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1961-02-04 第38回国会 衆議院 予算委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年二月四日(土曜日)     午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 船田  中君    理事 愛知 揆一君 理事 青木  正君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 保科善四郎君 理事 井手 以誠君    理事 川俣 清音君 理事 横路 節雄君       相川 勝六君    赤城 宗徳君       赤澤 正道君    井出一太郎君       稻葉  修君    臼井 莊一君       江崎 真澄君    小川 半次君       上林山榮吉君    菅  太郎君       北澤 直吉君    倉石 忠雄君       櫻内 義雄君    園田  直君       田中伊三次君    床次 徳二君       中野 四郎君    中村三之丞君       羽田武嗣郎君    橋本 龍伍君       前田 正男君    松浦周太郎君       松野 頼三君    松本 俊一君       三浦 一雄君    山崎  巖君       淡谷 悠藏君    岡  良一君       木原津與志君    小松  幹君       河野  密君    田中織之進君       高田 富之君    楯 兼次郎君       堂森 芳夫君    永井勝次郎君       野原  覺君    長谷川 保君       井堀 繁雄君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         法 務 大 臣 植木庚子郎君         外 務 大 臣 小坂善太郎君         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         文 部 大 臣 荒木萬壽夫君         厚 生 大 臣 古井 喜實君         農 林 大 臣 周東 英雄君         通商産業大臣  椎名悦三郎君         運 輸 大 臣 木暮武太夫君         郵 政 大 臣 小金 義照君         労 働 大 臣 石田 博英君         建 設 大 臣 中村 梅吉君         自 治 大 臣 安井  謙君         国 務 大 臣 池田正之輔君         国 務 大 臣 小澤佐重喜君         国 務 大 臣 迫水 久常君         国 務 大 臣 西村 直己君  出席政府委員         内閣官房長官 保岡 武久君         法制局長官   林  修三君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月四日  委員西村榮一辞任につき、その補欠として井  堀繁雄君が議長指名委員に選任された。 同 日  委員井堀繁雄辞任につき、その補欠として西  村榮一君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十六年度一般会計予算  昭和三十六年度特別会計予算  昭和三十六年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 船田中

    船田委員長 これより会議を開きます。  昭和三十六年度一般会計予算、同じく特別会計予算、同じく政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。質疑を続行いたします。田中織之進君。
  3. 田中織之進

    田中(織)委員 私は日本社会党を代表いたしまして、政府施政の根本的な問題について主として総理に対して質問を行ないたいと思います。私に与えられておる時間の制約の関係もありますから、私の伺いますことに対しまして、簡明率直な御答弁のほどをまずもってお願いを申します。  まず第一に伺いたい点は、総理は本年の初頭にあたりまして、また過般の施政方針演説の中におきまして、今後の日本政治を行なうにあたりまして政治姿勢と申しますか、政府政治に対しまする、具体的には行政に対する責任体制姿勢を正していくということをモットーとしてやりたい、こういうことを申されておるのでありますが、これは具体的にどういうことを意味されておるのか、またこの姿勢を正すということは、現在の池田内閣体制においてすでに実行に移されているのかどうか。私どもは現内閣の構成その他の点においてもいろいろな問題があるように見るのでありますが、総理自身といたしましてこの点についてどういうようにお考えになっておるかという点をまず伺いたいと存じます。
  4. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私が就任以来政治の姿を正すと申し上げておりますことは、御承知通り昨年の日米安全保障条約審議にあたりまして国会が非常に正常を欠いているということは、田中さんもお感じになったと思うのでございます。従いまして、私が政治の姿を正すと言うことは、まず政治の頂点であります国会におきまして、十分審議を尽くし、暴力その他の行なわれないように、ほんとうに多数党も謙虚であり、少数党もこれに応じて話し合いの上に議論を尽くして国政に当たる、すなわち私はそういうことが最も大事な国民の信頼を得る政治だ、こう考えまして政治の姿を正していこうと努力をいたしているのでございます。
  5. 田中織之進

    田中(織)委員 昨年は、安保問題に明けて総選挙に暮れたわけであります。この間国会の機能が麻痺するような国会運営が行なわれ、さらに民主主義を否定するところのわが党の浅沼委員長に対する白昼公然たる暗殺事件が起こる等、非常に日本民主政治危機を思わせるようなできごとが続いたのでありまして、その意味において総理がこうした民主主義危機を再び繰り返さないような体制を作りたいという考え方は、われわれも賛成するところであります。しかしながら、昨年秋行なわれました総選挙を見ましても、多数の選挙違反の問題が起こっております。現に池田内閣閣僚の中におきましても、具体的に名前を申し上げるまでもなく、今回の選挙違反関係を持ったといわれる閣僚が二名おられます。ことに選挙に関するこうした違反事件等を取り上げなければならない司法当局関係する閣僚の中にも、選挙違反事件を起こしておる。こういうようなことでは今総理が言われました政治姿勢を正すということについて、まず内閣自体姿勢が正しくなっていないのではないか。自民党には確かに三百名の国会議員衆議院だけでおるわけであります。私はそうした選挙の問題について司直の手で今追及をされているような、疑いを持たれておるような人を閣僚に加えなければならないということについては、ただいま総理が言われた政治姿勢を正すという見地から納得ができないのでありますが、この点について総理はどのようにお考えになっておるのでしょうか。
  6. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 選挙が公正に行なわれることは、政治の姿を正すもとでございます。しかしさきの選挙におきましてある特定の候補者当選者につきまして一部違反があったからといって、それが直ちに私は政治の姿をこわすものだ、こうは考えないのであります。私は閣僚に任命する場合におきまして、そういうことを一応調べましたけれども、私の耳に入らなかったのであります。私は十分これは取り調べ中でございますので、結果を見なければ何とも申しかねると思います。
  7. 田中織之進

    田中(織)委員 私は、どうも総理答弁納得できないのであります。閣僚の中に、あるいは今度の選挙違反関係は今までの過去のどの選挙よりも悪質な選挙違反が摘発されているということは、これは政府も発表する通りであります。しかもその多数の者は与党の関係です。これはもう争う余地のない問題だと私は思うのであります。しかもその中には、かつてはこの種の選挙違反等の摘発の任に当たった検察の最高首脳部にあった者も含まれておるのであります。その関係におきましては、関係の検察庁の検事正から異例の声明が行なわれる、こういうような事態にまで発展をいたしておるのであります。そうした問題については、いずれ同僚からあらためて追及をするわけでございますけれども閣僚の中には、今回の選挙ではない、すでに前回の選挙総括責任者選挙違反問題を起こしまして逃亡をしておる者もありますけれども、そのまま起訴せられて、すでにかれこれ三年になるという閣僚がおられることは、総理は御存じのはずだと思うのであります。何を好んでそうした問題の閣僚を、政治姿勢を正す、選挙の公明を期するんだということを一枚看板にいたします池田内閣として、閣僚に加えなければならぬかという点について、私は総理の言われることと行なっておることとは矛盾をいたすと思うのでありますが、その点に対する総理考えを重ねてお伺いをいたしたいと思います。
  8. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 選挙違反があったと疑われる場合におきまして、その人が閣僚たる資格をなくするとまで私は考えていないのでございます。
  9. 田中織之進

    田中(織)委員 選挙違反関係があったからということだけで閣僚にすることができないという理由にはならないということでありますけれども、今申し上げました閣僚につきましては、しかも総括責任者であります。現在に至りますまで、所在夫婦でわからないのであります。選挙戦のさなかにおいては、あるいは何者かによって殺害せられたのではないか、こういうようなこともその選挙区においては論議をせられたということすら私は聞いておるのであります。これは、法治国家において、起訴せられておる者が、しかもかつて代議士であり、夫婦所在をくらましておるという者を捜査することができないというほど、私は日本捜査当局というものはなまぬるいものではないと思うのであります。総括責任者がそういう形で所在をくらまして逃亡しておるということは、現行選挙法から見て、当然当選をした本人にも影響をするという考えがあればこそ、私はいまだに所在をくらましておるのだと思うのであります。従って他の普通の選挙違反とは違って、あなたが閣僚に加えておる中には、そういうきわめて悪質な選挙違反、しかもまた今度の選挙についても、その人が選挙違反を起こしておるということは新聞紙上に報道せられておる通りでありますから、この点は、あなたが政治姿勢を正すのだと言われるその点から見るならば、あなたの足元から明るくするという意味において、私はこの点は考えてもらわなければならぬと思うのでありますが、あなたは一体その点について、自分閣僚選考について配慮が足りなかったということを依然として認めないのですか、いかがですか。
  10. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は今お話しのようなところまでのことは存じません。しかし今後の問題といたしましては、そういう点は私は考えなければならぬ問題かと思っております。
  11. 田中織之進

    田中(織)委員 その点は先ほど申し上げましたように、いずれ具体的な事実をあげて同僚から重ねて総理にただすことにいたしたいと思います。  実はけさ私の手元広島県から一通の親展速達が着いたのであります。それによりますと、私はあえてこれをきょうは持ち出そうとは実は考えなかったのでありますけれども総理が一月十五日付をもちまして、本年成人に達した人に対してあいさつ状を送られておるそうであります。私はそれを存じないのでありますが、ここに広島県賀茂郡西条町のある女の方に送られたはがきが、たまたま私今登院する前に、会館に参りますと配達をされてきておったのであります。これを送ってくれた人のいわくには、衆議院では、衆議院議員さんの部屋に、申し合わせと題して、一切の虚礼廃止をする、また年賀状あいさつ状等、いかなるものも印刷に付して配布することは相ならない、こういう申し合わせが張られておるのであるけれども、同封のはがきは、いやしくも総理大臣が、今年成年に達した選挙区の約二万名近い者に発送したもののようであります。一体総理大臣みずから衆議院のこの申し合わせを犯すようなことをやられておること自体が、あなたの言われる政治姿勢を正しくするということにあなたは合致するとお考えになっておられるのかどうか、この際伺いたいと思います。
  12. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、郷里の方が成年に達したときにあいさつをしたらどうかということを秘書官から聞きまして、それは適当だろう、いいだろう、こう言ったわけでございます。どれだけ出したかということは、今のところ存じておりません。調査いたしたいと思います。
  13. 田中織之進

    田中(織)委員 この問題も私の手元に来ておる手紙によりますと、選挙区の約二万名の人に出しておるということでございまするが、これは衆議院申し合わせに従いまして、こういう事例があった場合には、議運で取り上げて調査するということになっておりますから、これは、私はその方面に移牒いたしたいと思います。しかし少なくとも衆議院申し合わせ年賀状その他の虚礼廃止という考え方の上から見れば、私は、これは適当ではない、このように考えまするので、この点はいずれ今申し上げましたように、あらためてそれぞれの当該機関調査をしてもらうことにいたします。  次に総理は、やはり施政演説の中で清潔なる政治ということを言われております。私どもそれに賛成でございます。ところが昨日あるいは今朝の新聞にも出ておるのでございまするが、従来とも自民党、その他私ども社会党にも若干の選挙に際する献金が行なわれておるようでございまするが、いわゆる財界から、経済再建懇談会の名において多額の政治献金がなされてきておることは、これは総理も御承知通りであります。政治資金規正法による届出によりまして調べてみますると、昭和三十年一月に、この経済再建懇談会が発足以来本年一月までに政界に献金をいたしましたものは三十数億円の膨大なものに達するということでございます。なお経済再建懇談会といたしましては、特に自民党に対しましては、毎月二千万円ずつの献金をいたしておるということでございます。けさ新聞によりますると、自民党の毎月の経常費が二千五百万円で、大体その八割近いものは、この財界の有志の集まりであるところの再建懇談会から寄付をせられておるということでございまするが、こうしたことが、いわゆる政治との結びつき、あるいは政治に対する圧力というものになってくることは、国民のひとしく心配するところでございまして、経済再建懇談会内部におきましても、この点についての批判が起こりまして、近く解散をするということでございます。もちろん、私は総理も、この経済再建懇談会解散、そういうことには賛成をせられることだと思うのでございまするが、本年度予算は、後ほど基本的な問題について総理伺いますけれども、この予算もきわめてそうした方面に重点を置いた予算ではないかということが批判をせられておるのでありますが、こうした財界との結びつき、こうした政治献金を受けるというようなことが、総理の言われる清潔なる政治という点から見まするならば、これは改めなければならないことだと思うのでありまするが、この点に対する総理所信伺いたいと思います。
  14. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 政党活動につきましてお金のかかることは、田中さんも御承知だと思います。しからばその費用をどこから捻出するか。われわれは党員といたしまして数百万円のものを毎月出しておりまするが、それだけではとても運営ができないというので、昭和三十年からそういう経済再建懇談会の方から寄付金を受けるということにいたしておったのであります。しかしこの問題につきましても、いろいろ議論がございますので、私は大多数の人が納得できるようなすっきりした形にしたいということを日ごろから考えておったのであります。たまたま新聞に出ているように、経済再建懇談会は一応解散して、何かりっぱな組織を作ろうということを自分としても考えておる次第であり、党内でもそういうことを今研究しておる次第でございます。
  15. 田中織之進

    田中(織)委員 この点は私は非常にむずかしい問題であろうかと思います。しかし総理が清潔なる政治ということをスローガンとして掲げられる以上は、この点については根本的に態度を改めていかなければならない問題だと思うのであります。ことに自民党諸君が、私ども社会党がたとえば選挙際等労働組合方面からカンパを受けるではないか、こういうことを言われます。しかし私ども労働組合方面からカンパを受ける場合には、これは組合の決議で組合員個々人納得をした形において出されておるのであります。しかしながらいわゆる経済再建懇談会が出しておる政治献金というようなものについて、はたして株主総会の承認を得ているかどうか、こういう点にも、これはいわゆる税務当局との関係もあるわけでありまするが、私は多くの問題が残っておると思うのであります。しかもその経済再建懇談会を構成しておる財界関係の会社というものは、大なり小なりいわゆる財政投融資の対象として国の財政資金等の貸付を受けている関係であるということを考えまするならば、この経済再建懇談会解散ということが、自民党党務運営の点から見て重大な影響があるということで、あなたの方の党の内部では対策に苦慮しておるというようなことが新聞で報道せられるのであります。私は自民党の総裁という立場において池田総理がこの点については抜本的な改正をやはり加えていくことが、絶対にあなたの言われる清潔なる政治を実現するためにまずもってやらなければならぬことだと思うのでありまするが、この点に対する総理所信を重ねてお伺いをいたしたいと思います。
  16. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど申し上げましたようにすっきりした形に改めたい、そうして党費はどこから見てもこれならまあまあと納得のいくような方法で集めたいと考えております。
  17. 田中織之進

    田中(織)委員 次に、やはり政治のあり方に関連をする問題でございまするが、御承知のように、去る一月二十日アメリカ大統領がケネディ氏にかわって、その就任式が行なわれた際に、アメリカ大統領就任の際の宣誓というものは、アメリカ憲法を守るということが大統領就任宣誓のただ一つのことである、こういうように伺っておるのでありますが、私は総選挙後この初めての通常国会に臨んで、政府が実質二兆円を上回る超膨大予算国会に提出して参りましてこれを実行していく、その意味国民の協力を求めなければならぬという段階でありまするが、この際この国政の基本としてありまする日本国憲法に対する総理考え方伺いたいと思うのであります。  御承知のように、わが国憲法は、やってはならないという規定と、それからやらなければならないという規定が、私大別して二つあると思うのであります。やってはならないという規定は、御承知のように、憲法第九条にありまする戦争はやってはならないということである。ところが従来までの保守党の政治というものは、私はこのやってはならないという戦争準備のために憲法違反して自衛隊を作り、あるいは昨年問題になりましたところの日米安全保障条約、こういうものによりまして日本アメリカとの実質的な軍事同盟条約を締結する、こういうことをやっておると思うのであります。さらにやらねばならないという点につきましては、勤労者団結権保障、あるいは言論、集会、結社、思想、信教の自由の保障の問題、あるいは憲法二十五条によるところの、日本国民は健康にして文化的な最低生活を営むことができるというところの、いわゆる最低生活保障に関する規定等がございます。残念ながら、このやらねばならないと憲法規定しておる憲法上の条章というものは、この予算を拝見いたしましても、十分にこれが実行に移されているとは考えられないのであります。そこで私はこの際あらためて総理に、この二つの重要な内容を持つところの日本国憲法に対する総理の根本的な考え方を伺っておきたいと思うのであります。  われわれの聞くところによりますると、これは特に二月一日、一昨々日でありますか、朝日新聞の報道せられたところでありまするが、自民党の中の憲法調査会におきましては、いよいよ本年の夏ごろからは具体的な憲法改正に関する検討に入るというようなことも伝えられておるやさきだけに、私はこの問題は非常に重要な問題だと思いまするので、この憲法に対する総理考え方と、憲法を守らなければならぬということは総理大臣以下の国務大臣、われわれ国会議員にも憲法規定によって課せられておる義務でございまするが、この点に対する総理考えを率直にお述べいただきたいと思います。
  18. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 憲法は国の最高の法規でございます。これは絶対に忠実に守らなければならぬことだと私は考えます。これにはどなたも異存はないと思っております。
  19. 田中織之進

    田中(織)委員 守らなければならないということは、憲法総理大臣に与えられている義務なんです。私の伺っておるのは、その義務をあなたは現実政治の上でどのように実行する考えでおるかという、あなたの心がまえを伺っておるのであります。あなたははたして本年度予算におきまして、あるいはあなたの現に展開しようとする外交施策というようなものの、日本防衛方針というようなものの中に、この憲法規定というものを順守しておるとお考えになっておるかどうか、この点を私は伺っておるのであります。
  20. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほども申しましたように、忠実に守っておるのであります。守らなければならぬと思います。
  21. 田中織之進

    田中(織)委員 忠実に守っておるかどうかということについては、この予算審議過程を通じて国民の前にわが党によって明らかにするでありましょう。私は、先ほど申し上げました憲法二十五条の、健康にして文化的な最低生活保障の問題につきましても、御承知の昨年出ましたいわゆる朝日判決と申しますか、現行生活保護法によるところの保障では、これは憲法にいうところの最低生活保障というものにはならないという裁判所の判決すら出されているような状況でございます。私は後ほど予算の問題について、社会保障の点についてこの点に再び触れるのでありますけれども、特に憲法規定に基づいて政府国民のためにやらねばならないという規定の多くのものがじゅうりんをされている。私はその点をきわめて遺憾と存ずるものでありまするが、その点については、私のこれからの質問あるいは同僚諸君によって、この予算審議過程を通じて明らかにすることにいたしたいと思うのであります。  次に私は、去る一日に中央公論社社長嶋中鵬二氏の私邸に行なわれましたところの右翼テロ事件に対しまして、ただ一点だけ伺いたいと思うのであります。特にその政治責任の問題について伺いたいと思うのであります。この点につきましては、昨日本会議においても取り上げられましたし、六日には法務、地方行政連合審査会が行なわれることが三党間で話し合われておりまするので、その具体的な追及の問題は私はその機会に譲りたいと思うのでございまするが、昨年のわが党の浅沼委員長に対する暗殺事件以来、私はこの種事件に対する政府責任というもの、こういうことが明確にされない結果が今回のような事件が起こってきておると思うのであります。その意味で、責任をどうするかという問題の場合に一番大事な問題は、今後第三、第四のこの種の事件が起こらないということについての国民に対する保証をどうするかという問題にかかると思うのであります。ところがけさ新聞によりますると、まず当面の責任者としての警視総監責任問題につきまして、東京都公安委員会は、これは警備上手落ちはないのだ、従って警視総監には責任を持ってやめなければならぬというような責任はない、こういうことを公安委員会が結論を出したということであります。また国家公安委員会におきましても、この種の重大な問題が起こって、しかも浅沼事件といい今回の嶋中事件といい、同一の右翼団体に所属しておる、しかも未成年者であります。この継続的な事件に対しまして、国家公安委員会はまだ今朝の新聞紙によりますると、国家公安委員会を開いてこの問題についての責任あるいは今後の対策というようなことについて委員会を持たれたこともないように私は伺っておるのであります。しかも公安委員の大多数の意見といたしましては、警察当局のいわゆる行政上の責任と、内閣が持つところの政治責任とを機械的に分離をいたしまして、警察当局には政治責任を負わせるべきではないという意見が国家公安委員会の多数の意見であるということも、今朝の産経新聞等の報道している通りでございます。私はこういうことであれば、現在まだ捜査の段階であり、背後関係等の追及が行なわれておる段階でありまするけれども、これでは私はこの事件の真相が究明されない間に、また第三の事件が起こらないという保証はないと思うのであります。この責任問題に対する考え方をもって私は今後この種の事件に対する当局の対策というものに対する熱意のほどがうかがわれると思うのでありまするが、総理は昨日わが党の猪俣議員の本会議における質問に対しましても、最高政治責任内閣として当然負わなければならないという意味のことは申されたのでありまするけれども、その政治責任というものを具体的に私が今申し上げたような観点からどのように表明していかれようとするのであるか、この際総理考えを伺っておきたいと思うのであります。
  22. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 警察行政につきましては、その中立性を確保するという意味から、内閣総理大臣は具体的の警察の運営管理につきまして権限はないことになっておるのであります。ただ内閣総理大臣行政全般についての責任者でございまするから、こういう意味におきまして、今回のような不祥事件に対しましては、国会並びに国民に対して責任はあると考えております。しかして、しからばその責任をどういうふうに果たすかということは、私といたしましては、今後再びかかることの起こらないように努力をしていく、これが私の責任を果たすゆえんだと考えます。なおその他のことにつきまして、たとえば警視総監の問題等につきましては、これは別個の問題で、公安委員あるいはまた警視総監自分でお考えになることだと思っております。
  23. 安井謙

    ○安井国務大臣 ちょっと関連いたしましてお答えいたしますが、あの事件が起こって国家公安委員会はまだ委員会も開いておらぬじゃないか、こういうようなお問いのようでありまするが、翌日の十時から二時間有余にわたりまして国家公安委員会を開いております。事件に対する詳細な状況、警備の事情等は検討いたしたわけであります。しかし問題が非常に重要な問題であり、起こったばかりの過程でございまするから、さらに調査の進展を待ってまた慎重に検討すべきものだ、こういう結論になっております。  なお東京都の公安委員会の方につきましても、昨日の委員会の結論といたしましては事件の経過上、警備上、手続上の手落ちはなかったようだ、しかしそこから先の問題についてまだ結論を出しておるという段階でもなかろうと存ずる次第でございます。
  24. 田中織之進

    田中(織)委員 総理のただいまの答弁では、私は総理自身がこの種の事件に対する責任をどう果たされていこうかということが明確でないと思うのであります。私はなぜこの点をしつこく伺うかと申しますると、昨日の総理の本会議における答弁を伺っておりましても、前段はなるほど言論に対してこの種の暴力をもって臨むということは民主主義の敵であるということを言われております。しかし、最後に総理が言論に対するいわゆる限度と自重というものを求められた点は、こういう事件が言論に対する暴力であるということを総理が前段において排撃されても、最後において、そのことにおいて、問題はたとえば天皇制に関する問題だというような素朴な考え方のもとから、この右翼が理由にいたしておりまする中央公論に所載せられました記事というようなものに対して、何だかこれがこの種の事件を起こす原因として一つの無理からぬものがあるというような、是認をするようなことを述べておることは、この問題について、絶対にこれは認められないことだ。あくまで言論に対しては言論をもって相手を説得していくということでなければ、法秩序は守られないということは、これは私は歴然たる事実だと思う。その意味において、この事件右翼団体の理由にしておる問題を、総理があの答弁において、特に最後に捨てぜりふのような形で述べるということは、総理自身がこの問題の本質を理解しておらないということに私はなろうかと思うのでありますが、この点に対する総理所信を明確にしていただきたいと思うのであります。
  25. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 言論に対しては言論をもって戦うのが本筋でございます。ただ私が言っているのは、あの具体的の問題で言っているのではございません、やはりわれわれは民主主義である以上、はき違えた民主主義民主主義を害するのだ、自由にしても、放任した、行き過ぎた自由というものは、お互いのほんとうの自由を害するものである、こういう気持で言っておるのでございます。あの「風流夢譚」が行き過ぎだとかなんとかということを言っておるのではありません。
  26. 田中織之進

    田中(織)委員 総理が一般的に言論に対する自重、あるいは正しい世論というものを認める、伸ばしていきたい、こういう考え方であるならば、私は答弁の冒頭に総理のその所信を述べるべきだと思う。冒頭には、やはりテロ行為というものを非難しているけれども、最後にその問題をつけ加える、一般的な問題をつけ加えることは、この事件の本質をぼかす結果になると思う。その意味において、少なくとも総理が今述べられたように、言論一般に対する自制を要望したのだというけれども、私は、この事件がなまなましい言論に対する挑戦である、暴力による挑戦であるというだけに適当でない、このように考えるのでありますが、この点について総理から重ねて、こういう言論の一般的な自制の問題と引きかえにはならない重大な問題であるという認識を、総理は当然お持ちになっておることと思うのでありますが、この点を明白にしていただきたいと思います。
  27. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 引きかえになるならぬの問題でなしに、私は暴力は絶対にいかない、これは動かすべからざることであるのであります。ただつけ足りと申しまするか、考え方としては、私はそういうことが起こらないようにやはり常識をもってお互いにやっていきましょう、こういう意味でございます。
  28. 田中織之進

    田中(織)委員 政治のあり方の問題に関連をいたしまして、特に二兆円になんなんとするところの来年度予算案を中心にいたしまして、若干総理の見解を伺いたいと思うのであります。  主として財政経済政策あるいは社会保障その他経済成長の問題、物価問題ということにつきましては、順次同僚から質問をすることになっておりまするので、概括的な点だけを伺いたいと思うのでありますが、私はこの予算の編成にあたりまして、総理としては、当然昨年の総選挙において国民に公約をしたところの問題をいかに具現するかということについて、お考えになったことと思うのであります。しかし残念ながら、われわれの見るところでは、本年度予算においては、公約で述べられました減税の問題にいたしましても、あるいは社会保障の充実の問題にいたしましても、あるいは公共投資の増大の問題にいたしましても、もちろん本年一年限りで政府与党が選挙で公約をしたことが全部実現される、あるいは実現の緒につくとは私も考えませんけれども、公約の実行という点はきわめて不十分であると私どもは見るのでありますが、総理は、この予算に対しまして、選挙における公約の実行との関連をどのように考えられ、どの程度に公約が盛り込まれておられるとお考えになっているか、この際総理の御所信を伺っておきたいと思います。
  29. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は選挙におきまして公約いたしましたものは大部分実現し、また実現の緒についておると考えております。
  30. 田中織之進

    田中(織)委員 それは総理の自信過剰というか、残念ながら一般の言論機関を初めといたしまして、本年度予算に対する国民の側の批評というものは、公約というものがきわめて軽視されておる、全然無視されているとは申しません、軽視されておる、こういうことが国民のほとんどの一致するところの批評だと私は思うのであります。その点から若干伺いたいと思うのでございますが、減税の問題につきましても、いわゆる三十六年度を初年度として計上いたしておりますものは、国税においてわずかに六百二十五億にすぎないのでありまして、この点も、大まかではありますけれども、減税について政府が第一次池田内閣として総選挙に臨むときに国民に約束したものは、少なくとも一千億を下らない、こういうところに力点が置かれておったと私は思うのであります。その点から見て、まず第一に減税の面におきましては、総理自身としても選挙の公約で約束したものよりも非常に少ないものになっているという点については、内心そういうように感じられておるに違いないと思うのでありますが、総理は依然として減税の面においても公約は大部分実現された、このようにお考えになっているのかどうか、この際伺いたいと思うのであります。
  31. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 わが党の政策といたしまして、減税につきましては所得税、法人税を通じまして平年度千億以上の減税をする、こうはっきり言っております。しこうしてその減税案は、一昨年から設けられておりますところの税制調査会の答申によってやっていく、こういうことでわれわれと同じような答申案にのっとりましてやったのであります。ただ答申案と違うところは、税制調査会の方では課税所得百八十万円以下のものについて税率の引き下げを考えておりましたが、その点は課税所得七十万円以上、すなわち総所得百万円以下の人が納税者の九五%を占めておりますから、この際は課税所得七十万、総所得百万というところまでで減税をとどめたのが税制調査会の答申と違うだけで、所得税、法人税を中心といたします平年度千億円以上の減税を果たしたと思います。ただ問題は、ガソリン税につきましては、私は選挙のときにこれを引き上げるとも引き上げないとも言っておりません。また予算編成方針を作るときにも、まだきまっていなかった問題であります。ガソリン税を百五十億円増徴するということは、これは公約にはなかったのでございますが、緊急な道路の状況等を考えまして、これは増税することにしたのでございます。従いまして公約のときは所得税、法人税を中心とする国税平年度千億以上、こういうことの公約は私は果たしたと考えております。
  32. 田中織之進

    田中(織)委員 本年度予算編成にあたりまして、いわゆる歳入の基本でありまする税収の見積もりにあたりましても、私は実に膨大な自然増収というものを見込まれておると思うのであります。従って現行の税制から参りますると、政府の言うところの国民所得の増加に伴いまして、こうした形における予算以上の税収が上がるということは、これは年々繰り返されることだと私は思うのであります。問題は、総理がいつも口に言われる、経済の高度成長政策が地についてきておると言われるならば、こういう段階においてこそ——必ずしも租税の自然増収が四千億になるということが、ただ単に経済の成長を物語っているということではなくて、国民にそれだけ重い負担がかけられているのだ、こういう観点に立って、減税の問題については根本的に考え直さなければならぬ問題があると私は思うのでありますが、この点に対する総理のお考えはいかがですか。
  33. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、従来財政当局として財政の責任の地位にある場合におきましては、常に思い切った減税をしてきておるのであります。昭和二十五年から八年、そうして昭和三十二年度予算につきましても、常に減税というものは政治の根本であるという思想でやっておるのであります。従って三十六年度予算を作りますときにも減税は大事だ、こういうので三本の柱の一つにいたしておるのであります。ただ私は千億円余りの減税をするというときに、世論は、減税もさることながら社会保障をやらなければいかぬ、こういう議論もあります。また将来の減税、社会保障を強化していく上におきましては、経済基盤の強化ということがもとをなすものでございます。この三つをやる。そこで私は、自然増収が三千億以上というのが相当三千五、六百億あるいはそれ以上になるというふうな見通しがついたときに、これを減税に持っていくか、社会保障に持っていくかということで考える。その場合におきまして私は、減税よりも社会保障が大事なんだ。だから私は講演のとき言っておりましたが、減税はもっとできるかもわからぬけれども、減税がもっとできるよりももっと社会保障をやりたいのだ、こういうことを言っておったのであります。私は減税は常に最も重要な政治の根本として考えると同時に、今後におきましても減税を続けていくことは変わりはございません。ただ今の場合において、お話のように社会保障制度を拡充していかなければならぬ、これが一番の急務だと思いまして、従来は社会保障に対しまして思い切った施策をしたと申しましても、一番多いところで当初予算で二百億とか三百億、昨年が三百億円の増でございます。今度は社会保障関係直接の分だけでも六百三十六億やろうとするならば、減税はこの程度でとどむべきだ、そうして社会保障制度に力を入れるべきであると私は考えたわけでございます。
  34. 田中織之進

    田中(織)委員 減税と社会保障と産業基盤の拡充の三つの柱で経済施策の基本を置きたいという考え方は、理解できないではありません。しかし本年度予算を見る場合に、総理社会保障に六百三十六億前年度よりふやしている、あるいは産業基盤の拡充という点に施策を向けたから、減税がこの程度に圧縮をされたのだということでは、私は納得ができないのであります。なぜかならば、総理社会保障が前年度よりも増額されて拡充された、こう言われますけれども、たとえば社会保障の増額の中に入っております国民年金の保険料の百二十億の問題にいたしましても、これは基金として積み立てられるもので、むしろこれに従って四月一日から国民保険が実施せられまする結果、これの倍額の二百四十億というものが国民から吸い上げられるのです。たとえば医療費の問題につきましても、いわゆる一〇%の値上げの問題が実現されます。それに対しまして予算的な処置といたしまして七十四億でありますか、これは計上されておりまするけれども、一〇%の医療費の値上げに伴いまする国民の負担というものは七十五億ではとうていカバーできないのです。大体四千億の一割と見て四百億、そのうちのわずか七十四億しか国は負担しないということになるのでありまして、大衆の負担という点から見るならば、医療費の値上げという関係から参りまする国民の負担というものは、三百二十五億というものが新たに加わってくるということになると思うのです。そこへもって参りまして物価の値上がりの問題、こういうものを考慮いたしますると、絶対額で六百三十六億前年度よりふえているのだからということで、国民があなた方の選挙公約として期待しておった社会保障の充実ということにはならないと私は思うのでありまするが、この点について総理はどのような御答弁をなさいますか。
  35. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 減税は圧縮したというのではございません。減税は予定通りということでございまして、予定以上にふえた分は、できるだけ社会保障の方へ持っていこうと努力したのであります。しこうして内容をずっとごらん下さいますと、これはもちろん今の社会保障制度で十分だとは申しません。十分だとは申しませんが、今までやった社会保障関係に対する考え方と、今度の予算に盛られた考え方は、私は相当前進していると思うのであります。個々に問題を掘り下げていっていただければわかると思います。しかし十分ではございません。十分ではございませんが、とにかくわれわれの熱意のあるところは、私は国民大多数が御承認願えると思います。
  36. 田中織之進

    田中(織)委員 その点については私は問題があると思うのであります。若干その意味において増額されておる点は、私どもも否定はいたしません。しかし私が今申し上げましたように、この予算実行過程においてふえまする一般国民大衆の負担というものは、先ほど私が申し上げました国民年金の関係で二百五十億、それから医療費の値上げ分の三百二十四億、それから国鉄運賃の引き上げによる国民の負担増が四百六十八億、それから郵便料金の引き上げが、かりに七月から実施するといたしましても、三十六年度において約六十七億、先ほど総理が述べられましたガソリン税の一五%引き上げだけでも、三十六年度において百八十億円の負担増になると私は思うのであります。以上総計しただけでも、千三百億近くになると私は思うのであります。総理は反対をされておるようでありまするけれども、このほか九州電力の料金値上げが行なわれました場合の消費者負担、これはまあ九州に限られるわけでありまするけれども、三十六年度において九十ないし百億円の負担増というものが出て参ります。東京電力が料金の値上げを通産省と折衝を開始するとか、しておるとかいうようなこともいわれまするけれども、そうなりますると、この分の増額というものも考えていかなければならぬと私は思うのであります。こういう大衆の負担増加と政府の支出の増加というものとの関連をはたして考えられたかどうか。大資本に対しましては、たとえば造船融資の例をとりましても、従来の六分五厘が五分に引き下げられます。それかといって、今度はまあそういう造船利子補給の関係からいたしまして、系統農協に対する貸出金利の引き下げも行なわれるようであります。しかしそれは造船利子の場合の六分五厘を五分に引き下げるというのと農協の九分五厘を七分五厘に引き下げるというのとでは、すでに造船関係だとかあるいは農村の経済の中心としての農協に対する考え方との間に、大きな開きがあると思うのです。こういうような点は、予算編成の基本的な方針を策定せられる場合に十分考慮せられたのかどうか。この際、総理の御所見を伺いたいと思うのであります。
  37. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 経済全般を考えて編成いたしたのでございます。いろいろお申し述べになりましたが、片一方でわれわれの国民所得が高度成長して上がっていくことを一つもとにおいて、そうしてどうやっていこうかという施策をお考え願いたいと思います。私は過去の実績から申しまして、鉄道運賃は上げた場合もございます。あるいはガソリン税を上げた場合もございます。いろいろな点を上げておりますが、片一方で根本をなす国の経済の発展、国民全般の所得の増加ということをお考え下さいましたならば、今おっしゃいましたいろいろな問題が私は解決できるのじゃないかと思います。  なお、利子関係につきましても、たとえば船舶会社に対しましての利子補給は、これは船舶関係の業者の方々にお聞き下さいましても、今日本が世界の海洋におきまして外貨をかせぎ、そして国内の輸出品を運搬する上からいきましても、日本が海運国として立つ以上はやむにやまれぬ施策として私は考えておるのであります。
  38. 田中織之進

    田中(織)委員 総理は例によって、そうした問題は経済の高度成長によってカバーされるのだということを、いみじくも今答弁の中で出されたのであります。しかしながらいわゆる所得倍増、経済の高度成長政策の問題を考えて参りましても、総理は都合のいい条件だけを取り上げられておりますけれども、不利益な要素というものはとにかく一向考慮に入れていないようであります。たとえばわれわれに配付されました、これは予算編成の基本になっておるのでありまするけれども、「昭和三十六年度の経済見通しと経済運営の基本的態度」、この中に盛られておるものと、あるいは実は十二月二十七日の経済企画庁によって、これも閣議決定をなされた「国民所得倍増計画」というものとを見ましても、たとえばこの同じ閣議決定の十二月二十七日の「国民所得倍増計画」の中では、十五ページに「成長の経路と問題点」という中におきましては、やはり高度経済成長政策をとっていく上において、国民所得の十年後の倍増を達成する上において、幾多の困難が予想せられるような問題については、この点をあげております。しかしいよいよ予算を組むときに、それを基本にしてこしらえたというこの「昭和三十六年度の経済見通しと経済運営の基本的な態度」というものの中には、そういう不利益な要素というようなものは、全部捨象してしまって、都合のいいだけの条件だけしか私は述べてないように見受けるのであります。これが総理施政演説の中にもいみじくも私は現われてきていると思う。私はあと外交に関する問題に移らなければなりませんから、こうした財政経済政策の基本的な問題は、先ほど申し上げましたように、二陣の井手君その他の同僚から追及いたしまするから、もう多くを触れませんけれども日本のこうした高度経済成長政策の前提として、あるいは深い関連のあるアメリカ経済の見通しというようなものについては、総理は、解散前の国会もさることながら、特にこの間の特別国会予算委員会において、わが党の北山愛郎君の質問に対しまして、いわゆるリセッションの問題等についても大したことがないということで簡単に片づけられました。しかし昨日出されたアメリカ大統領の経済特別教書、あるいはそれにさかのぼる三十日の一般教書というようなものにおいて、アメリカ自身が、ケネディ大統領自身が、アメリカの景気後退という問題について、いかに深刻な、私はその意味から見れば、大胆な表現をしておるかという点から見て——総理の強気一点張りはこれはけっこうです。強気もあるときは私はけっこうだと思います。しかし、そういうただ馬車馬のような形で都合のいい条件だけを抜き上げたような形の経済成長政策あるいは所得倍増計画というようなものは、これはことしの予算は、国会は多数を持っておるのでありますから通るかもしれません。この実施の過程で、そういう不利益要素というものが出て参りますると、予算実行上差しつかえを生ずるというような問題が起こることが目に見えているという点について、総理は一体どういう考えを持っておられるか、私は、やはり予算審議の大前提として、この際伺っておかなければならぬと思うのであります。
  39. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 経済は生きものでございます。しかもまた世界の経済と日本はつながっておりまするから、内外の経済上、常に関心を持って見守っていかなければならぬことは当然でございます。しかし私の見ますところでは、私はそういう心がまえでいくならば、今この予算をどうこうということは私はないと考えます。もし万が一非常な事態が起こるという場合におきましては、私はいかようにもこれを運営していく考えでおります。
  40. 田中織之進

    田中(織)委員 相変わらず総理の自信過剰というか、全く私は救いがたいものがあると思います。あなたがお手本にしておるアメリカにおいて——私はアメリカはあまり好きじゃありません。しかし、少なくとも今度のケネディ大統領が三十日の一般教書あるいは昨日の経済特別教書に示しておるこの態度というものは、やはり見習うべきものがあると思うのです。もちろんアメリカ経済がこういうような状態に立ち至ったということにつきましては、第二次大戦以後のいわゆる冷戦政策、力の均衡による外交政策というものをバック・ボーンといたしまして、アメリカがやってきた当然の報いが、今アメリカ経済の後退という形になって現われてきていると思う。たとえばドルの問題についても、教書におきましては絶対にドル平価の維持ということをうたっております。しかしこの点  については、デッド・ラインでありまする百八十億ドルというものをすでに割っておる。国際通貨基金にある四十億ドルというものを引き出さなければならないような事態にまで追い込まれてきている。このドルの危機等の問題、ドル防衛の問題というものは、今後の日本の、池田内閣の一枚看板にしておる経済の高度成長政策と関連がないと私は絶対に言えないと思う。それは、総理は本会議におきましても、三月末には手持ち外貨が二十億ドルをこえるだろうということを言われておる。日本の持っておる現在の十八億五千万ドルでありますか、そういうものを含めていわゆる自由主義国家群が持っておるところの短期のドル資金というものは、いみじくもアメリカが持っておる金保有高の百八十億ドルと大体同じような水準にあるのです。問題は従って外貨準備をドル貨で持っているか、あるいは金準備にかえるかというような問題も、私は総理はこういう問題については考えておらないはずはないと思うのです。この予算実行過程で問題が起こってきたら責任を持って運営に当たるというけれども、現に予算書が出すか出されないかという瞬間に、こういうような深刻な国際経済の動きというものが出てきておるのにかかわらず、予算編成の過程においてそういうことが何ら考慮されておらないというところに、私はこの予算の弱点というものがあり、盲点がある、こういうように申し上げておるのでありますが、この点に対する総理の御所信はいかがですか。
  41. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 今年度末二十億ドルというのは、保有しておる金も入れてのお話でございます。しこうしてアメリカのドル・セービングに対しましてのいろいろな措置は、常に関心を持って見ております。しこうしてその成り行きにつきましても、一応国際収支の点につきましては、十分考慮に入れてやっておるのであります。私は、アメリカが今リセッションの状態であるということはある程度認めます。しかし一九五七、八年ころとは、私はまだそこまでいっていない、ことにケネディの経済政策によりまして、私は相当積極的な場面が出てくることを期待し、予想いたしておるのであります。従いまして、国際情勢を十分考えてこの予算を作っておることを申し添えておきます。
  42. 田中織之進

    田中(織)委員 ケネディの政策によって若干の変化があるということについては総理もお認めになったわけでありますけれども、しかしそれは若干の変化で、対岸の火災視するわけにはいかないという問題が、私は、すでに外交問題とも関連をいたしまして、たとえば東南アジアを初めといたしまする後進地域に対するアメリカの援助の肩がわりが、西ドイツとともに非常な異常な成長を示しておる日本に現実にやはり肩がわりが求められてきておる。あなたたちの東南アジア外交というものは、ある意味から見れば、そういうものとの関係を切り離して考えるわけにはいかないという状態に私はきておると思うのであります。また施政方針その他の問題については、わずかに大蔵大臣の財政演説の中で触れられただけでありますけれども、貿易自由化の問題にいたしましても、総理の金科玉条としておる経済成長政策と深い関連を持ってくるわけでありまするけどれも、その点については、先ほども申し上げましたように、他の同僚諸君からあらためて追及をすることにいたしまして、私は、私の予定にいたしておりまする外交問題について質問を続行いたしたいと思います。  外交問題におきましてまず総理伺いたい点は、総理は、過般の施政演説の中におきまして、また昨日同僚田中伊三次君の質問に対しましても、いわゆる国連中心の外交を強力に進める、その意味において、国連外交の陣容の刷新というものについても考えていきたいということを述べられておるのであります。私、これは非常にけっこうな考え方だと思うのであります。しかし、総理考えておられる国連外交の刷新というものの基本的な考え方は一体どこにあるのか、この際伺っておきたいと思うのであります。
  43. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 国連加盟国がいわゆる連帯的考えで協調、世界の平和を確保する、こういうことが主でございます。そうしてまたそのもとをなしまするお互いの経済協力、経済援助、こういうことにつきましても、私は積極的にやっていきたいということであります。
  44. 田中織之進

    田中(織)委員 抽象的に言えばそのことに尽きるかもしれない。しかし、日本が国連に加盟して以来、日本の展開した国連外交というものは一体どうであったかということを、この際池田内閣としては反省をしなければ、国連外交について陣容のみならず、基本的な考え方というものを改めていくんだということにはならないと思うんです。その証拠には、日本が国連に加盟してから一番大きな問題として出て参りましたものは、私はやはり核実験の停止の問題だと思うのであります。世界において原爆、水爆の被害を受けた唯一の国として、核実験の禁止という問題においては、私は日本の国力のいかんにかかわらず、国連という平和を念願とする国際機構の舞台においては、少なくともこの問題については日本が主導的な立場をとってしかるべきものだと思うのであります。ここにくどくどしく私は申し上げませんけれども、従来松平大使を中心といたしまする国連代表というものが、幾たびかのこの核実験停止の、核兵器禁止の決議案の問題のときにとった態度というものは、はたして日本の自主的な立場を貫いておるかどうかという点、あるときはアメリカの言いなりになって、同じような内容のものがソ連から出されるということになれば、まあ頭からソ連案反対だ、実に原爆の唯一の被害国として日本がどういう態度を示すかということが世界から注目せられておったにもかかわらず、最もみっともない動きをしたのが、私は国連における核実験禁止の決議に対する日本の従来までの国連外交のあり方であったと思うのであります。後ほど触れまするけれども、日中関係の国交回復の問題が本年度における課題だということは総理も認められておる。ところが、少なくとも去年とその前の年の国連の総会における中華人民共和国の国連代表権の問題に対する日本の態度というものは一体何ということですか。日中関係は、総理も述べられたように、私は、日本と中国との間で処理すべき問題なんです。特にこの関係においては、日本がイニシアチブを発揮して解決すべき問題だと私は思うのであります。ところがこの問題に対する国連代表の動きというものは一体何というざまですか。そういうようなこと、あるいはまたコンゴの紛争の問題に対する国連のあり方に対する日本の動きというものには、直接的には関係はないとあるいけ言われるかもしれませんけれども、私は釈然としません。現在の国連も、コンゴ問題の処理に現われておる限りには、大きな問題があると思うんです。コンゴの正統政府であったルムンバ首相から国連軍の発動が求められて、それが国連で決定されたのであります。ところがいよいよその問題で出ました国連軍が、正統政府のルムンバ政府の軍隊がカタンガ州に入るときには、要請を受けて出動した国連軍がルムンバ政府の軍隊に対してカタンが州へ入れないということで抵抗してきている。そういう不明朗な動きをするからこそ、コンゴ問題が、この問題のためにたびたび安保理事会を招集してやらなければならぬし、現在獄にありますけれども、ハマーショルド事務総長が、獄屋につながれておるルムンバ首相と会って、あるいは国連軍の改組をやらなければならぬというような状態に置かれてきているということは、現在の国連のあり方というものは、総理が言われるような話し合いで、平和で世界の問題を持っていこうという本来の国連のあり方でないという一面が私は出てきておると思う。日本の国連外交というものは、そういうコンゴ問題の処理に現われてきておるようなこういう動きに対して、日本が自主的な立場で、これを正しい、われわれがほんとうに額面通り受け取っておるような世界の平和機構としての国連というあり方に引き戻すということの考え方が私は先に打ち立てられなければならないと思うのです。だから総理は、総理のお考えかどうかわかりませんけれども新聞の伝えたところによるというと、国連代表として国際文化会館の松本重治さんを交渉されたとかいうことが新聞に出ました。しかし松本重治氏はいみじくも言っておるじゃありませんか。問題は大使がだれが行くという問題じゃなくて、国連に行ってどういう外交をやるかという心がまえの問題が先決問題だということを松本さんが言って、断わられたということでありまするけれども、私が総理伺いたい点は、これから国連外交を刷新せられようということであれば、その基本的な心がまえをどこに置かれようとするのか、この際総理から伺いたいと思うのであります。
  45. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 昨年の国連総会の状況はお話のような点もありました。あるいは宣伝の場と化すというふうな言葉も使われたようでございますが、これは私はよくない。あくまでもやはり連帯性を持って協力して建設的な意見を戦わし、そうして世界の平和と繁栄をもたらすように導いていかなければならぬと考えておるのであります。従いまして過去の経験からかんがみ、私は国連に有力な人物を送ると同時に、世界の情勢を見ながら積極的な手を打っていきたいと考えております。
  46. 田中織之進

    田中(織)委員 もちろん国連に送る大使にりっぱな識見を持って、ほんとうに日本の各界各層の意見を十分にくみ取って強力な外交を展開できるような人を得るために努力せられることを、私も念願とするものでありますが、この国連外交を強化するという考え方の前提といたしまして、私はやはり日本の自主性というものを取り戻してもらいたいと思うのであります。総理が取り消されたことでありまするから、私はここで重ねて追及をしようとは思いませんけれども、中立政策の問題で、総理はまあ国みたいに中立政策はとらないのだということで、中立政策をとっておる国々をあたかも国であるというような侮べつをした態度をとられたと思う。しかしその点は総理がということを取り消されておるので、その点についてはその言葉じりをつかまえてどうこう言う考えはございません。しかし総理の心底には、先ほど経済問題で申し上げましたように、世界に類例のない経済成長を示しておる。その点から見てやはり日本が国際的にも相当な実力を持った大国だという自負心というものがおありだろうと思う。私はそれはあって決して悪いことではないと思う。しかし、その自負心というものがほんとうの意味において正しく生かされていくためには、私はやはりアメリカとの結びつきが従来歴史的に深いからというて、あたかもアメリカの代弁者のような動きを国連でするというようなことではならないと思うのです。ほんとうに自主性を持った大国だという自負心を持って進むべきではないかと思うのでありますが、この点に対する総理のお考え伺いたいと思います。
  47. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、日本は外交を自主的にやっていっておるし、また今後も自主的にやっていく覚悟でございます。
  48. 田中織之進

    田中(織)委員 総理は口ではそう言われまするけれども、次にお伺いをいたします日中関係の問題について、昨日もこの委員会において、あるいは本会議においてどういうことを言われたか。与えられた条件のもとにおいて可能な範囲でということ、これは一体どういうことなんですか。私は、ここに日本の自主的な立場に立って日中問題を処理していく、国際問題を処理していくという気魄というか心がまえというものが欠けておると思うのです。そこでそういう考え方では私はどうにもならないと思うのでありまするが、具体的に総理伺いまするが、たまたまきのう日中関係の問題で、一昨日外務委員会で小坂外相がわが党の穗積七郎議員に答えた、いわゆる中華人民共和国の対日三原則を認めるという発言を田中伊三次君が取り上げまして、速記録をよく見てみないとわかりませんけれども、いささか外務委員会の発言と後退したような発言を小坂君がこの委員会でやられたように私は伺っておるのでありまするが、基本的な問題として私伺いますが、日本と中華人民共和国との間には一体戦争状態が終わっているのですか、どうですか。
  49. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 速記録をよくごらんいただきますと非常に明瞭になると思いますが、私の外務委員会における発言において、認めるというときに、三原則という言葉を使っておりません。認めますると同時にああした敵視政策なんというものをとった覚えはないのだということを申し上げているのであります。  さらに、この中華人民共和国との関係についてでありまするが、われわれは講和条約を締結いたしまする際に、これは中華民国との間に平和条約の第一条によってこれを結んでおるのでありまして、中華人民共和国というものはその後においてできたものでございます。なお先般の、ただいま御質問にありましたここに援用されておりまするわれわれの考え方というのは、そうした平和条約の際の第一条で中華民国との間に結んでおり、さらに賠償につきましては、これの付属書において放棄をされておるという関係を申し上げたのでございます。しかしこれは法律的な立場でそう申し上げておるので、その当時の総理答弁にもありましたように、政治的と申しますか、道義的と申しますか、そういうことについての考えを言っているのではないということがついておったのであります。
  50. 田中織之進

    田中(織)委員 それは小坂外務大臣、大きく違っておると私は思うのであります。この点につきましては、解散前の三十六国会におきまして、予算委員会において、同僚の成田君から総理質問をいたしたのに対して、総理は、「日本は蒋介石政権と戦ったことになっておるのでございます。しこうして、その相手方の蒋介石政権と講和条約を結んだので、法律的には一応これで済んだと考えております。」と言われておるのでありますが、私はこれは間違いだと思うのです。今小坂外務大臣は、対日講和条約以後に中華人民共和国ができたようなことを言われますけれども、これが第一根本的に間違っています。中華人民共和国ができたのは一九四九年なのです。しかも蒋介石が台湾へ出て行ったというのも一九四九年なのです。サンフランシスコ条約は御承知のように一九五二年のはずなのです。従って総理が、サンフランシスコ講和条約によって中国との間の戦争状態は済んでいるのだと言うことも間違いであるし、ことに今小坂外務大臣が言われたように、サンフランシスコ条約からあとで中華人民共和国ができたのだからということでサンフランシスコ条約を引き合いに出したのでは、日中関係の正しい解決のために、前提が私は間違ってくることになると思うので、その点について伺いたい。
  51. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私の言葉が足りなかったためにさような御質問になったことと思いますが、戦争をし、講和をし、そして講和条約というものを締結するこの段階におきまして、戦争をした相手、また講和をした当時、その後において中華人民共和国というものができたということを申し上げた意味でございまして、これは私の言葉が足りなかったので、誤解があれば訂正いたします。お話しのように、四九年に中華人民共和国というものができ、五二年に講和条約ができておる、こういうことはもとより承知の上で言っておることであります。
  52. 田中織之進

    田中(織)委員 その点外務大臣、どうしても理屈が合わないじゃありませんか。それでありますから、日中関係の問題について、あなた方はたとえば改善をされるんだ、あるいはきのうも議論になったように、二つの中国という陰謀に加担したことはないということを言われまするけれども、問題は、現在中華人民共和国との間に戦争関係が終結しているかどうか、このことについての認識が、日中関係を今後どう持っていくかということの基本的な問題なんですから、この点について重ねてお考えをお尋ねいたしたい。この点は一つ総理からお答え願いたい。
  53. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 ただいま外務大臣の答えました通りに、私は法律的には一応戦争は終結したと考えております。ただ事実問題としまして、中華人民共和国ができております。そこで戦争状態があるかないかということにつきましては議論がありましょう。わが政府といたしましては、戦争状態にはないと私は考えております。
  54. 田中織之進

    田中(織)委員 それは私、根本的に間違っておると思うのであります。サンフランシスコ講和条約ができるときに、これはいわゆる中華民国と称する台湾政府も参加しておらないのです。従って日華条約というものは、サンフランシスコ条約以後に締結をされたのであります。しかもそのときには、中華人民共和国というものができて、いわゆる中国の内政問題としては、かつての中華民国政府責任者であった蒋介石が、サンフランシスコ条約で日本が放棄したところの台湾に立てこもったという事実関係はあります。しかし、それが中華民国の正統政府であるということについては、国際法的にもこれは何らの権威のない問題であるというところに、全くアメリカの極東に対する戦略的な関係から台湾との間のいわゆる日華条約というものを締結したところに、日本の日中外交における根本的な誤りがあると私ども考えておるのであります。その点から見て、総理が今お答えになったように、この日華条約によりまして日本と中国との間の戦争状態というものは法律的には解消しておるのだ、しかし事実問題として広大な大陸に現在政権を打ち立てておる、これを統治しておる中華人民共和国との間に何らの国交もないし、従って戦争関係というものが終結しておらないということは、事実関係としてあるのだということとは私は違うと思うのであります。法律的に日本と中国との間の戦争状態が終結しておるという根拠を、一つ国際法に基づいてお示しをいただきたいと思う。
  55. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 お答えを申し上げます。  日本は中華民国との間に交戦をいたしまして、中華民国との間に降伏をいたして、しこうしてこれに基づきまして中華民国との間に講和条約を結んだということであります。
  56. 田中織之進

    田中(織)委員 外務大臣、その点は一昨日の外務委員会においても、わが党の穗積委員からあなたに質問をしたはずでしょう。台湾、澎湖島は、サンフランシスコ条約では日本が放棄しています。しかし、その帰属はいずれともはっきりしておらないのです。そうじゃございませんか。それだから、あなたは、一体その帰属はどうしているのだということについては、外務委員会ではお答えになっておらないはずじゃありませんか。日本がサンフランシスコ条約で放棄したものに、たまたま中国の内戦と申しますか、南京にあった蒋介石の政府がここへ移った。しかもそれは国際法上にいわゆる亡命政府だということについても議論があるということは、外務大臣は御承知のはずなんです。私はやはりこの問題が日中関係の基本的な問題だから、明確にしていただきたいと思う。
  57. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 田中委員承知のように、講和条約の第二条(b)項によって、日本は台湾並びに澎湖島に関する権利、権原、請求権の一切を放棄しておるわけであります。従って、われわれとしてはこれの帰属云々に対して何ら発言権はないわけであります。しこうして先ほど申し上げた通り、われわれが交戦いたしましたのは中華民国であります。そうして中華民国との間に降伏をいたし、しこうしてこれに伴って講和条約というものが中華民国との間にできておるということだけであります。
  58. 田中織之進

    田中(織)委員 そこで伺いますが、そうすると日華条約の適用範囲というものは一体どの範囲なんですか。
  59. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これはその支配権の及んでいく範囲ということになっておりまして、いわゆる領土条項というものはないような関係になっております。
  60. 田中織之進

    田中(織)委員 それは私ちょっと理解できないのです。日華条約には領土条項というものがありませんから、現実に支配権の及んでいる範囲と一般的に考えられるというだけでは、私はこれはいけないと思うのです。一般的に領土権というか支配権の及んでいる地域だということになれば、台湾と澎湖島だけだということになるわけです。従って問題は、中華民国との間に交戦をしたんだし、中華民国との間に講和条約を結んだという、しかしその中華民国というものが、中国内部の事情で、日本は放棄してどこの帰属かもわからぬものに現在住みついているからといって、中華民国が中国の正統政府だという根拠は、国際法的にはないと私は思う。従って、日華条約がかりに有効なものだといたしまして、それの及ぶ範囲というものが一体どこになるのか。この点は従来からも議論されて、私はそんな不明確な答弁をした歴代の外務大臣も歴代内閣もないと思うのです。明確にお答えを願いたいと思います。
  61. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 明確にお答えを申し上げておるつもりでございますが、日本と中国との間の考え方は、中華民国に対して交戦した関係上、その降伏並びに講和条約というものも、それに対してする、国としての法律関係はさようなことでございます。しかし、その実質的な経済問題その他が及ぶ範囲はどこであるかということになりますと、いろいろな御議論が出るということになると思いますが、私は、国と国との平和条約を結んだ関係について申し上げておる次第であります。
  62. 田中織之進

    田中(織)委員 考えてみても、日本が放棄してどこの帰属であるかわからぬところへ、あき巣ねらいみたいというたら言葉は適切でないかもしらぬが、入り込んだものを相手に条約を結んでその条約がいわば有効だという考え方の上に立っての議論のように伺うのでありまして、それは私はなっておらないと思うのです。そういうことになると、これから私が伺おうとするラオス問題におきましても、あるいはあなた方がこれから開始しようとする日韓会談におきましても、やはり現在非常に困難な、しかも解決しなければならぬ問題として残っておるように、日中間の問題と同じような事態を繰り返すととになると私は思うので、その点は、もう少し外務当局としても整理した考え方の上に立って答弁をしてもらわないと、質問を続けていこうにも続けていかれないじゃないですか。
  63. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 どの政府を相手国として、どういう問題について交渉をするかということについてのお考えだと思いますが、中華民国に関する関係は、中華民国に対する講和条約によってできておる、こういうことでございまして、具体的にこの問題はどうかということでございますれば、またお答えのしようがあると思いますが、ただいまの御質問に対してのお答えとしては、そういうことになろうかと思います。
  64. 田中織之進

    田中(織)委員 これは非常に重要な問題だと思うのです。そうすると、台湾は現在はどこに帰属しております
  65. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 御承知のように、台湾に関しましては講和条約第二条(b)項によってわが国がその権利、権原の一切を放棄しておるわけであります。その帰属についてはあらためて協議するということになっておりまして、いずれの帰属ともきまっていないというのが国際法上の解釈のようであります。
  66. 田中織之進

    田中(織)委員 そうすると、あなた方が条約を結んだという中華民国政府というのは、一体どこにあるのですか。また中華民国政府の領土というのは一体どこなんですか。
  67. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 中華民国政府の領土は中国であるのでありますが、その支配権がそこに及んでいない、事実上の問題として及んでいない、かようなことがあると思います。
  68. 田中織之進

    田中(織)委員 それは私は非常に重要な答弁だと思うのであります。中国大陸ではあるけれども、支配権が及んでいない。台湾は日本が放棄しておるけれども、帰属はあらためて、どこで相談するかこれも明確ではありませんが、国際会議によってきめるのだということになると、国際法上にいう亡命政府とかいうものが、ちょうど第二次大戦のときにポーランドなどがロンドンに亡命政府としてありましたね。そういうものというわけには、中華人民共和国との関係で言えないと思うのですが、あなた方の考え方は、そういう亡命政府的なものとの間で条約を結んだということになるのですか。その点はいかがですか。
  69. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 さようなふうな解釈はいたしておりませんけれども、法律関係でございますから、専門の事務当局から……。
  70. 中川融

    ○中川政府委員 中華民国政府は亡命政府ではないのでありまして、現に若干ではございますが、大陸沿岸の島嶼を固有の領土として持っておるのであります。従って亡命政府とは考えておりません。
  71. 田中織之進

    田中(織)委員 それは私は全く詭弁だと思う。従って、この点は総理にお伺いいたしますが、あなたもサンフランシスコ条約のときの全権代表の一人だったわけです。その意味で、今台湾、澎湖島は帰属ははっきりしないし、大陸沿岸に若干の島嶼を持っておる、それを相手に広大な中国との間の戦争状態が終結した、そんな政府なり外交当局というものは、私は世界のどこにもないと思うのです。それだから、この点は総理から明確にお答え願いたいと思う。
  72. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は先ほどお答えした通り、中華民国と戦い、そして中華民国その他の連合国に放棄いたしました。戦争終結したのでございます。その後中華民国を中国の代表として平和条約を結んだのであります。中華民国は厳然として存するものと心得ております。従いまして、中国本土が今中華民国の支配に属していなくとも、建前は台湾、澎湖島その他力の及ぶところということで、観念上言っておるのであります。私は、今の日本政府の立場としては、こう答えるほかにございません。
  73. 田中織之進

    田中(織)委員 お聞きの通りですが、この問題はきわめて重要な問題だと思うのです。総理答弁では納得するわけに参らないと思う。従って、日華条約の中で条約を結んだ以上、その条約の効力の及ぶ範囲が明確でない、そういうばかなことはないじゃないですか。
  74. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 詳しくは事務当局より答弁させますが、あの条約におきましても、現に支配し、将来支配すべき地域、こうなっておるのであります。詳しくは事務当局より……。
  75. 林修三

    ○林(修)政府委員 御承知通りに、日本政府は中華民国政府との間に平和条約を結んだわけでございます。この場合においては、当然に中華民国政府日本としては中国の正統政府として相手としたわけでございます。従いまして、この条約において戦争が終結したということは、やはり中国というものを考えて、その中国を代表する政府との間に条約を結んだわけでございますから、中国との間に法的な関係では戦争状態は終結している、かように考えるわけでございます。しかし同時に、この条約においては、御承知通りに、あれは議定書でございましたか、交換公文でございましたか、この条約の適用する地域については、現に中華民国政府が支配し、将来支配が及ぶ地域にするということが書いてございます。この意味は、今申しました戦争状態の終結ということは国対国の関係でございますから、そういう地域によって限定される問題ではない。しかしそのほかの、たとえば財産権の問題とか、その他地域的に問題が出てくるような問題については、今も申し上げました議定書でございましたか、あるいは交換公文でございましたか、形式は今ここでちょっとはっきり記憶しておりませんけれども、そこでその地域を限定しております。その地域に及ぶ。つまり中華民国政府が現に支配し、または将来支配する地域に限定される、そういうことがはっきり書いてあるわけでございます。
  76. 田中織之進

    田中(織)委員 法制局長官はいつも一応筋の通ったことを言うのですけれども、今の答弁は、日ごろの林長官らしくもない、混乱した答弁で、答弁にはなりません。そういうことになると、先ほどお答えになった台湾、澎湖島は日本が放棄したんだが、帰属はまだはっきりしてない。——今林長官なり、その前に総理がお答えになった、中華民国政府が現に支配する地域という中には、台湾、澎湖島は入るのですか。国際的に帰属のはっきりしていないところに入り込んだ者が事実上支配すれば、国際的な条約として認められる。また従来の関係から見て、中華民国が国連に代表権を持っておるというような関係においても、あなたたちが今お答えになっていることよりも、もっと明確な筋が通っていると私は思うのですが、あなたたちの答弁では、まるきりあき巣ねらいのような形に入り込んだ者が、これはおれの領土だ、事実上おれが支配しているじゃないかという形で外国との間に条約を結んでも、それがものをいうのだということになっていいのですか。
  77. 中川融

    ○中川政府委員 ただいま御指摘のように、日華平和条約というものは、ある意味では異例な条約であるということができると思うのでございます。元来であれば、条約が適用される地域は、その国の領土であるべきでございます。もちろんこの日華平和条約は領土にも適用するのでございますが、現実の問題として、中華民国が台湾及び澎湖島におる、これは必ずしも領土権が完全に中華民国に属したという国際的な法律関係はまだできておりませんけれども、御承知のようにカイロ宣言におきましては、台湾及び澎湖島は中華民国に属すべきものであるということが、その後のイギリス、アメリカ、中華民国三国間で約束されて、これが世界に宣明されておるわけでございます。その後日本の敗戦を大体予測いたしまして連合国が集まりましたポツダム宣言におきましても、このカイロ宣言の条項は日本が受諾しなければならないということを規定しておるわけでございます。その後、敗戦の際に日本はこのポツダム宣言を受諾したのでありまして、従って大体の予測といたしましては、台湾及び澎湖島が、平和条約ができれば中華民国に属することになるということは予測されたのでありますが、現実の問題としては、桑港平和条約にはこれがはっきり中華民国に属するという規定にはならなかったのでございます。従って、日華平和条約を作ります際にはっきりこれが法律的にも中華民国に帰属したという形でこの協定を作ることができなかったわけでございまして、従ってこの交換公文によりまして、適用地域は現に中華民国の支配下にあり、または将来支配下に入る領域にすべて適用になるものであるという了解を結んだわけでございます。従って大体領土に準じた地域ということはできるのでありますが、正確に申せば、まだ領土権がはっきりしない地域についてもこの協定は適用があるということになっているわけでございます。
  78. 田中織之進

    田中(織)委員 中川政府委員の御答弁をお聞きしておっても、中華民国が正統政府だ、こういうことには私ならないと思うのです。その意味で、日華条約そのものは、中川さんがお認めになったように、これは通常の一国間の条約として見るのには、きわめて私は問題のあるものだと思うのです。カイロ宣言をポツダム宣言が受けているし、ポツダム宣言がサンフランシスコ条約で認められた。これは日本がポツダム宣言を受諾しておるのであるから、カイロ宣言で日本は拘束される、こういうようなところへ論法を持っていこうとされるのだと思うのですけれども、現に国際的に帰属がはっきりしないものに、だまって入り込んでおるものを相手に——ここから、中国側が言うところの、二つの中国を作る陰謀に日本が加担しないことということの要求が出てきているのだと私は思うのです。これは明らかにあなたたちは、二つの中国という考え方で、加担していることになるのじゃないですか。小坂外務大臣が、昨日の本委員会における田中伊三次委員質問に対してお答えになった点で、私がやはり一番気になる、あなたの外務委員会における答弁と、その意味からみれば食言しているんじゃないかと考えられる点はここなんです。従って、この問題が明確にならない限りは、日中関係政府が打開しようとされても、その根底が成り立たないということになるのですから、この点については、総理から一つ明確にお答えを願いたいと思う。
  79. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 中華民国に対しましては、先ほど来申し上げましたごとく、われわれは戦争の相手として戦争し、そうしてそれに向かって降伏し、その後におきましても、国連では中華民国を正統政府として認めておるのであります。今の田中さんの問題は、二つの中国という問題で、どちらを中国の正統政府と見るかという問題にからんでくると思います。従って私は、ただいまのところは中華人民共和国というものを認めておりませんので、政府が今まで中華民国との講和条約というものを結んだ関係上、私は法的には戦争は終結したものと見ております。二つの中国という問題は、私は、ただいまのところ中華人民共和国というものを認めておりませんので、中国を代表するものは中華民国として取り扱っておるのであります。
  80. 田中織之進

    田中(織)委員 総理のせっかくの答弁でありますけれども、先ほど来の答弁から推しますると、中華民国というものは、いわゆる固有の領土を持たないところの幽霊的な存在なんです。その点は、国際法的に見ても、一九四九年に中華人民共和国ができたときに、やはり亡命政権だとか、あるいは地方政権だとかいうような形で、中華民国というものは認めていないのです。従って、これは中国内部における国内問題なんです。私はそういう考え方の上に立たない限りは、今日の日中関係の打開ということにはならないと思う。現実に、先ほど中川さんもお認めになったように、総理もお認めになったように、実はこれはわけのわからぬ、実に奇々怪々たる条約なんです。日華条約なんというものは、日本はほんとうは結ばなければならぬという理由もなければ、そういう必要もないものなんです。これは、当時朝鮮戦争が起こって、その朝鮮戦争の一つの処理の問題と関連した形で、サンフランシスコ講和条約というものが結ばれたときに、サンフランシスコ条約のほんとうにわけのわからぬ子供として、日華条約というものができたものだと私は思う。しかし、現実にそれがあることについては、私どもも否定はいたしません。日華条約というものはわけのわからぬ条約だけれども国会で多数で通っておるという事実は、これは否定しないのです。しかし、現実問題として、先ほど総理も認められたように、広大なる大陸に六億五千万の民衆を統治しているところの中華人民共和国というものがあって、その関係においては、日本は外交関係も何もないわけでしょう。その事実は、あなたたちはお認めになるでしょう。いかがですか。
  81. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 中華民国がヌエ的存在であるとかいうお話でございますが、われわれは中華民国は国際法上存在している国と心得ておるのであります。従いまして、国連にも入って、そして相当の地位を持っておる。これはヌエ的存在であるとは申しません。そして、先ほど申し上げましたように、中華人民共和国というものは現実にはございます。しかし、わが国はそれとはただいまのところ国交を結んでいない。どちらを正統政府にするかという問題につきましては、議論がございましょう。私は、日本としては中華民国を中国の代表として戦争を終結したものと心得ておる、これでいっております。あなた方は、中国を認めるべきである、あるいはまた中華人民共和国と戦争状態にあるのだ、そういう御主張でございますが、政府としては、一応戦争状態が済んでおると考えております。あなた方が、あくまでも戦争しておるのだとお考えになれば、それは御意見として聞きますが、日本政府としては、はっきり戦争は終結したものと考えております。
  82. 田中織之進

    田中(織)委員 それは総理、私は根本的に間違っておると思うのです。日華条約というものの存在は、私も事実問題として否定はしないと言うのです。しかし、広大なる大陸にある中華人民共和国との間には、戦争状態も終結しておらなければ、現在国交もないのです。従って、日中関係を打開するということは、やはりこのことから私は出発しなければならないということを言っておる。その事実の上に立たない限りは、総理が、日中関係はことし打開すると言われるように、また財界の非常に大きな部分が、ドル防衛の問題あるいは輸出攻勢というようなものの前に、経済的な関係から、日中関係の打開あるいは貿易の再開というものを望む声が非常に強くなってきている。しかし中国側との間に、やはり国交回復をするという出発点に立たない限りは、日本が経済的に必要だから貿易を再開したいと幾ら話をしても、私はそれはできない前提があるのだと思う。その問題が、一昨日私どもの方の穂積君から伺いましたいわゆる中国側が言う対日三原則に対する日本政府考え方というものと一致してくると私は思うのです。従って、日華条約があって、台湾との関係の問題は現実にあることは考えますけれども、問題は、やはり広大なる大陸に六億五千万の民衆を統治しておる中華人民共和国との間に国交を回復する、そうしなければ日本の将来の平和の問題——私はもうほかの問題に移りますから、多くを日中関係に触れませんけれども、たとえば今世界的な懸案になっている軍縮の問題、あるいは先ほど私が申し上げました核兵器の禁止というような問題に、この広大な中華人民共和国というものを国連の外に置いておいたのでは、これはほんとうの意味における世界平和というものが達成されないというところに、アメリカ自体の対中国政策というものが大きく転換しようとするような情勢を総理自身が認められるから、本会議における施政演説の中でこの問題を取り上げられたのとは違いますか。その点はいかがですか。
  83. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほどから非常に議論になっているようにむずかしい問題なんでございます。中華民国というものも十数カ国が正式に認めておりますし、そして国連の有力な一員の立場を持っております。そしてまた現実の問題としては中華人民共和国という政府がございます。この政府をどうするかというところにつきまして、やはり自由国家群のうちにおきましても認めておる国もありますし、認めていない国もあります。だからこれは簡単にいく問題じゃない。ことに中共と日本とだけの問題でなしに、国際的に非常に厄介な問題がございますが、これを今の情勢としてはほうっておくわけにいかぬだろう、ことに隣国の日本としては、これは前向きに考えなければならぬというのが私の施政演説で、大体田中さんもおわかりいただいておると思うのであります。
  84. 田中織之進

    田中(織)委員 日本がまだ中華人民共和国を承認しておらないということはその通りであります。しかし問題は、そういう状態をいつまでも一衣帯水の日本としてほっておくわけにはいかぬからこれに取り組まなければいかぬ、その取り組む出発点をどこに置くかということが、その問題に取り組む場合に非常に重要なので、私はその点についての総理のお考えを伺ったのでありまするが、残念ながらそういうことではやはり日中関係を、中華人民共和国との国交回復の問題を軌道に乗せるということにはなかなか進まないと私は思う。しかしきのうも田中伊三次委員も述べられたように、総理がこの国会が終わりますればアメリカへ行かれる、あるいはヨーロッパも回られるのかもしれませんが、そういうときには、ことしこそやはり日中問題というよりも中国問題を国際舞台において解決する年たらしめるように、一番関係の深い日本がイニシアチブをとって、そういう世界的な世論を作ることを今度の総理の渡米なりあるいは外遊なりの一つテーマにしたらどうか、というきわめて適切な提案がなされておる、総理賛成されておったようであります。またきょうは帰られるとかいうことでありますけれども自民党の中でも高碕達之助氏——ケネディ政権の中国政策というものがどう変わるかということが、日本にとって経済界においても非常に重要な問題だということで、新政権の対中国政策というものの打診が、高碕氏の渡米の目的であったように私は伺っておるのであります。あなたたちの党の中にもその意味において単なる貿易再開というような問題でなしに、日中間の正しい国交関係を打ち立てるために動かなければならぬという動きが出てきておる点は、私ども非常に敬意を表している点でありまするから、その点についてはきょうの答弁をもっと整理されまして、私は明確な日中関係打開の出発点というものをきめていただきたいことを希望いたします。  次に私は日韓関係についてお伺いをいたしたいと思うのでございます。政府は近く日韓会談を再開される、すでに法的な地位の問題等について予備会談が行なわれておる、こういうことでございますが、この日韓会談の再開に臨む政府の基本的な方針は一体どういうところにあるのでありますか。池田内閣といたしましては第一次池田内閣成立早々、九月に小坂外務大臣は第二次大戦以後、日韓関係が現在のような状態に置かれてから初めて、歴代内閣もやらなかった外務大臣という責任ある立場の人が韓国を訪問する、この韓国訪問については与党の中にもいろいろ意見があったようでありますけれども、私は行かれたということはそれ相当の意義があったものだと思うのであります。そういうふうに力を入れられておるわけでありますが、この日韓会談に臨む政府の基本的な方針というものはどこにあるのか、これは総理からお答えを願いたいと思います。
  85. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 昨年張勉新政府ができまして、私はいい機会だ、韓国との問題をこの際懸案を一掃いたしたいという念願から外務大臣をして向こうと交渉させましたところ、外務大臣おいでになったらどうかというので外務大臣を行かしたわけであります。その後の日韓関係の問題につきましては外務大臣よりお答えいたさせます。
  86. 田中織之進

    田中(織)委員 李承晩政権が倒れまして、新しい親日的といわれる張勉政権ができて、韓国側においても日本との関係を打開しようという動きが出たことに対して、日本側が対応せられるということは、相手からそういう持ちかけがありますならば、私は応じないわけにはいかないと思うのであります。しかし朝鮮における現状というものは、必ずしも日韓会談が再開をされて一挙に日韓両国の国交回復の問題に突き進むというような情勢ではないと私は思う。  御承知のように第二次大戦以後朝鮮が三十八度線で南北に分かれて、現実に三十八度線以北に朝鮮人民共和国が存在することは、これは否定できないと思う。そこで総理がお答えになりましたように、張勉政権ができてから対日関係を打開しようという動きと並行いたしまして、私は韓国の中に南北朝鮮の統一なり、あるいは協力とかいうようなことについて動きがあることは、これは事実だと思う。そういうやさきに日本が三十八度線以南の韓国との間に国交回復にまで突き進んでいくことだと私は思うのでありますが、会談を再開するということがはたして朝鮮の統一ということを——われわれは朝鮮民族の悲願を隣国としてぜひ達成させたい、そういう考え方の上に立つならば考慮しなければならぬ問題ではないかと思うのでありますが、その点をも考慮に入れた上で日韓会談というものを再開せられる所存であるか、あわせてお答えを願いたいと思う。
  87. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 日韓会談につきまして、ただいま田中委員がお述べになりましたような気持は私どもにもございます。しかしこれは現実にある韓国と日本との間の関係をよくするということは、これまた非常に切実なわれわれの気持でもございます。そういう考えをもちまして交渉をいたしております。御承知のように国連の一九四八年の決議によりまして、国連の監視下において全朝鮮下の統一選挙を行なうという勧告がなされておりまして、この国連監視下の選挙を行なったのは現在の韓国政府のみであるのでございますが、なおそうしたことが全朝鮮について行なわれて統一されるということは非常にけっこうだと思います。また北の方ではその監視下でない自由な選挙を行ないたいというようなことがございまして、なかなかその間に早急な解決が見らるべしとも思われないような見方もあるわけであります。御参考までに申し上げておきます。
  88. 田中織之進

    田中(織)委員 一九四八年の国連決議の存在は私も承知しております。しかし、これについては、いろいろなやはり問題があることは、今小坂外務大臣も述べられた通りであります。確かに選挙をやったのは韓国だけであります。だからといって、三十八度線以南にしか支配権を持っておらない韓国が全朝鮮にわたる正統政府であるということには私はならないと思うのであります。これは後の問題にも関連をするのでありますが、その点、韓国を政府は全朝鮮にわたる正統政府だとお考えになっているというような、そういうことは私はないだろうと思うのでありますが、念のために伺っておきたいと思います。
  89. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 今申し上げました国連決議の趣旨においての正統政府である、こういうことでございまして、現実の問題として、三十八度線から北にそうした、国連ではこれは当局、オーソリティスという言葉を使っておりますが、そうしたものがあるということを頭に入れて交渉いたしたいと思っております。
  90. 田中織之進

    田中(織)委員 国連決議の意味に長ける正統政府という場合に、たしか国連決議にあるように、国連の監視下に選挙は行なった、北鮮の方が選挙をやらなかった、その意味で、選挙をやった方が正統政府だとにわかに判断をするわけにはいかないというところに私が先ほど申し上げた一九四八年の国連決議に問題点があるという点はその点でありまするが、この点は後ほど具体的に伺います。それでは、再開しようとする会談に臨む日本側の基本的な方針というものは一体どこにあるのか。
  91. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 基本的な方針とおっしゃいますと、ちょっとなんでございますが、現在問題になっておりますのは、請求権の問題、それから法的地位の問題、さらに漁業の問題という三つがあるわけでございます。その請求権の問題に一般的な請求権、それから船舶の問題、文化財の問題というふうに分かれておるわけでございますが、基本的とおっしゃいますと、要するにその現実の支配権の及ぶところ以外も含めて解決しようという意味かともうかがえるのでございますが、現実の支配権の及ぶ範囲は、限定されておるということを頭に入れて交渉しているわけであります。
  92. 田中織之進

    田中(織)委員 具体的にどういうことを会談で取り上げるかという意味で、今の外務大臣の答弁でその点は明らかになったわけでございます。そこで、私は、その具体的な特に請求権の問題等について、これから質問に入りたいのでありまするが、その前にもう一点伺っておきたいのは、先ほどの台湾と中華人民共和国との関係と同じことでありまするが、かりに今度の会談が成功して、日本と韓国との間の国交が回復するということになった場合、三十八度線以北の、あなたが言われるオーソリティがあるという北鮮の部分は一体どういうことになるのですか。これは下手をすると、ベトナム賠償の問題のときのように、あるいは先ほど私が申し上げたような関係の問題を引き起こすということになると思うのです。その意味から、日韓関係の当面しているそういう問題はありましょうけれども、開催する時期としては私は適当ではないのではないか、このような考えを持っておるものでありまするが、その点に対する見通しはいかがですか。
  93. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 北方の問題につきましては、現在と別に変わりません。三十八度線以北の問題は現在と変わらぬことになろうかと思います。その意味は、おそらく、今ベトナム賠償と仰せられましたからその関連で言われるのだろうと思いますが、たとえば請求権の問題にしましても、これは現実にその支配権の及んでいない地域に対する請求権というものは含まれるべくもないわけであります。ベトナム賠償のごとき場合とは少し違ってくると思います。ただ、全体の見通しでございますが、われわれは、李承晩ラインというものを中心にいたしまして一衣帯水の間柄であるわれわれの国との間に常に不幸な事態が起きておる。しかもその公海上に排他的な線を引くというようなことは国際法上不当なことであると考えているのでありますが、そうした問題をやはり友好裏に解決して参りたいというのが日韓会談のわれわれの気持であります。しかし、残念なことには、見通しの問題と仰せられますと、本朝の新聞に出ておりますが、新聞の報道でございますから私ども確認したわけではございませんが、韓国の民議院におきまして、こうした問題は解決ができない。さらに請求権の問題についても、非常に苦痛を受けたということまでも請求権の対象として考えられなければならないというような決議を行なったようでございまして、こうした前提に立って交渉するということになりますと、私は、交渉の見通しというものは非常に困難なものになるではないかというように見ております。
  94. 田中織之進

    田中(織)委員 そこで、具体的な点に質問を進めます。再開せられる日韓会談においては、財産請求権の問題が一つの中心的な議題である、こういうことでありますが、一月二十七日の各新聞に、特に読売新聞によりますと、この議題になる請求権の問題に関連いたしまして、韓国側が日本に主張しておる一般財産請求権が、財産権六億ドル、船舶二万トンであるということを外務省の伊関アジア局長自民党の外交調査会で報告をされた、こういう報道がなされておるのでありますが、これは韓国側からそういう要求が出ておるのでありましょうか、どうでしょうか。
  95. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 さような事実はございません。伊関局長が自民党の外交調査会へ参りましてお話をしたことも、さようなことではないようでございまして、いろいろの話がいろいろ先方の新聞等にも出ておるという御紹介をした程度のことのようでありますが、われわれは正式に何らそうした話を聞いておりません。もちろんわれわれは、さようなことは言っておりません。
  96. 田中織之進

    田中(織)委員 韓国側は、とても六億ドルやそこらの少額のものではない、船舶も、昭和二十年八月十五日現在朝鮮海域にあった船は、全部おれの方へ引き渡せということを言っておるということを、私も聞いておるのでありますけれども、その問題は、日韓会談が再開せられるという場合に中心議題で、韓国側がどういう主張をされるかということは、日本の朝野あげて注目をしている点です。そういうときに、天下の読売新聞が、しかも説明された場所として自民党の外交調査会だ、こういうことだとすれば、この新聞の報道に国民が相当の信頼感を持っておると私は思うのです。こういうようなことが、韓国側がこれでは満足しておらないからよいようなものだといっては語弊があるかもしれませんけれども、数字が出ることは、今後の日韓会談に対して、私は一つの予見を与えるような結果になると思うのであります。伊関局長、そこにおられるようでありますが、こういうことを自民党の外交調査会等で報告した事実は全然ないのですか。ないとすれば、私はやはり新聞に対して訂正をしておかなければ、これは問題になることだと思うのでありますが、その点重ねて伺っておきたいのです。次の質問関係で。
  97. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私が申し上げたように、はっきりないのでありますが、本人から、もし御必要があればお答えいたさせます。いかがですか。
  98. 田中織之進

    田中(織)委員 外務大臣が本人の目の前で、そういうことを言うたことがないということであれば、外務大臣のその答弁を信用いたしますが、もしそういう事情であればこういうような報道は影響するところが大きいのでありまするから、外務省としてはさっそく読売新聞と話し合って、何か正しいことをやっておいてもらわないことには、私は影響するところが大きいと思います。注意をしておきます。  そこで韓国側が請求権を持ち出してくることは金額は別として必然的なことでありまするが、その場合に、日本としてこれに対してどういう態度で臨みますか。もっと具体的に伺いますと、昭和三十二年の十二月三十一日に、日韓会談が途絶していたものを再開するということについて日韓双方で共同声明を出しました。その共同声明で、この財産請求権の問題について日本側の請求権の放棄をうたって、会談再開への合意に達したことが共同声明に出ておりますが、この線を出発点として会談に臨まれるのかどうか、こういう意味です。
  99. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 おおむねさようなことでございますが、念のため申し上げますと、平和条約の第四条(b)項におきまして「合衆国軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。」という項がございます。なお同条約の(a)においてこれは考慮さるべきであるとの米側の解釈があるのでございます。そうした基本的な態度で臨むわけであります。
  100. 田中織之進

    田中(織)委員 外務大臣きわめて事もなげに言われるのでありまするが、私は一九五七年十二月三十一日の共同発表というものは非常に重要な問題を含んでおると思うのです。いわゆる久保田発言を撤回して日本の財産請求権を放棄したということなんでありますが、その根拠は一体何に基づいておりますか。
  101. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ただいま申し上げましたように平和条約第四条(b)項でございます。ただ念のため申し上げておきますると、今申し上げましたようにそれはするが、一方において放棄したという事実は考慮するべきである。アメリカ政府によってこれは放棄したということをこちらは認めたわけだけれども、その放棄したという事実は考慮されるべきである、こういうこともまた一方にあるわけであります。
  102. 田中織之進

    田中(織)委員 そういたしますると、この共同声明に従いまして、韓国、少なくとも三十八度線以南にあった日本人の在韓資産というものに対しての請求権の放棄はもう確定しているわけですね。
  103. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これは最終的には御承認を得なければならぬ。同様条約を作れば国会の御承認を得なければならぬ問題ですが、一応今確定したものとする方針のもとに交渉するわけであります。しかし繰り返して申しますと、放棄を確定しても、放棄したという事実は考慮に入れて交渉をする、こういうことであります。
  104. 田中織之進

    田中(織)委員 放棄をしたという場合に、私有財産尊重の原則からいきまして、国の利益のためにいわば放棄させられるわけでありますから、日本国民に対してはどういう形で補償するのですか。
  105. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これは一般の在外財産と同じ扱いになるのでありますが、詳しくは法制局長官からお答え申し上げます。
  106. 林修三

    ○林(修)政府委員 この平和条約四条(b)項の解釈の問題でございまして、この解釈についてはいろいろ議論もあったわけでございますが、やはり起案者であるアメリカ側の解釈というものを尊重すべきでございまして、ただいま外務大臣が仰せられました通りに、四条(b)項によって日本の請求権はすでになくなっている、かような解釈をとるべきである、こういうことでございます。しかりとすれば、結局平和条約の十四条にございますいわゆる一般的な在外財産の問題と同じ問題になるわけでございまして、これについてはいわゆる在外財産に対して政府はいかなる責任をとるかという問題に帰着するわけでございます。これに関しましては、従来この国会において政府答弁していると思いますが、いわゆる憲法二十九条の問題との関連はたびたび御質問があったわけでございます。憲法二十九条は、つまり国家の行為によって財産権を公共のために使った場合には正当の補償をしなければならぬ、こういう規定でございますが、平和条約十四条の問題あるいは四条の問題は、日本政府のやった行為ではないわけで、つまり外国政府が外国にある財産権を取り上げるという問題を平和条約として承認する、あるいは朝鮮の問題につきましては米軍司令官が朝鮮において施行した事実を日本政府が承認する、こういう問題でございまして、直接に二十九条の問題にはこない、さように考えるわけであります。これは一般的な社会的な公平の問題として必要があれば処理すべき問題だ、かように考えるわけであります。御承知通りに、いわゆる在外引揚者の給付金の問題として、一応政府としては処置しておるもの、かように考えるわけであります。
  107. 田中織之進

    田中(織)委員 一般的な給付金の問題で処理して解決しているような法制局長官答弁ですが、私はこれは非常な問題があると思う。中国関係であるとか、かつての満州であるとかいうような関係については、これはまだ——先ほども議論になったのでありますが、実は南朝鮮におけるような関係で、これは返ってこないということについては確定していないのですね。ところが南朝鮮に関する限りは、三十二年十二月三十一日の共同声明によって、最終的には国会の承認を得なければならぬということですけれども、放棄したという建前になっているということになるとすれば、一般的な引揚者の在外資産の補償というような問題とは別に、私はこの補償の問題は、最も私有財産を尊重するという保守主義の建前に立っていく自民党内閣として当然考えなければならぬ問題だと私は思う。そのことを一般的な給付金の問題で、受け取った方では見舞金だということで理解しておるのです。根本的な問題は未解決だ、最近のように経済が成長して国の財政が豊かになれば戻してくれるものだという期待を持っておるのです。私はそういう点から見て、法制局長官のただいまの答弁納得できないのでありまするが、ここで外務大臣に伺いたい問題は、先ほどサンフランシスコ平和条約の四条(b)項に従って日本は請求権というものがなくなっておるのだという意味のことを言われましたけれども、それは何ですか、この十二月三十一日の共同声明にある「日本政府は、大韓民国政府に対し、日本政府が、昭和二十八年十月十五日に久保田貫一郎日本側首席代表が行った発言を撤回し、かつ、昭和三十二年十二月三十一日付の合衆国政府の見解の表明を基礎として、昭和二十七年三月六日に日本国と大韓民国との間の会談において日本側代表が行った在韓財産に対する請求権主張を撤回することを通告した。」ということになっておるのでありますが、それではこの十二月三十一日付の合衆国政府の見解というのは一体どういうものなんですか。
  108. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これは公表しないことになっておりますが、私が先ほど答弁の中で後段に申し上げたようなこと、それが内容でございます。
  109. 田中織之進

    田中(織)委員 公表しないことになっているというのでありますけれども……。それからこの問題が出されてからすでに三年経過していますね。しかも、この問題については、私が先ほど伺いましたように、個人の財産で一般国民としてはそれを国がどうしてくれるかという問題が残っているのです。そういう重大な問題を含んでいるものを、アメリカ合衆国の見解に基づいて日本の財産請求権を放棄した、こういうことになったのでは、私は国民納得というものはいかないと思います。従って、その当時は李承晩政府のもとで先方の都合もあったかもしれませんけれども、私は今日の段階においては、この十二月三十一日のアメリカ政府の見解というもの、メモランダムか何かだろうと思うのでありますが、これは国民に発表しなければ、事後の処理の問題にも影響してくると思うのでありまするが、この際発表していただきたいと思います。
  110. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 これについては、先ほど申し上げたように、日本政府としてはそれを放棄するけれども、請求権を失うものだけれども、その請求権を失ったという事実はあとの交渉に十分考慮に入れる、こういう趣旨のものでございますから、それでおわかりいただけると思います。このアメリカ合衆国政府の見解と申しますけれども、これは日本政府も同意いたしまして、日本政府の見解としてしかるべきもの、こういう同意のもとに行なわれたものでございます。  なお、あとの補償云々の問題は、これは一般の在外財産、講和条約によってすべて処理された国の財産と同様に扱うということは、これは日韓会談が終結したあとに出てくる問題でございますが、公平の原則からしてこれと同様に扱ってよろしいというふうにわれわれは思うのであります。
  111. 田中織之進

    田中(織)委員 私がその点をしつこく伺いますのは、ほかでもないのです。外務大臣も言われているように、講和条約の四条(b)項に従ってアメリカはこれを朝鮮に進駐したときに没収して、韓国政府へやっているのです。ほんとうは戦時国際公法の建前からいえば、その没収というもの——土地その他は取り上げるということはあっても、対価を払わなければならぬという原則があるわけなんです。かりにこれがアメリカ側から引き渡しを受けた韓国側が対価を払う場合にはそれを継承するということも、国際公法の一つの通念なんです。そういう問題があるにもかかわらず、アメリカ政府が、日韓会談再開の観点から見て、これを放棄した方がよかろうという見解を日本側に示してきたのについては——外務大臣も言われるように、言うてみれば無償で没収しているのです。アメリカは対価を払ってないのです。そういう関係もあるから、韓国側の請求の場合にはそれにどこまで見合うか。少なくとも相殺的な要素を持っているという点をアメリカ側が見解として示してきておるに違いないと思うのです。その点は外務大臣の言われることと私は同じことだと思うのです。そういう意味において、私は六億ドルとか船舶二万トンというような具体的な数字は向こうから出してきておらないかもしれませんけれども、今後そういうことを請求してくる場合に、日本の請求権を放棄する場合にこのアメリカの見解というものに従って、私どもは全部であるか一部分であるかは別として、相殺的になっているものだという考え方の上に立っていかなければ、国民としても納得がいかないと思うのです。そういう点から見て、このアメリカ政府の見解というものは、すでにこのときから三年たっているのです。従って私はこの際発表すべきだと思うのですが、どうして発表できないのですか。
  112. 中川融

    ○中川政府委員 ただいま御指摘のアメリカ政府の見解の発表がどうしてできないかという点でございますが、これは主として韓国側の希望によって発表できないということになっておるのでありまして、これはどういう理由かと申しますと、ただいま御指摘になりました点の後段、一番最後の点、つまりある意味で相殺的な要素が入っているという点、これが非常に韓国側としてはつらい点でございまして、韓国の国内のいろいろの人たちの意見というものをあまりいら立たせたくないという考慮からだと思いますが、日韓交渉を継続している間はこれを発表することは差し控えてもらいたいというのが当初からの要望でございます。会談を円満に遂行する必要上やはりこれは発表は差し控えなければいけない、かように考えておる次第でございます。
  113. 田中織之進

    田中(織)委員 今中川政府委員の御答弁を伺っていると、韓国側の都合で発表されては困るというが、それは日本国民としてはやはりぜひ発表してもらいたい問題なんです。あなたたちは日本政府の役人でしょう。日本国民の生命財産をあずかっている政府でしょう。しかも日韓会談の中心問題になる財産請求権の問題で、日本が膨大な、韓国の請求よりも少なくとも膨大だと予想せられるものを放棄するかわりに韓国も無理は言わないという了解がついていた問題をなぜここで発表できないのですか。そういう形で日韓会談を再開するということは、国民納得しません。そういうことを発表しないから、韓国の議会では、新聞に出た六億ドル、これだけでも国民は目をむいていますよ。わざわざ外務大臣が韓国まで出かけて、新聞に出ているだけでも六億ドル、船何万トンというものを韓国へ引き渡さなければならぬ、そういうことについては日本国民納得しない問題をあなたたちはこの段階になっても発表できないということは、一体どういうことですか。
  114. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 私は日本の立場といたしまして、日本国民の利益に反するようなことはむろんやらぬかたい決意でございまするけれども、ただ交渉というものは相手があるのでございますから、相手といろいろ話をする際に、いやがることをやって結果がいいかどうか、むしろ黙っておっても、最終的にその目的が達せられればというふうに実は考えておったわけでございます。しかしまた御要求もございますから、ごく大づかみのところその趣旨については申し上げて、第何条にどう書いてあるかということは申し上げませんでしたが、こういう意味のものはありますということを申し上げたので御了解願えるかと思いましたが、それも御要求がございますれば、なお一応韓国側と話をして、先方がそれでよろしいと言うたら御公表を申し上げるようにしてよろしいと思います。
  115. 田中織之進

    田中(織)委員 この問題はこの直後に、多分外務委員会でなかったかと思いますけれども、取り上げております。当時に藤山外務大臣も、当時は発表できない、約束もあるから、しかし適当な時期には発表すると答弁されておるのでありますから、私は、もちろん韓国側に連絡をとられることの外交上の手続はされなければなりませんけれども、やはりこれは発表すべきだ、その上に立って、国民が韓国側に何がしかのものを払わなければならぬということになるならば、これはおのずから別問題で、あとの在外財産の請求というようなことについても国民考え方というものは出てくる、しかしこういうことが再三にわたって問題になりながら、これを伏せて会談に臨むというような態度は避けてもらいたいと思う。  そこで、与党の諸君、時間が来てはなはだ恐縮に存じます。恐縮に存じますけれども、昨日も田中伊三次委員に三十分以上もわれわれもつき合っておるのでありますから、その点についてはもう少し無理を聞いていただきたいと思う。  そこで結論に向かいますが、私がもう一つぜひとも聞いておかなければならない問題は、ラオス問題であります。特にラオス問題については、多くの聞かなければならぬ点がございますけれども、二点ばかりにしぼって伺っておきたいと思う。  ラオスの内戦が激化して、下手すると第二の朝鮮戦争と同じような事態になるのではないかという点は、国民のひとしく憂慮している点でございますが、たまたま一方はアメリカがうしろ押しをしている、片一方はソ連が武器の補給をやっておるということが伝えられて、米ソの冷戦がそこで熱戦になるのではないかというような心配すらされておるのであります。それだけに、日本国民といたしましては、昨年政府がああいう形で無理やりに国会を押し切りました日米安全保障条約との関係で、将来この問題が急進展をいたしまして、在日米軍がラオスへ出動するというようなことになった場合に、安保条約との関係がどうなるかということを心配をいたしておると思うのであります。  そこで私は総理大臣伺いたいのでありまするが、総理内閣を組織されたときにも安保体制は強化していくということを言われておる建前から見まして、ラオスの問題に対して在日米軍が出動するというような場合には、安保条約に基づいてアメリカ側に事前協議を求める、こういうことを考えておられるかどうか、この際伺っておきたいと思います。
  116. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は今そういうことを考えておりません。そんな状態に立ち至っていないし、またそんな状態に立ち至らないように努力いたしておるのであります。
  117. 田中織之進

    田中(織)委員 そういう状態に立ち至らないことを希望するということでありますけれども、すでに総理もお聞きになっておると思うのでありまするが、ラオスの内戦には日本製の武器、被服というようなものが戦場に遺棄せられておる、こういうことが特派員等の報道で明白になってきておるのであります。そういうような状況から見て、あるいは一説によるというと神戸港の第二埠頭が、最近金網を張りまして、兵器弾薬のようなものを積み出すために、一般日本人の立ち入りを禁止しておる、こういうようなことが言われておるのであります。その意味から、私が手元に持っております一月二十二日のサンデー毎日によりますと、これにはいわゆるコン・レ軍の陣地に遺棄した日本製の弾薬だという写真も実は載っておるわけでありますが、そういう点から見てラオスの国民もこの点については、日本の出方というものをきわめて注目しておるのであります。総理は仮定の議論には答えられないと言われるかもしれませんが、在日米軍がかりにラオスへ出動するというような場合になれば、日本がそのことについて、事前協議その他でアメリカ側から相談を受けられる立場にあるかどうか、これは仮定のことでも、そういう道が開かれておるかどうかということを国民がひとしく関心を持っておる。その点は、私ども社会党から、先般、外務大臣に対して、もし在日米軍が出動するというような場合には、当然事前協議でこれをチェックしてもらいたいということの申し出もいたしたような事情があるわけなんですが、私は、仮定の場合でも、この場合にはそういう道が開かれておるかどうかということは、お答えできるべき筋合いのものであると思うのであります。重ねて総理の御答弁を求めます。
  118. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私の聞くところでは、ラオスに兵器弾薬が行っておると聞いておりません。私が通産大臣のときも、武器というのは兵器弾薬をいっておりますが、たぶんもう最近数年間、兵器弾薬の輸出はないと思っております。それから、調べたところでは、ジープ、トラック、あるいは繊維品、くつ、こういうものは行っておるようでございます。  第二の問題につきましては、私は安保条約の精神によりまして、厳に日本の安全と独立のために必要最小限度のことしか考えておりません。
  119. 田中織之進

    田中(織)委員 その点、問題は、特にあとの問題については、ラオスが安保条約にいう極東の地域に入るかどうかという問題とも関連をしてくるから私実は伺っておるのでありますが、総理が在日米軍は向こうへ出動するというような事態がないことを希望すると言われるだけでは、これは私どもとしては安心するわけにはいかない。その意味で、しつこいようでありますけれども、万一米軍がラオスへ出動する場合には、いわゆる安保条約にいう極東地域として事前協議の対象になり得るものかどうか、この点についてのお答えを願いたい。
  120. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は日本の独立と安全のために考えるのでございます。
  121. 田中織之進

    田中(織)委員 その点は、実は私の伺っておる点から見て答弁にならないと思う。申し上げておきますけれども、昨年の安保条約の審議過程において、ラオスはいわゆる安保条約にいう極東地域には入っておらないのであります。しかしそれにもかかわらず、在日米軍がラオスへ出動するという危険が非常に濃厚です。それだけに国民が心配しておる。あなた方は、安保条約の問題で、事前協議でそういうような場合にはチェックできる、こういうように国民には説明をしたのでありますけれども、現実にはそういう事態が起こるかもしれない。その場合には、安保条約によって事前協議の対象にもなり得ないで、しかも在日米軍が日本から出動するということもあり得るという、きわめて危険な状態にあるわけでありますから、この点は一つ今後、ラオス問題の推移について十分慎重な態度をもって臨んでもらいたい。  そこで最後に、もう一つラオス問題について伺いたいと思いますのは、ラオスが対日賠償を放棄いたしました結果、日本が十億円の経済技術援助を行なうということにして、実施をして参りました。今日まで聞くところによるというと、わずか五千万円足らずのものしかまだ向こうに引き渡しておらぬ、実行しておらぬということであります。一月でこのラオスに対する経済技術援助の期間が切れておるはずでございますが、これは延期をなされたとも聞くのでありますけれども、一体現在ラオスがブン・オム政権とプーマ亡命政権と内戦のこういう状況のもとにおいて、どこと折衝されたのか、延期についてはどういう処置をとられたのか、この際伺っておきたいと思います。
  122. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ラオスの経済技術協力の点についてはただいま御指摘の通りでありまするが、まだ認証を得て実行していないものが六千万円かございますし、しかもあの計画がビエンチャンの水道というような非常に民生の安定に必要なものでもございまするし、この技術協力を実施する期間、——協定そのものではなく、技術協力を実施する期間といたしまして、一年間の延長をするということにいたしておるのであります。しかしその相手方はどうかということでございますが、これはちょうど政変のようなものでございまして、新たにその政府の承認を国際的に必要とするということでもございませんし、国内法の手続によって正当な手続を経ておりまするブン・オム政権との間に、その技術援助を一年延長するということにすることは何ら差しつかえない、こういう解釈に立って、これを行なおうとしておるのであります。
  123. 田中織之進

    田中(織)委員 そういたしますと、ブン・オム政権を現在ラオスの正統政府だと認められる根拠はどこにあるのですか。
  124. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ラオスの国内法上の手続でございます。憲法上の手続によりまして、ブン・オム政権がさような手続をとっておるということでございます。
  125. 田中織之進

    田中(織)委員 そういたしますると、亡命する以前のプーマ政権というものも、その意味から見れば、国内法的に国王の認証を得てできておるのでありますから、認めますか。
  126. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 亡命いたしまするまでは正統政府でございましたが、その後におきまして、ブン・オム政権ができて、これが憲法所定の手続をとっておるということで、さように解釈するのであります。しかもこの解釈は関係しております多くの国がさような解釈をとっております。
  127. 田中織之進

    田中(織)委員 この点はラオス問題の処理にからんで、いわゆるジュネーブ協定に基づく国際監視委員会の復活ということが一番望ましいのではないか、こういうことが今日国連等でも言われておる。アメリカもまたその点について賛成をされておる。しかしアメリカ側が言う、また日本も認めているというブン・オム政権と、ソ連側が、いわゆるプーマ政権を、亡命はしておるけれども、これが実質上ラオスを支配している関係があるので、一体監視委員会が復活するとして、いずれを正統政府と認めるかということについては問題があるということは、現地へ行かれて伊関局長も、帰られた場合、あるいは外地で新聞記者会見をされたときに、言われておるのです。私は、その意味から見て、ラオスが賠償を放棄したためにわれわれが十億円の経済技術援助をやるということを約束して、不幸にしてその一部分しか実行ができなかった。従って、これを一年延期するということについては、われわれも賛成するにやぶさかではございません。しかし現在のような形で、ラオスの内戦がどういう結末をつけるかということが国際的にもきわめて関心を持たれておるような時期に、私は日本政府も、プーマ政権、それが亡命しておるとはいいながら・ブン・オム政権を相手にこの十億の残額といってもほとんど全部が残っておるわけでありまするから、それを日本側が延期するということを取りきめるということは、これは私はベトナム賠償の問題の場合に——もう触れませんでしたけれども、日韓会談の場合に、三十八度線以北の請求権の問題をどうするかというような問題とも関連をいたしまして、私は重要な問題を提起するのではないかと思う。こういう点については、日本側として、支払う方が延期をするという考え方であれば、私はこの点は一方的な通告というか、こういう声明によっても、こういうようなものの継続というものは国際的、外交的には可能なのではないか。その意味において、ブン・オム政権にこのラオス援助の期間延長の問題を取りきめたということは、その意味から見れば非常に片手落ちな処置だと思うのでありまするが、その点に対する考え方を伺って私の質問を終わりたいと思います。
  128. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 ごもっともな御心配もあると思うのであります。しかしこれは先ほども申したように、あの技術援助協定そのものの期限は実はないのでありまして、ただその技術援助を行なう期間の定めがありまして、この期間が一月の二十二日に切れてしまうわけであります。そこで切れてしまうということは実際上援助が行なえないということになります。しかもその対象は今申し上げたように、水道であるということでありますから、ぜひやって参りたい。先方もそれを希望しておる。こういうことであります。そこでその技術援助を実行するということをわが国も希望し先方も希望しても、先方の政府というものがなければこれはできないわけであります。国際間のことでありますからできないわけであります。しかしその政府というものが、現在正当な国内憲法上の手続を経てできておる正統政府があるわけでありますから、今度それにかわるにどういう政府ができようとも、これはまたその政府に継承せられる、こういう意味で、現在ある国内法上正当と認められる政府との間にそういう合意をする、こういうことなんであります。今国際監視委員会についていろいろ御意見がございましたが、それはもうおっしゃる通りで、ソ連の方もあるいはアメリカの方も、この正統政府というものに対しての認識が違うということで、結局バッタナ国王というものに対してこれを考えたらどうかというような案もあるわけでございます。そういうこととは全然別に、非常に技術的な取りきめをする、その相手は現在の正統政府である、こういうことだけでございますから、さような点で御了承を願っておきたいと思います。
  129. 田中織之進

    田中(織)委員 以上で私の質問を終わりまするが、問題は日中関係、日韓関係、それからラオス関係で、外交問題で申し上げましたように、これは当面日本の外交として処理しなければならぬいずれも重要な三つの問題だと私は思うのであります。しかし、従来、ともすればこれらの問題について日本の自主的な立場というものがどうも没却されて、国際的、特にアメリカ関係に引きずられたような形で処理されていくというようなことがないように、十分留意してもらいたいという希望を最後に申し述べまして、私の質問を終わります。
  130. 船田中

    船田委員長 午後二時二十分より再開することとし、この際暫時休憩いたします。    午後一時二十九分休憩      ————◇—————    午後二時四十一分開議
  131. 船田中

    船田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。野田卯一君。
  132. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、主として財政、経済のいろいろな問題についてお伺いをいたしたいと思います。いろいろな問題につきましては主として各省大臣に答弁をお願いいたしまして、総理大臣からは重大なポイントについて私の方から特にお願いしてお答えしていただきたいと思います。  三十六年度予算は、予算編成の眼目と申しますか、それは第一には、この予算をもちまして十年以内に国民総生産の倍増、所得倍増計画の第一年度を目ざしておる。第二には、昨年の秋の総選挙において国民に約束をいたしました公約をでき得る限り忠実に実行することにあると思います。  そこで、まず第一に所得倍増計画と予算関係についてお尋ねしたいのでありますが、この予算が所得倍増計画にマッチしているかどうか、この予算で所得倍増計画が実現していくかどうかということであります。経済審議会の答申いたしました計画は、十年間に国民総生産を倍にする、年平均七・二%の成長をするに必要な条件を規定したものでございましたが、党並びに政府において検討の上、倍増は十年以内に達成するのだ、そして計画の前半期において技術革新の急速な進展、あるいは豊富な労働力の存在など成長をささえるきわめて強い要因がありますから、当初の三年間に年平均九%の経済成長を達成することにいたしたのであります。そうして三十六年度経済計画におきましては成長率を、この平均を上回った実質九・二%と予定したのでございますが、この予算ははたしてこの計画をりっぱに実現し得るようにできておるかどうか、この点につきまして公共投資、社会保障、減税等にわたりまして、経済企画庁長官より御答弁を願いたいと思います。
  133. 迫水久常

    ○迫水国務大臣 御承知のように所得倍増計画は十年間の長期の見通しでございまして、従って年次的に行政投資がどうなるか、社会保障すなわち国民所得倍増計画では振替所得と言っておるのでありますが、そういうものがどうなるかということを算定した年次計画はございません。従いまして、そのものずばりで所得倍増計画と本年度予算というものを対比する方法はないのでありますけれども、所得倍増計画が十三兆六千億——すなわち昭和三十五年度の価格で十三兆六千億を出発点として毎年七・二%の成長をするというのを、十四兆二千三百億を出発点として、当初三年間九%というのが自民党の政策、それに今年度の見通しは九・二%でありますが、そういうことをいろいろ勘案をいたしまして、若干の仮定を設けながら、今年度予算において、行政投資においてはどういうくらいな拡大が見積もられればいいか、こういうようなものを一応算定をいたしましたところでは、公共投資では二一・七%くらいの拡大を見れば所得倍増計画に照応するものになるだろうという計算が出ておりますが、三十六年度における中央財政の行政投資の伸びが二二%になっておりまするところは、まさにそれに符合をして、ややいいということであります。社会保障の方で参りますると、同じようないろいろな調整をいたしまして引き伸ばしてみますると、一七・五%の拡大があれば一応いいという計算になるのでありますが、実質昭和三十六年度予算においては一九・五%、これは大幅に伸びておるのであります。減税の問題につきましては、所得倍増計画では国民負担の二〇・五%ということを予定をいたしておりますが、今回の予算は御承知のように二〇・七%ということになっておりますけれども、それは経済の高度成長及び社会保障ということに非常に重点を置かれて、余力のある部分はそちらに回すという政府の方針を実現したものでありまして、これまた支障のないものと考えるのであります。しこうして所得倍増計画におきましては、社会資本の充実ということ、産業構造の高度化ということ、貿易の国際協力の促進、人的能力の向上と科学技術の振興、二重構造の緩和と社会的安定の確保、こういうことが所得を倍増していく上において配慮をすべき特段の事項であるというふうに書いてございますけれども、これを一々詳しく申し上げてもいいのでありますが、時間の関係もありますので、概括的に申しますれば、この所得倍増計画が重点を指向しました方向は、この予算の内容においてきわめて忠実にその方向で予算が作られている、こう判断をいたしております。従いまして昭和三十六年度予算というのは、所得倍増計画の第一年度予算として、きわめてふさわしいできばえである、とこう考えております。
  134. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次にお尋ねしたいのですが、昨年の選挙に際しまして、わが党は、経済成長政策の三本柱の柱である公共投資、減税、社会保障あるいは科学、文教政策の振興等、国政の各般にわたって数多くの公約がなされたのでありますが、そのほとんど全部の公約が予算に具体化されております。そこで大蔵大臣も言っておられますが、これまで久しきにわたって未解決であった財政上の幾多の困難な問題があったのでございますが、それらの問題に一応目鼻をつけたということもある。こういう意味におきまして、本年度予算日本の今後の発展、繁栄を約束し、また民主政治の根本である国民に対する公約は、これを正直に守っていくという意味においてきわめてりっぱな予算であるということができると思います。本年度予算の規模は、前年度当初予算に比べますと二四・四%の増大であり、二兆円に迫る膨大なものになりました。第二の予算ともいうべき財政投融資においては約七千三百億円に迫り、前年度当初計画に対しまして二二・七%の増を示しております。そこで世間の人の一部にはその大きさに驚いて、これは不健全じゃないだろうか、刺激的じゃないだろうかというおそれを抱くものもあります。また社会党諸君のごときは、これは中立性、健全性を放棄した刺激的、インフレ的性格を持った予算であるというような批判もしておられます。なるほど三十五年度当初予算に比べてみますと、かなり膨張しておりますけれども、第一次補正と第二次補正を加えたものに比べますと、一〇%弱の膨張にとどまっております。また三十六年度予算に見込んだ自然増収というものは四千四百億円でありますが、三十五年度予算についてこれを比較してみますと、補正予算を加えました三十五年度予算が、その前の年の三十四年度に対してどれだけの自然増収になっているかというと、これが約四千億円をこえておるのであります。これから見ましても、不健全なものとか、非常に膨大なものだとかいうようなことが言えない、かように考えるのであります。また、国民所得の関係から申しましても、三十五年度の一般会計の当初予算というものは一五%でございまして、第二次補正まで加えますと一五・七%になるかと思うのであります。それに対しまして本年度は一五・三%であります。しかもその財源関係を見ますと、いずれも正常な、しっかりした収入を基礎としておるのでありまして、赤字公債を発行するとか、あるいは過去の蓄積を食いつぶすということはいたしておりません。しかもその上に平年度千百三十八億円という巨額の減税を行なっておりつつ、かつ収支均衡を得たりっぱな健全予算でございまして、反対党の諸君批判は全く当たらないと私は考えるのであります。このようなすぐれた予算を組むことができましたにつきましても、総理大臣就任以来、寛容と忍耐の精神を持って政治に当たられまして、国内の一時の異常な社会的な緊張、これが次第に緩和の方に向かって人心が安定してきた。社会的な秩序が取り戻されてきた。それに総理日本経済の持つ実力と日本国民の持っておる能力というものを、声を大にして国民に説かれ、高度の経済成長ができるんだ、所得倍増がりっぱにできるんだということを唱えられまして、国民がこの総理の主張に対しまして次第に理解を深め、そうしてその職場におきまして、落ちついて大いに経済的活動に努力するというようなことから起こって参りました経済全体の情勢から、このようなりっぱな大きな予算ができるのである。こういう意味におきまして、これまでの総理の非常な賢明なすぐれたリーダー・シップに対しまして、心から敬意を表するものでございます。  ところがこの予算につきましていろいろと世間で——ここから総理にお尋ねするのですが、世間でいろいろな批判がございます。またジャーナリズム、反対党、各方面の声をよく聞いてみまして、比較的私たちにぴんとくるというか、わかりやすく、特に一般に対する里耳に入りやすい批評としては、所得倍増と物価倍増との関係でございまして、所得はふえても物価が上がるので、実質的にはそうふえないのじゃないか、あるいはまた減税はしてもらったけれども、公共料金等が値上がりになっちゃって、それに食われるというか、帳消しになるじゃないか、こういうようなことが言われるのであります。これは非常に一般大衆の里耳に入りやすい。これにつきましては総理大臣も経済企画庁長官も、あらゆる機会をとらえまして、説得的にいろいろな御説明をなさいまして、それによって相当程度私は、国民の間、特に識者の間でもわかってきたと思うのです。しかし昨日ここで同僚田中議員がお尋ねになりましたように、町を歩いて一つ一つの店頭を見て歩くとか、あるいは大きな財政経済は知らぬけれども、身近に自分の生活をしょって立っている主婦の連中、そういうものに触れると、そしてそれから得た感覚から言うと、どうも十分国民から納得されてないのじゃないかという節もあるわけであります。私はこれは、現段階における物価問題がきわめて重大な、経済的ないろいろな問題を含んでいるからだと思います。自由経済の体制のもとにおける価格政策、これが一本でいけばいいのですが、それに総理はみずから所得倍増ということを盛んに唱えておられる。この所得倍増がもう少し進みますと、国民各人の所得をある程度保障するといったような考え方に発展して参る。これは私、最近における顕著の事実だと思う。そういう点からこの物価問題が論ぜられている。ここに私は物価問題の新しい面が出てきていると思う。こういうような新しい経済情勢、あるいは総理が引き起こされた新しい経済的な事態のもとにおける物価政策、物価対策というものは、これは従来の考え方では、なかなか解決がつかぬのではないかという私は感じがするのでございます。総理長官も非常に御熱心にお説きになり、また質問する人も、それなりにやはり切実な感じから訴えておる。  そこで私はこの問題についてこの際深入りするわけではありませんが、どうしてもこれは新しい事態に即応する新しい物価対策といいますか、物価政策というものをこの際打ち出していかなければならぬのではないか。それには、この問題が広範にしてかつ深刻でございますから、国内の各方面の衆知を集めまして、そうしていろいろな面からこの問題を取り上げて研究して政策を立てていく。しかもその研究を通じ、その質疑を通じまして、国民各層に物価に関する納得を得てもらう、物価というものはどういうものだということをよく知ってもらうというようなことが必要ではないかと思うのです。物価問題については企画庁あたりも一生懸命にやっておられますけれども、たとえばCPI一つとっても、その内容を分析すると、今日の実際の事態に即しているかどうか、かなり疑わしい点がある。また電力料金のようなものを取り上げておるのですが、これはまだ会社から出てきたものそのものをとらえまして、そうして高いの安いのというような、いわば末端的な議論になる。電力会社なら電力会社が電力料金をきめる、そのもとになる価格構成のファクターを一つ一つとりますと、いろいろな大きな問題を含んでおります。その問題については何らか考えてやろうじゃないかという程度であって、それに対する具体的な対策が講ぜられていない。それで全体を寄せ集めた結果だけを申し上げますればと、こういうような査定になりやすいのであります。でありますから、新しい物価体系、物価政策を考えられる場合には、もう少し掘り下げて、物価の構成される一つずつの大きなファクターについてメスを加えて、それに対する対策を——法律も要りましょう、あるいは予算も要りましょう、そういうことをやっていかないと、私は納得のできる物価問題の解決はできないのではないか、こういうように考えるのでございますから、そういうふうに衆知を集めて、そうしてこの問題と本格的に取り組んで解決の方途を見出そうとするというような御意思が総理大臣にあるかどうかということをお尋ねしたいと思います。  もう一つお尋ねしたいのは、今度の予算国民各層に与える恩典といいますか影響といいますか、いい方の影響、それを見ると、大所得者については私どもはとにかくいろいろな政策をとる必要はないと思う。中所得者以下、そうすると税金を納める程度のクラスの人は、今度の減税というものによって非常に恩恵を受ける。総理承知通り大へんな恩恵を受ける。それはそれでよろしい。また零細というか、もっと下の非常に小さな経済力のない人々、極端にいえば極貧階級とかそれに近い人、ボーダー・ライン、そういう人については、社会保障政策というものが非常な前進をいたしまして、それによって相当明るい前途が持ち得るようになったと思う。もちろん現在の段階におきましては、十分いきません。しかし自分たちの将来は明るくなるのだという、そういう気持を持ち得るだけの素地は私はできたと思うのです。ところがその中間に位しているところの、税金は納めてない、しかし社会保障の直接の対象にならないところの階層の人が相当いるわけです。そういう人がこの本年度予算を見て、それで自分が一体どういうふうに恵まれるのだろうか、どういうふうに自分は均霑していくのだろうかという点になりますと、必ずしも明瞭でないようなところがうかがわれるわけです。これにつきましては、私は私なりにいろいろな考え方を持っておりますけれども総理大臣としては、この予算考えてみたときに、その階層に対して若干手薄ぎみの感じがある。それについてはどういうふうにお考えになられるか、この点に対する御所見を伺いたい、こら思います。
  135. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御質問の第一点の物価の問題でございます。所得は倍増になるが、その前に物価が倍になるのじゃないか、こういう議論がある。私から見ると、非常に幼稚な議論ですが、しかし大衆の気持としては、そういう心配をされるのは無理はないかと思う。所得がずっと倍増になりましても、過去の例から申しますると、そう物価は上がっておりません。それからまた、今度の説明でも、国際収支、それから日本の経済の強さを判断する御売物価、卸売物価につきましては、われわれはある程度下がると見ております。それから小売物価は横ばい。しかし消費者物価は上がると存じております。そこの違いがあるわけです。卸売物価が下がって、なぜ消費者物価が上がるかということになりますと、きのうもお話し申し上げましたように、手間賃というものが上がっていく。所得の倍増ということは、金持ちとかあるいは組織労働者、これが倍増になることをわれわれは考えておるのじゃないのです。それももちろんでございますが、そういうものでない手間賃で働いておられる大工、左官あるいは床屋さん、こういう人の倍増まで考える。そうすると、手間賃が上がってくることは、当然のことでございます。上がり方について、また度合いについては、考えなければなりませんが、これをはずすわけにはいかない。だから、ある程度手間賃が上がることによって消費者物価が上がることは、これはやむを得ない。これでいっておるのです。物価物価といっても、よほど性質が違うのでございます。私はその点をずっと機会あるごとに国民に訴えたいと思います。それから、手間賃のみならず、消費する品物の質の向上、こういうことも考えなければならぬ。との前も言ったことがありますが、新聞なんかでも昔は四ページだったのが、今は十数ページになっております。このことを言わずに、新聞代が上がって消費者物価が上がったというのでは、これは理屈に合わないと思います。だから、そういう点を十分国民納得してもらって、われわれの賃金が上がると同時に、手間賃でやっておられるものが、消費者物価に非常に影響する、あるいは質の変化、たとえば消費者物価にいたしましても、テレビなんかを消費者物価に入れた計算になりますと、あの高かった時の分と今安くなった分、これを入れれば、消費者物価の上がり工合も違ってくるわけであります。昔選んだ特定の品目について、しかも昔の生活によって、様式によって、その割合をきめてやっておるあの消費者物価の問題は、私は根本的に検討し直さなければいかぬ。たとえばナイロンは入っておりますが、最近のテトロンは入ってない。そうすると、いろいろな新製品によりまする質の向上ということも消費者物価には入れていない。しかし生活には非常に関係することであります。こういうこと等を考えまして、私は、先般も企画庁長官に、この卸売物価の方はよほどよくできておるけれども、小売物価、ことに消費者物価につきましてのウエートを考えなければならぬ、そういうことを考えて、一つりっぱな消費者物価指数というものをでっち上げてもらうようにお願いいたしておるのであります。そうして内容につきましても、このごろ消費者物価で非常に上がっておるのは、やはり住宅、家賃の問題、家具、什器の問題であります。こういうものがあるので、私は、ほんとうに今の状態における消費者物価の問題について検討を加え、そうして国民にPRをしていきたいと思っております。  それから次に、所得階層によって、相当の所得者は所得税の減税であれする。それから所得税を納めない、しかもごく下層の人は社会保障でいく。その中間の者が困るじゃないか、これは御説の通りです。そこで、税においてできるだけのことはいたしたい。たとえば電気ガス税というものは相当の階級がみな納めております。こういうものにつきましてできるだけの減税をするのでございますが、要は、全体の人の所得が平均して、ことに下の方の所得が上がるような施策をとる。それにはできるだけ物価を安定さして、雇用と生産性の向上を考えていくというのがもとでございます。私は、減税や社会保障を受けないその中間の方々の人には、国全体の経済を高度成長化することによって所得はふやし得る、こう考えて、所得倍増計画を言い出したのはその関係であるのであります。
  136. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 それでは次に、米国の経済情勢について経済企画庁長官にお尋ねしたいのでございますが、米国の今後の情勢は、日本の経済の動向に非常に大きな影響を与えるものでございます。経済企画庁では、「昭和三十六年度経済計画の大綱」というこの。パンフレットみたいな本がございますが、それにおいて、三十六年度の経済見通しの中で、「海外経済においては、現に調整過程が進行中のアメリカ経済は、一九六一年中には漸次上昇の方向に向かうものと思われる」というふうに述べておられます。きわめて簡単にあっさりと述べておられますが、去る一月三十日ケネディ大統領が上下両院の合同会議に臨んで明らかにしました一般教書は、同国の国内の現状を次のように述べております。これは皆様も大方御存じだと思いますが、「米国経済の現状は不安定である。私の就任は」——有名な名文句ですが、「私の就任は七カ月におよぶ景気後退、三年半にわたる経済停滞、七年越しの経済成長率伸び悩み、九年になる農家収入の低下歩調といった事態のあとを受けてのことである。企業の破産件数は往年の大不況以来最高の水準に達している。」「被保険失業者数は一九五八年の短期間を除く史上最高に達している。」それから、結論的なところにいきまして「要するに、米国経済は困難に陥っており、経済成長では最もおくれている。企業投資は減退し、利潤は予想を下回り、建設は落ち、売れ残りの自動車在庫が百万台もある。就業者はますます少なくなり、週平均労働時間は四十時間よりかなり下になっている。しかも物価は続騰している」と現在の状態を説きまして、将来につきましては「なお一九六一年、六二年は引き続き停滞状態で、失業はごくわずか減少するのみという予測が衆口一致で行なわれている。」こう述べておるのであります。私どもの入手した指標によりますと、米国における本年一月現在の鉄鋼の操業率は、四〇%を割って三〇何%というところに来ておる。失業者は五百万人をこえております。経済企画庁の見方はごく簡単でございますけれども、それから受ける印象と、ケネディ大統領の教書の述べているところでは、かなりの開きがあるように感じられる。この点について迫水長官の御見解を承りたいと思う。
  137. 迫水久常

    ○迫水国務大臣 経済の見通しを立てます際にも、アメリカの景気の下降状況といいますか、景気の停滞、ことにまた西欧の景気の上昇傾向の停頓ということをどう見るがということは、経済企画庁におきましても非常に慎重に研究をいたしまして、内外のいろいろな評論家であるとか、そういうような人たちの意見も十分に聴取をいたしたのでありまして、その当時から、大体、ケネディ新大統領の教書で指摘しておられるようなアメリカの経済情勢であることは、われわれ承知をいたしておりました。ただ、アメリカの方の評論的な立場において、また日本の方の観測においても、調整過程はおおむね昭和三十六年の上半期で一応の限界に達して、以下は上昇の傾向、回復の方向に向かうだろうということがまず多くの人の議論でありまして、われわれもそういうように感じたものですから、そういう見通しのもとに経済見通しを立てたわけでありますが、今回のケネディ新大統領の一般教書、すなわち一月三十日の教書及び二月二日に出された経済の特別教書というものを見ましてわれわれが観測をしたアメリカの情勢というものについては、変更を加える必要はないように私は考えております。もっともケネディ大統領は国際経済については次にまた教書を出されるようでありまして、国際経済に及ぼす的確なる判断というのはもう一つの教書が出てからでないと的確には申せませんけれども、少なくともケネディ大統領アメリカの景気を上昇せしめる方向について積極的な手段に出られるということが明らかでありますので、ことに一九六〇年はもう下降をとめるのだ、六一年、六二年は逐次三・五%という当然持っている能力をフルに活用するようにしていくのだ、それから先は三・五%以上の成長をするようにするんだというケネディ大統領の政策が実現をしていきます上においては、日本に対する影響というものは日米間の関係においては決して悪くはない。ただ問題は、長い見通しになりますと、アメリカ日本との間の輸出競争の問題も起こってこようかと思いますが、これにつきましては経済見通しについて別に述べておりますように、国際競争力の強化をして対処をしていく考えでございますので、経済見通しにおいて簡単に書いてありますけれども、われわれの見通しを変更する必要はないものと私どもは観測をいたしております。
  138. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次にドル防衛の問題についてお尋ねしたいのであります。主として企画庁長官に御尋ねしたいのでありますが、ドル防衛計画についてケネディ大統領があくまでもドルの金価値維持の決意を持っているということは、一般教書を見ましてもそれを三べんも繰り返してしゃべっておる。これを見ても決意のほどがうかがえるのでありますが、その決意がかたいだけに、そのとらるべき方策というものも相当徹底したものになるのではないかというように想像されるのです。米国の保有量を総動員した二百二十億ドルの金、海外における膨大な資産、輸出の超過額、こういうものは大きな背景といたしまして、当面の対策としては為替の管理であるとかあるいは景気対策の手加減、貿易制限政策というようなものが逆戻りするとか、あるいは世界各国に対する公約から後退などという行動はとらない、しかしどうしても金の危機を守るには新措置をとることが必要だとして、その措置の概要として米国内への外国投資と外国人の旅行を勧誘する、米国の輸出をうんと促進するんだ、民間資本が不当に海外に流れ出すのを刺激するような税制を改める、また自由世界の共同防衛と低開発諸国の開発のための努力を同盟諸国と分かち合っていくんだ、ということを述べております。このように、ケネディ大統領は消極的な策を避けましてあくまで積極的な打開策をとる熱意を示しておるので、国際収支改善について思い切った措置、たとえば伝えられるところによると、現行の金準備率の廃止というようなことも、これは国内措置でございますが、そんなことも考えられておるという。これはずいぶん思い切った措置だと思います。そういうふうですから、対外的にも相当強く出てくるのじゃないかと思われる。日本としては、対米貿易あるいは対米の貿易外収支の点における影響のほかに、このような米国の新しい措置は全世界各国に対して行なわれるのでありまして、そのあふりの影響が国際間の貿易及び資本移動という広範に及ぶ影響を伴って現われてくるということも予想される。このような事態に対して日本が積極的に対処する腹がまえが必要であると思われます。とかくこれまでドル防衛対策は日本における特需が減るとかいうような点に大体割合狭く限局して考えられておったような節があるのございますが、もう少し目を広く向け、いろいろなことを考えていく必要があるのじゃないかということが感ぜられる。この点につきましては、迫水長官の御意見を一つ承りたいと思います。
  139. 迫水久常

    ○迫水国務大臣 ドル防衛の処置の直接に昭和三十六年度においてわれわれの方に与える影響につきましては、すでに御承知のごとくICAの輸出の減小六千万ドル、軍関係特需の減小六千万ドル、総額一億二千万ドル程度の収入減であるという見積りを立てておるのでありまするが、今回のケネディ大統領の教書を見まして、この具体的な数字の影響はもう少し小さくなってくる可能性がある。従って、すでにとられたるドル防衛の、たとえば軍家族の引き揚げとかそういうようなことの影響というものは、むしろ緩和される方向ではなかろうかと一応判断をいたしておるのであります。ただ、今野田さんがお述べになりました長い見通しにつきましては、これはきわめて重大な問題でございますので、先ほどもちょっと触れましたが、日本産業の国際競争力の強化に一段の力を尽くすとか、あるいは貿易の自由化、為替の自由化については、さらに場合によっては既存の計画以上にこれを促進していく方法を考えなければならない。まあ貿易の自由化ということは、物価の問題からいっても、特に日本の経済の問題からいってもそうでありますけれども、国際経済に照応する意味においてはなおそれも検討の要があるように思いまするし、また海外経済協力の問題につきましては、アメリカの要請を待つまでもなく、場合によってはこれはアメリカと競合するような立場にもなるのじゃなかろうかと想像されますので、国際協力体制というものはさらに一そう強化していきたい、こういうふうに考えておる次第であります。
  140. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 そこで、次に私は輸出あるいは貿易外の受け取りあるいは海外経済協力の問題に進むわけでございますが、わが国としては、今お話が出ましたような、私が申し上げたような情勢からいたしまして、どうしても輸出の振興、海外経済協力の強化、貿易外収入の増強ということに特段の力をいたさなければならないと思います。今回の予算を通じまして、随所に輸出振興の配意がうかがわれます。しかし予算全体の調子から見ますと、輸出振興の気魂がまだ十分であるというところまではいっておらないのでありまして、さらに各般の手を打っていく必要がある、私はかように認めるのであります。業界からも、この点につきまして、貿易振興をはかるために貿易関係閣僚会議を設けてもらいたい、あるいは最高輸出会議の対象に輸入を加える、輸入と輸出とが見合っていきますので、その会議の対象に輸入を加えるというようないろいろな主張がなされております。これは通産大臣あたりよく御存じだと思いますが、これらの主張に対しては、これらの要望されておるものにつきましては、適切な具体化が必要じゃないか、かように考えるのです。ごく短期的な現象かもしれませんが、昭和三十五年の十月から十二月にかけての輸出の高が下降線をたどっております。またアメリカの衣料関係労働組合日本製の服地の裁断は拒否するということを申し合わせるというようなニュースも来ております。こういうような情勢でございますから特に注意が要るのじゃないか。また輸出を振興する上におきまして、外ばかりでなしに、目を内に向けまして、たとえば物品税の問題一つをとりましても、物品税のきめ方によりまして日本の輸出がふるったりふるわなかったりする場合がある。たとえばここで一つの端的な例を申し上げますと、テレビの受像機なのでございます。あれをとっても十四インチが日本の標準型になっておる。ところが世界の標準型は十七インチなのです。これは御承知だと思います。そうすると、日本で十四インチと十七インチの間の物品税に差をつけておる。でありますから十四インチがたくさん出て十七インチは出ない。ところが外国では十七インチだ。これが海外にも輸出されようとしておる。そういう場合に、十七インチと十四インチの間に税金の差をつけて、国内の生産を十四インチに集中するということになると、輸出の点から申しますと非常に支障になるというか、伸びるものが伸びなくなる。こういう考え方がされるのでございます。従って私はただ一例を申し上げたのでありますが、国内の税制その他の制度におきましても、わずかな配意によりまして、それが輸出に非常にいい影響を及ぼしたり、あるいは妨害的な影響を及ぼしたり、そういうことも起こるのでございますから、そういうふうな点につきましても十分なる配意をする必要があると思うのであります。  またこれまで久しく海外経済協力ということが叫ばれて参りましたが、純粋な意味における、というのは外国では、外国に物を延べ払いで売るということはほとんとうの海外経済協力ではないという見解もあるわけでありますが、そういうようなものを除いて、ほんとうの意味における海外経済協力というのは割合少ないのじゃないか、こういうふうに考える。これについては外務大臣から具体的に今までどんなことをやったか、狭い意味と申しますか、純粋な意味における海外経済協力はこんなことをしておるのだというお話が特にできるようなことがあれば言っていただきたい。われわれの知っている問題は、たとえばカリマンタンの森林開発とかへ北スマトラの石油開発であるとかいうことを最近はやっておりますけれども、今まではそれらしい大きな計画というものはあまりないのであります。そこで純粋な意味における海外経済協力ということがどうしても必要になってくる。それがために今回海外経済協力基金が百四億円でもっていよいよ出発することになり、練達の柳田さんが総裁に就任されることになって、これはまことにけっこうだと思います。これは申すまでもなく、現地産業開発促進上、輸出入銀行の対象とはならない、またコマーシャル・ベースにも乗らないが長期的に見れば採算のとれるものに融資するということになっておりますが、これを活用することは大へんむずかしいことだと思うのです。よほどの見通しと洞察力がないとこれの運営は私はなかなかむずかしいと思うのでございます。それにさらに基金の量でございますが、日本の海外経済協力の中心としていくには百億円という金額ではただいまのところはよろしゅうございますけれども、事業計画をいろいろと相談を受けたりなどする場合には必ずそれが何年間かの長期計画になる。長期計画の仕事に手を染めるということになりますと、百億円では、最近の計画はいずれも相当大きいのでございますから、とても問題にならぬというような場合が出て参ります。従いまして、真に海外経済協力基金を活用して海外経済協力をやっていこうとするならば、この資金を今後毎年相当額を継続的にふやしていく必要があるのじゃないかということを特に痛感をする次第でございまして、これについても政府の御意見を承りたい。  また海外経済協力につきましては各省のセクショナリズムというものがガンになっているのでございますが、これがために私は相当今までの円滑な進捗がはばまれていやしないかという憂いすら持つわけです。今回、海外経済協力会議というものが設けられました以上は、これを十分に活用されまして、各省のセクショナリズムによる停頓が絶対に起こらないように十分に配意をしていただきたい、この点につきましては特に総理大臣の御努力をわずらわしたいと思うのでございます。  それから、なお貿易外収支の問題に触れますが、これを増加するには観光事業に力を入れる、これは当然のことでございます。これがために必要な各般のホテルとか道路を整備する必要がありますが、そのほかに船舶収入の問題があると思う。私は日本の海運ということについてつくづく考えさせられるのでございますが、わが国の海運は、戦争前には御承知のように六百数十万トンの外洋船を持っておった。それが戦争によって壊滅した。それに対する補償が御承知のようにほとんど打ち切られてしまった。それで、無一物で投げ出されたような形になったわけであります。従って、終戦後できるだけ早い機会に日本の海運を建て直さなければならないということになると、その金がなかなか容易でない。政府もいろいろな世話をいたしまして、資金を調達をしたのでございますが、その調達をした金の利息が非常に高い、しかも外国の船舶は金利が安い上に、政府から各種の手厚い援助を受けておるわけで、日本の海運界は腹背に敵を受けたような形で、多年にわたって困難な道を歩いてきたことは、まことに私は同情にたえないと思うのでございます。そこで政府におかれましても、その間の事情を十分了承いたしまして、あるときにはいろいろな手も打たれたのでございますが、途中海運疑獄というようなことも起こったりいたしまして非常に不幸なこともございましたが、とにかくそういうことを抜きにして、どうしても日本の海運というものは公平に見まして私はもっと政府が積極的に支援してやらなければならない、そうして総理の唱えておられます所得倍増計画を実行するという点から申しましても、日本の海運というものをもっとうんと強化いたしませんと、実現ができない、こういうように考えるのでございます。貿易外収支の問題といたしまして、海運の問題はきわめて重大な問題であります。これを政府としては相当思い切ってやる必要があるというふうに感じますので、これに関する運輸大臣並びに総理大臣の御決意を承りたいと思います。  そのほか、前にいろいろと輸出の問題等について述べました、あるいは海外経済協力について述べましたが、これはそれぞれ所管大臣から御答弁を願いたいと存じます。
  141. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 輸出の振興は、お話の通り非常に重要なことでございます。なかなかこまかい点につきましても、お気づきの点、全く同感で、その方向で進んでいきたいと思います。また海外経済協力につきましては、今まで法律の審議その他がおくれまして、十分な効果をあげておりませんが、お話のように北スマトラの問題とか、あるいはコロンボ会議等の決議によりまして、わが国としては助ける方の側としてある程度のことはやっていく、しかし、今後はこれをもっと強力に進めていって経済協力の実をあげて参りたいと考えております。  なお船舶の問題、観光事業の問題でございますが、観光事業はお話の通りホテル、道路その他の諸施設を強化いたしまして、今後日本の外貨収入の相当部分をこれでまかなおうという考えで進んでいきたい。船舶の問題はお話の通り、従来力を入れましたけれども、なお十分ではございません。また輸出入銀行による外国船主との不均衡の問題等につきましては、早急に是正したいと思います。また日本の海運は今ようやく六百万トン程度になっておりますが、所得倍増、輸出入が倍程度になるというときにはどうしても船舶はこれの倍くらいにしなければならぬ。ほうっておいたら国際収支に非常な悪影響を及ぼしますから、船舶の国内保有、もっともっと日本で船舶を持とうという政策は今後強力に進めていきたいと考えておるのであります。
  142. 迫水久常

    ○迫水国務大臣 海外経済協力基金の問題についての御質問でございましたが、お言葉の通り海外経済協力というものを計画的に実行していきます上におきましては、現有の百四億円という金ではとうてい足りないことは明らかでありますが、スタート五十億円で、来年度また五十億円、成長率は割合にいい方だと思っておりますが、今後ともぜひ一つこれを増額をしていきたい、こう思います。ただ気をつけるべき点は、銀行的な金融ベースには乗らないが、経済ベースには十分乗る、こういうものに融資していくのであって、これが利権の対象にならないようにするというようなことについては、十分配慮していかなければならない、そこら辺はよく気をつけていきたいと思います。なお私は今後この基金の増額について十分努力をしたいと思いますが、もし野田議員がこの機会に大蔵大臣からその増額をしてやるという言質をとっておいて下されば、非常にしあわせでございます。
  143. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 海外経済協力基金につきましては、現在迫水大臣から御答弁通りであります。その他日本でもこの必要を痛感いたしておりまして、昨年DAG、低開発国援助グループというものにも参加いたし、また現在コロンボ計画で八百万ドル近く、また国連の特別基金においても三十六年度予算では非常に大幅に分担金をしようというような結果になっております。現在輸銀を主としてやっており、また協力基金ができたのでありまするが、いわゆる低開発国といいますか、開発されんとする国に対する経済協力を実施しておりまするその実績は、昨年の九月末現在で実行済みの分で民間投資残高が約一億三千七百万ドル、延べ払い信用供与残高が二億二千六百万ドル、そのほかに政府借款といたしまして六千百万ドル、かような状況であります。
  144. 木暮武太夫

    ○木暮国務大臣 お答えを申し上げます。日本の国際収支の点から見まして、海運事業を振興いたさなければならないことは御指摘の通りでございますが、この大切な海運事業が、野田委員の御承知通りに、現在は他のいずれの産業とも比べまして類例のないような不況な、不振な状態にあるのでありまして、その第一の原因は、申すまでもなく過去数年間続きましたいわゆる海運界の不振にあることは論を待ちませんけれども、しかしそのおもなる原因というものは、占領政策によりまして戦時補償が打ち切られた。すなわち日本の海運事業というものは戦争中喪失いたしました船舶を代替建造するところの自己資本を失ったというわけでございまして、これが当時の金にして二十六億円というのですが、今日にいたしまするならば五千二、三百億円の金になるわけでございます。こういう関係で非常に今日の海運事業は不況にあるのでございまして、自来政府といたしましても財政資金をこれに融資いたしまして、日本商船隊を作りますために、いわゆる借入金によってこれをやらしておるのでございまして、今日借入金の残高は二千七百二十億円くらいに臨んで、年々二百四十億円くらいの利払いをいたさなければならぬというのが海運の実情でございます。御承知通り配当をいたしておる会社は三つくらいで、大きな会社はみんな二十八年以来無配というような状態でございます。従いまして政府といたしましても、今年度から市中から融資いたしまする金利を幾分でも安くしようというので、利子補給をいたす予算を出しておるのでございまするが、さらに来年度におきましては、一方、輸銀の利息が割合に安いのに対しまして、この見えざる輸出とも申すべき、海運の収入を確保するところの海運事業の建造費に六分五厘というようなことでは無理である。ここにかんがみまして、三十六年度からも一分五厘程度開銀の利息を引き下げるような利子補給をやるというような案を決定をいたしましたようなわけでございます。海外の例を見ましても、海運事業に対しましては国家ができるだけ保護を与えておるのでございまして、しかも海外の海運会社というものは戦時中の打撃を受けない、基盤の強固なものでございますので、わが国の海運会社との競争能力においてまさっておるものがございますので、これからもわれわれとしてはいろいろ海運の振興のために力を尽くさなければならぬと考える次第でございます。  それから観光のお話がございましたので、簡単に申し上げますが、最近における外客誘致ということもだんだんとふえて参りまして、昭和三十三年におきましては、観光外客の消費いたしました推定ドルというものは、七千六百万ドルぐらいになっておるのでございます。昭和三十五年度におきましては、推定でございますが二十一万人の観光外客が参りまして、一億二千万ドルを消費すると推定されておるのでございます。運輸省といたしましては、昭和三十八年の目標といたしまして三十五万人の観光外客を誘致いたしまし七、観光収入一億ドルぐらいに達成せしめようということで、力を入れておるのでございまして、ホテルの整備などもこれからやらなくてはなりません。今日以上に、九千室ぐらいホテルが必要であるということになっておりますので、開発銀行等からホテル建造に対する融資も年々とふえておりまし七、昭和三十五年度におきましてはホテルの建造だけに対しまして、日本開発銀行から二十億以上の融資を見ておるような状態であるのでございます。これに加えまして日本旅館を改造させまして、観光外客を受け入れる態勢もとっておるようなわけでございます。宣伝の方は特殊法人の日本観光協会を中心といたしまして仕事をやらしておるのでございます。ことしは二億八千二百万円予算を出しまして、シドニー、ロンドンに出店を作ることにやっておるわけでございます。できるだけ観光外客の誘致に努めまして、もって国際収支を有利に転換せしめるように努力をいたしたいと考えておる次第でございます。
  145. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 御質問のうちに、日本貿易会の要望に関してのお話がちょっとございましたが、簡単にお答え申します。  日本貿易会からの要望といたしまして五点ございます。貿易閣僚会議の設置をしろ。第二は国際競争力強化のため、総合対策を実現せよ。砕いていえば物価の安定、企業体質の改善等のための税制、金融対策であります。第三は海外市場対策と調査研究機能の強化、相手国要人の招待等、経済外交を推進せよ、それからまた地域別貿易促進グループを設置しろ、こういう内容でございます。第四は輸出金融、保険、税制措置の改善、拡充。第五、輸出関係事務の迅速化、以上でございます。きわめてごもっともな御意見でございますが、ただすでに施策をしておるものと、それから既存の機構とダブるもの等ございますので、よく研究いたします。御要望に沿いたいと思います。
  146. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に自由化の問題についてお尋ねしたいのでございます。為替・貿易の自由化は、昨年以来の問題でございますが、これは決して外国から押しつけられたからやるというものではなくて、やはりそのように考えないで、むしろ自由化というものは世界の大勢である、その大勢に順応してわが国の経済の体制を整えていく、その一環として行なうのだという、あくまで自主的に考える必要があると思うのでございまして、昨年の初めは、政府が国内の受け入れ態勢がまだ十分できておらないのに、一方的に独走するのじゃないか、自由化を民間に押しつけるのじゃないかといったようなおそれで、いろいろな論議もされたのでございますが、その後政府も各般の事情をよく御調査になりまして、そして日本の経済にほんとうに即応するように、一歩々々日本の経済の健全化といいますか、合理化をはかっていくというような意味合いでこの問題を進められておると思いますが、最近におけるこの自由化の進行の状況、これにつきまして各省、これは大蔵省、農林省、通産省にわたると思いますが、簡潔に、大体どんなふうに今自由化が進んでいるか、あるいは自由化率がどうなっているかということを御紹介願いたいと思います。
  147. 周東英雄

    ○周東国務大臣 私の所管に関するものにつきましてお答えをいたします。  お話のように自由化は決して押しつけられた形でやるのではなくて、日本経済の発展するためにぜひ、今日の世界の大勢もございますが、原則的にこれをやっていきたいと思います。しかしながら農林水産物というものは、御承知通り今日まで非常に基盤の弱いものでありまするし、その生産物の低生産性、あるいは過小農林漁業者の生産するものでありまするがゆえに、そこに国際的な競争能力の弱いというものもございます。しかしまた逆に農産物でありましても、早く自由化することによって、日本の農業、林業者、漁業者に対することはもちろんのこと、一般消費者に対しても非常によい効果をもたらすものにつきましては、今日まですでに自由化を行なっております。一番問題は、重要農産物でありまする米、麦、これからまた大いに農村のために新しい生産物としてやっていこうとする畜産、酪農というようなものにつきましては、当然これは自由化はおくれるものと思います。また最近は大豆等につきましては、これは実行に移そうといたしております。これにつきましても、今日外国の大豆と日本の大豆との間におきましては、生産費等につきまして非常に違いがございます。その間におきましては、内地の農村、大豆生産農業者の保護のために必要なる施策を講ずる。すなわち品種改良あるいは反当収量を上げるというよらないろいろな方向に向かって試験研究を促進いたしますために、本年度も相当額の予算を組みますと同時に、さしあたって三カ年間くらいはその生産費の差額というものを補給しつつ、準備が整いますれば、ことし七月ごろまでには自由化に移していこうと、かように考えております。こまかいものもございますが、時間の関係でこれだけ申し上げておきます。
  148. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 自由化の進行状況でございますが、為替面の自由化について申し上げますと、昨年六月に貿易・為替自由化計画大綱——政府がきめました自由化のプログラムにつきまして、為替面の経常取引関係の自由化は、予定通りほとんど全部実施済みでございます。資料がございますから申し上げますと、昨年の二月に戦前取得株の配当送金の自由化を行なったこと、四月一日に非居住者自由円を創設して円為替の導入を行なったこと、九月一日には外貨資金特別割当制度を廃止し、海外渡航の許可基準をまず緩和しまして、為替銀行の持高規制を緩和して、無担保借り入れのワクを撤廃し、また商社の現地借り入れワクの撤廃を行なったこと、十月になりまして、船会社の行なう外国船舶の用船のうち、短期のものの自由化を行ないました。また漁業会社の海外にある代理店等に関連する経費の送金を自由化して、十一月にユーザンスの期間を三カ月より四カ月にする、映画関係の毎月送金率を引き上げて蓄積円の送金を認めたということ、またことしの一月になりまして、海外に対する医療費、書籍購入等の雑送金の制限の自由化を行ないましたというふうに、昨年六月きめたプログラムは一応現在済んでおりますので、今後残っておりますものは、経常取引の面では、日本にある外国商社の経費の送金の緩和の問題、それから長期の用船の契約の問題、外国映画の輸入と海外渡航の自由化、こういうような問題がまだ経常取引の面で残っておりますが、これはただいま検討しておるところでございます。なお、資本取引の面につきましては、御承知のように株式元本等の送金緩和という大きい問題が残っておりますが、これは国内資本市場の発展に悪影響を及ぼさないような形で、慎重に今検討して、これからもう一歩の自由化を推進しようとしておるところであります。
  149. 椎名悦三郎

    ○椎名国務大臣 貿易自由化の原則は、すでに農林大臣からお話し申し上げた通りでございまして、私も同感であります。通産省の品目がきわめて多いのでありますが、昨年六月に大綱を決定いたしまして、着々今日までその線に沿うて実行して参ったのであります。昨年の七月には原皮の対ドル地域差別撤廃、それから三十五品目の自由化、三十八品目の自動割当制度、これは自由化に近いものであります。十月には銑鉄の対ドル差別撤廃、二百三十六品目の自由化、二百三十一品目の自動割当制移行、こういうものを行なって参ったのでございます。続いて本年の四月には、繊維原料、原綿、原毛を初めとして、早期自由化品目の大部分を自由化することを目途として、ただいませっかく検討中でございます。かようにいたしまして、大体六〇%を上回る自由化がここに実現するのではないか、かように考えております。さらに続いて自由化を実行して参りますが、三年間におおむね八〇%の自由化、それに加えて石炭、石油の自由化を、適当な施策あるいは情勢と相待って実行するということになりますれば、九〇%実行するということになります。
  150. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 大体今の御説明で自由化の状況はわかったわけでございますが、大蔵大臣にお尋ねしたいのですが、わが国の外貨は、三月末には二十億ドルになるだろうといわれております。三十五年度は、総合収支で六億ドルの黒字が見込まれておりますが、そのうちの四億八千万ドルは、資本取引における受取超過であり、その大部分は短期資金じゃないかと思う。言うまでもなく今日の情勢では、短期資金が多ければ世界経済の動向いかんによりましては、それが出ていくということは当然考えられなければならないのでありまして、国際収支運営上十分に配慮する必要があると思う。この資本取引の内容、特に本年ふえました四億数千万ドルの内容について、どんな性格のものが入っておるかということを承りたいと存じます。  それからもう一つの質問は、先般来進行しておりまして、本月の上旬からいよいよ実行される予定と聞いておりました日本のADR、米国預託証券の発行の問題でありますが、これが最近になって無期延期になったという報道がありまして、昨日並びに本日の新聞をにぎわしております。その理由としては、日本の為替管理だとか、あるいは外資法の関係だというのでございますが、この問題はもうずいぶん長きにわたって、両国の専門家がずいぶん集まって、十分に練りに練って今までやってこられたとわれわれは信じておった。だから今ごろになって為替管理がどうだとか、外資法がどうだとかいうことがどうしてもわからないのです。特にアメリカなんかのこういう係の人というものは、法律マンが多いものですから、大へんに詳しく調べるのです。私も経験があります。非常に詳しく調べてものを処理しておる。それがほとんど話がきまっておって、急に今ごろになって怪しいなんて言い出すことは、どうしてもこれは常識からいって僕はおかしいと思う。これに関してどういう実情になっておるのかということも知りたいし、それから時間の関係もありますので、要点的に今までの経過並びに今後の見通し、またこれが先ほど述べましたところのケネディ大統領のドル防衛政策の新政策に関連があるかどうか、私なんか若干勘ぐるのです。だからそういう点にも触れて大蔵大臣の御説明をいただきたいと思います。
  151. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 最初の御質問でございますが、ユーロ・ダラー、その他の外貨預金、自由預金、それから外銀からの無担保借り入れの形で導入しました短期外資、これらの総額は、昨年の十二月末現在で大体四億四千万ドルになっております。そのうちユーロ・ダラーからは約二億ドルでございますが、預金者は御承知のように英仏等西欧諸国の銀行でございます。これは短期資金でございますので、為替銀行に対しては、私ども引き揚げられる場合ということも考えて、慎重に扱うようにそれぞれ注意いたしておりますが、これが一度に引き揚げられるというような動きも、現在はございませんが、この点は十分資金の受け入れに慎重を期して参りたいと思います。  それからADRの問題でございますが、これは日本の為替管理の状態はわかっておることでございますし、今ごろそういう問題が起こるのはおかしいというお話でございましたが、これはむろんわかっておっての話し合いでございましたが、この米国証券取引委員会が米国の委託銀行を呼んで、日本の為替管理緩和するまで待つか、そうでなければ現在のままでこれを発行するとするならば、券の所有者を欺いたことにならぬように、日本の為替管理はこうなっておって、この元本の回収というためには、たとえば二年据え置いて、あとはどうなるとかいうようなことをはっきりそこへ記入してやるのでなければいけないだろうというような話があって、その手続の問題から遅延しておるということを私どもは聞いておりますが、これによって発行は無期延期になって、だめになったというような問題ではございません。そういう手続問題が解決すれば、これは発行されることになりますか、あるいはそのほかの条件、日本の為替の管理がもう少し緩和しなければならないということになるか、これは今のところはっきりわかりませんが、向こう側におきましては、今日本の為替管理の緩和を要求しておるというようなことではございませんで、日本の管理はこうなっておるのをはっきりと知らしてやるのでないと困るという話が出て、今延期になっておるという状況でございます。
  152. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に社会保障の問題についてちょっと厚生大臣にお尋ねしたいのですが、総理大臣就任以来池田内閣の政策として、社会保障に最も重点を置くということを言っておられる。自民党の中におきましても、減税よりも社会保障に重点を置くべきじゃないかというような意見も、かなり強力に唱えられているのでございます。ところが巷間におきましては、池田総理社会保障優先の考え方というものは、その後だんだん後退して、三十六年度予算の編成の過程においても、だんだんこれが小さくなっていくのだというようなことを申しております。それに対しまして池田総理は、決して後退はしておらないのだ、三十六年度予算を見てくれればわかるのだ、こういうことを強調してこられたのでございます。そこで今回でき上がりました三十六年度予算案を見ますと、一般会計における社会保障関係費、すなわち生活保護費であるとか、あるいは児童保護費あるいは身体障害者保護費、精神薄弱者保護費、国民年金費、失業対策費、結核及び精神衛生対策費等を加えますと、二千四百六十六億円に上っておる。これを前の年の当初予算の千八百三十億円に比べてみますと、六百三十六億円の増加となっておるのであります。しかもこの計数というものは、いわば狭義の社会保障費とも見るべきものでありまして、私ども自民党社会保障調査会というようなものを設けておりまして研究しておるのは、もう少し範囲を広げておるわけであります。いわば広義の社会保障になっておる。だからそのほかに広義の社会保障関係としてわれわれが取り上げて検討してきた項目、たとえば低所得者層に対する住宅対策費だとか、あるいは環境衛生の費用だとか、あるいは文部省で実行しております育英の関係の経費、あるいは要保護児童生徒のいろいろな教科書だとか、修学旅行だとか、いろいろその他めんどうを見ております。また、農林省あるいは通産省におきましても、零細な低所得者に対する特別な措置がいろいろとられておる。そういうものをずっと通算してみた。そうしますと、総額では、狭義の社会保障というものと、若干範囲を広めました社会保障というものと、両方通計いたしますと三千百三十二億というふうになります。これを三十五年度についてやはり同じ計算をしてみますと、それが二千三百四十六億円ということになりまして、差額が七百八十六億円の増加になっております。これがことしの予算でございますが、さらにそれを平年化する——よく税法では平年化ということをいいますが、社会保障関係の経費は初めの年は割に小さくて、翌年度からずっとふえてくるという経費が多いものですから、初めの年だけではわからないというので平年化してみますと、その予算がさらに百八十億円くらい増加することになる。合計いたしますと、まず九百六十億円から九百七十億円ということになりまして、千億円に近い膨大な計数になってくるわけです。そのほかに財政投融資におきましても、社会保障関係、生活環境の関係といったようなもの、こういうものの金がことしは非常なふえ方で、画期的な増額を見ておる。こういうふうに寄せて参りますと、やはり総理の言われた、予算を見てくれればわかるのだという言明が数字的にも十分に裏づけられておるということが言えると思います。この点私は民間なりジャーナリズムの方におきまして認識がまだ足りないのじゃないか、こう思いまして特に強調したいのでございますが、こういうわけで、総理のおっしゃった、予算を見てくれというのが裏づけられて、まことにうれしいのでありますが、社会保障の経費がこれほど大規模に拡張されたことは、日本の歴史始まって以来ないだろうと思います。この点は、私ども社会保障を大いに推進してきた者といたしましては、まことに喜びにたえないところでございます。  しかしながら、各項目について今度しさいに検討してみますと、なお、まだ幾多の解決さるべき問題が残っておりまして、それを若干拾い上げてみますと、第一に生活保護に関する問題でございます。生活保護の中心をなす生活扶助の保護基準の改善の問題でございますが、これは一八%の引き上げになっておる。これはいまだかつてないような大幅な引き上げでございます。しかし、過去を振り返ってみますと、国民所得の増加の状況あるいは一般の生計費の増加の状況に比べまして、保護基準の引き上げというものが常に遅遅としておくれておった。それがために一般世帯の生計費との格差が次第々々に年とともに拡大されてきております。数字をとって申しますと、昭和二十六年を一〇〇といたしますと、三十四年の国民所得は一七三・五ということになっております。それから一般の世帯の生計費というものは一七七・八ということになっておりますのに対しまして、保護世帯の生計費というものは一二四・三、こうなっておる。言いかえてみますと、国民所得が七三%強ふえておる。一般世帯の生計費が七八%上がっておるというのに対しまして、保護世帯の生計費は二四%しか上がっておらない。従って、このたび相当大幅な引き上げをせられたと申しましても、まだまだこのおくれを取り返すことのできない状況でございます。でありますから、私どもといたしましては、これは生活保護法の一番中心的な問題でございますが、今後これをさらに引き上げる必要が痛感をされるのであります。それと同時に、われわれが検討しなければならないことは、最低生活の確保という問題でありまして、最低生活というものはどの程度のことをいうのであるか、憲法の二十五条の関係もございますが、憲法の二十五条によって、健康にして文化的な最低限度の生活を保障するとなっているが、これがいつも問題になる。最低生活とはどんなものだ、これを私どもとしては極力ある程度明らかにしていく必要があると思う。真剣な研究によりまして、何とか、最低生活とはどんなものだ——たとえば、厚生大臣は最低生活と聞かれてもおそらく今はっきりした答弁ができないだろうと思うが、これをいろいろな角度から検討いたしまして、政府は、大体最低生活というのはこの程度のものを考えているのだというようなことをぜひとも検討して、これをある程度算出すると申しますか、こういうものを自分として持つ必要があると思う。一たん最低生活とはこんなものだときまりますと、今度はそれから後の問題といたしましては、こういう保護基準の引き上げなんかを年々一々予算折衝しなくても、国民所得だとか、あるいは生計費、物価などの変動にスライドして、自動的に引き上げられていくというような制度が望ましい、かように考えるわけであります。この点につきましては、昨年十月末に、生活保護基準が低く過ぎる、それで、憲法第二十五条に違反するというわけで国を訴えた人がある。それが第一審におきましては国が負けているというような例もありますから、この点について十分考えなければならないと思いますが、これに関する厚生大臣の御意見を承りたいと思います。
  153. 古井喜實

    ○古井国務大臣 生活保護基準の問題についてお尋ねでありまして、今回の引き上げ一八%はそれで十分なのかどらか、問題が残っておりはしないかというお話であります。これは、この一八%でだれしも十分だと言い切る人はないだろうと思います。私も必ずしも十分だとは思っておりません。しかし、今お話しの中にもありましたように、今までの例から申しますと、私の記憶するところでは、昭和三十二年に七・五%引き上げたというのが一番大きかったので、あとは一回に一%とか三%程度しか引き上げていなかったのを、今度はとにかく一八%一挙に引き上げる、こういうことでありまして、十分とは申しませんけれども、まあ革命的ではありますまいけれども、画期的ではあると思うのであります。そのほかにも、生活扶助の関係だけでなしに、野田委員が御承知の期末手当の点とか住宅扶助とか、あるいは教育扶助とか生業扶助、勤労控除など、生活扶助以外にも大いに改善を加えておる点もあるわけであります。予算の金額から見ましても、三十五年度の当初に比べれば、生活保護関係だけでとにかく百十億一挙にふえております。これはやはり相当なことであるといえるだろうと私は思うのであります。そこで、十分とは申しませんけれども、今回は極力努力していく、こういうことでありますので、さように御了承願います。  なお、最低生活とは何であるか、その基準は何であるかという点につきましては、これはむずかしい問題でありますので、ただ大ざっぱな議論もできないと思うのであります。そこで、御承知のように、社会福祉審議会に生活保護の分科会を特に設けまして、そうしてこの生活保護基準の合理的なものは何であるか、将来これを引き上げていくよりどころは何であるかということを審議してもらうということにして、始めておるのであります。やはりそういうよりどころを持って今後進みたいものだと思うのであります。  朝日裁判のことにつきましてもお話がありましたが、これは司法事件のことでもありますし、昭和三十一年の事実を対象としたものでありますので、司法事件として最後まで論じてみて、憲法解釈の結論を得るよりほかない、こういうように思っております。
  154. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に、国民年金の問題でございますが、これにつきましては、社会党等からいろいろな御反対もございましたが、拠出制で苦情の出ているかけ捨てにつきましては、画一的にならぬように、途中で死亡した者には死亡一時金を出すことに改められ、また国民年金支給の開始が六十五才からとなっておりますが、希望があれば五カ年繰り上げて六十才から減額支給する道も開かれた。また母子、障害年金につきましては、加入してから一年以後で事故があれば支給してもらえる。こういうような幾多の改正が行なわれました。まことにけっこうだと思うのでございます。  それからその次に無拠出の福祉年金の問題でございますが、これにつきましても準母子等今まであげられております欠陥が是正をされております。ただ公的年金の受給者で低所得の者に対する国民年金の併給の問題でございますが、これは併給の方針は認められた。そしてその実施に要する調査費も計上された。ただ年金支給に要する経費が計上されなかったというのは、私どもとしては遺憾に思うのであります。しかし支給は、現実のお金を渡すということは来年度になりましても、制度としては必ず本年度内にスタートするように特に政府側においても善処を願いたいと思うのであります。  それから次に私申し上げたいのは、医療問題でございます。結核、精神病患者に対しまして、命令入所あるいは措置入院の場合に、全額国庫負担をするということになりました。それがために結核命令入所患者の経費は五十一億円といいますから、三十五年度に比べまして八倍というふえ方であります。また精神病の措置入院の経費は三十八億円というわけで、前年度に比べますと、四倍の飛躍的な増加をしたということは、私は社会保障政策においても大いに特筆すべきことだと思うのです。非常な画期的な増額であって、われわれとしては非常に喜んでおるわけであります。しかし、国民健康保険の給付率の引き上げの問題になりますと、結核、精神病について引き上げ七割ということになりましたが、世帯主に限られておるということは、いかにも画龍点睛を欠くうらみがありまして、特に農村地帯へ行けば家族の数も非常に多い。そういうような点から申しまして、この点は非常に遺憾に思われる次第でございます。  なお、生活保護の適用を受けているかわいそうな方々について見ますと、生活保護の対象になっている人々の結核罹病率というものは、普通人の十一倍も結核にかかるということは、生活維持どころか、生存の維持すら困難だ。ろうそくのようにだんだん自分が細っていくような状態にあるわけで、まことにお気の毒な状態でございますから、こういうような事実から申しましても、先ほどすでに触れました基準の問題でございますが、生活保護基準の一八%というものは引き上げが不十分でございますから、大幅に引き上げる必要があると痛感される次第でございます。  そこで医療費について今やかましくなっておりますのは、国民皆保険については、医療機関の協力を得なければ円滑な実施はできない。医療費値上げに関連して日本医師会と厚生省が対立をしておりまして、なかなか話がつかない。それで一応総医療費の一〇%引き上げに要する経費を三十六年度予算に計上して、これの配分は中央医療協議会の決定にまかせるということになっている。これに対しまして、医師会の方では非常に不満で、保険医辞退という実力行使に出ようというようなことをきめられておりますが、一体この保険医辞退という実力行使ですが、これは今どんなふうに実際行なわれているかということを承りたい。  なおこの一〇%の引き上げは四百三十億円になると思いますが、総医療費が四千三百億円くらいですから、その一〇%で四百三十億、予算には七十四億円ということが計上をされておりまして、これは平年度化すれば百億くらいになりまして、百億と四百三十億の差額、その残りの負担というものは一体どういうふうに処理されるか、これに対しても厚生大臣からお話をいただきたい。  それから次に、お医者さんというのは、各種の業態の中で最高の知識階級であると私は思うのです。ものに対する理解力も相当持っておられるはずだと思います。われわれの友人関係その他先輩にもずいぶんお医者さんが多いのですが、とにかく最高の知識階級でしょう、りっぱな方ばかりです。そのお医者さんと厚生省とは昔から非常に深いきわめて緊密な関係にあられるわけです。それが最近になりまして、その間にみぞができて、大へんな対立、激突の状態になってしまっております。われわれから見て、どこにその原因があるか、非常にいぶかりたくなるのであります。おそらく国民全体もそうであると思います。今日保険医療の制度が自由診療を封じておる、また制限診療を強制しておる、あるいは現在の保険の医療制度というものは何でも量が中心であって、質を無視した画一主義に堕しておる、あるいはまた日雇い健康保険、船員保険中の短期給付あるいは政府管掌の健康保険などにつきましては、保険者と監督官庁とが同じ厚生省でやっておるという機構上の問題、また厚生省はどうも病院を中心の考え方をするのではなかろうかという疑い、医療費そのものがまた安過ぎるのではないか、そうしてお医者さんに過重に負担をかけておるのではないかなど、いろいろ言われておるのでございますが、これに関して厚生大臣ももう相当御勉強なさったと思いますが、どういうふうに考えられるか、大いにわれわれを啓蒙していただきたいと思います。この点に関する御説明をいただきたいと思います。  なお、社会保障制度について厚生大臣は長期計画を立てて総合的に体系を作り上げる必要があるということを考えておられるようであります。われわれもその考え方には非常に賛成です。社会保障制度というものがほんとうに国策の中心となって、政府義務として取り上げられるようになったのは、これは新憲法下なんです。でありますから、生まれからいえば、社会保障制度というものは新しいのであります。しかも国民年金制度の実施によってようやく社会保障制度というものが、その骨組み、骨格ができ上がったばかりだということもありまして、ほかの制度と比べますと、社会保障制度というものがまだ全体の体系ができておらない。ばらばらというと語弊がありますが、極端に言えば、ばらばら。その間の脈絡とか、その間のバランスというものがよくとれておらない。そこにいろいろめんどうな問題が起こる根因があると思われる。でありますから、明敏にして有能なるところの古井さんが厚生大臣になられましたので、どうかこの社会保障制度というものを根本的に検討されまして、そうしていろいろ総合的に組み上げて、制度的にまとめあげていって、そうしてこれに対して長期計画を立てる。こういうようなことはぜひやっていただきたい。こう思うのでありますが、これについて若干の構想をお持ちのようでございますから、これをこの際ここで御説明を願いたいと存じます。
  155. 古井喜實

    ○古井国務大臣 たくさんの問題についてお尋ねでありまして、まず初めに国民年金の問題であります。これにつきましては、お話のように、考えてみるべき点、改善すべき点も重々あることでありますから、今国会に、この際として考え改正案をぜひ出したいと思っておるわけであります。延期せよという御意見もあることでありますけれども、不十分な点は改善し、拡充しつつ前進していくのが道だと思っておりますので、手直ししつつ先き向きにいく、こういう考え方で進みたいと思うのであります。  それから、軍人恩給等公的年金と国民年金と併給の問題でありますが、今回の予算にこれが実施の予算を掲げることができなかったのは、他の機会にも申しましたように、まことに心残りであります。しかし、時期がずれただけで、やるという方針には変わりがありませんので、今後よく検討して、なるべく早く実施の運びに持っていきたいものだと思っておるところであります。  結核、精神病対策につきましては、お話のように、とにかく今回結核と精神病だけは国保でも七割給付というところにしようというところにいったのでありまして、これも結核や精神病はお互いに一番の悩みでありますから、大きなことだと思います。しかし、次の段階では、何もこの二つに限らぬで、幅も何とか広げたいものである、また世帯主に限らず家族全員にまで広げたいものであると思うのであります。ことに国保の段階において、世帯主と家族と差別をつけるということは、これはどうも気が残るのであります。何とかこれは家族まで早く及ぼすように努力をしていきたいと考えております。  次に医療費の問題につきましていろいろお尋ねでありました。医師会と厚生省が対立していがみ合っておる、こういうわけでありますが、これはまことにまずいと思うのであります。何とか解消したいと思います。で、それについては医師会の方にも御理解を願わなければならぬ点もありますが、私どもの方で考え直すべき点は考え直さなければならぬ。そうしてお互いに協力して日本の医療の進歩をはからなければならぬと思うのであります。いがみ合っておって、力をそぎ合っておるという姿は、どこに原因があろうと、だれの責任であろうと、いけないと思うのであります。私はそう思いますので、何とかこの問題を解決したいと思って、実は一生懸命でおるのでありますけれども、きょうまでまだ皆さんに申し上げるほどの成果を得ておりません。ぜひ努力をして解決したいと思っております。今日の医師会関係の実力行使といいますか、の問題でありますが、これはまあ医師会の方のいわゆる言い分というものもいろいろあるようであります。あるようでありますが、こい願わくは、穏やかな話し合い、それから相手に対する説得、そしてそれでもどうにもならぬということ、そこまでを踏まないで実力行使というのは飛躍が過ぎるではないか、私どもも大きに考えておる点もあるのでありますけれども、初めからもうこういうふうにきまっておる、自分たちの考えに合わぬにきまっておるときめてかかって、すぐに実力行使というのは、少し飛躍が過ぎるのではないかという感じを持っておるのであります。しかし、とにもかくにも患者の人に迷惑をかけてもいけませんし、それから国保などの今後に対して悪い結果を残してはいけませんので、これをいい工合におさめるように、私の方として考えるべきことは考えて、何とかよい結果を得たいと今苦心をしておる最中であります。  なお、医療費の引き上げに伴って、いろいろ負担が、起こるわけであります。患者の負担も増すわけであります。それから保険団体の負担も増すわけであります。受け取り側の方は多いほどよいかもしれませんけれども、支払い側の方の身にもなってみなければならぬのであります。今度一〇%七月から医療費を引き上げるといたしまして、医療費が二百十七億ふえるわけであります。それに対して患者負担が六十五億、これはかかる患者が自分で負担しなければならぬことになるのであります。引き上げの反面であります。保険団体の方では、このために保険料や掛金を増徴するということは避けさしたい、こういうふうに考えましたために、普通ならば保険団体が自分で負担すべき分に対しても、今回特に二十億五千万国費を出すことにいたしました。国が本来持つべき分が二十五億でありますが、そのほかにただいまの二十億五千万の金を出しまして、そして保険料などの増徴をしないで済むようにしたいという措置を予算の上でも講じておるわけであります。一番問題は国保でありますけれども、国保におきましても、保険料を増徴しなくても大体済みはしないか。しいて厳密にそろばんをはじいてみても、被保険者一人当たり一年に十円の引き上げを数字の上ですれば足る。一年で十円、つまり引き上げをしないでも大体済みはしないか、それだけの措置は講じておるわけであります。  なお、引き上げの問題に関連して、いろいろお話もございましたが、引き上げの幅の一〇%と申しますことは、ただつかみで一〇%と言ったのではありませんので、昭和二十七年の三月でありますか、医業実態調査をやったのがあるのであります。不幸にしてその後は医師会が協力してくれないために、実態調査ができないで来ております。今年度も実態調査予算が掲げられておりますけれども、協力がしてもらえないために、今日まで実行ができないのであります。いささか基礎は古いのでありますけれども、二十七年の実態調査をもとにして、それからその後における物価とか賃金とか生計費とかいうものの上昇率とか、あるいは患者、従業員の変動とか、そういうことを考慮して、そうして延ばしていって、今日これだけの程度の不足があるじゃないか、これだけ足さなければ経済が成り立たないじゃないかというものを推算したものが、医療費全体として一〇%アップのもとになったわけであります。これだけありますれば、全体としてはカバーできる、こういうふうに考えるわけであります。個々の病院とか診療所の問題になりますと、いろいろ事情が違います。ですから、一律に上げたら、すべての病院、診療所に満足を与えるかどうかはわかりません。ちょうど地方財政で財源が全体としては三百億足りない。それだけ足しましても、団体によって事情が違います。一律に配ったら満足できるかどうかは問題であります。地方財政を例にとりましてもですね。同じことではありませんけれども……。そこで、この幅の中で大多数の病院や診療所の経済が成り立つようにしなければならぬと思うわけであります。これが、一つには、これを具体的に点数単価にどう盛るかという問題にもなってくるのであります。この点は法の定める通りに、法に従って例の医療協議会に諮ってきめなければならぬ。諮らなければならぬことになっておるのでありますから、諮って、十分専門的に審議してもらってきめたいものだ、こういうふうに考えておるわけであります。  最後に社会保障の長期計画のことについてでありますが、お話と同じふうに私も感じておるのであります。いわば社会保障関係は、今日まで馬車馬のように前向きに行けばよいというので、周囲を考えないでまっしぐらに突進してきたような格好で、よく振り返ってみて、全体的にバランスがとれているかよく考えなければならぬ、体系的な整備を考えなければならぬ段階にそろそろ来たと思うのであります。そして将来、この先は思いつき、場当たりでなしに、計画的に前進させていくように考えなければならぬ、そういう時期だと思うのであります。そこで何とかこの長期計画を立てたいものだ、こういうことで今その具体的な方法、構想を練っておるようなことでありますから、まだ今日申し上げる段取りに至っておりませんけれども考えはそこに置いております。
  156. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に、労働大臣と通産大臣にお尋ねするわけでありますが、最近の経済の成長に伴いまして、雇用状態が改善されたことは非常に喜ぶべきことだと思います。しかしながらその一面、中小企業の求人難、それから中年、老年層の就職困難、こういうようなまことに厄介な問題が起こって参っております。先般通産省で通産局長会議を開かれましたときのことと思いますが、通産省の通産局の調べによりますと、従業員が五百人以上の企業における求人充足状況は七五%、ところが小さい十四人未満の工場について調べるというと、それが二四%しか充足されない、こういうような低率を示しているという報告であります。従って中小企業とか零細企業におきましては、大企業以上の賃金でも払わない限り、なかなか労働力が得られないというふうに非常な困難な状態になってきておる。人が得られない。しいて雇おうとすればたくさんの金を払わなければならないというわけで、今日中小企業の悩みはこの求人問題に集中されているのじゃないか。われわれもいろんな人に会いますとこの点を一番強く訴えられる。人がいなくては中小企業はもう成り立たない。この点について、今後この中小企業の求人難を打開するために一体どういうふうに考えるかということの御意見を承りたいと思う。  中小企業に対する対策は、政府においても党においても非常に熱心に今まで推進してきております。物の足りないときには、大企業には原材料が手に入るが、中小企業には入らないというようなことにつきましては、これを打開して参りまして、今日では割合に問題はないかと思う。しかしながら、金融の問題、税制の問題、これにつきましては、御承知のように、税制改正のたびごとに中小企業、中小所得者の負担軽減のためにはわれわれは最大の努力をして参っておりまして、私はこの点については中小企業者も認めていただけるだろうと思う。金融の面につきましては、中小企業を相手にする国民金融公庫、中小企業金融公庫あるいは商工中金というような金融機関も整備して参りました。また相互銀行であるとか信用金庫というような民間の中小企業向けの金融機関もだんだんと充実して参りまして、最近における各種銀行間における状況を比較してみますと、資金の増加などは大銀行などよりは中小企業を相手にする信用金庫あるいは相互銀行の預金等の資金の増加の方が多い。その方がはるかに大きな伸び率を示しておる、こういうふうなことになって参っております。こういうわけで金融面におきましても着々としてその体制が整っておる。ところが、これが人の問題になるとだめになる。人の問題になると一体どういう制度があるか、中小企業向けの人を確保するためにはどういう制度があるか、退職金のような問題もございましたが、人を得るという点になりますと、なかなか制度的に非常に不完備じゃないか、こういうふうに思われる節がある。これにつきまして労働大臣と通産大臣の御意見を承りたい。  もう一つ中、老年者の問題でございますが、若い新卒の人々の就職は困難ではないと思います。大体におきましていろんな政府の施策、民間の協力によりまして大体目鼻がついてきておると思う。問題は中、老年の人の就職でありまして、最近のごとく経済界の変動が激しいときには、職業戦線からやむなく投げ出される者が非常に多い。こういう中、老年層の再訓練といってもなかなかむずかしいし、再訓練いたしましても、若い人の方がよく働くとか、元気がいいとか、使いやすいとかいうようなわけで、なかなか就職ができない状況である。まあたとい就職いたしましても、若い人並みの賃金しかもらえないということでは、家族をかかえておる中老年者としてはまことに大きな悩みとなるのであります。加うるに戦後人間の寿命が伸びまして、労働年令というものはどんどん伸びてくる傾向にありますので、問題はいよいよ深刻になるような様相を帯びておる。この点につきましては、雇用関係といたしましては一番厄介な問題でございますけれども、どうしてもこれは立ち向かわなければならない、立ち向かって解決しなければならない問題だ、かように考えます。今までの説明では、私以外の人に労働大臣がされた説明では、一応の説明という程度にとどまっておって、ほんとうにすぱっと割れるような、よく考えているなとわれわれを納得させるような説明はまだ承っておらない。この点について一つ労働大臣のお考えを承りたい、こう思います。
  157. 石田博英

    ○石田国務大臣 ただいま御質問の中、老年層の就職の問題と、それから中小企業の求人難の問題、これはある意味においては相関関係を持っておるようにも思いまするし、また相関関係を持たせて処理しなければならないのじゃないかとも考えておるわけであります。ごく簡単に現状を申しますと、いわゆる就業者総数は昨年、三十五年の四月から十一月までの間の平均をとりますと、四千五百七十七万という数字が出て参りまして、これは前年同期比九十九万余の増加であります。そのうちで雇用者数は二千二百二十二万で百二十三万程度の増、その差、残っておりますのが自家営業者、家族労働者でございます。二千三百五十五万で、二十四、五万の減、こういうことになるわけであります。この二十四、五万の減ということは、日本の雇用構造というものがそれだけ近代化されたといえるわけでありまして、一方そういう雇用状態が漸次近代化、改善されておる反面、ただいま御指摘のようなことのほかにいろいろなアンバランスがございます。地域的な技術的なアンバランスがございます。  新規学校卒業者は、三十五年の三月においても深刻な問題でありましたが、三十六年になりますと、これがより一そう深刻になりまして、中等学校の卒業者で就職を希望いたします者の数は三十一、二万ありますが、これに対して現在まで求人総数が九十一、二万という数字に上っております。それから高等学校を卒業いたしまして就職を希望いたします者が五十五万であります。これに対して九十八万というふうに上っておりまして、若い人の就職という問題は、今申しました通り、大体できるどころの騒ぎではなくて、非常に大へんな競争であります。しかし、その逆に中、高年層が非常に困難でありますが、その大きなあおりを食いまして、中小企業の求人難というものは当然出てきておるのであります。これを解決いたしまする方法は、何と申しましても、中小企業の労働条件をよくする以外の方法はないのでありまして、労働条件をよくしないで、政府の施策だけで労働条件の悪いところに無理に引っぱっていくことはできないのでありますから、それに対しましては、中小企業の労働条件を向上いたさせまするための所要の施策を積極的に講ずる。中小企業の経営者自身が経営の安定のために、よりよき安定した労働力を確保するために、自主的な努力をしてもらうことは当然であります。大体規模別賃金格差は生産性の差に比例をいたしておるのでありますから、その生産性の差を上げるためにも、むしろ安定した労働力が必要なんだという認識の上に立って、やはり労働条件の向上に御協力をいただきたい。これには中小企業の経営者が単独でできない場合、政府が所要の援助を与えるのは当然であります。そこで私どもは、週休制あるいは定時閉店制、あるいは失業保険、労災保険、健康保険その他の社会保険の小規模事業場への拡張適用、さらに先年実施せられました最低賃金制の普及、また退職金共済制度というような、現在ございます制度の行政効果を上げますために、毎年一定期間、月間を設けまして強力に働きかけを行ないたいと思っておるのであります。なお、本年度新たに発足したものといたしましては、中小企業の経営者が、あるいは同業組合、あるいはまた地域組合等によって従業員の福祉の増進のために住宅その他の建設を行なおうといたします場合、厚生年金その他から約三十億円貸出額をつぎまして、中小企業の勤労者の労働条件の向上に資したいと考えておるわけであります。一方、雇い主側が非常に分散をいたしておりまする結果、その労働条件その他に非常に差が出て参りましたり、あるいはそのために新しく働こうと思う人に不安が生じて参ることに対する処置といたしましては、数年前から集団就職を非常に奨励をいたしておりまして、これは相当の成果が上がっておるのであります。しかし現状におきましては、就業規則も、あるいはまた一般的な労働条件の確立とでも申しますか、昔ながらのいわゆる家族主義、親心主義というものが依然として残っておるところもありますので、これに対する啓蒙に努めまして、近代的労使関係の確立と労働条件の向上をはかることは何よりの前提であると考えておる次第であります。  中、高年層の就職につきましては、中小企業の場合にも、大企業その他と同じように、新規学校卒業者ばかりをねらわないで、やはり中、高年層の分野、あるいはさらに先ほど御指摘の経済界の変動によって生じて参りまする摩擦的な雇用の変動、そういうことで出て参りまする就職希望者を雇用することについても新しい理解の目を開いてもらうようにして参りたいと思っておるわけであります。そこで中、高年層の就職希望者に対しましては、ただいま労働省は日経連その他と協力をいたしまして、中、高年層に適する職種の調査を始めているのでありまして、相当数の職種が、現在若年層がこれに就業いたしておりますけれども、中、高年層で十分代替し得るものと私ども考えておるのでありまして、この調査と並行いたしまして、新しい職場の造出に努めていきたいと思っておるわけであります。ただ中、高年層の就職が困難な背景といたしまして、わが国の特殊な雇用制度というものがあげられると思います。いわゆる封鎖的な雇用制度、それから年功序列型の賃金体系というようなものがやはり中、高年層の就職困難の背景にもなっておりまして、ただいまお話しのように、たまたま仕事があっても、若い人と同じ賃金では家族を養えないというお話がございますが、やはり新しい雇用体系というものは、同一労働に対して同一賃金を支払うべきでありまして、そういう場合におきましては家族の就職あっせん等にも努力をすることによって、そういう問題の解決をはかっていかなければならぬ。現に石炭離職者に対しましては、高年齢層の人については、むしろその家族の就職のあっせんということに努力を払うことによって双方の仕事を探す効果を上げているという面もあるのでありまして、こういうことをあわせてやって参ります。しかし基本的には雇用体系あるいは雇用制度あるいは賃金体系というものについての再検討をいたさなければなりませんので、これについても所要の努力をいたしているところでございます。
  158. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に金融政策につきまして大蔵大臣にお尋ねしたいのであります。  池田内閣が成立して以来の懸案でありました金利引き下げの問題は、一月二十四日に郵便貯金の利下げ方針の決定に次ぎまして、二十五日に日銀公定歩合と市中貸し出し金利の同時引き下げが決定されたことによってようやく解決の緒についたのであります。今度の利下げは、終戦後のインフレ収束の過程、それからその後の経済不安期を通じて続けてきました高金利政策をやめて、日本経済待望の低金利政策を発足せしめた意味におきましてきわめて重要視すべきものだと思うのでございます。  そこでお伺いいたしたいのは、第一には、今度の利下げは政策的利下げだといわれておりますが、その点についてお尋ねしたいのであります。利下げは景気対策としての利下げではなくて、貿易為替の自由化に対処して、わが国金利の国際水準へのさや寄せを行ない、企業の国際的な競争力を強化する、そうして高度成長政策の円滑な遂行に役立たせるのがねらいだ、かように考えられております。その意味におきまして時宜を得た適切な措置と申し得ましょう。しかし引き下げ決定に至る間において、新聞紙上その他の報道するところによりますと、日本銀行が賛成しないのに政府が強引に押し切って、いわゆる日銀の中立性を侵したという批判があるのでございます。私は、これはどうかと思うのでございますが、この点に関する実情をお話しをいただきたいと思います。  第二は、利下げに反対をする人々は、この反対の理由といたしまして、資金の需給関係からいたしますと、膨大なる予算や経済高度成長を背景といたしまして、資金の需要が旺盛で、設備投資など行き過ぎのおそれがある現在、利下げをしてさらにそれを刺激するようなことはなすべきでないという。また資金蓄積を今日非常に必要としておりますが、この資金蓄積を必要とするときに、あえて利下げをいたしまして、貯蓄意欲にマイナスの影響を与えることは誤っておるのではないかということがあげられておるのであります。私は現在の日本の置かれている国際的な地位、また日本経済の発展という見地からいたしますと、利下げはこの際踏み切るべきだと考えられますが、この反対見解につきまして政府はどう考えておられるか。この二点につきまして、まず大蔵大臣の御意見を承りたいと存じます。
  159. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今回の公定歩合の引き下げ、市中銀行の貸し出し金利の引き下げというのは、確かに仰せの通り政策的なものでございます。日本の企業が国際競争力を増すために、金利水準を国際水準にさや寄せしようという意図を持ったものでございますので、その点においてははっきり政策的なものであると思いますが、この政策につきましては、すでに私どもは、国会におきましてもそういう方向をはっきり申し上げましたし、また民間の関係団体の席においても、そういう方向を期待するということをしばしば私どもは申しておりました。この問題は、自由化を控えた今の日本経済の要請でもございますので、そういう点を十分に考えられて、民間が自主的に政府の期待に沿って対処したということでございまして、私どもは特別に日銀の中立性を侵してどうこうというようなことをした事実はございません。  それから今資金需要の非常に強いときに利下げが適切かどうかということでございますが、こういう金利水準を下げよう、レベル・ダウンをしようというような政策は、なかなか日本のように経済の成長が早く、資金需要が強いというのが最近の常態になっておるときでございますから、この資金がゆるんだときを見てやろうというようなことをしたら、これはいつになってもなかなかできないことでございますし、若干の無理が伴わなければなかなかできない大きい政策だと思いますが、幸いにして最近日本の金融は年末から年始にかけても順調に推移しておりますし、昨年の夏以来若干金融梗塞の時代がございましたが、あのときは日銀のオペレーション、それに引き続いて政府の一次補正、予算補正等によって相当の支払いが出ましたために、引き揚げ超過が緩和された。そして金融が落ちついておるという現在のときでございますので、こういうことを実行するのには私は大体適当な時期ではないかと思っております。また設備投資の事情を見ましても、昭和三十三年度、四年度には若干過剰投資の傾向が見られたことは事実でございますが、この三十五年度の設備投資を見ますというと、ほんとうのいわゆる合理化のための設備更新というようなところに重点が置かれて、各社が競争する、同じようなことをやるという過剰投資的な投資というものがこの三十五年度は非常に少なかったというのも特徴でございますし、これは経済界にそういうものに対する良識と自重が相当できておるというふうに思われますので、私は、今回のこの程度の金利引き下げによってこれが非常に悪い方面に刺激を与える、こういう心配は大体ないのではないかと思っております。
  160. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 貸し出しの金利が下げられますと、それに照応いたしまして、伝えられておるところによりますと預金の金利の引き下げをいたす、その程度が一年定期と六カ月定期は年五厘、三カ月定期は年三厘の割合でそれぞれ利下げをすると言っておりますが、そういうことが伝えられておりますが、その通り実行されるのかどうか、この点をお尋ねしたい。  また預金の利下げに伴いまして貸付信託の金利、それから相互銀行、信用金庫の預金利子、公社債の利回り等の引き下げはいつ行なわれるか、またどんなスケジュールでやるお考えであるか、これもお伺いをいたしたいと思います。なお、預貯金利子の課税に対する特別措置の延長というものと、今回の預金利子の引き下げとの間には関連性があるというふうにも認められますが、その点についてはどういうふうに大蔵大臣はお考えか、この点もお話しを願いたいと思います。
  161. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 預金金利の問題につきましては、御承知通り最高限は日本銀行のポリシー・ボードが金利調整審議会に諮問して、その上できめる事項になっておりますので、もちろん貸し出し金利引き下げに伴って預金金利の引き下げをやることになると思いますが、今ここで私からどれだけ下げる見込みかということは答えられないのではないかと思います。  特別措置の延長というものは、これは直接には関係ございませんが、しかしまだ日本で資本の蓄積を奨励する事情というものは解消しておりませんので、そういう点を考えて延長の措置をとろうとしたものでございます。
  162. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 わが国の金利は御承知のように外国に比べて高いのであります。公定歩合を見ましても、アメリカが三分、イギリスが五分、ドイツ、イタリア、フランスの三国におきましては三分五厘、いずれも日本より相当低いのであります。従いまして、私は日本の金利については将来もっと下げるべきである、公定歩合などももっと下げるべきであるというように考えるのでありますが、その点についての大蔵大臣の御意見。  それからまた市中貸し出し金利について見ますと、アメリカは別といたしまして、その他の国との比較においては必ずしも高くないという人もあるわけです。私も若干高いのじゃないかと思いますが、この市中金利の問題は非常にめんどうでございますので、的確な比較ができないのか、そんなに高くないのだという人もございますが、私はやはり若干高いと思う。特に日本におきましては、日本の企業というものは借金が非常に多い。借り入れ資本に依存することが、これは世界でも一番強いのではないかと思われるほど強い。従いまして金利負担が非常に大きくなっております。自己資本の充実をはかる必要がありますが、貸し出し金利の引き下げもさらに考慮する必要があると思っておりますが、この点に関する大蔵大臣の御意見を承りたい。  なお公定歩合の引き下げとドル防衛との関係でございますが、アメリカがさきにドル防衛の措置をとったときに、短期資金がアメリカから流れ出すのを防ぐために、イギリス、ドイツに対しまして公定歩合の引き下げを要請して引き下げてもらった事実があるのでございます。日本に対して同じような要請があったかどうか、日本の金融市場は外国の金融市場とそれほど深い  つながりを持っておりませんので、イギリスやドイツ対アメリカというような関係とは異なっておるのでございますが、自由諸国の中心通貨としてのドルの地位から見まして、これが防衛に協力することは必要であり、日米間の関係からしても当然のこととも考えておりますが、これについて何らかの要請があったかどうか、これについて大蔵大臣に事実をお尋ねをする次第でございます。
  163. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 国際金利水準に比べまして、一厘引き下げをやりましても、まだ日本の金利水準は割高になっておるものでございまするので、今後金利引き下げのできる環境をさらに作るという方向に努力しまして、順次下げる方向へ進めていきたいと考えております。  それからこの問題はさっきお話ししましたように、もう政策的な問題でございまして、政府も民間も昨年来こういう環境を作り、こういう機運を実現していくことに努力して、ようやく今年になってこれが実現したものでございまして、ドル防衛問題はその後にむしろ起こったことでございまして、今度の金利水準引き下げとは直接の関係はございません。またそういう要請をアメリカから受けたことも今日までございません。
  164. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に私は成長政策に対応する通貨の供給方式についてお尋ねしたいと思うのであります。従来の資金供給の方式は御承知のように日銀貸し出しというものが中心である。日銀貸し出しは、日本銀行としてはその貸し出す際に窓口規制という外国にも例を見ない方法で需給の調節をやっておりますが、これは相手の銀行の信用とか資金事情というものをもとにして  コントロールする。従って経済界全体を見るよりも、相手の銀行の信用とか資金事情というものによってコントロールするので、経済の実勢に応じた供給は第二義的となるおそれがあるのでございます。従って、必要なところへ必要なときに必要な資金が供給されないといううらみがございます。大銀行は常にオーバー・ローンの状態にございますし、また季節的に必要な資金需要に対しまして、弾力的に供給するということが必ずしも円滑になされていない。あるいはそれがためにコールに走り、そしてコール・レートがばかに高い、異常高をもたらしまして、金利体系の混乱を引き起こすことが、しばしばあるのであります。従いましてこういうような弊害を取り除くため、またこの資金を調達するルートをもっと合理的なものにするために、いわゆる買いオペレーション方式というものを、すみやかにわが国においても確立して、資金の供給を円滑にすべきであると考えるのでございます。買いオペレーションの対象としましては、国債を主とすることはもちろんでありますが、政府の保証債、金融債、電力債などもあげられております。この買いオペレーション方式の確立について大蔵大臣はどういうふうに考えておられるか、御所見を承りたいと存じます。
  165. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 成長政策に対応する通貨の円滑な供給方式として、買いオペレーションを併用するということは、きわめて私は適当なことじゃないかと思っておりますが、しかしこれは具体的にいつ、どういう幅においてというようなものは、これは金融情勢に応じて日本銀行が判断して行ならべきことだろうと思います。
  166. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に公社債投信制度の活用についてお尋ねしたいのでありますが、最近公社債の投資信託が発足をして、すばらしい成績を上げておりますることは御承知通りで、新聞をにぎわしております。従来社債の個人消化につきましては、社債市場の育成の必要というものを説く、社債市場の育成は必要だ必要だという必要を説くだけでありまして、一向に実績が上がっておらなかったのでありますが、公社債投信の出現によりまして、間接ながら個人の社債投資が伸び、社債不足の声すら聞かれるようになったのであります。こうして社債の消化が促進されますれば、社債による長期資金の調達は一そう容易となりまして、短期借入金を切りかえ切りかえしておりました不安定な従来の資金調達の状態はだんだんと取り除かれてきたと思います。その意味において、公社債投資信託による公社債の個人消化は、大いにこれを助長すべきものと思います。もっとも投資信託会社の過当競争というようなものにつきましては十分警戒をし、注意をする必要があると思いますが、公社債の間接の個人消化というようなものについては、これを適当なる指導のもとに助長すべきものではないか、かように考えられますが、これに対する大蔵大臣の御意見を伺いたい。  もう一つは支払い配当に対する法人税の軽減の問題であります。企業が資金を調達する場合に、増資によるよりも借り入れによった方が税制上有利である、これは御存じの通り。それがために、とかく借入金中心となっていますことは御承知通りでございますが、これをこのままに放置しておいては、いつまでたっても資本構成の是正は困難であります。企業の体質改善というものは期待されません。そこで増資による資金調達の不利を緩和するために、今度の税制改正で支払い配当に対する法人税を、普通法人税の三八%から二八%に引き下げることになったのでございます。ついては、政府はもう一歩を進めまして、支払い配当に対する法人税をさらに軽減する意思はないかということをお伺いいたしたい。ただこの場合考えなければならないことは、この措置では、株主に対しては税負担が今までよりも加重されるのでございまして、株式投資意欲が多少ともそがれるおそれはないかという点も考慮しつつ、政府はどう考えていかれるか、この点もお伺いいたしたいと存じます。
  167. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 公社債信託制度を今度認可いたしましたのは、御承知のように、社債の個人消化を間接的に促進して、社債発行によって企業の長期資金の調達を広げようということと、同時に公社債の流通市場を育成しようという意図からこれを許可したものでございますが、早々でありながら成績は非常によくいっておりますので、今後とも公社債信託の伸びることを私どもは好ましいことだと思っております。  それから、今の配当に対する税の問題でございますが、配当に対する個人、法人の二重課税調整の問題は実にむずかしい問題で、今度の税制改正でも相当議論を尽くしましたが、なかなか一挙に解決するいい結論が出ませんでした。税制調査会におきましてもそうでございますし、また大蔵省におきましてもいろいろ検討いたしましたが、今度は、この国会に提案した程度の暫定的な改正案にとどめたわけでございますが、今後この問題はもう少し徹底的な検討を経て、仰せの通りの方向の結論をこの次は出したいと考えております。
  168. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 次に株式市場対策についてお尋ねしたいのでありますが、最近株価はますます強調を示しまして、ダウ平均も千五百円を上回るというような状況になって参りました。政府はこれに対してどう対処する考えでおるか。今までも当局は株価の暴騰に際しましては、証拠金の引き上げ、そのほかの規制措置をとって参りましたが、一般的なジリ高の場合にはこの手はなかなか使うことは困難なことが多いのであります。そこで第一に、なぜ株が上がるか、それを検討することが必要でございますが、経済成長を買っているというのも私は事実であろうと思う。特に池田内閣に対する信頼も非常に有力な原因であろう、かように私は思うのです。しかし何と申しましても、株式の不足が根本ではなかろうかと思うのでありまして、政府はこれをどう見ておられるか。私は株式の不足が大きな原因だと思う。そこで、もし株式の不足が根本的原因だとすれば、株式の供給をふやすということをしなければならぬ。そうすれば株価の暴騰を相当防げると思うのです。株式の供給をふやす方法といたしまして、さきに述べましたように、支払い配当に対する法人税の軽減ももちろんその一つでございますが、株式の時価発行も一つの方法じゃないか、あるいはまた再評価積立金の資本組み入れもその一つでございます。ところで再評価積立金の資本組み入れば、一体その後どうなっておるか。また低金利政策の発足に伴いまして、株式配当を多少とも引き下げるというようなことを考えておられるか、こういうような点についてお伺いいたしたいと思います。
  169. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 ただいま証券取引審議会においてこの増資の促進、株式の供給量をふやすという方策を総合的に研究しているところでございますし、また政府におきましても再評価積立金の資本組み入れ——現在まだ三、四千億の組み入れをしているだけで、あと八、九千億はこの評価益の積み立てばそのまま資本に組み入れずに残っておる状態でございますので、これをなるべく早く資本に繰り入れるような方向に持っていきたい、近くこれについて成案を得る予定になっております。
  170. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 最後の質問になるわけでございますが、今度は不動産についてちょっとお伺いをしたいと思います。  最近の顕著な現象は不動産価格の暴騰であると思います。近ごろにおける市街地の価格の高騰は文字通り飛躍的でございまして、日本不動産研究所、これは渋沢敬三先生が会長であるかと思いますが、私はこの不動産研究所を非常によく知っておるし、日本で最も信頼すべき機関でありますが、この調べによりますと、昭和三十年三月を一〇〇として、昨年の九月は三三〇、すなわち三・三倍の暴騰であります。また同じ期間に一般の卸売物価はわずかに二・七%しか上がっておらない。従って、その間における市街地価格の急騰がいかに著しいかがおわかりになるだろうと思う。また同じ市街地でも、特に工業地の上昇が顕著でありまして、三十年三月を一〇〇といたしまして三五二、すなわち三・五倍となっております。これは言うまでもなく、近年のわが国経済の異常な発展に伴い、工業用地の需要がきわめて旺盛であることを示しておるのでございます。また、これをさらに六大都市だけについて見ますと、その値上がりはさらに顕著でありまして、三十年の三月を一〇〇として三八〇という数字になっておる。また、そのうちでも工業地をとってみますと、実に四八六と五倍近い大暴騰でございます。五年間に五倍になっておる、こういうような状態であります。それで最近はどうかというと、それがまたもつとひどくなりまして、これを昨年三月と比較して、昨年三月からあと半年の間の騰貴率というものを調べてみますと、全国の市街地の半年間の騰貴率というものは一八%、年率に直せば、これに二をかければ三六%ということになる。工業地だけをとりますと二〇%、年率に直しますと四〇%、六大部市の工業地なら、その半年に三五%、年間七〇%、こういうすばらしい急騰ぶりでございまして、六大都市の工業地の三五%高は、全国市街地平均から見ましても、その倍にもなる。こういうふうにおそろしい不動産価格の上昇ぶりを示しておるわけであります。この価格の上昇が、いわゆる世間一般にいっている値上がりムードを刺激している一つの大きな原因ともなっておりますが、これがために、工場であるとか住宅、公共施設の建設に非常な支障を来たしております。建物を建てるより土地を得るということの方がむずかしい。  そこで、土地の価格の形成というものは需給関係によってきまってくるのでございましょうが、それ以上に人為的なものもあるだろうと思うのでありまして、国家全体から見ますと、経済成長政策による事業の遂行に、いろいろな意味でこれからどんどん支障が出てくるであろう。だから、この不動産の対策というものはわれわれとしてもこれからしっかり考えて、しかもまた、それを有効に実行していかなければならないのではないかというふうに考えるのであります。  そこで、建設省におきましては、宅地造成につきまして大いに努力されまして、本年度予算におきましても、この方の金額が相当大幅にふやされておるということはまことにけっこうでございますが、しかし、それだけじゃなかなか解決つかない、多面的な方策を講ずべきものだと思われますが、この点に関する建設大臣の御意見あるいは経済企画庁の御意見を承りたいと思います。  なお、この宅地建物の取引につきまして、取引に関連する人の思惑があるとか、あるいは不正があるということがよくいわれておるのでございますが、この宅地、建物の取引に従事している人は、現在非常な法律の監督を受けまして、国家試験を受けて、そうして登録をして、その上に店舗に関する保証金を多額に積んで営業をしておるのであります。ところが、そういうふうに正規にちゃんと国家試験を受け、登録をし、また保証金を積んでやっておる正規の業者よりも、そういうことを何にもしない、いわゆるやみで不動産の仕事に従事しておる人がたくさんおる。これは法律上当然取り締まらるべきものでございますが、現在の状況を見ますと、一向取り締まりの効果が上がっておりません。そしてそういう無軌道なやみ業者が横行はんらんいたしまして、特にこういったような暴騰をすると、ますますそういう人がふえ、今日でははんらんしているというような状態である。これに対して当局はほとんど有効な手を打っておらない、こういうようなことでありますから、私は、不動産関係のやみ業者に対しましては、どうしても国としても勇猛果敢な手を打つべきだ、そしてこの不動産取引というものをレールに乗せるべきだ、かように考えます。  また宅地、建物に関する取引業者は規制されておりますが、今日山林原野というようなものがある。こういう山林原野が工場敷地になり、あるいは宅地になる、いろいろ変わる。あるいは将来を見越して買うというようないろいろな場合がある。こういう山林原野に関する取引業者というものは、全然法律の規制を免れている、勝手ほうだいになっている。こういうように、制度的に非常な欠陥がある。だから私は、土地の問題がこういうふうに今日重要になってきたのでございますから、建設省その他政府、あるいは公安委員会も、取り締まりという点から警察を動員しなければならぬという点では当然に関係を持たれるわけでありますが、こういうものについては、十分に一つやっていただきたいということを、特にこの際に要望したいと思います。また御意見も承りたい。  それからまた、公共事業を実行するためにたとえば道路をつけるあるいはダムを作るという場合に、土地の入手ができないために、せっかく予算をたくさんもらってもそれが実行不可能という厄介な問題が随所に起こっておる。これは今後ますます起こるだろう、それに対しまして土地収用法を改正するというわけで、建設省で御研究中であるということを聞いているのですが、はたしてりっぱな土地収用の制度ができるかどうか。これについては、所得倍増計画、今後の経済の高度の発展に伴いましても絶対必要なことであると思われますので、これらに関する建設大臣の御意見も承りたいと存ずるのであります。
  171. 中村梅吉

    中村国務大臣 御指摘のように、近時ことに大都会に産業及び人口が極度に集中いたしております。そういう関係から、不動産の価格がはなはだしく暴騰しておる。これに対する対策はなかなか困難でございますが、大局的に考えますと、この過度の集中をしつつあります産業や人口を、できるだけ立地条件に応じて地方に分散をするというような施策が必要だと思うのであります。その点につきましては、経済企画庁が担当いたしております国土総合開発にいたしましても、また建設省が担当いたしております諸般の施策にいたしましても、今後そういう角度に立って大いに努力をして、国全体に、立地条件に応じた産業の分布状態が実現するように努めていかなければならぬ、かように考えておる次第でございます。実は、かねて建設省が広域都市建設ということの構想を考えまして、目下熱心に検討いたしておりますが、これらもその一環をなすものであるわけであります。いずれにいたしましても、土地の価格の急激な高騰状態に対しましては、あらゆる知能をしぼって一つ施策を講じていかなければならぬ、かように存じております。  それから、宅建取引業につきましては、今御指摘になりましたように、いろいろ欠陥があると思います。この取引業者のいわゆるやみ業者に対する取り締まり監督等、これは一応都道府県が監督をいたしておるわけでございますが、また宅建取引業法が施行されましてから間もないことで、経験も乏しいし、いろいろな事情で十分にそれらが徹底いたしておらないようでございます。同時に、御指摘になりました山林あるいは農地等の売買につきましては、これは宅建取引業法が適用されておりませんから、これらにつきまして、この法律の適用範囲を拡大すべきかどうか、これらも実は検討いたしておる次第でございます。十分一つ御指摘の点につきましては研究いたしまして、遺憾のないようにいたしていきたいと考えております。  それから最後の土地収用の点は、御承知通り用地取得が非常に困難で、そのために公共事業がなめらかに進行しない。この壁を何とか合理的に、しかもこれは一般の個人の権利とも関係がありますから、公共事業の重要性と個人の権利との関係を十分勘案をいたしまして、特例措置を考える余地はないかということで、御承知通り、建設省の設置法改正を先年していただきまして、公共用地取得制度調査会ができまして、実は目下熱心に御研究をいただいておるわけでございます。できるだけ近く結論を得て答申をしていただくべくお願いをいたしておりまして、近く答申が得られると思うのであります。この答申を得られましたならば、それを基礎にいたしまして十分一つ検討を加えまして、できれば何とかこの国会に間に合いまするように、その措置を急速に講じて参りたい、かように考えております。
  172. 周東英雄

    ○周東国務大臣 山林原野の取引業者に対する取り締まりの問題ですが、ただいま建設大臣がお答えをいたされた通り、宅地建物に対しては、あるいはそのあっせん業者に対して保証金を積ませるとか、あるいは特殊な資格を持たせるとかいうようになっております。ただいま建設大臣の仰せのように、よく考えまして、山林原野の取引業者に対しても同様な措置が必要であれば、その方に適用されるように考えていきたいと思います。
  173. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 最後に一言総理大臣に申し上げたいのでありますが、最近アメリカのケネディ大統領が次から次へ新しい政策を打ち出して、アメリカの当面する困難を克服するために懸命の努力をしておられます。ケネディ大統領のねらっておるところは、さしずめのところといたしましては、景気が非常に後退しておる、この後退しておる景気を逆転させて、そして景気を回復しようということでございますが、その考えの基本は、あくまでもアメリカの経済の成長率を伸ばそうとする点にあると受け取れます。そうしてこの間の教書にもありますように、前のアイゼンハワー時代におきまして、どうして経済の成長率が二%台にとどまったのだろうか、これはアイゼンハワーがほんとうに経済の拡大発展をはかる熱意を欠いておったのじゃないかというような意味でもって、それをいろいろ批判をしております。自分はとにかく、伝えられているところによりますと、五%の経済成長をあくまでやる。経済の成長を通じまして生産力を拡大して、そうしてアメリカを立て直すんだ、ドルも強くするのだ、あるいはソビエトとの経済競争にも打ち勝つのだ、こういうことを示しているのであります。私はこのケネディの態度を見まして、経済をほんとうに立て直す、あるいは発展させる根本は、経済の高度成長にあるということをつくづく感じさせられるのでありますが、総理は早くからこの点に着眼されまして、世論を指導して経済の高度成長というものを大いに引っぱってこられたといって私は差しつかえないと思う。私はその気魂と識見といいますか、洞察力といいますか、それに敬意を表するのでございますが、どうか日本の新時代を作り上げる、新しい日本を作り上げるためには、やはり総理の主張されておりまする高度の経済成長、倍増計画などに現われております経済の成長率を伸ばすということを中心として、これを勇敢に、果敢にやることによって、ほんとうに日本ができるのだ、こういうような確信が、各方面においてびまんしつつあると思うのでありますが、どうか今後も大いにその確信を持って、断々固として邁進をしていただかんことを心からお願いをいたしまして、私の質問を終わることにいたします。(拍手)
  174. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 アメリカにおきまする共和党と民主党の政策は、今回ほどはっきりしたことはございませんが、共和党の政策は、努めて物価の安定、貨幣価値の維持という、何といいますか、資本家系統、金融家的の考え方が従来多い。そして民主党の方は、どちらかといったら、積極政策であったのであります。共和党の政策について私は批評を加えようとは思いませんが、ケネディがニュー・フロンティアの思想で積極的なことを打ち出したことは、私は非常に共鳴を感ずるのであります。選挙中にもこれを申しております。ことに、最近のごとく民生安定と社会保障と福祉国家という場合におきましては、私は好むと好まざるとにかかわらず、積極的の政策をとるべきだ、これが世界の風潮だと考えておるのであります。幸い日本には人口の点からいっても、頭の点からいっても、しかも伸びる日本人の特質からいっても、この成長政策をやるのに打ってつけの民族であり、打ってつけのときである。これが世界の平和に貢献しつつ、民族の発展を促すゆえんだ。この政策を私は着実に進めていく所存でございます。御協力を願います。(拍手)
  175. 船田中

    船田委員長 明後六日は午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十七分散会