその後の措置、あるいはその発生などの原因や対策について、この機会に一つ明らかにしていただきたいと思うのであります。  順次お尋ねを進めますが、ことに六十七名の人が瞬時にして命を断たれるというような災害が、今後もそうあるとは思いませんけれども、もしこういう災害が今後発生するようなことがありますならば、私がたびたび繰り返しておりますように、政府の所得倍増どころではありません。労働者政府政策に対する不信は、これ以上のものはなくなってくると思いますので、最善の、最大の誠意と努力を示すべきときであると思いますのでお尋ねをいたすのであります。総理大臣はこの事件を十分お調べになり、また措置に対してもそれぞれ命じられておると思うのでありますが、どのような措置を命じられたか、また今後の措置をお伺いいたしたい。
  175. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 産業災害の防止につきましては、ここ数年来対策を練っておるのであります。昭和三十三年でありましたか、産業災害防止対策五カ年計画というのでやっております。最近におきまして逐次災害も減って参りました。ことに炭鉱の災害も減る傾向になっておったのでありますが、昨年は思わざる頻発を見まして、まことに申しわけないと考えておるのでございます。お話の六十数名の災害につきましては関係大臣よりお答えいたします。
  176. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 まことに不幸なできごとが出来いたしまして恐縮に存じております。ただいま坑口から六百数十メートル進んでおりますが、全長がなお二千二、三百メートルございますから、四分の一強進んでおる現状であります。その災害の直接の原因である豊州炭鉱から約三百メートル離れた川底の部分につきましては、応急修理をいたしました。なおまた石炭が発火いたしましてこれを放置すると重大なことにもなりますので、極力これを消しとめつつありまして、ただいまよほどもう微力になっておる、こういう現状であります。原因の点についても十分に調査をいたしたのでありますが、やはり不可抗力といわざるを得ないという状況であります。この段階において排水作業をやりながらなお現場に作業を進めつつあるのでありますが、組合側といたしましては、どうもこれは非常に危険を感ずる、坑内作業に危険がまだ存在するからというので、拒否をいたしておるような状況でありまして、やむを得ずただいまは排水作業だけやっております。この対策といたしましては、専門家をただいま物色中でありますが、厳密な調査をいたしまして、ほんとうに組合側が言っておるように、少しでもそこに作業の上において危険性があるかどうか等を中心として十分に調査をいたしまして、そうしてさらにこれの対策を進めたい、かように考えております。
  177. 石田博英

    ○石田国務大臣 鉱山災害の防止につきましては、ただいま通産大臣からお答えがありました。労災保険の支払いの問題でございますが、御承知のように労災保険の支払いにいろいろ条件がございます。従って現在まで半額を支払っておったのでありますが、しかし諸般の事情から考えまして、非常にお気の毒にも存じますので、残余について目下すでに準備をいたしておりますので、申請があり次第、残余の分総額を支払うことにいたしたいと思っております。
  178. 井堀繁雄

    井堀委員 今までの答弁を総合いたしますと、六十七名の遺体の収容について見込みが立たないという御答弁のようでございます。私はこの機会に総理大臣に重ねてお尋ねをいたしまするが、今日産業災害にもいろいろございますけれども、これだけの生命が瞬時にして失われて、その遺体の収容ができないということは、何人も肯定できないと思う。あくまで遺体の収容を遂行していくというのが当然の答弁でなければならぬと思うのであります。今通産大臣の御答弁の中では、遺体の収容作業が今日においてすら不可能であるかのような答弁であります。私も現地で調査をいたしました際に、現地の監督者並びに企業の責任者の意見を総合してみますと、その当時の救出作業の状態からいっても、来年の七月ごろでなければ遺体の存置しておるであろう場所に到達することが不可能ではないかというお話でありました。まあ来年の七月になって遺体の収容が可能であれば、これまたいい悪いは別として、一つの行き方だと思うのであります。私はもしこういう災害で遺体の収容が放棄されるというようなことがあるといたしますならば、これはもう労働災害に対する対策以前の問題で、非常に重大だと思うのであります。御案内のように人命を尊重していくという基本的なものは、言うまでもなく遺体に対して人間の尊厳を最後まで守ろうとする、精神以上の問題が存在しておるところに、私は民主主義の強いものがあると思うのであります。そういうものが簡単に片づけられるというようなことになりましたのでは、非常に重大な結果に相なると思うのでありますから、もう一回この種の問題に対する総理大臣の御見解を伺いたい。
  179. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 お話通りでございまして、これはもう万全の措置をとる必要があると思います。今後におきましてもその線で進んでいきたいと思っております。
  180. 井堀繁雄

    井堀委員 総理は万全の措置をおとりになるということでありますが、当然だと思います。  そこで通産大臣にもう一度お伺いをいたすのでありますが、その原因が不可抗力であるというお言葉をお述べになりましたが、私はこの発言はきわめて重大だと思うのであります。それは天災地変でありますとか、あるいはこれに類するものでありますならとにかくも、今日坑内作業をやる場合に危険の伴うということは当然のことであります。でありますから産業災害、なかんづく坑内作業に対しましては、格段の保安措置をとるということは、日本の法規でも明らかであります。ましてや近代国家、ことに先ほど来だんだんとお尋ねをした際に明らかになっておりますように、今後日本経済を高度に成長させるという前提の上に立って、政府政策は強行に遂行されようとしておることは明らかであります。その場合に、労働者がこういう危険にさらされた場合に、ただ抽象的に万全の措置を講じますということでありましたのでは、それはこういう種類の災害対策にはならない。しかし総理としては万全の措置という言葉は、それぞれの責任大臣に具体的な措置を命ずる意味であろうと思いますが、今の総理のお言葉に、通産大臣は一体どのような具体的な措置をとろうとするのであるか。また原因がもし不可抗力であるとするならば、どういう点に不可抗力の理由をあげられるか、そのあげ方いかんによりましては、やはりわれわれ重大な決意をしなければならないと思う。この二点について通産大臣にもう一度はっきりした御答弁をいただきたい。
  181. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 だんだん所得倍増計画に従いまして、新しい技術、新しい方法による合理化等が行なわれて参ります。炭鉱その他の鉱山においても同様であるのでありまして、従って従来よりも災害の発生の可能性というものは、ある意味においては拡大されるということも言えるのでございます。従来からの災害の予防につきましては、今までとって参りました方法をさらに強化いたしますが、新しい産業建設の事態に当面して、新しくどういう措置に気をつけなければならないか、従来の方法以外にどういう手段を選ぶべきかというような点につきましては、これは新しい角度からこの問題を取り上げまして、ただいま検討中でございます。災害の発生する様相は場所あるいは産業部面によっていろいろ異なるのでございまして、一がいにしてこれを言うことはできませんが、いずれにいたしましても、担当局において具体的にこの問題の調査を進めておるような現状でございます。
  182. 井堀繁雄

    井堀委員 端的にお尋ねをいたしますが、死体の収容をどうなさいますか、やめられるのですか、これからお続けになるのですか。お続けになるとすれば、どういう方法でおやりになるのですか。
  183. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 ただいま申し上げましたが、この作業に当面する組合側の方で、危険があるからというので、作業に応じないような状況であります。そこでわれわれといましましては、ただいま権威ある専門家を募って、そして現地について厳密な調査をいたしまして、ほんとうに危険があるならば、その危険を排除しながら進めなければなりませんし、危険がないというならば、危険がないということをよく説得した上で作業を進めてもらう、そういう方法をとろうとしておるわけであります。
  184. 井堀繁雄

    井堀委員 それはいつごろどういう方に委嘱されて、結論はいつごろ出されるお見通しですか。
  185. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 担当局長から詳しく申し上げます。
  186. 小岩井康朔

    ○小岩井政府委員 ただいま大臣が申し上げましたように、大体学校の先生を中心にいたしまして組織をいたし、人数はあまり大人数はできませんので五、六人、数人くらいで編成をいたしたい。相当時期が切迫しておりますので、できますればもう数日間くらいに編成をいたしたい、かように考えておりますが、先生方の御都合もありますし、ここではっきり日にちを申し上げることは困難かと思います。できるだけ早く編成をいたしたい、かように考えております。  それから死体の収容を放棄するのかという御質問のようでありましたが、私どもの考えといたしましては死体を放棄するという考えは毛頭もございません。しかし遺体を収容するということは鉱業権者の仕事になっておりますので、鉱業権者に遺体の収容を放棄するというような点が見えますれば、私どもの方で厳重に交渉いたすつもりでおったのでありますが、現在まで鉱業者は遺体の収容作業について力をゆるめるというような気配は毛頭見えません。災害後一日三メートル半から四メートルくらいの進み方で今日に及んでおりまして、進め方としては一見非常におそいように見えますけれども、これは坑道が狭い関係で、そうたくさんのポンプ設備もできませんし、私どもが現地を見ましても、現在の作業としては、もちろん四交代でやっておりますし、フルのものではないか、かように考えております。死体を放棄するという考えは毛頭ございません。
  187. 井堀繁雄

    井堀委員 通産大臣にお尋ねをいたしますが、今保安局長の御答弁によりますと、遺体の収容はあくまで続けられるということであります。その場合にあなたのさっきの御答弁の中で、原因が不可抗力であったということになりますと、企業主の責任の問題と、この遺体収容に要する今後の措置の問題とに深い関係が生まれてくると思うのでありますが、この点に対してどういうお考えでありますか、はっきりしていただきたい。
  188. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 原因が不可抗力であるとないにかかわらず、炭鉱側で死体をあくまで発掘する決意のもとに進んでおるのであります。はたしてこの原因が不可抗力であるかどうかということにつきまして、まだ、確定的に法務省においても結論を出しておるわけではございませんけれども、ただいまのところ何分にも豊州炭鉱の現場から三百メートルも離れておる河床、鉱区外の地点にその原因があったのでございまして、おそらくこれは不可抗力と断定せざるを得ないというような状況であるのでございます。いずれにいたしましても、今後の古い鉱外の調査を厳密に励行いたしまして、そうしてこれらのことが災害の再び原因をなすようなことのないように、将来ともにこの問題につきましては努力をして、その根源を断つようにいたしたいと考えております。
  189. 井堀繁雄

    井堀委員 約束の時間が参りまして中途半端になりましたが、問題はもう明確になったと思うのであります。とにかく遺体は最後まで収容のために努力されるという国の方針も明確であります。原因については答弁があいまいでありますが、これは私どもにわかにきめてほしいとは思いません。これは少なくとも私どもも調査して、いろいろな疑問が出て参っており、簡単に不可抗力ときめられる場合には質問を続けたいと思いましたが、まだ断定はしていないという状況のようでありますから、もう少しこの問題は原因をきわめるべきだと思います。もしそれを不可抗力と断定するのには、国民の納得のできるように、これは関係者だけにとどめるわけの問題には参らぬと思います。産業災害のために命を失いました労働者あるいはその遺族はもちろん、また労働者全体にも大きく波及する問題でありまして、ひいては人命を軽視する大きな思想的な障害も生まれてくる問題でありますから、そう簡単にこの問題は結論を与えるべきものではないと私どもも信じております。従いまして慎重に検討を願いたいのであります。私どもも検討いたして参りたいと思います。私どもの今までの調査によりますと、中元寺川の陥没いたしておりまする三、四メートル離れたすぐそばの住宅が三月ほど前に陥没しておるのです。でありますから、土手を離れてすぐそこに古洞があるということはもうわかり切っておるわけであります。だからこういう問題に対して私はいろいろな疑問を持つのでありますが、これも専門家あるいは学者を依頼して調査されることと思うのでありますが、そういうものもあわせて、今後の遺体収容のための調査だけでなく、それらの原因についても専門家の慎重な調査を遂げて、国民の納得できるような報告が一日も早くなされることを私は切に要望いたしておきます。ことに総理大臣にそれに対する責任ある指揮監督を要望いたしておきます。なお最後に、こういう災害が非常に多くなってきておるときでありますだけに、この問題の解決は慎重にいたすべきだと思うのであります。  また機会がありましたら私は質問を続行して参りたいと思うのでありますが、本日は約束の時間になりましたので以上の程度にとどめ、最後に総理の所見を伺っておきたいと思います。
  190. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 お話通りに、慎重にかつできるだけ早く結論を出したいと思います。
  191. 船田中

    船田委員長 これにて質疑は終局いたしました。     ―――――――――――――
  192. 船田中

    船田委員長 井手以誠君外十五名より昭和三十五年度第二次補正予算の撤回を求めるの動議が提出されました。  この際本動議の趣旨弁明を求めます。井手以誠君。
  193. 井手以誠

    ○井手委員 ただいまの補正予算の撤回を求めるの動議について簡単にその理由を申し上げます。  第二次補正予算案は決定の数時間前まで大蔵大臣は提案する意思のないことを言明しておったのであります。ところが三十六年度予算案決定の最終段階になって、いわゆる予算ぶんどりからはみ出された百五十億円の産投資金繰り入れを三十五年度の税の自然増収に求めたやりくり算段の結果でありますことは、大蔵大臣の正直な告白ともいえる説明によって明らかであります。三十五年度第二次補正予算中心をなしますものは、産業投資特別会計資金への繰り入れ三百五十億円のうち百五十億円は三十六年度、残る二百億円は三十七年度以降に運用されるものであり、一方地方交付税交付金九十億円はあげて三十六年度に繰り越されるものであります。すなわち補正予算総額四百四十億円は、すべて本年度には使用しないことを前提として要求されたものでありまして、財政法第二十九条にいわれておる必要避けることのできない補正予算作成のこの厳格な規定に反することは、明々白々であります。(拍手)政府は、第四十四条特別資金保有の規定をもってこの財政法違反を合法化しようといたしておるのでありますが、この資金保有の規定は、企業的経理を行なうところの特別会計の繰り越し運用を誤りないようにした注意的規定を雑則に加えたものであります。すなわち憲法八十六条に基づく年度独立のこの鉄則は断じてゆるがしてはならないのであります。この際特に私は当局の注意を喚起したいことは、財政法第二条にいわれておる「支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう。」という、この定義であります。申すまでもなく、国の予算は、本年度中は幾らの金が要るからというので、税金を取って、委託をされて、政府予算を執行しておるのでありまして、自然増収を安易に考えてはなりません。何人も剰余金の生ずるものを翌年度あるいは翌々年度に使う不急の用途に使ってはならないのであります。これすなわち剰余金の二分の一以上を公債または借入金の償還ります。いやしくも国の基本法、特に時の権力者に汗の税金を勝手に取ったり使ったりさせないために、お互いがかちとったこの財政憲法を、そのときそのときの都合で自分に有利に解釈をしたり、または数によって解釈を決すべきものでは絶対ございません。多数で無理に理屈をつけて目的を達し得たとしても、それは法の権威を失うことになるでありましょう。従って、今回の補正予算案は、いかなる点から見ましても、財政法の原則を踏みにじり、同法第二十九条にまっこうから違反するものであります。従って国会に予算補正の議決を求める経費ではございません。  ここに私は、政府がすみやかに本補正予算案を撤回されるよう強く要求し、あわせて与党委員の諸君にも、その良識に訴え、あげて本動議に賛成されることを希望して趣旨説明を終わる次第であります。(拍手)
  194. 船田中

    船田委員長 これにて趣旨弁明は終わりました。  討論の申し出がありませんので、直ちに採決いたします。  これより採決に入ります。井手以誠君外十五名提出の昭和三十五年度第二次補正予算の撤回を求めるの動議に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  195. 船田中

    船田委員長 起立少数。よって、本動議は否決されました。     ―――――――――――――
  196. 船田中

    船田委員長 これより、昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)及びます。重政誠之君。
  197. 重政誠之

    ○重政委員 私は自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となっております昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)及び同特別会計予算補正(特第2号)に対しまして、賛成の意を表するものであります。  この予算内容につきましては、さきに大蔵大臣から説明がありました通り産業投資特別会計の出資財源を充実するため、一般会計から同特別会計の資金に三百五十億円を繰り入れるほか、所得税、法人税の増収に見合う地方交付税交付金及び臨時地方特別交付金九十億七千二百万円、計四百四十億七千二百万円の支出を内容としたものでありまして、いずれもかねて政府並びにわが党が推進いたしておりまする経済成長政策及び地方財政の健全化の方針に合致する適切な措置であります。  産投会計への資金繰り入れにつきまして、野党の諸君は、財政法二十九条にいうところの「必要避けることのできない経費」とは認め得られないから、これは明らかに財政法違反であるというのでありますが、政府はもちろんこの財政法二十九条にのっとって資金を繰り入れることの必要性を認め、さらに財政法四十四条の規定に従って今次補正予算を提出したものでありまして、すでにこの種の補正は、過去に幾つかの先例もあることであり、私どもとしては何ら疑義を差しはさむべきものではないと思うのであります。むしろ今日のわが国の経済発展に即応した財政運営のあり方として当を得た措置であろうと考えるのであります。野党の諸君とわれわれとの財政法に対する見解の相違は、いずれ検討の上後日解明されるでありましょう。  次に、地方交付税交付金及び臨時地方特別交付金九十億七千二百万円は、所得税七十億円及び法人税二百四十五億円、計三百十五億円の増収に伴い、それぞれ二八・五%、〇・三%に当たる増加支出であり、これによって三十五年度における地方交付金の総額は三千六百三十四億円となり、地方財政の健全化、円滑化が期待できるのでありまして、私どもはいずれも時宜を得た適切妥当なものとして賛成をいたす次第であります。  以上、はなはだ簡単でありますが、賛成の討論をいたします。(拍手)
  198. 船田中

    船田委員長 高田富之君。
  199. 高田富之

    ○高田(富之)委員 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案されました昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)並びに同特別会計予算補正(特第2号)に対しまして、反対の意を表明するものであります。(拍手)  先日来本委員会におきまして、わが党委員から詳細に指摘されました通り、このたび提案されましたこの補正予算案は、明らかに財政法第二十九条に違反するものでありまして、この点は、昨日の大蔵大臣の本委員会における見解表明においても、おのずから疑義のあることをお認めになったはずであります。(拍手)しかも今後これを真剣に検討をする、それまでは二度と再びこういうことはやらぬということを言明されたにもかかわらず、今度だけは別だというようなでたらめな運用をされることを国会は承認することはできぬと思うのであります。(拍手)かくのごとき重大な違法の疑いが確認されているにもかかわらず、ただいまわが党の撤回動議に対しまして、与党の諸君は、多数の力をもって強引にこれを葬り、これを通過成立をはからんとしておるのでありますが、まことにこれは寒心にたえないゆゆしい問題だと私は思うのであります。およそ民主政治の根本は、国家財政の運営を厳正に、憲法、財政法の規定を厳守して忠実に執行するところにあると思うのであります。また国会はこれを監督する責任を有し、これまたわれわれにとりまして最も重大な任務であることも多言を要しません。  大体今回の第二次補正予算なるものは、審議の過程でも明らかになりました通り、そもそも三十六年度予算編成の過程において、与党自民党と圧力団体のいわゆる予算ぶんどり合戦が未曽有の激しをさ展開いたしまして、予算はぎりぎり一ぱいに膨張し、三十六年度一般会計予算の中から支出を予定しておった百五十億の産業投資特別会計への繰り入れがとうとう締め出されるという事態になりましたために、窮余の一策として、あえて重大な違法行為の疑いがあることをおそらく大臣は知っておりながら、前例があるということでほおかぶりをいたしましてついに三十五年度第二次補正をやるという策をとったものであることは明瞭となっておるのであります。(拍手)言ってみれば、これは自民党内の予期せざる緊急必要事態の発生に基づくものであります。(拍手)このことは、二重の意味において、民主政治の重大な危機を私は意味しておると思う。すなわち財政法の大原則、会計年度独立の原則を犯したという点が重大な第一点であることは当然でありますが、第二に、政府予算編成権と国会の予算審議権の軽視であります。政党政府でありましても、予算編成の大綱、政治方針については、もとより党の決定に従うべきことは当然ではありましようけれども、個々の費目の細目にわたって勝手に手を入れて、いわゆる予算ぶんどりをやるというようなことは、国民の目に見えない楽屋裏の予算取引以外の何ものでもないのでありまして、こうして一たんきまった原案を、与党多数の力で、違法であろうが、不当であろうが、問答無用で押し通すこととなっておる現状を、私どもは嘆かざるを得ないのであります。(拍手)われわれは国会においてこそ、与野党を問わず真剣に論議を尽くしまして、修正すべきところは修正し、適法ならざるものは撤回させ、国民の前に一点の疑念をも抱かしめない、公明なる、権威ある審議をしなければならぬと思うのであります。  さて予算案の内容について見ましても、四百四十億に上る膨大な歳入の自然増となっておりますが、昨年末特別国会において、三十五年度第一次補正予算審議の際に、もはやこれ以上の財源はないという理由をもって、公務員給与の引き上げを十月から実施することとし、五月からの繰り上げ支給に応じなかったし、またいわゆる上厚下薄の人事院勧告の是正もほとんど行なわず、地方公務員の給与改善措置もとらなかったのであります。また年度内減税もついに実施しなかったではありませんか。一カ月先にこれほどの自然増収があることがわからなかったとは言えないと思う。これは作為的なものであったと私は断ぜざるを得ないのであります。  すなわち国民には低賃金と重税をもって臨み、独占資本には産業投融資で手厚い保護助長政策をとらんとする、これがこの補正予算案の意味するものであろうと思います。  ついでながら一言指摘したいことは、財政投融資は、なるほど今日までわが国産業の高度成長に大きな役割を演じたものであるとも言えましょうが、しかしその反面には、産業構造を奇形的なものにし、いびつにし、所得配分を世界に類例を見ない不公正なものとし、農業を初め、中小企業、勤労者大衆の犠牲の上に、一部産業の驚異的成長を見たものであって、今日の段階では財政投融資については、そのあり方を根本的に再検討し、もって国民経済の均衡ある発展と所得分配の公平化を期すべき時点に立っておるといわなければなりません。  このようなときに、昭和三十五年度には使用しない三百五十億円中二百億円を、三十七年度に使用するというようなことで、三十五年度補正予算に、産業投資資金の組み入れを行なうような乱暴な処置は、単に違法であるのみならず、内容的にもきわめて不当なものであるといわなければなりません。  地方交付税についても、これは当然三十六年度一般会計で処理すべきものでありますが、地方財政は今後減税のはね返り、社会保障の地方負担分の増加、公共投資の激増による地方負担の増加その他で、いよいよ困窮の度を加えてくることは必至でありますので、地方自治団体の財政強化のためには、特別の強力な措置を必要とするのであります。単に地方交付税の増額でまかなえるというような安易な事態ではないと申さなければなりません。  最後に、本年度一般会計予算の実質上のこぶとなっておる本補正予算を含むならば、実に本年度は二兆円をこえる膨大な予算となるのでありますが、財源は洗いざらい大盛りに盛りまして、所得倍増であるとか、九%成長など、積極的な強がりを示しておりますけれども、すでにインフレ、物価高の傾向は現に着々と進行いたしております。他方、ドル防衛や米国の不況、イギリスを初めとする西欧の景気の頭打ち、またこれらが後進国に与える影響等を考えますときに、環境は政府、与党の楽観論とはまさに反対の方向に進んでおると申さなければなりません。もし一たび波綻を生じますれば、重大な反動的な不況をもたらす危険性はきわめて大きいのであります。このような不健全な冒険的な予算の膨張は、政治の不健全、現内閣の基礎がぐらついておる弱さの現われであると思います。(拍手)われわれはこの違法にして不当な補正予算を、断じて承認することはできません。そうして目下審議中の一般会計予算案を与野党一体となって修正し、組みかえを行ない、大幅な減税とか社会保障の充実など、池田内閣の公的を忠実に織り込めるように改めることによって、正しい予算と正しい政治のあり方を確立すべきであると考えます。  以上簡単でありますが、反対の趣旨を申し述べた次第であります。(拍手)
  200. 船田中

  201. 玉置一徳

    玉置委員 私は、民主社会党を代表いたしまして、政府提案の昭和三十五年度一般会計予算補正第2号に反対し、その理由を明らかにしたいと思います。  政府案の内容は、租税の増収分三百六十五億円、税外収入の増収分七十五億七千二百万円、合計四百四十億七千二百万円を歳入補正し、この財源のうち三百五十億円は産投会計に繰り入れし、残りの九十億七千二百万円は所得税と法人税収入に見合う地方交付金として計上しておるもので、これが歳入補正のすべてであります。言うなれば、今回の補正は三百五十億円の産投会計繰り入れを確保する措置に尽きておるのであります。民社党は年度内の歳入の自然増を産投会計へ繰り入れて、産業政策上の資金として確保するという財政政策には、必ずしも反対するものではございません。このような財政政策が実際に執行されるためには、確固たる財源の見通し、正当な財政法上の手続、妥当公正な産投会計の運用、すなわち大企業奉仕に偏しない出資方針の確立、これが絶対必要条件なのであります。しかるに今回の産投会計繰り入れ措置は、政治道義の上から見ても、財政法上の手続から見ても、また財政と産業政策との関連から見ても、一つとして賛成できる点はないのであります。むしろ政治の姿勢を正すことをもってモットーとされております池田内閣によって、予算編成上、財政法の運用上きわめて重大な悪例をここに重ねて作り出すことになるのであります。  民社党が政府案に反対し、その撤回を求める第一の理由は、政府の犯しておる重大なる食言について政府は何ら反省せず、責任を明らかにしていないからであります。水田大蔵大臣は、昨年十二月十五日の本院予算委員会で、第二次補正をする考えは持っていないと言明されております。この言明は明らかに二つの意味を持っておりまして、その一つは、税収入が今後そう大きく伸びる見込みはないから第二次補正は組めないという意味と、第二には、第二次補正を要する政策上の緊急性を認めていないという双方であったのであります。ところがわずか一カ月のうちに、財源歳入の伸びについて四百四十億円に達する大幅な増収をここに計上いたしました。これがわずか一カ月前に予想もつかなかったという理由を、大蔵大臣は何とも説明しようがないはずであります。(拍手)このような第二次補正が突如として編成されたのは、実に明年度予算編成の過程にあって、与党側の予算ぶんどり競争に政府側が圧倒されて、大蔵原案に計上されていた産投会計繰り入れ百五十億円が消滅してからの話なのであります。従って第二次補正は、自民党の党内事情からくる緊急やむを得ない理由によって提出が必要となったのでありまして、決して財政法第二十九条に基づく追加予算の緊急性を政府が認めたわけではないのであります。しかもまことに奇怪にたえない点は、国民生活に関係の深い第一次補正案の審議中に、ごね以上の税収の伸びは計上できないという理由で、公務員給与の引き上げも人事院の五月実施勧告が十月実施に引き延ばされたのであります。生活保護の対象人員の増加も査定が低目に押えられたのであります。こうして別ワクにして隠匿されていた財源が自民党の要求次第で突如として第二次補正として出現している点は、国民にとって何とも納得できない点でありまして、政府がこのような政治道義上の食言した責任を反省せぬ限り、わが党はこのような第二次補正措置に断じて賛成はできません。(拍手)  民社党が本案の撤回を求める第二の理由は、本案は財政法運用上の悪例であり、政府みずから絶対多数の与党を頼みとする法律軽視にほかならないからであります。(拍手)本案がなぜに財政法違反行為であるかについては、すでに社会党代表が詳しく指摘されましたので、私はこれを繰り返しません。  私が民社党を代表して特に政府に申し上げたい点は二点あります。その第一点は、政府が産投会計繰り入れ三百五十億のうち百五十億円を明年度の財政出資として使用するという点は、政府予算編成並びに予算執行上の、いわば政策上の問題であります。明年度の産投会計よりの出資が本年度よりも百三十八億円も増額されたのは、実にこの百五十億円の繰り入れがあるからであります。しかも百三十八億円の増額分のうち、百二十億円は輸出入銀行への出資に向けられておるのが、明年度産投会計の出資の最大の特徴であります。政府は、貿易自由化に備えるためこのような緊急措置をとったと申されていますが、輸出入銀行金融強化のためには必ずしも出資が唯一の切り札ではありません。財政法運用の悪例を残してまでも緊急実施しなければならぬ政策であったとは考えられません。輸出入銀行に対しては、財政融資の増額並びに一般会計よりの若干の利子補給などの措置によって出資にかわる道はあるのであります。政府は、政策上の弾力性を持たないで、あえて財政法の悪用を犯す必要がどこにあるのか疑わざるを得ません。(拍手)  第二点として、民社党は財政法そのものの再検討が必要な時期にきておると判断いたします。現行の財政法は、言うまでもなく単年度制を建前とした財政運用の法律であります。しかし実際の財政の運用は、経済政策の長期計画政策の長期的連続性が必要となるにつれまして、財政においても長期的運営方針の確立が必要となっております。公共事業費や住宅建設というような事業的支出は言うまでもないが、社会保障、文教関係においても、長期計画に基づく弾力的な予算の運営が必要となってきております。しかも経済成長に伴って毎年度大幅なる歳入の自然増収を見込み得る時期がきております現在、財政法は、単に国庫債務負担行為や継続費制度によって予算計画的連続使用をするだけでは、弾力的活用が十分でない時期になっておると思います。現行財政法が現金出納の単年度制度である限り、今回の政府案の第二次補正のような財政資金緊急繰り入れの補正がはたして財政法上から見て適法かどうか、疑問はいつまでも残らざるを得ないのであります。私は、率直にいって、現行の財政法については、与野党をこえて再検討すべきであることをここに提案したいのであります。  私は、このような財政運用の発展的解決の方向に希望を持ちながら、現行法の悪用になっておる政府案には断固反対し、これの撤回を求めて、私の討論を終わる次第であります。(拍手)
  202. 船田中

    船田委員長 これにて討論は終局いたしました。  これより採決に入ります。昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)及び昭和三十五年度特別会計予算補正(特第2号)を一括して採決いたします。両案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  203. 船田中

    船田委員長 起立多数。よって、昭和三十五年度一般会計予算補正(第2号)及び昭和三十五年度特別会計予算補正(特第2号)は、いずれも原案の通り可決いたしました。(拍手)  委員会報告書の作成につきましては、先例によりまして委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  204. 船田中

    船田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  明十六日は、午前十時より昭和三十六年度総予算について公聴会を開催することといたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時四十七分散会      ――――◇―――――