○西宮弘君 ただいま
説明のありました国有鉄道運賃の
改正に関しまする
案件は、われわれ
国民生活に最も影響がある重大問題でございますので、私は、
日本社会党を代表いたしまして、若干の質問を試みようとするものであります。
まず、質問の第一は、今回の国鉄運賃の値上げないしは郵便料金の値上げは選挙の公約違反ではないかということを、池田総理にお尋ねをいたしたいのであります。(
拍手)
先般の選挙にあたりましては、公共料金の値上げ等につきましては一言半句これに触れていなかったのであります。いな、それのみならず、
一般物価については、ぜひこれを押えるのだ、値上げを抑制するのだということを、繰り返し繰り返し
説明して参りました。たとえば、昨年十月の解散国会におきまして、池田総理の施政演説の中に、あるいはまた質問者に対する答弁の中にも、これらはいずれも明瞭に断言されておるのであります。あるいはまた、迫水
経済企画庁長官のごとき、その
経済演説の中に、消費者の
立場に立っての物価の安定、こういう言葉を繰り返し強調いたしまして、あの短い演説の中に、消費者の
立場に立ってということを、しつこいほど、うるさいほど繰り返しまして、これを力説いたしておったのであります。さらに、選挙戦に突入いたしまするや、各新聞よりの求めに応じまして回答いたしました自由民主党の公約の中にも、このことが明瞭にうたわれておりまして、消費者物価の値上がりを押える、こういうことが、あらゆる新聞に報道されております。さらに、ある新聞は、公共
投資についてのアンケートを求めておるのでありますが、この公共
投資に対する答えといたしましては、まず、国鉄輸送力の増強ということを劈頭第一にうたっておるのでありまして、国鉄輸送力の増強は
政府の公共
投資によってこれを実施するのだということを明言いたしておるのであります。以上は、わずかに二、三の例を拾い上げたにすぎませんけれども、このような、きわめて明々白々たる公約をもちまして選挙戦に臨んだのであります。ところが、選挙が終わりましたとたんに、これらの公約は、あたかも弊履のごとく捨て去られてしまったのであります。
一般物価についてさえ、あくまでもその値上がりを押えると公約しておったのでありまして、まして、いわんや、
政府みずから所管をいたしておりまする鉄道運賃あるいは郵便料金等の公共料金が値上げされるであろうなどとは、とうてい想像し得なかったのであります。
私が池田総理にお尋ねをいたしたい第一点は、公約履行についての政治的、道義的責任についてであります。せっかくの公約を捨て去って、いささかも省みないこの態度は、われわれは断じて見のがすことができない重大問題だと考えます。総理はいかようにお考えであるか、お尋ねをいたします。
質問の第二は、国鉄経営に対する
政府の基本的な態度であります。
国鉄は、もとより独立採算を建前といたしておるのでありますが、しかし、読んで字のごとく、公共
企業体でありまするから、半分は公共性を持っております。たとえば、定期運賃、学生運賃の割引その他各種の割引だけでも、その金額は五百二十五億に達しておるのでありまするが、これらは、いずれも公共的な特殊な目的に奉仕するための
制度でございます。これを国鉄の負担に負わしておきますことは、まことに酷に過ぎるといわなければなりません。たとえば、自動車の場合は、道路は国あるいは
地方公共団体がこれを維持管理いたしまするし、船の場合は、港湾の施設は、これまた国または
地方公共団体がその責めを負っておるのであります。これらに引き比べますると、鉄道は一切がっさい自分の負担でやらなければならないのでありまして、それだけでもすでに相当のハンディキャップであるのでありまするが、これに加えまして、前段申し上げたような特殊の社会政策的任務を担当いたしておるのでありまするから、国鉄にとってはまことに気の毒だといわなければなりません。その結果、あるいは経営の悪化、労働者の
不足、労働条件の劣悪化を招来いたしておりますることも、これまた避けることのできないことでありまして、三日に一人ずつ職務中の事故で倒れていく職員があるのであります。こういう事実を軽々に看過することは絶対にできないのであります。この公共負担については、西欧諸国等は、いずれも
政府の責任において負担しておるのでありますが、先般の鉄道運賃
制度調査会あるいは
日本国有鉄道諮問
委員会等の答申ないしは
意見も、この原則を確認いたしておるのであります。
日本の鉄道は、今申し上げたような社会政策的な特別な任務を負っておりますほかに、さらに、いわゆる政治線、政治駅などと称されるような、まことに不可解な問題がございまして、一そうその経営を困難にいたしておるのであります。言うまでもなく、僻地の人々も文化を享受する点においては同じでなければなりませんけれども、往々にいたしまして、単なる政治的、政略的な事情から強引に決定されてしまうということがあるのは、独立採算を建前とする国鉄にとっては迷惑千万のことでございまして、さらに、これらの、政略的な、あるいは党勢拡張的な、不合理な新線
建設等が、今日運賃値上げの
理由となるといたしますならば、われわれ
一般乗客は、とうていこれに耐えることができないのでございます。
前段申し上げましたような社会政策的あるいは
経済政策的公共負担は、当然に国がその責任を負うべきものだと信じます。さればこそ、前に引例をいたしました自由民主党の選挙公約には、公共
投資の劈頭第一に国鉄輸送力の増強なる一項を高々と掲げまして、国鉄輸送力の増強のためには
政府は公共
投資をするということを明らかにいたしたのでありまして、さすがは自民党だと、国民ひとしく深い敬意を表したのであります。しかるに、ただ残念なのは、選挙が終わりますると、これらの公約は跡形もなく消え去ってしまったのでございます。公共
投資なるものも、もとより、その原資は国民の税金でありますから、いたずらに安易に考うべきことではございませんが、今申し上げたような点については、それぞれ国が補償するのが当然であると考えます。この点に対する池田総理及び所管大臣の御
意見を伺います。
私は、ただいま、
政府の責任を追及いたしまして、国鉄のために弁護をいたしました。しかし、国鉄に反省を求める点はないのかと申しますると、大ありでございます。問題はたくさんあるのでありますが、今は、ただ、
昭和三十二年から実行にかかりました修正五カ年計画について取り上げたいと存じます。
私が特に指摘をいたしたいのは、その計画をはたして忠実に実行したかどうかの点であります。
経済力の伸長に比しましては、さなきだに小さ過ぎた計画が、それさえも満足に行なわれなかったといたしますならば、まさに言語道断でありまして、今日の交通の大混乱はむしろ当然だといわれてもやむを得ません。国鉄当局が公表いたしております資料によりましても、
昭和三十五年度までの実績は、六七%の経費を投入いたしておるのであります。
資金は六七%投入いたしておりますが、これによって実施をされました
事業の実績は、いろいろ項目によって違いますけれども、最も重要だとみずから
説明をいたしております輸送力、特に増線、電化、車両等につきましては、少ないのが二六%、多いので五七%、こういう状況でございまして、
昭和三十五年は、前の五カ年計画から申しますと第四年目に相当いたしますから、当然に八〇%の進捗を示さなければならないのでありますが、実績は今申し上げた通りであります。今日交通に一大支障を来たしております
理由のその最大なるものは、せっかくのこの五カ年計画も何ら忠実に履行しておらなかったというところにあることは、申すまでもないのでありまして、前回の実績をこのような不始末のまま放置いたしまして、その跡始末、そのしりぬぐいに今回運賃値上げをするというがごときは、絶対に了承することができないのであります。この点に関する所管大臣の御
説明を承りたいと思います。
次に、今回は新しい五カ年計画実施のために運賃値上げをするのだといわれるのでありますが、われわれにとりましては、そもそも、この五カ年計画そのものに多くの疑問を抱くのであります。たとえば、
事業の面では、従来に比べて著しくふえるのでありますが、人員はわずかに新線
建設の要員三百名をふやしておるだけでありまして、その他は
事業量が画期的に膨張するのに対して、人は一人もふえておらない。どのようにして
事業をやり遂げることができるか、常識では判断ができないのであります。さらに、今後起こり得る各種の要因も計算に入れて十分計画を練ってあるのかどうか。たとえば、この前の五カ年計画が実施されなかった、完遂されなかった
理由には次の三つの
理由があるといわれておるのであります。国鉄はかくのごとく
説明をいたしておるのであります。すなわち、
昭和三十三年の景気の後退、ベース・アップによる賃金の上昇、工事資材の値上がり、この三つを
理由にいたしておるのであります。こういう問題ならば、おそらくこれから先も起こり得る可能性は十分にあるのでありますが、今回の計画は、こういうようなできごとのために途中で挫折するようなことが絶対にないのかどうか、五年後の
昭和四十年になりましたときに、前回同様の申しわけ、弁明をするようなことはないかどうか、今のうちに、はっきり確かめておきたいと思います。
なお、このようにしてやり遂げた結果はこういうことになるのであるか、一部少数の上層階層者あるいは独占
企業だけが大幅にその利益を享受するような結果に終わりはしないかをおそれるのでございます。そうではなしに、真に
一般国民大衆の交通輸送を確保し、快適なる旅行あるいは迅速なる貨物の輸送等を保障するに足る十分なる理想的な計画であるというならば、その根拠を具体的にお示しを願いたいのであります。
私があえてこのような質問をいたしまするのは、今回国鉄当局が発表いたしました文書によりますると、この前の五カ年計画は、もともと、せっぱ詰まった国鉄の窮状を打開する必要最小限度のものであった、こうしるされたり、あるいはまた、前の計画は当初から実際には不可能に近いものを含んでいたとしるされたり、あるいはまた、元来この五カ年計画は一八%の運賃値上げを予定して立案されたものであった、その値上げが一三%にとどまったところにすでに計画が過小となる原因があった、こういうことを、今になりまして、おくめんもなく発表いたしておるのでありますが、かくのごときは全く無責任もはなはだしいといわなければなりません。(
拍手)あの当時は、この計画さえ達成いたしますれば、すばらしい国鉄になるのだといって、運賃値上げの正当性を盛んに強調いたしたのであります。たとえば、それをしろうとにもわかりやすく
説明をいたしますために、大都市の通勤時の電車では、電車の中で新聞、雑誌が読めるようになるのだとか、あるいはラッシュ・アワーでも、五年後には電車の中で新聞が読める程度に持っていきたい、今、週刊雑誌が売れるのは、国鉄が込んでいるからだという説もあるくらいで、それを五年たったら週刊雑誌が売れなくなって新聞が売れるところまで持っていきたい、こういうことを当時の責任者がしるしておるのであります。通勤電車の中で週刊雑誌が読めた時代がかつて
日本の歴史にもあったのかと思うと、まことに感慨無量でございます。新聞でなくて、週刊雑誌でもけっこうでありますから、ともかく、通勤電車の中で楽に読むことができるように今回の計画が練ってあるのかどうか。ただいま都心部に通勤をいたしておりまする人たちは、毎朝、親子兄弟水杯をして別れを惜しんでおるのでありまして、そういう人たちに、この国会を通じまして希望を与えていただきたいと思います。この今回の計画は、ベース・アップその他今後当然起こり得る各種の条件を予想しながら、それを計算に入れ、それを完全に遂行して、
国民大衆、勤労大衆の足を完全に確保できるかどうかをお尋ねいたしたいのであります。
次に、具体的な問題を三つほどお尋ねをいたします。
その一つは、石炭輸送の運賃についてであります。このように運賃が値上がりをいたしますると、石炭
産業の
合理化が不可能になると思うのでありまするが、通産、運輸両大臣の御所見を伺います。
その二は、農林水産物の輸送の暫定
措置の問題であります。これは、ぜひとも、
政府の責任におきましてこの
制度を恒久化する、
制度化すべきであると考えるのでありまするが、これに対する農林、運輸両大臣のお答えを願います。
その三は、貨物輸送についての取り扱い駅整理の問題であります。整理の結果は、当然に農民あるいは漁民、中小
企業者等の負担の増を来たすのであります。これは同じく
政府の責任において補てんすべきものであると考えるのでありますが、これについての
政府の所見を伺います。
最後に、池田総理、運輸大臣等にお伺いいたしたいのは、今回の運賃値上げにつきましては、いかようにして世論を確かめ、あるいは、これをどの程度まで取り入れたかということであります。あるいは庶民の
生活実態をどのように理解をし、把握されておるかということであります。
昨年十二月、値上げ案が発表されまするや、新聞は、ことごとく筆をそろえて値上げの不当を訴えまして、
政府の反省を迫ったのであります。続いて、三日間ぶつ通し開かれました公聴会におきましても、業界代表はもちろんのこと、その他の第三者的学識者も、ほとんど大
部分はこれに反対をいたしたのであります。国鉄運賃の値上げは、それ自身が問題でありますと同時に、他の物価に影響することが大きいからでございます。今回の国鉄運賃の値上げに伴いまして、特に、バス、電車の運賃などは当然に引き上げられるでありましょう。今やおそしと待機をいたしておるのであります。
政府が国鉄運賃の値上げをいたしました以上、地方団体の経営いたしておりまする都市交通機関の値上げを押える根拠は全くないはずであります。池田
内閣は、減税減税と宣伝をいたしておりますけれども、これら国鉄料金の引き上げ四百八十六億円を筆頭にいたしまして、あるいは医療費、国民年金、郵便、ガソリン税の引き上げなど、いずれも大衆のふところから出されまするいわゆる大衆収奪の金でありまして、その金は約千二、三百億の多きに達するのであります。そのほか、地方団体の営む各種
公営企業、あるいは
一般消費物価の値上がり等が相次いで行なわれまして、大衆の
生活を強く圧迫をいたしておるのであります。
その一例として、試みに国鉄の定期券を買う人々の員数を調べてみますと、
昭和二十三年には、一カ月の定期を買う人の数と、六カ月の定期を買う人の数はちょうど同じでありました。ところが、
昭和三十四年になりますると、一カ月の定期を買う人が実に全体の八五%を占め、六カ月の定期を買う人がわずかに五%しかありません。もちろん、六カ月の定期の方がはるかに有利なんでありますが、これを買うだけのまとまった金がないのであります。前回、
昭和三十二年の値上げの際には、鉄道経営調査会に諮問をいたしまして、一年近い調査、
審議の結果に基づいて値上げ案を国会に
提出いたしたのでありまするが、今回は、あたかも問答無用とばかり、抜き打ち的に提案をいたしたのであります。
政府は、庶民の
生活実態等をいかように把握、分析をし、あるいは現在の世論をいかように理解をして今回の提案の決意をするに至ったかを、つまびらかにお聞かせ願いたいのであります。
以上申し述べました各種の問題について、あくまでも懇切にして明確なる御答弁を、あえて
国民大衆の名において要求いたします。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕